(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】発酵乳の製造方法、発酵乳の製造時間を短縮させる方法、発酵乳の酸度を高める方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/12 20060101AFI20230609BHJP
【FI】
A23C9/12
(21)【出願番号】P 2018182840
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】後藤 浩文
(72)【発明者】
【氏名】溝口 智奈弥
(72)【発明者】
【氏名】堀内 啓史
(72)【発明者】
【氏名】市村 武文
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/186151(WO,A1)
【文献】特開2017-051142(JP,A)
【文献】特開2003-250482(JP,A)
【文献】特開平09-149762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳の前記乳糖を、前記乳糖が5.0重量%以下となるまで分解して得られる乳糖分解原料乳を、pHが4.5未満になるまで
乳酸菌のみで発酵させる
pHが4.5未満である発酵乳の製造方法。
【請求項2】
乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳の前記乳糖を、前記乳糖が5.0重量%以下となるまで分解して得られる乳糖分解原料乳を、pHが4.5未満になるまで
乳酸菌のみで発酵することにより、pHが4.5未満である発酵乳の製造時間を
、前記乳糖を分解しない場合における発酵乳の製造時間に比べて短縮させる方法。
【請求項3】
乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳の前記乳糖を、前記乳糖が5.0重量%以下となるまで分解して得られる乳糖分解原料乳を、pHが4.5未満になるまで
乳酸菌のみで発酵することにより、pHが4.5未満である発酵乳中のL-乳酸濃度よりもD-乳酸濃度を高くする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乳、特に高無脂乳固形分・高酸度の発酵乳の製造方法に関する。また、本発明は、発酵乳の製造時間を短縮させる方法にも関する。さらに、本発明は、発酵乳の酸度を高める方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去に種々の発酵乳の製造方法が提案されている(例えば、国際公開第2016/186151号、特開2017-189709号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/186151号
【文献】特開2017-189709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、業務用の発酵乳(ヨーグルト)の中には、専らパフェ等のトッピングや、フルーツ類等と混合されて食されるものや、飲料・料理・調味料等に添加されて食されるものが存在する。そして、通常、このような業務用の発酵乳には、高いSNF(SNF:Solids Not Fat(無脂乳固形分/牛乳中の乳脂肪分以外の固形分))および高い酸度が求められている。
【0005】
しかしながら、原料乳を発酵させる過程において、乳酸菌スタータとしてブルガリア菌(ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス(Lactobacillus delbruechii subsp. bulgaricus))およびサーモフィラス菌(ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus))を用いる場合、酸度が上昇すると(すなわちpHが低下すると)、サーモフィラス菌は、自身もしくはブルガリア菌の産生する乳酸により死滅していく。一方、ブルガリア菌はサーモフィラス菌に比べて対低pH耐性を示すが、通常の発酵過程では発酵初期にサーモフィラス菌が増殖し、ブリガリア菌がサーモフィラス菌よりも遅れて増殖するため、相対的にブルガリア菌の生菌数の比率が低くなる。すなわち、低pH領域での酸生成速度は緩やかになるか酸の生成が停止することになる。
【0006】
本発明の課題は、高SNFおよび高酸度の発酵乳を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1局面に係るpHが4.5未満である発酵乳の製造方法では、乳糖分解原料乳が、pHが4.5未満になるまで乳酸菌のみで発酵させられる。なお、ここにいう「発酵乳」とは、日本国の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(以下「乳等省令」と略する。)」で定義された発酵乳および乳酸菌飲料である。乳等省令における発酵乳は、乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌または酵母で発酵させ、糊状もしくは液状にしたものまたはこれらを凍結したものである。また、乳等省令における乳酸菌飲料は、乳等を乳酸菌または酵母で発酵させたものを加工し、または主要原料とした飲料である。また、ここにいう「乳糖分解原料乳」とは、乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳中の乳糖を、乳糖が5.0重量%以下となるまで分解して得られるものである。そして、この発酵乳の製造方法では、高無脂乳固形分・高酸度の発酵乳が得られる。なお、ここで、原料乳の無脂乳固形分は10重量%超であることが好ましく、13重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることがさらに好ましく、17重量%以上であることが特に好ましい。また、ここで「酸度」とは、試料一定量をフェノールフタレイン変色域まで中和するのに要するアルカリ量を測定し、この消費されたアルカリ量がすべて乳酸に由来するものと仮定して乳酸の重量%(乳酸%)で表示した値をいう。また、ここで、酸度は1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.6以上であることがさらに好ましい。また、酸度の上限は、特に制限はされないが、5.0であることが好ましく、3.0であることが好ましく、2.5であることがより好ましく、2.0であることがさらに好ましい。
