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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】熱音響装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20230612BHJP
   H04R 23/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
F25B9/00 311
F25B9/00 Z
H04R23/00 310
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019089175
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020183849
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河内 達磨
(72)【発明者】
【氏名】武井 智行
(72)【発明者】
【氏名】小原 邦男
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】石川 修六
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-189219(JP,A)
【文献】特開2004-340506(JP,A)
【文献】特開2005-351224(JP,A)
【文献】特開2009-216045(JP,A)
【文献】特開2018-042415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00
H04R 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動気体が封入されるループ管と、前記ループ管内に設けられ当該ループ管の管軸方向に温度勾配が生じるスタックと、前記ループ管内に設けられた振動膜を有する振動膜構造部と、前記作動気体の仕事流と相関のあるパラメータを検出するためのセンサと、を備え、
前記振動膜構造部は、前記管軸方向に交差する方向の面を有し管軸方向の成分を有して振動可能である前記振動膜と、前記振動膜に所要の物理量を作用させることで当該振動膜の管軸方向の剛性を変化させる作用部と、前記振動膜に作用させる前記物理量を変化させる制御を行う制御部と、を有し、
前記制御部は、前記パラメータが閾値を超えると、前記振動膜の剛性を、前記作動気体の振動を抑制可能とする剛性に高める、熱音響装置。
【請求項2】
前記振動膜は、逆圧電効果を有する薄膜部材であり、
前記作用部は、前記振動膜に電位差を生じさせるための電極と、当該電極に電圧を印加する電源とを有する、請求項1に記載の熱音響装置。
【請求項3】
前記振動膜は、前記物理量に応じて前記面に沿った方向に拡張及び収縮可能となる特性を有し、
前記振動膜構造部は、前記振動膜の周縁部を拘束する拘束部材を更に有し、
前記振動膜は、前記周縁部よりも中央側の領域において管軸方向に振動可能である、請求項1又は2に記載の熱音響装置。
【請求項4】
記制御部は、前記仕事流が小さくなることで前記パラメータが変化すると、前記振動膜の剛性を低下させ、前記仕事流が大きくなることで前記パラメータが変化すると、前記振動膜の剛性を高めるための制御を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱音響装置。
【請求項5】
記パラメータは、前記スタックの温度若しくは前記スタックの周囲温度、又は、前記作動気体の圧力振幅である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱音響装置。
【請求項6】
前記ループ管の管壁に設けられ当該管壁の振動を電気エネルギーに変換する振動発電部と、前記電気エネルギーを基にして前記振動膜に所要の物理量を作用させるためのエネルギーを出力するハーベスト電源部と、を更に備える、請求項1~のいずれか一項に記載の熱音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと音エネルギーとの変換現象である熱音響効果を利用した熱音響装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。熱音響装置は、作動気体が封入されるループ管と、ループ管内に設けられたスタック(再生器)とを備える。スタックにおいて温度勾配が生じると、自励の音波が発生する。この音波のエネルギーは様々な仕事に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-66501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている熱音響装置は、ループ管内に設けられた振動膜を備える。振動膜が適切な位置に設けられることで、ループ管内の音波を増幅できる場合がある。つまり、振動膜は、作動気体の圧力振動に影響を与え、熱音響現象によって得られる仕事の効率を向上させることが可能となる。
