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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】描画装置および偏向器
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20230615BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20230615BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
G03F7/20 504
H01J37/305 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019150251
(22)【出願日】2019-08-20
(65)【公開番号】P2021034437
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】岸 和宏
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 宗博
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-106117(JP,A)
【文献】特開2002-100317(JP,A)
【文献】特開2006-108119(JP,A)
【文献】特開2010-225728(JP,A)
【文献】特開2016-076548(JP,A)
【文献】特開2018-098268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1絶縁体と、該第1絶縁体の表面全体を被覆し該第1絶縁体よりも抵抗が低い第1材料膜と、該第1材料膜の表面の少なくとも一部を被覆し該第1材料膜よりも抵抗が低い第1低抵抗膜とを有する第1電極と、
第2絶縁体と、該第2絶縁体の表面全体を被覆し該第2絶縁体よりも抵抗が低い第2材料膜と、該第2材料膜の表面の少なくとも一部を被覆し該第2材料膜よりも抵抗が低い第2低抵抗膜とを有する第2電極と、を備え、
該第1電極と該第2電極との間に前記荷電粒子ビームを通過させて該荷電粒子ビームを前記試料に照射するか否かを制御するブランキング偏向器
【請求項2】
前記第2低抵抗膜は、前記第2電極の表面のうち、前記第1電極に対する対向面に設けられ、該対向面とは反対側の面には設けられていない、請求項1に記載のブランキング偏向器
【請求項3】
前記第1電極は、板状または棒状の形状を有し、
前記第2電極は、前記第1電極の周囲を取り囲む筒状の形状を有する、請求項1または請求項2に記載のブランキング偏向器
【請求項4】
前記第1低抵抗膜は、前記第1電極の表面全体に設けられており、
前記第2低抵抗膜は、前記第2電極の表面のうち内側面のみに設けられている、請求項3に記載のブランキング偏向器
【請求項5】
試料に照射する荷電粒子ビームを生成するビーム照射部と、
第1および第2電極を有し、試料に照射する荷電粒子ビームを該第1電極と該第2電極との間に通過させて、該荷電粒子ビームを前記試料に照射するか否かを制御する偏向器を備え、
前記第1電極は、第1絶縁体と、該第1絶縁体の表面全体を被覆し該第1絶縁体よりも抵抗が低い第1材料膜と、該第1材料膜の表面の少なくとも一部を被覆し該第1材料膜よりも抵抗が低い第1低抵抗膜とを有し、
前記第2電極は、第2絶縁体と、該第2絶縁体の表面全体を被覆し該第2絶縁体よりも抵抗が低い第2材料膜と、該第2材料膜の表面の少なくとも一部を被覆し該第2材料膜よりも抵抗が低い第2低抵抗膜とを有する、荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、描画装置および偏向器に関する。
【背景技術】
【0002】
描画装置は、電子銃から放出された荷電粒子ビームをマスクブランクスに照射して、マスクブランクスに所望のパターンを描画する。描画装置は、荷電粒子ビームを成形アパーチャアレイに通過させてマルチビームに成形する場合がある。
【0003】
マルチビームの照射量は、個別にまたは全体的に制御される。マルチビームを個別にブランキング制御するためにブランカおよびブランキングアパーチャアレイが設けられている。ブランキングアパーチャアレイは、ブランカによって偏向されたビームを遮蔽し、偏向されなかったビームを通過させる。また、マルチビームの個別制御とは別に、マルチビーム全体をブランキング制御するためにブランキング偏向器およびブランキングアパーチャが設けられている。ブランキングアパーチャは、マルチビームがブランキング偏向器で偏向されたときにマルチビーム全体を遮蔽し、あるいは、マルチビームが偏向されなかったときにマルチビーム全体を通過させる。
