(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】赤外線遮断膜、塗液、及び赤外線遮断膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 125/08 20060101AFI20230613BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20230613BHJP
B32B 25/16 20060101ALI20230613BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230613BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230613BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230613BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20230613BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20230613BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20230613BHJP
C09D 5/32 20060101ALI20230613BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20230613BHJP
C09D 201/10 20060101ALI20230613BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230613BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230613BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C09D125/08
B32B7/027
B32B25/16
B32B27/18 Z
B05D7/24 303Z
B05D7/24 302Q
B05D5/00 Z
C08L53/02
C08K3/01
C08K5/00
C09D5/32
C09D5/33
C09D201/10
C09D7/63
C09D7/61
G02B5/00 Z
(21)【出願番号】P 2019120671
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 弘康
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108230(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135177(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00ー201/10
B32B 17/00ー17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、及び、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物からなる群より選択される一種以上を含むエラストマーを50重量%以上98重量%以下と、
赤外線を吸収又は反射する材料を2重量%以上10重量%以下と、を含む樹脂の膜であり、
厚みが0.1μm以上
20μm以下である、赤外線遮断膜。
【請求項2】
前記エラストマーが、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物である、請求項1に記載の赤外線遮断膜。
【請求項3】
非極性溶媒と、
エラストマーと、
赤外線を吸収又は反射する材料と、を含む塗液であって、
前記エラストマーが、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物であり、
前記赤外線を吸収又は反射する材料の、前記塗液の固形分重量に対する割合が2重量%以上10重量%以上である、塗液。
【請求項4】
赤外線遮断膜の製造方法であって、
非極性溶媒と、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、及び、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物からなる群より選択される一種以上を含むエラストマーと、赤外線を吸収又は反射する材料と、を含む塗液であって、前記赤外線を吸収又は反射する材料の、前記塗液の固形分重量に対する割合が2重量%以上10重量%以上である塗液を、基材上に塗布して塗布膜を形成する工程、
前記塗布膜から、溶媒を除去して前記赤外線遮断膜を得る工程、を含み、
前記赤外線遮断膜は、
前記エラストマーを50重量%以上98重量%以下と、
前記赤外線を吸収又は反射する材料を2重量%以上10重量%以下と、を含む樹脂の膜であり、厚みが0.1μm以上
20μm以下である、赤外線遮断膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線遮断膜、塗液、及び赤外線遮断膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線の透過量を低減する赤外線遮断膜としては、押し出しにより成形された、厚みが比較的大きい膜が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
赤外線遮断膜は、自動車、建造物の窓ガラスなどに貼付されるなどして、車室、建造物内部の温度上昇を抑制しうる。厚みの薄い赤外線遮断膜は、貼付される対象の透明性に影響を与えにくいため、厚みの薄い赤外線遮断膜が求められる。
赤外線遮断膜において、厚みを薄くし、かつ、良好な赤外線遮断性能を発揮させるために赤外線遮断機能を有する材料の割合を多くすると、膜の透明性が低下し、ヘイズ値が上昇する場合がある。
したがって、厚みが薄く、かつヘイズ値が十分に小さい赤外線遮断膜;かかる赤外線遮断膜を製造しうる塗液;かかる赤外線遮断膜を製造できる製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、特定のエラストマーと、赤外線遮断機能を有する材料とを特定の割合で含有させることにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0006】