【0008】
ところで、原料乳の無脂乳固形分の上限は20重量%であることが好ましく、19.5重量%であることがより好ましい(すなわち、原料乳の無脂乳固形分は20重量%以下であることが好ましく、19.5重量%以下であることがより好ましい。)。また、乳糖の分解は乳糖分解酵素を用いて行われることが好ましい。さらに、乳糖分解原料乳の発酵は、乳酸菌スタータ、特にラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカスおよびストレプトコッカス・サーモフィラスを用いて行われることが好ましい。国連食糧農業機構(FAO)および世界保健機構(WHO)により、発酵乳(ヨーグルト)は、乳および乳酸菌を原料とし、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカスおよびストレプトコッカス・サーモフィラスの両者の菌による乳酸発酵作用により乳及び脱脂粉乳などの乳製品から作られると定義されているためである。
【0009】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の方法により高SNFおよび高酸度の発酵乳を製造することができることが明らかとなった。
【0010】
本発明の第2局面に係る方法では、乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳の乳糖を、pHが4.5未満になるまで分解して得られる乳糖分解原料乳が、pHが4.5未満になるまで乳酸菌のみで発酵されることにより、発酵乳の製造時間が、乳糖を分解しない場合における発酵乳の製造時間に比べて短縮される。
【0011】
本願発明者らの鋭意検討の結果、「乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳」を乳糖分解せずに発酵させた際よりも、同原料乳を乳糖分解して発酵させた際の方が、発酵乳のpHが同一のpHに至る時間を短くすることができることが明らかとなった。
【0012】
本発明の第3局面に係る方法では、乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳の乳糖を、乳糖が5.0重量%以下となるまで分解して得られる乳糖分解原料乳が、pHが4.5未満になるまで乳酸菌のみで発酵されることにより、発酵乳の酸度が高められる。
【0013】
本願発明者らの鋭意検討の結果、「乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳」を乳糖分解せずに発酵させた際よりも、同原料乳を乳糖分解して発酵させた際の方が、同一の時間経過時において発酵乳の酸度が高められることが明らかとなった。
【0014】
本発明の第4局面に係る方法では、乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳の乳糖を、乳糖が5.0重量%以下となるまで分解して得られる乳糖分解原料乳が、pHが4.5未満になるまで乳酸菌のみで発酵されることにより、pHが4.5未満である発酵乳中のL-乳酸濃度よりもD-乳酸濃度が高められる。
【0015】
本願発明者らの鋭意検討の結果、「乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳」を乳糖分解せずに発酵させた際よりも、同原料乳を乳糖分解して発酵させた際の方が、同一の時間経過時において発酵乳中のL-乳酸濃度よりもD-乳酸濃度が高められることが明らかとなった。
【0016】
本発明の第5局面に係る発酵乳では、無脂乳固形分が10重量%以上である。なお、この発酵乳において、無脂乳固形分は11重量%超であることが好ましく、13重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることがさらに好ましく、17重量%以上であることが特に好ましい。ところで、この発酵乳の無脂乳固形分の上限は20重量%であることが好ましく、19.5重量%であることがより好ましい(すなわち、発酵乳の無脂乳固形分は20重量%以下であることが好ましく、19.5重量%以下であることがより好ましい。)。
【0017】
また、この発酵乳では、酸度が1.0以上である。なお、この発酵乳において、酸度は1.5以上であることがより好ましく、1.6以上であることがさらに好ましい。また、酸度の上限は、特に制限されないが、5.0であることが好ましく、3.0であることがより好ましく、2.5であることがさらに好ましく、2.0であることが特に好ましい。なお、ここで「酸度」とは、試料一定量をフェノールフタレイン変色域まで中和するのに要するアルカリ量を測定し、この消費されたアルカリ量がすべて乳酸に由来するものと仮定して乳酸の重量%(乳酸%)で表示した値をいう。また、本発明に係る発酵乳のpHは、校正した市販のpHメータ(なお、本願ではエイブル株式会社製のpHモニタリング装置を使用)で測定することができ、4.6未満であることが好ましく、4.5未満であることがさらに好ましく、4.3未満であることがさらに好ましく、4.0未満であることが特に好ましい。なお、この発酵乳のpHの下限は3.0である。
【0018】
