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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20230613BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230613BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20230613BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20230613BHJP
   H10K 50/00 20230101ALN20230613BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/20 Z
B32B27/16 101
H05B33/02
H05B33/14 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019054769
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2019171859
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2018060328
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭弘
(72)【発明者】
【氏名】花岡 秀典
(72)【発明者】
【氏名】山川 勝平
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/163062(WO,A1)
【文献】特開2015-186922(JP,A)
【文献】特開2006-044231(JP,A)
【文献】特開2010-007090(JP,A)
【文献】特開2010-184409(JP,A)
【文献】特開2011-238355(JP,A)
【文献】特開2016-022589(JP,A)
【文献】特開2015-047823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05B 33/02
H10K 50/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2プライマー層、可撓性基材、第1プライマー層、第1有機層、及び第1無機薄膜層をこの順に有する積層フィルムであって、
第1プライマー層及び第2プライマー層は、それぞれ130℃以上の軟化温度を有し、
該積層フィルムを引張り荷重29.4mN及び昇温速度20℃/分の条件で引っ張りながら加熱した際のMD方向における熱膨張変位量をA(μm)、加熱温度をT(℃)としたときに、Tが50~200℃の範囲において、常にdA/dT>0の関係を満たし、
該積層フィルムを25℃から200℃まで加熱し、200℃で20分放置後、25℃まで冷却した際のMD方向の寸法変化率は、-0.3~0.5%であ
該第1プライマー層及び第2プライマー層の厚みは、それぞれ1μm以下であり、
該可撓性基材は、ポリエチレンナフタレート及び/又は環状ポリオレフィンを含み、
該第1有機層は、重合性官能基を有する光硬化性化合物の重合物を含有する、積層フィルム。
【請求項2】
前記積層フィルムを25℃から200℃まで加熱し、200℃で20分放置後、25℃まで冷却した際のTD方向の寸法変化率は、0~0.5%である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
第1プライマー層及び/又は第2プライマー層は、シリカ粒子を含有する、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
第1無機薄膜層は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子を少なくとも含有する、請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
第1無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比は、第1無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において、連続的に変化する、請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
第1無機薄膜層の膜厚方向における、第1無機薄膜層の表面からの距離と、各距離における第1無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素の原子数比との関係を示す炭素分布曲線は、8つ以上の極値を有する、請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
第1無機薄膜層の、第1有機層とは反対側の面に保護層を有する、請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記保護層は、珪素化合物を含有する塗布液から得られた塗膜に改質処理が施されたものである、請求項に記載の積層フィルム。
【請求項9】
第2プライマー層の、可撓性基材とは反対側の面に第2有機層を有する、請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項10】
第2有機層は、アンチブロッキング層である、請求項に記載の積層フィルム。
【請求項11】
第2有機層の、第2プライマー層とは反対側の面に第2無機薄膜層を有する、請求項又は10に記載の積層フィルム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の積層フィルムを含む、フレキシブル電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第2プライマー層、可撓性基材、第1プライマー層、第1有機層、及び第1無機薄膜層をこの順に有する積層フィルム及び該積層フィルムを含むフレキシブル電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性を付与した積層フィルムは、食品、工業用品、医薬品などの包装用途において広く使用されている。近年、太陽電池及び有機ELディスプレイ等の電子デバイスのフレキシブル基板等において、上記食品用途等と比較してさらに向上したガスバリア性を有する積層フィルムが求められている。このような積層フィルムのガスバリア性等を高めるために、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる可撓性基材上に、有機層を介して薄膜層を積層させた積層フィルムが検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-68383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者の検討によれば、このような積層フィルムは、必ずしも耐熱性が十分でなく、例えば高温環境下に曝露後、室温まで冷却するとクラックが発生する等の問題が生じる場合があることがわかった。
【0005】
従って、本発明の目的は、耐熱性に優れた積層フィルム及び該積層フィルムを含むフレキシブル電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第2プライマー層、可撓性基材、第1プライマー層、第1有機層、及び第1無機薄膜層をこの順に有する積層フィルムにおいて、第1プライマー層及び第2プライマー層の軟化温度がそれぞれ130℃以上であり、熱膨張変位量A(μm)と加熱温度T(℃)が、50~200℃(T)の範囲において、常にdA/dT>0の関係を満たし、MD方向の寸法変化率が-0.3~0.5%であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下のものが含まれる。
【0007】
[1]第2プライマー層、可撓性基材、第1プライマー層、第1有機層、及び第1無機薄膜層をこの順に有する積層フィルムであって、
第1プライマー層及び第2プライマー層は、それぞれ130℃以上の軟化温度を有し、
該積層フィルムを引張り荷重29.4mN及び昇温速度20℃/分の条件で引っ張りながら加熱した際のMD方向における熱膨張変位量をA(μm)、加熱温度をT(℃)としたときに、Tが50~200℃の範囲において、常にdA/dT>0の関係を満たし、
該積層フィルムを25℃から200℃まで加熱し、200℃で20分放置後、25℃まで冷却した際のMD方向の寸法変化率は、-0.3~0.5%である、積層フィルム。
[2]前記積層フィルムを25℃から200℃まで加熱し、200℃で20分放置後、25℃まで冷却した際のTD方向の寸法変化率は、0~0.5%である、[1]に記載の積層フィルム。
[3]第1プライマー層及び第2プライマー層の厚みは、それぞれ1μm以下である、[1]又は[2]に記載の積層フィルム。
[4]第1プライマー層及び/又は第2プライマー層は、シリカ粒子を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の積層フィルム。
[5]第1有機層は、重合性官能基を有する光硬化性化合物の重合物を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の積層フィルム。
[6]第1無機薄膜層は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子を少なくとも含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の積層フィルム。
[7]第1無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比は、第1無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において、連続的に変化する、[1]~[6]のいずれかに記載の積層フィルム。
[8]第1無機薄膜層の膜厚方向における、第1無機薄膜層の表面からの距離と、各距離における第1無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素の原子数比との関係を示す炭素分布曲線は、8つ以上の極値を有する、[1]~[7]のいずれかに記載の積層フィルム。
[9]第1無機薄膜層の、第1有機層とは反対側の面に保護層を有する、[1]~[8]のいずれかに記載の積層フィルム。
[10]前記保護層は、珪素化合物を含有する塗布液から得られた塗膜に改質処理が施されたものである、[9]に記載の積層フィルム。
[11]第2プライマー層の、可撓性基材とは反対側の面に第2有機層を有する、[1]~[10]のいずれかに記載の積層フィルム。
[12]第2有機層は、アンチブロッキング層である、[11]に記載の積層フィルム。
[13]第2有機層の、第2プライマー層とは反対側の面に第2無機薄膜層を有する、[11]又は[12]に記載の積層フィルム。
[14][1]~[13]のいずれかに記載の積層フィルムを含む、フレキシブル電子デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層フィルムは、耐熱性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の積層フィルムの一例を示す断面模式図である。
図2】本発明の積層フィルムの他の一例を示す断面模式図である。
図3】本発明の積層フィルムのさらに他の一例を示す断面模式図である。
図4】本発明の積層フィルムの別の一例を示す断面模式図である。
図5】実施例及び比較例で使用した積層フィルムの製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
[積層フィルム]
本発明の積層フィルムは、第2プライマー層、可撓性基材、第1プライマー層、第1有機層、及び第1無機薄膜層をこの順に有する。
本発明の一実施態様では、本発明の積層フィルムは、第2無機薄膜層、第2有機層、第2プライマー層、可撓性基材、第1プライマー層、第1有機層、及び第1無機薄膜層をこの順に有する。
【0012】
