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特許7294604化粧料用球状粒子における「柔らかさ」の評価方法
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  • 特許-化粧料用球状粒子における「柔らかさ」の評価方法 図1
  • 特許-化粧料用球状粒子における「柔らかさ」の評価方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】化粧料用球状粒子における「柔らかさ」の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/08 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
G01N3/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018209857
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020076635
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591275665
【氏名又は名称】三信鉱工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 直晃
(72)【発明者】
【氏名】浅野 浩志
(72)【発明者】
【氏名】高尾 泰正
(72)【発明者】
【氏名】浅井 巌
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-119362(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0192383(US,A1)
【文献】東洋テクニカホームページ,日本,東洋テクニカ,2016年07月16日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料用球状粒子(塑性変形挙動を示す球状粒子に限る。)において、下記手順(1)-(3)に従った微小粒子圧壊力測定から見かけのヤング率E得たのち、前記見かけのヤング率Eを相対比較して、その値が小さいほど、感触特性の一因子である「柔らかさ」が高いと判断する方法。
(1)球状粒子を試料台に散布し、光学顕微鏡で観察しながら、平面圧子先端内に単粒子が収まるように初期位置を調整する。
(2)試料台を圧縮方向に一定速度で作動させて、球状粒子に外力を負荷し、粒子歪みεに対応した応力σを連続的に検出する。測定は粒子が完全につぶれるまで続ける。
(3)得られた応力‐歪み曲線において、塑性変形前後に検出できる異なる傾きを有する2直線の交点を降伏点(ε、σ)とし、原点との直線の傾きを見かけのヤング率Eとして算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、化粧料用球状粒子における感触特性の一因子である「柔らかさ」を客観的に評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケアやメイクアップ化粧料は、ユーザーが容器から手にとって直接肌に塗布し使用することが一般的である。そして、化粧料は毎日使用するものであることから、化粧効果において、その機能性は勿論のこと、使用感(感触)も極めて重要な要素と言える。
【0003】
化粧料、及び原料の感触特性の評価方法には、大きく分けて官能評価と物性評価がある。官能評価は、実使用に近い評価であるというメリットがある一方で、主観的評価であることから、評価者の感性による個人差に加えて肌状態や心理状態にも大きく影響されるものである。このため、官能評価のみに頼らず、物理機器を用いた客観的指標による評価方法や表示方法等の技術が強く望まれていた。
【0004】
化粧料に用いられる球状粒子には、様々な材質や粒子径のものが存在する。特に、感触改良目的としては、平均粒子径5~20μmに制御した粒子が汎用される。
【0005】
上記球状粒子の感触特性としては、転がり性と共に「柔らかさ」が挙げられ、その好ましい感触特性により、様々な剤型の化粧料に適用されてきた(例えば、特許文献1、及び2)。中でも、構成成分の大半を粉体が占める粉末化粧料においては、原料粉体の感触特性が製剤特性に直接的に反映されやすいことから、重要な原料として位置づけられている。
【0006】
上記球状粒子の一種であるシリコーンエラストマー等の合成ポリマーは、ゴム弾性を有し、感触特性としての「柔らかさ」が高いことが知られている。これら粉体の「柔らかさ」は、JIS K6253に記載されているデュロメータ硬さと相関すると考えられることから、原料単体としては硬度が低いほど柔らかい粉体であることが予想される。
【0007】
