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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】III族窒化物積層体
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20230612BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20230612BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/20
H01L21/66 N
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022009408
(22)【出願日】2022-01-25
(62)【分割の表示】P 2018558874の分割
【原出願日】2017-11-09
(65)【公開番号】P2022051780
(43)【公開日】2022-04-01
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2016253149
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年5月11日 ウェブサイト<http://iopscience.iop.org/article/10.7567/JJAP.56.061001>に掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年8月29日 ウェブサイト<http://ieeexplore.ieee.org/document/8017493/?arnumber=8017493&source=authoralert>に掲載
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、環境省、未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業「高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証」に係る委託業務、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
(72)【発明者】
【氏名】三島 友義
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-206424(JP,A)
【文献】特開2014-141413(JP,A)
【文献】特開2010-141037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
H01L 21/00-21/98
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム基板、および、前記窒化ガリウム基板の主面の上方に形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体であって、
前記窒化ガリウム基板は、
前記窒化ガリウム基板の主面内で5×10cm-2以下の最大欠陥密度を有するとともに、
前記窒化ガリウム基板の前記主面上に画定した位置Aを通り、前記位置Aにおけるオフ角の方位と平行な線分B上に配置された各位置で、オフ角の方位が、前記位置Aと同一であり、かつ、オフ角の大きさが、前記線分Bの一端から他端に向かって、前記一端からの距離に比例して単調に変化しており、
前記III族窒化物エピタキシャル層は、
1×1016cm-3未満のn型不純物濃度を有するとともに、前記n型不純物濃度の1/10以上かつ前記n型不純物濃度以下である炭素濃度を有する、
III族窒化物積層体。
【請求項2】
前記主面上に、前記線分Bとして、長さ2インチにわたる線分が存在する、請求項1に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項3】
前記主面において、前記最大欠陥密度は、平均的な欠陥密度の10倍以下である、請求項1または2に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項4】
前記主面の全域にわたって、オフ角の大きさが0.1°以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項5】
前記窒化ガリウム基板の中心におけるオフ角の方位が、a軸方向と平行である、請求項1~4のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項6】
前記窒化ガリウム基板の中心におけるオフ角の方位が、m軸方向と平行である、請求項1~4のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項7】
前記窒化ガリウム基板と前記III族窒化物エピタキシャル層との間に、他のIII族窒化物エピタキシャル層が介在している、請求項1~6のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項8】
前記III族窒化物エピタキシャル層における、フォトルミネッセンスの、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度に対して、前記III族窒化物エピタキシャル層が有するアクセプタ濃度が、比例する傾向を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項9】
前記III族窒化物エピタキシャル層における、炭素濃度に対するアクセプタ濃度の割合である炭素の活性化率が、50%以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項10】
前記III族窒化物エピタキシャル層における、フォトルミネッセンスの、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度について、
前記窒化ガリウム基板の主面の法線方向とc軸方向とがなすオフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係が、オフ角の大きさが増加するにつれて、相対黄色強度が減少するとともに、相対黄色強度が減少する度合いが小さくなる傾向を有する、
請求項2~9のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項11】
前記III族窒化物エピタキシャル層における、フォトルミネッセンスの、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度について、
前記III族窒化物エピタキシャル層上で、相対黄色強度が第1の一定値を示す位置が、第1の円弧、または、第1の楕円弧に沿って分布し、相対黄色強度が前記第1の一定値と異なる第2の一定値を示す位置が、前記第1の円弧と同心の第2の円弧、または、前記第1の楕円弧と同心の第2の楕円弧に沿って分布する、
請求項2~9のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物積層体の製造方法、検査方法、および、III族窒化物積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物半導体は、光デバイス、電子デバイス等の半導体装置の材料として有用である。III族窒化物基板の上方にIII族窒化物エピタキシャル層(以下、エピ層と略すことがある)が形成されたIII族窒化物積層体は、サファイア等の異種基板の上方にエピ層が形成された積層体と比べて、結晶品質の良いエピ層を有する(III族窒化物基板上にエピ層を成長させて半導体装置を構成することについては、例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
III族窒化物積層体を用いた半導体装置において、エピ層の結晶品質は、動作性能に大きく影響する。このため、エピ層の結晶品質を検査する技術は、重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-254970号公報
【文献】特許第5544723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、III族窒化物積層体におけるエピ層の結晶品質の検査に用いることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体であって、
前記III族窒化物基板は、
前記III族窒化物基板の主面内で5×10cm-2以下の最大欠陥密度を有するとともに、
前記III族窒化物基板の前記主面上に画定した位置Aを通り、前記位置Aにおけるオフ角の方位と平行な線分B上に配置された各位置で、オフ角の方位が、前記位置Aと同一であり、かつ、オフ角の大きさが、前記線分Bの一端から他端に向かって、前記一端からの距離に比例して単調に変化しており、
前記III族窒化物エピタキシャル層は、
1×1016cm-3未満のn型不純物濃度を有するとともに、前記n型不純物濃度の1/10以上かつ前記n型不純物濃度以下である炭素濃度を有する、
III族窒化物積層体
が提供される。
【発明の効果】
【0007】
オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係は、III族窒化物積層体におけるエピ層の結晶品質の検査に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態による検査方法の概略的な流れを示すフローチャートである。
図2図2(a)は、III族窒化物積層体の概略断面図であり、図2(b)は、III族窒化物積層体に対するPLマッピング測定の状況を示す概略断面図である。
図3図3(a)は、概略的に示したPL発光スペクトルであり、図3(b)は、オフ量と相対黄色強度との対応関係を概略的に示すグラフである。
図4図4は、実施形態の第1変形例による検査方法の概略的な流れを示すフローチャートである。
図5図5は、実施形態の第2変形例による検査方法の概略的な流れを示すフローチャートである。
図6図6は、応用例による物理量の推測方法の概略的な流れを示すフローチャートである。
図7図7(a)は、六方晶のIII族窒化物結晶の方位を例示する概略平面図であり、図7(b)は、実験例における基板のオフ角分布を例示する概略断面図であり、図7(c)は、実験例におけるa-off基板、m-off基板、m-off改良基板それぞれのオフ角分布を示す概略図である。
図8図8は、実験例における各基板の中心線分上のオフ量を、基板上の位置に対して示すグラフである。
図9図9(a)は、実験例におけるエピ層の成長工程を示す概略平面図であり、図9(b)は、実験例におけるIII族窒化物積層体を示す概略断面図である。
図10図10(a)および図10(b)は、それぞれ、実験例におけるIII族窒化物積層体の相対黄色強度を、基板上の位置に対して示すグラフ、および、オフ量に対して示すグラフである。
図11図11(a)は、実験例におけるIII族窒化物積層体のキャリア濃度(正味のドナー濃度)およびアクセプタ濃度をオフ量に対して示すグラフであり、図11(b)は、アクセプタ濃度を相対黄色強度に対して示すグラフである。
図12図12は、物理量マップ付きIII族窒化物積層体を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態>
本発明の一実施形態によるIII族窒化物積層体の検査方法について説明する。図1は、実施形態による検査方法の概略的な流れを示すフローチャートである。
