(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/16 20060101AFI20230612BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20230612BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230612BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
H01J37/16
H01J37/09 Z
H01J37/28 B
H01J37/28 Z
H01J37/305 B
(21)【出願番号】P 2019091529
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慶介
(72)【発明者】
【氏名】中曽 潔
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-326009(JP,A)
【文献】特開平09-293652(JP,A)
【文献】特開2016-051536(JP,A)
【文献】特開2017-152087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームが照射される対象物を搭載可能に構成される、移動可能なステージと、
前記ステージを収納するチャンバーと、
前記チャンバーによって直接または間接的に支持され、前記荷電粒子ビームの放射源と前記荷電粒子ビームのための電子光学系とを有し、前記放射源から放射された前記荷電粒子ビームを、前記電子光学系を用いて前記ステージに向けて照射するように構成される鏡筒と、
前記ステージに設けられ、前記鏡筒の前記電子光学系か
ら前記荷電粒子ビーム
が照射されるマークと、
前記マークからの反射電子を検出する荷電粒子検出部と、
加振信号が与えられることにより、前記ステージと、前記チャンバーと、前記鏡筒と、を含む構成要素
に、振動を与え
るアクチュエータと、
前
記アクチュエータに前記加振信号を与える
加振信号発生部と
、
前記荷電粒子検出部によって生成された第1振動信号の周波数成分を示す第1振動周波数信号を生成する周波数解析部と、
前記第1振動周波数信号に基づいて、前記第1振動信号に予め設定された閾値以上の振動の大きさを有するピーク周波数があるか否かを検出し、前記第1振動信号に前記閾値以上の振動の大きさを有する前記ピーク周波数がある場合、前記構成要素のいずれかに振動が励起されたと判断する加振信号解析部と
を備える、荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
さらに、前記構成要素に生じる振動を検出し、当該構成要素の振動を検出する振動センサを備える、請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記周波数解析部は、前記振動センサによって検出された第2振動信号の周波数成分を示す第2振動周波数信号を生成し、
前記
加振信号解析部は、
前記第1振動周波数信号と前記第2振動周波数信号とを比較した結果に基づいて、機械的な不具合が生じた前記構成要素を特定するように構成される、請求項2に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前
記アクチュエータは、
前記ステージの移動のために前記ステージを駆動
し、前記ステージに振動を与えるアクチュエータである、請求項1ないし請求項
3のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前
記アクチュエータは、
前記ステージを駆動するアクチュエータ、前記チャンバーを制振するアクチュエータ、及び前記鏡筒を制振するアクチュエータ
のいずれかであ
り、
前記振動センサは、前記ステージの位置を測定するレーザー測長器、前記チャンバーに取り付けられた振動センサ、及び前記鏡筒に取り付けられた振動センサのいずれかである、請求項
2または請求項
3に記載の荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電子などの荷電粒子ビームを対象物に照射する荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハなどの半導体基板上に所定のパターンを描画する目的で、あるいは、半導体基板上にパターンを露光するために使用されるマスク基板に所定のパターンを描画する目的で、電子ビームなどの荷電粒子ビームを用いた描画装置が使用される。あるいは、マスク基板や半導体基板などの対象物に描かれたパターンの欠陥などを検査するための検査装置において、電子ビームなどの荷電粒子ビームが、対象物を照射することによって対象物の画像を取得するために用いられる。荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビームを用いるこれら描画装置や検査装置などを含む。以下本明細書では、半導体基板やマスク基板など、荷電粒子ビームが照射される対象物を、試料と呼ぶ。
【0003】
近年、半導体装置は、益々大規模集積化の方向に向かい、回路パターンの微細化が顕著である。従って、荷電粒子ビーム装置において、荷電粒子ビームを試料の正しい位置に精度よく位置決めすることが重要である。
【0004】
例えば、荷電粒子ビーム描画装置は、試料を載せるためにチャンバー内に設けられたステージと、荷電粒子ビームを発生する電子銃、荷電粒子ビームを所定の形に成形するためのアパーチャ、荷電粒子ビームを試料上に収束させるための照射レンズ系などの荷電粒子ビーム照明機構を備え、チャンバーに直接または間接的に支持された鏡筒とを備える。さらに、荷電粒子ビーム描画装置は、ステージを移動させる駆動機構を備え、試料を載置したステージを連続移動させながら、試料上に所定のパターンが描画される。そして、荷電粒子ビームと試料との相対位置が変動しないように、ステージの位置をレーザー測長系によって測定することにより試料の位置情報を得て、この位置情報により荷電粒子ビームを偏向して照射位置を補正する。このような荷電粒子ビームの照射位置の補正は、一般に、トラッキング補正と呼ばれる。
【0005】
このとき、ステージを所定の位置に留めておくためにステージ制御機構からステージに加えられる力による振動や、チャンバーや鏡筒内を真空に保つためのポンプにより生じる振動や、ステージがチャンバー内で加速度運動することより生じる力(例えば、ステージの質量×加速度)の反力が作用してチャンバー、ステージ、鏡筒に生じる振動によって、荷電粒子ビームと試料との相対位置の変動が生じる。このような変動の全てがトラッキング補正により抑えられるわけではない。また、前述のトラッキング補正において用いられる、レーザー測長系を構成するコンポーネント自身(例えば、レーザー光源、レーザーを反射するためにステージに設けられたミラー、ミラーで反射したレーザー光を検出する受光器)が、取り付けの緩みや歪みなどの機械的な不具合をもつ場合には、測定された試料の位置情報が誤差を含むので、荷電粒子ビームと試料との相対位置の変動をトラッキング補正によって補正することが困難である。
【0006】
通常、トラッキング補正により補正できない荷電粒子ビームと試料との相対位置の変動は、実際に試料にパターンを描画した後、描画されたパターンを検査することによって評価される。この評価では、実際に試料にパターンを描画するための時間や、描画されたパターンが検出できるようにするための処理(例えば、パターンが描画されたマスク基板を現像すること)のための時間が必要なので、数日の時間が要とされる。
【0007】
