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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】音響測定装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20230614BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20230614BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/12
G01N29/44
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019135700
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021018212
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 信策
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-077277(JP,A)
【文献】特開2010-197361(JP,A)
【文献】特開2011-163776(JP,A)
【文献】特表2015-510283(JP,A)
【文献】特開2017-040585(JP,A)
【文献】特開2014-044083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N29/00-29/52
G01H 1/00-17/00
G01M 5/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向の音を集音するマイクと、
前記マイクにて集音した音に対する音響測定を実施する音響測定部と、
ユーザの頭部に装着されるヘッドマウントディスプレイユニットと、
複数の衛星から送信される信号を受信し、前記ヘッドマウントディスプレイユニットの位置座標を検出するGNSS受信機と、
前記ヘッドマウントディスプレイユニットを起点に、所定の検出範囲内にある物体の3次元座標データを取得し、前記ヘッドマウントディスプレイユニットの正面方向にある物体までの距離を算出する3Dセンサと、
前記音響測定部が音響測定を実施したときの音源の位置を、前記ヘッドマウントディスプレイユニットの位置座標を基準に、前記3Dセンサで算出された距離だけ移動させた位置座標として特定する音源特定部と、
前記音源特定部が特定した音源の位置と前記音響測定部による測定結果とを紐づけて記憶する結果記憶部と、
を備えることを特徴とする音響測定装置。
【請求項2】
前記音響測定部による測定結果を当該測定結果に紐づく音源の位置と対応付けて表示する表示部をさらに備える、請求項1に記載の音響測定装置。
【請求項3】
前記表示部は、測定結果を、拡張現実又は複合現実として、前記音源特定部が特定した音源の位置に対応付けて表示することを特徴とする請求項2に記載の音響測定装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記音響測定部による測定結果と、異常がない場合に得られることが期待される正常結果とを対比可能に表示することを特徴とする請求項2または3に記載の音響測定装置。
【請求項5】
前記表示部は、音響測定を実施する際に、前記マイクで集音した音に関する情報を表示することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の音響測定装置。
【請求項6】
前記結果記憶部は、測定結果に測定時に測定者が向いていた方向を表す情報をさらに紐づけて記憶し、
前記表示部は、測定結果とともに測定時に測定者が向いていた方向を示す図形を表示することを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の音響測定装置。
【請求項7】
コンピュータを請求項1から6のいずれか1項に記載の音響測定装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響測定装置に関し、より詳しくは、音(打音、異動作動音等)を利用して、コンクリート材やアスファルト等の構造物の検査、屋外、屋内を含む空間(例えば、工場、オフィス等)で発生する異音の検査を行なうための音響測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道や道路、アパートやマンション等の集合住宅に使用されているコンクリート材やアスファルト等の品質劣化を原因とする事故が問題となっている。例えば、トンネルに使用されるコンクリート材が品質劣化すると、コンクリート材に亀裂または空隙が生じ、そのまま放置すると、コンクリート材の一部が剥離して落下してしまうことがある。