【0010】
まず、ステップS1では、基準となるIII族窒化物積層体100(以下、積層体100または基準積層体100)を準備する。
【0011】
図2(a)は、積層体100の概略断面図である。積層体100は、III族窒化物半導体で構成されている。III族窒化物半導体としては、窒化ガリウム(GaN)系半導体、つまりガリウム(Ga)および窒素(N)を含有する半導体が用いられる。GaN系半導体として、GaNを例示するが、GaN系半導体としては、GaNに限定されず、GaおよびNに加え必要に応じてGa以外のIII族元素を含むものを用いてもよい。
【0012】
Ga以外のIII族元素としては、例えばアルミニウム(Al)やインジウム(In)が挙げられる。ただし、Ga以外のIII族元素は、格子歪低減の観点から、GaN系半導体のGaNに対する格子不整合が、1%以下となるように含有されることが好ましい。GaN系半導体中に許容される含有量は、例えばAlGaN中のAlについてはIII族元素の内40原子%以下であり、また例えばInGaN中のInについてはIII族元素の内10原子%以下である。なお、InAlGaNは、InAlN中のInがIII族元素の内10原子%以上30原子%以下となるInAlNと、GaNとを任意の組成で組合せたInAlGaNであっても良い。Al組成およびIn組成が上記の範囲内にあると、GaNとの格子歪が大きくなりにくいためクラックが入りにくくなる。
【0013】
積層体100は、III族窒化物基板110(以下、基板110)、および、基板110の上方に形成されたIII族窒化物エピタキシャル層120(以下、エピ層120)を有する。なお、基板110とエピ層120との間に、他のIII族窒化物エピタキシャル層が介在していてもよい。積層体100に用いられる基板110として好ましい特性の詳細については後述する。
【0014】
基板110は、主面111を有する。主面111の法線方向と、基板110を構成するIII族窒化物結晶のc軸方向とのなす角が、オフ角である。オフ角は、方位と大きさとで規定される。オフ角の方位を「オフ方向」と呼び、オフ角の大きさを「オフ量」と呼ぶこととする。
【0015】
基板110は、c面基板である。基板110がc面基板であるとは、主面111の全域に亘って、オフ量が、例えば、0°以上1.2°以下であることをいう。
【0016】
基板110について、主面111内でのオフ角分布が取得されている。つまり、主面111内でのオフ方向およびオフ量の少なくとも何れかが既知であり、中でもオフ量が既知である。ここで、主面111内でのオフ角分布を測定する工程は、ステップS1に含まれてもよい。オフ角分布の測定には、X線回折を用いることができる。オフ角分布が既知の基板110を用いる場合、オフ角分布の測定工程は、ステップS1に含まれなくてもよい。
【0017】
エピ層120は、基板110の主面111の上方に有機金属気相成長(MOVPEまたはMOCVD、以下MOVPE)で形成されている。このため、エピ層120には、III族有機原料ガスに由来する炭素が、意図せずとも、不純物として混入している。ここで、エピ層120の成長工程は、ステップS1に含まれてもよい。エピ層120が既に形成された積層体100を入手することで積層体100を準備する場合、エピ層120の成長工程は、ステップS1に含まれなくてもよい。
【0018】
基板110およびエピ層120は、n型の導電型を有する。n型不純物としては、例えば、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等が用いられる。基板110には、n型不純物が、例えば、1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下の濃度で添加されている。エピ層120には、n型不純物が、例えば、3×1015cm-3以上5×1016cm-3以下の濃度で添加されている。エピ層120のn型不純物濃度は、基板110のn型不純物濃度よりも低い。基板110の厚さは、特に制限されないが、例えば400μmである。エピ層120の厚さは、例えば、10μm以上30μm以下である。
【0019】
エピ層120は、積層体100と同様なIII族窒化物積層体を用いて、例えばショットキーダイオード、pn接合ダイオード等の半導体装置を製造するとき、ドリフト層に対応する。エピ層120のn型不純物濃度は、オン抵抗抑制の観点から、低すぎないことが好ましく、例えば3×1015cm-3以上であることが好ましい。また、エピ層120のn型不純物濃度は、耐圧向上の観点から、高すぎないことが好ましく、例えば5×1016cm-3以下であることが好ましく、1×1016cm-3未満であることがより好ましい。エピ層120の厚さは、耐圧向上の観点から、薄すぎないことが好ましく、例えば10μm以上であることが好ましい。また、エピ層120の厚さは、オン抵抗抑制の観点から、厚すぎないことが好ましく、30μm以下であることが好ましい。
【0020】
以上のように、ステップS1では、基板110、および、基板110の主面111の上方に形成されたエピ層120を有する積層体100を準備する。
【0021】
次に、ステップS2では、積層体100について、フォトルミネッセンス(PL)マッピング測定を行い、相対黄色強度を取得し、オフ量と相対黄色強度との対応関係を取得する。
【0022】
図2(b)は、積層体100に対するPLマッピング測定の状況を示す概略断面図である。PLマッピング測定では、エピ層120の表面121に画定された測定位置122の微小領域、例えば直径5μmの領域に対してPL測定を行うことで、測定位置122でのPL発光スペクトルが取得される。励起光源10から励起光11が測定位置122に照射されて、PL光12が放出される。PL光12が検出器13に入射して、測定位置122に対応するPL発光スペクトルが取得される。
【0023】
図3(a)は、概略的に示したPL発光スペクトル20である。横軸は、nm単位で表した波長であり、縦軸は、任意単位で表した強度である。PL発光スペクトル20は、バンド端発光のピーク21と、黄色発光のピーク22とを有する。黄色発光のピーク22は、エピ層120に混入した炭素、ガリウム空孔等に起因する深い準位に対応するピークであると考えられる。
【0024】
バンド端発光のピーク21のピーク波長λNBEは、エピ層120の組成によって変動し得るが、例えばGaNの場合、ピーク波長λNBEは365nmであり、これに対応するエネルギーは3.4eVである。黄色発光のピーク22のピーク波長λYLは、エピ層120の組成、成長条件等によって変動し得るが、500nm以上650nm以下の範囲内の波長といえ、例えばGaNの場合、ピーク波長λYLは564nmであり、これに対応するエネルギーは2.2eVである。なお、バント端発光ピーク波長λNBEおよび黄色発光ピーク波長λYLは、GaN系半導体中のAlもしくはInの量によって変化する。
【0025】
ピーク21は、発光強度IntNBEを有し、ピーク22は、発光強度IntYLを有する。相対黄色強度は、バンド端発光強度IntNBEに対する黄色発光強度IntYLの比IntYL/IntNBEと定義される。
【0026】
測定位置122と、その直下に配置された基板110の主面111内の位置とを、平面視上同一の位置として扱うことができる。測定位置122として、主面111内でのオフ量が既知である位置が選択される。オフ量が異なる複数の測定位置122に対して、PLマッピング測定が行われる。複数の測定位置122に対してPL測定を行うことで、表面121内におけるPL発光スペクトルの分布が取得される。
【0027】
なお、本実施形態では、1箇所以上の測定位置に対するPL発光スペクトルの取得を行う測定について、PLマッピング測定と呼ぶ。つまり、測定位置の走査を行わずに、言い換えると、2箇所以上の測定位置に対するPL発光スペクトルの取得は行わずに、1箇所の測定位置に対するPL発光スペクトルの取得を行う測定であっても、PLマッピング測定と呼ぶ。
【0028】
各測定位置122に対して取得されたPL発光スペクトルについて、相対黄色強度が算出される。つまり、オフ量が異なる各測定位置122に対して、相対黄色強度が算出される。
【0029】
そして、オフ量と相対黄色強度とを対応付けることで、オフ量と相対黄色強度との対応関係が取得される。
【0030】
図3(b)は、オフ量と相対黄色強度との対応関係(以下単に、対応関係と呼ぶことがある)を概略的に示すグラフである。横軸は、°単位で表したオフ量であり、縦軸は、任意単位で表した相対黄色強度である。実線30が対応関係のグラフを示す。なお、上下の破線31、32は後述の許容範囲の境界線を示す。
【0031】
以下に説明する対応関係に関する知見は、詳細は後述の実験例で説明するように、本願発明者により見出されたものである。相対黄色強度は、オフ方向には依存せず、つまり、オフ方向がa軸方向であるかm軸方向であるかには依存せず、オフ量に依存して定まる。つまり、オフ量と相対黄色強度とは、オフ方向に依存しない対応関係を持つ。
【0032】
対応関係は、オフ量が増加するにつれて、相対黄色強度が減少するとともに、相対黄色強度が減少する度合いが小さくなる傾向を有する。このような対応関係は、オフ量をθoffと表し、相対黄色強度をInt(θoff)と表したとき、指数関数の減衰定数λ、指数関数の引数をゼロとする臨界オフ量θ、指数関数に乗じられる定数A、および、指数関数に加算される定数Intを用いて、式(1)で近似的に表すことができる。
【数1】
【0033】
以上のように、ステップS2では、積層体100のオフ量が異なる複数の測定位置について、PLマッピング測定を行い、バンド端発光強度IntNBEに対する黄色発光強度IntYLの比である相対黄色強度を取得し、オフ量と相対黄色強度との対応関係を取得する。
【0034】
次に、ステップS3では、検査対象となるIII族窒化物積層体200(以下、積層体200または検査積層体200)を準備する。
【0035】
検査積層体200としては、基準積層体100と同様な構造のものが用いられるため、再び図2(a)を参照して説明を行う。図2(a)は、積層体200の概略断面図である。積層体200は、III族窒化物基板210(以下、基板210)の主面211の上方にMOVPEで形成されたIII族窒化物エピタキシャル層220(以下、エピ層220)を有する。
【0036】
基準積層体100について取得された対応関係を、検査積層体200の検査に適用する観点から、検査積層体200のエピ層220の成長条件は、基準積層体100のエピ層120の成長条件と同一に制御されていることが好ましい。つまり、MOVPEにおける、原料ガス等の供給ガスの種類、V/III比等の供給ガスの供給条件、成長温度、成長圧力等は、基準積層体100のエピ層120の成長と、検査積層体200のエピ層220の成長とで、同一に制御されていることが好ましい。なお、エピ層120およびエピ層220の成長条件を、完全に一致させることは困難であるため、両者は許容誤差内で実質的に同一とすることが好ましい。
【0037】
n型不純物濃度は、エピ層120とエピ層220とで同一に制御されていることが好ましく、エピ層120のn型不純物濃度に対する、エピ層220のn型不純物濃度の誤差は、±2%以内であることが好ましい。また、層の厚さは、エピ層120とエピ層220とで同一に制御されていることが好ましく、エピ層120の厚さに対する、エピ層220の厚さの誤差は、±5%以内であることが好ましい。
【0038】
