(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】多層フィルムおよびそれを備える成形体
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20230612BHJP
C09J 7/22 20180101ALI20230612BHJP
C09J 7/29 20180101ALI20230612BHJP
C09J 153/02 20060101ALI20230612BHJP
C09J 123/14 20060101ALI20230612BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230612BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230612BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20230612BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20230612BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/22
C09J7/29
C09J153/02
C09J123/14
B32B27/00 M
B32B27/30 B
B32B27/00 E
B29C48/08
B29C48/21
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2020513468
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019016046
(87)【国際公開番号】W WO2019198827
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018077682
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】榎本 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】小西 大輔
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020487(JP,A)
【文献】国際公開第2017/200014(WO,A1)
【文献】特開2014-168940(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121868(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031550(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043532(WO,A1)
【文献】特開平05-194923(JP,A)
【文献】国際公開第2017/020014(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
B29C 48/00-45/84
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層および粘接着材層を含む多層フィルムであって、前記粘接着材層が、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(D)とを含有
し、重合体ブロック(S)をaで、重合体ブロック(D)をbで表したとき、a-bで表されるジブロック共重合体およびa-b-aで表されるトリブロック共重合体である少なくとも
二種のブロック共重合
体の水素添加物よりなる熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、極性基を含まないポリプロピレン系樹脂(B)5~30質量部、および極性オレフィン系樹脂(C)1~50質量部を含有する熱可塑性重合体組成物からなり、前記熱可塑性重合体組成物の-50~-20℃範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)が3×10
-2以上である組成物からなること
を特徴とする多層フィルム
。
【請求項2】
前記重合体ブロック(D)を構成する共役ジエン化合物に由来する構造単位が、ブタジエンおよびイソプレンから選ばれる少なくとも一種を由来とする構造単位である請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記基材層が非晶性樹脂からなる請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記非晶性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびポリエステル系樹脂のいずれかである請求項3に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記多層フィルムが加飾フィルムである、請求項1~4のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の多層フィルムを製造する方法であって、前記基材層ならびに前記粘接着材層を共押出しすることを特徴とする多層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記基材層と接する側を金属ロール、前記粘接着材層と接する側をシリコーンロールとしてニップ成形することを特徴とする、請求項6に記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の多層フィルムを被着体の表面に具備する成形体。
【請求項9】
前記被着体が、ポリプロピレン樹脂である請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
請求項1~5のいずれかに記載の多層フィルムを真空成形で予備賦形する工程;
前記予備賦形した多層フィルムを前記基材層が型に接するようにして型内に配置する工程;
型を閉めた後に被着体を形成する熱可塑性樹脂を射出成形する工程;
を有する成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌外装等に用いる加飾用の多層フィルムおよび加飾フィルム、並びにそれらを具備する成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輌外装の加飾にはスプレー法によって塗布される車輌外装用塗料が用いられてきた。こうした塗料は、車輌基材の保護とともに美観性を車輌に与える目的で用いられている。特に車輌外装部材においては、小石や融雪塩が跳ねて塗膜に衝撃を負荷することで塗膜が部分的に欠落してしまうことがある。このような損傷をチッピングと呼び、チッピングに対する保護性能を耐チッピング性という。耐チッピング性が不足する塗膜に小石が衝突した場合、塗膜の損傷により下地が露出して美観性を損なってしまい、問題である。車輌外装部材の中でも、特にバンパーにはチッピングが発生しやすいために、使用される塗膜には高い耐チッピング性が求められる。
【0003】
ところで、車輌バンパーには素材としてポリプロピレン系樹脂が広く用いられている。前記ポリプロピレン系樹脂は、衝撃に強い、比重が小さい、コストが安いなど、様々な利点を有する。一方で非極性であるポリプロピレン系樹脂は、塗料を弾きやすく、塗膜樹脂との間で密着性を高く保つことが難しい。塗膜とバンパーを形成する樹脂との密着性が低い場合、前記耐チッピング性も悪化してしまう傾向がある。
これに対し、特許文献1では、所定の組成からなるプライマー組成物が開示されており、塗膜の耐チッピング性と自動車バンパー素材であるポリプロピレンに対する付着性を両立できる。また、特許文献2では所定の複層塗膜を形成させることで、低温かつ短時間での硬化性、耐チッピング性および仕上り外観にも優れる複層塗膜を得ることができる複層塗膜形成方法が開示されている。
【0004】
近年では車輌外装の加飾や基材保護を塗料によって行うのではなく、加飾フィルムを用いる方法が提案されている。前記加飾フィルムを用いた方法では、塗装工程においては必須である長大な乾燥炉が不要となるため、大量のエネルギーを節約することが可能である。このようなフィルムを用いた加飾方法として、特許文献3ではオレフィン系エラストマーからなるフィルム状基材と、該基材の被着体の側に塗布された粘着材層とからなる自動車外装用保護フィルムが開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、粘着材と所定のウレタン樹脂、さらにウレタン樹脂層表面に塗布された塗料からなる機能性フィルムが開示されている。しかしながら、粘着材を塗布する工程が必要となり、煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-67197号公報
【文献】国際出願公開第2014/045657号公報
【文献】特開2004-115657号公報
【文献】特開2004-148508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に記載の塗料組成物を用いる方法や、特許文献2に記載の複層塗膜形成方法では塗膜の乾燥硬化に大量のエネルギーが必要となるため環境負荷が大きくなり問題である。
【0008】