実際に試料にパターンを描画することなく荷電粒子ビームと試料との相対位置を変動させる要因を検査する方法として、例えば、特許文献1に記載された方法がある。
【0008】
しかし、上述のように、試料を載置するステージの加速度運動によって生じる振動など、荷電粒子ビーム描画装置が備える様々な機械的な機構(例えば、チャンバー、ステージ、鏡筒、レーザー測長系)が振動状態にあるとき、それらの振動が荷電粒子ビームと試料との相対位置の変動にどのような影響が生じているのかを評価することが重要である。この評価を、実際にパターンを描画することなく、短時間に行うことのできる荷電粒子ビーム描画装置が求められる。
【0009】
また、荷電粒子ビームを用いる検査装置も、鏡筒、チャンバー、ステージなど、荷電粒子ビーム描画装置と同様の機構を備える。検査装置においても、荷電留置ビームと試料との相対位置の変動を抑えることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、荷電粒子ビームの相対的な振動に影響を及ぼすような機械的な不具合を構成要素がもつことを、実動作することなく検出することができる荷電粒子ビーム装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置は、 荷電粒子ビームが照射される対象物を搭載可能に構成される移動可能なステージと、 ステージを収納するチャンバーと、 チャンバーによって直接または間接的に支持され、荷電粒子ビームの放射源と荷電粒子ビームのための電子光学系とを有し、放射源から放射された荷電粒子ビームを、電子光学系を用いてステージに向けて照射するように構成される鏡筒と、 ステージに設けられ、鏡筒から荷電粒子ビームが照射されるマークと、 マークからの反射電子を検出する荷電粒子検出部と、 加振信号が与えられることにより、ステージと、チャンバーと、鏡筒と、を含む構成要素に、振動を与えるアクチュエータと、 アクチュエータに加振信号を与える加振信号発生部と、 荷電粒子検出部によって生成された第1振動信号の周波数成分を示す第1振動周波数信号を生成する周波数解析部と、 第1振動周波数信号に基づいて、第1振動信号に予め設定された閾値以上の振動の大きさを有するピーク周波数があるか否かを検出し、第1振動信号に閾値以上の振動の大きさを有するピーク周波数がある場合、前記構成要素のいずれかに振動が励起されたと判断する加振信号解析部と を備える。
【0013】
本発明の他の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置は、さらに、構成要素に生じる振動を検出し、当該構成要素の振動を検出する振動センサを備え、 周波数解析部は、振動センサによって検出された第2振動信号の周波数成分を示す第2振動周波数信号を生成し、 加振信号解析部は、第1振動周波数信号と第2振動周波数信号とを比較した結果に基づいて、機械的な不具合が生じた構成要素を特定するように構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、構成要素の機械的な不具合の有無の検出を、実動作することなく、短時間で容易に行う。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成を概略的に示す。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る電子ビーム描画装置において電子ビームとステージの相対振動を検出するために用いられるマークを模式的に示す。
【
図3A】
図3Aは、一実施形態に係る電子ビーム描画装置における、装置内の機械的な不具合の存在を検出するための動作の流れを示すフローチャートである。
【
図3B】
図3Bは、一実施形態に係る電子ビーム描画装置における、装置内の機械的な不具合の存在を検出するための動作の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、電子ビームとステージの相対振動の一例について、周波数成分を示す図である。
【
図5】
図5は、電子ビームとステージの相対振動の他の例について、周波数成分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、一実施形態に係る電子ビーム描画装置1の構成を概略的に示す。この実施形態において、電子ビーム描画装置1は、本発明を実施する荷電粒子ビーム装置の一例である。
【0018】
電子ビーム描画装置1は、半導体素子の製造工程においてシリコンウェハ上にパターンを露光するために用いられるマスク基板(または、レチクル)を製造するための装置である。電子ビーム描画装置1において、電子銃2から放射される電子ビーム3をマスク基板4上に照射することによって、所望のパターンがマスク基板4に描画される。電子銃2を荷電粒子ビームの放射源に置き換えることで、この実施形態を、荷電粒子ビーム描画装置に適用することができる。
【0019】
電子ビーム描画装置1は、マスク基板4が載せられるステージ5を備える。マスク基板4の面の全体にパターンを描画するように電子ビーム3とマスク基板4との相対位置を変えるために、ステージ5は、所定の方向に移動可能に構成される。
図1には、X方向に沿って前後に動くように構成されたXステージ51と、Y方向に沿って前後に動くように構成されたYステージ52とが示される。簡略化のために省略されるが、ステージ5は、Xステージ51の上に、Z方向に沿って可動のZステージを有する。マスク基板4は、実際には、Zステージの上に設けられたマスク保持機構によって支持される。
図1では、簡略化のために、Zステージと保持機構は示されない。電子ビーム描画装置1は、Xステージ51、Yステージ52、および、Zステージのそれぞれを動かすための駆動機構を備える。
図1は、Xステージ51を動かすための駆動機構6を図示する。駆動機構6は、モーターやエアベアリングなどを備える。例えば、Xステージ51をX方向に動かすための駆動機構6は、モーター61と、モーター61とXステージ51とに接続されたロッド62とを備える。モーター61の回転によって、ロッド62がX方向に前後に動く。ロッド62の動きにより、Xステージ51がX方向に沿って動く。電子ビーム描画装置1は、Yステージ52をY方向に沿って動かすために、例えば、駆動機構6と同様の構成の駆動機構を備える。また、Zステージのために、ZステージをZ方向に沿って動かすためのアクチュエータが与えられる。ステージ5は、電子ビーム3に対して、X方向、Y方向、Z方向に可動である。
【0020】
ステージ5は、チャンバー7の中に設けられる。電子銃2と電子光学系9とを内部に有する鏡筒8が、チャンバー7の上に設けられる。チャンバー7と鏡筒8とは、密封された内部空間を形成する。
図1に詳細には示されないが、鏡筒8の中に、電子銃2から放射された電子ビーム3を所定の断面形状に成形してマスク基板4に照射するための電子光学系9が設けられる。電子光学系9は、電子銃2から放射された電子ビーム3を後段の光学系に導くための照明光学系と、電子ビーム3の断面形状を成形するための投影光学系と、成形された電子ビーム3をマスク基板4上の所定の位置に照射するための対物光学系とを備える。電子光学系9は、電子レンズ、アパーチャ、偏向器などを用いて構成される。
図1に、後述する電子ビーム3のトラッキングを制御するために設けられる偏向器91が模式的に示される。
図1には1本の電子ビーム3が示されるが、電子光学系9は、それぞれがマスク基板4上に部分パターンを描画するために使用される複数のビームを照射するよう構成されてもよい。
【0021】
