IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツトヨの特許一覧

<>
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図1
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図2
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図3
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図4
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図5
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図6
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図7
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図8
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図9
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図10
  • 特許-電磁誘導式エンコーダ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】電磁誘導式エンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
G01D5/245 110Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019109922
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020201200
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100134511
【弁理士】
【氏名又は名称】八田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】森 洋篤
(72)【発明者】
【氏名】林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-214722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00 - 5/252
G01D 5/39 - 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置され、測定方向に相対移動する検出ヘッドおよびスケールを備え、
前記検出ヘッドは、第1トラックおよび第2トラックについて、磁束を発生する送信コイルをそれぞれ備え、
前記スケールは、前記第1トラックおよび前記第2トラックについて、前記測定方向に配列されて前記送信コイルが発生する磁束と電磁結合して前記測定方向に所定の空間周期で変化する磁束を発生する複数の導体をそれぞれ備え、
前記検出ヘッドは、前記第1トラックおよび前記第2トラックについて、前記複数の導体が発生する磁束と電磁結合して当該磁束の位相を検出する受信コイルをそれぞれ備え、
前記第1トラックと前記第2トラックとで、前記送信コイル、前記導体および前記受信コイルの少なくともいずれかが、前記検出ヘッドと前記スケールとの対向方向および前記測定方向に対して直交する方向における幅が異なり、
前記第1トラックの前記受信コイルから得られる信号強度と、前記第2トラックの前記受信コイルから得られる信号強度との比較結果を用いて、前記検出ヘッドと前記スケールとの間の対向方向の位置変動、および前記検出ヘッドと前記スケールとの間の前記対向方向および前記測定方向に直交する方向の位置変動の少なくともいずれか一方を検出する検出部を備えることを特徴とする電磁誘導式エンコーダ。
【請求項2】
前記検出部は、前記第1トラックの前記受信コイルから得られる信号強度と、前記第2トラックの前記受信コイルから得られる信号強度との比較結果に対応する補正係数を用いて、前記検出ヘッドと前記スケールとの間のギャップを検出することを特徴とする請求項1記載の電磁誘導式エンコーダ。
【請求項3】
前記検出部の結果を報知する報知装置を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁誘導式エンコーダ。
【請求項4】
