(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス用導体撚線
(51)【国際特許分類】
H01B 5/10 20060101AFI20230614BHJP
【FI】
H01B5/10
(21)【出願番号】P 2020013707
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 亮佑
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-129410(JP,A)
【文献】特開2019-114447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本以上の芯線の外周に隣接する複数の導体が撚り合わされたワイヤーハーネス用導体撚線であって、
前記撚線の断面積が0.04mm
2以上0.06mm
2以下であり、
前記複数の導体が備える全導体の引張試験力に対する前記芯線の引張試験力の比が9以上23以下であり、
前記複数の導体が備える各導体の伸びに対する前記芯線の伸びの比が0.10以上0.25以下であり、かつ、
導電率が40%IACS以上であることを特徴とするワイヤーハーネス用導体撚線。
【請求項2】
前記芯線の断面積における充填率が85%以上100%以下である、請求項1に記載のワイヤーハーネス用導体撚線。
【請求項3】
前記芯線において、直径が0.12mm以上0.20mm以下であり、かつ、引張強度が3000MPa以上であり、請求項1又は2に記載のワイヤーハーネス用導体撚線。
【請求項4】
前記複数の導体において、全導体の本数が9本以上14本以下であり、各導体の直径が0.050mm以上0.060mm以下であり、各導体の引張強度が230MPa以上280MPa以下であり、各導体の伸びが8%以上40%以下であり、かつ、各導体の導電率が98%IACS以上である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体撚線。
【請求項5】
80℃以下の温度および18mmの曲率半径の条件下での180度の繰り返し曲げ試験において、10万回試験後に断線が生じない、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体撚線。
【請求項6】
撚線5本を束にした300mm長の電線の一端に400gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから前記重りを自由落下させる耐衝撃試験において、断線が生じない、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体撚線。
【請求項7】
引張試験力が70N以上である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体撚線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の電気配線に使用されるワイヤーハーネスに用いることができるワイヤーハーネス用導体撚線に関し、特に、極細線であっても、良好な導電性を有し、かつ耐衝撃性に優れたワイヤーハーネス用導撚線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電車、航空機等の車両の電気配線には、導体を含む電線に端子を装着した、いわゆるワイヤーハーネスと呼ばれる部材が用いられている。このような自動車用ワイヤーハーネスの導体には、通常、銅又は銅合金製の撚線が用いられている。一方、近年の自動車の軽量化、車内スペースの拡大、信号線の増加に伴い、現行のワイヤーハーネスの軽量化及びサイズダウンの要求が高く、電線の細径化が求められている。
【0003】
電線の細径化の1つに、導体の細線化が挙げられる。しかしながら、通常、導体を細くするにつれて強度が低下する。導体の強度を補助するため、軽量で強度が高い繊維を使用すると所望の導電性を得ることができない場合がある。このような導体の細線化に鑑み、高い強度と導電率のバランスを得るため、種類の異なる素線同士を組み合わせた撚線が検討されている。
【0004】
特許文献1には、アラミド繊維、カーボン繊維、ポリアミド繊維等からなる補強紐の外周に細線導線群を配列させた撚線が開示されている。特許文献2には、炭素繊維の周囲に複数本の軟銅素線を配している高張力電線が開示されている。特許文献3には、複数の導体素線とその間に配される繊維状の補強材とを組み合せた被覆電線が開示されている。
【0005】
