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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ゴム発泡体、その製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20230613BHJP
   C08L 11/00 20060101ALI20230613BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20230613BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C08J9/04 103
C08J9/04 CEQ
C08L11/00
C08L1/02
C08K5/09
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019034082
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139009
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田直之
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/159081(WO,A1)
【文献】特開2018-188514(JP,A)
【文献】特表2017-523811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/04
C08L 11/00
C08L 1/02
C08K 5/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1~3を含む、クロロプレンゴム100重量部に対し、平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、リグニン含有量が20重量%以下で、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバーを1~7重量部含むゴム組成物の加硫物からなる発泡体の製造方法。
工程1:pHが10~14のクロロプレンラテックスに、平均繊維径が10~300n
mで、平均繊維長が0.5~200μmであって、リグニン含有量が20重量%以下で、
セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセル
ロースナノファイバーの水分散体を混合しセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス
混合液を作製し、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液から水を除去しゴ
ム組成物を析出させた後、熱風乾燥することによりゴム組成物を作製する工程
工程2:工程1で作製されたゴム組成物100重量部に対して、発泡剤を2~15重量
部配合し混練することによりコンパウンドを作製する工程
工程3:工程2で作製されたコンパウンドを 120~180℃で5~90分間加熱成
形し、加硫発泡させる工程
【請求項2】
クロロプレンゴムが、クロロプレンゴム100重量部に対してカルボン酸又はカルボン酸
のアルカリ金属塩を3~7重量部含むことを特徴とする請求項1に記載の発泡体の製造方法。
【請求項3】
発泡体のJIS―K―6253に記載の硬さ(Hs)とJIS―K―6268に記載の密度(ρ)の関係が密度0.2以上から0.6以下の範囲において、100ρ(1.2-ρ)+14≦Hsを満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡体の製造方法。
【請求項4】
工程1において、凍結凝固により水を除去することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の発泡体の製造法。
【請求項5】
工程1のセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度が1500mPa・
s以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
【請求項6】
工程1のセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の固形分が20重量%以上
であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より軽量かつ高硬度のゴム組成物の加硫物からなる発泡体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは、各種合成ゴムの中でも各物性のバランスが良好であるため幅広い用途に使用されており、例えば、ベルト、ホース、エアスプリング、接着剤などがある。また発泡体としても幅広く使用され、例えば、緩衝材、遮音材、断熱材、ドアパッキンなどがある。
【0003】
発泡体の大きな特徴の一つは、発泡による軽量化である。発泡を行わない加硫ゴムの比重はおおよそ1.0から1.3であるが、加硫ゴム発泡体は1.0未満の比重が可能で、添加する発泡材料の増量や加硫条件の変更により任意の比重に調整される。しかし、発泡材料の増量による軽量化では気泡の占める割合が多くなるため、加硫条件の変更では加硫を不十分な状態で終了するため、どちらも加硫ゴム発泡体の強度が損なわれ軽量化には限界がある。その他の軽量化の方法としてはゴム組成物よりも比重の大きな補強剤(カーボンブラック、シリカなど)や無機充填剤(タルク、クレーなど)の配合量を低減させる方法がある。しかし、補強剤の低減ではゴム組成物の強度の低下、無機充填剤の低減では配合コストの増加があり、大幅な軽量化は困難である。
