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  • 特許-複合ケーブル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】複合ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20230613BHJP
   H01B 7/04 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01B7/00 310
H01B7/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020116861
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014518
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-09-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
(72)【発明者】
【氏名】塚本 佳典
(72)【発明者】
【氏名】森山 真至
(72)【発明者】
【氏名】荒井 才志
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224433(JP,A)
【文献】実開昭57-082015(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の信号線が撚り合わせられた撚線と、
複数本の第1電源線をケーブル周方向に隣り合うように配置してなる第1電源線ユニットと、
偶数本の第2電源線を有する第2電源線ユニットと、
前記撚線と前記複数本の第1電源線と前記複数本の第2電源線とを撚り合わせた集合体の周囲を一括して覆うシースと、を備え、
前記撚線と前記第1電源線ユニットとは、ケーブル直径方向に対向して配置されており、
前記第2電源線ユニットは、ケーブル周方向における前記撚線と前記第1電源線ユニットとの間のそれぞれに、前記偶数本の第2電源線が等しい本数で対向して配置されて構成されており、
前記第1電源線ユニットの剛性が、前記撚線の剛性の1倍以上1.5倍以下である、
複合ケーブル。
【請求項2】
前記撚線は、一対の前記信号線が対撚りされた対撚線からなり、
前記信号線は、信号線導体と、前記信号線導体の周囲を覆う信号線絶縁体と、を有し、
前記第1電源線は、第1導体と、前記第1導体の周囲を覆う第1絶縁体と、有し、
前記対撚線の剛性は、当該対撚線を構成する前記一対の信号線について、下式で表される前記各信号線の剛性を足し合わせることにより求められるものであり、
(信号線の剛性)=(信号線導体の導体断面積)×(信号線導体の引張強度)+(信号線絶縁体の断面積)×(信号線絶縁体の引張強度)
前記第1電源線ユニットの剛性は、前記第1電源線ユニットを構成する前記複数本の第1電源線について、下式で表される前記各第1電源線の剛性を足し合わせることにより求められるものである、
(第1電源線の剛性)=(第1導体の導体断面積)×(第1導体の引張強度)+(第1絶縁体の断面積)×(第1絶縁体の引張強度)
請求項1に記載の複合ケーブル。
【請求項3】
前記第1電源線ユニットは、3本以上8本以下の前記第1電源線をケーブル周方向に沿うように配置して構成されている、
請求項1または2に記載の複合ケーブル。
【請求項4】
前記対撚線の外径D1が、前記第2電源線の対向方向における前記第1電源線ユニット全体の長さD2以下である、
請求項に記載の複合ケーブル。
【請求項5】
前記対撚線の外径D1が、前記第1電源線の外径、及び前記第2電源線の外径よりも大きい、
請求項に記載の複合ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、信号伝送用の信号線と、電源供給用の電源線とを複合した複合ケーブルが知られている。例えば、特許文献1では、一対の信号線を撚り合わせた対撚線と、複数本の電源線とを撚り合わせてケーブルコアを構成した複合ケーブルが開示されている。特許文献1の複合ケーブルは、例えば、自動車等の車両用の配線として用いられるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-47599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、工場等において使用されるロボットアーム等の産業用ロボットは小型化が進んでおり、産業用ロボットに使用されるサーボモータ等の部品も小型化が進んでいる。小型のサーボモータ等に複数のケーブルを接続することは困難を伴い、また産業用ロボットにおけるケーブルの配線スペースも狭くなる傾向があるため、サーボモータ等に接続するケーブルとして、電源供給用のケーブルと信号伝送用のケーブルを別々に用いるではなく、信号線と電源線とを1本にまとめた複合ケーブルを使用したいという要求がある。
