IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

特許7293683ブロック共重合体及び培養基材、幹細胞の製造方法
<>
  • 特許-ブロック共重合体及び培養基材、幹細胞の製造方法 図1
  • 特許-ブロック共重合体及び培養基材、幹細胞の製造方法 図2
  • 特許-ブロック共重合体及び培養基材、幹細胞の製造方法 図3
  • 特許-ブロック共重合体及び培養基材、幹細胞の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ブロック共重合体及び培養基材、幹細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230613BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230613BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 A
C08F293/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019016900
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020015892
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2018133327
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久野 豪士
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】今泉 裕
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116902(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/116904(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133168(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/101196(WO,A1)
【文献】特開平09-169850(JP,A)
【文献】国際公開第2012/029882(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00-297/08
C12N 5/071
C12M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)のブロックセグメントを含有し、(A)の含有量は90wt%を超えることを特徴とするブロック共重合体による層を有し、前記層が層厚5~40nmを有することを特徴とする、培養基材
(A)水に対する下限臨界溶解温度(LCST)が0℃~50℃の範囲にあり、N-イソプロピルアクリルアミド重合体を含む温度応答性ブロックセグメント。
(B)ブチルメタクリレート重合体を含む水不溶性ブロックセグメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の効率的な細胞培養を可能とすると共に、短時間又は弱い外部刺激での細胞剥離を可能にする培養基材の表面処理剤として有用なブロック共重合体、及びそれを基材表面に有する培養基材、該培養基材を用いた幹細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は生化学的な現象の理解や有用物質の産生などに用いられ、また近年、幹細胞の発見や培養技術の進歩により、再生医療を始めとする細胞を用いた治療に大きな注目が寄せられている。
【0003】
細胞の多くは接着性を有しており、体内においてはコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなどの生体高分子に接着し、増殖・分化することが知られている。同様に、細胞培養においても接着性を有する細胞の多くは、培養する際に何らかの基材に接着する必要がある。従来、基材としては表面処理したガラスあるいは高分子が用いられていた。例えば、ポリスチレンにγ線照射あるいはシリコーンコーティングを行なった基材がある。また、コラーゲンやフィブロネクチンのような生体高分子を表面に塗布した支持体も用いられる。
【0004】
増殖する細胞は基材上で培養後、一般的に別の基材に植え継ぐ必要が有り、多くの場合にはタンパク質分解酵素が用いられている。タンパク質分解酵素は細胞表面にあるタンパク質を分解し、細胞と基材の間の結合および細胞間の結合を切る役目を担っている。一方、タンパク質分解酵素は細胞の生存率に大きな影響を与えることが知られており、タンパク質分解酵素を用いずに細胞を基材から分離する手法は細胞にダメージを与えない方法として重要である。再生医療においても同様に、体外で培養した細胞にダメージを与えずに、さらに細胞間の結合を切断しない方法で細胞又は組織化した細胞を基材から分離し、体内に戻すことが求められており、タンパク質分解酵素を用いることなく基材から分離する方法が求められている。
【0005】
上記問題を解決するために、温度応答性ポリマーを基材表面に被覆した培養基材が特許文献1に開示されている。このような基材によれば、周囲環境の温度降下による温度応答性ポリマーのゾル転移で基材表面の接着力を弱めて、細胞を剥離させ、ダメージを与えることなく細胞を分別回収することができる。しかしながら、特許文献1では高コストの電子線照射を行う必要があり、大量の細胞の培養に用いる基材には適さないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-211865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、細胞の効率的な細胞培養を可能とすると共に、短時間又は弱い外部刺激での細胞剥離を可能にする培養基材の表面処理剤として有用なブロック共重合体、及びそれを基材表面に有する培養基材、該培養基材を用いた幹細胞の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上の点を鑑み鋭意研究を重ねた結果、温度応答性ブロックを有するブロック共重合体、及び該ブロック共重合体を被覆した培養基材、幹細胞の製造方法によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明によれば、下記(A)及び(B)のブロックセグメントを含有し、(A)の含有量は90wt%を超えることを特徴とするブロック共重合体、ブロック共重合体による層を有する培養基材、幹細胞の製造方法が提供される。
(A)水に対する下限臨界溶解温度(LCST)が0℃~50℃の範囲にある温度応答性ブロックセグメント。
(B)水不溶性ブロックセグメント。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、細胞の効率的な細胞培養を可能とすると共に、短時間又は弱い外部刺激での細胞剥離を可能にする培養基材の表面処理剤として有用なブロック共重合体、及びそれを基材表面に有する培養基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ブロックセグメント(A)のLCSTの測定結果の一例
図2】ブロック共重合体の応答温度の測定結果の一例
図3】本発明の培養基材を示す模式図
図4】実施例1の培養細胞の剥離前後の位相差顕微鏡像
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0013】
本明細書において、「温度応答性高分子」とは、温度変化によって親水性/疎水性の程度が変化する高分子を示す。また、水分子の存在下で高分子の温度を低温から高温へ昇温していく場合に、ある温度を境に高分子の親水性/疎水性の程度がより疎水性に変化し、水溶性から水不溶性に変化する温度応答性高分子が存在し、この境界温度を「下限臨界溶解温度(LCST;Lower Critical Solution Temperature)」という。一般に、温度応答性高分子がLCST未満の温度において水に溶解する場合、LCST以上の温度では水に不溶となる。
【0014】
また、本明細書において、「生体由来物質」とは、生物の体内に存在する物質であるが、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、前記生体由来物質をベースとして化学的に合成した物質であっても良い。生体由来物質に特に限定はないが、例えば、生体を構成する基本材料である核酸、タンパク質、多糖や、これらの構成要素であるヌクレオチドやヌクレオシド、アミノ酸、各種の糖、あるいは脂質やビタミン、ホルモンである。
【0015】
また、本明細書において、ブロックセグメントが「水不溶性を有する」とは、該ブロックセグメントを構成する単量体単位のみからなるホモポリマーの少なくとも一部が水に不溶であることを示す。
【0016】
また、本明細書において、「細胞の増殖性」とは、培養温度における細胞の増殖しやすさを示し、増殖性を有するとは、細胞が培養温度において培養基材に接着し、増殖可能であることを示す。さらに、増殖性が高いとは、同一の培養期間で比較した際に、より多くの細胞へと増殖することを示す。
【0017】
また、本明細書において、「細胞の剥離性」とは、培養基材上で増殖した細胞の培養基材からの剥離しやすさを示し、「剥離性を有する」とは、培養基材上で増殖した細胞が外部刺激によって培養基材から剥離可能であることを示す。さらに、「剥離性が高い」とは、短時間の冷却や弱い応力等の、より弱い外部刺激によって細胞が培養基材から剥離することを示す。また、「冷却剥離性を有する」とは、剥離性を有し、さらに培養基材を冷却することによって、冷却しない場合と比較して剥離性が高まることを示す。ここで、本明細書において「外部刺激」とは、超音波や振動、対流等の力学的刺激、光や電気、磁気等の電磁気学的刺激、加温や冷却等の熱力学的刺激を示し、酵素反応等の生物反応によるものを除く。
【0018】
また、本明細書において、「幹細胞の未分化維持率」とは、培養した細胞に含まれる未分化の幹細胞の割合を示し、幹細胞の未分化マーカーを染色し、フローサイトメーターにより測定することができる。未分化維持率が高い場合、幹細胞の純度が高いことを意味し、好ましいものである。
【0019】
本発明のブロック共重合体は、少なくとも下記(A)及び(B)のブロックセグメントを含有するブロック共重合体である。
(A)LCSTが0℃~50℃の範囲にある温度応答性ブロックセグメント。
(B)水不溶性ブロックセグメント。
【0020】
ブロック共重合体がブロックセグメント(A)を含有することにより、本発明のブロック共重合体で被覆された基材は細胞にダメージを与えない温度域で冷却剥離性を有する。ブロック共重合体がブロックセグメント(A)を含有しない場合、冷却剥離性を有しない。
【0021】
ここで、本発明において「ブロックセグメント(A)のLCST」と表記した場合は、ブロックセグメント(A)を構成する繰り返し単位のみからなるホモポリマーのLCSTを示す。ブロックセグメント(A)のLCSTは前記ホモポリマーが水に不溶化する温度であり、例えば、前記ホモポリマーを0.6wt%溶解させた水溶液において、1℃/分の速度で水溶液を昇温しながら、波長500nmの光の透過率を測定することで求めることができる。低温からLCSTに到達するまでは概ね一定の透過率を示すが、LCST付近で白濁するため透過率が急激に低下し、その後は透過率が再び概ね一定となる曲線が得られる(例えば、図1)。この曲線において、LCST以下の温度における透過率と、LCST以上の温度における透過率の平均値の透過率となる温度を求めることにより(中点法)、LCSTを求めることができる。測定する温度範囲はLCST以下の温度で透過率が概ね一定となる5℃以上の温度域を含み、さらにLCST以上の温度で透過率が一定となる5℃以上の温度域を含む範囲である。
【0022】
また、本発明のブロック共重合体は、水不溶性ブロックセグメントを有するため、水に不溶でLCSTを有しないが、温度変化によって親水性/疎水性の程度が変化する応答温度を有する温度応答性高分子である。ブロック共重合体の応答温度は、ブロック共重合体が被覆された基材を水に浸漬し、水中における気泡の接触角を測定することにより、ブロック共重合体の親水性/疎水性の程度を測定する。次に、水の温度を変化させることにより、ブロック共重合体の温度を変化させ、温度が安定化するまで待った後に、再度気泡の接触角を測定することで、種々の温度における接触角を求める。応答温度以下では気泡の接触角が大きな値(対水接触角が小さな値)で概ね一定であるが、応答温度を境に気泡の接触角が小さな値(対水接触角が大きな値)となり、応答温度以上では概ね一定となる曲線が得られる(例えば、図2)。この曲線において、応答温度以下の温度における接触角と、応答温度以上の温度における接触角の平均値の接触角となる温度を求めることにより(中点法)、応答温度を求めることができる。測定する温度範囲は応答温度以下の温度で接触角が概ね一定となる10℃以上の温度域を含み、さらに応答温度以上の温度で接触角が概ね一定となる10℃以上の温度域を含む範囲である。
【0023】