【0005】
ループ管内の作動気体の圧力の振幅(振幅量)は、運転開始直後の初期、過渡期、運転が継続されている安定期とで変化する。また、ループ管内の作動気体の充填圧が変化する場合がある。振動膜の厚さ等の特性は作動流体の動きに大きな影響を与える。このため、振動膜が、作動気体の圧力振幅及び充填圧等に応じた特性を有することが可能であれば、熱音響現象によって得られる仕事の効率を、より一層向上させることができる。これまでは、振動膜の特性を変更するためには、振動膜の取替が必要であり、装置の組み直しが必要であった。
【0006】
そこで、本発明は、振動膜を取替しなくても、熱音響現象によって得られる仕事の効率を向上させることが可能となる熱音響装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、作動気体が封入されるループ管と、前記ループ管内に設けられ当該ループ管の管軸方向に温度勾配が生じるスタックと、前記ループ管内に設けられた振動膜を有する振動膜構造部と、を備え、前記振動膜構造部は、前記管軸方向に交差する方向の面を有し管軸方向の成分を有して振動可能である前記振動膜と、前記振動膜に所要の物理量を作用させることで当該振動膜の管軸方向の剛性を変化させる作用部と、を有する。
振動膜の特性は作動気体の動きに影響を与える。そこで、前記熱音響装置によれば、振動膜を取替しなくても、振動膜の剛性が変化する。これにより、熱音響現象によって得られる仕事の効率を向上させることが可能となる。
【0008】
好ましくは、前記振動膜は、逆圧電効果を有する薄膜部材であり、前記作用部は、前記振動膜に電位差を生じさせるための電極と、当該電極に電圧を印加する電源とを有する。
この場合、振動膜に電極が設けられ、電源が電極を介して振動膜に電圧を印加することで、振動膜を逆圧電効果によって変形させ、振動膜の剛性を変化させることが可能となる。
【0009】
好ましくは、前記振動膜は、前記物理量に応じて前記面に沿った方向に拡張及び収縮可能となる特性を有し、前記振動膜構造部は、前記振動膜の周縁部を拘束する拘束部材を更に有し、前記振動膜は、前記周縁部よりも中央側の領域において管軸方向に振動可能である。
この構成によれば、振動膜はその周縁部において拘束される。このため、振動膜が面に沿った方向に拡張すると、振動膜の管軸方向の剛性が小さくなる。これに対して、振動膜が面に沿った方向に収縮すると、振動膜の管軸方向の剛性が高くなる。
【0010】
好ましくは、前記振動膜構造部は、前記振動膜に作用させる前記物理量を変化させる制御を行う制御部を更に有する。
この場合、熱音響装置の状況に応じて、振動膜の剛性を様々変化させることが可能となる。
【0011】
好ましくは、前記制御部を有する前記熱音響装置は、前記作動気体の仕事流と相関のあるパラメータを検出するためのセンサを更に備え、前記制御部は、前記仕事流が小さくなることで前記パラメータが変化すると、前記振動膜の剛性を低下させ、前記仕事流が大きくなることで前記パラメータが変化すると、前記振動膜の剛性を高めるための制御を行う。
作動気体の仕事流が小さくなっている場合、前記構成によれば、振動膜の剛性が低下し、作動気体の振動が振動膜によって阻害されにくくなり、仕事流が大きくなるように熱音響装置が調整される。作動気体の仕事流が大きくなっている場合、前記構成によれば、振動膜の剛性が高まり、作動気体の振動が振動膜によって抑制され、仕事流が小さくなるように熱音響装置が調整される。
【0012】
好ましくは、前記制御部を有する前記熱音響装置は、前記作動気体の仕事流と相関のあるパラメータを検出するためのセンサを更に備え、前記パラメータは、前記スタックの温度若しくは前記スタックの周囲温度、又は、前記作動気体の圧力振幅である。
スタックの温度(周囲温度)及び作動気体の圧力振幅は、作動気体の仕事流の大きさに影響を与えるパラメータである。そこで、センサを用いて前記パラメータを検出すれば、仕事流に応じて振動膜の剛性の調整が可能となる。このため、熱音響現象によって得られる仕事の効率をより一層向上させることが可能となる。
【0013】
