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  • 特許-搬送ローラおよびスリット装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】搬送ローラおよびスリット装置
(51)【国際特許分類】
   B26D 7/06 20060101AFI20230612BHJP
   B65H 27/00 20060101ALI20230612BHJP
   B26D 1/24 20060101ALI20230612BHJP
   B26D 7/14 20060101ALI20230612BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
B26D7/06 Z
B65H27/00 B
B26D1/24 E
B26D7/14
B26D3/00 601B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019001067
(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公開番号】P2020110848
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下地 匠
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069693(JP,A)
【文献】特開2001-066205(JP,A)
【文献】特開平08-053251(JP,A)
【文献】特開2011-186084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 7/06
B65H 27/00
B26D 1/24
B26D 7/14
B26D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き掛けたフィルムを搬送する円筒形の搬送ローラであって、
外周の搬送面に中心軸に沿った直線状の溝が周方向に並んで複数形成されており、
前記溝の深さは20~100μmであり、
前記搬送面の面積に対する前記溝の総面積の比率は30~70%であり、
前記搬送面はステンレス鋼またはハードクロムで形成されている
ことを特徴とする搬送ローラ。
【請求項2】
前記溝の角度間隔は前記フィルムの抱角より小さい
ことを特徴とする請求項1記載の搬送ローラ。
【請求項3】
巻き掛けたフィルムを搬送する円筒形の搬送ローラを備え、
前記搬送ローラは外周の搬送面に中心軸に沿った直線状の溝が周方向に並んで複数形成されており、
前記溝の深さは20~100μmであり、
前記搬送ローラの前記搬送面はステンレス鋼またはハードクロムで形成されている
ことを特徴とするスリット装置。
【請求項4】
前記搬送ローラの前記搬送面の面積に対する前記溝の総面積の比率は30~70%である
ことを特徴とする請求項記載のスリット装置。
【請求項5】
前記搬送ローラの前記溝の角度間隔は前記フィルムの抱角より小さい
ことを特徴とする請求項または記載のスリット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ローラおよびスリット装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、フィルムを搬送するのに用いられる搬送ローラ、およびフィルムを長手方向に沿って切断するスリット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などには、ベースフィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は、例えば、ベースフィルムの表面に銅薄膜を成膜した銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造にはロールツーロールにより長尺帯状のフィルムを搬送しつつ処理を行う装置を用いることが一般的である。例えば、スリット装置(特許文献1参照)を用いれば、銅張積層板を長手方向に沿って切断して所望の幅に整えることができる。このような装置において、フィルムを安定して搬送するには、フィルムの巻き出し、巻き取りの張力のほか、必要に応じて中間位置での張力を調整する必要がある。一般に、フィルムに与える張力を強くするほど、フィルムの搬送が安定し、高速搬送できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-148035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銅張積層板に用いられるベースフィルムの厚さは25~100μmが一般的である。しかし、近年、銅張積層板の薄型化が要求されており、厚さが25μm以下、例えば、12.5μm厚のベースフィルムを用いて銅張積層板を製造することがある。
【0006】