基板210について、主面211内でのオフ角分布が取得されている。つまり、主面211内でのオフ方向およびオフ量の少なくとも何れかが既知であり、中でもオフ量が既知である。ここで、主面211内でのオフ角分布を測定する工程は、ステップS3に含まれてもよい。オフ角分布の測定には、X線回折を用いることができる。オフ角分布が既知の基板210を用いる場合、オフ角分布の測定工程は、ステップS3に含まれなくてもよい。
【0039】
エピ層220の成長工程は、ステップS3に含まれてもよい。エピ層220が既に形成された積層体200を入手することで積層体200を準備する場合、エピ層220の成長工程は、ステップS3に含まれなくてもよい。
【0040】
以上のように、ステップS3では、基板210、および、基板210の主面211の上方に形成されたエピ層220を有する積層体200を準備する。
【0041】
次に、ステップS4では、積層体200について、PLマッピング測定を行い、相対黄色強度を取得する。
【0042】
PLマッピング測定は、基本的に、積層体100に対するものと同様であるため、再び図2(b)を参照して説明を行う。測定条件、例えば、励起光の波長、パワー、スポットサイズ等は、積層体100に対するものと同一に制御されていることが好ましい。PLマッピング測定では、エピ層220の表面221に画定された検査位置222でのPL発光スペクトルが取得される。少なくとも1箇所の検査位置222に対して、PLマッピング測定が行われる。
【0043】
検査位置222と、その直下に配置された基板210の主面211内の位置とを、平面視上同一の位置として扱うことができる。検査位置222として、主面211内でのオフ量が既知である位置が選択される。検査位置222におけるオフ量を、検査位置オフ量と呼ぶ。
【0044】
検査位置222に対して取得されたPL発光スペクトルについて、相対黄色強度が算出される。つまり、検査位置オフ量を有する検査位置222に対して、相対黄色強度が算出される。
【0045】
以上のように、ステップS4では、積層体200の検査位置222について、PLマッピング測定を行い、相対黄色強度を取得する。
【0046】
次に、ステップS5では、積層体200について、ステップS4で得た相対黄色強度と、ステップS2で得た対応関係から求めた相対黄色強度とを比較する。
【0047】
ステップS2で得た対応関係から、以下のように相対黄色強度が求められる。検査位置222について、検査位置オフ量から、対応関係に基づいて、相対黄色強度が算出される。より具体的に説明すると、検査位置オフ量θoffを、式(1)に代入することで、検査位置222での相対黄色強度Int(θoff)が算出される。
【0048】
再び図3(b)を参照し、比較の2つの例について説明する。白丸印33は、検査位置オフ量θoffから対応関係に基づいて算出された相対黄色強度(これを相対黄色強度33と呼ぶ)を示す。黒丸印34、35は、ステップS4での検査位置222に対するPLマッピング測定から得られた相対黄色強度を、検査位置オフ量θoffに対する値として示す。黒丸印34が、第1の例の相対黄色強度(これを相対黄色強度34と呼ぶ)を示し、黒丸印35が、第2の例の相対黄色強度(これを相対黄色強度35と呼ぶ)を示す。
【0049】
第1の例は、PLマッピング測定から得られた相対黄色強度34が、対応関係から得られた相対黄色強度33とよく一致している(差が許容範囲内である)例である。相対黄色強度34が相対黄色強度33とよく一致している場合、積層体200のエピ層220の検査位置222における結晶成長が、正常に行われたと判定される。つまり、エピ層220の結晶品質が良好であると判定される。
【0050】
第2の例は、PLマッピング測定から得られた相対黄色強度35が、対応関係から得られた相対黄色強度33と大きく乖離し、それらの差が許容範囲を超えている例である。相対黄色強度35が相対黄色強度33と大きく乖離している場合、積層体200のエピ層220の検査位置222における結晶成長が、正常には行われなかったと判定される。
【0051】
相対黄色強度33からの差の許容範囲は、必要に応じて適宜設定されてよい。本例では、破線31と破線32との間の領域が、許容範囲を示す。破線31および破線32は、それぞれ、式(1)のパラメータλ、A、Intを、実線30を表すパラメータλ、A、Intの50%増および50%減とした曲線である。
【0052】
例えば、III族有機原料ガスの分解が不十分であることや、結晶成長装置のサセプタから炭化ケイ素(SiC)コーティングが剥がれること等により、結晶成長が正常には行われない場合が考えられる。このような場合、エピ層220に混入する炭素の濃度が大幅に増えることで、相対黄色強度が強くなり、対応関係(実線30)から上方への乖離が大きくなる。相対黄色強度が許容範囲から外れる検査位置が多く、何らかの異常が推定される場合、結晶成長条件や結晶成長装置の検査や調整を行うとよい。
【0053】
一方、対応関係(実線30)から下方への大きな乖離、つまり、相対黄色強度が弱くなることは、エピ層220の結晶品質がむしろ良好であるとも解釈でき、生じにくいと思われるが、生じる可能性はある。下方への乖離が大きい場合は、結晶成長条件や結晶成長装置以外に、PLマッピング測定装置等について検査や調整を行ってもよい。
【0054】
以上のように、ステップS5では、積層体200の検査位置222に対するPLマッピング測定から取得された相対黄色強度と、検査位置オフ量に対して対応関係から取得された相対黄色強度とを比較する。
【0055】
次に、ステップS6では、ステップS5の比較に基づいて、エピ層220の結晶成長が正常に行われたと判定された積層体200を、良品として選別する。良品として選別された積層体200は、半導体装置を製造するための材料として供される。なお、半導体装置を製造するためにステップS6以降に実施されるステップでは、エピ層220上方への電極形成工程等が行われる。
【0056】
このようにして、実施形態によるIII族窒化物積層体の検査方法が行われる。実施形態の検査方法によれば、オフ量と相対黄色強度との対応関係を用いることにより、検査積層体200のエピ層220の結晶成長が正常に行われたか否かを検査することができる。そして、結晶成長が正常に行われたと判定された場合、当該検査積層体200を良品として半導体装置の材料に供することができる。また、結晶成長が正常には行われなかったと判定された場合、例えば、さらに、成長条件や結晶成長装置等の検査や調整を行うことができる。検査積層体200の検査位置222は、1箇所であってもよく、2箇所以上であってもよい。実施形態の検査方法は、検査位置222に対するPLマッピング測定で実施できるため、非破壊で簡便に行うことができる。
【0057】
なお、対応関係を取得するために用いる基準積層体100は、1つであってもよいし、後述の実験例のように、2つ以上つまり複数であってもよい。複数の積層体100を用いることで、後述のように、1つの積層体100のみを用いる場合と比べて、広い範囲のオフ量について高い精度で対応関係を取得することが容易になる。
【0058】
なお、図1のフローチャートで説明したステップS1~S5の順序は、適宜変更してもよい。積層体100を準備するステップS1は、積層体100についてPLマッピング測定等を行うステップS2の前に行われればよい。積層体200を準備するステップS3は、積層体200についてPLマッピング測定等を行うステップS4の前に行われればよい。対応関係を取得するステップS2、および、積層体200のPLマッピング測定から相対黄色強度を取得するステップS4は、積層体200のPLマッピング測定から求めた相対黄色強度と、対応関係から求めた相対黄色強度とを比較するステップS5の前に行われればよい。対応関係を取得するステップS2と、積層体200のPLマッピング測定から相対黄色強度を取得するステップS4とは、どちらが前に行われてもよい。
【0059】
積層体100は、エピ層120の相対黄色強度について、オフ量と相対黄色強度との対応関係が、オフ量が増加するにつれて、相対黄色強度が減少するとともに、相対黄色強度が減少する度合いが小さくなる傾向を有するIII族窒化物積層体と捉えることができる。
【0060】
次に、基板110の製造方法について説明する。また、積層体100に用いられる基板110として好ましい特性の詳細について説明する。基板110は、ボイド形成剥離(VAS)法を用いたハイドライド気相成長(HVPE)により製造される。
【0061】
VAS法では、まず、成長基板上に下地層が形成される。成長基板としては、例えばサファイア基板が用いられる。下地層としては、例えば、有機金属気相成長により低温成長GaNバッファ層およびSiドープGaN層が形成される。次に、下地層上に金属層が形成される。金属層としては、例えば、蒸着によりチタン層が形成される。
【0062】
次に、金属層を、窒化剤ガスを含む雰囲気中で熱処理することにより窒化し、表面に高密度の微細な穴を有する金属窒化層を形成する。また、当該熱処理により、金属窒化層の穴を介して下地層の一部がエッチングされ、ボイド含有下地層が形成される。
【0063】
積層体100に用いるのに好ましい基板110を得るために、本例では、当該熱処理が以下のような特徴を持つ。当該熱処理は、ボイド含有下地層中に占めるボイドの体積比率である「ボイド化率(体積空隙率)」が、成長基板上で周方向に均等化されるように行われる。具体的には、例えば、成長基板を載置するサセプタを回転させることで、周方向に均等な熱処理を行う。また例えば、成長基板の面内でヒータの加熱具合を調節することで、成長基板の温度分布を周方向に均等にする。
【0064】
さらに、当該熱処理は、ボイド含有下地層のボイド化率が、成長基板の中心側から外周側に向けて径方向に増加するように行われる。具体的には、例えば、成長基板の面内でヒータの加熱具合を調節することで、成長基板の温度を中心側から外周側に向けて径方向に単調に高くする。
【0065】
次に、HVPEにより、成長基板のボイド含有下地層上および金属窒化層上に、厚い本格成長層としてSiドープGaN層を成長させる。この成長において、本格成長層と金属窒化層との間には、ボイド含有下地層に存在するボイドを起因とする空隙が形成される。ボイド含有下地層のボイド化率を上述のように制御したことで、当該空隙は、周方向に均等に、また、径方向中心側から外側に向けて大きくなるように形成される。
【0066】
本格成長層の成長が終了した後の冷却過程において、本格成長層は、金属窒化層との間に形成された空隙を境に成長基板から自然に剥離する。当該空隙が、周方向に均等で、径方向中心側から外側に向けて大きくなるように形成されていることで、本格成長層を、成長基板の外周側から中心側に向けて剥離が進むように、周方向に均等に剥離させることができる。剥離後の本格成長層をスライスすることで、基板110が得られる。
【0067】
本格成長層は、成長面側(表面側)の欠陥密度が低く、成長基板側(裏面側)の欠陥密度が高くなっている。このような欠陥密度差に起因して、剥離した本格成長層は、表面側が凹となるように反る。このように反った本格成長層をスライスすることで得られる基板110の主面には、オフ角分布が生じることとなる。
【0068】
上述のようなVAS法により作製された基板110は、少なくとも以下の2点について、積層体100に用いるのに好ましい。第1に、基板110は、主面111が欠陥密度の極端に高い領域を有さない点で好ましい。これにより、上述のようなオフ量と相対黄色強度との対応関係を有する積層体100を得ることができる。
【0069】
基板として、主面に欠陥密度が極端に高い領域が存在しているものを用いると、当該領域上に成長したエピ層は、結晶品質が良好でないため、相対黄色強度が強くなる。このため、欠陥密度が極端に高い領域上と、それ以外の領域上とでは、オフ量が同一であっても、相対黄色強度が大きく異なってしまい、上述のようなオフ量と相対黄色強度との対応関係が得られない。
