(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】アンモニア固体酸化物形燃料電池システム、運転方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20230608BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20230608BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20230608BHJP
H01M 8/04225 20160101ALN20230608BHJP
H01M 8/04302 20160101ALN20230608BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/0606
H01M8/12 101
H01M8/04225
H01M8/04302
(21)【出願番号】P 2022017591
(22)【出願日】2022-02-08
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(72)【発明者】
【氏名】服部 望
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴明
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-087556(JP,A)
【文献】特開2017-050180(JP,A)
【文献】特開2007-157468(JP,A)
【文献】特開2018-081870(JP,A)
【文献】特開2016-131065(JP,A)
【文献】特開2010-282755(JP,A)
【文献】国際公開第2020/184256(WO,A1)
【文献】特開2003-040602(JP,A)
【文献】特開2017-050049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池システムであって、
電極部と、ガス供給部と、貯留部と、燃焼部と、排熱部を備え、
前記電極部は、アノード側が燃料極、カソード側が酸素極であり、
前記ガス供給部は、前記燃料極にはアンモニアガスを分解して得られる水素ガスを、前記酸素極には空気を供給し、
前記貯留部は
、前記水素ガスを備蓄し、
前記燃焼部は、前記貯留部から供給される前記水素ガス
及び前記分解前の前記アンモニアガスを燃焼し、
前記排熱部は、
前記燃焼部で発生する排気ガスを熱源として、前記アンモニアガスの分解、
前記電極部において前記アノード側および前記カソード側に設けられる電極触媒が活性化するよう構成される、
固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の固体酸化物形燃料電池システムであって、
アンモニアを燃料の一部とする船舶に設置される
よう構成される、固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項3】
固体酸化物形燃料電池システムの運転方法であって、
次の各ステップを備え、
ガス供給ステップでは、アノード側電極である燃料極にはアンモニアガスを分解して得られる水素ガスを、カソード側電極である酸素極には空気を供給し、
貯留ステップでは、前記水素ガスを貯留し、
燃焼ステップでは、
前記貯留ステップから供給される前記水素ガス
及び前記分解前の前記アンモニアガスを燃焼し、
排熱ステップでは、
前記燃焼ステップで発生する排気ガスを熱源として、前記アンモニアガスの分解、
前記アノード側電極及び前記カソード側電極に設けられる電極触媒を活性化させる、
固体酸化物形燃料電池システムの運転方法。
【請求項4】
請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池システムの運転方法であって、
アンモニアを燃料の一部とする船舶に設置される
よう構成される、固体酸化物形燃料電池システムの運転方法。
【請求項5】
プログラムであって、
コンピュータに、請求項
3~請求項
4の何れか1つに記載の固体酸化物形燃料電池システムの運転方法における各ステップを実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア固体酸化物形燃料電池システム、運転方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池の燃料としてアンモニアが注目されている。アンモニアを改質して水素を取り出し、当該水素を燃料電池として用いるものであるが、固体高分子形燃料電池と異なり、比較的高純度を必要としないからである。またアンモニア燃料は化石燃料と異なり、炭素が含まれないため二酸化炭素の発生のリスクが少ないからでもある。
