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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】セメント原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20230613BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20230613BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C04B7/38
B09B3/70 ZAB
C04B5/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020059126
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155300
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】森川 卓子
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169199(JP,A)
【文献】特開2014-205133(JP,A)
【文献】特開2001-046996(JP,A)
【文献】特開2011-057508(JP,A)
【文献】特開2011-256411(JP,A)
【文献】特開昭52-011190(JP,A)
【文献】特開2016-199789(JP,A)
【文献】特開2018-115366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0240432(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
B09B 3/70
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、
製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離しセメント原料である処理液(B)を得る工程(2)と、を有し、
前記酸性液が、塩酸、硝酸、クエン酸、酢酸、及びギ酸から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液であるセメント原料の製造方法。
【請求項2】
前記処理液(B)に溶解している固形分(B)の全量に対するCrの含有量が0.5質量%以下である請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記処理液(B)から固形分(C)を析出させる工程(3)をさらに含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、
製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離し処理液(B)を得る工程(2)と、を有する製造方法により製造されたセメント原料である処理液(B)を使用し、
前記酸性液が、塩酸、硝酸、クエン酸、酢酸、及びギ酸から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液であるセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグを処理することによるセメント原料の製造方法とセメント原料、モルタル及びセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の低減を目的にセメント原料として製鋼工程で発生した製鋼スラグが用いられるようになってきた。しかし製鋼スラグには、不純物としてクロム(Cr)が含まれる場合があることが知られている。製鋼スラグを原料としてポルトランドセメントを製造する場合、ロータリーキルンでの焼成時に原料が高温かつ酸化雰囲気で処理されることによって、製鋼スラグ中のクロム(金属クロムまたは3価クロム)から6価クロムが形成されやすい。セメント中の6価クロムの含有量が高くなると、コンクリートからの6価クロムの溶出が懸念されることから、セメント中の6価クロムの管理基準が定められている(一般社団法人セメント協会、「セメント中の水溶性六価クロム含有量に関するガイドライン」参照)。このため、クロムを含むセメント原料の使用量が制限されることになる。
【0003】
そこで、製鋼スラグからクロムを除去し、セメント原料としての利用を促進する取り組みが行われている。
