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特許7296785アポクリン汗腺の動態の観察方法、および被験物質の評価方法
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  • 特許-アポクリン汗腺の動態の観察方法、および被験物質の評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】アポクリン汗腺の動態の観察方法、および被験物質の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20230616BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230616BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230616BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Q
C12Q1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019100596
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020193909
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中島 輝恵
(72)【発明者】
【氏名】游 優
(72)【発明者】
【氏名】倉田 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郁尚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文裕
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特許第6276487(JP,B1)
【文献】特表2010-522545(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0144821(US,A1)
【文献】わきがを抑制する新たなメカニズムを発見!植物エキスでアポクリン汗腺の活動を抑え、わきのにおいを根本改善,カネボウ・トリニティ・ホールディングス株式会社、カネボウ製薬株式会社,2006年06月01日,[online],[令和5年2月16日検索],インターネット <URL:https://www.kracie.co.jp/release/pdf/060601wakiga.pdf>
【文献】MORIMOTO, Y. et al.,Proliferating cells in human eccrine and apocrine sweat glands.,The Journal of Histochemistry and Cytochemistry,1995年,Vol.43, No.12,pp.1217-1221
【文献】LI, Y. et al.,Association between ApoD expression level and the severity of axillary osmidrosis,International Journal of Clinical and Experimental Pathology,2017年,Vol.10, No.2,pp.1854-1859
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 33/15
C12Q 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、および、核に対する染色試薬によって染色する染色工程と、
上記染色工程にて染色された観察試料に含まれるアポクリン汗腺の管腔内の動態を観察する観察工程と、を含み、
上記アポクリン汗腺の管腔内の動態の観察が、離出分離に伴う細胞膜および細胞核の染色像の変化に基づいた離出分泌の観察である、アポクリン汗腺の動態の観察方法。
【請求項2】
上記離出分離に伴う細胞膜および細胞核の染色像の変化は、離出分離される細胞片による細胞膜および細胞核の染色像の変化である、請求項1に記載のアポクリン汗腺の動態の観察方法。
【請求項3】
上記観察工程の前に、さらに上記染色工程で染色されたアポクリン汗腺が位置ずれしないように、コラーゲン、アガロース、基底膜マトリックス、ポリ-D-リジン、およびメンブランからなる群より選択される、少なくとも1種によって上記染色されたアポクリン汗腺を支持体上に保持させて観察試料を得る固定化工程を含む、請求項1または2に記載のアポクリン汗腺の動態の観察方法。
【請求項4】
上記観察工程にて、アポクリン汗腺と、刺激薬とを接触させる、請求項1~3のいずれか1項に記載のアポクリン汗腺の動態の観察方法。
【請求項5】
被験物質がアポクリン汗腺の発汗制御作用を有する物質であるか否かを評価する被験物質の評価方法であって、
単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、および、核に対する染色試薬によって染色する染色工程と、
上記染色工程で得られた観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質とを接触させた後、観察試料に含まれる上記アポクリン汗腺の管腔内の動態を観察する観察工程と、
上記観察工程で観察されたアポクリン汗腺の管腔内の動態に基づき、被験物質が発汗制御作用を有する物質であるか否かを評価する評価工程と、を含み、
上記アポクリン汗腺の管腔内の動態の観察が、離出分離に伴う細胞膜および細胞核の染色像の変化に基づいた離出分泌の観察である、被験物質の評価方法。
【請求項6】
上記観察工程にて、上記観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質と、刺激薬とを接触させる、請求項5に記載の被験物質の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポクリン汗腺の動態の観察方法、および被験物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過度の発汗は、肌のベタつきおよび不快感を招くことがある。そこで、汗腺を閉塞させることによって発汗を抑制する成分を含む制汗剤などが開発されている。しかしながら、近年の清潔志向の高まりに伴い、過度の発汗などをより効果的に抑制することが求められている。本発明者らは、発汗を効果的に抑制する成分を開発するために、これまでに汗腺の動態を観察する方法を開発し、報告している(特許文献1)。
