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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/012 20060101AFI20230613BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230613BHJP
   H02G 1/14 20060101ALI20230613BHJP
   H02G 3/04 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01B13/012 A
H01B13/00 521
H02G1/14
H01B13/012 Z
H02G3/04 081
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019235866
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021106082
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 良和
(72)【発明者】
【氏名】村山 知之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】江島 弘高
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-140612(JP,A)
【文献】特開2012-094480(JP,A)
【文献】特開昭54-004381(JP,A)
【文献】特開2014-123478(JP,A)
【文献】特開2012-124137(JP,A)
【文献】特開2017-131054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/012
H01B 13/00
H02G 1/14
H02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の導体線が撚り合わされてなる芯線と前記芯線を被覆する絶縁被覆とを有する複数本の電線が熱可塑性樹脂からなるシースによって被覆されたケーブルを用意する準備工程と、
前記準備工程のあとに前記ケーブルの前記シースの一部を除去して前記複数本の電線の端部を露出させる被覆除去工程と、
前記被覆除去工程のあとに前記複数本の電線の露出された端部に所定の部品を接続する端末処理工程と、
前記ケーブルの異なる2箇所以上に湾曲部を形成する変形工程と、を有し、
前記変形工程には、前記被覆除去工程のあとの前記端末処理工程のあとに行われる、前記ケーブルの前記シースの温度を上昇させる加熱工程と、前記ケーブルの異なる2箇所以上を湾曲させる曲げ工程と、が含まれる、
ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤーハーネスの製造方法において、
前記加熱工程では、前記シースの温度を軟化点よりも高く、かつ、融点よりも低い温度に上昇させる、
ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のワイヤーハーネスの製造方法において、
前記加熱工程と前記曲げ工程とを同時に実施する、
ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤーハーネスの製造方法において、
前記シースに熱風を当てて当該シースの温度を上昇させつつ、前記ケーブルを湾曲させる、
ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のワイヤーハーネスの製造方法において、
前記曲げ工程を実施した後に前記加熱工程を実施する、
ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のワイヤーハーネスの製造方法において、
前記ケーブルを金型に設けられた溝に嵌め込んだ後に、前記金型を加熱して前記シースの温度を上昇させる、
ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のワイヤーハーネスの製造方法において、
前記変形工程によって形成された前記湾曲部の少なくとも1つに遮熱材を巻き付ける遮熱材装着工程を有する、
ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のワイヤーハーネスの製造方法において、
前記準備工程では、前記ケーブルとして2本の電源線および1本の信号線を含む複合ケーブルを用意し、
前記端末処理工程では、前記2本の電源線の一方の端部に第1コネクタを接続し、前記2本の電源線の他方の端部に第2コネクタを接続し、前記信号線の一方の端部に第3コネクタを接続し、前記信号線の他方の端部にABSセンサを接続する、
ワイヤーハーネスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスに関するものであり、特に、自動車等の車両に搭載するのに適したワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、電源線や信号線等の複数の電線が束ねられたワイヤーハーネスが様々な場面で用いられている。例えば、自動車等の車両には、当該車両の内外に跨って複数のワイヤーハーネスが配策されることがある。車両の内外に跨って配策されるワイヤーハーネスの一例として、ABS(Anti-lock Braking System)システム用の信号線と、EPB(Electromechanical Parking Brake)システム用の電源線と、を含むワイヤーハーネスがある。以下の説明では、ABSシステム用の信号線と、EPBシステム用の電源線と、を含むワイヤーハーネスを「EPBハーネス」と呼ぶ場合がある。
【0003】
EPBハーネスは、ABSシステム用の信号線とEPBシステム用の電源線とが共通のシースによって被覆され、一体化された複合ケーブルである。EPBハーネスは、例えば、タイヤハウスに設けられた貫通穴に挿通され、一部は車両の内側(車室内)に配置され、他の一部は車両の外側(車室外)に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6518299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EPBハーネスが配策される領域には、ショックアブソーバー,スプリング,サスペンションアーム,ブレーキキャリパー等の様々な部品が存在している。よって、EPBハーネスを直線的なルートに沿って配策することは困難または不可能である。言い換えれば、EPBハーネスを配策する際には、EPBハーネスと上記のような様々な部品との干渉を避けるべく、EPBハーネスの複数個所を曲げる必要がある。
【0006】
さらに、EPBハーネスを曲げた後は、EPBハーネスが元の形状に戻らないように規制する必要がある。しかし、EPBハーネスには復元力(反発力)があるため、EPBハーネスの湾曲状態や屈曲状態を維持するためには、金属製の固定具や金属製の留め具が必要であった。
【0007】
ここでは、EPBハーネスを例にとって従来のワイヤーハーネスの課題を説明した。しかし、上記課題はEPBハーネスに特有の課題ではなく、非直線的なルートに沿って配策される多くのワイヤーハーネスに共通する課題である。
【0008】
本発明の目的は、金属製の固定具や金属製の留め具を用いずとも、非直線的なルートに沿った湾曲状態や屈曲状態を維持することが可能なワイヤーハーネスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法は、複数本の電線が熱可塑性樹脂からなるシースによって被覆されたケーブルを用意する準備工程と、前記ケーブルの前記シースの一部を除去して前記複数本の電線の端部を露出させる被覆除去工程と、前記複数本の電線の露出された端部に所定の部品を接続する端末処理工程と、前記ケーブルの異なる2箇所以上に湾曲部を形成する変形工程と、を有する。さらに、前記変形工程には、前記ケーブルの前記シースの温度を上昇させる加熱工程と、前記ケーブルの異なる2箇所以上を湾曲させる曲げ工程と、が含まれる。
【0010】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法の一態様における前記加熱工程では、前記シースの温度を軟化点よりも高く、かつ、融点よりも低い温度に上昇させる。
【0011】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法の他の一態様では、前記加熱工程と前記曲げ工程とを同時に実施する。
【0012】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法の他の一態様では、前記シースに熱風を当てて当該シースの温度を上昇させつつ、前記ケーブルを湾曲させる。
【0013】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法の他の一態様では、前記曲げ工程を実施した後に前記加熱工程を実施する。
【0014】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法の他の一態様では、前記ケーブルを金型に設けられた溝に嵌め込んだ後に、前記金型を加熱して前記シースの温度を上昇させる。
【0015】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法の他の一態様では、前記変形工程によって形成された前記湾曲部の少なくとも1つに遮熱材を巻き付ける遮熱材装着工程を実施する。