しかし、アンモニアは毒性を有しているため、燃料として用いられなかった余剰アンモニアをそのまま大気放出することができず、無害化処理を図る必要がある。
【0003】
特許文献1には、上記燃料電池全体のシステム効率の向上に資するように、アンモニア固体酸化物燃料形電池システムにおけるアンモニア分解触媒やアンモニア燃焼触媒の加熱に、発電モジュールからの排熱を利用する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に開示される技術は、アンモニア固体酸化物形燃料電池システムを起動するために外部電力を必要とする。アンモニア分解部での分解活性化や電極触媒の昇温を当該外部電力により行うからである。
【0006】
本発明では上記事情を鑑み、バーナ等の加熱手段により無害化処理が図られた、外部電力を用いない、または、極めて小型のバッテリーのみで起動するアンモニア固体酸化物形燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1観点は、
固体酸化物形燃料電池システムであって、
電極部と、ガス供給部と、燃焼部と、排熱部を備え、
前記電極部は、アノード側が燃料極、カソード側が酸素極であり、
前記ガス供給部は、前記燃料極にはアンモニアガスを分解して得られる水素ガスを、前記酸素極には空気を供給し、
前記燃焼部は、前記燃料極で使用されなかった前記水素ガスや前記分解前の前記アンモニアガスが、前記水素ガスの含有割合により個別に燃焼するよう複数からなり、
前記排熱部は、前記複数の燃焼部で発生する排気ガスを熱源として、前記アンモニアガスの分解、前記電極の電極触媒および前記アンモニアガスの燃焼が活性化するよう、構成される、ものである。
【0008】
本発明の第2観点は、
固体酸化物形燃料電池システムであって、
電極部と、ガス供給部と、貯留部と、燃焼部と、排熱部を備え、
前記電極部は、アノード側が燃料極、カソード側が酸素極であり、
前記ガス供給部は、前記燃料極にはアンモニアガスを分解して得られる水素ガスを、前記酸素極には空気を供給し、
前記貯留部は前記水素ガスを備蓄し、
前記燃焼部は、前記貯留部から供給される前記水素ガスや前記分解前の前記アンモニアガスを燃焼し、
前記排熱部は、前記複数の燃焼部で発生する排気ガスを熱源として、前記アンモニアガスの分解、前記電極の電極触媒が活性化するよう、構成される、ものである。
【0009】
本発明の第3観点は、
固体酸化物形燃料電池システムの運転方法であって、
次の各ステップを備え、
ガス供給ステップでは、アノード側電極である燃料極にはアンモニアガスを分解して得られる水素ガスを、カソード側電極である酸素極には空気を供給し、
燃焼ステップでは、前記燃料極で使用されなかった前記水素ガスや前記分解前の前記アンモニアガスを、前記水素ガスの含有割合により個別に複数で燃焼し、
排熱ステップでは、前記燃焼部で発生する排気ガスを熱源として、前記アンモニアガスの分解、前記電極の電極触媒および前記アンモニアガスの燃焼を活性化させる、方法である。
【0010】
本発明の第4観点は、
固体酸化物形燃料電池システムの運転方法であって、
次の各ステップを備え、
ガス供給ステップでは、アノード側電極である燃料極にはアンモニアガスを分解して得られる水素ガスを、カソード側電極である酸素極には空気を供給し、
貯留ステップでは、前記水素ガスを貯留し、
燃焼ステップでは、前記貯留部から供給される前記水素ガスや前記分解前の前記アンモニアガスを燃焼し、
排熱ステップでは、前記燃焼部で発生する排気ガスを熱源として、前記アンモニアガスの分解、前記電極の電極触媒を活性化させる、方法である。
【0011】
この固体酸化物形燃料電池システムおよび当該システムの運転方法によれば、バーナ等の加熱手段により無害化処理が図られた、外部電力を用いない、または、極めて小型のバッテリーのみで起動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池システムの概要図である。
【
図2】本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池システムの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0014】
1.固体酸化物形燃料電池システムの構成
第1節では、本実施形態の固体酸化物形燃料電池システムの装置構成について説明する。
【0015】
1.1 固体酸化物形燃料電池システム1
