(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】成膜装置、有機デバイスの製造装置および有機デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20230615BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230615BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230615BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20230615BHJP
H05B 33/26 20060101ALI20230615BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230615BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C23C14/56 G
C23C14/06 Q
H05B33/14 A
H05B33/22 B
H05B33/26 Z
H05B33/10
H05B33/02
(21)【出願番号】P 2018221513
(22)【出願日】2018-11-27
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】10-2018-0075533
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有坂 卓也
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-332803(JP,A)
【文献】特開2009-071214(JP,A)
【文献】特開2005-314730(JP,A)
【文献】特開2005-122980(JP,A)
【文献】特開2018-022619(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0047969(US,A1)
【文献】国際公開第2013/118764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 51/50-51/56
H01L 27/32
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を搬送手段により順次搬送しながら、前記基板上に有機物からなる層と無機物からなる層を成膜する成膜装置であって、
前記基板上に有機物からなる層を形成する第1成膜室と、
前記第1成膜室より前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記基板上に無機物からなる層を形成する第2成膜室と、
前記第2成膜室より前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記基板を一時的に滞留させる滞留室と、
前記第1成膜室を含む複数の成膜室がクラスタ状に配置された第1クラスタと、
前記第1クラスタより前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記第2成膜室を含む複数の成膜室がクラスタ状に配置された第2クラスタと、
前記第2クラスタより前記基板の搬送経路の下流側に配置され、複数の成膜室がクラスタ状に配置された第3クラスタと、
を備え、
前記滞留室は、複数の前記基板を同時に内部に滞留させるための複数の基板保持部を有し、
前記滞留室より下流側の装置を停止させた後に、前記第1成膜室で第1の有機層が形成された基板を前記第2成膜室に搬入し、前記第2成膜室で前記第1の有機層の上に第1の無機層の形成を行い、前記第2成膜室で前記第1の無機層が形成された基板を前記滞留室に搬入して滞留させる
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記搬送手段は、前記第1成膜室で有機物からなる層が形成された前記基板を前記第2成膜室に搬送し、前記第2成膜室で前記基板上に無機物からなる層が形成された後に、当該基板を前記滞留室に搬送することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第2クラスタは、前記滞留室を含むことを特徴とする請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記滞留室は、前記第2クラスタと前記第3クラスタとの間に配置されることを特徴と
する請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記第3クラスタは、前記滞留室を含み、
前記滞留室は、前記第3クラスタ内において前記第3クラスタの有する前記成膜室の上流側に配置されることを特徴とする請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項6】
基板を搬送手段により順次搬送しながら、前記基板上に有機物からなる有機層と無機物からなる電極層とを成膜する有機デバイスの製造装置であって、
前記基板上に有機物からなる有機層を形成する第1成膜室と、
前記第1成膜室より前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記基板上に無機物からなる電極層を形成する第2成膜室と、
前記第2成膜室より前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記基板を一時的に滞留させる滞留室と、