【0070】
欠陥密度についての好ましい条件は、具体的には例えば以下のようなものである。基板110の主面111内で、カソードルミネッセンス(CL)法により、3mm角の測定領域中で、観察領域を走査して測定を行った場合、最大の欠陥密度は、5×10cm-2以下である。最大の欠陥密度は、より好ましくは平均的な欠陥密度の10倍以下であり、さらに好ましくは最小の欠陥密度の10倍以下である。最大の欠陥密度の一例を挙げると、4.7×10cm-2である。
【0071】
第2に、基板110は、以下のようなオフ角分布を有する点で好ましい。基板110の主面111上に、ある位置Aを考える。位置Aは、例えば基板110の中心(以下、基板中心と呼ぶ)に画定されるが、基板中心以外に画定されてもよい。なお、円形基板において、オリフラ等の切除部がある場合は、基板中心とは、切除部を補った円形の中心である。主面111上に、位置Aを通り、かつ、位置Aにおけるオフ方向と平行な線分Bを考える。線分B上に配置された各位置では、オフ方向が、位置Aと同一(線分Bと平行)であり、かつ、オフ量が、線分Bの一端から他端に向かって、一端からの距離に比例して単調に変化している(図7(c)および図8参照)。
【0072】
上述の方法では、本格成長層と金属窒化層との間の空隙を、周方向に均等で、径方向中心側から外側に向けて大きくなるように形成することで、本格成長層を、成長基板の外周側から中心側に向けて、周方向に均等に剥離させるようにした。また、このような空隙を形成することで、成長中の本格成長層において、面内で局所的に過剰な応力が発生することも抑制される。
【0073】
このような本格成長層の成長および剥離を行うことで、オフ角分布が滑らかに連続的に変化する基板110を得ることができ、より具体的には、上述のようなオフ量が比例する特性を有する基板110を得ることができる。
【0074】
基板110が、このようなオフ角分布を有し、また、欠陥密度が極端に高い領域を有さないことで、基板110上に成長されるエピ層120が有する物理量、中でも相対黄色強度等の、オフ量に応じて単調に変化する傾向を有する物理量の面内分布を、滑らかに連続的に変化する傾向を有する分布にできる。これにより、エピ層120の有する物理量が同程度の領域を、ひとまとまりの広い領域として、積層体100に設けることができる。このような特性を持つ積層体100は、半導体装置を製造するための材料として好ましい。
【0075】
なお、基準積層体100および基板110を例に、積層体および基板の好ましい特徴について説明したが、このような特徴は、検査積層体200および基板210についても同様である。
【0076】
<第1変形例>
次に、上述の実施形態の第1変形例によるIII族窒化物積層体の検査方法について説明する。図4は、第1変形例による検査方法の概略的な流れを示すフローチャートである。
【0077】
上述の実施形態では、まず、積層体100についてPLマッピング測定等を行うことで、オフ量と相対黄色強度との対応関係を取得する例について説明した(ステップS1、S2)。ただし、一度取得された対応関係は、例えばデータベースとすることで、何度でも利用することができ、第1変形例は、このように、予め取得された対応関係を利用する形態を想定している。
【0078】
まず、ステップS11において、オフ量と相対黄色強度との対応関係を準備する。対応関係は、例えばデータベースの形態で準備される。
【0079】
その後のステップS12~S15は、上述の実施形態におけるステップS3~S6と同様である。つまり、積層体200の検査位置222について、PLマッピング測定を行って相対黄色強度を取得し、PLマッピング測定で得た相対黄色強度と、対応関係から求めた相対黄色強度とを比較して、良品である積層体200を選別する。
【0080】
第1変形例によれば、検査積層体200のPLマッピング測定等に先立ち、対応関係を取得するための基準積層体100のPLマッピング測定等を行う作業を省略することができ、検査を効率化できる。
【0081】
なお、図4のフローチャートで説明したステップS11~S14の順序は、適宜変更してもよい。積層体200を準備するステップS12は、積層体200についてPLマッピング測定等を行うステップS13の前に行われればよい。対応関係を準備するステップS11、および、積層体200のPLマッピング測定から相対黄色強度を取得するステップS13は、積層体200のPLマッピング測定から求めた相対黄色強度と、対応関係から求めた相対黄色強度とを比較するステップS14の前に行われればよい。対応関係を準備するステップS11と、積層体200のPLマッピング測定から相対黄色強度を取得するステップS13とは、どちらが前に行われてもよい。
【0082】
なお、基準積層体100のPLマッピング測定等を行って対応関係を取得すること(上述の実施形態のステップS1、S2)も含めて、対応関係を準備する工程(第1変形例のステップS11)と捉えてもよい。このように捉えた場合、上述の実施形態も、第1変形例に含めることができる。
【0083】
<第2変形例>
次に、上述の実施形態の第2変形例によるIII族窒化物積層体の検査方法について説明する。図5は、第2変形例による検査方法の概略的な流れを示すフローチャートである。
【0084】
上述の実施形態では、基準積層体100について対応関係を取得し(ステップS1、S2)、他の積層体である検査積層体200について検査を行う(ステップS3~S5)例について説明した。基準積層体100のエピ層120は、結晶品質が良好であることが好ましいが、測定位置122によっては、結晶品質が良好でない可能性もある。そこで、基準積層体100について、対応関係を取得するとともに、検査を行ってもよい。第2変形例は、このように、対応関係の取得に用いる基準積層体100が、検査対象である検査積層体を兼ねる形態を想定している。
【0085】
第2変形例では、まず、ステップS21、S22において、上述の実施形態におけるステップS1、S2と同様に、積層体100を準備し、積層体100について、PLマッピング測定を行い、相対黄色強度を取得し、オフ量と相対黄色強度との対応関係を取得する。
【0086】
次に、ステップS23では、特定の測定位置122を検査位置として、当該検査位置についてPLマッピング測定で得た相対黄色強度と、対応関係から求めた相対黄色強度とを比較する。ステップS24では、良品の積層体100を選別する。
【0087】
比較の考え方は、上述の実施形態で積層体200の検査位置222について説明したものと同様である。つまり、PLマッピング測定で得た相対黄色強度が、対応関係から得た相対黄色強度とよく一致している場合、測定位置(検査位置)122における結晶成長が、正常に行われたと判定される。一方、PLマッピング測定で得た相対黄色強度が、対応関係から得た相対黄色強度と大きく乖離している場合、測定位置(検査位置)122における結晶成長が、正常には行われなかったと判定される。
【0088】
第2変形例によれば、積層体100について、対応関係を取得するとともに、個別の測定位置(検査位置)122の結晶品質の良否を検査することができる。
【0089】
以上説明したように、実施形態および第1、第2変形例によるIII族窒化物積層体の検査方法が行われる。なお、実施形態および第1、第2変形例による検査方法は、III族窒化物積層体の評価方法と捉えることもできる。さらに、実施形態および第1、第2変形例による検査方法は、III族窒化物積層体の製造方法の少なくとも一部、または、III族窒化物積層体を用いた半導体装置の製造方法の少なくとも一部として実施することができ、III族窒化物積層体の製造方法、または、半導体装置の製造方法と捉えることもできる。
【0090】
<応用例>
オフ量と相対黄色強度との対応関係は、上述のように、検査位置におけるエピ層の結晶品質を、相対黄色強度により検査することに利用できる。他の実施形態として、対応関係は、以下のように応用してもよい。
【0091】
例えば、次のような応用が考えられる。III族窒化物積層体のエピ層に対して容量-電圧(C-V)測定を行うことで、キャリア濃度(正味のドナー濃度)を測定することができる。なお、後述の実験例で説明するように、C-V測定により、アクセプタの濃度を得ることもできる。オフ量が異なる複数の測定位置に対してC-V測定を行うことで、オフ量とキャリア濃度(または、オフ量とアクセプタ濃度)との対応関係を取得できる。そして、当該対応関係を、オフ量を介して、オフ量と相対黄色強度との対応関係に対応付けることで、相対黄色強度とキャリア濃度(アクセプタ濃度)との対応関係を取得できる。したがって、事前に基準積層体のエピ層についてC-V測定を行っておけば、検査積層体のエピ層については、検査位置に対するPLマッピング測定で相対黄色強度を取得することで、C-V測定を行わずとも、キャリア濃度(アクセプタ濃度)を推測することができる。
【0092】
図6は、このような応用例によるキャリア濃度(アクセプタ濃度)の推測方法の概略的な流れを示すフローチャートである。ステップS31において、オフ量と相対黄色強度との対応関係である第1対応関係を準備する。第1対応関係は、基準積層体に対する測定で準備されてもよいし、データベースの形態で準備されてもよい。ステップS32において、オフ量とキャリア濃度(アクセプタ濃度)との対応関係である第2対応関係を準備する。第2対応関係は、基準積層体に対する測定で準備されてもよいし、データベースの形態で準備されてもよい。ステップS33において、第1対応関係と第2対応関係とを、オフ量を介して対応付けることで、相対黄色強度とキャリア濃度(アクセプタ濃度)との対応関係である第3対応関係を取得する。なお、ステップS31とステップS32とは、どちらを先に行ってもよい。また、ステップS31およびステップS32を省略し、ステップS33において、予めデータベースの形態で準備された第3対応関係を用いてもよい。
【0093】
ステップS34では、検査積層体を準備する。ステップS35では、検査積層体の検査位置について、PLマッピング測定を行って相対黄色強度を取得する。ステップS36では、ステップS35で得た相対黄色強度と、ステップS33で得た第3対応関係とに基づいて、キャリア濃度(アクセプタ濃度)を取得する。ステップS37では、キャリア濃度(アクセプタ濃度)が所定の条件を満たす良品である検査積層体を選別する。
【0094】
また例えば、次のような応用が考えられる。III族窒化物積層体のエピ層に対して2次イオン質量分析(SIMS)測定を行うことで、炭素等の濃度を測定することができる。オフ量が異なる複数の測定位置に対してSIMS測定を行うことで、オフ量と炭素等の濃度との対応関係を取得することができる。当該対応関係を、オフ量を介して、オフ量と相対黄色強度との対応関係に対応付けることで、上述のC-V測定と同様な考え方により、PLマッピング測定で取得された相対黄色強度から、SIMS測定を行わずとも、炭素等の濃度を推測することができる。
【0095】
なお、C-V測定、SIMS測定に限定されず、例えば深い準位過渡分光(DLTS)測定等により得ることができる物理量についても、オフ量と当該物理量との対応関係を、オフ量を介しオフ量と相対黄色強度との対応関係に対応付けて、相対黄色強度と当該物理量との対応関係を得ることで、相対黄色強度から当該物理量を推測できるようにしてもよい。
【0096】
<実験例>
次に、実験例について説明する。本実験例では、基板上方にエピ層を成長させた積層体について、オフ角と相対黄色強度との関係を調べた。基板として、上述のようなVAS法で製造された3種類の基板を用いた。まず、基板について説明する。
【0097】
