IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本光電工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

特許7296566無菌サンプリング流路キット及びそれを用いた細胞培養装置
<>
  • 特許-無菌サンプリング流路キット及びそれを用いた細胞培養装置 図1
  • 特許-無菌サンプリング流路キット及びそれを用いた細胞培養装置 図2
  • 特許-無菌サンプリング流路キット及びそれを用いた細胞培養装置 図3-1
  • 特許-無菌サンプリング流路キット及びそれを用いた細胞培養装置 図3-2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】無菌サンプリング流路キット及びそれを用いた細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20230616BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018024393
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019136005
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-02-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業 再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発」「再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発/ヒト多能性幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発(網膜色素上皮・肝細胞)」に係る委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】牧野 穂高
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛嗣
(72)【発明者】
【氏名】紀ノ岡 正博
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-200239(JP,A)
【文献】特開2017-185218(JP,A)
【文献】特表2003-530153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的に隔離された区域と;
前記物理的に隔離された区域の境界面に設けられた液送ポート本体であって、前記液送ポート本体は、液送ポート外蓋及び液送ポート内蓋とともに用いられる、液送ポート本体と;
前記物理的に隔離された区域内に設けられたサンプリング部と;
前記サンプリング部と連通し、前記液送ポート内蓋を介して前記物理的に隔離された区域の内外とを繋ぐ第1流路と;
前記第1流路に設けられ、前記第1流路内の流体の移動を、前記サンプリング部から前記区域の外側方向へ限定するための、少なくとも1つの一方向弁と;
前記第1流路の下流端に設けられた無菌接続継手と;
前記第1流路が貫通し、前記送ポート本体に嵌合した液送ポート内蓋と
を備え、
ここで、前記第1流路の少なくとも一部が、殺菌化手段を適用可能な殺菌化流路であって、
ここで、前記殺菌化流路の周囲に、前記殺菌化手段を備え
無菌性を維持しながら前記物理的に隔離された区域の内外とを繋ぐ交換可能な流路を構築可能とする、細胞培養装置。
【請求項2】
前記殺菌化手段が、熱又は紫外線を用いる殺菌化手段である、請求項に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記殺菌化流路が、フッ素系樹脂チューブである、請求項又はに記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記殺菌化流路が、FEPチューブである、請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記殺菌化流路が、前記液送ポート内蓋の下流に配置されている、請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記サンプリング部と連通した第2流路と;
前記第2流路に流体を供給するための緩衝液供給部と;
前記第2流路に設けられたポンプと、をさらに備える、請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記物理的に隔離された区域が、アイソレータである、請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
さらに前記第1流路内の流体の流れを検出する、少なくとも1つの流体検出手段と、前記流体検出手段により検出された信号を処理するCPUユニットを備え、前記流体検出手段によって流体の流れの停止または流速の異常を検出した場合、前記CPUユニットにより前記殺菌化手段を作動させることを特徴とする、請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞培養装置に適用するための無菌サンプリング流路キットであって、