このような極薄のフィルムは伸びやすいため、強い張力を与えることができない。フィルムに十分な張力を与えずに高速搬送すると、フィルムが搬送ローラに対して滑り、搬送が安定しなくなる。そのため、搬送が安定する程度に搬送速度を抑える必要があり、生産性が低下する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、フィルムが滑りにくい搬送ローラ、およびその搬送ローラを備えるスリット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の搬送ローラは、巻き掛けたフィルムを搬送する円筒形の搬送ローラであって、外周の搬送面に中心軸に沿った直線状の溝が周方向に並んで複数形成されており、前記溝の深さは20~100μmであり、前記搬送面の面積に対する前記溝の総面積の比率は30~70%であり、前記搬送面はステンレス鋼またはハードクロムで形成されていることを特徴とする
本発明のスリット装置は、巻き掛けたフィルムを搬送する円筒形の搬送ローラを備え、前記搬送ローラは外周の搬送面に中心軸に沿った直線状の溝が周方向に並んで複数形成されており、前記溝の深さは20~100μmであり、前記搬送ローラの前記搬送面はステンレス鋼またはハードクロムで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルムと搬送面との間の空気が溝を通して逃げるので、フィルムが搬送面に密着して滑りにくい。そのため、薄いフィルムでも高速搬送できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る搬送ローラの斜視図である。
図2図1の搬送ローラの側面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスリット装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(搬送ローラ)
図1および図2に示すように、本発明の一実施形態に係る搬送ローラ1は円筒形のローラである。搬送ローラ1の外周の搬送面10に搬送対象のフィルムFが巻き掛けられる。搬送面10はフィルムFよりも幅広である。フィルムFは幅方向中央が搬送面10の幅方向中央にほぼ一致するよう巻き掛けられる。搬送ローラ1はその中心軸Oを中心として回転する。これにより、搬送ローラ1はフィルムFを搬送する。なお、図1および図2では、搬送ローラ1に付随するシャフトなどの部材を省略している。
【0012】
搬送対象のフィルムFは長尺帯状の薄膜状の部材である。この種のフィルムFとして銅張積層板が挙げられる。銅張積層板は絶縁性を有するベースフィルムの片面または両面に銅薄膜が成膜されたものである。銅張積層板の厚さは、特に限定されないが、10~100μmである。また、銅張積層板の幅は、特に限定されないが、200~800mmである。
【0013】
搬送面10には複数の溝11が形成されている。各溝11は搬送ローラ1の中心軸Oに沿った直線状である。また、各溝11は搬送面10の一端から他端に渡って切れ目なく形成されている。複数の溝11は搬送ローラ1の周方向に所定の間隔を空けて並んでいる。
【0014】
フィルムに十分な張力を与えずに高速搬送すると、フィルムとローラとの間に空気の層が形成され、フィルムとローラとの間の摩擦力が低下する。そのため、フィルムがローラに対して滑り、搬送が安定しなくなる。フィルムがローラに対して横滑りすると、フィルムの巻きズレが生じる。また、フィルムの搬送速度とローラの回転速度に差が生じると、フィルムの表面に傷がつく恐れがある。
【0015】
これに対して、本実施形態の搬送ローラ1を用いれば、フィルムFに与える張力を弱くしても、安定した搬送ができる。なぜならば、フィルムFと搬送ローラ1との間に空気が取り込まれたとしても、その空気は溝11を通して搬送ローラ1の端部まで逃げるので、フィルムFと搬送ローラ1との間に空気の層が形成されにくいからである。そのため、フィルムFが搬送面10(溝11間の凸部)に密着して滑りにくくなる。弱い張力しか与えることのできない薄いフィルムFでも高速搬送できるようになる。
【0016】
フィルムFが搬送面10に対して滑りにくいことから、フィルムFの横滑りを原因とする巻きズレを抑えることができる。また、フィルムFの搬送速度と搬送ローラ1の回転速度が一致し、フィルムFの表面に傷がつくことがない。
【0017】
なお、溝11は搬送ローラ1の中心軸Oに沿った直線状が好ましい。溝11を途中で屈曲または湾曲させたとしても、フィルムFを搬送面10に密着させる効果は生じる。しかし、この場合、フィルムFが斜行または蛇行する可能性がある。また、フィルムFにシワが生じる可能性がある。
【0018】
溝11の深さは20~100μmが好ましい。溝11の深さが20μm以上であれば、フィルムFと搬送ローラ1との間の空気を逃がす効果が十分に得られる。また、溝11の深さが100μm以下であれば、溝11の角によってフィルムFに折れ痕が付くことを抑制できる。
【0019】
搬送面10(溝11を含む)の面積に対する溝11の総面積の比率は30~70%が好ましい。面積比が30~70%となるように、溝11の本数と幅を調整すればよい。そうすれば、フィルムFと搬送ローラ1との間の空気を逃がす効果が十分に得られる。
【0020】
図2に示すように、溝11の角度間隔θ(中心軸Oを中心とした隣り合う溝11、11の間の角度)がフィルムFの抱角αより小さいことが好ましい。そうすれば、搬送面10のうちフィルムFが接触している領域に、常に1本以上の溝11が含まれる。そのため、フィルムFと搬送ローラ1との間の空気を逃がす効果が十分に得られる。
【0021】