[1] 水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、及び、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物からなる群より選択される一種以上を含むエラストマーを50重量%以上98重量%以下と、
赤外線を吸収又は反射する材料を2重量%以上10重量%以下と、を含む樹脂の膜であり、
厚みが0.1μm以上100μm以下である、赤外線遮断膜。
[2] 前記エラストマーが、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物である、請求項1に記載の赤外線遮断膜。
[3] 厚みが20μm以下である、[1]又は[2]に記載の赤外線遮断膜。
[4] 非極性溶媒と、
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、及び、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物からなる群より選択される一種以上を含むエラストマーと、
赤外線を吸収又は反射する材料と、を含む塗液であって、
前記赤外線を吸収又は反射する材料の、前記塗液の固形分重量に対する割合が2重量%以上10重量%以上である、塗液。
[5] 赤外線遮断膜の製造方法であって、
[4]に記載の塗液を、基材上に塗布して塗布膜を形成する工程、
前記塗布膜から、溶媒を除去して前記赤外線遮断膜を得る工程、を含み、
前記赤外線遮断膜は、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、及び、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物からなる群より選択される一種以上を含むエラストマーを50重量%以上98重量%以下と、赤外線を吸収又は反射する材料を2重量%以上10重量%以下と、を含む樹脂の膜であり、厚みが0.1μm以上100μm以下である、赤外線遮断膜の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、厚みが薄く、かつヘイズ値が十分に小さい赤外線遮断膜;かかる赤外線遮断膜を製造しうる塗液;かかる赤外線遮断膜を製造できる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0009】
本明細書において、赤外線とは、波長700nm以上の光を意味する。
【0010】
[1.赤外線遮断膜]
本発明の一実施形態に係る赤外線遮断膜は、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、及び、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物からなる群より選択される一種以上を含むエラストマーを50重量%以上98重量%以下と、赤外線を吸収又は反射する材料を2重量%以上10重量%以下と、を含む樹脂の膜であり、厚みが0.1μm以上100μm以下である。
赤外線遮断膜が、前記の構成を有することにより、厚みが薄く、かつヘイズ値が十分に小さい赤外線遮断膜を実現できる。
ここで、赤外線遮断膜とは、赤外線を遮断する機能を有する膜をいう。「赤外線を遮断する」とは、赤外線を完全に遮断し、膜における赤外線の透過率を0%とする場合の他、膜における赤外領域の少なくとも一部に含まれる波長の光についての透過率を、0%以上50%以下とする場合が含まれる。
【0011】
[1.1.エラストマー]
エラストマーとは、常温でゴムの特性を有する材料をいう。エラストマーは、小さい力の負荷では伸びも破断も生じにくい特徴を有する。具体的には、エラストマーは、23℃において、ヤング率0.001~1GPa、及び引張伸び(破断伸度)100~1000%の値を示す。
本実施形態の赤外線遮断膜に含まれるエラストマーは、熱可塑性エラストマーであることが好ましい。熱可塑性エラストマーは、40℃以上200℃以下の高い温度範囲において、貯蔵弾性率が急激に低下して損失正接tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)がピークを持つか、1を超える値を示し、軟化する。
ヤング率及び引張伸びは、JIS K7113に則り測定しうる。また損失正接tanδは市販の動的粘弾性測定装置により測定しうる。
【0012】
熱可塑性エラストマーは、一般に残留溶媒を含まないか含むとしてもその量は少ないのでアウトガスが少ないという利点、及び赤外線遮断膜の製造工程を、架橋処理等を伴わない簡略な工程としうるという利点を有する。
【0013】
本実施形態の赤外線遮断膜に含まれるエラストマーは、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、及び、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物からなる群より選択される一種以上を含む。以下、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体を共重合体Aともいう。
エラストマーにおける、共重合体Aと、共重合体Aの、ケイ素原子含有極性基による変性物との合計の重量割合は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは98重量%以上であり、通常100重量%以下であり、99.9重量%以下であってもよい。
エラストマーは、本発明の効果を著しく損ねない限りにおいて、共重合体A、及び、共重合体Aの、ケイ素原子含有極性基による変性物以外の、任意の重合体を含んでいてもよい。エラストマーにおける任意の重合体の総重量割合は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2重量%以下であり、通常0重量%以上であり、0重量%であってもよい。
【0014】
(共重合体A(水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体))
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の水素化物である。即ち、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合、芳香環の炭素-炭素結合、又はこれらの両方の、一部又は全部を水素化して得られる構造を有するものである。但し、本願において水素化物は、その製造方法によっては限定されない。
