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特許7294312重合性化合物、重合性組成物、重合体及びフォトレジスト用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】重合性化合物、重合性組成物、重合体及びフォトレジスト用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/26 20060101AFI20230613BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20230613BHJP
   C07D 309/30 20060101ALN20230613BHJP
【FI】
C08F20/26
G03F7/039 601
C07D309/30 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020500513
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019005076
(87)【国際公開番号】W WO2019159957
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018025633
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 禎治
(72)【発明者】
【氏名】猪木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-145954(JP,A)
【文献】特開2015-025029(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0080145(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0111345(US,A1)
【文献】特開2008-083370(JP,A)
【文献】特開2001-296661(JP,A)
【文献】特開2008-163058(JP,A)
【文献】特開2014-028926(JP,A)
【文献】REGISTRY(STN)[online],2003年11月17日,retrieved on 8 May 2019, CAS登録番号:617711-92-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 309/30
C08F 20/26
G03F 7/039
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1-3)で表される重合性化合物を少なくとも一種類含有する重合性組成物と、光酸発生剤を含有する、フォトレジスト用組成物
【化1】

式(1-3)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、R、R、Rのうち1個が炭素数1~4の飽和炭化水素基であり、残りの2個が水素原子である。
【請求項2】
下記式(1-4)で表される重合性化合物を少なくとも一種類含有する重合性組成物と、光酸発生剤を含有する、フォトレジスト用組成物
【化2】

式(1-4)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基である。
【請求項3】
下記式(1-5)で表される重合性化合物を少なくとも一種類含有する重合性組成物と、光酸発生剤を含有する、フォトレジスト用組成物
【化3】

式(1-5)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基である。
【請求項4】
下記式(1-6)で表される重合性化合物を少なくとも一種類含有する重合性組成物と、光酸発生剤を含有する、フォトレジスト用組成物
【化4】

式(1-6)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性化合物、その重合性化合物を含む重合性組成物、その重合性組成物が重合した重合体、及びその重合体を含むフォトレジスト用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化と高速度化に伴い、パターンルールの微細化が急速に進んでいる。最先端の微細化技術としては、ArF液浸リソグラフィーによる45~32nmノードのデバイスが量産中である。次世代の32nm以下ノードとしては、水よりも高屈折率の液体と高屈折率レンズ、高屈折率レジスト膜を組み合わせた超高NAレンズによる液浸リソグラフィー、波長13.5nmの真空紫外光(EUV)リソグラフィー、ArFリソグラフィーの多重露光(マルチプルパターニングリソグラフィー)などの検討が進められており、すでに実用化されているものもある。
【0003】
近年、上記パターニング法に加え、有機溶剤現像によるネガティブトーンレジストも脚光を浴びている。ポジティブトーンでは達成できない非常に微細なホールパターンをネガティブトーンの露光で解像するために、解像性の高いポジ型レジスト組成物を用いた有機溶剤現像でネガパターンを形成する。
有機溶剤によるネガティブトーン現像用のArFレジスト組成物としては、従来型のポジ型ArFレジスト組成物を用いることができパターン形成方法が示されている(特許文献1)。
【0004】
上記現像法に用いられるフォトレジスト材料に共通して要求されるのが、基板密着性、感度、解像性、ドライエッチング耐性、少ない塗布むら・乾燥むら、パターン倒壊の起こりにくさ、膜内への亀裂の入りにくさである。そしてこれらの要求特性を満たすためには、樹脂成分としては極性の高いペンダントを持つ構成単位と嵩高いペンダントを持つ構成単位を有していることが必須となる。極性の高い構成単位は主として樹脂の基板密着性を高める効果があり、これまでにブチロラクトン環、バレロラクトン環などの単環ラクトン型のメタクリレートなどが開発されている(特許文献2~5)。嵩高い構成単位は主としてドライエッチング耐性を高める効果があり、これまでにアダマンタンやノルボルナンなどの骨格を有するメタクリレートが開発されている(特許文献6~9)。さらには両者の機能を1つのペンダントに同時に付与した、ノルボルナンラクトン類のメタクリレートなどに代表される縮合環ラクトンのメタクリレートが提案されている(特許文献10~12)。
