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  • 特許-支持ガラス基板及び積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】支持ガラス基板及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20230616BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20230616BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/087
H01L21/56 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019208195
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021080126
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 出
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 誠二
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩史
(72)【発明者】
【氏名】玉井 喜芳
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-001094(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073685(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021911(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115731(WO,A1)
【文献】特開2016-050129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を含む支持ガラス基板であって、
50℃~200℃における平均熱膨張係数が7ppm/℃~15ppm/℃であり、
内部引張応力が5MPa~55MPaであり、
前記圧縮応力層の深さが10μm~60μmであり、
酸化物基準のモル%表示で、
SiO :50%~80%
Al :1%~10%
MgO:5%~10%
CaO:1%~10%
SrO:0%~5%
BaO:0%~5%
Na O:5%~15%
O:5%~15%
ZrO :0%~5%
である、支持ガラス基板。
【請求項2】
50℃~200℃における平均熱膨張係数が9ppm/℃~13ppm/℃である、請求項1に記載の支持ガラス基板。
【請求項3】
内部引張応力が15MPa~25MPaである、請求項1又は請求項2に記載の支持ガラス基板。
【請求項4】
前記圧縮応力層の深さが15μm~30μmである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の支持ガラス基板。
【請求項5】
表面圧縮応力が500MPa~700MPaである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の支持ガラス基板。
【請求項6】
厚みが0.5mm~2.0mmであり、
前記圧縮応力層の深さが15μm~30μmである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の支持ガラス基板。
【請求項7】
酸化物基準のモル%表示で、前記支持ガラス基板の全量に対し、NaOの含有量が、5%以上15%以下であり、KOの含有量が、5%以上15%以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の支持ガラス基板。
【請求項8】
酸化物基準のモル%表示で、前記支持ガラス基板の全量に対し、MgOの含有量が、6%以上9%以下であり、ZrOの含有量が、0.5%以上2%以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の支持ガラス基板。
【請求項9】
ファンアウトウェハレベルパッケージ及びファンアウトパネルレベルパッケージの少なくとも一方の製造用の支持ガラス基板である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の支持ガラス基板。
【請求項10】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の支持ガラス基板と、樹脂層とを含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持ガラス基板及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、これらの電子機器に用いられる半導体デバイスを高密度で実装する技術の要望が高まっている。近年では、半導体デバイスを高密度で実装する技術として、例えば、ファンアウトウェハレベルパッケージ(Fan Out Wafer Level Package:FOWLP)やファンアウトパネルレベルパッケージ(Fan Out Panel Level Package:FOPLP)が提案されている。以下、FOWLPとFOPLPを合わせて、FOWLP等という。
