(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
C08L 59/00 20060101AFI20230614BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20230614BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230614BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230614BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K5/13
C08L83/04
C08K3/26
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2019115383
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】服部 和幸
(72)【発明者】
【氏名】門間 智宏
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/151946(WO,A1)
【文献】特開2013-124364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 59/00
C08K 5/13
C08L 83/04
C08K 3/26
C08K 5/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、
(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.01質量部以上1質量部以下と、
(C)シリコーンオイル0.3質量部以上5質量部以下と、
(D)炭酸カルシウム0.1質量部以上1.0質量部以下と
(E)脂肪酸0.02質量部以上0.2質量部以下、とを含有し、
前記(D)炭酸カルシウムは、平均粒子径が1μm以下であってかつ表面処理がなされていない軽質炭酸カルシウムであり、
前記(E)脂肪酸は炭素数12以上30以下の脂肪酸である、
ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂とも称され、POM樹脂と略される。)は、バランスのとれた機械的性質を有し、耐摩擦・摩耗特性、耐薬品性、耐熱性、電気特性等に優れるため、自動車、電気・電子製品等の分野で広く利用されている。
【0003】
しかし、かかる分野における要求特性は次第に高度化しつつあり、その一例として、ポリアセタール樹脂が有する優れた表面平滑性を維持しながら、摩擦係数、磨耗量で代表される基本的な摺動特性を改良することが強く要求されている。
【0004】
このような要求に応えるため、ポリアセタール樹脂にフッ素樹脂やポリオレフィン樹脂を添加する方法が知られている。しかし、フッ素樹脂やポリオレフィン樹脂は、ポリアセタール樹脂との相溶性に乏しい。このため、これらの樹脂は、ポリアセタール樹脂から分離して成形品表面に剥離を生じさせたり、成形品の成形時に金型に析出物を発生させたりする場合がある。
【0005】
また、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーンオイル、各種鉱油等の潤滑油を、ポリアセタール樹脂に添加する方法が知られている。しかし、成形品の成形時に、ポリアセタール樹脂と潤滑油等とが分離して、潤滑油等の滲み出しが生じやすく、その滲み出した潤滑油等により押出加工性や成形加工性を損ねる場合がある。また、成形品表面に潤滑油が滲み出すと、成形品の外観を損ねる場合もある。
【0006】
これらの課題を解決するため、ポリアセタール樹脂にポリエチレンワックスと、ポリエチレン樹脂と、特定の動粘度のシリコーンオイルとを添加配合してなるポリアセタール樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のポリアセタール樹脂組成物であっても、潤滑油の染み出しや成形片表面の剥離等の成形品の外観悪化や成形時の金型付着物に関してさらなる改良の余地がある。
【0009】
本発明は、成形品の外観や成形時の金型汚染の少なさを保持しつつ摩擦・摩耗特性に優れた性能を有するポリアセタール樹脂組成物および摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、ポリアセタール樹脂を基体とし、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、シリコーンオイル、特定粒子径の表面処理されていない軽質炭酸カルシウムと特定の脂肪酸を特定量添加配合することを必須とすることで、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
1. 少なくとも、(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、
(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.01質量部以上1質量部以下と、
(C)シリコーンオイル0.3質量部以上5質量部以下と、
(D)炭酸カルシウム0.1質量部以上1.0質量部以下と
(E)脂肪酸0.02質量部以上0.2質量部以下、とを含有し、
前記(D)炭酸カルシウムは、平均粒子径が1μm以下であってかつ表面処理がなされていない軽質炭酸カルシウムであり、
前記(E)脂肪酸は炭素数12以上30以下の脂肪酸である、
ポリアセタール樹脂組成物。
