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特許7292747カンキツ属植物の雄性不稔性を識別する方法及びプライマーセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】カンキツ属植物の雄性不稔性を識別する方法及びプライマーセット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6895 20180101AFI20230612BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20230612BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20230612BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230612BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230612BHJP
   A01H 1/00 20060101ALN20230612BHJP
   A01H 5/00 20180101ALN20230612BHJP
   A01H 6/78 20180101ALN20230612BHJP
   A01H 3/00 20060101ALN20230612BHJP
【FI】
C12Q1/6895 Z ZNA
C12Q1/34
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
A01H1/00 A
A01H5/00 A
A01H6/78
A01H3/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021122481
(22)【出願日】2021-07-27
(65)【公開番号】P2022031167
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020134044
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 発行日 令和3年3月27日(印刷/配布日 令和3年3月16日~3月17日) 刊行物 園芸学研究 第20巻 別冊1 -2021-,第33頁(園芸学会令和3年度春季大会果樹研究発表)(発行者:一般社団法人園芸学会 会長 金山 喜則) <資 料> 園芸学研究 第20巻 別冊1 -2021-,第33頁 (2) ウェブサイトでの配信日 令和3年3月24日(配信期間 令和3年3月24日~3月30日) 集会名、開催場所 一般社団法人園芸学会令和3年度春季大会 オンライン開催 研究発表会(オンデマンド配信)(大会プラットフォームログインURL:https://chat.lincbiz.jp/a004772/signup_user_complete/ ) 開催日(公開日) 令和3年3月27日 集会名、開催場所 一般社団法人園芸学会令和3年度春季大会 オンライン開催 研究発表会(ライブ配信)(大会プラットフォームログインURL:https://chat.lincbiz.jp/a004772/signup_user_complete/ ) <資 料> 一般社団法人園芸学会令和3年度春季大会 開催案内 <資 料> 一般社団法人園芸学会令和3年度春季大会 プログラム <資 料> 一般社団法人園芸学会令和3年度春季大会 発表スライド
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 新悟
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】CS00-C1-101-072-F08-CT.F Sweet orange leaf, infected with Xylella fastidiosa (stage 1 of 2) Citrus sinensis cDNA, mRNA sequence,2008年05月15日,Retrieved from GenBank, [online], Accession no. EY664981.1, [Retrieved on 31 Aug 2022], URL, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/EY664981
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
CAplus(STN)、MEDLINE(STN)、
EMBASE(STN)、BIOSIS(STN)、
REGISTRY(STN)、
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンキツ属植物の雄性不稔性を識別する方法であって、
前記カンキツ属植物の被検体植物の配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型を検出する工程、及び
前記多型の雄性不稔性への寄与に関する情報から、被検体植物の雄性不稔性を識別する工程、を含む方法。
【請求項2】
配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域の、全部又は一部を含む増幅産物の有無、増幅産物の長さ、又は増幅産物の制限酵素による切断パターンのいずれか一つ以上の基準に基づき、前記多型を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
配列番号1に記載の塩基配列の、第162~487番目の塩基配列の挿入欠失、
配列番号1に記載の塩基配列の、第543~776番目の塩基配列の挿入欠失、
配列番号1に記載の塩基配列の、第893番目と第894番目の間の塩基配列への挿入欠失、
配列番号1に記載の塩基配列の、第108番目塩基配列の一塩基多型、に対応する多型の、いずれか一つ以上を検出する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域が、配列番号1~7のいずれかに記載の塩基配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記カンキツ属植物が、キシュウミカン由来細胞質、キング由来細胞質、ダンシータンジェリン由来細胞質、地中海マンダリン由来細胞質、ポンカン由来細胞質、又はマーコット由来細胞質を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カンキツ属植物が、キシュウミカン由来細胞質を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法に用いられるプライマーセットであって、
前記プライマーセットを用いた増幅反応により前記多型を検出でき、
以下のプライマーセット1又は2である、プライマーセット。
プライマーセット1:
(1F-1)配列番号8に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(1R-1)配列番号9に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチドを含むプライマーセット
プライマーセット2:
(2F-1)配列番号8に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(2R-1)配列番号10に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチドを含むプライマーセット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンキツ属植物の雄性不稔性を識別する方法、及びプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
