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特許7293073ホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法及びパン類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】ホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法及びパン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/26 20060101AFI20230612BHJP
   A21D 8/04 20060101ALI20230612BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D8/04
A21D6/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019178106
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021052642
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 一民
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 哲也
(72)【発明者】
【氏名】貴島 聡
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196176(JP,A)
【文献】特開平02-150229(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00542353(EP,A1)
【文献】特開平08-196200(JP,A)
【文献】特開2018-042532(JP,A)
【文献】特開平08-066147(JP,A)
【文献】特開2007-014253(JP,A)
【文献】特開2005-168499(JP,A)
【文献】特開2004-201507(JP,A)
【文献】特開2008-142016(JP,A)
【文献】製パンに於ける小麦(9) 4.ドウ6,Pain,2007年,Vol.54,p.42-45
【文献】丹下 幹子,小麦たん白「グリアジン」の製パンへの応用,月刊フードケミカル,2006年,vol.22, No.9,p.29-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、活性グルテンを0.2~3質量部、グリアジンを0.2~3質量部、増粘剤を0.2~3質量部配合し、且つ少なくともα―アミラーゼを含む酵素を配合して得られるホイロ発酵後の生地を冷凍することを特徴とし、
前記活性グルテンと前記グリアジンの配合比が質量比で1:0.2~5であることを特徴とする、ホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法。
【請求項2】
前記増粘剤として少なくともペクチンを用いることを特徴とする、請求項1に記載のホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法。
【請求項3】
前記ペクチンが柑橘類由来のペクチンである、請求項2に記載のホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法。
【請求項4】
請求項1~の何れか1項に記載の方法で製造されたホイロ発酵済みパン用冷凍生地をそのまま焼成することを特徴とする、パン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイロ済みパン類用冷凍生地の製造方法及びそれにより得られるホイロ済みパン類用冷凍生地を用いたパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍焼売や冷凍餃子、冷凍ミートボール等のパン以外の調理冷凍食品分野では、技術の進歩により、電子レンジで加熱するだけで調理直後と同様の美味しさを実現できる製品も増加している。
