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特許7295728レーザー光走査装置及びレーザー光走査方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】レーザー光走査装置及びレーザー光走査方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/29 20060101AFI20230614BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20230614BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20230614BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20230614BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20230614BHJP
【FI】
G02F1/29
G02B26/10 Z
G02B5/18
B23K26/064 Z
B23K26/082
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019128924
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2021015170
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】川村 宗範
(72)【発明者】
【氏名】赤毛 勇一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 尊
(72)【発明者】
【氏名】岡 宗一
(72)【発明者】
【氏名】八木 生剛
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069310(JP,A)
【文献】特開2009-300833(JP,A)
【文献】特開2009-186647(JP,A)
【文献】国際公開第00/053365(WO,A1)
【文献】特開2008-110384(JP,A)
【文献】特表2018-520007(JP,A)
【文献】特開平08-276288(JP,A)
【文献】特開平11-052284(JP,A)
【文献】特開平08-179108(JP,A)
【文献】特開2015-205327(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0529303(KR,B1)
【文献】米国特許第05305125(US,A)
【文献】米国特許第05684617(US,A)
【文献】特開2016-107293(JP,A)
【文献】特開平04-305786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から放射されたレーザー光から平行光を生成する光学系と、
前記光学系からの平行光に対して1次元の偏向を行う光偏向器と、
前記光偏向器からの偏向光を回折する回折光学素子とを備え、
前記回折光学素子は、前記回折光学素子に対向する所定の平面上に回折光が結像され、前記偏向光の入射位置に応じて、前記回折光が結像される前記所定の平面上の位置が異なるように構成され、加工対象物における前記所定の平面上に、複数の直線の回折像を一定の間隔で結像するように構成され、前記加工対象物の所定の長方形の範囲が所定の温度分布となるように、前記複数の直線の回折像の間で、前記複数の直線の回折像からの熱拡散により、前記加工対象物の温度を上昇させる
レーザー光走査装置。
【請求項2】
前記回折光学素子は、複数の区分に分割されており、前記複数の区分のそれぞれに照射された光が、それぞれ異なる位置に結像されるように加工されている
請求項1に記載のレーザー光走査装置。
【請求項3】
前記光偏向器は、電気光学効果を利用する光偏向器である
請求項1または2に記載のレーザー光走査装置。
【請求項4】
前記電気光学効果を利用する光偏向器は、KTN単結晶を用いた光偏向器である
請求項3に記載のレーザー光走査装置。
【請求項5】
前記回折光学素子は、脱着可能に構成されている
請求項1~4のいずれか1項に記載のレーザー光走査装置。
【請求項6】
前記回折光学素子は、結像される回折光のエネルギー密度が、前記回折光学素子に入射するレーザー光のエネルギー密度と等しくなるように構成されている
請求項1~5のいずれか1項に記載のレーザー光走査装置。
【請求項7】
光偏向器と回折光学素子とを備えたレーザー光走査装置におけるレーザー光走査方法であって、
光源から放射されたレーザー光から平行光を生成するステップと、
前記平行光に対して1次元の偏向を行うステップと、
前記偏向された偏向光を回折するステップとを含み、
前記回折するステップでは、前記回折光学素子に対向する所定の平面上に回折光が結像され、前記回折光学素子における前記偏向光の入射位置に応じて、前記回折光が結像される前記所定の平面上の位置が異なるように前記偏向光が回折され、加工対象物における前記所定の平面上に、複数の直線の回折像を一定の間隔で結像するように構成され、前記加工対象物の所定の長方形の範囲が所定の温度分布となるように、前記複数の直線の回折像の間で、前記複数の直線の回折像からの熱拡散により、前記加工対象物の温度を上昇させる
