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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】バッテリ健全状態の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20230609BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20230609BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021554778
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-10
(86)【国際出願番号】 KR2019016610
(87)【国際公開番号】W WO2020184812
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】10-2019-0028155
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・フイ・リム
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ジュン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】クリストベル・ラヤッパン
(72)【発明者】
【氏名】ギ・ホン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェイク・キム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウク・ペク
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0111599(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0143257(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105334465(CN,A)
【文献】特許第7095110(JP,B2)
【文献】特開2011-122951(JP,A)
【文献】特開2018-96953(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108896926(CN,A)
【文献】米国特許第9658291(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第109061508(CN,A)
【文献】国際公開第2016/132813(WO,A1)
【文献】KIM, Gi-Heon; SMITH, Kandler; LAWRENCE-SIMON, Jake; YANG, Chuanbo,“Efficient and Extensible Quasi-Explicit Modular Nonlinear Multiscale Battery Model: GH-MSMD”,Journal of The Electrochemical Society,2017年03月24日,Vol. 164, NO. 6,pp. A1076-A1088,DOI: 10.1149/2.0571706jes
【文献】MARONGIU, Andrea,“Performance and Aging Diagnostic on Lithium Iron Phosphate Batteries for Electric Vehicles and Vehicle-to-Grid Strategies - From the cell to the system level -”,2017年,pp. 32-34,DOI: 10.18154/RWTH-2017-09944
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用中のバッテリの電圧及び電流を測定し、電圧値と電流値とを周期的に生成する段階と、
適応型フィルタを利用し、前記電圧値と前記電流値とから、前記バッテリの現在状態を示すGパラメータの値、及びHパラメータの値をリアルタイムで更新する段階と、
事前に設定された前記Gパラメータの初期値及び終了値、並びに前記Gパラメータの現在値を利用し、前記バッテリの健全状態をリアルタイムで推定する段階と、を含み、
前記Gパラメータは、前記バッテリの電流変化に対する電圧の感度を示すパラメータであり、
前記Hパラメータは、前記バッテリ内の局所平衡電位分布と抵抗分布とによって決定される有効電位を示すパラメータであり、
前記Gパラメータと前記Hパラメータとからなる状態ベクトル、及び共分散行列を初期化する段階と、
前記Gパラメータの初期値及び終了値を設定する段階と、をさらに含み、
前記電圧値と電流値とを周期的に生成する段階は、
直前電圧値と直前電流値とを生成する段階と、
事前に設定された時間周期後、現在電圧値と現在電流値とを生成する段階と、
前記現在電流値と前記直前電流値との電流差を算出する段階と、
前記電流差を事前に設定された範囲と比較する段階と、をさらに含み、
前記電流差が、前記事前に設定された範囲内に含まれる場合、前記現在電圧値と前記現在電流値とを利用し、前記Gパラメータの値及び前記Hパラメータの値を更新し、
前記電流差が、前記事前に設定された範囲を外れる場合、前記Gパラメータの値及びHパラメータの値を更新しないことを特徴とするバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項2】
前記バッテリの健全状態は、前記Gパラメータの終了値と、前記Gパラメータの初期値との差に対する、前記Gパラメータの終了値と、前記Gパラメータの現在値との差の百分率値を基に推定されることを特徴とする請求項1に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項3】
前記適応型フィルタは、再帰的最小自乗法(RLS)を利用したフィルタであることを特徴とする請求項1に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項4】
前記Gパラメータの値、及びHパラメータの値をリアルタイムで更新する段階は、
前記現在電流値と、前記状態ベクトルの直前値とに基づき、前記バッテリの現在電圧推定値を算出する段階と、
前記現在電流値と、前記共分散行列の直前値とに基づき、利得行列と前記共分散行列とを更新する段階と、
前記現在電圧値と前記現在電圧推定値との電圧誤差を算出する段階と、
前記状態ベクトルの直前値、前記利得行列の現在値、及び前記電圧誤差に基づき、前記状態ベクトルを更新することにより、前記Gパラメータの現在値、及び前記Hパラメータの現在値を生成する段階と、を含むことを特徴とする請求項に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項5】
前記現在電圧推定値は、前記現在電流値と、前記Gパラメータの直前値との積に、前記Hパラメータの直前値を加算した値として算出されることを特徴とする請求項に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項6】
前記状態ベクトルの現在値は、前記状態ベクトルの直前値に、前記利得行列の現在値と、前記電圧誤差との積を加算した値として算出されることを特徴とする請求項に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項7】
前記利得行列と前記共分散行列とを更新するとき、前記Gパラメータに係わる第1忘却ファクタ、及び前記Hパラメータに係わる第2忘却ファクタが適用されることを特徴とする請求項に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項8】
前記利得行列は、下記数式によって算出され、
【数1】
前記共分散行列は、下記数式によって算出され、
【数2】
ここで、L(t)は、前記利得行列の現在値であり、L(t-1)は、前記利得行列の直前値であり、P(t)は、前記共分散行列の現在値であり、P(t-1)は、前記共分散行列の直前値であり、I(t)は、前記現在電流値であり、λ1は、前記第1忘却ファクタであり、λ2は、前記第2忘却ファクタであることを特徴とする請求項に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項9】
前記バッテリの健全状態をリアルタイムで推定する段階は、
前記Gパラメータの前記初期値、前記終了値及び前記現在値を基に算出される前記バッテリの健全状態点数を保存する段階と、
健全状態チェック条件を検査する段階と、
前記健全状態点数を基に、前記バッテリの健全状態値を推定する段階と、を含むことを特徴とする請求項に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項10】
前記健全状態チェック条件は、前記健全状態点数が、最近の第1期間の間に保存されたか否かということを基に設定され、
前記バッテリの健全状態値は、前記健全状態点数の第2期間の移動平均値を基に生成されることを特徴とする請求項に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項11】
互いに重畳しない第1ないし第n充電率または放電率区間(nは、自然数である)を設定する段階
1ないし第nGパラメータ、及び第1ないし第nHパラメータをそれぞれ含む第1ないし第n状態ベクトル、並びに第1ないし第n共分散行列を初期化する段階と、
前記第1ないし第nGパラメータそれぞれの初期値及び終了値を設定する段階と、
直前電圧値と直前電流値とを生成し、事前に設定された時間周期後、現在電圧値と現在電流値とを生成する段階と、
前記現在電流値と前記直前電流値との電流差を算出する段階と、
前記電流差を、前記第1ないし第n充電率または放電率区間それぞれと比較する段階と、
前記第1ないし第nGパラメータそれぞれの初期値、終了値及び現在値を基に、第1ないし第n健全状態点数をそれぞれ算出する段階と、
前記第1ないし第n健全状態点数を基に、前記バッテリの健全状態値をリアルタイムで推定する段階と、をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項12】
前記電流差が、前記第1ないし第n充電率または放電率区間のうち第j区間に属する場合(jは、n以下の任意の自然数である)、前記現在電圧値と前記現在電流値とを利用し、第jGパラメータの値、及び第jHパラメータの値を更新し、前記第jGパラメータの初期値、終了値及び現在値を利用し、前記バッテリの第j健全状態点数を算出することを特徴とする請求項11に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項13】
前記第jGパラメータの値、及び前記第jHパラメータの値は、
前記現在電流値と、第j状態ベクトルの直前値とに基づき、前記バッテリの現在電圧推定値を算出する段階と、
前記現在電流値と、第j共分散行列の直前値とに基づき、利得行列と前記第j共分散行列とを更新する段階と、
前記現在電圧値と前記現在電圧推定値との電圧誤差を算出する段階と、
前記第j状態ベクトルの直前値、前記利得行列の現在値、及び前記電圧誤差に基づき、前記第j状態ベクトルを更新する段階と、を遂行することにより、リアルタイムに更新されることを特徴とする請求項12に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項14】
電圧値と電流値を使用して、再帰的最小自乗法(RLS)フィルタから生成される、第1Gパラメータ及び第1Hパラメータを含む第1状態ベクトル、第2Gパラメータ及び第2Hパラメータを含む第2状態ベクトル、第3Gパラメータ及び第3Hパラメータを含む第3状態ベクトル、並びに、1ないし第3共分散行列を初期化する段階と