前記第1成膜室を含む複数の成膜室がクラスタ状に配置された第1クラスタと、
前記第1クラスタより前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記第2成膜室を含む複数の成膜室がクラスタ状に配置された第2クラスタと、
前記第2クラスタより前記基板の搬送経路の下流側に配置され、複数の成膜室がクラスタ状に配置された第3クラスタと、
を備え、
前記滞留室は、複数の前記基板を同時に内部に滞留させるための複数の基板保持部を有し、
前記滞留室より下流側の装置を停止させた後に、前記第1成膜室で第1の有機層が形成された基板を前記第2成膜室に搬入し、前記第2成膜室で前記第1の有機層の上に第1の無機層の形成を行い、前記第2成膜室で前記第1の無機層が形成された基板を前記滞留室に搬入して滞留させる
ことを特徴とする有機デバイスの製造装置。
【請求項7】
前記搬送手段は、前記第1成膜室で有機物からなる有機層が形成された前記基板を前記第2成膜室に搬送し、前記第2成膜室で前記基板上に無機物からなる電極層が形成された後に、当該基板を前記滞留室に搬送することを特徴とする請求項
6に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項8】
前記第2クラスタは、前記滞留室を含むことを特徴とする請求項
6に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項9】
前記滞留室は、前記第2クラスタと前記第3クラスタとの間に配置されることを特徴とする請求項
6に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項10】
前記第3クラスタは、前記滞留室を含み、
前記滞留室は、前記第3クラスタ内において前記第3クラスタの有する前記成膜室の上流側に配置されることを特徴とする請求項
6に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項11】
前記滞留室は、複数の前記基板を滞留させるための複数の段を備えることを特徴とする請求項
6から請求項
10のいずれか一項に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項12】
前記有機層は、電子輸送層または電子注入層であることを特徴とする請求項
6から請求項
11のいずれか一項に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項13】
前記電極層は、陰極層であることを特徴とする請求項
6から請求項
12のいずれか一項に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項14】
前記第3クラスタの有する前記成膜室は、前記第2成膜室で形成された電極層の上に有機層または無機層を形成する成膜室であることを特徴とする請求項
6から請求項13のいずれか1項に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項15】
前記第3クラスタの有する前記成膜室は、光の外部取り出し効率を高めるためのキャッピング層を形成する成膜室であることを特徴とする請求項
14に記載の有機デバイスの製造装置。
【請求項16】
請求項6に記載の有機デバイスの製造装置を用いて、基板を
前記搬送手段により順次搬送しながら、前記基板上に有機物からなる有機層と無機物からなる電極層とを成膜する有機デバイスの製造方法であって、
前記第1成膜室で前記基板上に有機物からなる有機層を形成する有機層形成工程と、
前記有機層が形成された基板を
前記第2成膜室に搬送し、前記第2成膜室で前記有機層の上部に無機物からなる電極層を形成する電極層形成工程と、
前記電極層が形成された基板を
前記滞留室に搬送して一時的に滞留させる基板滞留工程と、
を含み、
前記基板滞留工程では、複数の基板保持部によって、複数の前記基板を同時に前記滞留室の内部に滞留させ、
前記滞留室より下流側の装置を停止させた後に、前記第1成膜室で第1の有機層が形成された基板を前記第2成膜室に搬入し、前記第2成膜室で前記第1の有機層の上に第1の無機層の形成を行い、前記第2成膜室で前記第1の無機層が形成された基板を前記滞留室に搬入して滞留させる
ことを特徴とする有機デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記有機層形成工程は、電子輸送層または電子注入層を形成する工程であることを特徴とする請求項
16に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項18】
前記電極層形成工程は、陰極層を形成する工程であることを特徴とする請求項
16または請求項
17に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項19】
前記陰極層が形成された基板を前記滞留室から受け、前記陰極層の上に有機層または無機層を形成する追加層形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項
18に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項20】
前記追加層形成工程で形成される層は、光の外部取り出し効率を高めるためのキャッピング層であることを特徴とする請求項