図1は、本実施形態にかかる固体酸化物形燃料電池システムの概略図である。固体酸化物形燃料電池システム1はスタック2と、バーナ5と、アンモニア分解部6と、排熱ライン7とを備える。スタック2は、燃料電池において所定の電圧を生成しうるようアノード電極3と、カソード電極4を一対としたセルの積層型構造となっているものや、当該セルを円筒状に並べて集積型構造となっているものなどである。バーナ5は、アノード電極3に供給される水素および液化アンモニア貯留槽から気化させたアンモニアや、アンモニア分解部6で分解しなかったアンモニアを燃焼させるよう構成される。
図2に記載の水素ガス備蓄部8が備わっている場合、バーナ5単独による混焼となる。一方、水素ガス備蓄部8が備わっていない場合は、水素ガスの含有割合によってバーナ5複数による専焼となる。
【0016】
1.2 スタック2
固体酸化物形燃料電池は、アノード電極3と、カソード電極4で電解質を挟み込んで一対としたセルの積層構造や円筒状に並べた集積型構造となっている。このような構造となっているのは、セル単独で出力できる電圧が大きくないため、直列的に接続することで所定の電圧を生成するためである。電解質の材料としては、ガスを通さない酸素イオンの伝導性が高いものが望ましく、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニアやランタンガレートなどのセラミックが使われる。
【0017】
1.3 アノード電極3
アノード電極3は、いわゆる燃料極と呼ばれるものである。電解質から酸素イオンを受け取り、水素ガスを通せるようポーラス構造となっており、以下の発電反応となるよう構成されるものである。アノード電極3は、ニッケルやコバルトなどの金属とセラミックの複合材料が使われる。
【0018】
なおアンモニア分解部6において燃料であるアンモニアが全て水素へと分解されない場合もあるため、アンモニア分解触媒がアノード電極3の表面に塗布されていてもよい。
【0019】
1.4 カソード電極4
カソード電極4は、いわゆる空気極と呼ばれるものである。上記アノード電極3と同様に電解質まで酸素を通せるようポーラス構造となっており、以下の発電反応となるよう構成されるものである。カソード電極4は酸化による劣化が少なくなるよう、ランタンストロンチウムマンガナイトやランタンストロンチウムコバルトといった電子性混合伝導体が使われる。
【0020】
1.5 バーナ5
バーナ5は、アノード電極3を経由してくる水素や、液化アンモニア貯留槽から気化させたアンモニア、アンモニア分解部6で分解しなかったアンモニアを燃焼するよう構成される。上述のとおり、水素ガス備蓄部8が備わっている場合、バーナ5単独による混焼となる。一方、水素ガス備蓄部8が備わっていない場合は、水素ガスの含有割合によってバーナ5複数による専焼となる。
特に固体酸化物形燃料電池システム1においては、バーナ5により毒性のあるアンモニアガスの無害化とともに、排熱ライン7を介して、上記電極触媒等の昇温の補助とすることで外部電力を用いない、または、極めて小型のバッテリーのみで起動する固体酸化物形燃料電池システム1が提供されることになる。なお上記電極触媒等の昇温の補助については後述の本発明の実施形態において詳説する。
【0021】
1.6 アンモニア分解部6
アンモニア分解部6は、タンク等に貯留された液化アンモニアを気化させたアンモニアガスを、水素と窒素に分解し、当該水素についてはアノード電極3に供給するよう構成される。上述のとおりアンモニア分解部6にてアンモニアを全て分解するのは困難であるため、アノード電極3には一部アンモニアガスも混合した状態で供給されうる。
【0022】
排熱ライン7は、バーナ5の燃焼にて発生する排気ガスの熱を、上記電極触媒の昇温、アンモニア分解部6におけるアンモニア分解触媒の昇温を補助するように構成される。具体的にはバーナ5が専焼、混焼を問わず、排気ガスが通過する管とアンモニア分解部6等が近設され、その間に熱交換器等(不図示)が挿入される構成となる。なお排気ガスの滞留時間の設定等は、固体酸化物形燃料電池システム1全体としての設計事項であり、特段限定されるものではない。
【0023】
1.8 水素ガス備蓄部8
アノード電極3とバーナ5の間に、設けられており、システム全体の起動時において、アノード電極3を通過したアンモニアガスがバーナ5に到達する前に、いち早く水素ガスをバーナ5にて燃焼できるよう構成されている。アノード電極3とバーナ5の間において水素ガスを加圧することで、水素ガス備蓄部8である高圧容器に押し込む、または水素ガス備蓄部8である水素吸蔵合金への吸着を行う。
