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特許7292992転がり疲れ試験片、転がり疲れ試験片製造方法、及び、転がり疲れ試験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】転がり疲れ試験片、転がり疲れ試験片製造方法、及び、転がり疲れ試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230612BHJP
   G01M 13/04 20190101ALI20230612BHJP
【FI】
G01N1/28 A
G01M13/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019113046
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204573
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-11-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者 山陽特殊製鋼株式会社 刊行物名 山陽特殊製鋼技報 第25巻第1号(通巻第25号)pp.31-37 発行日 2018年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100126147
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 成年
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】藤松 威史
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-055346(JP,A)
【文献】特開2009-222075(JP,A)
【文献】特開2000-110841(JP,A)
【文献】特開2008-196616(JP,A)
【文献】特開2009-287055(JP,A)
【文献】特開昭62-027646(JP,A)
【文献】特開2006-300673(JP,A)
【文献】小俣 弘樹 他,軸受鋼SUJ2の転がり疲労強度に及ぼす微小欠陥の寸法と深さの影響,日本機械学会論文集(A編),2013年,Vol. 79, No.803,p.961-975,DOI:10.1299/kikaia.79.961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G01N 3/00-3/62
G01M 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片本体部と、
前記試験本体部の表面に一部露出し、予め大きさ、組成、形状が選定されており、前記試験片本体部に隙間を有して埋め込まれた、単体もしくは複数の、非金属介在物もしくは非金属介在物に類似した組成を有する化合物である粒子と、
を有することを特徴とする転がり疲れ試験片。
【請求項2】
前記試験片の硬さは、55HRC以上である、請求項1記載の転がり疲れ試験片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転がり疲れ試験片を用いて、前記試験片本体部の表面に露出した前記粒子の上部を転動体の軌道が通るように軌道を配置してスラスト型転がり疲れ試験を行う、転がり疲れ試験方法。
【請求項4】
前記試験片本体部の表面に露出した前記粒子の真上を転動体の軌道中央が通るように軌道を配置してスラスト型転がり疲れ試験を行う、請求項に記載の転がり疲れ試験方法。
【請求項5】
試験片本体部の表面の所定位置に、予め大きさ、組成、形状が選定された、単体もしくは複数の非金属介在物もしくは非金属介在物に類似した組成を有する化合物である粒子を埋設し、
前記試験片本体部を所定の方向に引張加工して、前記試験片本体部と前記粒子との間に隙間を形成し、
前記試験片本体部の表面の所定位置を局所加工して、前記粒子の一部を前記試験片本体部の表面に露出させる、転がり疲れ試験片製造方法。
【請求項6】
前記試験片本体部の表面の所定位置をグロー放電によるスパッタ加工により局所加工する、請求項に記載の転がり疲れ試験片の製造方法。
【請求項7】
前記試験片本体部の表面の所定位置に穴加工し、当該穴に前記粒子を投入し、熱間等方圧加圧加工することにより、前記試験片本体部の表面の所定位置に粒子を埋設する、請求項またはに記載の転がり疲れ試験片製造方法。
【請求項8】
前記熱間等方圧加圧加工により生じた前記粒子上のSi系酸化物群を目標にして、前記局所加工を行う、請求項に記載の転がり疲れ試験片製造方法。
【請求項9】
前記埋設した粒子の深さを超音波探傷試験により計測し、前記局所加工が可能な深さまで前記試験片本体部の表面を研削又は研磨する、請求項からのいずれかに記載の転がり疲れ試験片製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片、試験片製造方法、及び、転がり疲れ試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
