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特許7296844解析装置、解析方法、干渉測定システム、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法、干渉測定システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20230616BHJP
   G01B 9/02004 20220101ALI20230616BHJP
   G01B 11/30 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
G01B11/24 D
G01B9/02004
G01B11/30 102G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019185330
(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公開番号】P2021060312
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】松浦 心平
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-221032(JP,A)
【文献】特開2003-148921(JP,A)
【文献】特開2009-210466(JP,A)
【文献】特開2007-071790(JP,A)
【文献】特開2018-169265(JP,A)
【文献】特開2014-173900(JP,A)
【文献】特開2006-329975(JP,A)
【文献】特開2013-019759(JP,A)
【文献】特開2001-255124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01B 9/02- 9/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照面および測定対象物の表面に複数の異なる波長の光を照射して反射された参照光および測定光の干渉画像を生成する波長走査型の干渉測定装置の前記干渉画像を解析する解析装置であって、
前記干渉測定装置から複数の異なる波長の光に基づく複数の前記干渉画像を取得する取得部と、
複数の前記干渉画像における画素毎の干渉信号に含まれる非干渉成分を除去して干渉成分を出力する除去部と、
前記干渉成分をヒルベルト変換して解析信号を生成する変換部と、
前記干渉成分および前記解析信号に基づき、前記参照面と前記測定対象物の表面に照射した光の波長の位相勾配を特定して、前記参照面と前記測定対象物の表面との間の距離を算出する算出部と
を備える、解析装置。
【請求項2】
前記算出部は、
前記干渉成分および前記解析信号に基づき、前記干渉成分の瞬時位相を算出する瞬時位相算出部と、
前記瞬時位相に基づき、前記干渉信号の位相勾配を算出する位相勾配算出部と、
前記位相勾配に基づき、前記参照面と前記測定対象物の表面との間の距離を画素毎に算出する距離算出部と
を有する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記位相勾配算出部は、前記干渉測定装置の波長分散特性を校正してから、前記干渉信号の前記位相勾配を算出する、請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
参照面および測定対象物の表面に複数の異なる波長の光を照射して反射された参照光および測定光の干渉画像を生成する波長走査型の干渉測定装置の前記干渉画像を解析する解析方法であって、
前記干渉測定装置から複数の異なる波長の光に基づく複数の前記干渉画像を取得するステップと、
複数の前記干渉画像における画素毎の干渉信号に含まれる非干渉成分を除去して干渉成分を出力するステップと、
前記干渉成分をヒルベルト変換して解析信号を生成するステップと、
前記干渉成分および前記解析信号に基づき、前記参照面と前記測定対象物の表面との間の距離を算出するステップと
を備える、解析方法。
【請求項5】
波長走査型の干渉測定装置と、
前記干渉測定装置が撮像した複数の前記干渉画像を解析する、請求項1から3のいずれか一項に記載の前記解析装置と
を備え、
前記干渉測定装置は、
前記測定対象物の表面に複数の異なる波長の光を照射する光源部と、
前記異なる波長の光の光軸上に設けられている前記参照面と、
前記参照面で反射された参照光と、前記測定対象物の表面で反射された測定光との前記干渉画像を撮像する撮像部と
を有する、
干渉測定システム。
【請求項6】