パン業界においても、製造工程の合理化や人手不足に対する対応等の観点から、冷凍生地や冷凍パンの需要が増大している。しかしながら、冷凍生地及び冷凍パンについては、製パン業界各社による技術開発が行われているものの、手軽さと美味しさとを両立させる観点では未だ改善の余地が大きい。例えば、製パンに冷凍生地を用いる場合であっても、質の高いパンを製造するには、生地の見極めや成形などの技術や経験が必要であり、相応の製パン技術と手間を必要とする。
またホイロ発酵後に冷凍した冷凍生地も提案されている。ホイロ発酵済みの冷凍生地であれば、焼きあがったパンを得るための手間が少なくて済み、また熟練したパン技術者が不要となる等の利点がある。そのため、本出願人も、ホイロ済み冷凍生地を使用する製パン方法及び該ホイロ済み冷凍生地の製造方法を提案している(特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、焼成直前のホイロ発酵済みパン類用冷凍生地として、αアミラーゼ、キシラナーゼ、ペクチンを配合して得られたものも開示されている。しかしながら、特許文献1には、活性グルテン及びグリアジンを併用する旨の記載はない。また特許文献1の技術は、調製直前の冷凍生地の比容積を特定の低い範囲に調整するものであり、斯かる調製の有無に拘わらずに、大きな体積及び優れた食感のパンを得る方法についても記載されていない。
【0004】
特許文献2には、パン類又は小麦系菓子類の製造方法において、酸性エタノール水溶液を用いて小麦グルテンより抽出・分離されたグリアジンに富む成分を生地に配合することが記載されている。特許文献2には、前記のグリアジンに富む成分を配合することで、パン又はパン生地の冷凍変性、特に老化の抑制が達成される旨の記載があり、また膨張性を向上させる旨の記載がある。しかしながら、特許文献2にも、活性グルテン及びグリアジンを併用する旨の記載はない。
【0005】
特許文献3には、パンの製造方法において、該小麦粉の一部として小麦蛋白質量が13.5質量%を超える高蛋白質含有量の超強力粉を添加するとともに、活性グルテンおよびグリアジンを添加するパンの製造方法が記載されている。特許文献3の技術は、多量の難消化性澱粉を添加することによって、混捏したパン生地から伸展性、膨張性および弾力性が失われることに起因する不都合を解決する技術である。他方、特許文献3には、活性グルテン及びグリアジンを配合した生地をホイロ発酵後に冷凍することや、ホイロ発酵済みの冷凍生地の欠点を改善することについて何らの記載されていない。
【0006】
特許文献4には、改良された冷凍保存寿命を有する凍結ドウとして、全小麦粉含量をベースにして16%以上の小麦タンパク質からなる凍結ドウが記載されている。しかしながら、特許文献4にも、活性グルテン及びグリアジンを併用する旨の記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-196176号公報
【文献】特開平8-66147号公報
【文献】特開2007-14253号公報
【文献】特開昭58-116625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ボリューム及び食感に優れたパン類を焼成することのできるホイロ発酵済パン用冷凍生地を容易に製造することのできるホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法、及びボリューム及び食感に優れたパン類を手間及び熟練度を抑制して簡便に製造することのできる、パン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、活性グルテンを0.2~3質量部、グリアジンを0.2~3質量部、増粘剤を0.2~3質量部配合し、且つ少なくともα―アミラーゼを含む酵素を配合して得られるホイロ発酵後の生地を冷凍することを特徴とする、ホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
また、本発明は、上記のホイロ発酵済みパン用冷凍生地をそのまま焼成する、パン類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のホイロ発酵済パン用冷凍生地の製造方法によれば、ボリューム及び食感に優れたパン類を容易に焼成することのできるホイロ発酵済パン用冷凍生地が得られる。
本発明のパン類の製造方法によれば、上記のホイロ発酵済パン用冷凍生地を用いることにより、製パンに必要な手間や熟練度を抑制して、ボリューム及び食感に優れたパン類を容易に製造することができる。