例えば特許文献1記載の発明のようにCrを含有する製鋼スラグを還元剤としてカーボン粉とともに電気炉で溶融し、還元処理を行った後に永久磁石によりクロム由来物を除去し、製鋼スラグ中のCrを減少させる方法が知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-105826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1の方法では、還元するための大掛かりな電気炉が必要であること、また電気炉によりスラグを溶融するため極めて大きな電力を消費することから本来の目的である環境負荷の低減を達成できないなど問題点を有しており、改善が求められていた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な設備で、簡便にセメント原料を製造する方法及び当該製造方法により製造されたセメント原料を使用したセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは、以下の[1]~[5]を提供する。
[1]製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、
製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離し処理液(B)を得る工程(2)と、
を有するセメント原料の製造方法。
[2]前記酸性液が有機酸及び無機酸から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液である[1]に記載の製造方法。
[3] 前記処理液(B)に溶解している固形分(B)の全量に対するCrの含有量が0.5質量%以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
[4]前記処理液(B)から固形分(C)を析出させる工程(3)をさらに含む[1]~[3]のいずれか1に記載の製造方法。
[5]製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、
製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離し処理液(B)を得る工程(2)と、
を有する製造方法により製造されたセメント原料を使用したセメントの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、製鋼スラグを用いてCrの含有量を低減させたセメント原料を簡易な設備で、簡便にセメント原料を製造する方法を提供することができ、当該製造方法により製造されたセメント原料を使用したセメントの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[セメント原料の製造方法]
本発明のセメント原料の製造方法は、製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離し処理液(B)を得る工程(2)と、を有する。
【0009】
工程(1)は製鋼スラグからセメント原料としての有用な成分を酸性液により抽出する工程であり、工程(2)はセメント原料としての有用な成分を抽出し、Cr等の不要成分を含む製鋼スラグの残渣である固形分(A)を分離することにより、処理液(B)を得る工程である。これにより、セメント原料としての有用な成分を選択的に得ることができる。
工程(1)の後に直ちに工程(2)を行ってもよく、工程(1)の後にpHを調整する工程、濃度を調整する工程及び他の原料を投入する工程等を必要に応じ行った後に工程(2)を行ってもよい。
特許文献1の方法では、Cr等の不要成分を製鋼スラグから除去し、含有量を低下させて使用するが、本発明の製造方法はセメント原料として有用な成分を製鋼スラグから抽出するため、セメント原料中のCr等の不要成分の含有量を抑えることができる。
【0010】
(セメント原料)
本発明の製造方法で得られたセメント原料は、溶液であっても固体であってもよい。
【0011】
<工程(1)>
工程(1)では、製鋼スラグをそのまま又は必要に応じて砕いた後、酸性液により処理を行う。酸性液による処理は、酸性液に製鋼スラグを投入しても、製鋼スラグに酸性液を投入しても、溶液中の酸性スラグに酸性液を投入してもよい。投入の際、必要に応じ攪拌又は振とう等を行うと処理時間を短縮することができるため好ましい。
【0012】
(製鋼スラグ)
製鋼スラグは電気炉スラグ及び転炉スラグに分類されるが、セメント原料の回収の観点からは電気炉スラグが好ましい。電気炉スラグは、鉄スクラップを溶解及び精錬する際に生成するが、酸化精錬で生成する酸化スラグであっても、還元精錬で生成する還元スラグであってもよい。
本発明に用いる製鋼スラグは、製鐵所で大量に発生し、Feとともに、CaO、Al及びSiO等を含有するが、Crとして少量のクロム原子を含有する。本発明において使用する製鋼スラグは特に限定されないが、セメント原料の有効成分回収の観点からは、カルシウム原子、珪素原子及びアルミニウム原子の含有量が多く、クロム原子の含有量が少ないことが好ましい。
【0013】