適正な潤滑条件下で使用されているにも関わらず、軸受が想定よりも早期に破損する短寿命はく離が起こる場合があり、軸受の小型・軽量化設計の実現への妨げとなっている。このようなはく離は、鋼に含まれる非金属介在物によって引き起こされる。非金属介在物は鋼の精錬・鋳造・凝固の過程で不可避的に生成し、その過程で除去しきれないものが以降の圧延や鍛造等を経た軸受素材中に含まれることになる。この介在物を起点としたはく離は通常、部品のやや内部に端を発する。これは軸受の軌道輪と転動体(球、ころ等)が転がり接触する際に軌道輪のやや内部に高いせん断応力が生じることによる。
【0003】
他方で、この介在物を起点とした剥離に関し、鋼中に存在しているものと軌道の表面(軌道上)に一部が露出しているものとでは、疲労寿命に対して異なる結果が生じることが考えられる。また昨今の軸受使用環境の過酷化により部品表面に対する損傷増大が懸念されていることから、軸受軌道面に介在物が露出した場合の有害性に注目した検証を行う必要が生じている。
【0004】
しかしながら、通常の溶製鋼材を利用して、試験片軌道面に介在物の一部が露出した試験片を作製しようとしても、試験片軌道位置に偶発的に介在物が露出する可能性は高くなく、また、介在物が露出していたとしても軌道下にどのような大きさの介在物が存在しているかを知る手段はなかった。また、偶然、そのような試料から剥離させることができたとしても、はく離とともに起点となった介在物が脱落する可能性が高く、転がり疲れ寿命と軌道上に露出した介在物との関係性を知ることは極めて困難である。そのために、軌道上に露出した介在物の大きさ、種類、形態、あるいは表出した介在物と母相との界面状態が寿命に与える定量的な影響は未だ明らかではない。
【0005】
なお、転がり軸受の寿命指標としては依然としてL10寿命が重用されている。L10寿命とは、同じ条件で複数個のサンプルの寿命試験をした場合に、そのうちの90%の試験片がはく離しない寿命を指す。すなわち、軸受の寿命は確率論的に評価されることが通例となっている。それを打破して、軌道上に露出した介在物と寿命あるいは転がり疲れとの関係を直接的に確認検証することは、短寿命はく離を回避可能な鋼を明らかにし、それを実現するために必要なことである。
【0006】
他方で、鋼中に多数の空洞を残存・分散させたSUJ2鋼を人工的に作製し、これらの空洞に対する転がり疲れき裂挙動を観察し、その挙動と空洞あるいは一般介在物に対する応力シミュレーションとを対比させた結果から、介在物と母相間に隙間(空隙)がある場合に有害性が助長されることが確認されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
これに関連して、介在物-母相間の隙間を閉塞させるための熱間等方圧加圧(HIP(Hot Isostatic Pressing))加工を鋼材に施すと転がり疲れ寿命が大幅に向上することが確認されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】藤松威史、平岡和彦、山本厚之、「高炭素クロム軸受鋼の転がり疲れにおける内部欠陥からのき裂発生挙動」、鉄と鋼、一般社団法人日本鉄鋼協会、Vol. 94、 No. 1 (2008年)、p. 13-20.
【0009】
【文献】橋本(K. Hashimoto)、藤松(T. Fujimatsu)、常陰(N. Tsunekage)、平岡(K. Hiraoka)、木田(K. Kida)、サントス(E. C. Santos)、「内部破壊タイプ転がり疲労寿命における介在物/母相境界空洞の影響(Effect of inclusion/matrix interface cavities on internal-fracture-type rolling contact fatigue life)」、マテリアルズ アンド デザイン(Materials & Design)、エルゼビア・ベーフェー(Elsevier B.V.)、(オランダ)、Vol. 32, Issue 10, 2011年12月、p. 4980-4985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献2によれば、介在物-母相界面の状態が寿命の変化要因になることは明らかである。このことは、介在物が露出している場合に、その介在物と母相との界面の状態も寿命に対して影響を及ぼす可能性を示唆している。ただし、はく離が発生した後に、事前の介在物周囲の隙間の有無を検証することは事実上難しく、寿命の長短に対する隙間の寄与を推し量ることはできない。また、そもそも介在物が表面に露出した介在物を用いた転がり疲れ試験の実現自体が困難であった。
【0011】
さらには、試験片表面に露出した介在物の大きさと寿命や転がり疲れとの関係を解き明かすには、転がり疲れ試験に先立って寿命に強く関与することが判明している介在物-母相界面の状態を一定の状態に管理し、界面の状態が事前(試験を行う前)に明らかになっていなければならない。
【0012】