チャンバー7と鏡筒8とによって形成される密閉空間は、空気中の気体分子と電子ビーム3との干渉を避けるため、高熱になる電子銃2を保護するためなどの目的で、真空にされる。そのために、電子ビーム描画装置1は、チャンバー7と鏡筒8の中の気体を排気する排気機構10を備える。排気機構10のために、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプが用いられる。真空ポンプとチャンバー7との間に排気用の配管が設けられてもよい。真空ポンプは、排気のために常に動いているので、振動源である。配管の取り付けに緩みがある場合、真空ポンプの振動が、チャンバー7や鏡筒8の振動の原因となる。
【0022】
電子ビーム描画装置1は、さらに、ステージ5の位置を測定するためのレーザー測長機構を備える。
図1に、ステージ5のX方向の位置を測定するためのレーザー測長器11が模式的に示される。電子ビーム描画装置1は、ステージ5のY方向の位置を測定するためにも、同様のレーザー測長機構を備える。レーザー測長器11は、ミラー111、ミラー111で反射したレーザー光の位相に基づいて距離を測定するインターフェロメータ112、などを備える。説明を簡略化するために、レーザー光を生成するレーザー光源や、レーザー光をミラー111に向けて照射するための光路を形成するコンポーネンツは、図示されない。ミラー111はステージ5に固定される。ミラー111は、実際には、ZステージのX方向とY方向に設けられるが、
図1は、模式的に、Xステージ51に固定されたミラー111を示す。インターフェロメータ112はチャンバー7の側壁に固定される。従って、インターフェロメータ112は、チャンバー7の側壁とステージ5との距離を測定することによってステージ5の位置情報を得る。ミラー111のステージへ5への取り付けに緩みがある場合、ステージ5の振動によってミラー111がガタつく可能性がある。同様に、インターフェロメータ112のチャンバー7への取り付けに緩みがある場合、チャンバー7の振動によってインターフェロメータ112がガタつく可能性がある。ミラー111やインターフェロメータ112のガタつきは、レーザー測長器11によって測定された距離に誤差を生じさせる。ミラー111やインターフェロメータ112のガタつきは、ステージ5が加速度運動を行っているとき、即ち、ミラー111に慣性力が働いたり、チャンバー7がステージの51,52に生じる慣性力の反力を受けたりしたときに観測され易い。ステージ5が静止していたり、等速で動いていたりするときには、ミラー111やインターフェロメータ112に力が加わらないため、ミラー111やインターフェロメータ112の機械的な不具合は見つけられ難い。
【0023】
レーザー測長器11により測定されたステージ5の位置情報は、位置情報信号S1として、制御部200のステージ制御系12に与えられる。ステージ制御系12は、得られたステージ5の位置情報に基づいて、モーター61のための駆動信号S2を生成する。駆動信号S2が、モーター61の回転を制御するためにモーター61に与えられる。例えば、ステージ5を所望の位置に動かしたい場合、ステージ制御系12は、ステージ5を、ステージ5の現在の位置から所望の位置に向かう方向に、現在の位置と所望の位置との差分だけ動かすようにモーター61に駆動信号S2を与える。駆動信号S2によって、モーター61の回転方向、回転速度、回転量(時間)が制御される。ステージ制御系12は、時間にわたって、インターフェロメータ112からステージ5の位置情報を受け取る。従って、ステージ制御系12は、ステージ5の時間にわたる位置の変化を微分することにより、ステージ5の速度を得る。また、ステージ制御系12は、ステージ5の位置の変化を2回微分することにより、ステージ5の加速度を得る。従って、ステージ制御系12は、ステージ5の現在の速度と目標速度との差がゼロになるような駆動信号S2をモーター61に与えることにより、ステージ5の速度を目標速度にする。同様に、ステージ制御系12は、ステージ5の現在の加速度と目標加速度との差がゼロになるような駆動信号S2をモーター61に与えることにより、ステージ5の加速度を目標加速度にする。さらに、ステージ制御系12は、ステージ5の現在の位置と目標位置との差がゼロになるような駆動信号S2をモーター61に与えることにより、ステージ5を目標位置に位置づけることができる。ステージ5の位置、速度、および、加速度は、ステージ5に搭載されたマスク基板4の位置、速度、および、加速度に対応する。
【0024】
ステージ制御系12のゲインG1は、入力量(例えば、現在の位置と目標位置との差、現在の速度と目標速度との差、現在の加速度と目標加速度との差)に対する被制御量(モーター61の駆動信号S2に応じたステージ5の位置や動き)の応答特性を例示的に示した値である。ステージ制御系12のゲインG1が大きい場合、入力量がわずかに変化した場合でも、被制御量は大きく変化する。従って、ステージ制御系12は、被制御量が早く目標値に達するように、ステージ5を制御することができる。しかし、入力量が大きく変化すると被制御量が短い時間に大きく変化するため、被制御量が目標値を通り越す可能性がある。この結果、被制御値が目標値の前後を短い時間で往復するので、ステージ5の振動を引き起こす可能性がある。逆に、ステージ制御系12のゲインG1が小さい場合、入力量が大きく変化しても、被制御量はわずかにしか変化しない。従って、ステージ制御系12の応答性は低くなり、周波数の高い変化に追従できなくなる。本実施形態の電子ビーム描画装置1では、ステージ制御系12のゲインG1は可変である。
【0025】
レーザー測長器11により測定されたステージ5の位置情報信号S1は、また、制御部200に設けられる電子ビームトラッキング制御系13(以下、「トラッキング制御系」と記す)にも与えられる。トラッキング制御系13は、電子ビーム3により描画エリアを描画中、ステージ5の移動(即ち、マスク基板4の移動)に伴って電子ビーム3をマスク基板の所定位置に位置決めしていくために、ステージ5の位置情報信号S1に基づく(具体的には、位置情報信号S1から得られる速度情報に基づく)偏向信号S3を電子光学系9の偏向器91に与える。トラッキング制御系13は、また、マスク基板4上の描画位置を電子ビーム3が照明しているとき、レーザー測長器11によって得られる実際のステージ5の位置情報信号S1と描画位置との差(トラッキング誤差)に基づいて、描画位置を正しい位置に補正する。トラッキング制御系13は、実際のステージ5の位置情報信号S1と描画位置との差がゼロになるような偏向信号S3を偏向器91に与えることによって、補正を達成する。トラッキング制御系13によるこの制御は、トラキング補正と呼ばれる。電子ビーム3の照明位置とマスク基板4の正しい描画位置との間の誤差は、トラッキング補正によってある程度は抑えることができる。しかし、振動によって引き起こされる電子ビーム3とマスク基板4(ステージ5)との相対位置の変動が、トラッキング補正により完全になくなるわけではない。例えば、チャンバー、ステージ、または、鏡筒に生じた振動による電子ビーム3とマスク基板4との相対位置の変動は、トラッキング補正によって抑えることは難しい。また、前述のように、レーザー測長系を構成するコンポーネント自身(例えば、レーザー光源、レーザーを反射するためにステージに設けられたミラー、ミラーで反射したレーザー光を検出する受光器)が取り付けの緩みや歪みなどの機械的な不具合をもつ場合には、測定されたステージ5の位置情報が誤差を含む。従って、このような機械的な不具合によって生じる電子ビーム3の照明位置とマスク基板4の描画位置との誤差をトラッキング補正によって補正することは、困難である。
【0026】
上述のように、電子ビーム描画装置1において、電子ビーム3の照明位置とマスク基板4の描画位置との誤差を生む原因となる装置の振動を抑える必要がある。電子ビーム描画装置1は、さらに、装置の振動を抑えるための様々な制振機構を備える。