本明細書においてボリュームとは、焼きあがったパン類の体積の大きさであり、ボリュームに優れるとは、焼きあがったパン類が大きな体積を有することを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明のホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法(以下「本発明の冷凍生地の製法」ともいう)においては、製パン原料の主原料として、パン用小麦粉を主体とする穀粉類を用いる。
上記パン用小麦粉としては、一般的に強力粉が用いられる。強力粉は、小麦蛋白の含有量が11.5~16.0質量%であり、好ましくは11.5~15.0質量%である。パン用小麦粉としては、強力粉を単独で用いてもよいし、強力粉と、デュラム小麦粉、中力粉、薄力粉等の他の小麦粉とを併用してもよい。パン用小麦粉として、強力粉と他の小麦粉とを併用する場合、それらの総量中の小麦蛋白の含有量が、6.0~16.0質量%であることが好ましく、8.0~14.0質量%であることがより好ましい。
【0013】
製パン原料の主原料として用いる穀粉類は、上記パン用小麦粉のみでもよいし、上記パン用小麦粉と他の穀粉類とを組み合わせてもよい。穀粉類は、穀物由来の粉体であり、穀物は、好ましくはイネ科植物の種子である。イネ科植物の例としては、小麦類、米類、大麦類、トウモロコシ類、モロコシ類、ヒエ類、アワ類、キビ類、オーツ麦類(カラス麦類)及びライ麦類等が挙げられる。穀粉類としては、穀粉や澱粉が挙げられる。
パン用小麦粉と併用する他の穀粉類としては、例えば、米粉、大麦粉、モチ大麦粉、そば粉、大豆粉、コーンフラワー、オーツ麦粉、ライ麦粉等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。パン用小麦粉と併用する澱粉としては、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉などの未加工澱粉、及び前記の各未加工澱粉に、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を施したもの等の各種加工澱粉等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
製パン原料の主原料として用いる穀粉類は、ボリューム及び食感に優れたパン類の製造を容易とする観点から、パン用小麦粉の割合が、穀粉類の総量に対して50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%、さらに好ましくは80質量%以上である。上限は特になく、例えば100質量%である。また、同様の観点から、製パン原料ののうち水を除く全原料中における穀粉類の割合は、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上である。
【0015】
本発明の冷凍生地の製法においては、製パン原料として、主原料であるパン用小麦粉を主体とする穀粉類に加えて、少なくとも、活性グルテン、グリアジン、増粘剤、及び少なくともα―アミラーゼを含む酵素を用いる。また、活性グルテン、グリアジン及び増粘剤は、パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対して、それぞれ後述する質量部を配合する。
パン用小麦粉を主体とする穀粉類に対して、活性グルテン、グリアジン、増粘剤をそれぞれ所定量配合するとともに、少なくともα―アミラーゼを含む酵素及び水を配合した生地からホイロ発酵済みの生地を得て、それを冷凍することにより、焼成により、ボリューム及び食感に優れるパンを容易に得ることのできるホイロ発酵済みパン用冷凍生地が得られる。
【0016】
本発明の冷凍生地の製法より、ボリューム及び食感に優れるパンを容易に焼成可能な冷凍生地が得られる理由は、以下のように推定される。
すなわち、活性グルテン及びグリアジンを併用し、活性グルテンを単独で配合した場合に比してグリアジンリッチな状態で水と混捏することにより、グルテンが形成する網目構造が伸びやすい性質のものとなり、一次発酵、ホイロ発酵の際に、生地が、イーストによる発酵により生じるガスを微細でかつ均一な気泡として生地中に効率よく取り込みながら膨張し、その気泡構造を形成する。しかも、特定量の増粘剤の配合によって、その生地中の気泡構造が、ホイロ発酵後とその後の冷凍・解凍工程においても比較的良好に維持され、焼成時に生地中の気泡が膨張し、ボリュームに優れるパン類が得られる。また、増粘剤の効果によって、冷凍保存期間中、氷結晶生成による生地の損傷も抑制することができる。更に、α―アミラーゼを含む酵素の配合により、生地の伸展性が向上し、製造されるパン類の外観も向上する。このような作用の相乗的な作用により、ボリューム及び食感に優れるパン類を焼成可能な冷凍生地が得られる。