図7(a)は、六方晶のIII族窒化物結晶の方位を例示する概略平面図である。a軸方向として[11-20]方位、[-12-10]方位、および、[2-1-10]方位を例示し、m軸方向として[10-10]方位、[1-100]方位を例示する。c軸方向は、[0001]方位である。
【0098】
図7(b)は、基板40のオフ角分布を例示する概略断面図である。基板中心を通り、a軸方向と平行な断面図を示す。基板中心のオフ方向がa軸方向と平行な基板(後述のa-off基板)40を例示する。基板40は、主面40aを有する。基板40を構成するIII族窒化物結晶のc面40bを、破線で示す。主面40aの法線方向40cと、c軸方向40dとのなす角が、オフ角である。c面40bが湾曲していることに起因して、主面40a内でオフ角分布が生じている。なお、オフ角分布が生じていることで、つまり主面40a内で結晶のc軸方向40dが変化することで、結晶のa軸方向も変化する。つまり、結晶のa軸方向の、主面40aからの傾きが変化する。本明細書において、説明の煩雑さを避けるため、a-off基板のオフ方向に関して「a軸方向」という場合、結晶のa軸方向自体ではなく、結晶のa軸方向を主面40aに投影した方向(主面40aと平行な方向)を、a軸方向と呼ぶ。後述のm-off基板のオフ方向に関して「m軸方向」という場合も、同様である。
【0099】
本実験例では、基板中心のオフ方向がa軸方向と平行な基板(これをa-off基板と呼ぶ)、および、基板中心のオフ方向がm軸方向と平行な基板(これをm-off基板と呼ぶ)を用いた。1枚のa-off基板と、2枚のm-off基板とを用いた。2枚のm-off基板のうち、1枚は、オフ角分布が小さいもの(これをm-off改良基板と呼ぶ)である。なお、m-off改良基板は、通常のm-off基板を製造する場合よりも厚膜をHVPEで成長させることで、得ることができる。
【0100】
図7(c)は、a-off基板40、m-off基板41、m-off改良基板42それぞれのオフ角分布を示す概略図である。図中で、a-off基板は「a-off VAS」、m-off基板は「m-off VAS」、m-off改良基板は「m-off modified VAS」と示されている。
【0101】
オフ角が(オフ量が)ゼロの位置を原点として、原点から放射状にa軸方向およびm軸方向を示し、原点からの距離に比例させてオフ量を示す。オフ量が0.2°、0.4°、0.6°、0.8°、1.0°の位置を、同心円状に示す。
【0102】
a-off基板40、m-off基板41、m-off改良基板42は、それぞれ、a軸方向端部にオリフラを有する円形基板である。各基板40~42は、円形基板であるが、図7(c)において、極座標的な表示に起因して、楕円状に歪んで表示されている。また、より正確には、原点から遠い側(オフ量が大きい側)の部分が、引き伸ばされて表示されている。m-off改良基板42は、m-off基板41と比べてオフ角分布が小さいため、m-off改良基板42の輪郭は、m-off基板41の輪郭よりも小さく表示されている。
【0103】
オフ角のオフ方向およびオフ量は、各基板40~42の輪郭内の位置として示されている。各基板40~42について、原点は輪郭の外に位置しており、各基板40~42は、主面の全域に亘って、オフ角が(オフ量が)ゼロの場所を有しない。以下、基板40~42を特には区別しない場合、単に、基板と呼ぶことがある。
【0104】
基板の主面上のある位置Aでのオフ方向は、位置Aから原点に向く方向である。位置Aを通り、位置Aにおけるオフ方向と平行な線分Bを考えたとき、線分B上に配置された各位置では、オフ方向が、位置Aと同一(線分Bと平行)である。基板は、オフ角が(オフ量が)ゼロの場所を有しないため、線分B上で、オフ方向は反転することがない(例えば、プラスa軸方向からマイナスa軸方向に反転することはない)。
【0105】
位置Aでのオフ量は、原点から位置Aまでの距離に比例している。基板は、オフ角が(オフ量が)ゼロの場所を有しないため、線分B上に配置された各位置では、オフ量が、線分Bの一端から他端に向かって、一端からの距離に比例して単調に変化している(例えば、線分Bの原点側の端から原点と反対側の端に向かって、原点側の端からの距離に比例して単調に増加している)。
【0106】
a-off基板40は、基板中心(一例としての位置A)のオフ方向がa軸方向と平行である。基板中心を通り、基板中心におけるオフ方向と平行な線分(一例としての線分B)を、中心線分50と呼ぶこととする。中心線分50上の各位置で、オフ方向は同一、つまりa軸方向と平行である。a-off基板40におけるオフ角の実測値を丸印で示す。これらの丸印は、誤差の範囲内で中心線分50上の各位置のオフ角を示す。中央の丸印60が基板中心を示す。基板中心でのオフ量は0.41°である。
【0107】
m-off基板41は、基板中心(一例としての位置A)のオフ方向がm軸方向と平行である。基板中心を通り、基板中心におけるオフ方向と平行な線分(一例としての線分B)を、中心線分51と呼ぶこととする。中心線分51上の各位置で、オフ方向は同一、つまりm軸方向と平行である。m-off基板41におけるオフ角の実測値を四角印で示す。これらの四角印は、誤差の範囲内で中心線分51上の各位置のオフ角を示す。中央の四角印61が基板中心を示す。基板中心でのオフ量は0.64°である。
【0108】
m-off改良基板42は、基板中心(一例としての位置A)のオフ方向がm軸方向と平行である。基板中心を通り、基板中心におけるオフ方向と平行な線分(一例としての線分B)を、中心線分52と呼ぶこととする。中心線分52上の各位置で、オフ方向は同一、つまりm軸方向と平行である。m-off改良基板42におけるオフ角の実測値を三角印で示す。これらの三角印のうち、m軸方向に沿って並んだものは、誤差の範囲内で中心線分52上の各位置のオフ角を示す。中央の三角印62が基板中心を示す。基板中心でのオフ量は0.44°である。m-off改良基板42については、基板中心から、中心線分52を示すm軸方向と直交するa軸方向のプラス側とマイナス側にそれぞれずれた位置でのオフ角の実測値も示されている。
【0109】
図8は、各基板40~42の中心線分50~52上のオフ量を、基板上の位置に対して示すグラフである。横軸は、mm単位で表した基板上の位置(Wafer position)であり、縦軸は、°単位で表したオフ量(|Off-angle|)である。基板上の位置は、基板中心を基準とし(0とし)、オフ量が減少する側をマイナス、オフ量が増加する側をプラスとして表す。各基板40~42の直径は、2インチである。
【0110】
各基板40~42の中心線分50~52上で、それぞれ、オフ量が、中心線分の一端から他端に向かって、一端からの距離に比例して単調に変化していること、つまりリニアに変化していることがわかる。また、各基板40~42で、オフ量の範囲が(オフ角分布の大きさが)異なっていることがわかる。
【0111】
なお、このようにオフ量がリニアに変化する特性を持つので、数点のオフ量の実測値からフィッティングにより、中心線分全域上での(線分B上での)オフ量を算出してもよい。
【0112】
なお、本実験例では、m-off改良基板42のオフ量の範囲は、a-off基板40およびm-off基板41のオフ量の範囲に包含されているが、a-off基板40のオフ量の範囲と、m-off基板41のオフ量の範囲とは、異なっており、互いに包含しない部分を有する。つまり、相対的に小さい側にオフ量の範囲を有する基板40と、相対的に大きい側にオフ量の範囲を有する基板41とを併せて用いることで、1つの基板のみ、例えば基板40のみ、また例えば基板41のみを用いる場合と比べて、オフ量の範囲を広げることができる。
【0113】
なお、オフ量が0°近傍では、成長させたエピ層の表面が荒れる(モホロジが大きくなる)。この観点から、基板の主面の全域に亘って、オフ量は例えば0.1°以上であることが好ましい。
【0114】
次に、各基板40~42の上方にエピ層を成長させた積層体について説明する。図9(a)は、エピ層の成長工程を示す概略平面図であり、図9(b)は、積層体を示す概略断面図である。
【0115】
成長条件のばらつきを抑制するため、MOVPE装置300のサセプタ310上に、基板40~42を配置して、基板40~42上に同時にエピ層を成長させた。III族有機原料ガスとしては、トリメチルガリウム(TMG)ガスを用いた。N原料ガスとしては、アンモニア(NH)ガスを用いた。n型不純物としては、Siを用い、Si原料ガスとしては、シラン(SiH)ガスを用いた。
【0116】
積層体100は、基板110(40、41、42)と、エピ層120とを有する。なお、本実験例で作製した積層体100では、基板110とエピ層120との間に、他のエピ層130が介在している。基板110は、GaNで構成され、Si濃度が1×1018cm-3であり、厚さが400μmである。他のエピ層130は、GaNで構成され、Si濃度が2×1018cm-3であり、厚さが2μmである。エピ層120は、GaNで構成され、(設計値の)Si濃度が9×1015cm-3であり、厚さが13μmである。
【0117】
このように、積層体100として、基板110がa-off基板40である積層体140、基板110がm-off基板41である積層体141、基板110がm-off改良基板42である積層体142の3種類を準備した。
【0118】
次に、作製した積層体140~142に対して、オフ角と相対黄色強度との関係を調べた結果について説明する。
【0119】
エピ層120のPLマッピング測定は、堀場製作所製のLabRAM HR Evolutionにより行った。励起光源としては波長が325nmでパワーが1.25mWのHe-Cdレーザを用いた。レーザのスポットサイズは直径5μmとした。したがって、照射強度は6.4×10Wcm-2である。測定位置を500μm間隔で移動させて、PLマッピング測定を行った。
【0120】
相対黄色強度は、バンド端発光の3.4eVにおけるピークの発光強度IntNBEに対する、黄色発光の2.2eVにおけるピークの発光強度IntYLの比IntYL/IntNBEとして算出した。
【0121】
図10(a)は、各積層体140~142の中心線分50~52上におけるエピ層120の相対黄色強度を、基板上の位置に対して示すグラフである。横軸は、mm単位で表した基板上の位置(Wafer position)であり、縦軸は、任意単位(arb.unit)で表した相対黄色強度(IntYL/IntNBE)である。
【0122】
図10(b)は、各積層体140~142の中心線分50~52上におけるエピ層120の相対黄色強度を、オフ量に対して示すグラフである。横軸は、°単位で表したオフ量(|Off-angle|)であり、縦軸は、任意単位(arb.unit)で表した相対黄色強度(IntYL/IntNBE)である。
【0123】
図10(a)、10(b)とも、a-off基板40を用いた積層体140の結果を丸印で示し、m-off基板41を用いた積層体141の結果を四角印で示し、m-off改良基板42を用いた積層体142の結果を三角印で示す。なお、このような結果の表示は、後述の図11a、11bについても同様である。
【0124】
図10(a)のように、相対黄色強度を基板上の位置に対して示した結果からは、各積層体140~142のそれぞれで、基板上の位置がオフ量の増加する側に移動するほど、相対黄色強度が減少する傾向は、読み取ることができる。しかしながら、積層体140~142に共通する特性まで、読み取ることは困難である。
【0125】
本願発明者は、図10(b)のように、相対黄色強度をオフ量に対して示すことを試みた。その結果、積層体140~142に共通した特性として、オフ量が等しければ、相対黄色強度が等しいという特性を見出した。例えば、積層体140~142のすべてで、オフ量0.4°の位置が存在するが(図8参照)、オフ量0.4°の位置での相対黄色強度は、誤差はあるものの、等しいことがわかる。