本発明の第6局面に係る発酵乳は、第5局面に係る発酵乳であって、D-グルコースおよびD-ガラクトースの少なくとも一方を含有する。なお、この発酵乳において、D-グルコースの濃度は、0重量%以上10重量%以下の範囲内であることが好ましく、0重量%以上8重量%以下の範囲内であることがより好ましく、0重量%以上6重量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。また、D-ガラクトースの濃度は1重量%以上10重量%以下の範囲内であることが好ましく、3重量%以上10重量%以下の範囲内であることがより好ましく、5重量%以上10重量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0019】
なお、この発酵乳中の乳糖の濃度は5重量%未満であることが好ましく、3重量%未満であることがより好ましく、2.5重量%未満であることがさらに好ましく、1.0重量%未満であることがさらに好ましく、0重量%であることが理想的に好ましい。
【0020】
上述の通り、この発酵乳は、高い無脂乳固形分のみならず高い酸度を有する。このため、この発酵乳は、業務用の発酵乳として利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1および実施例3に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳ならびに比較例1および比較例3に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHの経時変化を示すグラフである。
【
図2】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のストレプトコッカス・サーモフィラス1131の菌数の経時変化を示すグラフである。
【
図3】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038の菌数の経時変化を示すグラフである。
【
図4】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のL-乳酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【
図5】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のD-乳酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【
図6】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のストレプトコッカス・サーモフィラス1131の菌数に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【
図7】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038の菌数に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【
図8】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のストレプトコッカス・サーモフィラス1131の菌数に及ぼす酸度の影響を示すグラフである。
【
図9】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038の菌数に及ぼす酸度の影響を示すグラフである。
【
図10】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のL-乳酸濃度に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【
図11】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のD-乳酸濃度に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【
図12】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のL-乳酸濃度に及ぼす酸度の影響を示すグラフである。
【
図13】実施例4に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例4に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳中のD-乳酸濃度に及ぼす酸度の影響を示すグラフである。
【
図14】実施例5に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例5に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHの経時変化を示すグラフである。
【
図15】実施例1に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例1に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHの経時変化を示すグラフである。
【
図16】実施例6に係る発酵中の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳および比較例6に係る発酵中の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態に係る高無脂乳固形分・高酸度の発酵乳の製造方法は、原料乳準備工程および発酵工程を含む。以下、これらの工程について詳述する。これらの工程は、逐次的に実行されてもよいし、連続的に実行されてもよい。
【0023】