本発明の積層フィルムは、該積層フィルムを引張り荷重29.4mN及び昇温速度20℃/分の条件で引っ張りながら加熱した際のMD方向における熱膨張変位量をA(μm)、加熱温度をT(℃)としたときに、Tが50~200℃の範囲において、常にdA/dT>0(式(1)と称する)の関係を満たす。dA/dTは、xy座標において、x軸に加熱温度T、y軸に加熱温度Tに対する熱膨張変位量Aをプロットしたときに、Tの増加量に対するAの変化量を示す。dA/dT>0とは、Tの増加量に対するAの変化量が常に正の値、すなわち、Tが50~200℃の範囲でAが常に単調増加していることを示す。Tがこの範囲で、Tの増加量に対するAの変化量が0(dA/dT=0)や負の値(dA/dT<0)を含むと、十分な熱膨張安定性を有さず、耐熱性に劣るため、高温環境下に曝露されるとクラックやシワ等が生じやすい。一方、Tが50~200℃の範囲において、該Aの変化量が常に正(dA/dT>0)であると、高温(例えば200℃)下に曝露されても、十分な熱膨張安定性を有し、優れた耐熱性を発現できる。なお、Tが50~200℃の範囲におけるdA/dTは、より詳細には、実施例の〔積層フィルムの熱線膨張測定〕の項に記載の方法により算出することができる。なお、dA/dTを0より大きくする方法としては、特に限定されないが、例えば、可撓性基材に用いる樹脂として、耐熱性の高い樹脂を選択する方法等が挙げられる。
【0013】
本発明の積層フィルムは、積層フィルムを25℃から200℃まで加熱し、200℃で20分放置後、25℃まで冷却した際のMD方向の寸法変化率が、-0.3~0.5%である。MD方向の寸法変化率が-0.3%未満である場合や0.5%を超える場合、加熱前後の熱寸法安定性が低く、耐熱性に劣るため、高温下に曝露後に冷却すると、クラックやシワ等が生じやすい。一方、MD方向の寸法変化率が-0.3~0.5%の範囲であると、熱寸法安定性が高く、耐熱性に優れるため、高温(例えば200℃)下に曝露後に室温(例えば25℃)まで冷却されても、クラックやシワ等が生じにくい。また、MD方向の寸法変化率は、積層フィルムがMD方向に膨張した場合を正、収縮した場合を負とする。なお、MD方向の寸法変化率を上記範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、可撓性基材に用いる樹脂として、耐熱性の高い樹脂を選択する方法、可撓性基材のMD方向とTD方向の延伸倍率を調整する方法等が挙げられる。なお、本明細書において、積層フィルムのMD方向とは、積層フィルムを製造する際の流れ方向を意味し、TD方向とはMD方向に直交する方向を意味する。
【0014】
MD方向の寸法変化率は、好ましくは-0.2%~0.4%であり、より好ましくは-0.1%~0.3%である。MD方向の寸法変化率が上記範囲であると、積層フィルムの耐熱性をより向上し得る。
【0015】
通常、樹脂フィルムは、加熱冷却後にTD方向に収縮すると考えられる。本発明の一実施態様では、本発明の積層フィルムは、該積層フィルムを25℃から200℃まで加熱し、200℃で20分放置後、25℃まで冷却した際のTD方向の寸法変化率が、意外なことに0以上、すなわち、加熱冷却後にTD方向に膨張し得る。TD方向の寸法変化率の上限値は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.4%以下である。TD方向の寸法変化率は、上記の下限値(0以上)と上限値の組み合わせであってよく、好ましくは0~0.5%、より好ましくは0~0.4%である。TD方向の寸法変化率が上記の範囲であると、積層フィルムの耐熱性を向上しやすい。MD方向の寸法変化率及びTD方向の寸法変化率は、より詳細には、実施例の〔積層フィルムの熱寸法変化率測定〕の項に記載の方法により算出することができる。なお、TD方向の寸法変化率を上記範囲に調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、可撓性基材のMD方向とTD方向の延伸倍率を調整し、得られたフィルムの状態を固定するための有機層又は無機薄膜層を設ける方法が挙げられる。
【0016】
本発明の積層フィルムの23℃、50%RHにおける水蒸気透過度は、好ましくは0.001g/m/day以下、より好ましくは0.0001g/m/day以下、さらに好ましくは0.00001g/m/day以下である。上記の上限以下であると、本発明の積層フィルムは優れたガスバリア性を有することができる。上記の水蒸気透過度は低ければ低いほど好ましく、その下限は特に限定されず、通常は0g/m/day以上である。ここで、水蒸気透過度は、実施例の〔積層フィルムの水蒸気透過度〕の項に記載の方法により測定できる。
【0017】
積層フィルムの水蒸気透過度を上記の範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば無機薄膜層の厚みを調整する方法や、有機層の平坦性を調整する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の積層フィルムは、該積層フィルムを室温から150℃に加熱したときの該積層フィルムの質量に対する表面脱水分量が、好ましくは0.0~1.0%であり、より好ましくは0.0~0.5%である。表面脱水分量が上記範囲であると、積層フィルムを高温下に曝露時のアウトガスの発生を抑制できる。なお、表面脱水分量は、実施例の〔積層フィルムの脱水分量測定〕の項に記載の方法により測定できる。
【0019】
本発明の積層フィルムにおいて、一方の最表面と他方の最表面との間の動摩擦係数は、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下である。動摩擦係数が上記の上限以下である場合、積層フィルムを製造時に巻取りを行う場合や、必要に応じて裁断したフィルムを重ねる場合に、積層フィルムへのダメージが少ないため、積層フィルムの取扱い性を高めやすい。動摩擦係数の下限は特に限定がなく、通常は0以上である。動摩擦係数は、JIS K7125に準拠して測定することができる。
【0020】
本発明の積層フィルムは、1辺が5cmの正方形となるようにカットした該積層フィルムを25℃から200℃まで加熱し、200℃で30分放置後、25℃まで冷却した際の反り安定性が、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下である。上記範囲であると、積層フィルムは十分な反り安定性を有する。また、反り安定性の下限は0以上である。なお、積層フィルムの反り安定性は、実施例の〔積層フィルムの反り安定性〕の項に記載の方法により算出することができる。
【0021】
本発明の積層フィルムは、目視で観察した場合に透明であることが好ましい。具体的には、積層フィルムの全光線透過率(Tt)は、好ましくは88.0%以上、より好ましくは88.5%以上、さらに好ましくは89.0%以上、特に好ましくは89.5%以上、きわめて好ましくは90.0%以上である。本発明の積層フィルムの全光線透過率が上記の下限以上であると、該フィルムを画像表示装置等のフレキシブル電子デバイスに組み込んだ際に、十分な視認性を確保しやすい。本発明の積層フィルムの全光線透過率の上限値は特に限定されず、100%以下であればよい。なお、全光線透過率は、実施例の〔積層フィルムの光学特性〕の項に記載の方法により測定できる。また、60℃で相対湿度90%の環境下に250時間曝露後の積層フィルムが、上記範囲の全光線透過率をなお有することが好ましい。
【0022】
本発明の積層フィルムのヘーズ(曇価)は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下、さらにより好ましくは0.5%以下である。本発明の積層フィルムのヘーズが上記の上限以下であると、該フィルムを画像表示装置等のフレキシブル電子デバイスに組み込んだ際に、十分な視認性を確保しやすい。なお、本発明の積層フィルムのヘーズの下限値は特に限定されず、通常0%以上となる。視認性の観点から、ヘーズはその数値が小さいほど好ましい。なお、積層フィルムのヘーズは、実施例の〔積層フィルムの光学特性〕の項に記載の方法により測定できる。また、60℃で相対湿度90%の環境下に250時間曝露後の積層フィルムが、上記範囲のヘーズをなお有することが好ましい。
【0023】
本発明の積層フィルムの厚みは、用途に応じて適宜調整でき、好ましくは5~200μm、より好ましくは10~150μm、さらに好ましくは20~130μmである。なお、積層フィルムの厚みは、膜厚計によって測定できる。積層フィルムの厚みが上記の下限以上であると、フィルムとしての取扱性及び表面硬度等を高めやすいため好ましい。また、厚みが上記の上限以下であると、積層フィルムの屈曲耐性を高めやすいため好ましい。
【0024】
〔可撓性基材〕
可撓性基材は、無機薄膜層を保持することができる可撓性の基材である。可撓性基材としては、樹脂成分として少なくとも1種の樹脂を含む樹脂フィルムを用いることができる。可撓性基材は透明な樹脂基材であることが好ましい。
【0025】
可撓性基材において用い得る樹脂としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)、二軸延伸及び熱アニール処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。可撓性基材として、上記樹脂の1種を使用してもよいし、2種以上の樹脂を組み合せて使用してもよい。これらの中でも、得られる積層フィルムが、式(1)及び上記寸法変化率を満たし、優れた耐熱性を得られやすい観点、及び高い透明性を有する観点から、ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択される樹脂を用いることが好ましく、PEN及び環状ポリオレフィンからなる群から選択される樹脂を用いることがより好ましく、PENを用いることがさらに好ましい。
【0026】
可撓性基材は、未延伸の樹脂基材であってもよいし、未延伸の樹脂基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、樹脂基材の流れ方向(MD方向)、及び/又は、樹脂基材の流れ方向と直角方向(TD方向)に延伸した延伸樹脂基材であってもよい。可撓性基材は、上述した樹脂の層を2層以上積層した積層体であってもよい。
【0027】
可撓性基材のガラス転移温度(Tg)は、積層フィルムの耐熱性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。また、ガラス転移温度の上限は好ましくは250℃以下である。なお、ガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定(DMA)装置又は示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる。
【0028】
可撓性基材の厚みは、積層フィルムを製造する際の安定性等を考慮して適宜設定してよいが、真空中における可撓性基材の搬送を容易にし易い観点から、5~500μmであることが好ましい。さらに、上記プラズマCVD法により無機薄膜層を形成する場合、可撓性基材の厚みは10~200μmであることがより好ましく、15~150μmであることがさらに好ましい。なお、可撓性基材の厚みは、膜厚計により測定できる。
【0029】
可撓性基材は、λ/4位相差フィルム、λ/2位相差フィルムなどの、面内における直交2成分の屈折率が互いに異なる位相差フィルムであってもよい。位相差フィルムの材料としては、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、液晶化合物の配向固化層などを例示することができる。製膜方法としては、溶剤キャスト法やフィルムの残留応力を小さくできる精密押出法などを用いることができるが、均一性の点で溶剤キャスト法が好ましく用いられる。延伸方法は、特に制限なく、均一な光学特性が得られるロール間縦一軸延伸、テンター横一軸延伸などを適用できる。
【0030】
可撓性基材がλ/4位相差フィルムである場合の波長550nmでの面内位相差Re(550)は、100~180nmであることができ、好ましくは110~170nmであり、さらに好ましくは120~160nmである。
【0031】
可撓性基材がλ/2位相差フィルムである場合の波長550nmでの面内位相差Re(550)は、220~320nmであることができ、好ましくは240~300nmであり、さらに好ましくは250~280nmである。
【0032】
可撓性基材が位相差フィルムである場合に、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆波長分散性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。
【0033】
