(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】端子
(51)【国際特許分類】
H01R 13/03 20060101AFI20230614BHJP
H01R 4/02 20060101ALI20230614BHJP
H01R 4/18 20060101ALI20230614BHJP
H01R 13/10 20060101ALI20230614BHJP
C25D 7/00 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
H01R13/03 A
H01R4/02 C
H01R4/18 A
H01R13/10 B
C25D7/00 H
(21)【出願番号】P 2018125762
(22)【出願日】2018-07-02
【審査請求日】2021-03-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祥
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 賢悟
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】内田 博之
【審判官】久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-053251(JP,A)
【文献】特開2014-187000(JP,A)
【文献】特開2014-187025(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0177727(US,A1)
【文献】国際公開第2014/129221(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/017660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/03 , H01R 4/02 , H01R 4/18 , H01R 4/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線が圧着接続される筒状圧着部と、相手接続先と接続されるコネクタ部と、前記筒状圧着部と前記コネクタ部との間に設けられた首部と、を備え、前記筒状圧着部が、溶接により形成された熱影響部と前記熱影響部とは異なる領域である非熱影響部を有し、前記首部が、溶接により形成された前記熱影響部を有する端子であって、
前記端子が、Crが0.00mass%以上0.35mass%以下、Pが0.00mass%以上0.15mass%以下、Mgが0.05mass%以上0.8mass%以下、残部がCu及び不可避不純物からなり、平均肉厚が0.38mm以上0.80mm以下、導電率が60%IACS以上85%IACS以下である金属部材から形成されており、
前記首部における前記熱影響部の平均
ビッカース硬さに対する、前記非熱影響部の平均
ビッカース硬さの比が、1.1以上1.8以下である端子。
【請求項2】
Crが0.15mass%以上0.35mass%以下である請求項1に記載の端子。
【請求項3】
Pが0.005mass%以上0.15mass%以下である請求項1または2に記載の端子。
【請求項4】
前記筒状圧着部における、前記熱影響部の平均
ビッカース硬さに対する前記非熱影響部の平均
ビッカース硬さの比が、1.1以上1.7以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の端子。
【請求項5】
前記首部の電線挿入方向の前記熱影響部の幅が、前記首部の熱影響部における厚さの1.0倍以上4.0倍以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の端子。
【請求項6】
前記首部の熱影響部における平均結晶粒子径が、5μm以上30μm以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の端子。
【請求項7】
Ni及び/またはSnがめっきされた前記金属部材から形成された請求項1乃至6のいずれか1項に記載の端子。
【請求項8】