【0003】
従来、対象物の品質を非破壊で検査する方法の1つとして、対象物の表面をハンマ等の検査工具で叩き、音をマイクロフォンで集音して測定し、これを解析することで対象物の検査や異常判定を行なう方法が記載されている(特許文献1参照。)。
また、自宅や工場、オフィス等の空間内から異音が発生する場合においては、異音が発生する箇所を特定し、異音の発生箇所を記録することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-322861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の検査方法は、音(打音、異音)の測定結果の判定に、作業者の技量・熟練を要するため、容易ではない。また、いわゆるモスキート音のような高周波音によりモータ等の異常を判別することができる場合があるが、このモスキート音は、高齢者等、人によって聞こえにくいことがあり、検査の質にばらつきが出ることがあり得る。
【0006】
これらに加え、対象物の音の測定や判定の結果を記録し、表示するのに手間がかかる点が課題となっている。特に、道路やトンネル等、複数の検査箇所を順番に打音検査する場合は、検査そのものに時間がかかっていた。また、検査の結果を確認する際には、打音箇所と測定結果とを対応させて記憶し、表示させる必要があるので、手間がかかっていた。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、音響測定における測定結果の記録や表示を容易にする音響測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく、本発明に係る音響測定装置は、所定の方向の音を集音するマイクと、マイクにて集音した音に対する音響測定を実施する音響測定部と、音響測定部が音響測定を実施したときの音源の位置を特定する音源特定部と、音源特定部が特定した音源の位置と音響測定部による測定結果とを紐づけて記憶する結果記憶部と、備える。
【0009】
本発明では、音響測定装置は、音響測定部による測定結果を当該測定結果に紐づく音源の位置と対応付けて表示する表示部をさらに備えるとよい。
【0010】
本発明では、表示部は、測定結果を、拡張現実又は複合現実として、音源特定部が特定した音源の位置に対応付けて表示するとよい。
【0011】
また、表示部は、音響測定部による測定結果と、異常がない場合に得られることが期待される正常結果とを対比可能に表示するとよい。
【0012】
また、表示部は、音響測定を実施する際に、マイクで集音した音に関する情報を表示するとよい。
【0013】
本発明では、結果記憶部は、測定結果に測定時に測定者が向いていた方向を表す情報をさらに紐づけて記憶するとよく、表示部は、測定結果とともに測定時に測定者が向いていた方向を示す図形を表示するとよい。
【0014】
上記の課題を解決すべく、本発明に係るプログラムは、コンピュータを上記いずれかの音響測定装置として機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る音響測定装置を使用してユーザが対象物Wを検査する様子を示す模式図である。
図2】HMDユニットの構成を示す模式図である。
図3】第1実施形態に係る音響測定装置の構成を例示する機能ブロック図である。
図4】HMDユニットを装着したユーザと結果表示範囲との関係を示す模式図である。
図5】第1実施形態における測定処理時の表示例を示す模式図である。
図6】第1実施形態に係る音響測定装置での測定処理を示すフローチャートである。
図7】第1実施形態に係る音響測定装置での結果表示処理を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態に係る音響測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
図9】第2実施形態における測定処理時の表示例を示す模式図である。
図10】第2実施形態における結果表示処理時の表示例を示す模式図である。
図11】第2実施形態に係る音響測定装置での測定処理を示すフローチャートである。
図12】第2実施形態に係る音響測定装置での結果表示処理を示すフローチャートである。
【0016】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態に係る音響測定装置1は、コンクリート材やアスファルト等の構造物(以後、「対象物」とする。)を、ハンマ等で対象物の表面を叩き、発生した音を集音し解析することで、対象物を検査する方法(打音検査法)に用いられる装置である。
【0017】
[装置および各構成要素の説明]
図1は、本実施形態に係る音響測定装置を使用してユーザが対象物Wを検査する様子を示す模式図である。