コンピュータにより実行されると、前記コンピュータを請求項1から3のいずれか一項に記載の前記解析装置として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析方法、干渉測定システム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハおよび高精度ミラー等の表面形状の検査には、高い精度が要求されることがあり、フィゾー型およびトワイマン・グリーン型等のレーザ干渉計がこのような検査に用いられている。一般的な単色レーザを用いた干渉計は、測定対象物の表面の凹凸の形状をナノメートル程度の精度で測定することができる一方で、位相次数を特定できないので、1/4波長以上の凹凸を含む形状を測定することができなかった。このような1/4波長以上の凹凸を含む形状を測定する目的で、光源の波長を走査する波長走査型干渉計が知られていた(例えば、非特許文献1および2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】D. Malacara, “Optical Shop Testing 3rd ed.”, Wiley-Interscience, 2007年
【文献】G. Moschetti, et. al., “Phase and fringe order determination in wavelength scanning interferometry”, Opt. Express, 24, #258089, 2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波長走査型干渉計において、例えば、走査する光源の波長範囲を拡大することにより、高さ分解能を向上できることが知られている。しかしながら、光源の波長範囲を拡大すると、光源の光強度レベルの波長依存性、測定対象物が光を反射する反射率の波長依存性等により、干渉光の光強度レベルが変動して誤差が発生することがあり、測定対象物を精度よく測定することができなくなってしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、波長走査型干渉計において、干渉光の光強度レベルが変動する程度に光源の波長範囲を拡大しても、高精度に測定対象物の凹凸を測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、参照面および測定対象物の表面に複数の異なる波長の光を照射して反射された参照光および測定光の干渉画像を生成する波長走査型の干渉測定装置の前記干渉画像を解析する解析装置であって、前記干渉測定装置から複数の異なる波長の光に基づく複数の前記干渉画像を取得する取得部と、複数の前記干渉画像における画素毎の干渉信号に含まれる非干渉成分を除去して干渉成分を出力する除去部と、前記干渉成分をヒルベルト変換して解析信号を生成する変換部と、前記干渉成分および前記解析信号に基づき、前記参照面と前記測定対象物の表面に照射した光の波長の位相勾配を特定して、前記参照面と前記測定対象物の表面との間の距離を算出する算出部とを備える、解析装置を提供する。
【0007】
前記算出部は、前記干渉成分および前記解析信号に基づき、前記干渉成分の瞬時位相を算出する瞬時位相算出部と、前記瞬時位相に基づき、前記干渉信号の位相勾配を算出する位相勾配算出部と、前記位相勾配に基づき、前記参照面と前記測定対象物の表面との間の距離を画素毎に算出する距離算出部とを有してもよい。
【0008】
前記位相勾配算出部は、前記干渉測定装置の波長分散特性を校正してから、前記干渉信号の前記位相勾配を算出してもよい。
【0009】
本発明の第2の態様においては、参照面および測定対象物の表面に複数の異なる波長の光を照射して反射された参照光および測定光の干渉画像を生成する波長走査型の干渉測定装置の前記干渉画像を解析する解析方法であって、前記干渉測定装置から複数の異なる波長の光に基づく複数の前記干渉画像を取得するステップと、複数の前記干渉画像における画素毎の干渉信号に含まれる非干渉成分を除去して干渉成分を出力するステップと、前記干渉成分をヒルベルト変換して解析信号を生成するステップと、前記干渉成分および前記解析信号に基づき、前記参照面と前記測定対象物の表面との間の距離を算出するステップとを備える、解析方法を提供する。
【0010】
本発明の第3の態様においては、波長走査型の干渉測定装置と、前記干渉測定装置が撮像した複数の前記干渉画像を解析する、第1の態様の前記解析装置とを備え、前記干渉測定装置は、前記測定対象物の表面に複数の異なる波長の光を照射する光源部と、前記異なる波長の光の光軸上に設けられている前記参照面と、前記参照面で反射された参照光と、前記測定対象物の表面で反射された測定光との前記干渉画像を撮像する撮像部とを有する、干渉測定システムを提供する。
【0011】
本発明の第4の態様においては、コンピュータにより実行されると、前記コンピュータを第1の態様の前記解析装置として機能させる、プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、波長走査型干渉計において、干渉光の光強度レベルが変動する程度に光源の波長範囲を拡大しても、高精度に測定対象物の凹凸を測定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る干渉測定システム1000の構成例を測定対象物10と共に示す。
図2】本実施形態に係る解析装置200の構成例を示す。
図3】本実施形態に係る解析装置200の動作フローの一例を示す。
