(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】混合香辛料及び混合香辛料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20230614BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20230614BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230614BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L5/10 Z
A23L27/00 C
(21)【出願番号】P 2020040954
(22)【出願日】2020-03-10
(62)【分割の表示】P 2018248413の分割
【原出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】齋▲藤▼ 啓子
(72)【発明者】
【氏名】白水 崇
(72)【発明者】
【氏名】野口 陽平
(72)【発明者】
【氏名】渡▲邉▼ 千賀子
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】三島 誠
(72)【発明者】
【氏名】中山 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊太
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-026369(JP,A)
【文献】特開2000-093114(JP,A)
【文献】特開2003-102444(JP,A)
【文献】特開2000-316518(JP,A)
【文献】特開2000-236844(JP,A)
【文献】特開2007-061015(JP,A)
【文献】特開2012-249553(JP,A)
【文献】特開2002-325552(JP,A)
【文献】特開2016-123329(JP,A)
【文献】南インド屋 [オンライン], 2018.03.17 [検索日 2022.11.18], インターネット:<URL:http://minami-indo.com/spice-class-vol1>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/10
A23L 27/00
A23L 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターメリック
、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー
、パプリカ、
及びフェヌグリークリーブス
からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa未満の条件下で、加熱価が50~180となるように加熱する工程を含
み、前記加熱する工程は過熱水蒸気を用いたものである、アーモンド香増強香辛料の製造方法。
【請求項2】
前記加熱する工程において加熱される香辛料は、粉砕された香辛料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された方法により、アーモンド香増強香辛料を製造する工程と、
前記アーモンド香増強香辛料を、特徴香香辛料、カラメル香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料群と混合する混合工程とを含み、
前記特徴香香辛料は、未加熱香辛料であるか、又は、未加熱香辛料を加熱価が5以下となる条件で加熱することにより得られた香辛料であり、
前記カラメル香増強香辛料は、コリアンダー、クミン、陳皮、アニス、セロリ、ターメリック、フェヌグリーク、ガーリック、唐辛子、パプリカ、フェンネル、黒胡椒、ジンジャー及びアサフォエティダからなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa以上の圧力下で、加熱価が15~170となる条件で加熱することにより得られたものであり、
前記炭火香増強香辛料は、コリアンダーを、加熱価が800以上となる条件で加熱することにより得られたものである、混合香辛料の製造方法。
【請求項4】
前記特徴香香辛料は、黒胡椒、フェンネル、桂皮、カルダモン、ナツメグ、ローレル、クミン、陳皮、コリアンダー、ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、アニス、セロリ、ガーリック、パプリカ、ジンジャー、アサフォエティダ、シナモン、オールスパイス、ディル、クローブ、スターアニス、アジョワン、タイム、オレガノ、セージ、ローズマリー、タラゴン及びカレーリーブスからなる群から選択される少なくとも1種を原料とする香辛料である、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合工程は、前記アーモンド香増強香辛料を、前記特徴香香辛料、前記カラメル香増強香辛料、及び前記炭火香増強香辛料と混合する工程を含む、
