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特許7297277重合触媒組成物、重合触媒組成物の製造方法、及び共役ジエン重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】重合触媒組成物、重合触媒組成物の製造方法、及び共役ジエン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/54 20060101AFI20230619BHJP
   C08F 236/04 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
C08F4/54
C08F236/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022545724
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031464
(87)【国際公開番号】W WO2022045282
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020143898
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮則
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏明
(72)【発明者】
【氏名】竹中 克彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 智之
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102532368(CN,A)
【文献】特表2002-512249(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104744612(CN,A)
【文献】特開平11-158207(JP,A)
【文献】特開2000-034320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00 - 4/82
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素カルボキシレートと、
下記一般式(1)で表されるリン酸エステルと、
を含有する、重合触媒組成物(ただし、有機アルミニウム化合物を含む組成物を除く)。
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素原子数5~20のアルキル基である。)
【請求項2】
前記希土類元素カルボキシレートが、ネオジム、ガドリニウム、プラセオジム、ランタン、サマリウム、イットリウムからなる群から選択される1種以上の希土類元素を含有するカルボキシレートである、請求項1に記載の重合触媒組成物。
【請求項3】
前記リン酸エステルの含有量が、前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.01~20当量である、請求項1又は2に記載の重合触媒組成物。
【請求項4】
水の含有量が、前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.5当量以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の重合触媒組成物。
【請求項5】
遊離脂肪酸の含有量が、前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.1当量以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合触媒組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の重合触媒組成物の製造方法であって、
希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、前記一般式(1)で表されるリン酸エステルを0.01~20当量の範囲に調整する工程(a)と、
希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、水を0.5当量以下の範囲に調整する工程(b)と、
遊離脂肪酸と水との合計が、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.6当量以下の範囲となるように調整する工程(c)と、
を含む、重合触媒組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の重合触媒組成物の存在下、共役ジエン単量体を重合することを含む、共役ジエン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合触媒組成物、重合触媒組成物の製造方法、及び共役ジエン重合体の製造方法に関する。