【0126】
積層体140の結果は、オフ方向がa軸方向である測定位置での特性を示し、積層体141、142の結果は、オフ方向がm軸方向である測定位置での特性を示している。一般に、III族窒化物半導体の種々の特性は、a軸方向とm軸方向とでは異なり得る。つまり、a軸方向とm軸方向とで特性に異方性が生じ得る。また、異方性の生じ方は、特性ごとに異なり得る。このため、オフ方向がa軸方向の測定位置と、m軸方向の測定位置とで、オフ量が等しくても、相対黄色強度が等しいかどうか、自明ではない。
【0127】
本願発明者は、本実験例によって、エピ層120の相対黄色強度が、オフ方向には依存せず、つまり、オフ方向がa軸方向であるかm軸方向であるかには依存せず、オフ量に依存して定まるという知見を見出した。つまり、オフ量と相対黄色強度とが、オフ方向に依存しない対応関係を持つという知見を見出した。
【0128】
なお、オフ方向がa軸方向である測定位置と、オフ方向がm軸方向である測定位置とについて、どちらもオフ量により相対黄色強度が定まることは、オフ方向がa軸方向およびm軸方向の両方の成分を有し、a軸方向およびm軸方向の中間的な特性を持つ測定位置についても同様に、オフ量により相対黄色強度が定まることを示している。つまり、各積層体140~142の中心線分50~52以外の測定位置についても、オフ量により相対黄色強度が定まることとなる。
【0129】
本願発明者は、また、対応関係が、オフ量が増加するにつれて、相対黄色強度が減少するとともに、相対黄色強度が減少する度合いが小さくなる傾向を有するという知見を見出した。本願発明者は、さらに、このような傾向が、つまり相対黄色強度Int(θoff)が、オフ量θoffと、減衰定数λ、臨界オフ量θ、定数AおよびIntを用いて、式(1)で近似的に表されるという知見を見出した。
【0130】
図10(b)に実線で示す近似曲線は、式(1)から求められた曲線である。本例において、減衰定数λは5.67±0.24(単位は1/°)、臨界オフ量θは0.091(単位は°)、定数Aは0.00827±0.00025(単位は任意単位)、定数Intは0.0029±0.00006(単位は任意単位)である。これらのパラメータλ、A、Intを、それぞれ、50%増とした曲線、および、50%減とした曲線を、破線で示す。
【0131】
なお、本実験例では、相対的に小さい側にオフ量の範囲を有する基板40を備える積層体100(140)と、相対的に大きい側にオフ量の範囲を有する基板41を備える積層体100(141)とを併せて用いることで、1つの積層体100のみ、例えば積層体140のみ、また例えば積層体141のみを用いる場合と比べて、測定対象となるオフ量の範囲を広げている。これにより、広い範囲のオフ量について高い精度で対応関係を取得できている。
【0132】
このようにして得られた、オフ量と相対黄色強度との対応関係は、上述の実施形態等で説明したように、III族窒化物積層体におけるエピ層の結晶品質の検査等に用いることができる。
【0133】
次に、作製した積層体140~142に対して、オフ角とキャリア濃度との関係を調べた結果について説明する。
【0134】
エピ層120のキャリア濃度は、非接触C-V測定により測定した。ここで「キャリア濃度」とは、添加されたn型不純物の濃度、つまりSi濃度で定まるドナー濃度Nから、アクセプタ濃度Nを引いた、正味のドナー濃度N-Nのことである。非接触C-V測定は、Semilab Semiconductor Physics Laboratory Co. Ltd. のFAaST-210により行った。加えて、SIMSにより、Si濃度および炭素(C)濃度も測定した。
【0135】
図11(a)は、各積層体140~142のエピ層120のキャリア濃度を、オフ量に対して示すグラフである。横軸は、°単位で表したオフ量(|Off-angle|)であり、縦軸は、1015cm-3単位で表した濃度である。図11(a)には、併せて、Si濃度およびC濃度と、アクセプタ濃度とを示す。
【0136】
SIMSで測定されたエピ層120の平均的なSi濃度([Si])は、8.32×1015cm-3であった。また、Si濃度のオフ量依存性はほとんど観測されなかった。このため、このSi濃度から、非接触C-Vで測定されたキャリア濃度N-Nを引くことで、アクセプタ濃度Nが見積もられる。
【0137】
本願発明者は、オフ量とキャリア濃度N-Nとの対応関係は、オフ量が増加するにつれて、キャリア濃度N-Nが増加するとともに、キャリア濃度N-Nが増加する度合いが小さくなる傾向を有するという知見を見出した。つまり、オフ量とアクセプタ濃度Nとの対応関係は、オフ量が増加するにつれて、アクセプタ濃度Nが減少するとともに、アクセプタ濃度Nが減少する度合いが小さくなる傾向を有するという知見を見出した。
【0138】
積層体140~142は、エピ層120のアクセプタ濃度について、オフ量とアクセプタ濃度との対応関係が、オフ量が増加するにつれて、アクセプタ濃度が減少するとともに、アクセプタ濃度が減少する度合いが小さくなる傾向を有するIII族窒化物積層体と捉えることができる。
【0139】
本願発明者は、さらに、アクセプタ濃度Nに関するこのような対応関係が、オフ量θoff、減衰定数λ、臨界オフ量θ、定数BおよびNA0を用いて、式(2)で近似的に表されるという知見を見出した。ここで、減衰定数λおよび臨界オフ量θは、相対黄色強度に関する近似式(1)における減衰定数λおよび臨界オフ量θと一致している。
【数2】
【0140】
図11(a)に実線で示すアクセプタ濃度Nの近似曲線は、式(2)から求められた曲線である。本例において、減衰定数λは5.67±0.24(単位は1/°)、臨界オフ量θは0.091(単位は°)、定数Bは9.21±0.74(単位は1015cm-3)、定数NA0は0.86±0.09(単位は1015cm-3)である。アクセプタ濃度Nの上限および下限の目安の例として、それぞれ、近似曲線のアクセプタ濃度Nを50%増とした曲線、および、50%減とした曲線を、破線で示す。図11(a)には、さらに、これらの曲線のアクセプタ濃度Nを、Si濃度から引くことで得られる、キャリア濃度(正味のドナー濃度)N-Nの近似曲線、下限の目安の曲線、および、上限の目安の曲線を示す。
【0141】
C濃度([C])は、オフ量の増加につれ微減するように見えるものの、アクセプタ濃度Nほどの急減は示さず、概ね一定の高さを保っている。つまり、オフ量の増加につれアクセプタ濃度Nが減少することの主要因は、C濃度の減少ではない。このことから、本願発明者は、エピ層120に混入したCのアクセプタとしての活性化率(=アクセプタ濃度N/C濃度、以下単に「Cの活性化率」ともいう)が、オフ量が増加するにつれ減少するという知見を見出した。本例では、オフ量が0.25°ではCのほぼすべてがアクセプタとなり、オフ量が0.4°ではCの5割程度がアクセプタとなり、オフ量が0.8°ではCの1割程度がアクセプタになっていると見積もられる。
【0142】
積層体140~142は、エピ層120におけるCの活性化率について、オフ量とCの活性化率との対応関係が、オフ量が増加するにつれて、Cの活性化率が減少する傾向を有するIII族窒化物積層体と捉えることができる。
【0143】
エピ層120に混入するCの濃度は、III族有機原料ガスが十分に分解する温度条件とする等、成長条件を制御することで、1015cm-3のオーダに抑えることができる。一方、エピ層120中のSi濃度、すなわちn型不純物濃度は、耐圧向上の観点から、1015cm-3のオーダに抑えることが好ましい。したがって、エピ層120において、C濃度がSi濃度と同程度となって、Cの活性化率の大小が、キャリア濃度の大小に大きく影響することとなる。例えばC濃度がSi濃度と等しく、Cの活性化率が100%であれば、Siに起因するドナーは、Cに起因するアクセプタに相殺されてしまう。ここで、エピ層120中のC濃度がSi濃度と同程度であることを、C濃度がSi濃度の1/10以上であってSi濃度以下と定義する。
【0144】
上述の知見によれば、エピ層中のC濃度がSi濃度と同程度であって、C濃度のさらなる低減によってはアクセプタ濃度を減少させることが難しい場合であっても、オフ量を適宜大きく選択してCの活性化率を低く抑制することで、アクセプタ濃度を減少させて、キャリア濃度を高めることができる。つまり、エピ層に添加されたn型不純物を、ドナーとして効率的に利用することができる。C起因のアクセプタ濃度をこのようにして制御できる技術は、エピ層における1015cm-3のオーダ以下の低いキャリア濃度を精密に制御するために、特に有効である。
【0145】
Cの活性化率は、例えば、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。図11(a)に示す例では、オフ量を約0.4°以上とすることで、Cの活性化率を50%以下とすることができ、オフ量を約0.5°以上とすることで、Cの活性化率を30%以下とすることができる。
【0146】
上述の知見によれば、オフ量が適宜大きく設定された基板を用いることで、n型不純物濃度が1015cm-3のオーダ以下(1×1016cm-3未満)、C濃度がn型不純物濃度の1/10以上かつn型不純物濃度以下であって、Cの活性化率が好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下であるエピ層を有するIII族窒化物積層体を得ることができる。
【0147】
次に、作製した積層体140~142に対して、相対黄色強度とアクセプタ濃度との関係を調べた結果について説明する。
【0148】
図11(b)は、各積層体140~142のエピ層120のアクセプタ濃度を、相対黄色強度に対して示すグラフである。横軸は、任意単位(arb.unit)で表した相対黄色強度(IntYL/IntNBE)であり、縦軸は、1015cm-3単位で表した濃度である。
【0149】
図10(b)を参照して説明したオフ量と相対黄色強度との対応関係と、図11(a)を参照して説明したオフ量とアクセプタ濃度との対応関係とを、オフ量を介して対応付けることで、図11(b)に示すような、相対黄色強度とアクセプタ濃度との対応関係を得ることができる。
【0150】
エピ層120について、相対黄色強度がオフ量により式(1)のように表され、アクセプタ濃度がオフ量により式(2)のように表されることで、アクセプタ濃度は、図11(b)に示されるように、相対黄色強度に比例して変化している。つまり、積層体140~142は、エピ層120における相対黄色強度とアクセプタ濃度との対応関係が、相対黄色強度に対してアクセプタ濃度が比例する傾向を有するIII族窒化物積層体と捉えることができる。
【0151】
図11(b)に例示されるような、相対黄色強度とアクセプタ濃度との対応関係を予め取得しておけば、PLマッピング測定により相対黄色強度を取得することで、C-V測定を行わずに、アクセプタ濃度を推測することができる。このようにPLマッピング測定でアクセプタ濃度を取得できる技術は、非破壊で簡便に行うことができため、非常に有用である。なお、同様な考え方を用いて、キャリア濃度を取得してもよい。
【0152】
<他の実施形態>
次に、他の実施形態の例として、上述のようなIII族窒化物積層体が物理量マップと組み合わせて供される態様である物理量マップ付きIII族窒化物積層体について説明する。
【0153】