工程(1)で使用する製鋼スラグ(電気炉スラグ)が含有するCrの含有量の上限値には特に制限はないが、含有量が多くなればセメント原料としての有効成分の含有量が減少するので、セメント原料の回収効率の観点から15.00質量%以下であることが好ましく、10.00質量%以下であることがより好ましく、8.00質量%以下であることが更に好ましい。
本発明ではクロム原子由来の化合物の含有量を容易に低下させることができるため、Crの含有量の多い製鋼スラグ(電気炉スラグ)も使用することができる。
【0014】
本発明を適用する製鋼スラグ(電気炉スラグ)に含有されるCrの含有量は1.00質量%以上であってもよく、2.00質量%以上であってもよく、3.00質量%以上であってもよい。
【0015】
本発明ではセメント原料としての有用な成分を抽出する観点からはセメント原料としての有用な成分を多く含有することが好ましいが、一般的な製鋼スラグ(電気炉スラグ)を使用する観点からはセメント原料としての有用な成分を偏りなく含有することが好ましい。
【0016】
前記の観点から、製鋼スラグ(電気炉スラグ)に含有するCaOの含有量は5.00質量%以上であることが好ましく、10.00質量%以上であることがより好ましく、15.00質量%以上であることが更に好ましく、30.00質量%以下であることが好ましく、25.00質量%以下であることがより好ましく、20.00質量%以下であることが更に好ましい。
【0017】
前記の観点から、製鋼スラグ(電気炉スラグ)に含有するAlの含有量は3.00質量%以上であることが好ましく、5.00質量%以上であることがより好ましく、11.00質量%以上であることが更に好ましく、20.00質量%以下であることが好ましく、16.00質量%以下であることがより好ましく、13.00質量%以下であることが更に好ましい。
【0018】
前記の観点から、製鋼スラグ(電気炉スラグ)に含有するSiOの含有量は5.00質量%以上であることが好ましく、10.00質量%以上であることがより好ましく、13.00質量%以上であることが更に好ましく、30.00質量%以下であることが好ましく、23.00質量%以下であることがより好ましく、18.00質量%以下であることが更に好ましい。
【0019】
前記の観点から、製鋼スラグ(電気炉スラグ)に含有するFeの含有量は10.00質量%以上であることが好ましく、20.00質量%以上であることがより好ましく、30.00質量%以上であることが更に好ましく、60.00質量%以下であることが好ましく、50.00質量%以下であることがより好ましく、45.00質量%以下であることが更に好ましい。
【0020】
なお、本発明においては溶液中の各原子の含有量は例えばICP発光分光分析法により決定することができ、固体中の化合物の含有量は蛍光X線分析法(XRF)により決定することができる。
【0021】
(酸性液)
本発明に用いる酸性液としては、セメント原料の有効成分を溶解するものであり、クロム化合物が難溶であれば特に制限されず、有機酸及び無機酸から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液であることが好ましい。
セメント原料としての有用な成分の抽出量の観点からは無機酸が好ましい。
有機酸としては、カルボキシル基及びスルホ基から選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物が好ましく、これらの基を分子内に1個又は2個以上有する化合物であることが好ましい。
より具体的には、下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、Rは、炭素原子数1~20の有機基又は水素原子を表し、Xは、カルボキシル基又はスルホ基を表す。)
一般式(I)において、Rは、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20の環状基又は水素原子が好ましいが、R上の水素原子はさらに水酸基、R又はXで置換されていてもよく、R中に存在するメチレン基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントレン基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、-CO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-C≡C-、-NH-又は-NHCO-で置換されていてもよい。
【0024】
の炭素原子数は水への溶解性の観点から炭素原子数は10以下であることが好ましく、直鎖のアルキル基である場合には炭素原子数は3以下であることが好ましく、溶解性を改善する観点からはRが水酸基を有することが好ましい。
はカルボキシル基又はスルホ基が好ましく、カルボキシル基が好ましい。
【0025】
有機酸としては、Crの含有量を低減させたセメント原料の製造の観点からは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、ベンゼンスルホン酸又はトルエンスルホン酸が好ましく、ギ酸、酢酸又はクエン酸がより好ましく、酢酸がさらに好ましい。