2.前記1に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む摺動部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、摩擦・摩耗特性に優れさらに成形品の外観や成形時の金型汚染においても良好な性能を有するポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本発明に係るポリアセタール樹脂組成物は、少なくとも(A)ポリアセタール樹脂と、(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、(C)シリコーンオイルと、(D)軽質炭酸カルシウムと、(E)脂肪酸とを含有することを特徴とする。
【0015】
≪(A)ポリアセタール樹脂≫
(A)ポリアセタール樹脂として、ポリアセタールホモポリマー及び主鎖の大部分がオキシメチレン連鎖よりなるポリアセタールコポリマーのいずれも使用できる。また、ポリアセタールを公知の方法で架橋又はグラフト共重合して変性させたものも基体樹脂として使用でき、また重合度等も成形可能な限り特に制限はない。
【0016】
≪(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤≫
本発明で使用可能な(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、特に限定されるものでなく、例えば、単環式ヒンダードフェノール化合物(例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等)、炭化水素基又はイオウ原子を含む基で連結された多環式ヒンダードフェノール化合物(例えば、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等)、エステル基又はアミド基を有するヒンダードフェノール化合物(例えば、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-2-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、ジ-n-オクタデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ジヒドロシンナムアミド)、N,N’-エチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’-テトラメチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’-エチレンビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N’-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート等が例示される。
【0017】
本発明においては、これらの酸化防止剤から選ばれた少なくとも一種又は二種以上を使用することができる。
【0018】
本発明における(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上1質量部以下であり、好ましくは0.02質量部以上0.5質量部以下である。
【0019】
(B)酸化防止剤の配合量が少ないと、酸化防止特性が十分でなく、成形加工時等の高温での短期的な酸化劣化や常温での長期的な使用下での酸化劣化に対する(A)ポリアセタール樹脂の安定性が不十分なものとなりやすいため、好ましくない。そして、(A)ポリアセタール樹脂成分の安定性が不十分で劣化を生じると、摺動特性にも好ましくない影響を与えることになる。一方、(B)酸化防止剤の配合量が過剰の場合、得られる樹脂組成物の機械的物性を損ねる要因にもなる場合がある。
【0020】
≪(C)シリコーンオイル≫
(C)シリコーンオイルの種類は特に限定されるものでないが、一例として、下記式(1)の構造で示されるポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等が知られている。
【化1】
【0021】
式(1)において、Rは、基本的にメチル基であるが、その一部がアルキル基、フェニル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化フェニル基等であってもよい。
【0022】
本発明においては、二種以上の構造又は粘度の異なるシリコーンオイルを混合して用いることも可能であり、シリコーンオイルに増粘材、溶剤等を加えて粘度等を調整して用いることも可能である。
【0023】
本発明において、かかる(C)シリコーンオイルの配合量は(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し0.3質量部以上5質量部以下である。(C)シリコーンオイルの配合量が少ないと、本発明の目的とする摩擦・摩耗特性の改良効果が不十分なものになり得るため、好ましくない。一方、(C)シリコーンオイルの配合量が過剰の場合、成形時に金型汚染を生じ得ること、摺動部材において、成形品表面に剥離が生じ得ることおよび摺動時の自材の摩耗量が増加することから、好ましくない
【0024】
≪(D)軽質炭酸カルシウム≫
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、(D)軽質炭酸カルシウムを含有する。表面硬度及び切削加工性を改善するため、ポリアセタール樹脂に対して無機粉末を配合することが知られている。無機粉末として、炭酸カルシウムのほか、炭酸マグネシウム、タルク、シリカ、クレー、カオリン、けい藻土、パーライト、ベントナイト、長石、カーボン、ホワイトカーボン等知られているが、摺動部材として相手材との摺動性、硬度を考慮し、本発明では、無機粉末として軽質炭酸カルシウムを採用している。
【0025】
