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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20230613BHJP
   H01B 11/02 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01B11/00 A
H01B11/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019164535
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021044125
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】塚本 佳典
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
(72)【発明者】
【氏名】森山 真至
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-019280(JP,A)
【文献】特開平04-102580(JP,A)
【文献】特開2004-192815(JP,A)
【文献】特開平07-272553(JP,A)
【文献】特開2007-234574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体を被覆する導体保護層と、
前記導体保護層を被覆する絶縁体と、を少なくとも備え、
前記導体保護層は、フッ素樹脂をベースとする樹脂組成物が前記導体の周囲に非充実押出成形されたものであり、前記導体と前記絶縁体との間において、前記絶縁体へ照射されたレーザ光が前記絶縁体を通過したときに、前記レーザ光を反射あるいは吸収することによって前記レーザ光から前記導体を保護し、かつ、前記レーザ光が照射されたあとの前記絶縁体と一体に剥ぎ取りが可能に構成されている、
信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記導体は、一対の導体からなり、
前記導体保護層は、前記一対の導体それぞれを個別に被覆するように設けられている、
請求項1に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記導体保護層が、前記レーザ光を反射あるいは吸収する着色剤を含む着色層からなり、前記導体の外面に接着あるいは融着しておらず、前記絶縁体の内面に接着あるいは融着している、
請求項1または2に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記導体保護層が、YAGレーザ光を反射あるいは吸収する着色剤を含む着色層からなる、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
前記導体保護層の厚さが、0.03mm以上0.06mm以下である、
請求項1乃至の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項6】
前記絶縁体の周囲を覆うめっき層と、
前記絶縁体と前記めっき層との間に、前記絶縁体と接触した状態で設けられ、且つその外面に前記めっき層が設けられるクラック抑制層と、を備え、
前記クラック抑制層は、前記絶縁体の曲げに対してケーブル長手方向に相対移動しながら曲がることにより、前記めっき層に対するクラックを抑制する、
請求項1乃至の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項7】
記導体が、単線導体または圧縮撚線導体からなる、
請求項1乃至の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器間の信号伝送、又は、電子機器内の基板間の信号伝送等に、差動信号伝送用ケーブルや同軸ケーブル等の信号伝送用ケーブルが用いられている。電子機器としては、例えば、数Gbps以上の高速信号を扱うサーバ、ルータ、ストレージ製品等が挙げられる。
【0003】
従来の信号伝送用ケーブルとして、導体と、導体を被覆する絶縁体とを備えた同軸ケーブルや、一対の導体と、一対の導体を一括して被覆する絶縁体とを備えた差動信号伝送用ケーブルが知られている。この信号伝送用ケーブルでは、例えば数Gbps以上の高速信号を伝送するために、その端末部の加工(端末処理加工という)が精度よく行われない場合、当該端末部において伝送損失が非常に大きくなってしまうおそれがある。このような端末部での伝送損失の増大を抑制し、高精度な端末処理加工を行うため、COレーザやYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ等のレーザ光を用いた端末処理加工がおこなわれている。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4702224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーザ光を用いて信号伝送用ケーブルの端末処理加工を行う場合、絶縁体に照射されたレーザ光が絶縁体を通過して導体まで達してしまい、レーザ光が導体に損傷を与えてしまうおそれがある、という問題があった。