好ましくは、前記制御部を有する前記熱音響装置は、前記作動気体の仕事流と相関のあるパラメータを検出するためのセンサを更に備え、前記制御部は、前記パラメータが閾値を超えると、前記振動膜の剛性を、前記作動気体の振動を抑制可能とする剛性に高める。
この構成によれば、例えば、スタックに熱を与えるための設備で、その運転を停止させなくても、熱音響装置における熱音響現象を停止させることが可能となる。
【0014】
好ましくは、前記熱音響装置は、前記ループ管の管壁に設けられ当該管壁の振動を電気エネルギーに変換する振動発電部と、前記電気エネルギーを基にして前記振動膜に所要の物理量を作用させるためのエネルギーを出力するハーベスト電源部と、を更に備える。
この構成によれば、省エネルギーで熱音響装置を作動させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、振動膜を取替しなくても、振動膜の剛性が変化し、熱音響現象によって得られる仕事の効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】熱音響装置の一例を示す概略構成図である。
図2】振動膜構造部の説明図である。
図3】振動膜が有する逆圧電効果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔熱音響装置の全体構成〕
図1は、熱音響装置10の一例を示す概略構成図である。本開示の熱音響装置10は、1つのループ管11と、ループ管11内に設けられた第一スタック20及び第二スタック30とを備える。ループ管11には、作動気体が封入される。作動気体は、例えば、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、又はこれらのうち少なくとも2つの混合気である。
【0018】
第一スタック20は、柱状の部材であり、ループ管11の管軸方向に貫通する複数の微小流路21を有する。第二スタック30も、柱状の部材であり、ループ管11の管軸方向に貫通する複数の微小流路31を有する。微小流路21,31は、作動気体の通路となる。
【0019】
第一スタック20において、軸方向の一方端22と他方端23との間に温度勾配が生じる。本開示では、第一スタック20の一方端22の温度が他方端23の温度より高くなる。この温度勾配が臨界点を越えると、第一スタック20内の作動気体が振動する。作動気体の振動は音波を発生させる。この結果、ループ管11内の作動気体に定在波を含む音波が発生する。この音波によって、第二スタック30の微小流路31内の作動気体が振動する。すると、第二スタック30において温度勾配が発生する。本開示では、第二スタック30の一方端32の温度が他方端33の温度より高くなる温度勾配が発生する。このように、第一スタック20によって、熱エネルギーが音エネルギーに変換される。第二スタック30によって音エネルギーが熱エネルギーに変換される。
【0020】
第一スタック20と第二スタック30とは異なる構成(例えば、管軸方向の長さが異なる構成等)であってもよいが、本開示では同じである。第一スタック20及び第二スタック30は例えばセラミック製である。なお、スタック20,30は金属製(例えばステンレス製)であってもよい。
【0021】
第一スタック20において、高温となる一方端22側に、第一高温側熱交換器24が設けられる。低温となる他方端23側に、第一低温側熱交換器25が設けられる。熱交換器24,25は、ループ管11の外部と第一スタック20との間で熱を交換する。
第二スタック30において、高温となる一方端32側に、第二高温側熱交換器34が設けられる。低温となる他方端33に、第二低温側熱交換器35が設けられる。熱交換器34,35は、ループ管11の外部と第二スタック30との間で熱を交換する。
【0022】
第一高温側熱交換器24は、外部の熱源29より熱(熱エネルギー)を受ける。この熱が、第一スタック20の一方端22へ伝わる。このように、第一高温側熱交換器24は、ループ管11の外部から、第一スタック20の一方端22を加熱し、一方端22を(他方端23よりも)高温とする。
【0023】
第一低温側熱交換器25は、ループ管11の外部と第一スタック20の他方端23との間で熱を伝導させることにより、他方端23側の温度を調整する。具体的に説明すると、第一低温側熱交換器25は、第一スタック20の他方端23の温度が所定の基準温度(第一基準温度)を超えないように調整する機能を有する。前記第一基準温度は、第一スタック20の一方端22の温度よりも低い温度である。
【0024】
第一高温側熱交換器24及び第一低温側熱交換器25が用いられることで、第一スタック20の一方端22と他方端23との間の温度勾配(温度差)が制御される。第一低温側熱交換器25、第一スタック20、及び第一高温側熱交換器24は、熱源29の熱を、ループ管11内の作動気体の振動に変換して音波を発生させる熱音響原動機(熱音響エンジン)を構成する。