カンキツ属(Citrus)植物の果実は食用として広く流通しており、新しい品種開発の需要も大きい。果実に求められる特性として、消費者からは美味しいという特性だけでなく、果実に種子ができにくく食べやすい特性(無核性・少核性)も求められている。
ウンシュウミカンは高度の無核性を備えた品種であり、その主な要因の一つが雄性不稔性であると考えられている。
本発明者らはこれまでに、ウンシュウミカンとその後代の雄性不稔性は、1葯あたりの花粉量の減少を主な要因として後代に遺伝することを明らかにし、1葯あたりの花粉量に関わる主働QTL(MS-P1)の同定を報告している(非特許文献1)。
しかし、連鎖地図上における遺伝的な位置は明らかとなったものの、その推定領域は約5cMと比較的広い範囲である。また、カンキツ属植物ゲノム配列について、いくつかのデータベースが公開されているが、これらデータベースはヒト、マウス、イネ、シロイヌナズナ等のように精密なゲノムデータを公開するものではなく、これらデータベースからMS-P1の物理地図上での正確な情報が得られるものではない。非特許文献1に開示された情報から、一番精度が高いといわれるクレメンティンデータベース(https://phytozome.jgi.doe.gov/pz/portal.html#!info?alias=Org_Cclementina)から対応するゲノム配列を検索した場合の上記推定領域は、8Mbと非常に長い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Goto S. et al. (2018) PLoS ONE 13(7):e0200844
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
育種において、優れた品種を育成するには、選抜の元となる集団のサイズをなるべく大きくすることが重要である。しかし、カンキツ属植物は植物体自体が大きいため、圃場に植え付けできる実生数には限りがあるうえ、果実が生りはじめるまでには長い時間がかかるため、選抜の対象とする実生数を制限せざるを得ない。そのため、芽生え等の花及び果実の形成前の段階で、優良形質を持つ実生を選抜することができれば、選抜の対象とする実生数を拡大することができる。特に、都道府県の研究機関では、圃場の広さが限られるため、それら機関の育種担当者からは、植え付け対象の実生の選抜に対しての、強い要望がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、カンキツ属植物の雄性不稔性を容易に識別可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、雄性不稔性を容易に識別可能なマーカーとなる多型の存在を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
【0007】
(1) カンキツ属植物の雄性不稔性を識別する方法であって、
前記カンキツ属植物の被検体植物の配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型を検出する工程、及び
前記多型の雄性不稔性への寄与に関する情報から、被検体植物の雄性不稔性を識別する工程、を含む方法。
(2) 配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域の、全部又は一部を含む増幅産物の有無、増幅産物の長さ、又は増幅産物の制限酵素による切断パターンのいずれか一つ以上の基準に基づき、前記多型を検出する、前記(1)に記載の方法。
(3) 配列番号1に記載の塩基配列の、第162~487番目の塩基配列の挿入欠失、
配列番号1に記載の塩基配列の、第543~776番目の塩基配列の挿入欠失、
配列番号1に記載の塩基配列の、第893番目と第894番目の間の塩基配列への挿入欠失、
配列番号1に記載の塩基配列の、第108番目塩基配列の一塩基多型、に対応する多型の、いずれか一つ以上を検出する、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域が、配列番号1~7のいずれかに記載の塩基配列を含む、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5) 前記カンキツ属植物が、キシュウミカン由来細胞質、キング由来細胞質、ダンシータンジェリン由来細胞質、地中海マンダリン由来細胞質、ポンカン由来細胞質、又はマーコット由来細胞質を有する、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6) 前記カンキツ属植物が、キシュウミカン由来細胞質を有する、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の方法。
前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の方法に用いられるプライマーセットであって、
前記プライマーセットを用いた増幅反応により前記多型を検出でき、
以下のプライマーセット1又は2である、プライマーセット。
プライマーセット1:
(1F-1)配列番号8に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(1R-1)配列番号9に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチドを含むプライマーセット
プライマーセット2:
(2F-1)配列番号8に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(2R-1)配列番号10に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチドを含むプライマーセット
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カンキツ属植物の雄性不稔性を、容易に識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で確認されたインサーションを示す図である。
図2】MS-P1 Indel1プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図3】MS-P1 Indel2プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図4】MS-P1 Indel2プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図5】MS-P1 Indel2プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図6】MS-P1 Indel2プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図7】MS-P1 Indel2プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図8】MS-P1 Indel2プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図9】MS-P1 Indel2プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図10】実験2-1のPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図11】実験2-1で特定された実生の遺伝子型と、雄性不稔性評価との対比結果を示すグラフである。
