(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】ポジ型感光性シロキサン組成物、およびそれを用いて形成した硬化膜
(51)【国際特許分類】
G03F 7/075 20060101AFI20230616BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20230616BHJP
G03F 7/023 20060101ALI20230616BHJP
C08G 77/14 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
G03F7/075 521
G03F7/004 501
G03F7/023
C08G77/14
(21)【出願番号】P 2019556317
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2018060520
(87)【国際公開番号】W WO2018197524
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2017090388
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵
(72)【発明者】
【氏名】谷口 克人
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-109216(JP,A)
【文献】特開2011-028225(JP,A)
【文献】特開2009-015285(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0050596(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004-7/18
C08G 77/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)以下の一般式(Ia)で示される繰り返し単位:
【化1】
(式中、
R
1は、水素、1~3価の、C
1~30の直鎖状、分岐状あるいは環状の、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、または1~3価のC
6~30の芳香族炭化水素基を表し、 前記脂肪族炭化水素基および前記芳香族炭化水素基において、1つ以上のメチレンがオキシ、イミドまたはカルボニル置換されているか非置換であり、1つ以上の水素がフッ素、ヒドロキシ、またはアルコキシ置換されているか非置換であり、あるいは1つ以上の炭素がケイ素に置換されているか非置換であり、
R
1が2価または3価である場合、R
1は複数の繰り返し単位に含まれるSi同士を連結する。)
を含むポリシロキサン、
(II)ジアゾナフトキノン誘導体、
(III)式(III-i):
【化2】
(式中、
Zは酸素または硫黄であり、
R
aはそれぞれ独立に、
C
3~10
のアルキルシリルまたはアルキルシリルアルキルであり、
R
bはそれぞれ独立に、水素、C
1~4のアルキルである。)
で表され
、前記ポリシロキサンと結合性の部位を含まない化合物からなる群から選択される添加剤、および
(IV)溶剤
を含んでなる、ポジ型感光性シロキサン組成物。
【請求項2】
前記ポリシロキサンが、以下の一般式(Ib)で示される繰り返し単位:
【化3】
をさらに含むものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記添加剤(III)中に含まれる>N-C(=O)-構造または>N-C(=S)-構造の合計含有量が、前記ポリシロキサン100重量部に対して0.1~5質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
前記式(III-i)で表される化合物が、1,3-ジ(トリメチルシリル)尿素または1,3-ジ(メチルシリルメチル)尿素である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項
1~4のいずれか1項に記載のポジ型感光性シロキサン組成物から形成された硬化膜。
【請求項6】
波長400nmの光に対する透過率が90%以上である、請求項
5に記載の硬化膜。
【請求項7】
請求項
5または6に記載の硬化膜を具備してなる電子素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポジ型感光性シロキサン組成物に関するものである。また本発明は、そのポジ型感光性シロキサン組成物から形成された硬化膜、およびその硬化膜を有する素子にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ分野や光学分野においてはディスプレイ等の表面で高い透過率を有する被膜を形成させるのが一般的である。例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)などの表面には一般に平坦化膜が形成される。このような平坦化膜の材料としてポリシロキサンが着目されており、これに感光剤を組み合わせた感光性組成物が多数報告されている。
【0003】
しかしながら、このような感光性組成物においては高感度化のニーズがあるが、そのために感光剤の含有率を上げると、被膜中に存在する感光剤によって、形成される被膜の透過率が低下するというジレンマがあった。このような理由から、高い透過率を実現できる感光剤についての検討もなされているが、未だ改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5233526号明細書
【文献】特開2013-114238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来技術において改善すべきであった問題を解決し、高い残膜率、高い感度、および高い透過率を有する硬化膜を形成させることができるポジ型感光性組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるポジ型感光性シロキサン組成物は、
(I)以下の一般式(Ia)で示される繰り返し単位:
【化1】
(式中、
R
1は、水素、1~3価の、C
1~30の直鎖状、分岐状あるいは環状の、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、または1~3価のC
6~30の芳香族炭化水素基を表し、 前記脂肪族炭化水素基および前記芳香族炭化水素基において、1つ以上のメチレンがオキシ、イミドまたはカルボニル置換されているか非置換であり、1つ以上の水素がフッ素、ヒドロキシ、またはアルコキシ置換されているか非置換であり、あるいは1つ以上の炭素がケイ素に置換されているか非置換であり、
R
1が2価または3価である場合、R
1は複数の繰り返し単位に含まれるSi同士を連結する。)
を含むポリシロキサン、