可撓性基材が逆波長分散性を示す位相差フィルムである場合、可撓性基材の波長λでの位相差をRe(λ)と表記したときに、可撓性基材は、Re(450)/Re(550)<1及びRe(650)/Re(550)>1を満たすことができる。
【0034】
可撓性基材は、光を透過させたり吸収させたりすることができるという観点から、無色透明であることが好ましい。より具体的には、全光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。また、曇価(ヘーズ)が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
可撓性基材は、有機デバイスやエネルギーデバイスの基材に使用することかできるという観点から、絶縁性であることが好ましく、電気抵抗率が10Ωcm以上であることが好ましい。
【0036】
可撓性基材の表面には、有機層等との密着性の観点から、その表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。このような表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0037】
可撓性基材は、アニール処理を施していてもよいし、アニール処理を施していなくてもよいが、積層フィルムの熱寸法安定性を高め、耐熱性を向上しやすい観点から、アニール処理を施すことが好ましい。アニール処理は可撓性基材を二軸延伸しながら使用上限温度(例えば200℃)以上の温度で熱する、可撓性基材を二軸延伸した後に、オフラインで使用上限温度(例えば200℃)以上の温度の加熱炉に通す等が挙げられる。なお、可撓性基材をアニール処理してもよいし、第2プライマー層及び第1プライマー層が両面にそれぞれ積層された可撓性基材をアニール処理してもよい。
【0038】
〔プライマー層〕
本発明の積層フィルムは、可撓性基材と第1有機層との間に第1プライマー層を有し、可撓性基材の第1プライマー層とは反対側の面に第2プライマー層を有する。第1プライマー層を有することで、可撓性基材と第1有機層との密着性を向上でき、積層フィルムの耐熱性を向上し得る。第2プライマー層の可撓性基材とは反対側の面に層が存在しない、すなわち、第2プライマー層が最外層である場合(例えば図1に示される構成)、第2プライマー層は積層フィルムの保護層として機能するとともに、製造時の滑り性を向上させ、かつブロッキングを防止する機能も果たす。また、第2プライマー層の、可撓性基材とは反対側の面にさらに第2有機層を有する場合(例えば図2図3に示される構成)、第2プライマー層を有することで、可撓性基材と第2有機層との密着性を向上できるため、積層フィルムの耐熱性をより向上し得る。なお、本発明の積層フィルムは、上記順に存在する第1プライマー層及び第2プライマー層をそれぞれ1層以上少なくとも有する限り、別の部分に積層されたさらなるプライマー層を有していてもよい。なお、本明細書において、第1プライマー層及び第2プライマー層を総称してプライマー層という場合がある。
【0039】
第1プライマー層及び第2プライマー層は、それぞれ130℃以上の軟化温度を有する。このような軟化温度を有することで、積層フィルムの耐熱性を向上でき、高温環境下においても、可撓性基材と有機層とを十分に密着させることができる。第1プライマー層及び第2プライマー層の軟化温度はそれぞれ、好ましくは130℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。プライマー層の軟化温度が上記の下限以上であると、耐熱性をより向上できる。また、プライマー層の軟化温度の上限値は通常250℃以下である。
【0040】
第1プライマー層及び第2プライマー層はそれぞれ、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂及びアミノ樹脂から選択される少なくとも1種を含んでなることが好ましい。これらの中でも、積層フィルムの耐熱性の観点から、第1プライマー層及び第2プライマー層のいずれかは、主成分としてポリエステル樹脂を含有することがより好ましく、第1プライマー層及び第2プライマー層の両方が、主成分としてポリエステル樹脂を含有することがさらに好ましい。
【0041】
第1プライマー層及び第2プライマー層はそれぞれ、上記樹脂以外に添加剤を含むことができる。添加剤としては、プライマー層を形成するために公知の添加剤を用いることができ、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、炭酸カルシウム粒子、炭酸マグネシウム粒子、硫酸バリウム粒子、水酸化アルミニウム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、クレイ、タルク等の無機粒子が挙げられる。これらの中でも、積層フィルムの耐熱性の観点から、シリカ粒子が好ましい。
【0042】
第1プライマー層及び第2プライマー層に含み得るシリカ粒子の平均一次粒子径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上、特に好ましくは20nm以上であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に好ましくは40nm以下である。シリカ粒子の平均一次粒子径が上記範囲であると、シリカ粒子の凝集を抑制し、積層フィルムの透明性及び耐熱性を向上し得る。また、第2プライマー層が最外層である場合、シリカ粒子の平均一次粒子径が上記範囲であると、製造時における積層フィルムの滑り性をより向上させ、かつブロッキングを有効に防止し得る。なお、シリカ粒子の平均一次粒子径は、BET法や粒子断面のTEM観察により測定できる。
【0043】
シリカ粒子の含有量は、各プライマー層の質量に対して、好ましくは1~50質量%、より好ましくは1.5~40質量%、さらに好ましくは2~30質量%である。シリカ粒子の含有量が上記の下限以上であると、積層フィルムの耐熱性を向上しやすい。シリカ粒子の含有量が上記の上限以下であると、低いヘーズや高い全光線透過率等の光学特性を向上しやすい。
【0044】
第1プライマー層及び第2プライマー層の厚みはそれぞれ、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。プライマー層の厚みが上記範囲であると、プライマー層と有機層との密着性及び積層フィルムの耐熱性を向上しやすい。なお、プライマー層の厚みは膜厚計によって測定できる。第1プライマー層と第2プライマー層の厚みは同一又は異なっていてもよいが、積層フィルムの耐熱性を向上しやすい観点から、第1プライマー層と第2プライマー層の厚みは同じであることが好ましい。本発明の積層フィルムが3つ以上のプライマー層を有する場合、各プライマー層が上記の厚みを有することが好ましい。
【0045】
プライマー層は、樹脂及び溶剤、並びに必要に応じて添加剤を含む樹脂組成物を可撓性基材上に塗布し、塗膜を乾燥することで成膜して得ることができる。第1プライマー層及び第2プライマー層を形成する順は特に限定されない。
【0046】
溶剤としては、前記樹脂を溶解可能なものであれば特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール系溶剤;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤;アセトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶剤;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶剤;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶剤等が挙げられる。溶剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
プライマー層を可撓性基材に塗布する方法としては、従来用いられる種々の塗布方法、例えば、スプレー塗布、スピン塗布、バーコート、カーテンコート、浸漬法、エアーナイフ法、スライド塗布、ホッパー塗布、リバースロール塗布、グラビア塗布、エクストリュージョン塗布等の方法が挙げられる。
【0048】
塗膜を乾燥する方法としては、例えば自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥及び減圧乾燥法が挙げられるが、加熱乾燥を好適に使用できる。乾燥温度は、樹脂や溶剤の種類にもよるが、通常50~350℃程度であり、乾燥時間は、通常30~300秒程度である。
【0049】
上記のように、可撓性基材の両面に第1プライマー層及び第2プライマー層をそれぞれ形成してもよいが、可撓性基材の両面にプライマー層を有する市販のフィルム、例えば帝人フィルムソリューション社製の「テオネックス(登録商標)」等を使用することもできる。
【0050】
第1プライマー層及び第2プライマー層は、それぞれ単層であっても、2層以上の多層であってもよい。また、第1プライマー層及び第2プライマー層は、同じ組成からなる層であっても、異なる組成からなる層であってもよいが、積層フィルムの耐熱性を向上しやすい観点から、同じ組成からなる層であることが好ましい。また、本発明の積層フィルムが第1プライマー層及び第2プライマー層以外のプライマー層を有する場合、複数のプライマー層は同一又は異なる組成からなる層であってもよい。
【0051】
〔有機層〕
本発明の積層フィルムは、第1プライマー層の、可撓性基材とは反対側の面に第1有機層を有する。第1有機層を有することで、積層フィルムの耐熱性を向上でき、高温環境下に曝露しても、クラック、シワ及び反り等の欠陥が生じにくい。本発明の積層フィルムは、上記順に存在する第1有機層を1層以上少なくとも有する限り、別の部分に積層されたさらなる有機層を含んでいてよい。本発明の一実施態様では、さらに、第2プライマー層の、可撓性基材とは反対側の面に第2有機層を有する。第2有機層を有することで、積層フィルムの耐熱性をより向上することができる。具体的に、積層フィルムは、第2有機層を有することにより、可撓性基材の樹脂成分などの析出又は可撓性基材の変形が抑制されるため、積層フィルムを高温環境下に曝露してもそのヘーズの上昇が抑制される。
なお、本明細書において、第1有機層及び第2有機層を総称して単に有機層という場合がある。
【0052】
第1有機層及び第2有機層はそれぞれ、平坦化層としての機能を有する層であってもよいし、アンチブロッキング層としての機能を有する層であってもよいし、これらの両方の機能を有する層であってもよい。また、フィルム搬送時の滑り性確保の観点から、第2有機層がアンチブロッキング層であることが好ましく、第1無機薄膜層の均質化によるバリア性の安定化とフィルム搬送時の滑り性確保の両立の観点から、第1有機層が平坦化層であり、第2有機層がアンチブロッキング層であることがより好ましい。第1有機層及び第2有機層はそれぞれ単層でもよいし、2層以上の多層であってもよい。また、第1有機層及び第2有機層は、同じ組成からなる層であっても、異なる組成からなる層であってもよいが、積層フィルムの耐熱性を向上しやすい観点から、同じ組成からなる層であることが好ましい。また、本発明の積層フィルムが第1有機層及び第2有機層以外の有機層を有する場合、複数の有機層は同じ組成からなる層であっても、異なる組成からなる層であってもよい。
【0053】
第1有機層及び第2有機層の厚みは、用途に応じて適宜調整してよいが、それぞれ好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.5~3μm、さらに好ましくは0.7~3μmである。有機層の厚みは、膜厚計によって測定することができる。厚みが上記の下限以上であると、積層フィルムの表面硬度を向上しやすい。また、厚みが上記の上限以下であると、屈曲性が向上しやすい。第1有機層及び第2有機層の厚みは同じであっても、異なっていてもよい。本発明の積層フィルムが3つ以上の有機層を有する場合、各有機層が上記の厚みを有することが好ましい。
【0054】
有機層は、例えば、重合性官能基を有する光硬化性化合物を含む組成物を、プライマー層上に塗布し、硬化することにより形成することができる。有機層を形成するための組成物に含まれる光硬化性化合物としては、紫外線又は電子線硬化性の化合物が挙げられ、このような化合物としては、重合性官能基を分子内に1個以上有する化合物、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の重合性官能基を有する化合物が挙げられる。有機層を形成するための組成物(有機層形成用組成物という場合がある)は、1種類の光硬化性化合物を含有してもよいし、2種以上の光硬化性化合物を含有してもよい。有機層形成用組成物に含まれる重合性官能基を有する光硬化性化合物を硬化させることにより、光硬化性化合物が重合して、光硬化性化合物の重合物を含む有機層が形成される。