図12】実験2-2のPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図13】実験2-2で特定された実生の遺伝子型と、雄性不稔性評価との対比結果を示すグラフである。
図14】実験2-3のPCRにより増幅されたPCR産物を示す画像である。
図15】実験2-3で特定された実生の遺伝子型と、雄性不稔性評価との対比結果を示すグラフである。
図16】MS-P1 Indel2プライマーセットで増幅された各DNAの塩基配列の比較結果を示す図である。
図17】実験4のMS-P1 Indel2プライマーセットを用いたPCRの増幅結果を示す画像である。
図18】実験4でPCRにより増幅されたPCR産物の、制限酵素処理後の結果を示す画像である。
図19】キング由来細胞質を有するカンキツ属植物における、MS-P1領域のハプロタイプの組み合わせと、雄性不稔性との相関を検証した結果を示すグラフである。
図20】実験5でPCRにより増幅されたPCR産物の、制限酵素処理後の結果を示す画像である。
図21】MS-P1領域のハプロタイプの組み合わせと、雄性不稔性との相関を検証した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の方法及びプライマーセットの実施形態を説明する。
【0011】
≪識別方法≫
本実施形態の方法は、カンキツ属植物の雄性不稔性を識別する方法であって、
前記カンキツ属植物の被検体植物の配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型を検出する工程、及び
前記多型の雄性不稔性への寄与に関する情報から、被検体植物の雄性不稔性を識別する工程、を含む方法である。
【0012】
配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型の詳細については、後に詳述する。
雄性不稔性を識別する工程は、例えば、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型について、被検体植物から特定された多型のパターンの情報と、カンキツ属植物の有する前記多型の雄性不稔性への寄与に関する情報とを照らし合わせ、多型のパターンを解析することで、被検体植物の雄性不稔性を識別することができる。
多型の雄性不稔性への寄与に関する情報としては、多型と雄性不稔性の度合いとが対応づけられた情報が挙げられる。
【0013】
本明細書における「雄性不稔性」とは、1葯あたりの花粉量が少ない、又は花粉が生産されない状態を指し、雄性稔性が完全に失われていることのみを指すものではない。雄性不稔性の度合い指標の一例としては、1葯あたりの花粉数が挙げられ、1葯あたりの花粉数が2000以下である場合を、無核性又は少核性に寄与する雄性不稔性であると判断してもよい。
本明細書における「雄性不稔性を識別する」とは、被検体植物の雄性不稔性を推定することを含み、被検体植物の雄性不稔性の度合い(例えば、1葯あたりに生産される花粉数の程度)を基準に雄性不稔性を識別することを含む。
【0014】
発明者は、雄性不稔性の識別に有用な領域として、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域を特定した。
これまでの発明者らの研究により、1葯あたりの花粉量に関わる主働QTL(MS-P1)が同定されている(非特許文献1)。今回特定した領域は、このMS-P1領域内に位置するものであり、雄性不稔性の一要因となるゲノム領域又はその近傍に位置するものであると考えられる。
【0015】
配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型に関してではないが、本発明者は、多数のカンキツ属植物について、MS-P1領域のハプロタイプの組み合わせと、雄性不稔性との相関を検証した結果、特にクネンボ(Citrus nobilis (Lour.) var. kunep Tanaka)由来のクネンボBハプロタイプ(MS-P1-KNB-B)、マーコット(Citrus spp.)由来のマーコットAハプロタイプ(MS-P1-MCT-A)、及びスイートオレンジ(Citrus sinensis (L.) Osbeck)由来のスイートオレンジBハプロタイプ(MS-P1-SWO-B)が、雄性不稔性の識別において重要であることが明らかとなった。
【0016】
また、キング(Citrus nobilis Lour.)由来のキングAハプロタイプ(MS-P1-KNG-A)、キシュウ(Citrus kinokuni hort. ex Tanaka)由来のキシュウBハプロタイプ(MS-P1-KSH-B)、並びにポンカン(Citrus reticulata Blanco)由来のポンカンAハプロタイプ(MS-P1-PNK-A)及びポンカンBハプロタイプ(MS-P1-PNK-B)についても解析をおこなった。
【0017】
結果を図21に示す。
上記の解析の結果、下記のハプロタイプの組み合わせで、雄性不稔性が強く発現されることを明らかにした。
雄性不稔型のハプロタイプの組み合わせ:
・MS-P1-KNB-Bのホモ
・MS-P1-SWO-Bのホモ
・MS-P1-KNB-B 及び MS-P1-SWO-B
・MS-P1-MCT-A 及び MS-P1-KNB-B
・MS-P1-MCT-A 及び MS-P1-SWO-B
・MS-P1-KNB-B 及び MS-P1-KNG-A
・MS-P1-KNB-B 及び MS-P1-SWO-A
・MS-P1-KNB-B 及び MS-P1-KSH-B
(上記のハプロタイプ略称)
クネンボBハプロタイプ :MS-P1-KNB-B
スイートオレンジAハプロタイプ:MS-P1-SWO-A
スイートオレンジBハプロタイプ:MS-P1-SWO-B
マーコットAハプロタイプ :MS-P1-MCT-A
キングAハプロタイプ :MS-P1-KNG-A
キシュウBハプロタイプ :MS-P1-KSH-B
【0018】
しかし、MS-P1-KNB-Bを持っていた場合でも、下記の組み合わせの場合には、雄性稔性となることも明らかとした。
・MS-P1-KNB-B 及び MS-P1-PNK-A
・MS-P1-KNB-B 及び MS-P1-PNK-B
(上記のハプロタイプ略称)
ポンカンAハプロタイプ :MS-P1-PNK-A
ポンカンBハプロタイプ :MS-P1-PNK-B
【0019】
本発明者は、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型が、上記の各ハプロタイプと対応づけ可能であり、雄性不稔性を識別可能であることを明らかにした。被検体植物の当該領域を解析することにより、被検体植物の雄性不稔性を識別することができる。
【0020】
なお、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域は、被検体植物ごとに、上記多型を含む変異が生じているなどして、塩基配列が完全に一致しなくてもよい。当業者であれば、各塩基配列を基準として、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域を容易に特定できる。配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域は、配列番号1に記載の塩基配列の全部の領域に対応するものであってよく、雄性不稔性を識別可能な多型を含む限り、配列番号1に記載の塩基配列の一部の領域に対応するものであってもよい。