前記首部の熱影響部の電線挿入方向における伸び率が0.05%となるように、前記端子の一端を電線挿入方向に対して直交方向に往復振動させた際に、1000万回の往復にても前記首部が破壊されない請求項1乃至7のいずれか1項に記載の端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接時における表面欠陥及び内部欠陥の発生や曲げ加工時におけるクラックの発生を防止して、機械的強度と止水性に優れた、径の大きい電線を圧着接続できる端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ワイヤハーネスなどにおける電線と端子との接続は、オープンバレル型と呼ばれる端子で電線をかしめて圧着する圧着接続が一般的である。しかし、オープンバレル型端子では、電線と端子の接続部分(接点)に水分等が付着してしまうと、電線や端子に用いられる金属表面の酸化や腐食が進み、接続部分における電気抵抗が上昇してしまう。電線と端子の接続部分における金属の酸化や腐食の進行は、接続部分の割れや接触不良の原因となり、製品寿命と接続信頼性に影響する。
【0003】
また、電線と端子の圧着接続時に加工割れが生じ、この加工割れの部分に水分等が付着してしまうと、やはり、電線や端子に用いられる金属表面の酸化や腐食が進んでしまう。そこで、電線と端子の圧着接続時の加工割れ及び圧着接続後の止水性に優れた端子が求められている。
【0004】
圧着接続時の加工割れ及び圧着接続後の止水性を備えた端子として、筒状圧着部の非溶接部における金属部材に、通常部と焼きなまし部を形成することが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、電線と端子基材の接点に外部からの水分の付着を防止できるので、電線や端子を構成する金属の酸化や腐食を低減することが可能となり、また、端子が焼きなまし部を有することにより、筒状圧着部の圧着時の加工割れを防止するものである。
【0005】
一方で、自動車用ワイヤハーネスなどには、大電流を通電させるために、径の太いアルミニウム電線が使用されることがある。大電流が通電される径の太いアルミニウム電線では、端子の電気抵抗を小さくする必要があるので、体積抵抗率の小さな金属部材を用いることが必要となる。体積抵抗率が小さい金属部材では、熱伝導率が高いためにレーザ溶接時に導入した熱エネルギーが放出されやすくなるため、レーザの高出力化が必要となる。レーザを高出力化すると、金属部材の添加元素やめっき材料が蒸発しやすくなるため、レーザ溶接部にスパッタ、ボイド、クラックといった表面欠陥と内部欠陥が発生しやすくなる。また、熱伝導率が高い金属部材は、冷却速度が速いことからも、ボイドやクラックなどの表面欠陥と内部欠陥が発生しやすくなる。
【0006】
また、レーザ溶接時における熱膨張収縮や板状の金属部材から端子へ曲げ加工する際の加工残存応力等から内部応力の不均一性が生じて、特に、端子の首部にクラックが発生しやすくなる。また、径の太いアルミニウム電線を圧着接続するためには、肉厚の厚い端子とすることが必要となる。金属部材の肉厚が厚くなると、特に、首部を形成している曲げ加工部にクラックが入りやすくなるという問題もある。
【0007】
従って、径の太い電線が端子に圧着接続される場合であっても、溶接部の表面欠陥及び内部欠陥と首部のクラックの発生を防止して、機械的強度と止水性を備えることが要求されている。しかし、特許文献1では、径の太い電線が圧着接続される場合に、首部のクラックの発生を防止して機械的強度、耐久性及び止水性を向上させることに改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、径の大きい電線を圧着接続するために、体積抵抗率の小さく肉厚の厚い金属部材を用いても、溶接時における表面欠陥及び内部欠陥の発生や、首部における、内部応力の不均一性や曲げ加工によるクラックの発生を防止して、首部の機械的強度、耐久性及び止水性に優れた端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]電線が圧着接続される筒状圧着部と、相手接続先と接続されるコネクタ部と、前記筒状圧着部と前記コネクタ部との間に設けられた首部と、を備え、前記筒状圧着部が、溶接により形成された熱影響部と前記熱影響部とは異なる領域である非熱影響部を有し、前記首部が、溶接により形成された前記熱影響部を有する端子であって、
前記端子が、Crが0.00mass%以上0.35mass%以下、Pが0.00mass%以上0.15mass%以下、Mgが0.05mass%以上0.8mass%以下、残部がCu及び不可避不純物からなり、平均肉厚が0.38mm以上0.80mm以下、導電率が60%IACS以上85%IACS以下である金属部材から形成されており、
前記首部における前記熱影響部の平均硬さに対する、前記非熱影響部の平均硬さの比が、1.1以上1.8以下である端子。