図1に、そのような制振機構の例が示される。
【0027】
電子ビーム描画装置1は、例えば、台座14とチャンバー7との間にエアサスペンション15を備える。エアサスペンション15は、圧搾空気を用いるサスペンションである。チャンバー7と台座14のそれぞれには、振動センサ71,141が取り付けられる。振動センサ71は、チャンバー7の振動に応じたチャンバー振動信号S4を生成し、この信号S4を、制御部200に設けられたチャンバー制振フィードバック系16に送る。振動センサ141は、台座14の振動に応じた台座振動信号S5を生成し、信号S5をチャンバー制振フィードバック系16に送る。振動センサ71が設けられるチャンバー7上の場所や振動センサ71の数は、適宜選んでよい。振動センサ141は全ての台座14に取り付けられてもよい。また、振動センサ71,141は、位置センサ、速度センサ、または、加速度センサであってよい。チャンバー制振フィードバック系16は、振動センサ71,141から送られる信号S4,S5の種類に応じて、信号S4,S5を振動情報に変換するように構成されてよい。振動センサ71,141は、一軸センサ、三軸などの多軸センサ、または、無指向性センサであってよい。尚、電子ビーム描画装置1は、チャンバー7の制振のために、ピエゾアクチュエータを用いた制御系を備えてもよい。
【0028】
チャンバー制振フィードバック系16は、振動センサ71,141によって検出されたチャンバー振動信号S4と台座振動信号S5に応じて、エアサスペンション15内の圧搾空気の出し入れが行われるように、エアサーボバルブ制御信号S6を生成する。エアサーボバルブ制御信号S6は、エアサーボバルブ17に送られる。エアサーボバルブ17は、エアサーボバルブ制御信号S6に応じて、エア経路Airを介して、エアサーボバルブ17とエアサスペンション15との間の圧搾空気の出し入れを行う。エアサーボバルブ17によるエアサスペンション15への圧搾空気の出し入れは、チャンバー7のZ方向の動きと逆位相である。エア経路Airには弁も設けられるが、簡略化のために説明を省略する。本実施形態の電子ビーム描画装置1においては、チャンバー制振フィードバック系16のゲインG3は、台座14の振動に大きく応答しないように小さく設定される。従って、エアサーボバルブ17を用いるチャンバー制振フィードバック系16の応答性は低いので、チャンバー制振フィードバック系16は、チャンバー7の数十Hz(ヘルツ)の振動の抑制に好適である。
【0029】
さらに、本実施形態の電子ビーム描画装置1は、例えば、鏡筒8の振動を抑制する制振機構として、鏡筒8からチャンバー7に伸びるアクティブ制振機構18を有する。アクティブ制振機構18は、例えば、鏡筒8の周囲から3方向または4方向に伸びる。アクティブ制振機構18の各々は、アーム181と、アーム181の間を橋渡すピエゾアクチュエータ182とを有する。鏡筒8には、鏡筒8の振動を検出する振動センサ81が取り付けられる。振動センサ81は、鏡筒8の振動に応じた鏡筒振動信号S7を生成し、この信号S7を、制御部200に設けられる鏡筒制振フィードバック系19に送る。鏡筒制振フィードバック系19は、鏡筒振動信号S7に応じてアクティブ制振機構18のピエゾアクチュエータ182を伸び縮みさせるために、鏡筒制振信号S8をピエゾアクチュエータ182に与える。ピエゾアクチュエータ182は、鏡筒8の振動と逆位相で伸び縮みすることによって、鏡筒8に生じる振動を抑える。振動センサ81が設けられる鏡筒8の場所や振動センサ81の数は、適宜選んでよい。また、振動センサ81は、位置センサ、速度センサ、または、加速度センサであってよい。鏡筒制振フィードバック系19は、振動センサ81から送られる信号S7の種類に応じて、信号S7を振動情報に変換するように構成されてよい。振動センサ81、一軸センサ、三軸などの多軸センサ、または、無指向性センサであってよい。ピエゾアクチュエータ182は周波数応答特性が良いので、鏡筒制振フィードバック系19は、鏡筒8における数百Hz(ヘルツ)の振動を抑制することができる。
【0030】
尚、制御部200が備えるステージ制御系12、電子ビームトラッキング制御系13、チャンバー制振フィードバック系16、鏡筒制振フィードバック系19は、ハードウェア回路で構成されてもよい。ステージ制御系12、電子ビームトラッキング制御系13、チャンバー制振フィードバック系16、鏡筒制振フィードバック系19は、入力量をデジタル値に変換するアナログ-デジタル変換器と、デジタル化された入力量を処理するCPU(マイクロプロセッサあるいはコンピュータ装置)と、CPUが出力するデジタルの被制御量をアナログ信号に変換するデジタル-アナログ変換器とを備える構成であってよい。CPUは、入力量と被制御量との関係を表す伝達関数をソフトウェアプログラムあるいはテーブルとして記憶する。CPUは、ソフトウェアプログラムを実行することによって、あるいは、テーブルを参照することによって、入力量に応じた適切な被制御量を出力できる。
【0031】
本実施形態の電子ビーム描画装置1は、ステージ5が所定位置に留まっている状態において電子ビーム描画装置1の所定箇所に模擬的な振動を与えることにより、電子ビーム描画装置1における機械的な不具合の存在を検出することを特徴とする。このために、本実施形態の電子ビーム描画装置1は、制御部200に、装置1のいずれかの部分に加えられた振動によって装置1の他の部分に生じた振動を解析するための加振振動解析部20を備える。加振振動解析部20も、デジタル化された入力データを受け取り、ソフトウェアを実行することによって入力データに対する所定の処理を行うCPU(マイクロプロセッサまたはコンピュータ装置)で構成されてよい。
【0032】
加振振動解析部20は、加振信号発生部21に、振動を与える箇所、振動の振幅(振動の強さ)、振動の方向(例えば、X方向またはY方向)、振動の周波数の範囲などの情報を含む指令を、信号S9を用いて送るよう構成される。本実施形態の電子ビーム描画装置1は、制御部200に、所定の振幅と周波数のサイン波信号である加振信号S10,S11,S12を出力するよう構成された加振信号発生部21を備える。加振信号発生部21は、周波数スキャンタイプであり、所定範囲の周波数領域を掃く加振信号を出力できる。加振信号発生部21は、CPU(マイクロプロセッサまたはコンピュータ装置)によって実行されるソフトウェアで構成されてよい。代替的に、開始周波数、周波数を変更する刻み幅、各周波数を出力する持続時間などを設定可能な波形発生器(例えば、プログラマブル周波数スキャン発生器)であってもよい。加振振動解析部20は、加振信号発生部21から、信号S9を用いて、現在出力している加振信号の周波数情報を受け取ってもよい。
【0033】