なお、ここにいう「発酵乳」とは、上述の通り、日本国の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で定義されているものであって、具体的には、無脂乳固形分が8%以上のものである。また、ここにいう「発酵乳」の例としてはヨーグルトが挙げられる。ヨーグルトは、プレーンタイプ、ハードタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプのいずれのタイプであってもよく、これらを凍らせたフローズンタイプであってもよい。また、この発酵乳には、穀物、野菜、果肉、果汁、野菜汁、ジャム、ソース、プレパレーション等が含まれてもよい。
【0024】
(1)原料乳準備工程
原料乳準備工程では、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳が購入等されて入手されるか、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳が調製される。ここで、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳とは、乳糖を含むと共に無脂乳固形分が10重量%以上である原料乳(以下「高無脂乳固形分原料乳」という。)の乳糖を分解して得られるものである。すなわち、原料乳準備工程において乳糖分解高無脂乳固形分原料乳が調製される場合、高無脂乳固形分原料乳中に、ラクターゼ等の乳糖分解酵素が添加されて乳糖分解高無脂乳固形分原料乳が調製される。なお、ここで、原料乳の無脂乳固形分は20重量%以下であることが好ましく、19.5重量%以下であることがより好ましい。
【0025】
また、原料乳準備工程において乳糖分解高無脂乳固形分原料乳が調製される場合、高無脂乳固形分原料乳は、例えば、水、生乳、脱脂粉乳、全粉乳、バターミルク、バター、クリーム、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン等から調製され得る。また、この高無脂乳固形分原料乳には、上記原料の他、ゼラチン、寒天、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、乳化剤、ショ糖、甘味料、香料、ビタミン、ミネラル等が添加されていてもかまわない。また、高無脂乳固形分原料乳は、上記条件に加えて乳酸菌による乳酸発酵を行うための乳成分を含んでいれてばよく上記において例示した全ての原料を含んでいなくてもよく、上記に例示した原料以外の原料を用いて調製してもよい。高無脂乳固形分原料乳は、従来から知られている公知の方法で調製され得る。例えば、上記に例示した原料を混合して混合物を生成し、その混合物を均質化する等によって、高無脂乳固形分原料乳を調製し得る。このように調製された高無脂乳固形分原料乳は、上述の通り、乳糖を含む。なお、この乳糖は、生乳、脱脂粉乳、全粉乳等の乳由来の原料に含まれている。
【0026】
ところで、乳糖分解酵素は、アミノ酸配列の相同性からグリコシルヒドロラーゼに分類される酵素であって、乳糖をグルコースとガラクトースとに加水分解する。乳糖分解酵素は、例えば、細菌または酵母由来のものが挙げられる。そして、活性の至適pHとして6.3~7.5かつ失活pHとして6.0~4.0のものが挙げられる。また、乳酸分解酵素としては、クルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces Lactis)由来又はクルイベトマイセスフラギリス(Kluyveromyces Fragilis)由来のラクターゼが好ましい。なお、クルイベロミセス・ラクティス由来の乳糖分解酵素は、クルイベロミセス・ラクティスそのもののほか、クルイベロミセス・ラクティスから派生したものが含まれる。なお、ここで、乳糖分解酵素の至適pHが中性領域または酸性領域であれば、ラクターゼの種類は特に限定されない。乳糖分解酵素としては、例えば、市販のラクターゼを利用することもできる。高無脂乳固形分原料乳にラクターゼを添加した後、そのラクターゼ入りの高無脂乳固形分原料乳を0℃以上50℃以下の温度範囲内の温度で保持することによって、ラクターゼによる乳糖の分解を促進させることができる。なお、ラクターゼによる乳糖の分解は、高無脂乳固形分原料乳中の乳糖が、5.0重量%以下となるまで行われることが好ましく、4.0重量%以下となるまで行われることがより好ましく、2.5重量%以下となるまで行われることがさらに好ましく、2.0重量%以下となるまで行われることがさらに好ましく、1.5重量%以下となるまで行われることがさらに好ましく、1.0重量%以下となるまで行われることが特に好ましく、0重量%となるまで行われることが理想的に好ましい。なお、ラクターゼによる乳糖分解後に乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を殺菌処理してもかまわないし、ラクターゼによる乳糖分解前に高無脂乳固形分原料乳を殺菌処理してもかまわない。殺菌方法としては、従来から知られている公知の方法、例えば、プレート式熱交換器や、チューブ式熱交換器、スチームインジェクション式加熱装置、スチームインフュージョン式加熱装置、通電式加熱装置、ジャケット付きタンクを用いた加熱殺菌方法や、紫外線等の光を用いた光殺菌方法を用いることができる。なお、加熱殺菌では、原料乳を80℃~100℃で3分~15分程度加熱するか、原料乳を110℃~150℃で1秒~30秒間程度加熱すればよい。
【0027】
(2)発酵工程