レーザー光走査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、金属等の加工や塗料の除去等を行うためにレーザー光を走査するレーザー光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー加工装置は、金属や樹脂などの切断、溶接、印字など幅広く用いられており、最近では屋外で金属の錆を取り除く、いわゆる除錆や、金属に塗装された塗料を取り除くなど、構造物の保守用途へと利用範囲が拡大している。例えば、除錆作業にレーザー加工装置を用いれば、騒音の抑制、金属の細かな凹凸部の除錆や飛散物の回収が容易になるなどの利点がある(特許文献1、非特許文献1、2参照)。
【0003】
除錆用途のレーザー加工装置はレーザー光源と加工用のヘッドから構成されており、ヘッド内のプリズムなどの光学部品を高速で回転させる機構により、除錆対象物上でレーザー光を、円形を例として2次元走査するなど、除錆に最適な条件を実現するためのエネルギー密度や走査範囲、走査速度などが最適化されているほか、単位時間あたりの除錆作業が完了する面積を大きくするための工夫がなされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5574354号公報
【文献】特開2018-21930号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「レーザークリーニング工法 可搬型レーザーによる塗膜及びサビの除去工法」、静岡県交通基板部技術管理課、新技術・新工法情報データベース、登録番号1624,[平成30年8月23日検索]、インターネット<URL:http://www2.pref.shizuoka.jp/all/new_technique.nsf/7BFBD8898312FB56492581930029788E/$FILE/1624gaiyou.pdf>
【文献】Koichiro Nakamura, Jun Miyazu, Yuzo Sasaki, Tadayuki Imai, Masahiro Sasaura, and Kazuo Fujiura, "Space-charge-controlled electro-optic effect: Optical beam deflection by electro-optic effect and space-charge-controlled electrical conduction", Journal of Applied Physics 104, 013105 _2008_
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、除錆作業に限らずレーザー光を2次元走査して金属等を加工するレーザー加工装置においても、同様に光学部品を回転させたり、あるいはミラー数枚を高速に動作させて2次元走査を行っており、この2次元走査を行うためには、特許文献2に示すように、少なくとも2つの機械駆動機構が必要となるのが一般的である。ビーム走査を行う次元が複数必要な場合、ビーム走査を行う装置の機械駆動機構を構成する構成部品が多くなるという問題がある。
【0007】
本願発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ビーム走査を行うための構成部品が少なく、レーザー光による加工作業等における作業効率を上げることが可能なレーザー光走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明のレーザー光走査装置は、光源から放射されたレーザー光から平行光を生成する光学系と、前記光学系からの平行光に対して1次元の偏向を行う光偏向器と、前記光偏向器からの偏向光を回折する回折光学素子とを備え、前記回折光学素子は、前記回折光学素子に対向する所定の平面上に回折光が結像され、前記偏向光の入射位置に応じて、前記回折光が結像される、前記所定の平面上の位置が異なるように構成され、加工対象物における前記所定の平面上に、複数の直線の回折像を一定の間隔で結像するように構成され、前記加工対象物の所定の長方形の範囲が所定の温度分布となるように、前記複数の直線の回折像の間で、前記複数の直線の回折像からの熱拡散により、前記加工対象物の温度を上昇させる。
【0009】
上記課題を解決するために、本願発明のレーザー光走査方法は、光偏向器と回折光学素子とを備えたレーザー光走査装置におけるレーザー光走査方法であって、光源から放射されたレーザー光から平行光を生成するステップと、前記平行光に対して1次元の偏向を行うステップと、前記偏向された偏向光を回折するステップとを含み、前記回折するステップでは、前記回折光学素子に対向する所定の平面上に回折光が結像され、前記回折光学素子における前記偏向光の入射位置に応じて、前記回折光が結像される前記所定の平面上の位置が異なるように前記偏向光が回折され、加工対象物における前記所定の平面上に、複数の直線の回折像を一定の間隔で結像するように構成され、前記加工対象物の所定の長方形の範囲が所定の温度分布となるように、前記複数の直線の回折像の間で、前記複数の直線の回折像からの熱拡散により、前記加工対象物の温度を上昇させる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、ビーム走査を行うための構成部品が少なく、レーザー光による加工作業等における作業効率を上げることが可能なレーザー光走査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、本願発明のレーザー光走査装置(透過型)の構成例を示す図である。
図1B図1Bは、本願発明のレーザー光走査装置(反射型)の構成例を示す図である。
図2図2は、入射光の光強度分布及びプロファイルの一例を示す図である。
図3A図3Aは、本願発明の実施形態に係る透過型の回折光学素子を説明するための図である。
