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特許7296375ブレーキダスト計測システム及びブレーキダスト計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】ブレーキダスト計測システム及びブレーキダスト計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
G01M17/007 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020521182
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2019019346
(87)【国際公開番号】W WO2019225443
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2018098191
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 和也
(72)【発明者】
【氏名】松山 貴史
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-012045(JP,U)
【文献】国際公開第2017/097901(WO,A1)
【文献】IIJIMA, AKIHIRO,Particle size and composition distribution analysis of automotive brake abrasion dusts for the evaluation of antimony sources of airborne particulate matter,ATMOSPHERIC ENVIRONMENT,2007年,vol. 41,pages 4908 - 4919
【文献】SANDERS G Paul,Airborne Brake Wear Debris:Size Distributions, Composition, and a Comparison of Dynamometer and Vehicle Tests,Environmental Science & Technology,2003年,Vol.37 No.18,pages 4060 - 4069
【文献】AUGSBURG, KLAUS,Investigation of Brake Wear Particles,READOUT HORIBA TECHNICAL REPORTS,2012年,pages 34 - 39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
G01M 17/02
G01N 1/00- 1/44
G01N 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキを有する供試体をチャンバー内に配置して、前記ブレーキから発生するブレーキダストを計測するブレーキダスト計測システムであって、
前記チャンバー内の空気をサンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリング部によりサンプリングされたサンプリング空気を元素分析する元素分析部と、
前記ブレーキに含まれる1又は複数の元素の含有情報を格納する格納部と、
前記元素分析部の元素分析結果及び前記元素の含有情報に基づいて、前記サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量を算出する算出部とを備える、ブレーキダスト計測システム。
【請求項2】
前記格納部は、前記ブレーキのパッドに含有されている元素の含有情報を格納しており、
前記算出部は、前記パッドの摩耗により生じたブレーキダスト量を算出する、請求項1記載のブレーキダスト計測システム。
【請求項3】
前記格納部は、前記ブレーキのロータに含有されている元素の含有情報を格納しており、
前記算出部は、前記ロータの摩耗により生じたブレーキダスト量を算出する、請求項1又は2記載のブレーキダスト計測システム。
【請求項4】
前記チャンバーは、前記供試体が配置される密閉空間を有しており、
前記チャンバーには、前記サンプリング部のサンプリングによる気圧変動に対応して空気を給排気し、前記密閉空間の気圧変動を吸収する気圧変動吸収機構が設けられている、請求項1乃至3の何れか一項に記載のブレーキダスト計測システム。
【請求項5】
前記算出部は、前記チャンバーの容積と前記サンプリング空気の積算流量とに基づいて、前記サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量から前記ブレーキから発生するブレーキダストの全量を算出する、請求項1乃至4の何れか一項に記載のブレーキダスト計測システム。
【請求項6】