【0003】
また、ヒトは、機能の異なる2種類の汗腺(具体的に、アポクリン汗腺、およびエクリン汗腺)を有する。アポクリン汗腺は、腋などに多く存在し、汗を分泌する。汗は、微生物によって代謝されて、ニオイの原因や汗ジミの原因となる(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6276487号
【非特許文献】
【0005】
【文献】「新化粧品学」、南山堂、2001年、p.18-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ニオイや汗ジミを抑制するためには、アポクリン汗腺からの発汗をより効果的に抑制する必要があり、そのために、アポクリン汗腺における汗の産生動態を観察できる技術の開発が求められている。
【0007】
アポクリン汗腺における汗の産生機序としては、(i)単純汗である水分子の生成および再吸収だけでなく、(ii)アポクリン汗腺を形成している細胞が分泌物を生成し、当該分泌物を保持した細胞の一部分が細胞の本体からちぎれてアポクリン汗腺の管腔内に分泌される離出分泌(apocrine secretion)、が知られている。本発明者らは、かかる離出分泌をより詳細に観察する技術の開発こそが、重要であると考えた。
【0008】
本発明の一実施形態は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、アポクリン汗腺の新たな観察方法およびその利用技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の物質に対する染色を行ったアポクリン汗腺の管腔内を観察することにより、アポクリン汗腺の離出分泌を精度よく観察できるという新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るアポクリン汗腺の動態の観察方法は、単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選択される少なくとも1種の染色試薬によって染色する染色工程と、上記染色工程にて染色された観察試料に含まれるアポクリン汗腺の管腔内の動態を観察する観察工程と、を含む。
【0011】
発明の一態様に係るアポクリン汗腺の動態の観察方法では、上記アポクリン汗腺の管腔内の動態の観察が、離出分泌の観察であることが好ましい。
【0012】
発明の一態様に係るアポクリン汗腺の動態の観察方法は、上記観察工程の前に、さらに上記染色工程で染色されたアポクリン汗腺が位置ずれしないように、コラーゲン、アガロース、基底膜マトリックス、ポリ-D-リジン、およびメンブランからなる群より選択される、少なくとも1種によって上記染色されたアポクリン汗腺を支持体上に保持させて観察試料を得る固定化工程を含むことが好ましい。
【0013】
発明の一態様に係るアポクリン汗腺の動態の観察方法では、上記観察工程にて、アポクリン汗腺と、刺激薬とを接触させることが好ましい。
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る被験物質の評価方法は、被験物質がアポクリン汗腺の発汗制御作用を有する物質であるか否かを評価する被験物質の評価方法であって、単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選ばれた少なくとも1種の染色試薬によって染色する染色工程と、上記染色工程で得られた観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質とを接触させた後、観察試料に含まれる上記アポクリン汗腺の管腔内の動態を観察する観察工程と、上記観察工程で観察されたアポクリン汗腺の管腔内の動態に基づき、被験物質が発汗制御作用を有する物質であるか否かを評価する評価工程と、を含む。
【0015】
本発明の一態様に係る被験物質の評価方法では、上記観察工程にて、上記観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質と、刺激薬とを接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、アポクリン汗腺の管腔内を観察することができる。このため、本発明の一態様によれば、アポクリン汗腺の離出分泌を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は、本発明の実施例における、アポクリン汗腺の管腔内の観察箇所を示し、(b)は、本発明の実施例における、アポクリン汗腺の管腔内の染色像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0019】
従来、アポクリン汗腺の構造を保ったまま、管腔(例えば、分泌腺)内の動態を観察することは提案されていなかった。また、従来、管腔を観察しようとすれば、皮膚組織の切片を作製し、当該切片の表面に露出する管腔を観察していた。しかしながら、その方法では、管腔内における汗の産生動態を観察することはできない。
【0020】
アドレナリンによってアポクリン汗腺の発汗が促進されると報告する学術論文なども存在しているが、客観的な実験データによる裏付けが示されておらず、いまだ、アポクリン汗腺の発汗の機序が明らかになっていない。特に、アポクリン汗腺の管腔内における離出分泌については、機序が明らかとなっていなかった。
【0021】
本発明者らは、今回、刺激薬(具体的に、アドレナリン受容体作動薬)によって、初めてアポクリン汗腺の管腔内における離出分泌が誘導されることを観察し、離出分泌の機序を明らかにした。
【0022】
なお、特許文献1は、汗腺組織を外部から観察することについて記載しているが、アポクリン汗腺の分泌腺の管腔内における離出分泌を観察することについては記載していない。また、特許文献1は、アポクリン汗腺に特化した観察方法についても記載していない。
【0023】
〔1.アポクリン汗腺の動態の観察方法〕
本実施の形態のアポクリン汗腺の動態の観察方法は、単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選択される少なくとも1種の染色試薬によって染色する染色工程と、上記染色工程にて染色された観察試料に含まれるアポクリン汗腺の管腔内の動態を観察する観察工程と、を含む。
【0024】
アポクリン汗腺は、様々な動態を示す。これらの動態は、これらの動態に関わる物質または構造体(例えば、これらの動態に伴って位置および/または形状が変化する物質または構造体)、好ましくはこれらの動態に深く関わる物質または構造体(例えば、これらの動態に伴って位置および/または形状が大きく変化する物質または構造体)を指標として、観察され得る。細胞膜、核(細胞核)、細胞骨格、および、脂質は、本発明者が見出した、アポクリン汗腺の動態に関わる物質または構造体であって、上記構成によれば、アポクリン汗腺の動態を観察することができる。