一方で、「柔らかさ」には素材特有の柔らかさ(化学構造、弾性、塑性など)の他に、形態制御(中空、多孔など)によって特徴付けられた柔らかさもある。近年、機能性材料開発技術は高度化しており、これまでに中空、多孔質など形態制御した粉体が開示されている(例えば、特許文献3~5)。これらの中空、あるいは多孔質粒子は、それぞれ同じ構成成分からなる中実、あるいは無孔質粒子と比較して、感触特性としての「柔らかさ」が高いことが分かっている。しかし、このような形態制御によって付与された柔らかさは単粒子の特性であるため、測定対象面積が広い(平方ミリメートルオーダー)デュロメータ硬さ測定を適用できなかった。
【0008】
形態制御粉体含め、「柔らかさ」付与を目的として適用される化粧料用球状粒子は、塑性的な変形挙動を示すことが多い。すなわち、塑性変形挙動を示す球状粒子における、統一的、客観的な「柔らかさ」評価技術が構築されれば、従来よりも多様な粒子に適用範囲を拡張することができ、化粧品製剤開発の作業効率を向上するのみならず、新規機能性粉体の開発指針としても活用できる。
【0009】
多様な球状粒子に適用可能で、かつ同一指標による客観的、網羅的な「柔らかさ」の評価技術は、化粧品製剤開発における作業効率を向上するのみならず、新規機能性粉体開発においても有益なツールとなり得る。
【0010】
これらの背景に基づき、物理機器を用いた「柔らかさ」の客観的指標が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開1995-258026号公報
【文献】特開1996-310915号公報
【文献】特開2014-058441号公報
【文献】特開1985-197746号公報
【文献】特開1994-136175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、化粧料用球状粒子における「柔らかさ」を、物理機器を用いて客観的に評価するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる実情において、本願発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、化粧料用球状粒子において、特定の微小粒子圧壊力測定から得られる見かけのヤング率Eと、官能評価から得られる「柔らかさ」との間に高い相関性があることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本願発明は、化粧料用球状粒子において、感触特性の一因子である「柔らかさ」を、微小粒子圧壊力測定における特定の解析方法(塑性変形粒子に外力を負荷することで、歪みεに対応する応力σをプロットして得られる応力‐歪み曲線は、傾きの異なる2本の直線で表される。この2直線の交点を降伏点(ε、σ)とし、原点とを結ぶ直線の傾きを見かけのヤング率Eとして算出する方法)から得られる見かけのヤング率Eを物性指標として関連付けて評価する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本願発明は、多様な化粧料用球状粒子に適用可能な「柔らかさ」の客観的評価法を提供するものであり、本評価法によれば化粧品製剤開発の作業効率を向上するのみならず、新規機能性粉体の開発指針としても活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】微小粒子圧壊力測定装置概略
図2】化粧料用球状粒子の見かけのヤング率と柔らかさとの相関性を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明の化粧料用球状粒子の使用感の評価方法を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本願発明によれば、化粧料用球状粒子を肌に塗布した際の使用感のひとつである「柔らかさ」を客観的に評価することができる。ここで、化粧料用球状粒子に対する「柔らかさ」とは、粉体の厚み感、肌当たりの良さといった感覚を言う。
【0018】
本願発明の化粧料用球状粒子の「柔らかさ」の評価方法は、評価の対象となる粉末の単粒子を用いて微小粒子圧壊力測定を実施し、歪みεに対応する応力σをプロットして得られる応力‐歪み曲線における降伏点と原点とを結ぶ直線の傾きとして算出される見かけのヤング率Eにより、前記化粧料用球状粒子の「柔らかさ」を評価する。
【0019】
本願発明の実施形態においては、下記手順に従った微小粒子圧壊力測定から得られる化粧料用球状粒子の見かけのヤング率Eを物性指標として評価する。
(1)球状粒子を試料台に散布し、光学顕微鏡で観察しながら、平面圧子先端内に単粒子が収まるように初期位置を調整する。
(2)試料台を圧縮方向に一定速度で作動させて、球状粒子に外力を負荷し、粒子歪みεに対応した応力σを連続的に検出する。測定は粒子が完全につぶれるまで続ける。
(3)得られた応力‐歪み曲線において、異なる傾きを有する2直線の交点を降伏点(ε、σ)とし、原点との直線の傾きを見かけのヤング率Eとして算出する。
【0020】
上記手順に従って得られた化粧料用球状粒子の見かけのヤング率Eを相対比較して、その値が小さいほど「柔らかさ」が高いと判断する。
【0021】