【0005】
さらに、産業用ロボットは一般に多くの可動部を有しているため、サーボモータ等に接続される複合ケーブルには、繰り返し屈曲や捻回に耐えうる耐屈曲性及び耐捻回性が要求される。
【0006】
そこで、本発明は、耐屈曲性及び耐捻回性に優れた複合ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数本の信号線が撚り合わせられた撚線と、複数本の第1電源線をケーブル周方向に隣り合うように配置してなる第1電源線ユニットと、偶数本の第2電源線を有する第2電源線ユニットと、前記撚線と前記複数本の第1電源線と前記複数本の第2電源線とを撚り合わせた集合体の周囲を一括して覆うシースと、を備え、前記撚線と前記第1電源線ユニットとは、ケーブル直径方向に対向して配置されており、前記第2電源線ユニットは、ケーブル周方向における前記撚線と前記第1電源線ユニットとの間のそれぞれに、前記偶数本の第2電源線が等しい本数で対向して配置されて構成されており、前記第1電源線ユニットの剛性が、前記撚線の剛性の1倍以上1.5倍以下である、複合ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐屈曲性及び耐捻回性に優れた複合ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る複合ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る複合ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。複合ケーブル1は、信号伝送用の信号線と、電源供給用の電源線とを複合したケーブルであって、例えば、産業用ロボットのサーボモータ等に接続され、当該サーボモータ等に対して信号伝送及び電源供給を行うために用いられるものである。信号線は、例えば、1MHz以上の周波数帯域の信号を伝送するために用いられる。また、電源線は、例えば、数アンペア程度の電流を供給するために用いられるものである。このような信号や電流がサーボモータと産業用ロボットの可動部との区間で伝送や供給されることにより、産業用ロボットの可動部が可動したり停止したりすることが高速度で繰り返し行われる。なお、複合ケーブル1の用途はこれに限定されない。
【0012】
また、産業用ロボットは工場等で使用されるため、産業用ロボットのサーボモータ等に接続される複合ケーブルでは、例えば最長で100m程度の長距離伝送を行うことも想定される。そのため、このような用途に用いる複合ケーブルでは、長距離伝送が可能な良好な電気特性を有することも求められる。例えば、長距離伝送に対応するために複合ケーブルの外径を大きくすることが考えられるが、この場合、耐屈曲性や耐捻回性が低下してしまう。そのため、複合ケーブルでは、当該複合ケーブルの外径を大きくせずに(例えば、複合ケーブルの外径が9.0mm以下で)長距離伝送が可能であり、かつ耐屈曲性及び耐捻回性にも優れることも求められる。
【0013】
図1に示すように、複合ケーブル1は、複数本の信号線21が撚り合わせられた撚線としての、一対の信号線21を対撚りした対撚線2と、複数本の第1電源線31をケーブル周方向に隣り合うように配置してなる第1電源線ユニット3と、偶数本の第2電源線41を有する第2電源線ユニット4と、対撚線2と複数本の第1電源線31と複数本の第2電源線41とを撚り合わせた集合体(ケーブルコア)5の周囲を一括して覆うシース9と、を備えている。なお、図1に示す複合ケーブル1では、撚線として一対の信号線21を対撚りした対撚線2が用いられているが、これに限定されるものではない。撚線としては、例えば、2本以上の信号線21が撚り合わせられたものや、一対の信号線21を対撚りした対撚線2が複数本撚り合わせられたものであってもよい。
【0014】