例えば、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域は、後で例示するプライマーセットにより増幅され得る領域であるので、当業者であれば、当該対応する領域を容易に取得できる。
【0021】
配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域は、配列番号1~7のいずれかに記載の塩基配列を含むことができる。
【0022】
図16に、実施例で用いたMS-P1 Indel2プライマーセットにより増幅された、配列番号1に記載の塩基配列に対応する各領域の増幅産物の塩基配列を示す。
各配列番号に記載の塩基配列は、以下のハプロタイプと、それぞれ対応付けられるものである。
配列番号1 :MS-P1-SWO-B
配列番号2 :MS-P1-KNB-B
配列番号3 :MS-P1-MCT-A
配列番号4 :MS-P1-KNG-A
配列番号5 :MS-P1-SWO-A
配列番号6 :MS-P1-PNK-A
配列番号7 :MS-P1-PNK-B
【0023】
本発明の一実施形態として、図16に示される挿入欠失及び/又は一塩基多型を検出することで、被検体植物の上記の各ハプロタイプを特定し、例えば、被検体植物のハプロタイプと、上記に例示した、雄性不稔性が強く発現されるハプロタイプの組み合わせと照らし合わせ、被検体植物の雄性不稔性を識別することができる。
【0024】
更なる利点を有する本発明の別の実施形態として、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域の、全部又は一部を含む増幅産物の有無、増幅産物の長さ、又は増幅産物の制限酵素による切断パターンのいずれか一つ以上の基準に基づき、前記多型を検出する方法を例示できる。本実施形態では、塩基配列を特定せずとも、非常に簡便に多型を検出できる。
【0025】
本発明者は、この利点を利用可能な要因として、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域には、上記の各ハプロタイプの識別を容易とする挿入欠失等が集中していることを見出した。
かかる挿入欠失を利用すれば、塩基配列を特定せずとも、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域その増幅産物を確認することで、非常に簡便に且つ多種の多型を特定できる。
【0026】
その上、当該領域には、例えば、増幅長からアリルを区別する場合の正確性を高めるとの観点から非常に好適な長さ(例えば200bp以上)の挿入欠失も含まれている。そのため、その増幅産物の長さを確認することで、塩基配列を特定せずとも、非常に簡便に多型を検出でき、且つ誤判定の可能性も低いものである。
【0027】
当該増幅には、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域の、全部又は一部を含む領域の前記多型を検出できる、2以上のプライマーから構成されるプライマーセットを用いる、増幅反応を利用することができる。
【0028】
増幅反応としては、例えば、等温条件下での増幅反応、非等温条件下での増幅反応が挙げられる。等温条件下での増幅反応としては、例えば、LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric Primer-initiated Amplification of Nucleic Acids)法、HDA(Helicase-dependent Amplification)法、RPA(Recombinase Polymerase Amplification)法が挙げられる。非等温条件下での増幅反応としては、例えば、PCR法が挙げられる。本実施形態では、増幅反応としては、LAMP法およびPCR法が好ましい。
【0029】
増幅産物の増幅サイズとしては、適宜定めればよいが、例えば、50~1500bpであってよく、100~1300bpであってよく、200~1000bpであってよい。
【0030】
増幅産物の解析方法は、公知であり、種々の方法を用いて適宜実施できる。例えば、シーケンサを用いたキャピラリー電気泳動や、ポリアクリルアミド電気泳動、アガロースゲル電気泳動等の電気泳動によって行うことができる。
【0031】
配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における挿入欠失としては、
1)配列番号1に記載の塩基配列の、第162~487番目の塩基配列の挿入欠失、
2)配列番号1に記載の塩基配列の、第543~776番目の塩基配列の挿入欠失、
3)配列番号1に記載の塩基配列の、第893番目と第894番目の間の塩基配列への挿入欠失、に対応する多型等を例示できる。
【0032】
増幅の対象となる配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域は、上記の1)~3)に対応する挿入欠失のいずれか一つ以上を検出可能なものが挙げられ、少なくとも上記の1)及び2)に対応する挿入欠失を含むことが好ましく、上記の1)~3)に対応する全ての挿入欠失を含むことがより好ましい。
【0033】
非常に簡便に多型を検出可能で、被検体植物の雄性不稔性を識別できる本発明の一実施形態として、上記の各ハプロタイプを、Aアリル、Bアリル、Cアリル、null(配列の増幅無し)として、それぞれ特定する方法を例示する。
【0034】
表1に、各ハプロタイプと各アリル(Aアリル、Bアリル、Cアリル、null)との対応及び、雄性不稔性への寄与に関する情報を示す。
表1に示されるアリルサイズ(bp)は、上記の1)~3)の全ての挿入欠失を含むよう、後述の実施例で用いたMS-P1 Indel2プライマーセットにより増幅された増幅産物のサイズ(bp)である。
【0035】
【表1】
【0036】
一例として、被検体植物のアリルと、上記に例示した、雄性不稔性が強く発現されるハプロタイプが対応するアリルの組み合わせと照らし合わせ、被検体植物の雄性不稔性を識別することができる。
【0037】
ここで、非常に有益なことに、これら各アリルでは、雄性不稔性の発現への寄与の大きい(有することで高い確率で雄性不稔性となる)3つのハプロタイプ、MS-P1-SWO-B、MS-P1-KNB-B、及びMS-P1-MCT-Aを、Aアリル又はBアリルとして、特異的に検出することができる。
即ち、上記の各MS-P1のハプロタイプと対応付けを行わなくとも、Aアリル及び/又はBアリルを検出することで、被検体植物が高確率で雄性不稔性を示すことを識別できる。
【0038】
例えば、A/A、A/B、B/null等の遺伝子型を有する個体のほうが、C/CやC/null、null/null等の遺伝子型を有する個体よりも、雄性不稔性の度合いが高い(花粉の生産量が低い)傾向となる。
【0039】
また、被検体植物が高確率で雄性不稔性を示すことを識別できる雄性不稔型のアリルの遺伝子型(及び対応するMS-P1のハプロタイプ)を以下に例示する。
B/B: MS-P1-KNB-Bのホモ に対応
A/A: MS-P1-SWO-Bのホモ に対応
B/A: MS-P1-KNB-B / MS-P1-SWO-B に対応
B/B: MS-P1-MCT-A / MS-P1-KNB-B に対応
B/A: MS-P1-MCT-A / MS-P1-SWO-B に対応
B/C: MS-P1-KNB-B / MS-P1-KNG-A に対応