【0025】
前記のとおり、第一スタック20に生じた温度勾配によって音波が発生し、発生した音波により第二スタック30に温度勾配が生じる。第二スタック30の一方端32の温度が他方端33の温度よりも高くなる。
【0026】
第二高温側熱交換器34は、第二スタック30に温度勾配が生じた際に高温となる一方端32側に設けられる。第二低温側熱交換器35は、第二スタック30に温度勾配が生じた際に低温となる他方端33側に設けられる。
【0027】
第二高温側熱交換器34は、ループ管11の外部と第二スタック30の一方端32との間で熱を伝導することにより、一方端32側の温度を調整する機能を有する。例えば、第二高温側熱交換器34は、第二スタック30の一方端32の温度を一定(例えば、室温)に保つ。
【0028】
第二低温側熱交換器35は、ループ管11の外部の冷却対象37に熱伝導可能に接続される。第二低温側熱交換器35は、ループ管11の外部(冷却対象37)の熱を吸収し、第二スタック30の他方端33へ取り込む。これにより、冷却対象37を冷却することができる。言い換えれば、第二低温側熱交換器35は、第二スタック30内に生じた温度勾配によって温度が低い第二スタック30の他方端33の冷熱を取り出し、ループ管11の外部(冷却対象37)へ伝える。
【0029】
第二低温側熱交換器35、第二スタック30、及び第二高温側熱交換器34は、音波(作動気体の振動)から温度勾配を発生させる熱音響ヒートポンプを構成する。
【0030】
図1に示す熱音響装置10は、ループ管11内に設けられた振動膜39を有する振動膜構造部40を更に備える。振動膜39は、作動気体の振動を妨げないために振動可能に構成されている。このために、振動膜39は、膜状の弾性体で形成される。第一スタック20の温度勾配により発生したループ管11内の音波を、振動膜39によって例えば増幅することが可能となる。
【0031】
〔振動膜構造部40の説明〕
図2は、振動膜構造部40の説明図である。振動膜構造部40は、ループ管11内の一部に設けられた振動膜39と、振動膜39の剛性を変化させる作用部41とを有する。本開示の振動膜39は、逆圧電効果を有する薄膜部材である。具体的に説明すると、振動膜39は、圧電フィルム(高分子圧電フィルム)である。振動膜39は、電圧(電界)が加えられると、電圧(電界)の大きさに応じて、面39aに沿った方向に拡張及び収縮可能となる特性を有する。振動膜39は、電圧(電界)の大きさに応じた変形量(拡張量又は収縮量)で拡張又は収縮する。
【0032】
本開示の作用部41は、電極42,43及び電源44を有する。振動膜39の一面側と他面側との間に電位差を生じさせるため、一方の電極42は、振動膜39の一面側に取付けられていて、他方の電極43は、振動膜39の他面側に取付けられている。電源44はこれら電極42,43に電圧を印加する。
【0033】
電極42,43は、振動膜39の一方側及び他方側の面それぞれに対して、全体的に設けられていてもよく、例えば周縁部39bに部分的に設けられていてもよい。ただし、振動膜39における電極42,43の面積(範囲)に応じて電界の発生範囲及び/又は発生量が異なる。振動膜39において、電界の影響を受ける領域で伸縮が生じる、このため、電極42,43の面積が大きいほど、伸縮量が大きくなり、剛性の変化量も大きくなる。つまり、電極42,43は、振動膜39の一方側及び他方側の面それぞれに対して、全体的に設けられている場合の方が、剛性の変化量が大きくなる。
【0034】
以上の構成により、電源44が電極42,43を介して振動膜39に電圧を印加することで、振動膜39が逆圧電効果によって変形する。図3は、振動膜39が有する逆圧電効果の説明図である。図3に示すように、振動膜39の両面に電圧を加えると、振動膜39が面39aに沿った方向に延びる。
【0035】
図2に示すように、振動膜構造部40は、環状の拘束部材47を一対有する。拘束部材47は、振動膜39と同様の外周輪郭形状を有する。電極42,43が取付けられている振動膜39は、一対の拘束部材47,47によって挟まれた状態となって、ループ管11に設けられているフランジ部48に取付けられている。本開示では、ループ管11及び拘束部材47は金属製であることから、フランジ部48と拘束部材47との間に絶縁部材49が介在している。絶縁部材49によって電極42,43とループ管11との間が電気的に絶縁されている。
【0036】