また、近年の軸受鋼に対するニーズとして長寿命化を追求するだけではなく、突発的に発生する短寿命はく離を抑制して部品の信頼性を向上させることが望まれている。したがって、そのような軸受製品の実現にあたり、軌道上に露出し、なおかつ母相との間に隙間を有する介在物が寿命に及ぼす有害性、とりわけ大きさと寿命との関係を明確にして、定量的な影響を知るための手段を得ることが課題となっていた。さらには、軸受の短寿命はく離をもたらすのは、比較的大きな介在物と推定されるが、そのような介在物が限られた評価数量の転がり疲れ試験片内のごく小さい応力負荷体積中に存在する可能性が低いことも検証を困難としていた。
【0013】
以上より、軌道上に露出した介在物が寿命や転がり疲れに及ぼす影響の検証を実現するにあたり、転がり疲れに影響を及ぼす因子である介在物の大きさや組成、形状、母相と介在物との界面状態、鋼中での存在位置が事前に判明した状態で、介在物を軌道面に露出させた後、その介在物を対象として転がり疲れ試験を行い、介在物大きさと寿命、あるいは未はく離の場合であれば介在物大きさとその周囲の疲労の状況とを、一対一に対照させた検証を行うことが必要と考えられる。
【0014】
なぜなら、先に挙げた各種因子が寿命に対して影響を及ぼす可能性が高いにも関わらず、試験後にはその影響を分離して検証することが困難なためである。しかしながら、これまでに対象介在物の情報が予め判明した状態であり、その介在物を試験片表面に一部を露出させ、さらにその介在物と周囲母相との間に隙間が付与されている状態で転がり疲れ試験を行い、寿命や転がり疲れに及ぼす影響を一対一に対照させて検証するための試験方法は確立されていなかった。
【0015】
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、鋼の製鋼過程で生成し、その後の圧延や鍛造などを経た鋼の中に残存して分布している非金属介在物に関し、軌道上に露出した介在物が寿命や転がり疲れに及ぼす影響の検証を実現することが可能な転がり疲れ試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、試験片本体部と、試験本体部の表面に一部露出し、予め大きさ、組成、形状が選定されており、試験片本体部に隙間を有して埋め込まれた、単体もしくは複数の、非金属介在物もしくは非金属介在物に類似した組成を有する化合物であるAl2O3等の粒子(粒子、もしくは、単一物体粒子ともいうことがある)と、を有する転がり疲れ試験片である。この粒子は鋼中の非金属介在物の代わりとして利用するものである。
【0017】
本発明は、試験片本体部の表面の所定位置に、予め大きさ、組成、形状が選定された、単体もしくは複数の非金属介在物もしくは非金属介在物に類似した組成を有する化合物である粒子を埋設し、試験片本体部を所定の方向に引張加工して、試験片本体部と粒子との間に隙間を形成し、試験片本体部の表面の所定位置を局所加工して、粒子を試験片本体部の表面に露出させる、転がり疲れ試験片製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の人工的な欠陥導入による転がり疲れ試験方法によれば、試験片表面に露出し、母相との隙間の影響を加味した介在物の有害性(寿命や転がり疲れへの影響)を精緻に検証することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】隙間が付与された介在物が埋設された試験片の構成を示す図である。
図2】実施形態の試験片の断面の模式図である。
図3】実施形態の試験片の製造工程を示すフローチャートである。
図4】介在物が埋設された中間材Aの構成を示す図である。
図5】マイクロピペット先端に保持した球形Al2O3粒子をドリルホールの位置に移動させた様子を示す模式図である。
図6図4(b)のY部の拡大図である。
図7】引張加工を付与する中間材Bの構成を示す図である。
図8】引張加工された中間材Cの構成を示す図である。
図9図8(a)の左側面からみたY部断面の拡大図である。
図10】試験片の断面観察により埋設した球形Al2O3粒子と、その周囲の母相との間に形成させた隙間を観察した写真である。
図11】人工的に埋設した欠陥位置の精密目印となるスラスト試験片上の微小Si系酸化物粒子群を特定した写真である。
図12】スパッタ時間に伴うAl発光強度推移を示す概念図である。
図13】スパッタ面(左図)と試験片表面に露出したAl2O3の模式図(右図)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態である、試験片、試験片の製造方法、及び、転がり疲れ試験方法について、図を参照して詳細に説明をする。
【0021】
図1は、本実施形態の試験片の構成を示す図である。試験片100は、周囲の母相(試験片本体部)と一部隙間を有している介在物(粒子)が埋設され、後述する方法により埋設粒子上を局所的に研削し、埋設介在物の一部が露出したことを検知した後、試験片の表面を仕上げすることによって、介在物の一部が軌道相当位置に露出したものである。
【0022】