[2]Crが0.15mass%以上0.35mass%以下である[1]に記載の端子。
[3]Pが0.005mass%以上0.15mass%以下である[1]または[2]に記載の端子。
[4]前記筒状圧着部における、前記熱影響部の平均硬さに対する前記非熱影響部の平均硬さの比が、1.1以上1.7以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の端子。
[5]前記首部の電線挿入方向の前記熱影響部の幅が、前記首部の熱影響部における厚さの1.0倍以上4.0倍以下である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の端子。
[6]前記首部の熱影響部における平均結晶粒子径が、5μm以上30μm以下である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の端子。
[7]Ni及び/またはSnがめっきされた前記金属部材から形成された[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の端子。
[8]前記首部の熱影響部の電線挿入方向における伸び率が0.05%となるように、前記端子の一端を電線挿入方向に対して直交方向に往復振動させた際に、1000万回の往復にても前記首部が破壊されない[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の端子。
【0011】
本明細書中、「熱影響部」は、溶接により形成された溶接部を含む領域であり、溶接により軟化して溶接前の金属部材の硬さの90%以下に低下した部分を意味する。「非熱影響部」は、溶接による熱影響を受けていない部分であり、溶接前の金属部材の硬さの部分である。また、本明細書中、「硬さ」とは、ビッカース硬さを意味する。ビッカース硬さは、JIS Z 2244に準拠した方法で測定することができる。
【0012】
[1]の端子では、Crが0.00mass%とは、Crが含まれていないことを意味し、Pが0.00mass%とは、Pが含まれていないことを意味するので、CrとPは任意成分である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の端子の態様によれば、Crが0.00mass%以上0.35mass%以下、Pが0.00mass%以上0.15mass%以下、Mgが0.05mass%以上0.8mass%以下、残部がCu及び不可避不純物からなる金属部材が用いられていることにより、60%IACS以上85%IACS以下という優れた導電率が得られる。また、上記成分の金属部材が用いられることにより、溶接時における表面欠陥及び内部欠陥を防止でき、平均肉厚が0.38mm以上0.80mm以下と厚い板材にして曲げ加工を実施してもクラック発生を防止できる。さらに、首部における熱影響部の平均硬さに対する、非熱影響部の平均硬さの比が1.1以上1.8以下であることにより、首部における内部応力の不均一性によるクラックの発生を防止でき、また耐久性を向上させることができる。
【0014】
従って、径の大きい電線を圧着接続するために、体積抵抗率の小さく肉厚の厚い金属部材を用いても、溶接時における表面欠陥及び内部欠陥の発生や、端子の首部における、内部応力の不均一性によるクラックの発生や曲げ加工によるクラックの発生を防止できる。結果として、首部における機械的強度、耐久性及び止水性に優れた端子を得ることができる。
【0015】
本発明の端子の態様によれば、筒状圧着部における、熱影響部の平均硬さに対する非熱影響部の平均硬さの比が1.1以上1.7以下であることにより、首部だけではなく筒状圧着部における内部応力の不均一性によるクラックの発生も防止できる。従って、筒状圧着部における機械的強度と止水性をさらに向上させることができる。
【0016】
本発明の端子の態様によれば、首部の電線挿入方向の熱影響部の幅が、首部の熱影響部における厚さの1.0倍以上4.0倍以下であることにより、首部の熱影響部における封止性を得つつ、首部の機械的強度と耐久性をさらに向上させることができる。
【0017】
本発明の端子の態様によれば、首部の熱影響部における平均結晶粒子径が、5μm以上30μm以下であることにより、首部の機械的強度と耐久性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態例に係る端子の概要を説明する斜視図である。
【
図2】筒状圧着部における熱影響部と非熱影響部を説明した断面図である。