また、特許文献3に記載の自動車外装用保護フィルムでは、基材層と粘着材層との間の接着性を良好にするためにプライマー層の介在が求められており、工程数が多くなり煩雑である。また、基材層の弾性率が比較的低く、基材厚さで250~1000μmの厚さが必要となるため、重量が大きいという課題がある。特許文献4に記載の方法は粘着材を塗布する工程が必要となり煩雑である。
【0009】
以上より本発明の目的は、耐チッピング性に優れた多層フィルムおよび加飾フィルム、並びにこれらのフィルムを具備する成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成する本発明は、基材層および粘接着材層を含む多層フィルムであって、前記粘接着材層が、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(D)とを含有する少なくとも一種のブロック共重合体またはその水素添加物よりなる熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂(B)1~50質量部を含有する熱可塑性重合体組成物からなり、-50~-20℃の範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)が3×10-2以上である組成物からなることを特徴とする多層フィルムである。
また、前記重合体ブロック(D)を構成する共役ジエン化合物に由来する構造単位は、ブタジエンおよびイソプレンから選ばれる少なくとも一種を由来とする構造単位であるのが好ましい。
また、前記基材層は非晶性樹脂からなるのが好ましく、前記非晶性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびポリエステル系樹脂のいずれかであるのがより好ましい。
他の本発明は、上記の多層フィルムからなる加飾フィルムであり、さらに上記多層フィルムまたは加飾フィルムを具備する成形体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粘接着材層および基材層を含む多層フィルムは耐チッピング性に優れる。そのため、特に車輌外装に用いる多層フィルムとして好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[熱可塑性重合体組成物]
本発明の多層フィルムは、基材層および下記の熱可塑性重合体組成物からなる粘接着材層からなり、
前記熱可塑性重合体組成物は芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(D)とを含有する少なくとも一種のブロック共重合体またはその水素添加物よりなる熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、(少なくとも一種の)ポリプロピレン系樹脂(B)1~50質量部を含有する熱可塑性重合体組成物からなり、-50~-20℃の範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)が3×10-2以上である組成物からなることを特徴とする。以下、上記成分(A)、(B)について順に説明する。
【0013】
[熱可塑性エラストマー(A)]
熱可塑性重合体組成物が含有する熱可塑性エラストマー(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(D)とを含有するブロック共重合体またはその水素添加物である。前記熱可塑性エラストマー(A)は、熱可塑性重合体組成物に柔軟性や、良好な力学特性および成形加工性などを付与するものであり、該組成物中でマトリックスの役割を果たす。
【0014】
-芳香族ビニル化合物単位を含む重合体ブロック(S)-
前記重合体ブロック(S)を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレンなどに由来する構造単位を含むものが挙げられる。芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロックは、これらの芳香族ビニル化合物の1種のみに由来する構造単位からなっていてもよいし、2種以上に由来する構造単位からなっていてもよい。中でも、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレンに由来する構造単位よりなるものが好ましい。
【0015】
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(S)は、好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する構造単位80質量%以上、より好ましくは該構造単位90質量%以上、さらに好ましくは該構造単位95質量%以上を含有する重合体ブロックである。前記重合体ブロック(S)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位のみを有していてもよいが、本発明の効果を損なわない限り、該構造単位と共に、他の共重合性単量体に由来する構造単位を有していてもよい。他の共重合性単量体としては、例えば、1-ブテン、ペンテン、ヘキセン、ブタジエン、イソプレン、メチルビニルエーテルなどが挙げられる。他の共重合性単量体に由来する構造単位を有する場合、その割合は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位および他の共重合性単量体に由来する構造単位の合計量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0016】
-共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(D)-
前記重合体ブロック(D)を構成する共役ジエン化合物に由来する構造単位としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどに由来するものが挙げられる。中でも、ブタジエンまたはイソプレンに由来するものが好ましい。
共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(D)は、これらの共役ジエン化合物の1種のみに由来する構造単位からなっていてもよいし、2種以上に由来する構造単位からなっていてもよい。特に、ブタジエンまたはイソプレンに由来する構造単位、またはブタジエンおよびイソプレンに由来する構造単位からなっていることが好ましい。
【0017】
共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(D)は、好ましくは共役ジエン化合物に由来する構造単位80質量%以上、より好ましくは該構造単位90質量%以上、さらに好ましくは該構造単位95質量%以上を含有する重合体ブロックである。前記重合体ブロック(D)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位のみを有していてもよいが、本発明の妨げにならない限り、該構造単位と共に、他の共重合性単量体に由来する構造単位を有していてもよい。他の共重合性単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレンなどが挙げられる。他の共重合性単量体に由来する構造単位を有する場合、その割合は、共役ジエン化合物に由来する構造単位および他の共重合性単量体に由来する構造単位の合計量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0018】
共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(D)を構成する共役ジエンの結合形態は特に制限されない。例えば、ブタジエンの場合には、1,2-結合、1,4-結合を、イソプレンの場合には、1,2-結合、3,4-結合、1,4-結合をとることができる。そのうちでも、共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(D)がブタジエンに由来する構造単位からなる場合、イソプレンに由来する構造単位からなる場合、またはブタジエンとイソプレンの両方に由来する構造単位からなる場合は、前記重合体ブロック(D)における1,2-結合量および3,4-結合量の合計は、高い接着性能の発現という観点から、40モル%以上であることが好ましい。前記重合体ブロック(D)における全結合量に対する1,2-結合量および3,4-結合量の合計の割合は、40~90モル%であることが好ましく、50~80モル%であることがより好ましい。
なお、1,2-結合量および3,4-結合量の合計量は、1H-NMR測定によって算出できる。具体的には、1,2-結合および3,4-結合をした構造単位に由来する4.2~5.0ppmに存在するピークの積分値および1,4-結合した構造単位に由来する5.0~5.45ppmに存在するピークの積分値の比から算出できる。
【0019】
熱可塑性エラストマー(A)における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物を含有する重合体ブロック(D)との結合形態は特に制限されず、直鎖状、分岐状、放射状、またはこれらの2つ以上が組み合わさった結合形態のいずれであってもよいが、直鎖状の結合形態であることが好ましい。