しかしながら、電線の細線化に伴い導体の断面積も小さくなるため、導体抗力は下がり、導体抵抗は上がることになる。撚線に要求される70N以上の抗力、760mΩ/m以下の電気抵抗に対して、現状で最も細径である0.13mm2の信号線に銅合金線を用いると、強度、導電性共に不足することが確認されている。特に、極細線では、その細さから取り扱い上の衝撃によって断線してしまうことがある。
【0006】
特許文献1には、導体形状の制御による圧接接続性、耐屈曲性の改善について開示されているものの、極細線の特性に対する言及はなく、また、実施例に開示されている線径、材料特性も上述した現状の極細線における要求を満たしていない。特許文献2に記載されている電線は、対象とする線径(断面積)が従来技術の範囲であり、極細線より太い範囲である。特許文献3の実施例には、導体が同じ電気抵抗を示すタフピッチ軟銅である場合、引張強度は約4.5倍になることが示されているものの、より細い導体では抗力は70Nを下回ることが推察される。そのため、現状の線径よりも小さい断面積であっても、強度および導電性共に上記の要求を満たす極細線の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実公平7-40258号公報
【文献】特開2002-150841号公報
【文献】特開2012-3853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、極細線であっても、良好な導電特性を有し、かつ耐衝撃性に優れたワイヤーハーネス用導体撚線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様は、1本以上の芯線の外周に隣接する複数の導体が撚り合わされたワイヤーハーネス用導体撚線であって、前記撚線の断面積が0.04mm2以上0.06mm2以下であり、前記複数の導体が備える全導体の引張試験力に対する前記芯線の引張試験力の比が9以上23以下であり、前記複数の導体が備える各導体の伸びに対する前記芯線の伸びの比が0.10以上0.25以下であり、かつ、導電率が40%IACS以上であることを特徴とするワイヤーハーネス用導体撚線である。
【0010】
本発明の態様は、前記芯線の断面積における充填率が85%以上100%以下である、ワイヤーハーネス用導体撚線である。
【0011】
本発明の態様は、前記芯線において、直径が0.12mm以上0.20mm以下であり、かつ、引張強度が3000MPa以上である、ワイヤーハーネス用導体撚線である。
【0012】
本発明の態様は、前記複数の導体において、全導体の本数が9本以上14本以下であり、各導体の直径が0.050mm以上0.060mm以下であり、各導体の引張強度が230MPa以上280MPa以下であり、各導体の伸びが8%以上40%以下であり、かつ、各導体の導電率が98%IACS以上である、ワイヤーハーネス用導体撚線である。
【0013】
本発明の態様は、80℃以下の温度および18mmの曲率半径の条件下での180度の繰り返し曲げ試験において、10万回試験後に断線が生じない、ワイヤーハーネス用導体撚線である。
【0014】
本発明の態様は、撚線5本を束にした300mm長の電線の一端に400gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから前記重りを自由落下させる耐衝撃試験において、断線が生じない、ワイヤーハーネス用導体撚線である。
【0015】
本発明の態様は、引張試験力が70N以上である、ワイヤーハーネス用導体撚線である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の態様によれば、ワイヤーハーネス用導体撚線は、1本以上の芯線の外周に複数の導体が撚り合わされている。また、撚線の断面積が0.04mm2以上0.06mm2以下である。さらに、複数の導体が備える全導体の引張試験力に対する芯線の引張試験力の比が9以上23以下であり、複数の導体が備える各導体の伸びに対する芯線の伸びの比が0.10以上0.25以下であり、かつ、導電率が40%IACS以上である。これにより、極細線であっても、良好な導電特性を有し、かつ耐衝撃性に優れたワイヤーハーネス用導体撚線を提供することができる。
【0017】