前記第1Gパラメータの初期値及び終了値、前記第2Gパラメータの初期値及び終了値、並びに前記第3Gパラメータの初期値及び終了値を設定する段階と、
使用中のバッテリの電圧及び電流を周期的に測定する段階であり、直前電圧値と直前電流値とを生成し、事前に設定された時間周期後、現在電圧値と現在電流値とを生成する段階と、
前記現在電流値と前記直前電流値との電流差を算出する段階と、
前記電流差が、第1臨界値以上であり、第2臨界値未満である場合、前記第1状態ベクトルと前記第1共分散行列とを更新し、前記電流差が、前記第2臨界値以上であり、第3臨界値未満である場合、前記第2状態ベクトルと前記第2共分散行列とを更新し、前記電流差が、前記第3臨界値以上であり、第4臨界値以下である場合、前記第3状態ベクトルと前記第3共分散行列とを更新する段階と、
前記第1Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を基に、第1健全状態点数を算出し、前記第2Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を基に、第2健全状態点数を算出し、前記第3Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を基に、第3健全状態点数を算出する段階と、
前記第1ないし前記第3健全状態点数を基に、前記バッテリの健全状態をリアルタイムで推定する段階と、を含み、
前記第1ないし前記第3Gパラメータは、前記バッテリの電流変化に対する電圧の感度を示すパラメータであり、前記第1ないし前記第3Hパラメータは、前記バッテリ内の局所平衡電位分布と抵抗分布とによって決定される有効電位を示すパラメータであるバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項15】
前記第1ないし前記第3健全状態点数が、最近の第1期間の間に保存されたか否かということを基に、健全状態チェック条件を検査する段階をさらに含むことを特徴とする請求項14に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項16】
前記バッテリの健全状態をリアルタイムで推定する段階は、
前記第1健全状態点数の第2期間の第1移動平均値を算出する段階と、
前記第2健全状態点数の前記第2期間の第2移動平均値を算出する段階と、
前記第3健全状態点数の前記第2期間の第3移動平均値を算出する段階と、
前記第1ないし前記第3移動平均値の平均を基に、前記バッテリの健全状態値を算出する段階と、を含むことを特徴とする請求項15に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項17】
前記第k状態ベクトルと前記第k共分散行列とを更新する段階(kは、1、2または3である)は、
前記現在電流値と、前記第k状態ベクトルの最近値とに基づき、前記バッテリの現在電圧推定値を算出する段階と、
前記現在電流値と、前記第k共分散行列の直前値とに基づき、利得行列と前記第k共分散行列とを更新する段階と、
前記現在電圧値と前記現在電圧推定値との電圧誤差を算出する段階と、
前記第k状態ベクトルの最近値、前記利得行列の現在値、及び前記電圧誤差に基づき、前記第k状態ベクトルを更新する段階と、を含むことを特徴とする請求項14に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【請求項18】
前記利得行列と前記第k共分散行列とを更新するとき、前記第kGパラメータに係わる第1忘却ファクタ、及び前記第kHパラメータに係わる第2忘却ファクタが適用されることを特徴とする請求項17に記載のバッテリ健全状態の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの健全状態(SOH:state of health)をリアルタイムで推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリは、他のエネルギー保存装置と比較し、適用容易性が高く、相対的に高いエネルギー、電力密度のような特性により、携帯用機器だけではなく、電気的駆動源によって駆動される電気車両(EV:electric vehicle)またはハイブリッド車両(HEV:hybrid electric vehicle)などに広範囲に適用されている。特に、高出力が必要である場合には、複数のバッテリを直列及び並列に連結したバッテリパックが使用されもする。
【0003】
バッテリまたはバッテリパックによって駆動される電気装置を、エネルギー効率的であって安全に利用するならば、バッテリ管理が重要であり、そのためには、バッテリ状態を正確に推定して診断することが必須である。現在広く使用される推定値には、バッテリ充電状態(SOC:state of charge)、バッテリ健全状態(SOH:state of health)、出力制限推定(PLE:power limit estimation)などがある。そのように、バッテリの状態を推定する技術を、バッテリ状態推定(BSE:battery state estimation)と言う。
【0004】
該健全状態は、バッテリ寿命状態、バッテリ老化状態、バッテリ劣化状態などとも称され、一般的に、バッテリの初期容量対比の現在容量の百分率として定義される。従来の健全状態推定方法と係わり、大きく見て、電流センサを利用し、放出された電荷量を測定することにより、実際のバッテリ容量を計算し、健全状態を推定する方法、開放回路電圧(OCV:open circuit voltage)・充電状態(SOC:state of charge)関係を活用し、健全状態を推定する方法、バッテリの抵抗成分やインピーダンスパラメータ値を追跡し、健全状態を推定する方法が知られている。しかし、そのような従来の方法は、バッテリ使用を中断しなければならなかったり、特定の条件または環境を合わせなければならなかったり、センサ誤差または推定エラーが累積したりするので、正確度を信頼することができないという問題が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来方法の弱点を克服し、使用中であるバッテリの電圧と電流とを測定した電圧値と電流値とを利用し、バッテリ状態をリアルタイムで正確に推定する方法を提供することである。本発明は、バッテリの内部状態を示すGパラメータとHパラメータとのうちGパラメータの値を追跡し、健全状態を推定する方法を提供する。本発明は、Gパラメータの値をリアルタイムで追跡し、バッテリ管理システム(BMS:battery management system)に搭載することができる健全状態推定アルゴリズムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によるバッテリ健全状態の推定方法は、使用中のバッテリの電圧及び電流を測定し、電圧値と電流値とを周期的に生成する段階と、適応型フィルタを利用し、前記電圧値と前記電流値とから、前記バッテリの現在状態を示すGパラメータの値、及びHパラメータの値をリアルタイムで更新する段階と、事前に設定された前記Gパラメータの初期値及び終了値、並びに前記Gパラメータの現在値を利用し、前記バッテリの健全状態をリアルタイムで推定する段階と、を含む。前記Gパラメータは、前記バッテリの電流変化に対する電圧の敏感度を示すパラメータであり、前記Hパラメータは、前記バッテリ内の局所平衡電位散布と抵抗分布とによって決定される有効電位を示すパラメータである。
一例によれば、前記バッテリの健全状態は、前記Gパラメータの終了値と、前記Gパラメータの初期値との差に対する、前記Gパラメータの終了値と、前記Gパラメータの現在値との差の百分率値を基にも推定される。
【0007】
他の例によれば、前記適応型フィルタは、再帰的最小自乗法(RLS:recursive least squares)を利用したフィルタでもある。
【0008】
さらに他の例によれば、前記バッテリ健全状態の推定方法は、前記Gパラメータと前記Hパラメータとからなる状態ベクトル、及び共分散行列を初期化する段階と、前記Gパラメータの初期値及び終了値を設定する段階と、をさらに含んでもよい。
【0009】
さらに他の例によれば、前記電圧値と前記電流値とを周期的に生成する段階は、直前電圧値と直前電流値とを生成する段階と、事前に設定された時間周期(time period)後、現在電圧値と現在電流値とを生成する段階と、を含んでもよい。
【0010】
さらに他の例によれば、前記バッテリ健全状態の推定方法は、前記現在電流値と前記直前電流値との電流差を算出する段階と、前記電流差を事前に設定された範囲と比較する段階と、をさらに含んでもよい。前記電流差が、前記事前に設定された範囲内に含まれる場合、前記現在電圧値と前記現在電流値とを利用し、前記Gパラメータの値、及び前記Hパラメータの値を更新することができる。前記電流差が、前記事前に設定された範囲を外れる場合、前記Gパラメータの値、及びHパラメータの値を更新しないのである。
【0011】
さらに他の例によれば、前記Gパラメータの値、及びHパラメータの値をリアルタイムで更新する段階は、前記現在電流値と、前記状態ベクトルの直前値とに基づき、前記バッテリの現在電圧推定値を算出する段階と、前記現在電流値と、前記共分散行列の直前値とに基づき、利得行列と前記共分散行列とを更新する段階と、前記現在電圧値と前記現在電圧推定値との電圧誤差を算出する段階と、前記状態ベクトルの直前値、前記利得行列の現在値、及び前記電圧誤差に基づき、前記状態ベクトルを更新することにより、前記Gパラメータの現在値、及び前記Hパラメータの現在値を生成する段階と、を含んでもよい。
【0012】
さらに他の例によれば、前記現在電圧推定値は、前記現在電流値と、前記Gパラメータの直前値との積に、前記Hパラメータの直前値を加算した値としても算出される。
【0013】
さらに他の例によれば、前記状態ベクトルの現在値は、前記状態ベクトルの直前値に、前記利得行列の現在値と、前記電圧誤差との積を加算した値としても算出される。
【0014】
さらに他の例によれば、前記利得行列と前記共分散行列とを更新するとき、前記Gパラメータに係わる第1忘却ファクタ(forgetting factor)、及び前記Hパラメータに係わる第2忘却ファクタが適用されうる。
【0015】
さらに他の例によれば、前記利得行列は、下記数式によっても算出される。
【0016】
【数1】
【0017】
前記共分散行列は、下記数式によっても算出される。
【0018】
【数2】
【0019】
ここで、L(t)は、前記利得行列の現在値であり、L(t-1)は、前記利得行列の直前値であり、P(t)は、前記共分散行列の現在値であり、P(t-1)は、前記共分散行列の直前値であり、I(t)は、前記現在電流値であり、λは、前記第1忘却ファクタであり、λは、前記第2忘却ファクタでもある。
【0020】
さらに他の例によれば、前記バッテリの健全状態をリアルタイムで推定する段階は、前記Gパラメータの前記初期値、前記終了値及び前記現在値を基に算出される前記バッテリの健全状態点数を保存する段階と、健全状態チェック条件を検査する段階と、前記健全状態点数を基に、前記バッテリの健全状態値を推定することができる。
【0021】
さらに他の例によれば、前記健全状態チェック条件は、前記健全状態点数が、最近の第1期間の間に保存されたか否かということを基にも設定される。前記バッテリの健全状態値は、前記健全状態点数の第2期間の移動平均値を基にも生成される。
【0022】