【0004】
一般に、ブランキング偏向器は、複数の電極間にマルチビーム全体を通過させて該ビームを偏向する。しかし、マルチビームのような径の大きなビームをブランキング制御するためには、ブランキング偏向器の電極を大きくする必要がある。しかし、表面積の大きな電極の母材に均一に金属膜を薄く成膜することは困難であり、金属膜の膜厚がばらつくことがある。電極の金属膜の膜厚がばらつくと、高周波動作時と低周波動作時とにおける磁場の大きさが渦電流の影響によって変化する。これにより、高周波動作時と低周波動作時とにおけるビームの偏向角度が不安定となり、ビームドリフトの原因となる。その結果、マルチビームの偏向精度を悪化させる。
【0005】
一方、渦電流を抑制するために、電極の金属膜の膜厚を薄膜化することが考えられる。しかし、この場合、膜厚のばらつきによって母材が露出すると、母材がビームによってチャージアップして描画精度を悪化させるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-225728号公報
【文献】特開2018-098268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
偏向器の電極のチャージアップを抑制しつつ、荷電粒子ビームの偏向精度を向上させることができる描画装置および偏向器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態によるブランキング偏向器は、第1絶縁体と、第1絶縁体の表面全体を被覆し第1絶縁体よりも抵抗が低い第1材料膜と、第1材料膜の表面の少なくとも一部を被覆し第1材料膜よりも抵抗が低い第1低抵抗膜とを有する第1電極と、第2絶縁体と、第2絶縁体の表面全体を被覆し第2絶縁体よりも抵抗が低い第2材料膜と、第2材料膜の表面の少なくとも一部を被覆し第2材料膜よりも抵抗が低い第2低抵抗膜とを有する第2電極と、を備え、第1電極と第2電極との間に荷電粒子ビームを通過させて荷電粒子ビームを試料に照射するか否かを制御する。
【0009】
本実施形態による荷電粒子ビーム装置は、試料に照射する荷電粒子ビームを生成するビーム照射部と、第1および第2電極を有し、試料に照射する荷電粒子ビームを第1電極と第2電極との間に通過させて、荷電粒子ビームを試料に照射するか否かを制御する偏向器を備え、第1電極は、第1絶縁体と、第1絶縁体の表面全体を被覆し第1絶縁体よりも抵抗が低い第1材料膜と、第1材料膜の表面の少なくとも一部を被覆し第1材料膜よりも抵抗が低い第1低抵抗膜とを有し、第2電極は、第2絶縁体と、第2絶縁体の表面全体を被覆し第2絶縁体よりも抵抗が低い第2材料膜と、第2材料膜の表面の少なくとも一部を被覆し第2材料膜よりも抵抗が低い第2低抵抗膜とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態による描画装置の構成例を示す図。
図2】ブランキング偏向器の構成例を示す断面図。
図3】第1および第2電極のより詳細な構成を示す断面図。
図4】渦電流の流れを示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0012】
(第1実施形態)
【0013】
図1は、第1実施形態による描画装置の構成例を示す図である。描画装置100は、例えば、マルチビーム方式の荷電粒子ビーム露光装置であり、半導体装置の製造に用いられるリソグラフィのフォトマスクやテンプレートを描画するために用いられる。本実施形態は、描画装置の他、露光装置、電子顕微鏡等の電子ビーム、イオンビームを試料Wに照射する装置であってもよい。従って、処理対象としての試料Wは、マスクブランクスの他、半導体基板等であってもよい。
【0014】
描画装置100は、描画部150と制御部160とを備えている。描画部150は、電子鏡筒102と、描画室103とを備えている。制御部160は、照射制御部4と、ステージ制御部5と、ステージ位置測定器7とを備えている。
【0015】
電子鏡筒102内には、電子銃201と、照明レンズ202と、成形アパーチャアレイ基板203と、ブランキングアパーチャアレイ機構204と、縮小レンズ205と、制限アパーチャ基板206と、対物レンズ207と、主偏向器208と、副偏向器209と、ブランキング偏向器212とが配置されている。描画室103内には、互いに直交するX方向およびY方向に移動可能なステージ105が配置される。ステージ105は、描画時に処理対象となるマスクブランクス等の試料Wを搭載可能である。試料Wは、例えば、ガラス基板上にクロム膜等の遮光膜とレジスト膜とが積層されたマスクブランクスである。また、ステージ31上には、ステージ31の位置を測定するためにミラー210が配置される。尚、電子鏡筒102および描画室103の内部は、真空引きされており、減圧状態となっている。