また、このようなワイヤーハーネス用導体撚線を極細線として使用しても、衝撃による断線が抑制され、さらには、従来のワイヤーハーネスに対して30~60%程度の軽量化、10~30%のサイズダウン(直径比較)も見込まれる。これにより、近年の自動車に要求される軽量化、サイズダウンによる車内スペースの拡大、ワイヤーハーネスの配置スペースを据え置いた信号線の増加に寄与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施態様であるワイヤーハーネス用導体撚線の概要を説明する概略断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るワイヤーハーネス用導体撚線の耐屈曲性を評価する繰り返し曲げ試験を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態であるワイヤーハーネス用導体撚線(以下、単に「撚線」ということもある)について説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明を具体的に説明するために用いた代表的な実施形態の例示に過ぎず、本発明の範囲において種々の実施形態をとり得る。
【0020】
[撚線]
<撚線の構成>
本実施形態に係る撚線は、1本以上の芯線の外周に隣接する複数の導体が撚り合わされて形成されている。
図1は本発明の実施形態に係る撚線の概要を説明する概略断面図の一例である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る撚線3は、撚線3の中心に配置された(1本の)芯線1と、芯線1の外周を取り囲むように配置された複数の(12本の)導体2と、を備える。撚線3に適切な強度を付与するため、撚線3は、芯線1と複数の導体2とが撚り合わされて形成される。芯線1の外周に複数の導体2を撚り合わせて配置することで、導体2が芯線1を締め付けて、撚線3の空隙率が下がる。これにより、撚線3の強度を高く維持することができ、撚線3の断面積も小さくできる。撚線3の撚りの程度は、芯線1及び導体2の本数、直径等に応じて、撚線3の断面積が所望の範囲内になるよう適宜設計することができる。このような撚線3は、自動車、電車、航空機等の車両に使用されるワイヤーハーネス、特に自動車用ワイヤーハーネスにおいて信号通信の役割を果たす。また、撚線3の周方向を絶縁体である被覆樹脂で被覆することにより被覆電線を形成することができる(図示せず)。被覆樹脂の材料は、一般の被覆電線で使用される絶縁樹脂であればよく、用途に応じて適宜設計することができる。
【0021】
<極細線>
極細線は、通電部の断面積が0.13mm2以下である電線であり、現在、自動車等の車両内で使用される最小断面積クラスの撚線で構成される。本実施形態に係る撚線の断面積は0.04mm2以上0.06mm2以下であり、従来の車載用電線に使用される撚線の断面積よりも小さい。そのため、芯線と複数の導体とを備える本実施形態に係る撚線は極細線として使用することができる。また、芯線の直径が0.12mm以上0.20mm以下であり、且つ複数の導体の各々の直径が、0.050mm以上0.060mm以下であることが好ましい。これにより、1本以上の芯線と複数の導体との撚線を作製した場合に、導体の断面積を極細線として要求される範囲内に維持しやすくなり、その上、得られる撚線の耐屈曲性(繰り返し曲げ特性)を向上させることができる。複数の芯線を使用する場合、各芯線の直径は同じであっても異なっていてもよい。また、複数の導体の各々についても、各導体の直径は同じであっても異なっていてもよい。尚、芯線及び導体の数、圧縮工程前後の撚線の断面積の変化等に応じて、芯線及び導体の直径は上記の範囲内において適宜選択することができる。但し、撚線全体の導電性を導体が担うため、撚線の全断面積のうち40%以上が導体であることが好ましい。
【0022】
<芯線>
本実施形態に係る撚線に用いられる芯線は、3000MPa以上の引張強度を有することが好ましく、4000MPa以上の引張強度を有することがより好ましい。芯線の引張強度が3000MPa以上であることにより、撚線に高い強度を付与させることができ、撚線を極細線として使用した場合において衝撃による断線を抑制しやすくなる。また、芯線がより高い引張強度を有することにより、耐衝撃性をより確実に確保できる強度を撚線に付与しつつ、耐屈曲性を向上させることが可能となる。尚、芯線の引張強度の上限値は特に限定されないが、製造上の取り扱いの観点から8000MPa以下であることが好ましい。このように、芯線が高い引張強度を有することにより、撚線に優れた耐衝撃性を付与しやすくなり、引張強度の増大に伴い耐屈曲性も向上できる。尚、芯線の導電率については、一定以上の導電率を有する導体の使用により導体全体に所望の導電率を付与することができれば、芯線は導電率を有していなくてもよい(0%IACSでもよい)。一方、芯線が僅かにでも導電率を有することにより、導体の本数の削減に伴う軽量化、サイズダウンに寄与することができる。
【0023】