【0016】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法の他の一態様における前記準備工程では、前記ケーブルとして2本の電源線および1本の信号線を含む複合ケーブルを用意する。また、前記端末処理工程では、前記2本の電源線の一方の端部に第1コネクタを接続し、前記2本の電源線の他方の端部に第2コネクタを接続し、前記信号線の一方の端部に第3コネクタを接続し、前記信号線の他方の端部にABSセンサを接続する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属製の固定具や金属製の留め具を用いずとも、非直線的なルートに沿った湾曲状態や屈曲状態を維持することが可能なワイヤーハーネスの製造方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】EPBハーネスの斜視図である。
図2】ワイヤーハーネスの製造方法の工程図である。
図3】ワイヤーハーネスの製造方法の一工程を示す説明図である。
図4】複合ケーブルの断面構造を示す模式図である。
図5】ワイヤーハーネスの製造方法の他の一工程を示す説明図である。
図6】ワイヤーハーネスの製造方法の他の一工程を示す説明図である。
図7】ワイヤーハーネスの製造方法の他の一工程を示す説明図である。
図8】ワイヤーハーネスの製造方法の他の一工程を示す説明図である。
図9】変形工程の実施に用いられる金型の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のワイヤーハーネスの製造方法の実施形態の一例について説明する。本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法は、図1に示されているEPBハーネス1の製造方法である。そこで、図1に示されるEPBハーネス1の構造等について概説した後に、当該EPBハーネス1の製造方法について詳細に説明する。尚、以下の説明では、同一または実質的に同一の部材や要素等については、原則として同一の符号を用いる。
【0020】
図1に示されているEPBハーネス1は、自動車等の車両の内外に跨って配策される。例えば、EPBハーネス1は、タイヤハウスに設けられた貫通穴に挿通され、一部は車両の内側(タイヤハウスを形成しているパネルの内側)に配置され、他の一部は車両の外側(タイヤハウスを形成しているパネルの外側)に配置される。さらに、EPBハーネス1は、ショックアブソーバー,スプリング,サスペンションアーム,ブレーキキャリパー等の様々な部品との干渉を回避しつつ配策され、EPBシステムの駆動源であるモータに電力を供給する給電路と、ABSセンサから出力される信号を制御装置に伝送する信号路と、を形成する。
【0021】
図1に示されように、EPBハーネス1は、2本の電源線11,12及び1本の信号線13を含む複合ケーブル10(当該複合ケーブル10は、本発明のケーブルの一つの形態である)を有する。複合ケーブル10に含まれている電源線11,12は上記給電路を形成し、複合ケーブル10に含まれている信号線13は上記信号路を形成する。そこで、電源線11,12の一方の端部には、不図示のケーブル等を介して車載バッテリーに接続される第1コネクタ21が設けられており、電源線11,12の他方の端部には、EPBシステムの駆動源であるモータに接続される第2コネクタ22が設けられている。また、信号線13の一方の端部には、不図示のケーブル等を介してABSシステムの制御装置に接続される第3コネクタ23が設けられており、信号線13の他方の端部にはABSセンサ24が設けられている。尚、ABSセンサ24は樹脂成形体25に埋設されている。
【0022】
図1に示されるように、EPBハーネス1には2つ以上の湾曲部30が設けられている。より詳細には、EPBハーネス1を構成する複合ケーブル10に、第1湾曲部31,第2湾曲部32,第3湾曲部33及び第4湾曲部34が形成されている。第1湾曲部31,第2湾曲部32,第3湾曲部33及び第4湾曲部34は、EPBハーネス1と当該EPBハーネス1が配策される領域に存在しているショックアブソーバー,スプリング,サスペンションアーム,ブレーキキャリパー等の様々な部品との干渉を避けるために形成されたものである。もっとも、上記ショックアブソーバー等は、EPBハーネス1を配策する際に干渉を避ける必要がある要素の一例に過ぎない。
【0023】
次に、図1に示されているEPBハーネス1の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、少なくとも図2に示されている工程を有する。つまり、本実施形態に係る製造方法は、準備工程,被覆除去工程,端末処理工程および変形工程を有する。さらに、変形工程には、加熱工程,曲げ工程および冷却工程が含まれる。以下、各工程について説明する。