前記物理的に隔離された区域内に設けられるサンプリング部と;
前記サンプリング部と連通し、前記区域の境界面に設けられた前記液送ポート内蓋を介して前記物理的に隔離された区域の内外とを繋ぐための第1流路と;
前記第1流路に設けられ、前記第1流路内の流体の移動を、前記区域内に設けられる前記サンプリング部から前記区域の外側方向へ限定するための、少なくとも1つの一方向弁と;
前記第1流路の下流端に設けられた無菌接続継手と;
前記第1流路が貫通し、前記液送ポート本体に嵌合するための液送ポート内蓋と
を備え、
ここで、前記第1流路の少なくとも一部が、殺菌化手段を適用可能な殺菌化流路であることを特徴とする、
無菌サンプリング流路キット。
【請求項10】
前記殺菌化手段が、熱又は紫外線を用いる殺菌化手段である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記殺菌化流路が、フッ素系樹脂チューブである、請求項9又は10に記載のキット。
【請求項12】
前記殺菌化流路が、FEPチューブである、請求項9~11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
前記殺菌化流路が、前記液送ポート内蓋の下流に配置されている、請求項9~12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
前記サンプリング部と連通し、緩衝液供給部からの流体を供給するための第2流路をさらに備える、請求項9~13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
前記物理的に隔離された区域が、アイソレータである、請求項9~14のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無菌サンプリング流路キットに関する。また、本発明は、無菌サンプリング流路キットを用いた培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療など、細胞を培養する必要がある技術分野において、無菌状態を維持したまま、長期間培養する装置が開発されている。そのような装置において培養された細胞の状態を調べるためには、培養を行う空間の無菌性は維持したまま、培養液などを非無菌空間に搬出する必要がある。従来、細胞培養器内の培養液のサンプリングを行う場合、無菌空間であるインキュベータに隣接して設けられたパスボックスなどにインキュベータ内のサンプルを一旦搬出してから外部に取り出す必要があり、サンプリングに手間と時間がかかっていた。
【0003】
このような課題に対し、無菌状態に保たれたインキュベータ内に複数の細胞培養器を収容可能なアイソレータ方式のサンプリングシステムが提案されている(例えば、特許文献1)。当該システムには、無菌空間を保つために培養液の流れを無菌空間の内部から外部に限定する一方向弁が設けられており、それにより、アイソレータ内部の無菌性を維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-200239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のサンプリングシステムでは、サンプルを無菌空間から非無菌空間へ送出するためのポンプに異常が生じた場合、菌が液相を伝わって無菌空間内部に侵入してしまう可能性がある。従って、本発明は、サンプルを無菌空間から非無菌空間へ送出する機構に異常が生じた場合であっても、アイソレータ内部の無菌空間を維持可能な培養装置、及びそれに用いられる無菌サンプリング流路キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に対し、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、サンプルをアイソレータ内部の無菌空間から非無菌空間へ送出する機構に異常が生じた場合であっても、アイソレータ内部の無菌空間を維持することができる培養装置及び、それに用いられる無菌サンプリング流路キットを開発するに至った。すわなち、本発明は、以下を含む。
【0007】
[1] 液送ポートを備えたアイソレータに適用するための無菌サンプリング流路キットであって、
サンプリング部と;
前記サンプリング部と連通し、前記液送ポートを介して前記アイソレータの内外とを繋ぐための第1流路と;
前記第1流路に設けられ、前記第1流路内の流体の移動を、前記サンプリング部から前記液送ポートの方向へ限定するための、少なくとも1つの一方向弁と;
を備え、
ここで、前記第1流路の少なくとも一部が、殺菌化手段を適用可能な殺菌化流路であることを特徴とする、無菌サンプリング流路キット。
[2] 前記殺菌化手段が、熱又は紫外線を用いる殺菌化手段である、[1]に記載のキット。
[3] 前記殺菌化流路が、フッ素系樹脂チューブである、[1]又は[2]に記載のキット。
[4] 前記殺菌化流路が、FEPチューブである、[1]~[3]のいずれか1項に記載のキット。
[5] 前記殺菌化流路が、液送ポート内蓋の下流に配置されている、[1]~[4]のいずれか1項に記載のキット。
[6] 前記サンプリング部と連通し、緩衝液供給部からの流体を供給するための第2流路をさらに備える、[1]~[5]のいずれか1項に記載のキット。