【0016】
ビーム照射部としての電子銃201は、荷電粒子ビームBを生成する。荷電粒子ビーム(以下、単にビームとも言う)Bは、例えば、電子ビーム、イオンビームである。電子銃201で生成されたビームBは、試料Wに照射される。
【0017】
ブランキングアパーチャアレイ機構204は、成形アパーチャアレイ基板203を通過したそれぞれ対応するビームに対して個別にビームのON/OFF制御を行う複数の個別ブランカであり、ビーム毎にブランキング偏向を行う。
【0018】
ブランキングアパーチャアレイ機構204の下方には、マルチビーム全体を一括してブランキング制御するブランキング偏向器212が設けられている。ブランキング偏向器の下方には、中心部に穴が形成された制限アパーチャ基板206が設けられている。ブランキングアパーチャ機構204またはブランキング偏向器212によってビームOFFの状態になるように偏向された電子ビームは、制限アパーチャ基板の中心の穴から位置が外れ、制限アパーチャ基板によって遮蔽される。ブランキングアパーチャ機構204またはブランキング偏向器212によって偏向されなかった電子ビームは制限アパーチャ基板を通過し、偏向器208、209で偏向されて基板W上の所望の位置へと照射される。
【0019】
ステージ制御部5は、ステージ105をX方向またはY方向に移動させるように制御する。
【0020】
ステージ位置測定器7は、例えば、レーザ測長計で構成され、ステージ105に固定されたミラー210へレーザ光を照射し、その反射光でステージ105のX方向の位置を測定する。ステージ位置測定器7およびミラー210と同様の構成は、X方向だけでなく、Y方向にも設けられており、ステージ105のY方向の位置も測定する。
【0021】
図1では、第1実施形態を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100は、その他の必要な構成を備えていても構わない。
【0022】
描画装置100は、XYステージ105が移動しながらショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0023】
図2は、ブランキング偏向器212の構成例を示す断面図である。第1偏向器としてのブランキング偏向器212は、第1電極231と、第2電極232とを備える。ブランキング偏向器212は、第1電極231と該第2電極232との間にビームBを通過させてビームBを偏向する。これにより、ブランキング偏向器212は、ビームBを試料Wに照射するかあるいは照射しないように制御することができる。
【0024】
第1電極231は、板状または棒状の形状を有する電極であり、正電圧または負電圧が印加される。第2電極232は、第1電極231の周囲を取り囲む筒状の形状を有する電極であり、第1電極231に対して異なる電圧(例えば、接地電圧)が印加される。第2電極232は、第1電極231を取り囲む筒状であるので、図2では、鉛直方向断面において、第1電極231の両側に現れている。ビームBは、第2電極232の内側を通過する。その際に、ビームBは、第2電極232の内側面と第1電極231の外側面との間を通過し、第1および第2電極231,232に印加された電圧差に応じた電場および磁場を受ける。よって、第1電極231と第2電極232との間に電圧差がほとんどない場合、ビームBは、偏向されず、制限アパーチャ基板206の開口を通過して試料Wに照射される。一方、第1電極231と第2電極232との間に電圧差がある場合、ビームBは、偏向され、制限アパーチャ基板206で遮蔽される。このように、ブランキング偏向器212は、ビームBをブランキング制御する。尚、第1および第2電極231,232のより詳細な構成は、図3を参照して後で説明する。
【0025】
第1電極231および第2電極232のそれぞれの一端(例えば、下端部)は、コネクタ235を介して電子鏡筒102の外部にある抵抗素子233に電気的に接続されている。第1電極231および第2電極232のそれぞれの他端(例えば、上端部)は、同軸ケーブル234の芯線(信号線)234aおよびシールド(グランド線)234bに電気的に接続されている。信号線234aおよびグランド線234bは、コネクタ235を介してブランキングアンプ41に電気的に接続されている。これにより、ブランキングアンプ41は、第1電極231から抵抗素子233を介して第2電極232に電流を流すことで、第1電極231と第2電極232との間を通過するビームBに電界および磁界を印加することができる。尚、信号線234aに印加される電圧(即ち、第1電極231に印加される電圧)は、正電圧または負電圧のいずれでもよい。