【0003】
FOWLP等においては、半導体デバイスが積層される加工基板のたわみを抑制するために、加工基板を支持する支持ガラス基板を用いる場合がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
FOWLP等用の支持ガラス基板などの、部材を支持するために用いられる支持ガラス基板は、支持する部材の加熱に伴い加熱される場合がある。そのため、支持ガラス基板は、部材との間の剥離などを抑制するために、部材に合わせて熱膨張率が設定される場合がある。例えば部材の熱膨張率が高い場合、それに合わせて支持ガラス基板の熱膨張率も高く設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/008358号
【文献】国際公開第2016/111158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、支持ガラス基板は、加熱時の温度分布が不均一となる場合がある。例えば、基板が厚い場合、加熱面と中央部では温度差が生じやすい。この場合、支持ガラス基板は、温度分布の差に起因して、位置毎に熱膨張量が異なって反りを生じ、破損してしまうおそれが生じる。特に、高熱膨張率の支持ガラス基板は、位置毎の熱膨張量の差が大きくなるため、反りに起因した破損のリスクが高くなる。そのため、高熱膨張率の支持ガラス基板において、破損の発生を低減することが求められている。
また、支持ガラス基板はリサイクルして使用されることもあり、そのような場合、割れを完全に防止することは困難である。そしてガラス基板の割れが発生した場合、多数の破片が発生すると、半導体製造工程では異物の混入防止が極めて重要であるため、製造機器周辺に飛び散った破片の除去を長時間かけて行われ生産性に大きく影響する。そのため、支持ガラス基板のいては、割れが発生した時に、多数の破片が発生しないことも求められている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、破損の発生を低減可能であり、更にたとえ割れが発生しても、多数の破片の発生を低減可能な支持ガラス基板及び積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る支持ガラス基板は、表面に圧縮応力層を含む支持ガラス基板であって、50℃~200℃における平均熱膨張係数が7ppm/℃~15ppm/℃であり、内部引張応力が5MPa~55MPaであり、前記圧縮応力層の深さが10μm~60μmである。
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る積層体は、前記支持ガラス基板と、樹脂層とを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、破損の発生及び、割れた時の多数の破片の発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る積層体の模式的な断面図である。
図2図2は、支持ガラス基板の厚み方向の応力分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、数値については四捨五入の範囲が含まれる。
【0013】
(積層体の構成)
図1は、本実施形態に係る積層体の模式的な断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る積層体1は、支持ガラス基板10と、吸着層20と、樹脂層30とを含む。積層体1は、支持ガラス基板10と樹脂層30との間に吸着層20が形成されている。吸着20は、支持ガラス基板10と樹脂層30とを吸着及び剥離するための層であり、例えば、剥離層及び接着層を、支持ガラス基板10上にこの順に有する。ただし、吸着層20の構成や材料は任意であってよい。樹脂層30は、樹脂を含む層であり、本実施形態では、樹脂製の封止剤内に、例えばシリコンチップなどの半導体チップが形成されている。
【0014】
このように、本実施形態に係る支持ガラス基板10は、樹脂層30を支持するガラス基板である。より詳しくは、支持ガラス基板10は、半導体パッケージの製造用のガラス基板として用いられるものであり、より具体的には、FOWLP等の製造用の支持ガラス基板である。ただし、支持ガラス基板10の用途は、FOWLP等の製造用に限られず任意であり、部材を支持するために用いられるガラス基板であってよい。なお、FOWLP等とは、上述のように、FOWLPとFOPLPとを含むものである。
【0015】
(支持ガラス基板の厚み)