前記供試体の試験前に対する試験後の前記ブレーキの減少重量を取得する減少重量取得部を更に備え、
前記算出部は、前記サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量の前記試験における積算値を算出し、前記積算値に対する前記減少重量の比を算出し、前記試験中の各区間において得られた前記サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量に前記比を乗算して、前記各区間において前記ブレーキから発生するブレーキダスト量を算出する、請求項1乃至4の何れか一項に記載のブレーキダスト計測システム。
【請求項7】
ブレーキを有する供試体をチャンバー内に配置して、前記ブレーキから発生するブレーキダストを計測するブレーキダスト計測方法であって、
前記チャンバー内の空気をサンプリングするサンプリングステップと、
サンプリングされた空気を元素分析する元素分析ステップと、
前記元素分析ステップの元素分析結果及び前記ブレーキに含まれる1又は複数の元素の含有情報に基づいて、前記サンプリングされた空気に含まれるブレーキダスト量を算出する算出ステップとを備える、ブレーキダスト計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキダスト計測システム及びブレーキダスト計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シャシダイナモ上で車両を走行させた状態やブレーキダイナモにブレーキをセットした状態で、当該ブレーキから発生するブレーキダストをサンプリングする試みがなされている。このサンプリング手法としては、ブレーキの近くに、例えば漏斗状の捕集プローブ(ファンネルともいう。)を設置し、ブレーキ周辺の空気とともにブレーキダストをサンプリングすることが検討される。
【0003】
例えば、ブレーキダイナモでブレーキの試験を行うものとしては、特許文献1に示すように、例えば漏斗状の捕集プローブでサンプリングされた空気を、例えば凝縮粒子カウンタ(CPC)や拡散電荷センサ(DCS)等の粒子計測装置に導入して、ブレーキダストを計測するものが考えられている。
【0004】
しかしながら、試験室内には、タイヤ等の様々な回転系から発生するゴム粉や金属粉、作業者から発生する塵埃などが存在している。そうすると、粒子計測装置は、ブレーキダストの他に、ゴム粉、金属粉や塵埃なども計測してしまい、ブレーキダストを正確に計測することが難しい。また、CPCやDCS等の粒子計測装置では、粒子数や粒子サイズしか計測できず、ブレーキダストの発生量を正確に計測することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2017/097901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、ブレーキダストの発生量を正確に計測できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係るブレーキダスト計測システムは、ブレーキを有する供試体をチャンバー内に配置して、前記ブレーキから出るブレーキダストを計測するブレーキダスト計測システムであって、前記チャンバー内の空気をサンプリングするサンプリング部と、サンプリングされた空気を元素分析する元素分析部と、前記ブレーキに含まれる1又は複数の元素の含有情報を格納する格納部と、前記元素分析部の元素分析結果及び前記元素の含有情報に基づいて、前記サンプリングされた空気に含まれるブレーキダスト量を算出する算出部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るブレーキダスト計測方法は、ブレーキを有する供試体をチャンバー内に配置して、前記ブレーキから出るブレーキダストを計測するブレーキダスト計測方法であって、前記チャンバー内の空気をサンプリングするサンプリングステップと、サンプリングされた空気を元素分析する元素分析ステップと、前記元素分析ステップの元素分析結果及び前記ブレーキに含まれる1又は複数の元素の含有情報に基づいて、前記サンプリングされた空気に含まれるブレーキダスト量を算出する算出ステップとを備えることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、サンプリングされた空気を元素分析して得られた元素分析結果と、ブレーキに含まれる1又は複数の元素の含有情報とに基づいて、サンプリングされた空気に含まれるブレーキダスト量を算出するので、ゴム粉、金属粉や塵埃などの影響を低減することができる。その結果、ブレーキダストの発生量を正確に計測できるようになる。
【0010】
ブレーキは、回転体であるブレーキロータと、当該ブレーキロータに押圧されるブレーキパッドを有する。