【0004】
そこで、未加硫ゴムに超臨界流体を導入し発泡させて強度を低下させることなく軽量化する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、超臨界手法は工業化が困難であり、コストも非常に高いため実用性に乏しい。また、ポリオレフィン樹脂を溶融状態でミクロ分散させることにより軽量化する方法が提案されている(特許文献2~3)。ところが、ポリオレフィン樹脂を含むため、セット性に劣り発泡体としての用途に不適である。
【0005】
一方、新素材として木材パルプを微細化したセルロースナノファイバーが誕生し、各分野で工業利用の探索が行われている。その一つはゴムへの配合である。例えば、セルロースナノファイバーを変性させて耐久性を高めたゴム組成物が開示されている(特許文献4)。またセルロースナノファイバーを変性させた低エネルギーロスのタイヤが提案されている(特許文献5)。また、セルロースナノファイバーにシランカップリング剤を配合しポリマーとの相溶性を高めたゴム組成物が提案されている(特許文献6)。またセルロースナノファイバーを含有させた靴底用加硫ゴム発泡体が提案されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-322308号公報
【文献】特開2011-16978号公報
【文献】特開2008-111137号公報
【文献】特開2017-554109号公報
【文献】特開2015-056788号公報
【文献】特開2009-191198号公報
【文献】特開2015-072833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献4~6は高発泡、低比重のゴム加硫発泡体を対象としてはおらず、軽量化と高強度の両立を解決するようなものではない。特許文献7は加硫ゴム発泡体が対象であるが、靴底用途のためゴム成分は天然ゴム、SBR、EPDM、EVAであり、クロロプレンゴムに適してはいない。
【0008】
本発明はこの問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、軽量かつ高硬度を示すクロロプレンゴム組成物からなる発泡体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、このような背景の下、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、クロロプレンゴムとセルロースナノファイバーを含むゴム組成物の加硫物からなる発泡体を用いることで、軽量かつ高硬度が両立できることを見出した。即ち、本発明の各態様は以下に示す[1]~[8]である。
[1] クロロプレンゴム100重量部に対し、平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、リグニン含有量が20重量%以下で、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバーを1~7重量部含むゴム組成物の加硫物からなる発泡体。
[2] クロロプレンゴムが、クロロプレンゴム100重量部に対してカルボン酸又はカルボン酸のアルカリ金属塩を3~7重量部含むことを特徴とする上記[1]に記載の発泡体。
[3] JIS―K―6253に記載の硬さ(Hs)とJIS―K―6268に記載の密度(ρ)の関係が密度0.2以上から0.6以下の範囲において、100ρ(1.2-ρ)+14≦Hsを満たすことを特徴とする上記[1]又は[2]のいずれかに記載の発泡体。
[4] 下記の工程1~3を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
【0010】
工程1:pHが10~14のクロロプレンラテックスに、平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、リグニン含有量が20重量%以下で、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバーの水分散体を混合しセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液を作製し、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液から水を除去しゴム組成物を析出させた後、熱風乾燥することによりゴム組成物を作製する工程
工程2:工程1で作製されたゴム組成物100重量部に対して、発泡剤を2~15重量部配合し混練することによりコンパウンドを作製する工程
工程3:工程2で作製されたコンパウンドを 120~180℃で5~90分間加熱成形し、加硫発泡させる工程
[5] 工程1において、凍結凝固により水を除去することを特徴とする上記[4]に記載の発泡体の製造法。
[6] 工程1のセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度が1500mPa・s以下であることを特徴とする上記[5]に記載の発泡体の製造方法。
[7] 工程1のセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の固形分が20重量%以上であることを特徴とする上記[4]~[6]のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