(D)軽質炭酸カルシウムは、化学合成にて製造されるものであれば、粒子形状等特に限定されるものではない。一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併せて使用してもよい。
【0026】
(D)軽質炭酸カルシウムの平均粒子径は、1μm以下であり、500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。平均粒子径が大きすぎると、成形品表面が凹凸を有するものとなり、表面粗さの増大に起因して摺動する相手材を損傷し得るため、好ましくない。
【0027】
なお、本明細書において、粒子径とは、日立ハイテク社製走査型電子顕微鏡S3000Hを用いて30,000倍で拡大観察し、対象粒子の長径と短径を測定したときの長径と短径との算術平均値をいうものとする。また、本明細書において、平均粒子径とは、100サンプルの粒子径の算術平均値をいうものとする。
【0028】
平均粒子径の下限は特に限定されるものでないが、ポリアセタール樹脂組成物が二次凝集することを防ぐため、(D)軽質炭酸カルシウムの平均粒子径は、50nm以上であることが好ましい。
【0029】
本発明において、(D)軽質炭酸カルシウムの配合量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し0.1質量部以上1.0質量部以下である。(D)平均粒子径が1μm以下である軽質炭酸カルシウムの配合量が少ないと、本発明の目的とする摩擦・摩耗特性の改良効果が不十分なものになり得るため、好ましくない。一方、(D)平均粒子径が1μm以下である軽質炭酸カルシウムの配合量が過剰の場合、自材の摩耗量が増加してしまうため、好ましくない。また、成形品表面が凹凸を有するものとなり、表面粗さの増大に起因して摺動する相手材を損傷し得る点でも、好ましくない。
【0030】
本発明で使用できる(D)軽質炭酸カルシウムは、粒子への機能性付与のためにシランカップリング剤等の各種カップリング剤や脂肪酸などを粒子表面と反応させ粒子表面の改質を行う「表面処理」が実施されていないものである。
【0031】
(D)軽質炭酸カルシウムが表面処理されたものである場合、表面処理後に嵩比重の増加がみられることから表面処理により粒子がより凝集すると想定される。そのため、樹脂と溶融混錬を実施した場合、表面処理を行わない場合に比べて樹脂中での軽質炭酸カルシウム粒子の分散が悪化することによる、摩擦摩耗特性の悪化および外観の悪化が起こることから、好ましくない。
【0032】
≪(E)脂肪酸≫
本発明で使用する(E)脂肪酸は、脂肪族炭化水素基の一方の端にカルボキシル基が結合した構造のもので、炭素原子数の合計が12~30の高級脂肪酸である。脂肪酸を構成する脂肪族炭化水素基は、直鎖でも分岐していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0033】
これらの脂肪酸は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。(E)脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ナノデカン酸、アラン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸等が挙げられる。
【0034】
(E)脂肪酸の脂肪族炭化水素基はヒドロキシル基等の官能基で置換されたものでもよい。
【0035】
本発明の(E)脂肪酸の配合量は(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.02質量部以上0.2質量部以下である。(E)脂肪酸の配合量が少ないと摺動部材の成形品表面に剥離が発生するため好ましくない。一方、(E)脂肪酸の配合量が過剰の場合、成形時の金型汚染を生じ得ることおよび、摺動部材において、成形品表面に剥離が生じ得るため、好ましくない。
【0036】
≪その他の成分≫
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、必要に応じて他の成分を含有するものであってもよい。例えば、安定剤として、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種又は2種以上を挙げることができる。
【0037】
また、本発明の目的・効果を阻害しない限り、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば染料、顔料等の着色剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、或いは、有機高分子材料、無機または有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種又は2種以上添加することができる。
【0038】
<ポリアセタール樹脂組成物の製造法>
本発明のポリアセタール樹脂組成物の製造には、溶融混練処理装置が使用される。溶融混練処理装置については特に限定されないが、ポリアセタール樹脂とその他成分を溶融混練する機能を有し、好ましくはベント機能を有するものであり、例えば、少なくとも1つのベント孔を有する単軸又は多軸の連続押出し混練機、コニーダー等が挙げられる。
【0039】
樹脂組成物製造法としては、従来の樹脂組成物製造法として一般に用いられる公知の方法が使用される。例えば、(1)組成物を構成する全成分を混合し、これを押出機に供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(2)組成物を構成する成分の一部を押出機の主フィード口から、残余成分をサイドフィード口から供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(3)押出し等により一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを混合して所定の組成に調整する方法等を採用できる。