前記第1トラックおよび前記第2トラックについて、前記導体は、前記検出ヘッドと前記スケールとの対向方向および前記測定方向に対して直交する方向において前記送信コイルよりも小さい幅を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の電磁誘導式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、電磁誘導式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
検出ヘッドとスケールとの間の変位量を検出する電磁誘導式エンコーダが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-255106号公報
【文献】特開2016-206086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電磁誘導式エンコーダでは、検出ヘッドとスケールとの間にわずかな空隙を設けて対向させ、互いに摺動させる。しかしながら、位置関係が変わると、検出ヘッドとスケールとが衝突するおそれがある。そこで、位置関係を検知し、報知することが要求される。しかしながら、検知のために新たにセンサを追加することや、新たに検出用パターンを付加することはコスト的にもスペース的にも困難である。
【0005】
1つの側面では、簡易な構成で検出ヘッドとスケールとの間の位置変動を検出することができる電磁誘導式エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、本発明に係る電磁誘導式エンコーダは、対向配置され、測定方向に相対移動する検出ヘッドおよびスケールを備え、前記検出ヘッドは、第1トラックおよび第2トラックについて、磁束を発生する送信コイルをそれぞれ備え、前記スケールは、前記第1トラックおよび前記第2トラックについて、前記測定方向に配列されて前記送信コイルが発生する磁束と電磁結合して前記測定方向に所定の空間周期で変化する磁束を発生する複数の導体をそれぞれ備え、前記検出ヘッドは、前記第1トラックおよび前記第2トラックについて、前記複数の導体が発生する磁束と電磁結合して当該磁束の位相を検出する受信コイルをそれぞれ備え、前記第1トラックと前記第2トラックとで、前記送信コイル、前記導体および前記受信コイルの少なくともいずれかが、前記検出ヘッドと前記スケールとの対向方向および前記測定方向に対して直交する方向における幅が異なり、前記第1トラックの前記受信コイルから得られる信号強度と、前記第2トラックの前記受信コイルから得られる信号強度との比較結果を用いて、前記検出ヘッドと前記スケールとの間の対向方向の位置変動、および前記検出ヘッドと前記スケールとの間の前記対向方向および前記測定方向に直交する方向の位置変動の少なくともいずれか一方を検出する検出部を備えることを特徴とする。
【0008】
上記電磁誘導式エンコーダにおいて、前記検出部は、前記第1トラックの前記受信コイルから得られる信号強度と、前記第2トラックの前記受信コイルから得られる信号強度との比較結果に対応する補正係数を用いて、前記検出ヘッドと前記スケールとの間のギャップを検出してもよい。
【0009】
上記電磁誘導式エンコーダにおいて、前記検出部の結果を報知する報知装置を備えていてもよい。
【0010】
上記電磁誘導式エンコーダにおいて、前記第1トラックおよび前記第2トラックについて、前記導体は、前記検出ヘッドと前記スケールとの対向方向および前記測定方向に対して直交する方向において前記送信コイルよりも小さい幅を有していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
簡易な構成で検出ヘッドとスケールとの間の位置変動を検出することができる電磁誘導式エンコーダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は検出ヘッドを例示する図であり、(b)はスケールを例示する図である。
図2】検出ヘッドとスケールとの間のギャップ変動と、検出信号の強度との間の相関を例示する図である。
図3】(a)は検出ヘッドとスケールとの位置関係において、受信コイルの中心と結合コイルの中心とが一致している場合を例示する図であり、(b)は(a)の位置関係から、受信コイルが、Y軸方向にずれた場合を例示する図であり、(c)は結合コイルのY軸方向の幅を広げた場合を例示する図である。
図4】(a)は受信コイルのY軸方向における位置変化と信号強度との関係を例示する図であり、(b)は図3(c)の例において受信コイルのY軸方向における位置変化と信号強度との関係を例示する図である。