図4】本実施形態に係る変換部240が変換した解析信号の一例を示す。
図5】本実施形態に係る位相勾配算出部254が算出した波数に対する位相の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<干渉測定システム1000の構成例>
図1は、本実施形態に係る干渉測定システム1000の構成例を測定対象物10と共に示す。干渉測定システム1000は、フィゾー型の干渉計を構成しており、測定対象物10の表面の形状を測定する。測定対象物10は、例えば、Si、GaAs、GaN等を含む半導体ウェハ、高精度ミラー、金属等の固体である。干渉測定システム1000は、干渉測定装置100と解析装置200とを備える。干渉測定装置100は、光源部110と、光学系120と、参照対象物130と、撮像部140と、制御部150とを有する。
【0015】
光源部110は、入力する制御信号に応じて、出力する光の波長を変更できる可変波長光源である。光源部110は、測定対象物10の表面に光を照射する。光源部110は、例えば、波長可変型のレーザを有する。また、光源部110は、予め定められた波長範囲の光を出力する広帯域光源と、入力する制御信号に応じて通過させる波長を変更する可変バンドパスフィルタとの組み合わせを有してもよい。
【0016】
光学系120は、光源部110から出力された光を測定対象物10および参照対象物130に照射させる。また、光学系120は、測定対象物10および参照対象物130からの反射光を撮像部140に結像させる。光学系120は、拡大レンズ122、コリメートレンズ124、ビームスプリッタ126、および結像レンズ128を有する。
【0017】
拡大レンズ122は、光源部110から出力された光の直径を拡大する。コリメートレンズ124は、拡大レンズ122から入射する光を平行光にして測定対象物10の表面に照射する。また、コリメートレンズ124は、測定対象物10の表面で反射された光が入射され、当該反射光の直径を縮小させつつ、ビームスプリッタ126へと射出する。ここで、測定対象物10の表面で反射された光を測定光とする。
【0018】
コリメートレンズ124および測定対象物10の間には、参照対象物130が設けられており、コリメートレンズ124から射出された平行光の一部は参照対象物130の参照面132で反射される。これにより、コリメートレンズ124は、測定光と、参照面132で反射された光とをビームスプリッタ126へと射出する。ここで、参照面132で反射された光を参照光とする。
【0019】
ビームスプリッタ126は、コリメートレンズ124から射出された測定光および参照光の一部を撮像部140の方向へと反射する。ビームスプリッタ126は、例えば、ハーフミラーを有する。結像レンズ128は、ビームスプリッタ126が反射した光を撮像部140に結像する。即ち、結像レンズ128は、測定光および参照光を干渉させた干渉像を撮像部140に結像する。
【0020】
参照対象物130は、上述のとおり、参照面132を有する。参照対象物130は、例えば、参照面132を鏡面としたハーフミラーである。参照面132は、光源部110から出力される光の光軸に対して略垂直に設けられている。参照面132は、光の光軸上において移動可能に設けられていてもよい。
【0021】
撮像部140は、参照面132で反射された参照光と、測定対象物10の表面で反射された測定光との干渉画像を撮像する。撮像部140は、例えば、カメラ等を有し、制御信号に応じて光学系120が結像した干渉画像を撮像する。
【0022】
制御部150は、光源部110および撮像部140を制御して、複数の波長における参照光と測定光との干渉画像を撮像させる。制御部150は、例えば、出力すべき光の波長を指示する制御信号を光源部110に送信する。また、制御部150は、干渉画像の撮像を指示する制御信号を撮像部140に送信する。制御部150は、一例として、予め定められた位相シフト量に相当する波長間隔ずつ光源部110が出力する光の波長を変更させ、光の波長を変更する毎に干渉画像を撮像するように、光源部110および撮像部140を制御する。制御部150は、例えば、CPU等を有する。
【0023】
このように、干渉測定装置100は、参照面132および測定対象物10の表面にレーザ光を照射して反射された参照光および測定光の干渉画像を生成する。図1に示す光学系120を有する干渉測定装置100は、フィゾー型の干渉計として既知であり、原理的には、測定対象物10の表面の凹凸の形状をナノメートル程度の精度で測定することができる。
【0024】
このような干渉測定装置100は、波長走査に伴う光強度変調の周波数測定を行うことに相当し、例えば、フーリエ変換を用いて干渉画像を解析していた。この場合、形状測定の高さ分解能dhは、フーリエ変換による周波数分解能に相当し、次式で決定されることが知られている。
【数1】
【0025】