B/C: MS-P1-KNB-B / MS-P1-SWO-A に対応
B/null: MS-P1-KNB-B / MS-P1-KSH-B に対応
【0040】
また、下記のアリルの遺伝子型(及び対応するMS-P1のハプロタイプ)も、雄性不稔型のアリルの遺伝子型として例示できる。
B/C: MS-P1-MCT-A / MS-P1-KNG-A に対応
B/C: MS-P1-MCT-A / MS-P1-SWO-A に対応
B/null: MS-P1-MCT-A / MS-P1-KSH-B に対応
【0041】
被検体植物で、例えば、上記のいずれかの雄性不稔型のアリルの遺伝子型が検出された場合は、高確率で雄性不稔性を示すと識別できる。
被検体植物で、例えば、上記の雄性不稔型の遺伝子型が検出されなかった場合は、高確率で雄性稔性を示すと識別できる。
【0042】
また、所望により、上記の増幅産物の制限酵素による切断パターンを確認することを行ってもよく、簡便に多型を検出できる。
【0043】
一例として、
4)配列番号1に記載の塩基配列の、第108番目塩基配列の一塩基多型、に対応する多型を検出することが挙げられる。
【0044】
なお、第108番目塩基配列の一塩基多型以外の多型についても、例えば図16に示される多型を適宜選択して用いることができる。制限酵素についても、対象の配列に応じて適宜選択することができる。
【0045】
表1に、後述の実施例で用いたMS-P1 Indel2プライマーセットにより増幅された増幅産物を、制限酵素SspIによって切断した場合の産物のサイズ(bp)、及びA1アリル、Bアリル、C1アリル、C2アリル、null(配列の増幅無し)を例示する。
【0046】
また、被検体植物が高確率で雄性不稔性を示すことを識別できる雄性不稔型のアリルの遺伝子型(及び対応するMS-P1のハプロタイプ)を以下に例示する。
B /B : MS-P1-KNB-Bのホモ に対応
A1/A1: MS-P1-SWO-Bのホモ に対応
B /A1: MS-P1-KNB-B / MS-P1-SWO-B に対応
B /B : MS-P1-MCT-A / MS-P1-KNB-B に対応
B /A1: MS-P1-MCT-A / MS-P1-SWO-B に対応
B /C1: MS-P1-KNB-B / MS-P1-KNG-A に対応
B /C2: MS-P1-KNB-B / MS-P1-SWO-A に対応
B /null: MS-P1-KNB-B / MS-P1-KSH-B に対応
【0047】
また、下記のアリルの遺伝子型(及び対応するMS-P1のハプロタイプ)も、雄性不稔型のアリルの遺伝子型として例示できる。
B /C1: MS-P1-MCT-A / MS-P1-KNG-A に対応
B /C2: MS-P1-MCT-A / MS-P1-SWO-A に対応
B /null: MS-P1-MCT-A / MS-P1-KSH-B に対応
【0048】
被検体植物で、例えば、上記のいずれかの雄性不稔型のアリルの遺伝子型が検出された場合は、高確率で雄性不稔性を示すと識別できる。
被検体植物で、例えば、上記の雄性不稔型の遺伝子型が検出されなかった場合は、高確率で雄性稔性を示すと識別できる。
【0049】
なお、ここでは稔性回復性(有することで高い確率で雄性稔性となる)ではないMS-P1-SWO-Aと、稔性回復性のMS-P1-PNK-A及びMS-P1-PNK-Bとは、いずれもC2アリルとして区別されないが、これらのハプロタイプの両方(例えば、MS-P1-SWO-AとMS-P1-PNK-Aの両方、MS-P1-SWO-AとMS-P1-PNK-Bの両方など)を持つ集団を用いる場合等でなければ問題とはならず、仮にこれらの両方を持つ集団等を用いる場合であっても、雄性不稔性の選抜にあたっては、C2アリルを有さない個体を、雄性不稔性を示すものとして識別すればよい(例えば、実施例:実験2-2および実験2-3参照)。本実施形態の方法は、稔性回復性のアリルと、稔性回復性ではないアリルとを区別しなければ雄性不稔性を推定できない場合、又は雄性不稔性の個体を選抜できない場合を除き適用されることが効率的である。より具体的には、本実施形態の方法は、前記Cアリル又は前記C2アリルにおいて、稔性回復性のCアリル又はC2アリルと、稔性回復性ではないCアリル又はC2アリルとを区別しなければ雄性不稔性を推定できない場合、又は雄性不稔性の個体を選抜できない場合を除き適用されることが効率的である。
また、別途、選抜対象の個体やその親個体のCアリル又はC2アリルに対応するハプロタイプが、稔性回復性ではないCアリル又はC2アリルのMS-P1-SWO-A、稔性回復性のCアリル又はC2アリルのMS-P1-PNK-A及びMS-P1-PNK-Bに該当するかどうかを把握することもできる。MS-P1-SWO-A、MS-P1-PNK-A及びMS-P1-PNK-Bは、例えば、非特許文献1に開示される情報に基づき、SSR マーカーの解析や配列の解読により特定することができる。カンキツ属植物の主要品種又は系統については、例えば、後述の表2を参照して把握することができる。
【0050】
被検体植物としては、カンキツ属(Citrus)に属するカンキツ属植物が挙げられる。カンキツ属はミカン属(Citrus)とも称される場合がある。カンキツ属植物としては、ウンシュウミカン、キシュウミカン等のミカン類;スイートオレンジ類;清見、せとか等のタンゴール類;スイートスプリング等のタンゼロ類;グレープフルーツ等のグレープフルーツ類;平戸文旦等の文旦類;日向夏等の雑柑類などを例示できる。
【0051】
被検体植物としては、カンキツ属植物の交雑により育成した品種等の、後代種も包含される。後代種とは、或る種を親に持つ種全般を指し、後代種として、品種、品種の育成段階とみなされる系統、交雑種、雑種、亜種並びに変種を含むことができる。実施形態の方法においては、カンキツ属植物同士を交配して得たF1集団を被検体植物とすることが好ましい。
【0052】
被検体植物は、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型を検出可能であればよい。
【0053】
上記の多型の検出とは、
配列番号1に記載の塩基配列の、第162~487番目の塩基配列の挿入欠失、
配列番号1に記載の塩基配列の、第543~776番目の塩基配列の挿入欠失、
配列番号1に記載の塩基配列の、第893番目と第894番目の間の塩基配列への挿入欠失、及び
配列番号1に記載の塩基配列の、第108番目塩基配列の一塩基多型、に対応する多型の、いずれか一つ以上を検出することを例示でき、被検体植物は、これら多型のいずれか一つ以上を有することが好ましい。
【0054】
上記の多型の検出としては、例えば後述のプライマーセット2を用いた増幅反応による増幅産物を確認することによって行うことができる。当該多型として、上記で例示した、A又はA1アリル、Bアリル、C、C1又はC2アリル、nullの例が挙げられる。
【0055】
表2に、カンキツ属植物の主要品種又は系統と、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型との対応を例示する。なお、本発明における被検体植物は、ここに示す主要品種又は系統に限定されるものではない。
【0056】