発酵工程では、原料乳準備工程で準備された乳糖分解高無脂乳固形分原料乳に乳酸菌スタータが添加される等して乳糖分解高無脂乳固形分原料乳が発酵される。ここで、乳酸菌スタータとしては、ブルガリア菌(ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス)およびサーモフィラス菌(ストレプトコッカス・サーモフィラス)が併用されることが好ましいが、乳酸菌スタータ中にこれら以外の乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシス・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)等が含まれていてもかまわない。また、発酵温度や発酵時間等の発酵条件は、乳酸菌スタータの種類や、求める発酵乳の風味等を考慮して適宜選択すればよい。例えば、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を30℃以上50℃以下の範囲内の温度環境下に置くことによって、乳酸菌による発酵を促進させることができる。発酵時間は、発酵温度、乳酸菌スタータの種類、発酵乳における目的乳酸酸度等に応じて適宜調整される。
【0028】
なお、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳の発酵開始時点は、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳に乳酸菌スタータが添加された時点であってもよいし、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳中の乳酸菌の対数増殖期が開始した時点であってもよい。この後者を発酵開始時点とする場合、乳糖分解前に殺菌処理が行われる。つまり、加熱殺菌された高無脂乳固形分原料乳にラクターゼが添加される。対数増殖期の開始時点を発酵開始時点とした場合、ラクターゼによる乳糖の分解は、乳酸菌スタータを乳糖分解高無脂乳固形分原料乳に添加した後においても継続する。
【0029】
なお、発酵工程後(すなわち、所定の酸度に達した後)、得られた高無脂乳固形分・高酸度の発酵乳は、冷却される。発酵乳を冷却することで発酵の進行が抑制される。このとき、発酵乳を発酵温度域(例えば、30℃~60℃)よりも低温になるまで冷却する。発酵乳は、例えば、15℃以下の温度まで冷却されることが好ましい。具体的には、発酵乳は、1℃~15℃の温度に冷却されるのが好ましく、3℃~12℃に冷却されるのがより好ましく、5℃~10℃に冷却されるのがさらに好ましい。このように、発酵乳を食用に適した温度にまで冷却することにより、発酵乳の風味(酸味等)や、食感(舌触り等)、物性(硬さ等)が経時変化することを抑制あるいは防止することができる。
【0030】
<本実施の形態に係る高無脂乳固形分・高酸度の発酵乳の製造方法の特徴>
(1)
本実施の形態に係る高無脂乳固形分・高酸度の発酵乳の製造方法を実施することによって、高無脂乳固形分・高酸度の発酵乳をすることができる。
【0031】
(2)
高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解せずに発酵させた際よりも、同高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解して発酵させた際の方が、発酵乳のpHが同一のpHに至る時間が短くなる。
【0032】
(3)
高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解せずに発酵させた際よりも、同高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解して発酵させた際の方が、同一の時間経過時において発酵乳の酸度を高めることができる。
【0033】
<実施例・比較例>
以下、実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されることはない。
【0034】
(調製例1)
17.58重量部の脱脂粉乳と82.27重量部の水を混合し、16.8%の無脂乳固形分(SNF)を有する高無脂乳固形分原料乳を調製した。次に、この高無脂乳固形分原料乳を95℃で1分間オートクレーブ殺菌した後に30℃以下に冷却した。続いて、殺菌処理済の高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して合同酒精株式会社販売のラクターゼGOD-YNLを0.1重量部添加した後、そのラクターゼ入り高無脂乳固形分原料乳を40℃で2時間静置して乳糖分解処理を行った。以下、乳糖分解処理後の高無脂乳固形分原料乳を「乳糖分解高無脂乳固形分原料乳」と称する。
【0035】
なお、ここで「無脂乳固形分」とは、乳脂肪を除いた固形分を意味する。この無脂乳固形分には、タンパク質、糖質、ビタミン、ミネラルなどの栄養成分が含まれている。そして、この無脂乳固形分は、日本国の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で規定されている方法に従って測定される。
【0036】
(調製例2)
17.58重量部の脱脂粉乳と82.27重量部の水を混合し、16.8%の無脂乳固形分を有する高無脂乳固形分原料乳を調製した。次に、この高無脂乳固形分原料乳を95℃で1分間オートクレーブ殺菌した後に冷却した。以下、この殺菌処理済みの高無脂乳固形分原料乳を「乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳」と称する。
【0037】
(調製例3)
15重量部の脱脂粉乳と84.85重量部の水を混合し、14.3%の無脂乳固形分を有する高無脂乳固形分原料乳を調製した。次に、この高無脂乳固形分原料乳を95℃で1分間オートクレーブ殺菌した後に30℃以下に冷却した。続いて、殺菌処理済の高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して合同酒精株式会社販売のラクターゼGOD-YNLを0.1重量部添加した後、そのラクターゼ入り高無脂乳固形分原料乳を40℃で2時間静置して、乳糖分解処理を行った。以下、乳糖分解処理後の高無脂乳固形分原料乳を「乳糖分解高無脂乳固形分原料乳」と称する。
【0038】
(調製例4)