【0026】
無機酸としては、酸化力を有していても有さなくてもよいが、塩酸、硫酸又は硝酸が好ましく、塩酸又は硝酸がより好ましい。
【0027】
本工程で使用する酸性液の濃度は、セメント原料としての有用な成分を抽出する観点から塩酸では1.0mol/L以上であることが好ましく、2.0mol/L以上であることがより好ましく、3.0mol/L以上であることが更に好ましく、セメント原料のCrの含有量の含有量を減少させる観点からは10.0mol/L以下であることが好ましく、8.0mol/L以下であることがより好ましく、6.0mol/L以下であることが更に好ましい。
【0028】
本工程で使用する酸性液の濃度は、セメント原料としての有用な成分を抽出する観点から硝酸では0.5mol/L以上であることが好ましく、1.0mol/L以上であることがより好ましく、2.0mol/L以上であることが更に好ましく、セメント原料のCrの含有量の含有量を減少させる観点からは8.0mol/L以下であることが好ましく、6.0mol/L以下であることがより好ましく、4.0mol/L以下であることが更に好ましい。
【0029】
本工程で使用する酸性液の濃度は、セメント原料としての有用な成分を抽出する観点からクエン酸では0.5mol/L以上であることが好ましく、0.8mol/L以上であることがより好ましく、1.0mol/L以上であることが更に好ましく、セメント原料のCrの含有量の含有量を減少させる観点からは4.0mol/L以下であることが好ましく、3.5mol/L以下であることがより好ましく、3.0mol/L以下であることが更に好ましい。
【0030】
本工程で使用する酸性液の濃度は、セメント原料としての有用な成分を抽出する観点から酢酸では0.5mol/L以上であることが好ましく、0.8mol/L以上であることがより好ましく、1.0mol/L以上であることが更に好ましく、セメント原料のCrの含有量の含有量を減少させる観点からは10.0mol/L以下であることが好ましく、8.0mol/L以下であることがより好ましく、6.0mol/L以下であることが更に好ましい。
【0031】
本工程で使用する酸性液の濃度は、セメント原料としての有用な成分を抽出する観点からギ酸では0.5mol/L以上であることが好ましく、0.8mol/L以上であることがより好ましく、1.0mol/L以上であることが更に好ましく、セメント原料のCrの含有量の含有量を減少させる観点からは10.0mol/L以下であることが好ましく、8.0mol/L以下であることがより好ましく、6.0mol/L以下であることが更に好ましい。
【0032】
工程(1)は、加温しながら行うこともできるが、セメント原料の製造時の二酸化炭素発生量を削減するため、外部からのエネルギーを投入せず温度調節せずに行うことが好ましい。
工程(1)は、処理液(A)中の珪素原子濃度及びクロム原子濃度をモニタリングし終点を決定することが好ましい。処理液(A)中の珪素原子濃度が設定値以下であると製鋼スラグ中の有効成分が処理液(A)に十分抽出されていないため処理時間をより長くする必要があり、処理液(A)中のクロム原子量が設定値以上となると製造されるセメント原料中のCrの含有量が多くなり好ましくない。
【0033】
工程(1)を停止させる処理液(A)中の珪素原子濃度の設定値としては、有効成分の回収率の観点から、0.10%質量以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましく、0.50質量%以上とすることが更に好ましく、他の不純物の含有量を低減する観点から、5.00質量%以下とすることが好ましく、3.00質量%以下とすることがより好ましく、2.00質量%以下とすることが更に好ましい。
【0034】
酸性液の使用量は、次工程での操作性の観点から処理する製鋼スラグ1 kgに対し、10 L以下が好ましく、8 L以下がより好ましく、6 L以下が更に好ましい。
セメント原料としての有用な成分の抽出量の観点からは処理する製鋼スラグ1 kgに対し、1 L以上が好ましく、2 L以上がより好ましく、3 L以上が更に好ましい。
【0035】
<工程(2)>
本工程では、工程(1)により、製鋼スラグからセメント原料として有用な成分が、処理液(A)に抽出されるが、製鋼スラグには酸性液に不溶な成分、難溶な成分及びセメント原料として有用な成分であるが処理液(A)には溶解されなかった成分が固形分(A)として含まれており、これを分離し処理液(B)を得る。
固形分(A)としては、CaO、Al、SiO及びFe等とともにCrが含まれている。このため、固形分を処理液(A)から分離した処理液(B)ではCr等に由来するクロム原子の含有量がセメント原料として使用可能な程度に減少する。
【0036】
処理液(B)に溶解している固形分(B)に対するCr等の各成分の含有量を処理液(B)中の含有量とする。
固形分(B)は工程(1)に用いた製鋼スラグのうち酸性液に溶解した成分に該当する。