芯線の材料は、テンションメンバーとして使用することができれば特に限定されるものではないが、上記のような高い引張強度を有する材料として、例えば、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維線、炭素鋼線(ピアノ線)、ステンレス鋼線等が挙げられ、4000MPa以上の引張強度を有するPBO繊維がより好ましい。複数の芯線が使用される場合、このような芯線の材料は、同じであっても異なっていてもよい。さらに、芯線の導電性の改善及び撚線としての製造の向上のために、芯線の表面に導電性を示す金属めっき、例えば、Cu、Ni、Sn、Ag、Au等によるめっきが施されていてもよい。
【0024】
芯線がPBO繊維線のように素線を撚り合わせて形成されている場合、芯線の断面には若干の空隙が生じることがある。このような場合、撚線に70N以上の抗力を付与するために、芯線に用いられる素線の充填面積率、すなわち、芯線の断面積における充填率は、85%以上100%以下であることが好ましい。芯線の断面積における充填率が85%以上であることにより、撚線の抗力低下に起因する強度不足を抑制し、撚線に優れた耐衝撃性を付与することができる。芯線の断面積における充填率の上限値は、特に限定されるものではないが、例えば炭素鋼線のような単線を芯線に用いる場合、芯線の断面に空隙が存在しないため、充填率の上限値は100%とする。
【0025】
芯線の本数は、特に限定されるものではないが、1本であることが好ましい。これにより、撚線に適切な強度及び導電性をバランスよく付与しつつ、芯線を中心として、複数の導体を芯線の外周に容易に撚り合わせることができる。
【0026】
<導体>
本実施形態に係る撚線に用いられる複数の導体において、各導体は、230MPa以上280MPa以下の引張強度を有することが好ましい。各導体の引張強度が230MPa以上であることにより、撚線に十分な強度を付与させることができ、撚線を極細線として使用した場合において断線の抑制を図ることができる。尚、各導体の引張強度の上限値については、導体と芯線とが互いに異なる材料であることを明確にするため、各導体の引張強度の上限値は280MPa以下である。
【0027】
複数の導体において、各導体は8%以上40%以下の伸びを有することが好ましい。各導体の伸びが8%以上であることにより、引張強度と同様に撚線に十分な強度を付与させることができ、撚線を極細線として使用した場合において、断線の抑制を図ることができる。尚、各導体の伸びの上限値は、性能面において特に制限されるものではないが、現実的な上限値として、40%以下である。このように、各導体が所望の引張強度と伸びを満たすことにより、撚線に優れた耐屈曲性、耐衝撃性を付与することができ、断線の抑制を図ることができる。
【0028】
複数の導体において、各導体の導電率は98%IACS以上であることが好ましく、100%IACS以上がより好ましい。各導体の導電率が98%IACS以上であることにより、撚線に良好な導電性を付与させることができ、撚線を極細線として使用した場合において、導体抵抗の上昇に伴う導電性不足を改善することができる。各導体がより高い導電率を有することにより、良好な導電率を撚線に付与しつつ、撚線の断面積をより小さくすることが可能となる。
【0029】
複数の導体において、各導体の材料は、撚線に所定の導電性を満たし、芯線と共に撚線を形成することができれば特に限定されるものではないが、例えば、C1100系のタフピッチ銅などの純銅、または上記の特性(引張強度、伸び及び導電率)を満たす銅合金が好ましい。各導体の材料は、同じであっても異なっていてもよい。また、同じ種類の銅合金を使用する場合、各銅合金に含まれる金属成分の含有量は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0030】
複数の導体において、全導体の本数は、特に限定されるものではないが、9本以上14本以下であることが好ましい。これにより、撚線に適切な強度及び導電性をバランスよく付与しつつ、芯線を中心として、複数の導体を芯線の外周に容易に撚り合わせることができる。特に、全導体の本数が9本以上であることにより、得られる撚線の耐屈曲性を向上させることができる。
【0031】
<芯線の引張試験力と導体の引張試験力との関係>