【0025】
本実施の形態のアポクリン汗腺の動態の観察方法は、上記観察工程の前に、さらに上記染色工程で染色されたアポクリン汗腺が位置ずれしないように、コラーゲン、アガロース、基底膜マトリックス、ポリ-D-リジン、およびメンブランからなる群より選択される、少なくとも1種によって上記染色されたアポクリン汗腺を支持体上に保持させて観察試料を得る固定化工程を含んでもよい。
【0026】
アポクリン汗腺の動態を観察する場合には、生きている状態のアポクリン汗腺を観察する必要がある。この場合、アポクリン汗腺に与えるダメージが極力小さくなるように、かつ、観察中のアポクリン汗腺が位置ずれを起こすことがないように(換言すれば、観察中のアポクリン汗腺が動態以外の動きを起こすことがないように)、アポクリン汗腺を支持体上に保持させることが好ましい。上記構成によれば、アポクリン汗腺に与えるダメージが極力小さくなるように、かつ、観察中のアポクリン汗腺が位置ずれを起こすことがないように、アポクリン汗腺を支持体上に保持させることができる。なお、本明細書において「生きている状態」とは、生体内における生物学的活性および動きと同様の生物学的活性および動きを示す状態を意図する。
【0027】
上記アポクリン汗腺としては、特に限定されず、例えば、ヒトのアポクリン汗腺、非ヒト哺乳類のアポクリン汗腺、ヒトから採取したアポクリン汗腺(例えば、ヒトから採取した皮膚組織に含まれるアポクリン汗腺)、および、非ヒト哺乳類から採取したアポクリン汗腺(例えば、非ヒト哺乳類から採取した皮膚組織に含まれるアポクリン汗腺)を挙げることができる。非ヒト哺乳類としては、アポクリン汗腺、または、アポクリン汗腺の類似構造体を有する非ヒト哺乳類を挙げることができる。非ヒト哺乳類としては、例えば、霊長類、実験動物、愛玩動物、および家畜を挙げることができ、より具体的に、サル、チンパンジー、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、およびウマを挙げることができる。
【0028】
以下に、染色工程、固定化工程、および観察工程の各々について説明する。
【0029】
<A.染色工程>
染色工程は、単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選択される少なくとも1種の染色試薬によって染色する工程である。
【0030】
より感度高くアポクリン汗腺の動態を観察するという観点から、染色工程は、(i)細胞膜に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬によって染色する工程、(ii)細胞膜に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬によって染色する工程、または、(iii)細胞膜に対する染色試薬によって染色する工程、であることが好ましい。
【0031】
細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬は、皮膚組織の小片内、および/または、当該小片内に含まれる細胞内を自由に拡散できるものであることが好ましい。当該観点から、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬は、疎水性が高い低分子の物質であることが好ましい。
【0032】
細胞膜に対する染色試薬は、例えば、細胞膜を構成する物質に結合する結合物質Aを含み得る。細胞膜に対する染色試薬は、結合物質A以外に、結合物質Aに結合されている標識物質、または、結合物質Aと結合し得る標識物質(例えば、標識物質が結合している二次抗体)を含んでいてもよい。勿論、結合物質A自体が、標識物質としての機能を兼ね備えていてもよい。
【0033】
結合物質Aとしては、例えば、CellMask(商品名、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、およびCellLight(登録商標)を挙げることができる。
【0034】
結合物質Aとしては、例えば、細胞膜に存在する物質(例えば、タンパク質)を認識する抗体Aを挙げることができる。細胞膜に存在する物質(例えば、タンパク質)としては、例えば、細胞膜キナーゼ、およびレクチンを挙げることができる。
【0035】
上記抗体Aとしては、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、およびこれら抗体の断片(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、および単鎖抗体)を挙げることができる。抗体Aとしては、市販の抗体を用いることも可能であるし、公知の方法にて作製された抗体を用いることも可能である。
【0036】
モノクローナル抗体は、例えば、上記抗体Aを生産するハイブリドーマを所望の培地中にて培養して培養上清を得、必要に応じて当該培養上清を精製することによって得ることができる。ハイブリドーマは、細胞膜に存在する物質(例えば、タンパク質)を動物(例えば、マウス、ラット)の静脈内、皮下、又は腹腔内に投与した後、当該動物から抗体産生細胞を得、当該抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞融合させることによって得ることができる。
【0037】
ポリクローナル抗体は、例えば、細胞膜に存在する物質(例えば、タンパク質)を動物(例えば、ウサギ)の静脈内、皮下、又は腹腔内に投与した後、当該動物から血清を得、必要に応じて当該血清を精製することによって得ることができる。
【0038】
Fabフラグメントは、例えば、上記抗体A(例えば、モノクローナル抗体)をパパインによって消化し、必要に応じて当該消化産物を精製することによって得ることができる。
【0039】
F(ab’)フラグメントは、例えば、上記抗体A(例えば、モノクローナル抗体)をペプシンによって消化し、必要に応じて当該消化産物を精製することによって得ることができる。
【0040】
単鎖抗体は、例えば、上記抗体A(例えば、モノクローナル抗体)の軽鎖の可変領域をコードする核酸と、リンカーをコードする核酸と、当該抗体Aの重鎖の可変領域をコードする核酸とを連結させた核酸構築物を含有するファージミドベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞内にて核酸構築物にコードされるポリペプチドを発現させ、必要に応じて当該ポリペプチドを精製することによって得ることができる。