直鎖状の結合形態の例としては、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(S)をaで、共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(D)をbで表したとき、a-bで表されるジブロック共重合体、a-b-aまたはb-а-bで表されるトリブロック共重合体、a-b-a-bで表されるテトラブロック共重合体、a-b-a-baまたはb-a-b-a-bで表されるペンタブロック共重合体、(а-b)nX型共重合体(Xはカップリング残基を表し、nは2以上の整数を表す)、およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、トリブロック共重合体が好ましく、a-b-aで表されるトリブロック共重合体であることがより好ましい。
【0020】
熱可塑性エラストマー(A)における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(S)の含有量は、その柔軟性、力学特性の観点から、熱可塑性エラストマー(A)全体に対して、好ましくは5~75質量%、より好ましくは5~60質量%、さらに好ましくは10~40質量%である。
また、熱可塑性エラストマー(A)の重量平均分子量は、その力学特性、成形加工性の観点から、好ましくは30,000~500,000、より好ましくは50,000~400,000、より好ましくは60,000~200,000、さらに好ましくは70,000~200,000、特に好ましくは70,000~190,000、最も好ましくは80,000~180,000である。である。ここで、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
熱可塑性エラストマー(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
熱可塑性エラストマー(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えばアニオン重合法により製造することができる。具体的には、(i)アルキルリチウム化合物を開始剤として用い、前記芳香族ビニル化合物、前記共役ジエン化合物、次いで前記芳香族ビニル化合物を逐次重合させる方法;(ii)アルキルリチウム化合物を開始剤として用い、前記芳香族ビニル化合物、前記共役ジエン化合物を逐次重合させ、次いでカップリング剤を加えてカップリングする方法;(iii)ジリチウム化合物を開始剤として用い、前記共役ジエン化合物、次いで前記芳香族ビニル化合物を逐次重合させる方法などが挙げられる。
【0022】
上記アニオン重合の際、有機ルイス塩基を添加することによって、熱可塑性エラストマー(A)における前記重合体ブロック(D)の1,2-結合量および3,4-結合量を増やすことができ、該有機ルイス塩基の添加量によって、1,2-結合量および3,4-結合量を容易に制御することができる。
該有機ルイス塩基としては、例えば、酢酸エチルなどのエステル;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N-メチルモルホリンなどのアミン;ピリジンなどの含窒素複素環式芳香族化合物;ジメチルアセトアミドなどのアミド;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトンなどが挙げられる。
【0023】
熱可塑性エラストマー(A)は、耐熱性および耐候性を向上させる観点から、共役ジエン化合物を含有する重合体ブロック(D)の一部または全部が水素添加(以下、「水添」と略称することがある)されていることが好ましい。その際の共役ジエン化合物を含有する重合体ブロックの水添率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。ここで、本明細書において、水添率は、水素添加反応前後のブロック共重合体のヨウ素価を測定して得られる値である。
【0024】
水添された熱可塑性エラストマー(A)は、未水添の熱可塑性エラストマー(A)を水素添加反応に付すことによって製造することができる。水素添加反応は、反応および水素添加触媒に対して不活性な溶媒に上記で得られた未水添の熱可塑性エラストマー(A)を溶解させるか、または、未水添の熱可塑性エラストマー(A)を前記の反応液から単離せずにそのまま用い、水素添加触媒の存在下、水素と反応させることにより行うことができる。
また、熱可塑性エラストマー(A)としては、市販品を使用することもできる。
【0025】
[ポリプロピレン系樹脂(B)]
ポリプロピレン系樹脂(B)は、熱可塑性重合体組成物に含有させることにより成形加工性が向上し、該熱可塑性重合体組成物からなるフィルムを作製しやすくなる。また、フィルムの力学特性が向上し、取扱いが容易となる。さらに、被着材への接着性を付与するものであり、加熱処理で被着材と良好に接着することができる。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂(B)としては、プロピレン単独重合体またはプロピレンと炭素数2~8のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。プロピレンと炭素数2~8のα-オレフィンとの共重合体の場合、共重合体中のα-オレフィンとしては、エチレン、ブテン-1、イソブテン、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1 等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂(B)としては、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-ペンテンランダム共重合体、プロピレン-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-オクテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ペンテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ヘキセンランダム共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂(B)が有する全構造単位においてプロピレン以外の前記α-オレフィンに由来する構造単位が占める割合は、熱可塑性エラストマー(A)との親和性の観点から、好ましくは0~45モル%であり、より好ましくは0~35モル%であり、さらに好ましくは0~25モル%の範囲である。換言すれば、ポリプロピレン系樹脂(B)におけるプロピレンに由来する構造単位の含有量は55モル%以上が好ましく、65モル%以上がより好ましく、75モル%以上がさらに好ましい。
ポリプロピレン系樹脂(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ポリプロピレン系樹脂(B)は、従来公知の方法で合成することができ、例えば、チーグラー・ナッタ型触媒やメタロセン型触媒を用いて、プロピレン単独重合体、ランダム、もしくはブロックのプロピレンとα-オレフィンとの共重合体を合成することができる。また、ポリプロピレン系樹脂(B)は市販品を用いてもよい。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂(B)の230℃、荷重2.16kgf(21.18N)の条件下におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1~300g/10分、より好ましくは0.1~100g/10分、より好ましくは0.1~70g/10分、より好ましくは0.1~50g/10分、より好ましくは1~30g/10分、さらに好ましくは1~20g/10分、特に好ましくは1~15g/10分である。ポリプロピレン系樹脂(B)の上記条件下におけるMFRが0.1g/10分以上であれば、良好な成形加工性が得られる。一方、該MFRが300g/10分以下であれば、力学特性が発現し易い。
ポリプロピレン系樹脂(B)の融点は、耐熱性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは100~170℃、さらに好ましくは110~145℃である。
【0033】
[極性オレフィン系樹脂(C)]
極性オレフィン系樹脂(C)は、熱可塑性重合体組成物に含有させることにより高極性の被着材への接着性を高めることができ、加熱処理で被着材と良好に接着することができる。
【0034】
極性オレフィン系樹脂(C)としては、エチレンまたはプロピレンと炭素数2~8のα-オレフィンとの共重合体であるオレフィン系樹脂に極性基を含有させたものが挙げられる。共重合体中のα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、イソブテン、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1 等が挙げられる。例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-ペンテンランダム共重合体、プロピレン-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-オクテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ペンテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ヘキセンランダム共重合体等が挙げられる。