図1は、隙間が付与された介在物が埋設された試験片の構成を示す図である。図1(a)は、正面図であり、図1(b)は、左側面図(図1(a)のY部の断面図、及び、Y部断面拡大図を含む)であり、図1(c)は底面図(図1(a)のY部の断面図、及び、Y部断面拡大図を含む)である。なお、説明を容易にするため、図1は寸法関係を一部誇張して示している。
【0023】
試験片100は、中心部に内径穴部101を有する中空円盤状の部材である。試験片100は、研磨面下の軌道相当位置に粒子(Al2O3粒子等)104が埋設されている。ここでの軌道相当位置とは、後述のスラスト型転がり疲れ試験における転動体が通る軌道の位置のことを指す。なお、図1では、説明の便宜上、粒子104及びドリルホール103を実線にて記載しているが、後述する熱間等方圧加圧加工により、粒子104は試験片内に埋設され、ドリルホール103は消滅する。なお、試験片100から粒子104を除いた本体部分を試験片本体部ともいう。
【0024】
試験片100は、引張加工方向Xに平行な方向を長軸とする略楕円盤状形状を有する。ただし、試験片100の形状はこれに限られず、試験内容に応じて適当な形状(例えば、円盤形状)に加工してもよい。
【0025】
粒子104は、隙間106を介して、試験片100の本体部に含有される。図1(b)に示すように、試験片100の研磨面のスラスト試験片軌道相当位置C下の位置Yに存在する粒子104は、引張加工方向Xの前後に隙間106を有する。一方、図1(c)に示すように、粒子104の所定の引張加工方向Xとは直交する直径方向には隙間106は形成されていない。
【0026】
図2は、図1(b)のY部の拡大図である。なお、図2は、見やすくするため、図の向きを変更している。図に示すように粒子104の一部が試験片の表面102に露出している。
【0027】
次に、実施形態の試験片の製造方法を説明する。図3は、本実施形態の試験片の製造工程を示すフローチャートである。
【0028】
まず、中間材Aの作製を行う(STEP1)。図4は、後述する熱間等方圧加圧工程後の中間材A100aの形状を示す図である。中間材A100a(試験片本体部)の素材としてはSUJ2鋼のφ65mm圧延材を使用した。この鋼材に865℃で1h保持後に空冷する焼ならし、および最高点加熱温度を800℃とし、その温度で保持後に徐冷を行う球状化焼なましを施した。そこから、外径60mm(図4中のA)、内径20mm(図4中のB)、厚さ8mm(図4中のC)で片面102をバフ研磨仕上げした中間材A100aを作製した。なお、試験片の上記外径、内径、及び、厚さについては、試験条件に応じて、適宜変更されうる。
【0029】
その後、この中間材A100aのバフ研磨面102側の軌道相当位置に直径0.35mmで深さ1.2mmの単穴のドリルホール103の加工を施した(STEP2)。なお、ドリルホールの上記直径、及び、深さについては、試験条件及び粒子の形状や大きさに応じて、適宜変更されうる。
【0030】
なお、ここでは一例としてSUJ2鋼を用いた事例を説明したが、それ以外の鋼も利用することができる。その場合、STEP1の焼ならしや球状化焼なましや後述の試験片再加工時の焼ならしや球状化焼なましはその選定した鋼種にあった条件を選定するか、鋼種によっては省略しても良いものとする。
【0031】
中間材A100aに人工的に導入する欠陥には、鋼中の介在物組成として代表的なAl2O3を想定し、代替物質として人工化合物のAl2O3粒子(粒子104)を用意した。それらの中から、球形状を有するAl2O3粒子を1粒選定し、CCDカメラ付き実体顕微鏡と組み合わせた粒子の精密操作を自在に行うための制御装置を使い、選定した粒子104をドリルホール103内に投入した(STEP3)。
【0032】
このときの粒子104のピックアップとリリースは精密制御装置に接続した先端部内径20μmのマイクロピペットを介して行った。このマイクロピペットの先端部内径はピックアップする粒子の大きさに応じて適宜サイズを変更して良い。図5は、粒子104をピペット先端に吸着してピックアップし、そのまま試験片上のドリルホール103の位置にピペット先端を移動させたときの保持状況を模式的に示したものである。なお、粒子104をドリルホール103内に投入するにはピペット先端での吸着を解除して行う。
【0033】
このとき、直径が既知であるドリルホール103の径(実施形態では0.35mm)を基準として、粒子104であるAl2O3の直径を精密に測定することができる。なお、粒子の上記直径については、試験条件に応じて、適宜変更されうる。
【0034】
実際に鋼中に含まれている非金属介在物について、本実施形態の方法による転がり疲れ試験を行う場合には、例えば電解抽出などの手段を用いて鋼といったん分離して取り出してから本実施形態の方法を適用すれば良い。なお、本実施形態の粒子104の形状は球形であるが、これに限られず、非金属介在物やそれに類似した組成を有する化合物の形状に関しては、球形以外のものを選択することもできる。なお、鋼中に含まれる非金属介在物としては、Al2O3やMgO-Al2O3やCaO-Al2O3、CaO-Al2O3-SiO2、SiO2、TiNなどが知られるところであり、類似した組成を有する化合物とは、例えば例示した非金属介在物の組成構成範囲に調整されている化合物のことを指す。
【0035】