更なる微細化要求に応えるために、上記要求特性の優れたレジスト用ベース樹脂用モノマーの開発が精力的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-281974号公報
【文献】特許第4012600号公報
【文献】特許第4139948号公報
【文献】特許第6221939号公報
【文献】特許第6044557号公報
【文献】特許第2881969号公報
【文献】特許第3000745号公報
【文献】特許第3221909号公報
【文献】特開平05-265212号公報
【文献】特許第3042618号公報
【文献】特許第4131062号公報
【文献】特開2006-146143号公報
【文献】特許第5045314号公報
【文献】特許第6126878号公報
【文献】特許第5494489号公報
【文献】特開2003-40884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
δ-ラクトン骨格を有する(メタ)アクリレートは重合反応によって樹脂内に取り込まれると、樹脂の基板密着性を高める役割を果たすが、この化合物はまずその前駆体であるヒドロキシラクトンを合成し、ヒドロキシラクトンの水酸基を(メタ)アクリロイル化することによって得られる。その中でもメバロノラクトンメタクリレートは構造が簡単なことから市販されており、これに由来する構成単位を有する重合体がフォトレジスト用樹脂として優れた特性を示すことも知られている(特許文献13~15)。
【0007】
しかしながら、メバロノラクトンメタクリレートは非常に高価であり、このことがこの化合物およびこれを構成単位とした重合体、さらにはこの重合体を含むフォトレジスト樹脂組成物の市場拡大への障害となっている。
【0008】
メバロノラクトンメタクリレートが高価なのは、その前駆体であるメバロノラクトンが高価で、さらにその原料である3-メチルペンタン-1,3,5-トリオールが高価なことも原因として挙げられるが、メバロノラクトンメタクリレートおよびメバロノラクトンはともに親水性が高く、このことがメバロノラクトンメタクリレートの生産性を低めていることも原因となっている。親水性が高いと有機溶剤による水層からの抽出工程を通常よりも多く行う必要があり、抽出溶媒も酢酸エチルなどの極性溶媒であることが必須である。特許文献16ではメバロノラクトンの製造方法を開示しているが、酢酸エチルによる抽出を6回も行っている。さらにこのような極性溶媒は水との混和性があるため、抽出操作を多く行うと有機層に水が相当量取り込まれてしまうという不都合が生じる。実験室レベルの反応スケールならば抽出回数を増やしたり、無水硫酸マグネシウムなどの乾燥剤で抽出後の有機層を乾燥させることは容易に行えるが、プラントスケールでの製造では難しいと言わざるを得ない。
【0009】
このような理由から、親水性の低いヒドロキシラクトンから誘導できる重合性化合物で、メバロノラクトンメタクリレートのかわりにフォトレジスト用組成物の原料となりうる重合性化合物の開発が望まれている。このことから、フォトレジスト用組成物の原料となりうる新規な重合性化合物等の提供を本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造を有する(メタ)アクリレートが上記課題を解決し、かつフォトレジスト用重合体の製造に適した重合性化合物であることを見出し、本発明に到達した。本発明は以下の構成を含む。
なお、以下の各式で表される重合性化合物において、ラクトン環上の置換基の立体配置に由来するジアステレオマーが存在する場合には、それらの相対立体配置および混合比は問わない。
【0011】
[1] 下記式(1)で表される重合性化合物。
【化1】
式(1)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、ラクトン環上の8個の水素原子のうち1個が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換されていて、残りの7個の水素原子は、独立して、無置換又は炭素数1~10の飽和炭化水素基で置換されている。
[2] 下記式(1-1)で表される重合性化合物。
【化2】
式(1-1)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、ラクトン環上の7個の水素原子は、独立して、無置換又は炭素数1~10の飽和炭化水素基で置換されている。
[3] 前記式(1-1)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、ラクトン環上の7個の水素原子は、独立して、無置換又は炭素数1~4の飽和炭化水素基で置換されている、[2]に記載の重合性化合物。
[4] 下記式(1-2)で表される重合性化合物。
【化3】
式(1-2)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、ラクトン環上の6個の水素原子は、独立して、無置換又は炭素数1~4の飽和炭化水素基で置換されている。
[5] 下記式(1-3)で表される重合性化合物。
【化4】
式(1-3)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、R、R、Rのうち1個が炭素数1~4の飽和炭化水素基であり、残りの2個が水素原子である。
[6] 下記式(1-4)で表される重合性化合物。
【化5】
式(1-4)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基である。
[7] 下記式(1-5)で表される重合性化合物。
【化6】
式(1-5)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基である。
[8] 下記式(1-6)で表される重合性化合物。
【化7】
式(1-6)において、(M)Aは(メタ)アクリロイルオキシ基である。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の重合性化合物を少なくとも一種類含有する、重合性組成物。
[10] [9]に記載の重合性組成物が重合した重合体。