さらに他の例によれば、前記バッテリ健全状態の推定方法は、互いに重畳しない第1充放電率区間ないし第n充放電率区間(nは、自然数である)を設定する段階と、第1Gパラメータないし第n Gパラメータ、及び第1Hパラメータないし第n Hパラメータをそれぞれ含む第1状態ベクトルないし第n状態ベクトル、並びに第1共分散行列ないし第n共分散行列を初期化する段階と、前記第1Gパラメータないし第n Gパラメータそれぞれの初期値及び終了値を設定する段階と、直前電圧値と直前電流値とを生成し、事前に設定された時間周期後、現在電圧値と現在電流値とを生成する段階と、前記現在電流値と前記直前電流値との電流差を算出する段階と、前記電流差を、前記第1充放電率区間ないし第n充放電率区間それぞれと比較する段階と、前記第1Gパラメータないし第n Gパラメータそれぞれの初期値、終了値及び現在値を基に、第1健全状態点数ないし第n健全状態点数をそれぞれ算出する段階と、前記第1健全状態点数ないし第n健全状態点数を基に、前記バッテリの健全状態値をリアルタイムで推定する段階と、をさらに含んでもよい。
【0023】
さらに他の例によれば、前記電流差が、前記第1充放電率区間ないし第n充放電率区間のうち第j区間に属する場合(jは、n以下の任意の自然数である)、前記現在電圧値と前記現在電流値とを利用し、第j Gパラメータの値、及び第j Hパラメータの値を更新し、前記第j Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を利用し、前記バッテリの第j健全状態点数を算出することができる。
【0024】
さらに他の例によれば、前記第j Gパラメータの値、及び前記第j Hパラメータの値は、前記現在電流値と、第j状態ベクトルの直前値とに基づき、前記バッテリの現在電圧推定値を算出する段階と、前記現在電流値と、第j共分散行列の直前値とに基づき、利得行列と前記第j共分散行列とを更新する段階と、前記現在電圧値と前記現在電圧推定値との電圧誤差を算出する段階と、前記第j状態ベクトルの直前値、前記利得行列の現在値、及び前記電圧誤差に基づき、前記第j状態ベクトルを更新する段階と、を遂行することにより、リアルタイムに更新されうる。
【0025】
本発明の他の側面によるバッテリ健全状態の推定方法は、再帰的最小自乗法(RLS)フィルタに使用される第1状態ベクトルないし第3状態ベクトル、及び第1共分散行列ないし第3共分散行列を初期化する段階であり、前記第1状態ベクトルないし前記第3状態ベクトルは、それぞれ第1Gパラメータないし第3Gパラメータと、第1Hパラメータないし第3Hパラメータとからなる段階と、前記第1Gパラメータの初期値及び終了値、前記第2Gパラメータの初期値及び終了値、並びに前記第3Gパラメータの初期値及び終了値を設定する段階と、使用中のバッテリの電圧及び電流を周期的に測定する段階であり、直前電圧値と直前電流値とを生成し、事前に設定された時間周期後、現在電圧値と現在電流値とを生成する段階と、前記現在電流値と前記直前電流値との電流差を算出する段階と、前記電流差が第1臨界値以上であり、第2臨界値未満である場合、前記第1状態ベクトルと前記第1共分散行列とを更新し、前記電流差が、前記第2臨界値以上であり、第3臨界値未満である場合、前記第2状態ベクトルと前記第2共分散行列とを更新し、前記電流差が、前記第3臨界値以上であり、第4臨界値以下である場合、前記第3状態ベクトルと前記第3共分散行列とを更新する段階と、前記第1Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を基に、第1健全状態点数を算出し、前記第2Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を基に、第2健全状態点数を算出し、前記第3Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を基に、第3健全状態点数を算出する段階と、前記第1健全状態点数ないし前記第3健全状態点数を基に、前記バッテリの健全状態をリアルタイムで推定する段階と、を含む。
【0026】
一例によれば、前記バッテリ健全状態の推定方法は、前記第1健全状態点数ないし前記第3健全状態点数が、最近の第1期間の間に保存されたか否かということを基に、健全状態チェック条件を検査する段階をさらに含んでもよい。
【0027】
他の例によれば、前記バッテリの健全状態をリアルタイムで推定する段階は、前記第1健全状態点数の第2期間の第1移動平均値を算出する段階と、前記第2健全状態点数の前記第2期間の第2移動平均値を算出する段階と、前記第3健全状態点数の前記第2期間の第3移動平均値を算出する段階と、前記第1移動平均値ないし前記第3移動平均値の平均を基に、前記バッテリの健全状態値を算出する段階と、を含んでもよい。
【0028】
さらに他の例によれば、前記第k状態ベクトルと前記第k共分散行列とを更新する段階(kは、1、2または3である)は、前記現在電流値と、前記第k状態ベクトルの最近値とに基づき、前記バッテリの現在電圧推定値を算出する段階と、前記現在電流値と、前記第k共分散行列の直前値とに基づき、利得行列と前記第k共分散行列とを更新する段階と、前記現在電圧値と前記現在電圧推定値との電圧誤差を算出する段階と、前記第k状態ベクトルの最近値、前記利得行列の現在値、及び前記電圧誤差に基づき、前記第k状態ベクトルを更新する段階と、を含んでもよい。
さらに他の例によれば、前記利得行列と前記第k共分散行列とを更新するとき、前記第k Gパラメータに係わる第1忘却ファクタ、及び前記第k Hパラメータに係わる第2忘却ファクタが適用されうる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の多様な実施形態によるバッテリ健全状態(SOH)推定方法は、コスト、拡張性、適応性の側面において、従来の方法に比べ、大きく改善されたものである。既存の複雑なバッテリモデル基盤の健全状態推定方法は、BMSへの適用に複雑であったり、リアルタイムで健全状態を求めることができなかったりする方法であるが、本発明による健全状態推定方法は、アルゴリズム形態でBMSに搭載することができる。それだけではなく、それ以外の従来の方法は、電流/電圧運転データが、特定運転条件に限定されるが、本発明は、Cレート区間の個数と範囲とを柔軟に拡張することができるために、いかなる運転条件においても、健全状態を求めることができる。また、従来の方法は、電流センサの正確度が、健全状態推定正確度に大きく影響を及ぼし、劣化が進むにつれ、誤差がだんだんと累積されるが、本発明は、適応型フィルタを使用して求めたリアルタイムパラメータ値を利用することにより、誤差累積がないリアルタイム推定が可能である。特に、本発明は、バッテリのセルレベルだけではなく、パックレベルやシステムレベルにおいても、汎用的に使用可能であり、バッテリの使用履歴によって劣化量が異なるパターン従属(pattern-dependent)劣化までも、いずれもリアルタイムで反映させ、正確に健全状態を推定することができる。
【0030】
本発明の多様な実施形態によれば、使用中のバッテリの電圧と電流とを測定した電圧値と電流値とを利用し、簡単な演算で健全状態をリアルタイムで正確に推定することができる。バッテリの電圧データ及び電流データだけ使用されるので、ハードウェア構成が簡単であり、バッテリの健全状態を推定する演算過程が複雑ではないために、バッテリパックのBMSに使用されるマイクロプロセッサでもバッテリの健全状態をリアルタイムで正確に推定することができる。また、健全状態を推定する演算に必要なデータの量が多くないから、小さなメモリー容量でも本発明による健全状態推定方法が遂行されうる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】一実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法を遂行するためのバッテリシステムの概略的な構成図である。
図2】一実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法のフローチャートである。
図3】他の実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法のフローチャートである。
図4】さらに他の実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法のフローチャートである。
図5】本発明の、バッテリ健全状態の推定方法を実施した結果であり、第1Gパラメータないし第3Gパラメータの値を表示したグラフである。
図6図5に図示された第1Gパラメータないし第3Gパラメータの値を基に算出された第1健全状態点数ないし第3健全状態点数を表示したグラフである。
図7図6のA部分を拡大したグラフである。
図8図6に図示された第1健全状態点数ないし第3健全状態点数を基に推定された健全状態値を表示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の利点、特徴、及びそれらを達成する方法は、添付図面と共に詳細に説明される実施形態を参照すれば、明確になるであろう。しかし、本発明は、以下で提示される実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態にも具現され、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変換、均等物ないし代替物を含むと理解されなければならない。以下に提示される実施形態は、本発明の開示を完全なものにし、本発明が属する技術分野において当業者に,発明の範疇を完全に知らせるために提供されるのである。本発明の説明において、関連公知技術に係わる具体的な説明が、本発明の要旨を不明確にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0033】
本出願で使用された用語は、単に特定実施形態についての説明に使用されたものに過ぎず、本発明を限定する意図ではない。単数の表現は、文脈上、明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本出願において、「含む」または「有する」というような用語は、明細書上に記載された特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、またはそれの組み合わせが存在するということを指定するものであり、1またはそれ以上の他の特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、またはそれら組み合わせの存在または付加の可能性を事前に排除するものではないと理解されなければならない。第1、第2のような用語は、多様な構成要素についての説明に使用されうるが、該構成要素は、前記用語によって限定されるものではない。前記用語は、1つの構成要素を他の構成要素から区別する目的のみに使用される。
【0034】
以下、本発明による実施形態につき、添付図面を参照し、詳細に説明することにするが、添付図面を参照しての説明において、同一であるか、あるいは対応する構成要素は、同一図面番号を付し、それに係わる重複説明は、省略する。
【0035】
図1は、一実施形態による、バッテリ健全状態(SOH:state of health)の推定方法を遂行するためのバッテリシステムの概略的な構成図を図示する。
【0036】
図1を参照すれば、バッテリシステム100は、バッテリ110、電圧測定部120、電流測定部130、マイクロプロセッサ140及び保存部150を含んでもよい。
【0037】
バッテリ110は、電力を保存する部分であり、少なくとも1つのバッテリセルを含む。バッテリ110は、複数のバッテリセルを含んでもよく、該バッテリセルは、直列に連結されるか、並列に連結されるか、あるいは直列と並列との組み合わせにも連結される。該バッテリセルは、充電可能な二次電池を含んでもよい。例えば、該バッテリセルは、ニッケル・カドミウム電池(nickel-cadmium battery)、鉛蓄電池、ニッケル・水素電池(NiMH:nickel metal hydride battery)、リチウム・イオン電池(lithium ion battery)、リチウムポリマー電池(lithium polymer battery)などを含んでもよい。バッテリ110に含まれるバッテリセルの個数は、要求される出力電圧によっても決定される。