【0035】
極性基としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基;水酸基;アミド基; 塩素原子などのハロゲン原子;カルボキシル基; 酸無水物基などが挙げられる。該極性基含有ポリプロピレン系樹脂の製造方法に特に制限はないが、プロピレンおよび極性基含有共重合性単量体を、公知の方法でランダム共重合、ブロック共重合またはグラフト共重合することによって得られる。これらの中でも、ランダム共重合、グラフト共重合が好ましく、グラフト共重合体がより好ましい。
このほかにも、オレフィン系樹脂を公知の方法で酸化または塩素化などの反応に付することによっても得られる。
【0036】
極性基含有共重合性単量体としては、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、酸化エチレン、酸化プロピレン、アクリルアミド、不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくは無水物が挙げられる。これらの中でも、不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくは無水物が好ましい。不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくは無水物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ハイミック酸、無水ハイミック酸などが挙げられる。これらの中でも、マレイン酸、無水マレイン酸がより好ましい。これらの極性基含有共重合性単量体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
極性オレフィン系樹脂(C)としては、接着性の観点から、極性基としてカルボキシル基を含有するオレフィン系樹脂、つまりカルボン酸変性オレフィン系樹脂が好ましく、マレイン酸変性オレフィン系樹脂、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂がより好ましい。
【0037】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂(B)を0~30質量部含有する。ポリプロピレン系樹脂(B)が30質量部より多くなると、熱可塑性重合体組成物が硬くなり、柔軟性および力学特性が発現しにくくなることがある。ポリプロピレン系樹脂(B)の含有量は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは25質量部以下である。
これらより、ポリプロピレン系樹脂(B)の含有量は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、好ましくは0~30質量部、より好ましくは5~25質量部である。
また、さらに極性オレフィン系樹脂(C)を含有させる場合は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、極性オレフィン系樹脂(C)を1~50質量部含有する。極性オレフィン系樹脂(C)が1質量部より少ないと基材への接着性が不足することがある。一方オレフィン系樹脂が50質量部より多くなると熱可塑性エラストマー(A)と相分離しやすくなり、熱安定性に課題があることがある。
【0038】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性重合体組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて粘着付与樹脂、軟化剤、酸化防止剤、滑剤、光安定剤、加工助剤、顔料や色素などの着色剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、防カビ剤、香料などを含有していてもよい。
【0039】
粘着付与樹脂としては、例えば脂肪族不飽和炭化水素樹脂、脂肪族飽和炭化水素樹脂、脂環式不飽和炭化水素樹脂、脂環式飽和炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、水添芳香族炭化水素樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。
【0040】
軟化剤としては、例えば、一般にゴム、プラスチックスに用いられる軟化剤が挙げられる。例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル;ジオクチルフタレート、ジブチルフタレートなどのフタル酸誘導体;ホワイトオイル、ミネラルオイル、エチレンとα-オレフィンのオリゴマー、パラフィンワックス、流動パラフィン、ポリブテン、低分子量ポリブタジエン、低分子量ポリイソプレンなどが挙げられる。
【0041】
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系、リン系、ラクトン系、ヒドロキシル系の酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0042】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、滑剤、光安定剤、加工助剤、顔料や色素などの着色剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、防カビ剤、香料などを含有していてもよい。
【0043】
[熱可塑性重合体組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性重合体組成物を調製する方法は特に制限されないが、該熱可塑性重合体組成物を構成する各成分の分散性を高めるため、例えば、溶融混練して混合する方法が推奨される。この場合に、熱可塑性エラストマー(A)およびポリプロピレン系樹脂(B)と、必要に応じて添加されるその他の成分とを同時に混合して溶融混練してもよい。混合操作は、例えばニ一ダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合または混練装置を使用して行なうことができる。特に、熱可塑性エラストマー(A)とポリプロピレン系樹脂(B)の混練性、相溶性を向上させる観点から、二軸押出機を使用することが好ましい。混合・混練時の温度は、使用する熱可塑性エラストマー(A)、ポリプロピレン系樹脂(B)等の溶融温度などに応じて適宜調節するのがよく、通常110℃~300℃の範囲内の温度で混合するとよい。
【0044】
このようにして、本発明の熱可塑性重合体組成物を、ペレット、粉末などの任意の形態で得ることができる。得られた熱可塑性重合体組成物は、フィルム、シート、プレート、パイプ、チューブ、棒状体、粒状体など種々の形状に成形することができる。これらの製造方法は特に制限はなく、従来からの各種成形法、例えば射出成形、ブロー成形、プレス成形、押出成形、カレンダー成形などにより成形することができる。
【0045】
[多層フィルム]
本発明の多層フィルムは、基材層と本発明の熱可塑性重合体組成物からなる粘接着材層とを少なくとも有する。以下、本発明の多層フィルムで用いられる基材層について説明する。
【0046】
[基材層]
基材層としては特に限定されるものではないが、非晶性樹脂からなるものが好ましい。本明細書において「非晶性樹脂」とは、示差走査熱量測定(DSC)曲線において明確な融点を持たない樹脂を意味する。
非晶性樹脂としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられる。中でも耐候性、表面光沢性、耐擦傷性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびポリエステル系樹脂が好ましく、透明性または表面光沢性の観点から(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0047】
上記基材層に用いられる(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル系重合体を用いることができる。また、上記基材層に用いられる(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル系重合体と弾性体(R)等を含む(メタ)アクリル系樹脂組成物であることがより好ましい。
【0048】
前記(メタ)アクリル系重合体は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を80質量%以上、好ましくは90質量%以上有する。換言すると、(メタ)アクリル系重合体のメタクリル酸メチル以外の単量体に由来する構造単位を20質量%以下、好ましくは10質量%以下とする。(メタ)アクリル系重合体は、メタクリル酸メチルのみを単量体とする重合体であってもよい。
【0049】
前記メタクリル酸メチル以外の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル;アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニル、アクリル酸イソボニルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-へキシル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル;メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-エトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニル、メタクリル酸イソボニルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0050】