請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記カラメル香増強香辛料が、ホールの香辛料を加熱することにより得られたものである、
請求項3乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の方法により製造されたアーモンド香増強香辛料、又は、請求項3乃至6のいずれかに記載の方法により製造された混合香辛料を他の飲食品材料に添加する工程を含む、
飲食品の製造方法。
【請求項8】
ターメリック
、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー
、パプリカ、
及びフェヌグリークリーブス
からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa未満の条件下で、加熱価が50~180となるように加熱する工程により得られたアーモンド香増強香辛料
であって、前記加熱する工程は過熱水蒸気を用いたものである、アーモンド香増強香辛料。
【請求項9】
前記加熱する工程において加熱される香辛料が、粉砕された香辛料である、請求項8に記載のアーモンド香増強香辛料。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のアーモンド香増強香辛料と、
特徴香香辛料、カラメル香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料群と、を含み、
前記特徴香香辛料は、未加熱香辛料であるか、又は、未加熱香辛料を加熱価が5以下となる条件で加熱することにより得られた香辛料であり、
前記カラメル香増強香辛料は、コリアンダー、クミン、陳皮、アニス、セロリ、ターメリック、フェヌグリーク、ガーリック、唐辛子、パプリカ、フェンネル、黒胡椒、ジンジャー及びアサフォエティダからなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa以上の圧力下で、加熱価が15~170となる条件で加熱する工程により得られたものであり、
前記炭火香増強香辛料は、コリアンダーを、加熱価が800以上となる条件で加熱することにより得られたものである、
混合香辛料。
【請求項11】
請求項8又は9に記載のアーモンド香増強香辛料、又は、請求項10に記載の混合香辛料を含む、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合香辛料及び混合香辛料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カレーパウダー等の混合香辛料は、カレー等の様々な飲食品に使用されている。このような混合香辛料としては、様々なものが上市されている。多くの場合、所望する香味によって複数の香辛料が混合されて製造されている。
【0003】
また、混合香辛料は、通常、複数の香辛料を混合してから加熱処理されるが、香辛料の特徴香が加熱処理によって失われないように加熱処理を短時間にする等、加熱価が小さくなる条件で加熱するのが一般的である。
【0004】
香辛料の加熱処理に関して、これまでにも種々の提案がされている。例えば、特許文献1(特開2003-102444号公報)には、カレー粉の重量100重量部を基準として、20~70重量部の抗酸化性香辛料、及び、5~70重量部の加熱処理済み香辛料を含む香辛料混合物であり、到達品温80~110℃になるまで加熱処理することにより得られたカレー粉が具体的に開示されている。
【0005】
特許文献2(特開昭59-53018号公報)には、フェヌグリークシードを粉砕して粉末状とし、2.0kg/cm2加圧下で湿熱加熱処理する点が具体的に開示されている。
【0006】
特許文献3(特開2014-226069号公報)には、水分を含有する香辛料を半密閉式の容器に充填する工程、及び、香辛料から蒸発した水分を含む雰囲気で、最終品温が80~98℃となるまで加熱処理する工程を含む、香辛料の自己水分加熱殺菌方法が具体的に開示されている。
【0007】
特許文献4(特開平2-177879号公報)には、所定の条件下で過熱水蒸気による加熱殺菌処理を行った後、過熱水蒸気を排出し、所定の条件下でクッキング処理を実施する、食品の加熱処理方法が開示されている。
【0008】
特許文献5(特開2000-93118号公報)には、フェヌグリークを含有する香辛料を、乾熱加熱処理し、加湿処理及び/又は湿熱加熱処理し、次いで必要により熟成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-102444号公報