[8] 上記[1]~[3]のいずれかに記載の発泡体からなるスポンジゴム。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の発泡体は、クロロプレンゴム100重量部に対し、平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、リグニン含有量が20重量%以下で、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバー1~7重量部含むゴム組成物の加硫物からなるものである。
【0013】
クロロプレンゴムは、クロロプレン、又はクロロプレン及びこれと共重合可能な単量体を乳化重合することにより得ることができる。
【0014】
クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、硫黄、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられ、このうち1種類以上を併用して用いることが可能であるが、例えば架橋点となる硫黄を共重合することでモジュラス等の力学物性向上が可能である反面耐熱性は低下するため、必ずしも必要ではなく、要求物性に応じて適時使用する。共重合可能な単量体量は特に限定するものではないが、クロロプレン重合体の特性を損なわない程度としてクロロプレンゴム100重量部に対し一般的に30重量部以下が用いられる。特に硫黄に関しては耐熱性が低下するため、クロロプレン単量体100重量部に対し3重量部以下が好ましく、さらには1重量部以下が好ましい。
【0015】
クロロプレンゴムは、カルボン酸又はカルボン酸のアルカリ金属塩を3~7重量%含むことが好ましい。3重量%以上ではクロロプレン重合時の乳化安定性に優れ、7重量%以下では凍結によるゴム析出工程にて凍結不良が生じることなく安定的なゴム製品の生産が可能となる。
【0016】
クロロプレンゴムの乳化重合では、例えば、上記の単量体を乳化剤、水、重合開始剤、連鎖移動剤、その他安定剤等を混合し、所定温度にて重合を行い、所定の重合転化率で重合停止剤を添加し重合を停止する方法があげられる。
【0017】
乳化剤としては、カルボン酸のアルカリ金属塩やスルホン酸のアルカリ金属塩を等が挙げられ、例えば、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、脂肪酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩、ポリカルボン酸のアルカリ金属塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系乳化剤、水溶性高分子化合物等があげられる。アルカリ金属塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等があげられる。これらは、1種類でも良く、2種類以上を含んでいても良いが、重合安定性、乾燥時の凝集性、及びゴムの性能の観点からカルボン酸のアルカリ金属塩を含む事が好ましく、なかでもロジン酸のアルカリ金属塩、更にはロジン酸のカリウム塩を含むことが好ましい。
【0018】
乳化剤の量は特に限定するものではないが、重合後に得られるクロロプレンラテックスの安定性を考慮するとクロロプレンゴム100重量部に対し、3~10重量部が好ましい。また、そのうちカルボン酸のアルカリ金属塩は3~8重量部が好ましく、更には5~7重量部含むことが好ましい。
【0019】
重合液のpHを調節するために、pH調節剤により、pHを11以上とすることが好ましい。これ以下ではカルボン酸のアルカリ金属塩が酸性化し、ラテックスの安定性が低下する。pH調節剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、アンモニア等の塩基性化合物等が挙げられ、ずれか1種類以上を単独または併用して用いる。
【0020】
乳化重合の開始剤としては、公知のフリーラジカル性物質、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物、過酸化水素、ターシャリーブチルヒドロパーオキサイド等の無機又は有機過酸化物等を用いることができる。また、これらは単独又は還元性物質、例えば、チオ硫酸塩、チオ亜硫酸塩、ハイドロサルファイト、有機アミン等との併用レドックス系で用いても良い。
【0021】
重合温度は特に限定するものではないが、10~50℃の範囲が好ましい。
【0022】
重合終了時期は特に限定するものでは無いが、生産性の面から、単量体の転化率が60%以上95%まで重合を行うことが好ましい。60%以下では生産量が少なくラテックスの固形分が低くなる。一方95%以上は重合時間が非常に長くなる。
【0023】
重合停止剤としては、通常用いられる停止剤であれば特に限定するものでなく、例えば、フェノチアジン、2,6-t-ブチル-4-メチルフェノール、ヒドロキシルアミン等が使用できる。
【0024】
硫黄を共重合した硫黄変性クロロプレンの場合は、続いて重合停止したラテックスに解膠剤及び解膠助剤を添加し適当なムーニー粘度になるまで解膠を行うことが可能である。解膠剤にはテトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド等のチウラム化合物が挙げられ、前記の乳化剤等を用いて乳化した状態で添加することができる。解膠反応開始剤としてはジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム等のチオカルバミン酸化合物等が挙げられる。