(II)ジアゾナフトキノン誘導体、
(III)>N-C(=O)-構造または>N-C(=S)-構造を有し、その他に、前記ポリシロキサンと結合性の部位を含まない化合物からなる群から選択される添加剤、および
(IV)溶剤
を含んでなることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明による硬化膜は、前記ポジ型感光性シロキサン組成物から形成されたことを特徴とするものである。
【0008】
さらに本発明による電子素子は、前記硬化膜を具備してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるポジ型感光性組成物によれば、電子素子の保護膜等に適した、高い残膜率、高い感度、高い透過率を有する硬化膜を形成させることができる、
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本明細書において、~を用いて数値範囲を示した場合、特に限定されて言及されない限り、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
本明細書において、「Cx~y」、「Cx~Cy」および「Cx」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1~6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。また、本明細書でいうフルオロアルキルとは、アルキル中の1つ以上の水素がフッ素に置き換えられたものをいい、フルオロアリールとは、アリール中の1つ以上の水素がフッ素に置き換えられたものをいう。
【0011】
本明細書において、特に限定されて言及されない限り、アルキルとは直鎖状または分岐鎖状アルキルを意味し、シクロアルキルとは環状構造を含むアルキルを意味する。環状構造に直鎖状または分岐鎖状アルキルが置換したものもシクロアルキルと称する。また、炭化水素基とは、1価または2価以上の、炭素および水素を含み、必要に応じて、酸素または窒素を含む基を意味する。そして、脂肪族炭化水素基とは、直鎖状、分岐鎖状または環状の脂肪族炭化水素基を意味し、芳香族炭化水素基とは、芳香環を含み、必要に応じて脂肪族炭化水素基を置換基として有する。これらの脂肪族炭化水素基、および芳香族炭化水素基は必要に応じて、フッ素、オキシ、ヒドロキシ、アミノ、カルボニル、またはシリル等を含む。
【0012】
本明細書において、ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。特に限定されて言及されない限り、これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。
【0013】
本明細書において、特に限定されて言及されない限り、温度の単位は摂氏(Celsius)を使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
【0014】
<ポジ型感光性シロキサン組成物>
本発明によるポジ型感光性シロキサン組成物は、
(I)ポリシロキサン
(II)ジアゾナフトキノン誘導体
(III)特定の添加剤、
(IV)溶剤、および
(V)任意成分
を含んでなる。これらの各成分について説明すると以下の通りである。
【0015】
[(I)ポリシロキサン]
ポリシロキサンとは、Si-O-Si結合(シロキサン結合)を主鎖とするポリマーのことを言う。また本明細書において、ポリシロキサンには、一般式(RSiO1.5)nで表わされるシルセスキオキサンポリマーも含まれるものとする。
【0016】
本発明によるポリシロキサンは、以下の一般式(Ia)で示される繰り返し単位を有する。
【化2】
(式中、
R
1は、水素、1~3価の、C
1~30の直鎖状、分岐状あるいは環状の、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、または1~3価のC
6~30の芳香族炭化水素基を表し、 前記脂肪族炭化水素基および前記芳香族炭化水素基において、1つ以上のメチレンがオキシ、イミドまたはカルボニル置換されているか非置換であり、1つ以上の水素がフッ素、ヒドロキシ、またはアルコキシ置換されているか非置換であり、あるいは1つ以上の炭素がケイ素に置換されているか非置換であり、
R
1が2価または3価である場合、R
1は複数の繰り返し単位に含まれるSi同士を連結する。)
【0017】
R1が1価基である場合、R1としては、例えば、(i)メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、およびデシルなどのアルキル、(ii)フェニル、トリル、およびベンジルなどのアリール、(iii)トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、3,3,3-トリフルオロプロピルなどのフルオロアルキル、(iv)フルオロアリール、(v)シクロヘキシルなどのシクロアルキル、(vi)グリシジル、イソシアネート、およびアミノ等のアミノまたはイミド構造を有する窒素含有基、(vii)グリシジルなどのエポキシ構造、またはアクリロイル構造もしくはメタクリロイル構造を有する、酸素含有基が挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、フェニル、トリル、グリシジル、イソシアネートである。フルオロアルキルとしては、ペルフルオロアルキル、特にトリフルオロメチルやペンタフルオロエチルが好ましい。R1がメチルの化合物は、原料が入手し易く、硬化後の膜硬度が高く、高い薬品耐性を有するため好ましい。また、フェニルは、当該ポリシロキサンの溶剤への溶解度を高め、硬化膜がひび割れにくくなるため、好ましい。R1がヒドロキシ、グリシジル、イソシアネート、またはアミノを有していると、基板との密着性が向上するため、好ましい。
【0018】
また、R1が2価基または3価基である場合、R1は、例えば、アルキレン、アリーレン、シクロアルキレン環、ピペリジン環、ピロリジン環、イソシアヌレート環、などを含むものが好ましい。
【0019】
また、本発明によるポリシロキサンは、必要に応じて、以下の一般式(Ib)で示される繰り返し単位を有していてもよい。
【化3】
【0020】
このポリマーの末端にはシラノールが含まれる。
【0021】
このようなポリシロキサンは、下記式(ia)で表わされるシラン化合物を、必要に応じて酸性触媒または塩基性触媒の存在下で、加水分解及び縮合して得ることができる。
R1[Si(OR2)3 ]p (ia)(式中、
pは1~3であり、
R1は、水素、1~3価の、C1~30の直鎖状、分岐状あるいは環状の、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、または1~3価のC6~30の芳香族炭化水素基を表し、 前記脂肪族炭化水素基および前記芳香族炭化水素基において、1つ以上のメチレンがオキシ、イミドまたはカルボニル置換されているか非置換であり、1つ以上の水素がフッ素、ヒドロキシ、またはアルコキシ置換されているか非置換であり、あるいは1つ以上の炭素がケイ素に置換されているか非置換であり、