【文献】特開昭59-53018号公報
【文献】特開2014-226069号公報
【文献】特開平2-177879号公報
【文献】特開2000-93118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
新たな香味を有する香辛料が実現できれば、飲食品に付与することができる香味の幅が広がることとなり、好ましい。
そこで、本発明の課題は、新たな香味を有する香辛料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、香辛料によって異なる特定の条件で加熱することにより、新たな香味を有する香辛料を実現できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の事項を含む。
[1]特徴香香辛料、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも2種の香辛料群を混合する工程を含み、
前記特徴香香辛料は、未加熱香辛料であるか、又は、未加熱香辛料を加熱価が5以下となる条件で加熱することにより得られた香辛料であり、
前記カラメル香増強香辛料は、コリアンダー、クミン、陳皮、アニス、セロリ、ターメリック、フェヌグリーク、ガーリック、唐辛子、パプリカ、フェンネル、黒胡椒、ジンジャー及びアサフォエティダからなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa以上の圧力下で、加熱価が15~170となる条件で加熱することにより得られたものであり、
前記アーモンド香増強香辛料は、ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー、陳皮、ガーリック、パプリカ、フェンネル、アニス、セロリ、黒胡椒、ジンジャー、フェヌグリークリーブス及び桂皮からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa未満の条件下で、加熱価が50~180となるように加熱することにより得られたものであり、
炭火香増強香辛料は、コリアンダーを、加熱価が800以上となる条件で加熱することにより得られたものである、
混合香辛料の製造方法。
[2]前記特徴香香辛料は、黒胡椒、フェンネル、桂皮、カルダモン、ナツメグ、ローレル、クミン、陳皮、コリアンダー、ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、アニス、セロリ、ガーリック、パプリカ、ジンジャー、アサフォエティダ、シナモン、オールスパイス、ディル、クローブ、スターアニス、アジョワン、タイム、オレガノ、セージ、ローズマリー、タラゴン及びカレーリーブスからなる群から選択される少なくとも1種を原料とする香辛料である、[1]に記載の方法。
[3]前記少なくとも2種の香辛料群を混合する工程は、前記カラメル香増強香辛料、前記アーモンド香増強香辛料、及び前記炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料群と、前記特徴香香辛料とを混合する工程を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記少なくとも2種の香辛料群を混合する工程は、前記カラメル香増強香辛料、前記アーモンド香増強香辛料、及び前記炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも2種の香辛料群を混合する工程を含む、[1]乃至[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記少なくとも2種の香辛料を混合する工程は、前記特徴香香辛料、前記カラメル香増強香辛料、前記アーモンド香増強香辛料、及び前記炭火香増強香辛料を混合する工程を含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記カラメル香増強香辛料が、ホールの香辛料を加熱することにより得られたものである、[1]乃至[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記アーモンド香増強香辛料が、粉砕された香辛料を加熱することにより得られたものである、[1]乃至[6]のいずれかに記載の方法。
[8]コリアンダー、クミン、陳皮、アニス、セロリ、ターメリック、フェヌグリーク、ガーリック、唐辛子、パプリカ、フェンネル、黒胡椒、ジンジャー及びアサフォエティダからなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa以上の圧力下で、加熱価が15~170となる条件で加熱する工程を含む、カラメル香増強香辛料の製造方法。