粒子104に使用する化合物については、工業的に合成されたものであっても良く、また、実験室レベルで作製したものであっても良い。
【0036】
また、本実施形態では、粒子104を1つとしているが、粒子104を複数として、複数の介在物もしくはそれに類似した組成を有する化合物についても本実施形態の試験片を利用して転がり疲れ試験を行うことができる。その場合には、中間材A100a上にドリルホール103を一穴加工して、そのなかに複数個の介在物もしくはそれに類似した組成を有する化合物(粒子104)を投入する方法を取り得る。この場合、試験片本体部の表面に最も近い粒子を試験片表面102に露出させるものとし、それ以外の粒子は試験片本体内部に埋まっている状態となる。
【0037】
もしくは、試験目的に応じて、ドリルホール103同士の相対的な配置や深さを定めて複数穴のドリルホール103を形成する加工を行ない、それぞれのドリルホール103に対して介在物もしくはそれに類似した組成を有する1つ以上の化合物(粒子104)を投入する方法も取り得る。この場合も、試験片本体部の表面102に最も近い粒子を試験片表面に露出させるものとし、それ以外の粒子は試験片本体内部に埋まっている状態となる。
【0038】
続いて、粒子104であるAl2O3がドリルホール103内から脱落しないようにしながら、別途用意した低炭素鋼製のケースに中間材A100aを収め、中間材A100aの内径穴部101aに芯金を入れてからケースを密閉し、ケース内部を真空脱気した後、圧力147MPa、温度1170℃で5h保持する熱間等方圧加圧加工を施してから、ケースごと徐冷した(STEP4)。
【0039】
この熱間等方圧加圧加工の条件は、非金属介在物もしくは非金属介在物に類似した組成を有する化合物と周囲の母相である鋼とを密着させる手段として、1160℃以上の温度で110MPa以上の熱間等方圧加圧加工を利用するのが良い。この工程を経由させることによって、Al2O3と母相の界面に隙間の無い状態を造ることができるので、転がり疲れに影響を及ぼす界面の状態を一定の状態に揃えることができる。より望ましい熱間等方圧加圧の圧力は140MPa以上である。
【0040】
図4は、熱間等方圧加圧加工工程後の中間材Aの構成を示す図である。図4(a)は、正面図であり、図4(b)は、側面図(X-X断面図)である。なお、説明を容易にするため、図4は寸法関係を一部誇張している。
【0041】
中間材A100aは、中心部に内径穴部101aを有する中空円盤状の部材である。中間材A100aは、研磨面下の軌道相当位置に粒子(Al2O3粒子等)104が埋設されている。ここでの軌道相当位置とは、後述のスラスト型転がり疲れ試験における転動体が通る軌道の位置のことを指す。なお、図4では、説明の便宜上、粒子104及びドリルホール103を実線にて記載しているが、熱間等方圧加圧加工により、粒子104は試験片内に埋設され、ドリルホール103は消滅する。
【0042】
図6は、図4(b)のY部の拡大図である。本実施形態の方法で中間材A100aを作製したことにより、ドリルホール103内に投入したAl2O3(粒子104)の直上方向のドリルホール最終閉塞部(図6中のA部)に、数μm程度の大きさの微小なSi系酸化物群が不可避的に形成して点在する。このSi系酸化物群は以下の手順(STEP10)で示す埋設粒子上の局所研削を行う際の、位置決めのための精密な目印として利用できる。なお、これらの埋設粒子上に形成されるSi系酸化物は、局所研削によって介在物を軌道相当位置上に露出させる過程で取り除かれる。
【0043】
熱間等方圧加圧加工に続いて、後工程の引張加工のための硬さ調整のために中間材A100aに焼ならしと球状化焼なましを施した(STEP5)。続いて、SUJ2の部分について、引張加工を付与するための形状(外径φ54、厚さ6.2mm、詳細な形状の例示は図7)を有する中間材B100b(第2中間材)に加工した(STEP6)。
【0044】
図7に示すように、実施形態の中間材B100bは、鋼中の粒子104の周囲の一部に人工的に隙間を形成させるために引張加工を行うための形状となっている。中間材B100bは、中心部に内径穴部105を有する中空円盤状の部材である。内径穴部105は、その後の引張方向Xに平行な方向において、内径穴部105を中心とした対象位置に突起105aと突起105bを有する。また、内径穴部105は、引張加工の引張方向Xに垂直な方向において、内径穴部105を中心とした対象位置に突起105cと突起105dを有する。
【0045】
このときに、中間材B100b内に周囲の母相と密着状態で埋設された粒子104(これ以外にも、一穴加工されたドリル穴内に埋設された複数の粒子であっても良いし、複数穴加工されたドリル穴内に埋設された1個の粒子もしくは複数の粒子であっても良い)を、図7の中間材B100b内において、中心線付近を通り、なおかつ引張加工を付与する方向Xとは直行する方向(図の点線)の中周部付近に配置されるようにした。
【0046】