[7] さらに、前記第1流路の下流端に無菌接続継手を有する、[1]~[6]のいずれか1項に記載のキット。
【0008】
[8] アイソレータと;
前記アイソレータに設けられた液送ポートと;
前記アイソレータ内に設けられたサンプリング部と;
前記サンプリング部と連通し、前記液送ポートを介して前記アイソレータの内外とを繋ぐ第1流路と;
前記第1流路に設けられ、前記第1流路内の流体の移動を、前記サンプリング部から前記液送ポートの方向へ限定するための、少なくとも1つの一方向弁と;
を備え、
ここで、前記第1流路の少なくとも一部が、殺菌化手段を適用可能な殺菌化流路であって、
ここで、前記殺菌化流路の周囲に、前記殺菌化手段を備えていることを特徴とする、細胞培養装置。
[9] 前記殺菌化手段が、熱又は紫外線を用いる殺菌化手段である、[8]に記載の細胞培養装置。
[10] 前記殺菌化流路が、フッ素系樹脂チューブである、[8]又は[9]に記載の細胞培養装置。
[11] 前記殺菌化流路が、FEPチューブである、[8]~[10]のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[12] 前記殺菌化流路が、液送ポート内蓋の下流に配置されている、[8]~[11]のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[13] 前記サンプリング部と連通した第2流路と;
前記第2流路に流体を供給するための緩衝液供給部と;
前記第2流路に設けられたポンプと、をさらに備える、[8]~[12]のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[14] さらに、前記第1流路の下流端に無菌接続継手を有する、[8]~[13]のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[15] さらに前記第1流路内の流体の流れを検出する、少なくとも1つの流体検出手段と、前記流体検出手段により検出された信号を処理するCPUユニットを備え、前記流体検出手段によって流体の流れの停止または流速の異常を検出した場合、前記CPUユニットにより前記殺菌化手段を作動させることを特徴とする、[8]~[14]のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サンプルをアイソレータ内部の無菌空間から非無菌空間へ送出する機構に異常が生じた場合であっても、アイソレータ内部の無菌空間が汚染されるのを防ぐことができ、安全な細胞培養環境を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養装置の概略構成図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る細胞培養装置の一部を示す概略構成図である。
図3-1】本発明の実施形態に係る細胞培養装置への無菌サンプリング流路キットの設置手順の概略図である。
図3-2】本発明の実施形態に係る細胞培養装置への無菌サンプリング流路キットの設置手順の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
<細胞培養装置>
図1は、本発明の一実施形態に係る細胞培養装置1の概略構成図である。一実施形態において、細胞培養装置1は、内部空間を無菌状態に維持するアイソレータ10と;
前記アイソレータ10に設けられた液送ポート103と;
前記アイソレータ10内に設けられたサンプリング部203と;
前記サンプリング部203と連通し、前記液送ポート103を介して前記アイソレータ10の内外とを繋ぐ第1流路204と;
前記第1流路204に設けられ、前記第1流路204内の流体の移動を、前記サンプリング部203から前記液送ポート103の方向へ限定するための、少なくとも1つの一方向弁205と;
を備えており、ここで前記第1流路204の一部には、殺菌化手段30を備えている。
【0013】
アイソレータ10とは、環境及び従事者の直接介入から物理的に完全に隔離された無菌操作区域を有する装置であって、除染した後にHEPAフィルタ又はULPAフィルタ等により、ろ過した空気を供給し、外部環境からの汚染の危険性を防ぎながら連続して使用することができる装置をいう。図1のアイソレータ10は、無菌チャンバ101によって、外部空間と隔離されており、図示されないが、HEPAフィルタ又はULPAフィルタを備えている。さらに、アイソレータ10は、図示されないが、アイソレータ内部空間Sを除染するための除染手段を備えている。「除染」とは、再現性のある方法によって生存微生物を除去し、または予め指定されたレベルまで減少させることをいう。除染手段とは、「除染」を実現するために用いられる手段であり、例えば、除染剤を用いる手段、プラズマ処理を行う手段、ガンマ線を用いる手段、紫外線を用いる手段等を採用することができるが、これに限定されない。好ましくは、除染剤を用いる手段である。除染剤の例としては、例えば、過酸化水素又は過酢酸のミスト若しくは蒸気、オゾンガス、二酸化塩素ガス、エチレンオキサイドガスなどが挙げられる。これらの除染手段を用いることにより、アイソレータ内部空間Sを除染することができる。
【0014】