[9]ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー、陳皮、ガーリック、パプリカ、フェンネル、アニス、セロリ、黒胡椒、ジンジャー、フェヌグリークリーブス及び桂皮からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa未満の条件下で、加熱価が50~180となるように加熱する工程を含む、アーモンド香増強香辛料の製造方法。
[10][1]乃至[7]のいずれかに記載の方法により製造された混合香辛料、[8]に記載の方法により製造されたカラメル香増強香辛料、又は[9]に記載の方法により製造されたアーモンド香増強香辛料を他の飲食品材料に添加する工程を含む、飲食品の製造方法。
[11]特徴香香辛料、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも2種の香辛料群を含み、
前記特徴香香辛料は、未加熱香辛料であるか、又は、未加熱香辛料を加熱価が5以下となる条件で加熱することにより得られた香辛料であり、
前記カラメル香増強香辛料は、コリアンダー、クミン、陳皮、アニス、セロリ、ターメリック、フェヌグリーク、ガーリック、唐辛子、パプリカ、フェンネル、黒胡椒、ジンジャー及びアサフォエティダからなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa以上の圧力下で、加熱価が15~170となる条件で加熱することにより得られたものであり、
前記アーモンド香増強香辛料は、ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー、陳皮、ガーリック、パプリカ、フェンネル、アニス、セロリ、黒胡椒、ジンジャー、フェヌグリークリーブス及び桂皮からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa未満の条件下で、加熱価が50~180となるように加熱して得られたものであり、
炭火香増強香辛料は、コリアンダーを、加熱価が800以上となる条件で加熱することにより得られたものである、
混合香辛料。
[12][11]に記載の混合香辛料を含む、飲食品。
[13]香辛料を、ゲージ圧0.05MPa以上の圧力下で、加熱価が15~170となる条件で加熱する工程を含む、カラメル香の増強方法。
[14]香辛料を、ゲージ圧0.05MPa未満の条件下で、加熱価が50~180となるように加熱する工程を含む、アーモンド香の増強方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新たな香味を有する香辛料及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係る混合香辛料は、特徴香香辛料、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも2種の香辛料群を含む。以下、各香辛料について詳述する。
【0015】
1:特徴香香辛料
特徴香香辛料は、未加熱香辛料であるか、又は、未加熱香辛料を加熱価が5以下となる条件で加熱することにより得られた香辛料である。未加熱であるか、又は、加熱量が少ない(加熱価が5以下)ため、特徴香香辛料は、香辛料本来の芳香を有している。
【0016】
本発明において、「加熱価」とは、加熱量の大きさを示すパラメータである。加熱温度が高く、加熱時間が長い程、加熱価が大きくなる。具体的には、加熱価は、下記式によって表される値(以下、CV値という)を、加熱時間(分)で積分した値として求められる。
(式):CV値=10^((品温-基準温度)/Z値)
なお、本発明においては、基準温度を110℃、Z値を30℃とする。
【0017】
詳細には、加熱価は、加熱処理中、香辛料の品温を毎分測定することにより、算出することができる。例えば、5分間の加熱処理において、各時間における品温(℃)が、表1に示される値であったとする。
【表1】
表1に示される加熱処理の場合、加熱価は、0~5分のCV値の合計値であり、下記式により、0.85と計算される。
(式):0.46+0.22+0.10+0.05+0.02=0.85
【0018】
特徴香香辛料の加熱価は、5以下であればよいが、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0019】
特徴香香辛料の原料は特に限定されるものでは無いが、例えば、黒胡椒、フェンネル、桂皮、カルダモン、ナツメグ、ローレル、クミン、陳皮、コリアンダー、ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、アニス、セロリ、ガーリック、パプリカ、ジンジャー、アサフォエティダ、シナモン、オールスパイス、ディル、クローブ、スターアニス、アジョワン、タイム、オレガノ、セージ、ローズマリー、タラゴン及びカレーリーブスからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0020】