【0015】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体が好ましく、工業的な入手の容易さから、スチレンを用いることが特に好ましい。共役ジエンとしては、鎖状共役ジエン(直鎖状共役ジエン、分岐鎖状共役ジエン)が好ましく、具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが好ましく挙げられる。これらの中でも、工業的な入手の容易さから1,3-ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0016】
芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、及びこれらの混合物から選ばれるものであることが好ましい。これらのより具体的な例としては、特開平2-133406号公報、特開平2-305814号公報、特開平3-72512号公報、特開平3-74409号公報、及び国際公開第2015/099079号などの従来技術文献に記載されているものが挙げられる。
【0017】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。水素化率が高いほど、赤外線遮断膜の耐熱性及び耐光性を良好にできる。ここで、水素化物の水素化率は、1H-NMRによる測定により求めることができる。
【0018】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、赤外線遮断膜の耐光性及び耐酸化性を更に高くできる。
【0019】
また、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上である。芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、水素化物のガラス転移温度が高くなるので、赤外線遮断膜の耐熱性を効果的に高めることができる。さらに、赤外線遮断膜の光弾性係数を下げて、レターデーションの発現を低減することができる。
【0020】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体としては、共役ジエン由来の不飽和結合及び芳香環の両方を水素化してなる構造を有するものが好ましい。
【0021】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の特に好ましいブロックの形態は、共役ジエン重合体水素化物のブロック[B]の両端に芳香族ビニル重合体水素化物のブロック[A]が結合したトリブロック共重合体;重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、さらに、該両重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体である。特に、[A]-[B]-[A]のトリブロック共重合体であることが、製造が容易であり且つエラストマーとしての物性を所望の範囲とすることができるため、特に好ましい。
【0022】
全芳香族ビニル単量体単位が前記ブロック共重合体全体に占める質量分率をwAとし、前記ブロック共重合体中の全共役ジエン単量体単位が前記ブロック共重合体全体に占める質量分率をwBとしたときの、wAとwBとの比(wA:wB)は、好ましくは20/80以上、より好ましくは30/70以上であり、好ましくは60/40以下、より好ましくは55/45以下である。前記の比wA/wBを前記範囲の下限値以上にすることにより、赤外線遮断膜の耐熱性を向上させることができる。また、上限値以下にすることにより、赤外線遮断膜の柔軟性を高めることができる。
【0023】
(共重合体Aのケイ素原子含有極性基による変性物)
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体(共重合体A)の、ケイ素原子含有極性基による変性物は、前記水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体と、単量体としてのケイ素原子含有極性基を有する化合物とのグラフト重合により得られる構造を有する。ただし、当該変性物は、その製造方法によっては限定されない。
ケイ素原子含有極性基としては、アルコキシシリル基が好ましい。
【0024】
グラフト重合のための単量体として用いうるケイ素原子含有極性基を有する化合物の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及び2-ノルボルネン-5-イルトリメトキシシランなどの、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和シラン化合物が挙げられる。
【0025】
共重合体Aとケイ素原子含有極性基を有する化合物とを反応させることにより、共重合体Aにケイ素原子含有極性基を導入し、ケイ素原子含有極性基を有する変性物を得うる。ケイ素原子含有極性基としてアルコキシシリル基を導入する場合、アルコキシシリル基の導入量は、共重合体Aを100重量部に対し、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、更に好ましくは3重量部以下である。アルコキシシリル基の導入量を前記範囲に収めると、水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋度が過剰に高くなることを防止できるので、接着性を高く維持することができる。アルコキシシリル基の導入に用いるアルコキシシリル基を有する物質、及び変性方法の例としては、国際公開第2015/099079号等の従来技術文献に記載されているものが挙げられる。
【0026】
極性基の導入量は、1H-NMRスペクトルにて計測しうる。また、極性基の導入量の計測の際、導入量が少ない場合は、積算回数を増やして計測しうる。
【0027】
共重合体Aに、極性基としてアルコキシシリル基を導入することは、シラン変性と呼ばれる。シラン変性に際しては、共重合体Aにアルコキシシリル基を直接結合させてもよく、例えばアルキレン基などの2価の有機基を介して結合させてもよい。以下、共重合体Aのシラン変性により得られた重合体を「シラン変性物」ともいう。
【0028】
共重合体Aの、ケイ素原子含有極性基による変性物としては、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体のシラン変性物が好ましく、水素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体のシラン変性物、水素化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体のシラン変性物、水素化スチレン-イソプレンブロック共重合体のシラン変性物、及び水素化スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体のシラン変性物から選ばれる一種以上のシラン変性物が好ましい。