図5】(a)は電磁誘導式エンコーダの構成を例示する図であり、(b)は受信コイルの構成を例示する図である。
図6】トラックTr1のギャップ変化に対する信号強度とトラックTr2のギャップ変化に対する信号強度の比を例示する図である。
図7】Y軸方向への変位の場合における、トラックTr1の信号強度の変動とトラックTr2の信号強度の変動との比を例示する図である。
図8】Y軸方向への変位の際のトラックTr1の信号強度とトラックTr2の信号強度と比の変化と、トラックTr1の信号強度変化率の逆数との関係を例示する図である。
図9】ギャップ変化に応じた信号強度の低下を例示する図である。
図10】(a)はトラックTr2における受信コイルを例示する図であり、(b)はトラックTr1における受信コイルを例示する図である。
図11】(a)はトラックTr2における送信コイルを例示する図であり、(b)はトラックTr1における送信コイルを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態の説明に先立って、電磁誘導式エンコーダの概要について説明する。図1(a)は、検出ヘッド201を例示する図である。図1(b)は、スケール204を例示する図である。検出ヘッド201およびスケール204は、それぞれ略平板形状を有し、所定の隙間を介して対向配置される。
【0014】
図1(a)で例示するように、検出ヘッド201には、送信コイル202、受信コイル203などが設けられている。送信コイル202は、矩形コイルを構成している。受信コイル203は、送信コイル202の内側に配置されている。
【0015】
図1(b)で例示するように、スケール204においては、複数の結合コイル205が、測定軸に沿って周期的に配列されている。各結合コイル205は、互いに離間しており、互いに絶縁されている。各結合コイル205は、送信コイル202と電磁結合するとともに、受信コイル203と電磁結合する。
【0016】
送信コイル202に電流を流し、結合コイル205を介して受信コイル203に発生する起電力を測定する。それにより、スケール204の測定軸における変位量を測定することができる。
【0017】
このような電磁誘導式エンコーダでは、検出ヘッド201とスケール204との間にわずかな空隙をおいて対向させ、装置を摺動させる。スケール204や摺動機構にうねり、歪み、傾き等が存在した場合、信号強度が減少または増加し、測定精度の低下につながる。また、装置の経時変化や、検出ヘッド201またはスケール204の設置ミスなどにより、大幅に位置関係が変わってしまうと、摺動中に検出ヘッド201とスケール204とが衝突するおそれがある。
【0018】
そこで、設置時や動作(摺動)時の検出ヘッド201とスケール204との間の空隙(ギャップ)や、検出ヘッド201とスケール204との対向方向および測定軸と直交する方向の相対位置ずれを検知し、報知することが要求される。しかしながら、検出ヘッド201およびスケール204には多くの場合小型化が求められ、検知の為に新たにセンサを追加することや、新たに検出用パターンを付加することはコスト的にもスペース的にも困難である。
【0019】
そこで、以下の実施形態では、簡易な構成で検出ヘッドとスケールとの間の位置変動を検出することができる電磁誘導式エンコーダについて説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図2は、検出ヘッドとスケールとの間のギャップ変動と、受信コイルから得られる検出信号の強度との間の相関を例示する図である。図2において、横軸はギャップ変化[mm]を示し、縦軸は信号強度を示す。図2で例示するように、ギャップが大きくなるほど信号強度が低下し、ギャップが小さくなるほど信号強度が大きくなる。
【0021】
しかしながら、信号強度は、検出ヘッドとスケールとの対向方向および測定軸と直交する方向にスケールがずれた場合にも変化する。そこで、検出ヘッドとスケールとのギャップを正確に検出するためには、検出ヘッドとスケールとの対向方向および測定軸と直交する方向にスケールがずれた場合の影響を切り分けることが望まれる。
【0022】
図3(a)は、Y軸方向における検出ヘッドとスケールとの位置関係において、受信コイル12の中心と結合コイル21の中心とが一致している場合を例示する図である。図3(a)において、X軸は、スケールの移動方向であって、測定軸を表す。Y軸は、スケールの面内において、X軸と直交する方向の軸を表す。すなわち、Y軸は、検出ヘッドとスケールとが対向する対向方向およびX軸に対して直交する。図3(a)の位置関係は、信号強度が最大となる理想的な位置(以下、基準位置)である。