[11] [9]に記載の重合性組成物と、光酸発生剤を含有する、フォトレジスト用組成物。
[12] [10]に記載の重合体と、光酸発生剤を含有する、フォトレジスト用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明で開発した重合性化合物(δ-ラクトン系(メタ)アクリレート)は、既存化合物であるメバロノラクトンメタクリレートよりも容易に製造することができる。さらに、該重合性化合物に由来する構成単位を一部として含む樹脂を含有するフォトレジスト用組成物はメバロノラクトンメタクリレートのそれと同等またはそれ以上のレジスト特性を示しうることから、結果的にレジスト特性を低下させずに容易かつ安価にフォトレジスト用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基いて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0014】
上記式(1)において、ラクトン環上の8個の水素原子のうち1個が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換されており、残りの7個の水素原子は、独立して、無置換又は炭素数1~10の飽和炭化水素基で置換されている。
上記式(1)における、炭素数1~10の飽和炭化水素基の具体例としては、-CH、-C、-CHCHCH、-CH(CH、-CHCHCHCH、-CHCH(CH、-C(CH、-CH(CH)CHCH、-CH(CHCH、-CHCH(CH)CHCH、-CHCHCH(CH、-CH(CH)CHCHCH、-CH(CHCH、-CHC(CH、-CH(CH)CH(CH、-C(CHCHCH、シクロペンチル、-CH(CHCH、-CH(CHCH(CH、-CHCHCH(CH)CHCH、-CHCH(CH)(CHCH、-CH(CH)(CHCH、-CHCH(CH)CH(CH、-CH(CH)CHCH(CH、-C(CHCH(CH、-CH(CH)C(CH、-CH(CHCH)CH(CH、-CH(CHCH)(CHCH、シクロヘキシル、2-メチルシクロペンチル、3-メチルシクロペンチル、シクロペンチルメチル、-CH(CHCH、2-メチルシクロヘキシル、3-メチルシクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル、シキロヘキシルメチル、-CH(CHCH、-CH(CHCH、-CH(CHCHが挙げられる。
これらの中でも、-CHおよび-Cが好ましい。
式(1)において、(メタ)アクリロイルオキシ基で置換されていない7個の水素のうち、1~4個の水素が炭素数1~10の飽和炭化水素基で置換されていることが好ましく、2~3個の水素が炭素数1~10の飽和炭化水素基で置換されていることがより好ましい。
また、式(1)における水素が炭素数1~10の飽和炭化水素基で置換されている場合、その置換位置は、少なくとも一つはカルボニル基からβ-位であることが好ましい。
【0015】
上記式(1)において、ラクトン部位は(メタ)アクリル酸の保護基であり、酸によって脱保護を受けるという機能を有する。その反応機構はE1脱離であることから、(メタ)アクリロイルオキシ基のラクトン環上の結合位置はラクトンのカルボニル基からβ-位にあることが好ましく、したがって式(1)で表される重合性化合物は、式(1-1)で表される構造を有することが好ましい。
【0016】
上記式(1-1)において、(メタ)アクリロイルオキシ基で置換されていない7個の水素のうち、1~4個の水素が炭素数1~10の飽和炭化水素基で置換されていることが好ましく、2~3個の水素が炭素数1~10の飽和炭化水素基で置換されていることがより好ましい。また、炭素数1~10の飽和炭化水素基は、上記式(1)で挙げたものと同じものを例示することができ、好ましいものについても同じものを挙げることができる。
上記式(1-1)で表される重合性化合物を重合することで得られる重合体の構成単位に含まれるラクトン部位は、その極性の高さによって、重合体と基板との密着性を高める役割を有している。したがって、式(1-1)において、ラクトン環上に炭素数の多いアルキル基を導入することは、その親水性を下げることから製造の際の抽出工程においては有利であるが、その反面、重合体の極性が低下して基板密着性低下というデメリットが生じてしまう。
したがってラクトン環上のアルキル基の炭素数はあまり多くない数である4以下が好ましく、メチル(-CH)またはエチル(-C)がより好ましい。
【0017】
さらに、脱保護反応であるE1脱離を効率よく進行させるには、式(1)又は(1-1)において、(メタ)アクリロイルオキシ基の結合した炭素原子上にカルボカチオンが発生しやすい構造であることが好ましく、そのような構造として、当該炭素原子が2級よりは3級であることが好ましい。したがって、式(1-1)で表される重合性化合物は、式(1-2)で表される構造を有することが好ましい。
式(1-2)において、ラクトン環上の6個の水素原子は、独立して、無置換又は炭素数1~4の飽和炭化水素基で置換されている。炭素数1~4の飽和炭化水素基の具体例としては、-CH、-C、-CHCHCH、-CH(CH、-CHCHCHCH、-CHCH(CH、-C(CH、を挙げることができる。これらの中でも、メチル(-CH)、又はエチル(-C)であることが好ましい。
【0018】
式(1-2)で表される重合性化合物における、炭素数1~4の飽和炭化水素基の数は、樹脂の基板密着性を維持しつつ親水性を抑えるためには1個が好ましく、したがって式(1-3)に示す構造が好ましい。
【0019】
式(1-3)で表される化合物における炭素数1~4の飽和炭化水素基は、式(1-2)で挙げた具体例と同じものを挙げることができ、基板密着性と親水性抑制のバランスをより良いものにするためにはメチルがより好ましい。したがって式(1-4)、式(1-5)、又は式(1-6)で表される構造を有することが好ましい。
【0020】