【0029】
赤外線遮断膜に含まれるエラストマーは、共重合体Aの、ケイ素原子含有極性基による変性物であることが好ましく;共重合体Aのアルコキシシリル基による変性物であることがより好ましく;水素化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体のシラン変性物、水素化スチレン-イソプレンブロック共重合体のシラン変性物、及び水素化スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体のシラン変性物から選ばれる一種以上のシラン変性物であることが、更に好ましい。
【0030】
(重量平均分子量及び分子量分布)
エラストマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは20,000以上、より好ましくは30,000以上、更に好ましくは35,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは70,000以下である。エラストマーの重量平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算の値で測定しうる。また、エラストマーの分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下であり、好ましくは1以上である。エラストマーの重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnを前記の範囲に収めることにより、赤外線遮断膜の機械強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0031】
(ガラス転移温度)
エラストマーのガラス転移温度は、特に限定されないが、好ましくは40℃以上、より好ましくは70℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下である。また、エラストマーとしてブロック共重合体を含むものを用いた場合には、それぞれの重合体ブロックの重量比率を変えてガラス転移温度を調整することにより、赤外線遮断膜の接着性と可撓性とのバランスを取ることができる。
【0032】
(エラストマーの割合)
本実施形態の赤外線遮断膜におけるエラストマーの割合は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上であり、通常98重量%以下、好ましくは97重量%以下である。
エラストマーの割合が、赤外線遮断膜において前記下限値以上であることにより、エラストマーが備える特性を、赤外線遮断膜において発揮させうる。
【0033】
[1.2.赤外線を吸収又は反射する材料]
本実施形態の赤外線遮断膜は、赤外線を吸収又は反射する材料を含む。
赤外線を吸収又は反射する材料とは、赤外線を吸収又は反射することにより、赤外線遮断膜に、赤外線を遮断する機能を付与しうる材料をいう。以下、赤外線を吸収又は反射する材料を、「赤外線遮断材料」ともいう。
【0034】
赤外線遮断材料の具体例としては、金属酸化物粒子、及び赤外線吸収色素が挙げられる。赤外線遮断材料としては、吸収又は反射させるべき波長の光に応じて、種々の市販品が入手可能である。
赤外線遮断材料は、一種単独で用いてもよく、二種以上の任意の割合の組み合わせで用いてもよい。
【0035】
金属酸化物粒子の例としては、酸化スズ粒子、六ホウ化ランタン粒子、セシウム酸化タングステン粒子、スズ酸化インジウム(ITO)粒子、アンチモン酸化スズ(ATO)粒子、酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、及びアルミニウムドープ酸化亜鉛が挙げられる。
【0036】
金属酸化物粒子の平均粒子径は、好ましくは1nm以上、好ましくは50nm以下、より好ましくは25nm以下である。金属酸化物粒子の平均粒子径が前記範囲に収まることにより、赤外線吸収膜を形成するための塗液において金属酸化物粒子がより良好に分散する。
本願において、一次粒子径とは、通常、一次粒子の数平均粒子径を表す。一次粒子の数平均粒子径は、レーザー回折粒度計を用いて、測定しうる。
レーザー回折粒度計を用いて測定された一次粒子の数平均粒子径が、40nm未満である場合は、一次粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径測定装置により好適に測定しうる。動的光散乱法による測定は、粒子を溶媒に分散させた分散液の状態で行ってもよい。
また、レーザー回折粒度計を用いて測定された一次粒子の数平均粒子径が、40nm未満である場合、又は、レーザー回折法及び動的光散乱法により測定ができない場合は、電子顕微鏡を用いた観察により平均粒子径を好適に求めうる。具体的には、以下の方法により平均粒子径を求めうる。電子顕微鏡を用いて、50個の粒子のそれぞれについて、一次粒子の短軸と長軸との和を求め、得られた和を2で割って得られた数値の算術平均値を、平均粒子径としうる。赤外線遮断膜の断面における粒子について観察してもよく、塗液における粒子について観察してもよい。
【0037】
赤外線吸収色素としては、例えば、シアニン化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、ニッケルジチオレン錯体、スクアリウム化合物、キノン系化合物、ジインモニウム化合物、及びアゾ化合物が挙げられる。
赤外線吸収色素の具体例としては、国際公開第2016/163409号(先行文献1)に記載された、赤外線吸収色素が挙げられる。
【0038】
赤外線遮断膜における赤外線遮断材料の含有率は、通常2重量%以上、好ましくは2.5重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
赤外線遮断材料の含有率が、前記範囲内に収まることにより、赤外線遮断膜における赤外線遮断性能と、ヘイズ値の低さとを、両立できる。
【0039】
[1.3.任意成分]
本実施形態の赤外線遮断膜は、前記のエラストマー及び赤外線遮断材料に加えて、本発明の効果を著しく損ねない限りにおいて、任意の成分を含んでいてもよい。
任意の成分の例としては、酸化防止剤;可塑剤;紫外線吸収剤;滑剤;及び、赤外線遮断材料に該当しない無機フィラーが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、フェノ-ル系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられ、着色がより少ないリン系酸化防止剤が好ましい。