【0055】
有機層における該重合性官能基を有する光硬化性化合物の重合性官能基の反応率は、外観品質を高めやすい観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上である。前記反応率の上限は特に限定されないが、外観品質を高めやすい観点から、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。反応率が上記の下限以上である場合、無色透明化しやすい。また、反応率が上記の上限以下である場合、耐屈曲性を向上させやすい。反応率は、重合性官能基を有する光硬化性化合物の重合反応が進むにつれて高くなるため、例えば光硬化性化合物が紫外線硬化性化合物である場合には、照射する紫外線の強度を高くしたり、照射時間を長くしたりすることにより、高めることができる。上記のような硬化条件を調整することにより、反応率を上記の範囲内にすることができる。
【0056】
反応率は、有機層形成用組成物を基材上に塗布し、必要に応じて乾燥させて得た硬化前の塗膜、及び、該塗膜を硬化後の塗膜について、塗膜表面から全反射型FT-IRを用いて赤外吸収スペクトルを測定し、重合性官能基に由来するピークの強度の変化量から測定することができる。例えば、重合性官能基が(メタ)アクリロイル基である場合、(メタ)アクリロイル基中のC=C二重結合部分が重合に関与する基であり、重合の反応率が高くなるにつれてC=C二重結合に由来するピークの強度が低下する。一方、(メタ)アクリロイル基中のC=O二重結合部分は重合に関与せず、C=O二重結合に由来するピークの強度は重合前後で変化しない。そのため、硬化前の塗膜について測定した赤外吸収スペクトルにおける(メタ)アクリロイル基中のC=O二重結合に由来するピークの強度(ICO1)に対するC=C二重結合に由来するピークの強度(ICC1)の割合(ICC1/ICO1)と、硬化後の塗膜について測定した赤外吸収スペクトルにおける(メタ)アクリロイル基中のC=O二重結合に由来するピークの強度(ICO2)に対するC=C二重結合に由来するピークの強度(ICC2)の割合(ICC2/ICO2)とを比較することで、反応率を算出することができる。この場合、反応率は、式(3):
反応率[%]=[1-(ICC2/ICO2)/(ICC1/ICO1)]×100 (3)
により算出される。なお、C=C二重結合に由来する赤外吸収ピークは通常1350~1450cm-1の範囲、例えば1400cm-1付近に観察され、C=O二重結合に由来する赤外吸収ピークは通常1700~1800cm-1の範囲、例えば1700cm-1付近に観察される。
【0057】
有機層の赤外吸収スペクトルにおける1000~1100cm-1の範囲の赤外吸収ピークの強度をIとし、1700~1800cm-1の範囲の赤外吸収ピークの強度をIとすると、I及びIは式(4):
0.05≦I/I≦1.0 (4)
を満たすことが好ましい。ここで、1000~1100cm-1の範囲の赤外吸収ピークは、有機層に含まれる化合物及び重合物(例えば、重合性官能基を有する光硬化性化合物及び/又はその重合物)中に存在するシロキサン由来のSi-O-Si結合に由来する赤外吸収ピークであり、1700~1800cm-1の範囲の赤外吸収ピークは、有機層に含まれる化合物及び重合物(例えば、重合性官能基を有する光硬化性化合物及び/又はその重合物)中に存在するC=O二重結合に由来する赤外吸収ピークであると考えられる。そして、これらのピークの強度の比(I/I)は、有機層中のシロキサン由来のSi-O-Si結合に対するC=O二重結合の相対的な割合を表すと考えられる。ピークの強度の比(I/I)が上記所定の範囲である場合、有機層の均一性を高めやすいと共に、層間の密着性、特に高湿環境下での密着性を高めやすくなる。ピークの強度の比(I/I)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.20以上である。ピーク強度の比が上記の下限以上である場合、有機層の均一性を高めやすい。これは、本発明は後述するメカニズムに何ら限定されないが、有機層に含まれる化合物及び重合物中に存在するシロキサン由来のSi-O-Si結合が多くなりすぎると有機層中に凝集物が生じ、層が脆化する場合があり、このような凝集物の生成を低減しやすくなるためであると考えられる。ピークの強度の比(I/I)は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下である。ピーク強度の比が上記の上限以下である場合、有機層の密着性を高めやすい。これは、本発明は後述するメカニズムに何ら限定されないが、有機層に含まれる化合物及び重合物中にシロキサン由来のSi-O-Si結合が一定量以上存在することにより、有機層の硬さが適度に低減されるためであると考えられる。有機層の赤外吸収スペクトルは、ATRアタッチメント(PIKE MIRacle)を備えたフーリエ変換型赤外分光光度計(日本分光製、FT/IR-460Plus)により測定できる。
【0058】
有機層形成用組成物に含まれる光硬化性化合物は、紫外線等により重合が開始し、硬化が進行して重合物である樹脂となる化合物である。光硬化性化合物は、硬化効率の観点から、好ましくは(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、単官能のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、多官能のモノマー又はオリゴマーであってもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを表し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを表す。
【0059】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、(メタ)アクリル系化合物が挙げられ、具体的には、アルキル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ならびに、その重合体及び共重合体等が挙げられる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、並びにその重合体及び共重合体等が挙げられる。
【0060】
有機層形成用組成物に含まれる光硬化性化合物は、上記(メタ)アクリロイル基を有する化合物に代えて、又は、上記(メタ)アクリロイル基を有する化合物に加えて、例えば、メテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、及びトリフェニルエトキシシラン等を含有することが好ましい。これら以外のアルコキシシランを用いてもよい。
【0061】
上記に述べた重合性官能基を有する光硬化性化合物以外の光硬化性化合物としては、重合によりポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、スチレン樹脂、及びアルキルチタネート等の樹脂となる、モノマー又はオリゴマーが挙げられる。
【0062】
有機層形成用組成物は、〔プライマー層〕の項に記載の無機粒子、好ましくはシリカ粒子を含むことができる。有機層形成用組成物に含まれるシリカ粒子の平均一次粒子径は、好ましくは5~100nm、より好ましくは5~75nmである。無機粒子を含有すると、積層フィルムの耐熱性を向上しやすい。
【0063】
無機粒子、好ましくはシリカ粒子の含有量は、有機層形成用組成物の固形分の質量に対して、好ましくは20~90%であり、より好ましくは40~85%である。無機粒子の含有量が上記範囲であると、積層フィルムの耐熱性をより向上しやすい。なお、有機層形成用組成物の固形分とは、有機層形成用組成物に含まれる溶剤等の揮発性成分を除いた成分を意味する。
【0064】
有機層形成用組成物は、有機層の硬化性の観点から、光重合開始剤を含んでいてよい。光重合開始剤の含有量は、有機層の硬化性を高める観点から、有機層形成用組成物の固形分の質量に対して、好ましくは2~15%であり、より好ましくは3~11%である。
【0065】
有機層形成用組成物は、塗布性の観点から、溶剤を含んでいてよい。溶剤としては、重合性官能基を有する光硬化性化合物の種類に応じて、該化合物を溶解可能なものを適宜選択でき、例えば、〔プライマー層〕の項に記載の溶剤等が挙げられる。溶剤は単独又は二種以上組み合わせて使用してよい。
【0066】
前記重合性官能基を有する光硬化性化合物、前記無機粒子、前記光重合開始剤及び前記溶剤の他に、必要に応じて、熱重合開始剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、カール抑制剤等の添加剤を含んでもよい。
【0067】
有機層は、例えば、光硬化性化合物を含む有機層形成用組成物(光硬化性組成物)をプライマー層上に塗布し、必要に応じて乾燥後、紫外線もしくは電子線を照射することにより、光硬化性化合物を硬化させて形成することができる。
【0068】
塗布方法としては、上記プライマー層を可撓性基材に塗布する方法と同様の方法が挙げられる。
【0069】
有機層が平坦化層としての機能を有する場合、有機層は、(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、スチレン樹脂、及びアルキルチタネート等を含有してよい。有機層はこれらの樹脂を1種類又は2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0070】
有機層が平坦化層としての機能を有する場合、平坦化層は、剛体振り子型物性試験機(例えばエー・アンド・デイ株式会社製RPT-3000W等)により前記平坦化層表面の弾性率の温度変化を評価した場合、前記平坦化層表面の弾性率が50%以上低下する温度が150℃以上であることが好ましい。
【0071】
有機層が平坦化層としての機能を有する場合、平坦化層を白色干渉顕微鏡で観察して測定される面粗さは、好ましくは3nm以下、より好ましくは2nm以下、さらに好ましくは1nm以下である。平坦化層の面粗さが上記の上限以下である場合、無機薄膜層の欠陥が少なくなり、ガスバリア性がより高められる効果がある。面粗さは、平坦化層を白色干渉顕微鏡で観察し、サンプル表面の凹凸に応じて、干渉縞が形成されることにより測定される。
【0072】
有機層がアンチブロッキング層としての機能を有する場合、有機層は、特に上記に述べた無機粒子を含有することが好ましい。
【0073】
〔無機薄膜層〕
本発明の積層フィルムは、第1有機層の、第1プライマー層とは反対側の面に第1無機薄膜層を有する。第1無機薄膜層を有することで、積層フィルムが優れたガスバリア性を有することができる。本発明の積層フィルムは、上記順に存在する第1無機層を1層以上少なくとも有する限り、別の部分に積層されたさらなる無機薄膜層を含んでいてよい。本発明の一実施態様では、さらに、第2有機層の、第2プライマー層とは反対側の面に第2無機薄膜層を有する。第2無機薄膜層を有することで、積層フィルムのガスバリア性を向上し得る。なお、本明細書において、第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層を総称して無機薄膜層という場合がある。
【0074】
第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層はそれぞれ、ガスバリア層としての機能を有する層であってもよく、反り調整層としての機能を有する層であってもよいし、これらの両方の機能を有する層であってもよい。第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層が少なくともガスバリア層である場合、これらの層は、ガスバリア性を有する無機材料の層であれば特に限定されず、公知のガスバリア性を有する無機材料の層を適宜利用することができる。無機材料の例としては、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物及びこれらのうちの少なくとも2種を含む混合物が挙げられる。無機薄膜層は単層膜であってもよいし、上記薄膜層を少なくとも含む2層以上が積層された多層膜であってもよい。
【0075】