【0041】
上記標識物質は、蛍光、または色などの検出可能なシグナルを生成できる物質(例えば、蛍光色素、酵素)であればよい。上記標識物質としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート;2-(3-イミニオ-4,5-ジスルホナト-6-アミノ-3H-キサンテン-9-イル)-5-[[5-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)ペンチル]カルバモイル]安息香酸(例えば、Invitrogen社製のAlexa Fluor 488);6-(2-カルボキシラト-4-カルボキシフェニル)-1,2,10,11-テトラヒドロ-1,2,2,10,10,11-ヘキサメチル-4,8-ビス-(スルホメチル)-1,11-ジアザ-13-オキソニアペンタセン(例えば、Invitrogen社製のAlexa Fluor 594);ペルオキシダーゼ;アルカリホスファターゼを挙げることができる。勿論、本発明は、これらの標識物質に限定されない。
【0042】
核に対する染色試薬は、例えば、例えば、細胞核を構成する物質に結合する結合物質Bを含み得る。細胞核に対する染色試薬は、結合物質B以外に、結合物質Bに結合されている標識物質、または、結合物質Bと結合し得る標識物質(例えば、標識物質が結合している二次抗体)を含んでいてもよい。勿論、結合物質B自体が、標識物質としての機能を兼ね備えていてもよい。
【0043】
結合物質Bとしては、例えば、Hoechst 33342(登録商標)、Hoechst 33258(登録商標)、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)、DRAQ5(商品名、アブカム社製)、およびDRAQ7(商品名、アブカム社製)を挙げることができる。
【0044】
結合物質Bとしては、例えば、細胞核に存在する物質(例えば、タンパク質)を認識する抗体Bを挙げることができる。細胞核に存在する物質(例えば、タンパク質)としては、例えば、ヒストンを挙げることができる。
【0045】
上記抗体Bとしては、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、およびこれら抗体の断片(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、および単鎖抗体)を挙げることができる。抗体Bとしては、市販の抗体を用いることも可能であるし、公知の方法にて作製された抗体を用いることも可能である。
【0046】
モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、およびこれら抗体の断片は、用いる抗原を「細胞膜に存在する物質(例えば、タンパク質)」から「細胞核に存在する物質(例えば、タンパク質)」に変更した上で、上述した方法にしたがって作製することができる。当該方法については既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。また、標識物質についても既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0047】
細胞骨格構成物質に対する染色試薬は、例えば、例えば、細胞骨格を構成する物質に結合する結合物質Cを含み得る。細胞骨格構成物質に対する染色試薬は、結合物質C以外に、結合物質Cに結合されている標識物質、または、結合物質Cと結合し得る標識物質(例えば、標識物質が結合している二次抗体)を含んでいてもよい。勿論、結合物質C自体が、標識物質としての機能を兼ね備えていてもよい。
【0048】
結合物質Cとしては、例えば、細胞骨格を構成する物質(例えば、タンパク質)を認識する抗体Cを挙げることができる。細胞骨格を構成する物質(例えば、タンパク質)としては、例えば、アクチン、ミオシン、ケラチン、およびチューブリンを挙げることができる。
【0049】
上記抗体Cとしては、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、およびこれら抗体の断片(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、および単鎖抗体)を挙げることができる。抗体Cとしては、市販の抗体を用いることも可能であるし、公知の方法にて作製された抗体を用いることも可能である。
【0050】
モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、およびこれら抗体の断片は、用いる抗原を「細胞膜に存在する物質(例えば、タンパク質)」から「細胞骨格を構成する物質(例えば、タンパク質)」に変更した上で、上述した方法にしたがって作製することができる。当該方法については既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。また、標識物質についても既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0051】
脂質に対する染色試薬は、例えば、脂質に結合して発色する脂質染色剤D、または、脂質と共存して発色する脂質染色剤Dを含み得る。
【0052】
染色される脂質は、特に限定されず、例えば、中性脂肪(トリグリセライド)、脂肪酸エステル、コレステロールエステル等の極性の低い脂質、コレステロール、脂肪酸等の少し極性を有する脂質、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。アポクリン汗腺の動態をより良く観察するという観点からは、染色される脂質は、アポクリン汗腺をより良く染色し得るナイルレッドの染色対象である、中性脂肪(トリグリセライド)が好ましい。
【0053】
脂質染色剤Dとしては、例えば、ナイルレッド、ナイルブルー、オイルレッドO、ズダンIII、ズダンIV、ズダンブラックB、およびBODIPY(boron-dipyrromethene)を挙げることができる。
【0054】
単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選択される少なくとも1種の染色試薬によって染色する方法は、特に限定されず、一般的な染色方法に従えばよい。例えば、単離された、生きている状態のアポクリン汗腺(例えば、(a)界面活性剤等による透過処理、および/または、アルデヒド等による架橋処理を経ていないアポクリン汗腺、または、(b)界面活性剤等による透過処理、および/または、アルデヒド等による架橋処理を、マイルドな条件下にて経たアポクリン汗腺)と、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選択される少なくとも1種の染色試薬とを接触させることによって、アポクリン汗腺を染色することができる。