ここで、ブレーキパッドはブレーキロータに比べて摩耗が大きく、ブレーキパッドから発生するブレーキダスト量を正確に計測できれば、本発明の実用性が向上する。このため、前記格納部は、前記ブレーキのパッドに含有されている元素の含有情報を格納しており、前記算出部は、前記パッドの摩耗により生じたブレーキダスト量を算出することが考えられる。
【0011】
また、ブレーキパッドに比べれば、ブレーキロータから発生するブレーキダスト量は小さいものの、ブレーキ全体でのブレーキダスト量を正確に計測できれば、本発明の実用性がより一層向上する。このため、前記格納部は、前記ブレーキのロータに含有されている元素の含有情報を格納しており、前記算出部は、前記ロータの摩耗により生じたブレーキダスト量を算出するが考えられる。
【0012】
サンプリングされた空気には、ブレーキダスト以外の誤差要因成分が含まれる場合がある。このため、誤差要因成分を低減するためには、前記チャンバーは、前記供試体が配置される密閉空間を有していることが考えられる。
この構成において、サンプリング部によりサンプリングすると、チャンバー内の気圧が変動して、計測条件が変化するなどの不具合が生じてしまう。
この問題を好適に解決するためには、前記チャンバーには、前記サンプリング部のサンプリングによる気圧変動に対応して空気を給排気し、前記密閉空間の気圧変動を吸収する気圧変動吸収機構が設けられていることが望ましい。
【0013】
ブレーキ全体から発生するブレーキダスト量を計測するためには、前記算出部は、前記チャンバーの容積と前記サンプリング空気の積算流量とに基づいて、前記サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量から前記ブレーキから発生するブレーキダストの全量を算出することが望ましい。
【0014】
供試体の試験中の各区分においてブレーキ全体から発生するブレーキダスト量を正確に計測するためには、ブレーキダスト計測システムは、前記供試体の試験前に対する試験後の前記ブレーキの減少重量を取得する減少重量取得部を更に備え、前記算出部は、前記サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量の前記試験における積算値を算出し、前記積算値に対する前記減少重量の比を算出し、前記試験中の各区間において得られた前記サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量に前記比を乗算して、前記各区間において前記ブレーキから発生するブレーキダスト量を算出することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、サンプリングされた空気を元素分析して得られた元素分析結果と、ブレーキに含まれる1又は複数の元素の含有情報とに基づいて、サンプリングされた空気に含まれるブレーキダスト量を算出するので、ブレーキダストの発生量を正確に計測できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るブレーキダスト計測システムの全体模式図である。
図2】同実施形態に係る演算装置の機能を示す機能ブロック図である。
図3】変形実施形態の演算装置の機能を示す機能ブロック図である。
図4】試験中の各区間におけるブレーキダスト量の算出方法を示すグラフである。
図5】変形実施形態に係るブレーキダスト計測システムの全体模式図である。
【符号の説明】
【0017】
100・・・ブレーキダスト計測システム
B ・・・ブレーキ
V ・・・試験車両(供試体)
2 ・・・チャンバー
2S ・・・密閉空間
21 ・・・気圧変動吸収機構
31 ・・・サンプリング部
4 ・・・元素分析部
51 ・・・格納部
53 ・・・算出部
54 ・・・減少重量取得部
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るブレーキダスト計測システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態のブレーキダスト計測システム100は、ブレーキBを有する供試体をチャンバー2内に配置して、ブレーキBから発生するブレーキダストを計測するものである。
【0020】
以下では、供試体である試験車両Vをシャシダイナモメータ10上で走行させてブレーキダスト計測するシステム100について説明する。
【0021】
シャシダイナモメータ10は、試験車両Vの駆動輪を載せる回転ドラム11等を備えたものであり、ここでは試験車両Vの前輪及び後輪それぞれに対して回転ドラム11が設けられているが、前輪又は後輪の一方のみに対して回転ドラム11が設けられていても良い。
【0022】
そして、ブレーキダスト計測システム100は、ブレーキBを有する供試体である試験車両Vが配置されるチャンバー2と、当該チャンバー2内の空気をサンプリングするサンプリング部3と、サンプリング部3によりサンプリングされたサンプリング空気を元素分析する元素分析部4と、元素分析部4の元素分析結果に基づいてブレーキダスト量を算出する演算装置5とを備えている。