(メタ)アクリル系重合体の立体規則性は、特に制限されず、例えば、イソタクチック、ヘテロタクチック、シンジオタクチックなどの立体規則性を有するものを用いてもよい。
【0051】
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は、好ましくは30,000以上180,000以下、より好ましくは40,000以上150,000以下、特に好ましくは50,000以上130,000以下である。重量平均分子量が小さいと、得られる機材層の力学強度低下する傾向がある。重量平均分子量が大きいと熱可塑性重合体組成物の流動性が低下し成形加工性が低下する傾向がある。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値である。
また、(メタ)アクリル系重合体の分子量や分子量分布は、重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することによって制御できる。
【0052】
(メタ)アクリル系重合体の製造方法は特に限定されず、メタクリル酸メチルを80質量%以上含む単量体(混合物)を重合するか、またはメタクリル酸メチル以外の単量体と共重合することによって得られる。
【0053】
また、(メタ)アクリル系樹脂として市販品のメタクリル樹脂を用いてもよい。かかる市販されているメタクリル樹脂としては、例えば「パラペットH1000B」(MFR:22g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットGF」(MFR:15g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットEH」(MFR:1.3g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットHRL」(MFR:2.0g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットHRS」(MFR:2.4g/10分(230℃、37.3N))および「パラペットG」(MFR:8.0g/10分(230℃、37.3N))[いずれも商品名、株式会社クラレ製]などが挙げられる。
【0054】
弾性体(R)としてはブタジエン系ゴム、クロロプレン系ゴム、ブロック共重合体、多層構造体などが挙げられ、これらを単独でまたは組み合わせて用いてもよい。これらの中でも透明性、耐衝撃性、分散性の観点からブロック共重合体または多層構造体が好ましく、アクリル系ブロック共重合体(G)または多層構造体(E)がより好ましい。
【0055】
アクリル系ブロック共重合体(G)はメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を有する。アクリル系ブロック共重合体(G)はメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)をそれぞれ1つのみ有していてもよいし、複数有していてもよい。
【0056】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)はメタクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)におけるメタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、延伸性、表面硬度の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0057】
アクリル系ブロック共重合体(G)の製造方法は特に限定されず、公知の手法に準じた方法を採用でき、例えば各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法が一般に使用される。このようなリビング重合の手法としては、例えば有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法;有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法;有機希土類金属錯体を重合開始剤として用い重合する方法;α-ハロゲン化エステル化合物を開始剤として用い銅化合物の存在下でラジカル重合する方法などが挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて各ブロックを構成するモノマーを重合させ、アクリル系ブロック共重合体(G)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。これらの方法のうち、アクリル系ブロック共重合体(G)を高純度で得られ、また分子量や組成比の制御が容易であり、かつ経済的であることから、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法が好ましい。
【0058】
多層構造体(E)は内層および外層の少なくとも2層を含有し、内層および外層が中心層から最外層方向へこの順に配されている層構造を少なくとも一つ有している。多層構造体(E)は内層の内側または外層の外側にさらに架橋性樹脂層を有してもよい。
【0059】
上記内層は、アクリル酸アルキルエステルおよび架橋性単量体を有する単量体混合物を共重合してなる架橋弾性体から構成される層である。係るアクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が2~8の範囲であるアクリル酸アルキルエステルが好ましく用いられ、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられる。内層の共重合体を形成させるために使用される全単量体混合物におけるアクリル酸アルキルエステルの割合は、耐衝撃性の点から、好ましくは70~99.8質量%の範囲であり、より好ましくは80~90質量%である。
【0060】
上記外層は基材層の耐熱性の点からメタクリル酸メチルを80質量%以上、好ましくは90質量%以上含有する単量体混合物を重合してなる硬質熱可塑性樹脂から構成される。また、硬質熱可塑性樹脂は他の単官能性単量体を20質量%以下、好ましくは10質量%以下含む。他の単官能性単量体としては、例えばメチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸;メタクリル酸などが挙げられる。
【0061】
多層構造体(E)における内層および外層の含有率は、得られる基材層の耐衝撃性、耐熱性、表面硬度、取扱性および溶融混練の容易さなどの観点から、多層構造体(E)の質量(例えば2層からなる場合は内層および外層の総量)を基準として、内層の含有率が40~80質量%の範囲から選ばれ、外層の含有率が20~60質量%の範囲から選ばれることが好ましい。
【0062】
多層構造体(E)を製造するための方法は特に限定されないが、多層構造体(E)の層
構造の制御の観点から乳化重合により製造されることが好ましい。
【0063】
基材層を構成する非晶性樹脂は、110~160℃の範囲における任意の温度で弾性率が2~600MPaであることが好ましい。弾性率が2MPa未満だと真空成形時の伸びが不均一になる傾向となり、弾性率が600MPaより大きいと真空成形時に割れや破断が発生する傾向となる。なお、弾性率は[MPa]単位で表したときの少数点第一位を四捨五入した値である。
【0064】
基材層を構成する非晶性樹脂は各種の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、高分子加工助剤着色剤、耐衝撃助剤などを含有してもよい。
【0065】
また、上記非晶性樹脂は他の重合体と混合して使用できる。係る他の重合体としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;メチルメタクリレート-スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン/ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体などのスチレン系熱可塑性エラストマー;イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどのオレフィン系ゴムなどが挙げられる。
【0066】
基材層を構成する非晶性樹脂を調製する方法は特に制限されないが、該非晶性樹脂を構成する各成分の分散性を高めるため、溶融混練して混合する方法が好ましい。混合操作は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合または混練装置を使用でき、混練性、相溶性を向上させる観点から、二軸押出機を使用することが好ましい。混合・混練時の温度は使用する非晶性樹脂の溶融温度などに応じて適宜調節すればよく、通常110~300℃の範囲である。二軸押出機を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し、減圧下でおよび/または窒素雰囲気下で溶融混練することが好ましい。