支持ガラス基板10は、厚みtが0.5mm~2.0mmであることが好ましく、0.7mm~1.5mmであることがより好ましい。厚みtは、支持ガラス基板10の樹脂層30側の一方の表面10Aから、樹脂層30と反対側の他方の表面10Bまでの長さを指す。厚みtをこの範囲とすることで、支持ガラス基板10が薄くなり過ぎることによる破損を低減できる。なお、ここでの0.5mm~2.0mmとは、0.5mm以上2.0mm以下であることを指し、以下においても「~」は、同様の旨を指す。
【0016】
(支持ガラス基板の平均熱膨張係数)
支持ガラス基板10は、平均熱膨張係数が高い。具体的には、支持ガラス基板10は、50℃~200℃における平均熱膨張係数CTEが、7ppm/℃~15ppm/℃であり、9~13ppm/℃であることがより好ましく、特に10ppm/℃~12ppm/℃であることが好ましい。CTEがこれらの範囲にある場合、本発明の効果である支持基板の破損の低減効果等がより効果的に発揮される。
【0017】
(支持ガラス基板の圧縮応力層)
支持ガラス基板10は、樹脂層30側の一方の表面10Aと、樹脂層30と反対側の他方の表面10Bとに、圧縮応力層12が形成されている。支持ガラス基板10は、化学強化処理により、圧縮応力層12が形成される。なお、支持ガラス基板10は、一方の表面(ここでは表面10A)に圧縮応力層12が形成され、他方の表面(ここでは表面10B)には圧縮応力層12が形成されなくてもよい。
【0018】
図2は、支持ガラス基板の厚み方向の応力分布の一例を示すグラフである。圧縮応力層12は、支持ガラス基板10内において、圧縮応力が作用している層である。図2の例に示すように、支持ガラス基板10は、表面において圧縮応力Sが作用しており、支持ガラス基板10の厚み方向の中央に向かうに従って、圧縮応力が小さくなっている。図2の例においては、圧縮応力層12は、支持ガラス基板10の全体のうち、表面から、応力が0となるまでの深さの部分であるといえる。なお、支持ガラス基板10は、応力が0となる深さよりも深い層においては、引張応力が作用している。以下、支持ガラス基板10の表面、すなわち圧縮応力層12の表面に作用している圧縮応力を、表面圧縮応力CSと記載する。また、支持ガラス基板10の内部に作用している引張応力を、内部引張応力CTと記載する。
【0019】
(支持ガラス基板の表面圧縮応力)
支持ガラス基板10は、表面圧縮応力CSが、500MPa~750MPaであることが好ましく、650MPa~700MPaであることがより好ましい。表面圧縮応力CSの測定方法は任意であるが、例えば、光弾性解析法を利用して、支持ガラス基板10内の歪みを測定することにより、測定してよい。本実施形態においては、例えば、折原製作所製の表面応力計であるFSM-6000LEを用いて、表面圧縮応力CSを測定してよい。支持ガラス基板10は、表面圧縮応力CSが500MPa以上であることで、熱膨張に起因する破損を適切に低減でき、表面圧縮応力CSが700MPa以下であることで、内部の引張応力が高くなることを抑制して、破損を適切に低減できる。
【0020】
(支持ガラス基板の圧縮応力層の深さ)
支持ガラス基板10は、圧縮応力層12の深さDOLが、10μm~60μmであることが好ましく、15μm~30μmであることがより好ましい。深さDOLとは、支持ガラス基板10における圧縮応力層12の厚みを指す。すなわち、深さDOLとは、支持ガラス基板10の表面圧縮応力CSが作用している表面から、圧縮応力の値が0になる深さまでの、厚み方向における距離を指す。深さDOLの測定方法は任意であるが、例えば、光弾性解析法を利用して、支持ガラス基板10内の歪みを測定することにより、測定してよい。本実施形態においては、例えば、折原製作所製の表面応力計であるFSM-6000LEを用いて、深さDOLを測定してよい。支持ガラス基板10は、深さDOLが10μm以上であることで、熱膨張に起因する破損を適切に低減でき、深さDOLが15μm以上であることで、熱膨張に起因する破損をより適切に低減できる。また、支持ガラス基板10は、深さDOLが60μm以下であることで、内部の引張応力が高くなることを低減して、破損を適切に低減し、深さDOLが30μm以下であることで、破損をより適切に低減できる。
【0021】
(支持ガラス基板の内部引張応力)
支持ガラス基板10は、内部引張応力CTが、5MPa~55MPaであることが好ましく、15MPa~25MPaであることがより好ましい。内部引張応力CTは、次の式(1)により算出される。支持ガラス基板10は、内部引張応力CTが5MPa以上であることで、圧縮応力層12が適切に形成されて熱膨張に起因する破損を適切に低減でき、内部引張応力CTが15MPa以上であることで、熱膨張に起因する破損をより適切に低減できる。また、支持ガラス基板10は、内部引張応力CTが55MPa以下であることで、破片の数が大きくなるような粉々な破損を低減し、内部引張応力CTが25MPa以下であることで、粉々な破損をより好適に低減できる。
【0022】
CT=(CS×DOL)/(t-2×DOL) ・・・(1)