アイソレータ10の内外を隔離する無菌チャンバ101には、液送ポート本体103cが設けられている。液送ポート本体103cは、円筒状であってもよく、中空の直方体状であってもよく、限定されない。液送ポート本体103cにより無菌チャンバ101の内外が連通される。液送ポート本体103cの液送ポート開口部1031及び液送ポート開口部1030には、液送ポート内蓋103a及び液送ポート外蓋103bをそれぞれ嵌めることができ、液送ポート開口部1031及び液送ポート開口部1030を密閉することができる。液送ポート103は、少なくとも液送ポート内蓋103a、液送ポート外蓋103b及び液送ポート本体103cを含んでいる。液送ポート内蓋103aは、第1流路204が貫通しており、液送ポート内蓋103aの第1流路204が貫通している部分はシール部材等により流体が漏れないようシールされている。
【0015】
第1流路204は、サンプリング部203と連通している。サンプリング部203に供給されたサンプル又は緩衝液202は、サンプリング部203の底部と連通した第1流路204を通って排出される。第1流路204には、第1流路204内の流体の移動を、サンプリング部203から液送ポート103の方向へ限定するための、少なくとも1つの一方向弁205が備えられている。これにより、アイソレータ内部空間Sへ、流体が逆流することを防止することができる。サンプリング部203は、滅菌処理に耐性である素材であればよく、例えば、金属(例えば、ステンレス鋼)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ガラス、セラミックなどの素材を使用することができる。
【0016】
第1流路204には、殺菌化手段30を適用可能な殺菌化流路2040を有している。殺菌化手段30とは、生存微生物を除去し、又は予め指定されたレベルまで減少させることができる手段をいい、例えば、放射線(例えば、ガンマ線)、電子線、紫外線又は熱を用いる殺菌化手段30を採用することができる。ガンマ線は、60Coや137Csなどがガンマ崩壊するときに放出されるものであり、ガンマ線を用いる殺菌化手段30は、生体高分子(特にDNA)に損傷を与え、微生物を殺菌することができる。電子線を用いる殺菌化手段30も、生体高分子(特にDNA)に損傷を与え、微生物を殺菌することができる手段である。殺菌化手段30が、熱を与えて殺菌する手段である場合、例えば、80℃以上、90℃以上、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、又は150℃以上に加熱し、殺菌することができる。殺菌化手段30が、紫外線を与えて殺菌する手段である場合、紫外線が微生物の生体高分子(特にDNA)に損傷を与え、微生物を殺菌することができる。本発明の殺菌化手段30において用いることができる紫外線の波長は、好ましくは、深紫外波長であり、200nm~350nm、より好ましくは230nm~330nm、さらに好ましくは250nm~300nmである。殺菌化手段30で使用される紫外線は、公知の光源を用いて発生させることができ、例えば、深紫外波長にて発光する発光ダイオード(LED)を用いて発生させることができる。本発明において、殺菌化手段30は、小型化可能であり、容易に着脱可能であることが好ましく、例えば、深紫外波長にて発光するLEDを用いる殺菌化手段30が好ましい。
【0017】
殺菌化流路2040は、殺菌化手段30を適用した場合、殺菌化流路2040内に殺菌効果を発揮することを妨げず、かつ、生体物質が吸着され難い素材により形成されるものがよく、使用する殺菌化手段30に応じて適宜選択することができる。例えば、ガンマ線又は電子線を用いる殺菌化手段30を用いる場合は、ガンマ線又は電子線の透過を妨げず、ガンマ線又は電子線により劣化が少ない殺菌化流路2040を用いることができ、医療用チューブとして従来用いられているチューブを使用可能である(例えば、シリコーンゴムチューブ、ポリエチレンチューブ、ポリイミドチューブ、など)。殺菌化手段30が、熱を与えて殺菌する手段である場合は、殺菌化流路2040としては、シリコーンゴムチューブや、金属製チューブ、ポリイミドチューブ、フッ素系樹脂チューブなどを用いることができる。例えば、殺菌化手段30が、紫外線を用いる殺菌化手段30である場合は、殺菌化流路2040として、紫外線の透過を妨げず、生体物質が吸着され難い素材からなるチューブであって、例えば、フッ素系樹脂チューブ(PTFEチューブ、FEPチューブ、THVチューブ、PFAチューブ、ETFEチューブ、又はPVDFチューブ)を用いることができ、好ましくは、FEPチューブである。殺菌化流路2040の内径、厚さ等は、殺菌化手段30に応じて、適宜選択することができる。
【0018】
第1流路204は、その一部が殺菌化流路2040であってもよく、第1流路204が全て殺菌化流路2040であってもよい。第1流路204の一部が殺菌化流路2040である場合、公知のコネクタにより連結されている。殺菌化流路2040は、液送ポート103の下流、又は液送ポート内蓋103aの下流に配置されてもよい。本発明において、殺菌化流路2040の周囲に殺菌化手段30が適用されることにより、サンプルを無菌空間から非無菌空間へ送出する機構に異常が生じた場合であっても、液送ポート103の下流又は液送ポート内蓋103aの下流で菌を死滅させることで、アイソレータ内部が汚染することを防止することが可能となる。