【0007】
本発明は、レーザ光を使った端末処理加工において、レーザ光による導体への損傷を抑制することが可能な信号伝送用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体と、前記導体を被覆する導体保護層と、前記導体保護層を被覆する絶縁体と、を少なくとも備え、前記導体保護層は、前記導体と前記絶縁体との間において、前記絶縁体へ照射されるレーザ光を反射あるいは吸収することによって前記レーザ光から前記導体を保護する、信号伝送用ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザ光による端末処理加工において、レーザ光による導体への損傷を抑制することが可能な信号伝送用ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る信号伝送用ケーブルのケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図2】(a)~(c)は、本発明の一実施の形態に係る信号伝送用ケーブルのクラック抑制層を説明する図である。
図3】絶縁体に対してクラック抑制層が相対移動することによる効果を説明する図である。
図4】本発明の一変形例に係る信号伝送用ケーブルのケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図5】本発明の一変形例に係る信号伝送用ケーブルのケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブルのケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図である。図1に示すように、信号伝送用ケーブル1は、ケーブル中心に配置される一対の導体2と、一対の導体2のそれぞれを個別に被覆する導体保護層6と、一対の導体2を一括して覆うように導体保護層6の周囲を被覆する絶縁体3と、絶縁体3の周囲を覆うシールド層としてのめっき層4と、めっき層4の周囲を覆うシース5と、を備えている。本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1は、差動信号を伝送する差動信号伝送用ケーブルである。
【0013】
信号伝送用ケーブル1は、例えば、電子機器間の信号伝送や、電子機器内の基板間の信号伝送等に用いられるものであり、例えば、数Gbps以上の高速信号の伝送に用いられる。電子機器内等の小スペースでも配線できるように、信号伝送用ケーブル1は比較的細径とされている。
【0014】
(導体2)
本実施の形態では、導体2は、単線導体からなる。導体2に用いる単線導体としては、例えば銅や銅合金からなるものを用いることができる。一対の導体2は、ケーブル中心に対して対称な位置に設けられており、一対の導体2間の距離がケーブル長手方向にわたって一定となるように平行に設けられている。
【0015】
なお、導体2は、複数の素線を撚り合わせ、かつ、ケーブル長手方向に垂直な断面形状が円形状等の所定形状となるように圧縮加工された圧縮撚線導体からなってもよい。導体2として圧縮撚線導体を用いることで、素線同士が密着して素線間の隙間が無くなるため、導電率が向上し良好な減衰特性が得られる。また圧縮撚線導体及び撚線導体は、単線導体と比較して曲げたときに断線しにくい。
【0016】
良好な減衰特性を得るため、導体2の導電率は99%IACS以上とすることが望ましい。例えば、導体2を圧縮撚線導体とする場合、高い導電率を実現するため、導体2の素線として、めっきを施していない純銅からなる軟銅線を用いるとよい。また、導電率99%IACS以上のめっきであれば施してもよく、例えば銀メッキを施した軟銅線を素線として用いてもよい。また、圧縮工程で素線に歪が付与され導電率が低下してしまうが、この後、加熱処理(アニール処理)を行うことで、歪を除去して99%IACS以上の導電率を実現することができる。
【0017】
(絶縁体3)
絶縁体3は、一対の導体2を一括して覆うように導体保護層6の周囲を被覆して設けられている。ケーブル長手方向に対して垂直な断面において、絶縁体3は、楕円形状(あるいは長円形状(角丸長方形状))等の円形状となるように形成されている。
【0018】
絶縁体3としては、高周波信号の伝送特性を向上させるために、なるべく誘電率が低いものを用いることが望ましい。本実施の形態では、絶縁体3として、フッ素樹脂からなるものを用いた。絶縁体3に用いるフッ素樹脂としては、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が挙げられる。