【0023】
チャンバー2は、試験車両Vが配置される実質的に密閉された密閉空間2Sを有しており、試験車両Vから排出される排ガスをチャンバー外に排出する排出機構21を有している。排出機構21は、試験車両Vの排気管とチャンバー2外部とを連通する配管である。
【0024】
また、チャンバー2には、後述するサンプリング部3のサンプリングによる気圧変動に対応して空気を給排気し、密閉空間2Sの気圧変動を吸収する気圧変動吸収機構22が設けられている。この気圧変動吸収機構22は、チャンバー2の外気と連通する開口部を有するバッグであり、密閉空間2Sの気圧が低下した場合には、外気を取り込んで膨らみ、密閉空間2Sの気圧が上昇した場合には、バック内の空気を外部に放出する。これにより、密閉空間2Sの気圧変動が吸収される。なお、バッグの個数は2個に限られず1つであってもよいし、3個以上であっても良い。また、バッグの設置位置は上壁部に限られず、側壁部又は下壁部であっても良い。その他、気圧変動吸収機構22は、密閉空間2Sの気圧変動に応じて伸縮する弾性体を有する構成であっても良い。
【0025】
サンプリング部3は、チャンバー2内の空気をサンプリングするものである。本実施形態では、チャンバー2内の空気を二段サンプリングするものであり、大流量の空気をサンプリングする第1段採取部31と、第1段採取部31により採取された空気から一部をサンプリングする第2段採取部32とを有する。
【0026】
第1段採取部31は、チャンバー2内に一端部(第1採取ポート31P)が開口する第1採取管31aと、当該第1採取管31aに設けられて、第1採取ポート31Pから空気を吸引するための第1吸引ポンプ31bが設けられている。また、第1採取管31aには、第1採取管31aを流れる空気の流量を測定する第1流量センサ31cが設けられている。
【0027】
第2段採取部32は、第1採取管31a内に一端部(第2採取ポート32P)が開口する第2採取管32aと、当該第2採取管32aに設けられて、第2採取ポート32Pから空気を吸引するための第2吸引ポンプ32bが設けられている。また、第2採取管32aには、第2採取管32aを流れる空気の流量を測定する第2流量センサ32cが設けられている。
【0028】
第1採取ポート31Pは、チャンバー2内において、ブレーキBから発生するブレーキダストを効率良く捕集できる部位に設けられている。例えば、第1採取ポート31PをブレーキBの近傍に設けること、試験車両Vの下側空間に設けること、試験車両Vの風下に設けること、又は、試験車両Vの上側空間に設けること等が考えられる。図1では、試験車両Vの上側空間における前方に設けた例を示しているが、これに限らない。また、第1採取ポート31Pは、試験車両Vの各タイヤに設けられたブレーキB毎に設けても良い。さらに、第1採取ポート31Pは、例えば漏斗状の捕集プローブにより構成することができる。
【0029】
そして、第2段採取部32の第2採取管32aには、第2採取ポート32Pによりサンプリングされた空気中に含まれるブレーキダストを捕集するための捕集フィルタ6が設けられている。
【0030】
この捕集フィルタ6は、サンプリングされた空気中の粒子を捕集するものであり、1枚1枚が分離されたバッチ式のものであってもよいし、供給ロール及び巻き取りロールを用いた巻き取り式のものであってもよい。捕集フィルタ6の材質としては、例えばPTFEコーティングガラス繊維又はPTFEなどが考えられる。
【0031】
元素分析部4は、サンプリング部3によりサンプリングされた空気を元素分析するものである。具体的に元素分析部4は、捕集フィルタ6に捕集された粒子を元素分析するものである。この元素分析部4は、蛍光X線分析装置であり、X線を試料に照射して、発生する蛍光X線を検出して元素分析を行う装置である。前記試料は、粒子を捕集した捕集フィルタ6である。本実施形態の元素分析部4は、捕集フィルタ6に捕集された粒子に含まれる元素の濃度(例えば質量濃度(%))や質量(g)を定量分析できるものである。なお、捕集フィルタ6がバッチ式のものであれば、捕集フィルタ6をサンプリング部3から取り外して元素分析部4にセットして元素分析を行う。また、捕集フィルタ6が巻き取り式ものであれば、元素分析部4が捕集フィルタ6の近傍に設置されて、捕集フィルタ6をサンプリング部3から取り外すことなく元素分析を行う。この場合、巻き取り式の捕集フィルタ6と元素分析部4とが一体構成された装置(フィルタ付きの元素分析装置)としてもよい。
【0032】
演算装置5は、元素分析部4により得られた元素分析結果を示すデータを取得して、ブレーキダスト量を演算するものである。演算装置5は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、AD変換器などを備えた専用又は汎用のコンピュータである。そして、この演算装置5は、内部メモリに格納されたブレーキダスト計測プログラムに基づいて、CPU及びその他の構成要素が協働することによって、格納部51、受付部52、算出部53などの機能を発揮する。以下、各部51~53について説明する。