【0041】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物;6-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン、6-〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピンなどの化合物を挙げることができる。
【0042】
酸化防止剤の量は、エラストマー100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上、更に好ましくは0.1重量部以上であり、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下、更に好ましくは0.3重量部以下である。酸化防止剤を前記範囲の下限値以上用いることにより、赤外線遮断膜の耐久性を改善することができる。酸化防止剤を前記範囲の上限値以下用いることにより、効率的に耐久性を改善することができる。
【0043】
可塑剤の好適な例としては、炭化水素系オリゴマー;一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステルなどの有機酸エステル系可塑剤;有機リン酸エステル系、有機亜リン酸エステル系などのリン酸エステル系可塑剤;並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
[1.4.赤外線遮断膜の厚み]
赤外線遮断膜の厚みは、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。本実施形態の赤外線遮断膜は、厚みが前記範囲内にあっても、赤外線遮断性能と、ヘイズ値の低さとを、両立できる。
赤外線遮断膜の厚みは、マイクロメーター(ミツトヨ社製「MDC-25MJ」等)により測定しうる。赤外線遮断膜が、基材上に形成されている場合は、例えば、以下の方法により測定しうる。
赤外線遮断膜の一部を、基材が表面に現れるまで削り、触針式表面粗さ計(ブルカーナノ社製「DEKTAKシリーズ」、小坂研究所製「ET4000」等)により基材と赤外線遮断膜との段差を測る。
【0045】
[1.5.赤外線遮断膜の物性]
(赤外線遮断膜のヘイズ値)
赤外線遮断膜のヘイズ値は、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下であり、通常0%以上であり、0.5%以上であってもよい。
本実施形態の赤外線遮断膜は、厚みが0.1μm以上100μm以下であっても、低いヘイズ値を有しうる。
【0046】
(赤外線遮断膜の赤外線遮断性能)
赤外線遮断膜の赤外線遮断性能は、赤外線遮断膜に含まれる赤外線遮断材料の特性及び含有量により変動しうるが、例えば、赤外線遮断膜は、波長1150nmの光線透過率が、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下であり、通常0%以上である。
【0047】
[1.6.赤外線遮断膜の使用態様]
本実施形態の赤外線遮断膜は、単独で赤外線遮断機能を有する部材として用いてもよく、他の任意の層と組み合わせて、赤外線遮断機能を有する部材として用いてもよい。任意の層の例としては、粘着層、UV吸収層、ハードコート層、及びプラスチック基材が挙げられる。
例えば、後述するように、赤外線遮断膜を塗布法により製造する場合、赤外線遮断膜を、赤外線遮断膜と基材との複層体の形態として用いてもよい。
【0048】
[2.塗液]
前記赤外線遮断膜は、従前公知の方法により製造することができる。しかし、フィッシュアイ欠陥の発生を抑制する観点から、前記赤外線遮断膜を、非極性溶媒と前記エラストマーと前記赤外線遮断材料とを含む塗液を用いた塗布法により製造することが好ましい。
赤外線遮断膜の製造方法については、後で詳細に説明する。
【0049】
まず塗布法に用いられる塗液について説明する。
本発明の一実施形態に係る塗液は、非極性溶媒と、前記共重合体A及び前記共重合体Aのケイ素原子含有極性基による変性物からなる群より選択される一種以上を含むエラストマーと、赤外線を吸収又は反射する材料と、を含む。
【0050】
塗液に含まれうる非極性溶媒を構成する物質の例としては、水及び無機物以外の、常温(好ましくは25℃)で液体の物質が挙げられ、より具体的には、例えば、炭化水素が挙げられる。炭化水素の例としては、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン(例、n-オクタン)、シクロオクタン、デカン、シクロデカン、ドデカン、シクロドデカン、トリデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、デカヒドロナフタレン、及びテトラヒドロナフタレンが挙げられる。非極性溶媒として、これらの任意の割合の組み合わせを用いてよい。
【0051】
塗液における非極性溶媒の含有量は、含まれる非極性溶媒の種類、所望の塗液の粘度などにより適宜設定してよい。例えば、非極性溶媒の含有量は、エラストマー1重量部に対して、好ましくは1重量部以上、より好ましくは1.5重量部以上であり、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。
【0052】
非極性溶媒は、表面張力γが特定の範囲にある非極性溶媒Bを含むことが好ましい。非極性溶媒が含んでいてもよい、非極性溶媒Bの表面張力γは、好ましくは15dyn/cm以上、より好ましくは20dyn/cm以上であり、好ましくは35dyn/cm以下、より好ましくは30dyn/cm以下である。非極性溶媒が、非極性溶媒Bを含むことにより、樹脂基材を含めた広範囲の基材上に、ピンホールの発生を抑制しつつ塗液を塗布できる。
【0053】
ここで、表面張力γは、温度20℃において、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用いて、白金プレートを測定対象で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定した値である。
【0054】
非極性溶媒を構成する物質の全量中、非極性溶媒Bの割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上であり、通常100重量%以下である。非極性溶媒Bの割合が、前記下限値以上であることにより、樹脂基材を含めた広範囲の基材上に、ピンホールの発生をより効果的に抑制しつつ塗液を塗布できる。