【0023】
図3(b)は、図3(a)の位置関係から、受信コイル12が、Y軸方向にずれた場合を例示する図である。受信コイル12がY軸方向にずれても、信号強度が低下することになる。図4(a)は、受信コイル12のY軸方向における位置変化と信号強度との関係を例示する図である。図4(a)で例示するように、信号強度は、基準位置において最も高く、受信コイル12が基準位置からY軸方向に変位するにしたがって低下する。
【0024】
図3(c)は、結合コイル21のY軸方向の幅を広げた場合を例示する図である。図4(b)は、図3(c)の例において受信コイル12のY軸方向における位置変化と信号強度との関係を例示する図である。図4(b)で例示するように、信号強度は、基準位置において最も高く、受信コイル12が基準位置からY軸方向に変位するにしたがって低下する。しかしながら、図4(a)と図4(b)とを比較すると、基準位置からの変位量に対して信号強度の低下度合が異なっていることがわかる。具体的には、Y軸方向に結合コイル21の幅を広げると、基準位置からの変位量に対する信号強度の低下度合が小さくなることがわかる。そこで、本実施形態においては、信号強度の比較結果を用いる。
【0025】
図5(a)は、実施形態に係る、検出ヘッドとスケールとの間の電磁結合を利用した電磁誘導式エンコーダ100の構成を例示する図である。図5(b)は、受信コイル12の構成を例示する図である。
【0026】
電磁誘導式エンコーダ100は、測定軸方向に相対移動する検出ヘッド10とスケール20とを有する。検出ヘッド10およびスケール20は、それぞれ略平板形状を有し、所定の隙間を介して対向配置されている。また、電磁誘導式エンコーダ100は、駆動信号生成部30、変位量測定部40、変動検出部50、報知装置60などを備えている。図5(a)および図5(b)において、X軸は、スケール20の移動方向であって、測定軸を表している。スケール20が構成する平面において、X軸と直交する方向をY軸とする。Y軸は、検出ヘッド10とスケール20とが対向する対向方向およびX軸に対して直交する。
【0027】
検出ヘッド10には、送信コイル11、受信コイル12などが設けられている。送信コイル11は、X軸方向に長さ方向を有する矩形コイルを構成している。図5(b)で例示するように、受信コイル12は、送信コイル11の内側において、検出ヘッド10の両面に形成された2つのパターン13a,13bと、パターン13aとパターン13bとを接続する貫通配線14と、からなる基本周期λの正負の正弦波形パターンによって、検出ヘッド10のX軸方向に基本周期λで繰り返される検出ループを構成している。本実施形態においては、一例として、受信コイル12は、X軸方向に空間位相をずらした3相の受信コイル12a~12cからなる。これら受信コイル12a~12cは、例えばスター結線されている。
【0028】
スケール20においては、矩形状を有する複数の結合コイル21が、X軸方向に沿って、基本周期λで配列されている。各結合コイル21は、閉ループコイルである。各結合コイル21は、送信コイル11と電磁結合するとともに、受信コイル12と電磁結合している。
【0029】
駆動信号生成部30は、単相交流の駆動信号を生成し、送信コイル11に供給する。この場合、送信コイル11に磁束が発生する。それにより、複数の結合コイル21に起電流が発生する。当該複数の結合コイル21は、送信コイル11が発生する磁束と電磁結合することで、X軸方向に所定の空間周期で変化する磁束を発生する。結合コイル21が発生する磁束は、受信コイル12a~12cに起電流を生じさせる。検出ヘッド10の変位量に応じて各コイル間の電磁結合が変化し、基本周期λと同じ周期の正弦波信号が得られる。したがって、受信コイル12は、複数の結合コイル21が発生する磁束の位相を検出する。変位量測定部40は、この正弦波信号を電気的に内挿することによって最小分解能のデジタル量として用いることができ、検出ヘッド10の変位量を測定する。
【0030】
なお、互いに電磁結合する送信コイル11、受信コイル12および結合コイル21が1つのトラックを構成する。本実施形態においては、電磁誘導式エンコーダ100は、複数のトラックTr1~Tr3を備えている。複数のトラックTr1~Tr3は、Y軸方向において所定の間隔を空けて配列されている。各トラックにおいて、基本周期λが異なっている。それにより、電磁誘導式エンコーダ100は、アブソリュート式エンコーダとして機能する。
【0031】