ここで、λmaxは、光源部110が出力する光の最も長い波長であり、λminは、光源部110が出力する光の最も短い波長である。(数1)式より、光源部110が走査する波長の範囲を拡大させると、干渉測定装置100の形状測定の分解能dhがより小さくなって高分解能な測定ができることがわかる。しかしながら、光源部110が走査する波長の範囲を拡大すると、当該光源部110が出力する光の強度レベルの波長依存性が顕著になってしまい、波長の走査範囲における光強度レベルの変動が大きくなってしまうことがあった。
【0026】
また、測定対象物10が光を反射する反射率の波長依存性も顕著になり、光源部110が出力する光の波長の走査に対する反射光の光強度レベルの変動が大きくなってしまうことがあった。このように、光源部110が走査する波長の範囲を拡大させて干渉光の光強度レベルの変動が増加すると、光強度変調の周波数測定に誤差が発生してしまい、測定対象物10を精度よく測定することができなくなってしまうことがあった。
【0027】
そこで、本実施形態に係る解析装置200は、干渉測定装置100の干渉画像における画素毎の解析信号にヒルベルト変換を適用して、このような誤差を低減させ、高分解能で高精度な干渉測定を容易に実行可能とする。このような解析装置200について、次に説明する。
【0028】
<解析装置200の構成例>
図2は、本実施形態に係る解析装置200の構成例を示す。解析装置200は、一例として、サーバ等のコンピュータである。解析装置200は、参照面132および測定対象物10の表面に複数の異なる波長の光を照射して反射された参照光および測定光の干渉画像を生成する波長走査型の干渉測定装置100の干渉画像を解析する。なお、解析装置200は、干渉測定装置100の制御部150の少なくとも一部の動作を実行してもよい。解析装置200は、取得部210と、記憶部220と、除去部230と、変換部240と、算出部250と、出力部260とを備える。
【0029】
取得部210は、干渉測定装置100から複数の異なる波長の光に基づく複数の干渉画像を取得する。取得部210は、干渉測定装置100の撮像部140に接続されて干渉画像を取得してよく、これに代えて、ネットワーク等を介して干渉画像を取得してもよい。また、取得部210は、外部のデータベース等から複数の干渉画像を取得してもよい。この場合、取得部210は、例えば、干渉測定装置100が過去に生成した干渉画像を取得する。
【0030】
記憶部220は、取得部210が取得した干渉画像の画像データを記憶する。記憶部220は、測定光および参照光の位相差、または干渉測定の順序に対応付けて、複数の干渉画像の画像データを記憶することが望ましい。また、記憶部220は、解析装置200が動作の過程で生成する(または利用する)中間データ、算出結果、閾値、およびパラメータ等をそれぞれ記憶してもよい。また、記憶部220は、解析装置200内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してもよい。
【0031】
記憶部220は、サーバ等が解析装置200として機能するOS(Operating System)、およびプログラムの情報を格納してもよい。また、記憶部220は、当該プログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してもよい。例えば、サーバ等のコンピュータは、記憶部220に記憶されたプログラムを実行することによって、取得部210、記憶部220、除去部230、変換部240、算出部250、および出力部260の少なくとも一部として機能する。
【0032】
記憶部220は、例えば、コンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、および作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部220は、HDD(Hard Disk Drive)および/またはSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでもよい。また、コンピュータは、GPU(Graphics Processing Unit)等を更に備えてもよい。
【0033】
除去部230は、複数の干渉画像における画素毎の干渉信号に含まれる非干渉成分を除去して干渉成分を出力する。除去部230は、複数の干渉画像から、画素毎の干渉信号を生成する。例えば、干渉画像がN×Mピクセルの画像データの場合、除去部230は、N×M個の干渉信号を生成する。そして、除去部230は、干渉信号毎に、非干渉成分を除去して干渉成分を出力する。
【0034】
変換部240は、除去部230が出力する干渉成分をヒルベルト変換して解析信号を生成する。算出部250は、瞬時位相算出部252と、位相勾配算出部254と、距離算出部256とを有し、干渉成分および前記解析信号に基づき、測定対象物10の表面の形状を算出する。変換部240および算出部250による測定対象物10の表面形状の算出については後述する。
【0035】
出力部260は、算出した表面形状の結果を表示装置等に出力する。出力部260は、数値データを表示させてよく、これに代えて、またはこれに加えて、測定対象物10の表面形状を模式的に表示させてもよい。また、出力部260は、外部のデータベース等に測定対象物10の表面形状の算出結果を記憶させてもよい。