【0019】
なお、絶縁体3として、例えばポリエチレン等のフッ素樹脂以外の樹脂からなるものを用いてもよい。また、絶縁体3として、発泡ポリエチレン等の発泡樹脂を用いてもよい。ただし、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1は比較的細径であることから、絶縁体3の厚さも非常に薄くなり、薄い発泡樹脂を安定して製造することは困難である。そのため、本実施の形態では、絶縁体3として比較的誘電率が低く、薄肉で安定して成形することが可能なフッ素樹脂を用いている。
【0020】
(めっき層4およびクラック抑制層7)
本実施の形態では、絶縁体3の周囲には、クラック抑制層7と、シールド層となるめっき層4とが順次設けられている。クラック抑制層7は、絶縁体3の外面との間に隙間が生じない状態で接触して設けられていると共に、信号伝送用ケーブル1を曲げたときに、絶縁体3の外面との間に隙間がなく接触した状態(絶縁体3との接触状態)で絶縁体3の曲げに対してケーブル長手方向に相対移動しながら曲がることが可能に設けられている。クラック抑制層7の外面にめっき層4が設けられている。なお、クラック抑制層7が絶縁体3の外面との間に隙間なく接触していることは、例えば、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて観察することができる。
【0021】
クラック抑制層7は、めっき層4の下地となる層であり、信号伝送用ケーブル1を曲げたときに、当該信号伝送用ケーブル1の曲げに追従して絶縁体3が曲がることに起因してめっき層4にクラックが生じるのを抑制する層である。すなわち、クラック抑制層7は、絶縁体3の曲げに対してケーブル長手方向に相対移動しながら曲がることにより、めっき層4に対するクラックを抑制する層である。なお、ここでいう「クラック」とは、めっき層4の外面からめっき層4の内面(クラック抑制層7と接触する面)までの範囲で生じるめっき層4の亀裂である。また、ここでいう「めっき層4に対するクラックを抑制する」とは、本実施の形態のクラック抑制層7を設けない場合に比べて、めっき層4に対してクラックを生じにくくすることである。
【0022】
クラック抑制層7は、絶縁体3とめっき層4との間に設けられ、絶縁体3の外面に隙間なく接触しつつも、信号伝送用ケーブル1を曲げたときに、絶縁体3に対して隙間なく接触した状態を維持しながらケーブル長手方向に相対移動できる(絶縁体3に対してケーブル長手方向にスライドできる)ように設けられている。クラック抑制層7は、絶縁体3に対して接合されておらず、絶縁体3からはく離可能な状態で設けられている。また、クラック抑制層7は、筒状の状態で絶縁体3を被覆している。
【0023】
信号伝送用ケーブル1は、その外径が比較的細径であるため、クラック抑制層7を押出成形により形成することは容易ではない。そこで、本実施の形態では、クラック抑制層7を、絶縁体3の外周に樹脂フィルム71を巻き付けて構成し(図2(a)参照)、かつ、樹脂フィルム71に熱を加えて自己融着させることで、筒状のクラック抑制層7を形成した(図2(b)参照)。樹脂フィルム71に熱を加えて自己融着させることで、クラック抑制層7には、樹脂フィルム71のラップ部分が自己融着した融着部71a、及び樹脂フィルム71がラップしておらず、自己融着していない非融着部71bが形成されることになる。ここでいう「自己融着」とは、樹脂フィルム71同士が重なり合う界面で互いに融着することである。
【0024】
樹脂フィルム71を自己融着させる際に絶縁体3と接着してしまわないように、樹脂フィルム71としては、絶縁体3に用いる樹脂よりも低い融点(軟化温度)を有するもの、より好ましくは絶縁体3に用いる樹脂よりも20℃以上融点(軟化温度)が低い樹脂からなり、熱によって自己融着が可能なフィルムを用いるとよい。具体的には、樹脂フィルム71としては、例えば、ポリエチレンやPET(ポリエチレンテレフタレート)からなるものを用いることができる。
【0025】
自己融着後のクラック抑制層7の厚さ(絶縁層3に接触する内面からめっき層4に接触する外面までの直線距離の大きさ)は、絶縁体3の厚さよりも薄く、かつめっき層4の厚さよりも厚くされる。より具体的には、クラック抑制層7の厚さは、6μm以上20μm以下であるとよい。クラック抑制層7の厚さが6μm以上であると、機械的強度が向上して破断しにくくなる。クラック抑制層7の厚さが20μm以下であると、厚さが20μm超の場合と比較して信号伝送用ケーブル1の外径が小さくなるため、信号伝送用ケーブル1を小さな曲げ半径で曲げた際等にめっき層4にかかる応力(めっき層4が信号伝送用ケーブル1の曲げに追従して変形することによりめっき層4にかかる応力)が小さくなり、めっき層4にクラックが入りにくくなり、また信号伝送用ケーブル1を小径にできる。このような厚さのクラック抑制層7を実現するため、クラック抑制層7に用いる樹脂フィルム71の厚さは、例えば、3μm以上10μm以下であるとよい。