R2 はC1~10のアルキルを表す)
【0022】
シラン化合物として、式(ia)のものを用いた場合には、繰り返し単位(Ia)のみを含むポリシロキサンを得ることができる。なお、上記式(ia)で表されるシラン化合物に、下記式(ib)で表わされるシラン化合物を組み合わせてポリシロキサンを得ることもできる。このように式(ib)を用いると、繰り返し単位(Ia)および(Ib)を含むポリシロキサンを得ることができる。
Si(OR2 )4 (ib)
【0023】
ここで、シラン化合物(ia)および(ib)は、それぞれ2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
ポリシロキサンの原料として、シラン化合物(ib)の配合比が高いと、シラン化合物の析出が起こったり、形成される被膜の感度低下が起こったりするため、ポリシロキサンの原料である、シラン化合物のモル数に対して、シラン化合物(ib)の配合比が40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0025】
ポリシロキサンの質量平均分子量は、通常500以上25000以下であり、有機溶剤への溶解性、アルカリ現像液への溶解性の点から1000以上20000以下であることが好ましい。ここで質量平均分子量とは、ポリスチレン換算質量平均分子量であり、ポリスチレンを基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0026】
本発明に用いられるポリシロキサンのアルカリ溶解速度(以下、ADRということがある。詳細後述)は、形成される被膜の膜厚や現像条件に応じ、また組成物に含まれる感光剤の種類や添加量により異なるが、例えば、膜厚が0.1~10μm(1,000~100,000Å)であれば、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液に対する溶解速度は50~5,000Å/秒が好ましい。
【0027】
また、本発明では感度調整のために、通常よりADRが高いポリシロキサンを用いたうえで、後述する特定の添加剤で露光部と未露光部の溶解度差を広げることが好ましい。一般にADRが高いポリシロキサンを使用してパターンを形成させると、高いADRに対応して感度も高くなるが、現像後の残膜率が下がる傾向にある。しかし、本発明において、ADRが高いポリシロキサンに特定の添加剤を組み合わせた場合には、ポリシロキサンに由来する高い感度を維持したままで、残膜率の改良ができる。本発明においては、ADRが高いポリシロキサンを用いることで感度が10%以上高くなれば、本発明による効果を十分に得られるので好ましい。
【0028】
本発明の組成物は、アルカリ溶解速度や平均分子量などの異なる少なくとも2種類のポリシロキサンを組合せて用いることができる。異なるポリシロキサンとしては、触媒、反応温度、反応時間あるいは重合体を変更することで調製することができる。特にアルカリ溶解速度の異なるポリシロキサンを組合せて用いることで、現像後の残存不溶物の低減、パターンだれの低減、パターン安定性などを改良することができる。
【0029】
このようなポリシロキサンは、例えば
(M)プリベーク後の膜が、2.38質量%TMAH水溶液に可溶であり、その溶解速度が200~3,000Å/秒であるポリシロキサンが挙げられる。
【0030】
また、必要に応じ
(L)プリベーク後の膜が、5質量%TMAH水溶液に可溶であり、その溶解速度が1,000Å/秒以下であるポリシロキサン、または
(H)プリベーク後の膜の、2.38質量%TMAH水溶液に対する溶解速度が4,000Å/秒以上あるポリシロキサンと
混合し、所望の溶解速度を有する組成物を得ることができる。
【0031】
なお、これらのポリシロキサン(M)、(H)、および(L)の各々質量平均分子量は前述したとおりである。
【0032】
前述の溶解度差を広げるために、異なるアルカリ溶解速度を有する2種類のポリシロキサンの配合比で調整することが出来る。
【0033】
本発明に用いられるポリシロキサンは、原料として一般式(ia)または(ib)を用いたことによって、分岐構造を有するものである。ここで、必要に応じて、ポリシロキサンの原料として2官能シラン化合物を組合せることによって、ポリシロキサンを部分的に直鎖構造とすることができる。ただし、高温耐性が要求される用途では、直鎖構造部分は少ないことが好ましい。具体的にはポリシロキサンの2官能性シランに由来する直鎖構造は、全ポリシロキサンの構造の30モル%以下であることが好ましい。
【0034】
[アルカリ溶解速度(ADR)の測定、算出法]
ポリシロキサンまたはその混合物のアルカリ溶解速度は、アルカリ溶液としてTMAH水溶液を用いて、次のようにして測定し、算出する。
【0035】
ポリシロキサンをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAという)に35質量%になるように希釈し、室温でスターラーで1時間撹拌させながら溶解する。温度23.0±0.5℃、湿度50±5.0%雰囲気下のクリーンルーム内で、調製したポリシロキサン溶液を4インチ、厚さ525μmのシリコンウエハ上にピペットを用い1ccシリコンウエハの中央部に滴下し、2±0.1μmの厚さになるようにスピンコーティングし、その後100℃のホットプレート上で90秒間加熱することにより溶剤を除去する。分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製)で、塗布膜の膜厚測定を行う。
【0036】
次に、この膜を有するシリコンウエハを、23.0±0.1℃に調整された、所定濃度のTMAH水溶液100mlを入れた直径6インチのガラスシャーレ中に静かに浸漬後、静置して、被膜が消失するまでの時間を測定した。溶解速度は、ウエハ端部から10mm内側の部分の膜が消失するまでの時間で除して求める。溶解速度が著しく遅い場合は、ウエハをTMAH水溶液に一定時間浸漬した後、200℃のホットプレート上で5分間加熱することにより溶解速度測定中に膜中に取り込まれた水分を除去した後、膜厚測定を行い、初期の膜厚を浸漬前後の膜厚変化量を浸漬時間で除することにより溶解速度を算出する。上記測定法を5回行い、得られた値の平均をポリシロキサンの溶解速度とする。
【0037】
[(II)ジアゾナフトキノン誘導体]
本発明によるシロキサン組成物は感光剤として、ジアゾナフトキノン誘導体を含む。このように感光剤を用いることで、露光現像によって、パターン化された硬化膜の加工が可能であり、ドライエッチング等でパターン加工を行わずに済むため、素子の製造などにおいて、回路や要素へのダメージが比較的小さくすることができるという利点がある。
【0038】