ブロックセグメント(A)の好適なLCSTは、ブロック共重合体を被覆した基材を細胞培養に用いた場合に、体温に近い温度で細胞を培養可能であることから、50℃以下が好ましく、35℃以下がさらに好ましく、また、培養中に培地交換等の作業を行う際に細胞が剥離してしまうことを抑制するのに好適であることから、25℃以下が特に好ましく、15℃以下が最も好ましい。さらに、細胞にダメージを与えない温度での冷却操作によって細胞を剥離することが可能であることから、0℃以上が好ましく、5℃以上がさらに好ましく、10℃以上が特に好ましく、15℃以上が最も好ましい。
【0024】
前記ブロックセグメント(A)を構成する単量体単位としては特に制限はないが、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;N,N-ジエチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等のN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のN,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体;1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-プロペニル)-モルホリン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)- ピペリジン、4-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-モルホリン等の環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル;N-プロリンメチルエステルアクリルアミド等のプロリン誘導体を挙げることができ、ブロック共重合体の応答温度を0~50℃とするのに好適であることから、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドが好ましく、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミドがさらに好ましく、N-イソプロピルアクリルアミドが特に好ましい。また、培養操作における培地交換の際に室温の培地を用いる場合においては、ブロック共重合体の応答温度を室温よりも低い温度とするのに好適であることから、N-n-プロピルアクリルアミド、N-プロリンメチルエステルアクリルアミドが好ましい。
【0025】
また、ブロックセグメント(A)はLCSTを調整するために共重合体でもよく、例えば、前述のブロックセグメント(A)を構成する単量体単位から選択される少なくとも2種類以上の単量体単位からなる共重合体を挙げることができ、特に、N-イソプロピルアクリルアミドとN-t-ブチルアクリルアミドの共重合体は、N-t-ブチルアクリルアミドの含有量を5~60mol%の範囲で変化させることで、LCSTを5~30℃の範囲で制御することができ好ましい。さらに、前述のブロックセグメント(A)を構成する単量体単位とその他の単量体単位との共重合体でも良く、例えば、親水性の単量体単位との共重合体とすることでLCSTを高温側へシフトさせることができ、疎水性の単量体単位との共重合体とすることでLCSTを低温側へシフトさせることができる。なお、共重合体の配列はランダム配列、交互配列、ブロック配列のいずれでもよい。
【0026】
本発明において、ブロック共重合体がブロックセグメント(B)を含有することにより、培養液へのブロック共重合体の混入を抑制することができ、細胞を汚染することなく培養することができる。ブロック共重合体がブロックセグメント(B)を含有しない場合、培養液へのブロック共重合体の混入を抑制することができない。また、ブロック共重合体がブロックセグメント(B)を含有しない場合、培養過程でブロック共重合体が基材から剥離するため、培養後、細胞を基材から剥離する際に、十分な冷却剥離性を有しない。
【0027】
本発明におけるブロックセグメント(B)はまた、培養基材の細胞の増殖性を高めるのに好適であることから、ブロックセグメント(B)の単量体単位からなるホモポリマーが細胞の増殖性を有することが好ましい。細胞の増殖性を有するものとしては、特に限定されるものではないが、例えば、イオン性基、親水性基、疎水性基等を有するもの、また、それらを基材表面に被覆後、ガンマ線照射、プラズマ処理、コロナ処理等などで表面処理を施したものが挙げられる。また、細胞が多能性幹細胞の場合においては、培養基材の細胞の増殖性を高めるのに好適であるため、ブロックセグメント(B)が芳香環を有するものであることが好ましい。
【0028】
本発明におけるブロックセグメント(B)はまた、ブロック共重合体の応答温度を0~50℃の範囲とするのに好適であることから、ブロック共重合体の応答温度制御に寄与するブロックであることが好ましい。ブロック共重合体がブロックセグメント(B)を有することにより、ブロックセグメント(A)のLCSTを高温側あるいは低温側にシフトさせ、ブロック共重合体の応答温度を0~50℃の範囲に制御することができる。ブロック共重合体がブロックセグメント(B)を有することにより、ブロック共重合体の応答温度の制御が可能であり、ブロックセグメント(B)を構成する単量体単位として様々なモノマーの使用が可能である。ブロック共重合体の応答温度制御のために、ブロックセグメント(B)には例えば、親水性のモノマー、疎水性のモノマー、さらにはその両方を使用してもよい。
【0029】
また、本発明におけるブロックセグメント(B)は、細胞の剥離性を高めるのに好適であることから、細胞の剥離に必要な冷却時間の短縮に寄与するブロックであることが好ましい。ブロック共重合体がブロックセグメント(B)を有することにより、培養基材をブロック共重合体の応答温度よりも低温にした場合、ブロック共重合体に水が入り込みやすくなり、細胞とブロック共重合体の接着力が弱まりやすくなり、細胞の剥離に必要な時間が短縮できる。このために、ブロック共重合体がブロックセグメント(B)を有することで、細胞の剥離に必要な時間が短縮できるものである。細胞の剥離に必要な冷却時間の短縮のために、ブロックセグメント(B)には例えば、親水性のモノマーを使用することが好ましい。
【0030】
さらに、本発明におけるブロックセグメント(B)は、ブロック共重合体を基材へ強固に固定化するのに好適であることから、基材への接着に寄与するブロックであることが好ましい。ブロックセグメント(B)が基材への接着に寄与するブロックであることにより、培養基材をブロック共重合体の応答温度よりも低温にした場合も基材へブロック共重合体を安定に被覆させ続けることができる。このために、ブロックセグメント(B)が基材への接着に寄与するブロックであることにより、ブロック共重合体の基材への固定化は、化学的な被覆に限定されず、物理的に被覆させることも出来る。ブロック共重合体と基材への接着性を高めるために、ブロックセグメント(B)にはたとえば、水不溶性のモノマー、疎水性のモノマー、反応性官能基を有するモノマーを使用することが好ましい。
【0031】
本発明において、ブロック共重合体の水不溶性を高めるのに好適であることから、ブロックセグメント(B)は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位の内、少なくとも1種類の繰り返し単位を含んでなるブロック重合体であることが好ましい。
【0032】
【化1】
【0033】
[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Qはエステル結合、アミド結合、ウレタン結合又はエーテル結合から選択される2価の結合であり、Rは下記一般式(2)、(3)で表される置換基、炭素数1~30の炭化水素基又は水素原子を示す。
【0034】
【化2】
【0035】
(式中、Aはエーテル結合又はエステル結合であり、Rは炭素数1~5の2価の炭化水素基を表し、Rはフッ素原子を表し、nは0~4の整数を表す。)
【0036】
【化3】
【0037】
(式中、Rは炭素数1~5の2価の炭化水素基を表すが、存在しなくとも良い。R、R、R、R及びR10は各々独立して、水素原子、水酸基、カルボキシル基、アミノ基又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。)]
本発明における一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基である。Qはエステル結合、アミド結合、ウレタン結合又はエーテル結合から選択される2価の結合であり、エステル結合またはアミド結合が好ましく、エステル結合が特に好ましい。一般式(1)において、Rは一般式(2)又は(3)で表される置換基、若しくは炭素数1~30の炭化水素基又は水素原子を示す。
【0038】
一般式(1)において、Rは水不溶性を高めるため、細胞の増殖性を高めるため、基材にブロック共重合体を化学的な結合によって被覆させるために好適であることから、一般式(2)で表される置換基を用いることが好ましい。Rが一般式(2)で表される単量体単位としては、特に制限はないが、例えば、4-アジドフェニルアクリレート、4-アジドフェニルメタクリレート、2-((4-アジドベンゾイル)オキシ)エチルアクリレート、2-((4-アジドベンゾイル)オキシ)エチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0039】
一般式(1)において、Rは水不溶性を高めるため、細胞の増殖性を高めるため、ブロック共重合体の応答温度を高温側または低温側にシフトさせるため、基材にブロック共重合体を物理的な相互作用によって被覆させるために、あるいは、基材にブロック共重合体を化学的な結合によって被覆させるために好適であることから、一般式(3)で表される、芳香環を有する置換基を用いることが好ましい。一般式(3)において、R19は炭素数1~5の2価の炭化水素基を表すが、存在しなくとも良い。R20、R21、R22、R23及びR24は各々独立して、水素原子、水酸基、カルボキシル基、アミノ基又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。一般式(1)において、Rが一般式(3)で表される単量体単位としては、特に制限はないが、例えば、2-ヒドロキシフェニルアクリレート、2-ヒドロキシフェニルメタクリレート、3-ヒドロキシフェニルアクリレート、3-ヒドロキシフェニルメタクリレート、4-ヒドロキシフェニルアクリレート、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート、N-(2-ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N-(3-ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、スチレン等を挙げることができる。
【0040】
一般式(1)において、Rは水不溶性を高めるため、細胞の増殖性を高めるため、ブロック共重合体の応答温度を低温側にシフトさせるため、あるいは基材にブロック共重合体を物理的な相互作用によって被覆させるために好適であることから、炭素数1~30の炭化水素基を用いることが好ましく、基材にブロック共重合体を安定に被覆させるため、好ましくは炭素数4~15の炭化水素基である。Rが炭素数1~30の炭化水素基で表される単量体単位としては、特に制限はないが、例えば、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルアクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、n-オクチルアクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-デシルアクリレート、n-デシルメタクリレート、n-ドデシルアクリレート、n-ドデシルメタクリレート、n-テトラデシルアクリレート、n-テトラデシルメタクリレート等を挙げることができる。
【0041】
本発明において、ブロックセグメント(B)はまた、ブロック共重合体の応答温度を制御する繰り返し単位を含んでいてもよい。ブロック共重合体の応答温度を制御する繰り返し単位としては、親水性又は疎水性の成分を挙げることができ、特に限定はないが例えば、2-ジメチルアミノエチルアクリレート、2-ジメチルアミノエチルメタクリレート、2-ジエチルアミノエチルアクリレート、2-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド等のアミノ基を有するもの;N-(3-スルホプロピル)-N-メタクロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン、N-メタクリロイルオキシエチル-N、N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン等のベタインを有するもの;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、3-ブトキシエチルアクリレート、3-ブトキシエチルメタクリレート、3-ブトキシエチルアクリルアミド、フルフリルアクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等のポリエチレングリコール基、メトキシエチル基を有するもの;メトキシメチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、2-エトキシメチルアクリレート、2-エトキシメチルメタクリレート、3-ブトキシメチルアクリレート、3-ブトキシメチルメタクリレート、3-ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリレート基を有するもの;2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホリルコリン、ω-(メタ)アクリロイル(ポリ)オキシエチレンホスホリルコリン、2-アクリルアミドエチルホスホリルコリン、3-アクリルアミドプロピルホスホリルコリン、4-アクリルアミドブチルホスホリルコリン、6-アクリルアミドヘキシルホスホリルコリン、10-アクリルアミドデシルホスホリルコリン、ω-(メタ)アクリルアミド(ポリ)オキシエチレンホスホリルコリン等のホスホリルコリン基を有するものを挙げることができる。