上記式(1)で表される重合性化合物は、ラクトン環上の置換基の相対立体配置に由来するジアステレオマーが存在する場合がある。一般的にジアステレオマーが生成する可能性がある反応では単一の化合物が100%の選択性で生成することは極めて希である。したがって、構造上ジアステレオマーが存在し得ないものを除き、式(1)で表される重合性化合物は、その製造過程の途中でジアステレオマー混合物が得られる可能性が高い。その場合にこれらを分離してもよいが、フォトレジスト用組成物として問題なく使用できるならば、あえて分離する必要はない。また、分離後に任意の割合で混合して物性を調整することも可能である。ジアステレオマーを分離する場合にそれを行うタイミングは、ジアステレオマー混合物が生じた時点で行ってもよいが、混合物のまま先の工程に進んで、分離しやすいときに行ってもよい。
【0021】
式(1)で表される重合性化合物は、有機合成化学の手法を駆使してさまざまな方法で製造することができる。以下にその例を示すが、これによって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0022】
下記反応式[I]に示すように、式(8)で表される化合物へのケテンの付加反応を用いる経路(Tetrahedron,1959,Vol.5,pp.311-339)や、反応式[II]に示すように、式(11)で表される化合物を出発物質とし、分子内Reformatsky反応を経由する経路(特開2000-80090号公報)などが可能である。
【化8】
【0023】
本発明の実施形態は、上記式(1)で表される重合性化合物の少なくとも一種類を含む重合性組成物にも関する。本発明の実施形態にかかる重合性組成物には、その重合性組成物全量に対して、上記(1)で表される重合性化合物を、通常、1~90重量%含有し、10~70重量%含有することが好ましい。
本発明の実施形態にかかる重合性組成物には、上記(1)で表される重合性化合物以外にも、例えば界面活性剤を含有させることができる。
【0024】
本発明の実施形態にかかるフォトレジスト用組成物は、ベース樹脂として用いられる重合体、又は、その重合体を生成する重合性化合物を含む重合性組成物と、適量の結像用放射線を吸収して分解すると酸を発生し、重合体のエステル基のアルコール部を脱離させ得る化合物(光酸発生剤:以下、PAGとも記載する)を基本成分として含む。本発明の実施形態にかかるフォトレジスト用組成物は、さらに溶媒と、必要に応じて加えられたその他の成分から構成されてもよい。
本発明の実施形態にかかるフォトレジスト用組成物に含まれる、上記(1)で表される重合性化合物を重合させて得られる重合体の含有量は、フォトレジスト用組成物の全量に対して、通常、1~90重量%であり、10~70重量%であることが好ましい。
一方、本発明の実施形態にかかるフォトレジスト用組成物に含まれる、上記(1)で表される重合性化合物を含有する重合性組成物の含有量は、通常、1~99重量%であり、10~95重量%であることが好ましい。
【0025】
ベース樹脂として用いられる重合体は、第1の構成単位として式(1)で表される重合性化合物に由来するδ-ラクトン構造を含む。また、ベース樹脂として用いられる重合体は、第2の構成単位として重合体の側鎖に、酸に対して不安定であり、保護基で保護された酸性官能基を有する構造を含むことが好ましく、第3の構成単位としてその他の任意の構成単位を含んでもよく、三元共重合体等の、種々の重合体であってよい。
【0026】
さらに、ベース樹脂として用いられる重合体の第2の構成単位が、保護基で保護されたカルボキシル基を有していることも好ましい。すなわち、ベース樹脂としての酸感応性の重合体(共重合体)は、前記したラクトン部分を保護基として含有する第1の構成単位に加えて、酸に不安定なカルボキシル基を含む構成単位を第2の構成単位として含有していてもよく、かつそのような組み合わせも好ましい。
そのような構成単位をもたらす重合性化合物としては、第3級アルコールのメタクリレートを挙げることができる。
【0027】
ベース樹脂として用いられる重合体の第3の構成単位は、保護基で保護されたカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート系重合性化合物に由来する構成単位、ビニルフェノール系重合性化合物に由来する構成単位、N-置換マレイミド系重合性化合物に由来する構成単位、スチレン系重合性化合物に由来する構成単位、または単環性脂環式炭化水素部分を含むエステル基を有する構成単位であることが好ましい。また、多環性脂環式炭化水素部分にアダマンチル基、ノルボルニル基等に代表される構造を含む構成単位であれば、ドライエッチング耐性が向上するのでなお好ましい。
【0028】
本発明の実施形態にかかる重合体において、上記の第1の構成単位と、第2の構成単位と、第3の構成単位の割合(モル比)については、例えば第1の構成単位の割合として0.1~0.8、第2の構成単位の割合として0.1~0.5、第3の構成単位の割合として0.1~0.5を挙げることができる。上記の第2の構成単位と第3の構成単位を含まない態様を挙げることもできる。
本発明の実施形態にかかる重合体を製造する際の重合反応の種類としては特に限定されず、例えば、ラジカル重合、イオン重合、重縮合、配位重合を挙げることができる。また、重合の形態にも制限はなく、例えば溶液重合、塊状重合、エマルジョン重合などを使用できる。
【0029】
本発明の実施形態にかかるフォトレジスト用組成物において、PAGは、レジスト膜の形成後に結像用放射線に暴露されると、その放射線を吸収し、酸を発生する。次いで、この露光後のレジスト膜を加熱すると、先に生じた酸が触媒的に作用して、膜の露光部において脱保護反応が進行する。
【0030】
PAGは、レジストの化学において一般的に用いられている光酸発生剤、すなわち、紫外線、遠紫外線、真空紫外線、電子線、X線、レーザー光などの放射線の照射によりプロトン酸を生じる物質の中から選ぶことができる。これらの使用に特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ジフェニルヨードニウム塩、トリフェニルスルホニウム塩等のオニウム塩;ベンジルトシラート、ベンジルスルホナート等のスルホン酸エステル;ジブロモビスフェノールA、トリスジブロモプロピルイソシアヌラート等のハロゲン化有機化合物;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
フォトレジスト用組成物における光酸発生剤の含有量は、光照射により生成する酸の強度や前記重合体における、各構成単位の比率などに応じて適宜選択でき、例えば、前記重合体を100重量部としたときに、0.1~30重量部、好ましくは1~25重量部、さらに好ましくは2~20重量部程度の範囲から選択できる。