【0038】
図1には、1つのバッテリ110が図示されるが、複数のバッテリ110が、並列及び/または直列にも接続され、外部端子を介し、負荷及び/または充電装置にも連結される。図1に図示されていないが、バッテリ110は、負荷及び/または充電装置に連結されて使用されている。すなわち、バッテリ110は、負荷に電流を放電しているか、あるいは充電装置から電力を充電している。
【0039】
電圧測定部120は、使用中のバッテリ110の両端子に連結され、バッテリ110の電圧を測定し、電圧値を周期的に生成することができる。例えば、電圧測定部120は、事前に設定された時間周期(time period)Δtでバッテリ110の両端子電圧を測定することができる。現在または最近に測定された電圧値は、現在電圧値と称され、V(t)と表示する。時間周期Δt前に測定された電圧値は、直前電圧値と称され、V(t-1)と表示する。時間周期Δtは、例えば、1秒でもある。しかし、それは例示的なものであり、時間周期Δtは、他の時間、例えば、0.1秒、0.5秒、2秒、5秒または10秒などにも設定される。時間周期Δtは、バッテリシステム100に連結される電気システムによっても適切に設定される。
【0040】
図1には、電圧測定部120が、バッテリ110の両端子電圧を測定するように図示されているが、バッテリ110が、複数のバッテリセル、複数のバッテリモジュール、または複数のバッテリパックによって構成される場合、電圧測定部120は、それぞれのバッテリセル、それぞれのバッテリモジュール、またはそれぞれのバッテリパックの両端子電圧をそれぞれ測定することもできる。
【0041】
電流測定部130は、使用中のバッテリ110の電流を測定し、電流値を周期的に生成することができる。電圧測定部120と電流測定部130は、互いに同期化され、互いに同一時点において、バッテリ110の電圧と電流とをそれぞれ測定することができる。電流測定部130も、時間周期Δtにおいて、バッテリ110の電流を測定することができる。電流測定部130が測定した電流値は、充電電流であるとき、正(+)にも表示され、放電電流であるとき、負(-)にも表示される。現在または最近に測定された電流値を、現在電流値と称し、I(t)と表示し、時間周期Δt前に測定された電流値を、直前電流値と称し、I(t-1)と表示する。
【0042】
マイクロプロセッサ140は、電圧測定部120が提供する電圧値、及び電流測定部130が提供する電流値から、バッテリの現在状態を示すGパラメータの値、及びHパラメータの値をリアルタイムで更新することができる。ここで、該Gパラメータは、使用中のバッテリ110の電流変化に対する電圧の敏感度を示すパラメータであり、Hパラメータは、使用中のバッテリ110内の局所平衡電位散布と抵抗分布とによって決定される有効電位を示すパラメータである。
【0043】
マイクロプロセッサ140は、電圧値と電流値とから、Gパラメータの値、及びHパラメータの値を生成するのに、適応型フィルタを利用することができる。該適応型フィルタは、再帰的最小自乗法(RLS:recursive least squares)を利用したフィルタ、または加重最小自乗法(WLS:weighted least squares)を利用したフィルタでもある。以下においては、マイクロプロセッサ140が、再帰的最小自乗法(RLS)を利用した適応型フィルタを利用する実施形態について説明する。
【0044】
マイクロプロセッサ140は、リアルタイムに生成されるGパラメータの値、及びHパラメータの値を利用し、バッテリ110の状態をリアルタイムで推定することができる。本発明によれば、マイクロプロセッサ140は、Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を利用し、バッテリ110の健全状態(SOH)をリアルタイムで推定することができる。Gパラメータの初期値と終了値は、事前に設定された値でもある。Gパラメータの現在値は、適応型フィルタを利用し、電圧値と電流値とからリアルタイムに生成されうる。
【0045】
マイクロプロセッサ140は、バッテリ健全状態をリアルタイムで推定するのに四則演算程度の簡単な演算だけを使用するために、バッテリパックのバッテリ管理システム(BMS:battery management system)内にも含まれる。他の例によれば、本発明によるバッテリ健全状態の推定方法は、電気自動車のバッテリ管理システム(BMS)内のマイクロコントローラまたはECU(electronic control unit)によっても遂行される。さらに他の例によれば、本発明によるバッテリ健全状態の推定方法は、エネルギー保存システムの統合コントローラによっても遂行される。さらに他の例によれば、本発明によるバッテリ健全状態の推定方法は、バッテリシステムまたはエネルギー保存システムと通信で連結されるサーバのプロセッサによっても遂行される。
【0046】
保存部150は、マイクロプロセッサ140が、本実施形態による健全状態推定方法を遂行するために必要な命令語及びデータを保存することができる。本実施形態による推定方法は、時間周期Δtごとに生成される電圧値と電流値とを基に、Gパラメータの値、及びHパラメータの値を生成し、Gパラメータの現在値を利用し、バッテリ110の健全状態を推定するために、保存部150には、現在電圧値、現在電流値及び直前電流値が保存され、それ以外の電圧データ及び電流データは、保存部150には保存されないのである。すなわち、保存部150に、多量の電圧データ及び電流データが保存される必要がない。
【0047】
本実施形態による健全状態推定方法によれば、保存部150には、Gパラメータの初期値及び終了値、GパラメータとHパラメータとからなる状態ベクトルの直前値及び現在値、並びに再帰的最小自乗法(RLS)の演算に必要な共分散行列の直前値と現在値とが保存されうる。また、保存部150には、Gパラメータの初期値、終了値及び現在値を基に算出される健全状態点数が保存されうる。一例によれば、事前に設定された期間の間、健全状態点数が保存部150に保存されうる。従って、保存部150には、多量の命令語及びデータが保存される必要がないために、小サイズのメモリによっても具現される。例えば、保存部150は、マイクロプロセッサ140内のメモリによっても具現される。
【0048】
バッテリ健全状態は、バッテリ寿命状態、バッテリ老化状態、バッテリ劣化状態などとも称され、一般的に、バッテリの初期容量対比の現在容量の百分率と定義される。従来には、電流センサを利用し、放出された電荷量を測定することにより、実際のバッテリ容量を計算し、健全状態を推定する方法、開放回路電圧(OCV:open circuit voltage)・充電状態(SOC:state of charge)関係を活用し、健全状態を推定する方法、バッテリの抵抗成分やインピーダンスパラメータ値を追跡し、健全状態を推定する方法が使用された。しかしながら、そのような従来方法は、バッテリを使用中断しなければならなかったり、特定条件または環境を合わせなければならなかったり、センサ誤差または推定エラーが累積するので、正確度を信頼することができなかったりするという問題が存在する。
【0049】
電流センサを使用して放出された電荷量を測定し、実際のバッテリ容量を計算することにより、健全状態を推定する方法は、バッテリの容量を計算するために、バッテリの使用を中断しなければならない。また、バッテリの初期容量を測定した環境と同一環境において、現在容量を測定しなければならない。すなわち、現在容量を測定するとき、初期容量を測定するときの温度と充放電量とを同一に合わせなければならない。しかしながら、実際のバッテリ使用環境において、バッテリ使用を中断したり、特定環境を合わせ、現在容量を計算したりすることは、バッテリシステムに負担になる方法である。また、そのような方法は、電流センサの正確度が、健全状態推定の正確度に直接影響を及ぼすことになる。
【0050】
開放回路電圧(OCV)・充電状態(SOC)関係を活用し、健全状態を推定する方法は、リアルタイムで充電状態(SOC)を直接測定し難いために、測定可能なデータ(例えば、開放回路電圧(OCV))を介して充電状態(SOC)を推定し、推定された充電状態(SOC)を基に健全状態を推定する。しかしながら、そのように、充電状態(SOC)推定値に基づいて健全状態を推定する方法は、測定誤差と、充電状態(SOC)の推定誤差とがそのまま健全状態推定に反映されるので、健全状態推定値の正確度に大きい問題が生じうる。開放回路電圧(OCV)・充電状態(SOC)関係を活用する方法は、バッテリが特定充電状態(SOC)条件で運転してこそ、健全状態を推定することができるために、健全状態を一定周期で推定することができない。
【0051】
バッテリの抵抗成分やインピーダンスパラメータ値を追跡し、健全状態を推定する方法は、バッテリの正常使用を中断し、バッテリに交流電源のような特定充放電運転波形を印加し、バッテリ内部パラメータ値を得て、そのようなパラメータ値を追跡し、健全状態を推定する。従って、バッテリの正常運転を中断しなければならず、さらに正確なパラメータ値を得るためには、付加的な運転条件が充足されなければならない。また、そのように得られたパラメータ値を基に健全状態を正確に推定するためには、高度のバッテリモデルが必要であるので、複雑な補正計算をリアルタイムで行うことができないバッテリ管理システム(BMS)で実行され難い。
【0052】
ルックアップテーブル基盤で健全状態を推定する方法もあるが、その方法は、適応性が落ちる。バッテリは、使用パターンによって劣化特性が異なる。それを、パターン従属(pattern-dependent)劣化と言うが、バッテリの測定可能な変数(例えば、電圧、電流、温度)と、バッテリ健全状態を示すパラメータとの関係が、使用パターンによって変わるためである。しかしながら、事前実験を介し、ルックアップテーブルを完成しておけば、使用パターン特性を反映させ難い。パターン従属劣化を反映させるためには、事前に全ての使用パターン特性について実験を行うか、あるいは当該特性を予測し、バッテリモデルに事前に反映させておかなければならない。しかしながら、前者は、コスト上昇の問題があり、後者は、バッテリモデルが複雑になり、事前に当該特性を正確に予測することができなければ、バッテリ健全状態推定の信頼度が下がってしまう。
【0053】
本発明は、従来の健全状態推定方法の問題点を克服するために、バッテリ内部パラメータであるGパラメータとHパラメータとのうちGパラメータの値を追跡し、健全状態をリアルタイムで正確に推定する方法を提示する。本発明による健全状態推定方法は、バッテリ管理システム(BMS)で実行されうるほどに、比較的簡単に具現され、さらなる運転条件なしにも、高い正確度を有することができる。
【0054】
該Gパラメータは、使用中のバッテリの印加電流変化に係わる端子電圧の敏感度を示す状態量であり、抵抗の単位を有する。該Hパラメータは、使用中のバッテリ内の局所平衡電位散布と抵抗分布とによって決定される有効電位である。バッテリのGパラメータとHパラメータは、理論モデルを利用し、バッテリ素材物性と設計変数との明示的な相関式によって定量化することができる。以下において、バッテリのGパラメータとHパラメータとについて説明する。
【0055】
バッテリにおいて、電圧Vと電流iとが、V=f(i;x,p)のような関係を有すると仮定することができる。ここで、xは、バッテリの内部状態を示す物理量であり、pは、パラメータである。
【0056】
関数fは、非線形負関数(nonlinear implicit function)であり、もし関数fを、早く変化する量gと、徐々に変化する量hとで分離することができるならば、前述の関係式は、V=g(i;x,p)+h(i;x,p)のように表現することができる。
【0057】