本実施形態の電子ビーム描画装置1において、加振信号発生部21からの加振信号S10,S11,S12は、それぞれ、ステージ5、鏡筒8、チャンバー7に振動を与える。加振信号発生部21は、制御部200に設けられた加振振動解析部20からの指令に従って、電子ビーム描画装置1の様々な構成要素の内の少なくともステージ5と鏡筒8とチャンバー7について、それらの少なくとも1つに模擬的な振動を与えるよう構成されてよい。加振信号発生部21から出力される加振信号S10,S11,S12は、ステージ5、鏡筒8、チャンバー7に振動を引き起こすために、ステージ5、鏡筒8、チャンバー7のそれぞれに設けられたアクチュエータに与えられる。本実施形態の電子ビーム描画装置1において、ステージ5はその駆動機構6のためにモーター61を、鏡筒8はそのアクティブ制振機構18のためにピエゾアクチュエータ182を、チャンバー7はエアサスペンション15のためのエアサーボバルブ17を、それぞれ備える。これらモーター61、ピエゾアクチュエータ182、および、エアサーボバルブ17が、ステージ5、鏡筒8、および、チャンバー7に振動を起こすためのアクチュエータとして利用される。従って、加振信号発生部21から出力される加振信号S10,S11,S12は、それぞれ、モーター61、ピエゾアクチュエータ182、および、エアサーボバルブ17に入力される。例えば、Xステージ51の駆動機構6のモーター61に、ある周波数fHz(ヘルツ)のサイン波の加振信号S10が与えられると、モーター61は、周期T(=1/f)sec(秒)で微小に前転と後転を繰り返す。モーター61の前転と後転の繰り返しが、X方向に沿ったXステージ51の微小な前進と後退の繰り返し運動を引き起こし、ステージ5の振動を生む。この振動の周波数は、加振信号S10の周波数fHz(ヘルツ)に実質的に一致する。加振信号発生部21は、加振信号S10の周波数fHz(ヘルツ)を、例えば、0Hz(ヘルツ)から2000Hz(ヘルツ)まで変える。Yステージ52の駆動機構のモーターに加振信号S10を与えることによって、同様に、Yステージ52のY方向の振動を励起することができる。また、加振信号発生部21は、加振振動解析部20からの振動の振幅(振動の強さ)についての指令に基づき、加振信号S10の振幅を変える。加振信号S10は、Xステージ51の駆動機構6、Yステージ52の駆動機構、および、Zステージの駆動機構のいずれか1つまたは複数に与えられてよい。例えば、ステージ5を20Hz(ヘルツ)で加振することは、ステージ5の加減速(加速度運動)によって20Hz(ヘルツ)の振動がステージ5に発生した状態を模する。加振信号発生部21は、加振信号S10と同様に、加振信号S11,S12を、ピエゾアクチュエータ182とエアサーボバルブ17に出力する。
【0034】
尚、制御部200に含まれる加振振動解析部20と加振信号発生部21は、電子ビーム描画装置1の外部に分離して設けられてもよい。この場合、加振振動解析部20と加振信号発生部21は、信号S1、S4、S7、S14、S15などの所定の入力信号を電子ビーム描画装置1から受け取り、S10,S11、S12などの所定の出力信号を電子ビーム描画装置に出力する。または、制御部200の一部または全部が、外部から電子ビーム描画装置1を制御するように、電子ビーム描画装置1の外部に分離して設けられてもよい。
【0035】
ステージ5に固定されたマーク台22の上に、マーク221が設けられる。マーク221は、電子ビーム3とステージ5との相対的な動きを検出するために用いられる。マーク221は、シリコン基板の上に積まれたタングステン(W)や金(Au)などの重金属の膜で形成される。マーク221は、例えば、矩形の形状を有する。矩形のマーク221の輪郭は、ナイフエッジを形成する。入射電子に対する後方散乱係数は、シリコンよりもタングステンの方が大きい。従って、電子ビーム3がタングステンのマーク221を照明するときと、電子ビーム3がシリコン基板を照明するときとの間で、反射電子(または、二次電子)の強度にコントラストが生じる。本実施形態の電子ビーム描画装置1は、マーク221からの反射電子を検出するための電子検出器23を備える。電子検出器23が出力する反射電子検出信号S13は、ビーム振動検出部24に入力する。
【0036】
図2は、マーク221と電子ビーム3との関係を模式的に示す。シリコン基板222の上に、例えばタングステン膜によって矩形のマーク221が形成される。マーク221は、電子ビーム3とステージ5とのX方向の相対変位を検出するためのナイフエッジ221aと、電子ビーム3とステージ5とのY方向の相対変位を検出するためのナイフエッジ221bとを有する。例えば、電子ビーム3とステージ5との相対変位を検出する場合、矩形に成形された電子ビーム3が、マーク221のナイフエッジ221aに位置決めされる。電子ビーム3がマーク221の内側を照明するように、電子ビーム3とステージ5とのX方向の相対位置が変化すると、電子検出器23によって検出される電子の量が増加する。反対に、電子ビーム3がマーク221の外側を照明するように、電子ビーム3とステージ5とのX方向の相対位置が変化すると、電子検出器23によって検出される電子の量が減少する。従って、電子検出器23が出力する反射電子検出信号S13の強度の変化は、電子ビーム3とステージ5とのX方向の相対位置の変化を示す。電子ビーム3による照明位置がX方向に揺らぐ(経時的に、振動する)場合、ビーム振動検出部24は、この振動を、反射電子検出信号S13の強度の経時的な変化として検出する。電子ビーム3のY方向の振動も、同様に検出される。ビーム振動検出部24が検出したビーム振動信号S14は、制御部200に設けられる後述する周波数解析部25に送られる。マーク221は、ライン・アンド・スペース・パターン、十字パターンなどの様々なパターンから適宜選択される。尚、上記のように、マーク221で反射した電子を電子検出器23で捉えることは、相対位置の変化(振動)を検出する方法の一例である。例えば、所定の開口を通過する電子を検出することによって相対位置の変化を検出してもよい。また、電子ビーム3の形状は、円形などの様々な形状から適宜選択される。また、複数のマーク221をステージ5上の様々な位置に配置すれば、ステージ5が様々な位置にある場合の電子ビーム3とステージ5との相対位置の振動を検出することができる。
【0037】
本実施形態の電子ビーム描画装置1において、ビーム振動検出部24が生成するビーム振動信号S14と、所定の時間の間に出力されるレーザー測長器11からの位置情報信号S1と、チャンバー7に取り付けられた振動センサ71からの信号S4と、鏡筒8に取り付けられた振動センサ81からの信号S7とは、制御部200に設けられる周波数解析部25に与えられる。周波数解析部25は、時間ドメインの各入力信号を、周波数ドメインの振動周波数信号S15に変換し、加振振動解析部20に出力する。即ち、振動周波数信号S15は、電子ビーム3とマーク221の相対位置の振動、または、レーザー測長器11が出力する位置情報信号S1の振動、または、鏡筒8の振動、または、チャンバー7の振動の周波数成分を表す。周波数解析部25は、CPU(マイクロプロセッサまたはコンピュータ装置)によって実行される高速フーリエ変換(FFT)ソフトウェアで構成されてもよい。または、周波数解析部2は、FFTアナライザーなどの個別の装置であってもよい。尚、制御部200に含まれる周波数解析部25も、加振振動解析部20や加振信号発生部21とともに、電子ビーム描画装置1の外部に分離して設けられてもよい。この場合、周波数解析部25は、信号S1、S4、S7、S14などの所定の入力信号を電子ビーム描画装置1から受け取り、振動周波数信号S15を加振振動解析部20に与える。
【0038】
加振振動解析部20は、振動周波数信号S15におけるビーム振動信号S14の周波数成分の情報に基づき、ステージ5、鏡筒8、または、チャンバー7に加えられたある周波数の振動により電子ビーム3とステージ5との相対位置の振動が起こされたことを判断する。即ち、加振振動解析部20は、加振が原因で、電子ビーム描画装置1の構成要素のいずれかにおいて、電子ビーム3の相対位置を振動させる振動が発生したことを判断する。また、加振振動解析部20は、電子ビーム3の相対位置振動の周波数成分と、各箇所において検出された振動の周波数成分に基づき、どの箇所の振動が電子ビーム3の相対位置振動の原因であるかを判断する。
【0039】
電子ビーム描画装置1における機械的な不具合の検出において、加振振動解析部20は、鏡筒8の直下にマーク221が位置するようにステージ5を動かすために、ステージ制御系12に目標位置情報信号S16を与える。ステージ制御系12は、レーザー測長器11によって得られるステージ5の位置情報信号S1に基づいて駆動機構6を制御することによって、ステージ5を目標位置まで移動させる。また、ステージ制御系12は、ステージ5が目標位置に留まるように、ステージ5の位置情報信号S1に基づいて駆動機構6を制御する。例えば、