【0026】
図3(A)および図3(B)は、第1および第2電極231、232のより詳細な構成を示す断面図である。図3(B)は、図3(A)のB-B線に沿った断面を示す。即ち、図3(A)は、ビームBの進行方向に沿った断面を示し、図3(B)は、ビームBの進行方向に対して略垂直方向の断面を示している。
【0027】
第1電極231は、母材231_1と、第1材料膜231_2と、第1低抵抗膜231_3とを備えている。第1絶縁体としての母材231_1は、非導電性の絶縁材料で構成されており、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)で構成されている。母材231_1は、棒状または板状の形状を有する。
【0028】
第1材料膜231_2は、母材231_1を実質的に被覆しており、母材231_1よりも抵抗が低い材料で構成されている。また、第1材料膜231_2は、母材231_1の表面に容易に成膜可能な材料であることが好ましい。このような第1材料膜231_2は、例えば、真空蒸着またはスパッタリング等を用いて母材231_1の表面上に成膜され得る。第1材料膜231_2は、絶縁材料ではなく、或る程度の導電性を有するが、比較的高抵抗な材料で構成されている。例えば、第1材料膜231_2は、電子線リソグラフィで使用される帯電防止剤(導電性ポリマ)の抵抗値(例えば、10オーム)以下の材料であれば、チャージアップを抑制できると考えられる。より具体的には、第1材料膜231_2は、例えば、カーボン(C)、チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)等のいずれかの材料で構成されている。第1材料膜231_2は、荷電粒子線への影響を考慮して非磁性材が好ましい。
【0029】
第1材料膜231_2は、母材231_1が露出しないように実質的に母材231_1の表面全体を被覆する。母材231_1の表面のラフネスにも依るが、母材231_1の表面全体を被覆するために、第1材料膜231_2の膜厚は、例えば、0.3μm以上であることが好ましい。これにより、母材231_1が露出することによりビームBでチャージアップすることを抑制できる。
【0030】
第1低抵抗膜231_3は、第1材料膜231_2を介して母材231_1の表面を被覆しており、第1材料膜231_2よりも抵抗が低い材料で構成されている。また、第1低抵抗膜231_3の酸化および変質によるビームドリフトを抑制するために、第1低抵抗膜231_3は、例えば、金、白金等の低抵抗な貴金属材料で構成されていることが好ましい。このような第1低抵抗膜231_3は、例えば、真空蒸着またはスパッタリング等を用いて第1材料膜231_2の表面上に成膜される。
【0031】
第1低抵抗膜231_3は、実質的に母材231_1の表面全体に設けられた第1材料膜231_2上に設けられている。ただし、第1材料膜231_2が実質的に母材231_1の表面全体を被覆しているので、第1低抵抗膜231_3は、チャージアップを考慮せずに、第1材料膜231_2の表面の少なくとも一部を被覆してもよい。例えば、第1低抵抗膜231_3は、第2電極232に対向する母材231_1の面のみに設けてもよい。第1電極が板状の場合、両側面に設けることができる。尚、この場合、ブランキングアンプ41が第1低抵抗膜231_3に電力供給するために、母材231_1の両側面に設けられた第1低抵抗膜231_3の両方とも、信号線234aに電気的に接続されている。
【0032】
第2電極232は、母材232_1と、第2材料膜232_2と、第2低抵抗膜232_3とを備えている。第2絶縁体としての母材232_1は、母材231_1と同様に、非導電性の絶縁材料で構成されており、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)で構成されている。母材232_1は、図3(B)に示すように、筒状(円筒状、略矩形筒状)の形状を有する。
【0033】
第2材料膜232_2は、実質的に母材232_1の表面全体を被覆しており、母材232_1よりも抵抗が低い材料で構成されている。また、第2材料膜232_2は、母材232_1の表面に容易に成膜可能な材料であることが好ましい。このような第2材料膜232_2は、例えば、真空蒸着またはスパッタリング等を用いて母材232_1の表面上に成膜され得る。第2材料膜232_2は、絶縁材料ではなく、或る程度の導電性を有するが、比較的高抵抗な材料で構成されている。例えば、第1材料膜231_2は、電子線リソグラフィで使用される帯電防止剤(導電性ポリマ)の抵抗値(例えば、10オーム)以下の材料であれば、チャージアップを抑制できると考えられる。より具体的には、第2材料膜232_2は、第1材料膜231_2と同様に、カーボン(C)、チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)等のいずれかの材料で構成されている。荷電粒子線への影響を考慮して非磁性材が好ましい。