水素吸蔵合金は、一般的には金属の原子が作る隙間に水素を取り込み、100℃程度の比較的低温で加熱することにより取り込んだ水素を放出することができる材料である。つまり、水素吸蔵反応は発熱反応であり、金属原子間に取り込まれた水素は原子状になっているため、水素吸蔵合金中の水素が占める体積(体積水素密度)は、液体水素よりも高くなる。典型的な水素吸蔵合金として希土類系合金やマグネシウムニッケル合金がある。
水素ガス備蓄部8に水素が蓄えられるタイミングやバーナ5へ供給されるタイミング等については後述で詳説する。
【0024】
2 本発明の第1の実施形態
第2節では、本実施形態の固体酸化物形燃料電池システムについて、
図2のシステム構成図および
図3のフローチャート図の各フローに沿って説明する。
【0025】
本実施形態の固体酸化物形燃料電池システムを起動させると、
図2のように、液化アンモニア貯留槽から気化させたアンモニアガスや、アンモニア分解部6およびアノード電極3を通過したアンモニアガスがバーナ5に供給され燃焼がスタートする(スッテプS103)。システム起動時においてはアンモニア分解部6での分解触媒および電極触媒の昇温がなされていないため、水素はほとんど存在しない。この水素含有割合の低いガスのバーナ5での熱が排熱ライン7を経由してアンモニア分解部6での分解触媒の昇温に使用される。
【0026】
アンモニア分解触媒の活性化のための温度が約200℃から400℃である。バーナ5での燃焼によって生じる排熱エネルギーを、排熱ライン7から熱交換器等(不図示)を介して伝わるよう構成される。そうしてアンモニア分解部6においてアンモニア分解がスタートする(スッテプS104)。
【0027】
なお、
図2のとおり、アンモニア燃料は、液化アンモニア貯留槽から気化したアンモニアガスをアンモニア分解部6へ供給される構成となっている。上記アンモニア分解部6に併設される排熱ライン7は、液化アンモニア貯留槽にも近接している。そのため、液化アンモニアの気化が常温程度で進むところ、上記アンモニア分解部6での利用された排熱エネルギーは、当該液化アンモニアの気化でも流用されてもよく(スッテプS105)、排熱ライン7はアンモニア分解部6と液化アンモニア貯留槽とに近接して一本の配管になるように構成されていてもよい。
【0028】
その後、アンモニア分解により得られた水素がアノード電極3に供給される。アンモニア燃焼がスタート(スッテプS103)すると、カソード電極4に空気が供給されるようになる(スッテプS107)。カソード電極4には、電極表面にペロブスカイト構造の酸素透過膜が取り付けられていてもよい。当該酸素透過膜は約100℃近辺に昇温されていれば効果を発揮するものであり、排熱ライン7の一部が流用されていてもよい。システム全体の熱効率が良くなる。そうして発電反応が生じ(スッテプS108)、燃料電池としての機能を発揮できるようになる。
【0029】
なお発電反応が生じ始めた場合、
図2のとおり、液化アンモニア貯留槽に取り付けられた気化器に必要な電力を補助することを目的として、当該発電により生じた電力が一部流用されていてもよい。特に排熱ライン7における配管の設定状況によっては、上記のように排熱ライン7を流用した液化アンモニアの気化が困難な場合がありうるからである。
【0030】
上述のとおり、バーナ5は固体酸化物形燃料電池システム1の起動時においては、発電反応は生じておらず、水素含有割合の低いガスを燃焼することになる。そうして、この水素含有割合の低いガスのバーナ5での熱が排熱ライン7を経由してアンモニア分解部6での分解触媒の昇温に使用され、水素ガスがアノード電極3に到達するようになる。
しかし、スタック2に負荷が掛かっておらず発電反応(スッテプS108)が生じていない場合や、水素ガスのアノード電極3への供給過多になっている場合には、当該水素ガスは、アンモニア分解部6で分解しきれなかったアンモニアガスとともにアノード電極3を通過して(ステップS106)、バーナ5に供給されることになる。
【0031】
アンモニアは自燃温度が約300℃と低いものの、そもそも燃焼しにくい性質がある。また窒素酸化物の発生抑制を図るため、高温での燃焼は好ましくない。一方、水素は大変燃えやすく、燃焼温度もアンモニアと比較して高い。水素含有割合の高いガスと、水素含有割合の低いガスとの燃焼条件は大きく異るため、バーナ5にて混合して燃焼するのは難しい。
【0032】
そこで、バーナ5を水素ガスの含有割合によって個別に燃焼させるよう複数設ける。いわゆる専焼とすることでアンモニアの無害化と窒素酸化物の抑制が可能となり、より環境調和性の高い固体酸化物形燃料電池システム1となる。
【0033】
さらに、水素の含有割合の高いガスを燃焼させるためのバーナ5の排熱を、排熱ライン7により、アノード電極3やカソード電極4に設けられる電極触媒の昇温に使用することで、より早期に固体酸化物形燃料電池システム1を運転できるようにもなる。電極触媒の活性化のための温度は1000℃以下程度であり、水素の燃焼温度よりも低いため、水素の含有割合の多いガスを燃焼させるためのバーナ5の排熱を利用することは可能な構成となっている。