【0040】
本発明においては(1)の方法であることが好ましい。例えばバッチ式ブレンダーにて組成物の構成成分を混合し、その後押出機に混合後の原料を供給し、溶融混錬することが好ましい。
【0041】
溶融混練処理は、ポリアセタール樹脂の融点以上260℃までの温度範囲が好ましい。260℃より高いと重合体の分解劣化が生じ好ましくない。
【0042】
<摺動部材>
本発明に係る摺動部材は、上記のポリアセタール樹脂組成物を含む樹脂成形体を含んで構成される。この摺動部材は、摩擦・摩耗特性だけでなく成形片の表面性においても良好な性能を有するため、AV、OA分野、測定器分野、搬送部品等の摺動部品に好適に用いられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実施例及び比較例>
【0045】
<ポリアセタール樹脂組成物の調製>
表1、2に記載の成分を表1、2に記載の割合で配合し、二軸押出機にて210℃で溶融混練することで、実施例及び比較例に係るポリアセタール樹脂組成物のペレットを得た。
なお、表1,2に記載の、本発明の実施例、比較例で使用した各種成分は、以下のとおりである。
【0046】
(A)ポリアセタール樹脂
(A-1)トリオキサン96.7質量%と1,3-ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタール共重合体(メルトインデックス(190℃,荷重2160gで測定):9g/10min)
(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
(B-1)Irganox245(BASF社製)
トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
(C)シリコーンオイル
(C-1)SH200-60000CS(東レ・ダウコーニング(株)製)
25℃での動粘度が60,000cSt(600cm2/s)
(D)炭酸カルシウム
(D-1)Brilliant-1500(白石工業(株)製),
平均粒子径が150nmで表面処理がなされていない軽質炭酸カルシウム
(D-2)ホワイトンP-30(東洋ファインケミカル(株)製)
平均粒子径が4.4μmである重質炭酸カルシウム
(D-3)Vigot-15(白石工業(株)製)
平均粒子径150nmで脂肪酸により表面処理されている軽質炭酸カルシウム
(E)脂肪酸
(E-1)ステアリン酸(炭素数:18)
(E-2)オレイン酸(炭素数:18)
(E-3)ラウリン酸(炭素数:12)
(E-4)カプリル酸(炭素数:8)
【0047】
【0048】
【0049】
<評価>
実施例及び比較例に係るペレット状のポリアセタール樹脂組成物を評価するため、摩擦摩耗特性、成形品外観および成形時の金型付着物量を評価した。結果を表3、4に示す。
【0050】
≪摩擦摩耗特性≫
実施例および比較例にかかるポリアセタール樹脂組成物のペレットを用い、下記条件で円筒形状試験片(外径:25.6mm、内径:20mm、高さ:15mm)を成形した。
その試験片を使って下記の条件にて摩擦摩耗特性評価を行い、試験終了時の動摩擦係数および比摩耗量を測定した。試験は、23℃50RH%の雰囲気下で行った。
[評価方法]
試験方法 鈴木式摩擦摩耗試験
試験装置 EFM-3-EN((株)オリエンテック製)
試験条件 相手材:ポリアセタール樹脂製の上記円筒形状試験片
(製品名:ジュラコン(登録商標)M90-44,ポリプラスチックス社製)
面圧:0.06MPa
速度:15cm/s
試験時間:24時間
[試験片成形条件A]
成形機:FANUC ROBOSHOT α-S50iA(ファナック(株)製)
成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル-C1 -C2 -C3
200-200-180-170℃
射出圧力 60(MPa)
射出速度 0.4(m/min)
金型温度 80(℃)
【0051】
≪成形品外観≫
実施例および比較例にかかるポリアセタール樹脂組成物ペレットを用い、上記試験片成形条件Aで試験片(80mm×80mm×1mmt;サイドゲート2mm×1mm)を同様に成形した。
[評価方法]
得られた10枚の成形片について、成形片表面を目視にて観察を行った。成形片表面に荒れまたは剥離が観察された枚数で以下に示す基準にて外観の判定を行った。
0:全ての成形片にて表面に荒れまたは剥離は確認されなかった。
1:二枚以下の成形片で表面に荒れまたは剥離が確認された。
2:三枚以上の成形片で表面に荒れまたは剥離が確認された。
【0052】
≪成形時の金型汚染≫
実施例および比較例にかかるポリアセタール樹脂組成物ペレットを用い、下記条件Bでモールドデポジット試験片(33mm×23mm×1mmt)を成形した。
[評価方法]
5000shot連続成形した後、金型内のキャビティ部表面を目視にて観察し、以下の基準に従って付着物量を目視で判定した。
0:付着物は全く確認されない
1:付着物がわずかに確認される
2:全体に付着物が確認される。
[試験片成形条件B]
*成形機:FANUC ROBOSHOT S-2000i 50B(ファナック(株))
*成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル-C1- C2- C3
205 215 205 185℃
射出圧力 40(MPa)
射出速度 1.5(m/min)
金型温度 80(℃)
【0053】
以下に評価結果を示す。
【0054】
【0055】
【0056】
上記の通り、本発明の樹脂組成物は、摩擦・摩耗特性だけでなく、成形品の外観や成形時の金型汚染においても良好な性能を有することは明らかである。