ここで、スケールに複数のトラックが設けられている場合、最終的な精度を規定するトラックは1つである。そこで、トラックTr1~Tr3のうち、少なくともいずれかのトラックにおける結合コイル21のY軸方向の幅が他のトラックの結合コイル21のY軸方向の幅と異なっている。図5(a)の例では、トラックTr1の結合コイル21のY軸方向の幅が、トラックTr2,Tr3の結合コイル21のY軸方向の幅よりも大きくなっている。トラックTr1~Tr3において、送信コイル11および受信コイル12のY軸方向における幅は、実質的に同一である。なお、特段の位置変動が生じていなければ、スケール20は検出ヘッド10に対して基準位置に位置している。
【0032】
この場合、検出ヘッド10とスケール20との間のギャップが変化した場合、それぞれのトラックの信号強度は同様の変化をするため、各トラックの信号強度比は、ほぼ一定となる。例として、図6に、トラックTr1のギャップ変化に対する信号強度とトラックTr2のギャップ変化に対する信号強度の比を示す。このように、トラックTr1およびトラックTr2において、ギャップ変化に対する信号強度の変化率は、略一致する。したがって、トラックTr1の信号強度およびトラックTr2の信号強度のうちいずれを用いても、検出ヘッド10とスケール20との間のギャップを検出することができる。
【0033】
一方、Y軸方向への変位の場合、図4(a)および図4(b)で例示したように、各トラックからの検出信号の強度変化は異なるものとなる。図7は、Y軸方向への変位の場合における、トラックTr1の信号強度の変動とトラックTr2の信号強度の変動との比を例示する図である。図7の縦軸は、(トラックTr1の信号強度)/(トラックTr2の信号強度)を表している。基準位置からの変位量が大きくなるにつれて、各トラック間の信号強度の差が大きくなっていることがわかる。
【0034】
そこで、変動検出部50は、トラックTr1の信号強度とトラックTr2の信号強度との比較結果を用いて、Y軸方向のスケール20の変位を検出する。例えば、トラックTr1の信号強度とトラックTr2の信号強度との比較結果と、Y軸方向のスケール20の変位量との関係をテーブルなどとして予め格納しておくことで、トラックTr1の信号強度とトラックTr2の信号強度との比較結果に対応するY軸方向の変位量を検出することができる。なお、トラックTr1の信号強度とトラックTr2の信号強度との比較結果として、比を用いてもよいが、差分などを用いてもよい。
【0035】
さらに、変動検出部50は、このことを利用し、図8で例示するように、Y軸方向への変位の際のトラックTr1の信号強度とトラックTr2の信号強度との比の変化と、トラックTr1の信号強度変化率の逆数との関係を用いる。
【0036】
ギャップ変化に応じた信号強度は、同時にY軸方向への変位が重畳すると、トラックTr1の信号強度は、図9のように低下する。このため、ある信号強度の閾値でギャップ変動の限度を決めた場合、ギャップ変化はしているものの同時にY軸方向の変位も生じた場合には信号強度が閾値を下回るため、ギャップ限度を検出することが困難となる場合がある。そこで、図8で求めた逆数の値を、Y軸方向の変位時の補正係数として予め格納しておく。変動検出部50は、図8で求めた逆数の値をY軸方向の変位時の補正係数として、図9の信号強度に乗算することで、トラックTr1の信号強度変化率からY軸方向の変位の影響を抑制し、検出ヘッド10とスケール20との間のギャップを検出する。
【0037】
報知装置60は、変動検出部50が検出する、検出ヘッド10とスケール20との間のギャップが許容範囲の下限を示す閾値以下となった場合に、当該情報を報知する。または、報知装置60は、変動検出部50が検出する、検出ヘッド10とスケール20との間のY軸方向の変位量が閾値以上となった場合に、当該情報を報知する。例えば、報知装置60は、警告ランプなどであり、警告ランプを点灯する。この場合、どの方向への変動が生じているか識別できるように報知することが好ましい。それにより、報知装置60は、位置変動検知機能を実現する。または、報知装置60は、通信インタフェースなどであり、変動検出部50が検出する、検出ヘッド10とスケール20との間のギャップが閾値以下となった場合やY軸方向の変位量が閾値以上となった場合に、警告信号をインターネットなどの電気通信回線を介して外部に送信する。なお、報知装置60は、変動検出する、検出ヘッド10とスケール20との間のギャップが許容範囲の上限を示す閾値以上となった場合にも、当該情報を報知してもよい。この場合、検出信号が弱くなったことを報知することができるようになる。
【0038】
本実施形態によれば、追加のセンサを搭載することなく、検出ヘッド10とスケール20との間の位置変動を検出することができる。したがって、簡易な構成で位置変動を検出することができる。