【0031】
本発明の実施形態にかかるフォトレジスト用組成物において、溶媒は、特に制限はなく汎用のレジスト溶剤を使用することができる。例えば、プロピレングリコールメチルエーテルアセタート、乳酸エチル、2-ヘプタノン、シクロヘキサノンなどが好適に挙げられる。また、補助溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテル、γ-ブチロラクトンなどを更に添加してもよい。これらの中でも、前記液浸露光用レジスト組成物の塗布時の急速な乾燥を抑制し、塗布性に優れる点で、100~200℃程度の沸点を有し、樹脂の溶解性が良好な有機溶剤が好ましい。
【0032】
その他の成分としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の各種添加剤が挙げられる。例えば、露光コントラストの向上を目的とした場合には、クエンチャーを添加することができ、塗布性の向上を目的とした場合には、界面活性剤を添加することができる。
【0033】
クエンチャーとしては特に制限はなく、適宜選択することができるが、トリ-n-オクチルアミン、2-メチルイミダゾール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ-7-エン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネ-5-エン(DBN)、等に代表される窒素含有化合物が好適に挙げられる。
【0034】
界面活性剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、ナトリウム塩、カリウム塩等の金属イオンを含有しない、非イオン性のものが好ましい。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物系、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレン誘導体系、ソルビタン脂肪酸エステル系、グリセリン脂肪酸エステル系、第1級アルコールエトキシラート系、フェノールエトキシラート系、シリコーン系、及びフッ素系から選択される界面活性剤が好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、イオン性界面活性剤であっても、非金属塩系のものであれば、使用することは可能であり、同様に塗布性の向上効果を得ることができる。
【0035】
本発明の実施形態にかかるフォトレジスト用組成物はそれを石英基板上に被膜を形成した場合、好ましくは露光光源の波長180~300nmにおける吸光度が1.75以下である。これ以上の吸光度では、レジスト膜厚を0.4μmとした場合にその透過率が20%以下となり、パターンの形成が著しく困難になる。
【実施例
【0036】
[合成例]
本発明の実施形態にかかるフォトレジスト用組成物が含有する重合体に適した重合性化合物の合成について以下に説明するが、本発明はこれら実施例によっては制限されない。また、以下の構造表記について、立体配置が図によって明示されているものについては、実際にはその鏡像体との等量混合物すなわちラセミ体であることを考慮されたい。
【0037】
反応の追跡は薄層クロマトグラフィー(TLC)またはガスクロマトグラフィー(GC)により行い、得られた化合物は、核磁気共鳴スペクトルで構造を決定し、GCで純度を測定した。まず分析装置および分析方法について説明をする。
【0038】
[TLC]
メルク社製TLC plates Silica gel 60 F254を1.5cm x 5.0cmの長方形に切り出し、適切な展開溶媒を用いて展開した。スポットの検出には波長254nmの紫外線ランプ照射または12モリブド(VI)りん酸n水和物の10%エタノール溶液にプレートを浸した後のホットプレート上での焼成、またはヨウ素吸着法を用いた。
【0039】
[GC分析]
測定装置は、島津製作所製のGC-2014型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、島津製作所製のキャピラリーカラムDB1-1MS(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。キャリアーガスとしてはヘリウムを用い、カラム線速度を30cm/秒に調整した。試料気化室の温度を150℃、検出器(FID)部分の温度を280℃に設定した。
【0040】
試料は酢酸エチルに1重量%の溶液となるように溶解して調製し、得られた溶液0.5μLを試料気化室に注入した。
【0041】
H-NMR分析]
測定装置は、ECZ400S(日本電子(株)社製)を用いた。測定は、実施例等で製造したサンプルを、CDClに溶解し、室温で積算回数4回の条件で行った。なお、得られた核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。また、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用い、このピークを化学シフトδ=0ppmとした。
【0042】
[融点測定]
測定装置は、ヤナコ機器開発研究所製のMP-S3型微量融点測定装置を用い、補正は行わずに、読み取った温度を融点とした。
【0043】
[合成例1] γ-メチルメバロノラクトンメタクリレートの合成
下記式(1a)で表されるγ-メチルメバロノラクトンメタクリレートは下記[I-1]式に示す経路で合成した。以下にその詳細を記す。
【化9】
【0044】
工程1
窒素雰囲気下、4-ヒドロキシ-3-メチルブタン-2-オン(8a)10.2g(0.1mol)を50mLのジクロロメタンに溶解し、-50℃に冷却したのち三フッ化ホウ素エーテル錯体0.38mL(3mmol)を加え、攪拌しながら6.6mmol/分の流速でケテンガスを2時間通じた。この間、反応熱によって反応液の温度が上昇するので、適宜冷浴にドライアイスを追加して、反応液の温度を-42~-44℃に保った。反応完結後、反応液に窒素ガスを20分間通じて過剰のケテンを追い出し、0℃まで昇温して飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ、一晩室温で攪拌した。これを分液し、水層からの抽出をジクロロメタンで3回行った後、有機層は合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