第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層の厚みは、用途に応じて適宜調整してよいが、それぞれ好ましくは0.1~2μm、より好ましくは0.2~1.5μm、さらに好ましくは0.3~1μmである。無機薄膜層の厚みは、膜厚計によって測定することができる。厚みが上記の下限以上であると、ガスバリア性が向上しやすい。また、厚みが上記の上限以下であると、屈曲性が向上しやすい。第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層の厚みは、同じであっても、異なっていてもよい。本発明の積層フィルムが3つ以上の無機薄膜層を有する場合、各無機薄膜層が上記の厚みを有することが好ましい。
【0076】
第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層はぞれぞれ単層であっても、2層以上の多層であってもよい。また、第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層は、同じ組成からなる層であってもよく、異なる組成からなる層であってもよいが、積層フィルムの耐熱性を向上しやすい観点から、同じ組成からなる層であることが好ましい。また、本発明の積層フィルムが第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層以外の無機薄膜層を有する場合、複数の無機薄膜層は同一又は異なる組成からなる層であってもよい。
【0077】
無機薄膜層は、より高度なガスバリア性(特に水蒸気透過防止性)を発揮しやすい観点、ならびに、耐屈曲性、製造の容易性及び低製造コストといった観点から、珪素原子(Si)、酸素原子(O)、及び炭素原子(C)を少なくとも含有することが好ましい。
【0078】
この場合、無機薄膜層は、一般式がSiOαβで表される化合物が主成分であることができる。式中、α及びβは、それぞれ独立に、2未満の正の数を表す。ここで、「主成分である」とは、材質の全成分の質量に対してその成分の含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることをいう。無機薄膜層は一般式SiOαβで表される1種類の化合物を含有してもよいし、一般式SiOαβで表される2種以上の化合物を含有してもよい。前記一般式におけるα及び/又はβは、無機薄膜層の膜厚方向において一定の値でもよいし、変化していてもよい。
【0079】
さらに無機薄膜層は珪素原子、酸素原子及び炭素原子以外の元素、例えば、水素原子、窒素原子、ホウ素原子、アルミニウム原子、リン原子、イオウ原子、フッ素原子及び塩素原子のうちの一以上の原子を含有していてもよい。
【0080】
無機薄膜層は、無機薄膜層中の珪素原子(Si)に対する炭素原子(C)の平均原子数比をC/Siで表した場合に、緻密性を高くし、微細な空隙やクラック等の欠陥を少なくする観点から、C/Siの範囲は式(5)を満たすことが好ましい。
0.02<C/Si<0.50 (5)
C/Siは、同様の観点から、0.03<C/Si<0.45の範囲にあるとより好ましく、0.04<C/Si<0.40の範囲にあるとさらに好ましく、0.05<C/Si<0.35の範囲にあると特に好ましい。
【0081】
また、無機薄膜層は、薄膜層中の珪素原子(Si)に対する酸素原子(O)の平均原子数比をO/Siで表した場合に、緻密性を高くし、微細な空隙やクラック等の欠陥を少なくする観点から、1.50<O/Si<1.98の範囲にあると好ましく、1.55<O/Si<1.97の範囲にあるとより好ましく、1.60<O/Si<1.96の範囲にあるとさらに好ましく、1.65<O/Si<1.95の範囲にあると特に好ましい。
【0082】
なお、平均原子数比C/Si及びO/Siは、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、得られた珪素原子、酸素原子及び炭素原子の分布曲線から、それぞれの原子の厚み方向における平均原子濃度を求めた後、平均原子数比C/Si及びO/Siを算出できる。
<XPSデプスプロファイル測定>
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
エッチングレート(SiO熱酸化膜換算値):0.027nm/sec
スパッタ時間:0.5min
X線光電子分光装置:アルバック・ファイ(株)製、機種名「Quantera SXM」
照射X線:単結晶分光AlKα(1486.6eV)
X線のスポット及びそのサイズ:100μm
検出器:Pass Energy 69eV,Step size 0.125eV
帯電補正:中和電子銃(1eV)、低速Arイオン銃(10V)
【0083】
無機薄膜層の表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、950~1050cm-1に存在するピーク強度(I)と、1240~1290cm-1に存在するピーク強度(I2)との強度比(I/I)が式(6)を満たすことが好ましい。
0.01≦I/I<0.05 (6)
【0084】
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I/Iは、無機薄膜層中のSi-O-Siに対するSi-CHの相対的な割合を表すと考えられる。式(6)で表される関係を満たす無機薄膜層は、緻密性が高く、微細な空隙やクラック等の欠陥を低減しやすいため、ガスバリア性及び耐衝撃性を高めやすいと考えられる。ピーク強度比I/Iは、無機薄膜層の緻密性を高く保持しやすい観点から、0.02≦I/I<0.04の範囲がより好ましい。
【0085】
無機薄膜層が上記ピーク強度比I/Iの範囲を満たす場合、本発明の積層フィルムが適度に滑りやすくなり、ブロッキングを低減しやすい。上記ピーク強度比I/Iが大きすぎると、Si-Cが多すぎることを意味し、この場合、屈曲性が悪く、かつ滑りにくくなる傾向がある。また、上記ピーク強度比I/Iが小さすぎると、Si-Cが少なすぎることにより屈曲性が低下する傾向がある。
【0086】
無機薄膜層の表面の赤外分光測定は、プリズムにゲルマニウム結晶を用いたATRアタッチメント(PIKE MIRacle)を備えたフーリエ変換型赤外分光光度計(日本分光製、FT/IR-460Plus)によって測定できる。
【0087】
無機薄膜層の表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、950~1050cm-1に存在するピーク強度(I)と、770~830cm-1に存在するピーク強度(I)との強度比(I/I)が式(7)を満たすことが好ましい。
0.25≦I/I≦0.50 (7)
【0088】
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I/Iは、無機薄膜層中のSi-O-Siに対するSi-CやSi-O等の相対的な割合を表すと考えられる。式(7)で表される関係を満たす無機薄膜層は、高い緻密性を保持しつつ、炭素が導入されることから耐屈曲性を高めやすく、かつ耐衝撃性も高めやすいと考えられる。ピーク強度比I/Iは、無機薄膜層の緻密性と耐屈曲性のバランスを保つ観点から、0.25≦I/I≦0.50の範囲が好ましく、0.30≦I/I≦0.45の範囲がより好ましい。
【0089】
前記薄膜層は、薄膜層表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、770~830cm-1に存在するピーク強度(I)と、870~910cm-1に存在するピーク強度(I)との強度比が式(8)を満たすことが好ましい。
0.70≦I/I<1.00 (8)
【0090】
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I/Iは、無機薄膜層中のSi-Cに関連するピーク同士の比率を表すと考えられる。式(8)で表される関係を満たす無機薄膜層は、高い緻密性を保持しつつ、炭素が導入されることから耐屈曲性を高めやすく、かつ耐衝撃性も高めやすいと考えられる。ピーク強度比I/Iの範囲について、無機薄膜層の緻密性と耐屈曲性のバランスを保つ観点から、0.70≦I/I<1.00の範囲が好ましく、0.80≦I/I<0.95の範囲がより好ましい。
【0091】
無機薄膜層の厚さは、無機薄膜層を曲げた時に割れ難くするという観点からは、5~3000nmであることが好ましい。さらに、後述するように、グロー放電プラズマを用いて、プラズマCVD法により薄膜層を形成する場合には、基材を通して放電しつつ前記薄膜層を形成することから、10~2000nmであることがより好ましく、100~1000nmであることがさらに好ましい。
【0092】
無機薄膜層は、好ましくは1.8g/cm以上の高い平均密度を有し得る。ここで、無機薄膜層の「平均密度」は、ラザフォード後方散乱法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS)で求めた珪素の原子数、炭素の原子数、酸素の原子数と、水素前方散乱法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS)で求めた水素の原子数とから測定範囲の薄膜層の重さを計算し、測定範囲の薄膜層の体積(イオンビームの照射面積と膜厚との積)で除することで求められる。無機薄膜層の平均密度が上記下限以上であると、緻密性が高く、微細な空隙やクラック等の欠陥を低減しやすい構造となるため好ましい。無機薄膜層が珪素原子、酸素原子、炭素原子及び水素原子からなる本発明の好ましい一態様において、無機薄膜層の平均密度が2.22g/cm未満であることが好ましい。
【0093】
無機薄膜層が少なくとも珪素原子(Si)、酸素原子(O)、及び炭素原子(C)を含有する本発明の好ましい一態様において、該無機薄膜層の膜厚方向における該無機薄膜層表面からの距離と、各距離における珪素原子の原子比との関係を示す曲線を珪素分布曲線という。ここで、無機薄膜層表面とは、本発明の積層フィルムの表面となる面を指す。同様に、膜厚方向における該無機薄膜層表面からの距離と、各距離における酸素原子の原子比との関係を示す曲線を酸素分布曲線という。また、膜厚方向における該無機薄膜層表面からの距離と、各距離における炭素原子の原子比との関係を示す曲線を炭素分布曲線という。珪素原子の原子比、酸素原子の原子比及び炭素原子の原子比とは、無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対するそれぞれの原子数の比率を意味する。
【0094】
屈曲によるガスバリア性の低下を抑制しやすい観点からは、前記無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比が、無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において連続的に変化することが好ましい。ここで、上記炭素原子の原子数比が、無機薄膜層の膜厚方向において連続的に変化するとは、例えば上記の炭素分布曲線において、炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを表す。
【0095】
前記無機薄膜層の炭素分布曲線が8つ以上の極値を有することが、積層フィルムの屈曲性及びガスバリア性の観点から好ましい。
【0096】
前記無機薄膜層の珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線が、下記の条件(i)及び(ii)を満たすことが、積層フィルムの屈曲性及びガスバリア性の観点から好ましい。
(i)珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、前記薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において、下記式(9)で表される条件を満たす、及び、
(酸素の原子数比)>(珪素の原子数比)>(炭素の原子数比) (9)
(ii)前記炭素分布曲線が好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは8つ以上の極値を有する。
【0097】
無機薄膜層の炭素分布曲線は、実質的に連続であることが好ましい。炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことである。具体的には、膜厚方向における前記薄膜層表面からの距離をx[nm]、炭素の原子比をCとしたときに、式(10)を満たすことが好ましい。
|dC/dx|≦0.01 (10)
【0098】