対撚線2に用いる信号線21は、信号線導体21aと、信号線導体21aの周囲を覆う信号線絶縁体21bと、を有している。信号線導体21aは、複数本の金属素線を撚り合わせた撚線導体からなる。対撚線2として用いられる信号線21は、撚り合わせずに用いる第1電源線31や第2電源線41と比較して屈曲や捻回時に受ける応力が大きくなりやすいため、より高い耐屈曲性及び耐捻回性が要求される。そこで、本実施の形態では、信号線導体21aとして、複数本の金属素線を撚り合わせた子撚線を複数本さらに撚り合わせた複合撚線を用いた。信号線導体21aに用いる金属素線としては、錫めっきを施した外径が0.8mm以下の軟銅線を用いることができる。なお、信号線導体21aに用いる金属素線の本数は、100本以上とし、第1導体31aおよび第2導体41aに用いる金属素線の本数よりも少ないことがよい。このような信号線導体21aとすることにより、複合ケーブル1の剛性のバランスを良好にして耐屈曲性や耐捻回性を向上させることに有効である。
【0015】
信号線絶縁体21bとしては、長距離伝送が可能な良好な電気特性を実現するために、できるだけ誘電率が低いものを用いることが望ましい。本実施の形態では、発泡プロピレンからなる信号線絶縁体21bを用いた。高い耐屈曲性及び耐捻回性を実現するために、信号線絶縁体21bの引張強度は25MPa以上とすることが望ましく、伸びは500%以上とすることが望ましい。さらに、高い耐屈曲性及び耐捻回性を実現するために、信号線絶縁体21bは、後述する第1絶縁体31bや第2絶縁体41bよりも厚く(例えば2倍以上の厚さに)形成されることが望ましい。信号線絶縁体21bの厚さは、例えば0.4mm以上0.6mm以下である。また、信号線21の外径は、第1電源線31や第2電源線41の外径よりも大きい(例えば、第1電源線31の1.3倍)。信号線21の外径は、例えば、2.0mm以上2.4mm以下である。
【0016】
対撚線2を構成する一対の信号線21には、差動信号が伝送される。これにより、外部ノイズの影響を受けにくくなり、例えば100mといった長距離の信号伝送を安定して行うことが可能になる。なお、対撚線2の特性インピーダンスは、例えば、TDR法において、80Ω~100Ωである。
【0017】
第1電源線ユニット3を構成する第1電源線31は、第1導体31aと、第1導体31aの周囲を覆う第1絶縁体31bと、を有している。第1導体31aは、複数本の金属素線を集合撚りした撚線導体からなる。第1導体31aに用いる金属素線としては、錫めっきを施した外径が0.8mm以下の軟銅線を用いることができる。第1導体31aに用いる金属素線の本数は、100本以上とすることがよい。第1絶縁体31bとしては、高電圧に耐えるETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)を用いた。第1絶縁体31bがETFEからなることにより、信号線21の信号線絶縁体21bよりも厚さを薄くすることができる。第1絶縁体31bの厚さが薄いことにより、第1電源線31の外径を信号線21の外径よりも小さくすることができる。そして、第1電源線31の外径を信号線21の外径よりも小さくすることにより、第1電源線31の本数を対撚線2の本数よりも多くするなどして、第1電源線ユニット3の剛性を、対撚線2の剛性の1倍以上1.5倍以下に調整しやすくなる。すなわち、複合ケーブル1のケーブル周方向に対する剛性のバランスが調整しやすくなる。なお、第1絶縁体31bの厚さは、例えば0.2mm以上である。また、第1電源線31の外径は、例えば1.5mm以上である。
【0018】
本実施の形態では、第1電源線ユニット3は、対撚線2とケーブル直径方向に対向して配置されている。また、第1電源線ユニット3を構成する第1電源線31の本数は、対撚線2を構成する信号線21の本数よりも多いことがよい。より詳細には、第1電源線31の本数は、信号線21の本数の1倍より大きく4倍以下(すなわち、一対の信号線21を対撚りした対撚線2の場合では、3本以上8本以下)である。本実施の形態では、第1電源線ユニット3が、3本の第1電源線31をケーブル周方向に沿うように配置して構成されている。周方向に隣り合う第1電源線31同士は、互いに接触している。また、3本の第1電源線31は、外径や材質等がすべて同じ構成となっている。
【0019】
第2電源線ユニット4を構成する第2電源線41は、第2導体41aと、第2導体41aの周囲を覆う第2絶縁体41bと、を有している。第2導体41aは、複数本の金属素線を集合撚りした撚線導体からなる。第2導体41aに用いる金属素線としては、錫めっきを施した外径が0.8mm以下の軟銅線を用いることができる。第2導体41aに用いる金属素線の本数は、100本以上とすることがよい。第2絶縁体41bとしては、高電圧に耐えるETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)を用いた。なお、第2絶縁体41bの引張強度は、信号線絶縁体21bの引張強度(ここでは、発泡ポリエチレンの引張強度)よりも大きい。なお、第2絶縁体41bの厚さは、例えば0.2mm以上である。また、第2電源線41の外径は、例えば1.5mm以上である。