加熱価が5以下となる範囲内で加熱処理する方法としては、過熱水蒸気、及び飽和水蒸気等を加熱媒体として用いた方法が好ましく、装置としては、特に限定されるものでは無いが、例えば、粉粒体殺菌装置、高圧蒸気殺菌機等を用いることができる。
【0021】
好ましくは、特徴香香辛料は、過熱水蒸気を用いて、短時間(例えば1~60秒、好ましくは1~15秒)加熱されている。過熱水蒸気の温度は、例えば、110~150℃、好ましくは120~140℃である。
【0022】
加熱処理時における特徴香香辛料の形状は、ホール(粉砕処理が施されていないもの)であってもよいし、粉砕物であってもよいが、好ましくはホールである。
【0023】
2:カラメル香増強香辛料
カラメル香増強香辛料は、香辛料を、ゲージ圧0.05MPa以上の圧力下で、加熱価が15~170となる条件で加熱処理することにより得られた香辛料である。このような条件下で加熱処理することにより、加熱前の芳香に加えて、独特の香味が生じる。具体的には、カラメル香が得られる。
カラメル香増強香辛料の原料は、特に限定されるものでは無いが、コリアンダー、クミン、陳皮、アニス、セロリ、ターメリック、フェヌグリーク、ガーリック、唐辛子、パプリカ、フェンネル、黒胡椒、ジンジャー及びアサフォエティダからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
好ましくは、加熱処理時には、ホールの香辛料が用いられる。ホールを加熱処理することによって、香辛料中の水分が加熱により外部に逃げるのを抑制し、水分量が高い状態で加熱することができるため、カラメル香を効率よく増強することができるといった効果が得られる。尚、加熱処理の後、ホールが粉砕されてもよい。粉砕処理は、当技術分野で通常使用されている手段を用いて、適宜行うことができる。
【0025】
加熱時の圧力は、ゲージ圧0.05MPa以上であればよいが、好ましくはゲージ圧0.05~0.6MPa、より好ましくはゲージ圧0.2~0.6MPa、更に好ましくはゲージ圧0.3~0.5MPaである。加熱時の圧力がゲージ圧0.05MPa以上であれば、香辛料中の水分が加熱により外部に逃げるのを抑制し、水分量が高い状態で加熱することができるため、カラメル香を効率よく増強することができ、さらに特徴香も外部に飛散するのを抑制することができる。加熱時の圧力の上限は特に限定されないが、装置の面から考えるとゲージ圧0.6MPa以下がよい。
【0026】
加熱価は、15~170であればよいが、好ましくは30~150、より好ましくは40~130である。加熱価が15以上であれば、カラメル香を十分に増強することができる。加熱価が170以下であれば、焦げ臭が生じるのを抑えることができる。
加熱時間は、例えば、10~120分、好ましくは、30~90分である。
加熱処理時に到達する品温(最大の品温)は、例えば100~160℃、好ましくは110~150℃、より好ましくは120~140℃である。
【0027】
加熱処理の方法としては、加圧下で加熱することができるものであれば特に限定されるものでは無いが、例えば、加圧加熱撹拌機、レトルト殺菌釜等を挙げることができる。
【0028】
3:アーモンド香増強香辛料
アーモンド香増強香辛料は、香辛料を、圧力がゲージ圧0.05MPa未満の条件下で、加熱価が50~180となるように加熱することにより得られた香辛料である。香辛料をこのような条件下で加熱処理することにより、加熱前の芳香に加えて、独特の香味が得られる。この独特の香味は、カラメル香とも異なる香味であり、アーモンド様の香味である。
アーモンド香増強香辛料の原料は、特に限定されるものでは無いが、ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー、陳皮、ガーリック、パプリカ、フェンネル、アニス、セロリ、黒胡椒、ジンジャー、フェヌグリークリーブス及び桂皮からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
加熱処理時には、好ましくは、ホールではなく、粉砕された香辛料が用いられる。すなわち、ホールの香辛料が粉砕された後、粉砕された香辛料が加熱処理される。粉砕処理は、当技術分野で通常使用されている手段を用いて、適宜行うことができる。粉砕された香辛料を使用することによって、ホールで加熱したときに比べて香辛料中の水分量が少ない状態で加熱すことができ、これにより効率的にアーモンド香を生成することができるといった効果が得られる。
加熱処理に供される際の香辛料の粒度は、例えば、6mm以下である。粒度は、例えば、JISに規定される標準篩の目開きの大きさにより求めることができる。
【0030】