図12は、物理量マップ付きIII族窒化物積層体(以下、マップ付き積層体ということもある)400を示す概略図である。マップ付き積層体400は、積層体410と、物理量マップ420とを有する。積層体410は、基板411とエピ層412とを有する。ここマップ「付き」との表現は、(1)当該マップの内容を示す情報を格納する記録媒体や、当該マップが印刷された印刷物が、積層体410を格納するトレーや同封物に付属している場合、(2)当該マップの内容を示す情報が、インターネットや専用回線等を介してダウンロード可能なように提供されている場合等を含む。
【0154】
物理量マップ420は、積層体410のエピ層412が有する物理量を表示するマップであり、積層体410の輪郭、輪郭内におけるオフ量、および、輪郭内における当該物理量を表示する。当該物理量は、例えば相対黄色強度であり、また例えばアクセプタ濃度であり、また例えばCの活性化率である。図12に示す物理量マップ420は、相対黄色強度の表示例であり、相対黄色強度が高い領域を明るく示す。
【0155】
基板411の主面内で、オフ量が一定の位置は、同心の円弧または同心の楕円弧に沿って分布する(図7(c)参照)。なおここで、楕円は、2つの焦点が一致する場合として、円を含んでよい。そして、相対黄色強度はオフ量に応じて定まるので、相対黄色強度が一定の位置は、エピ層412上で同心の円弧または同心の楕円弧に沿って分布することとなる。つまり、エピ層412上で、相対黄色強度がある一定値を示す位置が、円弧または楕円弧に沿って分布し、相対黄色強度が当該一定値と異なる他の一定値を示す位置が、当該円弧と同心の他の円弧、または、当該楕円弧と同心の他の楕円弧に沿って分布する。
【0156】
同様に、アクセプタ濃度、Cの活性化率も、それぞれ、オフ量に応じて定まるので、一定の位置が、エピ層412上で同心の円弧または同心の楕円弧に沿って分布することとなる。つまり、エピ層412上で、アクセプタ濃度がある一定値を示す位置が、円弧または楕円弧に沿って分布し、アクセプタ濃度が当該一定値と異なる他の一定値を示す位置が、当該円弧と同心の他の円弧、または、当該楕円弧と同心の他の楕円弧に沿って分布する。また、エピ層412上で、Cの活性化率がある一定値を示す位置が、円弧または楕円弧に沿って分布し、Cの活性化率が当該一定値と異なる他の一定値を示す位置が、当該円弧と同心の他の円弧、または、当該楕円弧と同心の他の楕円弧に沿って分布する。
【0157】
エピ層412の全面に亘って測定された、オフ量に応じて定まる物理量を、物理量マップ420に表示した際、正常に成長されたエピ層412に対しては、同心円状または同心楕円状のパターン(より詳しくは、中心が積層体410の外部に配置された同心円弧状または同心楕円弧状のパターン)が観察されることとなる。したがって、物理量マップ420を用いることで、エピ層412の全面に亘る結晶品質を一目で把握することができ、積層体410を物理量マップ420と組み合わせて供することで、積層体410の品質保証を効果的に行うことができる。
【0158】
以上、実施形態および変形例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0159】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を例示的に付記する。
【0160】
(付記1)
第1のIII族窒化物基板、および、前記第1のIII族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成された第1のIII族窒化物エピタキシャル層を有する第1のIII族窒化物積層体を(少なくとも1つ)準備する工程と、
前記第1のIII族窒化物エピタキシャル層の、前記第1のIII族窒化物基板の主面の法線方向とc軸方向とがなすオフ角の大きさ(オフ量)が異なる複数の測定位置について、フォトルミネッセンスマッピング測定を行い、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度を取得し、オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係を取得する工程と、
を有するIII族窒化物積層体の、製造方法、検査方法、評価方法及び半導体装置の製造方法。
【0161】
(付記2)
さらに、
第2のIII族窒化物基板、および、前記第2のIII族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成された第2のIII族窒化物エピタキシャル層を有する第2のIII族窒化物積層体を準備する工程と、
前記第2のIII族窒化物エピタキシャル層の、前記第2のIII族窒化物基板の主面の法線方向とc軸方向とがなすオフ角の大きさが、第1のオフ角の大きさである検査位置について、フォトルミネッセンスマッピング測定を行い、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度を取得する工程と、
前記検査位置に対するフォトルミネッセンスマッピング測定から取得された相対黄色強度と、前記第1のオフ角の大きさに対して前記対応関係から取得された相対黄色強度とを比較する工程と、
を有する付記1に記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0162】
(付記3)
前記第1のIII族窒化物積層体として、複数のIII族窒化物積層体が用いられる、付記1または2に記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0163】
(付記4)
前記第1のIII族窒化物積層体として、オフ角の大きさの範囲が異なる複数のIII族窒化物積層体が用いられる、
付記1~3のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0164】
(付記5)
前記第1のIII族窒化物積層体として、前記第1のIII族窒化物基板の中心を通り、前記中心におけるオフ角の方位(オフ方向)と平行な線分上での、オフ角の大きさの範囲が異なる複数のIII族窒化物積層体が用いられる、
付記1~4のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0165】
(付記6)
前記第1のIII族窒化物積層体として、前記第1のIII族窒化物基板の中心におけるオフ角の方位が異なる複数のIII族窒化物積層体が用いられる、
付記1~5のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0166】
(付記7)
前記第1のIII族窒化物積層体を準備する工程は、前記複数のIII族窒化物積層体のIII族窒化物エピタキシャル層を、同時に成長させる工程を含む、
付記3~6のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0167】
(付記8)
オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係を準備する工程と、
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体を準備する工程と、
前記III族窒化物エピタキシャル層の、前記III族窒化物基板の主面の法線方向とc軸方向とがなすオフ角の大きさが、第1のオフ角の大きさである検査位置について、フォトルミネッセンスマッピング測定を行い、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度を取得する工程と、
前記検査位置に対するフォトルミネッセンスマッピング測定から取得された相対黄色強度と、前記第1のオフ角の大きさに対して前記対応関係から取得された相対黄色強度とを比較する工程と、
を有するIII族窒化物積層体の、製造方法、検査方法、評価方法及び半導体装置の製造方法。
【0168】
(付記9)
前記対応関係は、オフ角の大きさが増加するにつれて、相対黄色強度が減少するとともに、相対黄色強度が減少する度合いが小さくなる傾向を有する、
付記1~8のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【0169】
(付記10)
前記対応関係は、オフ角の大きさをθoffと表し、相対黄色強度をInt(θoff)と表したとき、指数関数の減衰定数λ、指数関数の引数をゼロとする臨界オフ角の大きさθ、指数関数に乗じられる定数A、および、指数関数に加算される定数Intを用いて、
という式で近似的に表される、
付記1~9のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0170】
(付記11)
前記対応関係において、相対黄色強度は、オフ角の方位には依存しない(オフ角の方位がa軸方向であるかm軸方向であるかには依存しない)、
付記1~10のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0171】
(付記12)
オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係を準備する工程と、
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体を準備する工程と、
前記III族窒化物積層体の、前記III族窒化物基板の主面の法線方向とc軸方向とがなすオフ角の大きさが異なる複数の測定位置について、容量-電圧測定、2次イオン質量分析測定、および、深い準位過渡分光測定のうち少なくとも1つの測定を行い、当該測定の結果のオフ角の大きさとの対応関係を取得する工程と、
前記測定の結果のオフ角の大きさとの対応関係を、オフ角の大きさを介して、前記オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係に対応付ける工程と、
を有するIII族窒化物積層体の、製造方法、検査方法、評価方法及び半導体装置の製造方法。
【0172】
(付記13)
オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係である第1対応関係を準備する工程と、
オフ角の大きさと、容量-電圧測定、2次イオン質量分析測定、および、深い準位過渡分光測定のうち少なくとも1つの測定により得ることができる物理量と、の対応関係である第2対応関係を準備する工程と、
前記第1対応関係と前記第2対応関係とを、オフ角の大きさを介して対応付けることで、相対黄色強度と前記物理量との対応関係である第3対応関係を取得する工程と、
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体を準備する工程と、
前記III族窒化物エピタキシャル層に画定された検査位置について、フォトルミネッセンスマッピング測定を行い、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度を取得する工程と、
前記検査位置に対するフォトルミネッセンスマッピング測定から取得された相対黄色強度と、前記第3対応関係と、に基づいて、前記検査位置における前記物理量を推測する工程と、
を有するIII族窒化物積層体の、製造方法、検査方法、評価方法及び半導体装置の製造方法。
【0173】
(付記14)
相対黄色強度と、容量-電圧測定、2次イオン質量分析測定、および、深い準位過渡分光測定のうち少なくとも1つの測定により得ることができる物理量と、の対応関係を準備する工程と、
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体を準備する工程と、
前記III族窒化物エピタキシャル層に画定された検査位置について、フォトルミネッセンスマッピング測定を行い、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度を取得する工程と、