本実施形態に係る撚線において、複数の導体が備える全導体の引張試験力に対する芯線の引張試験力の比(以下、「引張試験力比」ともいう)は9以上23以下である。引張試験力比が9以上であることにより、撚線に所望の抗力を付与できると共に、優れた耐衝撃性を実現できる。一方、引張試験力比が23を超える場合、導体の断面積不足に起因して導電性が不十分になるおそれがある。そのため、引張試験力比の上限値が23以下であることにより、撚線の導電性不足を防止できる。ここで、芯線および全導体における引張試験力は、引張強度と断面積の積をベースに算出され、必要に応じて充填率、本数等の要素も考慮して求めることができる。例えば、1本の芯線の引張試験力は、芯線の断面積(半径2×π)と引張強度との積に、さらに充填率の要素(充填率/100)を乗じることで求めることができる。また、全導体の引張試験力は、各導体が同じである場合、各導体の断面積(半径2×π)と引張強度との積に、さらに本数の要素(導体の本数)を乗じることで求めることができる。2種以上の芯線及び導体を使用する場合、各種類の導体について同様の計算式により引張試験力比をそれぞれ算出し、その和により求めることができる。このように、撚線が所望の引張試験力比を満たすことにより、撚線に優れた耐衝撃性を付与することができ、断線の抑制を図ることができる。
【0032】
<芯線の伸びと導体の伸びとの関係>
本実施形態に係る撚線において、複数の導体が備える各導体の伸びに対する芯線の伸びの比(伸び比)は0.10以上0.25以下である。ここで、芯線及び導体の各伸びは、JIS Z2241(2011)の破断伸びの規格に準拠して測定した。伸び比が0.25を上回ると芯線より先に導体が破断するケースが多くなり十分な強度を得られない。そのため、伸び比が0.25以下であることにより、芯線に対する導体の延性を高めることができ、撚線の断線を抑制することができる。また、伸び比の下限値は、性能面において特に制限されるものではないが、現実的な下限値として0.10以上である。このように、撚線が所望の伸び比を満たすことにより、撚線に優れた耐屈曲性、耐衝撃性を付与することができ、断線の抑制を図ることができる。
【0033】
<撚線の引張試験力>
本実施形態に係る撚線において、撚線の引張試験力、すなわち抗力は70N以上であることが好ましい。ここで、撚線の引張試験力は、上述のように算出された複数の導体が備える全導体の引張試験力と芯線の引張試験力との和によって求めることができる。撚線の引張試験力(抗力)が70N以上であることにより、撚線をコネクタ等に挿入する場合に、先端部の曲げ変形(座屈変形)を抑止することができる。また、抗力は耐屈曲性、耐衝撃性と高い相関にあるため、高抗力の要素は電線にとって必要不可欠である。従来の電線では、その最小径(0.13mm2)において、少なくとも700MPaの平均引張強度を有する素線を組み合わせることで要求される所定の強度(断線の防止)を満たすことができる。一方、本実施形態に係る撚線のように、断面積が0.04mm2以上0.06mm2以下の極細線の場合、径が細くなるほどより高い強度を要するため、各導体には平均して1167~1750MPaの引張強度が必要となる。このような引張強度は、一般的な電線の素材である銅及び銅合金を使用しても達成不可能である。断面積が0.04mm2以上0.06mm2以下の極細線の場合、撚線の引張試験力が70N以上であることにより、極細線に要求される所定の強度が達成されるため、極細線として各種用途に適用することが可能となる。特に設計上撚線を単線で用いる場合、撚線の引張試験力は80N以上であることが好ましい。
【0034】
<撚線の導電性>
本実施形態に係る撚線において、撚線の導電率は40%IACS以上である。導電率は必ずしも明確な閾値が存在するわけではないが、通電ロス、発熱及び発火の危険性などの影響に鑑み、撚線は40%IACS以上の導電率を有することが求められる。また、撚線の導電率が40%IACS以上であれば、信号線としての役割を果たせる導電性を有する撚線が得られていることを意味する。
【0035】
本実施形態に係る撚線を信号線として使用する場合、信号線としての役割を果たせる導電率に相当し得る導電性として、例えば、JIS H0505(1975)の規格に準拠して測定した導体の導電率から算出した電気抵抗を基準に判断することができる。具体的には、JIS H0505(1975)の規格に準拠して測定した撚線の導電率を単位長さ当たりの電気抵抗に換算した値が、760mΩ/m以下であることが好ましい。これにより、撚線に信号線としての役割を果たし得る導電率が付与され、極細線であっても、良好な導電性を有する撚線を得ることができる。
【0036】
<撚線の耐屈曲性>
本実施形態に係る撚線において、所定の繰り返し曲げ試験を行うことにより、耐屈曲性を評価することができる。所定の繰り返し試験として、例えば、所定の温度および所定の曲率半径の条件下で撚線を180度折り曲げ、それを繰り返す曲げ試験が行われる。具体的には、80℃以下の温度および18mmの曲率半径の条件下で180度の繰り返し曲げ試験を一定回数行い、撚線の断線の有無を評価する。このような繰り返し曲げ試験において、10万回試験後に断線が生じないことが好ましく、20万回試験後に断線が生じないことがより好ましい、10万回試験後において撚線に断線が生じない場合、撚線は耐屈曲性に優れていることを意味する。このような繰り返し曲げ試験は、マンドレル試験と呼ばれ、例えば、