【0034】
第2材料膜232_2は、母材232_1が露出しないように母材232_1の表面を被覆する。母材232_1の表面のラフネスにも依るが、実質的に母材232_1の表面全体を被覆するために、第2材料膜232_2の膜厚は、例えば、0.3μm以上であることが好ましい。これにより、母材232_1が露出することによりビームBでチャージアップすることを抑制できる。
【0035】
第2低抵抗膜232_3は、第2材料膜232_2を介して母材232_1の表面を被覆しており、第2材料膜232_2よりも抵抗が低い材料で構成されている。また、第2低抵抗膜232_3の酸化および変質を抑制するために、第2低抵抗膜232_3は、例えば、第1低抵抗膜231_3と同様に、金、白金等の低抵抗貴金属材料で構成されていることが好ましい。このような第2低抵抗膜232_3は、例えば、真空蒸着またはスパッタリング等を用いて第2材料膜232_2の表面上に成膜される。
【0036】
第2低抵抗膜232_3は、母材232_1の表面にある第2材料膜232_2上に設けられている。ただし、第2材料膜232_2が母材232_1のチャージアップを抑制するので、第2低抵抗膜232_3は、第2材料膜232_2の表面の少なくとも一部を被覆すればよい。例えば、第2低抵抗膜232_3は、図3(B)に示すように、第1電極231に対向する母材232_1の内側面Finのみに設けてもよい。この場合、第2低抵抗膜232_3は、内側面Finとは反対側の母材231_1の外側面Foutには設けられていない。また、母材232_1の内側面Finに設けられた第2低抵抗膜232_3は、グランド線234bに電気的に接続されている。これにより、ブランキングアンプ41は、第2低抵抗膜232_3を接地電圧にすることができる。
【0037】
尚、母材232_1の内側面Finのみに第2低抵抗膜232_3を成膜する場合、リソグラフィ等を用いて、母材231_1の外側面Foutをマスクした後、真空蒸着またはスパッタリング等を用いて第2低抵抗膜232_3を内側面Finの第2材料膜232_2の表面上に選択的に成膜すればよい。
【0038】
母材232_1の内側面に真空蒸着またはスパッタリングを行うことが困難である場合、第2材料膜232_2は分割して真空蒸着またはスパッタリングを行ってもよい。母材231_1の外側面Fout側をマスキングした後、真空蒸着またはスパッタリング等を用いて第2低抵抗膜232_3を内側面Finの第2材料膜232_2の表面上に選択的に成膜することができる。
【0039】
(高周波信号の表皮効果に基づく考察)
ところで、ビームBを高速でブランキング制御するために、ブランキング偏向器212を高周波信号(例えば、1GHz以上の高周波パルス信号)で動作させた場合、電流は、表皮効果によって第1電極231および第2電極232の対向面における表面近傍を流れる。本実施形態において、第1電極231および第2電極232の対向面には、図3(A)および図3(B)に示すように、第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3が設けられている。本実施形態では、表皮効果による電流が第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3の全体に流れるように、第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3の膜厚を設定する。
【0040】
ここで、一般に、表皮効果によって電流が流れる導体の深さdは、式1のように表される。
【数1】
尚、ρは、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3の電気抵抗率である。ωは、第1および第2電極231、232に流れる電流の角周波数である。μは、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3の絶対透磁率である。
【0041】