【0024】
図2に示されている準備工程では、図3に示されている複合ケーブル10を用意する。図3に示されている複合ケーブル10は、ドラム等に巻かれていた複合ケーブル(不図示)の一部である。つまり、図2に示されている準備工程は、長尺の複合ケーブルを所定長に切断して図3に示されている複合ケーブル10を得る工程である。
【0025】
図3に示されている複合ケーブル10は、複数本の電線と、それら電線を被覆する熱可塑性樹脂からなるシースと、を有する。図4に複合ケーブル10の断面構造を模式的に示す。複合ケーブル10は、3本の電線11,12,13と、これら電線11,12,13を被覆するウレタン樹脂からなるシース14と、を有する。尚、図4に示されている電線11,12は、図1に示されている電源線11,12に相当し、図4に示されている電線13は、図1に示されている信号線13に相当する。
【0026】
図4に示されている電線11,12は、芯線40及び芯線40の周囲に設けられた絶縁被覆41を有する単芯ケーブルである。一方、図4に示されている電線13は、それぞれが芯線42及び芯線42の周囲に設けられた内側絶縁被覆43を有する2本の単芯ケーブルと、それら2本の単芯ケーブルを一括被覆する外側絶縁被覆44と、を有する多芯ケーブルである。尚、芯線40,42は、複数本の銅線,銅合金線,アルミニウム線,アルミニウム合金線等が束ねられた撚り線である。
【0027】
図4に示されるように、シース14は、電線11,12,13に加えて、2本の線状介在15a,15bを被覆している。言い換えれば、複合ケーブル10は、3本の電線11,12,13と、2本の線状介在15a,15bと、これら電線11,12,13及び線状介在15a,15bを一括被覆するシース14と、を有する。
【0028】
次に、図2に示されている被覆除去工程について説明する。被覆除去工程では、図5に示されるように、複合ケーブル10のシース14の一部を除去して電線11,12,13の端部を露出させる。より具体的には、シース14の長手方向両側を部分的に除去し、電線11,12,13の両端部をそれぞれ露出させる。この際、電線11,12,13と一緒に露出した線状介在15a,15b(図4)の露出部分は切除する。
【0029】
次に、図2に示されている端末処理工程について説明する。端末処理工程では、被覆除去工程によって露出された電線11,12,13の端部に所定の部品を接続する。具体的には、図6に示されるように、2本の電線11,12の一方の端部に第1コネクタ21を接続し、2本の電線11,12の他方の端部に第2コネクタ22を接続する。また、電線13の一方の端部に第3コネクタ23を接続し、電線13の他方の端部にABSセンサ24を接続する。さらに、電線13の端部に接続したABSセンサ24の周囲に樹脂成形体25を形成し、ABSセンサ24をモールドする。尚、図6に示されている第1コネクタ21,第2コネクタ22,第3コネクタ23,ABSセンサ24及び樹脂成形体25は、図1に示されている第1コネクタ21,第2コネクタ22,第3コネクタ23,ABSセンサ24及び樹脂成形体25にそれぞれ相当する。
【0030】
次に、図2に示されている変形工程について説明する。変形工程では、加熱工程,曲げ工程および冷却工程を実施して、複合ケーブル10の異なる2箇所以上に湾曲部30(図1)を形成する。具体的には、加熱工程では、複合ケーブル10のシース14の温度を上昇させる。曲げ工程では、複合ケーブル10の異なる2箇所以上を湾曲させる。冷却工程では、複合ケーブル10の湾曲状態を保持しつつシース14の温度を低下させる。
【0031】
本実施形態では、上記3つの工程を含む変形工程によって、図6に示されている複合ケーブル10上に、図1に示されている第1湾曲部31,第2湾曲部32,第3湾曲部33及び第4湾曲部34を形成する。以下、変形工程の詳細について説明する。
【0032】
本実施形態における変形工程では、図7に示されるように、複合ケーブル10のシース14に熱風を当てて当該シース14の温度を上昇させつつ、当該シース14を含む複合ケーブル10に力を加えて当該複合ケーブル10を湾曲させる。つまり、本実施形態では、加熱工程および曲げ工程を同時に実施する。このとき、シース14の温度を軟化点よりも高く、かつ、融点よりも低い温度に上昇させる。ウレタン樹脂からなるシース14の軟化点は80℃、融点は180℃である。そこで、本実施形態では、シース14の温度を80℃以上180℃未満(好ましくは、90℃以上160℃以下)に上昇させつつ複合ケーブル10に力を加えて、第1湾曲部31,第2湾曲部32,第3湾曲部33及び第4湾曲部34(図1)を形成した。言い換えれば、図1に示されている第1湾曲部31,第2湾曲部32,第3湾曲部33及び第4湾曲部34を形成することを意図するシース14上の4箇所を加熱して軟化させた状態で、それら4箇所を所定形状に湾曲させた。尚、シース14上の4箇所に同時に熱風を当ててもよく、順次に当ててもよい。さらには、シース14上の特定箇所を狙って熱風を当てるのではなく、シース14の全域や特定箇所を含む領域に対して熱風を当ててもよい。尚、上記軟化点は、JIS K 7206 ビカット軟化点試験により得られる温度であり、上記融点は、動的粘弾性試験において貯蔵粘弾性が1MPa以下になる温度である。