本願は、2020年8月27日に日本に出願された、特願2020-143898号に基づき優先権主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年タイヤ業界では、転がり抵抗の低下による自動車の低燃費化及びクラッキング抑制に効果がある高シスブタジエンゴムの需要が拡大している。この高シスブタジエンゴムは、脂肪酸ネオジム(以下、「ネオジム石鹸」又は「Nd石鹸」という場合がある。)を触媒に用いて1,3-ブタジエンを重合する事により製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、Nd石鹸の保管中の沈殿発生を防止して保存安定性を向上するために、Ndに対して過剰の脂肪酸(以下、単に「遊離脂肪酸」という場合がある)を配合することが知られている。例えば、特許文献2には、ネオジム石鹸と、遊離脂肪酸と、有機溶媒とを含有する重合触媒組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3828340号公報
【文献】特許第4699606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、遊離脂肪酸は重合触媒を失活させるため、重合反応の際にスカベンジャー(例えば、有機アルミニウム化合物)を配合する事により反応系中から除去する必要がある。
有機アルミニウム化合物等のスカベンジャーは高価であることから、重合触媒の製造コストの増大を招いている。そのため、遊離脂肪酸を含まないNd石鹸の開発が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、保存安定性が高く、かつ、触媒活性が良好な重合触媒組成物、該重合触媒組成物の製造方法、及び該重合触媒組成物を用いた共役ジエン重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
(1)希土類元素カルボキシレートと、下記一般式(1)で表されるリン酸エステルと、を含有する、重合触媒組成物。
【0008】
【化1】
(前記一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素原子数5~20のアルキル基である。)
【0009】
(2)前記希土類元素カルボキシレートが、ネオジム、ガドリニウム、プラセオジム、ランタン、サマリウム、イットリウムからなる群から選択される1種以上の希土類元素を含有するカルボキシレートである、前記(1)に記載の重合触媒組成物。
(3)前記リン酸エステルの含有量が、前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.01~20当量である、前記(1)又は(2)に記載の重合触媒組成物。
(4)水の含有量が、前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.5当量以下である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の重合触媒組成物。
(5)遊離脂肪酸の含有量が、前記前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.1当量以下である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の重合触媒組成物。
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の重合触媒組成物の製造方法であって、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、前記一般式(1)で表されるリン酸エステルを0.01~20当量の範囲に調整する工程(a)と、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、水を0.5当量以下の範囲に調整する工程(b)と、遊離脂肪酸と水との合計が、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.6当量以下の範囲となるように調整する工程(c)と、を含む、重合触媒組成物の製造方法。
(7)前記(1)~(5)のいずれかに記載の重合触媒組成物の存在下、共役ジエン単量体を重合することを含む、共役ジエン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重合反応の際にスカベンジャーが必要となる遊離脂肪酸を配合しなくても、保存安定性が高く、かつ、触媒活性が良好な重合触媒組成物を提供することができる。また、本発明によれば製造コストを抑えた共役ジエン重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<重合触媒組成物>
本実施形態に係る重合触媒組成物は、希土類元素カルボキシレートと、後述する一般式(1)で表されるリン酸エステル(以下、「リン酸エステル(P)」という場合がある。)と、を含有する。
本実施形態に係る重合触媒組成物は、共役ジエン重合体製造用の重合触媒として適用することが好ましく、ブタジエン重合体の製造に適用することがより好ましく、1,4-シス体の含有率が96%以上のブタジエン重合体の製造に適用することが更に好ましい。
【0012】
(希土類元素カルボキシレート)
本実施形態において、希土類元素カルボキシレートは、カルボン酸及び水溶性希土類塩、希土類酸化物等を用いて調製されうるものであれば特に限定されない。
【0013】
希土類元素カルボキシレートの調製に用いられるカルボン酸としては、脂肪族、シクロ脂肪族、脂環式、及び芳香族のモノ及びポリ塩基性カルボン酸等が挙げられる。カルボン酸は、飽和又は不飽和、直鎖又は有枝鎖であってよい。有機カルボン酸は天然であっても合成であっても、或いはそれらの混合物であってもよい。通常は精製されているものの天然である酸の例としては、直鎖及び有枝鎖のカルボン酸及びトール油といった混合物及びナフテン酸といった環式カルボン酸が含まれる。さまざまな合成カルボン酸特に脂肪族又は脂環式モノカルボン酸又はその混合物が有用である。なかでも、カルボン酸としては、長鎖有枝カルボン酸が好ましい。