第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3のそれぞれの膜厚がdよりも厚い場合、高周波電流に対して、渦電流が第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3に発生する。渦電流が発生すると、上述の通り、磁場の変化によって、ビームBのドリフトが生じ、偏向精度が悪化するおそれがある。従って、第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3の膜厚は、d以下であることが好ましい。例えば、第1および第2低抵抗膜が金(Au)であり、電流の周波数を1GHzとした場合、dは、約2.3μmとなる。この場合、第1および第2電極231,232の表面から約2.3μmの深さまでの表層部分に電流が流れる。従って、第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3の膜厚は、2.3μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、例えば、第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3の膜厚は、0.2μm以下(例えば、0.1μm~0.2μm)にする。この場合、高周波信号による電流は、低抵抗な第1および第2低抵抗膜231_3,232_3の全体を確実に流れ、一方、比較的高抵抗な第1材料膜231_2および第2材料膜232_2並びに絶縁体の母材231_1,232_1にはほとんど流れない。よって、第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3の膜厚を0.2μm以下にすることによって、電流は、確実に第1低抵抗膜231_3および第2低抵抗膜232_3の全体に流れつつ、第1材料膜231_2および第2材料膜232_2に流れることを抑制することができる。その結果、ブランキング偏向器212は、高周波信号によるブランキング制御において、渦電流を抑制して磁場を安定化させ、ビームBの偏向精度を向上させることができる。
【0042】
(低周波信号のオームの法則に基づく考察)
高周波信号でブランキング制御する場合、表皮効果により、電流のほとんどは、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3を流れる。一方、低周波信号(例えば、約1MHzの低周波パルス信号)でブランキング制御する場合、オームの法則に従って、電流は、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3並びに第1および第2材料膜231_2, 232_2の両方を流れようとする。
【0043】
低周波信号では、電流密度を一定にしようとして、渦電流が発生する。図4は、渦電流の流れを示す概念図である。I1は、例えば、図4の紙面下方向へ流れる電流を示す。I2は、例えば、図4の紙面上方向へ流れる電流を示す。ブランキングアンプ41が電流I1を流そうとすると、渦電流として電流I2が電流I1とは逆方向に流れようとする。
【0044】
図4の例では、第1電極231において、電流I1は、第1電極231の一方の面(第2電極232に近い面)F231_1に設けられた第1材料膜231_2および第1低抵抗膜231_3を流れる。渦電流として電流I2は、第1電極231の他方の面(第2電極232から遠い面)F231_2に設けられた第1材料膜231_2および第1低抵抗膜231_3を流れる。これにより、第1電極231において、電流密度を一定に維持しようとする。第2電極232において、電流I1が第2電極232の内側面Finに設けられた第2材料膜232_2および第2低抵抗膜232_3を流れる。渦電流として電流I2は、第2電極232の外側面Foutに設けられた第2材料膜232_2を流れる。これにより、第2電極232において、電流密度を一定に維持しようとする。
【0045】
一般に、このような、渦電流は、高周波信号によるブランキング制御と低周波信号によるブランキング制御とで磁場を不安定にさせ、偏向精度を悪化させる。
【0046】
これに対し、本実施形態では、母材231_1,232_1が絶縁体であり、第1および第2材料膜231_2,232_2は、それぞれ第1および第2低抵抗膜231_3,232_3よりも高抵抗の材料で構成されている。
【0047】