本実施形態の方法における雄性不稔性は、雄性不稔性が細胞質に影響される細胞質雄性不稔性であってよい。既報(Yamamoto, M. et al. Sci Hortic (Amsterdam). 1997; 70: 9-14;非特許文献1)によれば、キシュウミカン由来細胞質と、雄性不稔性核遺伝子との相互作用が、高確率な雄性不稔性の識別において重要である可能性が示唆されている。また、後述の実施例における実験5により、キング由来細胞質をもつカンキツ属植物にて、高確率な雄性不稔性の識別が可能であることが示されている。既報(Shimizu, T. et al. PLOS ONE 2016 11(11): e0166969)では、キシュウ由来細胞質及びキング由来細胞質は、細胞質の遺伝子型がともに「Mandarin type」に分類されている。同じく細胞質の遺伝子型が「Mandarin type」に分類される祖先品種としては、ダンシータンジェリン、地中海マンダリン、ポンカン、及びマーコットが挙げられる。
本実施形態の方法における被検体植物は、キシュウミカン由来細胞質、キング由来細胞質、ダンシータンジェリン由来細胞質、地中海マンダリン由来細胞質、ポンカン由来細胞質、又はマーコット由来細胞質、をもつカンキツ属植物であることが好ましい。
本実施形態の方法における被検体植物は、キシュウミカン由来細胞質をもつカンキツ属植物、又はキング由来細胞質をもつカンキツ属植物であることがより好ましい。
【0057】
交配親のうち花粉側(精細胞の由来側)の親を花粉親、めしべ側(卵細胞の由来側)の親を種子親としたとき、細胞質は種子親由来となる。例えば、種子親としてキシュウミカン由来細胞質を持つものを使用し、花粉親としてキシュウミカン由来細胞質を持たないものを使用し、それらを交配して得た被検体植物は、キシュウミカン由来細胞質を有することとなる。
被検体植物の細胞質の遺伝情報は、細胞質のオルガネラのゲノム情報を解析することで判別することができる。被検体植物がどのような由来の細胞質を有するかどうかは、カンキツ品種育成の系譜図などから種子親を辿ることによっても調べることができる。
表2に、カンキツ属植物の主要品種又は系統の細胞質の種類を併記している。現状、日本国内で種子親に使われている品種・系統のほとんどがキシュウミカン由来細胞質を持つ。
【0058】
更に、別途、MS-P1のハプロタイプと照らし合わせて雄性不稔性を識別する場合には、被検体植物としては、MS-P1-SWO-B、MS-P1-KNB-B、MS-P1-MCT-A、MS-P1-KNG-A、MS-P1-SWO-A、MS-P1-KSH-B、MS-P1-PNK-A及びMS-P1-PNK-Bからなる群から選択される少なくとも一つのハプロタイプを有するものが挙げられ、MS-P1-SWO-B、MS-P1-KNB-B、MS-P1-MCT-A、MS-P1-KNG-A、MS-P1-SWO-A、MS-P1-KSH-B、MS-P1-PNK-A及びMS-P1-PNK-Bからなる群から選択される組み合わせのハプロタイプを有するものが好ましい。
【0059】
雄性不稔性への寄与の大きさの観点からは、カンキツ属植物としては、MS-P1-SWO-B、MS-P1-KNB-B、MS-P1-MCT-A、MS-P1-KNG-A及びMS-P1-SWO-Aからなる群から選択される少なくとも一つのハプロタイプを有するものがより好ましい。
【0060】
表2に、カンキツ属植物の主要品種又は系統のMS-P1領域のハプロタイプと、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における遺伝子型とを例示する。また、表3に実施例で解析した品種又は系統のハプロタイプを示す。実施形態の識別方法に係る被検体植物として、これら品種又は系統を好適に適用可能である。またこれら品種又は系統の後代種も好適に適用可能であり、これら品種又は系統と、所望のカンキツ属植物とを交配したF1集団を、被検体植物とすることができる。
【0061】
【表2】
【0062】
実施形態の方法では、被検体植物の多型を検出するにあたり、被検体植物由来のゲノムDNAを含む試料を用いることができる。被検体植物から、そのDNAを含む試料を調整する方法は公知である。被検体植物としては、上記に例示したカンキツ属植物が挙げられる。
被検体植物は、植物体、その一部またはそれらの加工品であってよい。植物体の一部としては、果実、葉、茎、花、根などが例示される。被検体植物の雄性不稔性を予め識別するとの観点からは、花及び果実の形成前の段階の植物体、その一部またはそれらの加工品を使用することが好ましい。
【0063】
実施形態の方法は、互いに異なる品種又は系統のカンキツ属植物を掛け合わせた交配集団に含まれる被検体植物の雄性不稔性を識別する方法として好適である。必要に応じて、掛け合わせに使用する交配親の植物の有する配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型と、その多型の雄性不稔性への寄与に関する情報とを予め取得しておくことができれば、交配集団に含まれる被検体植物の雄性不稔性の識別を効率的に行うことができるため好ましい。
実施形態の方法は、無核性又は少核性を備えたカンキツ属植物の育種に好適に用いられる。実施形態の方法は、無核性又は少核性を備えたカンキツ属植物の育種の観点から、互いに異なる品種又は系統のカンキツ属植物を掛け合わせた交配集団に含まれる被検体植物の配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型を検出する工程、前記多型の雄性不稔性への寄与に関する情報から、被検体植物の雄性不稔性を識別する工程、及び雄性不稔性と識別された被検体植物を選抜して育成する工程を含んでよい。
【0064】
≪プライマーセット≫
また、本発明の一実施形態として、実施形態の雄性不稔性を識別する方法に用いられるプライマーセットであって、前記プライマーセットを用いた増幅反応により前記多型を検出できる、雄性不稔性推定用プライマーセットを提供する。
【0065】
また、本発明の一実施形態として、
1)配列番号1に記載の塩基配列の、第162~487番目の塩基配列の挿入欠失、
2)配列番号1に記載の塩基配列の、第543~776番目の塩基配列の挿入欠失、
3)配列番号1に記載の塩基配列の、第893番目と第894番目の間の塩基配列への挿入欠失、
4)配列番号1に記載の塩基配列の、第108番目塩基配列の一塩基多型、に対応する多型の、いずれか一つ以上を検出できる、雄性不稔性推定用プライマーセットを提供する。
【0066】
これら実施形態のプライマーセットとしては、2以上のプライマーから構成されるプライマーセットを挙げることができる。
【0067】
各プライマーセットに含まれるプライマーの個数は、採用される増幅反応により変動するが、例えば、2~6個である。
【0068】
プライマーを構成するヌクレオチド残基(標的部位にアニーリングする相補部分のヌクレオチド残基)の数は、プライマーが標的部位にアニーリングして、目的産物を増幅できる限り特に限定されず、例えば、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、または20個以上であってもよい。また、プライマーを構成するヌクレオチド残基の数は、例えば、50個以下、40個以下、または30個以下であってもよい。
【0069】
プライマーは、増幅産物の検出を容易に行うため、蛍光物質等の物質で標識されていてもよい。このような蛍光物質としては、例えば、6-FAM、VIC、NED、PET等が挙げられる。勿論、プライマーは、必ずしもこのような物質で標識される必要はない。
例えば、ゲル電気泳動で増幅産物のサイズの差異を確認してもよい。また、LAMP法による検出では、増幅反応の副産物であるピロリン酸マグネシウムの白濁を目視で確認することにより、増幅の有無を確認できる。このような場合、蛍光物質等の物質によるプライマーの標識は不要である。
【0070】
増幅産物の塩基配列や、その長さ等により多型を判別する場合には、プライマーセットの塩基配列は、そのアニーリング位置が、例えば、検出対象の多型の領域を挟む位置となるよう、適宜設計することができる。