【0019】
第1流路204は、直接、廃液槽308と連結されてもよいが、その流路の途中に無菌接続継手207を備えてもよい。無菌接続継手207は、無菌接続継手(オス型)207a及び無菌接続継手(メス型)207bを組み合わせ、無菌接続継手(オス型)207a及び無菌接続継手(メス型)207bの開口をそれぞれ密閉するメンブレンストリップ2070を引っ張って剥がし、無菌接続継手(オス型)207a及び無菌接続継手(メス型)207bをロックすることにより、無菌的に連結することができる。無菌接続継手207は市販されているものを利用することができ、例えば、ポール社(米国)やザルトリウス社(ドイツ)やコールダー・プロダクツ・カンパニー社(米国)などから入手することができる。無菌接続継手(オス型)207a及び無菌接続継手(メス型)207bは、入れ替えて利用することができる。第1流路204の途中であって、液送ポート内蓋103aの下流に無菌接続継手(オス型)207a(又は無菌接続継手(メス型)207b)を備えることにより、アイソレータの内外を無菌的に接続する流路を最小限化することができる。また、無菌接続継手207により、無菌接続継手207の下流の流路を自由に設計することが可能となる。
【0020】
一実施態様において、細胞培養装置1は、アイソレータ10の内部に、サンプリング部203と連通した第2流路206と、第2流路206に流体を供給するための緩衝液供給部201、第2流路206に設けられた第1ポンプ208をさらに備えてもよい。第1ポンプ208が駆動することにより、サンプリング部203に緩衝液202が供給され、サンプリング部203及び第1流路204を清浄に保つことができる。第2流路206を介して緩衝液202が供給されない場合、例えばチップ210によって緩衝液202が供給されてもよい。第1ポンプ208は、例えば、チューブポンプ(ペリスタポンプ)であってもよく、ピエゾポンプであってもよく、流体を送り出すことができるポンプであれば使用することができる。緩衝液202としては、サンプルSPに含まれる物質の性質を変化させないように、pHの変動を最小限に抑える性質を有する溶液を使用することができ、例えば、細胞の培養に用いられる液体培地(例えば、DMEM、RPMI-1640等)の他、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、HEPPS緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などを用いることができる。緩衝液202は、回収するサンプルSPの種類や目的に応じて適宜選択することができる。また、緩衝液202の代わりに、水や生理食塩水を用いてもよい。
【0021】
図1に記載の一実施態様において、無菌接続継手207の下流には、各種成分を検出する計測器311に接続された第4流路302と、廃液槽308に接続された第5流路303が形成されており、第4流路302及び第5流路303の途中には、それぞれ第2ポンプ307及び第3ポンプ312を備えており、第4流路302及び第5流路303は、ピンチバルブ切り替え装置306により開閉し、いずれかの流路に流体が流れるよう設計されている。サンプリングしない時は、図1のように、第1ピンチバルブ304を閉鎖すると同時に、第2ピンチバルブ305を開放して、第3ポンプ312を駆動させることにより、サンプリング部203に供給された緩衝液202を第1流路204から第5流路303を介して廃液槽308まで一方向流の流体を流すことができる。サンプリングが必要な場合は、緩衝液202をサンプリング部203及び第1流路204から排出した後、第2ピンチバルブ305を閉鎖すると同時に、第1ピンチバルブ304を開放し、チップ210によって細胞培養部209の培養細胞CLから回収されたサンプルSPを、サンプリング部203に吐出し、第2ポンプ307を駆動することにより、サンプルSPを第1流路204から第5流路303まで誘導し、計測器311にて成分等を測定することができる。第2ポンプ307及び第3ポンプ312は、例えば、チューブポンプ(ペリスタポンプ)であってもよく、ピエゾポンプであってもよく、流体を送り出すことができるポンプであれば使用することができる。
【0022】
本発明の一実施態様において、細胞培養装置1は、第1流路204内の流体の流れを検出する、少なくとも1つの流体検出手段をさらに備えている。流体検出手段は、図1に示されるように、第1流路204に設けられた液流センサ313などの、流体の動きを検出する手段であってもよく、例えば、第3ポンプ312の作動を検知するセンサであってもよく、廃液槽308の重さを検出する電子天秤310であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。流体検出手段により検出された信号は、例えば、ケーブル314(ワイヤレスであってもよい)を介して、CPUユニット(図1においては、「電子計算機315」)によりモニタリングされ、流体の流れの停止または流速の異常を検出すると、ケーブル316(ワイヤレスの手段によって通信するものであってもよい)を介して殺菌化手段30を作動させる。これにより、アイソレータ内部の無菌空間から非無菌空間へ送出する機構に異常が生じた場合であっても、アイソレータ内部の無菌空間が汚染されるのを防ぐことができ、安全な細胞培養環境を維持することができる。また、殺菌化手段30を作動させる場合をアイソレータ10内部の無菌空間から非無菌空間へ送出する機構に異常が生じた場合に限定することにより、サンプルの生物学的特性に変化を与えることを極力回避することができる。流体検出手段、CPUユニット、殺菌化手段30は、細胞培養装置1の電源とは独立していることが好ましく、無停電装置に接続されていることが好ましい。