20重量部の脱脂粉乳と79.85重量部の水を混合し、19.1%の無脂乳固形分を有する高無脂乳固形分原料乳を調製した。次に、この高無脂乳固形分原料乳を95℃で1分間オートクレーブ殺菌した後に30℃以下に冷却した。続いて、殺菌処理済の高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して、合同酒精株式会社販売のラクターゼGOD-YNLを0.1重量部添加した後、そのラクターゼ入り高無脂乳固形分原料乳を40℃で2時間静置して、乳糖分解処理を行った。以下、乳糖分解処理後の高無脂乳固形分原料乳を「乳糖分解高無脂乳固形分原料乳」と称する。
【0039】
(調製例5)
15重量部の脱脂粉乳と84.85重量部の水を混合し、14.3%の無脂乳固形分を有する高無脂乳固形分原料乳を調製した。次に、この高無脂乳固形分原料乳を95℃で1分間オートクレーブ殺菌した後に冷却した。以下、この殺菌処理済みの高無脂乳固形分原料乳を「乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳」と称する。
【0040】
(調製例6)
20重量部の脱脂粉乳と79.85重量部の水を混合し、19.1%の無脂乳固形分を有する高無脂乳固形分原料乳を調製した。次に、この高無脂乳固形分原料乳を95℃で1分間オートクレーブ殺菌した後に冷却した。以下、この殺菌処理済みの高無脂乳固形分原料乳を「乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳」と称する。
【実施例1】
【0041】
先ず、調製例1で調製された乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を43℃まで温めた。次に、その加温後の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳99.95重量部に対して、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038とストレプトコッカス・サーモフィラス1131の凍結菌スタータ(以下、この混合スタータを「LB81スタータ」と称する。なお、これらの乳酸菌は、市販の株式会社明治製「明治ブルガリアのむヨーグルトLB81」から単離することができる。)0.15重量部を接種した。そして、LB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングし、pHが4.6、4.07、3.94となるまでの時間(すなわち、発酵時間)を求めた。その結果、この系では、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳のpHが4.6となるまでの時間は290分であり、pHが4.07となるまでの時間は440分であり、pHが3.94となるまでの時間は535分であった(以下の表1、
図1および
図15参照)。なお、ここで、pHのモニタリングは、エイブル株式会社製のpHモニタリング装置を用いて行った。
【実施例2】
【0042】
加温後の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳99.95重量部に対して0.3重量部のLB81スタータを接種した以外は、実施例1と同様にしてLB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングし、pHが4.6、4.07、3.94となるまでの時間を求めた。その結果、この系では、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳のpHが4.6となるまでの時間は270分であり、pHが4.07となるまでの時間は425分であり、pHが3.94となるまでの時間は530分であった(以下の表1参照)。
【実施例3】
【0043】
加温後の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳99.95重量部に対して0.45重量部のLB81スタータを接種した以外は、実施例1と同様にしてLB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングし、pHが4.6、4.07、3.94となるまでの時間を求めた。その結果、この系では、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳のpHが4.6となるまでの時間は270分であり、pHが4.07となるまでの時間は440分であり、pHが3.94となるまでの時間は585分であった(以下の表1および
図1参照)。
【0044】
(比較例1)
先ず、調製例2で調製された乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳を43℃まで温めた。次に、その加温後の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して0.15重量部のLB81スタータを接種した。そして、LB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングし、pHが4.6、4.07、3.94となるまでの時間(すなわち、発酵時間)を求めた。その結果、この系では、乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHが4.6となるまでの時間は280分であり、pHが4.07となるまでの時間は565分であり、pHが3.94となるまでの時間は1315分であった(以下の表1、
図1および
図15参照)。なお、ここで、pHのモニタリングは、エイブル株式会社製のpHモニタリング装置を用いて行った。
【0045】
(比較例2)
