IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ パイクリスタル株式会社の特許一覧

特許7296068カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ
<>
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図1
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図2
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図3
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図4
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図5A
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図5B
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図6
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図7
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図8
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図9
  • 特許-カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】カルコゲン含有有機化合物、有機半導体材料、有機半導体膜、及び有機電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   C07D 333/50 20060101AFI20230615BHJP
   C07D 333/76 20060101ALI20230615BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20230615BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20230615BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20230615BHJP
【FI】
C07D333/50 CSP
C07D333/76
H01L29/78 618B
H10K10/40
H10K85/60
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020539603
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2019034021
(87)【国際公開番号】W WO2020045597
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018163938
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513104479
【氏名又は名称】パイクリスタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡本 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】三谷 真人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】松室 智紀
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/050726(WO,A1)
【文献】特開2009-009965(JP,A)
【文献】特開2013-197193(JP,A)
【文献】特開2014-218434(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106317071(CN,A)
【文献】FITZGERALD,Laurence J.,Structure of diphenanthro[1,2-b;2',2'-d]furan at 191K,ACTA CRYSTALLOGRAPHICA,1993年,C49,1949-1952
【文献】MURAI,Masahito,Transition-metal-catalyzed facile access to 3,11-dialkylfulminenes for transistor applications,ORGANIC LETTERS,2015年,17,708-711
【文献】DE,P.K.,Sulfur containing stable unsubstituted heptacene analogs,ORGANIC LETTERS,2012年,14(1),78-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、H01L、H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1a)又は式(1b)で表される化合物。
【化1】

(式(1a)及び式(1b)中、XはSを示し、R1はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ピリジル基、フリル基、チエニル基又はチアゾリル基を示す。)
【請求項2】
1は、それぞれ独立にフェニルアルキル基又はアルキルフェニル基を示す請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
1は、それぞれ独立に炭素数が7~16のフェニルアルキル基、又は炭素数が7~16のアルキルフェニル基を示す請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
1は、それぞれ独立に炭素数が7~16のフェニルアルキル基を示す請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
1は、それぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基を示す請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
1は、それぞれ独立にハロゲン原子を示す請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
熱重量測定において、窒素雰囲気下で常温から昇温速度5℃/分で昇温させたときに熱減量率が5%となる温度が350℃以上である請求項1~6の何れか一項に記載の化合物。
【請求項8】
下記式(X)で表される化合物。
【化2】
(式(X)中、XはSを示し、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
【請求項9】
下記式(2a)又は式(2b)で表される化合物。
【化3】
(式(2a)及び(2b)中、XはSを示し、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を示す。)
【請求項10】
下記式(3a)又は式(3b)で表される化合物。
【化4】

(式(3a)又は式(3b)中、XはSを示し、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を示し、R2はそれぞれ独立にアルキル基を示す。)
【請求項11】
請求項1~7の何れか一項に記載の化合物を含有する有機半導体材料。
【請求項12】
請求項1~7の何れか一項に記載の化合物を含有する有機半導体膜。
【請求項13】
基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層を有する有機電界効果トランジスタであって、前記有機半導体層が請求項12に記載の有機半導体膜で構成される有機電界効果トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルコゲン含有有機化合物に関する。また、本発明は有機半導体材料、有機半導体膜及び有機電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体は、これまでシリコンなどの無機半導体に比べて電気的特性が劣っていたが、最近では優れた電気的特性を有する材料も開発されつつあり、結晶状態やキャリア移動度などに関する研究が進んでいる。有機半導体の塗布技術は、無機半導体で従来用いられている真空技術と比較して、低コスト、低環境負荷及び大面積化が可能であるという利点を有する。また、室温近傍での製造が可能であるため、プラスチック基板への印刷技術による成膜も可能である。そのため、有機半導体はポストシリコン半導体として次世代型の電子デバイスへの応用が期待されている。