19に記載の有機デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、有機デバイスの製造装置および有機デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、フラットパネルディスプレイとして有機電界発光ディスプレイ(有機EL表示装置)が脚光を浴びている。有機電界発光ディスプレイは、自発光ディスプレイであり、応答速度、視野角、薄型化などの特性が液晶パネルディスプレイより優れており、モニター、テレビ、スマートフォンに代表される各種携帯端末などで既存の液晶パネルディスプレイを急速に代替している。また、自動車用ディスプレイ等にも、その応用分野が広がっている。
【0003】
有機電界発光ディスプレイを構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)は、2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に、発光を起こす有機層である発光層を含む機能層が形成された基本構造を有する。カソード電極およびアノード電極の間に配置される層は、発光層以外にも、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、正孔注入層などをさらに含むことができる。有機発光素子の機能層および電極層は、例えば、それぞれの層を構成する材料を真空チャンバー内でマスクを介して基板に蒸着させることで製造することができる。
【0004】
特許文献1には、従来の有機発光素子の製造装置として、基板を連続搬送しながら基板に有機物を蒸着する第1蒸着部と、有機物が蒸着された前記基板を連続搬送しながら前記基板に無機物を蒸着する第2蒸着部との間に、基板を一時的に滞留させる滞留部を配置したものが開示されている。
【0005】
しかし、有機発光素子の機能層は劣化速度が速く、有機発光素子の機能層を構成する有機層は劣化速度が特に速い。したがって、上記従来例では、劣化速度の速い機能層が露出したまま滞留する時間が長くなり、製造される有機デバイスである有機発光素子の歩留まりを低下させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、機能層が露出したまま滞留する基板の数を減らし、歩留まりの低下を抑制できる成膜装置、有機デバイスの製造装置および有機デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による成膜装置は、基板を搬送手段により順次搬送しながら、前記基板上に有機物からなる層と無機物からなる層を成膜する成膜装置であって、前記基板上に有機物からなる層を形成する第1成膜室と、前記第1成膜室より前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記基板上に無機物からなる層を形成する第2成膜室と、前記第2成膜室より前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記基板を一時的に滞留させる滞留室と、
前記第1成膜室を含む複数の成膜室がクラスタ状に配置された第1クラスタと、前記第1クラスタより前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記第2成膜室を含む複数の成膜室がクラスタ状に配置された第2クラスタと、前記第2クラスタより前記基板の搬送経路の下流側に配置され、複数の成膜室がクラスタ状に配置された第3クラスタと、を備え、前記滞留室は、複数の前記基板を同時に内部に滞留させるための複数の基板保持部を有し、前記滞留室より下流側の装置を停止させた後に、前記第1成膜室で第1の有機層が形成された基板を前記第2成膜室に搬入し、前記第2成膜室で前記第1の有機層の上に第1の無機層の形成を行い、前記第2成膜室で前記第1の無機層が形成された基板を前記滞留室に搬入して滞留させることを特徴とする。
【0009】
本発明の他の一態様による有機デバイスの製造装置は、基板を搬送手段により順次搬送しながら、前記基板上に有機物からなる有機層と無機物からなる電極層とを成膜する有機デバイスの製造装置であって、前記基板上に有機物からなる有機層を形成する第1成膜室と、前記第1成膜室より前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記基板上に無機物からなる電極層を形成する第2成膜室と、前記第2成膜室より前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記基板を一時的に滞留させる滞留室と、前記第1成膜室を含む複数の成膜室がクラスタ状に配置された第1クラスタと、前記第1クラスタより前記基板の搬送経路の下流側に配置され、前記第2成膜室を含む複数の成膜室がクラスタ状に配置された第2クラスタと、前記第2クラスタより前記基板の搬送経路の下流側に配置され、複数の成膜室がクラスタ状に配置された第3クラスタと、を備え、前記滞留室は、複数の前記基板を同時に内部に滞留させるための複数の基板保持部を有し、前記滞留室より下流側の装置を停止させた後に、前記第1成膜室で第1の有機層が形成された基板を前記第2成膜室に搬入し、前記第2成膜室で前記第1の有機層の上に第1の無機層の形成を行い、前記第2成膜室で前記第1の無機層が形成された基板を前記滞留室に搬入して滞留させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、機能層が露出したまま滞留する基板の数を減らし、歩留まりの低下を抑制できる成膜装置、有機デバイスの製造装置および有機デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の有機デバイスの製造装置を用いて製造される有機発光素子を含む有機EL表示装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る有機デバイスの製造装置の一例の一部分を示す模式図である。