【
図3】首部における熱影響部と非熱影響部を説明した断面図である。
【
図4】本発明の端子の耐久性の試験方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態に係る端子について説明する。まず、本発明の実施形態に係る端子の構造について、図面を用いながら説明する。
図1は、本発明の実施形態例に係る端子の概要を説明する斜視図である。
図2は、筒状圧着部における熱影響部と非熱影響部を説明した断面図である。
図3は、首部における熱影響部と非熱影響部を説明した断面図である。
図4は、本発明の端子の耐久性の試験方法の説明図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る端子1は、電線(図示せず)が圧着接続される筒状圧着部30と、相手接続先(図示せず)と接続されるコネクタ部20と、筒状圧着部30とコネクタ部20との間に設けられた、筒状圧着部30とコネクタ部20を橋渡しして一体的につなぐ首部(トランジション部)40と、を備えている。
【0021】
コネクタ部20は、例えば、雄型端子の挿入タブを有する構造、雄型端子の挿入タブの挿入を許容するボックス部である。実施形態において、雄型端子の挿入タブやボックス部の細部の形状は、特に限定されない。実施形態例では、端子1の説明の便宜上、雌型端子の例を示している。
【0022】
筒状圧着部30は、端子1と電線とを圧着接続する部位である。筒状圧着部30の一端は、電線を挿入することができる挿入口31を有し、他端は首部40に接続されている。筒状圧着部30は、電線の挿入方向に沿って延在している。筒状圧着部30の首部40側は、水分等の浸入を防止するために、閉口した閉塞部32となっている。閉塞部32の形成方法は、例えば、レーザによる溶接、プレス成型等を挙げることができる。本明細書において、筒状圧着部30と首部40の境界について、電線と端子1とが圧着接続される部分から挿入口31までの部位、すなわち、筒状圧着部30の閉塞部32から挿入口31までの部位を筒状圧着部30とする。端子1の筒状圧着部30は、筒状であれば止水性に対して一定の効果を得られるので、端子1の使用条件等に応じて、長手方向の形状やサイズは、適宜選択可能である。
【0023】
端子1は、溶接により筒状圧着部30が形成されていることから、筒状圧着部30には溶接により形成された溶接部72を含む熱影響部70が形成されている。筒状圧着部30は、金属部材の曲げ加工により、断面がC字形状の圧着部を形成した上で、該圧着部をその向かい合う両端で溶接して、金属部材の筒状圧着部を形成する。このように、筒状圧着部30を形成する溶接は、電線の挿入方向に沿って、筒状圧着部30の挿入口31から閉塞部32まで行われるので、筒状圧着部30において、熱影響部70は挿入口31から閉塞部32まで延在している。溶接領域の寸法は特に限定されないが、例えば、筒状圧着部30の電線の挿入方向に対して直交する断面において、溶接痕の領域が、それ以外の領域の2~5%の面積率を有するように溶接する。
【0024】
熱影響部70は、非熱影響部71である非溶接部の硬さに対して、溶接により軟化して硬さが90%以下に低下した部分を意味する。非熱影響部71は、溶接による熱影響を受けていない部分であり、非熱影響部71の硬さは、溶接前の金属部材の硬さである。
図2に示すように、筒状圧着部30における溶接部72に対向する領域の断面の硬さを測定することで非熱影響部71の硬さを測定することができる筒状圧着部30の熱影響部70の平均硬さは、熱影響部70を筒状に沿って、肉厚の中心の硬さを100μmの等間隔で測定した平均値とした。
【0025】
筒状圧着部30では、筒状圧着部30を構成する金属部材と電線とが圧着接続されることにより、電線と端子を機械的に接続し且つ電気的にも接続する。筒状圧着部30は、かしめ治具を用いてかしめることにより、電線を圧着接続することができる。筒状圧着部30に電線が圧着接続されることで、電線の終端接続構造体が形成される。このような接続構造体を複数束ねることによって、例えば、自動車用ワイヤハーネスとすることができる。
【0026】
首部40は、筒状圧着部30の閉塞部32から閉塞状態を維持したままコネクタ部20の方向へ延在した部位である。首部40は、電線の挿入方向に対して直交方向において対向する金属部材の部位が接した状態となっている。従って、首部40は、電線の挿入方向に対して直交方向における断面積がコネクタ部20及び筒状圧着部30の上記断面積よりも小さい構造となっている。
【0027】