図1に示すように、音響測定装置1は、ハンマ2と、ヘッドマウントディスプレイユニット3(以後、「HMDユニット3」とする。)と、を備える。
【0018】
[ハンマ2の構成]
ハンマ2は、打音検査法に用いる検査用工具である。ハンマ2は、図1に示すように、把持部200と、打撃部210とを備える。打音検査を行う際、ユーザは把持部200を握って打撃部210で対象物Wを所定の強さで叩き、その際に生じる打音に基づく検査を行う。
【0019】
[HMDユニット3の構成]
図2は、HMDユニット3の構成を示す模式図である。図2に示すように、HMDユニット3は、フレーム300、表示部325、マイク305、GNSS(Global Navigation Satellite System; 全地球航法衛星システム)受信機310、3Dセンサ315、及びトリガボタン320を備える。
【0020】
本実施形態のHMDユニット3は、さらに制御部340を備える。制御部340は、HMDユニット3全体の動作を制御するコントローラであり、後述する記憶部330に格納されたプログラムをCPUにより実行することで実現されるとよい。なお、制御部340は、HMDユニット3とは別体として設けられ、HMDユニット3と通信しつつ協働することで音響測定装置1の機能を実現するように構成してもよい。
【0021】
図3は、本実施形態に係る音響測定装置1の機能ブロック図である。図3に描かれている構成のうち、音響測定部342、音源特定部344、測定結果特定部346、および表示制御部348は、制御部340がプログラムを実行することにより実現される。
【0022】
フレーム300は、音響測定装置1を使用するユーザの頭部に装着されるものであって、HMDユニット3の他の構成要素を支持する。フレーム300は、例えば、両耳と鼻とで支持するメガネ型、弾性のベルトを頭部に巻くことで装着するゴーグル型、頭部に被る形で装着するヘルメット型等があるが、HMDユニット3の他の構成要素を安定的に支持できればいずれの形式のものを用いてもよい。
【0023】
マイク305は、HMDユニットの周囲に発生する音を集音して電気信号に変換する。具体的には、マイク305は、ユーザがハンマ2で対象物Wの表面を叩いたときに発生する打音を、集音して電気信号に変換する。なお、マイク305は、前方に指向性のあるマイクを用いるとよい。
【0024】
GNSS受信機310は、複数の衛星から送信される信号を受信し、受信した信号に基づいて、HMDユニット3の位置座標(緯度、経度、高さ(標高))を検出する。
【0025】
3Dセンサ315は、所定の検出範囲内にある物体表面に含まれる多数の点の3次元座標を計測し、得られた3次元座標の集合をデータ(以下、点群データという)として取得する。本実施形態では、3Dセンサ315は、HMDユニット3を装着したユーザの正面を向くように、フレーム300の中央付近に設けられ、ユーザ前方の点群データを取得する。3Dセンサ315としては、TOF(Time Of Flight)方式、三角測量方式等の様々な方式のうち任意のものを用いるとよい。
【0026】
3Dセンサ315は、得られる点群データは取得した点群データに基づいて、HMDユニット3の正面方向にある物体までの距離を算出し出力する。また、ユーザがHMDユニット3を装着した状態で頭の向きを変えた場合、HMDユニット3と周囲の物体との相対的な位置関係が変化する。これに伴い、3Dセンサ315が得る点群データも変化するが、3Dセンサ315は、得られる点群データの変化に基づいて、HMDユニット3の方向(姿勢、例えば正面方向)を算出して出力する。
【0027】
トリガボタン320は、測定を開始する直前にユーザが押下するボタンである。ユーザがトリガボタン320を押下すると、後述する音響測定部342および音源特定部344が測定動作を開始する。
【0028】
音響測定部342は、マイク305で集音した打音を信号処理(例えば、フィルタリング、ノイズキャンセリング、フーリエ変換、ウェーブレット変換等)して、測定結果を出力する。出力される測定結果は、例えば、打音した時にマイク305で集音した音に基づく信号の時間的推移を表すデータであってもよいし、当該信号の周波数成分ごとの強度を示すスペクトラムであってもよい。あるいは、打音を判定した結果(正常/異常)を測定結果としてもよい。また、これらを組み合わせたものも測定結果として扱ってもよい。
【0029】
音源特定部344は、GNSS受信機310および3Dセンサ315から取得した情報に基づいて、HMDユニット3の正面方向にある物体の位置を音源の位置として特定する。具体的には、音源特定部344は、GNSS受信機310からHMDユニット3の位置座標を取得する。そして、取得したHMDユニット3の位置座標を基準に、HMDユニット3の方向(姿勢)に、正面方向にある物体までの距離だけ移動させた位置座標を音源特定部344音源の位置として特定する。