【0033】
然る後、図2に示されている冷却工程を実施する。具体的には、加熱工程および曲げ工程によって得られた複合ケーブル10の湾曲状態を保持しつつ、シース14の温度を軟化点よりも低い温度に低下させる。この結果、湾曲状態の保持を解除しても湾曲状態が維持される。言い換えれば、複合ケーブル10が元の形状に戻ることがなくなる。つまり、複合ケーブル10に、図1に示されている第1湾曲部31,第2湾曲部32,第3湾曲部33及び第4湾曲部34が恒久的に形成される。
【0034】
冷却工程では、シース14の温度が軟化点よりも低い温度になるまで放置してもよく(自然冷却)、冷却風や冷却水を用いてシース14の温度を短時間で軟化点よりも低い温度にしてもよい(強制冷却)。
【0035】
尚、図2に示されている変形工程が終了した後に、変形工程によって形成された複数の湾曲部30の少なくとも1つに遮熱材を巻き付ける遮熱材装着工程を実施してもよい。例えば、図8に示されるように、第1湾曲部31,第2湾曲部32,第3湾曲部33及び第4湾曲部34の周囲に、遮熱材としての遮熱テープ35をそれぞれ巻き付けてもよい。冷却工程の後に、何らかの理由によって湾曲部30の温度がシース14の軟化点以上に上昇すると、湾曲部30が変形する虞がある。そこで、湾曲部30に周囲に遮熱テープ35を巻き付けておくことで、湾曲部30の温度上昇を抑制し、湾曲部30の変形を防止することができる。尚、シース14の全域に遮熱テープ35を巻き付けることによっても同様の効果が得られる。
【0036】
本実施形態に係る製造方法によって製造されたEPBハーネス1(図1)には、当該EPBハーネス1が配策される領域に存在しているショックアブソーバー,スプリング,サスペンションアーム,ブレーキキャリパー等の様々な部品との干渉を避けるための複数の湾曲部30が予め形成されている。よって、EPBハーネス1は、上記ショックアブソーバー等を迂回する非直線的なルートに沿って容易に配策することができる。例えば、EPBハーネス1を車両に搭載する際、上記ショックアブソーバー等との干渉を避けるために、当該EPBハーネス1を強引に曲げたり、屈曲させたりする必要がない。
【0037】
また、EPBハーネス1に形成されている湾曲部30の形状は、特段の規制をしなくとも維持される。したがって、高重量な金属製の固定具や金属製の留め具を用いてEPBハーネス1の湾曲状態や屈曲状態を維持する必要はない。言い換えれば、EPBハーネス1は、プラスチック製の固定具や留め具などを用いて所定位置に設置することができる。
【0038】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記本実施形態では、変形工程に含まれる加熱工程および曲げ工程が同時に実施された。しかし、加熱工程および曲げ工程の同時実施は必須ではなく、加熱工程が終了した後に曲げ工程を実施してもよい。この場合、加熱工程によって上昇させたシースの温度が所定の下限値以下に低下する前に曲げ工程を実施する。
【0039】
また、曲げ工程を実施した後に加熱工程を実施してもよい。例えば、端末処理工程を終えた複合ケーブルを金型に設けられている溝に嵌め込み(曲げ工程)、その後、金型を加熱してシースの温度を上昇させる(加熱工程)。例えば、図9に示される金型50には、複合ケーブル10に形成することを意図する湾曲部30に対応した曲線状の溝51が設けられている。よって、溝51に複合ケーブル10を嵌め込むことによって曲げ工程が実施される。さらに、金型50にはヒータが内蔵されており、ヒータを作動させると金型50が加熱され、溝51に嵌め込まれている複合ケーブル10のシース14の温度が上昇する。つまり、ヒータを作動させて金型50を加熱することによって加熱工程が実施される。
【0040】
尚、加熱工程においてシースの温度をどの程度にまで上昇させるかは、シースの材料などに応じて適宜決定される。
【符号の説明】
【0041】
1…EPBハーネス、10…複合ケーブル(ケーブル)、11,12…電線(電源線)、13…電線(信号線)、14…シース、15a,15b…線状介在、21…第1コネクタ、22…第2コネクタ、23…第3コネクタ、24…ABSセンサ、25…樹脂成形体、30…湾曲部、31…第1湾曲部、32…第2湾曲部、33…第3湾曲部、34…第4湾曲部、35…遮熱テープ、40,42…芯線、41…絶縁被覆、43…内側絶縁被覆、44…外側絶縁被覆、50…金型、51…溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9