【0036】
以上の本実施形態に係る解析装置200は、複数の干渉画像から画素毎の干渉信号を生成して、複数のパラメータを用いた反復計算することなしに、各画素に対応する測定対象物10の基準面からの高さを算出できる。このような解析装置200のより具体的な動作について、次に説明する。
【0037】
<解析装置200の動作フロー>
図3は、本実施形態に係る解析装置200の動作フローの一例を示す。解析装置200は、図3のS310からS380の動作を実行することにより、複数の干渉画像から光源部110の光の波長走査に基づく誤差を補正した測定対象物10の表面形状を算出して出力する。
【0038】
まず、取得部210は、干渉測定装置100から複数の干渉画像を取得する(S310)。本実施形態において、取得部210がJ枚の干渉画像を干渉測定装置100から取得した例を説明する。ここで、干渉画像をN×Mピクセルの画像データとし、取得部210が取得した干渉画像の画像データをI(x,y)と示す。ここで、i=1,2,3,・・・,J、n=1,2,3,・・・,N、m=1,2,3,・・・,Mである。
【0039】
次に、除去部230は、複数の干渉画像から、画素毎の干渉信号を生成する(S320)。例えば、除去部230は、N×M個の干渉信号S(i)n,mを次式のように生成する。それぞれの干渉信号は、J個のデータを含むことになる。
【数2】
【0040】
次に、除去部230は、干渉信号に含まれる非干渉成分を除去して干渉成分を出力する(S330)。ここで、光源部110が出力する光の波長λに対応する波数kをk=2π/λと定義すると、干渉信号S(i)n,mは、測定対象物10に照射される光の振幅をE(k)、測定対象物10の振幅反射率r(k)を用いて、次式のように示される。なお、kの表記を省略してkとしている。
【数3】
【0041】
ここで、φ(k)n,mは、画素(x,y)に対応する測定対象物10の表面上の位置(x,y)と、参照面132との間の光路長によってもたらされる位相差である。即ち、干渉信号S(k)n,mのうち、φ(k)n,mを含む項は干渉に基づいて生じる干渉成分であり、その他の項は干渉とは無関係の非干渉成分である。(数3)式をkで微分することにより、次式のように、非干渉成分の影響を除去した干渉成分を算出することができる。
【数4】
【0042】
ただし、波数kの変化量が微小なものとして、dr/dk<<r、およびdE(k)/dk<<E(k)が成立することを仮定している。干渉成分は、(数4)式のように、位相差φ(k)n,mを含む項と、関数A(k)との積で表されるので、関数A(k)は、位相差φ(k)n,mを含む項の包絡線関数となる。包絡線関数A(k)は、理想的には略一定であることが望ましい。しかしながら、上述のとおり、光源部110および測定対象物10の光学特性が波長依存性等を有するので、包絡線関数A(k)は、波数kに応じて変動することになる。
【0043】
除去部230は、画素毎の干渉信号を数値微分することにより、このような干渉成分を出力する。なお、除去部230は、ノイズの影響等により、SN比が劣化してしまう場合には、FIR微分器等を用いて、ノイズ低減処理を伴う微分処理を実行してもよい。
【0044】
次に、変換部240は、除去部230が非干渉成分を除去した干渉信号の干渉成分X(k)n,mをヒルベルト変換して解析信号Y(k)n,mを生成する(S340)。ヒルベルト変換は、例えば、干渉成分X(k)と1/πkとの畳み込みで実行され、解析信号Y(k)n,mは次式のように示される。
【数5】
【0045】
ここで、関数u(t)のヒルベルト変換H(u)(t)は、u(t)の負の周波数成分に+90°(π/2)および正の周波数成分に-90°(-π/2)の位相シフトを引き起こす。したがって、解析信号Y(k)n,mは、干渉成分X(k)と略同一の包絡線関数A(k)を有し、干渉成分X(k)n,mと比較して位相がπ/2ずれた信号となる。
【0046】
図4は、本実施形態に係る変換部240が変換した解析信号Y(k)n,mの一例を示す。図4の横軸は波数kを示し、縦軸は信号レベルを示す。なお、信号レベルは、最大値を1、最小値を-1にそれぞれ規格化している。図4において、実線で示す信号が干渉信号の干渉成分X(k)n,mであり、点線で示す信号がヒルベルト変換後の解析信号Y(k)n,mである。図4より、例えば、解析信号Y(k)n,mのピーク値が略一定の値だけ干渉成分X(k)n,mと比較して横軸方向にシフトしていること、干渉成分X(k)n,mの包絡線関数と解析信号Y(k)n,mの包絡線関数が略同一であることがわかる。
【0047】
次に、瞬時位相算出部252は、干渉成分X(k)n,mおよび解析信号Y(k)n,mに基づき、干渉成分X(k)n,mの瞬時位相を算出する(S350)。瞬時位相算出部252は、瞬時位相θ(k)n,mを次式のように算出する。
【数6】
【0048】