【0014】
有機カルボン酸の炭素原子数は1~32の範囲が好ましく、5~25の範囲がより好ましく、8~22の範囲が更に好ましい。混合物が利用される場合、混合物の酸のうちの1つ又は複数のものとして、C5,C2又はC6未満を利用することができる。好ましくは、存在するC6以上のカルボン酸に比べて、C6又はそれ未満のカルボン酸は、少量で存在している。
【0015】
有用な有機カルボン酸の例としては、イソペンタン酸、ヘキサン酸、2-エチル酪酸、ノナン酸、デカン酸、2-エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、オクタン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸(versatic酸)、ウンデシレン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、及びナフテン酸といったような2つ以上のカルボン酸の市販の混合物が含まれる。好ましいナフテン酸の酸価は、約160~約300mgKOH/gである。カルボン酸の混合物が使用に適している。
【0016】
好ましいカルボン酸の具体例としては、ネオデカン酸、2-エチルヘキサン酸、ナフテン酸(好ましくは、酸価が約160~約300mgKOH/gのもの)、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、2,2-ジメチルプロピオン酸、3,5-ジメチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2,5-ジメチルヘキサン酸、3-エチルヘキサン酸、2,2,4-トリメチルヘキサン二酸、3,3,4-トリメチルヘキサン二酸、オクタン酸、ネオデカン酸、2,6-ジメチルオクタン酸、4,6-ジメチルオクタン酸、2,4,6-トリメチルオクタン酸、及び2,4,6-トリメチルノナン酸等が挙げられる。
なかでも、カルボン酸としては、ナフテン酸(好ましくは約160~約300mgKOH/gの酸価を持つもの)、ネオデカン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸がより好ましく、ネオデカン酸が更に好ましい。
【0017】
本明細書において、「ネオデカン酸」とは、一般に主に約10個の炭素原子の有枝カルボン酸の混合物のことを意味している。これらの酸混合物は一般に約310~約325mgKOH/gの酸価を有する。市販のネオデカン酸は、Momentiveにより「VERSATIC 10」(一般にバーサチック酸(versatic acid(s))と呼ばれている。)という商標で、及びExxonにより「NEODECANOIC ACID」という商標で供給されている。本明細書で使用されている「ネオデカン酸」という語は、当該技術分野において使用されるような「バーサチック酸」という語を含む。
【0018】
これらのカルボン酸は、周知のものであり、例えばKirk-Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology(化学技術百科辞典)、第4版、John Wiley & Son, New York, 1993,第5巻,p147~192に記載されている。
【0019】
本実施形態において、希土類元素カルボキシレートとしては、ネオジム、ガドリニウム、プラセオジム、ランタン、サマリウム、イットリウムからなる群から選択される1種以上の希土類元素を含有するカルボキシレートが好ましく、ネオジムを含有するカルボキシレートがより好ましく、(RxCOO)Nd(式中、Rxは炭素原子数1~22のアルキル基)が更に好ましく、ネオデカン酸ネオジムが特に好ましい。
【0020】
希土類元素カルボキシレート中、希土類元素の含有量が、重合触媒組成物の全質量に対し、4.5~14質量%の範囲であることが好ましく、6~10質量%の範囲であることがより好ましく、7~10質量%の範囲であることが更に好ましい。
希土類元素の含有量が、上記の好ましい範囲の下限値以上であると、重合触媒組成物の重合活性が良好となりやすい。一方、希土類元素の含有量が、上記の好ましい範囲の上限値以下であると、重合触媒組成物の保存安定性を向上しやすい。
【0021】
希土類元素カルボキシレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態に係る重合触媒組成物は、希土類元素カルボキシレートの含有量が、重合触媒組成物の全質量に対し、20~65質量%の範囲であることが好ましく、25~50質量%の範囲であることがより好ましく、30~50質量%の範囲であることが更に好ましい。
希土類元素カルボキシレートの含有量が、上記の好ましい範囲の下限値以上であると、輸送コストを抑えることができる。一方、希土類元素カルボキシレートの含有量が、上記の好ましい範囲の上限値以下であると、重合触媒組成物の保存安定性を向上しやすい。
【0022】
(リン酸エステル(P))
本実施形態において、リン酸エステル(P)は、下記一般式(1)で表される。
【0023】
【化2】
(前記一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素原子数5~20のアルキル基である。)
【0024】