【0042】
ブロックセグメント(B)は共重合体でもよく、共重合体の配列はランダム配列、交互配列、ブロック配列のいずれでもよい。
【0043】
本発明における(A)及び(B)のブロックセグメントを含有するブロック共重合体の構造は特に限定されるものではないが、少なくとも(A)及び(B)のブロックセグメントを含有するジブロック共重合体であることが好ましい。また、ブロックセグメント(A)とブロックセグメント(B)は直接結合していてもよいし、スペーサーを介して結合していてもよい。
【0044】
本発明において、(A)及び(B)のブロックセグメントを含有するブロック共重合体中のブロックセグメント(A)の構成単位比率は、90wt%を超えるものである。ブロックセグメント(A)の構成単位比率が90wt%を超えることにより、ブロック共重合体を被覆した基材を細胞培養に用いた場合に、細胞の冷却剥離性を高めることができる。また、細胞として幹細胞を用いた場合に、幹細胞の継代培養において幹細胞の未分化維持率が高い。さらに、幹細胞として多能性幹細胞を用いた場合に、未分化の多能性幹細胞を選択的に剥離することができ、剥離回収した細胞の未分化維持率を高めることができる。ブロックセグメント(A)の構成単位比率が90wt%以下の場合、十分な冷却剥離性を付与することができず、剥離に際し細胞にダメージを与えてしまう。冷却剥離性を高め、また、幹細胞の継代培養において幹細胞の未分化維持率を高め、さらに、幹細胞として多能性幹細胞を用いた場合に、未分化の多能性幹細胞を選択的に剥離するのに好適であることから、ブロックセグメント(A)の構成単位比率が92wt%以上であることがさらに好ましく94wt%以上が特に好ましく、95wt%以上が最も好ましい。
【0045】
本発明において、(A)及び(B)のブロックセグメントを含有するブロック共重合体中のブロックセグメント(B)の構成単位比率は、一方で、ブロック共重合体が培養液に混入し、細胞を汚染することを抑制するのに好適のため、また、継代培養において未分化維持率が高い観点から1wt%以上が好ましく、2wt%以上がさらに好ましく、3wt%以上が特に好ましく、5wt%が最も好ましい。
【0046】
本発明において、ブロック共重合体が細胞へ混入することを抑制するのに好適であることから、ブロック共重合体が含有する数平均分子量5000以下の成分が、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。また、数平均分子量10000以下の成分が、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。さらに、数平均分子量30000以下の成分が、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。ブロック共重合体に含まれる特定分子量以下の成分の含有量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0047】
本発明におけるブロック共重合体の分子量としては特に制限はないが、ブロック共重合体の強度を高めるのに好適のため、数平均分子量で1000~100万であることが好ましく、2000~50万であることがさらに好ましく、5000~30万であることが特に好ましく、1万~20万であることが最も好ましい。
【0048】
本発明において、ブロック共重合体が細胞へ混入することを抑制するのに好適であることから、ブロック共重合体の水への溶出量が、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。ブロック共重合体の水への溶出量は、ブロック共重合体による層を形成した基材を25℃において水へ1時間浸漬した前後における、ブロック共重合体の重量減少割合を示す。ここで、ブロック共重合体の重量減少の測定方法については特に制限はなく、一般的に用いられる方法により測定することができ、例えば、FT-IRによる方法、平均膜厚の測定による方法等を用いることができる。
【0049】
本発明において、ブロック共重合体は、応答温度が0℃~50℃の範囲にあることが好ましい。応答温度が0℃~50℃の範囲にあることにより、本発明の培養基材は体温(37℃)付近で細胞の増殖性を有すると共に、細胞にダメージを与えない温度域において冷却剥離性を有する。応答温度を有しない場合、冷却剥離性を有しない。体温付近で細胞の増殖性を付与すると共に、細胞にダメージを与えない温度域における冷却剥離性を付与するのに好適であることから、応答温度が20℃~40℃の範囲にあることが好ましく、15℃~35℃の範囲にあることがさらに好ましく、15℃~30℃が特に好ましく、15℃~25℃が最も好ましい。応答温度以上の温度では、ブロック共重合体は疎水性を有することから、タンパク質が吸着しやすく、吸着されたタンパク質を足場にして、細胞の接着培養が可能となる。一方で、温度を低下させた場合、親水性に変化することで、細胞の剥離が促進される。応答温度が0℃未満であれば細胞にダメージを与えない温度域において冷却剥離性を付与することが困難となり、50℃を超えれば体温付近で細胞の増殖性を有さず、細胞培養が困難となる。また、培養操作における培地交換の際に室温の培地を用いる場合においては、培地交換の際に細胞が剥離することを抑制するのに好適のため、応答温度が0℃~30℃の範囲にあることが好ましく、5℃~25℃の範囲にあることがさらに好ましく、5℃~20℃が特に好ましく、10℃~20℃が最も好ましい。
【0050】
本発明におけるブロック共重合体は、必要に応じて連鎖移動剤や重合開始剤、重合禁止剤等を含んでいてもよい。連鎖移動剤としては特に制限はなく、一般に使用されるものを好適に用いることができるが、例えば、ジチオベンゾエート、トリチオカルボナート、4-シアノ-4-[(ドデシルスルフォニルチオカルボニル)スルフォニル]ペンタノイックアシッド、2-シアノプロパン-2-イル N-メチル-N-(ピリジン-4-イル)カルバモジチオアート、2-プロピオン酸メチルメチル(4-ピリジニル)カルバモジチオアートを挙げることができる。また、重合開始剤としては特に制限はなく、一般に使用されるものを好適に用いることができるが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、トリエチルボラン、ジエチル亜鉛等を挙げることができる。さらに、重合禁止剤としては特に制限はなく、一般に使用されるものを好適に用いることができるが、ヒドロキノン、p-メトキシフェノール、トリフェニルフェルダジル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル等を挙げることができる。
【0051】
本発明におけるブロック共重合体の合成方法としては、特に限定はないが、(株)エヌ・ティー・エス発行、“ラジカル重合ハンドブック”、p.161~225(2010)に記載のリビングラジカル重合技術を用いることができる。
【0052】
本発明のブロック共重合体を細胞培養に用いる場合、基材にブロック共重合体による層を形成することが好ましい。ここで、本発明において「培養基材」とは、細胞の培養を行う物品全体(例えば、図3の符号10で示される部分。)を示し、基材とブロック共重合体による層を含む。また、本発明において「基材」とは、ブロック共重合体による層で被覆されるベース基材(例えば、図3の符号1で示される部分。)を示す。
【0053】
本発明において、細胞の増殖性を高めるのに好適であることから、ブロック共重合体による層の層厚が、1000nm以下を有することが好ましく、200nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましく、50nm以下が最も好ましい。また、幹細胞として多能性幹細胞を用いた場合に、冷却によって未分化の多能性幹細胞を選択的に剥離回収するのに好適であることから、層厚40nm以下が好ましく、35nm以下がさらに好ましく、30nm以下が特に好ましく、25nm以下が最も好ましい。また、細胞の剥離性を高め、また、幹細胞の継代培養において幹細胞の未分化維持率を高め、さらに、幹細胞として多能性幹細胞を用いた場合に、冷却によって未分化の多能性幹細胞を選択的に剥離回収するのに好適であることから、ブロック共重合体による層の層厚が、5nm以上を有することが好ましく、20nm以上がさらに好ましく、30nm以上が特に好ましく、35nm以上が最も好ましい。さらに、細胞の剥離前に酵素等を作用させ、細胞間結合を乖離させる処理を行う場合、細胞間結合を乖離させる処理によって未分化の多能性幹細胞以外の細胞を先に剥離させて除去し、未分化の多能性幹細胞のみを基材に残すことによって、多能性幹細胞の未分化維持率を高めるのに好適であることから、層厚が10nm以上を有することが好ましく、15nm以上がさらに好ましく、25nm以上が特に好ましく、40nm以上が最も好ましい。ここで、本発明においてブロック共重合体による層の「層厚」とは、基材とブロック共重合体による層の界面から、ブロック共重合体による層の表面構造における山部分までの面外方向の長さを示す。ブロック共重合体による層の層厚は、培養基材を培養温度の水中に24時間以上浸漬し、エアーを吹きつける等により急速に乾燥させた試料について、層厚が10nmを超える範囲ではミクロトームにより作成した培養基材の超薄切片を用いて断面像を透過型電子顕微鏡によって測定し、無作為に選んだ10点の該距離を測定し、平均することで算出することができる。また、層厚が10nm以下の範囲ではエリプソメーターを用いて測定することができる。なお、幹細胞として多能性幹細胞を用いた場合において、未分化の多能性幹細胞を選択的に剥離可能であるか、又は、酵素処理によって未分化の多能性幹細胞以外の細胞を剥離させることが可能であることで、未分化の多能性幹細胞以外の細胞を除去する作業を行う必要がなく、効率的に多能性幹細胞を培養できるものである。
【0054】
本発明において、細胞の剥離性を高め、継代培養における幹細胞の未分化維持率を高めるのに好適であることから、ブロックセグメント(A)の被覆量が0.1μg/cm以上であることが好ましく、1μg/cm以上がさらに好ましく、2μg/cm以上が特に好ましく、3.2μg/cm以上が最も好ましい。ここで、ブロックセグメント(A)の被覆量は、層厚からブロック共重合体の被覆量を求めることで、ブロック共重合体中のブロックセグメント(A)の含有量から算出することができる。
【0055】
本発明において、ブロック共重合体の種類に特に限定はないが、被覆にばらつきを生じず、培養される細胞の状態を均一にするのに好適であることから、1種類のブロック共重合体、又は2種類のブロック共重合体の混合物であることが好ましく、1種類のブロック共重合体であることがさらに好ましい。ここで、本発明において「ブロック共重合体の種類」については、ブロック共重合体を構成する全てのブロックが同一の場合に同一種類のブロック共重合体と見なす。ここで、ブロックが同一であるとは、ブロックが主に1種類の単量体単位で構成される場合には、wt%比で最も多く含まれる単量体単位が同一の場合を示し、また、ブロックが2種類以上の単量体単位によって構成される場合には、wt%比が多い上位2つの単量体単位が同一の場合を示す。培養される細胞の状態を均一にするのにより好適であることから、各ブロックの多分散度(重量平均分子量M/数平均分子量M)が1~20であることが好ましく、1~10であることがさらに好ましく、1~5であることが特に好ましく、1~2であることが最も好ましい。
【0056】
本発明において、細胞の増殖性及び剥離性を高めるのに好適であることから、ブロック共重合体による層が、表面の平均粗さ/層厚の比が0.3以上であることが好ましい。ブロック共重合体の表面の平均粗さ/層厚の比が0.3以上であることにより、細胞が強く接着する領域とそうでない領域を設けることができ、細胞の増殖性及び剥離性を高めることができる。細胞の増殖性及び剥離性を高めるのに好適であることから、ブロック共重合体による層の表面の平均粗さ/層厚の比が、0.5以上であることがさらに好ましく、0.7以上が特に好ましく、0.9以上が最も好ましい。ここで、本発明においてブロック共重合体による層の表面の「平均粗さ」とは、JIS B0601:2013に従って求めた輪郭曲線の平均高さを示し、培養基材の代表的な表面の原子間力顕微鏡像を測定し、無作為に選んだ10点の粗さ曲線において、1μmを基準長さとして平均高さを求めることで算出することができ、前述の層厚の測定と同様に、培養基材を培養温度の水中に24時間以上浸漬し、エアーを吹きつける等により急速に乾燥させた試料について測定する。 本発明において、応答温度以上の温度におけるブロック共重合体による層の平均粗さ/層厚の比と、応答温度未満の温度におけるブロック共重合体による層の平均粗さ/層厚の比の差が、0.1以上であることが好ましい。応答温度以上の温度と応答温度未満の温度におけるブロック共重合体による層の平均粗さ/層厚の比が異なることにより、細胞の剥離性を高めることができる。細胞の剥離性を高めるのに好適であることから、応答温度以上の温度と応答温度未満の温度におけるブロック共重合体による層の平均粗さ/層厚の比の差が0.3以上であることがさらに好ましく、0.5以上であることが特に好ましく、0.7以上であることが最も好ましい。