【
図3】
図3は、有機層成膜用の成膜室OCに設けられる成膜装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、無機層成膜用の成膜室MCに設けられる成膜装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、バッファ室内に設けられる基板支持構造体(カセット)の一例の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る有機デバイスの製造装置の一例の一部分を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本発明の第3の実施形態に係る有機デバイスの製造装置の一例の一部分を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は、本発明の好ましい構成を例示的に表すものであり、本発明の範囲は、これらの構成に限定されない。また、以下の説明において、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理の流れ、製造条件、大きさ、材質、形状等は、特に特定的な記載がない限り、本発明の範囲をこれに限定しようとする趣旨ではない。
【0014】
<有機デバイスとしての有機EL表示装置の構成>
まず、本発明の実施例に係る有機デバイスの製造装置を用いて製造する有機デバイスの例として、有機発光素子を含む有機EL表示装置の構成について説明する。
図1(a)は有機EL表示装置50の全体図、
図1(b)は1画素の断面構造を表している。
【0015】
図1(a)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数
備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置50の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの組合せにより画素52が構成されている。画素52は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0016】
図1(b)は、
図1(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、発光層56R、56G、56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2電極(陰極)58と、を備える有機発光素子を有している。第1電極54と正孔輸送層55との間には、第1電極54からの正孔の注入を容易にするため、正孔注入層がさらに配置されていてもよい。また、第2電極58と電子輸送層57との間には、第2電極58からの電子の注入を容易にするため、電子注入層がさらに配置されていてもよい。
【0017】
第1電極54から注入される正孔と第2電極58から注入される電子は、それぞれ、正孔輸送層55と電子輸送層57を経て、発光層56R、56G、56Bに移動し、発光層56R、56G、56Bで再結合して光を生成する。これら第1電極54と第2電極58との間に配置される正孔輸送層55(及び正孔注入層)、発光層56R、56G、56B、電子輸送層57(及び電子注入層)が機能層に当たる。また、図示していないが、第2電極58の上部には、第2電極58の少なくとも一部を覆うように、キャッピング層や遮断層が形成されていてもよい。
【0018】
キャッピング層は、発光層56R、56G、56Bで生成された光が発光素子の外部に取り出される外部取り出し効率を高める効果や、有機発光素子を保護する効果を有する。キャッピング層は、第2電極58を覆うように形成されていることが好ましい。キャッピング層は、α-NPD、NPB、TPD、m-MTDATA、Alq3またはCuPcなどの有機物からなってもよい。遮断層は、後工程で使用されるプラズマなどが有機発光素子に浸透して、第2電極58や、第2電極58と第1電極54との間に形成されている機能層にダメージを与えないように、プラズマなどを遮断する機能を有する。遮断層は、LiF、MgF2またはCaF2などの無機物からなってもよい。
【0019】
本実施形態では、発光層56Rは赤色を発する有機EL層、発光層56Gは緑色を発する有機EL層、発光層56Bは青色を発する有機EL層である。発光層56R、56G、56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極54と第2電極58とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層(パッシベーション層)60が設けられている。保護層60は、SiNx、SiO2、SiONなどの窒化物、酸化物、酸窒化物を含むことが好ましい。保護層60は多層構造を有していてもよい。
【0020】
有機EL層を発光素子単位に形成するためには、マスクを介して成膜する方法が用いられる。近年、表示装置の高精細化が進んでおり、有機EL層の形成には開口の幅が数十μmのマスクが用いられる。
【0021】
<電子デバイスの製造装置>
次に、本発明の実施例に係る成膜装置を用いた電子デバイスの製造装置について説明する。
図2は、電子デバイスの製造装置の一部の構成の一例を示す模式図である。
図2の電子デバイスの製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、第6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルを製作する。