【0067】
[その他の層]
本発明の多層フィルムは、基材層および/または粘接着材層に絵柄、文字、図形などの模様または色彩が印刷されて加飾フィルムとされていてもよい。模様は有彩色のものであっても無彩色のものであってもよい。印刷の方法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、インキジェット印刷など公知の印刷法が挙げられる。印刷においては、係る印刷方法で一般的に使用される、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂などの樹脂をバインダーとして、顔料または染料を着色剤として含有する樹脂組成物を使用することが好ましい。
【0068】
本発明の多層フィルムは、基材層が着色された加飾フィルムとしてもよい。着色法としては、前記非晶性樹脂自体に、顔料または染料を含有させ、フィルム化前の樹脂自体を着色する方法;非晶性樹脂フィルムを、染料が分散した液中に浸漬して着色させる染色法などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0069】
本発明の多層フィルムは、基材層に金属または金属酸化物が蒸着された加飾フィルムとされてもよい。係る金属または金属酸化物としてはスパッタや真空蒸着などに使用される金属または金属酸化物を特に制限なく使用でき、例えば金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、インジウムやこれらの酸化物などが挙げられる。また、これらの金属または金属酸化物は単独で使用してもよく、2以上の混合物として使用してもよい。基材層に金属または金属酸化物を蒸着する方法としては、蒸着やスパッタなどの真空成膜法や、電解メッキ、無電解メッキなどが挙げられる。
【0070】
本発明の多層フィルムの基材層側の表面は、鉛筆硬度でHBまたはそれよりも硬いことが好ましく、Hまたはそれよりも硬いことがより好ましい。鉛筆硬度がHBよりも硬いと多層フィルムが傷つき難く、意匠性の要求される成形品の表面の加飾兼保護フィルムとして好適に用いられる。
【0071】
本発明の多層フィルムの全厚さは好ましくは20~1,000μmの範囲であり、より好ましくは50~500μmの範囲であり、さらに好ましくは100~250μmの範囲である。多層フィルムの厚さが20μm以上であれば製造が容易となり、耐衝撃性および加熱時の反り低減に優れ、着色時に隠蔽性を有する。多層フィルムの厚さが1,000μm以下であれば、三次元被覆成形性がよくなる傾向となる。
【0072】
本発明の多層フィルムにおいて、基材層の厚さは、500μm以下であることが好ましい。500μmより厚くなると、ラミネート性、ハンドリング性、切断性・打抜き性などの二次加工性が低下し、フィルムとしての使用が困難になるとともに、単位面積あたりの単価も増大し、経済的に不利であるため好ましくない。基材層の厚さとしては40~300μmがより好ましく、50~250μmが特に好ましい。
【0073】
粘接着材層の厚さ(x)に対する基材層の厚さ(y)の比(y/x)は、好ましくは0.2~5の範囲であり、より好ましくは0.5~4の範囲であり、さらに好ましくは0.8~3の範囲である。上記比(y/x)の値が0.2未満だと表面硬度が低くなる傾向となり、5よりも大きいと多層フィルムが破断しやすくなる傾向となり、4よりも大きいとより延伸性が低くなる傾向となる。
【0074】
[多層フィルムの製造方法]
本発明の多層フィルムは、基材層と粘接着材層とを有するものであり、基材層の一方の面に前記粘接着材層を積層して得ることができる。
【0075】
前記基材層の製造方法は特に制限はなく、例えば非晶性樹脂を用いる場合は、Tダイ法、インフレーション法、溶融流延法、カレンダー法等の公知の方法を用いて行うことができる。良好な表面平滑性、低ヘイズのフィルムが得られるという観点から、基材層を構成する非晶性樹脂の溶融混練物をTダイから溶融状態で押し出し、その両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面に接触させて成形する工程を含む方法が好ましい。この際に用いるロールまたはベルトは、いずれも金属製であることが好ましい。このように押し出された溶融混練物の両面を鏡面に接触させて製膜する場合には、フィルム両面を鏡面ロール若しくは鏡面ベルトで加圧し挟むことが好ましい。鏡面ロール若しくは鏡面ベルトによる挟み込み圧力は、高いほうが好ましく、線圧として10N/mm以上であることが好ましく、30N/mm以上であることがさらに好ましい。
【0076】
なお、基材層は、延伸処理が施されたフィルムであってもよい。延伸処理によって、機械的強度が高まり、ひび割れし難くなる。延伸方法は特に限定されず、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法、圧延法などが挙げられる。
【0077】
上記のようにして得られた基材層に対する粘接着材層の積層は、基材層に前記粘接着材層を構成する熱可塑性重合体組成物の溶液を塗布する方法、基材層に前記熱可塑性重合体組成物からなるフィルムをラミネートする方法等を挙げることができる。前記熱可塑性重合体組成物からなるフィルムは、上記で例示した基材層の製造方法と同様にして得ることができる。
また、基材層を構成する非晶性樹脂と粘接着材層を構成する熱可塑性重合体組成物とをTダイ法を用いた共押出しにより製造することもできる。特に、マルチマニホールドダイを用いた共押出し成形法が好ましい。このとき、前記基材層と接する側を金属ロールとし、前記粘接着材層と接する側をロール表面がシリコーン樹脂よりなるかまたはシリコーンコーティングされてなるシリコーンロールとするのが、多層フィルムがロールに巻きつくトラブルを防止しやすく好適である。
【0078】
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の多層フィルムまたは該多層フィルムからなる加飾フィルムを被着体の表面に具備するものである。より好ましくは、本発明の多層フィルムが、他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、木質基材または非木質繊維基材等よりなる被着体の表面に設けられてなるものである。
【0079】
該被着体に用いられる他の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、他の(メタ)アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂などが挙げられる。他の熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。また、成形体は、本発明の多層フィルムが、木製基材やケナフなどの非木質繊維よりなる被着体表面に設けられてなるものであってもよい。本発明の粘接着材層は特にオレフィン系樹脂との接着に優れるため、被着体がポリプロピレン系樹脂からなるときに効果が大きい。
【0080】
成形体の製法は、特に制限されない。例えば、本発明の多層フィルムを、他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、木製基材および非木質繊維基材等の被着体の表面に、加熱下で真空成形・圧空成形・圧縮成形することにより、本発明の成形体を得ることができる。成形体は、本発明の多層フィルムにおける基材層が、成形体の最表層に設けられており、それによって、表面硬度、表面光沢などに優れる。
【0081】
成形体の製法のうち、別の好ましい方法は、射出成形同時貼合法と一般に呼ばれている方法である。
この射出成形同時貼合法は、本発明の多層フィルムを射出成形用雌雄金型間に挿入し、その金型に該フィルムの接着層側の面から溶融した熱可塑性樹脂を射出して、射出成形体を被着体として形成すると同時に、その射出成形体の表面に前記多層フィルムを貼合する方法である。
【0082】
金型に挿入される多層フィルムは、平らなものそのままであってもよいし、真空成形、圧空成形等で予備成形して凹凸形状に賦形されたものであってもよい。
多層フィルムの予備成形は、別個の成形機で行ってもよいし、射出成形同時貼合法に用いる射出成形機の金型内で予備成形を行ってもよい。
【0083】
本発明の多層フィルムまたは該多層フィルムを被着体表面に具備する成形体は、多層フィルムの良好な延伸性および成形加工性、優れた両極性接着性および表面平滑性を活かして、意匠性の要求される物品に適用することができる。例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板等の看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、ミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根等の建築用部品、自動車内外装部材、バンパーなどの自動車外装部材等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、自動販売機、携帯電話、パソコン等の電子機器部品;保育器、定規、文字盤、温室、大型水槽、箱水槽、浴室部材、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、壁紙;マーキングフィルム、各種家電製品の加飾用途に好適に用いられる。本発明の多層フィルムは上記特性を備えるため、特に加飾フィルムとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例などにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。実施例および比較例中の試験サンプルの作製および各物性の測定または評価は、以下のようにして行った。