加熱価は、50~180であればよいが、好ましくは60~160、より好ましくは70~150である。加熱価が50以上であれば、アーモンド香を十分に増強することができる。加熱価が180以下であれば、焦げ臭が生じるのを抑制することができる。
加熱処理時に到達する品温(最大の品温)は、例えば100~200℃、好ましくは110~150℃、より好ましくは120~140℃である。
【0031】
加熱処理の方法としては、過熱水蒸気による過熱処理が望ましいが、オーブン等による過熱処理でもよい。過熱水蒸気により加熱処理する場合、加熱処理に使用される過熱水蒸気の蒸気温度は、例えば、100~400℃、好ましくは130~170℃である。
【0032】
加熱処理の方法としては、圧力がゲージ圧0.05MPa未満で加熱することができるものであれば特に限定されるものでは無い。例えば、加熱装置としては、過熱水蒸気渦流混合機、オーブン、平釜焙煎機、縦型加熱混合機、マイクロ波加熱装置等を用いることができる。なお、過熱水蒸気渦流混合機を用いる場合、過熱状態を維持するために、保温又はジャケット加熱を用いることが好ましい。
【0033】
4:炭火香増強香辛料
炭火香増強香辛料は、コリアンダーを、加熱価が800以上となる条件で加熱処理することにより得られたものである。コリアンダーをこのような条件で加熱すると、独特の香味が得られる。この香味は、炭火香であり、加熱前の香辛料、カラメル香増強香辛料、及びアーモンド香増強香辛料とも異なる香味である。
【0034】
コリアンダーの原料としては、ホールのコリアンダーであることが好ましい。ホールのコリアンダーを加熱処理すると、コリアンダーがもともと有していた柑橘様の香りの成分(清涼香)及び焙煎中に生じた芳香成分(焙煎香及び増加した清涼香など)が、コリアンダーの外殻の働きで当該コリアンダー中に保持されやすくなる。一方、仮にコリアンダーを粉砕してから焙煎すると、芳香成分が揮発して拡散し、当該コリアンダー中に各種芳香成分が保持され難くなると考えられる。
【0035】
炭火香増強香辛料は、加熱処理の後に、コリアンダーを粉砕することにより得られた物であってもよい。粉砕処理は、当技術分野で通常使用されている手段を用いて、適宜行うことができる。
【0036】
加熱価は、800以上であればよいが、好ましくは1000~20000、より好ましくは10000~13000である。加熱価が800以上であれば、炭火香を十分に増強することができる。
加熱処理の時間は、例えば、1~40分、好ましくは10~30分である。
加熱処理は、例えば、品温が150~220℃、好ましくは160~200℃に達するような条件で行われる。
【0037】
加熱処理に使用する容器は、特に限定されないが、例えば、開放式容器であってもいいし、密閉式容器であってもよいが、開放式容器が好ましい。加熱処理を行う装置としても、当技術分野で通常使用されている装置を特に制限されることなく採用することができ、例えば、オーブン、直火平釜焙煎機、及び加圧釜などを使用して加熱処理を行ってもよい。
【0038】
5:混合香辛料
既述の通り、本実施形態に係る混合香辛料は、上述した特徴香香辛料、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも2種の香辛料群を含む。すなわち、本実施形態に係る混合香辛料は、少なくとも、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料のいずれか1種を含んでいる。カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料は、いずれも、独特の香味を有する香辛料である。これら3種の香辛料のいずれかを使用することによって、これまでにない新たな香味を飲食品に付与することができる。
【0039】
混合香辛料は、特徴香香辛料、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選択される少なくとも2種の香辛料群を混合する工程を経ることにより、得ることができる。
尚、「混合する工程」において3種以上の香辛料を混合する場合、混合の順序は、特に限定されない。例えば、全ての香辛料を同時に混合してもよいし、各香辛料を順番に添加することにより、3種以上の香辛料群を混合してもよい。
【0040】
混合香辛料の実施形態の一つとしては、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選ばれる少なくとも1種の香辛料群と、特徴香香辛料とを含む。これにより、香辛料が本来有する特有の芳香に加えて、カラメル香、アーモンド香、炭火香のいずれかの香味を付与することができる。
一例では、混合香辛料は、特徴香香辛料、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料を含む。この例では、香辛料が本来有する特有の芳香に加えて、カラメル香、アーモンド香、及び炭火香が付与されている。その結果、食品に、広がりと持続性のある豊かな香味を付与することが可能になる。