図3B図3Bは、本願発明の実施形態に係る反射型の回折光学素子を説明するための図である。
図4A図4Aは、本願発明の第1の実施の形態に係るレーザー光走査装置の構成例を示す図である。
図4B図4Bは、本願発明の第1の実施の形態に係る光偏向器の動作例を示す図である。
図5A図5Aは、本願発明の第2の実施の形態に係るレーザー光走査装置の構成例を示す図である。
図5B図5Bは、本願発明の第2の実施の形態に係る光偏向器の動作例を示す図である。
図6A図6Aは、本願発明の第3の実施の形態に係るレーザー光走査装置の構成例を示す図である。
図6B図6Bは、本願発明の第3の実施の形態に係る光偏向器の動作例を示す図である。
図6C図6Cは、本願発明の第3の実施の形態に係るビーム形成の一例を示す図である。
図6D図6Dは、本願発明の第3の実施の形態に係るビーム形成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明の実施の形態について図面を用いて説明する。本願発明は、多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に説明する本願発明の実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
<レーザー光走査装置の構成>
図1A図1Bを用いて、本願発明の実施の形態に係るレーザー光走査装置の構成を説明する。レーザー光走査装置10は、光源30から出射され、光ファイバ31により伝搬されたレーザー光を処理対象の表面に照射するためのヘッド部20とを備え、ヘッド部20は、平行光生成光学系21、光偏向器23および透過型回折光学素子25(図1A)、あるいは反射型回折光学素子26(図1B)とを備える。
【0014】
光源30から放射されたレーザー光は、光ファイバ31により伝搬され、ヘッド部20に入射し、平行光生成光学系21により平行光22とされる。平行光22は、光偏向器23により偏向され、偏向光24は、透過型回折光学素子25または反射型回折光学素子26により回折され、回折光27が処理対象の表面に結像される。
【0015】
光偏向器23により偏向された平行光22は、透過型回折光学素子25を通過し、または反射型回折素子26で反射され、所望の光強度分布つまり回折像40に成形される。透過型回折光学素子25、または反射型回折光学素子26によって回折光27の結像位置を変化させることにより所望の走査を行い、回折像40により処理対象物の表面に所定の加工等を施すことができる。
【0016】
<回折光学素子>
回折光学素子とは、回折光学素子に入射したレーザー光を、所定の形状の光強度分布に成形することができる光学素子である。図2のような光の強度分布、プロファイルを有するレーザー光を回折することで、四角形等の所定の形状の光強度分布をもつ回折像40を成形することができる。回折光学素子としては、図3Aのように、入射した偏向光24が透過して結像する透過型回折光学素子25と、図3Bのように、入射した偏向光24が反射して結像する反射型回折光学素子26がある。本願発明の実施の形態では、これらの透過型、反射型回折光学素子のいずれも用いることができる。これらの回折光学素子25、26は、ヘッド部20への脱着が可能であり、レーザー光走査装置の用途に応じて回折光学素子を交換することで所望の光強度分布をもつ回折像40を得ることができる。
【0017】
<第1の実施の形態>
円や輪の形状の光強度分布を持つ光を加工対象物に照射する場合において、従来のビーム走査方法を用いる場合、2次元の偏向動作を行うために2つの機械駆動を用いた光偏向器が必要であった。これに対して、本実施の形態では、図4Aに示すように、1つの機械駆動を用いた1次元の偏向動作を行う光偏向器23と所定の加工が施された回折光学素子25とを組み合わせて、従来の2次元のビーム走査と同等のビーム走査を実現する。光偏向器23としてはビームの1次元の偏向動作ができるものであれば、どのような機械駆動機構を使用しても構わない。
【0018】
図4Aの回折光学素子25は、光偏向器23のビーム走査方向に沿って、複数の区間に分割されており、それぞれの区間における回折像40の結像位置が異なるように、区間毎に異なる微細構造が施されている。図4Aでは、前記回折光学素子に対向する所定の平面上、例えば、光偏向器23から回折光学素子25に向かう軸に垂直な平面上に、回折光が結像されるように構成されている。
【0019】
この回折光が結像される平面は、上記の例に限られず、所望のビーム走査の形状等に応じて、回折光学素子に所定の加工を施すことにより、前記回折光学素子に対向する所定の平面上に回折光を結像することができる。本実施の形態によれば、1次元の偏向動作を行う光偏向器と所定の加工が施された回折光学素子とを組み合わせて、回折光学素子に対向する所定の平面上の所望の位置に回折光を結像する2次元ビーム走査が可能となる。
【0020】
回折光学素子25は、複数の区間のそれぞれにおける回折像40の結像位置が異なるように、区間毎に異なる微細構造が施されているので、偏向された偏向光24の回折光学素子25における入射位置を時間的に変化させることで、光偏向器23の1次元のビームの偏向動作により、所望の位置に回折像を結像させて所望の形状のビーム走査を行うことができる。
【0021】
図4Bは、光偏向器23の偏向動作の一例であり、偏向されたビームの回折光学素子25における入射位置(A~D)の時間的な変化を示したものである。図4Bでは、時刻0において、偏向されたビームは、区間Aに照射される。時間の経過と共に図4Aの右方向にビームが走査されて各区間を通過する際に円弧を描きながら回折像40の結像位置が変化し、位相がπ/2になったときには偏向光24は区間Bに照射され、図4Aの右側の半円の走査が終了する。