図2に示されるようなマンドレル試験機を用いて行われる。
図2に示されるように、撚線10の一端を可動アーム20に固定しもう一端に撚線10のたるみが出ない最低限の錘30を吊り下げる。所望の屈曲半径を有する円または部分円のマンドレル40の外周部分を撚線10に対して向き合うように配置する。向き合うマンドレル40には撚線の線径の1.1倍の隙間Gが形成され、可動アーム20が180°の繰り返し曲げを行うことで撚線10の耐屈曲性を評価することができる。撚線10が所定の条件下で耐屈曲性を有することにより、屈曲が要求される用途にも極細線として適用することができる。
【0037】
<撚線の耐衝撃性>
本実施形態に係る撚線において、所定の耐衝撃試験を行うことにより、耐衝撃性を評価することができる。ここで、所定の耐衝撃試験として、例えば、一定の長さの電線の一端に所定の重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから重りを自由落下させる耐衝撃試験が行われる。具体的には、撚線5本を束にした300mm長の電線の一端に400gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから重りを自由落下させる耐衝撃試験において、撚線の断線の有無を評価する。撚線に断線が生じない場合、撚線は耐衝撃性に優れていることを意味する。尚、このような耐衝撃試験は、被覆電線をワイヤーハーネスとして自動車に組み込む際、組立作業者が誤って導体を引っ張り、導体の断線が引き起こされるケースを想定して行う試験である。耐衝撃試験で撚線が断線しなければ、上記のように想定されるケースで負荷され得る荷重に対しても断線が生じないことを保証できる。
【0038】
次に、本実施形態に係る撚線の製造方法の一例を説明する。
【0039】
[撚線の製造方法]
本実施形態に係る撚線は、各線径の芯線および導体(素線)を用意し、芯線の外周に対して複数の導体を撚り合わせる撚線工程、任意に圧縮工程を経て製造される。導体にめっきを施す場合、めっきの剥離が懸念されるため、圧縮行程を省略することができ、圧縮工程の後にめっきを施すことも可能である。圧縮工程の製造条件は、芯線及び導線の数、圧縮工程後の所望とする撚線の断面積等に応じて、適宜設計することができるが、通常は撚線の外径よりも小さいダイス穴に導体を通す事によって圧縮する。また、撚線工程前に、任意に癖取りのための熱処理を実施することができる。熱処理を実施する場合、材料強度が10%以上下がらない条件に適宜設定される。撚線工程では、芯線と導体の撚りピッチを例えば20~25とすることができるが、これに限定されるものではない。また、必要に応じて、得られた撚線に絶縁体の被覆樹脂を被覆することにより、ワイヤーハーネス用導体撚線を備える被覆電線を作製することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<実施例1~15、比較例1~12>
表1に示される0.100~0.210mmの直径を有する各芯線に対して、0.045~0.065mmの直径を有する導体を複数撚り合わせて撚線を形成した。導体の本数は7~14本であり、芯線にはPBO繊維(東洋紡社製、「ザイロン」)、炭素鋼線(汎用SWP-B)、ポリアリレート樹脂(帝人社製、「テクノーラ」)、液晶ポリエステル繊維(KBセーレン製、ゼクシオン)を使用し、導体には、タフピッチ銅の軟銅、硬銅または所定の銅合金(Cu-0.02質量%SnおよびCu-0.3質量%Sn)を使用した。尚、タフピッチ軟銅については、強度及び伸びの性能の違いを出すため、素線作製の最終プロセスにおける熱処理条件を変更した。強度と伸びが高い条件は、低温または短時間で最終熱処理を行い、結晶粒をより微細に制御したものであり、一方で、強度と伸びが低い条件は、高温または長時間で最終熱処理を行い、結晶粒を成長させたものである。タフピッチ硬銅及び銅合金(Cu-0.02質量%Sn、Cu-0.3質量%Sn)は、素線作製の最終プロセスに伸線工程を選定し、加工硬化させることで作製した。芯線がPBO繊維の場合、充填率は圧縮条件により制御した。得られた各撚線について下記の測定および評価を行った。各測定および試験評価を表1、2に示す。
【0042】
[測定方法]
<撚線の断面積および芯線の充填率の測定>