加温後の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して0.3重量部のLB81スタータを接種した以外は、比較例1と同様にしてLB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングし、pHが4.6、4.07、3.94となるまでの時間を求めた。その結果、この系では、乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHが4.6となるまでの時間は245分であり、pHが4.07となるまでの時間は430分であり、pHが3.94となるまでの時間は590分であった(以下の表1参照)。
【0046】
(比較例3)
加温後の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して0.45重量部のLB81スタータを接種した以外は、比較例1と同様にしてLB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングし、pHが4.6、4.07、3.94となるまでの時間を求めた。その結果、この系では、乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHが4.6となるまでの時間は240分であり、pHが4.07となるまでの時間は455分であり、pHが3.94となるまでの時間は675分であった(以下の表1および
図1参照)。
【0047】
【0048】
<実施例1-3および比較例1-3の結果の考察>
LB81スタータの接種量が同一である実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3の結果をそれぞれ比較すると、いずれの系でも乳糖分解高無脂乳固形分原料乳(実施例)のpHが4.6に到達するまでの時間は、乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳(比較例)のpHが4.6に到達するまでの時間よりも長くなっているが、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳(実施例)のpHが4.07および3.94に到達するまでの時間は、乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳(比較例)のpHが4.07および3.94に到達するまでの時間よりも短くなっている。特に、LB81スタータの接種量が0.15重量部である系では、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳(実施例)のpHが3.94に到達するまでの時間は、乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳(比較例)のpHが3.94に到達するまでの時間の約4割となっている。
【0049】
ところで、上述の通り、一部の業務用の発酵乳には、酸度が高いことが求められている。酸度を高くすることで、少量で発酵乳(ヨーグルト)の風味をだすことができるからである。上述の結果より、原料乳として乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を用いることにより、業務用発酵乳の製造時間を短縮することができることが明らかとなった。また、高無脂乳固形分・高酸度発酵乳の製造時間が、乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳使用時の製造時間と同じ時間まで許されるのであれば、乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を用いることにより、より高酸度の高無脂乳固形分・高酸度発酵乳を製造することができる。
【実施例4】
【0050】
調製例1で調製された乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を43℃まで温めた。次に、その加温後の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳99.95重量部に対して0.15重量部のLB81スタータを接種し、その接種時から24時間後までラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038およびストレプトコッカス・サーモフィラス1131の各乳酸菌数、乳酸量、pHおよび酸度をモニタリングした。その結果を
図2-
図13にまとめた。なお、ここで、乳酸菌数の測定は、日本国の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で規定されている方法に従って測定された。また、ここで、乳酸量の測定は、株式会社島津製作所製のHPLC装置(UV検出器、カラムオーブン温度40℃、検出波長254nm、移動相2mM硫酸銅(II)・5水和物/5.0%イソプロパノール、流速1.0ml/分、カラムSUMICHIRALOA50014615353)を用いて行った。また、ここで、pHおよび酸度のモニタリングは、エイブル株式会社製のpHモニタリング装置を用いて行った。
【0051】
(比較例4)
調製例2で調製された乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳を43℃まで温めた。次に、その加温後の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して0.15重量部のLB81スタータを接種し、その接種時から24時間後までラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038およびストレプトコッカス・サーモフィラス1131の各乳酸菌数、乳酸量、pHおよび酸度をモニタリングした。その結果を
図2-