【0003】
半導体膜の特性として、キャリアの移動度を向上させることは、無機半導体膜、有機半導体膜を問わず、常に重要な課題であり、盛んに開発・研究が進められているところ、有機半導体としては、ペンタセンやテトラセン等のポリアセン化合物が高い移動度をもつ有機半導体として知られている。しかしながら、ポリアセン化合物は、一般的に光や酸化に対して不安定であることから、工業的に利用することが難しい材料群である。そこで、化学的安定性を改善するために、ジベンゾチエノチオフェン及びジナフトチエノチオフェン等のように、アセン骨格の一部に硫黄やセレン等のカルコゲン元素を導入した化合物が多数検討されている。
【0004】
特許文献1(国際公開第2014/136827号)には、熱的・化学的安定性に優れ、半導体特性(高いキャリア移動度)を有し、かつ溶媒に対する高い溶解性を有する有機化合物を目的として、以下の化学式で表されるN字型分子構造を有するカルコゲン含有有機化合物が提案されている。
【化1】
[式(1)中、Xは、それぞれ独立に酸素、硫黄又はセレンであり;mは0又は1であり;2つあるnは、それぞれ独立に0又は1であり;R1~R3は、それぞれ独立に水素、フッ素、炭素数1~20のアルキル、アリール、ピリジル、フリル、チエニル又はチアゾリルであり、前記アルキル中の少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、前記アリール、ピリジル、フリル、チエニル及びチアゾリルの環上の少なくとも1つの水素はフッ素及び炭素数1~10のアルキルから選択される少なくとも1種で置き換えられてもよく;
ただし、
(i)m=0の場合には、全てのR1~R3が同時に水素であることはなく;
(ii)mが0である場合において、nが何れも0であるとき、及びnの一方が0であって他方が1であるとき、“両方のXが硫黄であり、かつ全てのR3が同時に同一の原子もしくは基であること”はなく;
(iii)mが0である場合において、nが何れも1であるとき、全てのR3が同時に同一の原子もしくは基であることはなく、かつR3のうち少なくとも一つは水素である。]
【0005】
特許文献2(特開2013-197193号公報)には、合成が容易であり、化学的及び物理的に安定であり、かつ、高いキャリア移動度を示す有機半導体化合物が開示されている。
【化2】
[式(1)中、Xは、酸素、硫黄又はセレンである。]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/136827号
【文献】特開2013-197193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、有機半導体の研究は日進月歩で進んでいるものの、有機半導体の研究開発は発展途上にある。例えばカルコゲン含有有機化合物は実用的な有機半導体化合物として期待されているものの、未だ研究開発の余地が残されており、優れたキャリア移動度をもつ有機半導体化合物であって、これまで報告されていない有機半導体化合物を発明することは有益であると考えられる。
【0008】
このような事情に基づき、本発明は優れたキャリア移動度をもつ新規なカルコゲン含有有機半導体化合物を提供することを課題の一つとする。また、本発明はそのような有機半導体化合物を合成するのに有用な中間体を提供することを別の課題の一つとする。また、本発明はそのような有機半導体化合物を含有する有機半導体材料を提供することを更に別の課題の一つとする。また、本発明はそのような有機半導体材料を含有する有機半導体膜を提供することを更に別の課題の一つとする。また、本発明は、そのような有機半導体膜を有する有機電界効果トランジスタを提供することを更に別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、所定のジグザグ型構造をもつ7環式のカルコゲン含有有機半導体化合物が優れたキャリア移動度を示すことを見出した。本発明は当該知見として基礎として完成したものであり、以下に例示される。
【0010】
[1]
下記式(1a)又は式(1b)で表される化合物。
【化3】

(式(1a)及び式(1b)中、XはS、O又はSeを示し、R1はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ピリジル基、フリル基、チエニル基又はチアゾリル基を示す。)
[2]
1は、それぞれ独立にフェニルアルキル基又はアルキルフェニル基を示す[1]に記載の化合物。
[3]
1は、それぞれ独立に炭素数が7~16のフェニルアルキル基、又は炭素数が7~16のアルキルフェニル基を示す[1]に記載の化合物。
[4]
1は、それぞれ独立に炭素数が7~16のフェニルアルキル基を示す[1]に記載の化合物。
[5]
1は、それぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基を示す[1]に記載の化合物。
[6]
1は、それぞれ独立にハロゲン原子を示す[1]に記載の化合物。
[7]
熱重量測定において、窒素雰囲気下で常温から昇温速度5℃/分で昇温させたときに熱減量率が5%となる温度が350℃以上である[1]~[6]の何れか一項に記載の化合物。
[8]
下記式(X)で表される化合物。
【化4】
(式(X)中、XはS、O又はSeを示し、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
[9]
下記式(2a)又は式(2b)で表される化合物。
【化5】
(式(2a)及び(2b)中、XはS、O又はSeを示し、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を示す。)
[10]
下記式(3a)又は式(3b)で表される化合物。
【化6】

(式(3a)又は式(3b)中、XはS、O又はSeを示し、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を示し、R2はそれぞれ独立にアルキル基を示す。)
[11]
[1]~[7]の何れか一項に記載の化合物を含有する有機半導体材料。
[12]
[1]~[7]の何れか一項に記載の化合物を含有する有機半導体膜。
[13]
基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層を有する有機電界効果トランジスタであって、前記有機半導体層が[12]に記載の有機半導体膜で構成される有機電界効果トランジスタ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、優れたキャリア移動度を示す有機半導体化合物が提供される。また、本発明の好ましい実施形態によれば、優れたキャリア移動度に加えて優れた熱的安定性を示す有機半導体化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】エッジキャスト法の工程を説明するための模式的な斜視図である。
図2図1に続く工程を説明するための模式的な斜視図である。
図3】エッジキャスト法の工程を説明するための模式的な断面図である。
図4】エッジキャスト法の変形例を説明するための模式的な断面図である。
図5A】連続エッジキャスト法の工程を説明するための模式的な断面図である。
図5B】連続エッジキャスト法の工程を説明するための模式的な別の断面図である。
図6】実施例1の化合物の結晶構造及び結晶データを示す。
図7】実施例3の化合物の結晶構造及び結晶データを示す。
図8】実施例4の化合物の結晶構造及び結晶データを示す。
図9】比較例1の化合物の結晶構造及び結晶データを示す。
図10】ボトムゲート-トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.有機半導体化合物)
本発明の一実施形態によれば、下記式(1a)又は(1b)で表される化合物が提供される。当該化合物は半導体特性を示すことから、有機半導体材料として使用可能である。
【化7】

(式(1a)及び(1b)中、XはS、O又はSeを示し、R1はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ピリジル基、フリル基、チエニル基又はチアゾリル基を示す。)
【0014】
Xは、硫黄(S)、酸素(O)又はセレン(Se)であり、高いキャリア移動度を得るという観点からは、酸素(O)又は硫黄(S)が好ましく、硫黄(S)がより好ましい。
【0015】