【0030】
記憶部330は、例えばRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard disk drive)、SSD(Solid State Drive)等の記憶媒体により実現される。記憶部330は、制御部340が実行するプログラム、及び当該プログラムで使用するデータ等を記憶する。また、記憶部330は、音響測定部342が出力する測定結果と、音源特定部344で特定した音源の位置座標とを紐づけて記憶する。
【0031】
測定結果特定部346は、記憶部330に記憶された複数の測定結果の中から、表示部325に表示する測定結果を特定する。具体的には、測定結果特定部346は、GNSS受信機310からHMDユニット3の位置座標を取得し、3Dセンサ315からHMDユニット3の正面方向を取得し、これらに基づいて、ユーザの正面方向を含む所定の領域を結果表示範囲Aとする。具体的には、図4に示すように、HMDユニット3を装着したユーザの正面方向にある視野V1内におけるユーザが視認しやすい領域(例えば、1~5メートル程度の範囲)を結果表示範囲Aとするとよい。
【0032】
そして、測定結果特定部346は、記憶部330に記憶されている全測定結果のうち、紐付けられた位置座標が結果表示範囲Aの中に入っているものを抽出し、抽出した当該測定結果を、表示部325に表示する測定結果として特定する。
【0033】
表示制御部348は、表示部325に表示する測定結果の表示を制御する。具体的には、表示制御部348は、3Dセンサ315から点群データを取得し、測定結果を表示する位置の近傍にある対象物Wの面(例えば、壁面)を特定する。そして、表示制御部348は、図5に示すように、測定結果特定部346で特定した測定結果MRを、当該測定結果に紐付けられた位置座標に、対象物Wの面に沿うように表示する。
【0034】
表示制御部348は、測定結果とともに、異常がない場合に得られることが期待される正常結果(基準データ)を測定結果と対比可能に表示するとよい。対比可能な表示として、例えば、測定結果と正常結果を並べて表示してもよいし、重畳して表示してもよい。あるいは、測定結果と正常結果の差分を表示してもよい。このようにすれば、熟練者でなくとも測定結果と正常結果とを容易に比較することができ、測定結果の良否についての判断の精度を高めることができる。
【0035】
表示部325は、三次元映像を表示する透過型の表示デバイスである。表示部325は、HMDユニット3を装着した状態でユーザの視野を覆う位置に設けられる。このように表示部325を設けることで、表示部を透過して視認される現実空間にある物体(対象物W等)に重畳して測定結果をはじめとする諸情報を表示した拡張現実を提供することができる。
【0036】
[音響測定装置1の動作]
続いて、以上のように構成される音響測定装置1の動作を説明する。音響測定装置1は、打音検査を行う際の測定処理、および想定処理によって得られた測定結果を表示する結果表示処理を行う。
【0037】
〔測定処理〕
図6は、音響測定装置1の測定処理を示すフローチャートである。測定処理は、ユーザがハンマで対象物Wの表面を叩いたときに生じる音を測定する処理である。測定処理では、はじめに、HMDユニット3を装着したユーザが、トリガボタン320を押す(ステップS100)。これに応じて、音響測定部342は音響測定処理(S110~S120)の動作を開始し、音源特定部344は音源の位置を特定する処理(S130)を開始する。
【0038】
ユーザはステップS100でトリガボタン320を押したあと、ハンマ2で対象物Wの表面を叩く。マイク305は、このときに発生する打音を集音する(ステップS110)。続いて、音響測定部342はマイク305で集音した打音を処理して測定結果を出力する(ステップS120)。
【0039】
また、ステップS100でトリガボタン320が押されると、ステップS110およびS120と並行して、音源特定部344はGNSS受信機310、および3Dセンサ315から取得した情報に基づいて、音源の位置座標を特定する(ステップS130)。
【0040】
ステップS120およびステップS130を終えると、記憶部330は、音響測定部342が出力した測定結果と音源特定部344が特定した音源の位置座標とを対応付けて記憶する(ステップS140)。以上により、測定処理が終了する。音響測定装置1では、上記のステップS100からステップS140までを1回の測定処理とし、対象物Wを測定し終えるまで、測定処理を複数回繰り返す。これにより、測定した各位置に応じた測定結果が記憶部330に蓄積される。
【0041】
以上で説明した測定処理により、ユーザは打音検査の測定結果を打音した位置に紐づけて容易に記憶することができる。
【0042】
〔結果表示処理〕
続いて、結果表示処理の手順について説明する。図7は、音響測定装置1の結果表示処理を示すフローチャートである。
