(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】栄養素吸収促進用食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20230614BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20230614BHJP
A23L 33/15 20160101ALI20230614BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/125
A23L33/15
(21)【出願番号】P 2016215633
(22)【出願日】2016-11-02
【審査請求日】2019-09-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 晋平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良一
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】齋 政彦
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】三上 晶子
【審判官】平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-126833(JP,A)
【文献】特開2006-191887(JP,A)
【文献】特開平7-87939(JP,A)
【文献】特開2006-158550(JP,A)
【文献】日本味と匂学会誌,2006年,13(2),pp.157-168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L5/40-5/49,31/00-33/29
C12G1/00-3/08
C12H6/00-6/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAplus/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕及び米麹を
含む、栄養素吸収に関するトランスポーターをコードする遺伝子の発現増強用食品組成物であって、
前記栄養素が、ビタミン、ビタミン様物質、糖、アミノ酸からなる群から選択される、食品組成物。
【請求項2】
前記
食品組成物に含まれる酒粕と米麹の割合が、1:1~4:1である、請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
前記
栄養素吸収に関するトランスポーターをコードする遺伝子の発現増強が小腸で生じる、請求項1または2に記載の食品組成物。
【請求項4】
ビタミン、ビタミン様物質、糖、アミノ酸からなる群から選択される栄養素を含有する、酒粕と米麹以外の食品組成物をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項5】
前記酒粕と米麹以外の食品組成物に含有される前記栄養素が、ビタミンC、ビタミンB、ビオチン、αリポ酸、グルコース、フルクトース、タウリン、βアラニンからなる群から選択される、請求項4に記載の食品組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の食品組成物を含有する、
栄養素吸収に関するトランスポーターをコードする遺伝子の発現増強用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栄養素吸収促進用食品組成物、及び当該食品組成物を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、酒粕や米こうじには、無機質、ビタミンや食物繊維など、豊富な栄養素が含まれていることが知られていた(例えば、非特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】文科省 七訂増補 日本食品標準成分表 調味料及び香辛料類 食品番号17053(酒粕)
【文献】文科省 七訂増補 日本食品標準成分表 調味料及び香辛料類 食品番号01116(米こうじ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、栄養素吸収促進用食品組成物、及び当該食品組成物を含む食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、マウスに、酒粕および米麹を含有した餌を摂取させたところ、腸において栄養素吸収トランスポーターの発現が亢進することを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
本発明の一実施態様は、酒粕及び/又は米麹を有効成分とする栄養素吸収促進用食品組成物である。前記混合物中の酒粕と米麹の割合が、1:1~4:1であってもよい。前記栄養素吸収促進が小腸で生じてもよい。前記栄養素が、ビタミン、ビタミン様物質、糖、アミノ酸からなる群から選択されてもよく、ビタミンC、ビタミンB、ビオチン、αリポ酸、グルコース、フルクトース、タウリン、βアラニンからなる群から選択されてもよい。また、ビタミン、ビタミン様物質、糖、アミノ酸からなる群から選択される栄養素を含有する、酒粕と米麹以外の食品組成物をさらに含んでもよく、前記酒粕と米麹以外の食品組成物に含有される前記栄養素が、ビタミンC、ビタミンB、ビオチン、αリポ酸、グルコース、フルクトース、タウリン、βアラニンからなる群から選択されてもよい。
【0007】
本発明の他の一実施態様は、上記いずれかの食品組成物を含む食品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、栄養素吸収促進用食品組成物、及び当該食品組成物を含む食品を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0010】
==食品組成物==
本発明の一実施形態である食品組成物は、酒粕及び/又は米麹を有効成分とする栄養素吸収促進用食品組成物である。
【0011】