前記一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素原子数5~20のアルキル基である。重合触媒組成物の吸湿性を低減し、保存安定性を向上させる観点から、Rは、それぞれ独立に、炭素原子数6~20のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数7~20のアルキル基であることがより好ましい。
【0025】
Rにおける炭素原子数5~20のアルキル基としては、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、上記アルキル基の各異性体等が挙げられる。
なかでも、Rとしては、重合触媒組成物の吸湿性を低減し、保存安定性を向上させる観点から、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基又はこれらの異性体が好ましく、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基又はこれらの異性体がより好ましく、2-エチルヘキシル基が更に好ましい。
【0026】
リン酸エステル(P)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態に係る重合触媒組成物は、リン酸エステル(P)の含有量が、前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.01~20当量であることが好ましく、0.05~10当量であることがより好ましく、0.1~5当量であることが更に好ましい。
リン酸エステル(P)の含有量が、上記の好ましい範囲の下限値以上であると、重合触媒組成物の保存安定性を向上しやすい。リン酸エステル(P)の含有量が、上記の好ましい範囲の上限値以下であることにより、重合触媒組成物の重合活性が良好になりやすい。
【0027】
(水)
本実施形態に係る重合触媒組成物は、水を含んでもよい。水は、不可避的に混入する微量成分を含んでいてもよい。本実施形態の重合触媒組成物に用いられる水は、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などの浄化処理を施された水が好ましい。
【0028】
本実施形態に係る重合触媒組成物は、水の含有量が、前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.5当量以下であることが好ましく、0.4当量以下であることがより好ましく、0.3当量以下であることが更に好ましい。
水の含有が上記の好ましい範囲内であると、重合触媒組成物の各成分を溶媒中に均一に溶解し易くなる。
なお、水の含有量は、カールフィッシャー法によって定量することができる。
【0029】
(遊離脂肪酸)
本実施形態に係る重合触媒組成物は、遊離脂肪酸の含有量が、前記前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.1当量以下であることが好ましく、0.05当量以下であることがより好ましく、0.03当量以下であることが更に好ましい。なお、遊離脂肪酸の含有量は、前記前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0当量であってもよいが、実用上は0.01当量以上である。
遊離脂肪酸の含有量が、上記の好ましい範囲内であると、重合触媒組成物の触媒活性が失活されにくくなる。そのため、該重合触媒組成物を用いた重合反応の際にスカベンジャーを用いなくてもよくなり、製造コストを低減することが可能となる。
なお、遊離脂肪酸の含有量は、酸塩基滴定によって定量することができる。
【0030】
(リン酸エステル(P’))
本実施形態の重合触媒組成物は、下記一般式(2)で表されるリン酸エステル(以下、「リン酸エステル(P’)」という場合がある。)を含んでもよい。
【0031】
【化3】
(前記一般式(2)中、R’は、それぞれ独立に、炭素原子数1~4のアルキル基である。)
【0032】
前記一般式(2)中、R’における炭素原子数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、上記アルキル基の各異性体等が挙げられる。
【0033】
リン酸エステル(P’)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 本実施形態に係る重合触媒組成物は、リン酸エステル(P’)の含有量が、前記希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.01~20当量であることが好ましく、0.05~10当量であることがより好ましく、0.1~5当量であることが更に好ましい。
【0034】
(有機溶剤)
本実施形態に係る重合触媒組成物は、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶媒、環状脂肪族炭化水素系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。具体的には、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルペンタン、メチルシクロペンタンなど、及びその異性体ならびに混合物等が挙げられる。なかでも、有機溶剤としては、ヘキサン、n-ヘプタン、n-ペンタン、3-メチルペンタン、2-メチルペンタン、メチルシクロペンタン、2,3-ジメチルブタン、トルエン及びそれらの混合物が好ましく、3-メチルペンタン、メチルシクロペンタン、2,3-ジメチルブタン、トルエン、シクロヘキサン及びその異性体ならびにそれらの混合物がより好ましく、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びその異性体ならびに混合物が更に好ましい。