【0023】
なお、式(1)においては、厚みtをμm単位に換算している。
【0024】
(支持ガラス基板の組成)
次に、支持ガラス基板10の組成について説明する。支持ガラス基板10は、上記のように平均熱膨張係数CTEが高い。平均熱膨張係数CTEが高いガラスは、原子同士の結合力が弱く、化学強化により圧縮応力層12を形成することが困難な場合がある。それに対し、支持ガラス基板10は、以降で説明する組成とすることで、化学強化により圧縮応力層12を適切に構成できる。ただし、以降で説明する組成は一例である。また、以降で説明する組成は、後述する化学強化を実施する前における支持ガラス基板10の組成を指す。以降で説明する組成は、支持ガラス基板10の圧縮応力層12以外の部分における組成ともいえる。
【0025】
支持ガラス基板10は、酸化物基準のモル%で、支持ガラス基板10の全量に対し、NaOの含有量が、5%~15%であることが好ましく、KOの含有量が、5%~15%であることが好ましい。また、支持ガラス基板10は、酸化物基準のモル%で、支持ガラス基板10の全量に対し、NaOの含有量が、8%~12%であることがより好ましく、KOの含有量が、8%~12%であることがより好ましい。NaOとKOの含有量がこの範囲となることで、NaイオンからKイオンへの置換を適切に行って、圧縮応力層12の形成のための化学強化を適切に適用可能となる。また、支持ガラス基板10は、酸化物基準のモル%で、支持ガラス基板10の全量に対し、MgOの含有量が、5%~10%であることが好ましく、6%~9%であることがより好ましく、7%~8.5%であることがさらに好ましい。また、支持ガラス基板10は、酸化物基準のモル%で、支持ガラス基板10の全量に対し、ZrOの含有量が、0%~5%であることが好ましく、0%~3%であることがより好ましく、0.5%~2%であることがさらに好ましい。MgOとZrOの含有量がこの範囲となることで、母材となるガラスの強度や破壊靭性を適切に向上させて、圧縮応力層12の形成のための化学強化を適切に適用可能となる。
【0026】
さらに言えば、本実施形態の支持ガラス基板10は、酸化物基準のモル%で以下の化合物を含有することが好ましい。支持ガラス基板10の組成を以下とすることで、平均熱膨張率CTEを高く保ちつつ、圧縮応力層12の形成のための化学強化を適切に適用可能となる。
SiO:50%~80%
Al:1%~10%
MgO:5%~10%
CaO:1%~10%
SrO:0%~5%
BaO:0%~5%
NaO:5%~15%
O:5%~15%
ZrO:0%~5%
【0027】
支持ガラス基板10は、酸化物基準のモル%で以下の化合物を含有することがより好ましい。支持ガラス基板10の組成を以下とすることで、平均熱膨張率CTEをより高く保ちつつ、圧縮応力層12の形成のための化学強化をより適切に適用可能となる。
SiO:60%~65%
Al:3%~8%
MgO:6%~9%
CaO:2%~8%
SrO:0%~3%
BaO:0%~3%
NaO:7%~13%
O:7%~13%
ZrO:0%~3%
【0028】
支持ガラス基板10は、酸化物基準のモル%で以下の化合物を含有することがさらに好ましい。支持ガラス基板10の組成を以下とすることで、平均熱膨張率CTEをより高く保ちつつ、圧縮応力層12の形成のための化学強化をより適切に適用可能となる。
SiO:62%~64%
Al:4%~6%
MgO:7%~8.5%
CaO:3%~5%
SrO:0%
BaO:0%
NaO:8%~12%
O:8%~12%
ZrO:0.5%~2%
なお、ここでの0%は、その化合物が含まれないことを意味するが、不可避的不純物として含まれていてもよい。
【0029】
なお、本実施形態に係る支持ガラス基板10は、非晶質のガラス、すなわち非晶質固体である。支持ガラス基板10は、少なくとも一部に結晶化ガラスを含んでよい。ただし、支持ガラス基板10は、酸化物などのセラミックスが焼結して形成された焼結体を含まないことが好ましい。
【0030】
(支持ガラス基板の製造方法)
次に、支持ガラス基板10の製造方法について説明する。支持ガラス基板10の製造方法においては、最初に、ガラス基板を製造し、そのガラス基板に化学強化処理を施すことにより、ガラス基板の表面に圧縮応力層12を形成して、支持ガラス基板10を製造する。すなわち、ここでのガラス基板が、化学強化前の支持ガラス基板10であるといえる。
【0031】
本製造方法におけるガラス基板の製造方法は、特に限定されず任意である。例えばダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法及びリドロー法など)、フロート法、ロールアウト法及びプレス法などが挙げられる。
【0032】