図13にまとめた。なお、ここで、乳酸菌数の測定は、日本国の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で規定されている方法に従って測定された。また、ここで、乳酸量の測定は、株式会社島津製作所製のHPLC装置(UV検出器、カラムオーブン温度40℃、検出波長254nm、移動相2mM硫酸銅(II)・5水和物/5.0%イソプロパノール、流速1.0ml/分、カラムSUMICHIRALOA50014615353)を用いて行った。また、ここで、pHおよび酸度のモニタリングは、エイブル株式会社製のpHモニタリング装置を用いて行った。
【0052】
<実施例4および比較例4の結果の考察>
図2および
図3のグラフに示される結果から、高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解することによって、10-15時間の時間帯におけるストレプトコッカス・サーモフィラス1131の菌数減少速度が高まる一方、6時間以降の時間帯におけるラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038の菌数減少速度が低くなることが明らかとなった。すなわち、高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解することにより、ストレプトコッカス・サーモフィラス1131の菌数が減少しやすくなる一方、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038の菌数が減少しにくくなる。
【0053】
また、
図4および
図5のグラフに示される結果から、高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解することによって、ストレプトコッカス・サーモフィラス1131によるL-乳酸の生成が抑制される一方、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038によるD-乳酸の生成が促進されることが明らかとなった。
【0054】
また、
図6-
図9のグラフに示される結果から、高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解することによって、ストレプトコッカス・サーモフィラス1131およびラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038が低pH側・高酸度側まで生存するようになることが明らかとなった。
【0055】
また、
図10-
図12のグラフに示される結果から、高無脂乳固形分原料乳を乳糖分解することによって、ストレプトコッカス・サーモフィラス1131から産生されるL-乳酸よりも、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリカス2038から産生されるD-乳酸の方が、pHや酸度に与える影響が大きくなることが明らかとなった。
【実施例5】
【0056】
先ず、調製例3で調製された乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を43℃まで温めた。次に、その加温後の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳99.95重量部に対して0.15重量部のLB81スタータを接種した。そして、LB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングした。その結果、
図14のグラフに示される結果が得られた。
【実施例6】
【0057】
先ず、調製例4で調製された乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を43℃まで温めた。次に、その加温後の乳糖分解高無脂乳固形分原料乳99.95重量部に対して0.15重量部のLB81スタータを接種した。そして、LB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングした。その結果、
図16のグラフに示される結果が得られた。
【0058】
(比較例5)
先ず、調製例5で調製された乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳を43℃まで温めた。次に、その加温後の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して0.15重量部のLB81スタータを接種した。そして、LB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングした。その結果、
図14のグラフに示される結果が得られた。
【0059】
(比較例6)
先ず、調製例6で調製された乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳を43℃まで温めた。次に、その加温後の乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳99.85重量部に対して0.15重量部のLB81スタータを接種した。そして、LB81スタータ接種時から時間計測を行うと共に乳糖未分解高無脂乳固形分原料乳のpHをモニタリングした。その結果、
図16のグラフに示される結果が得られた。
【0060】
<実施例1、5および6ならびに比較例1、5および6の結果の考察>
図14-16のグラフに示される結果から、原料乳として乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を用いることによって、より高酸度の高無脂乳固形分発酵乳を製造することができることが明らかとなった。また、同一酸度の高無脂乳固形分発酵乳を製造する際、原料乳として乳糖分解高無脂乳固形分原料乳を用いることによって、より早く高無脂乳固形分発酵乳を製造することができることが明らかとなった。