【0085】
[熱可塑性重合体組成物の粘弾性評価]
後述する各実施例および比較例に示す熱可塑性重合体組成物のペレットを、それぞれ圧縮成形機を用いて200℃ 、荷重50kgf/cm2の条件下で2分間圧縮成形することで、熱可塑性重合体組成物からなる150×150mmのシートを得た。得られたシートから10×20mmの試験片を切り出し、動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエムのRheogel-4000)で温度分散測定を行うことで、熱可塑性重合体組成物の-50~-20℃のtanδを測定した。
【0086】
[熱可塑性重合体組成物の接着強度(PP)]
実施例および比較例で得られた熱可塑性重合体組成物および製造例5で得られたメタクリル樹脂組成物のペレットを、圧縮成形機を用いて200℃ 、荷重50kgf/cm2の条件下で2分間圧縮成形することで、熱可塑性重合体組成物からなるシートおよびメタクリル樹脂組成物からなるシートを得た。150×150mmの熱可塑性重合体組成物からなるシート(縦150mm×横150mm×厚さ0.5mm)、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製カプトンフィルム、縦75mm×横150mm×厚さ0.05mm)、ポリプロピレンシート(日本ポリプロ株式会社製のMA3、縦150mm×横150mm×厚さ0.4mm)をこの順で重ね、内寸150mm×150mm、厚さ0.8mmの金属製スペーサーの中央部に配置した。この重ねたシートと金属製スペーサーをポリテトラフルオロエチレン製シートで挟み、さらに外側から金属板で挟み、圧縮成形機を用いて、130℃、荷重50kgf/cm2で2分間圧縮成形することで、熱可塑性重合体組成物とメタクリル樹脂組成物の多層フィルムを得た。
該多層フィルムを25mm幅に切断し、接着強度測定用試験片とし、熱可塑性重合体組成物とメタクリル樹脂組成物間の剥離強度をJIS K 6854-2に準じて、ピール試験機(島津製作所社製AGS-X)を使用して、剥離角度90°、引張速度300mm/分、環境温度23℃の条件で測定し、熱可塑性重合体組成物の接着強度(PP)とした。
【0087】
[成形体の耐チッピング性評価]
実施例1で得られた熱可塑性重合体組成物のペレットおよび製造例5で得られたメタクリル樹脂組成物のペレットをそれぞれ単軸押出機(G.M.ENGINEERING社製VGM25-28EX)のホッパーに投入し、マルチマニホールドダイを用いて240℃、流量5kg/hで共押出し、幅30cmの多層フィルムを得た。また、ポリプロピレン(プライムポリマー社製のJ708UG)を射出成型機(住友重機械工業社製のSG-100)に投入し、230℃で射出することで、縦100mm×横40mm×厚さ3mmのポリプロピレン成形体を得た。
100×40mmの熱可塑性重合体組成物および基材からなる多層フィルム、ポリプロピレン成形体(縦100mm×横40mm×厚さ3mm)をこの順で重ねた。この重ねたシートをポリテトラフルオロエチレン製シートで挟み、さらに外側から金属板で挟み、各実施例、比較例に示す温度に加熱した圧縮成形機を用いて、荷重50kgf/cm2で2分間圧縮成形することで、多層フィルムとポリプロピレン成形体からなる成形体を得た。
【0088】
前記成形体のメタクリル樹脂組成物側に、スガ試験機製のグラベロ試験機を用いて、試験片温度-20℃、ショット材吹き付け軸に対して90度、エア圧力0.4MPaの条件で、試験片から350mm離れた距離から7号砕石を50g衝突させた。衝突後の成形体表面を目視観察した。
×:剥離箇所が10箇所以上観察された
△:剥離箇所が1~9箇所観察された
○:剥離が観察されなかった
【0089】
なお、以下の実施例および比較例で用いた各成分は以下の通りである。
【0090】
<製造例1>〔熱可塑性エラストマー(A-1)の合成〕
予め耐圧容器を窒素置換することで、耐圧容器を乾燥させた。係る耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウムの10.5質量%シクロヘキサン溶液94.1g(sec-ブチルリチウム9.9g当量)、およびルイス塩基としてテトラヒドロフラン300gを仕込んだ。係る溶液を50℃に昇温した。係る溶液に、スチレン(1)1.25kgを加えた後に、1時間の重合反応を行った。引き続いて係る溶液に、イソプレン10.00kgを加えた後に、2時間の重合反応を行った。更に係る溶液に、スチレン(2)1.25kgを加えた後に、1時間の重合反応を行った。以上により、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
【0091】
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボンを、ブロック共重合体100質量%あたり5質量%添加した。なおパラジウムカーボン100質量%あたりのパラジウムの担持量は5質量%である。水素圧力2MPa、150℃の環境下で10時間の反応を行った。反応液を放冷し、かつ放圧した。その後、濾過により反応液からパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、該濃縮液を真空乾燥してスチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水素添加物であるブロック共重合体(a-1)を得た。
【0092】
<製造例2> 〔スチレン系熱可塑性エラストマー(A-2)の合成〕
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)61.1g(sec-ブチルリチウム6.42g)を仕込み、50℃に昇温した後、スチレン(1)0.81kgを加えて1時間重合させ、引き続いてイソプレン10.87kgを加えて2時間重合を行い、更にスチレン(2)0.81kgを加えて1時間重合することにより、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。
放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、更に真空乾燥することにより、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水素添加物(A-2-1)を得た。
【0093】
また上記水素添加物(A-2-1)を得た手順と同様に、窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)420.0g(sec-ブチルリチウム44.1g)を仕込み、50℃に昇温した後、スチレン(1)2.83kgを加えて1時間重合させ、引き続いてイソプレン19.81kgを加えて2時間重合を行い、スチレン-イソプレンジブロック共重合体を含む反応液を得た。
この反応液に、上記と同様に水素添加を行い、スチレン-イソプレンジブロック共重合体の水素添加物(A-2-2)を得た。
上記で得られた(A-2-1)および(A-2-2)をコぺリオン社製二軸押出機ZSK26MegaCompounder(L/D=54)を用いてスクリュー300rpm、混練温度200℃にて溶融混練してスチレン系熱可塑性エラストマー組成物(A-2)を得た。
【0094】
<製造例3>〔スチレン系熱可塑性エラストマー(A-3)の合成〕
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)170.6g(sec-ブチルリチウム17.91g)を仕込み、50℃に昇温した後、スチレン(1)1.87kgを加えて1時間重合させ、引き続いてブタジエン8.75kgを加えて2時間重合を行い、更にスチレン(2)1.87kgを加えて1時間重合することにより、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。
【0095】
放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、更に真空乾燥することにより、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水素添加物(A-3-1)を得た。
また(A-3-1)と同様に、窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)313.1g(sec-ブチルリチウム32.9g)を仕込み、50℃に昇温した後、スチレン(1)3.75kgを加えて1時間重合させ、引き続いてブタジエン8.75kgを加えて2時間重合を行い、スチレン-ブタジエン ジブロック共重合体を含む反応液を得た。
【0096】
この反応液に、(A-3-1)と同様に水素添加を行い、スチレン-ブダジエン ジブロック共重合体の水素添加物(A-3-2)を得た。
上記で得られた(A-3-1)および(A-3-2)をコぺリオン社製二軸押出機ZSK26MagaCompounder(L/D=54)を用いてスクリュー300rpm、混練温度200℃にて溶融混練して熱可塑性エラストマー組成物(A-3)を得た。
【0097】
[ポリプロピレン系樹脂(B-1)]