端子1は、溶接により首部40が形成されていることから、首部40には溶接により形成された溶接部74を含む熱影響部73が形成されている。首部40は、金属部材の折り曲げ加工により、金属部材の重ね合わせ部を形成した上で、該重ね合わせ部の重ね合わせ方向から、該重ね合わせ部を電線の挿入方向に対して直交方向に幅方向全体にわたって溶接して、金属部材の首部を形成する。重ね合わせ部の重ね合わせ方向から首部40がその幅方向全体にわたって溶接されることにより、溶接部74を含む熱影響部73は首部40の幅方向全体にわたって延在している。首部40がその幅方向全体にわたって溶接されることで、首部40に封止性が付与される。
【0028】
熱影響部73は、非熱影響部71である非溶接部の硬さに対して、溶接により軟化して硬さが90%以下に低下した部分を意味する。
図3に、端子1を筒状圧着部30の溶接部72と非熱影響部71のうち筒状圧着部30の溶接部72に対向する領域にそって、首部40を縦割りにした断面を示す。首部40における熱影響部73の幅は、縦割り断面の肉厚の中心の硬さを長手方向に測定して、非熱影響部71の硬さに対して、90%以下に軟化している部分の長さとした。また首部40の熱影響部73の平均硬さは、熱影響部73の幅に沿って、肉厚の中心の硬さを100μmの等間隔で測定した平均値とした。
【0029】
首部40における熱影響部73の幅、すなわち、首部40の電線挿入方向における熱影響部73の寸法は、特に限定されないが、首部40の熱影響部73における封止性を確実に得つつ、首部40の機械的強度と耐久性をさらに向上させる点から、熱影響部73の部位における首部40の厚さの1.0倍以上4.0倍以下が好ましく、2.0倍以上3.0倍以下が特に好ましい。
【0030】
次に、本発明の実施形態に係る端子1に用いる金属部材について説明する。端子1に用いる金属部材は板材であり、板材の金属部材を所定形状に曲げ加工し、曲げ加工した金属部材を溶接して首部40と筒状圧着部30を形成することで端子1を製造することができる。端子1に径の太い電線(例えば、アルミニウム電線)を圧着接続するためには、肉厚の厚い端子とすることが必要となる。そこで、端子1に用いる板材の平均厚さは、0.38mm以上0.80mm以下と肉厚化されている。
【0031】
端子1に用いる金属部材の成分としては、クロム(Cr)が0.00mass%以上0.35mass%以下、リン(P)が0.00mass%以上0.15mass%以下、マグネシウム(Mg)が0.05mass%以上0.8mass%以下、残部が銅(Cu)及び不可避不純物からなる銅合金を用いる。上記金属部材が用いられることにより、端子1に60%IACS以上85%IACS以下という優れた導電率が得られるので、端子1の電気抵抗が低減して、径の太い電線に大電流を通電することができる。
【0032】
一方で、導電率に優れた金属部材では、熱伝導率も高いために溶接(例えば、レーザ溶接)時に導入した熱エネルギーが放出されやすくなるため、レーザの高出力化が必要となる。また、金属部材の厚さが肉厚化されている点からもレーザの高出力化が必要となる。レーザを高出力化すると、金属部材の添加元素が蒸発しやすくなるため、溶接部にスパッタ、ボイド、クラックといった表面欠陥と内部欠陥が発生しやすくなる。また、熱伝導率が高い金属部材は、冷却速度も速いことからも、ボイドやクラックなどの表面欠陥と内部欠陥が発生しやすくなる。しかし、金属部材として上記銅合金を用いることにより、その構成元素が溶接時において蒸発しにくい成分であることから、レーザを高出力化しても、溶接時及び溶接後の冷却において、スパッタ、ボイド、クラックといった表面欠陥及び内部欠陥(すなわち、溶接欠陥)の発生を防止できる。
【0033】
金属部材として上記銅合金を用いることにより、板材の平均厚さが0.38mm以上0.80mm以下と厚い板材にして曲げ加工を実施しても、加工残存応力、特に、首部40における加工残存応力の不均一性を抑制して、曲げ加工に起因するクラック発生を防止できる。
【0034】
前記銅合金では、添加元素であるクロム(Cr)とリン(P)は任意成分であり、銅合金に添加されていることが必須ではない。しかし、導電率がさらに向上し、溶接時における表面欠陥と内部欠陥の発生をより確実に防止する点から、少なくともクロム(Cr)またはリン(P)のいずれか一方が含まれていることが好ましい。クロム(Cr)が含まれる場合、クロム(Cr)は0.15mass%以上0.35mass%以下含まれていることが特に好ましく、リン(P)が含まれる場合、リン(P)は0.005mass%以上0.15mass%以下含まれていることが特に好ましい。