本製造方法においては、製造したガラス基板に対して化学強化処理を施すことで、圧縮応力層12を形成して、支持ガラス基板10を製造する。本製造方法においては、内部引張応力CT及び深さDOLが上記で規定した範囲内となるように、より好ましくは内部引張応力CT、表面圧縮応力CS、及び深さDOLが上記で規定した範囲内となるように、製造したガラス基板に対して化学強化処理を施す。本実施形態での化学強化処理では、アルカリ金属イオンを含む溶融塩に、製造したガラス基板を接触させることで、圧縮応力層12を形成する。例えば、本実施形態では、大きなイオン半径のアルカリ金属イオンを含む溶融塩の溶液、ここではKイオンを含む硝酸カリウム塩の溶液に、ガラス基板を浸漬させる。これにより、ガラス基板中の、溶融塩に含まれるアルカリ金属イオンよりもイオン半径が小さい金属イオン(ここではNaイオン)が、溶融塩に含まれるアルカリ金属イオンに置換されて、アルカリ金属イオンの専有面積の差によりガラス基板の表面に圧縮応力が発生して、圧縮応力層12が形成される。
【0033】
本実施形態では、ガラス基板に接触する溶融塩(溶融塩の溶液)の加熱温度を、370℃~480℃とすることが好ましく、400℃~450℃とすることがより好ましい。また、本実施形態では、ガラス基板と溶融塩との接触時間を、0.5時間~32時間とすることが好ましく、3時間~6時間とすることがより好ましい。加熱温度及び接触時間をこの範囲とすることで、内部引張応力CT、表面圧縮応力CS、及び深さDOLを適切な値にすることが可能となる。
【0034】
また、ガラス基板にさせる溶融塩としては、カリウムイオンを含む塩を用いることが好ましい。ガラス基板にさせる溶融塩の例としては、硝酸カリウム塩、硫酸カリウム塩、炭酸カリウム塩及び塩化カリウム塩などのアルカリ硝酸塩、アルカリ硫酸塩及びアルカリ塩化物塩などが挙げられる。これらの溶融塩は、単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせてもよい。また、化学強化特性を調整するため、ナトリウム(Naイオン)やリチウム(Liイオン)を含む塩を混ぜてもよい。
【0035】
このように、本実施形態に係る支持ガラス基板10は、化学強化処理により圧縮応力層12が形成される。そのため、本実施形態に係る支持ガラス基板10の圧縮応力層12は、イオン半径の小さいアルカリ金属元素が、溶融塩に含まれていたイオン半径の大きいアルカリ金属元素に置き換わった層になっているといえる。言い換えれば、溶融塩に含まれていたアルカリ金属元素を置換元素とすると、支持ガラス基板10は、圧縮応力層12の単位体積中に含まれる置換元素の数が、圧縮応力層12以外の層の単位体積中に含まれる置換元素の数よりも、多くなっている。ここでの置換元素は、例えばカリウムである。
【0036】
ここで、部材を支持する支持ガラス基板は、加熱時の温度分布が不均一となる場合がある。この場合、支持ガラス基板は、温度分布の差に起因して、位置毎に熱膨張量が異なることにより反りを生じて、破損するおそれがある。特に、平均熱膨張係数CTEが高い支持ガラス基板は、位置毎の熱膨張量の差が大きくなるため、反りに起因した破損のリスクが高くなる。
【0037】
それに対し、本実施形態に係る支持ガラス基板10は、表面に圧縮応力層12を含み、50℃~200℃における平均熱膨張係数CTEが7ppm/℃~15ppm/℃であり、内部引張応力CTが10MPa~55MPaであり、圧縮応力層12の深さDOLが10μm~60μmである。本実施形態に係る支持ガラス基板10は、平均熱膨張係数CTEをこの範囲とすることで、支持する部材の熱膨張係数が高い場合においても、追従した熱膨張が可能となるため、部材との剥離を低減できる。さらに、本実施形態に係る支持ガラス基板10は、内部引張応力CTと深さDOLとをこの範囲とすることで、表面に適切に圧縮応力層12を形成して、平均熱膨張係数CTEが高い場合においても、位置毎の熱膨張量の差に起因した破損を低減することができる。さらに、内部引張応力CTを55MPa以下とすることで、万が一破損した場合においても、破片の数が多くなることを低減できるため、特に汚染に厳しい半導体パッケージの支持基板の用途に適している。
【0038】
支持ガラス基板10は、ファンアウトウェハレベルパッケージ及びファンアウトパネルレベルパッケージの少なくとも一方の製造用の支持ガラス基板であることが好ましい。支持ガラス基板10は、ファンアウトウェハレベルパッケージ及びファンアウトパネルレベルパッケージの用途に適している。
【0039】
(実施例)
次に、実施例について説明する。尚、発明の効果を奏する限りにおいて実施態様を変更しても構わない。
【0040】
実施例においては、次の表1に記載の組成となるように、フロート法により、幅2.0m、厚み2.0mmのガラス基板の素板を製造した。なお、表1の組成Aは、小数点第2位で四捨五入して、小数点第1位までの表記となっている。実際には、組成Aにおける各組成を合計すると、100mol%となる。
【0041】
【表1】
【0042】
(評価用のサンプルの準備)
製造した素板のそれぞれについて、サンプルA、サンプルB、サンプルCを作成した。
【0043】
(サンプルA)