結果表示処理は、ユーザが任意のタイミングで、測定結果を表示する処理である。具体的には、測定処理を繰り返し行いながら、測定結果を表示してもよいし、測定結果を記憶部330に格納しておき、測定とは異なるタイミングでその測定結果を表示してもよい。
【0043】
測定結果特定部346は、GNSS受信機310、および3Dセンサ315から取得した情報に基づいて、結果表示範囲Aを特定し(ステップS200)、記憶部330に記憶された複数の測定結果の中から、結果表示範囲Aの範囲内にある測定結果を特定する(ステップS210)。
【0044】
続いて、表示制御部348が測定結果の表示を制御し、表示部325に測定結果を表示させる(ステップS220)。具体的には、表示制御部348は、はじめに、3Dセンサ315から取得した点群データに基づいて、測定結果を表示する位置座標付近にある対象物Wの面を特定する。続いて、測定結果特定部346で特定した測定結果を、特定した対象物Wの当該面に沿うように、測定結果に紐付けた位置座標に表示する。
【0045】
結果表示処理は、所定の周期で繰り返し実行され、ユーザの位置の変化に追随して表示内容が随時更新される。以上で説明した結果表示処理により測定結果を実際の測定対象物Wに重畳して拡張現実表示することができる。したがって本実施形態の音響測定装置1は、各位置での測定結果をユーザが認識しやすい態様で表示することができる。
【0046】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、第1実施形態で既に説明した部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0047】
第1実施形態の音響測定装置1は、ユーザがハンマ2で対象物Wの表面を叩いた際に発生する音を測定し、測定結果を表示する装置であった。これに対し、第2実施形態の音響測定装置1’は、(打音等をしない状態で)ユーザの周囲で発生している音を測定し、測定結果を表示する装置である。このように測定対象とする音が異なることに伴い、本実施形態の音響測定装置1’は、ハンマ2を備えず、音源特定部344’、記憶部330’、および表示制御部348’について第1実施形態の音響測定装置1とは異なる構成を有する。これら以外に関しては、第1実施形態の音響測定装置1と略同様の構成を備える。以下では第1実施形態と異なる構成について詳述する。
【0048】
は、第2実施形態の音響測定装置1’の構成を示す機能ブロック図である。音源特定部344’は、GNSS受信機310で取得したHMDユニット3の位置座標、および3Dセンサ315で取得したHMDユニット3の方向(姿勢)に基づき、HMDユニット3の正面方向に所定距離(例えば、1m)だけ離れた位置座標を、音源の位置として特定する。本実施形態では、ハンマによる打音を伴わないことから音源の位置を正確に把握できるとは限らないため、ユーザが向いた方向に所定距離だけ離れた位置を便宜的に音源の位置とする。なお、HMDユニット3から正面方向に上記の所定距離だけ離れた位置が、結果表示範囲A内に入る距離であるとよい。このようにすることで、測定結果をすぐに表示させることができ、ユーザは測定を繰り返しつつ結果をリアルタイムで確認することができる。
【0049】
記憶部330’は、音響測定部342が出力する測定結果、音源特定部344’が出力する音源の位置、および3Dセンサ315から得られる測定時のHMDユニット3の正面方向を対応付けて記憶する。
【0050】
表示制御部348’は、測定が可能な状態である間、マイク305が集音した周囲の音に関する情報(例えば、大きさ、波形、周波数成分等)SIを表示部325に継続的に表示するように制御する。なお、当該表示は、図に示すように、ユーザの視野の中央部を塞がないように周辺部に表示するとよい。このようにすることで、ユーザは、正面方向の視界を確保しつつ、マイク305が収音している異音を確認しながら異音検査を行なうことができる。つまりユーザは、当該表示を見ながら所望の異音がマイク305で集音されていることや最も異音が大きく集音できる向き等を確認しながら、測定を行うことができる。
【0051】
また、表示制御部348’は、結果表示処理において、図10に示すように、測定結果特定部346で特定した測定結果MRを、当該測定結果MRに紐づけられた位置座標に、HMDユニット3を装着したユーザと対向するように(つまり、測定結果MRの表示面がHMDユニット3の正面方向と直交するように)表示する。このようにすることで、ユーザの位置によらず、測定結果MRを常にユーザが見やすい向きで表示することができる。
【0052】
また、表示制御部348’は、上記の測定結果を表示する際に、表示している測定結果が測定された際のHMDユニット3の正面方向を示す図形G(例えば矢印、直線等)をさらに表示するとよい。このようにすることで、ユーザは、上記の測定結果が測定処理時にどの方向を向いた状態で測定されたものかを把握することができる。