本発明によるポジ型感光性シロキサン組成物は、感光剤としてのジアゾナフトキノン誘導体を含んでなる。このようなポジ型感光性シロキサン組成物は、露光部が、アルカリ現像液に可溶になることにより現像によって除去されるポジ型感光層を形成することができる。
【0039】
本発明において感光剤として用いられるジアゾナフトキノン誘導体は、フェノール性ヒドロシキを有する化合物にナフトキノンジアジドスルホン酸がエステル結合した化合物である。特にその構造について制限されないが、好ましくはフェノール性ヒドロキシを1つ以上有する化合物とのエステル化合物であることが好ましい。ナフトキノンジアジドスルホン酸としては、4-ナフトキノンジアジドスルホン酸、あるいは5-ナフトキノンジアジドスルホン酸を用いることができる。4-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物はi線(波長365nm)領域に吸収を持つため、i線露光に適している。また、5-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物は広範囲の波長領域に吸収が存在するため、広範囲の波長での露光に適している。露光する波長によって4-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物、5-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物を選択することが好ましい。4-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物と5-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物を混合して用いることもできる。
【0040】
フェノール性ヒドロキシを有する化合物としては特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA、BisP-AF、BisOTBP-A、Bis26B-A、BisP-PR、BisP-LV、BisP-OP、BisP-NO、BisP-DE、BisP-AP、BisOTBP-AP、TrisP-HAP、BisP-DP、TrisP-PA、BisOTBP-Z、BisP-FL、TekP-4HBP、TekP-4HBPA、TrisP-TC(商品名、本州化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0041】
ジアゾナフトキノン誘導体の添加量は、ナフトキノンジアジドスルホン酸のエステル化率、あるいは使用されるポリシロキサンの物性、要求される感度、露光部と未露光部との溶解コントラストにより最適量は異なるが、好ましくはポリシロキサン100質量部に対して1~20質量部であり、さらに好ましくは3~15質量部である。ジアゾナフトキノン誘導体の添加量が1質量部以上であると、露光部と未露光部との溶解コントラストが高くなり、良好な感光性を有する。また、さらに良好な溶解コントラストを得るためには5質量部以上が好ましい。一方、ジアゾナフトキノン誘導体の添加量が少ない程、硬化膜の無色透明性が向上し、透過率が高くなるため好ましい。
【0042】
[(III)特定の添加剤]
本発明による組成物は、特定の添加剤を含んでなる。この特定の添加剤(III)は、ポリシロキサンとの相互作用によりポリシロキサンのADRを下げる化合物と考えられる。ここで相互作用とは水素結合、イオン結合、双極子相互作用等の分子間力相互作用をいう。このような分子間力相互作用は、特定の窒素含有構造によってもたらされる。このような添加剤は、>N-C(=O)-または>N-C(=S)-構造を含む化合物である。
この添加剤は、フォトリソグラフィによってパターンを形成させる際に、露光部においてはポリシロキサンの溶解性を増加させる作用を有し、その結果、感光剤を増量すること無く高いコントラストを得ることができる。
【0043】
本発明による組成物を用いて塗膜を形成させると、塗膜中で>N-C(=O)-または>N-C(=S)-構造に含まれる窒素がポリシロキサンを構成する酸素と相互作用して、弱い結合を形成すると考えられる。通常、ジアゾナフトキノンを含むポジ型感光性組成物から形成された塗膜は、未露光部においてジアゾナフトキノンが溶解抑止剤として機能するが、本発明においては、特定の添加剤がその効果をさらに補うものと考えられる。すなわち特定の添加剤とポリシロキサンとの間の相互作用は、露光によって塗膜中に発生する酸によって失われる程度の相互作用であるために、未露光部におけるポリシロキサンの溶解速度と露光部におけるポリシロキサンの溶解速度の差が大きくなり、その結果、得られるパターンのコントラストが強くなると考えられる。このようなメカニズムによって、本発明における特定の添加剤が、感光剤の機能を補って感度を調整することができると推定される。
【0044】
本発明による特定の添加剤とポリシロキサンとの間の相互作用は、上記したとおり、未露光時には存在し、露光時には発生する酸によって失われることが好ましい。このような適切な相互作用を実現するために、特定の添加剤は特定の構造を有することが好ましい。
すなわち、添加剤(III)においては、まず>N-C(=O)-または>N-C(=S)-構造を有することが必要である。このような構造としては、例えば>N-C(=O)-N<(尿素構造)、>N-C(=S)-N<(チオ尿素構造)、>N-C(=O)-O(ウレタン構造)、>N-C(=O)-S-(チオウレタン構造)、>N-C(=O)-(アミド構造)、および>N-C(=S)-(チオアミド構造)が挙げられる。
【0045】
これらの構造を有するものであれば、それ以外の構造としてどのようなものを含んでいても本発明の効果を損なわない範囲で特に限定されない。しかしながら添加剤(III)とポリシロキサンとの間の相互作用が好ましい効果を発現させるために、添加剤(III)は特定の窒素含有構造よりもポリシロキサンと強い結合を形成する官能基等を有することは好ましくない。そのような官能基等がポリシロキサンと強い結合を形成する構造を有する場合、目的とする適切な相互作用が阻害される為、露光しても溶解促進にならない、現像時に不溶物を形成する、または現像ムラの原因となる。したがって、特定の窒素含有構造の他にポリシロキサンと結合性が高い部位または置換基を有しないものが好ましい。
具体的には、添加剤(III)は、アルコキシリル、ヒドロキシシリルを含まないことが好ましい。
【0046】
また、添加剤(III)とポリシロキサンとの間の相互作用は添加剤(III)の置換基などにも影響を受けることがある。また、添加剤が嵩高い置換基を有すると、>N-C(=O)-または>N-C(=S)-構造とポリシロキサンとの相互作用が阻害されることがある。このため、このような影響を考慮しながら添加剤中の置換基を選択することが好ましい。
なお、添加剤は硬化膜の形成過程において塗膜の未露光部に残るため、低温、例えば塗膜の硬化温度より低い温度や室温で分解または蒸発することが好ましい。