拘束部材47により、振動膜39は、その周縁部39bにおいてループ管11に拘束される。振動膜39は、周縁部39bよりも中央側の領域39cにおいて管軸方向に振動可能となる。図2では、前記管軸方向が矢印Yにより示されている。振動膜39は、電圧を印加していない状態で、面39aに沿った方向に張力を有して拘束部材47に固定されていてもよい。
【0037】
振動膜39はその周縁部39bにおいて拘束されている。このため、逆圧電効果によって、振動膜39が面39aに沿った方向に拡張する(伸びる)と、振動膜39の張力が小さくなり、振動膜39の管軸方向(Y方向)の剛性が小さくなる。このため、振動膜39は大きな振幅を有して振動可能となる。これに対して、(拡張した状態から)振動膜39が面39aに沿った方向に収縮すると、振動膜39の張力が大きくなり、振動膜39の管軸方向(Y方向)の剛性が高くなる。このため、振動膜39は小さな振幅を有して振動可能となる。以上のように、振動膜39の管軸方向についての見かけの剛性が変化する。
【0038】
本開示では、振動膜39の剛性を変化させるために、振動膜39に対して電圧を印加している。つまり、剛性を変化させるために振動膜39に対して作用させる物理量は、電圧である。振動膜39及び作用部41は、他の形態であってもよい。例えば、図示しないが、作用部41は、振動膜39を加熱するヒータ、及びこのヒータに電力を供給する電源を有する構成であってもよい。この場合、振動膜39に対して作用させる物理量は温度となる。ヒータの熱により振動膜39の温度が変化し、熱膨張により振動膜の剛性が変化する。このように、作用部41は、振動膜39に所要の物理量を作用させることで振動膜39の管軸方向の剛性を変化させるものであればよい。
【0039】
〔制御について〕
振動膜構造部40は、制御部(コントローラ)45を更に有する。制御部45は、振動膜39に作用させる電圧(物理量)を変化させる制御を行う。制御部45は、コンピューターにより構成されている。制御部45は、電源44に制御信号を出力する。制御信号には、電源44が振動膜39に印加させる電圧の大きさに関する情報が含まれる。つまり、制御部45は、電源44が振動膜39に印加させる電圧の大きさを変更する制御を行う。
【0040】
熱音響装置10は、更に、ループ管11に設けられているセンサ46を備える。センサ46は、ループ管11内の作動気体の仕事流と相関のあるパラメータを検出するために設けられている。本開示では、前記パラメータは、ループ管11内の作動気体の圧力振幅である。前記圧力振幅を検出するために、センサ46は、ループ管11内の作動気体の圧力を検出対象とする圧力センサである。センサ46は、作動気体の圧力を検出し、検出信号を制御部45に出力する。制御部45は、検出信号に基づいて、作動流体の圧力振幅の値(大きさ)を検出する。制御部45は、圧力振幅の値を刻々と検出する。制御部45は、検出結果に基づいて、振動膜39の剛性を変化させる制御を実行する。
【0041】
なお、前記パラメータは、例えば、スタック30の温度、又は、スタック30の周囲温度であってもよい。この場合、センサ46は、温度センサであり、スタック30の高温側の温度、又は、スタック30の高温側の部分の周囲の温度を検出するのが好ましい。
【0042】
ループ管11内の作動気体の仕事流と、この作動気体の圧力振幅(圧力振幅量)との関係について説明する。前記仕事流と前記圧力振幅との間には相関がある。圧力振幅が大きいと仕事流が大きく、圧力振幅が小さいと仕事流が小さい。つまり、ループ管11内の作動気体の仕事流が小さくなることで、作動気体の圧力振幅が小さくなる。前記圧力振幅は、ループ管11内での音響強度の大きさであるとも言える。
【0043】
制御部45が実行する制御の具体例について説明する。ループ管11内の作動気体の仕事流が小さくなると、作動気体の圧力振幅が小さくなる。すると、制御部45は、振動膜39の管軸方向の剛性を低下させる。このために、制御部45は、振動膜39に作用させる電圧(物理量)を、それまでよりも小さくする制御を行う。これに対して、ループ管11内の作動気体の仕事流が大きくなると、作動気体の圧力振幅が大きくなる。すると、制御部45は、振動膜39の管軸方向の剛性を高める。このために、制御部45は、振動膜39に作用させる電圧(物理量)を、それまでよりも大きくする制御を行う。以上の制御を「通常運転制御」と称する。
【0044】
制御部45が実行する他の制御には、前記通常運転制御の他に、次のフェールセーフ制御が含まれる。前記パラメータ(本開示では、作動気体の圧力振幅)を、制御部45が取得すると、制御部45は、そのパラメータの値と、予め設定されている閾値とを比較する。この比較処理は、パラメータが取得される毎に実行されてもよい。パラメータが前記閾値を超えると、制御部45は、振動膜39の剛性を、所要の剛性に高める。前記所要の剛性は、ループ管11内の作動気体の振動を抑制可能とする剛性である。例えば、振動膜39は、前記所要の剛性として、変化可能となる範囲で最も高い剛性となる。振動膜39が前記所要の剛性になると、ループ管11内の作動気体の振動が振動膜39によって遮断される。