【0026】
クラック抑制層7の表面に、めっき層4が設けられている。このめっき層4としては、導電率99%以上(99%IACS以上)の金属からなるものを用いるとよく、例えば、銅や銀からなるものを用いることができる。
【0027】
めっき層4の厚みは、2μm以上5μm以下であるとよい。めっき層4の厚さが2μm以上であると、曲げが加わったときなどにめっき層4にクラックやキズなどが生じにくい。また、めっき層4が5μm以下であると、めっき層4が硬くなることによって、信号伝送用ケーブル1が曲がりにくくなることを防止できる。
【0028】
なお、本実施の形態では、シールド層がめっき層4からなる場合を説明したが、シールド層はめっき層4に限定されない。例えば、絶縁体3の周囲に金属テープを螺旋状に巻き付ける(あるいは縦添え巻きする)ことで、シールド層を構成してもよい。金属テープとしては、樹脂テープの一方の面に銅やアルミニウムなどからなる金属層を形成したものを用いることができる。また、シールド層は、銅やアルミニウムかなどからなる金属素線を編組することによって形成された編組シールド、銅やアルミニウムかなどからなる金属素線を巻きつけして形成された横巻きシールドなどであってもよい。さらに、シールド層は、1層で構成されてもよいし、同種または異種のシールドを積層させたものであってもよい。
【0029】
また、本実施の形態では、樹脂フィルム71を用いてクラック抑制層7を形成する場合を説明したが、これに限らず、例えば、チューブ押出成形によって、クラック抑制層7を形成してもよい。
【0030】
(シース5)
シース5は、例えばポリエチレンやPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる樹脂テープを螺旋状に巻き付けて構成される。なお、シース5は必須ではなく、省略可能である。
【0031】
(導体保護層6)
本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1は、一対の導体2と絶縁体3との間に、一対の導体2それぞれを個別に被覆し、絶縁体3へ照射されるレーザ光から導体2を保護する導体保護層6を備えている。導体保護層6は、信号伝送用ケーブル1の端末処理加工時に、絶縁体3へ照射されたレーザ光が絶縁体3を通過したときに、該レーザ光を反射あるいは吸収して、レーザ光による導体2の損傷を抑制する役割を果たすものである。なお、導体保護層6においてレーザ光が吸収あるいは反射される割合は、絶縁体3においてレーザ光が吸収あるいは反射される割合よりも高いことが好ましい。
【0032】
導体保護層6は、フッ素樹脂あるいはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等のフッ素樹脂以外の樹脂からなるベース樹脂と、後述する着色剤と、を含む樹脂組成物からなる。特に、レーザ光を吸収した際には熱が生じるため、導体保護層6は、耐熱性に優れた材料から構成されることが望まれる。また、高速信号を伝送する際の伝送損失を抑制するために、導体保護層6は、誘電率が低いことが望まれる。このような場合、本実施の形態では、導体保護層6を、耐熱性に優れ誘電率が低いフッ素樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物で構成することがよい。
【0033】
導体保護層6は、レーザ光を反射あるいは吸収するために、例えば、着色剤を含む着色層から構成されているとよい。絶縁体3を除去する際にはYAGレーザが一般に用いられているため、本実施の形態では、導体保護層6を、YAGレーザ光を反射あるいは吸収する着色剤を含む着色層で構成した。着色層を構成する着色剤としては、酸化チタンやニッケル、カーボンブラックを適宜使用するとよい。また、この着色層は、レーザ光の熱を吸収することにより膨張して伝送特性に影響を及ぼすことのないような色で着色されていることが好ましい。着色層の具体的な色としては、例えば、青、緑、赤、黄、茶、橙、紫、灰などの色が挙げられる。さらに、導体保護層6は、一対の導体2それぞれを個別に区別するため、互いに異なる色で着色されていてもよい。なお、導体保護層6は、その全体が同一の色で着色されていることがよいが、絶縁体3の内面に接する部分のみが着色されていることでもよい。また、導体保護層6は、1層からなる着色層で構成されている以外に、導体2から絶縁体3までの方向(厚さ方向)に沿って、異なる色で着色された着色層が複数積層されて構成されていてもよい。この場合、積層された各々の着色層は、互いに接着あるいは融着されていると、端末処理加工の際に導体保護層6が剥ぎ取りやすくなる。
【0034】