【0022】
電子デバイスの製造装置は、一般的に
図2に示すように、複数のクラスタ装置を含み、各クラスタ装置1、2、3は、基板に対する処理(例えば、成膜)が行われる複数の成膜室ECと、使用前後のマスクが収納される複数のマスクストックチャンバーMSと、各クラスタ装置の中央に配置される搬送室TRを具備する。各搬送室TRは、
図2に示すように、複数の成膜室ECおよびマスクストックチャンバーMSのそれぞれと接続されている。
【0023】
それぞれの搬送室TR内には、基板およびマスクを搬送する搬送ロボットが配置されている。搬送ロボットは、上流側に配置されたパス室PCから成膜室ECへ、または、成膜室ECから別の成膜室ECへ、基板を搬送する。また、搬送ロボットは、成膜室ECとマスクストックチャンバーMSとの間でマスクを搬送する。搬送ロボットは、例えば、多関節アームに、基板を保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0024】
各成膜室ECには、成膜装置(蒸着によって成膜を行う場合には、蒸着装置とも呼ぶ)が設置される。成膜装置では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクを介して基板上に蒸着される。搬送ロボットとの基板の受け渡し、基板とマスクの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板の固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置によって自動的に行われる。なお、ここでは成膜装置の一例として蒸着装置を挙げ、以下の説明においては真空蒸着装置について主に説明するが、本発明における成膜装置はこれに限定はされない。成膜装置は、基板に対して各種材料を堆積させて成膜を行う装置であればよく、例えば、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置であってもよい。
【0025】
マスクストックチャンバーMSには、成膜室ECでの成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボットは、使用済みのマスクを成膜室ECからマスクストックチャンバーMSのカセットに搬送し、マスクストックチャンバーMSの他のカセットに収納された新しいマスクを成膜室ECに搬送する。
【0026】
クラスタ装置1~3のそれぞれには、電子デバイスの製造装置における基板の搬送経路の上流側および下流側の少なくとも一方に、パス室PCが接続される。各クラスタ装置の上流側に配置されるパス室PCは、上流側からの基板を当該クラスタ装置に搬入するために受け渡す機能を有する。各クラスタ装置の下流側に配置されるパス室PCは、当該クラスタ装置で成膜処理が完了した基板を当該クラスタ装置から搬出し下流側の他のクラスタ装置に受け渡す機能を有する。搬送室TRの搬送ロボットは、上流側のパス室PCから基板を受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜室ECに搬送し、また、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板を成膜室ECから受け取って、下流側に連結されたパス室PCに搬送する。
【0027】
2つのパス室PCの間には、基板の向きを変える旋回室TCが設置される。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板の向きが同じになり、基板処理が容易になる。
【0028】
クラスタ装置2の後段(基板搬送経路下流側)には、当該クラスタ装置2で成膜処理が完了した基板を搬出する位置に、パス室PCの代わりにバッファ室(滞留室;BC)が配置されるが、これについては後で詳細に説明する。
【0029】
このように、本実施形態にかかる有機デバイスの製造装置(有機電界発光素子の製造ライン)は、複数の蒸着ステーションで構成され、各蒸着ステーションは、複数の成膜室ECがクラスタ状に配置されたクラスタ装置1、2、3として構成される。各蒸着ステーション(クラスタ装置)を基板が順に移送されつつ、前述の有機EL表示装置を構成する正孔輸送層55(及び正孔注入層)、発光層56R、56G、56B、電子輸送層57(及び電子注入層)などの各有機層と、無機材料からなる電極層とが一連の蒸着工程を通じて順次形成される。
【0030】
つまり、各蒸着ステーション(クラスタ装置)は、正孔輸送層55(及び正孔注入層)、発光層56R、56G、56B、電子輸送層57(及び電子注入層)などの各有機層を順次形成するための複数の有機層成膜用のクラスタ装置1と、これら有機層成膜用の成膜室ECを含むクラスタ装置1の後段に配置され、発光層を含む有機層の上部に電極層(陰極)58を形成する無機層成膜用(典型的には金属層成膜用)の成膜室ECを含むクラスタ装置2を含む。なお、
図2では、電極層(陰極)成膜前の最後の有機層(電子輸送層または電子注入層)を成膜するための成膜室ECを含むクラスタ装置1のみを示し、それより上流側の各有機層成膜用の成膜室ECを含むクラスタ装置については図示を省略している。また、前述のように、無機層である第2電極(陰極)58の上部にはキャッピング層などの有機層を更に後工程で形成してもよい。このため、無機層成膜用の成膜室ECを含むクラスタ装置2の後段には、この後工程成膜用の成膜室ECを含むクラスタ装置3が更に接続されてもよい。なお、ここではクラスタ装置1が電極層成膜前の最後の有機層を成膜するための成膜室ECを含む例について説明したが、これに限定はされず、クラスタ装置2が、当該最後の有機層を成膜するための成膜室ECを有していてもよい。すなわち、クラスタ装置2は、当該最後の有機層を成膜するための成膜室ECと、電極層を形成するための成膜室ECと、の両方を有していてもよい。