【0057】
本発明において、ブロック共重合体による層の粗さ曲線要素の平均長さが1μm以下であることが好ましい。ブロック共重合体による層の粗さ曲線要素の平均長さが1μm以下であることにより、細胞を均一に培養することが可能であり、また、冷却剥離性を高めることができる。細胞を均一に培養し、また、剥離性を高めるのに好適であることから、平均長さが0.8μm以下であることがさらに好ましく、0.6μm以下であることが特に好ましく、0.4μm以下が最も好ましい。ここで、本発明において、ブロック共重合体による層の「粗さ曲線要素の平均長さ」とは、JIS B0601:2013に従って求めた輪郭曲線の平均長さを示し、例えば、培養基材の代表的な表面の原子間力顕微鏡像を測定し、無作為に選んだ10点の粗さ曲線において、1μmを基準長さとして平均長さを求めることで算出することができ、前述の層厚の測定と同様に、培養基材を培養温度の水中に24時間以上浸漬し、エアーを吹きつける等により急速に乾燥させた試料について測定する。
【0058】
本発明において、前記表面構造は、繰り返し構造のつなぎ目がないことで培養基材の全ての領域で均一に細胞を培養するのに好適であり、また、培養基材の量産性を高めるのに好適可能であることから、ブロック共重合体の相分離によって形成されているものであることが好ましい。ブロック共重合体の相分離による表面構造の形成方法には特に限定はないが、例えば、ブロック共重合体を基材に塗工する際に相分離させる方法、培養温度において相分離するブロック共重合体を塗工する方法等を挙げることができる。
【0059】
本発明において、前記ブロック共重合体による層は、前記層上に固定化された生体由来物質を有していてもよい。前記生体由来物質としては特に限定はないが、例えば、マトリゲル、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン等を挙げることができる。
【0060】
これら生体由来物質は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、制限酵素等で切断した断片や、これら生体由来物質をベースとした合成タンパク質あるいは合成ペプチドであっても良い。
【0061】
本発明において、前記マトリゲルとしては、入手容易性から、市販品としては例えば、Matrigel(Corning Incorporated製)やGeltrex(Thermo Fisher Scientific製)を好適に用いることができる。
【0062】
前記ラミニンの種類は特に限定されるものではないが、例えば、ヒトiPS細胞の表面に発現しているα6β1インテグリンに対して高活性を示すことが報告されているラミニン511、ラミニン521又はラミニン511-E8フラグメントを用いることができる。前記ラミニンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、前記ラミニンをベースとした合成タンパク質あるいは合成ペプチドであっても良い。入手容易性から、市販品としては例えば、iMatrix-511((株)ニッピ製)を好適に用いることができる。
【0063】
前記ビトロネクチンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、前記ビトロネクチンをベースとした合成タンパク質あるいは合成ペプチドであっても良い。入手容易性から、市販品としては例えば、ビトロネクチン,ヒト血漿由来(和光純薬工業(株)製)やsynthemax(Corning Incorporated製)、Vitronectin(VTN-N)(Thermo Fisher Scientific製)を好適に用いることができる。
【0064】
前記フィブロネクチンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、前記フィブロネクチンをベースとした合成タンパク質あるいは合成ペプチドであっても良い。入手容易性から、市販品としては例えば、フィブロネクチン溶液、ヒト血漿由来(和光純薬工業(株)製)やRetronectin(タカラバイオ(株)製)を好適に用いることができる。
【0065】
前記コラーゲンの種類は特に限定されるものではないが、例えば、typeIコラーゲンやtypeIVコラーゲンを用いることができる。前記コラーゲンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、前記コラーゲンをベースとした合成ペプチドであっても良い。入手容易性から、市販品としては例えば、コラーゲンI,ヒト(Corning Incorporated製)やコラーゲンIV,ヒト(Corning Incorporated製)を好適に用いることができる。
【0066】
本発明において、生体由来物質の変性を抑制することができ、細胞の増殖性を高めることができるため、生体由来物質は共有結合ではなく非共有結合により固定化されていることが好ましい。ここで、本発明において「非共有結合」とは、静電相互作用、水不溶性相互作用、水素結合、π-π相互作用、双極子-双極子相互作用、ロンドン分散力、その他のファンデルワールス相互作用等、分子間力に由来する共有結合以外の結合力を示す。生体由来物質のブロック共重合体への固定化は、単一の結合力によるものであっても、複数の組み合わせであってもよい。
【0067】
本発明において、生体由来物質の固定化方法は特に限定されるものではないが、例えば、ブロック共重合体による層を有する基材に生体由来物質の溶液を所定時間塗布することで固定化させる方法や、細胞を培養する培養液中に生体由来物質を添加することで固定化する方法を好適に用いることができる。
【0068】
本発明において、ブロック共重合体による層が被覆される基材の材質は、特に限定されるものではないが、通常細胞培養に用いられるガラス、ポリスチレン等の物質のみならず、一般に形態付与が可能である物質、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート等の高分子化合物や、セラミックス、金属類などを用いることができる。培養操作の容易性から、基材の材質がガラス、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンの内少なくとも1種類を含むことが好ましく、ガラス、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンの内少なくとも1種類を含むことがさらに好ましく、可撓性を高めるのに好適であることからポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンが特に好ましい。
【0069】
基材の形状としては特に制限はなく、板、フィルムのような平面形状であってもよいし、ファイバー、多孔質粒子、多孔質膜、中空糸であってもよい。また、一般に細胞培養等に用いられる容器(ペトリ皿等の細胞培養皿、フラスコ、プレート、バッグ等)であっても差し支えない。培養操作の容易性から、板、フィルムのような平面形状、又は平膜の多孔質膜であることが好ましい。また、大量培養に適していることから板、フィルム、フラスコ、バッグが好ましい。
【0070】
本発明において、細胞の剥離性を高め、また、幹細胞の継代培養において幹細胞の未分化維持率を高めるのに好適であることから、基材が多孔質基材であり、多孔質基材の細孔径が培養する細胞よりも小さなものであることが好ましい。基材が多孔質基材であることにより、細胞の剥離性を高めることができる。また、多孔質基材の細孔径が細胞よりも小さなものであることにより、細胞の増殖性を高めることができる。また、細胞の増殖性及び剥離性を高めるのに好適であることから、前記細孔径が0.01~8μmであることが好ましく、0.01~3μmであることがさらに好ましく、0.01~1μmであることが特に好ましく、0.1~1μmであることが最も好ましい。ここで、本発明において多孔質基材の「細孔径」とは、多孔質基材が有する細孔の、多孔質基材の面内方向に沿った直径の平均値を示し、多孔質基材のレーザー顕微鏡像や走査型電子顕微鏡像、透過型電子顕微鏡像において20点以上の細孔について該直径を測定し、平均値を求めることによって算出することができる。
【0071】
本発明において、細胞の増殖性及び剥離性を高め、また、幹細胞の継代培養において幹細胞の未分化維持率を高めるのに好適であることから、多孔質基材の細孔の細孔密度が、10~1014個/mであることが好ましく、10~1013個/mがさらに好ましく、10~1012個/mが特に好ましく、10~1012個/mが最も好ましい。ここで、本発明において多孔質基材の細孔の「細孔密度」とは、多孔質基材の基材面積当たりに存在する細孔の数を示し、多孔質基材のレーザー顕微鏡像や走査型電子顕微鏡像、透過型電子顕微鏡像において、多孔質基材の細孔の孔径の200倍以上の長さを一辺とする正方形の領域において細孔の数を求めることで算出することができる。なお、本発明において多孔質基材の「基材面積」とは、多孔質基材に細孔が存在しないと仮定した場合の、多孔質基材の一主面の表面積を示す。
【0072】
本発明において、多孔質基材が有する細孔の形状に特に制限はないが、細胞の増殖性及び剥離性を高めるのに好適であることから、平坦部及び細孔を有する平膜であることが好ましい。また、位相差顕微鏡による細胞の観察を可能とするのに好適であることから、多孔質基材が有する細孔が、円柱状の形状であることが好ましく、独立した円柱状の形状であることがさらに好ましい。細孔の形状が円柱状の形状であることにより、多孔質基材の透明性を高めることができ、位相差顕微鏡によって多孔質基材表面の細胞の形状を観察するのに好適である。
【0073】
本発明の培養基材は、滅菌を施してあってもよい。滅菌の方法に特に限定はないが、高圧蒸気滅菌、UV滅菌、γ線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌等を用いることができる。ブロック共重合体の変性を抑制するのに好適であることから、高圧蒸気滅菌、UV滅菌、エチレンオキシドガス滅菌が好ましく、基材の変形を抑制するために好適であることからUV滅菌又はエチレンオキシドガス滅菌がさらに好ましく、量産性に優れることからエチレンオキシドガス滅菌が特に好ましい。
【0074】
本発明の基材表面にブロック共重合体による層を形成させる方法としては、基材にブロック共重合体を、(1)化学的な結合によって被覆させ層を形成させる方法、(2)物理的な相互作用によって被覆させ層を形成させる方法、を単独または併用して行うことができる。すなわち、(1)化学的な結合による方法としては、紫外線照射、電子線照射、ガンマ線照射、プラズマ処理、コロナ処理等を用いることができる。さらに、ブロック共重合体と基材が適当な反応性官能基を有する場合は、ラジカル反応、アニオン反応、カチオン反応等の一般に用いられる有機反応を利用することができる。(2)物理的な相互作用による方法としては、ブロック共重合体との相溶性が良く、塗工性のよいマトリックスを媒体とし、塗布、はけ塗り、ディップコーティング、スピンコーティング、バーコーディング、流し塗り、スプレー塗装、ロール塗装、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、スロットダイコーティングなど通常知られている各種の方法を用いることが可能である。
【0075】
本発明の培養基材を用いて培養される細胞としては、温度降下による刺激付与前の表面に接着可能なものであれば特に限定されるものではない。例えばチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞やマウス結合組織L929、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞やヒト子宮頸部癌由来HeLa細胞等の種々の株化細胞に加え、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン細胞、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関与する肝実質細胞、肝非実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、間葉系幹細胞、骨髄細胞、Muse細胞のように種々の組織に存在する幹細胞、さらにはES細胞、iPS細胞等の分化多能性を有する幹細胞(多能性幹細胞)、それらから分化誘導した細胞等を用いることができる。本発明の培養基材における細胞の増殖性及び剥離性の観点から、幹細胞又は多能性幹細胞が好ましく、間葉系幹細胞又は多能性幹細胞がさらに好ましく、多能性幹細胞が特に好ましく、iPS細胞が最も好ましい。
【0076】
本発明は、前記培養基材を用い、幹細胞を培養する方法にも関する。前記手法は、以下の[1]~[3]工程を経て、幹細胞を製造する、幹細胞の製造方法である。