導体保護層6の厚みは、0.03mm以上0.06mm以下であることが好ましい。導体保護層6の厚みを0.03mm以上とすることで、導体保護層6を安定して製造でき、また、レーザ光を確実に反射あるいは吸収することが可能になる。また、導体保護層6の厚みを0.06mm以下とすることで、導体保護層6による伝送特性の劣化を抑制することができる。
【0035】
端末処理加工時に、導体2から導体保護層6を抜去しやすくするため、導体保護層6は、非充実押出成形(所謂チューブ押出成形)により形成され、導体2の外面に接着あるいは融着していないことがよい。特に、信号伝送用ケーブル1では、絶縁体3の内面と導体保護層6の外面とが信号伝送用ケーブル1の周方向および長手方向に沿って接着あるいは融着されており、導体2の外面と導体保護層6の内面とが信号伝送用ケーブル1の周方向および長手方向に沿って接着あるいは融着されていないことがよい。信号伝送用ケーブル1では、このような導体保護層6とすることにより、レーザ光が照射された後の絶縁体3を剥ぎ取る際に、絶縁体3と導体保護層6とを一体に剥ぎ取りやすくなるため、端末処理加工が容易になる。
【0036】
従来の信号伝送用ケーブルでは、端末処理加工時に、導体2に損傷を与えないようにレーザ光の強度を調整する必要があるため絶縁体3へのレーザ光による切れ込みが小さくなり、絶縁体の剥ぎ取り作業が困難となる場合があった。これに対して、本実施の形態のように導体保護層6を備える信号伝送用ケーブル1では、導体保護層6により導体2が保護されるために、レーザ光による端末処理加工時に、絶縁体3のほぼ全域にレーザ光による切込みを入れることが可能となり、絶縁体3の剥ぎ取り作業が容易になる。
【0037】
(信号伝送用ケーブル1の製造方法)
信号伝送用ケーブル1を製造する際には、まず、導体2の周囲に、着色剤を含むフッ素樹脂からなる導体保護層6を、非充実押出成形により成形する。その後、導体保護層6の外周に、充実押出成形により絶縁体3を被覆する。
【0038】
その後、図2(a)に示すように、絶縁体3の外周に、樹脂フィルム71を螺旋状に巻き付ける。この際、樹脂フィルム71を、その幅方向における一部が重なり合うように巻き付ける。以下、樹脂フィルムが重なった部分をラップ部71cといい、樹脂フィルム71が重なっていない部分を非ラップ部71dという。また、樹脂フィルム71を巻き付ける際には、樹脂フィルム71に所定の張力を付与しつつ巻き付ける。これにより、樹脂フィルム71が絶縁体3に密着した状態で巻き付けられる。
【0039】
その後、樹脂フィルム71を加熱して、樹脂フィルム71を軟化させ、樹脂フィルム71を自己融着させる。このとき、樹脂フィルム71の温度が、樹脂フィルム71の軟化温度以上かつ絶縁体3の融点未満となるように熱を加える。これにより、図2(b)に示すように、ラップ部71cで重なっている部分の樹脂フィルム71同士が溶融一体化されて融着部71aが形成される。また、非ラップ部71dは樹脂フィルム71同士が融着されない非融着部71bとなる。その結果、絶縁体3の外周に密着しつつも絶縁体3に接着されておらず、絶縁体3に対して相対移動可能な筒状のクラック抑制層7が形成される。なお、本実施の形態では、樹脂フィルム71を螺旋状に巻き付けていることから、ケーブル長手方向において、融着部71aと非融着部71bとが交互に形成されることになる。
【0040】
樹脂フィルム71に熱を加えることによって樹脂フィルム71は収縮しようとするので、ラップ部71cの肉の一部が非ラップ部71dへと移動する。これにより、自己融着前のラップ部71cの厚さに比べて、自己融着後の融着部71aの厚さが薄くなり、また、自己融着前の非ラップ部71dの厚さに比べて、自己融着後の非融着部71bの厚さが厚くなる。その結果、クラック抑制層7における厚さの変動が小さくなり、図2(b)に示すように、クラック抑制層7の表面は段差のない滑らかな曲面となる。なお、この状態では、融着部71aの厚さが非融着部71bの厚さよりも若干大きくなっており、クラック抑制層7の表面は若干波打った状態となっている。
【0041】
その後、図2(c)に示すように、クラック抑制層7上にめっき層4を形成する。このめっき層4の形成に先立ち、クラック抑制層7の表面には、表面処理が施される。表面処理後に、無電解めっきを施すことにより、クラック抑制層7の周囲を覆うようにめっき層4を形成する。これにより、クラック抑制層7上にめっき層4を形成した際に、めっき層4が強固にクラック抑制層7の外面の全周にわたって密着し、信号伝送用ケーブル1を曲げた際などに、図3に示すように、絶縁体3の曲げに対してクラック抑制層7とめっき層4とが一体となって相対移動しながら曲がるようになる。
【0042】
その後、めっき層4の周囲に樹脂テープを巻き付ける等してシース5を形成すると、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1が得られる。
【0043】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1では、導体2と、導体2を被覆する導体保護層6と、導体保護層6を被覆する絶縁体3と、を少なくとも備え、導体保護層6は、導体2と絶縁体3との間において、絶縁体3へ照射されるレーザ光を反射あるいは吸収することによってレーザ光から導体2を保護している。