図1および
図2に示されたようなマーク221と電子検出器23を用いる実施形態の電子ビーム描画装置1においては、加振振動解析部20は、信号S17を用いて、電子ビーム3の中心がマーク221のナイフエッジ221aまたは221bの上に位置するように、電子ビームトラッキング制御系13を制御する。電子ビームトラッキング制御系13は、ビーム振動検出部24から得られる電子ビーム3の位置情報信号S18に基づいて偏向器91を制御することによって、電子ビーム3をマーク221上に位置決めする。
【0040】
図3は、電子ビーム描画装置1内部の機械的な不具合の存在を検出するために、加振振動解析部20が実行する動作の流れを示すフローチャートである。
【0041】
加振振動解析部20は、例えば、電子ビーム描画装置1のオペレータからの指示を受け、機械的な不具合の検出処理を開始する。
【0042】
機械的な不具合の検出処理が開始されると、加振振動解析部20は、ステップST1において、ステージ制御系12と電子ビームトラッキング制御系13とを用いて、電子ビーム3をマーク221上に位置決めする。具体的な処理は前述したので、説明を省略する。
【0043】
次に、加振振動解析部20は、ステップST2において、加振信号発生部21に対し、少なくとも、加振信号を与える電子ビーム描画装置1内の箇所、加振の方向、加振信号の振幅、加振信号の周波数範囲を指示する。本実施形態に係る電子ビーム描画装置1においては、振動を与える箇所は、ステージ5、鏡筒8、チャンバー7の中から選択される。加振信号について、加振信号発生部21がスキャンする周波数の範囲は、例えば、0Hz(ヘルツ)から2000Hz(ヘルツ)の範囲に設定される。チャンバー7に振動を加えるために使用されるエアサスペンション15とエアサーボバルブ17からなる系の応答性は低いので、加振信号の周波数範囲は、0Hz(ヘルツ)から数十Hz(ヘルツ)(例えば、20Hz(ヘルツ))が好ましい。鏡筒8に振動を加える場合には、0Hz(ヘルツ)から数百Hz(ヘルツ)(例えば、100Hz)が好ましい。加振振動解析部20は、電子ビーム描画装置1のオペレータにより、加振をする箇所、加振の方向、加振信号の振幅、加振信号の周波数範囲などの加振形態が設定されるように、構成されてもよい。
【0044】
前述のように、機械的な不具合は、不具合箇所に力を及ぼすような運動が電子ビーム描画装置1の中にない状態(電子ビーム描画装置1の「静的な状態」と呼ぶ)(例えば、ステージ5が所定位置に留まっている状態、または、ステージ5が等速で動いている状態)においては、影響を及ぼし難い。ステージ5の加速度運動によって励起された力、または、チャンバー7や鏡筒8の振動によって励起された力が、機械的な不具合をもつ箇所に及んだとき、機械的な不具合をもつ箇所にガタつきなどによる振動が生じることによって、電子ビーム3とステージ5との相対位置の振動が引き起こされる(電子ビーム描画装置1の「動的な状態」と呼ぶ)。従って、電子ビーム描画装置1の構成要素の機械的な不具合は、電子ビーム描画装置1が静的な状態にあるときには、検出され難い。本実施形態に係る電子ビーム描画装置1は、不具合箇所に力を及ぼすような振動を所定の構成要素に発生させて、電子ビーム描画装置1の動的な状態を模擬的につくることを特徴とする。
【0045】
ステップST3において、振動が加えられる箇所(ステージ5、鏡筒8、チャンバー7)に応じて処理は分岐される。ステージ5に振動を加える場合には、加振信号発生部21は、加振信号S10をモーター61に与える。鏡筒8に振動を加える場合には、加振信号発生部21は、加振信号S11をピエゾアクチュエータ182に与える。チャンバー7に振動を加える場合には、加振信号発生部21は、加振信号S12をエアサーボバルブ17に与える。以降の処理は、ステージ5に振動を加えることが選択された場合の例が説明される。鏡筒8またはチャンバー7に振動を加えることが選択された場合の処理も同様である。
【0046】
加振振動解析部20は、ステップST4において、加振信号発生部21に対し、加振開始を指示する。加振信号発生部21は、加振信号S10を、駆動機構6のモーター61に付加する。例えば、ステージ5に加えられる振動の周波数範囲が0Hz(ヘルツ)から2000Hz(ヘルツ)に設定される場合、加振信号S10の最初の周波数f0は0Hz(ヘルツ)である(即ち、ステージ5に振動は発生しない)。
【0047】
加振振動解析部20は、ステップST5において、加振信号発生部21から、加振信号発生部21がモーター61に現在与えている加振信号S10の周波数(最初は、f0=0Hz)の情報を得る。
【0048】
次に、加振振動解析部20は、ステップST6において、周波数解析部25から、ビーム振動検出部24によって生成されたビーム振動信号S14(電子ビーム3とマーク221の相対位置の振動を示す)の周波数成分を示す振動周波数信号S15を受け取る。
【0049】
加振振動解析部20は、ステップST7において、振動周波数信号S15に基づき、ビーム振動信号S14に、振動の大きさに大きなピークをもつ周波数成分があるか否かを検出する。これは、電子ビーム3とマーク221(即ち、ステージ5)の相対位置に特異な振動が生じたか否かを判断することに対応する。ステージ5には振動が加えられない(f
0=0Hz)最初の状態においてビーム振動信号S14にピークをもつ周波数成分がみられる場合は、加振振動解析部20は、ステージ5の振動以外の原因で、電子ビーム3とマーク221の相対位置の振動が生じていることを検出する。
図3Aでは、簡略化のために、この検出は示されない。
【0050】
ここで、
図4は、ビーム振動信号S14を周波数ドメインに変換した振動周波数信号S15の例が示される。
図4において、横軸は周波数(Hz(ヘルツ))を示し、縦軸は振動の大きさを示す。
図4は、加振振動解析部20によるステージ5への加振がない場合のビーム振動信号S14の周波数成分を示す。
図4に示されるように、どの周波数にも、振動の大きさの大きなピークがない。ただし、約200Hz(ヘルツ)より下の周波数領域に、大きさは小さいが定在的な振動がある。定在的な振動は、例えば、ステージ5を所定位置に留めておくためのサーボ制御に起因する振動、排気機構10の真空ポンプに起因する振動、などである。
【0051】
ビーム振動信号S14の周波数成分にピークが無いと判断された場合、加振振動解析部20は、ST8において、加振信号S10の周波数を更新するように加振信号発生部21に指示する(例えば、f1=5Hz)。加振振動解析部20の処理は、ステップST5に戻る。
【0052】
周波数f1=5Hzの加振信号S10でステージ5を加振したときに、ビーム振動信号S14にピークをもつ周波数成分が生じたと判断された場合、ステップST9において、加振振動解析部20は、ステージ5に与えられた5Hz(ヘルツ)の振動により電子ビーム描画装置1のいずれかの構成部品に振動が励起され、それによって、電子ビーム3とステージ5の相対位置が振動したことを検出する。これは、いずれかの構成部品が、ステージ5の5Hz(ヘルツ)の振動により影響を受ける機械的な不具合をもつことを意味する。ステージ5に5Hz(ヘルツ)の振動を与えることは、ステージ5が加速度運動をすることによってステージ5に5Hz(ヘルツ)の振動が発生することを模す。従って、先の検出結果は、マスク基板4へのパターンの描画におけるステージ5の加速度運動によって、電子ビーム3とマスク基板4との相対位置の振動が起こり得ることを意味する。電子ビーム描画装置1のオペレータは、加振振動解析部20からの通知(例えば、ディスプレイ表示)によって、電子ビーム描画装置1のいずれかの構成部品が機械的な不具合をもつことを認知できる。