【0045】
このフェールセーフ制御によれば、例えば、スタック20(図1参照)に熱を与えるための設備である前記熱源29側において、その運転を停止させなくても、熱音響装置10における熱音響現象を停止させることが可能となる。なお、前記熱源29は、例えば、高温の流体を排熱として出力する熱処理炉である。この熱処理炉の排熱によってスタック20が高温となる。この場合、熱処理炉の運転を停止させなくても、熱音響装置10における運転を停止させることが可能となる。
【0046】
ループ管11において、作動気体の仕事流の循環が不成立の状態になろうとしていると、つまり、熱源29による前記仕事流の増加と、冷却対象37による前記仕事流の消費とのバランスが崩れようとすると、制御部45は、まず、前記の通常運転制御を実行する。つまり、バランスが崩れようとすると、制御部45は、振動膜39の剛性を高くして、作動気体の振幅量を小さくしたり、振動膜39の剛性を低くして、作動気体の振幅量を大きくしたりする。これにより前記バランスを整える。この通常運転制御を実行しても、前記バランスの崩れが解消できないような場合、制御部45はフェールセーフ制御を実行してもよい。つまり、仕事流が振動膜39によって止められる。
【0047】
作動気体の仕事流と相関のあるパラメータが、前記説明では、作動気体の圧力振幅であるが、スタック30又はその周囲の高温側の温度である場合、センサ46は温度センサである。この場合、センサ46による検出の結果、温度がそれまでよりも高い場合、制御部45は、振動膜39の剛性を高める制御を行う。これに対して、センサ46による検出の結果、温度がそれまでよりも低い場合、制御部45は、振動膜39の剛性を低下させる制御を行う。
【0048】
〔ハーベスト電源部について〕
図2に示す熱音響装置10は、更に、ループ管11の管壁12に設けられている振動発電部50と、ハーベスト電源部51とを備える。ループ管11において熱音響現象が発生すると、前記のとおり、作動気体が振動し、音波が発生する。このため、管壁12は振動する。そこで、圧電素子により構成される振動発電部50が管壁12に取付けられていて、管壁12の振動により、前記圧電素子が変形する。前記圧電素子の圧電効果により、振動発電部50から電気エネルギーが出力される。このように、振動発電部50は、圧電素子を含む構成であり、管壁12の振動を電気エネルギーに変換する。ハーベスト電源部51は、振動発電部50により得られた電気エネルギーを基にして、振動膜39に所要の物理量(電圧)を作用させるためのエネルギーを出力する。本開示では、ハーベスト電源部51は、電気エネルギーを電圧として出力し、振動膜39に電圧を印加する。
【0049】
図2に示す振動膜構造部40は、スイッチ52を備えている。スイッチ52は、振動膜39に電圧を印加するための電源を、通常の電源44とハーベスト電源部51とから択一的に選択するように、通電経路を切り替える動作を行う。この切り替える動作は、制御部45の制御信号に基づいて行われる。例えば、熱音響装置10の運転開始から作動気体の振動発生までの間、振動膜39の剛性を変化させるために、通常の電源44が使用され、作動気体の振動が発生した後においては、ハーベスト電源部51が使用される。ハーベスト電源部51が設けられていることで、省エネルギーで熱音響装置10を作動させることが可能となる。
【0050】
なお、図示しないが、通常の電源44とハーベスト電源部51との内の一方が省略されていてもよい。振動膜39が拘束部材47によってループ管11に取付けられている状態で、その振動膜39の剛性は、所定の初期剛性に設定されている。前記初期剛性は、熱音響装置10を始動させるために、スタック20において所定の温度差が発生すると、前記のフェールセーフ制御のような振動を抑制する剛性ではなく、作動気体をループ管11内で振動可能とさせる剛性である。作動流体の振動が開始されると、振動発電部50は管壁12の振動を電気エネルギーに変換して出力する。そして、この電気エネルギーを基に、ハーベスト電源部51は振動膜39へ電力供給し、振動膜39の剛性が変化する。この場合、通常の電源44が不要となる。つまり、作用部41の電源は、ハーベスト電源部51であってもよい。
【0051】
〔本開示の熱音響装置10について〕