増幅産物の有無により多型を判別する場合には、プライマーセットの塩基配列は、そのアニーリング位置が、例えば、検出対象の多型の挿入欠失領域の一部又は全部と重なる位置となるよう、適宜設計することができる。
【0071】
実施形態のプライマーセットの一例として、実施例で用いた上記プライマーセットの配列に基づき、それぞれ以下のプライマーセットを例示する。
【0072】
プライマーセット1:
(1F-1)配列番号8に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は
(1F-2)配列番号8に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、と
(1R-1)配列番号9に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は
(1R-2)配列番号9に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、とを含むプライマーセット
【0073】
プライマーセット2:
(2F-1)配列番号8に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は
(2F-2)配列番号8に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、と
(2R-1)配列番号10に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は
(2R-2)配列番号10に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、とを含むプライマーセット
【0074】
上記プライマーセットのポリヌクレオチドにおいて、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加の形態は、配列番号1に記載の塩基配列に対応する領域における多型を検出可能である限り、特に制限されるものではない。1又は複数個とは、例えば、1~7個であってもよく、1~5個であってもよく、1~4個であってもよく、1~3個であってもよく、1~2個であってもよい。
【実施例
【0075】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
・実験1
ウンシュウミカンはMS-P1-KNB-Bをもつ。Mikan Genome DB(URL:https://mikan.dna.affrc.go.jp/)を用いて、MS-P1領域と想定したゲノム領域内で、クレメンティン、スイートオレンジ、及びポンカンとの塩基配列の比較を行い、クレメンティンゲノムScaffold_8の7,282,986bpの位置に、ウンシュウミカン特異的インサーション(MS-P1 Indel1: 配列番号11 5'-AGGTGGTAATT-3')を見出した(図1)。
ウンシュウミカン特異的インサーション上にRvプライマーを設計し、ウンシュウミカン特異に275bpの増幅が予想されるプライマーセット(MS-P1 Indel1 Fd: 配列番号8 5'-TGCATGCATGAATTATGTGACTGT-3'、MS-P1 Indel1 Rv: 配列番号9 5'-CTTTCCAAATTACCACCTATTACCACC-3')を作製した(図1)。このMS-P1 Indel1プライマーセットを用いてPCRを行ったところ、ウンシュウミカンのみで約550bpの増幅が確認された(図2)。このサイズは予想されたサイズ(275bp)より長い。この結果はMikan Genome BDには登録されていないインサーションがあることを示唆する。
【0077】
そこで、MS-P1 Indel1の挿入箇所を挟む位置に、新たなプライマー(MS-P1 Indel2 Rv: 配列番号10 5'-ATATTGAGAGAACAAATCGAGCATGA-3')を設計した。MS-P1 Indel1 FdとMS-P1 Indel2 Rv(MS-P1 Indel2プライマーセット)を用いたPCRによって、ウンシュウミカンでは約630bpの増幅、スイートオレンジでは約950bpと約390bpの増幅、クレメンティンとポンカンでは約390bpの増幅が確認された(図3)。以後、約950bp、約630bp、約390bpで増幅されるアリルをそれぞれAアリル、Bアリル、Cアリルと称する。
同様に、MS-P1 Indel2プライマーセットを用い、各ハプロタイプを有する品種又は系統を供試してPCRを行った。
品種又は系統と各ハプロタイプの概要を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
その結果、MS-P1-KNB-BはBアリルとして(図4図5)、MS-P1-MCT-AはBアリルとして(図4図6)、MS-P1-SWO-AはCアリルとして(図7)、MS-P1-SWO-BはAアリルとして(図7)、MS-P1-KNG-AはCアリルとして(図8)、MS-P1-PNK-AとMS-P1-PNK-BはCアリルとして検出されることが明らかとなった(図9)。
上記の結果の概要を表1に示す。
【0080】
・実験2
次に、交配集団を用いたMS-P1 Indel2プライマーセットによる雄性不稔性実生選抜の実証例を示す。
【0081】
(実験2-1)興津46号×カラの交配集団を使った例
興津46号はMS-P1-KNB-BとMS-P1-SWO-Aをもち、カラはMS-P1-KNB-BとMS-P1-KNG-Aをもつ。MS-P1 Indel2プライマーセットでPCRを行い分析すると、興津46号とカラは共にB/Cの遺伝子型を示した(図10)。この交配集団では、MS-P1-KNB-Bホモ、MS-P1-KNB-B+MS-P1-KNG-A、MS-P1-KNB-B+MS-P1-SWO-A、MS-P1-KNG-A+MS-P1-SWO-Aの実生が出現する(図10)。
これらの中から雄性不稔性実生を選抜するにはMS-P1-KNB-Bホモ、MS-P1-KNB-B+MS-P1-KNG-A、又はMS-P1-KNB-B+MS-P1-SWO-Aをもつ実生を選抜すればよい。これらハプロタイプの組み合わせに対応する遺伝子型はそれぞれB/B、B/C、B/Cである。
図11に、雄性不稔性として識別されたB/B、B/Cの遺伝子型を持つ実生の雄性不稔性評価の結果を示す。B/B、B/Cの遺伝子型を選抜することで、有意に花粉数が少ない実生、つまりは雄性不稔性実生を選抜することができた。
【0082】
(実験2-2)スイートスプリング×興津56号の交配集団を使った例
スイートスプリングはMS-P1-KNB-BとMS-P1-KSH-Bをもち、興津56号はMS-P1-PNK-BとMS-P1-KSH-Bをもつ。MS-P1 Indel2プライマーセットでPCRを行い分析すると、スイートスプリングはB/null、興津56号はC/nullの遺伝子型を示した(図12)。
雄性不稔性実生を選抜するにはMS-P1-KNB-B+MS-P1-KSH-Bをもつ実生を選抜すればよい。このハプロタイプの組み合わせに対応する遺伝子型はB/nullである。
図13に、雄性不稔性として識別されたB/nullの遺伝子型を持つ実生の雄性不稔性評価の結果を示す。B/nullの遺伝子型を選抜することで、有意に雄性不稔性実生を選抜することができた。
【0083】
(実験2-3)はれひめ×興津63号の交配集団を使った例
はれひめはMS-P1-KNB-BとMS-P1-SWO-Bをもち、興津63号はMS-P1-SWO-BとMS-P1-PNK-Aをもつ。MS-P1 Indel2プライマーセットでPCRを行い分析すると、はれひめはA/B、興津63号はA/Cの遺伝子型を示した(図14)。