もし電流iにつき、徐々に変わるG(i;x,p)=dg/diという関数が存在すると仮定すれば、前述の関係式は、V=G(i;x,p)i+H(i;x,p)のようにも表現される。
【0058】
前述の関係式において、dG/diとdH/diは、非常に小さい値を有する。言い換えれば、前述の仮定が満足されれば、GとHとが電流iに対して遅く変わる関数であるので、電圧Vと電流iとの非線形的関係を示す関数fは、前述の関係式のように、準線形関係によっても表現される。
【0059】
ここで、Gは、Gパラメータとも称され、Hは、Hパラメータとも称される。電流iが充放電電流であり、Ueqがバッテリの平衡電位であるとすれば、放電過電圧は、GパラメータGとHパラメータHとを利用し、Ueq-V=-G・i+(Ueq-H)のようにも表現される。
【0060】
ここで、-G・iは、バッテリが、端子を介して電流を流すために発生する過電圧であり、反応動力学的分極量と、電子及びイオンの抵抗分極量とを含む。(Ueq-H)は、バッテリの局所的な熱力学的平衡状態が、全体システムの平衡状態から外れていることによって生じる過電圧である。すなわち、(Ueq-H)は、バッテリ内部の熱力学的不均一によって生じる非効率を示し、バッテリの内部システムが、熱力学的な平衡状態に至ることになれば、HパラメータHは、平衡電位Ueqと同じになる。
【0061】
本発明の実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法は、例えば、再帰的最小自乗法(RLS)を利用し、バッテリで測定された電圧値と電流値とから、直接GパラメータGとHパラメータHとを抽出し、GパラメータGを追跡することにより、バッテリの健全状態を推定するのである。
【0062】
図2は、一実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法のフローチャートを図示する。
【0063】
図1と共に図2を参照すれば、マイクロプロセッサ140は、再帰的最小自乗法(RLS)を利用し、図2に図示されたバッテリ健全状態の推定方法を遂行することができる。
本実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法によれば、状態ベクトル
【0064】
【数3】
【0065】
及び共分散行列P(t)が使用されうる。
【0066】
【数4】
【0067】
共分散行列P(t)は、第1値P(t)と第2値P(t)とからなり、
【0068】
【数5】
【0069】
のようにも定義される。
【0070】
バッテリ110の電圧値V(t)及び電流値I(t)が、時間周期Δtごとに生成され、状態ベクトル
【0071】
【数6】
【0072】
及び共分散行列P(t)も、再帰的方法により、時間周期Δtごとに更新される。
【0073】
【数7】
【0074】
も、やはり時間周期Δtごとに更新される。
【0075】
本実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法によれば、マイクロプロセッサ140は、状態ベクトル
【0076】
【数8】
【0077】
及び共分散行列P(t)を初期化することができる(S110)。
【0078】
【数9】
【0079】
本例において、状態ベクトル
【0080】
【数10】
【0081】
の元素と、共分散行列P(t)の元素とがいずれも1に初期化されたが、それは、例示的であり、他の値にも初期化される。
【0082】
マイクロプロセッサ140は、Gパラメータ
【0083】
【数11】
【0084】
の初期値Gと終了値Gとを設定することができる(S120)。初期値Gは、健全状態が100であるバッテリのGパラメータ値であり、終了値Gは、健全状態が0であるバッテリのGパラメータ値である。初期値Gと終了値Gは、それぞれ、健全状態が100であるバッテリと、健全状態が0であるバッテリとにつき、実験を介して事前に得ることができる。他の例によれば、初期値Gは、健全状態が100であるバッテリにつき、実験を介して事前に得て、終了値Gは、本発明の、バッテリ健全状態の推定方法を遂行しながら、バッテリの実際健全状態と、本発明によって推定した健全状態との誤差が最小化されるように補正することによっても算出される。
【0085】
マイクロプロセッサ140は、電圧測定部120及び電流測定部130を利用し、バッテリ110の電圧及び電流を測定し、電圧値及び電流値を、周期的、例えば、時間周期Δtごとに生成する(S130)。マイクロプロセッサ140は、直前電圧値V(t-1)と直前電流値I(t-1)とを生成し、時間周期Δt後、現在電圧値V(t)と現在電流値I(t)とを生成することができる。
【0086】
マイクロプロセッサ140は、再帰的最小自乗法(RLS)を利用し、電圧値及び電流値から、Gパラメータ
【0087】
【数12】
【0088】
の現在値をリアルタイムで生成することができる(S140)。本発明によるバッテリ健全状態の推定方法によれば、マイクロプロセッサ140は、時間周期Δtごとに受信される現在電圧値V(t)と現在電流値I(t)とにより、
【0089】
【数13】
【0090】
を、時間周期Δtごとに更新することができる。
【0091】
マイクロプロセッサ140は、現在電流値I(t)と、状態ベクトルの直前値
【0092】
【数14】
【0093】
とに基づき、バッテリ110の現在電圧推定値
【0094】
【数15】
【0095】
を算出することができる。状態ベクトルの直前値
【0096】
【数16】
【0097】
は、時間周期Δt前、直前電圧値V(t-1)及び直前電流値I(t-1)を基に算出され、Gパラメータの直前値
【0098】
【数17】
【0099】
と、Hパラメータの直前値
【0100】
【数18】
【0101】
とからなる。バッテリ110の現在電圧推定値
【0102】
【数19】
【0103】
は、現在電流値I(t)と、Gパラメータの直前値
【0104】
【数20】
【0105】
との積に、Hパラメータの直前値
【0106】
【数21】
【0107】
を加算した値であり、
【0108】
【数22】
【0109】
のようにも算出される。
【0110】
マイクロプロセッサ140は、現在電流値I(t)と、共分散行列の直前値P(t-1)とに基づき、利得行列L(t)を更新することができる。共分散行列の直前値P(t-1)は、時間周期Δt前、直前電圧値V(t-1)及び直前電流値I(t-1)を基に算出され、共分散行列P(t)の定義により、共分散行列の第1直前値P(t-1)と、共分散行列の第2直前値P(t-1)とからなる。
【0111】
利得行列L(t)は、状態ベクトル
【0112】
【数23】
【0113】
と共分散行列P(t)とを更新するとに使用される。利得行列L(t)は、利得行列の第1値L(t)と利得行列の第2値L(t)とからなり、次のようにも算出される。
【0114】
【数24】
【0115】
ここで、λは、第1忘却ファクタ(forgetting factor)であり、Gパラメータに係わる。λは、第2忘却ファクタであり、Hパラメータに係わる。第1忘却ファクタλと第2忘却ファクタλは、それぞれ
【0116】
【数25】
【0117】
の算出において、過去の電圧値及び電流値が、
【0118】
【数26】
【0119】
とに及ぼす影響を表示した値である。第1忘却ファクタλと第2忘却ファクタλは、1に近いほど、長時間の間、
【0120】
【数27】
【0121】
とに及ぼす影響を与え、0に近いほど短時間の間だけ影響を与える。
【0122】
一例によれば、第1忘却ファクタλと第2忘却ファクタλは、0.9以上1以下でもある。他の例によれば、第1忘却ファクタλは、第2忘却ファクタλより大きいか、あるいはそれと同じ値にも設定される。例えば、第1忘却ファクタλは、0.99999にも設定され、第2忘却ファクタλは、0.95にも設定される。そのような設定値は、バッテリ110の特性によっても異なる。
【0123】
本発明の発明者らは、特定バッテリについて行った実験において、第1忘却ファクタλと第2忘却ファクタλとが、それぞれ0.99999と0.95とであるとき、高信頼度の結果が導き出されたことを見出した。しかし、前述の数値は、例示的なものであり、バッテリ110の特性により、他の値にも設定される。例えば、第1忘却ファクタλは、0.9999にも設定され、第2忘却ファクタλは、0.98にも設定される。
【0124】
他の例において、第1忘却ファクタλと第2忘却ファクタλは、いずれも1に設定される。その場合、第1忘却ファクタλと第2忘却ファクタλが適用されないと見ることができる。
【0125】
マイクロプロセッサ140は、現在電流値I(t)、利得行列L(t)、及び共分散行列の直前値P(t-1)に基づき、共分散行列P(t)を更新することができる。共分散行列P(t)は、次のようにも算出される。
【0126】
【数28】
【0127】
マイクロプロセッサ140は、現在電圧値V(t)と、前述のところで算出した現在電圧推定値
【0128】
【数29】
【0129】
との電圧誤差e(t)を、
【0130】
【数30】
【0131】
のように算出することができる。
【0132】
マイクロプロセッサ140は、状態ベクトルの直前値
【0133】
【数31】
【0134】
、利得行列の現在値L(t)、及び電圧誤差e(t)に基づき、状態ベクトル
【0135】
【数32】
【0136】
を更新することができる。状態ベクトル
【0137】
【数33】
【0138】
が更新されることにより、Gパラメータの現在値
【0139】
【数34】
【0140】
、及びHパラメータの現在値
【0141】
【数35】
【0142】
が生成される。
【0143】
状態ベクトルの現在値
【0144】
【数36】
【0145】
は、状態ベクトルの直前値
【0146】
【数37】
【0147】
に、利得行列の現在値L(t)と、電圧誤差e(t)との積を加算した値であり、下記のようにも算出される。
【0148】
【数38】
【0149】
状態ベクトル
【0150】
【数39】
【0151】
を再帰的に表現する、前述の数式は、次のようにも導出される。
【0152】
まず、第1忘却ファクタλと第2忘却ファクタλが適用された損失関数(loss-function)εは、次のように定義される。
【0153】
【数40】
【0154】
ここで、V(i)は、i番目電圧値であり、I(i)は、i番目電流値である。V(t)とI(t)は、それぞれ現在電圧値と現在電流値とであり、V(t-1)とI(t-1)は、それぞれ直前電圧値と直前電流値とである。
【0155】
G(i)とH(i)は、それぞれi番目Gパラメータとi番目Hパラメータとの実際値であり、
【0156】
【数41】
【0157】
は、それぞれGパラメータの現在値推定値と、Hパラメータの現在値推定値とを意味する。
【0158】
損失関数εを、
【0159】
【数42】
【0160】
とにつき、それぞれ微分した結果が0になるとき、
【0161】
【数43】
【0162】
とにつき、損失関数εが最小になる。
【0163】
損失関数εを
【0164】
【数44】
【0165】
につき、それぞれ微分した結果が0になる
【0166】
【数45】
【0167】
を求めれば、次の通りである。
【0168】
【数46】
【0169】
前述の数式を整理すれば、
【0170】
【数47】
【0171】
は、次の通りである。
【0172】
【数48】
【0173】
損失関数εを、
【0174】
【数49】
【0175】
につき、それぞれ微分した結果が0になる
【0176】
【数50】
【0177】
を求めれば、次の通りである。
【0178】
【数51】
【0179】
リアルタイム推定のために、前述のところで求めた
【0180】
【数52】
【0181】
を、状態ベクトル
【0182】
【数53】
【0183】
を利用し、再帰的な形態で整理すれば、次の通りである。
【0184】
【数54】
【0185】
現在電圧推定値
【0186】
【数55】
【0187】
と定義され、電圧誤差e(t)は、