ここで、第1および第2材料膜231_2,232_2は、上述の通り、母材231_1,232_1のチャージアップを抑制できる程度の抵抗値(例えば、10オーム以下)を有する。一方、第1および第2材料膜231_2,232_2は、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3と比較して高抵抗な材料で形成されている。例えば、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3の材料が、金、白金(約2μオーム)である場合、第1および第2材料膜231_2,232_2の材料を、例えば、カーボン、チタンあるいは窒化チタン(約20μオーム)にする。これにより、低周波信号によるブランキング制御であっても、電流I1の多くは第1および第2低抵抗膜231_3,232_3を流れ、第1および第2材料膜231_2,232_2に流れる電流量を抑制することができる。
【0048】
経験上、第1および第2材料膜231_2,232_2に流れる電流を電流I1全体の1%以下にすれば、低周波信号におけるブランキング制御においても、渦電流が抑制され、ブランキング制御の偏向精度が維持され得る。
【0049】
そこで、第1および第2材料膜231_2,232_2並びに第1および第2低抵抗膜231_3,232_3のそれぞれの材料および膜厚は、式2を満たすように設定される。
【数2】
尚、Iはブランキング偏向器212に流れる電流である。rは、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3の抵抗値である。iは、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3に流れる電流である。rは、第1および第2材料膜231_2,232_2の抵抗値である。
【0050】
例えば、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3が膜厚約0.1μmの金とした場合、第1および第2材料膜231_2,232_2は、膜厚約0.3μmのチタンとすればよい。これにより、第1および第2材料膜231_2,232_2に流れる電流を電流I1全体の1%以下にすることができる。尚、第1および第2材料膜231_2,232_2並びに第1および第2低抵抗膜231_3,232_3のそれぞれの材料および膜厚は、これに限定されず、式2を満たす材料および膜厚であればよい。なお、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3はサブミクロンオーダの厚さで例えば0.1~0.2μm程度であればよく、第1および第2材料膜231_2,232_2並びに第1および第2低抵抗膜231_3,232_3のそれぞれ合計の膜厚としては0.4μ程度は必要である。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、第1および第2電極231,232は、母材231_1,232_1として絶縁体を用いている。これにより、ブランキング制御における電流は、第1および第2電極231,232の中心部に流れず、渦電流が抑制される。
【0052】
また、第1および第2材料膜231_2,232_2が実質的に母材231_1,232_1の表面全体を被覆している。第1および第2材料膜231_2,232_2は、母材231_1,232_1が露出しない程度、かつ、式2を満たす膜厚を有する。第1および第2材料膜231_2,232_2は、比較的高抵抗であるが、わずかに導電性を有する材料で構成される。これにより、母材231_1,232_1のチャージアップを抑制することができる。さらに、第1および第2低抵抗膜231_3,232_3が第1および第2電極231,232の対向面において第1および第2材料膜231_2,232_2上に設けられている。第1および第2低抵抗膜231_3,232_3は、式1のd以下の膜厚を有し、かつ、式2を満たす膜厚を有する。第1および第2低抵抗膜231_3,232_3は、非常に低抵抗な貴金属材料で構成される。
【0053】
これにより、本実施形態によるブランキング偏向器212は、高周波信号によるブランキング制御において、表皮効果によって電流のほとんどを第1および第2低抵抗膜231_3,232_3に流す。一方、ブランキング偏向器212は、低周波信号によるブランキング制御においても、オームの法則によって電流のほとんどを第1および第2低抵抗膜231_3,232_3に流す。その結果、高周波信号および低周波信号の両方のブランキング制御において、渦電流および磁場の変化が小さく抑制され、偏向精度を向上させることができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
100 描画装置、150 描画部、160 制御部、102 電子鏡筒、103 描画室、4 照射制御部、5 ステージ制御部、7 ステージ位置測定器、212 ブランキング偏向器、231 第1電極、232 第2電極、231_1,232_1 母材、231_2,232_2 材料膜、231_3,232_3 低抵抗膜
図1
図2
図3
図4