また、無機薄膜層の炭素分布曲線は少なくとも1つの極値を有することが好ましく、8つ以上の極値を有することがより好ましい。ここでいう極値は、膜厚方向における無機薄膜層表面からの距離に対する各元素の原子比の極大値又は極小値である。極値は、膜厚方向における無機薄膜層表面からの距離を変化させたときに、元素の原子比が増加から減少に転じる点、又は元素の原子比が減少から増加に転じる点での原子比の値である。極値は、例えば、膜厚方向において複数の測定位置において、測定された原子比に基づいて求めることができる。原子比の測定位置は、膜厚方向の間隔が、例えば20nm以下に設定される。膜厚方向において極値を示す位置は、各測定位置での測定結果を含んだ離散的なデータ群について、例えば互いに異なる3以上の測定位置での測定結果を比較し、測定結果が増加から減少に転じる位置又は減少から増加に転じる位置を求めることによって得ることができる。極値を示す位置は、例えば、前記の離散的なデータ群から求めた近似曲線を微分することによって、得ることもできる。極値を示す位置から、原子比が単調増加又は単調減少する区間が例えば20nm以上である場合に、極値を示す位置から膜厚方向に20nmだけ移動した位置での原子比と、極値との差の絶対値は例えば0.03以上である。
【0099】
前記のように炭素分布曲線が好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは8つ以上の極値を有する条件を満たすように形成された無機薄膜層は、屈曲前のガス透過率に対する屈曲後のガス透過率の増加量が、前記条件を満たさない場合と比較して少なくなる。すなわち、前記条件を満たすことにより、屈曲によるガスバリア性の低下を抑制する効果が得られる。炭素分布曲線の極値の数が2つ以上になるように前記薄膜層を形成すると、炭素分布曲線の極値の数が1つである場合と比較して、前記の増加量が少なくなる。また、炭素分布曲線の極値の数が3つ以上になるように前記薄膜層を形成すると、炭素分布曲線の極値の数が2つである場合と比較して、前記の増加量が少なくなる。炭素分布曲線が2つ以上の極値を有する場合に、第1の極値を示す位置の膜厚方向における前記薄膜層表面からの距離と、第1の極値と隣接する第2の極値を示す位置の膜厚方向における前記薄膜層表面からの距離との差の絶対値が、1nm以上200nm以下の範囲内であることが好ましく、1nm以上100nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0100】
また、前記無機薄膜層の炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が0.01より大きいことが好ましい。前記条件を満たすように形成された無機薄膜層は、屈曲前のガス透過率に対する屈曲後のガス透過率の増加量が、前記条件を満たさない場合と比較して少なくなる。すなわち、前記条件を満たすことにより、屈曲によるガスバリア性の低下を抑制する効果が得られる。炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が0.02以上であると前記の効果が高くなり、0.03以上であると前記の効果がさらに高くなる。
【0101】
珪素分布曲線における珪素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が低くなるほど、無機薄膜層のガスバリア性が向上する傾向がある。このような観点で、前記の絶対値は、0.05未満(5at%未満)であることが好ましく、0.04未満(4at%未満)であることがより好ましく、0.03未満(3at%未満)であることが特に好ましい。
【0102】
また、酸素炭素分布曲線において、各距離における酸素原子の原子比及び炭素原子の原子比の合計を「合計原子比」としたときに、合計原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が低くなるほど、前記薄膜層のガスバリア性が向上する傾向がある。このような観点で、前記の合計原子比は、0.05未満であることが好ましく、0.04未満であることがより好ましく、0.03未満であることが特に好ましい。
【0103】
前記無機薄膜層表面方向において、無機薄膜層を実質的に一様な組成にすると、無機薄膜層のガスバリア性を均一にするとともに向上させることができる。実質的に一様な組成であるとは、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線において、前記無機薄膜層表面の任意の2点で、それぞれの膜厚方向に存在する極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは0.05以内の差であることをいう。
【0104】
前記条件を満たすように形成された無機薄膜層は、例えば有機EL素子を用いたフレキシブル電子デバイスなどに要求されるガスバリア性を発現することができる。
【0105】
無機薄膜層が少なくとも珪素原子、酸素原子、及び炭素原子を含有する本発明の好ましい一態様において、このような原子を含む無機材料の層は、緻密性を高めやすく、微細な空隙やクラック等の欠陥を低減しやすい観点から、化学気相成長法(CVD法)で形成されることが好ましく、中でも、グロー放電プラズマなどを用いたプラズマ化学気相成長法(PECVD法)で形成されることがより好ましい。
【0106】
化学気相成長法において使用する原料ガスの例は、珪素原子及び炭素原子を含有する有機ケイ素化合物である。このような有機ケイ素化合物の例は、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンである。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性及び得られる無機薄膜層のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが好ましい。原料ガスとして、これらの有機ケイ素化合物の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0107】
また、上記原料ガスに対して、上記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物を形成可能とする反応ガスを適宜選択して混合することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組合せて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組合せて使用することができる。原料ガスと反応ガスの流量比は、成膜する無機材料の原子比に応じて適宜調節できる。
【0108】
上記原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0109】
また、真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.5Pa~50Paの範囲とすることが好ましい。
【0110】
〔保護層〕
本発明の積層フィルムは、第1無機薄膜層の、第1有機層とは反対側の面に保護層を有していてもよい。保護層を有することで、積層フィルムや該積層フィルムを含むフレキシブル電子デバイスをキズ、汚れ、埃等から保護することができる。また、第2無機薄膜層の、第2有機層とは反対側の面に保護層を有していてよい。
【0111】
前記保護層は、第1無機薄膜層との密着性確保の観点から、珪素化合物を含有する塗布液から得られた塗膜に改質処理が施されたものであることが好ましい。
【0112】
前記保護層を形成するにあたって、珪素化合物としては、ポリシロキサン化合物、ポリシラザン化合物、ポリシラン化合物、又はそれらの混合物等が好ましい。特に、柔軟性と表面硬度の両立の観点から、水添シルセスキオキサン、ペルヒドロポリシラザン等の無機珪素化合物が好ましい。ペルヒドロポリシラザンとしては、例えばメルクパフォーマンスマテリアルズ社のAZ無機シラザンコーティング材(NAXシリーズ、NLシリーズ、NNシリーズ)等が挙げられる。
【0113】
前記保護層を形成するにあたって、珪素化合物を含有する塗布液を塗布する方法の例としては、従来用いられる種々の塗布方法、例えば、スプレー塗布、スピン塗布、バーコート、カーテンコート、浸漬法、エアーナイフ法、スライド塗布、ホッパー塗布、リバースロール塗布、グラビア塗布、エクストリュージョン塗布等の方法が挙げられる。
【0114】
前記保護層の厚みは、適宜目的に応じて設定されるが、例えば10nm~10μm、より好ましくは100nm~1μmの範囲である。また、保護層は平坦である方が好ましく、白色干渉顕微鏡で観察して得られる平均面粗さが、好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下である。なお、保護層の厚みは、膜厚計によって測定できる。
【0115】
前記保護層を形成するにあたって、一回の塗布で所望の膜厚に調整することもできるし、複数回塗布し所望の膜厚に調整することもできる。複数回塗布する場合には、一回の塗布ごとに改質処理を実施するのが好ましい。
【0116】
前記保護層を形成するにあたって、塗膜の改質処理の方法としては、加熱処理、湿熱処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理(真空紫外線照射処理)、電子線照射処理、イオン注入処理等が挙げられる。塗膜の表面及び/又は内部を、低温で効率的に酸化珪素や酸化窒化珪素へ改質する観点からは、エキシマ照射処理やイオン注入処理等が好ましい。
【0117】
〔他の層〕
本発明の積層フィルムは、第2プライマー層、可撓性基材、第1プライマー層、第1有機層、及び第1無機薄膜層をこの順に有していれば、各層の間や最外層に、他の層を有していてよい。他の層としては、例えば前記第2無機薄膜層、前記第2有機層、易滑層、ハードコート層、透明導電膜層、カラーフィルター層、易接着層、カール調整層、応力緩和層、耐熱層、耐擦傷層、耐押し込み層等が挙げられる。
【0118】
〔層構成〕
本発明の積層フィルムの層構成は、第2プライマー層、可撓性基材、第1プライマー層、第1有機層、及び第1無機薄膜層をこの順に有する限り、特に限定されない。具体的には、第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層(図1に示される構成)等の5層構成であってもよいし、第2有機層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層(図2に示される構成)、第2無機薄膜層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層等の6層構成であってもよいし、第2無機薄膜層/第2有機層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層(図3に示される構成)、第2有機層/第2無機薄膜層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層等の7層構成であってもよいし、第2無機薄膜層/第2有機層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層/保護層(図4に示される構成)等の8層構成であってもよいし、第2保護層/第2無機薄膜層/第2有機層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層/第1保護層等の9層以上の構成であってもよい。なお、本発明の積層フィルムの層構成における各層は、単層であってもよいし多層であってもよい。また、本発明の層構成に2以上の可撓性基材が含まれる場合、該2以上の可撓性基材は同一の層であってもよいし、互いに異なる層であってもよい。2以上の有機層、又は、2以上の無機薄膜層が含まれる場合についても同様である。具体的な上記層構成に、上記他の層をさらに含むこともできる。
【0119】
〔第1実施態様〕
本発明の積層フィルムは、好ましい第1実施態様において、第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層(図1に示される構成)を少なくとも有する。本実施態様において、第1有機層は、平坦化層としての機能を有する層であってもよいし、アンチブロッキング層としての機能を有する層であってもよいが、平坦化層であることが好ましい。本実施態様では、第2プライマー層は積層フィルムの保護層として機能するとともに、製造時の滑り性を向上させ、かつブロッキングを防止する機能も果たす。
【0120】
〔第2実施態様〕