そのために、試験片加工に先立って、周波数50MHzの超音波探傷試験等により埋設した粒子の位置(座標)を特定したうえで位置調整を行った。なお、引張加工ののち、再び周波数50MHzの超音波探傷試験により後述の局所加工(STEP10)に適するように粒子の深さを調整する工程が入る。そこで、引張加工用の中間材B100bにおける埋設粒子104の試験片表面からの配置深さに関して、引張加工後の超音波探傷時において試験片表面近傍の不感帯領域を避けて、粒子の超音波探傷が可能となるように考慮して深さを調整しておくようにした。
【0047】
なお、埋設粒子104の超音波探傷試験による位置特定に関し、その位置の精密な特定ができるのであれば、探傷のための探触子の周波数は50MHzには特定されず、それ以外の周波数帯を選択しても良い。
【0048】
引張加工については、本実施形態では高硬度鋼製ピンを使って中間材B100bの内径部を図7にXで示す方向に引っ張る方式により行った(STEP7)。ピンは、直径12mmのSUJ2の丸棒の一部を長手方向に研削したのち、焼入焼戻しにより60HRC程度に調整したものを一組み作製した。図7の中間材B100bのR6.5の位置にそれぞれピンを通し、そのピンをサーボ試験機に取り付けた引張加工用の冷間ダイス鋼製治具(治具にはピンの断面形状に合わせた孔加工を付与)に固定したのち、ダイスに固定したピンを介して冷間で引張加工を加えた。
【0049】
本実施例のようにSUJ2の球状化焼なまし状態の中間材B100bに対して引張加工を加えて、粒子周囲の母相との間の一部に隙間を形成させようとすれば、球状化焼なまし材である中間材B100bの引張強さを1とした場合に、粒子104を埋設した箇所の近傍に少なくとも、その0.85倍程度以上の応力が負荷されるように引張加工を行う必要がある。これは、例えば図7の中間材B100bの形状を用いる場合には、引張加工のストローク量を少なくとも5.3mmとすればよい。なお、中間材B100bの引張強さを1とした場合に、その0.85倍程度以上の応力を必要とした点に関して、埋設粒子104の存在によってもたらされる応力集中作用は考慮していない。ただし、実際上は、粒子104の応力集中作用のアシストによって、粒子104の周囲には引張強さを超える応力が作用することを通じ、粒子104の周囲にのみ隙間106を形成させることが可能となる。
【0050】
図8は、中間材Bを引張加工した後の中間材Cの構成を示す図である。図8(a)は、正面図であり、図8(b)は、左側面図(図8(a)のY部の断面図、及び、Y部断面拡大図を含む)であり、図8(c)は底面図(図1(a)のY部の断面図、及び、Y部断面拡大図を含む)である。なお、説明を容易にするため、図8は寸法関係を一部誇張して示している。
【0051】
中間材C100cは、中心部に内径穴部101を有する中空円盤状の部材である。中間材C100cは、研磨面下の軌道相当位置に粒子(Al2O3粒子等)104が埋設されている。ここでの軌道相当位置とは、後述のスラスト型転がり疲れ試験における転動体が通る軌道の位置のことを指す。なお、図8では、説明の便宜上、粒子104及びドリルホール103を実線にて記載しているが、熱間等方圧加圧加工により、粒子104は中間材C100c内に埋設され、ドリルホール103は消滅する。
【0052】
中間材C100cは、引張加工方向Xに平行な方向を長軸とする略楕円盤状形状を有する。ただし、中間材C100cの形状はこれに限られない。
【0053】
粒子104は、隙間106を介して、試験片100の本体部に含有される。図8(b)に示すように、試験片100の研磨面のスラスト試験片軌道相当位置C下の位置Yに存在する粒子104は、引張加工方向Xの前後に隙間106を有する。一方、図8(c)に示すように、粒子104の所定の引張加工方向Xとは直交する直径方向には隙間106は形成されていない。
【0054】
図9は、埋設した粒子104の周囲に形成させる隙間106の様態を示す模式図である。隙間106の程度を調整したい場合に、上記以上のストローク量で加工することも本発明の範囲に含まれるが、その場合に粒子104の近傍に負荷される応力は高くとも0.95倍以下とする必要がある。より望ましくは0.93倍以下である。引張加工で付与される応力に上限を設けるのは、埋設した粒子104の周囲以外の箇所にもボイドが形成され、それらが転がり疲れ挙動や寿命に及ぼす影響を避けるためである。本実施例においては、引張加工のストローク量を7mmとして行った。また、このとき図7の中間材B100bの突起部105c、105dについて、R7の外径位置に関して図7に例示した寸法である3mmのところを、4.5mmとして行った。また中間材B100bの厚みは上述の通り、6.2mmとした。引張加工ののち、後述のスラスト試験における位置調整を行い易くするため、必須の工程では無いが、引張加工後の中間材C100cの内径部分101については再び円形状になるように中間材B100bを加工した。
【0055】
なお、中間材B100bの形状は、図7に例示した形状のみならず、粒子104の周囲の隙間106の形成に必要な応力付与が担保されるようであれば必要に応じて変更しても良いものとする。また、中間材B100bの厚みについても本実施形態の厚みに限定されるものでは無い。ただし、中間材B100bの形状や厚みに対し、引張加工時に加工用のピンが塑性変形しないようにする必要がある。
【0056】