【0055】
<B.固定化工程>
固定化工程は、染色工程で染色されたアポクリン汗腺が位置ずれしないように、固定可用材料(例えば、コラーゲン、アガロース、基底膜マトリックス、ポリ-D-リジン、およびメンブランからなる群より選択される、少なくとも1種)によって上記染色されたアポクリン汗腺を支持体上に保持させて観察試料を得る工程である。当該固定化工程は、アポクリン汗腺が位置ずれしないようにする位置固定化工程であり、従来、組織染色の前などに、生化学的反応を停止させて組織中の細胞の形態が変わらないようする組織固定化工程とは完全に相違する。
【0056】
コラーゲンとしては、特に限定されず、例えば、I型コラーゲン(例えば、コラーゲン タイプI-A、コラーゲン タイプI-B)、III型コラーゲン、およびIV型コラーゲンを挙げることができる。固定化用材料としてコラーゲンを用いる場合、支持体上におけるアポクリン汗腺の保持は、支持体上に配置された染色済みのアポクリン汗腺に、冷却されたコラーゲン含有溶液を滴下し、当該コラーゲン含有溶液を22℃~38℃にてインキュベーションしてゲル化させることによって、行うことができる。
【0057】
アガロースとしては、特に限定されず、アポクリン汗腺を構成する細胞が生存することができる温度の融点を有するものであればよい。固定化用材料としてアガロースを用いる場合、支持体上におけるアポクリン汗腺の保持は、支持体上に配置された染色済みのアポクリン汗腺に、融解状態のアガロースを滴下し、当該アガロースを融点以下の温度にてインキュベーションしてゲル化させることによって、行うことができる。
【0058】
基底膜マトリックスとしては、特に限定されず、例えば、ラミニン、ニドゲン、およびヘパラン硫酸プロテオグリカンを挙げることができる。より具体的に、基底膜マトリックスとしては、マトリゲル基底膜マトリックス(コーニング社製)を挙げることができる。固定化用材料として基底膜マトリックスを用いる場合、支持体上におけるアポクリン汗腺の保持は、支持体上に配置された染色済みのアポクリン汗腺に、基底膜マトリックスを滴下し、当該基底膜マトリックスを22℃~37℃にてインキュベーションしてゲル化させることによって、行うことができる。
【0059】
ポリ-D-リジンとしては、特に限定されず、アポクリン汗腺を構成する細胞を支持体上に接着させ得る分子量を有するものであればよい。固定化用材料としてポリ-D-リジンを用いる場合、支持体上におけるアポクリン汗腺の保持は、支持体の表面をポリ-D-リジンによって被覆し、当該支持体上に染色後の生きているアポクリン汗腺を配置することによって、行うことができる。
【0060】
メンブランとしては、特に限定されず、アポクリン汗腺を通過させないものであればよい。メンブランは、アポクリン汗腺以外の物質(例えば、刺激薬)を通過させるものであることが好ましい。メンブランの孔径は、アポクリン汗腺を通過させない観点から、40μm以下であることが好ましく、0.4μ以下であることがより好ましい。メンブランの孔径は、アポクリン汗腺以外の物質を通過させる観点から、0.1μm以上であることが好ましい。固定化用材料としてメンブランを用いる場合、支持体上におけるアポクリン汗腺の保持は、支持体上に配置された染色済みのアポクリン汗腺の上をメンブランによって覆うことによって、行うことができる。
【0061】
支持体は、その上にアポクリン汗腺を保持でき、かつ、当該アポクリン汗腺を光学顕微鏡等によって観察できるものであればよく、具体的な構成は限定されない。支持体の形態としては、容器(例えば、シャーレ、ディッシュ、プレート、フラスコ、チャンバー、およびチューブ)を挙げることができる。支持体の材料としては、プラスチック、およびガラスを挙げることができる。
【0062】
<C.観察工程>
観察工程は、染色工程にて染色された観察試料に含まれるアポクリン汗腺の管腔内(例えば、アポクリン汗腺の分泌腺の管腔内)の動態を観察する工程である。
【0063】
アポクリン汗腺の管腔内の動態の観察は、公知の方法によって行うことができる。アポクリン汗腺の管腔内の動態の観察は、光学顕微鏡(例えば、蛍光顕微鏡、または共焦点レーザー顕微鏡)を用いて行うことができる。
【0064】
アポクリン汗腺の管腔内の動態は、例えば、少なくとも2つの時点において、細胞膜、細胞核、細胞骨格、または脂質の染色像を取得し、当該染色像の変化を検出することによって、観察され得る。換言すれば、アポクリン汗腺の管腔内の動態は、細胞膜の染色像の変化、細胞核の染色像の変化、細胞骨格の染色像の変化、または、脂質の染色像の変化を検出することによって、観察され得る。これらの染色像の変化は、例えば、細胞膜自体の能動的な動き、細胞核自体の能動的な動き、細胞骨格自体の能動的な動き、または、脂質自体の能動的な動きのみならず、様々な要因(例えば、離出分泌)によって引き起こされる、細胞膜の受動的な動き、細胞核の受動的な動き、細胞骨格の受動的な動き、または、脂質の受動的な動きをも反映していると考え得る。
【0065】
観察されるアポクリン汗腺の管腔内の動態は、特に限定されず、例えば、離出分泌、細胞膜のゆらぎ、および細胞の位置変化を挙げることができる。アポクリン汗腺の動態をより良く観察するという観点からは、観察されるアポクリン汗腺の管腔内の動態は、離出分泌であることが好ましい。
【0066】
観察工程では、アポクリン汗腺と、刺激薬とを接触させてもよい。当該構成であれば、刺激薬によってアポクリン汗腺の管腔内の動態を変化させることによって、アポクリン汗腺の管腔内の動態を、より良く観察することができる。
【0067】
刺激薬は、アポクリン汗腺の動態を活性化させるものであってもよいし、アポクリン汗腺の動態を不活性化させるものであってもよく、観察しようとする動態に合せて選択することができる。
【0068】
刺激薬の一例としては、アドレナリン受容体作動薬(例えば、アドレナリン受容体α作動薬、およびアドレナリン受容体β作動薬)を挙げることができる。アドレナリン受容体α作動薬としては、アドレナリン受容体α作動薬、およびアドレナリン受容体α作動薬を挙げることができる。アドレナリン受容体β作動薬としては、アドレナリン受容体β作動薬、アドレナリン受容体β作動薬、およびアドレナリン受容体β作動薬を挙げることができる。本発明者は、アポクリン汗腺に、アドレナリン受容体β、アドレナリン受容体β、およびアドレナリン受容体βが存在することを確認している。それ故に、上述した刺激薬の中では、アドレナリン受容体β作動薬、アドレナリン受容体β作動薬、およびアドレナリン受容体β作動薬が好ましい。