【0055】
本実施形態の塗液は、非極性溶媒に加え、本発明の効果を著しく損ねない限りにおいて例えば、非極性溶媒と良好に相溶しうる極性の溶媒を含んでもよい。塗液は、より具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等の、極性溶媒として用いられる物質を含んでいてもよい。例えば、極性溶媒の含有量は、非極性溶媒100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは10重量部以下であり、通常0重量部以上であり、0重量部としてもよい。
【0056】
本実施形態の塗液に含まれうる、エラストマー及び赤外線を吸収又は反射する材料(赤外線遮断材料)は、それぞれ前記[1.赤外線遮断膜]において説明したエラストマー及び赤外線遮断材料と同様としうる。
【0057】
塗液におけるエラストマーの割合は、特に限定されず、適宜調整しうる。具体的には、塗液全量におけるエラストマーの割合は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上であり、好ましくは40重量%以下、より好ましくは35重量%以下である。
【0058】
赤外線遮断材料は、塗液の固形分重量に対する割合が、通常2重量%以上、好ましくは2.5重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
ここで、塗液の固形分とは、溶媒以外の成分であり、通常は、塗液を乾燥させ溶媒を揮発させた後に残留する成分の全てである。
【0059】
塗液は、非極性溶媒、エラストマー及び赤外線遮断材料に加えて、本発明の効果を著しく損ねない限りにおいて、任意の成分を含んでいてもよい。塗液に含まれうる任意の成分としては、前記[1.赤外線遮断膜]において説明した、赤外線遮断膜に含まれうる任意の成分と同様のものが挙げられる。
【0060】
塗液の粘度は、好ましくは100cP以上、より好ましくは150cP以上であり、好ましくは5000cP以下、より好ましくは3000cP以下である。
塗液の粘度が、前記下限値以上であることにより、所望の厚みを有する塗布膜を容易に得られる。また、前記上限値以下であることにより、塗布の速度をより大きくできるため、赤外線遮断膜の製造を高速で行いうる。
粘度は、音叉型振動式粘度計により、25℃±2℃の条件で測定されうる。
【0061】
[3.赤外線遮断膜の製造方法]
本発明の一実施形態に係る赤外線遮断膜の製造方法は、塗液を、基材上に塗布して塗布膜を形成する工程(1)、前記塗布膜から、溶媒を除去して赤外線遮断膜を得る工程(2)、を含む。赤外線遮断膜を、工程(1)及び工程(2)を含む方法により製造することにより、フィッシュアイ欠陥の少ない赤外線遮断膜が得られうる。
【0062】
[3.1.工程(1) 塗布膜形成工程]
工程(1)では、塗液から塗布膜を形成する。塗布膜を形成するための塗液は、前記[2.塗液]において説明した塗液を用いうる。
塗液を塗布する基材として、任意の基材を用いうる。基材は、剛直な部材であってもよく、可撓性を有する部材であってもよい。基材の例としては、ガラス、樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムの材料の例としては、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂が挙げられ、中でも、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び加工性の観点から、シクロオレフィン樹脂が好ましい。
【0063】
塗布の方法としては、従前公知の方法を用いうる。塗布の方法の例としては、バーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法が挙げられ、好ましくは、バーコート法又はダイコート法である。バーコート法の実施のために、市販のアプリケータを用いうる。
【0064】
[3.2.工程(2) 溶媒除去工程]
工程(2)では、工程(1)で得られた塗布膜から溶媒を除去する。塗布膜からの溶媒の除去の方法としては、任意の方法を用いることができ、例えば、熱風、赤外線照射などによる加熱、及び減圧が挙げられる。加熱及び減圧を併用してもよい。
加熱温度は、例えば、好ましくは60℃以上、より好ましくは100℃以上、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃としうる。
加熱時間は、例えば、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、好ましくは15分以下、より好ましくは10分以下としうる。
【0065】
[3.3.任意の工程]
本実施形態の赤外線遮断膜の製造方法は、工程(1)及び(2)に加えて、任意の工程を含みうる。任意の工程の例としては、基材と赤外線遮断膜とを含む積層体から、基材を剥離する工程が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0067】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0068】
[評価方法]
(膜厚)
ガラス上に形成された樹脂膜の厚みを、接触式表面粗さ計(小坂研究所製「ET4000」)により測定した。具体的には、樹脂膜の一部を、ガラスが表面に現れるまで削り、基材と樹脂膜との段差を接触式表面粗さ計で測定した。
【0069】
(ヘイズ値)
ガラス上に形成された樹脂膜のヘイズ値をヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH4000」)により測定した。
【0070】
(樹脂のヤング率、引張伸び及びtanδ)
樹脂の23℃におけるヤング率及び引張伸びは、JIS K7113に則り測定した。40℃以上200℃以下における樹脂の損失正接tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)は、樹脂をフィルム状にしてから幅10mm×長さ20mmの試験片を切り出し日立ハイテクサイエンス社製の動的粘弾性測定装置DMS6100を用い測定した。
【0071】
(表面張力γ)
溶媒の表面張力γは、温度20℃において、自動表面張力計「CBVP-Z」(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
【0072】
(塗液の粘度)
塗液の粘度を、下記の方法により測定した。