【0025】
解膠温度は5~60℃の範囲で行うことができ、好ましくは20~50℃の範囲である。一般に解膠温度が高いほど解膠反応が速くなる。
【0026】
解膠反応を終了させるムーニー粘度は、本発明の高弾性応力を満足させるものであれば特に限定はしないが、混練作業性を考慮すると20~80が好ましい。
【0027】
セルロースナノファイバーは木材に含まれるセルロースの繊維を平均繊維径数ナノ~数十ナノレベルまで解繊したものである。セルロースナノファイバーの原料である木材等にはリグニンが含まれるが、リグニン量を多く含むセルロースナノファイバーはクロロプレンラテックスの安定性を損なうことから、含まれるリグニン量は20重量%以下が好ましい。好ましくは10重量%以下であって、更に好ましくは5重量%以下である。解繊処理は主に機械的処理によるものと、化学処理により各種官能基を付与し、機械処理を併用することで、より細いシングルナノレベルまで実施するものがあるが、本発明では主に機械処理により得た平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバーを使用する。平均繊維径が10nm未満のセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックスの粘度が増大するため、凍結によるゴム析出工程に於いて問題が生じる。平均繊維径が300nmを超えるセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー含有クロロプレンゴム組成物の粘度が増大し、発泡体の成形加工性に問題を有する。好ましくは10~100nmである。一方、平均繊維長が0.5μm未満のセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー含有ゴム加硫物からなる発泡体の硬度が低下する。平均繊維長が200μmを超える場合には、セルロースナノファイバー含有ゴム組成物の粘度が上昇し、発泡体の成形加工性が劣る。好ましくは0.5~100μmである。また、セルロースナノファイバーがカルボン酸塩又はカルボン酸を有するとゴム中でのセルロースナノファイバーの分散状態が悪化するため、得られる加硫ゴムからなる発泡体の硬度が低下したり、ハンドリングが低下するため、セルロースにはカルボン酸塩及びカルボン酸で変性されていないものを用いる。
【0028】
本発明において、セルロースナノファイバーの含有量は、クロロプレンゴム100重量部に対して1~7重量部である。セルロースナノファイバー含有量が1重量部未満である場合には、発泡体の硬度が低下する。セルロースナノファイバー含有量が7重量部を超える場合には、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度が増大し、凍結によるゴム析出工程に於いて問題が生じ、経済的な優位性の観点からも適当ではない。好ましくは1~5重量部、更に好ましくは1~3重量部である。
【0029】
本発明の発泡体は、上記ゴム組成物の加硫体からなるものである。
【0030】
本発明の発泡体は、下記の工程1~3により製造される。
【0031】
工程1:pHが10~14のクロロプレンラテックスに、平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、リグニン含有量が20重量%以下で、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバーの水分散体を混合しセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液を作製し、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液から水を除去しゴム組成物を析出させた後、熱風乾燥することによりゴム組成物を作製する工程
工程2:工程1で作製されたゴム組成物100重量部に対して、発泡剤を2~15重量部配合し混練することによりコンパウンドを作製する工程
工程3:工程2で作製されたコンパウンドを 120~180℃で5~90分間加熱成形し、加硫発泡させる工程
また、本発明の発泡体の製造するためのゴム組成物は、クロロプレンラテックスにセルロースナノファイバーの水分散体を混合し、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液を作製し、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液から水を除去することにより得ることができる。
【0032】
工程1において、クロロプレンラテックスは、クロロプレンモノマー、及びクロロプレンモノマーと共重合可能な不飽和単量体を含み、乳化重合法で製造されるものであれば特に制限されるものではなく、クロロプレンゴムラテックスの乳化安定性の観点からpHが10~14であることが好ましい。
【0033】
セルロースナノファイバーの水分散体は、平均繊維径が10~300nm、平均繊維長が0.5~200μmとなるまで解繊したリグニン含有量が20重量%以下のセルロースナノファイバーを水に分散したものである。
【0034】
クロロプレンゴムラテックスとセルロースナノファイバーの水分散体を混合する方法としては、特に制限はなく、プロペラ型の攪拌装置や、ホモミキサー、高圧ホモジナイザーなどを用い、クロロプレンラテックスとセルロースナノファイバーの水分散体が外観上均一(塊等が無いこと)になるまで混合とすることで得ることができる。