【0053】
図5は、加振振動解析部20による加振を行った場合のビーム振動信号S14の周波数成分を示す。
図5の横軸は振動の周波数(Hz(ヘルツ))、縦軸は振動の大きさを示す。
図5は、加振振動解析部20によって所定の周波数の振動がステージ5に加えられたとき、約200Hz(ヘルツ)の周波数において振動のピークが生じたことを示す。上述のように定在的な振動も存在するので、加振振動解析部20は、所定の閾値より大きい大きさの振動を、ピークと判断してよい。
【0054】
ステップST9における電子ビーム描画装置1のいずれかの構成部品に機械的な不具合があるとの判断に基づき、加振振動解析部20は、
図3Bに示されるステップST10からST16を実行する。ステップST10からST16の処理は、電子ビーム描画装置1のどの構成要素が機械的な不具合を有するのかを判断するために行われる。
【0055】
加振振動解析部20は、ステップST10において、周波数解析部25から、電子ビーム描画装置1の構成部品のいずれかで検出された振動に対応する振動周波数信号S15を受け取る。
図1に示される例では、加振振動解析部20は、周波数解析部25から、レーザー測長器11で測定されたステージ5の位置情報信号S1の振動、振動センサ71によって検出されるチャンバー7の振動、および、振動センサ81によって検出される鏡筒8の振動について、それらの振動のいずれかの周波数成分を示す振動周波数信号S15を選択的に受け取る。例えば、加振振動解析部20は、レーザー測長器11によって検出された位置情報信号S1の振動(「箇所Pの振動」と呼ぶ)を選択し、周波数解析部25から、箇所Pの振動の周波数成分を示す振動周波数信号S15を得る。
【0056】
加振振動解析部20は、ステップST11において、周波数解析部25から受け取った箇所Pの振動の振動周波数信号S15が、周波数解析部25を用いて得られるビーム振動信号S14のピーク周波数と実質的に同じ周波数に振動のピークをもつか否かを分析する。即ち、加振振動解析部20は、ビーム振動のピーク周波数と箇所Pの振動のピーク周波数とを比較する。
【0057】
加振振動解析部20は、ステップST12において、ビーム振動のピーク周波数と箇所Pの振動のピーク周波数とが実質的に一致するか否かを判断する。
【0058】
ビーム振動のピーク周波数と箇所Pの振動のピーク周波数とが一致しないと判断される場合、加振振動解析部20は、ステップST13において、振動を検出する箇所Pを変更し(例えば、チャンバー7に、または、鏡筒8に)、ステップST10の処理に戻る。
【0059】
ステップST12において、ビーム振動のピーク周波数と箇所Pの振動のピーク周波数とが一致すると判断された場合、加振振動解析部20は、ステップST14において、振動が検出されている箇所P(例えば、レーザー測長器11)に機械的な不具合があることを検出する。加振振動解析部20は、この検出結果を、電子ビーム描画装置1のオペレータに通知する(例えば、ディスプレイ表示によって)。オペレータは、機械的な不具合があると通知された箇所Pに、修理や交換などの処置を行うことができる。
【0060】
その後、加振振動解析部20は、ステップST15において、全ての箇所からの振動信号(例えば、
図1における信号S1、S4、S7)の分析が終了しているか否かを判断する。終了していなければ、ステップST13に戻り、箇所Pが変更される。
【0061】
全ての箇所からの振動信号(例えば、
図1における信号S1、S4、S7)の分析が終了している場合、加振振動解析部20は、加振信号S10、S11、または、S12について、加振振動解析部20が設定した周波数範囲のスキャンを終了したか否かが判断される。
【0062】
周波数範囲のスキャンが終了していなければ、加振振動解析部20は、ステップST8(
図3A)に戻り、次の周波数f
i+1の加振における振動解析を行う。周波数範囲のスキャンが終了していれば、処理を終了する。
【0063】
振動を検出する箇所は、レーザー測長器11によるステージ5の位置情報の出力、チャンバー7の振動センサ71、鏡筒8の振動センサ81に限られない。例えば、排気機構10における配管に振動センサが取り付けられてもよい。
【0064】
加振振動解析部20が上述のステップST1~ST16を実行することによって、マスク基板4上に実際にパターンを描画することなく、(a)電子ビーム描画装置1のいずれかの箇所が機械的な不具合を有すること、および、(b)電子ビーム描画装置1の構成要素の内のどれが機械的な不具合を有するか、を検出することができる。
【0065】
例えば、ある周波数の加振信号S10でXステージ51に振動を加えたとする。このとき、加振振動解析部20は、マーク221に対する電子ビーム3の振動を示すビーム振動信号S14が、gHz(ヘルツ)に大きなピークの成分を有することを検出する。また、加振振動解析部20は、X方向のレーザー測長器11からの位置情報信号S1の振動が、同じくgHz(ヘルツ)に大きなピークの成分を有することを検出する。電子ビーム3の振動とレーザー測長器11からの位置情報信号S1の振動との間に周波数についての相関があるので、加振振動解析部20は、電子ビーム3の振動の原因が、X方向のレーザー測長器11の構成部品の機械的な不具合(ミラー111やインターフェロメータ112の取り付けの緩み、インターフェロメータ112が取り付けられたチャンバー7の部分の歪み、など)であることを検出する。
【0066】
代替的に、ある周波数の加振信号S11で鏡筒8に振動を加えたとする。このとき、加振振動解析部20は、マーク221に対する電子ビーム3の振動が、hHz(ヘルツ)に大きなピークの成分をもつことを検出する。また、加振振動解析部20は、鏡筒8の振動センサ81によって検出された振動が、同じくhHz(ヘルツ)に大きなピークの成分をもつことを検出する。電子ビーム3の振動と鏡筒8の振動との間に周波数についての相関があるので、加振振動解析部20は、電子ビーム3の振動の原因が、鏡筒8または鏡筒8のアクティブ制振機構18の構成部品の機械的な不具合であることを判断する。
【0067】
加振振動解析部20は、マイクロプロセッサなどの半導体集積回路、または、パーソナルコンピュータなどの計算機であってよい。上述のステップST1~ST16の処理は、集積回路または計算機が実行するソフトウェアプログラムによって、電子ビーム描画装置1に実装されてもよい。また、電子ビーム描画装置1は、
図1に示された構成の他に、チャンバー7内を真空に保ったままでマスク基板4をステージ5まで搬入し、パターンが描画されたマスク基板4をチャンバー7から搬出するための搬送機構などを備えてもよい。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係る電子ビーム描画装置1では、構成要素の機械的な不具合の検出のために、マスク基板4に実際に描画されたパターンを観察することを行わなくてもよい。従って、本実施形態に係る電子ビーム描画装置1において、構成要素の機械的な不具合の検出は、マスク基板4にパターンを描画し、パターンが描画されたマスク基板4を現像するための時間を必要とせず、短時間で容易に行われる。
【0069】
また、本実施形態に係る電子ビーム描画装置1では、マスク基板4への描画中に電子ビーム3とマスク基板4の相対位置の振動に影響する機械的な不具合の箇所が特定されるので、修理や部品交換などの電子ビーム描画装置1のメンテナンスに要する時間が短縮される。
【0070】
(変形例)
上述の実施形態に係る電子ビーム描画装置1において、電子ビーム3の相対振動のピーク周波数と箇所Pにおける振動のピーク周波数との一致に基づいて、箇所Pにおける機械的な不具合が電子ビーム3の相対振動の原因であると判断される。
【0071】