[1]前記培養基材に幹細胞を播種する工程。
[2]前記培養基材に播種された幹細胞を応答温度以上の温度の液体中で培養する工程。
[3]培養基材を応答温度未満の温度に冷却し、前記液体中で培養された幹細胞を基材から剥離する工程。
【0077】
以下、本発明の製造方法における[1]~[3]工程について詳細に述べる。
【0078】
本発明の幹細胞の製造方法における[1]工程は、前記培養基材を用い、前記培養基材に幹細胞を播種する工程である。本発明において「細胞を播種する」とは、細胞が分散した培地(以下、「細胞懸濁液」と表記する。)を培養基材上に塗布、又は、培養基材に注入する等により、細胞懸濁液と培養基材とを接触させることを示す。応答温度が0℃~50℃の範囲にあるブロック共重合体による層を有する基材を用いることにより、後述する[3]工程において温度変化により幹細胞を培養基材から剥離することができる。培養基材がブロック共重合体による層を有していない場合、[3]工程において温度変化により幹細胞を基材から剥離することができない。また、培養基材がブロック共重合体による層に固定化された生体由来物質を有することにより、後述する[2]工程で幹細胞を培養することができる。培養基材がブロック共重合体による層に固定化された生体由来物質を有していない場合、[2]工程で幹細胞を培養することができない。
【0079】
前記[1]~[3]工程においては、幹細胞の未分化性を維持させるのに有効な条件で、培養が実施される。未分化性を維持させるのに有効な条件としては、特に制限はないが、例えば、培養開始時の幹細胞の密度を上記播種の際の細胞密度として記載した好ましい範囲とすること、適切な液体培地の存在下で行うことなどが挙げられる。幹細胞の未分化性を維持させるのに有効な培地としては、例えば、幹細胞の未分化性を維持するための因子として知られている、インスリン、トランスフェリン、セレニウム、アスコルビン酸、炭酸水素ナトリウム、塩基性線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、CCL2、アクチビン、2-メルカプトメタノールのうち1つ以上を添加した培地を好適に用いることができる。幹細胞の未分化性を維持するのに特に好適であることから、インスリン、トランスフェリン、セレニウム、アスコルビン酸、炭酸水素ナトリウム、塩基性線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)を含有する培地を用いることがさらに好ましく、塩基性線維芽細胞増殖因子を添加した培地を用いることが最も好ましい。
【0080】
前記塩基性線維芽細胞増殖因子を添加した培地の種類に特に制限はないが、例えば、市販品としては、DMEM(Sigma-Aldrich Co. LLC製)、Ham’s F12(Sigma-Aldrich Co. LLC製)、D-MEM/Ham’s F12(Sigma-Aldrich Co. LLC製)、Primate ES Cell Medium((株)REPROCELL製)、StemFit AK02N(味の素(株)製)、StemFit AK03(味の素(株)製)、mTeSR1(STEMCELL TECHNOLOGIES製)、TeSR-E8(STEMCELL TECHNOLOGIES製)、ReproNaive((株)REPROCELL製)、ReproXF((株)REPROCELL製)、ReproFF((株)REPROCELL製)、ReproFF2((株)REPROCELL製)、NutriStem(バイオロジカルインタストリーズ社製)、iSTEM(タカラバイオ(株)製)、GS2-M(タカラバイオ(株)製)、hPSC Growth Medium DXF(PromoCell(株)製)等を挙げることができる。多能性幹細胞の未分化状態を維持するのに好適であることから、Primate ES Cell Medium((株)REPROCELL製)、StemFit AK02N(味の素(株)製)又はStemFit AK03(味の素(株)製)が好ましく、StemFit AK02N(味の素(株)製)又はStemFit AK03(味の素(株)製)がさらに好ましく、StemFit AK02N(味の素(株)製)が特に好ましい。 前記[1]工程において、幹細胞の播種方法に特に制限はないが、例えば、前記基材に細胞懸濁液を注入することで行うことが出来る。播種の際の細胞密度は特に制限はないが、細胞を維持することができ、かつ増殖させることができるように、1.0×10~1.0×10cells/cmが好ましく、5.0×10~5.0×10cells/cmがさらに好ましく、1.0×10~2.0×10cells/cmが特に好ましく、1.2×10~1.0×10cells/cmが最も好ましい。
【0081】
前記[1]工程で用いる培地としてはまた、幹細胞の生存を維持するのに好適であることから、前記塩基性線維芽細胞増殖因子を添加した培地にさらにRho結合キナーゼ阻害剤を添加した培地を用いることが好ましい。特にヒトの幹細胞を用いる場合であって、ヒトの幹細胞の細胞密度が低い状態において、Rho結合キナーゼ阻害剤が添加されていると、ヒトの幹細胞の生存維持に効果的な場合がある。Rho結合キナーゼ阻害剤としては、例えば、(R)-(+)-trans-N-(4-pyridyl)-4-(1-aminoethyl)-cyclohexanecarboxamide・2HCl・H2O(和光純薬工業(株)製Y-27632)、1-(5-Isoquinolinesulfonyl)homopiperazine Hydrochloride(和光純薬工業(株)製HA1077)を用いることができる。培地に添加されるRho結合キナーゼ阻害剤の濃度としては、ヒトの幹細胞の生存維持に有効な範囲であってヒトの幹細胞の未分化状態に影響を与えない範囲であり、好ましくは1μM~50μMであり、より好ましくは3μM~20μMであり、さらに好ましくは5μM~15μMであり、最も好ましくは8μM~12μMである。
【0082】
前記[1]工程を開始するとまもなく、幹細胞は培養基材に接着し始める。
【0083】
本発明の幹細胞の製造方法における[2]工程では、前記播種された幹細胞をブロック共重合体の応答温度以上の温度で培養する。培養温度がブロック共重合体の応答温度以上であることにより、幹細胞を増殖させることができる。培養温度がブロック共重合体の応答温度未満の場合、幹細胞を増殖させることができない。細胞の増殖能や生理活性,機能維持に好適であることから、培養温度としては、好ましくは30~42℃、さらに好ましくは32~40℃、特に好ましくは36~38℃、最も好ましくは37℃である。
【0084】
前記[2]工程を開始して22~26時間後に、最初の培地交換を行うことが好ましい。その48~72時間後に2度目の培地交換を行い、その後、24~48時間毎に培地交換を行うことが好ましい。この間、幹細胞は増殖し、コロニーと呼ばれる細胞塊を形成する。コロニーの大きさが1mm前後になるまで培養を継続させ、その後[3]工程に移行する。
【0085】
本発明の幹細胞の製造方法における[3]工程では、幹細胞が培養された培養基材をブロック共重合体の応答温度未満の温度に冷却し、前記培養された幹細胞を培養基材から剥離する。幹細胞を短時間で剥離させ、冷却によるダメージを低減するために、冷却する際の温度として好ましくは0~30℃であり、より好ましくは3~25℃であり、さらに好ましくは5~20℃である。また、細胞へのダメージを低減するために、冷却時間としては120分以下が好ましく、60分以下がさらに好ましく、30分以下が特に好ましく、15分以下が最も好ましい。
【0086】
前記[3]工程における培養基材の冷却方法としては特に制限はないが、例えば、培養基材を保冷庫に入れて冷却する方法、培養基材をクールプレートの上に載せて冷却する方法、冷却した培地あるいは緩衝液に交換して所定時間静置する方法等を用いることができる。
【0087】
また、前記[3]工程においては、幹細胞を短時間で剥離させ、冷却によるダメージをより低減するために、冷却時に、培養された幹細胞を含む液体に対流を生じさせる工程を含んでも良い。対流を生じさせる方法としては特に限定はないが、例えば、培養液をピペッティングさせることやポンプ、撹拌翼を用いる等の方法により、機械的に液体内部に強制対流を発生させる方法の他、培養基材に物理的な振動を加える方法、温度差を与えることによりマランゴニ対流等の自然対流を発生させる方法を挙げることが出来る。
【0088】
前記[3]工程はまた、幹細胞の継代培養における細胞懸濁液の調製に好適であることから、細胞間結合を乖離させる工程を含んでいてもよい。細胞間結合を乖離させる工程としては、特に限定はないが、キレート剤やタンパク質分解酵素を含有する液体と幹細胞を接触させる工程を挙げることができ、細胞へのダメージを抑制するのに好適であることから、キレート剤を含有する液体と幹細胞を接触させる工程が好ましい。
【0089】
前記タンパク質分解酵素としては、市販品としては例えば、Trypsin(商標)、TrypLE(商標)SELECT、TrypLE(商標)EXPRES(いずれもThermo Fisher Scientific製)等を挙げることができる。
【0090】
前記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、トリエチレンテトラミン-N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-六酢酸、1,3-プロパンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸、1,3-ジアミノ-2-プロパノール-N,N,N’,N’-四酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、イミノ二酢酸、エチドロン酸、クエン酸、ムギネ酸、ビピリジン、ポルフィリン、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテル、サイクレン、18-クラウン-6、デフェロキサミン、ドータオクトレオテート、ニコチアナミン、ジメルカプロール、シデロホア等を挙げることができる。細胞を単一細胞とするのに好適であり、また、細胞の生存率を高めるのに好適であることから、1~4価の金属イオンとキレートを形成するキレート剤が好ましく、2価の金属イオンとキレートを形成するキレート剤がさらに好ましく、カルシウムイオンとキレートを形成するキレート剤が特に好ましく、エチレンジアミン四酢酸が最も好ましい。
【0091】
本発明の培養基材は、大量の細胞を培養する際に、細胞を剥離する工程を簡略化し細胞の量産性を高めるのに好適であることから、弱い外部刺激で細胞が剥離することが好ましく、冷却及びピペッティング若しくはタッピングで剥離することがさらに好ましく、冷却及びタッピングで剥離することが特に好ましく、冷却のみで剥離することが最も好ましい。ここで、本発明において「ピペッティング」とは、ピペットマン等の器具を用いて培養液の吸引及び吐出を繰り返すことにより、培養環境に対流を生じさせる操作を示す。また、「タッピング」とは、培養容器を叩く等により培養環境に振動を与える操作を示す。
【0092】
本発明の培養基材は、培養した幹細胞から作製した細胞懸濁液を未分化維持培養又は分化誘導用のスフェロイドの作製に用いるのに好適であることから、継代培養した幹細胞の未分化維持率が70%以上であることが好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上が最も好ましい。未分化維持率は未分化マーカーを染色した細胞を用いてフローサイトメーターにより測定することができる。
【実施例
【0093】
以下、本発明を実施するための形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また本発明の要旨の範囲内で適宜に変更して実施することができる。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
<重合体の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子(株)製、商品名JNM-GSX400)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(H-NMR)スペクトル分析、又は核磁気共鳴測定装置(ブルカー製、商品名AVANCEIIIHD500)を用いたカーボン核磁気共鳴分光(13C-NMR)スペクトル分析より求めた。
<重合体の分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置は東ソー(株)製 HLC-8320GPCを用い、カラムは東ソー(株)製 TSKgel Super AWM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液は10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロー2-イソプロパノールまたは10mM臭化リチウムを含むN,N-ジメチルホルムアミドを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLで調製して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリメタクリル酸メチル(Polymer Laboratories Ltd.製)を用いた。