【0035】
セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液からの水の除去方法(乾燥方法)としては、加熱乾燥や、酸や塩による凝集および凍結乾燥があるが、凝集させると乳化剤や凝固液や水分がゴムの内部に残存してしまうため、凍結によりゴムを析出(凍結凝固)させ、余分な乳化剤等を水洗除去してから熱風乾燥する方法が最も効率的で乾燥も容易であり好ましい。その際には凍結によりゴムが析出しやすくするため、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液のpHを10以下として凍結凝固させる方法が更に好ましい。
【0036】
得られたゴム組成物は、熱風乾燥により水分を蒸発させて乾燥される。具体的には、凍結凝固したシート状のゴムをベルトコンベア上に設置し、100℃以上に加熱した空気を送り込み、水分を蒸発させて乾燥されたゴム組成物が得られる。
【0037】
具体的には、凍結凝固したシート状のゴムをベルトコンベア上に設置し、100℃以上に加熱した空気を送り込み、水分を蒸発させて乾燥されたゴムを得る。
【0038】
凍結凝固させ乾燥する方法において、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は1500mPa・s以下であることが好ましく、更に1000mPa・s以下30mPa・s以上であることが好ましい。また、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の固形分は20重量%以上であることが好ましく、更に25重量%以上35重量%以下であることが好ましい。粘度が1500mPa・s以下の場合、凍結凝固が良好で好ましい。また、固形分が20重量%以上の場合、凍結したゴムフィルムが割れにくくなり、解凍した際のゴムフィルムの強度が増大するため、ゴム製品の連続生産に好適であり好ましい。
【0039】
工程2では、工程1で作製されたゴム組成物100重量部に対して、発泡剤を2~15重量部配合し混練することによりコンパウンドを作製され、工程3では、工程2で作製されたコンパウンドを 120~180℃で5~90分間加熱成形し、加硫発泡される。
【0040】
工程2で、工程1で作製されたゴム組成物は、通常のクロロプレンゴム同様に各種配合剤を配合混練される。工程2において、発泡剤は特に限定されないが加工性および製造効率の観点から、例えば、OBSH(4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド))等が使用できる。発泡剤の配合部数は、クロロプレンゴム100重量部に対して、2~15重量部が好ましく、更に2~10重量部がより好ましく、2~8重量部が最も好ましい。
【0041】
工程3では、工程2で作製された発泡剤を配合したコンパウンドをゴム用金型を用いて、120~180℃で5~90分加熱、好ましくは130~170℃で10~60分加熱することで発泡剤から気体が発生し、加硫と発泡が同時に進行し、加硫物からなるゴム発泡体(以下、加硫ゴム発泡体という場合がある)が得られる。
【0042】
本発明の発泡体は、軽量化の点で、その密度が0.6kg/cm以下であることが好ましく、0.5kg/cm以下であることがより好ましく、0.45kg/cm以下であることが特に好ましい。
【0043】
得られた加硫ゴム発泡体は、軽量かつ高硬度であるため、様々な用途に用いることができるが、特にウエットスーツやクッション材への適用が好ましい。
【0044】
一般的に、加硫ゴム発泡体は高発泡になり密度(ρ)が小さくなるほど硬さ(Hs)も低下する。
【0045】
例えば、発泡剤であるOBSHを10重量部配合したゴムコンパウンドを加硫発泡させた加硫ゴム発泡体の密度(ρ)は0.21で硬さ(Hs)は32であった。さらに、OBSHを6.5重量部配合したゴムコンパウンドを加硫発泡させた加硫ゴム発泡体の密度(ρ)は0.3で硬さ(Hs)は38、5重量部配合したゴムコンパウンドを加硫発泡させた加硫ゴム発泡体の密度(ρ)は0.39で硬さ(Hs)は43、2.1重量部配合したゴムコンパウンドを加硫発泡させた加硫ゴム発泡体の密度(ρ)は0.5で硬さ(Hs)は47であった。これらの実験結果より、4点の近似曲線は、100ρ(1.2-ρ)+11=Hsの式で表される。一方で、セルロースナノファイバーを含有する加硫ゴム発泡体は同じ硬さで低い密度を示す。これにより硬さを求められる製品の軽量化が可能であり望ましいが、加硫ゴム発泡体の密度は適切な範囲を超えて高ければ発泡体の利点である軽量とならず、低い範囲は発泡による達成が困難である。例えば、ゴム成分100重量部に対してセルロースの含有量が1重量部のクロロプレンゴム組成物に発泡剤であるOBSHを5重量部配合したゴムコンパウンドを加硫発泡させた加硫ゴム発泡体の密度(ρ)は0.37で硬さ(Hs)は45であり、100ρ(1.2-ρ)+14≦Hsを満たす。さらに、ゴム成分100重量部に対してセルロースの含有量が2.5重量部のクロロプレンゴム組成物に発泡剤であるOBSHを5重量部配合したゴムコンパウンドを加硫発泡させた加硫ゴム発泡体の密度(ρ)は0.35で硬さ(Hs)は46であり、100ρ(1.2-ρ)+16≦Hsを満たす。またゴム成分100重量部に対してセルロースの含有量が5重量部のクロロプレンゴム組成物に発泡剤であるOBSHを5重量部配合したゴムコンパウンドを加硫発泡させた加硫ゴム発泡体の密度(ρ)は0.33で硬さ(Hs)は49であり、100ρ(1.2-ρ)+18≦Hsを満たす。よって、加硫ゴム発泡体として有用な密度0.2から0.6の範囲において、100ρ(1.2-ρ)+14≦Hsであることが好ましく、さらには100ρ(1.2-ρ)+16≦Hsであることがより好ましく、さらには100ρ(1.2-ρ)+18≦Hsであることが最も好ましい。