【0035】
前記銅合金の表面には、必要に応じて、ニッケル(Ni)及び/またはすず(Sn)がめっきされためっき膜が設けられていてもよい。前記銅合金の表面にめっき膜を形成する場合、めっき膜は、必須成分としてニッケル(Ni)及び/またはスズ(Sn)を含有している。これらのめっき膜には、例えば、スズ(Sn)めっき膜、下地めっきであるニッケル(Ni)めっきとスズ(Sn)めっきからなるめっき膜が挙げられる。端子1を構成する銅合金の表面が、上記めっき膜で被覆されていることにより、端子1に耐食性が付与されて、端子1の耐久性向上に寄与する。なお、めっき膜は、必要に応じて、任意成分として銅(Cu)、銀(Ag)等も含まれた合金のめっき膜でもよく、銅(Cu)めっき、銀(Ag)めっきをさらに設けためっき膜でもよい。めっき膜の厚さは、端子1の使用条件等により適宜調整可能であり、例えば、0.3マイクロメートル(μm)~1.2マイクロメートル(μm)が挙げられる。
【0036】
端子1では、首部40における熱影響部73の平均硬さ(ビッカース硬さ)に対する、非熱影響部71の平均硬さ(ビッカース硬さ)の比が、1.1以上1.8以下となっている。首部40における熱影響部73の平均硬さに対する非熱影響部71の平均硬さの比が、1.1以上1.8以下と、首部40の熱影響部73の硬さと非熱影響部71の硬さの差異が低減されていることにより、溶接に起因する首部40における内部応力の不均一性を抑制できる。首部40における内部応力の不均一性を抑制できることにより、首部40にクラックが発生することを防止でき、また、首部40の耐久性を向上させることができる。首部40の熱影響部73の平均硬さに対する、非熱影響部71の平均硬さの比は、溶接に起因する内部応力の不均一性をより確実に抑制する点から1に近いほど好ましく、例えば、前記比の上限値は1.7が好ましい。非熱影響部71の硬さの測定位置は、首部40でも、筒状圧着部30でも、特に限定されない。
【0037】
首部40の熱影響部73の平均硬さ(ビッカース硬さ)は、例えば、80(Hv)~150(Hv)である。首部40が非熱影響部71を有する場合には、非熱影響部71の平均硬さ(ビッカース硬さ)は、例えば、100(Hv)~200(Hv)である。首部40の熱影響部73の平均硬さに対する非熱影響部71の平均硬さの比は、首部40に対応する上記銅合金の部位を溶接する際に投入するエネルギー量を選択することで、調整することができる。
【0038】
端子1に用いる金属部材について、首部40の熱影響部73における平均結晶粒子径は、特に限定されないが、首部の機械的強度と耐久性をさらに向上させる点から、5μm以上30μm以下が好ましく、9μm以上27μm以下が特に好ましい。平均結晶粒子径は、JISH0501、H0502に準じて交差法により測定することができる。
【0039】
また、筒状圧着部30における、熱影響部70の平均硬さに対する非熱影響部71の平均硬さの比は、特に限定されない。しかし、首部40だけではなく筒状圧着部30における内部応力の不均一性によるクラックの発生も防止して、筒状圧着部30における機械的強度と止水性をさらに向上させる点から、筒状圧着部30における、熱影響部70の平均硬さに対する非熱影響部71の平均硬さの比は、1.1以上1.7以下が好ましい。筒状圧着部30においても、熱影響部70の平均硬さに対する非熱影響部71の平均硬さの比は、溶接に起因する内部応力の不均一性をより確実に抑制する点から1に近いほど好ましく、例えば、前記比の上限値は1.6が特に好ましい。筒状圧着部30における非熱影響部71の硬さの測定位置は、特に限定されない。
【0040】
筒状圧着部30の熱影響部70の平均硬さ(ビッカース硬さ)は、例えば、80(Hv)~150(Hv)であり、非熱影響部71の平均硬さ(ビッカース硬さ)は、例えば、100(Hv)~200(Hv)である。筒状圧着部30においても、熱影響部70の平均硬さに対する非熱影響部71の平均硬さの比は、筒状圧着部30に対応する上記銅合金の部位を溶接する際に投入するエネルギー量を選択することで、調整することができる。
【0041】
