(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】塩化ビニル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 14/06 20060101AFI20230608BHJP
C08F 2/20 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C08F14/06
C08F2/20
(21)【出願番号】P 2019113439
(22)【出願日】2019-06-19
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】福留 浩志
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 一広
(72)【発明者】
【氏名】川窪 紀彦
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-322838(JP,A)
【文献】特開2019-025447(JP,A)
【文献】特開平02-292310(JP,A)
【文献】特開2004-238522(JP,A)
【文献】特開2009-062425(JP,A)
【文献】特開昭53-114891(JP,A)
【文献】特開平05-032707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 14/06
C08F 2/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合器を用いて、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体及びこれと共重合可能な単量体の混合物を水性媒体中で重合し、塩化ビニル系重合体を製造する方法であって、
前記重合器に、重量平均分子量が1000~3500及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が10/90~60/40である共重合ポリエーテルの水溶液を、前記共重合ポリエーテルとして、仕込んだ前記塩化ビニル単量体100重量部に対して0.005重量部~0.050重量部添加
し、
前記重合において、重合率30%~80%の重合段階で前記共重合ポリエーテルの水溶液を添加することを特徴とする、塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合器の容量が容積50m
3以上であることを特徴とする、請求項
1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合器は還流コンデンサーを付設した重合器であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還流コンデンサーを付設した重合器中で塩化ビニル系重合体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塩化ビニル系重合体の製造方法において、その生産性向上を目的として重合器の大型化と重合時間の短縮が進められてきている。重合時間短縮の手段として、重合器に還流コンデンサーを付設して重合反応熱の除熱を効率化し時間短縮する方法が用いられている。
【0003】
しかし、塩化ビニル系重合体の製造が、水性媒体中の懸濁重合法であって、かつ分散剤に界面活性を有する水溶性物質(例えば、部分鹸化ポリビニルアルコールやセルロースエーテル)を用いた場合には、あるレベル以上に還流コンデンサーによる除熱を行うと、重合反応液の発泡が起こり、粒度分布、ポロシティ、嵩比重等の目的とする一定の品質を有する重合体が得られないという問題が生じていた。
【0004】
さらに発泡が激しくなると、重合反応液がコンデンサー内まで吹き上げて重合体粒子がコンデンサー内に堆積し、再度、反応液中に混入するなどするため、上記の問題に加えて、成形フィルム中のフィッシュアイや異物の増加といった重合体品質の悪化を引き起こすという問題があった。
【0005】
このような還流コンデンサーによる除熱に伴う発泡を抑制する対策として、重量平均分子量が150万 ~200万のエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合ポリエーテルを消泡剤として添加する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかし、近年進められてきている大型化された重合器においては、この方法では消泡剤の重量平均分子量が大き過ぎるため、重合器中での拡散がしにくく十分な消泡効果が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、塩化ビニル系重合体の製造において、重合器を用いて重合を行った場合に、重合体スラリーの発泡を抑制し、かつ得られた塩化ビニル系重合体の嵩比重等の品質にも悪影響を与えることのない、塩化ビニル系重合体を製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、重合器を用いて、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体及びこれと共重合可能な単量体の混合物を水性媒体中で重合し、塩化ビニル系重合体を製造する方法であって、上記重合器に、重量平均分子量が1000~3500及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が10/90~60/40である共重合ポリエーテルの水溶液を、上記共重合ポリエーテルとして、仕込んだ上記塩化ビニル単量体100重量部に対して0.005重量部~0.050重量部添加することを特徴とする、塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0010】
上記重合において、重合率30%~80%の重合段階で上記共重合ポリエーテルの水溶液を添加することが好ましい。
【0011】