【0069】
アドレナリン受容体作動薬の一例としては、例えば、DL-アドレナリン、サルメテロールキシナホ塩酸塩、ドブタミン塩酸塩、およびdl-イソプレナリン塩酸塩を挙げることができる。
【0070】
刺激薬の一例としては、アドレナリン受容体阻害薬(例えば、アドレナリン受容体α阻害薬、およびアドレナリン受容体β阻害薬)を挙げることができる。アドレナリン受容体α阻害薬としては、アドレナリン受容体α阻害薬、およびアドレナリン受容体α阻害薬を挙げることができる。アドレナリン受容体β阻害薬としては、アドレナリン受容体β阻害薬、アドレナリン受容体β阻害薬、およびアドレナリン受容体β阻害薬を挙げることができる。本発明者は、アポクリン汗腺に、アドレナリン受容体β、アドレナリン受容体β、およびアドレナリン受容体βが存在することを確認している。それ故に、本実施形態では、アドレナリン受容体β阻害薬、アドレナリン受容体β阻害薬、およびアドレナリン受容体β阻害薬を好適に用いることができる。
【0071】
アドレナリン受容体阻害薬としては、例えば、カルベジロールリン酸塩、ICI 118551 (hydrochloride)(商品名、Cayman Chemical社製)、およびプロプラノロール塩酸塩を挙げることができる。勿論、本発明は、これらに限定されない。
【0072】
刺激薬の一例としては、エストロゲン受容体作動薬(例えば、エストロゲン受容体α作動薬、およびエストロゲン受容体β作動薬)を挙げることができる。本発明者は、アポクリン汗腺に、エストロゲン受容体α、およびエストロゲン受容体βが存在することを確認している。それ故に、本実施形態では、エストロゲン受容体α作動薬、およびエストロゲン受容体β作動薬を好適に用いることができる。
【0073】
エストロゲン受容体作動薬としては、例えば、プロピルピラゾールトリオール、およびチボロン挙げることができる。勿論、本発明は、これらに限定されない。
【0074】
刺激薬の一例としては、エストロゲン受容体阻害薬(例えば、エストロゲン受容体α阻害薬、およびエストロゲン受容体β阻害薬)を挙げることができる。本発明者は、アポクリン汗腺に、エストロゲン受容体α、およびエストロゲン受容体βが存在することを確認している。それ故に、本実施形態では、エストロゲン受容体α阻害薬、およびエストロゲン受容体β阻害薬を好適に用いることができる。
【0075】
エストロゲン受容体阻害薬の一例としては、例えば、ラロキシフェンを挙げることができる。勿論、本発明は、これらに限定されない。
【0076】
刺激薬の一例としては、アンドロゲン受容体作動薬を挙げることができる。本発明者は、アポクリン汗腺に、アンドロゲン受容体が存在することを確認している。それ故に、本実施形態では、アンドロゲン受容体作動薬を好適に用いることができる。
【0077】
アンドロゲン受容体作動薬の具体例としては、例えば、テストステロンを挙げることができる。勿論、本発明は、これらに限定されない。
【0078】
刺激薬の一例としては、アンドロゲン受容体阻害薬を挙げることができる。本発明者は、アポクリン汗腺に、アンドロゲン受容体が存在することを確認している。それ故に、本実施形態では、アンドロゲン受容体阻害薬を好適に用いることができる。
【0079】
アンドロゲン受容体阻害薬の具体例としては、例えば、エンザルタミドを挙げることができる。勿論、本発明は、これらに限定されない。
【0080】
さらに、上記の刺激薬以外にも、プロゲステロン受容体作動薬、プロゲステロン受容体阻害薬、アンジオテンシン受容体作動薬、アンジオテンシン受容体阻害薬、オキシトシン受容体作動薬、およびオキシトシン受容体阻害薬を、アポクリン汗腺と接触させる刺激薬として挙げることができる。
【0081】
観察工程では、生きている状態のアポクリン汗腺を観察する。それ故に、観察工程では、アポクリン汗腺が乾燥することを防止するために、アポクリン汗腺に緩衝液を添加することが好ましい。
【0082】
緩衝液としては、例えば、(i)120mM~160mMの塩化ナトリウムと、3mM~7mMの塩化カリウムと、1mM~3mMの塩化カルシウムと、1mM~3mMの塩化マグネシウムと、8mM~12mMのHEPES緩衝液と、8mM~12mMのグルコースとを含有する緩衝液Aであって、pHが7.1~7.6である緩衝液A、(ii)100mM~150mMの塩化ナトリウムと、3mM~7mMの塩化カリウムと、0.5mM~2mMの塩化カルシウムと、0.5mM~2mMの塩化マグネシウムと、20mM~30mMの炭酸水素ナトリウムと、0.5mM~2mMのリン酸二水素ナトリウムと、2mM~8mMのグルコースと、5mg~15mg/100mLの脂肪酸非含有ウシ血清アルブミンとを含有する緩衝液Bであって、pHが7.1~7.6である緩衝液B、および、(iii)リン酸緩衝生理食塩水を挙げることができる。緩衝液Aの具体例としては、細胞外溶液が挙げられ、緩衝液Bの具体例としては、クレブス・リンガー液が挙げられる。上記構成であれば、緩衝液によってアポクリン汗腺の動態を変化させることが無いので、アポクリン汗腺の管腔内の動態を、より良好に観察することができる。
【0083】
〔2.被験物質の評価方法〕
以下に、本実施の形態の被験物質の評価方法について説明する。なお、本実施の形態の被験物質の評価方法にて、上述した〔1.アポクリン汗腺の動態の観察方法〕の欄にて説明したものと同じ構成を用いる場合には、基本的に、当該構成の説明を省略する。
【0084】
本実施の形態の被験物質の評価方法は、被験物質がアポクリン汗腺の発汗制御作用を有する物質であるか否かを評価する被験物質の評価方法であって、単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選ばれた少なくとも1種の染色試薬によって染色する染色工程と、上記染色工程で得られた観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質とを接触させた後、観察試料に含まれる上記アポクリン汗腺の管腔内の動態を観察する観察工程と、上記観察工程で観察されたアポクリン汗腺の管腔内の動態に基づき、被験物質が発汗制御作用を有する物質であるか否かを評価する評価工程と、を含む。
【0085】
本実施の形態の被験物質の評価方法は、上記観察工程の前に、さらに上記染色工程で染色されたアポクリン汗腺が位置ずれしないように、コラーゲン、アガロース、基底膜マトリックス、ポリ-D-リジンおよびメンブランからなる群より選択される、少なくとも1種によって上記染色されたアポクリン汗腺を支持体上に保持させて観察試料を得る固定化工程を含んでもよい。
【0086】
本実施の形態の被験物質の評価方法では、上記観察工程にて、上記アポクリン汗腺の管腔内の動態の観察が、離出分泌の観察であってもよい。