測定機器としては、株式会社エー・アンド・デイ製の音叉型振動式粘度計SV-10を用いた。サンプル容器の基準線の間に塗液の液面がくるように容器を満たし、振動子を規定の位置まで塗液中に入れて測定した。測定は25℃±2℃の環境下で行った。
【0073】
(樹脂膜の光線透過率)
分光光度計(日本分光社製「V-570」)を用いて、波長800nm以上2000nmの範囲で、ガラス板上に形成された樹脂膜の光線透過率を測定した。具体的には、ガラス板及び樹脂膜全体の光線透過率及びガラス板のみの光線透過率を測定し、ガラス板のみの光線透過率を100%として、樹脂膜の光線透過率を計算により求めた。
【0074】
[製造例1]
(P1-1.水素化ブロック共重合体の製造)
芳香族ビニル化合物としてスチレンを用い、鎖状共役ジエン化合物としてイソプレンを用いて、ブロック共重合体の水素化物(水素化ブロック共重合体)を、以下の手順により製造した。製造されたブロック共重合体の水素化物は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック構造を有する。
【0075】
内部が充分に窒素置換された、攪拌装置を備えた反応器に、脱水シクロヘキサン256部、脱水スチレン25.0部、及びn-ジブチルエーテル0.615部を入れ、60℃で攪拌しながらn-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)1.35部を加えて重合を開始させ、さらに、攪拌しながら60℃で60分反応させた。この時点での重合転化率は99.5%であった(重合転化率は、ガスクロマトグラフィーにより測定した。以下にて同じ。)。
【0076】
次に、脱水イソプレン50.0部を加え、同温度で30分攪拌を続けた。この時点での重合転化率は99%であった。
その後、さらに、脱水スチレンを25.0部加え、同温度で60分攪拌した。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。
次いで、反応液にイソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止させて、ブロック共重合体を含む溶液(i)を得た。
得られた溶液(i)中のブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は44,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.03であった(テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算の値で測定。以下同じ)。
【0077】
次に、溶液(i)を攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、溶液(i)に水素化触媒としてシリカ-アルミナ担持型ニッケル触媒(E22U、ニッケル担持量60%;日揮化学工業社製)4.0部及び脱水シクロヘキサン350部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度170℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行なうことによりブロック共重合体を水素化して、ブロック共重合体の水素化物(ii)を含む溶液(iii)を得た。溶液(iii)中の水素化物(ii)の重量平均分子量(Mw)は45,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.04であった。
【0078】
水素化反応の終了後、溶液(iii)をろ過して水素化触媒を除去した。その後、ろ過された溶液(iii)に、リン系酸化防止剤である6-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン(住友化学社製「スミライザー(登録商標)GP」。以下、「酸化防止剤A」という。)0.1部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加して溶解させ、溶液(iv)を得た。
【0079】
次いで、溶液(iv)を、ゼータプラス(登録商標)フィルター30H(キュノー社製、孔径0.5μm~1μm)にて濾過し、さらに別の金属ファイバー製フィルター(孔径0.4μm、ニチダイ社製)にて順次濾過して微小な固形分を除去した。ろ過された溶液(iv)から、円筒型濃縮乾燥器(製品名「コントロ」、日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶媒であるシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去した。そして、前記の濃縮乾燥器に直結したダイから、固形分を溶融状態でストランド状に押出し、冷却し、ペレタイザーでカットして、ブロック共重合体の水素化物及び酸化防止剤Aを含有する、ペレット(v)85部を得た。得られたペレット(v)中のブロック共重合体の水素化物(水素化ブロック共重合体)の重量平均分子量(Mw)は45,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.08であった。また、1H-NMRにより測定した水素化率は99.9%であった。
このペレット(v)からフィルム状の試験片を作製し、ガラス転移温度Tgを動的粘弾性測定装置のtanδピークで評価したところ、130℃であった。またこのペレット(v)の40℃以上200℃以下におけるtanδのピーク値は1.4であった。このペレット(vi)の、23℃におけるヤング率は0.6GPaであり、引張伸びは550%であった。したがって、得られた水素化ブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーであった。
【0080】
[製造例2]
製造例1で得られたブロック共重合体の水素化物(水素化ブロック共重合体)のペレット(v)を用いて、下記の方法により、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(水素化ブロック共重合体のアルコキシシリル基による変性物)を得た。
【0081】
(P2-1.水素化ブロック共重合体のシラン変性物の製造)