【0044】
このように構成することで、レーザ光を用いた信号伝送用ケーブル1の端末処理加工時に、絶縁体3へ照射されたレーザ光が絶縁体3を通過したときに、該レーザ光が導体保護層6により反射あるいは吸収されて導体2が保護されるため、レーザ光による導体2への損傷を抑制することが可能になる。
【0045】
(変形例)
上記実施の形態では、導体保護層6同士が絶縁体3を介して離間している場合について説明したが、図4に示すように、導体保護層6同士が接触していてもよい。これにより、導体2間(導体保護層6間)に入り込む絶縁体3が少なくなり、端末処理加工時における絶縁体3の剥ぎ取りがより容易になる。
【0046】
また、上記実施の形態では、信号伝送用ケーブル1が差動信号伝送用ケーブルである場合について説明したが、信号伝送用ケーブル1は、同軸ケーブルであってもよい。この場合、図5に示すように、1本の導体2の周囲に、導体保護層6、絶縁体3、クラック抑制層7、めっき層4を含むシールド層40、シース5を順次設けて信号伝送用ケーブル1を構成するとよい。図5の例では、シールド層40が、めっき層4と、めっき層4の周囲を覆う金属シールド層41と、からなる場合を示している。金属シールド層41は、めっき層4の外面に接触するように設けられており、金属素線を編組あるいは横巻きして構成される。金属シールド層41は、めっき層4及びクラック抑制層7を内方に押さえ込み、導体2とめっき層4との距離をケーブル長手方向にわたって略一定に保つ役割も果たしている。
【0047】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0048】
[1]導体(2)と、前記導体(2)を被覆する導体保護層(6)と、前記導体保護層(6)を被覆する絶縁体(3)と、を少なくとも備え、前記導体保護層(6)は、前記導体(2)と前記絶縁体(3)との間において、前記絶縁体(3)へ照射されるレーザ光を反射あるいは吸収することによって前記レーザ光から前記導体(2)を保護する、信号伝送用ケーブル(1)。
【0049】
[2]前記導体(2)は、一対の導体(2)からなり、前記導体保護層(6)は、前記一対の導体(2)それぞれを個別に被覆するように設けられている、[1]に記載の信号伝送用ケーブル。
【0050】
[3]前記導体保護層(6)が、前記レーザ光を反射あるいは吸収する着色剤を含む着色層からなる、[1]または[2]に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0051】
[4]前記導体保護層(6)が、YAGレーザ光を反射あるいは吸収する着色剤を含む着色層からなる、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0052】
[5]前記導体保護層(6)が、フッ素樹脂をベースとする樹脂組成物からなる、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0053】
[6]前記導体保護層(6)の厚さが、0.03mm以上0.06mm以下である、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0054】
[7]前記絶縁体(3)の周囲を覆うめっき層(4)と、前記絶縁体(3)と前記めっき層(4)との間に、前記絶縁体(3)と接触した状態で設けられ、且つその外面に前記めっき層(4)が設けられるクラック抑制層(7)と、を備え、前記クラック抑制層(7)は、前記絶縁体(3)の曲げに対してケーブル長手方向に相対移動しながら曲がることにより、前記めっき層(4)に対するクラックを抑制する、[1]乃至[6]の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0055】
[8]前記一対の導体(2)が、単線導体または圧縮撚線導体からなる、[1]乃至[7]の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0057】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、信号伝送用ケーブル1が、一対の導体2と絶縁体3とめっき層4とシース5と導体保護層6とクラック抑制層7とより構成されているが、めっき層4、シース5、導体保護層6、及びクラック抑制層7は必須ではなく、省略可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…信号伝送用ケーブル
2…導体
3…絶縁体
4…めっき層
5…シース
6…導体保護層
7…クラック抑制層
71…樹脂フィルム
71a…融着部
71b…非融着部
71c…ラップ部
71d…非ラップ部
図1
図2
図3
図4
図5