サンプルAの準備においては、素板の中心部から、縦20mm、横20mmの正方形のガラスを切り出し、切り出したガラスの両表面を、セリウム研磨材を用いて鏡面研磨を行い、厚みが0.8mmになるよう調整して、ガラス基板を作成した。このガラス基板に対して、化学強化を行ったものを、サンプルAとした。
サンプルAでの化学強化においては、ガラス基板をKNO処理槽に浸漬させて、後述の表2の実施例1から実施例4、および比較例1から比較例3毎に、溶液の加熱温度及び浸漬時間(接触時間)を設定して、化学強化を行った。具体的には、以下の条件とした。
実施例1:溶液の加熱温度を400℃として、浸漬時間を4時間とした。
実施例2:溶液の加熱温度を400℃として、浸漬時間を32時間とした。
実施例3:溶液の加熱温度を450℃として、浸漬時間を8時間とした。
実施例4:溶液の加熱温度を400℃として、浸漬時間を0.5時間とした。
比較例1:溶液の加熱温度を450℃として、浸漬時間を32時間とした。
比較例2:溶液の加熱温度を400℃として、浸漬時間を0.25時間とした。
比較例3:強化なし。
【0044】
(サンプルB)
サンプルBの準備においては、素板の中心部から、縦5mm、横70mmの長方形のガラスを切り出し、切り出したガラスの両表面を、セリウム研磨材を用いて鏡面研磨を行い、厚みが0.8mmになるよう調整して、ガラス基板を作成した。このガラス基板に対して、化学強化を行ったものを、サンプルBとした。
サンプルBでの化学強化においては、ガラス基板をKNO処理槽に浸漬させて、後述の表2の実施例1から実施例4、および比較例1から比較例3毎に、溶液の加熱温度及び浸漬時間(接触時間)を設定して、化学強化を行った。サンプルBでの溶液の加熱温度及び浸漬時間(接触時間)は、サンプルAと同様である。
【0045】
(サンプルC)
サンプルCの準備においては、素板の中心部から、縦6mm、横25mmの長方形のガラスを切り出し、切り出したガラスの両表面を、セリウム研磨材を用いて鏡面研磨を行い、厚みが0.8mmになるよう調整して、サンプルCとした。
【0046】
(評価用のサンプルの特性)
以上のようにして準備したサンプルについて、次のように特性を確認した。
(平均熱膨張係数CTEの測定)
サンプルCに対して、50~200℃における平均熱膨張係数CTEを、熱膨張測定の規格としてDIN-51045-1に準拠して測定した。具体的には、サンプルCに対して、測定装置としてNETZSCH社のdilatometer(DIL 402 Expedis)を用いて30~300℃の範囲で測定し、そのうち50~200℃の範囲の平均熱膨張係数を、平均熱膨張係数CTEとした。
【0047】
(表面圧縮応力の測定)
サンプルAに対して、表面応力計(折原製作所製: FSM-6000LE)を用いてサンプルAの表面の圧縮応力を測定して、表面圧縮応力CSとした。
【0048】
(圧縮応力層の深さの測定)
サンプルAに対して、表面応力計(折原製作所製: FSM-6000LE)を用いてサンプルAの表面からの圧縮応力深さを測定して、圧縮応力層12の深さDOLとした。
【0049】
(内部引張応力の算出)
測定した表面圧縮応力CS、圧縮応力層12の深さDOL、及び厚みtの値0.8mmを用いて、上述の式(1)により、内部引張応力CTを算出した。
【0050】
(サンプルの評価)
以上のようにして準備したサンプルについて、次のように評価した。
【0051】
(曲げ強度の評価)
サンプルBに対して、JIS:R-1601ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法に準拠し、曲げ強度Fを求めた。
曲げ強度Fの評価においては、
曲げ強度Fが500MPaより高くなる場合を二重丸とし、
曲げ強度Fが300MPa以上500MPa以下となる場合を丸とし、
曲げ強度Fが300MPaより低くなる場合をバツとした。
二重丸及び丸を、合格として評価した。
【0052】
(割れ方の評価)
測定装置としてFuture Tech社製 ARS-9000を用い、サンプルAに対して、圧子圧入試験として中央部を先端の対面角が90°の四角錐型ダイヤモンド圧子を3.0kgf~15kgfで圧入し、破壊した時の、破片の数Nを測定した。
破片の数Nが3個以下の場合を二重丸とし、
破片の数Nが4個以上10個以下の場合を丸とし、
破片の数Nが11個以上の場合をバツとした。
二重丸及び丸を、合格として評価した。
【0053】
実施例1から実施例4及び比較例1から比較例3の評価結果を、表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例1から実施例4と、比較例1から比較例2とを比較すると、内部引張応力CTが5MPa~55MPaであり、圧縮応力層12の深さDOLが10μm~60μmである場合に、曲げ強度及び割れ方の両方の評価を満たすことが分かる。なお、比較例3は、化学強化中にガラス板が割れたものである。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
10 支持ガラス基板
12 圧縮応力層
30 樹脂層
CS 表面圧縮応力
CT 内部引張応力
CTE 平均熱膨張係数
図1
図2