雄性不稔性実生を選抜するにはMS-P1-SWO-Bホモ、又はMS-P1-KNB-B+MS-P1-SWO-Bをもつ実生を選抜すればよい。これらハプロタイプの組み合わせに対応する遺伝子型はそれぞれA/A、A/Bである。
図15に、雄性不稔性として識別されたA/A、A/Bの遺伝子型を持つ実生の雄性不稔性評価を示す。A/A、A/Bの遺伝子型を選抜することで、有意に雄性不稔性実生を選抜することができた。
【0084】
・実験3
MS-P1 Indel2プライマーセットで増幅した各ハプロタイプのDNAをpBluescript II SKベクターにクローニングし、M13FdとM13Rvプライマーをもちいてシークエンスし、その塩基配列を決定した。
【0085】
配列番号1は、MS-P1-SWO-Bのハプロタイプを有するスイートオレンジトロビタ(Citrus sinensis (L.) Osbeck)のゲノム配列である。
配列番号2は、MS-P1-KNB-Bのハプロタイプを有するウンシュウミカン原木(Citrus unshiu Marcov.)のゲノム配列である。
配列番号3は、MS-P1-MCT-Aのハプロタイプを有するマーコット(Citrus spp.)のゲノム配列である。
配列番号4は、MS-P1-KNG-Aのハプロタイプを有するキング(Citrus nobilis Lour.)のゲノム配列である。
配列番号5は、MS-P1-SWO-Aのハプロタイプを有するスイートオレンジトロビタ(Citrus sinensis (L.) Osbeck)のゲノム配列である。
配列番号6は、MS-P1-PNK-Aのハプロタイプを有する不知火(Citrus spp.)のゲノム配列である。
配列番号7は、MS-P1-PNK-Bのハプロタイプを有する陽香(Citrus spp.)のゲノム配列である。
【0086】
図16に、上記の配列の比較結果を示す。
【0087】
・実験4 MS-P1-KNG-Aハプロタイプの判別
雄性不稔性への関与が中程度であるMS-P1-KNG-AハプロタイプはCアリルとして検出されるが、稔性回復性であるMS-P1-PNK-A及びMS-P1-PNK-BもCアリルとして検出される。そこで、MS-P1-KNG-Aハプロタイプ特異的に判別する方法の一例を以下に示す。
【0088】
MS-P1 Indel2プライマーセットで増幅された各ハプロタイプをシークエンスし、その配列を比較したところ、MS-P1-KNG-Aの108bp目にSNPがあり、その部分がSspIの認識サイト(AAT/ATT)になっていた(図16)。つまりはMS-P1 Indel2プライマーセットで増幅されたMS-P1-KNG-AはSspI制限酵素で切断され、MS-P1-KNG-AのCアリルは、108bpと279bpのサイズからなるC1アリルとして識別できる(表1)。SspI制限酵素で切断されないCアリルは、C2アリルとして識別できる(表1)。
【0089】
品種を用いた例を以下に示す。品種又は系統と各ハプロタイプの概要を表3に示す。MS-P1-KNG-Aハプロタイプをもつキング、マーコット、MS-P1-KNG-AとMS-P1-PNK-Aの両方をもつアンコール、MS-P1-PNK-AとMS-P1-PNK-Bをもつポンカンと地中海マンダリン、MS-P1-PNK-Bをホモに持つダンシータンジェリン、コントロールとして、ウンシュウミカンとスイートオレンジをMS-P1 Indel2プライマーセットで増幅させ(図17)、SspI制限酵素によって処理した(図18)。
その結果、キング、マーコットにC1アリルが検出され、ポンカン、地中海マンダリン、ダンシータンジェリンにはC2アリルが検出された。アンコールにおいてはC1、C2の両方のアリルが検出された。つまりはMS-P1 Indel2プライマーセットとSspIによる制限酵素処理を組み合わせることでMS-P1-KNG-Aを判別することができた。
上記の結果の概要を表1に示す。
【0090】
なお、MS-P1-SWO-BもSspI制限酵素サイトを持つため(図16)、MS-P1-SWO-B はSspIによる制限酵素処理によって、322bpと625bpからなるA1アリルが生じる(図16図18)。ここで生じるA1アリルの625bpはBアリルとサイズが同じであるので、MS-P1-SWO-Bをもつ交配集団において、選抜を行う場合に注意が必要である。
【0091】
・実験5 キング由来細胞質を有する交配集団を対象とした雄性不稔性実生選抜
上述のとおり、既報(Yamamoto, M. et al. 1997)によれば、キシュウミカン由来細胞質と、雄性不稔性核遺伝子との相互作用が、高確率な雄性不稔性の識別において重要である可能性が示唆されている。また、上記の実験2での雄性不稔性実生選抜の実証例では、交配親としてキシュウミカン細胞質由来の品種・系統を使用していた。
【0092】
そこで、本実験5では、本発明の雄性不稔性を識別する方法が、キシュウミカン由来細胞質をもつ実生だけでなく、キング由来細胞質をもつ実生にも適用可能であるかを検討した。
【0093】
キング由来細胞質をもつ品種・系統(口之津39号、農6号、アンコール、西南のひかり、No.1408、口之津27号)をMS-P1直下の DNAマーカーを用いてジェノタイピングし、ハプロタイプの組み合わせ(ディプロタイプ)を決定した。1葯あたりの花粉数も併せて調査し、MS-P1領域のディプロタイプと雄性不稔性との相関を調べた。コントロールとして、キシュウミカン由来細胞質をもちMS-P1領域のディプロタイプが雄性不稔型であるウンシュウミカンと雄性稔性型である不知火を用いた(図19)。
結果を図19に示す。雄性不稔型ディプロタイプであるKNB-B+KNG-Aを持つ口之津39号は非常に強い雄性不稔性を示した。また、同じく雄性不稔型ディプロタイプであるKNB-B+KSH-Bを持つ農6号の1葯あたりの花粉数は1996個を示し、雄性不稔性と判断できた。一方、稔性回復性のハプロタイプであるPNK-Bを持つアンコール、西南のひかり、No.1408、口之津27号の1葯あたりの花粉数は5000個以上を示し雄性稔性であり、MS-P1ハプロタイプによる雄性不稔性の出現モデルと一致していた。
【0094】
次に、これら品種・系統を対象として、MS-P1 Indel2プライマーセットを用いた配列の増幅を行い、増幅産物に対してSspI制限酵素処理を行い、各アリルを検出した。
結果を図20に示す。MS-P1-KNB-BはBアリルとして、MS-P1-KNG-AはC1アリルとして、MS-P1-KSH-Bはnullとして、MS-P1-PNK-BはC2アリルとしてそれぞれ検出され、各アリルから推定可能な雄性不稔性への寄与は、キシュウミカン由来細胞質を持つ品種・系統で得た結果と一致していた。
以上の結果から、本発明を適用した雄性不稔性を識別する方法、及び雄性不稔性推定用プライマーセットが、キシュウミカン由来細胞質をもつ実生だけでなく、キング由来細胞質をもつ実生にも適用可能であることが示された。このことから、本発明を適用した雄性不稔性を識別する方法は、カンキツ属植物に広く適用可能であることが分かる。
【0095】
上記の実施例により、上記の多型により構成されるDNAマーカーを用いて、被検体植物の雄性不稔性を高精度に識別可能であることが示された。
【0096】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
図1
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【配列表】
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