【0031】
各クラスタ装置内の成膜室ECは、成膜材料の種類に応じて、有機層成膜用の成膜室OC(以下、「有機室」とも呼ぶ)と、無機層成膜用の成膜室MC(以下、「金属室」とも呼ぶ)に区分することができる。
以下、成膜室OC、MCに設けられる成膜装置の構成について説明する。
【0032】
<成膜装置>
図3は、成膜装置、特に、有機層成膜用の成膜室OCに設けられる成膜装置4の構成を模式的に示す断面図である。
成膜装置4は真空チャンバー20を具備する。真空チャンバー20の内部は真空などの減圧雰囲気、或いは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される。真空チャンバー20の内部の上部には、基板保持ユニット21とマスク台22とが設けられ、真空チャンバー20の内部の下部には蒸発源23が設置される。
【0033】
基板保持ユニット21は、搬送室TRの搬送ロボットから受け取った基板を保持及び搬送する手段で、基板ホルダとも呼ぶ。
マスク台22は、基板保持ユニット21の下側に設置され、マスク台22上にはマスク
Mが載置される。マスクMは、基板S上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有する。
【0034】
蒸発源23は、基板Sの蒸着面に向かって蒸着材料を放出する放出穴またはノズルを複数備えた構造を持つが、これに限定されず、基板S、マスクMのパターン、蒸着物質の種類等に応じて、適切に選択することができる。例えば、点(point)蒸発源や線状(linear)蒸発源、小型の蒸着物質収容部に蒸着材料を放出する複数の放出穴を備える拡散室を接続した構造の蒸発源などを用いてもよい。
【0035】
成膜装置4は、蒸発レートセンサ26、膜厚計27、電源28などの他の構成部品をさらに含むことができる。蒸発レートセンサ26は、蒸発源23から放出された蒸着材料の蒸発レート(rate)をモニタリングする。膜厚計27は、蒸発レートセンサ26から入力信号を受け膜厚を計測する。電源28は、蒸発源23に設置された加熱装置を制御する。
【0036】
成膜時には、基板Sを搬送ロボットにより搬入して、基板保持ユニット21上に配置する。続いて、マスクMに形成されたアライメントマークと基板Sに形成されたアライメントマークを利用し、マスクMと基板Sのアライメントを行う。マスクMと基板Sのアライメントは、基板保持ユニット21を移動制御し基板Sを移動させて行ってもよく、マスク台22を移動制御しマスクMを移動させて行っても良い。アライメントの終了後、蒸発源23のシャッターを開けて、蒸発源23に接続された移動部29を動かしながら、マスクMのパターンに応じて基板Sに成膜材料(有機層)を蒸着する。このとき、水晶振動子などの蒸発レートセンサ26は、蒸発レートを計測し、膜厚計27で膜厚を換算する。膜厚計27で換算された膜の厚さが目標とする厚さになるまで蒸着を続ける。膜の厚さが目標値に到達すると、蒸発源23のシャッターを閉じて蒸着を終了する。
【0037】
図4(a)は、無機層成膜用の成膜室MCに設けられる成膜装置5の構成を模式的に示す断面図である。
成膜装置5の、真空チャンバー20の内部の上部には基板保持ユニット21とマスク台22とが、真空チャンバー20の内部の下部には蒸発源23がそれぞれ設けられ、蒸発源23から蒸発した成膜材料をマスクMの開口パターンを通じて基板S上に蒸着する基本構成は、前述した有機層成膜用の成膜装置4と変わりがない。
【0038】
有機層成膜用の成膜装置4と異なる点は、無機層成膜用の成膜装置5は、蒸発源として、
図4(b)に示すように、複数のるつぼ230~236が円周上に配置された回転(自転)型の多点蒸発源(リボルバ)を真空チャンバーの下部に複数備え、この蒸発源の上部領域で基板を回転させながら蒸着を行うように構成されている点である。
つまり、成膜時、真空チャンバー20の底面に設けられた各回転型の多点蒸発源23を回転駆動機構(不図示)で回転させて、複数のるつぼのうちあらかじめ定められた蒸着位置に移動してきたるつぼから順に、蒸着材料を蒸発させる。
【0039】
この蒸発源からの蒸着材料の蒸発とともに、真空チャンバーの上部に配置された基板保持ユニット21及びマスク台22を回転シャフト24によって回転させることで、マスクM及びマスクの上に置かれた基板Sを回転させる。これにより、基板S上に蒸着材料を均一な厚さで成膜することができる。
その他、成膜装置5は、有機層成膜用の成膜装置4と同様に、基板Sへの蒸着材料の移動経路を遮蔽または開放制御する蒸発源シャッター25、蒸着材料が蒸発されるレートをモニタリングする蒸発レートセンサ26などをさらに含むことができる。
【0040】
なお、本実施形態では有機層成膜用の成膜室OCと無機層成膜用の成膜室MCとで、成
膜装置の構成が異なる例について説明したが、これに限定はされない。例えば、有機層成膜用の成膜室OCと無機層成膜用の成膜室MCの両方に、成膜装置4を配置してもよい。
【0041】
<バッファ室(滞留室)の配置>
(第1の実施形態)
図2に戻り、無機層成膜用の成膜室(金属室)MCの後段にバッファ室(滞留室とも呼ぶ)BCを配置する構成について説明する。
図示したように、本発明の一実施例では、金属室MCより下流側に基板を一時滞留させるバッファ室BCを設けている。示した例では、複数の金属室MC、より具体的には、発光層を含む有機発光素子を構成する各機能層が成膜された基板に対し金属または金属酸化物などの無機材料からなる電極層(陰極)を成膜するための金属室MCを備えたクラスタ装置2と、電極層(陰極)の上部に前述のキャッピング層や遮断層、保護層などを更に形成するための後工程成膜用のクラスタ装置3との間に、バッファ室BCを配置している。