<重合体の層厚>
基材に被覆された重合体の層厚は、AFM装置((株)島津製作所製SPM-9600)によって測定した。カンチレバーはBL-AC40TS-C2を用い、表面にピンセットで傷を入れ、傷の深さを測定することで重合体の層厚を測定した。
<重合体の溶出量>
100nmの膜厚で基材に重合体を被覆し、分光光度計((株)日立ハイテクサイエンス社製U-4100)を用い、水に浸漬する前後の膜厚変化を求めることによって、重合体の溶出量を測定した。
【0094】
実施例1
[ブロック共重合体の合成]
試験管に、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノイックアシッド0.40g(0.1mmol)、n-ブチルメタクリレート7.11g(50mmol)、アゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)を加え、1,4-ジオキサン50mLに溶解した。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をメタノール250mLに注ぎ、析出した黄色油状物質を回収して減圧乾燥し、n-ブチルメタクリレート重合体を得た。
【0095】
試験管に、前記n-ブチルメタクリレート重合体0.9g(0.3mmol)、N-イソプロピルアクリルアミド8.14g(72mmol)、アゾビスイソブチロニトリル5mg(0.03mmol)を加え、1,4-ジオキサン15mLに溶解させた。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、65℃で17時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をアセトンで希釈し、ヘキサン500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥した。また、アセトンに再度溶解させ、純水500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥し、N-イソプロピルアクリルアミドとn-ブチルメタクリレートのジブロック共重合体を得た。
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
前記ブロック共重合体をエタノールに溶解させ、0.8wt%溶液とした。この溶液を直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)に50μL滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ブロック共重合体が被覆された基材を作製した。
[ブロックセグメント(A)のLCST測定]
4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノイックアシッド0.40g(0.1mmol)、N-イソプロピルアクリルアミド2.26g(20mmol)及びアゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)をジオキサン20mLに溶解させた。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をヘキサン250mLに注ぎ、析出した白色固体を回収して減圧乾燥し、N-イソプロピルアクリルアミド重合体を得た。N-イソプロピルアクリルアミド重合体を純水に溶解させ、0.6wt%水溶液とした。この溶液を光路長1cmの石英セルに入れ、1℃/分の速度で昇温しながら、分光光度計(日立製UH-5300)で波長500nmの光の透過率を測定した。中点法によりLCSTを求めたところ、LCSTは32℃であった。
[ブロック共重合体の応答温度測定]
前記ブロック共重合体が被覆された基材を水中に浸漬し、20~45℃の範囲で、5℃間隔で気泡接触角(θ)(°)を測定し、各温度における対水接触角(180-θ)(°)を求め、中点法により応答温度を算出した。なお、θは協和界面科学(株)製接触角計DM300を用いて、水中、3μLの気泡の接触角を測定した。応答温度は33℃であった。
[細胞培養評価および剥離評価]
前記ブロック共重合体が被覆された基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を1300個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0096】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。冷却操作及びタッピングによって細胞は剥離し、回収出来た。また、剥離後の基材の様子を観察したところ、分化した細胞のみが基材に残留している様子が観察され、未分化のiPS細胞が選択的に剥離回収可能とわかった。
【0097】
実施例2
[ブロック共重合体の合成]
試験管に、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノイックアシッド0.40g(0.1mmol)、n-ブチルメタクリレート7.11g(50mmol)、アゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)を加え、1,4-ジオキサン50mLに溶解した。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をメタノール250mLに注ぎ、析出した黄色油状物質を回収して減圧乾燥し、n-ブチルメタクリレート重合体を得た。
【0098】
試験管に、前記n-ブチルメタクリレート重合体0.9g(0.3mmol)、N-n-プロピルアクリルアミド8.14g(72mmol)、アゾビスイソブチロニトリル5mg(0.03mmol)を加え、1,4-ジオキサン15mLに溶解させた。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、65℃で17時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をアセトンで希釈し、ヘキサン500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥した。また、アセトンに再度溶解させ、純水500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥し、N-n-プロピルアクリルアミドとn-ブチルメタクリレートのジブロック共重合体を得た。
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
前記ブロック共重合体を用いたこと以外は、実施例1[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]と同じ方法で作製した。
[ブロックセグメント(A)のLCST測定]
4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノイックアシッド0.40g(0.1mmol)、N-n-プロピルアクリルアミド2.26g(20mmol)及びアゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)をジオキサン20mLに溶解させた。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をヘキサン250mLに注ぎ、析出した白色固体を回収して減圧乾燥し、N-n-プロピルアクリルアミド重合体を得た。N-n-プロピルアクリルアミド重合体を純水に溶解させ、0.6wt%水溶液とした。この溶液を光路長1cmの石英セルに入れ、1℃/分の速度で昇温しながら、分光光度計(日立製UH-5300)で波長500nmの光の透過率を測定した。中点法によりLCSTを求めたところ、LCSTは17℃であった。
[ブロック共重合体の応答温度測定]
前記ジブロック共重合体が被覆された基材を水中に浸漬し、5~30℃の範囲で、5℃間隔で気泡接触角(θ)(°)を測定し、各温度における対水接触角(180-θ)(°)を求め、中点法により応答温度を算出した。なお、θは協和界面科学(株)製接触角計DM300を用いて、水中、3μLの気泡の接触角を測定した。応答温度は18℃であった。
[細胞培養評価および剥離評価]
前記ブロック共重合体が被覆された基材を用いたこと以外は、実施例1[細胞培養評価および剥離評価]で培養を行った。
【0099】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。冷却操作及びタッピングによって細胞は剥離し、回収出来た。
【0100】
実施例3
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
実施例1で合成したブロック共重合体をエタノールに溶解させ、0.8wt%溶液とした。この溶液を細孔径0.4μmの細孔を有する多孔質膜付きインサート(Corning Incorporated製、材質:ポリエチレンテレフタレート)に50μL滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ジブロック共重合体が被覆された基材を作製した。
[細胞培養評価および剥離評価]
前記ブロック共重合体が被覆された基材を用いたこと以外は、実施例1[細胞培養評価および剥離評価]で培養を行った。
【0101】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。冷却操作及びタッピングによって細胞は剥離し、回収出来た。
【0102】
実施例4
[細胞培養評価および剥離評価]
実施例1で作製したブロック共重合体が被覆された基材にヒト間葉系幹細胞を5000個/cmの密度で播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。培地はMSCBM(Lonza製)を用いた。
【0103】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。冷却操作及びタッピングによって細胞は剥離し、回収出来た。
【0104】
実施例5
[継代培養及び未分化維持率評価]
実施例1で作製したジブロック共重合体が被覆された基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を1300個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0105】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から168時間後、培地を全て除去した後にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を含有する培地を加えた後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、ピペッティングを行うことにより細胞を基材から剥離して、細胞懸濁液を作製した。この細胞懸濁液を用いて、前記ブロック共重合体が被覆された基材に細胞を播種することで、継代を行った。同様の操作を繰り返すことにより、6回の継代を行った。
【0106】
6回の継代を行った細胞を剥離して回収し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBS緩衝液で処理した後、Alexa Fluor(商標) 647 anti-human SSEA-4 Antibodyで細胞を染色し、フローサイトメーターにより細胞の未分化維持率を測定した。未分化維持率は96%であった。
【0107】
実施例6
[継代培養及び未分化維持率評価]
実施例1で作製したブロック共重合体が被覆された基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を1300個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0108】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から168時間後、培地を全て除去した後にPBS緩衝液を加え、PBS緩衝液を吸引除去することで細胞を洗浄した。0.25mMのエチレンジアミン四酢酸を含有するPBS緩衝液を加え、37℃で5分間インキュベートした。Y-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を含有する培地を加えた後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、ピペッティングを行うことにより細胞を基材から剥離して、細胞懸濁液を作製した。この細胞懸濁液を用いて、前記ブロック共重合体が被覆された基材に細胞を播種することで、継代を行った。同様の操作を繰り返すことにより、6回の継代を行った。
【0109】
6回の継代を行った細胞を剥離して回収し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBS緩衝液で処理した後、Alexa Fluor(商標) 647 anti-human SSEA-4 Antibodyで細胞を染色し、フローサイトメーターにより細胞の未分化維持率を測定した。未分化維持率は85%であった。
【0110】
実施例7