【0034】
これは、アンモニアの燃焼温度が水素と比較して低く、水素の含有割合の低いガス(アンモニアの含有割合の高いガス)の排熱を排熱ライン7によりアノード電極3やカソード電極4に設けられる電極触媒の昇温に使用するのが難しいため、より好ましい形態である。そうすることで、上記より更に早期に固体酸化物形燃料電池システム1を運転できるようにもなる。
【0035】
なお上述のように、アノード電極3の表面にアンモニア分解触媒が塗布されていてもよい。こうすることで、アノード電極3を経由してバーナ5に供給されるアンモニアの総量を減少させることもでき、バーナ5での窒素酸化物発生の抑制もやりやすくなる。
【0036】
さらに、水素の含有割合の高いガスを燃焼させるためのバーナ5の排熱を、排熱ライン7により、水素の含有割合の低いガス(アンモニアの含有割合の高いガス)を燃焼させるためのバーナ5でのアンモニア燃焼触媒の昇温に使用することで、より熱効率の高いシステムとなる(ステップS103)。アンモニアガスの自燃温度が約300℃であるところ、水素の含有割合の高いガスを燃焼させるためのバーナ5での排熱を利用することは可能な構成となっており、好ましい。
【0037】
そうして、アノード電極3やカソード電極4で余剰となったアンモニアガスや水素ガスについてはバーナ5で燃焼させつつ、無害な窒素ガスや空気、水蒸気を収集し、大気放出(ステップS109)することで、アンモニアの無害化処理が図られた固体酸化物形燃料電池システム1となる。また起動時に必要な電力は機器の制御とブロワなど最小限のものとなるため、外部電力を用いない、または、極めて小型のバッテリーのみで起動させることができる固体酸化物形燃料電池システム1となる。
【0038】
なお、上述においてバーナ5を複数としているが、固体酸化物形燃料電池システム1の全体の大きさ等により単数でしか設置できない場合には、水素ガス含有割合に応じてバーナ5に設けられた複数のノズルにより調整されるものであってもよい。アンモア燃料が十分ある場合においては上述と同様の効果が得られる。
【0039】
本実施形態における「水素ガスの含有割合の高いガス」とは、例えばアンモニア分解部6でアンモニアがほぼ完全に窒素と水素に分解されている場合、窒素:約25%、水素:約75%、微量のアンモニアといった組成となる。
【0040】
一方、本実施形態における「水素の含有割合の低いガス(アンモニアの含有割合の高いガス)」とは、例えばバーナ5に直接供給されるアンモニアガスが液化アンモニア貯留槽から気化したアンモニアのみ場合には当然アンモニアが100%である。また、バーナ5に供給されるアンモニアガスのうち、アンモニア分解部6およびアノード電極3を経由したガスを含める場合には、水素:約5%、アンモニア:約95%、微量の水蒸気といった組成となる。
【0041】
3 本発明の第2の実施形態
第3節では、本実施形態の固体酸化物形燃料電池システムについて、
図2のシステム構成図および
図3のフローチャート図の各フローに沿って説明する。なお、第1の実施形態と略同様の機能や構成ついては、その説明を省略する。
【0042】
本実施形態の固体酸化物形燃料電池システムを起動させると、
図2のように、アノード電極3とバーナ5の間に設けられた水素ガス備蓄部8から、バーナ5へ水素ガスが供給されることになる(スッテプS101)。当該水素は、充電終了後、アノード電極3にて使用されたなかった水素を貯留したものが主である(スッテプS111)。またスタック2の負荷がかかっていない状態において貯留した水素であってもよい。
【0043】
なお、当該水素ガス備蓄部8はいわゆるバッファータンクとしての位置づけであるため、別途水素タンクを設置し、そこからバーナ5へ供給するものと代用しても勿論構わないが、エネルギー効率の点から上記のように、アノード電極3とバーナ5の間に設けられているのが好ましい。
【0044】
水素ガス備蓄部8から供給された水素は、バーナ5で燃焼されることになる(スッテプS102)。水素の燃焼温度が約3000℃と高いため、この排熱を排熱ライン7によりアノード電極3やカソード電極4にある電極触媒およびアンモニア分解部6にあるアンモニア分解触媒の昇温に利用される。
充分電極触媒を昇温した後アンモニアガスを流通することで、アノード電極3およびアンモニア分解部6からバーナ5に流入するアンモニア量はかなり抑えられることになり、アンモニアの燃焼温度は水素よりも低いため、バーナ5での燃焼条件に大きな変化は生じない。
【0045】