【0017】
上記活性グルテンは、バイタルグルテンとも言われるものである。活性グルテンは、多数の市場流通品が存在し、それらを用いることができる。活性グルテンは、小麦蛋白の濃縮物であり、主にグルテニンとグリアジンから構成され、基本的には、小麦粉と水とを混捏してグルテンが発達した生地を形成した後、該生地の澱粉等の水溶性成分を除去することにより小麦蛋白質の含有量を高めたものである。活性グルテンは、全質量中70~95重量%が小麦蛋白質からなるものが好ましい。活性グルテンは、小麦グルテンであることが好ましく、小麦の種類としては、パンコムギ、デュラムコムギ、クラブコムギ、スペルトコムギ、エンマコムギ(以上、イネ科コムギ属);タルホコムギ、クサビコムギ(以上、イネ科エギロプス属)が挙げられる。
本発明において活性グルテンは、パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、0.2~3質量部配合し、好ましくは0.3~2.5質量部配合する。0.2質量部未満であると、焼成されるパン類のボリューム及び食感の向上効果が得られにくくなり、3質量部以上であると、生地の伸展性が劣り、焼成されるパンのボリューム及び食感の向上効果が得られにくくなる。
【0018】
上記グリアジンは、グリアジンを主体とした改良剤であり、一般的には、例えば小麦グルテンからアルコール水溶液等の溶媒を用いて、その可溶性成分として抽出・分離し、さらに通常はこれを乾燥して粉末化することにより得ることができる。改良剤としてのグリアジンは、乾燥粉末原料の場合、50重量%以上がグリアジンであるものが好ましく、より好ましくは60~95%がグリアジンである。このようなグリアジンとして、グリアA(アサマ化成)などが挙げられる。
本発明においてグリアジンは、パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、0.2~3質量部配合し、好ましくは0.3~2.5質量部配合する。0.2質量部未満であると、焼成されるパン類のボリューム及び食感の向上効果が得られにくくなり、3質量部以上であると、生地の緩みが大きくなり、焼成されるパンのボリューム及び食感の向上効果が得られにくくなる。
【0019】
活性グルテンとグリアジンの配合比は、質量比で1:0.2~5であることが好ましく、より好ましくは1:0.25~4である。活性グルテンに対して0.2倍量以上、特に0.25倍量以上のグリアジンを用いることにより、生地の弾性が良くなり、焼成されるパンのボリューム及び食感の向上効果が一層確実に奏され、活性グルテンに対して5倍量以下、特に4.0倍量以下のグリアジンを用いることにより、生地の伸展性が良くなり、焼成されるパンのボリューム及び食感の向上効果が一層確実に奏される。
【0020】
上記増粘剤としては、各種公知のものを用いることができ、例えば、アルギン酸又はその塩(例えばナトリウム塩等)、アラビアガム、カードラン、カロブビーンガム、キサンタンガム、キチン、キトサン、グアーガム、サイリウムシードガム、カラゲーナン、タマリンドシードガム、トラガントガム、ペクチン、ジェランガム、ゼラチンなどが挙げられる。好ましくは、増粘多糖類であるペクチンであり、より好ましくは柑橘類由来のペクチンである。ペクチンとしては、各種公知のものを用いることができ、高メトキシル化ペクチン(HMペクチン)及び低メトキシル化ペクチン(LMペクチン)のいずれを用いることもできる。増粘剤として、ペクチン、好ましくは柑橘類由来のペクチンを用いることで、ホイロ発酵後の生地にボリューム(体積)が出やすくなり、またホイロ発酵後の生地は、保形性に優れたものとなる。
使用される増粘剤のうち、ペクチンを50質量%以上含むことが好ましく、より好ましく70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、なお好ましくは95質量%以上である。
本発明において増粘剤は、パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、0.2~3質量部配合し、好ましくは0.3~2.5質量部配合する。0.2質量部以上とすることにより、ボリューム及び食感に優れたパン類が得られやすくなり、3質量部以下とすることにより、生地の締まりを抑制し、製パン工程における生地の損傷を抑制することができる。