次に、後述のスラスト試験のために、試験片の中間材C100cの硬さを調整した。本実施例におけるSUJ2製スラスト試験片の場合には、焼入焼戻し(835℃―0.5h、油冷→180℃―1.5h、空冷)を行って試験片の硬さを62HRC程度に調整した(STEP8)。
【0057】
このとき、人工的に導入した内部の欠陥(粒子104)に対して転がり疲れを付与する本実施形態の目的のため、試験片100の硬さは、55HRC以上必要である。これより硬さが低い場合は、欠陥やその周辺のみならず、母相の転がり疲れが進行するため、欠陥自体の有害性を区別して検証することが困難となる。より望ましい試験片100の硬さは、58HRC以上である。
【0058】
続いて、熱処理時の酸化スケールを平面研削で除去してから、周波数50MHzの超音波探傷試験により試験片中のAl2O3の深さを特定し、この深さ情報をもとに試験片の研削とバフ研磨を行い、後述の局所研削手段における研削可能な深さ領域である100μm以下にAl2O3(粒子104)が配置されるように調整した(STEP9)。図10は完成したスラスト試験片の断面を観察して、埋設した200μm級のAl2O3周囲の母相との間に引張加工により人為的に形成させた隙間の状況を観察したものである。本実施形態の手法により、埋設した粒子の周囲の一部に実際に隙間が形成されていることが確認される。
【0059】
続いてバフ研磨面上で試験片の局所研削箇所の目印をターゲットとして局所研削を行い、元素検出手段を利用して介在物が表面に露出したことを検知した(STEP10)。まず、介在物埋設箇所の精密な目印となる微小Si系酸化物粒子群(図6中のA)の中間材C100c上での位置を図11のように特定した。続いて、この目印を目標地点としてその位置上周辺のみを局所的に研削するとともに介在物の表出時点を確実に検出する工程が採られる。
【0060】
本実施形態における局所的な研削と介在物が露出したことを検知するための手段の一つとして、グロー放電によるスパッタを利用した。市販されている装置として、Arガスなどをグロー放電でプラズマ化させ、それをさまざまな試料の表面に照射し、スパッタにより試料表面を除去しながら、スパッタによって取り除かれた原子のプラズマ内での発光を分光分析することによって、同時化学分析を行うことが可能なものがある。このような装置を用いることで、埋設箇所上の局所加工(スパッタによる)とその領域内に介在物(粒子104)が露出したことの検知とを同時に達成することができる。
【0061】
また、この手法では、加工にともなう試料へのダメージを抑えつつ、加工速度の速い局所加工を行うことが可能であり、さらに加工条件(スパッタ条件)の適正化は必要であるがスパッタされる局所加工面積内を凹面状や凸面状でないフラットな面に加工することができる特徴がある。また、その加工面も光学顕微鏡観察が可能な程度に平滑になる。これらの特徴により、介在物を表面に露出させた後に介在物の状態を確認することは容易であり、またフラットな面に加工されるようにすることで、後述の試験片の表面バフ研磨仕上げにおける介在物の表出大きさ(もしくは軌道下の埋設深さ)の制御が容易となる。また、最少でppmオーダー程度の検出感度での元素分析を同時に行うことができる。これ以外にも例えば研削ならびに鏡面研磨とその後の光学顕微鏡観察とを繰り返し行うことによっても作製は可能である。しかしながら、研磨には多くの時間を要し非効率的であり、加工量も不確定性に依存してしまうために目標とする介在物の露出状態にコントロールすることは難しい。対して、グロー放電によるプラズマを利用する上記手段の方が極めて効率的であり、かつ確実性が高い。
【0062】
本実施形態では、代表してAl2O3を人工介在物として用いており、図12のようにArプラズマによるスパッタ中のAlの発光強度の推移を監視することでAl2O3が露出したタイミングを検知することができる。その時点でスパッタを停止しても良いし、さらにスパッタを継続させて介在物の露出する大きさを適宜コントロールしてからスパッタを停止しても良い。また、そのスパッタ条件に関し、プラズマ発生のための電極径、Arガス圧、高周波印加電圧を考慮した。Al2O3以外の粒子を用いる場合には、その主要構成元素の発光強度推移に注目するとよい。
【0063】
本実施例では、電極径として、スパッタ装置に試料をセットする際の介在物埋設箇所上研削位置の多少のズレをカバーすることができて、なおかつスパッタ速度と元素検出感度とのバランスが良好なφ2mmの電極を用いた。また、スパッタ加工痕の底面の形状が平滑とならずに凸型や凹型になると、介在物が凹型のスパッタ面のいちばん深い場所に露出した場合を除き、仕上げ研磨工程で研削部を含めて試験片表面を平滑にバフ研磨仕上げする際に介在物が余分に研削されることになり、介在物の表面下深さの精密な制御が困難になるため、平滑なスパッタ面が得られる条件を選定した。
【0064】