簡易的には、工程(1)で使用した鋼鉄スラグの質量から固形分(A)の質量の差を固形分(B)の質量とすることができ、また、処理液(B)中のクロムイオン等の金属イオン濃度から処理液(B)に含まれるCrを算出して、固形分(B)に含まれるCrの質量とすることができる。
【0037】
処理液(B)中のCrの含有量は、セメントから環境中へのクロムの排出を抑える観点から0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましく、実質的に含まないことが好ましい。
【0038】
前記の観点から、処理液(B)中のAlの含有量は、セメント原料中の有用成分を回収する観点から1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることが更に好ましく、処理工程の実質的な有効性から25.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましく、15.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0039】
前記の観点から、処理液(B)中のSiOの含有量は、セメント原料中の有用成分を回収する観点から5.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることがより好ましく、15.0質量%以上であることが更に好ましく、処理工程の実質的な有効性から50.0質量%以下であることが好ましく、40.0質量%以下であることがより好ましく、30.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0040】
前記の観点から、処理液(B)中のFeの含有量は、セメント原料中の有用成分を回収する観点から5.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることがより好ましく、15.0質量%以上であることが更に好ましく、処理工程の実質的な有効性から50.0質量%以下であることが好ましく、45.0質量%以下であることがより好ましく、40.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0041】
前記の観点から、処理液(B)中のCaOの含有量は、セメント原料中の有用成分を回収する観点から10.0質量%以上であることが好ましく、15.0質量%以上であることがより好ましく、20.0質量%以上であることが更に好ましく、処理工程の実質的な有効性から80.0質量%以下であることが好ましく、60.0質量%以下であることがより好ましく、60.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0042】
処理液(A)から固形分(A)を分離する方法としては特に限定されないが、ろ過、フィルタープレス、デカンテーション、加圧浮上、遠心分離又はこれらの組み合わせが好ましいが、設備の簡便さの観点からろ過又はデカンテーションが好ましい。
【0043】
前記ろ過に用いるろ材としては固形分(A)の粒径やその量、処理液(A)の量及び粘度等により適宜選択できるが、ろ紙、不織布又は多孔質樹脂が好ましい。
不織布としては、植物性繊維、動物性繊維、鉱物繊維又は化学繊維が好ましく、化学繊維としてはレーヨン、ナイロン、ポリエステル、アクリル繊維又はアラミド繊維を用いたものが好ましい。
多孔質樹脂としては、ポリオレフィン系又はウレタン系樹脂が好ましい。
なお、当該固形分(A)を分離する方法は後記の工程(3)でも同様に行うことができる。
【0044】
工程(2)で得られる処理液(B)中に溶解している固形分(B)の量(質量kg)を工程(1)で使用した製鋼スラグの量(質量kg)で割った酸溶解率(%)を評価することにより、本発明のセメント原料の製造方法は評価できる。
酸溶解率(%)は工程(1)で使用する製鋼スラグの質量(g)及び工程(2)で分離した固形分(A)の質量(g)から、
酸溶解率=(工程(1)で使用する製鋼スラグの質量-工程(2)で分離した固形分(A)の質量)/工程(1)で使用する製鋼スラグの質量×100
により、算出される。
【0045】
酸溶解率は処理液(B)中にセメント原料としての有用な成分を抽出する観点から10.0%以上が好ましく、20.0%以上がより好ましく、30.0%以上が更に好ましい。
【0046】
<工程(3)>
本発明ではさらに以下の工程を(3)を含むことが好ましい。すなわち、処理液(B)は前記のように溶液のまま使用することもできるが、処理液(B)から固形分(C)を析出させた後に固体として使用することも好ましい。
【0047】
処理液(B)から固体を析出させる方法としては、溶媒を留去し固化する方法、溶媒を一部留去し固体が析出した後に分離する方法、pHを調整する方法、処理液(B)に溶解している固体に対する貧溶媒を加え固体を析出させる方法、冷却し固体を析出させる方法及びこれらの組み合わせが好ましいが、処理液(B)を加熱し溶媒を留去させ乾固させる方法が簡便性の観点から好ましい。