瞬時位相算出部252が瞬時位相θ(k)n,mを算出する過程において、(数6)式に示すように、解析信号Y(k)n,mを干渉成分X(k)n,mで除している。解析信号Y(k)n,mおよび干渉成分X(k)n,mは、略同一の包絡線関数A(K)を有しているので、このような除算により、包絡線関数A(K)の影響はほとんど除去されることになる。したがって、瞬時位相算出部252が算出する瞬時位相θ(k)n,mは、光源部110からの光、測定対象物10の反射光等の波長走査に伴う光強度レベルの変動の影響をほとんど含まない値となる。
【0049】
次に、位相勾配算出部254は、瞬時位相θ(k)n,mに基づき、干渉信号の位相勾配を算出する(S360)。位相勾配算出部254は、例えば、複数の波数kに対する複数の瞬時位相θ(k)n,mを、波数kに対する位相θ(k)n,mの関数として接続し、当該位相θ(k)n,mの勾配dθ(k)n,m/dkを算出する。ここで、位相勾配算出部254は、波数kに対する位相θ(k)n,mが、線形に推移するように接続する。
【0050】
位相勾配算出部254は、一例として、最小二乗法を用いて、波数kに対する位相θ(k)n,mを算出する。これにより、例えば、撮像部140による干渉画像の撮像において、ランダムな雑音が干渉画像に混入していても、位相θ(k)n,mを線形な関数にすることで、当該ランダム雑音を低減させることができる。
【0051】
図5は、本実施形態に係る位相勾配算出部254が算出した波数kに対する位相θ(k)n,mの一例を示す。図5の横軸は波数kを示し、縦軸は位相θを示す。ここで、縦軸の位相θは、最大値をπ、最小値を-πとしている。なお、波数kに対する瞬時位相θ(k)n,mは、光学系120を構成する光学部品の屈折率の波長分散等により、線形に推移せずに湾曲するように推移することがある。
【0052】
この場合、例えば、干渉測定装置100に設けられている光学部品の屈折率の波長依存性等を予め測定し、記憶部220に記憶しておく。そして、位相勾配算出部254は、干渉測定装置100の波長分散特性を校正してから、干渉信号の位相勾配dθ(k)n,m/dkを算出する。このように、位相θは、波数kに対して線形に変化するように接続されるので、位相勾配算出部254が算出する位相勾配dθ(k)n,m/dkは、略一定の値となる。そこで、位相勾配をdθn,m/dkと示す。
【0053】
次に、距離算出部256は、位相勾配dθn,m/dkに基づき、参照面132と測定対象物10の表面との間の距離Lを画素毎に算出する(S370)。図1に示す干渉測定装置100の場合、光源部110からの光は参照面132と測定対象物10の表面との間を往復するので、距離算出部256は、次式のように距離Lを算出する。
【数7】
【0054】
以上のように、算出部250は、干渉成分X(k)n,mおよび解析信号Y(k)n,mに基づき、参照面132と測定対象物10の表面に照射した光の波長の位相勾配dθn,m/dkを特定して、参照面132と測定対象物10の表面との間の距離Ln,mを画素毎に算出する。算出部250は、N×M個の全ての画素に対する距離Ln,mを算出することにより、測定対象物10の表面形状に対応する画像データを算出する。
【0055】
次に、出力部260は、算出した表面形状の結果を表示装置等に出力する(S380)。以上により、本実施形態に係る解析装置200は、光源の光強度レベルの波長依存性、測定対象物が光を反射する反射率の波長依存性、光学部品の波長分散等によって発生する誤差を低減させて、測定対象物10の表面形状を精度よく測定することができる。解析装置200がこのような誤差を低減することができるので、干渉測定装置100の光源部110が出力する光の波長範囲を干渉光の光強度レベルが変動する程度に拡大しても、干渉測定システム1000は、高精度、高分解能で測定対象物10の凹凸を測定できる。
【0056】
以上の解析装置200は、干渉信号をヒルベルト変換し、干渉信号とヒルベルト変換後の信号との比を算出することにより、干渉測定装置100の波長走査に伴う光学特性の変動の影響を低減させる。このように、解析装置200は、光源部110および測定対象物10の反射光における波長走査に対する信号レベルの未知の変動を直接測定すること無しに、測定対象物10の表面形状を簡便に測定できる。
【0057】
なお、本実施形態に係る解析装置200は、フィゾー型の干渉計を有する干渉測定装置100が生成する干渉画像を解析する例を説明したが、これに限定されることはない。解析装置200は、波長走査によって干渉画像を生成する干渉計であれば、他の形式の干渉計を有する干渉測定装置100であっても、干渉画像を解析することができる。例えば、干渉測定装置100は、トワイマン・グリーン型の干渉計を有してもよい。
【0058】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0059】
10 測定対象物
110 光源部
120 光学系
122 拡大レンズ
124 コリメートレンズ
126 ビームスプリッタ
128 結像レンズ
130 参照対象物
132 参照面
140 撮像部
150 制御部
200 解析装置
210 取得部
220 記憶部
230 除去部
240 変換部
250 算出部
252 瞬時位相算出部
254 位相勾配算出部
256 距離算出部
260 出力部
1000 干渉測定システム
図1
図2
図3
図4
図5