乾燥剤を濾別し、濾液を減圧濃縮して37.6gの粗生成物を油状物質として得た。H-NMRで分析したところ、ジアステレオマー比は25:75だった。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘプタン/酢酸エチル/トリエチルアミン=60/30/10)で精製し、β-ラクトン(9a)をジアステレオマー混合物として17.7g得た。収率95%、ジアステレオマー比25:75。
なお、このとき両ジアステレオマー(9a-x)および(9a-y)を一部単離できたので、それぞれを工程2で(10a-x)および(10a-y)に変換し、得られた化合物のNOESYスペクトルからこれらの相対立体配置を決定し、これらから遡って(9a-x)および(9a-y)の相対立体配置を決定した。なお、(9a-x)および(9a-y)はどちらも油状物質だった。
【化10】
【0045】
H-NMR(9a-x):1.06ppm(CH -CH),d,J=6.78Hz;1.50ppm(β-ラクトン隣のCH),s;2.04ppm(CH -COO),s;2.27ppm(CH),sex,J=6.78Hz;3.12ppm(β-ラクトンのCHの一方のH),d,J=16.27Hz;3.35ppm(β-ラクトンのCHの他方のH),d,J=16.27Hz;4.02ppm(CH -OAc),d,J=6.78Hz。
【0046】
H-NMR(9a-y):1.06ppm(CH -CH),d,J=7.00Hz;1.57ppm(β-ラクトン隣のCH),s;2.07ppm(CH -COO),s;2.28ppm(CH),qdd,J=7.00,6.64,5.19Hz;3.11ppm(β-ラクトンのCHの一方のH),d,J=16.25Hz;3.29ppm(β-ラクトンのCHの他方のH),d,J=16.25Hz;4.09ppm(AcO隣のCHの一方のH),dd,J = 11.26,6.64Hz;4.20ppm(AcO隣のCHの他方のH),dd,J = 11.26,5.19Hz。
【0047】
工程2
窒素雰囲気下、炭酸カリウム0.352g(2.55mmol)をメタノール8.5mLに懸濁させ、25℃でβ-ラクトン(9a-x)1.58g(8.50mmol)を8.5mLのメタノールに溶解したものを1分間かけて滴下した。15時間室温で攪拌した後、氷冷して1M塩酸10mLを加え、分液して水層からの抽出を5mLの酢酸エチルで4回行い、有機層は合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮して1.20gの粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘプタン/酢酸エチル=2/3)で精製して1.03gのγ-メチルメバロノラクトン(10a-x)を得た。油状物質、収率85%(GC純度99.9%)。
【化11】
【0048】
H-NMR:1.03ppm(CH -CH),d,J=6.96Hz;1.26ppm(CH -C-OH),s;2.00ppm(CH),m;2.28ppm(OH),br;2.55(CH -COの一方のH),d,J=17.74Hz;2.66ppm(CH -COの他方のH),d,J=17.74Hz;3.94ppm(CH -OCOの一方のH),dd,J=11.44,6.66Hz;4.57ppm(CH -OCOの他方のH),dd,J=11.44,4.69Hz。
NOESY:1.26ppmのHと3.94ppmのHとの間および1.26ppmのHと4.57ppmのHとの間のどちらにもクロスピークは観測されなかった。
【0049】
上記と同様の方法でβ-ラクトン(9a-y)0.700g(3.76mmol)から0.454gのγ-メチルメバロノラクトン(10a-y)を得た。融点70℃、収率84%(GC純度99.9%)。
【化12】
【0050】
H-NMR:0.95ppm(CH -CH),d,J=6.82Hz;1.31ppm(CH -C-OH),s;1.96ppm(CH),m;2.27ppm(OH),br;2.49(CH -COの一方のH),d,J=17.76Hz;2.70ppm(CH -COの他方のH),d,J=17.76Hz;4.19ppm(CH -OCOの一方のH),dd,J=11.28,5.52Hz;4.26ppm(CH -OCOの他方のH),t,J=11.28Hz。
NOESY:1.31ppmのHと4.26ppmのHとの間にクロスピークが観測された。
【0051】
工程3
窒素雰囲気下、0.144g(1.00mmol)のγ-メチルメバロノラクトン(10a-y)と0.231gのメタクリル酸無水物(1.50mmol)を2mLのトルエンに溶解し、室温で0.14mLの三フッ化ホウ素エーテル錯体(1.10mmol)を加えて40℃に加熱し、3時間40℃で攪拌した。反応完結確認後、室温まで冷却し、トルエンおよび水を10mLずつ反応液に加えてさらに10分間攪拌した。これを分液して水層からの抽出を5mLのトルエンで3回行い、有機層は合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、濾液を減圧濃縮して284mgの粗生成物を得、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘプタン/酢酸エチル=2/1)で精製して161mgのγ-メチルメバロノラクトンメタクリレート(1a-y)を得た。収率76%(GC純度99.9%)。
【化13】
【0052】
H-NMR:1.06ppm(CH -CH),d,J=6.82Hz;1.63ppm(CH -C-O),s;1.91ppm(CH -C=C),t,J=1.26Hz;2.07ppm(CH),m;2.57(CH -COの一方のH),d,J=18.52Hz;3.68ppm(CH -COの他方のH),d,J=18.52Hz;4.27ppm(CH -OCO),m;5.56ppm(メタクリル基のCHから見てZ配置にある末端CHのH),quin,J=1.56Hz;6.14ppm(メタクリル基のCHから見てE配置にある末端CHのH),quin,J=1.18Hz。
【0053】