次に、端子1の製造方法例について説明する。まず、上記成分を有する板状の銅合金からなる金属部材を、端子1を展開した形状に対応した所定の平面形状に加工する。加工方法としては、例えば、打ち抜き加工が挙げられる。所定の平面形状に加工した金属部材の一端部を曲げ加工することにより、電線挿入方向に対して直交方向の断面がC字形状の圧着部を形成する。その後、該圧着部をその向かい合う両端で溶接して、金属部材の筒状圧着部、すなわち、端子1の筒状圧着部30に対応する部位を形成する。次に、所定の平面形状に加工した金属部材の中間部を電線の挿入方向に沿って左右から折り曲げ加工により、金属部材の重ね合わせ部を形成する。その後、該重ね合わせ部の重ね合わせ方向から、該重ね合わせ部を電線の挿入方向に対して直交方向に、該重ね合わせ部の幅方向全体にわたって溶接して、金属部材の首部、すなわち、端子1の首部40に対応する部位を形成する。その後、所定の平面形状に加工した金属部材の他端部を曲げ加工することにより、コネクタ部20を形成する。
【0042】
電線の芯線としては、例えば、銅合金線、アルミニウム合金線などが挙げられる。アルミニウム合金芯線の具体例としては、鉄(Fe)を約0.2質量%、銅(Cu)を約0.2質量%、マグネシウム(Mg)を約0.1質量%、シリコン(Si)を約0.04質量%、残部がアルミニウム(Al)および不可避不純物からなるアルミニウム芯線を用いることができる。他の合金組成として、Feを約1.05質量%、Mgを約0.15質量%、Siを約0.04質量%、残部がAlおよび不可避不純物のもの、Feを約1.0質量%、Siを約0.04質量%、残部がAlおよび不可避不純物のもの、Feを約0.2質量%、Mgを約0.7質量%、Siを約0.7質量%、残部がAlおよび不可避不純物のものなどを用いることができる。これらは、さらにTi、Zr、Sn、Mn等の合金元素を含んでいてもよい。このような組成の金属素線を用いて、合計断面積2~13mm2、素線本数7~171本の撚り線の形態とした、径の大きい芯線を用いることができる。芯線の絶縁被覆として使用する被覆材としては、例えばPE、PPなどのポリエレフィンを主成分としたもの、PVCを主成分としたもの等を用いることができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1~5、比較例1~3
端子の製造方法
下記表1に示す銅合金からなる金属部材を用いて、上記した構成を有する実施形態の端子を製造した。具体的には、下記表1に示す成分と板厚を有する板状の銅合金を、端子を展開した形状に対応した平面形状にプレス打抜きにより加工した。所定の平面形状に加工した板状の銅合金の一端部を曲げ加工することにより、電線挿入方向に対して直交方向の断面がC字形状の圧着部を形成した。次に、所定の平面形状に加工した板状の銅合金の中間部を電線の挿入方向に沿って左右から折り曲げ加工により、銅合金の重ね合わせ部を形成した。次に、所定の平面形状に加工した金属部材の他端部を曲げ加工することにより、コネクタ部を形成した。その後、圧着部を対向する両端に、所定のエネルギー量のレーザを照射してレーザ溶接し、端子の筒状圧着部を形成し、上記重ね合わせ部の重ね合わせ方向から、該重ね合わせ部を電線の挿入方向に対して直交方向に、該重ね合わせ部の幅方向全体にわたって所定のエネルギー量のレーザを照射してレーザ溶接し、端子の首部を形成した。電線挿入方向に対して直交方向における筒状圧着部の直径は0.5mm2であった。その後、アルミニウム電線を筒状圧着部に挿入し、アルミニウム電線の断面積が0.2mm2となるように圧着した。
【0045】
レーザ溶接の実験条件は、下記の通りである。
・使用レーザ光源:半導体レーザ
・ガルバノスキャナ(非テレセントリック)を用いた掃引照射
・レーザ光出力:800~1000W
・掃引速度:50~500mm/sec.
・全条件ジャストフォーカスでレーザ光照射(スポットサイズ:30μm)
【0046】
(1)引張強度の測定方法
NCフライスにて13B号のサンプルを作製し、株式会社島津製作所製「AG-100KND」を用いて測定した。
【0047】
(2)導電率の測定方法
幅10mm、長さ200mmの短冊状サンプルを作製し、四端子法にて測定した。
【0048】
(3)筒状圧着部における熱影響部の平均硬さに対する、非熱影響部の平均硬さの比(非熱影響部の硬さ/筒部熱影響部の硬さ)
熱影響部の硬さと非熱影響部の硬さは、JIS Z 2244に準拠した、ビッカース試験法にて測定した。
熱影響部は、非熱影響部である非溶接部の硬さに対して、溶接により軟化し硬さが90%以下に低下した部分を意味する。
筒状圧着部の熱影響部の平均硬さは、筒状圧着部の熱影響部のうち板厚の中心部分を100μmの等間隔で測定した平均値とした。
また、非熱影響部の平均硬さは、首部溶接部から5mm以上離れた筒状圧着部のうち、筒状圧着部の溶接部に対向する領域の板厚の中心部分を100μmの等間隔で測定した平均値とした。
【0049】