【0020】
本実施の形態では、第2電源線ユニット4は、ケーブル周方向における対撚線2と第1電源線ユニット3との間の位置のそれぞれに、偶数本の第2電源線41を等しい本数で対向して配置して構成されている。換言すれば、第2電源線ユニット4は、ケーブル中心を通り対撚線2と第1電源線ユニット3との対向方向に沿った対称面Sに対して面対称となるように第2電源線41を配置して構成されている(ただし、製造公差等による多少のずれは許容される)。対称面Sに対して面対称とするため、第2電源線41の本数は偶数本とされる。
【0021】
本実施の形態では、周方向における対撚線2と第1電源線ユニット3との間にそれぞれ1本の第2電源線41を配置しており、合計で2本の第2電源線41を用いている。第2電源線41は、対撚線2と、第1電源線31とにそれぞれ接触するように配置されている。なお、第2電源線ユニット4を構成する第2電源線41の本数はこれに限定されず、例えば、周方向における対撚線2と第1電源線ユニット3との間にそれぞれ2本、合計4本の第2電源線41を配置してもよい。ここでは、第1電源線31と第2電源線41の外径が等くしたが、第1電源線31と第2電源線41の外径は異なっていてもよい。また、ここでは、第2電源線ユニット4を構成する全ての第2電源線41を同じ構成としたが、異なる構成の第2電源線41が含まれてもよい。ただし、第2電源線41は、対称面Sに対して面対称となるように配置される必要がある。
【0022】
このように、本実施の形態では、対撚線2を構成する信号線21の導体構成(複合撚り線)は、第1及び第2電源線ユニット3,4の導体構成(集合撚り線)と異なっている。また、対撚線2の外径D1は、第1電源線31の外径、及び第2電源線41の外径よりも大きい。さらに、対撚線2の外径D1は、対称面Sに対して垂直な方向(第2電源線41の対向方向、図1の左右方向)における第1電源線ユニット3全体の長さD2以下である。なお、対撚線2と対向している第1電源線ユニット3についても、対称面Sに対して面対称に配置されていることが望ましい。対撚線2の外径D1を第1電源線ユニット3全体の長さD2以下とすることにより、第1電源線ユニット3の剛性を対撚線2の剛性の1倍以上1.5倍以下とする範囲で、複合ケーブル1のケーブル周方向に対する剛性のバランスが調整しやすくなる。
【0023】
本実施の形態では、対撚線2と、3本の第1電源線31からなる第1電源線ユニット3と、2本の第2電源線41からなる第2電源線ユニット4と、介在6とを撚り合わせることで、集合体5が構成されている。介在6は、ケーブル外形を円形状に近づける役割を果たすものであり、例えば、スフ糸(ステープルファイバー糸)等の糸状体からなる。なお、対撚線2と電源線31,41とを撚り合わせて集合体5が構成されるため、上述の対称面Sは、長手方向に移動するに従って集合体5の撚りに応じて回転する面となる。また、介在6は、ケーブル直径方向に対向して配置される対撚線2と第1電源線ユニット3とが離間されるように、対撚線2と第1電源線ユニット3との間に配置されているとよい。このように対撚線2と第1電源線ユニット3とを離間させるようにすることで、複合ケーブル1の剛性のバランスが良好となり、屈曲や捻回によって対撚線2と第1電源線ユニット3との配置が崩れにくくなると共に、局所的な応力の集中が発生しにくくなる。
【0024】
集合体5の周囲には、押え巻きテープ7が螺旋状に巻き付けられている。押え巻きテープ7としては、PTFE(ポリテトレフルオロエチレン)等の樹脂、不織布、紙等からなるテープ状部材を用いることができる。
【0025】
抑え巻きテープ7の周囲には、シールド層8が設けられている。シールド層8としては、金属素線を編み合わせた編組シールドを用いることができる。金属素線としては、耐屈曲性及び耐捻回性が高い銅合金線を用いることがより好ましい。金属素線として軟銅線を用いることもできるが、この場合、直径0.08以上0.12mm以下の細径のものを用いることが望ましい。また、金属素線の一部を、糸状体に銅箔を螺旋状に巻き付けた銅箔紙に置き換えてもよい。
【0026】
抑え巻きテープ7とシールド層8との間には、ドレンワイヤ10が設けられている。ドレンワイヤ10は、端末加工時に、シールド層8及びシース9に切れ目を入れて、端末加工性を向上させる役割を果たす。ドレンワイヤ10としては、例えば軟銅線を用いることができる。軟銅線は、その表面に錫めっきを有してもよい。