【0033】
格納部51は、ブレーキBに含まれる1又は複数の元素の含有情報を格納する。この含有情報は、デジタルデータであり、ブレーキBに含まれる1又は複数の元素の既知濃度(例えば質量濃度(%))だけでなく、それら1又は複数の元素の組成比又は含有割合などを含んでいてもよい。また、含有情報は、予めユーザなどによって入力されたものであってもよいし、インターネットを介してサーバなどから送信されたものであってもよい。本実施形態の格納部51は、ブレーキパッドに含まれる1又は複数の元素の含有情報を格納している。なお、格納部51には、ブレーキロータに含まれる1又は複数の元素の含有情報が格納されていても良い。
【0034】
受付部52は、元素分析部4により得られた元素分析情報を受け付ける。この元素分析情報は、デジタルデータであり、捕集フィルタ33に捕集された粒子に含まれる複数の元素の測定濃度(例えば質量濃度(%))だけでなく、それら複数の元素の組成比又は含有割合などを含んでいてもよい。そして、受付部52は、受け付けた元素分析情報を算出部53に送信する。
【0035】
また、受付部52は、第1流量センサ31cにより得られた第1採取管31aを流れる空気の流量データを受け付けるとともに、第2流量センサ32cにより得られた第2採取管32aを流れる空気の流量データを受け付ける。そして、受付部52は、受け付けたそれらの流量データを算出部53に送信する。
【0036】
算出部53は、受付部52が受け付けた元素分析情報及び流量データと、格納部51に格納された含有情報とに基づいて、サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量を算出するものである。
【0037】
具体的に算出部53は、元素分析情報から、チタン(Ti)の重量(g・m/s)、銅(Cu)の重量(g・m/s)、鉄(Fe)の重量(g・m/s)を計測する(チタン:MTi、銅:MCu、鉄:MFe)。なお、各成分の重量の計測方法としては、捕集前後の捕集フィルタ6の重量差を算出し、当該重量差に対して元素分析装置を用いて求めた各成分の含有割合を掛け合わせることや、捕集後の捕集フィルタ6に対して例えばβ線を照射して得られるβ線の透過強度から捕集重量を求め、当該捕集重量に対して元素分析装置を用いて求めた各成分の含有割合を掛け合わせることが考えられる。
【0038】
予めブレーキパッドのチタン、銅、鉄の含有割合を元素分析装置を用いて重量百分率(%)を計測しておく(チタン:RTi%、銅:RCu%、鉄:RFe%)。なお、このチタン、銅、鉄の含有割合が、含有情報として格納部51に格納されている。
【0039】
また、第2段採取部42によるサンプリング流量(第2流量センサ32cの流量データ)をX(L/min)、第1段採取部によるサンプリング流量(第1流量センサ31cの流量データ)をY(m/min)、第2段採取部42によるサンプリング時間をT(min)とする。
【0040】
このとき、算出部53は、以下の式により、サンプリングされた空気に含まれるブレーキダスト量(g・m/s)を算出する。
【0041】
<ブレーキパッドからのダスト発生量(m)>
=[MTi/RTiとMCu/RCuとの平均]×(Y×1000/X)×T
本実施形態では、チタンの計測重量から換算したブレーキパッドのダスト量と、銅の計測重量から換算したブレーキパッドのダスト量とを平均しているので、より正確なダスト発生量(m)を算出することができる。なお、それらを平均すること無く、何れか一方の計測重量から換算したブレーキパッドのダスト量を用いても良い。
【0042】
<ブレーキロータからのダスト発生量(m)>
={MFe×(Y×1000/X)×T}-m×RFe
【0043】
<ブレーキダスト量(m)>
=m+m
【0044】
上記のブレーキダスト量は、サンプリングされた空気に含まれる量であり、サンプリングされない空気に含まれるブレーキダスト量は含まない。
【0045】
このため、算出部53は、以下の方法により、チャンバー2の容積(V)とサンプリング空気の積算流量(Q)とに基づいて、サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量(m)からブレーキBから発生するブレーキダストの全量(mTOTAL)を算出することもできる。
【0046】
<ブレーキBから発生するブレーキダストの全量(mTOTAL)>
TOTAL=m×V/Q
【0047】
このように構成した本実施形態のブレーキダスト計測システム100によれば、サンプリングされた空気を元素分析して得られた元素分析結果と、ブレーキに含まれる1又は複数の元素の含有情報とに基づいて、サンプリングされた空気に含まれるブレーキダスト量を算出するので、ゴム粉、金属粉や塵埃などの影響を低減することができる。その結果、ブレーキダストの発生量を正確に計測できるようになる。