【0022】
その後、ビームは図4Aの左側に走査されていくが、区間Bから区間Cに戻るまでの間ビームの出力を停止し、区間Cを通過した後にビームの出力を再開し、位相が3π/2となって区間Dに到達したときにビームの出力を停止すれば、この時点で図4Aの左側の半円の走査も完了し、輪の形のビーム走査を完了することができる。
【0023】
ここで、区間Bから区間Cまでの間、区間Dから区間Aまでの間ビームの出力を停止しなければ、左右の半円のそれぞれを2重に走査でき、加工対象物に照射するエネルギーを倍にすることができる。複数回の走査を行うことでそれに応じて照射するエネルギーを増加させることができる。
【0024】
このように、本実施の形態によれば、1つの機械駆動を用いた光偏向器23と所定の加工が施された回折光学素子との組み合わせにより、光偏向器における1次元のビーム走査によって、2次元走査と同じビーム走査を行うことが可能となり、従来と比較して、光偏向器の機械駆動機構の構成部品を減らすことができる。
【0025】
<レーザー光走査装置(機械駆動)の具体例>
図4Aの構成において、鏡を機械駆動することによって500Hzでビームを偏向するレーザー光走査装置を作製した。このとき、光偏向器23に入射する光のエネルギー密度は8mJ/mm2であり、使用した透過型回折光学素子25のエネルギー変換効率、すなわち、回折像のエネルギーを入射光のエネルギーで割った値は0.9であった。
【0026】
上記エネルギー変換効率を有し、回折光学素子の入射光と同じエネルギー密度となるように正方形の回折像40を成形可能な透過型回折光学素子25を用い、輪の形のビーム走査を行って金属加工を行った。エネルギー密度を変化させることなく、従来の2次元のビーム走査と同等のビーム走査を実現し、光偏向器の構成部品の減少により、レーザー光走査装置の製造コストを低減させることができた。
【0027】
<第2の実施の形態>
第1の実施の形態では、光偏向器23として機械駆動機構を用いたが、機械駆動機構を必要としない電気光学効果を利用した光偏向器23を使用してもよい。電気光学効果を利用した光偏向器23として、ニオブ酸チタン酸カリウム(KTa1-xNbx3:KTN)単結晶を用いたものが挙げられる。KTN単結晶では、非特許文献2に記載されているように、電圧の印加によってレーザー光を偏向することが可能である。
【0028】
電気光学効果を利用した光偏向器23を用いた場合でも、1次元のビーム走査によって、2次元のビーム走査と同等のビーム走査を実現することができる。さらに、KTN単結晶を用いた光偏向器23は、500kHz程度まで高速にビーム走査することが可能であり、機械駆動機構の光偏向器23を用いた場合よりも作業効率を改善することが可能である。
【0029】
<レーザー光走査装置の具体例>
図4Aの構成において、電気光学効果を利用するKTN単結晶光偏向器によってビームを500kHzで走査する装置を作製した。このとき、光偏向器23に入射する光のエネルギー密度は8mJ/mm2であり、使用した透過型回折光学素子25のエネルギー変換効率、すなわち、回折像のエネルギーを入射光のエネルギーで割った値は0.9であった。
【0030】
上記エネルギー変換効率を有し、回折光学素子の入射光と同じエネルギー密度となるように輪形状の回折像40を成形可能な透過型回折光学素子25を用いて、輪の形のビーム走査を行って金属加工を行った。従来の2次元のビーム走査と同等のビーム走査を実現しながら、光偏向器の構成部品の減少によりレーザー光走査装置の製造コストを低減させることができた。さらに、KTN単結晶光偏向器を利用したことにより、機械駆動機構を用いた光偏向器を用いた場合と比較して作業時間を1000分の1程度まで短縮することができた。
【0031】
<その他の実施の形態>
図5A、5Bは、従来の直線を複数描く走査と同等のビーム走査を、1次元の偏向を行う光偏向器23と、直線の回折像40を成形できる回折光学素子25を組み合わせて実現する構成例を示したものである。図5Bは、光偏向器23の偏向動作の一例であり、偏向されたビームの回折光学素子25における入射位置(A~D)の時間的な変化は、図4Bと同様である。
【0032】
図6A、6Bは、従来の長方形を描く走査と同等のビーム走査を、1次元の偏向を行う光偏向器23と、直線の回折像40を成形できる回折光学素子25を組み合わせて実現する構成例を示したものである。図6Bは、光偏向器23の偏向動作の一例であり、偏向されたビームの回折光学素子25における入射位置(A~D)の時間的な変化は、図4Bと同様である。
【0033】
図6Cに示すように、回折像である直線の間隔が無い状態にすることにより、任意の幅の長方形を描くビーム走査を実現できるが、長方形を描くビーム走査は、直線の回折像の間隔を無くさなくても実現することができる。具体的には、直線の回折像を一定の間隔で結像させて、図6Dのように熱の拡散によって、直線の回折像の間で、加工対象物の温度を上昇させ、加工に十分な温度にさせることにより、任意の幅の長方形を描くビーム走査を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明は、金属等の加工や塗料の除去等を行うためにレーザー光を走査するレーザー光走査装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10…レーザー光走査装置、20…ヘッド部、21…平行光生成光学系、22…平行光、23…光偏向器、24…偏向光、25…透過型回折素子、26…反射型回折素子、27…回折光、30…光源、31…光ファイバ、40…回折像。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D