本願発明の測定方法において、対象とする化粧料用球状粒子は、塑性変形挙動を示す粒子である。本願発明において塑性とは、外力を負荷した際に、ある一定の応力(降伏応力)を超えると、負荷を取り去っても元の形に戻らない性質を言う。逆に、元の形に戻る性質を弾性と言うが、本願発明の測定方法においては、弾性変形挙動を示す粒子については対象外とする。
【0022】
本願発明の測定方法において、対象とする化粧料用球状粒子の粒子径は1~30μmである。本願発明の目的は、感触特性としての「柔らかさ」を評価することにあるため、一般に粉末化粧料などに感触改良を目的として適用される球状粒子の粒子径範囲を指定した。
【0023】
本願発明の測定方法において、対象とする化粧料用球状粒子の粒子形状は、真球状に限らず、略球状も含まれる。実用的には微小粒子圧壊力測定を適用するに当り、支障がない程度に球形性があれば足りる。
【0024】
化粧料用球状粒子の物理機器を用いた評価において、使用する平面圧子先端径は、特に限定されないがφ30μm以上であることが好ましい。平面圧子先端径がφ30μmよりも小さいと、圧縮時に粒子が平面圧子先端からはみ出してしまい、圧力を粒子全体に負荷することができず測定に支障をきたす場合がある。
【0025】
化粧料用球状粒子の物理機器を用いた評価において、使用する平面圧子に取付ける精密バネのバネ定数は、特に限定されないが10kN/m以下であることが好ましい。バネ定数が10kN/mよりも大きいと低応力側の歪みを正確に検出できない場合がある。
【0026】
化粧料用球状粒子の物理機器を用いた評価において、手順(2)で規定する試料台の移動速度は、特に限定されないが1μm/sec以下であることが好ましい。移動速度が1μm/secより大きいと短時間で降伏点に達してしまい、十分なプロット数を得られず測定精度が低下する場合がある。
【0027】
化粧料用球状粒子の物理機器を用いた評価において、応力、及び歪みのデータ取り込み速度は、特に限定されないが1~500msecの範囲であることが好ましい。データ取り込み速度が500msec以上では、十分なプロット数が得られない場合がある。データ取り込み速度が1msec以上であれば、十分なプロット数を得ることができる。
【0028】
見かけのヤング率Eは、図1に示すような変位制御方式の微小粒子圧壊力測定装置を用いて測定できる。市販品としては、微小粒子圧壊力測定装置NS-A100(ナノシーズ社製)が挙げられる。微小粒子圧壊力測定を実施するときの室内温度及び相対湿度は、化粧料使用時の環境を考慮すると、10~35℃、及び30~65%RHが好ましい。
【実施例
【0029】
以下実施例により本願発明をさらに詳細に説明する。尚、これらは本願発明を何ら限定するものではない。
【0030】
(実施例1)
[物性評価]
表1に示す化粧料用球状粒子A~Eについて、下記のようにして微小粒子圧壊力測定を実施して、見かけのヤング率Eを得た。各試料について、毎回異なる粒子に対して7回測定を実施して、上下2つの測定値を除外し、5つの測定値の平均値を見かけのヤング率Eとして算出した。
測定装置:微小粒子圧壊力測定装置(ナノシーズ社製 NS-A100)
測定条件:室内温度25℃、相対湿度50%RH
平面圧子先端径φ50μm
バネ定数6.18kN/m
試料台移動速度0.2μm/sec
データ取り込み速度100msec
[官能評価]
表1に示す化粧料用球状粒子A~Eの「柔らかさ」について、専門パネル7名による使用テストを行い、パネル各人が下記絶対評価にて5段階に評価し評点を付け、サンプル毎にパネル全員の評点合計から、その平均値を官能評価値として算出した。
1:非常に低い
2:低い
3:標準
4:高い
5:非常に高い
【0031】
【表1】
【0032】
図2は、表1に記載した微小粒子圧壊力測定から得られた見かけのヤング率Eと、官能評価で得られた「柔らかさ」について、試料ごとにプロットしたグラフである。各プロットに対して回帰直線を引くと、決定係数R=0.89と非常に高い相関性が認められた。特に、粒子形態の異なるセルロース(B:多孔、C:中実)、あるいは、一部化学構造の異なるポリメタクリル酸メチル(D:非架橋、E:架橋)の感触の差異を、物性値で正確に捉えられていることは、測定精度の高さを証明するものである。
【0033】
化粧料用球状粒子A~Eの官能評価結果において、3.5点(四捨五入して4点となるため、柔らかさは高いと判断できる。)以上は、一般に柔らかい感触として認識されている塑性変形挙動を示す球状粒子のなかでも、特に柔らかい球状粒子であると言える。すなわち、上記回帰直線の一次関数に、「柔らかさ」スコア3.5点を代入すると、ヤング率はおよそ100MPaと算出される。よって塑性変形挙動を示す球状粒子の中でも、ヤング率が100MPa以下であるものは、特に柔らかい球状粒子であると判断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明の評価方法は、化粧料用球状粒子における感触特性の一因子である「柔らかさ」を、微小粒子圧壊力測定から得られる見かけのヤング率Eを物性指標として関連付けて評価できるものである。本願発明の評価方法を用いれば、化粧品製剤開発の作業効率を向上するのみならず、新規機能性粉体の開発指針としても活用できる。
図1
図2