なお、固形分(C)中の金属原子の含有量は固形分(B)における含有量と等しいが、水和物を持ったり、対をなすアニオンが変わるため、化合物の形態は同一とはならない。
【0048】
[セメントの製造方法]
本発明で得られるセメント原料を用いてセメントを製造することができる。
その製造方法としては、本発明で得られるセメント原料を、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料などとともに混合し、焼成することによりセメントクリンカを得る。
焼成は、通常、電気炉やロータリーキルンなどを用いて行われる。例えば、予め粉砕・混合した原料をプレヒータにて1000℃程度で予熱した後、ロータリーキルンに送り込み、1450℃以上の高温で焼成を行った後、焼成物を急冷することにより、セメントクリンカを製造することができる。
得られたセメントクリンカに石膏等を加え粉砕することにより、セメントを製造することができる。
【実施例
【0049】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0050】
[各種条件、成分量等の測定]
各工程における成分量及び条件の測定は以下のように行った。
(1)各成分の含有量の測定
(対象が固形の場合)
分析対象が固形である場合、該固形中の成分分析は、エネルギー分散型X線蛍光分光法(ED-XRF)により行った。装置として、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(Epsilon3、パナリティカル社製)を使用した。測定は、本装置のOmnianプログラムにて行った。なお、本方法による定量限界は0.001質量%であった。
(対象が液体の場合)
分析対象が液分である場合、該液分中の成分分析は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)装置で行った。装置として、 SPECTRO ARCOS スペクトロ社製 を使用した。なお、本方法による定量限界は0.001質量%であった。
【0051】
(2)固形分(B)換算濃度
工程(1)で使用した鋼鉄スラグの質量と固形分(A)の質量の差を固形分(B)の質量とする。処理液(B)におけるICP-OESでの濃度測定で得られた各原子の濃度から、対応する酸化物の質量を計算し、固形分(B)の質量中の割合を固形分(B)中の換算濃度(固形分(B)換算濃度)とする。
【0052】
(実施例1)
[セメント原料の調製]
<工程(1)>
20 ミリリットルの容器に希塩酸(3mol/L)を5 mL加え、さらに200μm以下に粉砕した1 gの酸化スラグを加え、10分浸漬して処理液(A)を得た。
<工程(2)>
工程(1)で得られた処理液(A)を丸形ろ紙(ADVANTEC製、材質:セルロース、ろ紙直径:55 mm、最大孔径:4 μm)を用いて吸引ろ過し、残渣回収率62.7%(0.63 gの固形分(A))で分離し、処理液(B)を5 mL得た。
酸化スラグの酸溶解率、得られた処理液(B)、残渣の各組成を表1に記載した。
【0053】
(実施例2~15、比較例1)
表1に示す酸性液を使用し、浸漬時間を変更した以外は同様にして、実施例2~15を表1に示す。
また、塩酸を用いた実施例1~4について、酸溶解率及び処理液(B)濃度から算出した各成分の含有量(実施例16~実施例19)を表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1~15の結果から、処理液(B)中のクロム原子の含有量は極めて少なく、クロムの抽出量を抑え、セメント原料としての有用な成分を選択的に抽出できることが分かった。
【0056】
【表2】
【0057】
表1の処理液(B)濃度を用いて、算出したCrの濃度(表2)も0.4質量%以下と低く抑えられることが分かった。
【0058】
<工程(3)>
実施例5で得られた処理液(B)の全量を、液温を100℃とし、水分が十分に留去されたのを確認した後(カールフィッシャー法での水分の含有量:1.0質量%未満)、加熱を停止し、室温まで自然放冷し、固体のセメント原料である固形分(C)を得た(実施例20)。得られた固形分(C)の成分を分析した結果を表3に示す。
実施例20では、Crの含有量は0.03質量%であった。
一方特許文献1の表2のスラグ組成のCrの含有量は0.4~4.0wt%であった。表3に比較例1として記載した。
以上のように、本発明の製造方法によりクロム濃度を低減させたセメント原料を製造できることが確認できた。
さらに、特許文献1の製造方法では、スラグを1000℃以上に加熱しなければならず、また磁着物を除去するための永久磁石式吊り下げ磁選機など大掛かりな装置を必要とするのに対し、本発明の製造方法では、酸性液による処理やろ過等の分離工程などの極めて簡便な工程の組み合わせで実施することができるため極めて優れた製造方法であることが分かった。
【0059】
【表3】