搬送面10は、特に限定されないが、ステンレス鋼、ハードクロム、ゴムなどで形成すればよい。搬送ローラ1の全体をステンレス鋼で形成してもよい。ステンレス鋼などで形成した搬送ローラ1の搬送面10をハードクロムでめっきしてもよい。ステンレス鋼などで形成した搬送ローラ1の搬送面10にゴムをライニングしてもよい。搬送面10をゴムで形成する場合、ゴムの硬さはデュロメータ硬さA70~90が好ましい。ゴムの硬さをA70以上にすれば、十分な耐摩耗性が得られる。
【0022】
(スリット装置)
つぎに、本発明の一実施形態に係るスリット装置2を説明する。
図3に示すように、スリット装置2は、ロールツーロールにより長尺帯状のフィルムFを搬送しつつ、フィルムFを長手方向に沿って切断する装置である。
【0023】
スリット装置2はロール状に巻回されたフィルムFを送り出す送出装置21を有する。送出装置21から送り出されたフィルムFはガイドローラ22、23、24で案内される。ガイドローラ23はモータなどの動力によって回転する駆動ローラである。ガイドローラ22、24はフィルムFの搬送に従い回転する従動ローラである。フィルムFはカッター25に案内され、カッター25により長手方向に沿って2つに切断される。カッター25は、例えば、上刃と下刃とからなる。
【0024】
2つに切断されたフィルムFは一対のピンチローラ26、26に案内される。ピンチローラ26、26により一方のフィルムFは上方に、他方のフィルムFは下方に案内される。その後、各フィルムFはガイドローラ27で案内され、巻取装置28で巻き取られる。
【0025】
前述の搬送ローラ1はスリット装置2のガイドローラ22、23、24、27として用いることができる。ガイドローラ22、23、24、27の一部を搬送ローラ1としてもよいし、全部を搬送ローラ1としてもよい。搬送ローラ1は駆動ローラとして用いることもできるし、従動ローラとして用いることもできる。
【0026】
スリット装置2内における搬送ローラ1の配置は特に限定されない。溝を有さない一般的なローラを組み込んだスリット装置2を使用した場合に、フィルムFの滑りが確認されるローラを搬送ローラ1に交換すればよい。また、巻取装置28の直前のガイドローラ27として搬送ローラ1を用いれば、フィルムFの巻きズレを効果的に抑制できる。
【0027】
なお、搬送ローラ1の用途はスリット装置2に限定されない。大気中でフィルムFを搬送する装置であれば、搬送ローラ1を好適に用いることができる。このような装置として、スリット装置2のほか、巻き替え装置、検査装置、めっき装置などが挙げられる。
【実施例
【0028】
つぎに、実施例を説明する。
スリット装置のガイドローラとして、種々の構成の搬送ローラを用い、巻きズレの有無を確認した。搬送ローラは巻取装置の直前に配置した。スリット装置で切断するフィルムとして、幅500mm、厚さ25μmのポリイミドフィルムの片面に2μmの銅めっきが施された銅張積層板を用いた。フィルムの送り出し側にエッジポジションコントローラを設け、送り出しの位置精度を±1mm以下とした。フィルムの巻き取り側にはエッジポジションコントローラを設けなかった。送り出し側において幅500mmのフィルムに対して50Nの張力を与えた。途中張力カットを行い、巻き取り側において幅250mmのフィルムに対して20Nの張力を与えた。
【0029】
搬送ローラの直径は100mmである。また、搬送面における溝の本数は10本である。搬送面の材質、溝の深さ、溝の面積比(搬送面の面積に対する溝の総面積の比率)、搬送速度を変化させ、各条件で巻き取られたロールを観察し、巻きズレの有無を確認した。
【0030】
巻きズレの有無の確認はつぎの手順で行った。巻き取られたロールの幅をノギスで測定した。また、フィルムの幅を光学式測長機で測定した。ロールの幅をAとし、フィルムの幅をBとして、次式に従い、ズレ幅Dを求めた。そしてズレ幅Dが2mm以上の場合を巻きズレあり、2mm未満の場合を巻きズレなしとした。
D=(A-B)/2
【0031】
その結果を表1に示す。表1中、○は巻きズレなし、×は巻きズレありを示す。
【表1】
【0032】
表1から分かるように、搬送ローラの搬送面に溝を設けない場合(条件1)、搬送速度を10m/分以上にすると巻きズレが生じる。これに対し、搬送ローラの搬送面に溝を設けると(条件2~12)、搬送速度を10m/分としても巻きズレが生じない。これより、搬送面に溝を有する搬送ローラを用いれば、巻きズレを抑制できることが確認された。
【0033】
条件2~6の結果より、溝の面積比を30~70%にすれば、搬送速度を30m/分としても巻きズレが生じないことが分かる。一方、溝の面積比が20%または80%の場合には、搬送速度を30m/分とすると巻きズレが生じることが分かる。これより、溝の面積は30~70%が好ましいことが確認された。
【0034】
条件4、7、8の結果より、溝の深さを20~100μmの範囲で変更しても、巻きズレが生じないことが確認された。また、条件4、9~12より、搬送面の材質がSUS304、ハードクロム、フッ素ゴム(A70~A90)のいずれの場合でも、巻きズレが生じないことが確認された。
【符号の説明】
【0035】
1 搬送ローラ
10 搬送面
11 溝
2 スリット装置
21 送出装置
22、23、24、27 ガイドローラ
25 カッター
26 ピンチローラ
28 巻取装置
図1
図2
図3