【0047】
具体的には、本発明における添加剤は下記一般式(III-i)~(III-iv)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【化4】
式中、
Zは酸素または硫黄であり、
R
aはそれぞれ独立に、水素、C
1~20の、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキルを表し、前記アルキルにおいて、1つ以上のメチレンがオキシまたはカルボニル置換されているか非置換であり、1つ以上の水素がアルコキシ置換されているか非置換であり、あるいは1つ以上の炭素がケイ素に置換されているか非置換であり、
R
bはそれぞれ独立に、水素、C
1~4のアルキルであるか、式(III-ii)において2つのR
bが環状構造を形成していてもよく、
nは1~3の整数である。)
但しR
aはアルコキシシリル、ヒドロキシシリルでないことが好ましい。
これらのうち、(III-i)で表される添加剤が好ましい。
【0048】
ここで、Zは酸素であることが好ましい。
また、Raは、アルキル、シリル、アルキルシリル、アルキルシリルアルキル、またはシリルアルキルが好ましく、C3~10のアルキルシリルまたはアルキルシリルアルキルがさらに好ましい。
また、式(III-i)において、2つのRbのうち、いずれかひとつが水素であることが好ましく、両方が水素であることが好ましい。少なくとも一つのRbが水素であると本願発明の効果が大きくなる傾向がある。
また、(III-i)~(III-iv)のいずれにおいても、ヒドロキシシリルを含まないことが好ましい。
【0049】
より具体的には、添加剤(III)として以下のものを挙げることができる。
【化5】
また、1,3-ジ(トリメチルシリル)尿素、1,3-ジ(メチルシリルメチル)尿素などを用いることができる。
【0050】
さらに、それ以外の適切な(III-i)に包含される添加剤としては、尿素、チオ尿素、メチル尿素、エチル尿素、1-アセチル-2-チオ尿素、1-メチル-2-チオ尿素、1-エチル-2-チオ尿素、1,1-ジメチル尿素、1,1-ジエチル尿素、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ジメチル-2-チオ尿素、1,3-ジエチル-2-チオ尿素、1,3-ジプロピル-2-チオ尿素、1,3-ジイソプロピル-2-チオ尿素、1,3-ジ-n-ブチル-2-チオ尿素、1,3-ジ-tert-ブチル-2-チオ尿素、1-(sec-ブチル)-3-メチル尿素、1-イソブチル-3-メチル尿素、1-ブチル-3-エチル尿素、1-エチル-3-プロピル尿素、1-メチル-3-プロピル-2-チオ尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、エチレンチオ尿素、1,1,3-トリメチル尿素、1,1,3-トリメチルチオ尿素、N,N’-ジメチルエチレン尿素、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、N,N,N’,N’-テトラメチル尿素、N,N-ジメチル-N’,N’-ジエチル尿素、N,N-ジメチル-N’,N’-ジフェニル尿素、メトキシメチル尿素などが挙げられる。
【0051】
また、適切な(III-ii)に包含される添加剤としては、カルバミン酸エチル、カルバミン酸tert-ブチル、N-フェニルカルバミン酸エチル、N-ジメチルフェニルカルバミン酸エチル、N-メチルカルバミン酸-2-(1-メチルプロピル)フェニル、N,N’-メチレンジシクロヘキシル-ジカルバミン酸エチルなどが挙げられる。
【0052】
また適切な(III-iii)に包含される添加剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、ベンズアミド、アセトアニリド、ベンズアニリド、N-メチルアセトアニリド、N,N-ジメチルチオホルムアミド、などが挙げられる。
【0053】
このような添加剤(III)の好ましい含有量は、化合物中に含まれる>N-C(=O)-または>N-C(=S)-構造の含有量で特定される。具体的には、それらの構造の合計含有量は、組成物中に含まれるポリシロキサン100重量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、1.0~4.0質量部であることがより好ましい。このような範囲にあるときに、組成物の感度が高く、また透明性の高いパターンを形成することができる傾向にある。
【0054】
なお、本発明において、添加剤(III)は、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0055】
[(IV)有機溶剤]
本発明による組成物は、有機溶剤を含んでなる。この有機溶剤は、組成物に含まれる各成分を均一に溶解または分散させるものから選択される。具体的には有機溶剤としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのジエチレングリコールジアルキルエーテル類、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、PGMEA、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、イソプロパノール、プロパンジオールなどのアルコール類などが挙げられる。これらの溶剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
溶剤の配合比は、塗布方法や塗布後の膜厚の要求によって異なる。例えば、スプレーコートの場合は、ポリシロキサンと任意の成分との総質量を基準として、90質量%以上になったりするが、ディスプレイの製造で使用される大型ガラス基板のスリット塗布では、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、通常90質量%以下、好ましくは85質量%以下とされる。
【0056】
[(V)任意成分]
また、本発明による組成物は必要に応じてその他の任意成分を含んでいてもよい。そのような任意成分としては、硬化助剤が挙げられる。用いられる硬化助剤としては、光または熱により酸または塩基を発生する化合物である。具体的には、光酸発生剤、光塩基発生剤、熱酸発生剤、熱塩基発生剤、光熱酸発生剤、および光熱塩基発生剤が挙げられる。ここで光熱酸発生剤および光熱塩基発生剤は、露光により化学構造が変化するが酸または塩基を発生させず、その後、熱によって結合開裂を起こして、酸または塩基を発生する化合物であってもよい。これらは、硬化膜製造プロセスにおいて利用する重合反応や架橋反応に応じて選択される。ここで、光としては、可視光、紫外線、または赤外線等を挙げることができる。特に、薄膜トランジスタの製造に用いられる紫外線によって、酸あるいは塩基を発生させるものが好ましい。
【0057】