製造例1の(P1-1)で得られたペレット(v)100部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.0部及びジ-t-ブチルパーオキサイド0.2部を添加し、混合物を得た。この混合物を、二軸押出し機を用いて、バレル温度210℃、滞留時間80秒~90秒で混練した。混練された混合物を押し出し、ペレタイザーでカットして、水素化ブロック共重合体のシラン変性物のペレット(vi)を得た。このペレット(vi)からフィルム状の試験片を作製し、ガラス転移温度Tgを動的粘弾性測定装置のtanδピークで評価したところ、124℃であった。またこのペレット(vi)の40℃以上200℃以下におけるtanδのピーク値は1.3であった。このペレット(vi)の、23℃におけるヤング率は0.5GPaであり、引張伸びは550%であった。したがって、得られた水素化ブロック共重合体のシラン変性物は、熱可塑性エラストマーであった。
また、このペレット(vi)のアッベ屈折計により測定した屈折率(n1)は1.50であった。
【0082】
[実施例1]
(1-1.塗液の調製)
エラストマーとして、製造例2で製造された、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(ペレット(vi))32部に、非極性溶媒としてのデカヒドロナフタレン68部を加えてペレット(vi)を溶解し、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に、ITO粒子がトルエン中に分散している、10%のITO粒子分散液を10部加えた。デカヒドロナフタレンは、沸点が190℃であり、表面張力が30dyn/cmである。また、ITO粒子は、一次粒子の数平均粒子径が20nmである。
一次粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定装置「データサイザーナノ」(マルバーン社製)を用い、ITO粒子分散液を適宜希釈して測定した。
また、トルエンに分散させる前のITO粒子の一次粒子径を、透過型電子顕微鏡(TEM)による粒子の観察によって測定したところ、20nmであった。具体的には、以下の方法により測定した。50個のITO粒子のそれぞれについて、一次粒子の短軸と長軸との和を求めた。得られた和を2で割って得られた数値の算術平均値を、TEMの観察によるITO粒子の一次粒子径とした。
これにより、固形分に対して3%のITO粒子を含む、塗液1を得た。塗液1の粘度を、前記の方法により測定した。
【0083】
(1-2.赤外線遮断膜の作製)
塗液1を、ガラス板(厚み0.7mm、コーニング1737)上にアプリケータを用いて塗布することにより、塗布膜を形成した。次いでガラス板上の塗布膜を、130℃、5分間の条件で乾燥させて、溶媒を除去した。乾燥後の塗布膜(樹脂膜)の厚みは、50μmであった。
得られた樹脂膜について、前記の方法により、光線透過率及びヘイズ値を測定した。
【0084】
[実施例2]
下記の事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂膜を得た。
・(1-2.赤外線遮断膜の作製)において、アプリケータの条件(隙間の大きさ)を調整することにより、乾燥後の厚みが80μmである樹脂膜を得た。
得られた樹脂膜について、前記の方法により、光線透過率及びヘイズ値を測定した。
【0085】
[実施例3]
下記の事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂膜を得た。
・(1-1.塗液の調製)において、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(ペレット(vi))の量を、32部から35部に変更した。また、デカヒドロナフタレン68部の代わりにエチルシクロヘキサン65部を用いた。さらに、10%のITO粒子分散液の量を、10部から7部に変更した。
・(1-2.赤外線遮断膜の作製)において、アプリケータの条件(隙間の大きさ)を調整することにより、乾燥後の厚みが40μmである樹脂膜を得た。
エチルシクロヘキサンは、沸点130℃、表面張力26.5dyn/cmである。
得られた樹脂膜について、前記の方法により、光線透過率及びヘイズ値を測定した。
【0086】
[実施例4]
下記の事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂膜を得た。
・(1-1.塗液の調製)において、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(ペレット(vi))の量を、32部から35部に変更した。また、デカヒドロナフタレン32部の代わりにエチルシクロヘキサン65部を用いた。さらに、10%のITO粒子分散液の量を、10部から30部に変更した。
・(1-2.赤外線遮断膜の作製)において、アプリケータの条件(隙間の大きさ)を調整することにより、乾燥後の厚みが10μmである樹脂膜を得た。
得られた樹脂膜について、前記の方法により、光線透過率及びヘイズ値を測定した。
【0087】
[比較例1]
下記の事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂膜を得た。
・(1-1.塗液の調製)において、ITO粒子分散液を加えなかった。
得られた樹脂膜について、前記の方法により、光線透過率及びヘイズ値を測定した。
【0088】
[比較例2]
下記の事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂膜を得た。
・(1-1.塗液の調製)において、10%のITO粒子分散液の量を、10部から44部に変更した。
・(1-2.赤外線遮断膜の作製)において、アプリケータの条件(隙間の大きさ)を調整することにより、乾燥後の厚みが80μmである樹脂膜を得た。
得られた樹脂膜について、前記の方法により、光線透過率及びヘイズ値を測定した。
【0089】
実施例1~4で得られた樹脂膜は、押出法で見られる場合があるフィッシュアイ欠陥のような凹凸のない、滑らかな表面を有していた。
下表に、実施例及び比較例で用いた塗液の配合及び粘度、得られた樹脂膜の厚み、800nm、1150nm、1500nm、2000nmにおける、光線透過率、並びにヘイズ値を示す。
【0090】
【0091】
以上の結果より、以下の事項が分かる。
実施例1~4で用いた塗液から、厚みが100μ以下であって薄く、かつヘイズ値が10%以下であって十分に小さい、赤外線領域にある波長の光を良好に遮断できる赤外線遮断膜が得られる。
一方、比較例1で用いた塗液から得られる樹脂膜は、ヘイズ値は小さく良好であるものの、赤外線領域にある波長の光の透過率が70%より大きく、赤外線遮断膜として機能しないことが分かる。
また、比較例2で用いた塗液から得られる樹脂膜は、赤外線遮断膜として機能するものの、ヘイズ値が10%より大きく、実施例1~4に係る樹脂膜と比較して劣る。
【0092】
以上の結果は、本発明に係る赤外線遮断膜が、赤外線遮断膜として良好に機能しながら、十分に小さいヘイズ値を有することを示す。