【0021】
上記α―アミラーゼとしては、市販の酵素製剤を使用することができる。α―アミラーゼの使用量は、パン類用小麦粉を主体とする上記穀粉類100質量部に対し、5×10-6~1.0×10-2質量部であることが好ましく、1.5×10-5~5.0×10-3質量部であることがより好ましい。製パン原料の主原料としての穀粉類には、少なくともα―アミラーゼを含む酵素を配合する。
少なくともα―アミラーゼを含む酵素とは、酵素として、少なくともα―アミラーゼを配合することを意味する。
例えば、α―アミラーゼとともにキシラナーゼを酵素として添加してもよい。キシラナーゼとしては、市販の酵素製剤を使用することができる。キシラナーゼの使用量は、パン類用小麦粉を主体とする上記穀粉類100質量部に対し、1×10-5~2.0×10-4質量部配合することが好ましく、5.0×10-5~2.0×10-4質量部配合することがより好ましい。α―アミラーゼとして市販の酵素製剤を用いる場合、α―アミラーゼの使用量は、酵素製剤の使用量(質量)に、酵素製剤中のα―アミラーゼの含有割合を乗じて算出する。キシラナーゼ等の他の酵素も同様である。
【0022】
本発明の冷凍生地の製法及び本発明のパン類の製造方法においては、ホイロ発酵済みパン用生地(冷凍前又は冷凍後の生地)の製造及びそれを用いたパン類の製造に当たり、製パン原料として、パン類用小麦粉を主体とする穀粉類、及び上述した活性グルテン、グリアジン、増粘剤、少なくともα―アミラーゼを含む酵素及び水に加えて、目的とするパン類の種類に応じて従来用いられている各種公知の副原料を適宜選択して配合することができる。例えば、パン類用小麦粉を主体とする穀粉類の他、副原料として、イースト、イーストフード、糖類、食塩、油脂、鶏卵、乳製品等が好ましく用いられる。
【0023】
本発明の方法(冷凍生地の製法及びパン類の製造方法)において、パン生地の製造の手法は特に限定されず、例えば、ストレート法、中種法、速成法、液種法などの各種常法に従って行うことができる。好ましくはストレート法、もしくは中種法である。
本発明の方法(冷凍生地の製法及びパン類の製造方法)においては、従来の製パン方法に準じて、ホイロ発酵終了までの工程を行なうことができる。例えば、ストレート法の場合、製パン原料を混捏してパン生地を形成し、一次発酵を行った後、分割し、必要に応じて丸めを行い、さらに必要に応じてベンチタイムをとり、次いで、成形した後、ホイロ発酵(二次発酵)を行う。ストレート法の場合、例えば、上述したパン用小麦粉を主体とする穀粉類に、活性グルテン、グリアジン、増粘剤、α―アミラーゼを含む酵素の全てを添加混合し、さらに水及び所望により配合される他の副原料等を添加し混捏して、一次発酵を行うパン生地を得る。
中種法の場合、通常の手順に従って、原料粉の一部、イースト、水分、及び必要に応じて他の材料を混捏、発酵させて中種を調製する。この中種に残りの原料粉及び必要に応じて他の材料や水分を加え、通常の手順に従って混捏、一次発酵を行った後、分割・丸めを行い、さらに必要に応じてベンチタイムをとり、次いで、成形した後、ホイロ発酵(二次発酵)を行う。中種法の場合、グルテン、グリアジン、増粘剤は、中種に配合しても、本捏時に配合しても、分けて配合しても構わないが、本捏時に配合することが好ましい。
上記のホイロ発酵まで済んだパン類用生地を冷凍して冷凍生地とする。冷凍する際は各種の冷凍設備が用いられるが、好ましくは急速凍結を行う。
【0024】
本発明(冷凍生地の製法及びパン類の製造方法)においてより高い効果が奏されるようにするための好ましい条件について、以下に説明する。
上記の各種製パンの手順(特にストレート法及び中種法)において、一次発酵前の生地の温度、一次発酵及びホイロ発酵それぞれの温度及び時間は、製造するパン類の種類等に応じて適宜調整され特に制限されないが、一次発酵前の生地の温度(捏上温度)は18~25℃が好ましく、その後の一次発酵は、23~28℃で10~40分間行うことが好ましく、ホイロ発酵は、27~35℃で30~90分間行うことが好ましい。また、ホイロ発酵は、相対湿度70~90%で行うことが好ましい。
【0025】