本明細書において、酒粕とは、日本酒の醪を圧搾した後に残る固形物をいう。酒粕中には水分およびアルコール分が含まれるが、その含有量は特に限定されず、例えば10~90%、30~70%、40~60%などであってもよい。日本酒の醪の製造方法は特に限定されないが、通常の日本酒の醸造工程で得られるものを用いればよく、市販品を用いてもよい。
【0012】
また、米麹とは、蒸した米に麹菌を繁殖させたものをいい、通常の製麹方法に従って調製することができる。具体的には、例えば、米を蒸して得られた蒸米に麹菌を散布し、増殖に適した条件下(例えば、25~40℃で2~4日間)で麹菌を繁殖させることにより得られる。なお、米麹は、市販品を用いてもよい。用いる米は特に限定されず、うるち米であっても、もち米であってもよい。好ましくは米を適宜精米し、洗米し、水に浸漬し、そして水切りしたものを用いることができる。用いる麹菌は特に限定されないが、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)およびアスペルギルス・ソーヤ(Asperugillus sojae)などのコウジカビ属(アスペルギルス、Asperugillus)が例示できる。なお、麹菌は、種麹として販売される市販品を用いてもよい。
【0013】
本発明にかかる食品組成物には、酒粕と米麹の少なくともどちらか一方が含まれていればよいが、両方が含まれている場合、食品組成物に含まれる酒粕と米麹の割合は特に限定されず、例えば、20:1~1:5であってもよく、8:1~1:2であってもよく、4:1~1:1であってもよく、約2:1であってもよい。
【0014】
さらに、本食品組成物は、栄養素を含む、酒粕及び米麹以外の食品組成物を含有してもよい。この栄養素として、ビタミン、ビタミン様物質、糖、アミノ酸であることが好ましく、ビタミンC、ビタミンB、ビオチン、αリポ酸、グルコース、フルクトース、タウリン、βアラニン等であることがより好ましい。
【0015】
==食品==
本発明の一実施形態である食品は、上述したような食品組成物を含有する。この食品は、栄養素吸収促進の機能を有する食品として有用である。具体的な食品の種類や食品の形態は特に限定されず、飲料であってもかまわないが、例えば、甘酒が例示できる。
【0016】
==食品組成物及び食品の用途及び効果==
実施例に示すように、動物個体が酒粕及び/又は米麹を摂取することによって、栄養素吸収に関するトランスポーターをコードする遺伝子の発現を増強することができる。従って、本発明の一実施形態である酒粕及び/又は米麹を含む食品組成物及びそれを含む食品は、栄養素吸収に関するトランスポーターをコードする遺伝子の発現増強用や、栄養素吸収促進用として有用である。摂取する動物は、ヒトであってもよく、ヒト以外の脊椎動物であっても構わない。
【0017】
当該トランスポーターをコードする遺伝子としては、Slc23a1遺伝子、Slc5a6遺伝子、Slc5a1遺伝子、Slc2a5遺伝子、及びSlc6a6遺伝子などを例示でき、本発明の一実施形態である食品組成物は、各遺伝子発現を増強することができる。そして、Slc23a1は、ビタミンCのトランスポーターであり、Slc5a6遺伝子は、ビタミンBやビオチンなどのビタミン、αリポ酸などのビタミン様物質のトランスポーターであり、Slc5a1は、グルコースのトランスポーターであり、Slc2a5は、フルクトースのトランスポーターであり、Slc6a6遺伝子は、タウリンやβアラニンなどのアミノ酸のトランスポーターである。従って、本発明の一実施形態である食品組成物及びそれを含む食品は、動物個体内において、ビタミン、ビタミン様物質、糖、アミノ酸などの栄養素の吸収を促進することができる。
【0018】
上記遺伝子の発現亢進は、どの組織で生じてもよいが、消化管、特に小腸、さらに小腸上皮で生じることが好ましい。それによって、摂取した食物からの栄養分を吸収しやすくなる。
【0019】
なお、酒粕及び/又は米麹を含む食品組成物やそれを含む食品と共に、栄養素を含む、酒粕及び米麹以外の食品組成物やそれを含む食品を摂取してもよい。この栄養素として、ビタミン、ビタミン様物質、糖、アミノ酸であることが好ましく、ビタミンC、ビタミンB、ビオチン、αリポ酸、グルコース、フルクトース、タウリン、βアラニン等であることがより好ましい。ここで、「共に」とは、酒粕及び/又は米麹を含む食品組成物やそれを含む食品によって、栄養素吸収に関するトランスポーターをコードする遺伝子が発現増強している間であれば、酒粕及び/又は米麹を含む食品組成物やそれを含む食品より時間的に先であっても、完全に同時であっても、時間的に後であっても構わない。
【実施例】
【0020】
本発明を、実施例によってさらに詳細に説明するが、本実施例は発明の具体的な説明のためのものであって、発明を限定するためのものではない。
【0021】
マウス酒粕・米麹投与群(BALB/c、雄、生後9週齢、4匹)に、酒粕および米麹を含有した餌を4週間摂取させた。酒粕および米麹を含有した餌は、市販の酒粕と米麹を2:1の割合(質量)で混合し、乾燥させた後、餌中の糖質10重量%に置き換える形で10重量%添加し、混合することで作製した。マウス対照群(BALB/c、雄、生後9週齢、4匹)には、酒粕および米麹をどちらも含有しない餌を同様に投与した。餌は、通常食(AIN-93G、日本クレア製)を用いた。
【0022】
投与開始から4週間後に小腸下部の上皮組織を摘出し、組織から抽出したRNAを用い、GeneChip Mouse Genome 430 2.0 Array(Affimetrix社)によって、Slc23a1遺伝子、Slc5a6遺伝子、Slc5a1遺伝子、Slc2a5遺伝子、及びSlc6a6遺伝子の発現レベルを解析したところ、酒粕・米麹を投与した酒粕・米麹群においては、対照群と比較して、有意に発現が亢進していた。
【0023】
【0024】
このように、酒粕及び/又は米麹は、栄養素を吸収促進させる作用を有する。そして、自ら栄養素を豊富に含むため、酒粕及び/又は米麹以外の栄養素を含む食品を同時に摂取する場合だけでなく、酒粕及び/又は米麹だけでも、栄養素を吸収促進させる高い効果は発揮される。その効果は、従来考えられていたより予想外に高い。