【0087】
本実施の形態の被験物質の評価方法では、上記観察工程にて、上記観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質と、刺激薬とを接触させてもよい。
【0088】
本実施の形態の被験物質の評価方法では、上記刺激薬は、アドレナリン受容体作動薬、アドレナリン受容体阻害薬、エストロゲン受容体作動薬、エストロゲン受容体阻害薬、アンドロゲン受容体作動薬、アンドロゲン受容体阻害薬、プロゲステロン受容体作動薬、プロゲステロン受容体阻害薬、オキシトシン受容体作動薬、およびオキシトシン受容体阻害薬からなる群より選択される、少なくとも1種であってもよい。
【0089】
上述したように、本実施の形態の被験物質の評価方法は、染色工程、固定化工程、観察工程、および評価工程を含み得る。これらの工程のうち、染色工程および固定化工程は、上述した〔1.アポクリン汗腺の動態の観察方法〕の欄にて説明した染色工程および固定化工程と同様に構成することができるので、ここではその説明を省略する。以下では、観察工程および評価工程について説明する。
【0090】
<D.観察工程>
観察工程は、染色工程で得られた観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質とを接触させた後、観察試料に含まれる上記アポクリン汗腺の管腔内の動態を観察する工程である。当該構成であれば、被験物質がアポクリン汗腺の発汗制御作用を有する物質であるか否かを評価することができる。
【0091】
観察工程は、染色工程で得られた観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質と、刺激薬とを接触させた後、観察試料に含まれる上記アポクリン汗腺の管腔内の動態を観察する工程であってもよい。刺激薬は、アポクリン汗腺の動態を制御するものであり得、より具体的に、刺激薬は、アポクリン汗腺の動態(例えば、離出分泌)を活性化させるものであってもよいし、アポクリン汗腺の動態(例えば、離出分泌)を不活性化させるものであってもよい。
【0092】
刺激薬として、アポクリン汗腺の動態を活性化(換言すれば、発汗を促進)させるものを用いれば、被験物質が活性化されたアポクリン汗腺の動態を不活性化(換言すれば、発汗を抑制)させるか否かを観察することによって、被験物質が発汗抑制作用を有する物質であるか否かを容易に評価することができる。一方、刺激薬として、アポクリン汗腺の動態を不活性化(換言すれば、発汗を抑制)させるものを用いれば、被験物質が不活性化されたアポクリン汗腺の動態を活性化(換言すれば、発汗を促進)させるか否かを観察することによって、被験物質が発汗促進作用を有する物質であるか否かを容易に評価することができる。
【0093】
被験物質としては、特に限定されず、例えば、無機化合物、有機化合物、植物抽出物、微生物抽出物、および各種細胞の培養上清を挙げることができる。被験物質は、そのままの状態にて用いられてもよく、溶媒に溶解された状態にて用いられてもよい。当該溶媒としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、および水を挙げることができる。
【0094】
被験物質は、アポクリン汗腺の動態を制御するものであり得、より具体的に、被験物質は、アポクリン汗腺の動態(例えば、離出分泌)を活性化させるものであってもよいし、アポクリン汗腺の動態(例えば、離出分泌)を不活性化させるものであってもよい。
【0095】
アポクリン汗腺と被験物質との接触、および、アポクリン汗腺と被験物質と刺激薬との接触は、アポクリン汗腺が乾燥しない環境下にて行われることが好ましい。アポクリン汗腺と被験物質との接触は、例えば、上述した<C.観察工程>の欄にて説明した緩衝液、および被験物質をアポクリン汗腺に添加することによって行うことができる。一方、アポクリン汗腺と被験物質と刺激薬との接触は、上述した<C.観察工程>の欄にて説明した緩衝液、被験物質、および刺激薬をアポクリン汗腺に添加することによって行うことができる。
【0096】
観察試料に含まれるアポクリン汗腺の管腔内の動態の観察は、上述した<C.観察工程>の欄にて説明した方法にしたがって行えばよいので、ここでは、その説明を省略する。
【0097】
<E.評価工程>
評価工程は、観察工程で観察されたアポクリン汗腺の管腔内の動態に基づき、被験物質が発汗制御作用(発汗促進作用、または、発汗抑制作用)を有する物質であるか否かを評価する工程である。
【0098】
具体的に、評価工程は、観察工程で観察されたアポクリン汗腺の管腔内の動態Aと、比較対象であるアポクリン汗腺の管腔内の動態Bとを比較することによって、被験物質が発汗制御作用(発汗促進作用、または、発汗抑制作用)を有する物質であるか否かを評価する工程であってもよい。
【0099】
動態Bを取得する方法は、特に限定されず、例えば、以下の(i)および(ii)の方法によって、動態Bを取得することができる。なお、当該方法における染色工程および観察工程は、上述した染色工程および観察工程にしたがって行うことができる:
(i)単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選ばれた少なくとも1種の染色試薬によって染色する染色工程と、当該染色工程で得られた観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質とを接触させる前に、観察試料に含まれる上記アポクリン汗腺の管腔内の動態Bを観察する観察工程と、を含む方法;
(ii)単離されたアポクリン汗腺を、細胞膜に対する染色試薬、核に対する染色試薬、細胞骨格構成物質に対する染色試薬、および脂質に対する染色試薬からなる群より選ばれた少なくとも1種の染色試薬によって染色する染色工程と、当該染色工程で得られた観察試料中のアポクリン汗腺と、被験物質とを接触させること無く、観察試料に含まれる上記アポクリン汗腺の管腔内の動態Bを観察する観察工程と、を含む方法。
【0100】
動態Aについて、例えば、アポクリン汗腺と被験物質とを接触させた後の特定の時点において、細胞膜、細胞核、細胞骨格、または脂質の染色像Aを取得したとする。一方、動態Bについて、例えば、アポクリン汗腺と被験物質とを接触させる前の特定の時点、または、アポクリン汗腺と被験物質とを接触させていない特定の時点において、細胞膜、細胞核、細胞骨格、または脂質の染色像Bを取得したとする。染色像Aが染色像Bから変化していれば、被験物質は発汗制御作用(発汗促進作用、または、発汗抑制作用)を有する物質であると判定することができる。このとき、染色像Aが染色像Bから大きく変化していればいるほど、被験物質は、より強い発汗制御作用(発汗促進作用、または、発汗抑制作用)を有する物質であると判定することができる。