本発明の冷凍生地の製法により得られたホイロ発酵済みパン用冷凍生地を焼成する際には、冷凍生地を解凍してから焼成しても、冷凍生地のまま焼成してもよい。冷凍生地のまま焼成する場合には、そのままオーブンで焼成してもよいが、スチームコンベクションオーブン等を用いて、加湿環境下、好ましくは飽和水蒸気の存在下で高速に生地を解凍させてから、高温で焼成させてもよい。
【0026】
本発明のパン類の製造方法においては、上記のホイロ発酵済みパン類用冷凍生地を、解凍せずにそのまま焼成してパン類を得る。冷凍生地を解凍せずに焼成することにより、大きい体積及び優れた食感を有し、外観にも優れたパン類を一層確実に得ることができる。焼成温度は、160~230℃、特に160~210℃の範囲、焼成時間は、5~40分間、特に10~25分間の範囲から、パン類の種類や大きさに応じて適宜選択することが好ましい。解凍してから焼成する場合も、同様の焼成温度又は同様の焼成時間を採用し得る。
【0027】
本発明(冷凍生地の製法及びパン類の製造方法)により製造するパン類の種類としては、特に制限はなく、食パン、菓子パン、デニッシュペストリー、フランスパン、クロワッサン、ハードロール、セミハードロール、バターロール、ブリオッシュ、ベーグル等が挙げられるが、これらの中でも、セミハードロール、クロワッサン、デニッシュペストリー、ベーグルに好適である。
【実施例
【0028】
以下、実施例等を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって制限されるものではない。
【0029】
以下の実施例又は比較例に用いた表1乃至表8に示す各成分の詳細は、以下の通りである。
強力粉:商品名「ミリオン」、日清製粉株式会社
ペクチン(シトラス):増粘剤、商品名「BIG-J」、三晶株式会社
ペクチン(シュガービート):増粘剤、商品名「BETA BI―J」、三晶株式会社
キサンタンガム:増粘剤、商品名「キサンタンガム」、日本コロイド株式会社
グリアジン:商品名「グリアA」、アサマ化成株式会社
活性グルテン:商品名「H-10」、小川製粉株式会社
酵素(α-アミラーゼ):商品名「スピターゼXP-404」、長瀬産業株式会社
セミドライイースト:商品名「サフ セミドライイースト ゴールド」、日仏商事株式会社
モルトシロップ:商品名「ユーロモルト」、日仏商事株式会社
乳化剤:商品名「MM-100」、理研ビタミン株式会社
【0030】
〔実施例1〕クロワッサンの製造
表1の実施例1に示す選択原料と表2に示す共通原料とを表1及び表2に示す比率で配合したものをクロワッサン用生地配合とし、以下の製法により、クロワッサンを製造した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
(製法)
強力粉に、水および折込油脂以外の配合原料を全て添加し、そこへ水を加えて低速で7分間、中高速で7分間混捏してクロワッサン用生地を形成した(捏上げ温度24℃)。
次に、得られたクロワッサン用生地を27℃で20分間一次発酵した後、大分割し、-10℃にて1時間冷蔵した。次いで、折込油脂50質量部を用いて3ッ折2回の折込を行った後、-10℃にて1時間冷蔵し、さらに3ッ折1回の折込を行った後、-10℃にて1時間冷蔵した。次いで、生地を60gずつにカッティングし、最終生地厚2.8mm、大きさ10cm×18cmとの生地とし、クロワッサン形に成形した。
次いで、ホイロ発酵(28℃、相対湿度80%)を80分間行った後、生地の表面に卵液を塗布し、-40℃にて30分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みクロワッサン用冷凍生地を得た。
このホイロ発酵済みクロワッサン用冷凍生地を解凍せずにそのまま180~210℃の条件で焼成して、クロワッサンを得た。
【0034】
〔実施例2~7及び比較例1~6〕
実施例1に用いた選択原料に代えて、表1中の実施例2~7及び比較例1~6に示す選択材料を表1に示す比率で配合する以外は、実施例1と同様にしてクロワッサンを得た。
【0035】
〔実施例8~11及び比較例7,8〕
実施例1に用いた選択原料に代えて、表3中の実施例8~11及び比較例7,8に示す選択材料を表3に示す比率で配合する以外は、実施例1と同様にしてクロワッサンを得た。
【0036】
【表3】
【0037】
実施例1~11及び比較例1~8で製造したクロワッサンについて、10名のパネラーにより、ボリューム及び食感を、以下に示す評価基準に従って評価し、10名の評価結果の平均点を表1及び3に示した。ボリュームは、比較例2を対照例として評価した。