本発明の積層フィルムは、好ましい第2実施態様において、第2有機層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層(図2に示される構成)を少なくとも有する。本実施態様において、第1有機層及び第2有機層はそれぞれ、平坦化層としての機能を有する層であってもよいし、アンチブロッキング層としての機能を有する層であってもよいが、第1有機層が平坦化層であり、第2有機層がアンチブロッキング層であることが好ましい。第1無機薄膜層は、ガスバリア層としての機能を有する層であってもよいし、反り調整層としての機能を有する層であってもよいが、少なくともガスバリア層としての機能を有する層であることが好ましい。第1有機層及び第2有機層はそれぞれ、互いに同一の層であってもよいし、組成や層数等において互いに異なる層であってもよい。
【0121】
〔第3実施態様〕
本発明の積層フィルムは、好ましい第3実施態様において、第2無機薄膜層/第2有機層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層(図3に示される構成)を少なくとも有する。本実施態様は、第2実施態様の層構成において、第2有機層の、第2プライマー層とは反対側の面に第2無機薄膜層を有する層構成である。第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層はそれぞれ、ガスバリア層としての機能を有する層であってもよいし、反り調整層としての機能を有する層であってもよいが、第1無機薄膜層が少なくともガスバリア層としての機能を有する層であり、第2無機薄膜層が少なくとも反り調整層としての機能を有する層であることが好ましい。第1無機薄膜層及び第2無機薄膜層はそれぞれ、互いに同一の層であってもよいし、組成や層数等において互いに異なる層であってもよい。
【0122】
〔第4実施態様〕
本発明の積層フィルムは、好ましい第4実施態様において、第2無機薄膜層/第2有機層/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層/第1無機薄膜層/保護層(図4に示される構成)を少なくとも有する。本実施態様は、第3実施態様の層構成において、第1無機薄膜層の、第1有機層とは反対側の面に保護層を有する。保護層を有することで、積層フィルムや該積層フィルムを含むフレキシブル電子デバイスをキズ、汚れ、埃等から保護することができる。
【0123】
[積層フィルムの製造方法]
本発明の積層フィルムの製造方法は、各層を上記の順に形成できれば、特に限定されないが、その例としては、可撓性基材の一方の面に第1プライマー層、及び他方の面に第2プライマー層を形成し、次いで、第1プライマー層上に第1有機層を形成した後、第1有機層上に第1無機薄膜層を形成する方法が挙げられる。また、例えば第3実施態様における積層フィルムは、さらに第2プライマー層上に第2有機層を形成した後、第2有機層上に第2無機薄膜層を形成することで製造できる。なお、本発明の積層フィルムは、各層を別々に作製し貼り合わせて製造してもよい。
無機薄膜層の緻密性を高めやすく、微細な空隙やクラック等の欠陥を低減しやすい観点からは、上記のように、有機薄膜層上に、グロー放電プラズマを用いて、CVD法等の公知の真空成膜手法で前記薄膜層を形成させて製造することが好ましい。無機薄膜層は、連続的な成膜プロセスで形成させることが好ましく、例えば、長尺の積層体を連続的に搬送しながら、その上に連続的に無機薄膜層を形成させることがより好ましい。具体的には、該積層体を送り出しロールから巻き取りロールへ搬送しながら無機薄膜層を形成させてよい。その後、送り出しロール及び巻き取りロールを反転させて、逆向きに該積層体を搬送させることで、さらに無機薄膜層を形成させてもよい。
【0124】
[フレキシブル電子デバイス]
本発明は、本発明の積層フィルムを含むフレキシブル電子デバイスを包含する。フレキシブル電子デバイス(フレキシブルディスプレイ)としては、例えば、高いガスバリア性が要求される液晶表示素子、太陽電池、有機ELディスプレイ、有機ELマイクロディスプレイ、有機EL照明及び電子ペーパー等が挙げられる。本発明の積層フィルムは、該フレキシブル電子デバイスのフレキシブル基板として好適に使用できる。該積層フィルムをフレキシブル基板として用いる場合、積層フィルム上に直接素子を形成してもよいし、また別の基板上に素子を形成させた後で、該積層フィルムを接着層や粘着層を介して上から重ね合せてもよい。なお、該素子側と、積層フィルムの第2プライマー層側の最表面とが向き合うように重ね合わせてもよいが、該素子側と、積層フィルムの第1プライマー層側の最表面とが向き合うように重ね合わせることが好ましい。
【実施例
【0125】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記しない限り、質量%及び質量部である。
実施例において使用した装置、測定方法、及び評価方法は、以下の通りである。
【0126】
〔膜厚〕
実施例及び比較例で得られた積層フィルムのプライマー層、有機層、無機薄膜層及び保護層の各層の膜厚は、膜厚計((株)小坂研究所製;サーフコーダET200)を用いて、無成膜部と成膜部の段差測定を行い、各層の膜厚を求めた。
【0127】
〔積層フィルムの熱線膨張測定〕
実施例及び比較例で得られた積層フィルムの熱線膨張測定の評価を、(株)日立ハイテクサイエンス製の熱機械分析装置「TMA7100A」を用いて実施した。具体的には、積層フィルムを長さ約20mm、幅5mmの矩形に切り出し、引張り荷重29.4mN及び昇温速度20℃/分の条件で引張モードにおける熱線膨張変位量を測定した。MD方向の熱線膨張変位量をA(μm)、加熱温度をT(℃)としたときに、Tが50~200℃の範囲におけるdA/dT、すなわち、Tの増加量に対するAの変化量を測定し、前記温度範囲におけるAの変化量が常に正の場合を「+」、該Aの変化量がゼロか負を含む場合を「+/-」、該Aの変化量が常に負の場合を「-」として評価した。
【0128】
〔積層フィルムの熱寸法変化率測定〕
実施例及び比較例で得られた積層フィルムをA4サイズ(積層フィルムのMD方向を長辺、TD方向を短辺)に切り出し、積層フィルムの中央部に、MD方向が200mm、TD方向が200mmとなるように、正方形にマーキングを行い、該正方形の四辺の長さをノギスで測定した(最小目盛0.05mm)。その後、温度25℃で、積層フィルムをSUS板に置き、SUS板と積層フィルムとを200℃に加熱した熱風循環オーブンに入れた。200℃の条件下で20分経過後にオーブンから積層フィルムを取り出し、25℃まで冷却した後、マーキングした正方形の四辺の長さを再度ノギスで測定した。加熱前の正方形のある一辺の長さをL0、加熱後の正方形の同一の辺の長さをL1とした場合、((L1-L0)/L0)×100を寸法変化率として算出した(膨張した場合の寸法変化率を正、収縮した場合の寸法変化率を負とした)。ここで、MD方向の寸法変化率は、積層フィルム中に描いた正方形のMD方向の2辺分についてそれぞれ前記寸法変化率を算出し、算出した2辺分の寸法変化率を平均した値を意味する。また、TD方向の寸法変化率は、積層フィルム中に描いた正方形のTD方向の2辺分についてそれぞれ前記寸法変化率を算出し、算出した2辺分の寸法変化率を平均した値を意味する。
【0129】
〔積層フィルムの耐熱性評価〕
ガラス板(Cornig社EAGLE XGグレード、厚み0.7mm)、耐熱粘着シート(厚み0.025mm)、実施例及び比較例で得られた積層フィルムを各々50mm×50mmの正方形に切り出し、ガラス板、耐熱粘着シート、及び積層フィルムの順にハンドローラーでラミネートしてテストピースを作製した。積層フィルムは第1無機薄膜層又は保護層が表面側(耐熱粘着シートと反対側)に配置される向きでラミネートした。200℃の加熱ステージ上に、ガラス板が下側になるように前記テストピースを置いて30分加熱した。その後、加熱ステージから取り出し、25℃まで冷却後に積層フィルム表面のクラック発生状況を観察した。積層フィルムの四辺から内側1mm以内の箇所は除いて、面内にクラックが発生していない場合「○」、クラックが発生している場合「×」として評価した。
【0130】
〔積層フィルムの反り安定性〕
温度25℃で、積層フィルムをMD方向が50mm、TD方向が50mmの正方形となるように切り出し、正方形の四つ角の高さを、定規を用いて0.5mmの精度で測定することで四つ角の平均高さ(H0)を測定した。続いて、積層フィルムをSUS板上に置き、SUS板と積層フィルムとを200℃に加熱した熱風循環オーブンに入れ、30分経過後にオーブンから積層フィルムを取り出し、25℃まで放冷した後、上記と同様の方法で正方形の四つ角の平均高さ(H1)を測定した。加熱前後の反り安定性を、|H1-H0|(mm)として算出した。
【0131】
〔積層フィルムの脱水分量測定〕
メトローム社製の気化式カールフィッシャー装置831 KF Coulometer及び832 KF Thermoprepを用いて、実施例及び比較例で得られた積層フィルムを150℃に加熱した時の表面脱水分量の評価を実施した。
【0132】
〔積層フィルムの水蒸気透過度〕
水蒸気透過度は、温度23℃、湿度50%RHの条件において、ISO/WD 15106-7(Annex C)に準拠してCa腐食試験法で測定した。
【0133】
〔積層フィルムの光学特性〕
(全光線透過率、ヘーズ)
実施例及び比較例で得られた積層フィルムの全光線透過率及びヘーズは、スガ試験機(株)製の直読ヘーズコンピュータ(型式HGM-2DP)によって測定した。積層フィルムがない状態でバックグランド測定を行った後、積層フィルムをサンプルホルダーにセットして測定を行い、積層フィルムの全光線透過率及びヘーズ値を求めた。
【0134】
〔無機薄膜層の厚み方向のX線光電子分光測定〕
実施例及び比較例で得られた積層フィルムの無機薄膜層の厚み方向の原子数比プロファイルは、X線光電子分光法によって測定した。X線源としてはAlKα線を用い、また、測定時の帯電補正のために、中和電子銃、低速Arイオン銃を使用した。測定後の解析は、MultiPak V6.1A(アルバック・ファイ(株)製)を用いてスペクトル解析を行い、測定したワイドスキャンスペクトルから得られるSiの2p、Oの1s、Nの1s、及びCの1sそれぞれのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて、Siに対するC(C/Si)及びSiに対するO(O/Si)の表面原子数比を算出した。表面原子数比としては、5回測定した値の平均値を採用した。この結果から、炭素分布曲線を作成した。
<XPSデプスプロファイル測定条件>
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
エッチングレート(SiO熱酸化膜換算値):0.027nm/sec
スパッタ時間:0.5min
X線光電子分光装置:アルバック・ファイ(株)製、機種名「Quantera SXM」
照射X線:単結晶分光AlKα(1486.6eV)
X線のスポット及びそのサイズ:100μm
検出器:Pass Energy 69eV,Step size 0.125eV
帯電補正:中和電子銃(1eV)、低速Arイオン銃(10V)
【0135】
[無機薄膜層の製造方法]
実施例及び比較例において、図5に示す製造装置を用いて、両面にプライマー層を有する可撓性基材上に積層された有機層上に無機薄膜層を積層した。具体的には、図5に示すように、有機層が積層された前記可撓性基材を送り出しロ-ル10に装着し、成膜ロール12と成膜ロール13との間に磁場を印加すると共に、成膜ロール12と成膜ロール13にそれぞれ電力を供給して、成膜ロール12と成膜ロール13との間で放電によりプラズマを発生させ、このような放電領域に、成膜ガス(原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとしての酸素ガス(放電ガスとしても機能する)の混合ガス)を供給して、下記成膜条件にてプラズマCVD法による薄膜形成を行い、両面にプライマー層を有する可撓性基材層上に積層された有機層上に無機薄膜層を積層させた。なお、下記成膜条件の真空チャンバー内の真空度は、排気口付近の圧力を隔膜真空計で検出した値を使用した。
〈成膜条件1〉
原料ガスの供給量:50sccm(Standard Cubic Centimete
r per Minute)
酸素ガスの供給量:500sccm
真空チャンバー内の真空度:1Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度;0.6m/min
パス回数:4回
【0136】
[有機層の製造方法]