前記検査位置に対するフォトルミネッセンスマッピング測定から取得された相対黄色強度と、前記対応関係と、に基づいて、前記検査位置における前記物理量を推測する工程と、
を有するIII族窒化物積層体の、製造方法、検査方法、評価方法及び半導体装置の製造方法。
【0174】
(付記15)
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層における、フォトルミネッセンスの、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度について、
前記III族窒化物基板の主面の法線方向とc軸方向とがなすオフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係が、オフ角の大きさが増加するにつれて、相対黄色強度が減少するとともに、相対黄色強度が減少する度合いが小さくなる傾向を有する、
III族窒化物積層体。
【0175】
(付記16)
前記オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係において、相対黄色強度は、オフ角の方位には依存しない、
付記15に記載のIII族窒化物積層体。
【0176】
(付記17)
前記オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係は、オフ角の大きさをθoffと表し、相対黄色強度をInt(θoff)と表したとき、指数関数の減衰定数λ、指数関数の引数をゼロとする臨界オフ角の大きさθ、指数関数に乗じられる定数A、および、指数関数に加算される定数Intを用いて、
という式で近似的に表される、
付記15または16に記載のIII族窒化物積層体。
【0177】
(付記18)
前記オフ角の大きさと相対黄色強度との対応関係を近似的に表すように定められた前記減衰定数λ、前記定数A、および、前記定数Intのそれぞれを、50%減した値を前記式に代入することで規定される下限以上であって、前記対応関係を近似的に表すように定められた前記減衰定数λ、前記定数A、および、前記定数Intのそれぞれを、50%増した値を前記式に代入することで規定される上限以下である範囲内に、相対黄色強度の測定値が分布する、
付記17に記載のIII族窒化物積層体。
【0178】
(付記19)
前記III族窒化物エピタキシャル層にn型不純物が添加されており、
前記III族窒化物エピタキシャル層が有するアクセプタ濃度について、
オフ角の大きさとアクセプタ濃度との対応関係が、オフ角の大きさが増加するにつれて、アクセプタ濃度が減少するとともに、アクセプタ濃度が減少する度合いが小さくなる傾向を有する、
付記15~18のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0179】
(付記20)
前記オフ角の大きさとアクセプタ濃度との対応関係は、オフ角の大きさをθoffと表し、アクセプタ濃度をN(θoff)と表したとき、前記減衰定数λ、前記臨界オフ角の大きさθ、指数関数に乗じられる定数B、および、指数関数に加算される定数NA0を用いて、
という式で近似的に表される、
付記19に記載のIII族窒化物積層体。
【0180】
(付記21)
相対黄色強度とアクセプタ濃度との対応関係が、相対黄色強度に対してアクセプタ濃度が比例する傾向を有する、
付記19または20に記載のIII族窒化物積層体。
【0181】
(付記22)
前記III族窒化物エピタキシャル層において、前記n型不純物の濃度が1×1016cm-3未満であり、炭素濃度が前記n型不純物の濃度の1/10以上かつ前記n型不純物の濃度以下であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層における、炭素濃度に対するアクセプタ濃度の割合である炭素の活性化率について、
オフ角と炭素の活性化率との対応関係が、オフ角の大きさが増加するにつれて、炭素の活性化率が減少する傾向を有する、
付記15~21のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0182】
(付記23)
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層において、n型不純物の濃度が1×1016cm-3未満であり、炭素濃度が前記n型不純物の濃度の1/10以上かつ前記n型不純物の濃度以下であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層における、炭素濃度に対するアクセプタ濃度の割合である炭素の活性化率について、
前記III族窒化物基板の主面の法線方向とc軸方向とがなすオフ角と炭素の活性化率との対応関係が、オフ角の大きさが増加するにつれて、炭素の活性化率が減少する傾向を有する、
III族窒化物積層体。
【0183】
(付記24)
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層において、n型不純物の濃度が1×1016cm-3未満であり、炭素濃度が前記n型不純物の濃度の1/10以上かつ前記n型不純物の濃度以下であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層における、炭素濃度に対するアクセプタ濃度の割合である炭素の活性化率が、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下である、
III族窒化物積層体。
【0184】
(付記25)
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層における、フォトルミネッセンスの、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度について、
前記III族窒化物エピタキシャル層上で、相対黄色強度が第1の一定値を示す位置が、第1の円弧、または、第1の楕円弧に沿って分布し、相対黄色強度が前記第1の一定値と異なる第2の一定値を示す位置が、前記第1の円弧と同心の第2の円弧、または、前記第1の楕円弧と同心の第2の楕円弧に沿って分布する、
III族窒化物積層体。
【0185】
(付記26)
前記III族窒化物エピタキシャル層にn型不純物が添加されており、
前記III族窒化物エピタキシャル層が有するアクセプタ濃度について、
前記III族窒化物エピタキシャル層上で、アクセプタ濃度が第3の一定値を示す位置が、(前記第1の円弧と同心の)第3の円弧、または、(前記第1の楕円弧と同心の)第3の楕円弧に沿って分布し、アクセプタ濃度が前記第3の一定値と異なる第4の一定値を示す位置が、前記第3の円弧と同心の第4の円弧、または、前記第3の楕円弧と同心の第4の楕円弧に沿って分布する、
付記25に記載のIII族窒化物積層体。
【0186】
(付記27)
前記III族窒化物エピタキシャル層において、前記n型不純物の濃度が1×1016cm-3未満であり、炭素濃度が前記n型不純物の濃度の1/10以上かつ前記n型不純物の濃度以下であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層における、炭素濃度に対するアクセプタ濃度の割合である炭素の活性化率について、
前記III族窒化物エピタキシャル層上で、炭素の活性化率が第5の一定値を示す位置が、(前記第1の円弧と同心の)第5の円弧、または、(前記第1の楕円弧と同心の)第5の楕円弧に沿って分布し、炭素の活性化率が前記第5の一定値と異なる第6の一定値を示す位置が、前記第5の円弧と同心の第6の円弧、または、前記第5の楕円弧と同心の第6の楕円弧に沿って分布する、
付記26に記載のIII族窒化物積層体。
【0187】
(付記28)
III族窒化物基板、および、前記III族窒化物基板の主面の上方に(有機金属気相成長で)形成されたIII族窒化物エピタキシャル層を有するIII族窒化物積層体であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層において、前記n型不純物の濃度が1×1016cm-3未満であり、炭素濃度が前記n型不純物の濃度の1/10以上かつ前記n型不純物の濃度以下であって、
前記III族窒化物エピタキシャル層における、炭素濃度に対するアクセプタ濃度の割合である炭素の活性化率について、
前記III族窒化物エピタキシャル層上で、炭素の活性化率が第1の一定値を示す位置が、第1の円弧、または、第1の楕円弧に沿って分布し、炭素の活性化率が前記第1の一定値と異なる第2の一定値を示す位置が、前記第1の円弧と同心の第2の円弧、または、前記第1の楕円弧と同心の第2の楕円弧に沿って分布する、
III族窒化物積層体。
【0188】
(付記29)
前記III族窒化物基板の主面内で、最大の欠陥密度は、5×10cm-2以下であり、より好ましくは平均的な欠陥密度の10倍以下であり、さらに好ましくは最小の欠陥密度の10倍以下である、
付記15~28のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0189】
(付記30)
前記III族窒化物基板は、前記III族窒化物基板の主面上に画定した位置Aを通り、前記位置Aにおけるオフ角の方位と平行な線分B上に配置された各位置で、オフ角の方位が、前記位置Aと同一であり、かつ、オフ角の大きさが、前記線分Bの一端から他端に向かって、前記一端からの距離に比例して単調に変化している、
付記15~29のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0190】
(付記31)
さらに、
前記III族窒化物積層体の輪郭、前記輪郭内におけるオフ角の大きさ、および、前記輪郭内における前記III族窒化物エピタキシャル層が有する物理量を表示する物理量マップ、
を有する物理量マップ付きのIII族窒化物積層体である、
付記15~30のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0191】
(付記32)
前記III族窒化物基板は、主面の全域に亘って、オフ角の大きさがゼロの場所を有しない、
付記15~31のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0192】
(付記33)
前記III族窒化物基板の主面の全域に亘って、オフ角の大きさが0.1°以上である、
付記15~32のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0193】
(付記34)
前記III族窒化物基板、および、前記III族窒化物エピタキシャル層は、n型の導電型を有する、
付記15~33のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0194】
(付記35)
前記III族窒化物エピタキシャル層には、n型不純物が、3×1015cm-3以上5×1016cm-3以下の濃度で添加されている、
付記15~34のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【符号の説明】
【0195】
100 基準積層体
200 検査積層体
110、210 基板
111、211 主面
120、220 エピ層
121、221 (エピ層の)表面
122 測定位置
222 検査位置
40 a-off基板
41 m-off基板
42 m-off改良基板
400 マップ付き積層体
410 積層体
420 物理量マップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12