上記重合器の容量が容積50m3以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体及び塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体の混合物を水性媒体中で重合し、塩化ビニル系重合体を製造する際に、重合反応液が実質的には発泡することなく、かつ品質の安定した塩化ビニル系重合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
【0014】
<単量体>
本発明で用いられる単量体原料は、塩化ビニル単量体、又は塩化ビニル単量体を主成分とする単量体混合物である。この塩化ビニル単量体を主成分とする単量体混合物は、少なくとも50重量%以上、好ましくは80重量%以上の塩化ビニル単量体と、塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とからなる混合物である。ここで用いられる塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン等のオレフィン;無水マレイン酸;アクリロニトリル;スチレン;及び塩化ビニリデン等の単量体が挙げられる。これらの単量体は、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
<共重合ポリエーテルの水溶液>
本発明には、共重合ポリエーテルの水溶液を用いる。また、本発明では、重量平均分子量が1000~3500、好ましくは1100を超え3200以下、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比(プロピレンオキシドに対するエチレンオキシドのモル比)が10/90~60/40、好ましくは20/80~60/40である共重合ポリエーテルを使用する。また、具体的には、共重合ポリエーテルは、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとを上記のモル比で重合した共重合体であり、エチレンオキシド由来の構成単位とプロピレンオキシド由来の構成単位とを有する。なお、重量平均分子量は、スチレン換算によるGPC測定で行う。
【0016】
前記分子量が1000未満であると、重合系に生じた泡の界面張力を低下させて破泡する作用が小さくなるので、重合中の消泡効果が十分でなく、使用量を増大させる必要が生じ、得られる重合体の品質に影響を及ぼすという問題がある。また、3500を超えると、特に大型重合器において、上記共重合ポリエーテルが拡散しにくく消泡効果が低下して、品質劣化した塩化ビニル重合体が得られてしまう。
【0017】
エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が上記範囲以外の場合、消泡効果が低下する或いは反対に泡立ってしまうという問題が生じる。
【0018】
また、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合ポリエーテルは、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
【0019】
なお、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合ポリエーテルは、水溶液の状態で使用することが好ましく、固形分0.1wt%~50wt%になるように調整する。また、この際、必要により有機溶媒としてエタノール等を配合しても構わない。言い換えると、本発明においては、有機溶媒を含む共重合ポリエーテルの溶液を用いてもよい。
【0020】
前記共重合ポリエーテルは、仕込み塩化ビニル単量体に対して、0.005~0.050重量部、好ましくは0.010~0.030重量部を使用し、重合反応系に水溶液として添加される。仕込み塩化ビニル単量体に対する共重合ポリエーテルの使用量が、0.005重量部未満であると、消泡効果を十分に生じさせることができない。また、0.050重量部を超えると、使用量が増大して経済的に不利になるだけでなく、重合器壁面にスケールが付着しやすくなり、フィッシュアイが増加する恐れがある。該共重合ポリエーテルは、上述のように、濃度が、通常、0.1~50重量%、好ましくは0.5~20重量%の水溶液として、重合反応系に添加する。
【0021】
共重合ポリエーテル水溶液は、重合率が30~80%、好ましくは60~80%の範囲内であるときに添加されることがよい。前記添加時期が、重合率30%になる前の時点である場合は、重合体の粒子形成が不十分な時期であるため、添加により粒度分布に悪影響を与える場合がある。また、重合率が80%を超えている時点では、すでに、発泡のピークを過ぎているため、重合反応液がコンデンサー内まで吹き上げて重合体粒子がコンデンサー内に堆積してしまっている恐れがあり、消泡剤添加の効果が小さくなる。
【0022】
<水性媒体>
水性媒体としては、上水、脱イオン水、蒸留水、超純水等の水、水と水溶性有機溶媒との混合媒体などが挙げられる。上記水溶性有機溶媒としては、たとえばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。水性媒体が混合媒体である場合、水系媒体中の水溶性有機溶媒の含有量は、好ましくは0質量%を超え50質量%以下である。
【0023】
<分散剤>
前述の塩化ビニル、又は塩化ビニルを含む単量体混合物を水性媒体中で重合する場合に通常使用される分散剤は、特に限定されず、従来の塩化ビニル系重合体の製造に使用されるもので差し支えない。この分散剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル;水溶性部分鹸化ポリビニルアルコール; アクリル酸重合体; ゼラチン等の水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシド-プロピレンオキシドブロック共重合体等の油溶性乳化剤;及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤等が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
<重合開始剤>