【0188】
【数56】
【0189】
と定義されるので、状態ベクトル
【0190】
【数57】
【0191】
は、前述のように、下記のようにも表現される。
【0192】
【数58】
【0193】
ここで、利得行列L(t)と共分散行列P(t)は、それぞれ前述のように、下記のように算出される。
【0194】
【数59】
【0195】
本実施形態のバッテリ健全状態の推定方法は、再帰的方法を利用するので、保存部150には、現在電圧値V(t)、現在電流値I(t)、状態ベクトル
【0196】
【数60】
【0197】
及び共分散行列P(t)ほどだけ保存されうる。マイクロプロセッサ140は、保存部150に保存された状態ベクトル
【0198】
【数61】
【0199】
を介し、Gパラメータの現在値
【0200】
【数62】
【0201】
をリアルタイムで生成することができる。他の例によれば、保存部150には、第1忘却ファクタλと第2忘却ファクタλとがさらに保存されうる。保存部150には、過去の電圧値と電流値とがいずれも保存される必要がない。
【0202】
図2に図示されたバッテリ健全状態の推定方法は、再帰的方法を利用するために、演算が非常に簡単なだけではなく、数kBレベルの小サイズの保存部150によっても、演算が可能である。さらには、電圧値と電流値とが受信されるたびに、状態ベクトル
【0203】
【数63】
【0204】
と共分散行列P(t)とを新たに更新するので、バッテリ110の電圧変動及び電流変動が、実質的にリアルタイムで、
【0205】
【数64】
【0206】
とにも反映される。
【0207】
マイクロプロセッサ140は、段階(S120)で設定されたGパラメータの初期値G及び終了値G、並びに段階(S140)で生成されたGパラメータの現在値
【0208】
【数65】
【0209】
を利用し、バッテリ110の健全状態をリアルタイムで推定することができる(S150)。マイクロプロセッサ140は、Gパラメータの終了値Gと、Gパラメータの初期値Gとの差(G-G)に対する、Gパラメータの終了値Gと、前記Gパラメータの
【0210】
【数66】
【0211】
を基に、バッテリ110の健全状態を推定することができる。一例によれば、バッテリ110の健全状態値は、百分率値
【0212】
【数67】
【0213】
としても算出される。他の例によれば、百分率値
【0214】
【数68】
【0215】
を健全状態点数と定義し、現在から所定期間までの健全状態点数平均を基に、バッテリ110の健全状態値を推定することができる。ここで、該所定期間は、1週、2週、3週、4週、8週、12週のような期間でもある。そのように算出された平均は、所定期間の移動平均とも称される。さらに他の例によれば、現在に近い健全状態点数であればあるほど、高い加重値を付与し、健全状態点数を取得した時間が過去であればあるほど、低い加重値を付与する加重移動平均を基に、バッテリ110の健全状態値を推定することもできる。
【0216】
マイクロプロセッサ140は、バッテリ110の電圧値V(t)と電流値I(t)とを測定する時間周期Δtごとに、段階(S130)~段階(S150)を反復的に遂行することができる。一例によれば、マイクロプロセッサ140は、時間周期Δtごとに、段階(S120)で設定されたGパラメータの初期値G及び終了値G、並びに段階(S140)で生成されたGパラメータの現在値
【0217】
【数69】
【0218】
を基に、バッテリ110の健全状態点数を算出し、健全状態点数を、保存部150に保存することができる。マイクロプロセッサ140は、保存部150に、所定期間の間に保存された健全状態点数を基に、バッテリ110の健全状態値を推定することができる。例えば、マイクロプロセッサ140は、健全状態点数を統計処理し、健全状態値を算出することができる。例えば、移動平均または加重移動平均が使用されうる。
【0219】
図3は、他の実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法のフローチャートを図示する。
【0220】
図3のバッテリ健全状態の推定方法の一部段階は、図2のバッテリ健全状態の推定方法と実質的に同一である。それらについては、反復して説明しない。図3に図示されたバッテリ健全状態の推定方法は、図1のマイクロプロセッサ140によっても遂行される。
【0221】
図1ないし図3を参照すれば、マイクロプロセッサ140は、状態ベクトル
【0222】
【数70】
【0223】
及び共分散行列を初期化することができる(S210)。
【0224】
【数71】
【0225】
共分散行列P(t)は、第1値P(t)と第2値P(t)とを含む。例えば、
【0226】
【数72】
【0227】
も初期化され、共分散行列P(t)は、
【0228】
【数73】
【0229】
のようにも初期化される。状態ベクトル
【0230】
【数74】
【0231】
と共分散行列P(t)との全ての元素が、例示的に1に初期化されたが、例えば、0のような他の値にも初期化され、互いに異なる値にも初期化される。
【0232】
マイクロプロセッサ140は、Gパラメータ
【0233】
【数75】
【0234】
の初期値Gと終了値Gとを設定することができる(S220)。段階(S220)は、段階(S210)より先にも遂行される。初期値Gと終了値Gは、管理者によって入力されるか、あるいはマイクロプロセッサ140の演算によっても獲得され、外部から受信することもできる。初期値Gは、健全状態が100であるバッテリのGパラメータ値に対応し、終了値Gは、健全状態が0であるバッテリのGパラメータ値に対応する。
【0235】
マイクロプロセッサ140は、バッテリ110の電圧及び電流を測定し、電圧値及び電流値を、例えば、時間周期Δtごとに生成することができる(S230)。例えば、直前電圧値V(t-1)と直前電流値I(t-1)とが生成され、時間周期Δt後、現在電圧値V(t)と現在電流値I(t)とが生成されうる。図3のバッテリ健全状態の推定方法は、再帰的最小自乗法(RLS)を利用するので、
【0236】
【数76】
【0237】
も、やはり再帰的方法により、時間周期Δtごとに更新される。
【0238】
マイクロプロセッサ140は、現在電流値I(t)と直前電流値I(t-1)との電流差ΔIを算出することができる(S240)。一例によれば、電流差ΔIは、現在電流値I(t)から直前電流値I(t-1)を減算した値(すなわち、I(t)-I(t-1))でもある。他の例によれば、電流差ΔIは、現在電流値I(t)と直前電流値I(t-1)との差、すなわち、現在電流値I(t)から直前電流値I(t-1)を減算した値の絶対値(すなわち、|I(t)-I(t-1)|)でもある。電流差ΔIを算出するために、保存部150は、直前電流値I(t-1)を保存することができる。
【0239】
マイクロプロセッサ140は、電流差ΔIを、所定範囲と比較することができる(S250)。該所定範囲は、下限値と上限値とによっても定義され、管理者によっても事前に設定される。マイクロプロセッサ140は、電流差ΔIに対し、下限値と上限値との範囲に含まれるか否かということが判断されうる。該所定範囲は、バッテリシステム100の充放電電流パターンによっても設定される。該下限値と該上限値は、バッテリシステム100の充放電率を基準にも設定される。例えば、該下限値は、0.2Cにも設定され、該上限値は、1Cにも設定される。
【0240】
電流差ΔIが過度に小さいか、あるいは過度に大きい場合、再帰的方法により、電圧値と電流値とのセンシング誤差が、
【0241】
【数77】
【0242】
とに大きい偏差を引き起こす。該所定範囲は、高正確度の健全状態値の算出に適切な大きさを有することができる。電流差ΔIが所定範囲内に含まれる場合、段階(S260)に進み、現在電圧値V(t)と現在電流値I(t)とを基に、状態ベクトル
【0243】
【数78】
【0244】
と共分散行列P(t)とを更新することができる。しかしながら、電流差ΔIが所定範囲を外れる場合、段階(S230)に進み、時間周期Δt後の電圧値及び電流値を生成することができる。すなわち、電流差ΔIが所定範囲を外れる場合、状態ベクトル
【0245】
【数79】
【0246】
と共分散行列P(t)は、更新されず、現在電圧値V(t)と現在電流値I(t)は、状態ベクトル
【0247】
【数80】
【0248】
と共分散行列P(t)とに影響を及ぼさない。
【0249】
マイクロプロセッサ140は、再帰的最小自乗法(RLS)を利用し、電圧値及び電流値を基に、状態ベクトル
【0250】
【数81】
【0251】
と共分散行列P(t)とを更新することができる(S260)。
【0252】
一例によれば、マイクロプロセッサ140は、現在電流値I(t)と、状態ベクトルの直前値
【0253】
【数82】
【0254】
とに基づき、バッテリ110の現在電圧推定値
【0255】
【数83】
【0256】
を算出することができる。
【0257】
【数84】
【0258】
マイクロプロセッサ140は、現在電流値I(t)と、共分散行列の直前値P(t-1)とに基づき、利得行列L(t)を更新することができる。利得行列L(t)は、次のようにも算出される。
【0259】
【数85】
【0260】
マイクロプロセッサ140は、現在電流値I(t)、利得行列L(t)、及び共分散行列の直前値P(t-1)に基づき、共分散行列P(t)を更新することができる。共分散行列P(t)は、次のようにも算出される。
【0261】
【数86】
【0262】
ここで、λは、Gパラメータに係わる第1忘却ファクタであり、λは、Hパラメータに係わる第2忘却ファクタである。
【0263】
マイクロプロセッサ140は、状態ベクトルの直前値
【0264】
【数87】
【0265】
、利得行列の現在値L(t)、及び電圧誤差e(t)に基づき、状態ベクトル
【0266】
【数88】
【0267】
を更新することができる。状態ベクトルの現在値
【0268】
【数89】
【0269】
は、次のようにも算出される。
【0270】
【数90】
【0271】
ここで、電圧誤差e(t)は、現在電圧値V(t)と現在電圧推定値
【0272】
【数91】
【0273】
とに基づき、
【0274】
【数92】
【0275】
のように算出することができる。
【0276】
段階(S260)において、状態ベクトル
【0277】
【数93】
【0278】
が更新されることにより、
【0279】
【数94】
【0280】
が生成される。状態ベクトル
【0281】
【数95】
【0282】
と共分散行列P(t)とを更新する具体的な方法、及び関連数式は、図2を参照して説明したので、反復して説明しない。
【0283】
マイクロプロセッサ140は、段階(S220)で設定されたGパラメータの初期値G及び終了値G、並びに段階(S260)で生成されたGパラメータの現在値
【0284】
【数96】
【0285】
を利用し、バッテリ110の健全状態点数を算出することができる(S270)。該健全状態点数は、Gパラメータの終了値Gと、Gパラメータの初期値Gとの差(G-G)に対する、Gパラメータの終了値Gと、前記Gパラメータの
【0286】
【数97】
【0287】
によっても算出される。健全状態点数は、時間周期Δtごとにも生成される。マイクロプロセッサ140は、段階(S270)で算出される健全状態点数を、保存部150に保存することができる。段階(S250)において、電流差ΔIが所定範囲を外れる場合、当該時間に対応する健全状態点数は、保存部150に保存されないか、あるいは当該時間に対応し、ヌル(null)が保存部150にも保存される。該健全状態点数は、生成された時間と関連し、保存部150にも保存される。事前に設定された個数の健全状態点数が、保存部150にも保存される。
【0288】
マイクロプロセッサ140は、健全状態チェック条件を満足するか否かということを判断することができる(S280)。図3のバッテリ健全状態の推定方法は、再帰的方法を利用するので、ある程度時間が経過すれば、実際と一致する結果が生成される。例えば、段階(S210)において、状態ベクトル