硬化助剤の添加量は、硬化助剤が分解して発生する活性物質の種類、発生量、要求される感度、露光部と未露光部との溶解コントラストにより最適量は異なるが、ポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.001~10質量部であり、さらに好ましくは0.01~5質量部である。添加量が0.001質量部以上であると、露光部と未露光部との溶解コントラストが高くなり、添加効果が良好となる。一方、硬化助剤の添加量が10質量部以下であれば、形成される被膜へのクラックが抑制され、硬化助剤の分解による着色も抑制されるため、被膜の無色透明性が向上する。
【0058】
光酸発生剤の例としては、ジアゾメタン化合物、トリアジン化合物、スルホン酸エステル、ジフェニルヨードニウム塩、トリフェニルスルホニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホンイミド化合物等が挙げられる。
【0059】
上述のものを含めて、具体的に使用できる光酸発生剤としては、4-メトキシフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスホネート、4-メトキシフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、4-メトキシフェニルジフェニルスルホニウムメタンスルホナート、4-メトキシフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオロアセテート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスホネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、4-メトキシフェニルジフェニルスルホニウム-p-トルエンスルホナート、4-フェニルチオフェニルジフェニルテトラフルオロボレート、4-フェニルチオフェニルジフェニルヘキサフルオロホスホネート、トリフェニルスルホニウムメタンスルホナート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロアセテート、トリフェニルスルホニウム-p-トルエンスルホナート、4-メトキシフェニルジフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、4-フェニルチオフェニルジフェニルヘキサフルオロアルセネート、4-フェニルチオフェニルジフェニルーp-トルエンスルホナート、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)フタルイミド、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミジルトリフレート、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミジル-p-トルエンスルホナート、4-フェニルチオフェニルジフェニルトリフルオロメタンスルホナート、4-フェニルチオフェニルジフェニルトリフルオロアセテート、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ナフチルイミド、N-(ノナフルオロブチルスルホニルオキシ)ナフチルイミド等を挙げることができる。
【0060】
光塩基発生剤の例としては、アミドを有する多置換アミド化合物、ラクタム、イミド化合物もしくは該構造を含むものが挙げられる。また、アニオンとしてアミドアニオン、メチドアニオン、ボレートアニオン、ホスフェートアニオン、スルホネートアニオン、またはカルボキシレートアニオン等を含むイオン型の光塩基発生剤も用いることができる。
光熱塩基発生剤として、以下の一般式(PBG)で表されるものが挙げられる。
【化6】
ここで、xは、1以上6以下の整数であり、
R
1’~R
6 ’は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、メルカプト、スルフィド、シリル、シラノール、ニトロ、ニトロソ、スルフィノ、スルホ、スルホナト、ホスフィノ、ホスフィニル、ホスホノ、ホスホナト、アミノ、アンモウム、置換基を含んでもよいC
1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を含んでもよいC
6~22の芳香族炭化水素基、置換基を含んでもよいC
1~20のアルコキシ、または置換基を含んでもよいC
6~20のアリールオキシである。
【0061】
これらのうち、R1’~R4 ’は、特に水素、ヒドロキシ、C1~6の脂肪族炭化水素基、またはC1~6のアルコキシが好ましく、R5’およびR6’は、特に水素が好ましい。
【0062】
R1’~R4 ’のうち2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよい。このとき、その環状構造はヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0063】
Nは含窒素複素環の構成原子であり、その含窒素複素環は3~10員環であり、その含窒素複素環は1つ以上の、式(PBG)中に示されたCxH2XOHと異なる置換基を含んでもよい、C1~20、特にC1~6の脂肪族炭化水素基をさらに有していてもよい。
【0064】
R1’~R4 ’は、使用する露光波長により適宜選択することが好ましい。ディスプレイ向け用途においては、例えばg、h、i線に吸収波長をシフトさせるビニル、アルキニルなどの不飽和炭化水素結合官能基や、アルコキシ、ニトロなどが用いられ、特にメトキシ、エトキシが好ましい。
【0065】
【0066】
式(PBG)で表される光熱塩基発生剤は、水和または溶媒和された状態で用いられることが好ましい。この光熱塩基発生剤を無水物の状態で用いた場合には、十分な効果が得られないことがある。ここで、無水物とは、水和も溶媒和もしていない化合物をいうものとする。光熱塩基発生剤の無水物を水和または溶媒和する方法は特に限定されず公知の方法が利用できる。例えば、光熱塩基発生剤無水物に対し10倍モル以上の水または溶媒を加え、室温以上の温度で1時間程度撹拌させる。ここで、溶媒和物の場合は、溶媒が光熱塩基発生剤および水に可溶であり、かつ水より沸点の低いことが望ましく、例えば、THFなどが挙げられる。また、C6以下のアルコールも好ましい。得られた混合物をエバポレータで余分な溶媒を留去して、水和物または溶媒和物を得ることができる。得られた化合物が水和または溶媒和されていることは赤外線吸収スペクトル(IR)、1H-NMRまたは示唆熱・熱重量分析(TG-DTA)などで確認することが出来る。
【0067】
また、水または溶媒に光熱塩基発生剤を無水物の状態で混合および撹拌し、得られた水和物または溶媒和物を単離することなく使用することも可能である。
【0068】