本実施例では、例えばArガス圧を600Pa、高周波印加電圧を35Wで行った。これらの条件は、スパッタならびに元素検出を行うための装置の仕様にも依存するため、それらに応じた調整は必要である。これにより、図13に模式的に示す通り、スパッタ面に対してAl2O3が表出している様子を直接観察可能である。通常バフ研磨面でなければ微小な介在物を光学顕微鏡で視認することは困難であるのに対し、本実施形態のArプラズマスパッタによれば介在物の観察のための追加の研磨工程は必要とせず、試験片作製工程の迅速化・簡略化に寄与する。続いて、介在物が露出している局所加工面(スパッタ面)の深さについて、周辺の非加工面を基準として計測する。そして、その深さを考慮した仕上げ研磨量まで試験片表面をバフ研磨することにより、図1の模式図に示す母相との間に隙間を有し介在物が露出した試験片が完成する(STEP11)。
【0065】
続いて、スラスト型転がり疲れ試験の実施要領を説明する。まず、介在物が試験片表面に露出した箇所の直上を転動体が通るように軌道を配置する。試験片100の配置に関しては、上板にSUJ2製単式スラスト軸受のレース(型番51305)を使用し、下板をAl2O3埋設試験片100とし、上板と下板の間に転動体として直径3/8インチのSUJ2製鋼球3個を120°ピッチで等分配置するようにした。なお、軌道の配置に関しては、介在物が試験片表面に露出した位置は明確に特定されるのであるから、その直上を軌道幅の中心が通るようにしても良く、敢えて軌道幅の中心から適宜ずらすようにすることも目的に応じて選択して良い。スラスト型転がり疲れ試験にあたっての試験面圧(最大ヘルツ接触応力)や負荷サイクル速度、潤滑条件、試験温度はやはり目的に応じて選択や調整を行うものとする。また、同試験における転動体の個数について、転動体を3個より多く配置することも目的に応じて選択されうる。
【0066】
スラスト型転がり疲れ試験を実施したのちは、剥離が生じた場合には剥離までに要したサイクル数(寿命)や、剥離断面における疲労状態をミクロ観察することが可能である。また、剥離が生じていない場合には、試験片表面に露出した介在物の状態(例えば初期状態との変化)のミクロ観察、あるいは断面における介在物やその周辺における疲労状態のミクロ観察を行うことができる。いずれの観察においても、足がかりとなるAl2O3(粒子104)の埋設位置は事前に明確となっており、その場所を特定できるような目印を試験片に適宜付与しておくことで確実かつ精密な観察を行うことができる。
【0067】
以上の通り、本実施形態の人工的な欠陥導入による転がり疲れ試験方法を用いることにより、予め選定した非金属介在物もしくはそれと類似した組成を有する化合物を人工的に導入し、介在物と周囲母相に隙間を付与した後、それを試験片上に露出させ、それを対象として転がり疲れ試験を行い、事前に把握していた位置情報を元に試験後に介在物埋設箇所周辺のき裂等の転がり疲れ挙動を確実に観察することが実現可能である。
【0068】
また、介在物からはく離を生じさせることによっては、介在物大きさと寿命との関係についても検証が可能な方法である。また、本方法は、予め転がり疲れを付与する介在物の組成・形状、および介在物-母相界面の状態を定めた状態で試験を行うことから、それらの条件を有限要素法による解析に反映させることも容易であり、この観点からも従来以上に高度な検証が可能になる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態は、非金属介在物もしくはそれに類似した組成を有する化合物について、予め大きさ、組成、形状を選定したものを人工的な手段で軸受用鋼製の転がり疲れ試験片中に導入し、介在物もしくは化合物と周囲母相に隙間を付与した後、試験片上に介在物もしくは化合物を露出させ、その試験片状に露出した介在物もしくは化合物を対象として転がり疲れ試験を行い、転がり疲れに対する有害性(寿命や疲労への影響)を精緻に検証するという方法である。また、この発明の方法では、はく離に至る前段階で試験を中断した場合であっても、介在物が試験片上に露出した介在物や化合物の状態変化の観察や、その露出位置を基準とする当該位置の軌道断面における介在物や化合物の周囲の疲労状況の断面観察を確実に遂行できるようにするものである。
【0070】
本実施形態の人工的な欠陥導入による転がり疲れ試験方法は、介在物の最大径、軌道上に露出した介在物の大きさや状態、軌道下(部品内部)における介在物の形状、介在物の組成、表面や内部での介在物と母相との隙間の状況、鋼中の存在位置といった寿命に関与しうる諸情報について予め判明した状態から試験を行うことによって、介在物の有害性(寿命や転がり疲れへの影響)を精緻に検証することを可能とする、これまでに無い新たな試験方法である。本試験方法を用いた場合、介在物の精密な位置情報が予め判明しているために、介在物周囲の疲労状況の観察を容易に行うことができる。その観察手法としては従来から良く用いられてきた断面観察による手法が利用可能であるし、あるいは非破壊での観察手法の適用も可能であり、介在物周囲の疲労挙動について従来以上に精緻な検証の実現が期待できるものとなる。
【0071】
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
100:試験片
101:内径穴部
104:粒子
106:隙間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13