1は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ピリジル基、フリル基、チエニル基又はチアゾリル基を示す。二つのR1は同一でもよいし、異なっていてもよいが、合成の容易性の観点からは、二つのR1は同一であることが好ましい。ハロゲン原子としては、例えば塩素原子、ヨウ素原子、及び、臭素原子が挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、アルキルフェニル基、ナフチル基、アルキルナフチル基、アントリル基、アルキルアントリル基、フェナントリル基、アルキルフェナントリル基、フルオレニル基、及び、アルキルフルオレニル等が挙げられる。アラルキル基としては、例えばフェニルアルキル基、ナフチルアルキル基、アントリルアルキル基、及び、フェナントリルアルキル基等が挙げられる。ピリジル基としては、例えば2-ピリジル基及び3-ピリジル基が挙げられる。フリル基としては、例えば2-フリル基及び3-フリル基が挙げられる。チエニル基としては、例えば2-チエニル基及び3-チエニル基が挙げられる。チアゾリル基としては、例えば2-チアゾリルが挙げられる。
【0016】
高いキャリア移動度及び高い熱的安定性を両立させるという観点から、R1は、それぞれ独立にアルキル基、フェニルアルキル基及びアルキルフェニル基よりなる群から選択されることが好ましい。また、有機溶媒への溶解性を考慮すると、R1は、それぞれ独立にフェニルアルキル基又はアルキルフェニル基であることがより好ましく、フェニルアルキル基であることが更により好ましい。
【0017】
1がアルキル基である場合、有機溶媒への溶解性を高めるという点及び分子間のπ電子軌道の重なりを高めるという点から、炭素数が1~14のアルキル基であることが好ましく、炭素数が6~14のアルキル基であることが好ましく、炭素数が7~12のアルキル基であることが更により好ましい。アルキル基は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよく、シクロアルキル基のように環状構造を有していてもよいが、結晶中における分子配列の観点から、直鎖状であることが好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、n-ノニル基、3-エチルヘプチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、4-エチルオクチル基、3,7-ジメチルオクチル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、1-ヘキシルヘプチル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-エイコシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-tert-ブチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、及び、シクロノニル基が挙げられる。
【0018】
1がフェニルアルキル基である場合、有機溶媒への溶解性を高めるという点及び分子間のπ電子軌道の重なりを高めるという点から、炭素数が7~22のフェニルアルキル基であることが好ましく、炭素数が8~18のフェニルアルキル基であることがより好ましく、炭素数が8~10のフェニルアルキル基であることが更により好ましい。フェニルアルキル基中のアルキル部分は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよく、環状構造を有していてもよいが、結晶中における分子配列の観点から、直鎖状であることが好ましい。フェニルアルキル基の具体例としては、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(2-フェニルエチル基)、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、及び、5-フェニルペンチル基等が挙げられる。
【0019】
1がアルキルフェニル基である場合、有機溶媒への溶解性を高めるという点及び分子間のπ電子軌道の重なりを高めるという点から、炭素数が7~22のアルキルフェニル基であることが好ましく、炭素数が8~18のアルキルフェニル基であることがより好ましく、炭素数が8~10のアルキルフェニル基であることが更により好ましい。アルキルフェニル基中のアルキル部分は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよく、環状構造を有していてもよいが、結晶中における分子配列の観点から、直鎖状であることが好ましい。アルキルフェニル基の具体例としては、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)、トリメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、エチルフェニル基、及び、プロピルフェニル基等が挙げられる。
【0020】
一実施形態において、上述した式(1a)及び(1b)で表される化合物の結晶は、分子同士が面と辺で接するヘリングボーン型のパッキング様式を取ることができる。このことは、有機薄膜中における二次元的な電気伝導を行う点で有利である。
【0021】
一実施形態において、上述した式(1a)及び(1b)で表される化合物は、熱重量測定において、窒素雰囲気下で常温から昇温速度5℃/分で昇温させたときに熱減量率が5%となる温度が350℃以上である。当該温度は好ましくは400℃以上であり、より好ましくは450℃以上であり、典型的には350℃~500℃である。
【0022】
(2.有機半導体化合物の合成法)
【0023】
上記の有機半導体化合物は、例えば以下のスキームによって合成可能である。
【化8】
【0024】
工程1:式(11)で表される三環式芳香族化合物(例:ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン)をn-ブチルリチウム(n-BuLi)等の有機リチウムでリチオ化した後、ジメチルホルムアミド(DMF)でホルミル化し、式(12)で表されるジホルミル化合物を得る。
【0025】
工程2:式(12)で表されるジホルミル化合物を、パラジウム触媒を用いて1-ハロゲン-4-ヨードベンゼン(例:1-ブロモ-4-ヨードベンゼン)又はヨードベンゼンとオルト位選択的C-H活性化反応させることで、式(13)の化合物(式中、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を表す。)を得る。オルト位選択的C-H活性化反応については、例えば、“Diverse ortho-C(sp2)-H Functionalization of Benzaldehydes Using Transient Directing Groups”、J.-Q. Yu et al., J.Am.Chem.Soc.2017, 139, p888.を参照することができる。
【0026】
工程3:式(13)の化合物を、(アルコキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド([Ph3PCH2OR2]Cl)(R2はアルキル基を指す。)及びカリウム tert-ブトキシド(t-BuOK)と反応させることで、ホルミル基をビニルエーテル化した式(14)の化合物(式中、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を表す。)を得る。この反応は一般的にウィッティヒ反応(Wittig reaction)と呼ばれる反応である。
上記のR2は合成反応で用いる有機溶媒に対する溶解性および目的物の精製のしやすさという点から、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1~4のアルキル基であることが更により好ましく、メチル基が最も好ましい。アルキル基は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよく、シクロアルキル基のように環状構造を有しいてもよいが、反応における収率向上の観点から、直鎖状であることが好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、n-ノニル基、3-エチルヘプチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、4-エチルオクチル基、3,7-ジメチルオクチル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、1-ヘキシルヘプチル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-エイコシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-tert-ブチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、及び、シクロノニル基が挙げられる。