有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本実施形態に係る重合触媒組成物は、希土類元素カルボキシレートと、一般式(1)で表されるリン酸エステル(リン酸エステル(P))を含有する。
リン酸エステル(P)は、R基が適度な炭素数を有するため、有機溶媒に溶解しやすい。また、リン酸エステル(P)は、希土類元素カルボキシレートに配位結合していると推測される。
また、リン酸エステル(P)は、O=P(OH)(OR)、O=P(OH)(OR)等のリン酸エステルと比べて、吸湿性が低い。そのため、本実施形態に係る重合触媒組成物は、長期保存した場合であっても、吸湿によって水分含量が上昇するおそれが低い。 また、リン酸エステル(P)は、O=P(OH)(OR)、O=P(OH)(OR)等のリン酸エステルとは異なり、酸性を示さない。そのため、リン酸エステル(P)は、重合触媒組成物を用いて重合反応を行う際に、希土類元素カルボキシレートを活性化させるために添加する有機アルミニウム等の活性化剤とは反応し難く、重合触媒組成物の重合活性を低下させるおそれが少ない。
これらの効果が相まって、本実施形態に係る重合触媒組成物は、保存安定性が高く、かつ、触媒活性が良好である。
【0036】
<重合触媒組成物の製造方法>
本実施形態に係る重合触媒組成物の製造方法は、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、前記一般式(1)で表されるリン酸エステルを0.01~20当量の範囲に調整する工程(a)と、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、水を0.5当量以下の範囲に調整する工程(b)と、遊離脂肪酸と水との合計が、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.6当量以下の範囲となるように調整する工程(c)と、を含む。
【0037】
本実施形態において、リン酸エステル、水及び遊離脂肪酸の含有量が上位範囲内となれば、工程(a)、工程(b)及び工程(c)を行う順序は特に限定されず、各工程を所望の順序で行ってもよいし、いずれかの工程を同時に行ってもよい。
【0038】
本実施形態の製造方法の一例として、希土類元素酸化物と水とを混合する工程(i)と、工程(i)の結果物に有機溶剤と、カルボン酸と、リン酸エステルとを混合する工程(ii)と、工程(ii)の結果物を加熱する工程(iii)とを含む方法が挙げられる。
【0039】
工程(i)における反応温度は特に限定されず、典型的には0~50℃であり、好ましくは10~40℃であり、より好ましくは15~30℃である。
また、工程(i)における反応時間は特に限定されず、典型的には15分~5時間であり、好ましくは30分~3時間である。
【0040】
工程(i)において、希土類元素酸化物の配合量は、希土類元素カルボキシレート中の希土類元素の含有量が、重合触媒組成物の全質量に対し、好ましくは4.5~14質量%の範囲、より好ましく6~10質量%の範囲、更に好ましくは7~10質量%の範囲となるように適宜決定すればよい。
【0041】
工程(ii)における反応温度は特に限定されず、典型的には20~100℃であり、好ましくは30~90℃であり、より好ましくは40~80℃である。
また、工程(ii)における反応時間は特に限定されず、典型的には15分~5時間であり、好ましくは30分~3時間である。
【0042】
工程(ii)において、カルボン酸の配合量は、希土類元素カルボキシレート中の希土類元素の含有量が、重合触媒組成物の全質量に対し、好ましくは4.5~14質量%の範囲、より好ましく6~10質量%の範囲、更に好ましくは7~10質量%の範囲となり、かつ、遊離脂肪酸と水との合計が、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、0.6当量以下、好ましくは0.5当量以下、より好ましくは0.4当量以下の範囲となるように適宜決定すればよい。
また、工程(ii)において、リン酸エステルの配合量は、希土類元素カルボキシレートに含まれる希土類元素に対し、例えば0.01~20当量の範囲、好ましくは0.05~10当量の範囲、より好ましくは0.1~5当量の範囲となるように適宜決定すればよい。
また、工程(ii)において、有機溶媒の配合量は、希土類元素カルボキシレートの含有量が、重合触媒組成物の全質量に対し、好ましくは1~80質量%の範囲、より好ましくは3~70質量%の範囲、更に好ましくは5~60質量%の範囲となるように適宜決定すればよい。
【0043】
工程(iii)における反応温度は特に限定されず、典型的には70~160℃であり、好ましくは80~150℃であり、より好ましくは90~140℃である。
また、工程(iii)における反応時間は特に限定されず、典型的には1時間~6時間であり、好ましくは1.5時間~4.5時間である。
また、工程(iii)における反応圧力は減圧条件が好ましく、90mmHg以下がより好ましく、80mmHg以下が更に好ましい。
【0044】
本実施形態に係る製造方法は上記工程(i)~(iii)を含む方法に限定されない。例えば、カルボン酸と、リン酸エステルと、水とを混合する工程(i’)と、工程(i’)の結果物に希土類元素酸化物と有機溶剤を混合する工程(ii’)と、工程(ii’)の結果物を加熱する工程(iii’)とを含む方法を採用してもよい。