【0101】
このとき、染色像の変化量は、特に限定されない。判定基準となる染色像の変化量は、観察対象であるアポクリン汗腺の管腔内の動態などに応じて、適宜、設定すればよい。
【0102】
一例として、染色像Aおよび染色像Bが、各々、n個の画素にて表示される像であるとする。染色像Aにおいて、染色像Bを表示する画素のうちの1%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上において表示が変化していれば、染色像Aが染色像Bから変化していると判定することができる。
【0103】
別の一例として、染色像Aおよび染色像Bの中の特定の領域が、各々、n個の画素にて表示される像であるとする。染色像Aにおいて、染色像Bを表示する画素のうちの1%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上において表示が変化していれば、染色像Aが染色像Bから変化していると判定することができる。
【実施例
【0104】
<1.染色用溶液の調製>
500μLのPBS(phosphate-buffered saline)と、4μLの細胞膜に対する染色試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:CellMask)と、1μLの核に対する染色試薬(Hoechst 33342(登録商標))と、を混合することによって、染色用溶液を調製した。
【0105】
<2.固定化用溶液の調製>
800μLのコラーゲン タイプI-A液(コラーゲン タイプI-Aの含有率:3質量%、新田ゼラチン社製)と、100μLの10×PBS(組成:1370mM 塩化ナトリウム、27mM 塩化カリウム、100mM リン酸水素二ナトリウム十二水和物、および、18mM リン酸二水素カリウム:pH7.4)と、100μLのコラーゲン再構成緩衝液(組成:50mM 水酸化ナトリウム、260mM HEPES(N-2-hydroxyethylpiperazine-N’-2-ethanesulfonic acid)、および、200mM 炭酸水素ナトリウム:pH10.0)と、を混合することによって、固定化用溶液を調製した。
【0106】
<3.アポクリン汗腺を含む生体試料の調製>
実体顕微鏡にて観察しながら、ハサミを用いて、皮膚組織から皮下組織を除去した。次いで、ピンセットを用いて、皮下組織を除去した後の皮膚組織中の真皮から、膠原繊維を除去した。これによって、3~5mm角程度の四角形の、アポクリン汗腺を含む生体試料を得た。
【0107】
<4.生体試料の染色>
アポクリン汗腺を含む生体試料を、上述した染色用溶液中に、室温(略24℃)にて30分間浸漬させた。次いで、PBSを用いて、当該生体試料を洗浄した。これによって、細胞膜、および細胞核が染色された、アポクリン汗腺を含む生体試料を得た。
【0108】
<5.観察試料の調製>
実体顕微鏡にて観察しながら、染色後の生体試料をガラスボトムディッシュ上に静置した。ガラスボトムディッシュ上に静置した生体試料に、上述した固定化用溶液を滴下した。次いで、当該ガラスボトムディッシュを37℃にて5分間インキュベーションすることにより、固定化用溶液に含まれるコラーゲン タイプI-Aをゲル化させた。ゲル化したコラーゲン タイプI-Aによって、染色後の生体試料に含まれるアポクリン汗腺の位置ずれを防いだ。次いで、染色後の生体試料が乾燥しないように、当該生体試料上に緩衝液(PBS)を滴下した。
【0109】
<6.顕微鏡による観察>
観察試料中のゲル化したコラーゲン タイプI-Aに、400μLのダルベッコリン酸緩衝液(Gibco社製、カタログ番号:14190-144)を添加した。
【0110】
ダルベッコリン酸緩衝液を添加してから5分後に、共焦点レーザー走査型顕微鏡(オリンパス社製)を用いて、ガラスボトムディッシュ上の生体試料のタイムラプス撮影による観察を開始した。このとき、細胞核に結合した染色試薬に由来する蛍光と、細胞膜に結合した染色試薬に由来する蛍光とを検出することにより、アポクリン汗腺の管腔内を視覚化した。
【0111】
観察を開始してから60秒間が経過した後、アポクリン汗腺における離出分泌誘導薬(刺激薬)であるdl-イソプレナリン塩酸塩を最終濃度が0.33mMとなるように、ガラスボトムディッシュ上の生体試料へ滴下した。
【0112】
<7.試験結果>
アポクリン汗腺の動態の一例として、離出分離が挙げられる。図1(a)に、アポクリン汗腺の断面構造の概略を示す。図1(a)に示すように、アポクリン汗腺を形成している細胞は分泌物を生成し、当該分泌物を保持した細胞の一部分が細胞の本体からちぎれて、アポクリン汗腺の管腔内に離出分泌される。本実施例では、図1(a)に示す「観察面」にて、ガラスボトムディッシュ上の生体試料のタイムラプス撮影による観察を行った。
【0113】
図1(b)に、同一視野における、生体試料のタイムラプス撮影の3つの像を示す。なお、「時間1」を付した像は、任意の時間1における像であり、「時間2」を付した像は、時間1から少し時間が経過した後の像であり、「時間3」を付した像は、時間2から少し時間が経過した後の像である。
【0114】
図1(b)の「矢印」にて示す部分に、離出分離される細胞片が現れ、当該細胞片によって、周辺に存在する細胞膜および細胞核の染色像が変化することが観察された。つまり、細胞膜および細胞核の染色像の変化に基づいて、離出分離に代表されるアポクリン汗腺の動態を観察することに成功した。
【0115】
具体的に、「時間1」を付した像の「矢印」に示すように、本実施例では、図1(a)の左側に示すアポクリン汗腺の内壁の上側に示されるような、初期の離出分泌の状態を観察することに成功した。「時間2」を付した像の「矢印」に示すように、本実施例では、図1(a)の左側に示すアポクリン汗腺の内壁の中央近傍に示されるような、中期の離出分泌の状態を観察することに成功した。「時間3」を付した像の「矢印」に示すように、本実施例では、図1(a)の左側に示すアポクリン汗腺の内壁の下側に示されるような、後期の離出分泌の状態を観察することに成功した。
【0116】
本実施例では、細胞膜の染色像、および、細胞核の染色像の両方に変化が生じたが、離出分離に伴う染色像の変化は、細胞核の染色像の変化よりも、細胞膜の染色像の変化の方が大きかった。このことから、細胞膜の染色像に基づいてアポクリン汗腺の動態を観察すれば、より感度良くアポクリン汗腺の動態を観察できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、化粧品分野、および医療分野などに、広く利用することができる。
図1