(4)首部の厚さに対する首部の電線挿入方向の熱影響部の寸法(首部の電線挿入方向の熱影響部の幅/首部の厚さ)
首部の厚さは、首部の断面を光学顕微鏡で観察し3カ所の厚さを測定し、その平均値とした。
首部における熱影響部の幅は、
図3に示すように、首部の縦割り断面の肉厚の中心の硬さを長手方向に測定し、非熱影響部の硬さに対して90%以下に軟化している部分の長さとした。
【0050】
(5)首部における熱影響部の平均硬さに対する、非熱影響部の平均硬さの比(非熱影響部の硬さ/首部熱影響部の硬さ)
首部の熱影響部の平均硬さは、熱影響部の幅に沿って、その肉厚の中心の硬さを100μm の等間隔で測定した平均値とした。
また、非熱影響部の平均硬さは、首部の溶接部から5mm以上離れた筒状圧着部のうち、筒状圧着部の溶接部に対向する領域の板厚の中心部分を100μmの等間隔で測定した平均値とした。
【0051】
(6)首部の熱影響部の平均結晶粒子径
JIS H0501、H0502に準じて交差法により平均結晶粒子径の測定を行った。具体的には、撮影された写真に電線挿入方向に平行な直線を引き、その直線と交わる粒界の数を測定した。
【0052】
(7)耐久性(疲労破壊するまでの屈曲回数)
図4に示すように、端子の筒状圧着部を固定用部材に狭持して固定し、首部の熱影響部の電線挿入方向における伸び率が0.05%となるように、端子のコネクタ部を電線挿入方向に対して直交方向に1000万回往復振動させて、首部のクラック発生等の破壊の有無を目視にて評価した。
○:クラック等の破壊の発生なし
×:クラック等の破壊の発生あり
【0053】
(8)止水性
端子の筒状圧着部に、筒状圧着部の挿入口から端部が11mm延出するように被覆材で被覆された電線を圧着接続した。その後、水を入れた容器を用意し、電線を圧着接続した端子を該容器に入れ、挿入口の部分まで完全に水に浸漬させた。次に、水に浸漬していない電線の端部から空気圧を徐々に上げて50kPaの空気圧を30秒間あてて空気のリークがないことを目視にて確認した。その後、電線を圧着接続した端子を上記容器から取り出し、120℃で120時間経過した後に、上記と同様にしてリーク試験を行った。120℃で120時間経過した後のリーク試験にてリークが認められなかった場合を○、リークが認められた場合を×と評価した。
【0054】
評価結果を下記表1に示す。
【0055】
【0056】
表1から、Mgが0.05mass%以上0.8mass%以下含まれ、導電率が60%IACS以上85%IACS以下、板厚が0.38mm以上0.80mm以下である銅合金にNi及び/またはSnがめっきされた金属部材を用い、非熱影響部の硬さ/首部熱影響部の硬さが1.1~1.8である実施例1~5では、首部における耐久性と機械的特性に優れ、止水性に優れた端子を得ることができた。また、実施例1~5では、非熱影響部の硬さ/筒部圧着部の熱影響部の硬さが1.1~1.7であり、筒部圧着部においてもクラック等の発生が防止されて、機械的強度と止水性に優れた端子を得ることができた。また、実施例1~5では、首部の電線挿入方向の熱影響部の幅が首部の熱影響部における厚さの1倍以上4倍以下であり、首部の熱影響部における封止性を得つつ、首部の機械的強度と耐久性を確実に向上させることに寄与できた。また、実施例1~5では、首部の熱影響部における平均結晶粒子径が5μm以上30μm以下であり、首部の機械的強度と耐久性をさらに向上させることに寄与できた。
【0057】
一方で、銅合金にMgが含まれず、非熱影響部の硬さ/首部熱影響部の硬さが2.1~2.9である比較例1、2では、首部における耐久性と、端子の止水性が得られなかった。また、銅合金にMgが0.1mass%含まれる金属材料を用いた比較例3では、非熱影響部の硬さ/首部熱影響部の硬さが2.7であり、やはり、首部における耐久性と、端子の止水性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の端子は、径の大きい電線を圧着接続するために、体積抵抗率の小さく肉厚の厚い金属部材を用いても、首部におけるクラックの発生を防止して、首部の機械的強度、耐久性及び止水性に優れた端子を得ることができるので、例えば、径の大きい電線が使用される自動車のワイヤハーネスの分野、すなわち、自動車用端子の分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0059】
1 端子
20 コネクタ部
30 筒状圧着部
40 首部
70 筒部圧着部の熱影響部
71 非熱影響部
72 筒部圧着部の溶接部
73 首部の熱影響部
74 首部の溶接部