実施例及び比較例において、第1有機層を形成するための有機層形成用組成物として、日本化工塗料(株)製、TOMAX(登録商標) FA-3292(有機層形成用組成物1と称する)を使用した。有機層形成用組成物1は、溶剤として酢酸エチルを8.1質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルを52.1質量%、固形分としてUV硬化オリゴマーを10~20質量%、シリカ粒子(平均一次粒子径20nm)を20~30質量%、添加剤として光重合開始剤を2~3質量%含有する組成物である。UV硬化オリゴマーは、重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する光硬化性化合物である。また第2有機層を形成するための有機層形成用組成物として、有機層形成用組成物1に平均一次粒子径50nmシリカ粒子を8質量%添加したもの(有機層形成用組成物2と称する)を使用した。
10m/minの速度で両面にプライマー層を有する可撓性基材を搬送させながら、有機層形成用組成物1及び有機層形成用組成物2をグラビアコーティング法にて塗布し、100℃の乾燥炉に30秒以上通過させて溶剤を蒸発させた後、UVを照射して有機層形成用組成物1を硬化し、有機層を作製した(UV硬化条件:フュージョン製無電極UVランプ、200mJ/cm)。
【0137】
[実施例1]
両面にプライマー層を有する可撓性基材であるポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:700mm、帝人フィルムソリューション(株)製、商品名「テオネックス(登録商標)」、Q65HWA、Tg160℃、両表面に軟化点180℃以上で、膜厚100nmのプライマー層(主成分としてポリエステル樹脂を含有し、シリカ粒子も含有する)を含む、アニール処理有り)の一方の面に前記有機層の製造方法に従い膜厚2.5μmの第1有機層A1を積層した。次いで、第1有機層A1側の表面に、前記無機薄膜層の製造方法に従い、膜厚750nmの第1無機薄膜層A1を積層した。また前記可撓性基材の他方の面に、前記有機層の製造方法に従い膜厚1.5μmの第2有機層B1を積層した。さらに真空チャンバー内の真空度5Paにして搬送速度とパス回数を微調整した以外は前記無機薄膜層の製造方法と同様にして、第2有機層B1の表面に膜厚700nmの第2無機薄膜層B1を積層した。このようにして積層フィルム1を得た。
実施例1で得られた積層フィルム1は、第2無機薄膜層B1/第2有機層B1/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層A1(平坦化層)/第1無機薄膜層A1の層構成を有するフィルムである。
【0138】
得られた積層フィルム1は、水蒸気透過度が1×10-6g/m/day、全光線透過率が90%、ヘーズが0.7%である。また、XPSデプスプロファイル測定の結果から、無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比が、無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において連続的に変化し、原子数比が大きい方から酸素、珪素及び炭素の順となっており、また膜厚方向の炭素分布曲線の極値を30以上有していることがわかった。
【0139】
また得られた積層フィルム1は、加熱前後の反り安定性が|H1-H0|=14mm、150℃に加熱した時の表面脱水分量が0.28%であった。
【0140】
[実施例2]
両面にプライマー層を有する可撓性基材であるポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:700mm、帝人フィルムソリューション(株)製、商品名「テオネックス(登録商標)」、Tg160℃、両表面に軟化点180℃以上で、膜厚100nmのプライマー層(主成分としてポリエステル樹脂を含有し、シリカ粒子も含有する)を含む、アニール処理有り)の一方の面に前記有機層の製造方法に従い、膜厚0.8μmの第1有機層A2を積層した。次いで、第1有機層A2側の表面に、前記無機薄膜層の製造方法に従い、膜厚750nmの第1無機薄膜層A1を積層した。また前記可撓性基材の他方の面に、前記有機層の製造方法に従い膜厚1.2μmの第2有機層B2を積層した。さらに真空チャンバー内の真空度5Paにして搬送速度とパス回数を微調整した以外は前記無機薄膜層の製造方法と同様にして、第2有機層B2の表面に膜厚700nmの第2無機薄膜層B1を積層した。このようにして積層フィルム2を得た。
実施例2で得られた積層フィルム2は、第2無機薄膜層B1/第2有機層B2/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層A2(平坦化層)/第1無機薄膜層A1の層構成を有するフィルムである。
【0141】
得られた積層フィルム2は、水蒸気透過度が3×10-6g/m/day、全光線透過率が90%、ヘーズが0.6%である。また、XPSデプスプロファイル測定の結果から、無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比が、無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において連続的に変化し、原子数比が大きい方から酸素、珪素及び炭素の順となっており、また膜厚方向の炭素分布曲線の極値を15以上有していることがわかった。
【0142】
また得られた積層フィルム2は、加熱前後の反り安定性が|H1-H0|=10mm、150℃に加熱した時の表面脱水分量が0.28%であった。
[実施例3]
実施例1で得られた積層フィルム1において、第1無機薄膜層A1の第1有機層A1とは反対側の面に、珪素化合物を含有する塗布液として、ポリシラザン(PHPS)溶液(メルクパフォーマンスマテリアルズ製、「グレードNAX120」、キシレン80質量%及びポリシラザン20質量%含有)をグラビアコーティング法で塗布し、130℃で乾燥することにより、膜厚500nmの保護層A1を形成し、積層フィルム3を得た。
実施例3で得られた積層フィルム3は、第2無機薄膜層B1/第2有機層B1/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層A1(平坦化層)/第1無機薄膜層A1/保護層A1の層構成を有するフィルムである。
【0143】
得られた積層フィルム3は、水蒸気透過度が<1×10-6g/m/day、全光線透過率が90%、ヘーズが0.7%である。また、XPSデプスプロファイル測定の結果から、無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比が、無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において連続的に変化し、原子数比が大きい方から酸素、珪素及び炭素の順となっており、また膜厚方向の炭素分布曲線の極値を30以上有していることがわかった。
【0144】
また得られた積層フィルム3は、加熱前後の反り安定性が|H1-H0|=6mm、150℃に加熱した時の表面脱水分量が0.29%であった。
【0145】
[実施例4]
両面にプライマー層を有する可撓性基材として、ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:700mm、帝人フィルムソリューション(株)製、商品名「テオネックス(登録商標)」、Q65HW(グレード)、Tg160℃、両表面に軟化点180℃以上で、膜厚100nmのプライマー層(主成分としてポリエステル樹脂を含有し、シリカ粒子も含有する)を含む、アニール処理なし)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルム4を得た。
実施例4で得られた積層フィルム4は、第2無機薄膜層B1/第2有機層B1/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層A1(平坦化層)/第1無機薄膜層A1の層構成を有するフィルムである。
【0146】
得られた積層フィルム4は、水蒸気透過度が2×10-6g/m/day、全光線透過率が90%、ヘーズが0.7%である。
【0147】
[実施例5]
第1有機層A1及び第2有機層B1に代えて、第1有機層A2及び第2有機層B2を使用したこと以外は、実施例4と同様にして、積層フィルム5を得た。
実施例5で得られた積層フィルム5は、第2無機薄膜層B1/第2有機層B1/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層A2(平坦化層)/第1無機薄膜層A2の層構成を有するフィルムである。
【0148】
得られた積層フィルム5は、水蒸気透過度が3×10-6g/m/day、全光線透過率が90%、ヘーズが0.6%である。
【0149】
[比較例1]
両面にプライマー層を有する可撓性基材であるポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:700mm、帝人フィルムソリューション(株)製、商品名「テオネックス(登録商標)」、Q65HW、Tg130℃、両表面に軟化点180℃以上で、膜厚100nmのプライマー層(主成分としてポリエステル樹脂を含有し、シリカ粒子も含有する)を含む、アニール処理なし)の一方の面に、前記無機薄膜層の製造方法に従い、膜厚400nmの第1無機薄膜層A2を積層した。また前記可撓性基材の他方の面に、真空チャンバー内の真空度5Paにして搬送速度とパス回数を微調整した以外は前記無機薄膜層の製造方法と同様にして、膜厚400nmの第2無機薄膜層B2を積層した。このようにして積層フィルム6を得た。
比較例1で得られた積層フィルム6は、第2無機薄膜層B2/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1無機薄膜層A2の層構成を有するフィルムである。
【0150】
[比較例2]
両面にプライマー層を有する可撓性基材であるポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、厚み:100μm、幅:700mm、東洋紡(株)製、商品名「コスモシャイン(登録商標)A4300」、両表面に軟化点180℃以上、膜厚100nmのシリカ粒子含有プライマー層を含む)の一方の面に、前記有機層の製造方法に従い、膜厚0.8μmの第1有機層A2を積層した。次いで第1有機層A2側の表面に、前記無機薄膜層の製造方法に従い、膜厚750nmの第1無機薄膜層A1を積層した。また前記可撓性基材の他方の面に、前記有機層の製造方法に従い膜厚1.2μmの第2有機層B2を積層した。さらに真空チャンバー内の真空度5Paにして搬送速度とパス回数を微調整した以外は、前記無機薄膜層の製造方法と同様にして、第2有機層B2の表面に膜厚700nmの第2無機薄膜層B1を積層した。このようにして積層フィルム7を得た。
比較例2で得た積層フィルム7は、第2無機薄膜層B1/第2有機層B2/第2プライマー層/可撓性基材/第1プライマー層/第1有機層A2(平坦化層)/第1無機薄膜層A1の層構成を有するフィルムである。
【0151】
実施例1~5及び比較例1、2で得られた積層フィルム1~7について、上記測定方法に従い、熱線膨張測定、熱寸法変化率の測定、及び耐熱性評価を行った。結果を表1に示す。なお、比較例1については、熱寸法変化率測定の過程で積層フィルムにクラックが発生したため、MD方向及びTD方向の寸法変化率を測定できなかった。
【0152】
【表1】
【0153】
表1に示されるように、実施例1~5で得られた積層フィルムは、常にdA/dT>0の関係を満たし、MD方向の寸法変化率が-0.3~0.5%の範囲であるため、耐熱性に優れている。これに対して、比較例1で得られた積層フィルムは、第1有機層及び第2有機層を有さず、またMD方向の寸法変化率が-0.3~0.5%を満たさないため、耐熱性に劣る。また比較例2で得られた積層フィルムは、常にdA/dT>0という関係を満たさず、MD方向の寸法変化率が-0.3~0.5%の範囲でないため、耐熱性に劣る。
【符号の説明】
【0154】
1a、1b、1c、1d…積層フィルム
2…可撓性基材
3…第1プライマー層
4…第1有機層
5…第1無機薄膜層
6…第2プライマー層
7…第2有機層
8…第2無機薄膜層
9…保護層
10…送り出しロール
11…搬送ロール
12…成膜ロール
13…成膜ロール
14…ガス供給管
15…プラズマ発生用電源
16…磁場発生装置
17…巻取りロール
18…フィルム
図1
図2
図3
図4
図5