【0027】
工程4:式(14)の化合物に、塩化鉄(III)及びメタノールを作用させることで、ビニルエーテル部分を環化し、式(15)の化合物(式中、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を表す。)を得る。この環化反応については、例えば、“Bismuth-Catalyzed Synthesis of Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (PAHs) with a Phenanthrene Backbone via Cyclization and Aromatization of 2-(2-Arylphenyl)vinyl Ethers” Murai and Takai et al., Org. Lett. 2014, 16, p4136を参照することができる。
【0028】
工程5:式(15)の化合物に対してカップリング反応又は脱ハロゲン化を行うことにより、式(16)の化合物を得ることができる。
【0029】
別法として、下記に示すスキームに従って、工程1で得られる式(12)のジホルミル化合物の3位及び7位の水素原子を臭素等のハロゲン原子に置換して式(17)の化合物を得て、その後、ハロゲン原子をフェニル基に置換することで式(18)の化合物を得て、その後、ホルミル基のビニルエーテル化、及びビニルエーテル部分の環化を経ることで、式(16)の化合物を得てもよい。式(17)の化合物から他の化合物を合成することも可能である。
【化9】
【0030】
上記のスキームにおいて、式(17)で表される化合物の臭素原子は他のハロゲン原子でもよい。従って、本発明の一実施形態によれば、下記式(X)で表される化合物が提供される。
【化10】
(式(X)中、XはS、O又はSeを示し、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
【0031】
工程2において、1-ハロゲン-4-ヨードベンゼンに代えて、2-ハロゲン-4-ヨードベンゼンを使用することで、置換基Aの位置をずらした式(13’)で表される化合物(式中、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を表す。)を得ることも可能である。
【化11】
この場合、工程3では式(14’)の化合物(式中、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を表す。)を得ることができる。
【化12】
そして、工程4では式(15’)の化合物(式中、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を表す。)を得ることができる。
【化13】
最後に、工程5では式(16’)の化合物(式中、Aはそれぞれ独立にハロゲン原子又は水素原子を表す。)を得ることができる。
【化14】
【0032】
(3.有機半導体膜の形成)
本発明の一実施形態によれば、式(1a)及び(1b)の化合物(有機半導体)を含有する有機半導体膜が提供される。有機半導体膜は、例えば、塗布法、印刷法、蒸着法等で形成可能である。塗布法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法及びブレード法が挙げられる。また、本発明者らが開発した、塗布法に分類される、エッジキャスト法(Appl.Phys.Exp.2,111501(2009)参照)及びギャップキャスト法(Adv.Mater.23,1626(2011).参照)も有効である。印刷法としては、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷、平版印刷、凹版印刷及び凸版印刷が挙げられる。印刷法の中でも、本発明の化合物の溶液をそのままインクとして用いプリンタにより行うインクジェット印刷は、簡易な方法であるため好ましい。
【0033】
有機半導体膜を有機半導体素子の一部としてそのまま使用する際には、印刷法によりパターニングを行うことが好ましく、さらに印刷法において、有機半導体の高濃度溶液を用いることが好ましい。高濃度溶液を用いれば、インクジェット印刷、マスク印刷、スクリーン印刷及びオフセット印刷等を活用できる。また、印刷法による有機半導体膜の製造は、加熱や真空プロセスの必要性がなく流れ作業によって製造できるので、低コスト化及び工程変更への対応性を増すことに寄与する。また、印刷法による有機半導体膜の製造は、素子の回路の単純化、製造効率の向上、及び素子の低廉化・軽量化に寄与する。
【0034】
有機半導体溶液の調製に使用される溶媒としては、例えば、3-クロロチオフェン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、乳酸エチル、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、アセトニトリル、アセトン、シクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、ブチルセロソルブ、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,2-ジメトキシベンゼン、3-フェノキシトルエン、アニソール、テトラリン、o-ジクロロベンゼン及びジメチルスルホキシド等の有機溶媒;水;又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0035】
有機半導体溶液は加熱した溶媒中に有機半導体を投入することにより、又は、溶媒中に有機半導体を投入後に加熱することにより作製可能である。溶媒中に投入する有機半導体の形態に特に制限はないが、例えば粉末形態とすることができる。溶媒の加熱温度は化合物の安定性の観点から、沸点以下とするのが好ましく、沸点よりも10℃以下とするのがより好ましく、沸点よりも30℃以下とするのが更により好ましい。また、化合物の安定性かつ化合物の溶解性の観点から、室温~135℃とするのが好ましく、50~135℃とするのがより好ましく、70~90℃とするのが更により好ましい。
【0036】
また、有機半導体溶液中の有機半導体濃度は均質な薄膜を再現性よく得る観点から、0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.025~0.05質量%であることが更により好ましい。
【0037】
以下、代表的な成膜方法であるエッジキャスト法について詳述する。エッジキャスト法自体は、公知の有機半導体の成膜方法であり、例えばWO2011/040155号に記載されている(当該方法の全文を本明細書に援用する)。以下に好適な実施態様について図1~4を参照しながら説明する。
【0038】
有機半導体溶液(以下、「原料溶液」ともいう。)を、図1に示すように、接触部材2の端面及び基板1の表面に同時に接触するように、必要に応じて電極や絶縁膜が形成されている基板1上に供給して、液滴3を形成する。この状態で液滴3を乾燥させることにより、基板1上に有機半導体膜4を形成する。
【0039】
接触部材2は、基板1の表面に戴置された状態でその表面から所定の角度で起立する端面2aを有する。端面2aは典型的には平面形状である。液滴3は、接触部材2の端面2aに接触するように供給される。接触部材2は、例えば樹脂により形成することができるが、以下に説明する機能を適切に果たすものであれば、樹脂以外のどのような材質を用いてもよい。
【0040】
有機半導体膜の製造工程としてはまず、図1に示すように、接触部材2を、端面2aが基板1の所定のA方向を横切るように、望ましくは端面2aがA方向と直交するように基板1上に戴置する。基板1の材質としては、限定的ではないが、ガラス、プラスチック、セラミック、金属などが挙げられる。また、基板1の表面の濡れ性を高めるように、アルキル基、アリール基及びアミノ基に例示される官能基を含有する自己組織化単分子膜などによる処理を行っておくことが望ましい。結晶成長中、接触部材2に対する原料溶液の遠端部と基板1の接触角は小さい方が均質な単結晶膜が得られるからである。この接触角は10°以下とするのが好ましい。基板1は硬質(リジッド)でも軟質(フレキシブル)でもよい。軟質基板を使用すると曲面状の有機半導体膜を形成することも可能となる。この状態で、原料溶液を、端面2aに接触するように基板1の表面上に供給する。供給された原料溶液の液滴3は、端面2aにより保持されて、一定の力が作用する状態になる。この状態の断面形状を、図3に示す。
【0041】