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
実施例1で合成したブロック共重合体をエタノールに溶解させ、0.2wt%溶液とした。この溶液を直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)に50μL滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ブロック共重合体が被覆された基材を作製した。
[継代培養及び未分化維持率評価]
前記基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を260個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0111】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から168時間後、培地を全て除去した後にPBS緩衝液で細胞をリンスし、酵素溶液(TrypLE-EDTA溶液)を加えて37℃で4分間処理した後、酵素溶液を除去し、Y-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を含有する培地を加え、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、ピペッティングを行うことにより細胞を基材から剥離して、細胞懸濁液を作製した。この細胞懸濁液を用いて、前記ブロック共重合体が被覆された基材に細胞を播種することで、継代を行った。同様の操作を繰り返すことにより、5回の継代を行った。
【0112】
5回の継代を行った細胞を冷却剥離して回収し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBS緩衝液で処理した後、Alexa Fluor(商標) 647 anti-human SSEA-4 Antibodyで細胞を染色し、フローサイトメーターにより細胞の未分化維持率を測定した。未分化維持率は99%であった。また、細胞を剥離する操作を行った後、剥離せずに基材に残った細胞をセルスクレーパーで擦ることにより基材から剥離して回収し、同様に未分化維持率をフローサイトメーターで測定したところ、未分化維持率は94%であった。冷却による細胞の剥離では、未分化の多能性幹細胞を優先的に剥離回収可能であり、回収した細胞の未分化維持率を高めることが可能とわかった。
【0113】
実施例8
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
実施例1で合成したブロック共重合体をエタノールに溶解させ、0.4wt%溶液とした。この溶液を直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)に50μL滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ブロック共重合体が被覆された基材を作製した。
[継代培養及び未分化維持率評価]
前記基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を260個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0114】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から168時間後、培地を全て除去した後にPBS緩衝液で細胞をリンスし、酵素溶液(TrypLE-EDTA溶液)を加えて37℃で4分間処理した後、酵素溶液を除去し、Y-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を含有する培地を加え、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、ピペッティングを行うことにより細胞を基材から剥離して、細胞懸濁液を作製した。この細胞懸濁液を用いて、前記ブロック共重合体が被覆された基材に細胞を播種することで、継代を行った。同様の操作を繰り返すことにより、5回の継代を行った。
【0115】
5回の継代を行った細胞を冷却剥離して回収し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBS緩衝液で処理した後、Alexa Fluor(商標) 647 anti-human SSEA-4 Antibodyで細胞を染色し、フローサイトメーターにより細胞の未分化維持率を測定した。未分化維持率は98%であった。また、細胞を剥離する操作を行った後、剥離せずに基材に残った細胞をセルスクレーパーで擦ることにより基材から剥離して回収し、同様に未分化維持率をフローサイトメーターで測定したところ、未分化維持率は97%であった。いずれも高い未分化維持率であることから、継代培養における優れた未分化維持性を有することがわかった。
【0116】
実施例9
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
実施例1で合成したブロック共重合体をエタノールに溶解させ、0.6wt%溶液とした。この溶液を直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)に50μL滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ブロック共重合体が被覆された基材を作製した。
[継代培養及び未分化維持率評価]
前記基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を260個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0117】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から168時間後、培地を全て除去した後にPBS緩衝液で細胞をリンスし、酵素溶液(TrypLE-EDTA溶液)を加えて37℃で4分間処理した後、酵素溶液を除去し、Y-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を含有する培地を加え、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、ピペッティングを行うことにより細胞を基材から剥離して、細胞懸濁液を作製した。この細胞懸濁液を用いて、前記ブロック共重合体が被覆された基材に細胞を播種することで、継代を行った。同様の操作を繰り返すことにより、5回の継代を行った。
【0118】
5回の継代を行った細胞を冷却剥離して回収し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBS緩衝液で処理した後、Alexa Fluor(商標) 647 anti-human SSEA-4 Antibodyで細胞を染色し、フローサイトメーターにより細胞の未分化維持率を測定した。未分化維持率は99%であった。また、細胞を剥離する操作を行った後、剥離せずに基材に残った細胞をセルスクレーパーで擦ることにより基材から剥離して回収し、同様に未分化維持率をフローサイトメーターで測定したところ、未分化維持率は98%であり、いずれも高い未分化維持率であることから、継代培養における優れた未分化維持性を有することがわかった。
【0119】
実施例10
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
実施例1で合成したブロック共重合体をエタノールに溶解させ、0.6wt%溶液とした。この溶液を直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)に50μL滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ブロック共重合体が被覆された基材を作製した。
[iPS細胞/中胚葉細胞の共培養及び未分化維持率評価]
前記基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を260個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。また、ヒトiPS細胞201B7株の播種から144時間後に、ヒトiPS細胞201B7株由来の中胚葉細胞を1110個/cmで播種することで、ヒトiPS細胞の播種から168時間後に、基材上に存在する細胞の約90%がiPS細胞、10%が中胚葉細胞となるように培養を行った(全ての細胞を剥離した場合、未分化維持率90%となる)。
【0120】
ヒトiPS細胞の播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から168時間後、培地を全て除去した後、PBS緩衝液で細胞をリンスし、酵素溶液(TrypLE-EDTA溶液)を加えて37℃で4分間処理した後、酵素溶液を除去し、Y-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を含有する培地を加え、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、ピペッティングを行うことにより細胞を基材から剥離して回収した。
【0121】
4%パラホルムアルデヒドを含有するPBS緩衝液で剥離して回収した細胞を処理した後、Alexa Fluor(商標) 647 anti-human SSEA-4 Antibodyで細胞を染色し、フローサイトメーターにより細胞の未分化維持率を測定した。未分化維持率は98%であった。また、細胞を剥離する操作を行った後、剥離せずに基材に残った細胞をセルスクレーパーで擦ることにより基材から剥離して回収し、同様に未分化維持率をフローサイトメーターで測定したところ、未分化維持率は99%であり、いずれも高い未分化維持率であることから、酵素処理によって未分化の多能性幹細胞以外の細胞(中胚葉細胞)を除去することが可能とわかった。
【0122】
実施例11
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
実施例1で合成したブロック共重合体をエタノールに溶解させ、1.2wt%溶液とした。この溶液を直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)に50μL滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ブロック共重合体が被覆された基材を作製した。
[細胞培養評価および剥離評価]
前記ブロック共重合体が被覆された基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を1300個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0123】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認したが、細胞は通常のコロニーよりも小さなコロニーであり、増殖速度が遅い様子であった。細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。冷却操作及びタッピングによって細胞は剥離し、回収出来た。ただし、分化した細胞のみが基材に残留している様子は観察されず、未分化の多能性幹細胞のみを選択的に剥離回収することはできなかった。
【0124】
実施例12
[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]
実施例1で合成したブロック共重合体をエタノールに溶解させ、0.8wt%溶液とした。ポリエチレンテレフタレートフィルムにプラズマ照射を行った後、上記溶液を滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ブロック共重合体が被覆されたフィルム基材を作製した。さらにこのフィルム基材を折り曲げて端部を融着することで、バッグ型の培養容器を作製した。
[細胞培養評価および剥離評価]
前記ブロック共重合体が被覆された培養容器に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を1300個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0125】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、培養容器を振とう攪拌し、再度位相差顕微鏡で観察した。細胞は剥離し、回収出来た。
【0126】
比較例1
基材にブロック共重合体を被覆せず、直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)をそのまま用い、その他は実施例1と同様にして評価した。
[応答温度測定]
実施例1[ブロック共重合体の応答温度測定]と同様にして測定した。対水接触角が急激に変化する温度が存在せず、温度応答性を示さなかった。
[細胞培養評価および剥離評価]
直径3.5cmのディッシュをそのまま用いたこと以外は、実施例1[細胞培養評価および剥離評価]と同様の方法で培養を行った。