【0289】
【数98】
【0290】
が初期化されるので、初期化直後には、Gパラメータの値
【0291】
【数99】
【0292】
が初期化された値に近い値を有するであろう。そのような値は、初期化された値による影響が大きいために、実際のGパラメータ値とは差を有してしまい、信頼に足らない値である。該健全状態チェック条件は、段階(S260)で生成される健全状態点数が保存された期間を基にも決定される。例えば、該健全状態チェック条件は、健全状態点数が、最近の第1期間の間に保存されたか否かというものでもある。ここで、該第1期間は、1週、2週、3週、4週、8週、12週、16週のような一定期間でもある。状態ベクトル
【0293】
【数100】
【0294】
と共分散行列P(t)とを初期化した後、第1期間が徒過するまでに算出された健全状態点数は、バッテリ110の実際健全状態を反映させることができないのである。他の例によれば、該健全状態チェック条件は、保存部150に保存された健全状態点数の個数が、事前に設定された個数以上であるか否かということでもある。該健全状態点数の個数は、再帰的方法において、循環した回数に対応する。該健全状態点数の個数を基に、健全状態チェック条件を設定することもできる。
【0295】
該健全状態チェック条件を満足する場合、マイクロプロセッサ140は、段階(S290)に進み、健全状態値を推定することができる。該健全状態チェック条件を満足しない場合、マイクロプロセッサ140は、健全状態値を推定せず、段階(S230)に進む。
【0296】
マイクロプロセッサ140は、保存部150に保存された健全状態点数を基に、バッテリ110の健全状態値を推定することができる(S290)。一例によれば、該健全状態値は、第2期間以前から現在までに保存された健全状態点数を基にも推定される。例えば、該健全状態値は、健全状態点数の第2期間の移動平均値としても算出される。他の例によれば、該健全状態値は、健全状態点数の第2期間の加重移動平均値としても算出される。一例によれば、該第2期間は、第1期間と同一でもある。他の例によれば、該第2期間は、第1期間よりも短い。例えば、該第1期間は、8週であり、第2期間は、4週でもある。さらに他の例によれば、該健全状態値は、最近保存された事前に設定された個数の健全状態点数を基にも算出される。その場合にも、移動平均または加重移動平均が使用されうる。
【0297】
図4は、さらに他の実施形態による、バッテリ健全状態の推定方法のフローチャートを図示する。
【0298】
図4のバッテリ健全状態の推定方法は、段階(S250)の所定範囲が、n個の充放電率区間に区分され、それにより、状態ベクトル、共分散行列、Gパラメータの初期値及び終了値、健全状態点数が、それぞれn個ずつ存在するという点を除いては、図3のバッテリ健全状態の推定方法と相当部分が重複する。重複部分については、反復して説明しない。
【0299】
GパラメータとHパラメータとを含む状態ベクトル及び共分散行列を更新する方法、及び関連数式は、図2及び図3を参照して説明したので、反復して説明しない。図2及び図3においては、状態ベクトル、共分散行列、Gパラメータ及びHパラメータを、それぞれ
【0300】
【数101】
【0301】
と表示したが、図4のバッテリ健全状態の推定方法に係わる以下の説明においては、簡略に、状態ベクトルを「Θ」と表示し、共分散行列を「P」と表示し、Gパラメータを「G」と表示し、Hパラメータを「H」と表示する。そのように簡略に表示しても、本技術分野の当業者であるならば、図2及び図3に係わる説明を参照し、GパラメータGとHパラメータHとからなる状態ベクトルΘ及び共分散行列Pを更新する方法を、容易に理解することができるであろう。
【0302】
図4に図示されたバッテリ健全状態の推定方法は、図1のマイクロプロセッサ140によっても遂行される。図4のバッテリ健全状態の推定方法によれば、段階(S250)において、電流差ΔIが比較される所定範囲が互いに重畳しないn個の充放電率区間に区分される。ここで、nは自然数でもある。例えば、nは、3でもある。しかしながら、nは、3より小さい自然数、例えば、1または2、または3より大きい自然数、例えば、4、5または6でもある。nは、マイクロプロセッサ140の性能、及び保存部150の容量を基にも設定される。マイクロプロセッサ140の性能が良好であり、保存部150の容量が大きい場合、nは、可能な限り、大きい値にも設定される。nは、バッテリシステム100の充放電電流形態によっても設定される。該充放電電流の変動が大きい場合、nは、大きくも設定されるが、充放電電流の変動が小さい場合、nは、小さくも設定される。
【0303】
n個の充放電率区間を定義するために、第1臨界値thないし第(n+1)臨界値thn+1が定義されうる。第1充放電率区間は、第1臨界値th以上であって第2臨界値th未満である区間にも定義される。第2充放電率区間は、第2臨界値th以上であって第3臨界値th未満である区間にも定義される。そのような方式で、第n充放電率区間は、第n臨界値th以上であって第(n+1)臨界値thn+1未満である区間にも定義される。
【0304】
第1臨界値thないし第(n+1)臨界値thn+1は、バッテリ110の容量によっても設定される。例えば、第1臨界値thは、0.1Cの充放電率に該当する電流値にも設定される。例えば、バッテリ110の容量が100Ahであるならば、第1臨界値thは、0.1Cの充放電率に該当する10Aにも設定される。例えば、第2臨界値thは、0.2Cの充放電率に該当する電流値にも設定され、第3臨界値thは、0.3Cの充放電率に該当する電流値にも設定される。第(n+1)臨界値thn+1は、1.0Cの充放電率に該当する電流値にも設定される。前述の数値は、単に例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
【0305】
第1状態ベクトルΘないし第n状態ベクトルΘ、及び第1共分散行列Pないし第n共分散行列Pが準備される。保存部150には、第1状態ベクトルΘないし第n状態ベクトルΘ、及び第1共分散行列Pないし第n共分散行列Pが保存されうる。第1状態ベクトルΘないし第n状態ベクトルΘは、それぞれ第1GパラメータGないし第n GパラメータG、及び第1HパラメータHないし第n HパラメータHからなる。
【0306】
マイクロプロセッサ140は、第1状態ベクトルΘないし第n状態ベクトルΘ、及び第1共分散行列Pないし第n共分散行列Pを初期化することができる(S310)。第1状態ベクトルΘないし第n状態ベクトルΘ、及び第1共分散行列Pないし第n共分散行列Pの全ての元素は、例えば、任意の数字(1)にも初期化される。
【0307】
マイクロプロセッサ140は、第1GパラメータGないし第n GパラメータGそれぞれの初期値G ,G ,…,G と終了値G ,G ,…,G とを設定することができる(S320)。段階(S320)は、段階(S310)より先にも遂行される。初期値G ,G ,…,G と終了値G ,G ,…,G は、管理者によって入力されるか、あるいはマイクロプロセッサ140の演算によっても獲得され、外部から受信することもできる。
【0308】
マイクロプロセッサ140は、バッテリ110の電圧及び電流を測定し、電圧値及び電流値を、例えば、時間周期Δtごとに生成することができる(S330)。例えば、直前電圧値V(t-1)と直前電流値I(t-1)とが生成され、時間周期Δt後、現在電圧値V(t)と現在電流値I(t)とが生成されうる。図4のバッテリ健全状態の推定方法は、再帰的最小自乗法(RLS)を利用するので、時間周期Δtごとに、第1状態ベクトルΘないし第n状態ベクトルΘのうち一つ、及び第1共分散行列Pないし第n共分散行列Pにおいて対応する一つも、再帰的方法によって更新される。
【0309】
マイクロプロセッサ140は、現在電流値I(t)と直前電流値I(t-1)との電流差ΔIを算出することができる(S340)。
【0310】
マイクロプロセッサ140は、電流差ΔIが、第1充放電率区間ないし第n充放電率区間のうち、いずれの充放電率区間に属するかということを判断することができる(S350a~S350c)。
【0311】
電流差ΔIが、第1臨界値th以上であって第2臨界値th未満である第1充放電率区間に属するか否かということが判断されうる(S350a)。電流差ΔIが、第1充放電率区間に属する場合、マイクロプロセッサ140は、第1充放電率区間に対応し、第1状態ベクトルΘと第1共分散行列Pとを更新することができる(S360a)。第1状態ベクトルΘが更新されることにより、第1Gパラメータの現在値G(t)、及び第1Hパラメータの現在値H(t)が生成される。
【0312】
電流差ΔIが、第1充放電率区間に属さない場合、マイクロプロセッサ140は、電流差ΔIが、第2臨界値th以上であって第3臨界値th未満である第2充放電率区間に属するか否かということを判断することができる(S350b)。電流差ΔIが、第2充放電率区間に属する場合、マイクロプロセッサ140は、第2充放電率区間に対応し、第2状態ベクトルΘと第2共分散行列Pとを更新することができる(S360b)。第2状態ベクトルΘが更新されることにより、第2Gパラメータの現在値G(t)、及び第2Hパラメータの現在値H(t)が生成される。
【0313】
電流差ΔIが、第2充放電率区間に属さない場合、マイクロプロセッサ140は、電流差ΔIが、第3充放電率区間に属するか否かということを判断することができる。そのような方式で、電流差ΔIが、残り充放電率区間に属するか否かということが判断されうる。もし電流差ΔIが、第j臨界値th以上であって第(j+1)臨界値(thj+1)未満である第j充放電率区間に属する場合、マイクロプロセッサ140は、第j状態ベクトルΘと第j共分散行列Pとを更新することができ、第j状態ベクトルΘが更新されることにより、第j Gパラメータの現在値G(t)、及び第j Hパラメータの現在値H(t)が生成される。もし電流差ΔIが、第1ないし充放電率区間第(n-1)充放電率区間に属さない場合、マイクロプロセッサ140は、電流差ΔIが、第n臨界値th以上であって第(n+1)臨界値thn+1未満である第n充放電率区間に属するか否かということを判断することができる(S350c)。
【0314】
電流差ΔIが、第n充放電率区間に属する場合、マイクロプロセッサ140は、第n状態ベクトルΘと第n共分散行列Pとを更新することができる(S360c)。第n状態ベクトルΘが更新されることにより、第n Gパラメータの現在値G(t)、及び第n Hパラメータの現在値H(t)が生成される。電流差ΔIが、第1充放電率区間ないし第n充放電率区間にいずれも属さない場合、すなわち、電流差ΔIが、第1臨界値th未満であるか、あるいは第(n+1)臨界値thn+1以上である場合、段階(S330)に進み、第1状態ベクトルΘないし第n状態ベクトルΘ、及び第1共分散行列Pないし第n共分散行列Pの更新に、電流差ΔIを使用しないのである。
【0315】
第j状態ベクトルΘと第j共分散行列Pとを更新する方法について説明する。現在電流値I(t)と、第j状態ベクトルの最近値Θ’とに基づき、バッテリ110の現在電圧推定値
【0316】
【数102】
【0317】
が算出されうる。第j状態ベクトルの最近値Θ’は、保存部150に保存された第j状態ベクトルΘの値を意味する。現在電流値I(t)と、第j共分散行列の最近値P’とに基づき、利得行列Lが算出されうる。第j共分散行列の最近値P’は、保存部150に保存された第j共分散行列Pの値を意味する。
【0318】
現在電流値I(t)、利得行列L、及び第j共分散行列の最近値P’に基づき、第j共分散行列Pが算出されうる。利得行列Lと第j共分散行列Pとを算出するときにおいても、第j GパラメータGに係わる第1忘却ファクタλと、第j HパラメータHに係わる第2忘却ファクタλとが適用されうる。電圧誤差eは、現在電圧値V(t)から現在電圧推定値
【0319】
【数103】
【0320】