〔ボリュームの評価基準〕
5点:対照例と比較してボリュームに非常に優れる。
4点:対照例と比較してボリュームにやや優れる。
3点:対照例と同程度である。
2点:対照例と比較してボリュームにやや劣る。
1点:対照例と比較してかなりボリュームに非常に劣る。
〔食感(クロワッサン)の評価基準〕
5点:非常にサクサクとして歯切れがよく、くちどけが良い
4点:サクサク感があり歯切れがよく、くちどけがやや良い
3点:ややサクサク感があり歯切れもややよく、くちどけが若干良い
2点:サクサク感がやや劣り、やや歯切れが悪く、くちどけがやや悪い
1点:サクサク感がなく、歯切れが悪く、くちどけが悪い
【0038】
〔実施例12〕ハードロール(カイザーロール)の製造
表4の実施例12に示す選択原料と表5に示す共通原料とを表4及び表5に示す比率で配合したものをハードロール用生地配合とし、以下の製法により、ハードロール(カイザーロール)を製造した。
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
(製法)
強力粉に水以外の配合原料を添加混合し、そこへ水を加えて低速で4分間、次いで中速で4分間、中高速で5分間混捏してハードロール用生地を形成した(捏上げ温度24℃)。
次に、得られたハードロール用生地を27℃で30分間一次発酵した後、60gずつに分割し、27℃にて15分間のベンチタイムをとった。次いで成形した後、スタンプで切れ込みを入れ卵白液を塗布したのち、ホイロ発酵(32℃、相対湿度80%)を45分間行った。次いで、-40℃にて30分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みハードロール用冷凍生地を得た。
このホイロ発酵済みハードロール用冷凍生地を解凍せずにそのまま180~210℃の条件で焼成してハードロール(カイザーロール)を得た。
【0042】
〔実施例13~16及び比較例9~11〕
実施例12に用いた選択原料に代えて、表4中の実施例13~16及び比較例9~11に示す選択材料を表4に示す比率で配合する以外は、実施例12と同様にしてハードロールを得た。
【0043】
実施例12~16及び比較例9~11で製造したハードロールについて、10名のパネラーにより、ボリューム及び食感を、上記のボリュームの評価基準及び以下に示す食感(ハードロール)の評価基準に従って評価し、10名の評価結果の平均点を表4に示した。但し、ボリュームは、比較例9を対照例として評価した。
〔食感(ハードロール)の評価基準〕
5点:非常に歯切れがよく、くちどけが良い
4点:歯切れがよく、くちどけがやや良い
3点:やや歯切れが、くちどけが若干良い
2点:ややヒキがあり、くちどけがやや悪い
1点:ヒキが強く、くちどけが悪い
【0044】
〔実施例17〕ベーグルの製造
表6の実施例17に示す選択原料と表7に示す共通原料とを表6及び表7に示す比率で配合したものをベーグル用生地配合とし、以下の製法により、ベーグルを製造した。
【0045】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
(製法)
強力粉に水以外の配合原料を全て添加し、そこへ水を加えて低速で7分間、中低速で10分間、中高速で3分間混捏してベーグル用生地を形成した(捏上げ温度24℃)。
次に、得られたベーグル用生地を温度27℃、湿度75%の環境下で30分間一時発酵させた後、カッターを用いて質量100gの生地に分割し、ベンチタイムを15分間とった後、その分割された複数個の生地をそれぞれリング状に成形し布取りした。次いで、このリング状の成形生地を温度27℃、湿度75%の環境下で30~60分間ホイロ発酵させ、ホイロ発酵済みベーグル用生地を得た。次いで、-40℃にて30分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を得た。
このホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を解凍せずにそのまま180~210℃の条件で焼成してベーグルを得た。
【0048】
〔実施例18,19及び比較例12〕
実施例17に用いた選択原料に代えて、表6中の実施例18,19及び比較例12に示す選択材料を表6に示す比率で配合する以外は、実施例17と同様にしてベーグルを得た。
【0049】
〔実施例20,21〕
実施例17と同じ製法でホイロ発酵済みベーグル用生地を得た。