この例の場合、混合香辛料中の特徴香香辛料の含有量は、例えば5~50重量%、好ましくは10~30重量%である。
混合香辛料中のカラメル香増強香辛料の含有量は、例えば10~70重量%、好ましくは20~60重量%である。
混合香辛料中のアーモンド香増強香辛料の含有量は、例えば10~70重量%、好ましくは20~60重量%である。
混合香辛料中の炭火香増強香辛料の含有量は、例えば0.1~20重量%、好ましくは1~10重量%である。
【0041】
他の一例に係る混合香辛料は、特徴香香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる。この例に係る混合香辛料によれば、香辛料が本来有する特有の芳香に加えて、アーモンド香及び炭火香が付与されている。その結果、食品に、広がりと持続性のある豊かな香味を付与することが可能になる。
この例の場合、混合香辛料中の特徴香香辛料の含有量は、例えば5~50重量%、好ましくは10~30重量%である。
混合香辛料中のアーモンド香増強香辛料の含有量は、例えば40~90重量%、好ましくは60~80重量%である。
混合香辛料中の炭火香増強香辛料の含有量は、例えば0.1~20重量%、好ましくは1~10重量%である。
【0042】
混合香辛料の他の実施形態としては、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる群から選ばれる少なくとも2種の香辛料群を含む。
一例に係る混合香辛料は、カラメル香増強香辛料、アーモンド香増強香辛料、及び炭火香増強香辛料からなる。この例に係る混合香辛料は、カラメル香、アーモンド香、炭火香を併せ持ち、今までにない加熱感、高い力価、豊かな風味を提供する。
この例の場合、混合香辛料中のカラメル香増強香辛料の含有量は、例えば20~80重量%、好ましくは30~70重量%である。
混合香辛料中のアーモンド香増強香辛料の含有量は、例えば20~80重量%、好ましくは30~70重量%である。
混合香辛料中の炭火香増強香辛料の含有量は、例えば0.1~20重量%、好ましくは1~10重量%である。
本実施形態に係る混合香辛料としては、例えば、カレーパウダー、ガラムマサラ、ウーシャンフェン、七味唐辛子、洋風スパイスミックス、和風スパイスミックス等が挙げられる。
【0043】
6:その他
本実施形態に係る混合香辛料には、当技術分野で通常使用されている種々の添加剤が適宜含まれていてもよい。
【0044】
7:飲食品
別の態様では、本発明は、本実施形態に係る混合香辛料を含む飲食品に関する。
本発明の飲食品は、本実施形態の混合香辛料を、他の飲食品材料に添加して製造してもよい。本発明の飲食品は、特に限定されるものでは無いが、例えば、塩、調味塩、醤油、味噌、ドレッシング、粉末調味料、柚子胡椒、めんつゆ、マヨネーズ、粉末だし、液体だし、おでんの素、スープ、乾燥麺、ラーメン、パスタソース、カレールウ、カレーソース、カレーフィリング、シチュールウ、シチューソース、又はスナック菓子等であってもよい。
また、カレーソース、パスタソース、及びシチューソースの形態としては、レトルト、ペースト状、冷凍状等であってもよい。
【0045】
(実施例)
以下に、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されて解釈されるべきものでは無い。
【0046】
(例1~30)特徴香香辛料(通常殺菌)
黒胡椒のホールを準備した。準備した黒胡椒を、130℃の過熱水蒸気により、5秒間加熱し、例1に係る特徴香香辛料を得た。加熱装置としては、粉粒体殺菌装置を用いた。また、加熱価は、2であった。
また、黒胡椒に代えて、フェンネル、桂皮、カルダモン、ナツメグ、ローレル、クミン、陳皮、コリアンダー、ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、アニス、セロリ、ガーリック、パプリカ、ジンジャー、アサフォエティダ、シナモン、オールスパイス、ディル、クローブ、スターアニス、アジョワン、タイム、オレガノ、セージ、ローズマリー、タラゴン及びカレーリーブスをそれぞれ使用し、例1と同様の条件を採用して、例2~30に係る特徴香香辛料を得た。
【0047】
得られた例1~30に係る香辛料の香味を官能評価により評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。表2-1及び2-2に示されるように、例1~30に係る香辛料は、いずれも、各香辛料が本来有する特有の芳香を維持していた。
【0048】
(例31~44)カラメル香増強香辛料
コリアンダーのホールを準備した。準備したコリアンダーを、密閉条件で、ゲージ圧0.4MPaの加圧下、品温が130℃に達温するまで加熱し、例31に係る香辛料を得た。加熱装置としては、加圧加熱撹拌釜を用いた。加熱価は、58.0であった。