式(PBG)で表される光熱塩基発生剤に対して、水和に用いられる水または溶媒和に用いられる溶媒の組成比は、式(PBG)の化合物1モルに対して、水または溶媒が0.1モル以上であることが好ましく、1モル以上であることがより好ましい。
【0069】
また、硬化助剤として、熱酸発生剤または熱塩基発生剤を用いることができる。熱酸発生剤の例としては、各種脂肪族スルホン酸とその塩、クエン酸、酢酸、マレイン酸等の各種脂肪族カルボン酸とその塩、安息香酸、フタル酸等の各種芳香族カルボン酸とその塩、芳香族スルホン酸とそのアンモニウム塩、各種アミン塩、芳香族ジアゾニウム塩及びホスホン酸とその塩など、有機酸を発生する塩やエステル等を挙げることができる。熱酸発生剤の中でも特に、有機酸と有機塩基からなる塩であることが好ましく、スルホン酸と有機塩基からなる塩が更に好ましい。
【0070】
好ましいスルホン酸としては、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-ドデシルベンゼンスルホン酸、1,4-ナフタレンジスルホン酸、メタンスルホン酸、などが挙げられる。これら酸発生剤は、単独又は混合して使用することが可能である。
【0071】
熱塩基発生剤の例としては、イミダゾール、第三級アミン、第四級アンモニウム等の塩基を発生させる化合物、これらの混合物を挙げることができる。放出される塩基の例として、N-(2-ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾール、N-(3-ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾール、N-(4-ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾール、N-(5-メチル-2-ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾール、N-(4-クロロ-2-ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾールなどのイミダゾール誘導体、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7が挙げられる。これら塩基発生剤は、酸発生剤と同様、単独又は混合して使用することが可能である。
【0072】
そのほかの任意成分として界面活性剤などが挙げられる。
【0073】
界面活性剤は塗布性を改善することができるため、用いることが好ましい。本発明におけるシロキサン組成物に使用することのできる界面活性剤としては、例えば非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0074】
上記非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレート、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、スリーエム株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製)、又は有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0075】
またアニオン系界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩などが挙げられる。
【0076】
さらに両性界面活性剤としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタインなどが挙げられる。
【0077】
これら界面活性剤は、単独で又は2種以上混合して使用することができ、その配合比は、感光性シロキサン組成物の総質量に対し、通常50~10,000ppm、好ましくは100~5,000ppmである。
【0078】
<硬化膜およびそれを具備した電子素子>
本発明による硬化膜は、前記したポジ型感光性シロキサン組成物を基板上に塗布して硬化させることにより製造することができる。
【0079】
本発明における組成物の塗膜の形成は、一般的な塗布方法、即ち、浸漬塗布、ロールコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ドクターコート、フローコート、スピンコート、スリット塗布等、従来感光性シロキサン組成物の塗布方法として知られた任意の方法により行うことができる。また基材としては、シリコン基板、ガラス基板、樹脂フィルム等の適当な基板上で行うことができる。基材がフィルムである場合には、グラビア塗布も可能である。所望により塗膜の乾燥工程を別に設けることもできる。塗膜は、必要に応じて1回または2回以上繰り返して塗布することにより所望の膜厚とすることができる。
【0080】
本発明による感光性シロキサン組成物の塗膜を形成した後、その塗膜の乾燥、および溶剤残存量を減少させるため、その塗膜をプリベーク(加熱処理)することが好ましい。プリベーク工程は、一般に70~150℃、好ましくは90~120℃の温度で、ホットプレートによる場合には10~180秒間、好ましくは30~90秒間、クリーンオーブンによる場合には1~30分間実施することができる。
【0081】
本発明による組成物は感光性であるので、パターン化された硬化膜を形成させることができる。このパターンを形成する方法について説明する。所望のパターンは、本発明による組成物の塗膜を形成し、プリベーク処理した後、該塗膜に光をパターン状に照射する。
このような光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライド、キセノン等のランプやレーザーダイオード、LED等を使用することができる。照射光としてはg線、h線、i線などの紫外線が通常用いられる。半導体のような超微細加工を除き、数μmから数十μmのパターニングでは360~430nmの光(高圧水銀灯)を使用することが一般的である。中でも、液晶表示装置の場合には430nmの光を使用することが多い。照射光のエネルギーは、光源や初期の膜厚にもよるが、一般に10~2000mJ/cm2、好ましくは20~1000mJ/cm2とする。照射光エネルギーが10mJ/cm2よりも低いと組成物が十分に分解せず、反対に2000mJ/cm2よりも高いと、露光過多となり、ハレーションの発生を招く場合がある。
【0082】
パターン状に照射するためには一般的なフォトマスクを使用すればよく、そのようなフォトマスクについては当業者であれば周知である。照射の際の環境は、一般に周囲雰囲気(大気中)や窒素雰囲気とすればよい。また、全面に膜を形成する場合には、全面露光すればよい。本発明においては、パターン膜とは、このような全面に膜が形成された場合をも含むものである。
【0083】