【0023】
図2は、本発明の他の実施態様における、細胞培養装置1の一部を示すものであり、殺菌化手段30を一方向弁205の上流の第1流路204に適用していることを示す図である。殺菌化手段30は、殺菌化流路2040を有する部位であれば、第1流路204のいずれに設置されてもよい。
【0024】
<無菌サンプリング流路キット、及びその使用方法>
本発明はまた、液送ポート103を備えたアイソレータ10に適用するための無菌サンプリング流路キット20を提供するものであり、該キットは:
サンプリング部203と;
前記サンプリング部203と連通し、前記液送ポート103を介して前記アイソレータ10の内外とを繋ぐための第1流路204と;
前記第1流路204に設けられ、前記第1流路204内の流体の移動を、前記サンプリング部203から前記液送ポート103の方向へ限定するための、少なくとも1つの一方向弁205と;を備え、
ここで、前記第1流路204の少なくとも一部が、殺菌化手段30を適用可能な殺菌化流路2040である。他の実施態様において、無菌サンプリング流路キット20は、図3-1(A)に示す様に、サンプリング部203と連通した第2流路206と、第2流路206に流体を供給するための緩衝液供給部201と、第2流路206に設けられた第1ポンプ208と、をさらに備えてもよい。また、他の実施形態において、無菌サンプリング流路キット20は、さらに第1流路204の下流端には無菌接続継手を有していてもよい。無菌サンプリング流路キット20に含まれる上記の各部材は、個別の滅菌バッグ200に封入されていてもよく、図3-1(A)に示す様に、同一の滅菌バッグ200に封入されていてもよい。滅菌バッグ200に封入された無菌サンプリング流路キット20の各部材は、例えば、ガンマ線又は電子線によって予め滅菌されている。
【0025】
無菌サンプリング流路キット20の使用方法について、図3を参照しながら説明する。上述の無菌サンプリング流路キット20は、アイソレータ10の液送ポート本体103cの開口、又は、アイソレータ10に別途設けられた除染パスボックス(図示しない)からアイソレータ内部へ搬入される(図3-1(A))。その後、外側の液送ポート開口部1030を液送ポート外蓋103bで密閉し、アイソレータ10の内部及び無菌サンプリング流路キット20を除染する(図3-1(B))。液送ポート内蓋103aは、図3-1のように滅菌バッグ200に封入された状態で提供されてもよく、滅菌バッグ200とは別にアイソレータ10内に提供されてもよい。
【0026】
除染完了後、アイソレータ10に備わっており、アイソレータ10の外部から操作者の腕を挿入可能なグローブ102を用いて、滅菌バッグ200を開封し、各部材を組み立てる。第1流路204、一方向弁205及び無菌接続継手(オス型)207aを液送ポート本体103cの内部に入れ、第1流路204が貫通している液送ポート内蓋103aにより密閉する(図3-2(C))。アイソレータ10の外部から、液送ポート外蓋103bを外し、第1流路204、一方向弁205及び無菌接続継手(オス型)207aを液送ポート本体103cより取り出す。その後、無菌接続継手(メス型)207bを一端に有する第3流路301と無菌接続継手によって無菌的に連結させる。さらに、第1流路204の殺菌化流路2040に、殺菌化手段30をセットする(図3-2(D))。以上により、本発明の無菌サンプリング流路キットを用いた細胞培養装置が使用可能となる。
【0027】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0028】
1 細胞培養装置
10 アイソレータ
101 無菌チャンバ
102 グローブ
103 液送ポート
103a 液送ポート内蓋
103b 液送ポート外蓋
103c 液送ポート本体
1030、1031 液送ポート開口部
20 無菌サンプリング流路キット
200 滅菌バッグ
201 緩衝液供給部
202 緩衝液
203 サンプリング部
204 第1流路
2040 殺菌化流路
205 一方向弁
206 第2流路
207 無菌接続継手
207a 無菌接続継手(オス型)
207b 無菌接続継手(メス型)
2070 メンブレンストリップ
208 第1ポンプ
209 細胞培養部
210 チップ
211 吸引デバイス
212 吸引チューブ
30 殺菌化手段
301 第3流路
302 第4流路
303 第5流路
304 第1ピンチバルブ
305 第2ピンチバルブ
306 ピンチバルブ切り替え装置
307 第2ポンプ
308 廃液槽
3080 廃液
309 通気チューブ
3090 通気フィルタ
310 電子天秤
311 計測器
3110 バルブユニット
312 第3ポンプ
313 液流センサ
314 ケーブル
315 電子計算機
316 ケーブル
S アイソレータ内部空間
SP サンプル
CL 培養細胞
図1
図2
図3-1】
図3-2】