この判断は、加振信号S10,S11,S12の周波数と箇所Pにおける振動のピーク周波数との一致に基づいてもよい。代替的に、この判断は、加振信号S10,S11,S12の周波数と、電子ビーム3の相対振動のピーク周波数と、箇所Pにおける振動のピーク周波数との三者の一致に基づいてもよい。
【0072】
(第2の実施形態)
上述のように、ステージ制御系12、鏡筒制振フィードバック系19、および、チャンバー制振フィードバック系16についての入力量に対する被制御量の応答特性を示す値であるゲインG1,G2,G3は、可変である。ゲインG1,G2,G3が大きい場合、わずかな入力量の変化に対し、被制御量は大きく変化する。被制御量を目標値に近づけようとする場合、入力量が大きく変化すると被制御量が短い時間に大きく変化するため、被制御量が目標値を通り越す可能性がある。この結果、被制御量を目標値に戻すための制御が繰り返される。この制御の繰り返しは、制御の対象(例えば、ステージ5、チャンバー7、鏡筒8)に力が繰り返し加えられることを意味する。従って、制御の繰り返しが、制御の対象に振動を生じさせる可能性がある。従って、ステージ制御系12、鏡筒制振フィードバック系19、および、チャンバー制振フィードバック系16のゲインG1,G2,G3を調整することは、振動の抑制につながる。
【0073】
第2の実施形態に係る電子ビーム描画装置1において、例えば、加振振動解析部20が、電子ビーム3の振動の原因を、X方向のレーザー測長器11の構成部品の機械的な不具合であると検出したとする。この場合、加振振動解析部20は、Xステージ51の制御を行うステージ制御系12のゲインG1を調整することにより、電子ビーム3の相対的な振動を抑えることを試みる。加振振動解析部20は、ステージ制御系12のゲインG1を調整後、
図3A、3Bに示された処理を行うことによって、ゲインG1の調整の効果を確認できる。
【0074】
代替的に、第2の実施形態に係る電子ビーム描画装置1において、加振振動解析部20が、電子ビーム3の振動の原因を、鏡筒8または鏡筒8のアクティブ制振機構18の構成部品の機械的な不具合であると検出したとする。この場合、加振振動解析部20は、鏡筒制振フィードバック系19のゲインG2を調整することにより、電子ビーム3の相対的な振動を抑えることを試みる。加振振動解析部20は、鏡筒制振フィードバック系19のゲインG2を調整後、
図3A、3Bに示された処理を行うことによって、ゲインG2の調整の効果を確認できる。
【0075】
加振振動解析部20がゲインG1,G2,G3の調整を行うか否かを、加振振動解析部20が、箇所Pにおける振動の周波数成分に基づいて判断してもよい。また、加振振動解析部20がゲインG1,G2,G3の調整を行っても電子ビーム3の相対振動が減少しない場合には、加振振動解析部20は、ゲインG1,G2,G3の調整を中止してもよい。
【0076】
また、ステージ制御系12、チャンバー制振フィードバック系16、または、鏡筒制振フィードバック系19が、入力信号の周波数に応じて応答特性を変えるためにフィルターを備える場合には、加振振動解析部20は、ゲインG1,G2,G3の調整に変えて、フィルターの各種係数を調整してもよい。
【0077】
第2の実施形態に係る電子ビーム描画装置1において、電子ビーム3の相対的振動の原因として特定された機械的な不具合の修理や部品交換を行う前に、電子ビーム3の相対的振動を抑えるための試みがなされる。この試みによって電子ビーム3の相対的振動が抑えられるならば、機械的な不具合を有する箇所の修理や部品交換などのメンテナンスのために電子ビーム描画装置1を待機させておく必要がない。
【0078】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る電子ビーム描画装置1において、加振振動解析部20は、記憶装置を備える。
【0079】
第3の実施形態に係る電子ビーム描画装置1において、装置1のある構成要素が機械的な不具合をもつように変更された状態で、加振振動解析部20に
図3A、3Bに示された処理を行わせる試験が行われる。加振振動解析部20がその試験の結果を記憶装置に記憶する。試験は、加振される箇所、加振の方向、加振の大きさ、加振の周波数を変えながら行われる。そして、加振振動解析部20は、電子ビーム3の相対的振動が検出されたとき、加振に関する情報と、電子ビーム3の相対的振動に関する情報と、機械的な不具合をもつように変更された箇所の振動に関する情報とを関連付けて記憶装置に記憶する。加振に関する情報は、例えば、加振された箇所と、加振の方向と、加振の大きさと、加振の周波数とに関する情報を含む。電子ビーム3の相対的振動に関する情報は、例えば、電子ビーム3の相対的振動のピーク周波数と振動の大きさに関する情報を含む。変更された箇所の振動に関する情報は、例えば、振動のピーク周波数と、振動の方向と、振動の大きさとに関する情報を含む。
【0080】
加振振動解析部20の記憶装置が試験結果として上述の情報を記憶する場合、
図3A、3Bに示された処理による電子ビーム描画装置1の検査において、加振振動解析部20は、電子ビーム3の相対的振動が検出されたときの加振の状態(例えば、箇所、周波数、方向)と電子ビーム3の相対的振動の状態(例えば、ピーク周波数)を用いて記憶装置に記憶された試験結果の情報を参照することによって、機械的な不具合をもつ箇所を特定することができる。特定された箇所において検出された振動の状態が、記憶装置に記憶された変更された箇所の振動に関する情報と一致するのであれば、加振振動解析部20は、特定された箇所がより確からしいと判断できる。
【0081】
代替的に、第3の実施形態に係る電子ビーム描画装置1において、加振振動解析部20は、
図3A、3Bに示された検出処理を行った結果を、履歴として、記憶装置に記憶してもよい。
【0082】
第3の実施形態に係る電子ビーム描画装置1では、機械的な不具合をもつ箇所が、より正確に特定される。
【0083】
本発明は、電子ビーム描画装置に実装される場合を例にして説明されたが、
図1の電子銃2を、荷電粒子ビームの放射源に変えることにより、荷電粒子ビーム装置に実装できる。また、本発明は、上述の実施形態及び変形例に係る荷電粒子ビーム描画装置に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形されてよい。例えば、荷電粒子ビームを用いた検査装置に適用することも可能である。その場合、荷電粒子ビームが照射される対象物は、パターンが形成されたマスクやウェハである。荷電粒子ビームを用いた検査装置は、対象物から反射した、または、対象物を透過した荷電粒子を検出する機構をさらに備える。また、各実施形態及び変形例に係る荷電粒子ビーム装置の各構成要素は、適宜組み合わされて実装されてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…電子ビーム描画装置、2…電子銃、3…電子ビーム、4…マスク基板
5…ステージ、51…Xステージ、52…Yステージ
6…ステージの駆動機構、61…モーター、62…ロッド
7…チャンバー、71…振動センサ
8…鏡筒、9…電子光学系、91…偏向器
10…排気機構
11…レーザー測長器、111…ミラー、112…インターフェロメータ
12…ステージ制御系、13…電子ビームトラッキング制御系
14…台座、141…振動センサ、15…エアサスペンション
16…チャンバー制振フィードバック系
17…エアサーボバルブ、Air…エア経路
18…アクティブ制振機構、181…アーム、182…ピエゾアクチュエータ
19…鏡筒制振フィードバック系
20…加振振動解析部、21…加振信号発生部
22…マーク台、221…マーク、221a,221b…ナイフエッジ
23…電子検出器、24…ビーム振動検出部、25…周波数解析部