【0053】
[音響測定装置1’の動作]
続いて、以上のように構成される音響測定装置1’の動作を説明する。音響測定装置1’は、異音の測定を行う測定処理、および測定結果を表示する結果表示処理を行う。
【0054】
〔測定処理〕
図11は、音響測定装置1’の測定処理を示すフローチャートである。測定処理は、ユーザの周囲で発生する音を測定する処理である。音響測定装置1’は、測定可能な状態である場合、集音した周囲の音に関する情報SI(大きさ、波形、周波数成分等を示す情報、図9を参照)を、表示部325に常時表示しているものとする。
【0055】
測定処理では、はじめに、HMDユニット3を装着したユーザは、表示部325の箇所に表示されている周囲の音に関する情報SIを確認しながら、異音が最も大きく集音される方向(つまり音源の方向)を向く(ステップS400)。続いて、ユーザは、トリガボタン320を押す(ステップS410)。これに応じて、音響測定部342は音響測定処理(S420~S430)の動作を開始し、音源特定部344’は音源の位置を特定する処理(S440)を開始する。
【0056】
ステップS410でトリガボタン320が押されると、マイク305は、ユーザの周囲で発生する音を集音する(ステップS420)。続いて、音響測定部342はマイク305で集音した音を解析・処理して測定結果を出力する(ステップS430)。
【0057】
また、ステップS410でトリガボタン320が押されると、ステップS420およびS430と並行して、音源特定部344’は、GNSS受信機310および3Dセンサ315から取得した情報に基づいて、音源の位置座標を特定する(ステップS440)。
【0058】
音響測定処理(ステップS430)および音源の位置を特定する処理(ステップS440)を終えると、記憶部330’は、音響測定部342が出力した測定結果、音源特定部344が特定した音源の位置座標、および3Dセンサ315から得られる測定時のHMDユニット3の正面方向を対応付けて記憶する(ステップS450)。以上により、測定処理が終了する。音響測定装置1では、上記のステップS400からステップS450までの処理を1回の測定処理とし、必要に応じてこの測定処理を位置や向きを変えながら、複数回測定を繰り返してもよい。このようにすることで、ユーザが測定した位置や向きに応じた測定結果が記憶部330に蓄積される。
【0059】
〔結果表示処理〕
続いて、第2実施形態における結果表示処理の手順について説明する。図12は、音響測定装置1’の結果表示処理を示すフローチャートである。
結果表示処理は、ユーザが任意のタイミングで、測定結果を表示する処理である。具体的には、測定処理を行いながら並行して測定結果を表示してもよいし、予め記憶部330’に過去の測定結果を格納しておき、測定とは異なるタイミングでその測定結果を表示してもよい。
【0060】
測定結果特定部346は、GNSS受信機310、および3Dセンサ315から取得した情報に基づいて、結果表示範囲Aを特定し(ステップS500)、記憶部330’に記憶された複数の測定結果の中から、結果表示範囲Aの範囲内にある測定結果を特定する(ステップS510)。
【0061】
続いて、表示制御部348’は、音源特定部344’が出力した音源の位置およびHMDユニット3の方向(姿勢)に応じて、測定結果の表示を制御する(ステップS520)。具体的には、ステップS510で特定した測定結果を、当該測定結果に紐付けられた位置座標に、HMDユニット3を装着したユーザと対向するように表示する。また、上記の測定結果を表示する際に、結果表示範囲Aの中に入っている測定結果が測定された際のHMDユニット3の向きを示す矢印をさらに表示する。
【0062】
結果表示処理は、所定の周期で繰り返し実行され、ユーザの位置の変化に追随して表示内容が随時更新される。以上で説明した結果表示処理により、測定結果を実際の測定対象物Wに重畳して拡張現実表示することができる。また、このようにすることで、ユーザの位置によらず、測定結果をどの方向からでも視認しやすく表示することができる。また、測定結果が測定された時のHMDユニット3の向きを示す図形(例えば矢印や直線)の表示により、音源のある方向をユーザが推定することができる。特に、複数の測定箇所での測定時の向きを示す図形を表示すれば、それらの集まる位置に異音の音源があるとユーザが推定しやすくすることができる。
【0063】
[実施形態の変形]
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0064】
例えば、HMDユニットや音源の位置を特定する方法は上記各実施形態に記載されたものに限定されない。
【0065】