さらに、通常使用される重合開始剤は、特に限定されず、従来の塩化ビニル系重合体の製造に使用されるもので差し支えない。この重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート化合物;tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート等のパーオキシエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド等の過酸化物;アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム;過硫酸アンモニウム;及び過酸化水素等が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
<酸化防止剤>
また、通常使用される酸化防止剤は特に限定されず、塩化ビニル系重合体の製造に一般に使用されるもので差し支えない。この酸化防止剤としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ヒドロキノン、p-メトキシフェノール、tert-ブチル-ヒドロキシアニソール、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6-ジ-tert-ブチル-4-sec-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4-tert-ブチルカテコール、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、トコフェロール、ノルジヒドログアイアレチン酸等のフェノール化合物;セミカルバジド、1-アセチルセミカルバジド、1-クロロアセチルセミカルバジド、1-ジクロロアセチルセミカルバジド、1-ベンゾイルセミカルバジド、セミカルバゾン等のセミカルバジド誘導体;カルボヒドラジド、チオセミカルバジド、チオセミカルバゾン等のチオカルバジドの誘導体;N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ビス(2,4-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のアミン化合物;4-ニトロアニソール、N-ニトロソジフェニルアミン、4-ニトロアニリン、N-ニトロソフェニルヒドロキシリルアミンアルミニウム塩等のニトロ化合物又はニトロソ化合物;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト等のリン化合物;スチレン、1,3-ヘキサジエン、α-メチルスチレン等の不飽和炭化水素化合物;及びジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ドデシルメルカプタン、1,3-ジフェニル-2-チオ尿素等の硫黄化合物等が挙げられる。
【0026】
中でも、得られる重合体の抗初期着色性(重合体を成形加工した際に着色が生じにくい性質)が良好で、重合器へのスケール付着が少ない点で、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、tert-ブチルヒドロキシアニソール、tert-ブチルヒドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-sec-ブチルフェノール及びオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
<その他の任意成分>
本発明の方法において、必要に応じて、塩化ビニル系重合体の製造に一般的に使用されている重合度調整剤、連鎖移動剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤等を適宜使用してもよい。また、酸化防止剤を重合反応の制御、生成した重合体の劣化防止等の目的で、重合開始前、重合中あるいは重合終了後に重合系に添加してもよい。
【0028】
<その他の条件>
また、重合における他の条件、例えば、重合器への水性媒体、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体を含む単量体混合物、分散助剤、重合開始剤等の仕込み方法、仕込み割合、並びに重合温度等は従来の条件と同様で差し支えない。
【0029】
重合器は、特に形状、大きさ等の制限はなく、一般的にSUS等の耐久性のある重合器を用いればよく、生産性の観点から、容量が好ましくは50m3以上、更に好ましくは80m3以上の重合器を用いて重合すればよく、該大型重合器の場合には、特に重合器に還流コンデンサーを併設させることが好ましい。
【0030】
上記重合工程としては、たとえば懸濁重合により行われる。この際、塩化ビニル単量体(又は、塩化ビニル単量体混合物)は、ジャケット付重合反応器(重合器)に仕込んだ後、ジャケットに温水を供給することにより重合反応が開始される。重合反応開始後は、ジャケットに冷水を供給して、重合反応温度を一定に維持する。ジャケットによる除熱に加えて、還流コンデンサーへの冷水の供給を開始して、重合を行う。
【0031】
より具体的には、重合条件は、特に限定されないが、たとえば、重合器内に、上記ビニル系単量体、その他上記添加剤、懸濁剤(セルロース、PVA等の水溶性高分子)および水性媒体を仕込んだ後、重合器の内容物を攪拌しながら昇温して重合反応を行う。具体的には、20~80℃で1~20時間、重合反応を行う。なお、攪拌条件は適宜調整すればよいが、回転数10rpm~300rpm、好ましくは50~200rpmの間で調整しながら重合を行う。
【0032】
なお、上記共重合ポリエーテルの水溶液は、上述のように、塩化ビニル(又は塩化ビニル単量体混合物)の重合率が30%~80%、好ましくは60%~80%において行うことがよい。なお、重合率とは、得られた塩化ビニル樹脂(塩化ビニル系重合体)と仕込んだ塩化ビニル単量体(又は塩化ビニル単量体混合物)の総量との比である。
【0033】
なお、重合率が30%未満で添加した場合、重合が不安定になる恐れがある。一方、重合率が80%以上で添加した場合、既に泡レベルがピークを過ぎてしまっている或いはピークに近いレベルまで到達してしまっている為、効果が小さくなる場合がある。
【0034】
また、添加方法としては任意であり、一度に添加しても徐々に添加しても構わない。