端面2aにより液滴3が保持された状態で乾燥プロセスを行って、液滴3中の溶媒を蒸発させる。それにより、液滴3中では図3に示すように、A方向における端面2aからの遠端縁の部分で順次、溶媒の蒸発により原料溶液が飽和状態になり有機半導体の結晶が析出し始める。溶媒の蒸発に伴う液滴3の遠端縁の移動を、破線e1、e2で示す。溶媒の蒸発とともに有機半導体材料の結晶化が進展し、図2に示すように、有機半導体膜4が成長する。すなわち、基板1のA方向に沿って端面2aに向かって結晶の成長が進み、有機半導体膜4が漸次形成されてゆく。
【0042】
この乾燥プロセスにおいては、原料溶液の液滴3が端面2aに付着した状態によって、端面2aとの接触を介して結晶成長方向を規定する作用が働く。これにより、結晶性の制御効果が得られ、有機半導体の分子の配列の規則性が良好になり、電子伝導性(移動度)の向上に寄与するものと考えられる。
【0043】
乾燥プロセスは、有機半導体の種類にもよるが、基板温度を60~90℃、典型的には70~80℃として大気中で実施することができる。成膜速度は有機半導体の種類にもよるが15~25μm/s程度とすることができる。また、基板温度や溶液中の有機半導体濃度を変化させることにより膜厚を調整可能である。更に後述する連続エッジキャスト法の場合は、接触部材の移動速度によっても膜厚が変化する。
【0044】
以上の製造方法の変形例として、図4に示すように、基板1を所定角度に傾斜させて維持し、接触部材2を、端面2aが基板1の傾斜方向を横切るように、望ましくは端面2aが傾斜方向と直交するように基板1上に戴置する。この状態で、端面2aに接触するように、原料溶液を基板1の表面上に供給する。供給された原料溶液の液滴3は、端面2aにより保持されて、基板1の傾斜方向に懸架された状態になる。基板1を傾斜させることにより、液滴3による濡れ面の大きさを制御し、所望の特性の有機半導体膜を得ることが容易になる。
【0045】
なお、液滴3を形成する方法は、上述の方法に限られない。例えば、接触部材2とともに基板1を原料溶液に浸した状態から取り出すことにより、端面2aに付着した液滴を形成することもできる。
【0046】
その他の変形例としては、連続エッジキャスト法による方法が挙げられる。連続エッジキャスト法は(“Inch-Size Solution-Processed Single-Crystaline Films of High-Mobility Organic Semiconductors”,Junshi Soeda et al., Applied Physics Express 6,The Japan Society of Applied Physics,2013,076503)に紹介されている方法であり、単結晶膜の大面積化を図る上で有利な方法である。連続エッジキャスト法では、図5A及び図5Bに記載するように、基板1の表面に平行な方向であって液滴3から接触部材2が離間する向き(図中の矢印X1及びX2の向き)に基板1と接触部材2とを相対移動させながら前記原料溶液5の供給を連続的に行うことで、前記液滴3中の前記溶媒を蒸発させて接触部材2が移動した後の基板1上に連続的に有機半導体膜4を形成することを含む。原料溶液5の供給は、例えば溶液供給ノズル6を用いて行うことができる。図5A及び図5Bに示すように、接触部材2を基板1の表面と接触部材2の底面に若干の隙間を設け、ノズル6の先端を接触部材の端面2aの反対側の面に配置して、当該隙間に向かって原料溶液5を供給することができる。
【0047】
当該方法によれば、原料溶液5が連続的に供給されるので、原料溶液5からの溶媒の蒸発により結晶の成長が終了することはない。従って、形成される有機半導体膜4の大きさは、接触部材2の端面2aの幅、及び移動距離に応じて、所望の大面積に形成することが可能である。
【0048】
上記相対移動の際、液滴3の大きさが所定の範囲に維持されるように原料溶液5を供給し続けることが、有機半導体膜4の膜厚を一定に保持する観点で望ましい。すなわち、原料溶液5を溶媒の蒸発速度と同等の速度で供給することにより、液滴3を同一寸法に維持する。原料溶液5からの結晶化の速度は、通常の設定によれば1mm/分~数cm/分程度であるため、基板1と接触部材2の相対速度も同等の速度に調整すればよい。これらの操作により、図5Aに示す状態から例えば図5Bに示す状態に進行したとき、接触部材2が移動した後の基板1の表面に、有機半導体膜4が均一な膜厚で連続的に形成される。
【0049】
(4.有機半導体膜)
<4-1.キャリア移動度(平均値)>
移動度は半導体デバイスの応答速度を左右する重要な特性である。本発明に係る有機半導体膜は一実施形態において、5cm2/Vs以上の平均移動度を有することができ、好ましくは7cm2/Vs以上の平均移動度を有することができ、より好ましくは8cm2/Vs以上の平均移動度を有することができ、更により好ましくは10cm2/Vs以上の平均移動度を有することができ、例えば、8~12cm2/Vsの平均移動度を有することができる。
【0050】
本発明において、移動度は一般的に行われるFETの移動度評価法(FET法)に基づいて算出する。即ち、FETの電流式
Id=(W/2L)・μ・Cox(Vg-Vt)^2 ・・・ 飽和領域の場合
(式中、Id:ドレイン電流、Vg:ゲート電圧、Vt:閾値電圧、μ:移動度、Cox:酸化膜容量、W:チャンネル幅、L:チャンネル長を表す。)
から移動度μに関する式に変形し、FETのIdVgの測定値から移動度を決定する。
【0051】
<4-2.膜厚>
有機半導体膜に求められる膜厚は用途によって異なるので特に制限はないが、一般にはチャネル領域以外の抵抗を低減するために薄いのが望ましい。本発明に係る有機半導体膜は、一実施形態において平均膜厚を1μm以下とすることができ、別の一実施形態においては100nm以下とすることができ、更に別の一実施形態においては50nm以下とすることができる。本発明に係る有機半導体膜は好ましい一実施形態において平均膜厚を20nm以下とすることができ、別の一実施形態においては15nm以下とすることができ、更に別の一実施形態においては10nm以下とすることができる。
【0052】
(5.有機半導体素子)
本発明の一実施形態によれば、上記有機半導体膜及び電極を有する有機半導体素子が提供される。具体的には、上記有機半導体膜と、他の半導体特性を有する素子とを組み合わせることによって、有機半導体素子とすることができる。他の半導体特性を有する素子としては、例えば、整流素子、スイッチング動作を行うサイリスタ、トライアック及びダイアックが挙げられる。
【0053】
当該有機半導体素子は、表示素子としても用いることができ、特にすべての部材を有機化合物で構成した表示素子が有用である。
【0054】
表示素子としては、例えば、フレキシブルな、シート状表示装置(例:電子ペーパー、ICカードタグ)、液晶表示素子及びエレクトロルミネッセンス(EL)素子が挙げられる。これらの表示素子は、可撓性を示す高分子から形成される絶縁基板上に、上記有機半導体膜と、この膜を機能させる構成要素を含む1つ以上の層とを形成することで作製することができる。このような方法で作製された表示素子は、可撓性を有しているため、衣類のポケットや財布等に入れて持ち運ぶことができる。
【0055】
表示素子としては、例えば、固有識別符号応答装置を挙げることもできる。固有識別符号応答装置は、特定周波数又は特定符号を持つ電磁波に反応し、固有識別符号を含む電磁波を返答する装置である。固有識別符号応答装置は、再利用可能な乗車券又は会員証、代金の決済手段、荷物又は商品の識別用シール、荷札又は切手の役割、及び会社又は行政サービス等において、書類又は個人を識別する手段として用いられる。
【0056】
固有識別符号応答装置は、ガラス基板又は可撓性を示す高分子から形成される絶縁基板上に、信号に同調して受信するための空中線と、受信電力で動作し、識別信号を返信する本発明の有機半導体素子とを有する。
【0057】
(6.有機電界効果トランジスタ(FET))
本発明に係る有機半導体素子の例としては、有機電界効果トランジスタ(有機FET)が挙げられる。有機FETは、液晶表示素子及びエレクトロルミネッセンス(EL)素子と組み合わせても用いることができる。
【0058】
本発明の有機FETは一実施形態において、基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層を有し、前記有機半導体層が本発明の有機半導体膜で構成される。有機FETは、キャリアの注入効率を上げるために、キャリア注入層を有してもよい。
【0059】
有機FETにおいては、ゲート電極に印加する電圧を制御することによって、ゲート絶縁膜上の有機半導体層界面にキャリアを誘起し、ソース電極及びドレイン電極に流れる電流を制御し、スイッチング動作を行うことができる。
【0060】
一般に、有機FETの構造は、ボトムゲート型構造及びトップゲート型構造に大別され、これらは、さらにトップコンタクト構造及びボトムコンタクト構造に分類される。
【0061】