上記と同様の方法でβ-ラクトン(9a-x)0.144g(1.00mmol)から0.159gのγ-メチルメバロノラクトンメタクリレート(1a-x)を得た。油状物質、収率75%(GC純度99.9%)。
【化14】
【0054】
H-NMR:1.09ppm(CH -CH),d,J=7.19Hz;1.56ppm(CH -C-O),s;1.89ppm(CH -C=C),t,J=1.24Hz;2.69ppm(CH),m;2.91(CH -COの一方のH),d,J=17.85Hz;3.06ppm(CH -COの他方のH),d,J=17.85Hz;4.00ppm(CH -OCOの一方のH),dd,J=11.63,6.94Hz;4.40ppm(CH -OCOの他方のH),dd,J=11.63,4.56Hz;5.55ppm(メタクリル基のCHから見てZ配置にある末端CHのH),quin,J=1.54Hz;6.02ppm(メタクリル基のCHから見てE配置にある末端CHのH),dt,J=1.54,0.77Hz。
【0055】
[合成例2] α-メチルメバロノラクトンメタクリレートの合成
下記式(1b)で表されるα-メチルメバロノラクトンメタクリレートは下記[II-1]式に示す経路で合成した。以下にその詳細を記す。
【化15】
【0056】
工程4
窒素雰囲気下、4-ヒドロキシブタン-2-オン(12a)0.881g(10.0mmol)とトリエチルアミン1.02g(10.0mmol)を2.5mLのテトラヒドロフランに溶解して氷冷し、α-ブロモプロピオニルブロミド1.08g(5.00mmol)のテトラヒドロフラン(2.5mL)溶液を4分かけて滴下した。室温まで昇温して6時間室温で攪拌した後、トルエンおよび水を10mLずつ反応液に加え、分液して水層からの抽出を5mLのトルエンで3回行い、有機層は合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、濾液を減圧濃縮し、1.10gの粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘプタン/酢酸エチル=3/1)で精製して1.01gのα-ブロモプロピオン酸 3-オキソブチルエステル(13a)を得た。微黄色液体、収率90%(GC純度99.0%)。
【0057】
H-NMR:1.79ppm(CH -CHBr),d,J=6.98Hz;2.20ppm(CH -CO),s;2.80ppm(CH -CO),td,J=6.29,2.34Hz;4.33ppm(CHBr),q,J=6.98Hz;4.42ppm(OCH),td,J=6.35,1.32Hz。
【0058】
工程5
窒素雰囲気下、亜鉛粉末0.110g(1.69mmol)のテトラヒドロフラン(1mL)懸濁液に室温でクロロトリメチルシラン4.6mg(0.05mmol)のテトラヒドロフラン(0.2mL)溶液を加え、5分間攪拌した。これにα-ブロモプロピオン酸 3-オキソブチルエステル(13a)0.314g(1.41mmol)のテトラヒドロフラン(6mL)溶液を1分間かけて加えた。反応の進行に伴い発熱するが、特に除熱は行わなかった。2時間攪拌を続けた後、氷冷して飽和塩化アンモニウム水溶液とトルエンを10mLずつ加え、分液して水層からの抽出を酢酸エチル5mLで3回行い、有機層は合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、濾液を減圧濃縮して0.205gの組成生物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘプタン/酢酸エチル=1/3)で精製し、α-メチルメバロノラクトン(14a)を0.156g得た。収率77%(ジアステレオマー混合物としてのGC純度99.4%)。これは異性体比(14a-x):(14a-y)=86:14のジアステレオマー混合物であるが、それぞれを単離できている部分もあることから、これらを用いてH-NMRによる構造確認およびNOESYスペクトルによる相対立体配置の決定を行った。その結果(14a-x)および(14a-y)はそれぞれ下に示す相対立体配置であることがわかった。
【化16】
【0059】
H-NMR(14a-x):1.31ppm(CH -CH),d,J=7.14Hz;1.38ppm(CH -C-OH),s;1.70ppm(OH),br;1.97ppm(CH CH-Oの一方のH),dt,J=9.43,4.81Hz;2.06ppm(CH CH-Oの他方のH),td,J=9.43,4.81Hz;2.47ppm(CH),q,J=7.14Hz;4.28ppm(CH-Oの一方のH),dt,J=11.43,5.05ppm;4.54ppm(CH-Oの他方のH),ddd,J=11.43,9.34,4.57Hz。
NOESY:2.06ppmのHと2.47ppmのHとの間にクロスピークが観測されたが1.38ppmのHと4.27ppmのHとの間および1.38ppmのHと4.28ppmのHとの間にはクロスピークは観測されなかった。
【0060】
H-NMR(14a-y): 1.22ppm(CH -C-OH),s;1.23ppm(CH -CH),d,J=7.20Hz;1.93ppm(CH CH-Oの一方のH),dt,J=14.36,4.92Hz;2.01ppm(CH CH-Oの他方のH),ddd,14.36,9.15,5.55Hz;2.50ppm(OH),br;2.64ppm(CH),q,J=7.20Hz;4.26ppm(CH-Oの一方のH),ddd,J=11.49,5.55,4.86ppm;4.48ppm(CH-Oの他方のH),ddd,J=11.49,9.15,4.86Hz。
NOESY:2.01ppmのHと2.64ppmのHとの間および1.22ppmのHと4.26ppmのHとの間にクロスピークが観測された。
【0061】
上記工程3に記載した手順と同様の方法でα-メチルメバロノラクトンメタクリレート(1b)を合成し、(14a-x)0.144g(1.00mmol)から0.151gのγ-メチルメバロノラクトンメタクリレート(1b-x)を得た。室温で液体、収率71%(GC純度99.9%)。(14a-y)0.144g(1.00mmol)から0.157gのγ-メチルメバロノラクトンメタクリレート(1b-y)を得た。室温で液体、収率74%(GC純度99.9%)。
【化17】
【0062】