撚線の断面が観察できるように芯線と各導体との隙間を樹脂埋めし、次いで撚線に研磨を施した。その後、光学顕微鏡の倍率を200~500倍に設定し、工業用寸法計測ソフト(「Hybrid Measure ver.3.0.8」 イノテック社製)を用いて撚線の断面積を測定した。尚、芯線は導体全体との境目を線の外周とみなして算出した。芯線の充填率(%)は、芯線に用いた各素材1本あたりの平均断面積と芯線の本数との積で算出した値を、既出した撚線の断面積で割った値に100を乗じた値を用いた。
【0043】
<引張強度の測定>
金属および炭素繊維はJIS Z2241(2011)の規格に準拠して測定した。樹脂繊維はJIS K7161の規格に準拠して、芯線及び各導体の引張強度を2回測定し、その平均値を引張強度として算出した。
【0044】
<伸びの測定>
伸びは全サンプルにおいてJIS Z2241(2011)の破断伸びの規格に準拠し測定した。
【0045】
<導体の導電性>
JIS H0505(1975)の規格に準拠して、各導体の導電率を2回測定し、その平均値を導電率として算出した。
【0046】
[評価方法]
<撚線の引張試験力比>
撚線の引張試験力比は、全導体の引張試験力に対する芯線の引張試験力の比により算出した。芯線の引張試験力は、芯線の断面積(半径2×π)と引張強度との積に、さらに充填率の要素(充填率/100)を乗じた値を用いた。また、全導体の引張試験力は、各導体が同じであるため、各導体の断面積(半径2×π)と引張強度との積に、さらに導体の本数を乗じた値を用いた。
【0047】
<撚線の引張試験力>
撚線の引張試験力(抗力)は、全導体の引張試験力と芯線の引張試験力との和により算出した。撚線の引張試験力が70N以上であれば、引張試験力が合格レベルであると評価した。
【0048】
<撚線の導電性>
JIS H0505(1975)の規格に準拠して、得られた導体の導電率を2回測定し、その平均値を導電率として算出した。また、得られた導電率を単位長さ当たりの電気抵抗に換算し、その値が、760mΩ/m以下であれば良好な導電性を有していると評価した。尚、単位長さ当たりの電気抵抗は、{1.7241×10-5(mΩ/m)×100(%IACS)/撚線の導電率(%IACS)}÷撚線の断面積(m2)({(純銅の電気抵抗値×純銅の導電率)/撚線の導電率}÷撚線の断面積)より算出した。
【0049】
<撚線の耐屈曲性>
繰り返し曲げ試験(マンドレル試験)を、室温(20℃)にて、屈曲半径180度、屈曲部の曲げ半径(曲率半径)18mmの条件下で実施した。試験回数が10万回を超えても撚線が有する素線全てが未断線であった場合を合格「〇」とし、素線が一本でも断線した場合は不合格「×」とし、試験回数が20万回を超えても素線全てが未断線であった場合はより良好な特性とみなし「◎」と評価した。繰り返し曲げ試験の評価が「〇」以上であれば、撚線に優れた耐屈曲性が付与されていると評価した。
【0050】
<撚線の耐衝撃性>
得られた撚線5本を束にした300mm長の電線の一端に重り(400g)を付け、他端を固定し同位置から重りを自由落下させた場合に、撚線が有する素線全てが未断線であった場合は合格「〇」とし、素線が一本でも断線した場合は「×」と評価した。
【0051】
【0052】
【0053】
表2に示されるように、実施例1~15で得られた撚線は、いずれも、繰り返し曲げ試験および耐衝撃試験で断線が発生せず、且つ、得られた導電率を単位長さ当たりの電気抵抗に換算した値も760mΩ/m以下を達成していた。そのため、断面積が0.04mm2以上0.06mm2以下の従来よりも細径化された極細線であっても、良好な導電特性を有し、且つ耐衝撃性にも優れた撚線を得ることができた。また、実施例1~15で得られた撚線は、耐屈曲性にも優れており、引張試験力も70N以上であるため、極細線として各種用途に適用可能であると評価できる。
【0054】
一方、比較例1、4、5、9、11では、撚線の断面積が0.04mm2未満であり、撚線が細すぎるため、導体抵抗が高く、導電性に劣っていた。比較例1~3、9~12では、撚線が所定の引張試験力比を有していないため、強度が不十分であり、耐衝撃試験において撚線の断線が発生した。また、強度不足に伴い、撚線に所望の抗力を付与するこができなかった。
【0055】
比較例6、7では、撚線が所定の伸び比を有していないため、強度が不十分であり、耐衝撃試験だけでなく、繰り返し曲げ試験においても撚線の断線が発生した。比較例8では、撚線が所定の伸び比を有していないものの、導体としてSnを0.3質量%含む銅合金が使用されているため、撚線の強度は改善された。一方、導体が有する導電率が不十分であるため、撚線全体としての導電性が低く、撚線に所望の導電率および電気抵抗を付与するこができなかった。
【符号の説明】
【0056】
1 芯線
2 導体
3 ワイヤーハーネス用導体撚線(撚線)
10 ワイヤーハーネス用導体撚線(撚線)
20 可動アーム
30 錘
40 マンドレル