【0042】
バッファ室BCは、上流側の成膜室で蒸着が完了した基板を後続の蒸着工程が行われる下流側の成膜室に移送する前に、一時滞留させる装置である。
バッファ室BCには、複数の基板を積載し一時滞留(収納)させるための基板支持構造体としてのカセットと、基板の搬出入時に搬出入位置までカセットを昇降させる昇降機構が設置される。
【0043】
図5は、バッファ室BC内に設置される基板支持構造体(カセット)の一例の構成を示したものであるが(
図5(a)は正面図、
図5(b)は上面図である)、カセットの構造及びこれを用いるバッファ室BCの構成はこれに限定されない。
図示したように、カセット30は、カセットの側面から中央に向かって支持プレート対31a、31bが複数の段に対向配置される構造となっている。対向する支持プレート対31a、31bの間には、基板の搬入・搬出の際、基板を移送するロボットハンド33と干渉しないように間隔Pが形成されている。各支持プレート上に形成されている複数の支持部32によって滞留する基板を支持する。
【0044】
前述のように、有機電界発光素子の製造ラインでは、複数の蒸着ステーションに基板を移動させながら、発光層を含む一連の機能層を順次成膜する工程と、これら機能層が成膜された基板に対し第2電極としての陰極を金属または金属酸化物などの無機材料で成膜する工程と、また、必要に応じて電極上部にキャッピング層や遮断層、保護層などの追加の層(有機層または無機層)を後工程で成膜する工程とを順次に行う。
【0045】
上述の製造ラインを通じて工程を進行する途中、トラブルが発生したりして、異常点検などのため装置を一時停止させる場合がある。このように、必要に応じて装置を一時停止させる場合、従来は、成膜進行中の基板は成膜室(または、近くのパス室)内にそのまま滞留させていた。例えば、有機層の成膜が行われていた基板は、当該成膜室(有機室)(または、近くのパス室)内で当該有機層が成膜された状態のまま滞留されていた。
【0046】
ところが、有機発光素子を構成する前述の各構成要素のうち、一対の電極の間に形成される各機能層、とりわけ有機層は、成膜が行われたまま露出される場合、劣化速度が無機層より速い。
そのため、従来のように、各機能層の成膜が行われた基板が、当該成膜室(または、近くのパス室)内で機能層が露出したまま滞留する時間が長くなると、成膜された機能層の劣化を招き、有機発光素子の歩留まりを低下させる恐れがあった。これは、有機層が露出したまま滞留する時間が長くなる場合に、特に顕著になる。
【0047】
本発明の一実施形態に係る成膜装置では、金属室MCより下流側に基板を一時滞留させ
るバッファ室BCを配置することで、このような課題を解決している。
つまり、異常点検などのため装置を一時停止させる必要がある場合、その時点において有機室OCで有機層の成膜が行われていた基板など、機能層の成膜が行われていた基板は、そのまま滞留させるのではなく、順次成膜を続け、金属室MCにおける無機材料からなる電極層の形成までは行った後で、その後段に設置されたバッファ室BCで基板を滞留させるようにしている。
これにより、装置を一時停止させる場合であっても、有機層などの機能層が露出したまま滞留される基板の数を減らすことができ、歩留まりの低下を抑制できる。
【0048】
また、本発明の一実施例のように、電極(陰極)層成膜のための金属室MCの後段にバッファ室BCを設置していると、装置を一時停止させる場合だけでなく、通常の運用時にも同様の効果を期待することができる。
【0049】
前述のように、陰極電極層の形成の後には、必要に応じてキャッピング層や遮断層、保護層などを後工程でさらに成膜することがあるが、この後工程での成膜処理速度は、前の工程(発光層を含む各機能層成膜工程、電極(陰極)層成膜工程)での処理速度と、差がある(通常、後工程での処理速度の方が遅い)。従来は、後工程での処理速度に合わせて前の工程の処理速度を意図的に遅くし、工程間の処理速度の差を減らしていた。しかしながら、この場合は、発光層を含む各機能層の成膜工程を含む全体的な工程が遅く進行されるようになり、その分、有機層を含む機能層が成膜された状態で露出している時間が長くなる。
【0050】
本発明の一実施例のように、電極(陰極)層成膜用の金属室MCと後工程用の成膜室との間に基板を一時的に滞留させるバッファ室BCを設置すれば、バッファ室BCによって上述の工程間の処理速度の差を吸収することができるので、前工程の処理速度を意図的に遅らせる必要がなく、金属室MCでの電極(陰極)層の形成までを本来の速い処理速度で遅滞なく進めることができ、有機層を含む各機能層が成膜された状態で露出する時間を従来よりも短縮することができる。
【0051】
(第2、第3の実施形態)
金属室MCの後段にバッファ室BCを配置することを特徴とする本発明の構成は、前述した実施例の構成に限定されない。
例えば、
図6および
図7は、それぞれ、本発明の他の実施形態に係る電子デバイスの製造装置の構成を示している。
【0052】
上述の第1の実施形態は、クラスタ装置2とクラスタ装置3を連結するライン上にバッファ室BCを設置する構成であったのに対して、
図6の第2の実施形態、及び
図7の第3の実施形態は、それぞれ、クラスタ装置2、またはクラスタ装置3の内部にバッファ室BCを設置する構成である。
【0053】
つまり、
図6に示す第2の実施形態は、電極(陰極)層成膜用の複数の金属室MCを備えたクラスタ装置2内において金属室MCの下流側の位置にバッファ室BCを配置した構成であり、