以上のように本開示の熱音響装置10は、作動気体が封入されるループ管11と、ループ管11内に設けられているスタック20,30と、振動膜構造部40とを備える。スタック20,30には、ループ管11の管軸方向に温度勾配が生じる。振動膜構造部40は、ループ管11内に設けられている振動膜39と、作用部41とを有する。振動膜39は、管軸方向に交差(直交)する方向の面39aを有していて、管軸方向の成分を有して振動可能である。作用部41は、振動膜39に所要の物理量を作用させることで振動膜39の管軸方向の剛性を変化させる。本開示の前記物理量は、電圧である。
【0052】
振動膜39の特性(剛性)はループ管11内の作動気体の動きに影響を与える。そこで、前記構成を備える熱音響装置10によれば、振動膜39を取替しなくても、作用部41が振動膜39に電圧を印加することで、振動膜39の剛性(みかけの剛性)が変化する。振動膜39を作動気体の動きに応じた剛性とすれば、熱音響現象によって得られる仕事の効率をより一層向上させることが可能となる。
【0053】
振動膜構造部40は、制御部45を有し、制御部45は、振動膜39に作用させる物理量(電圧)を変化させる制御を行う。制御部45によれば、熱音響装置10の状況に応じて、つまり、作動気体の動きに応じて、振動膜39の剛性を様々変化させることが可能となる。
【0054】
熱音響装置10は、作動気体の仕事流と相関のあるパラメータを検出するためのセンサ46を備える。本開示では、前記パラメータは、ループ管11内の作動気体の圧力振幅である。パラメータは、スタック30の温度若しくはスタック30の周囲温度であってもよい。スタック30の温度(周囲温度)及び作動気体の圧力振幅は、作動気体の仕事流の大きさに影響を与えるパラメータである。そこで、センサ46を用いて前記パラメータを検出することで、仕事流に応じて振動膜39の剛性の調整が可能となる。このため、熱音響現象によって得られる仕事の効率をより一層向上させることが可能となる。
【0055】
振動膜39は、例えば、運転開始初期の圧力振幅及び安定振動時の圧力振幅等、作動気体の状態に合わせた剛性を有することができる。また、熱音響装置10の出力を高めるために、作動気体の充填圧を高めた場合、その充填圧に応じて、振動膜39の剛性を変化させるのが好ましい。本開示の熱音響装置10によれば、これが可能となる。振動膜39の剛性の変化は、作動気体の振動の最中に可能である。なお、従来では、振動膜の剛性を変更するためには、装置を分解し、振動膜を交換し、装置の組み直しが必要であった。組み直しを行うと、振動膜の位置等の微調整が必要となる。しかし、本開示の熱音響装置10によれば、振動膜39の剛性を変更するために、装置の組み直しが行われない。このため、従来のような前記微調整は省略される。
【0056】
ループ管11内の作動気体の仕事流が小さくなることで前記パラメータが変化すると、制御部45は、振動膜39の剛性を低下させる。これとは反対に、前記仕事流が大きくなることで前記パラメータが変化すると、制御部45は、振動膜39の剛性を高める(以上、通常運転制御)。この通常運転制御によれば、作動気体の仕事流が小さくなっている場合、振動膜39の剛性が低下し、作動気体の振動が振動膜39によって阻害されにくくなり、仕事流が大きくなるように熱音響装置10が調整される。これに対して、作動気体の仕事流が大きくなっている場合、振動膜39の剛性が高まり、作動気体の振動が振動膜39によって抑制され、仕事流が小さくなるように熱音響装置10が調整される。
【0057】
また、制御部45は、前記のとおり、フェールセーフ制御を行うことができる。つまり、制御部45は、前記パラメータが閾値を超えると、振動膜39の剛性を、作動気体の振動を抑制可能とする剛性に高める。この制御によれば、例えば、スタック20に熱を与えるための熱源29側の設備で、その運転を停止させなくても、熱音響装置10における熱音響現象を停止させることが可能となる。
【0058】
以上より、本開示の熱音響装置10によれば、振動膜39を取替しなくても、振動膜39の剛性を変化させることができる。これにより、熱音響現象によって得られる仕事の効率をより一層向上させることが可能となる。
【0059】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、ループ管11の形状、スタック20,30の配置等は、図示した形態以外であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10:熱音響装置 11:ループ管 12:管壁
20:第一スタック 30:第二スタック 39:振動膜
39a:面 39b:周縁部 39c:中央側の領域
40:振動膜構造部 41:作用部 42,43:電極
44:電源 45:制御部 46:センサ
47:拘束部材 50:振動発電部 51:ハーベスト電源部
図1
図2
図3