【0027】
シース9は、集合体5やシールド層8を保護するためのものであり、例えば、耐油性に優れたPVC(ポリ塩化ビニル)樹脂組成物や、ウレタン樹脂組成物からなるものを用いることができる。シース9の厚さは、例えば0.6mm以上0.8mm以下である。また、シース9の外径(すなわち、複合ケーブル1の外径)は、例えば9.0mm以下である。配策のしやすさの観点から、シース9の外径は、8.6mm以下であることがよい。
【0028】
ここで、複合ケーブル1の耐屈曲性及び耐捻回性について検討する。複合ケーブル1では、長距離伝送に適用可能とするために、信号線21を撚り合せて対撚線2としている。そのため、複合ケーブル1では、集合体5に対撚線2が含まれており、かつ、対撚線2に対向する第1電源線ユニット3が撚り合されていない。つまり、複合ケーブル1では、対撚線2と第1電源線ユニット3との対向方向において、十分な対称性が得られていない。そのため、屈曲時や捻回時に対撚線2、あるいは第1電源線31に応力が集中して、耐屈曲性及び耐捻回性を十分に得られない場合が考えられる。例えば、対撚線2の剛性が第1電源線ユニット3の剛性に対して非常に高くなっていると、屈曲時や捻回時に第1電源線3に応力が集中して第1電源線3が早期に断線してしまうおそれがある。
【0029】
例えば、対撚線2と対向して配置されている第1電源線ユニット3を撚り合わせることによって、複合ケーブル1の対称性を向上させ、屈曲時等の応力を対撚線2と第1電源線ユニット3とに略均等に負荷させることも考えられる。しかし、この場合、複合ケーブル1の外径が大きくなってしまい、この大径化の影響によって結果的に耐屈曲性及び耐捻回性が低下してしまうおそれがある。
【0030】
そこで、本実施の形態では、第1電源線ユニット3の剛性を、対撚線2の剛性の1倍以上1.5倍以下とした。これにより、対撚線2と第1電源線ユニット3との対向方向における剛性のバランスを整えて、屈曲時等の応力を対撚線2と第1電源線ユニット3とに略均等に負荷させることが可能になり、複合ケーブル1の外径を大きくすることなく、耐屈曲性及び耐捻回性を向上することが可能になる。なお、対称面Sに対して垂直な方向における剛性のバランスは、第2電源線41を対称面Sに対して面対称に配置することで確保される。
【0031】
ここで、対撚線2の剛性は、当該対撚線2を構成する一対の信号線21について、下式(1)で表される各信号線21の剛性を足し合わせることにより求められるものである。
(信号線21の剛性)=(信号線導体21aの導体断面積)×(信号線導体21aの引張強度)+(信号線絶縁体21bの断面積)×(信号線絶縁体21bの引張強度) ・・・(1)
例えば、信号線導体21aの金属素線として軟銅線を用いる場合、信号線導体21aの引張強度は例えば220MPa程度である。また、信号線導体21aの金属素線として銅合金線を用いる場合、信号線導体21aの引張強度は例えば850MPa程度である。
【0032】
また、第1電源線ユニット3の剛性は、第1電源線31を構成する複数本の第1電源線31について、下式(2)で表される各第1電源線31の剛性を足し合わせることにより求められるものである。
(第1電源線31の剛性)=(第1導体31aの導体断面積)×(第1導体31aの引張強度)+(第1絶縁体31bの断面積)×(第1絶縁体31bの引張強度) ・・・(2)
【0033】
このように、本実施の形態では、第1電源線ユニット3の剛性を、対撚線2の剛性以上としている。これは、第1電源線ユニット3は撚り合わされておらず第1電源線31が互いに自由に動くことができるために、上述の式(2)で得られる第1電源線31の剛性を足し合わせた値よりも、屈曲時等における剛性の影響が低くあらわれる可能性があるためである。対撚線2は撚り合わされており信号線21が互いに自由に動くことはできず、屈曲時等における剛性の影響の低下も少ないと考えられるため、屈曲時等における実際の剛性の影響のバランスをとるために、第1電源線ユニット3の剛性は、対撚線2の剛性以上(対撚線2の剛性の1倍以上1.5倍以下)とすることが望ましい。
【0034】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る複合ケーブル1では、対撚線2と第1電源線ユニット3とを、ケーブル直径方向に対向して配置しており、第2電源線ユニット4を、ケーブル周方向における対撚線2と第1電源線ユニット3との間のそれぞれに、偶数本の第2電源線41が等しい本数で対向して配置されて構成しており、第1電源線ユニット3の剛性を、対撚線2の剛性の1倍以上1.5倍以下としている。