有機FETとしては、基板上にゲート電極が形成され、さらにゲート絶縁膜及び有機半導体層がこの順で形成された態様をボトムゲート型と呼び;基板上に有機半導体層、ゲート絶縁膜及びゲート電極がこの順で形成された構造をトップゲート型と呼ぶ。
【0062】
また、有機FETとしては、ソース電極及びドレイン電極が有機半導体層の下部(基板側)に配置される態様をボトムコンタクト型FETと呼び;ソース電極及びドレイン電極が有機半導体層の上部(有機半導体層を挟んで基板と反対側)に配置される態様をトップコンタクト型FETと呼ぶ。ソース電極及びドレイン電極と有機半導体層との間のキャリア注入の観点からは、トップコンタクト型構造が、ボトムコンタクト型構造よりも有機FET特性が優れることが多い。
【0063】
基板としては、種々の基板が挙げられる。具体的には、ガラス基板、金、銅及び銀等の金属基板、結晶性シリコン基板、アモルファスシリコン基板、トリアセチルセルロース基板、ノルボルネン基板、ポリエチレンテレフタレート基板等のポリエステル基板、ポリビニル基板、ポリプロピレン基板、ポリエチレン基板が挙げられる。
【0064】
ゲート電極の材料としては、例えば、Al、Ta、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、Pt、In、Ni、Nd、Cr、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ハイドープ等のシリコン、錫酸化物、酸化インジウム及びインジウム錫化合物(Indium Tin Oxide:ITO)等の無機材料;導電性高分子等の有機材料が挙げられる。ただし、導電性高分子は、不純物添加により導電性を向上させる処理がされていても構わない。
【0065】
ゲート絶縁膜の材料としては、例えば、SiO2、SiN、Al23及びTa25等の無機材料;ポリイミド及びポリカーボネート等の高分子材料が挙げられる。
【0066】
ゲート絶縁膜及び基板の表面は、公知のシランカップリング剤、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)、デシルトリエトキシシラン(DTS)、オクタデシルトリエトキシシラン(ODSE)等のアルキル基を有するシランカップリング剤、あるいはトリエトキシトリデカフルオロオクチルシラン(F-SAM)等のフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤を用いて表面処理を行うことができる。HMDS、OTS、DTS、ODSE、F-SAM等を用いた適切な表面処理を行うと、一般に、有機FET層を構成する結晶粒径の増大、結晶性の向上、分子配向の向上等が見られる。結果として、キャリア移動度及びオン/オフ比が向上し、閾値電圧が低下する傾向がある。
【0067】
ソース電極及びドレイン電極の材料としては、ゲート電極と同種の材料を用いることができ、ゲート電極の材料と同一であっても異なっていてもよく、異種材料を積層してもよい。
【0068】
キャリア注入層は、キャリアの注入効率を高めるために必要に応じて、ソース電極及びドレイン電極と、有機半導体層とのいずれにも接する形で設けられる。キャリア注入層は、例えば、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT-CN)及び酸化モリブデン等を用いて製膜される。
【実施例
【0069】
以下に本発明の実施例(発明例)を比較例と共に示すが、これらは本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0070】
(実施例1:ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)
工程1:ヘプタン溶媒中に、ジベンゾチオフェン(1.0当量)、n-ブチルリチウム(2.0当量)及びテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)(3.0当量)を加え、0℃で15分間還流してリチオ化した。次いで、ジメチルホルムアミド(DMF)を加えて室温で1時間ホルミル化し、4,6-ジホルミルジベンゾチオフェンを得た。
【化15】
【0071】
工程2:ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶媒中に、4,6-ジホルミルジベンゾチオフェン(1.0当量)、1-ブロモ-4-ヨードベンゼン(6.0当量)、2-アミノイソ酪酸(0.8当量)、酢酸パラジウム(II)(0.2当量)、トリフルオロ酢酸銀(AgTFA)(3.7当量)、酢酸(20.0当量)を加え、110℃で48時間反応させることで、下記の(3,7-ビス(4-ブロモフェニル)-4,6-ジホルミルジベンゾチオフェン)を得た(収率66%)。
【化16】
【0072】
工程3:テトラヒドロフラン(THF)溶媒中に、工程2で得た化合物(1.0当量)、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド([Ph3PCH2OMe]Cl)(4.0当量)及びカリウムtert-ブトキシド(t-BuOK)(4.0当量)を加えて、0℃で10分間反応させた後、更に室温で16時間反応させることで、ホルミル基をビニルエーテル化した下記の化合物(3,7-ビス(4-ブロモフェニル)-4,6-ビス(メトキシエテニル)ジベンゾチオフェン)を得た(収率61%)。
【化17】
【0073】
工程4:1,2-ジクロロエタン溶媒中に、工程3で得られた化合物(1.0当量)、塩化鉄(III)(0.1当量)及びメタノール(1.0当量)を加え、80℃で3時間反応させることで、ビニルエーテル部分を環化した下記の化合物(4,13-ジブロモ-ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)を得た(収率84%)。
【化18】
【0074】
工程5:テトラヒドロフラン溶媒中に、工程4で得られた化合物とパラジウム炭素(Pd/C)(10質量%Pd)を等重量加え、室温、水素雰囲気化で30時間撹拌することで、脱臭素することにより、下記の化合物(ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)を得た(収率53%)。
【化19】
【0075】
工程5で得られた化合物の単結晶をPVT(Physical Vapor Transport)法により得て、リガク社製の湾曲イメージングプレート単結晶自動X線構造解析装置 R-AXIS RAPID II装置により単結晶X線構造解析を行った。その結果、当該化合物の単結晶はヘリングボーン構造のパッキング様式となっていることが確認された。図6に、当該化合物の結晶構造及び結晶データを示す。
【0076】
工程5で得られた化合物について、熱重量測定-示差熱分析(TG-DTA:Thermogravimetry-Differential Thermal Analy
sis)を行った。測定には高真空差動型示差熱天秤(リガク社製、Rigaku Tharmo Plus EVO II TG 8120)を用いた。大気圧において窒素気流下(100sccm)で常温から昇温速度5℃/分で昇温し、熱減量率が5%となる温度(T95)を求めた。結果を表1に示す。
【0077】
工程5で得られた化合物について、図10に示す構造を有する、ボトムゲート-トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタを製造し、その特性を評価した。この有機薄膜トランジスタは、図10に示されるように、ゲート電極12と、絶縁膜13と、ソース電極14A及びドレイン電極14Bと、有機半導体膜15と、キャリア注入層16と、自己組織化単分子膜17を有する。有機薄膜トランジスタの構造はすべての実施例及び比較例において共通である。
【0078】
<多結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価>
FET特性測定用基板として、シリコン基板(厚さ:0.4mm)の表面に、SiO2の熱酸化膜を有する基板を準備した。この基板の熱酸化膜の表面を、オクチルトリクロロシランで処理した。
次いで、工程5で得られた化合物を厚さ30nmとなるように上記FET特性測定用基板上に真空蒸着し、更にシャドウマスクを用いて金80nmを電極として蒸着した。得られたトランジスタを100℃においてアニールした後、Keithley社製4200-SCS型半導体パラメータアナライザを用いて、ドレイン電圧-60Vの下でゲート電圧を+20Vから-60Vの範囲でスイープし伝達特性を測定した。得られた伝達特性から飽和領域におけるキャリア移動度を先述したFETのIdVgの測定値から求めた。評価結果を表2に示す。
【0079】
(実施例2:4,13-ジフェニル-ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)