【0048】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0049】
例えば、図3に示すように、演算装置5が、供試体の試験前に対する試験後のブレーキの減少重量(Mdiff)を取得する減少重量取得部54を更に備えており、当該減少重量(Mdiff)との関係でブレーキダスト量を補正するように構成しても良い。
【0050】
具体的に算出部53は、サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量の試験における積算値(Mall)を算出し、積算値(Mall)に対する前記減少重量(Mdiff)の比を算出する。そして、算出部53は、試験中の各区間において得られたサンプリング空気に含まれるブレーキダスト量に比を乗算して、各区間においてブレーキから発生するブレーキダスト量を算出する。
【0051】
例えば、試験を区間1、2、3と分けた場合に、各区間1~3においてサンプリング空気に含まれるブレーキダスト量をM、M、Mとする。そうすると、全区間を合わせた積算値(Mall)は、Mall=M+M+Mとなる。
【0052】
このとき、MallとMdiffとが同じであれば、ブレーキダストが全量サンプリングされていることを意味する。
【0053】
一方、図4に示すように、MallとMdiffとに差分がある場合には、算出部53は、Mdiff/Mall=Aとして、各区間1~3のブレーキダスト量M、M、MにAを乗算して補正し、各区間1~3においてブレーキから発生したブレーキダスト量(M×A、M×A、M×A)を算出する。
【0054】
前記実施形態では、シャシダイナモ上で車両を走行させてブレーキダスト量を計測するものであったが、図5に示すように、ブレーキダイナモBDにブレーキBをセットしてブレーキダスト量を計測するようにしても良い。
【0055】
ブレーキダイナモBDを用いたブレーキダスト計測システム100では、ブレーキロータ(ブレーキロータ)周囲の車速風は、チャンバー2内に設置した軸流ファンで車速を模擬した制御を行う。サンプリングポイントを供試体(ブレーキB)近傍に置く必要がなく、ブレーキロータの温度を対するサンプリングの影響を低減することができる。また、ブレーキアッセンブリのみであり、ブレーキダストが付着する周辺構造が少なく、チャンバー2内にブレーキダストを飛散させやすくすることができる。また、冷却用軸流ファンによりブレーキダストが周囲に拡散しやすくなる。チャンバー2内の空気は、例えばHEPAフィルタ等の防塵フィルタFを用いて清浄化された空気を用いる。さらに、タイヤが無いため、ダストの発生源を減らすことができ、ブレーキダストのサンプリングを効率良く行うことができる。
【0056】
さらに、前記実施形態のシャシダイナモ上で走行する車両から排出される排ガスを排ガスサンプリング装置により採取して、排ガス分析装置により当該排ガス中に含まれる所定成分を分析するシステムと組み合わせても良い。
【0057】
ブレーキダスト量は、前記実施形態では、ブレーキパット及びブレーキロータの両方を計測するものであったが、ブレーキパットのみのブレーキダストを計測するものであっても良い。また、ブレーキの形式としては、ディスクブレーキの他に、ドラムブレーキであっても良い。この場合、格納部には、ブレーキシューの元素の含有情報及び/又はブレーキドラムの元素の含有情報が格納されている。
【0058】
前記実施形態では、チャンバーからの採取空気量及び捕集フィルタへの通過流量を考慮して二段サンプリングするものであったが、一段サンプリングするものであっても良い。
【0059】
前記実施形態では、四輪自動車のブレーキのブレーキダストを計測するものであったが、二輪自動車のブレーキのブレーキダストを計測するものであっても良い。また、試験車両Vとしては、エンジン車の他に、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車であっても良い。さらに、前記実施形態の供試体は、完成車両であったが、車両の一部であってもよい。
【0060】
また、演算装置は、機械学習アルゴリズムを用いてブレーキダスト量を算出するものであっても良い。例えば、演算装置は、元素分析部4により得られた元素分析結果を示すデータとブレーキダスト量を示すデータとからなる学習データセットを用いて機械学習する機械学習部を備えており、当該機械学習部により生成された学習モデルを用いて、元素分析部4により得られた元素分析結果を示すデータからブレーキダスト料を算出する。なお、学習モデルは、演算装置とは別に機械学習装置により生成されたものであっても良い。
【0061】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、ブレーキダストの発生量を正確に計測できるブレーキダスト計測システムを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5