【0127】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に位相差顕微鏡で細胞の様子を観察した。いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。細胞は接着し、144時間後までの増殖したものの、冷却操作及びタッピングによって剥離しなかった。ブロック共重合体非存在では温度低下及びタッピングによる細胞の回収は出来なかった。
【0128】
比較例2
[重合体の合成]
試験管に、n-ブチルメタクリレート7.11g(50mmol)、アゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)を加え、1,4-ジオキサン50mLに溶解した。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をメタノール250mLに注ぎ、析出した黄色油状物質を回収して減圧乾燥し、n-ブチルメタクリレート重合体を得た。
[重合体が被覆された基材の作製]
前記重合体を用いたこと以外は、実施例1[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]と同様の方法で作製した。
[重合体の応答温度測定]
実施例1[ブロック共重合体の応答温度測定]と同様にして測定した。対水接触角が急激に変化する温度が存在せず、温度応答性を示さなかった。
[細胞培養評価および剥離評価]
前記共重合体が被覆された基材を用いたこと以外は、実施例1[細胞培養評価および剥離評価]と同様の方法で培養を行った。
【0129】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に位相差顕微鏡で細胞の様子を観察した。いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。細胞は接着し、144時間後までの増殖したものの、冷却操作及びタッピングによって剥離しなかった。ブロックセグメント(A)非存在下では温度低下及びタッピングによる細胞の回収は出来なかった。
【0130】
比較例3
[重合体の合成]
試験管に、N-イソプロピルアクリルアミド5.65g(50mmol)、アゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)を加え、1,4-ジオキサン50mLに溶解した。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をヘキサン500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥し、N-イソプロピルアクリルアミド重合体を得た。
[重合体が被覆された基材の作製]
前記重合体を用いたこと以外は、実施例1[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]と同様の方法で作製した。しかし、純水中に24時間浸漬させて洗浄したところ、重合体の大部分は溶解してしまった。重合体が水に溶解する場合、培養液へ重合体が溶出し、細胞を汚染してしまうため、N-イソプロピルアクリルアミド重合体は培養で使用できないことがわかった。
【0131】
比較例4
[ブロック共重合体の合成]
試験管に、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノイックアシッド0.40g(0.1mmol)、n-ブチルメタクリレート7.11g(50mmol)、アゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)を加え、1,4-ジオキサン50mLに溶解した。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をメタノール250mLに注ぎ、析出した黄色油状物質を回収して減圧乾燥し、n-ブチルメタクリレート重合体を得た。
【0132】
試験管に、前記n-ブチルメタクリレート重合体0.9g(0.3mmol)、N-イソプロピルアクリルアミド2.50g(22.2mmol)、アゾビスイソブチロニトリル5mg(0.03mmol)を加え、1,4-ジオキサン15mLに溶解させた。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、65℃で17時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をアセトンで希釈し、ヘキサン500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥した。また、アセトンに再度溶解させ、純水500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥し、N-イソプロピルアクリルアミドとn-ブチルメタクリレートのジブロック共重合体を得た。
[重合体が被覆された基材の作製]
前記重合体を用いたこと以外は、実施例1[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]と同様の方法で作製した。
[ブロック共重合体の応答温度測定]
実施例1[ブロック共重合体の応答温度測定]と同様にして測定した。応答温度は32℃であった。
[細胞培養評価および剥離評価]
前記ブロック共重合体が被覆された基材を用いたこと以外は、実施例1[細胞培養評価および剥離評価]と同様の方法で培養を行った。
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に位相差顕微鏡で細胞の様子を観察した。いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。細胞は接着し、144時間後までの増殖したものの、冷却操作及びタッピングによって剥離しなかった。ブロックセグメント(A)の含有量が90wt%以下のブロック共重合体では温度低下及びタッピングによる細胞の回収は出来なかった。
【0133】
比較例5
[共重合体の合成]
試験管に、N-イソプロピルアクリルアミド5.53g(49mmol)、n-ブチルメタクリレート0.028g(0.2mmol)、アゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)を加え、1,4-ジオキサン50mLに溶解した。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をヘキサン500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥し、N-イソプロピルアクリルアミドとn-ブチルメタクリレートのランダム共重合体を得た。
[共重合体が被覆された基材の作製]
前記重合体を用いたこと以外は、実施例1[ブロック共重合体が被覆された基材の作製]と同様の方法で作製した。しかし、純水中に24時間浸漬させて洗浄したところ、共重合体の大部分は溶解してしまった。重合体が水に溶解する場合、培養液へ重合体が溶出し、細胞を汚染してしまうため、N-イソプロピルアクリルアミドとn-ブチルメタクリレートのランダム共重合体は培養で使用できないことがわかった。
【0134】
比較例6
基材にブロック共重合体を被覆せず、直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)をそのまま用いた。
[継代培養及び未分化維持率評価]
前記ブロック共重合体が被覆された基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を1300個/cm、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。
【0135】
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から168時間後、培地を全て除去した後にPBS緩衝液を加え、PBS緩衝液を吸引除去することで細胞を洗浄した。0.25mMのエチレンジアミン四酢酸を含有するPBS緩衝液を加え、37℃で5分間インキュベートした。Y-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を含有する培地を加えた後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、ピペッティングを行い、さらに基材表面をセルスクレーパーで擦ることにより全ての細胞を基材から剥離して、細胞懸濁液を作製した。この細胞懸濁液を用いて、前記ブロック共重合体が被覆された基材に細胞を播種することで、継代を行った。同様の操作を繰り返すことにより、20回の継代を行った。
【0136】
20回の継代を行った細胞を剥離して回収し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBS緩衝液で処理した後、Alexa Fluor(商標) 647 anti-human SSEA-4 Antibodyで細胞を染色し、フローサイトメーターにより細胞の未分化維持率を測定した。未分化維持率は36%であった。
【0137】
比較例7
基材にN-イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合体が形成されたシャーレ((株)セルシード製UpCell(商標))を用いた。
[継代培養及び未分化維持率評価]
前記基材を用いたこと以外は、比較例6[継代培養及び未分化維持率評価]と同じ操作で5回の継代培養を行った。未分化維持率は63%であった。
【0138】
比較例8
[ブロック共重合体の合成]
試験管に、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノイックアシッド0.40g(0.1mmol)、n-ブチルメタクリレート7.11g(50mmol)、アゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)を加え、1,4-ジオキサン50mLに溶解した。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をメタノール250mLに注ぎ、析出した黄色油状物質を回収して減圧乾燥し、n-ブチルメタクリレート重合体を得た。
【0139】
試験管に、前記n-ブチルメタクリレート重合体0.9g(0.3mmol)、N-イソプロピルアクリルアミド2.65g(23mmol)、アゾビスイソブチロニトリル5mg(0.03mmol)を加え、1,4-ジオキサン15mLに溶解させた。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、65℃で17時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をアセトンで希釈し、ヘキサン500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥した。また、アセトンに再度溶解させ、純水500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥し、N-イソプロピルアクリルアミドとn-ブチルメタクリレートのジブロック共重合体を得た。
[重合体が被覆された基材の作製]
前記ブロック共重合体をエタノールに溶解させ、1wt%溶液とした。この溶液を直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)に50μL滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートした。室温で1時間乾燥した。さらに、純水中に24時間浸漬させて洗浄し、ブロック共重合体が被覆された基材を作製した。
[ブロック共重合体の応答温度測定]
実施例1[ブロック共重合体の応答温度測定]と同様にして測定した。応答温度は33℃であった。
[細胞培養評価および剥離評価]
前記ブロック共重合体が被覆された基材を用いたこと以外は、実施例1[細胞培養評価および剥離評価]と同様の方法で培養を行った。
細胞播種から24時間後、96時間後、144時間後に位相差顕微鏡で細胞の様子を観察した。いずれの場合においても細胞接着ならびに増殖を確認し、新しい前記培地に交換を行った。細胞播種から144時間後の培地交換の後、基材を4℃に冷却し、基材側面を叩いて振動を与え、再度位相差顕微鏡で観察した。細胞は接着し、144時間後までの増殖したものの、冷却操作及びタッピングによって剥離しなかった。ブロックセグメント(A)の含有量が90wt%以下のブロック共重合体では温度低下及びタッピングによる細胞の回収は出来なかった。
[継代培養及び未分化維持率評価]
前記ブロック共重合体が被覆された基材を用いたこと以外は、比較例6[継代培養及び未分化維持率評価]と同じ操作で5回の継代培養を行った。未分化維持率は69%であった。
【0140】
比較例9
基材にブロック共重合体を被覆せず、直径3.5cmのディッシュ(Corning Incorporated製、材質:ポリスチレン)をそのまま用い、その他は実施例10と同様にしてiPS細胞/中胚葉細胞の共培養の評価を行った。
【0141】
冷却では細胞が剥離せず、冷却剥離によって未分化の多能性幹細胞のみを剥離する効果はなかった。また、セルスクレーパーによって剥離した細胞の未分化維持率は90%であり、酵素処理によって未分化の多能性幹細胞以外の細胞(中胚葉細胞)を除去する効果はなかった。
【0142】
【表1】
【符号の説明】
【0143】
1 基材
2 ブロック共重合体
10 培養基材
図1
図2
図3
図4