【発明の効果】
【0046】
本発明のセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴム組成物からなる発泡体を用いることで、軽量かつ高硬度の加硫ゴム発泡体を得ることができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
<クロロプレンゴムラテックスの作製>
単量体混合物としてクロロプレン100重量部に対して硫黄0.3重量部を加え、ロジン酸のカリウム塩4.0重量部、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物のナトリウム塩0.5重量部、水酸化ナトリウム0.05重量部及び正燐酸ナトリウム1.0重量部、水100重量部を含む乳化水溶液と混合攪拌し乳化させ、これに過硫酸カリウム1.0重量部、アントラキノン-β-スルホン酸ナトリウム0.01重量部、水30重量部からなる重合触媒をポンプにより一定速度で添加し重合を行なった。重合は重合転化率70%になるまで重合触媒を添加して行ない、ここにチオジフェニルアミン0.01重量部、4-t-ブチルカテコール、2,2’-メチレンビス-4-メチル-6-t-ブチルフェノール0.05重量部、ジエチルヒドロキシルアミン0.1重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.05重量部、クロロプレン5.0重量部、水1.0重量部からなる重合停止剤を添加して重合を停止させた。続いて、これにテトラエチルチウラムジスルフィド2重量部のトルエン溶液をロジン酸カリウムで乳化した物、及びジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.3重量部を添加し、ムーニー粘度が60になるまで40℃で解膠を行った後、減圧下でスチームストリッピングにより未反応のクロロプレンを除去回収し、クロロプレンゴムラテックスを得た。尚、得られたクロロプレンゴムラテックスのpHは11.3であった。
【0049】
<セルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴム組成物の作製>
クロロプレンゴムラテックスに、セルロースナノファイバーの水分散体を所定量添加し、オートホモミキサー(プライミックス社製:PRIMIX)にて2,000rpmで10分間混合した。
【0050】
その後、15重量%希酢酸を用いてpHを6.5に調整し、ついで凍結凝固によりゴム組成物を析出させ、水洗した後、熱風乾燥させた。
【0051】
<粘度、固形分、pH>
粘度は、ビスメトロン粘度計(芝浦セムテック(株)社製:VD2)にて測定した。
【0052】
固形分は、液を約3g計量し、アルミ製蒸発皿の上で170℃15分乾燥し水分を除去し、除去前後の重量から算出した。
【0053】
pHはpHメーター((株)堀場製作所製)により、23℃におけるラテックスのpHを測定した。
【0054】
<カルボン酸またはカルボン酸のアルカリ金属塩の濃度>
使用した量から固形分あたりの濃度を算出した。
【0055】
<コンパウンドの作製>
セルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴム組成物中のクロロプレンゴム成分100重量部に対し、酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製 キョーワマグ150)4重量部、ステアリン酸(日油(株)製)0.5重量部、酸化亜鉛(堺化学(株)製)5重量部、SRFカーボンブラック(東海カーボン(株)製 シーストS)30重量部、エチレンチオウレア(三新化学工業(株)製 サンセラー22―C)0.35重量部、OBSH(ユニロイヤルケミカル(株)製セロゲンOT)5重量部をオープンロール混練機にて添加し、セルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンドを得た。
【0056】
<加硫ゴム発泡体の作製>
得られたセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンドを150℃で15分プレス加硫し、加硫発泡シートを作製した。
【0057】
<加硫物の力学物性測定>
得られた加硫発泡シートの硬度(Hs)をJIS-K-6253に従い、タイプCデュロメータで評価した。さらに密度(ρ)をJIS-K-6268に従い、A法の条件にて評価した。
【0058】
実施例1
クロロプレンゴムラテックス(固形分:36.5%)に機械的解繊手段によって製造されたセルロースナノファイバーの水分散体(モリマシナリー社製 グレード:C-100 繊維径:30~200nm、平均繊維長:100μm、固形分濃度:3重量% リグニン含有量:1重量%未満)を混合して10分間、上記の方法で撹拌しセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液を得た。なお、セルロースナノファイバーの混合量は、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースの含有量2.5重量部となる量とした。得られたセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度、固形分を表1に示す。セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は520mPa・s、固形分は28.7%であり、上記凍結、乾燥工程で問題なく、セルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴム組成物が得られた。