を減算することによって算出される。第j状態ベクトルの最近値Θ’と、前述のところで算出された利得行列Lと、電圧誤差eとを基に、第j状態ベクトルΘが算出されうる。
【0321】
現在電圧推定値
【0322】
【数104】
【0323】
、利得行列L、第j共分散行列Pj、及び第j状態ベクトルΘを算出する数式は、図2を参照して説明されたので、反復して説明しない。
【0324】
マイクロプロセッサ140は、段階(S320)で設定された第1GパラメータGないし第n GパラメータGそれぞれの初期値G ,G ,…,G 及び終了値G ,G ,…,G 、並びに段階(S360a)ないし段階(S360c)で生成された第1Gパラメータの現在値G(t)ないし第n Gパラメータの現在値G(t)を利用し、第1健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHを算出することができる(S370aないしS370c)。第1健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHは、第1充放電率区間ないし第n充放電率区間にそれぞれ対応し、第1GパラメータGないし第n GパラメータGそれぞれの初期値G ,G ,…,G 及び終了値G ,G ,…,G 、並びに第1Gパラメータの現在値G(t)ないし第n Gパラメータの現在値G(t)に基づいても算出される。すなわち、第j健全状態点数SOHは、第j GパラメータGjの初期値G 及び終了値G 、並びに第j Gパラメータの現在値G(t)に基づいても算出される。
【0325】
マイクロプロセッサ140は、第1Gパラメータの初期値G 、終了値G1f及び現在値G(t)を基に、第1健全状態点数SOHを算出することができる(S370a)。例えば、時間(t)の第1健全状態点数SOH[t]は、SOH[t]=(G -G(t))/(G -G )*100のようにも算出される。
【0326】
マイクロプロセッサ140は、第2Gパラメータの初期値G 、終了値G 及び現在値G(t)を基に、第2健全状態点数SOHを算出することができる(S370b)。例えば、時間(t)の第2健全状態点数SOH[t]は、SOH[t]=(G -G(t))/(G -G )*100のようにも算出される。
【0327】
そのような方式で、マイクロプロセッサ140は、第n Gパラメータの初期値G 、終了値G 及び現在値G(t)を基に、第n健全状態点数SOHを算出することができる(S370c)。例えば、時間(t)の第n健全状態点数SOH[t]は、SOH[t]=(Gnf-G(t))/(G -G )*100のようにも算出される。
【0328】
特定時間(t)の電流差ΔIは、いずれか1つの充放電率区間に属するか、あるいはどの充放電率区間にも属さないことになる。特定時間(t)の電流差ΔIが、第k充放電率区間に属する場合、第1健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHのうち第k充放電率区間に対応し、第k健全状態点数SOHが算出される。特定時間(t)の電流差ΔIがいかなる充放電率区間にも属さない場合、特定時間(t)には、第1健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHがいずれも生成されない。
【0329】
例えば、直前時間(t-1)の電流差ΔIが、第1充放電率区間に属した場合、直前時間(t-1)には、第1健全状態点数SOHが算出され、直前時間(t-1)の第2健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHは、ヌル(null)が保存されうる。現在時間(t)の電流差ΔIが、第j充放電率区間に属した場合、現在時間(t)には、第j健全状態点数SOHが算出され、現在時間(t)の第1健全状態点数SOHないし第(j-1)健全状態点数SOHj-1、及び第(j+1)健全状態点数SOHj+1ないし第n健全状態点数SOHは、ヌル(null)が保存されうる。
【0330】
特定時間(t)に、第1健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHのうちいずれか1つの健全状態点数だけが算出されるので、他の例によれば、直前時間(t-1)に算出された第1健全状態点数SOHと、現在時間(t)に算出された第j健全状態点数SOHとが1つの健全状態点数としても管理される。例えば、特定期間の第1健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHをいずれもメモリに保存せず、特定期間の健全状態点数をメモリに保存することができる。その場合、直前時間(t-1)に算出された第1健全状態点数SOHは、健全状態点数(SOH[t-1])であり、現在時間(t)に算出された第j健全状態点数SOHは、健全状態点数(SOH[t])でもある。
【0331】
時間周期Δtごとに、第1健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHのうちいずれか1つの健全状態点数が、経時的に保存部150に保存されうる。第1健全状態点数SOHないし第n健全状態点数SOHは、生成された時間(t)と関連し、健全状態点数として保存部150にも保存される。例えば、第1時間(t1)において、第1健全状態点数SOH[t1]が算出され、第2時間(t2)において、第n健全状態点数SOH[t2]が算出され、第3時間(t3)において、第2健全状態点数SOH[t3]が算出された場合、保存部150には、第1時間(t1)の健全状態点数(SOH[t1]=SOH[t1])、第2時間(t2)の健全状態点数(SOH[t2]=SOH[t2])、及び第3時間(t3)の健全状態点数(SOH[t3]=SOH[t3])が保存されうる。事前に設定された個数の健全状態点数が、保存部150にも保存される。
【0332】
マイクロプロセッサ140は、健全状態チェック条件を満足するか否かということを判断することができる(S380)。健全状態チェック条件は、時間周期Δtごとに、段階(S370a)~段階(S370c)で生成される健全状態点数が保存された期間を基にも決定される。例えば、健全状態チェック条件は、健全状態点数が、最近の第1期間の間に保存されたか否かということでもある。ここで、該第1期間は、1週、2週、3週、4週、8週、12週、16週のような一定期間でもある。他の例によれば、該健全状態チェック条件は、保存部150に保存された健全状態点数の個数が、事前に設定された個数以上であるか否かということでもある。
【0333】
該健全状態チェック条件を満足する場合、マイクロプロセッサ140は、保存部150に保存された健全状態点数を基に、バッテリ110の健全状態値SOH(t)を推定することができる(S390)。健全状態チェック条件を満足しない場合、マイクロプロセッサ140は、健全状態値を推定せず、段階(S330)に進む。一例によれば、健全状態値SOH(t)は、保存部150に保存された健全状態点数の平均値としても算出される。例えば、健全状態値SOH(t)は、保存部150に保存された事前に設定された個数の健全状態点数の平均値としても算出される。他の例として、健全状態値SOH(t)は、保存部150に、第1期間の間に保存された健全状態点数の平均値としても算出される。
【0334】
他の例によれば、マイクロプロセッサ140は、保存部150に保存された健全状態点数の第2期間の移動平均値または加重移動平均値を算出し、算出された移動平均値または加重移動平均値の平均値を基に、健全状態値SOH(t)を推定することができる。健全状態値SOH(t)は、保存部150に保存された健全状態点数の第2期間の移動平均値または加重移動平均値の平均値としても算出される。該第2期間は、第1期間と同一であるか、あるいは第1期間よりも短い。
【0335】
充放電率区間を3個に分け、本発明の、バッテリ健全状態の推定方法を実施した結果を図5ないし図8を参照して以下で説明する。
【0336】
図5は、本発明の、バッテリ健全状態の推定方法を実施した結果であり、第1Gパラメータないし第3Gパラメータの値を表示したグラフを図示する。
【0337】
図5の結果は、第1充放電率区間ないし第3充放電率区間を使用した図4の方法による結果である。すなわち、図4の方法において、nは、3に事前に設定された。第1充放電率区間は、0.2C以上であって0.3C未満である区間に事前に設定され、第2充放電率区間は、0.3C以上であって0.5C未満である区間に事前に設定され、第3充放電率区間は、0.5C以上であって1C未満である区間に事前に設定された。バッテリ100は、50Ah容量であり、第1臨界値thは、10Aであり、第2臨界値thは、15Aであり、第3臨界値thは、25Aであり、第4臨界値thは、50Aであった。
【0338】
バッテリの印加電流変化に対する端子電圧の敏感度を示す状態量を示す第1Gパラメータの値G、第2Gパラメータの値G、及び第3Gパラメータの値Gが、経時的にほぼ線形的に増大することが分かる。
【0339】
図6は、図5に図示された第1Gパラメータないし第3Gパラメータの値を基に算出された第1健全状態点数ないし第3健全状態点数を表示したグラフを図示する。
【0340】
本例において、第1Gパラメータの初期値G と終了値G、それぞれ1.26mΩと2.06mΩとに設定され、第2Gパラメータの初期値G と終了値G は、それぞれ1.15mΩと1.95mΩとに設定され、第3Gパラメータの初期値G と終了値G は、それぞれ1.03mと科1.83mΩとに設定された。
【0341】
図6に図示されているように、第1健全状態点数SOH、第2健全状態点数SOH及び第3健全状態点数SOHは、経時的に低減することが分かる。図6には、実際健全状態値SOH(実際)が図示される。第1健全状態点数SOH、第2健全状態点数SOH及び第3健全状態点数SOHそれぞれと、実際健全状態値SOH(実際)との間に平均二乗根偏差(RMSE:root mean square error)で計算した誤差は、1.12%以下であった。
【0342】
図7は、図6のA部分を拡大したグラフである。
【0343】
図7を参照すれば、第1健全状態点数SOH、第2健全状態点数SOH及び第3健全状態点数SOHが経時的に生成するということが分かる。第1健全状態点数SOH、第2健全状態点数SOH及び第3健全状態点数SOHは、常時生成するものではなく、現在電流値I(t)と以前電流値I(t-1)との差である電流差ΔIが、第1充放電率区間に属するとき、第1健全状態点数SOHが生成され、電流差ΔIが、第2充放電率区間に属するとき、第2健全状態点数SOHが生成され、電流差ΔIが、第3充放電率区間に属するとき、第3健全状態点数SOHが生成され、電流差ΔIがいかなる充放電率区間にも属さないとき、第1健全状態点数SOHないし第3健全状態点数SOHのうちいずれも生成されない。すなわち、電流値I(t)が一定するか、あるいは急変する場合、健全状態点数は、生成されない。
【0344】
図8は、図6に図示された第1健全状態点数ないし第3健全状態点数を基に推定された健全状態値を表示したグラフを図示する。
【0345】
本例において、本発明によって推定された健全状態値SOH(推定)は、第1健全状態点数SOHの4週移動平均値、第2健全状態点数SOHの4週移動平均値、及び第3健全状態点数SOHの4週移動平均値の平均でもって算出したものである。そのように算出された健全状態値SOH(推定)と実際健全状態値SOH(実際)との間に平均二乗根偏差(RMSE)で計算した誤差は、0.59%であった。誤差は、およそ50%ほど低減した。
【0346】
本発明の思想は、前述の実施形態に限って定められるものではなく、特許請求の範囲だけではなく、その特許請求の範囲と均等であるか、あるいはそこから等価的に変更された全ての範囲は、本発明の思想の範疇に属するとするのである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8