実施例1と同様の手順で工程1~工程4までを実施した後、トルエン溶媒中にフェニルマグネシウムブロミド(3.0当量)を加え、0℃に冷却した後、塩化亜鉛(3.2当量)、塩化リチウム(3.2当量)を加え10分間0℃で撹拌した。その後、工程4で得られた化合物(1.0当量)、[1,1’―ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物(0.04当量)を加え110℃で12時間撹拌することで根岸カップリングを行い、下記の化合物(4,13-ジフェニル-ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)を得た(収率95%)。
【化20】
【0080】
当該化合物について、実施例1と同様にT95を求めた結果を表1に示す。
【0081】
<多結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価>
上記化合物について、更に実施例1と同様に多結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価を行った。FET特性測定用基板として、シリコン基板(厚さ:0.4mm)の表面に、SiO2(厚さ:500nm)の熱酸化膜を有する基板を準備した。この基板の熱酸化膜の表面を、トリエトキシトリデカフルオロオクチルシランで処理した。
次いで、当該化合物を厚さ40nmとなるように100℃に加熱した上記FET特性測定用基板上に真空蒸着し、更にシャドウマスクを用いてアクセプタ分子である2,3,5,6-tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane 2nmと金40nmを電極として蒸着した。チャネル外を電流が流れることを防ぐため、波長355nmのパルスレーザーを用いたエッチングによりチャネルを成形した。Keithley社製4200-SCS型半導体パラメータアナライザを用いて、ドレイン電圧-150Vの下でゲート電圧を+50Vから-150Vの範囲でスイープし伝達特性を測定した。得られた伝達特性から飽和領域におけるキャリア移動度を先述したFETのIdVgの測定値から求めた。算出したキャリア移動度が、後述する評価基準のいずれに含まれるかを判定した。評価結果を表2に示す。
【0082】
<単結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価>
FET特性測定用基板として、シリコン基板(厚さ:0.4mm)の表面に、SiO2(厚さ:500nm)の熱酸化膜を有する基板を準備した。この基板の熱酸化膜の表面を、トリエトキシトリデカフルオロオクチルシランで処理した。
上記化合物について、単結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価を行った。当該化合物の単結晶膜をPVT法により得て、上記のFET特性測定用基板上に貼り付け、チャネル長が100μmとなるように設計されたシャドウマスクを用いてアクセプタ分子である2,3,5,6-tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane 2nmと金40nmを電極として蒸着した。チャネル外を電流が流れることを防ぐため、波長355nmのパルスレーザーを用いたエッチングによりチャネルを成形した。Keithley社製4200-SCS型半導体パラメータアナライザを用いて、ドレイン電圧-150Vの下でゲート電圧を+50Vから-150Vの範囲でスイープし伝達特性を測定した。得られた伝達特性から飽和領域におけるキャリア移動度を先述したFETのIdVgの測定値から求めた。算出したキャリア移動度が、後述する評価基準のいずれに含まれるかを判定した。評価結果を表2に示す。
【0083】
(実施例3:4,13-ジ-n-デシル-ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)
実施例1と同様の手順で工程1~工程4までを実施した後、トルエン溶媒中にデシルマグネシウムブロミド(4.0当量)を加え、0℃に冷却した後、塩化亜鉛(4.4当量)、塩化リチウム(4.4当量)を加え10分間0℃で撹拌した。その後、工程4で得られた化合物(1.0当量)、[1,1’―ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物(0.08当量)を加え110℃で24時間撹拌することで根岸カップリングを行い、下記の化合物(4,13-ジ-n-デシル-ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)を得た(収率87%)。
【化21】
【0084】
上記化合物の単結晶を、加熱したo―ジクロロベンゼン溶液から徐冷することで得た後、実施例1と同様に単結晶X線構造解析を行った。図7に、当該化合物の結晶構造及び結晶データを示す。その結果、当該化合物の単結晶はヘリングボーン構造のパッキング様式となっていることが確認された。また、当該化合物について、実施例1と同様にT95を求めた結果を表1に示す。
【0085】
<塗布型単結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価>
FET特性測定用基板として、シリコン基板(厚さ:0.4mm)の表面に、SiO2(厚さ:500nm)の熱酸化膜を有する基板を準備した。この基板の熱酸化膜の表面を、トリエトキシトリデカフルオロオクチルシランで処理した。
上記化合物の粉末をビーカー中のo―ジクロロベンゼン溶媒に0.05wt%の濃度となるように投入し、ホットプレートで110℃まで加熱することにより完全に溶解させた。得られた有機半導体溶液をエッジキャスト法によりホットプレート上の上記FET特性測定用基板に塗布し、70℃に加熱して溶媒を蒸発させ、単結晶有機半導体薄膜を形成した。
次いで、成膜された結晶を活性層として電界効果トランジスタを多数作製し、その伝達特性から移動度を見積もった。まず薄膜上にチャネル長が200μmとなるように設計されたシャドウマスクを用いてアクセプタ分子である2,3,5,6-tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane 2nmと金50nmを電極として蒸着した。その後、0.1wt%の2,3,5,6-tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethaneのアセトニトリル溶媒にデバイスを浸すことでドーピングを施し、ホットプレート上で50℃に加熱して溶媒を蒸発させた。チャネル外を電流が流れることを防ぐため、波長355nmのパルスレーザーを用いたエッチングによりチャネルを成形した。Keithley社製4200-SCS型半導体パラメータアナライザを用いて、ドレイン電圧-150Vの下でゲート電圧を+50Vから-150Vの範囲でスイープし伝達特性を測定した。得られた伝達特性から飽和領域におけるキャリア移動度を先述したFETのIdVgの測定値から求めた。なお、移動度の測定値は活性層に流す電流の方向によって変動するが、ここではそれぞれ最も移動度が高くなる方向に対して電流が流れるようにチャンネルの方向を設定した。算出したキャリア移動度が、下記の評価基準のいずれに含まれるかを判定した。評価結果を表2に示す。
【0086】
(実施例4:4,13-ジフェニルエチル-ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)
実施例1と同様の手順で工程1~工程4までを実施した後、トルエン溶媒中にフェネチルマグネシウムクロリド(3.0当量)を加え、0℃に冷却した後、塩化亜鉛(3.2当量)、塩化リチウム(3.2当量)を加え10分間0℃で撹拌した。その後、工程4で得られた化合物(1.0当量)、[1,1’―ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物(0.05当量)を加え110℃で9時間撹拌することで根岸カップリングを行い、下記の化合物(4,13-ジフェニル-ジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)を得た(収率84%)。
【化22】
【0087】
上記化合物の単結晶を、加熱した1―クロロナフタレン溶液から徐冷することで得た後、実施例1と同様に単結晶X線構造解析を行った。図8に、当該化合物の結晶構造及び結晶データを示す。その結果、当該化合物の単結晶はヘリングボーン構造のパッキング様式となっていることが確認された。また、当該化合物について、実施例1と同様にT95を求めた結果を表1に示す。
【0088】
<塗布型単結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価>