【0059】
このセルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴム組成物を上記方法に従ってセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンド及び加硫発泡シートを得て、硬さおよび密度を測定した。試験結果を表1に示す。表1から、硬さは46、密度は0.35で高硬度かつ低密度であった。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例2
セルロースナノファイバーの混合量を、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースナノファイバーの含有量が5重量部となる量にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンド及び加硫発泡シートを得て、硬さおよび密度を測定した。試験結果を表1に示す。表1から、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は1200mPa・s、固形分は23.8%であり、凍結、乾燥工程で問題はなかった。硬さは49、密度は0.32で高硬度かつ低密度であった。
【0062】
実施例3
セルロースナノファイバーの混合量を、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースナノファイバーの含有量が1重量部となる量にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンド及び加硫発泡シートを得て、硬さおよび密度を測定した。試験結果を表1に示す。表1から、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は110mPa・s、固形分は32.9%であり、凍結、乾燥工程で問題はなかった。硬さは45、密度は0.37で高硬度かつ低密度であった。
【0063】
比較例1
セルロースナノファイバーの混合量を、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースナノファイバーの含有量が10重量部となる量にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液を得た。得られたセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度が3020mPa・s、固形分は18.1%であり、凍結後のフィルム平滑性、強度に問題があり、セルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴム組成物が得られなかった。
【0064】
比較例2
セルロースナノファイバーの混合量を、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースナノファイバーの含有量が0.5重量部となる量にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンド及び加硫発泡シートを得て、硬さおよび密度を測定した。試験結果を表1に示す。表1から、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は50mPa・s、固形分は34.6%であり、凍結、乾燥工程で問題はなかった。硬さは44、密度は0.38で高硬度と低密度を両立できなかった。
【0065】
比較例3
セルロースナノファイバーを混合しなかった以外は、実施例1と同様にクロロプレンゴムコンパウンド及び加硫発泡シートを得て、硬さおよび密度を測定した。試験結果を表1に示す。硬さは43、密度は0.39で高硬度と低密度を両立できなかった。
【0066】
比較例4
OBSHの混合量を2重量部となる量にした以外は、比較例3と同様にクロロプレンゴムコンパウンド及び加硫発泡シートを得て、硬さおよび密度を測定した。試験結果を表1に示す。硬さは48、密度は0.52で高硬度と低密度を両立できなかった。
【0067】
比較例5
OBSHの混合量を8重量部となる量にした以外は、比較例3と同様にクロロプレンゴムコンパウンド及び加硫発泡シートを得て、硬さおよび密度を測定した。試験結果を表1に示す。硬さは33、密度は0.23で高硬度と低密度を両立できなかった。
【0068】
比較例6
セルロースナノファイバーをリグニン含有のリグノセルロースナノファイバー(モリマシナリー社製 グレード:L-45 繊維径:50~300nm 平均繊維長:45μm 固形分濃度:3重量% リグニン含有量:約30重量%)にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の作製を実施したが、その作製工程中においてゴムが析出し、セルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴムが得られなかった。