図7に示す第3の実施形態は、電極(陰極)の上部にキャッピング層や遮断層、保護層などの追加層を成膜するための後工程成膜用のクラスタ3内において当該クラスタの成膜室ECより上流側の位置にバッファ室BCを配置した構成である。
【0054】
これら第2および第3の実施形態の構成によっても、有機層が露出したまま滞留する基板の数を減らすことができ、歩留まりの低下を抑制できる同様の効果が得られる。なお、第2および第3の実施形態では、バッファ室BCをクラスタ装置の搬送室TRとのみ接続しているため、通常時など、基板を滞留させる必要が無い場合にはバッファ室BCを経由
せずに順次成膜を行うことができる構成となっている。そのため、これらの実施形態によれば、第1の実施形態に比べて通常時のタクトタイムを短縮することができる。
【0055】
また、図示していないが、第1の実施形態と、第2および/または第3の実施形態を組み合わせて、電極(陰極)層成膜用の金属室MCを備えたクラスタ装置2と後工程成膜用のクラスタ装置3との間のライン上の位置、及び、各クラスタ装置2、3内の位置に、複数のバッファ室BCを配置する構成も勿論可能であり、これによっても同様の効果が得られる。
【0056】
また、以上の説明では、各蒸着ステーションが複数の成膜室を備えるクラスタタイプとして構成される場合に本発明を適用した例を主に説明したが、本発明はこれに限定されず、個々の個別成膜室が一列に連結される、いわゆる「インライン(in-line)」タイプの製造ラインにも適用可能であることは言うまでもない。つまり、正孔輸送層(および正孔注入層)、発光層、電子輸送層(および電子注入層)などの一連の機能層をそれぞれ順次に成膜する複数の成膜室(典型的には有機室)と、電極(陰極)層成膜用の金属室が一列に接続されて構成されるインラインタイプの製造装置においても、電極(陰極)層成膜用の金属室の後段に金属層の成膜までが行われた基板を一時的に滞留させるバッファ室を配置することで、本発明を適用することができる。
【0057】
<有機デバイスの製造方法>
次に、前述した
図1を参照し、本発明の実施例に係る有機デバイスの製造装置を用いた有機デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、有機デバイスの例として有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0058】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極(陽極)54が形成された基板53を準備する。なお、基板53は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。基板53は、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルム基板が積層された基板であってもよい。
第1電極54が形成された基板53の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0059】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層55を、表示領域の第1電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層55は表示領域51よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0060】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板53の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層56Rを成膜する。本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0061】
発光層56Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層56Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層56Bを成膜する。発光層56R、56G、56Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の発光層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0062】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜装置に移動し、第2電極(陰極)58を成膜する。以上の各有機層55、56、57と、金属または金属酸化物の無機材料からなる第2電極(陰極)58までの成膜が完了すると、基板53をバッファ室に移動させ一時滞留させた後、続いて必要に応じて第7の成膜装置に移動し、第2電極58の上部にキャッピング層や遮断層(いずれも不図示)、保護層60などを成膜する後工程を行う。なお、保護層60はプラズマCVD装置で成膜してもよい。これにより、有機EL表示装置50が完成する。
【0063】
以上、本発明を実施するための形態を具体的に説明したが、本発明の趣旨は、これらの記載に限定されるのではなく、特許請求範囲の記載に基づいて広く解釈されるべきである。また、これらの記載に基づいて、様々な変更、改変などをしたことも、本発明の趣旨に含まれるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1、2、3:クラスタ装置
EC:成膜室
OC:有機室
MC:金属室
BC:バッファ室