H-NMR(1b-x): 1.35ppm(CH -CH),d,J=6.86Hz;1.66ppm(CH -C―O),s;1.88ppm(CH -C=C),t,J=1.26Hz;2.12ppm(CH CH-Oの一方のH),ddd,15.04,8.29,5.43Hz;2.84ppm(CH CH-Oの他方のH),ddd,15.04,5.87,4.75Hz;2.49ppm(CHCH),q,J=6.86Hz;4.20-4.31ppm(CH-O),m;5.55ppm(CH =Cの一方のH),quint,J=1.36Hz;6.03ppm(CH =Cの他方のH),quin,J=1.36Hz。
【0063】
[合成例3] δ-メチルメバロノラクトンメタクリレートの合成
下記(1c)式で表されるγ-メチルメバロノラクトンメタクリレートは下記[I-3]式に示す経路で合成した。以下にその詳細を記す。
【化18】
【0064】
工程6 公知の方法で合成した化合物(8c)(60.5g,593mmol)を酢酸エチル(500mL)に溶解させ氷浴上で10℃に冷却した。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(2.4mL、19.0mmol)を加え、ケテンガスを吹込んだ。反応終了後、反応混合物を20%塩化ナトリウム、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(400mL)と、飽和塩化ナトリウム水溶液(400mL)で洗浄した。このものを減圧濃縮することにより、化合物(9c)の粗体を得た。この操作を3バッチ行い褐色液体326.3gを得た。
【0065】
工程7 第1工程で得た化合物(9c)の粗体(326.3g)をメタノール(3710mL)に溶解させ10℃に冷却した。炭酸カリウム(170.2g,1231.3mmol)を加えた後、4時間攪拌した。このものにギ酸(169.4g,3679.9mmol)を滴下し、酢酸ブチル(1500g)を加えた。減圧下でメタノールを留去し、析出した固体を減圧濾過で濾別した。濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル)で精製した。得られた粗体をトルエンから再結晶することにより、化合物(10c)を無色固体として(92.5g、641.8mmol)得た。二段階通算収率36%。
【0066】
工程8 化合物(10c)(151.2g,1048.5mmol)、無水メタクリル酸(197.2g,1279.3mmol)とIrganox1076(0.2g,0.3mmol)をトルエン(700mL)に溶解させた。40℃に昇温させた後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(12・0mL、95.1mmol)を5分間かけて滴下した後、5.5時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(1000g)で二回、10%塩化ナトリウム水溶液(1000g)で1回洗浄した。有機層を減圧濃縮することにより、化合物(1-1)の粗体(223.8g)を得た。このものを薄膜蒸留で精製することにより、化合物(1c)の異性体の混合物として、淡黄色液体(125.4g、590.8mmol)を得た。収率56%。
得られた(1c)を少量取ってシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより(1c-x)および(1c-y)をそれぞれ単離してH-NMRにより構造を決定した。
【化19】
【0067】
H-NMR(1c-x):1.40ppm(CH -CH),d,J=6.35Hz;1.66ppm(β-位CH ),s;1.88ppm(CH -C=C),t,J=1.15Hz;2.13ppm(CH CHCH-Oの一方のH),dd,J=14.58,11.72Hz;2.37ppm(CH CHCH-Oの他方のH),dd,J=14.58,3.03Hz;2.71ppm(CH -COの一方のH),d,J=16.58Hz,2.91ppm(CH -COの他方のH),d,J=16.58Hz;4.38ppm(CH-O),dqd,J=11.72,6.35,3.03Hz;5.55ppm(CH =Cの一方のH),quint,J=1.15Hz;6.04ppm(CH =Cの他方のH),quin,J=1.15Hz。
【0068】
H-NMR(1c-y):1.38ppm(CH -CH),d,J=6.35Hz;1.61ppm(β-位CH ),s;1.88ppm(CH -C=C),t,J=1.17Hz;1.60ppm(CH CHCH-Oの一方のH),dd,J=15.55,11.75Hz;2.71ppm(CH CHCH-Oの他方のH),dt,J=15.55,2.23Hz;2.48ppm(CH -COの一方のH),t,J=1.17Hz,3.18ppm(CH -COの他方のH),dd,J=17.43,2.23Hz;4.58ppm(CH-O),dqd,J=11.75,6.35,2.63Hz;5.56ppm(CH =Cの一方のH),quint,J=1.17Hz;6.02ppm(CH =Cの他方のH),quin,J=1.15Hz。
【0069】
[試験例]
以下の試験例により、本明細書に記載の重合性化合物(実施例)およびその前駆体であるヒドロキシラクトン(比較例)の水溶性を調べた。
【0070】
[実施例1]
式(14a-x)で表される化合物0.500gを10mLの水に室温で溶解し、これに酢酸エチル10mLを加えて10分間攪拌したのち有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、濾液を減圧濃縮し、残渣の重量を測定したところ0.101gだった。
【0071】
[比較例1]
式(15)で表される化合物すなわちメバロノラクトン0.500gを10mLの水に室温で溶解し、これに酢酸エチル10mLを加えて10分間攪拌したのち有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、濾液を減圧濃縮し、残渣の重量を測定したところ0.080gだった。
【化20】
【0072】
比較例1で用いた化合物よりも実施例1で用いた化合物の方が水溶性が低いことは明らかである。したがって、本発明の重合性化合物はメバロノラクトンメタクリレートよりも容易に製造することが可能である。