上述のとおり、水素ガス備蓄部8があることによりバーナ5で燃焼されるアンモニアの総量はとても小さい。つまり本実施形態の場合、スッテプS103を必要とせず、バーナ5も複数用意する必要のない実施形態となる。こうしてスッテプS103を介さず、スッテプS102を経て、カソード電極4に空気が供給される(スッテプS107)。
【0046】
こうしてアノード電極3に水素が供給され、カソード電極4に酸素が供給されることになり、発電反応がスタック2で生じる(ステップS108)。アノード電極3やカソード電極4で余剰となったアンモニアガスや水素ガスについてはバーナ5で燃焼させつつ、無害な窒素ガスや空気、水蒸気を収集し、大気放出(ステップS109)することは第1実施形態と同じである。
【0047】
発電を終了する場合、ただちに固体酸化物形燃料電池システム1がシャットダウンされるわけではない。上述のとおり、バーナ5での燃焼を経てアンモニア分解部6での水素抽出が始まるまで、水素ガス備蓄部8から供給された水素が燃焼される(ステップS101、ステップS102)。そのため発電自体を終了した場合であっても、水素ガス備蓄部8はアノード電極3を通過した水素ガス貯留を開始し(ステップS110)、所定の量が貯まるまで固体酸化物形燃料電池システム1は起動し続け、その後完了となる(ステップS111)。
【0048】
なお、スタックにおいて充電させない場合、つまりアノード電極3とカソード電極4の間に負荷がない場合に、アンモニア分解部6を経由してアノード電極3に水素が供給されるものの、消費されなかった水素ガスが水素ガス備蓄部8に貯留されるものであってもよい。その場合、上記と異なり固体酸化物形燃料電池システム1を起動させ続ける必要はない。
【0049】
そうして水素ガス備蓄部8を有することで、無害化処理が図られた固体酸化物形燃料電池システム1となる。また起動時に必要な電力は機器の制御とブロワなど最小限のものとなるため、外部電力を用いない、または、極めて小型のバッテリーのみで起動させることができる固体酸化物形燃料電池システム1となる。
【0050】
4 その他の実施形態
本実施形態にかかる固体酸化物形燃料電池システム1に関して、以下のような態様を採用してもよい。
排熱ライン7が複数設けられており、アンモニアガス分解の活性化が、電極触媒およびアンモニアガス燃焼の活性化とは個別になされるよう、構成されるものである。
【0051】
特に専焼の場合であって、水素の含有割合の高いガスの場合の排熱は、アノード電極3やカソード電極4にある電極触媒の昇温および水素の含有割合の低いガス(アンモニアの含有割合の高いガス)の燃焼触媒の昇温に利用される。
一方、水素の含有割合の低いガス(アンモニアの含有割合の高いガス)の場合の排熱は、アンモニア分解触媒の昇温にのみ利用されるものである。
【0052】
高効率化を目指して、固体酸化物形燃料電池システム1で使用されるアンモニアガスの総量を小さくする場合には、固体酸化物形燃料電池システム1全体の熱総量も小さくなる。その場合であっても、上記のように触媒の昇温がバーナ5それぞれにより個別になされることにより、エネルギー効率のよい固体酸化物形燃料電池システム1となるからである。
【0053】
水素ガス備蓄部8が設けられた固体酸化物形燃料電池システム1全体が、アンモニアを燃料の一部とする船舶に設置されるよう、構成されるものである。
アンモニアを燃料の一部とする船舶においては、燃料として液化アンモニアを搭載しており、固体酸化物形燃料電池システム1に併用して用いることができ、船舶全体としての効率化を図ることができる。また船舶であれば、エンジン動作用等に圧縮空気が使われるため、手動でバルブ等を制御すれば外部電力なしで起動できるところ、固体酸化物形燃料電池システム1に転用することができてより好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 固体酸化物形燃料電池システム
2 スタック
3 アノード電極
4 カソード電極
5 バーナ
6 アンモニア分解部
7 排熱ライン
8 水素ガス備蓄部
【要約】 (修正有)
【課題】バーナ等の加熱手段により無害化処理が図られ、外部電力を省力化したアンモニア固体酸化物形燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】アンモニア固体酸化物形燃料電池は電極部(3、4)と、ガス供給部(6)と、燃焼部(5)と、排熱部(7)を備える。ガス供給部(6)は、燃料極(3)にはアンモニアガスを分解して得られる水素ガスを、酸素極(4)には空気を供給する。燃焼部(5)は、燃料極(3)で使用されなかった水素ガスや分解前のアンモニアガスが、燃焼するよう複数からなる。排熱部(7)は、排気ガスで、アンモニアガスの分解、電極触媒およびアンモニアガスの燃焼を活性化するよう、構成される。
【選択図】
図1