上記の各実施形態では、HMDユニットにGNSS受信機を備え、その受信信号に基づきHMDユニットの位置を特定したが、例えばHMDユニットとは別体の3Dセンサ及び/又はカメラをユーザが居る空間に配置しておき、当該3Dセンサ及び/又はカメラにて、空間内でのHMDユニットの位置を特定してもよい。あるいは、HMDユニットに所定の電波を発信する発信機を設けるとともに空間内に複数の受信機を設け、各受信機での受信強度に基づいて発信機を備えるHMDユニットの位置を特定してもよい。逆に、空間内に互いに識別可能な信号を発信する複数の発信機を配置するとともに、HMDユニットに受信機を設け、各信号の受信強度に基づいてHMDユニットの位置を特定してもよい。
【0066】
また、上記第1実施形態では、HMDユニットの位置座標から、HMDユニットの方向と前方の物体までの距離とに基づきオフセットした位置を音源(打音箇所)の位置としたが、ハンマにGNSS受信機、発信機、受信機等を設けることにより、HMDユニットの位置を介さずに直接的にハンマの位置座標を得るようにしてもよい。
【0067】
また、上記第2実施形態では、HMDユニットから正面方向に所定距離だけ離れた位置座標を音源の位置としたが、例えばHMDユニットの位置座標そのものを音源の位置としてもよい。このようにすれば、音源の位置を特定する処理を簡素化・高速化することができる。
【0068】
また、HMDユニットを装着したユーザの視野内に存在する対象物体(例えば測定機器等)について、ジェスチャにより示した位置(例えば指で指示した位置)を3Dセンサにより検出し、当該位置を音源の位置としてもよい。また、ユーザの視線の方向を検出するアイトラッキングセンサを(例えばHMDユニットに)設け、HMDユニットを装着したユーザの視野内に存在する対象物体(例えば測定機器等)について、視線で指示した位置(より詳しくは、視線の方向にある物体の位置)を音源の位置として特定してもよい。さらに、上述のジェスチャや視線にて音源の位置を指示する手法において、対象物体の内部構造が表現されたCADモデルを当該対象物に重畳して表示部に表示し、対象物の内部の位置や部品を音源の位置として特定してもよい。
【0069】
また、騒音計その他の音響計測機器や当該機器に接続された集音マイクを用いて測定を行う構成とし、機器や集音マイクの位置を3Dセンサ、カメラ画像、GNSS受信機等によって特定し、当該特定した位置を音源の位置としてもよい。
【0070】
また、各実施形態での測定処理において、トリガボタンが押下されたことを契機に集音および音源位置特定を開始したが、トリガの与え方はこれに限定されない。例えば、所定のジェスチャや音声入力をトリガとしてもよい。
【0071】
また、第1実施形態において、ハンマに加速度センサ、衝撃センサ等のセンサと、センサの出力をHMDユニットに送信する通信手段とを設け、これらのセンサが打音による衝撃を検知したことをトリガの発生としてHMDユニットに送信するようにしてもよい。この場合、HMDユニットではマイクで集音した音を、過去一定時間分を遡及して読み出せるように記憶手段に記憶し、トリガが発生した(つまり測定対象物を叩いた)タイミングから当該一定時間分だけ遡った時刻から、打音による音が収束するまでの音を測定結果を得るための音声信号として取得してもよい。また、ハンマが備えるセンサが、打音時の衝撃として所定の範囲外の衝撃(強すぎる衝撃、弱すぎる衝撃等)を検知した場合には、トリガの発生として扱わず、エラーとしてユーザに通知するようにしてもよい。このようにすれば、複数回の測定処理を行った場合でも、各回共通の条件で測定を行うことができる。
【0072】
また、上記各実施形態では、マイクをHMDユニットに設ける場合を例に説明したが、マイクが設けられる位置はこれに限定されない。例えば、第1実施形態では、マイクをハンマに内蔵してもよい。この場合、ハンマで集音した音がHMDユニットに送信するための通信手段をハンマに内蔵するとよい。このようにすることで、ユーザがハンマで対象物Wの表面を叩いたときに発生する打音を、より近い位置で、かつ常に同じ相対位置で集音することができる。
【0073】
また、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行なったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【符号の説明】
【0074】
1、1’ 音響測定装置
2 ハンマ
3 HMDユニット
200 把持部
210 打撃部
300 フレーム
305 マイク
310 GNSS受信機
315 3Dセンサ
320 トリガボタン
325 表示部
330、330’ 記憶部
340、340’ 制御部
342 音響測定部
344、344’ 音源特定部
346 測定結果特定部
348、348’ 表示制御部
W 対象物
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