【0039】
(第2実施形態)
第1実施形態では、トラック間において、結合コイルのY軸方向の幅を異ならせたが、それに限られない。第2実施形態においては、トラック間において、受信コイル12のY軸方向の幅を異ならせる。図10(a)は、トラックTr2における受信コイル12を例示する図である。図10(b)は、トラックTr1における受信コイル12を例示する図である。図10(a)および図10(b)で例示するように、トラックTr1における受信コイル12のY軸方向の幅が、トラックTr2における受信コイル12のY軸方向の幅よりも大きくなっている。トラックTr1~Tr3において、送信コイル11および結合コイル21のY軸方向における幅は実質的に同一である。この場合においても、スケール20が検出ヘッド10に対してY軸方向に変位した場合に、トラックTr1における信号強度とトラックTr2における信号強度とが異なるようになる。変動検出部50は、各信号強度の比較結果を用いて、検出ヘッド10とスケール20との間の位置変動を検出することができる。
【0040】
(第3実施形態)
第3実施形態においては、トラック間において、送信コイル11のY軸方向の幅を異ならせる。図11(a)は、トラックTr2における送信コイル11を例示する図である。図11(b)は、トラックTr1における送信コイル11を例示する図である。図11(a)および図11(b)で例示するように、トラックTr1における送信コイル11のY軸方向の幅が、トラックTr2における送信コイル11のY軸方向の幅よりも大きくなっている。トラックTr1~Tr3において、受信コイル12および結合コイル21のY軸方向における幅は実質的に同一である。この場合においても、スケール20が検出ヘッド10にY軸方向に変動した場合に、トラックTr1における信号強度とトラックTr2における信号強度とが異なるようになる。変動検出部50は、各信号強度の比較結果を用いて、検出ヘッド10とスケール20との間の位置変動を検出することができる。
【0041】
上記各実施形態においては、送信コイル11および受信コイル12と電磁結合する部材として結合コイルを用いているが、それに限られない。例えば、送信コイル11および受信コイル12と電磁結合する導体であれば、コイル形状を有していなくても用いることができる。例えば、略矩形の導体を用いることができる。
【0042】
上記各実施形態において、結合コイル21のY軸方向の幅は、送信コイル11のY軸方向の幅よりも小さいことが好ましい。結合コイル21が送信コイル11からはみ出してしまうと、はみ出し部分で送信コイル11からの磁界が打ち消し合うため、信号強度が低下するからである。
【0043】
なお、上記各実施形態においては、電磁誘導式のリニアエンコーダについて説明したが、上記各実施形態は、電磁誘導式のロータリーエンコーダなどに適用することもできる。ロータリーエンコーダに適用する場合、上記各実施形態の測定軸を測定方向とすればよい。
【0044】
上記各実施形態において、検出ヘッド10およびスケール20が、対向配置され、測定方向に相対移動する検出ヘッドおよびスケールの一例である。送信コイル11が、第1トラックおよび第2トラックについて、磁束を発生する送信コイルの一例である。結合コイル21が、前記第1トラックおよび前記第2トラックについて、前記測定方向に配列されて前記送信コイルが発生する磁束と電磁結合して前記測定方向に所定の空間周期で変化する磁束を発生する複数の導体の一例である。受信コイル12が、前記第1トラックおよび前記第2トラックについて、前記複数の導体が発生する磁束と電磁結合して当該磁束の位相を検出する受信コイルの一例である。変動検出部50が、前記第1トラックの前記受信コイルから得られる信号強度と、前記第2トラックの前記受信コイルから得られる信号強度との比較結果を用いて、前記検出ヘッドと前記スケールとの間の対向方向の位置変動、および前記検出ヘッドと前記スケールとの間の前記対向方向および前記測定方向に直交する方向の位置変動の少なくともいずれか一方を検出する検出部の一例である。報知装置60が、前記検出部の結果を報知する報知装置の一例である。
【0045】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 検出ヘッド
11 送信コイル
12 受信コイル
20 スケール
21 結合コイル
30 駆動信号生成部
40 変位量測定部
50 変動検出部
60 報知装置
100 電磁誘導式エンコーダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11