FET特性測定用基板として、シリコン基板(厚さ:0.4mm)の表面に、SiO2(厚さ:500nm)の熱酸化膜を有する基板を準備した。この基板の熱酸化膜の表面を、トリエトキシトリデカフルオロオクチルシランで処理した。
上記化合物の粉末をビーカー中の1―クロロナフタレン溶媒に0.01wt%の濃度となるように投入し、ホットプレートで150℃まで加熱することにより完全に溶解させた。得られた有機半導体溶液をエッジキャスト法によりホットプレート上の上記FET特性測定用基板に塗布し、120℃に加熱して溶媒を蒸発させ、単結晶有機半導体薄膜を形成した。
次いで、成膜された結晶を活性層として電界効果トランジスタを多数作製し、その伝達特性から移動度を見積もった。まず薄膜上にチャネル長が200μmとなるように設計されたシャドウマスクを用いてアクセプタ分子である2,3,5,6-tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane 2nmと金50nmを電極として蒸着した。その後、0.1wt%の2,3,5,6-tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethaneのアセトニトリル溶媒にデバイスを浸すことでドーピングを施し、ホットプレート上で50℃に加熱して溶媒を蒸発させた。チャネル外を電流が流れることを防ぐため、波長355nmのパルスレーザーを用いたエッチングによりチャネルを成形した。Keithley社製4200-SCS型半導体パラメータアナライザを用いて、ドレイン電圧-150Vの下でゲート電圧を+50Vから-150Vの範囲でスイープし伝達特性を測定した。得られた伝達特性から飽和領域におけるキャリア移動度を先述したFETのIdVgの測定値から求めた。なお、移動度の測定値は活性層に流す電流の方向によって変動するが、ここではそれぞれ最も移動度が高くなる方向に対して電流が流れるようにチャンネルの方向を設定した。算出したキャリア移動度が、後述する評価基準のいずれに含まれるかを判定した。評価結果を表2に示す。
【0089】
(比較例1:ジナフト[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)
特許文献2(特開2013-197193号公報)の実施例1に記載の下記の化合物(ジナフト[1,2-b:2’,1’-d]チオフェン)を用意した。
【化23】
【0090】
上記化合物の単結晶を物理気相輸送法により得た後、実施例1と同様に単結晶X線構造解析を行った。図9に、当該化合物の結晶構造及び結晶データを示す。その結果、当該化合物の単結晶はヘリングボーン構造のパッキング様式となっていることが確認された。また、当該化合物について、実施例1と同様にT95を求めた結果を表1に示す。
【0091】
<多結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価>
上記化合物について、実施例1と同様に多結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価を行った。FET特性測定用基板として、シリコン基板(厚さ:0.4mm)の表面に、SiO2(厚さ:500nm)の熱酸化膜を有する基板を準備した。この基板の熱酸化膜の表面を、デシルトリメトキシシランで処理した。
次いで、当該化合物を厚さ40nmとなるように60℃に加熱した上記FET特性測定用基板上に真空蒸着し、更にシャドウマスクを用いてアクセプタ分子である2,3,5,6-tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane 1nmと金30nmを電極として蒸着した。チャネル外を電流が流れることを防ぐため、波長355nmのパルスレーザーを用いたエッチングによりチャネルを成形した。Keithley社製4200-SCS型半導体パラメータアナライザを用いて、ドレイン電圧-100Vの下でゲート電圧を+100Vから-100Vの範囲でスイープし伝達特性を測定した。得られた伝達特性から飽和領域におけるキャリア移動度を先述したFETのIdVgの測定値から求めた。算出したキャリア移動度が、後述する評価基準のいずれに含まれるかを判定した。評価結果を表2に示す。
【0092】
<単結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価>
また、上記化合物について、実施例2と同様に単結晶有機薄膜トランジスタの製造と評価を行った。当該化合物の単結晶膜をPVT法により得て、実施例2と同様のFET特性測定用基板上に貼り付け、チャネル長が200μmとなるように設計されたシャドウマスクを用いてアクセプタ分子である2,3,5,6-tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane 1nmと金30nmを電極として蒸着した。チャネル外を電流が流れることを防ぐため、波長355nmのパルスレーザーを用いたエッチングによりチャネルを成形した。Keithley社製4200-SCS型半導体パラメータアナライザを用いて、ドレイン電圧-150Vの下でゲート電圧を+50Vから-150Vの範囲でスイープし伝達特性を測定した。得られた伝達特性から飽和領域におけるキャリア移動度を先述したFETのIdVgの測定値から求めた。算出したキャリア移動度が、後述する評価基準のいずれに含まれるかを判定した。評価結果を表2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
―評価基準―
A:5.1×100cm2/Vs以上
B:3.1×100cm2/Vs以上5.1×100cm2/Vs未満
C:1.1×10-1cm2/Vs以上3.1×100cm2/Vs未満
D:1.1×10-2cm2/Vs以上1.1×10-1cm2/Vs未満
E:1.1×10-2cm2/Vs未満
【表2】
【0095】
表2の結果から、以下のことがわかる。
比較例1の単結晶を用いた有機薄膜トランジスタはキャリア移動度が高く、有機薄膜トランジスタとして機能するものであった。一方、比較例1の蒸着による有機薄膜トランジスタはキャリア移動度が小さく、有機薄膜トランジスタとして機能させる上で好ましく用いることができなかった。
これに対して、本発明の実施例1及び2の蒸着による多結晶有機薄膜トランジスタは移動度が高く、有機薄膜トランジスタとして機能するものであった。さらに実施例2の単結晶を用いた有機薄膜トランジスタは比較例1の単結晶を用いた有機薄膜トランジスタと比較して、キャリア移動度が高く、有機半導体材料として好ましく用いられることがわかった。また、実施例3及び4の塗布による単結晶有機薄膜トランジスタも同様にキャリア移動度が高く、有機半導体材料として好ましく用いられることがわかった。
【0096】
(実施例5:3,7-ジブロモ-4,6-ジホルミルジベンゾチオフェン)
実施例1で記載した工程1と同様の手順によって、4,6-ジホルミルジベンゾチオフェンを得た後、以下の工程2及び工程3を順に実施した。
工程2:4,6-ジホルミルジベンゾチオフェン(1.0当量)、N-ブロモスクシンイミド(6.2当量)、4-ニトロアントラニル酸(1.0当量)、酢酸パラジウム(II)(0.1当量)、トリフルオロ酢酸銀(AgTFA)(0.1当量)、p―トルエンスルホン酸一水和物(2.0当量)の混合物に、4,6-ジホルミルジベンゾチオフェンの濃度が0.1Mとなるように1,2―ジクロロエタンとトリフルオロ酢酸の体積1:1混合溶媒を加え、90℃で12時間反応させることで、下記の(3,7-ジブロモ-4,6-ジホルミルジベンゾチオフェン)を得た(収率83%)。
【化24】
工程3:トルエン溶媒中に3,7-ジブロモ-4,6-ジホルミルジベンゾチオフェン(1.0当量)、フェニルトリメチルスタンナン(3.0当量)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.05当量)を加え、110℃で48時間反応させることで、下記の(3,7-ジフェニル-4,6-ジホルミルジベンゾチオフェン)を得た(収率79%)。
【化25】
【0097】
上記の3,7-ジフェニル-4,6-ジホルミルジベンゾチオフェンに対して、ビニルエーテル部分を実施例1の工程3及び工程4で述べたのと同様の方法で環化することで、実施例1のジフェナントロ[1,2-b:2’,1’-d]チオフェンを合成することが可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 基板
2 接触部材
2a 端面
3 液滴
4 半導体膜
5 原料溶液
6 溶液供給ノズル
12 ゲート電極
13 絶縁膜
14A ソース電極
14B ドレイン電極
15 有機半導体膜
16 キャリア注入層
17 自己組織化単分子膜
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10