また、コリアンダーに代えて、クミン、陳皮、アニス及びセロリを使用し、例31と同様の条件を採用して、例32~35に係る香辛料を得た。加熱価は、表3に示される通りであった。
また、コリアンダーに代えて、ターメリック、フェヌグリーク、ガーリック、唐辛子、パプリカ、フェンネル、黒胡椒、ジンジャー及びアサフォエティダを使用し、レトルトパウチに香辛料を封入してレトルト殺菌釜を用いて品温120~130℃に達した後、20~30分間加熱したこと以外は例31と同様の条件を採用して、例36~44に係る香辛料を得た。加熱価は、表3に示される通りであった。
【0049】
得られた例31~44に係る香辛料の香味を官能評価により評価した。結果を表3に示す。表3に示されるように、例31~44に係る香辛料は、いずれも、特徴香香辛料が有する芳香、即ち、各香辛料が本来有する芳香に加えて、カラメル香を有していた。
【0050】
(例45~59)アーモンド香増強香辛料
ターメリックの粉砕品(粒度6mm以下)を準備した。準備したターメリックを、常圧下(ゲージ圧0MPa)、150℃の過熱水蒸気を用いて、品温が125℃に到達するまで加熱し、例45に係る香辛料を得た。加熱装置としては、過熱水蒸気渦流混合機を用いた。加熱価は、93.4であった。
また、ターメリックに代えて、唐辛子及びフェヌグリークを使用し、例45と同様の条件を採用して、例46、47に係る香辛料を得た。品温及び加熱価は、表4-1に示される通りであった。
また、ターメリックに代えて、クミン、コリアンダー、陳皮、ガーリック、パプリカ、フェンネル、アニス及びセロリを使用し、350℃の過熱水蒸気を用いたこと以外は例45と同様の条件を採用して、例48~55に係る香辛料を得た。品温及び加熱価は、表4-1及び表4-2に示される通りであった。
また、ターメリックに代えて、黒胡椒、ジンジャー、フェヌグリークリーブス及び桂皮を使用し、オーブンを用いて常圧下、品温175℃で1分間加熱し、例56~59に係る香辛料を得た。加熱価は、表4-2に示される通りであった。
【0051】
得られた例45~59に係る香辛料の香味を官能評価により評価した。結果を表4-1及び4-2に示す。表4-1及び4-2に示されるように、例45~59に係る香辛料は、いずれも、各香辛料が本来有する芳香に加えて特有の香りを有していた。この特有の香りは、カラメル香増強香辛料が有する香味とも異なる、アーモンド様の香味であった。
【0052】
(例60、61)炭火香増強香辛料
コリアンダーのホールを準備した。準備したコリアンダーを、開放常圧下、品温が180℃に達した後、20分間加熱し、例60に係る香辛料を得た。加熱装置としては、直火平釜を用いた。加熱価は、11016であった。
また、コリアンダーのホールを使用し、オーブンを用いて常圧下、品温180℃で4分間加熱して例61に係る香辛料を得た。加熱価は1013であった。
【0053】
得られた例60、61に係る香辛料の香味を官能評価により評価した。結果を表5に示す。表5に示されるように、例60、61に係る香辛料は、コリアンダーが本来有する香味に加えて特有の香りを有していた。この特有の香りは、カラメル香やアーモンド香とは異なる炭火香であった。
【0054】
(実施例1~6、比較例1)混合香辛料
例1乃至61に係る香辛料を、表6~12に示される組成にて混合し、実施例1乃至6及び比較例に係る混合香辛料を得た。得られた各混合香辛料の香味を官能評価により評価した。
【0055】
結果を表6~12に示す。比較例では、香辛料が本来有する芳香が感じられたが、実施例1乃至6に比べると、香味の豊かさや広がりに欠けていた。
これに対して、実施例1に係る混合香辛料は、香辛料が本来有する特有の芳香に加えて、カラメル香、アーモンド香及び炭火香を併せ持っており、広がりと持続性のある豊かな香味を有していた。
実施例2に係る混合香辛料は、香辛料が本来有する特有の芳香に加えて、カラメル香を併せ持っており、広がりと持続性のある豊かな香味を有していた。
実施例3に係る混合香辛料は、香辛料が本来有する特有の芳香に加えて、アーモンド香を併せ持っており、広がりと持続性のある豊かな香味を有していた。
実施例4に係る混合香辛料は、香辛料が本来有する特有の芳香に加えて、カラメル香及び炭火香を併せ持っており、広がりと持続性のある豊かな香味を有していた。
実施例5に係る混合香辛料は、香辛料が本来有する特有の芳香に加えて、アーモンド及び炭火香を併せ持っており、広がりと持続性のある豊かな香味を有していた。
実施例6に係る混合香辛料は、カラメル香、アーモンド香及び炭火香を併せ持ち、これまでにない加熱感と高い力価、豊かな風味を有していた。
【0056】
【表2-1】
【表2-2】
【表3】
【表4-1】
【表4-2】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】