実施例20は、ホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を解凍せずにそのまま、スチームコンベクションオーブンを用いて、設定温度50℃のスチームモードで解凍した後、コンビネーションモード(オーブン機能とスチーム機能を組み合わせたモード)にて170~180℃の条件で焼成し、ベーグルを得た。
実施例21は、ホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を4℃設定の冷蔵庫にて12時間保管して解凍した後、180~210℃の条件で焼成してベーグルを得た。
【0050】
実施例17~21及び比較例12で製造したベーグルについて、10名のパネラーにより、ボリューム及び食感を、上記のボリュームの評価基準及び以下に示す食感(ベーグル)の評価基準に従って評価し、10名の評価結果の平均点を表6に示した。但し、ボリュームは、比較例12を対照例として評価した。
〔食感(ベーグル)の評価基準〕
5点:非常に歯切れがよくモチモチしており、くちどけが良い
4点:歯切れがよくややモチモチしており、くちどけがやや良い
3点:やや歯切れがよく若干モチモチしており、くちどけが若干良い
2点:ややヒキがあり若干クチャつき、くちどけがやや悪い
1点:ヒキが強くクチャつき、くちどけが悪い
【0051】
〔実施例22~24及び比較例13〕中種法によるハードロールの製造
表8記載の中種原料(水を除く)を添加混合し、そこへ水を加えて低速で4分間、次いで中低速で2分間、混捏して中種生地を得た(捏上げ温度25℃)。これを27℃湿度75%で2時間発酵させ、中種を得た。
表8記載の本捏用原料(水を除く)を添加混合し、そこへ前記の中種と水を加えて低速で4分間、次いで中速で4分間、中高速で4分間混捏してハードロール用生地を形成した(捏上げ温度24℃)。また表8中に示す選択材料を、表8に示す比率となるように、本捏する前の穀粉中に配合した。
次に、得られたハードロール用生地を27℃で20分間一次発酵した後、60gずつに分割し、27℃にて15分間のベンチタイムをとった。次いで成形した後、スタンプで切れ込みを入れ卵白液を塗布したのち、ホイロ発酵(32℃、相対湿度80%)を40分間行った。次いで、-40℃にて30分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みハードロール用冷凍生地を得た。
このホイロ発酵済みハードロール用冷凍生地を解凍せずにそのまま180~210℃の条件で焼成してハードロールを得た。
【0052】
【表8】
【0053】
実施例22~24及び比較例13で製造したハードロールについて、10名のパネラーにより、ボリューム及び食感を、上記のボリュームの評価基準及び上記の食感(ハードロール)の評価基準に従って評価し、10名の評価結果の平均点を表8に示した。但し、ボリュームは、比較例13を対照例として評価した。
【0054】
表1及び表3に示す結果を見ると、実施例1~7で得られたパン類は、グリアジン又は活性グルテンを配合しない比較例3,4や、グリアジン及び活性グルテンを配合するが、いずれか一方が所定量に満たない比較例5及び6に比して、ボリューム及び食感の評価が大きく向上している。また実施例1~7は、増粘剤を配合しない比較例1に比して、ボリューム及び食感の評価が大きく向上している。
これらの結果から、本願発明によれば、グリアジン、活性グルテン及び増粘剤をそれぞれ特定の配合割合で用いること等によって、ボリューム及び食感に優れたパン類を焼成することができることが判る。なお、比較例1において、アミラーゼも配合しない場合は、比較例1に比してボリューム及び食感が劣るものとなり、またクラックも生まれやすく、外観も劣るものとなった。
【0055】
また実施例1~3の結果の対比から、増粘剤としては、ペクチン、特に柑橘類由来のペクチンを用いることが、ボリューム及び食感に優れたパン類が得られるようにする観点からより好ましいことが判る。
更に表3に示す結果から、活性グルテンとグリアジンの配合比(質量比)を1:0.2~5とすることが、ボリューム及び食感の一層の向上観点から好ましいことが判る。
更に表4,6及び8に示す結果から、パン類の種類やホイロ発酵済み生地の製造方法によらずに、本発明の効果が得られることが判る。
上記の各試験は、小麦粉として強力粉を用いて実施したが、中力粉、薄力粉などの他の小麦粉を用いた場合も同様の傾向が確認された。