【0035】
このように構成することで、複合ケーブル1の剛性のバランスを良好とし、繰り返し屈曲あるいは捻回させた際に対撚線2や電源線ユニット3,4の配置が崩れにくくなると共に、屈曲や捻回により局所的な応力の集中が発生しにくくなる。その結果、例えば第1電源線ユニット3を撚り合わせた構成とせずとも、繰り返し屈曲あるいは捻回させた際に対撚線2や電源線ユニット3,4を構成する電線が断線しにくくなり、複合ケーブル1の大径化を抑制しつつも、耐屈曲性及び耐捻回性を向上できる。また、複合ケーブル1では、信号線21を撚り合わせて対撚線2として使用しているため、例えば100mといった長距離の信号伝送も安定して行うことが可能であり、工場等で使用される産業用ロボットのサーボモータ等への信号伝送及び電源供給に好適な複合ケーブル1を実現できる。
【0036】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0037】
[1]複数本の信号線(21)が撚り合わせられた撚線と、複数本の第1電源線(31)をケーブル周方向に隣り合うように配置してなる第1電源線ユニット(3)と、偶数本の第2電源線(41)を有する第2電源線ユニット(4)と、前記撚線と前記複数本の第1電源線(31)と前記複数本の第2電源線(41)とを撚り合わせた集合体(5)の周囲を一括して覆うシース(9)と、を備え、前記撚線と前記第1電源線ユニット(3)とは、ケーブル直径方向に対向して配置されており、前記第2電源線ユニット(4)は、ケーブル周方向における前記撚線と前記第1電源線ユニット(3)との間のそれぞれに、前記偶数本の第2電源線(41)が等しい本数で対向して配置されて構成されており、前記第1電源線ユニット(3)の剛性が、前記撚線の剛性の1倍以上1.5倍以下である、複合ケーブル(1)。
【0038】
[2]前記撚線は、一対の前記信号線(21)が対撚りされた対撚線(2)からなり、前記信号線(21)は、信号線導体(21a)と、前記信号線導体(21a)の周囲を覆う信号線絶縁体(21b)と、を有し、前記第1電源線(31)は、第1導体(31a)と、前記第1導体(31a)の周囲を覆う第1絶縁体(31b)と、を有し、前記対撚線(2)の剛性は、当該対撚線(2)を構成する前記一対の信号線(21)について、下式で表される前記各信号線(21)の剛性を足し合わせることにより求められるものであり、
(信号線(21)の剛性)=(信号線導体(21a)の導体断面積)×(信号線導体(21a)の引張強度)+(信号線絶縁体(21b)の断面積)×(信号線絶縁体(21b)の引張強度)
前記第1電源線ユニット(3)の剛性は、前記第1電源線ユニット(3)を構成する前記複数本の第1電源線(31)について、下式で表される前記各第1電源線(31)の剛性を足し合わせることにより求められるものである、
(第1電源線(31)の剛性)=(第1導体(31a)の導体断面積)×(第1導体(31a)の引張強度)+(第1絶縁体(31b)の断面積)×(第1絶縁体(31b)の引張強度)
[1]に記載の複合ケーブル(1)。
【0039】
[3]前記第1電源線ユニット(3)は、3本以上8本以下の前記第1電源線(31)をケーブル周方向に沿うように配置して構成されている、[1]または[2]に記載の複合ケーブル(1)。
【0040】
[4]前記対撚線(2)の外径(D1)が、前記第2電源線の対向方向における前記第1電源線ユニット(3)全体の長さ(D2)以下である、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の複合ケーブル(1)。
【0041】
[5]前記対撚線(2)の外径が、前記第1電源線(31)の外径、及び前記第2電源線(41)の外径よりも大きい、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の複合ケーブル(1)。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0043】
1…複合ケーブル
2…対撚線(撚線)
21…信号線
21a…信号線導体
21b…信号線絶縁体
3…第1電源線ユニット
31…第1電源線
31a…第1導体
31b…第1絶縁体
4…第2電源線ユニット
41…第2電源線
41a…第2導体
41b…第2絶縁体
5…集合体
6…介在
7…押え巻きテープ
8…シールド層
9…シース
10…ドレンワイヤ
図1