【0035】
ところで、近年進められてきている大型化された重合器においては、特許文献1の方法では消泡剤の重量平均分子量が大き過ぎるため、重合器中での拡散がしにくく十分な消泡効果が得られていない。一方、本発明においては、特定の重合段階で、特定の重量平均分子量を有する共重合ポリエーテルを特定の量で添加する。このため、大型重合器の場合であっても、更に、還流コンデンサーを付設した場合であっても、共重合ポリエーテルが重合器中で十分に拡散でき、消泡効果が得られる。また、得られた塩化ビニル系重合体の品質にも悪影響を与えることはない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらのものに限定されない。なお、以下に述べる「%」は、特に断らない限り、「重量%」を意味とし、重合率は予め重合を行い重合時間と重合率との関係を求めた結果を基準とする。本発明は、分散性、消泡性、及び壁面へのPVC付着量によって評価した。
【0037】
(実施例1)
還流コンデンサー及び泡センサーを付した内容積100m3のステンレス製重合器内に、脱イオン水49.0t、鹸化度80モル%の部分鹸化ポリビニルアルコール19.1kg、並びにメトキシ置換度が28.5重量%及びヒドロキシルプロピル置換基が8.9重量%のヒドロキシメチルセルロース7.15kgを仕込んだ後、所定量の塩化ビニル単量体35.0tを仕込んだ。重合開始剤としてビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート17.5kgを仕込み、同時にジャケットに温水を通して昇温を開始し、重合器内が57.0℃まで昇温したところで、その温度を保ち250rpmの回転数で重合を続けた。
重合率が70%に到達した時点で、重量平均分子量が3200、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が60/40である共重合ポリエーテルの1%水溶液を、350kg添加した。その後、重合反応器内の圧力が0.588MPa・G(4,410mmHg)に降圧した時点(重合率86%)まで反応を行い、その後、重合器内にトリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の30%水性分散液を35kg添加し、未反応の単量体を回収した。得られた重合体スラリー中に25%アンモニア水10kgを添加してpHを調整後、重合体スラリーを脱水及び乾燥することにより、塩化ビニル重合体を得た。
【0038】
(実施例2)
ポリエーテルの種類以外は実施例1と同様にして実験を行い、重量平均分子量が1,800、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が40/60である共重合ポリエーテルの1%水溶液を用いた。
【0039】
(実施例3)
ポリエーテルの種類以外は実施例1と同様にして実験を行い、重量平均分子量が2,300、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が30/70である共重合ポリエーテルの1%水溶液を用いた。
【0040】
(実施例4)
ポリエーテルの種類以外は実施例1と同様にして実験を行い、重量平均分子量が2,800、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が20/80である共重合ポリエーテルの1%水溶液を用いた。
【0041】
(実施例5)
ポリエーテルの種類以外は実施例1と同様にして実験を行い、重量平均分子量が1,100、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が10/90である共重合ポリエーテルの1%水溶液を用いた。
【0042】
(実施例6)
ポリエーテルの種類以外は実施例1と同様にして実験を行い、重量平均分子量が2,500、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が20/80である共重合ポリエーテルの1%水溶液を用いた。
【0043】
(実施例7)
ポリエーテルの種類以外は実施例1と同様にして実験を行い、重量平均分子量が3,100、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が20/80である共重合ポリエーテルの1%水溶液を用いた。
【0044】
(実施例8)
重合率が40%に到達した時点で、共重合ポリエーテルの1%水溶液を添加した以外は、実施例7と同様に行った。
【0045】
(実施例9)
共重合ポリエーテルの1%水溶液を、175kg添加した以外は、実施例7と同様に行った。
【0046】
(実施例10)
共重合ポリエーテルの1%水溶液を、1,050kg添加した以外は、実施例7と同様に行った。
【0047】
(比較例1)
ポリエーテル共重合体を用いていないこと以外は実施例1と同様にして行った。
【0048】
(比較例2)
以下のポリエーテル共重合体を使用した以外は実施例1と同様にして実験を行い、重量平均分子量が150万、及び、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのモル比が80/20である共重合ポリエーテルの1%水溶液を用いた。
【0049】
<組成と評価結果>
【0050】
【0051】
≪分散性の評価≫
共重合ポリエーテルの1%水溶液を調整し、該水溶液の粘度をデジタル回転粘度計DV3T(英弘精機株式会社製)によって測定した。なお、粘度の測定は20℃で行い、粘度測定の回転数は実施例1~10では250rpm、比較例2では100rpmで粘度測定を行った。PVCの粘度が10cP以上を×、10cP未満を○とした。
【0052】
≪壁面へのPVC付着の評価≫
重合缶壁面に付着した塩化ビニル樹脂付着量を評価した。1cm2当たりの塩化ビニル樹脂付着量が目視により100粒以上を×、10粒以上100粒未満を△、10粒未満を○とした。
【0053】
≪100m3の重合缶での消泡効果の評価≫
添加なし(比較例1)でのレベルに対して、レベルの低下が10cm未満を×、10cm以上30cm未満を△、30cm以上50cm未満を○、50cm以上を◎とした。