ポリプロピレン系樹脂(B-1)として、日本ポリプロ社製のWFX4TA(230℃におけるMFRが7g/10min)を使用した。
【0098】
<製造例4>〔極性基含有ポリプロピレン系樹脂(C-2)の合成〕
ポリプロピレン「プライムポリプロF327」(プライムポリマー社製)42g、無水マレイン酸160mgおよび2,5-ジメチル-2,5-ジ(ターシャルブチルパーオキシ)ヘキサン42mgを、バッチミキサーを用いて180℃およびスクリュー回転数40rpmの条件下で溶融混練し、極性基含有ポリプロピレン系樹脂(C-2)を得た。得られた極性基含有ポリプロピレン系樹脂(C-2)のMFR[230℃、荷重2.16kgf(21.18N)]は6g/10分、無水マレイン酸濃度は0.3%であり、融点は138℃であった。なお、該無水マレイン酸濃度は、得られた混練物を水酸化カリウムのメタノール溶液を用いて滴定して得られた値である。また、融点は10℃/minで昇温した際の示差走査熱量測定曲線の吸熱ピークから読み取った値である。
【0099】
[ポリプロピレン系樹脂(B-3)]
ポリプロピレン系樹脂(B-3)として、三井化学株式会社製のタフマーTMXM7090(230℃におけるMFRが7g/10min)を使用した。
【0100】
[極性オレフィン系樹脂(C-1)]
ポリプロピレン系樹脂(C-1)として、三井化学株式会社製のタフマーTMMA8510(230℃におけるMFRが5.0g/10min)を使用した。
【0101】
<製造例5> [(メタ)アクリル系樹脂の合成]
メタクリル酸メチル95質量部、アクリル酸メチル5質量部からなる単量体混合物に重合開始剤(2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)0.1質量部および連鎖移動剤(n-オクチルメルカプタン)0.28質量部を加え溶解させて原料液を得た。
イオン交換水100質量部、硫酸ナトリウム0.03質量部および懸濁分散剤0.45質量部を混ぜ合わせて混合液を得た。耐圧重合槽に、前記混合液420質量部と前記原料液210質量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始後、3時間経過時に、温度を90℃に上げ、撹拌を引き続き1時間行って、ビーズ状共重合体が分散した液を得た。得られた共重合体分散液を適量のイオン交換水で洗浄し、バケット式遠心分離機により、ビーズ状共重合体を取り出し、80℃の熱風乾燥機で12時間乾燥し、ビーズ状の(メタ)アクリル系樹脂を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は30,000、Tgは128℃であった。
【0102】
<製造例6> [多層構造体]
攪拌機、温度計、窒素ガス同入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器に、イオン交換水1050質量部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.5質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換した後、内温を80℃に設定した。そこに過硫酸カリウム0.25質量部を投入して5分間撹拌した後、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル:メタクリル酸アリル=94:5.8:0.2(質量比)からなる単量体混合物245質量部を50分連続的に滴下し、滴下終了後、さらに30分間重合反応を行った。
次いで同反応器にペルオキソ2硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間撹拌した後、アクリル酸ブチル80.6質量%、スチレン17.4質量%およびメタクリル酸アリル2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下し、滴下終了後、さらに30分間重合反応を行った。
続いて同反応器にペルオキソ2硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間撹拌した後、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル=94:6(質量比)からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下供給し、滴下終了後、さらに60分間重合反応を行って、多層構造体を得た。
【0103】
<製造例7> [基材層]
製造例6で得られた多層構造体20質量部と、製造例5で得られた(メタ)アクリル系樹脂80質量部とを、二軸押出機(東芝機械社製TEM-28)を用いて230℃で溶融混練した後、ストランド状に押出し、切断することによって、メタクリル樹脂組成物のペレット(P)を製造した。
【0104】
<実施例1>
熱可塑性エラストマー(A-1)~(A-3)、およびポリプロピレン系樹脂(B-1)を、表1に示す割合で二軸押出機(テクノベル社製KZW15-30MG)に投入し、225℃、250rpmで溶融混練した後、ストランド状に押出し、切断することによって、熱可塑性重合体組成物のペレットを得た。
得られた熱可塑性重合体組成物の粘弾性、接着強度(PP)、成形体の耐チッピング性を、上述の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0105】
<実施例2~9、比較例1~5、参考例1>
熱可塑性エラストマー(A-1)~(A-3)、およびポリプロピレン系樹脂(B-1)~(B-3)、(C-1)を、表1に示す割合で混合したこと以外は実施例1と同様の方法で、熱可塑性重合体組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性重合体組成物について上述の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
実施例1では、熱可塑性重合体組成物の-50~-20℃範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)は3×10-2以上であり、該組成物はポリプロピレンに対する高い接着強度を示した。そして、実施例1の熱可塑性重合体組成物を粘接着材層に用いた成形体は、高い耐チッピング性を示した。これは、該熱可塑性重合体組成物が低温耐衝撃性に優れることによると考えられる。これにより、本発明の多層フィルムは、耐チッピング性に優れる加飾フィルムとして好適であることが明らかとなった。
一方、-50~-20℃範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)は3×10-2以下である比較例1の熱可塑性重合体組成物は、実施例1と同様に、ポリプロピレンに対して優れた接着強度を示したが、この熱可塑性重合体組成物を粘接着材層に用いた成形体は、耐チッピング性が悪かった。
なお、比較例1の熱可塑性重合体組成物を粘接着材層に用いたときでも、参考例1のように粘接着材層が厚く、プレス接着時の温度が高い場合には、ポリプロピレンに対する接着強度が非常に優れており、耐チッピング性も良好であった。以上から、本発明の多層フィルムは、粘接着材層の厚さが薄く、貼合温度が低くても高い耐チッピング性を発現できることがわかる。
【0108】
実施例1と比べてポリプロピレン系樹脂(B)の含有量を変更した実施例2の熱可塑性重合体組成物は、-50~-20℃範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)が3×10-2以上であり、ポリプロピレンに対する高い接着強度を示し、該熱可塑性重合体組成物を粘接着材層に用いた成形体は高い耐チッピング性を示した。また、実施例3~6では実施例1と同様の熱可塑性重合体組成物を用いてポリプロピレンとの接着強度を変化させているが、ポリプロピレンとの接着強度が比較的低い場合でも、良好な耐チッピング性を示した。
また、ポリプロピレン系樹脂(B)の種類を変更し、極性オレフィン系樹脂(C)を加えた実施例7~9の熱可塑性重合体組成物は、-50~-20℃範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)が3×10-2以上であり、ポリプロピレンに対する高い接着強度を示し、該熱可塑性重合体組成物を粘接着材層に用いた成形体は高い耐チッピング性を示した。
【0109】
一方、比較例2~4の熱可塑性重合体組成物は、-50~-20℃範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)が3×10-2以下であり、比較例1と同様に耐チッピング性が悪かった。比較例5の熱可塑性重合体組成物は、-50~-20℃範囲における11Hzでの損失正接(tanδ)は3×10-2以上であるが、ポリプロピレン系樹脂が過剰に含まれているため、貼合温度が低いときにポリプロピレンに対する接着強度が低く、耐チッピング性も劣っていた。
【0110】
以上のように、本発明の熱可塑性重合体組成物からなる粘接着材層を備える多層フィルムでは、粘接着材層の厚さが薄く、貼合温度が低くても高い耐チッピング性を発現できるため、特に車輌外装に用いる多層フィルムとして好適に使用できる。
【0111】
この出願は、2018年4月13日に出願された日本出願特願2018-077682を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。