また、現像の際に用いられる現像液としては、従来知られている感光性シロキサン組成物の現像に用いられている任意の現像液を用いることができる。好ましい現像液としては、水酸化テトラアルキルアンモニウム、コリン、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属メタ珪酸塩(水和物)、アルカリ金属燐酸塩(水和物)、アンモニア水、アルキルアミン、アルカノールアミン、複素環式アミンなどのアルカリ性化合物の水溶液であるアルカリ現像液が挙げられ、特に好ましいアルカリ現像液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液である。これらアルカリ現像液には、必要に応じ更にメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶剤、あるいは界面活性剤が含まれていてもよい。アルカリ現像液により現像が行われた後には、通常水洗がなされる。その後、全面露光(フラッド露光)を行うことが一般的である。全面露光を行うことによって、膜中に残存する未反応のジアゾナフトキノン誘導体が光分解して、膜の光透明性がさらに向上するので、透明性を求める場合は、全面露光工程を行うことが好ましい。また、硬化助剤として光酸発生剤または光塩基発生剤が選択される場合には、この全面露光工程において、放射される光により酸または塩基を発生させる。光熱酸発生剤、光熱塩基発生剤を使用する場合は、この全面露光工程において光熱酸発生剤、光熱塩基発生剤の化学構造が変化する。
【0084】
全面露光の方法としては、PLAなどの紫外可視露光機を用い、100~2,000mJ/cm2程度(波長365nm露光量換算)を全面に露光する。
【0085】
現像後、パターン膜を加熱することにより、塗膜の硬化が行われる。加熱条件としては、塗膜の硬化が行える如何なる温度であってもよく、通常150~400℃であり、好ましくは200~350℃である。150℃以下では、未反応のシラノールが残存しやすい。一般にシラノールの極性は、高い誘電率を誘起させる傾向にある。したがって、低い誘電率が望ましい場合は200℃以上で硬化させることが好ましい。
【0086】
本発明による硬化膜は、高い透過率を有するものである。具体的には、波長400
nmの光に対する透過率が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0087】
このようにして形成された硬化膜は、フラットパネルディスプレー(FPD)など、各種素子の平坦化膜や層間絶縁膜、透明保護膜などとして、さらには、低温ポリシリコン用層間絶縁膜あるいはICチップ用バッファーコート膜などとして、多方面で好適に利用することができる。また、硬化膜を光学デバイス材料などとして用いることもできる。
【実施例】
【0088】
本発明を諸例により具体的に説明すると以下の通りである。
【0089】
合成例1(ポリシロキサン(M)の合成)
撹拌機、温度計、冷却管を備えた2Lのフラスコに、25質量%TMAH水溶液32.5g、イソプロピルアルコール(IPA)800ml、水2.0gを仕込み、次いで滴下ロートにフェニルトリメトキシシラン39.7g、メチルトリメトキシシラン34.1g、テトラメトキシシラン7.6gの混合溶液を調整した。その混合溶液を10℃にて前記フラスコ内に滴下し、同温で3時間撹拌した後、10%HCl水溶液を加え中和した。中和液にトルエン400ml、水100mlを添加し、2層に分離させ、得られた有機層を減圧下濃縮することで溶媒を除去し、濃縮物に固形分濃度40質量%となるようにPGMEAを添加調整した。得られたポリシロキサン(M)の分子量(ポリスチレン換算)は質量平均分子量(Mw)=1,800であった。得られた樹脂溶液をシリコンウエハにプリベーク後の膜厚が2μmになるように塗布し、2.38%TMAH水溶液に対する溶解速度を測定したところ、1,200Å/秒であった。
【0090】
また、反応条件を変更して、ポリシロキサン(H)および(L)も合成した。ポリシロキサン(H)の質量平均分子量(Mw)は1,500、2.38%TMAH水溶液に対する溶解速度は10,000Å/秒であり、ポリシロキサン(L)の質量平均分子量(Mw)は2,500、5%TMAH水溶液に対する溶解速度は300Å/秒であった。
【0091】
[実施例101および比較例101~104]
各種の添加剤を組み合わせ、PGMEAに溶解させて実施例101および比較例101~104のシロキサン組成物を調製した。各組成物の組成は表1に示すとおりであった。
なお、表中、ポリシロキサンは、各ポリシロキサンの配合質量比であり、特定の添加剤、感光剤、硬化助剤の添加量は、それぞれポリシロキサン100質量部に対する質量部である。
【0092】
各添加剤の詳細は以下の通りである。
ジアゾナフトキノン誘導体(DNQ):4,4’-(1-(4-(1-(4-ヒドロキシフェノール)-1-メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノールのジアゾナフトキノン2.0モル変性体
硬化助剤:1,8-ナフタルイミジルトリフレート(商品名「NAI-105」、みどり化学株式会社製)
界面活性剤:信越化学工業株式会社製KF-53
III-1:N,N’-ビス(トリメチルシリル)尿素
III-R1:1,1-ジ(2-フェノキシエトキシ)シクロヘキサン
III-R2:N,N’-ビス(3-トリメトキシシリルブチル)尿素
【0093】
得られた組成物を用いて、現像後3μmラインアンドスペースパターンが1:1になる照射エネルギーを感度とした。また、現像前の膜厚に対する現像後の膜厚の比率を残膜率とした。パターン形状は、以下の基準で評価した。
A:パターンが直線的で、現像後膜べりが少ない
B:パターン根元が抉れている、あるいは現像後膜べりが大きい
C:パターン表面や側面の荒れ、残渣が残りパターンコントラストが取れない
【0094】
さらに、以下の通りの方法により硬化膜を形成させた。4インチのシリコンウエハに各組成物をスピンコーティングにより、膜厚が2.5μmとなるように塗布した。得られた塗膜を100℃で90秒プリベークして溶剤を蒸発させた。乾燥後の塗膜を、g+h+i線マスクアライナー(PLA-501F型、製品名、キヤノン株式会社製)により120~160mJ/cm2でパターン露光した。その後2.38%TMAH水溶液を用いて60秒間パドル現像を行い、さらに純水で60秒間リンスした。さらに、g+h+i線マスクアライナーにより1000mJ/cm2でフラッド露光を行ったあと、230℃で30分間加熱して硬化させた。
【0095】
また、得られた硬化膜について、株式会社島津製作所製MultiSpec-1500により400nmにおける透過率を測定した。得られた結果は表1に示す通りであった。
【表1】
表中、窒素含有構造の含有量は、ポリシロキサン100重量部に対する(III)添加剤中に含まれる、>N-C(=O)-構造の質量部である。
比較例102は現像後に塗膜の一部が溶解し表面が白濁し、比較例104は現像後に塗膜が溶解し膜が残らなかった。
【0096】
【0097】
得られた結果より、本発明による組成物を用いることによって、高い透過率と、高感度と、現像後の高い残膜率を達成できることが確認できた。