工程(i’)、工程(ii’)及び工程(iii’)の反応条件は、上記工程(i)、工程(ii)及び工程(iii)と同様の反応条件を採用することができる。
【0045】
本実施形態に係る製造方法によれば、従来のジエン系モノマー重合用触媒と比べて、遊離脂肪酸の含有量が大幅に低減された重合触媒組成物が得られる、該触媒組成物は、触媒活性が失活されにくい。そのため、該重合触媒組成物を用いた重合反応の際にスカベンジャーを用いなくてもよくなり、製造コストを低減することが可能となる。
また、本実施形態に係る製造方法により得られた重合触媒組成物は、希土類元素カルボキシレートと、一般式(1)で表されるリン酸エステル(リン酸エステル(P))を含有するため、保存安定性が高く、かつ、触媒活性が良好である。
【0046】
<共役ジエン重合体の製造方法>
本実施形態に係る共役ジエン重合体の製造方法は、前記態様に係る重合触媒組成物の存在下、共役ジエン単量体を重合することを含む。
本実施形態において、重合条件は特に限定されず、公知のジエン系モノマーの重合条件を採用することができる(例えば、EP0375421A1等参照)。
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられ、これら単量体は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本実施形態に係る製造方法によれば、共役ジエン単量体がブタジエン単量体である場合、1,4-シス体の含有率が96%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上のブタジエン重合体が得られる。そのため、該ブタジエン重合体は、転がり抵抗の低下、クラッキング抑制等が要求される自動車用タイヤに好適に適用できる。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1:重合触媒組成物(1)の調製]
ディーンスターク装置を取り付けた1Lフラスコに酸化ネオジム(45g)と蒸留水(150g)を採り、室温で1時間撹拌した。撹拌を継続した状態でシクロヘキサン(20g)、ネオデカン酸(140g)、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)(60g)を投入した後、75℃で1時間撹拌した。反応溶液を120℃に昇温した後、減圧条件(<50mmHg)で3時間撹拌した。なお反応中に気化した水及びシクロヘキサンは全て系外に除いた。反応溶液を60℃に冷ました後、シクロヘキサン(200g)を投入する事により、紫色透明液体である重合触媒組成物(1)を得た。
【0050】
[実施例2:重合触媒組成物(2)の調製]
ディーンスターク装置を取り付けた1Lフラスコにネオデカン酸(140g)、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)(60g)、蒸留水(60g)を採り、撹拌しながら酸化ネオジム(45g)、シクロヘキサン(20g)を投入した。反応溶液を120℃に昇温した後、減圧条件(<50mmHg)で3時間撹拌した。なお反応中に気化した水及びシクロヘキサンは全て系外に除いた。反応溶液を60℃に冷ました後、リン酸トリエチル(150g)、シクロヘキサン(200g)を投入する事により、紫色透明液体である重合触媒組成物(2)を得た。
【0051】
[比較例1:重合触媒組成物(3)の調製]
ディーンスターク装置を取り付けた1Lフラスコに酸化ネオジム(45g)と蒸留水(150g)を採り、室温で1時間撹拌した。撹拌を継続した状態でシクロヘキサン(20g)、ネオデカン酸(140g)を投入した後、75℃で1時間撹拌した。反応溶液を120℃に昇温した後、減圧条件(<50mmHg)で撹拌したところ、反応溶液が固化した。この固体はシクロヘキサンに溶解せず、触媒として用いることはできなかった。
【0052】
(重合触媒組成物の評価)
実施例1及び2で得られた重合触媒組成物(1)及び(2)について、ネオジム含有量(質量%)、遊離酸量(質量%)、水分含量(質量%)及び保存安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
(遊離酸量)
遊離酸量は、酸塩基滴定によって定量した。
【0054】
(水分含量)
水分含量は、カールフィッシャー法によって定量した。
【0055】
(保存安定性)
スクリュー管に採取したサンプルを室温で保管した。3カ月経過後も沈殿等の外観異常が発生しない場合、保存安定性は問題なしと評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
[実施例3:ポリブタジエンの製造]
(触媒溶液(1)の調製)
アルゴン置換したシュレンク管に水素化ジイソブチルアルミニウム(7.5mL)、イソプレン(1.2mL)、および重合触媒組成物(1)(5.3mL)を投入後、反応溶液を50℃で90分間撹拌した。反応溶液を氷浴で冷却した後、0.25Mのエチルアルミニウムセスキクロライドのヘキサン溶液(8.0mL)を加え、室温で1晩静置する事により、触媒溶液(1)を得た。
【0058】
(1,3-ブタジエンの重合)
窒素置換した耐圧容器にヘキサン(37mL)、触媒溶液(1)(0.07mL)、1,3-ブタジエン(5g)を順番に投入した後、反応溶液を65℃で90分撹拌した。反応溶液をビス[3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル]メタン(0.1g)を含む400mLの変性エタノール/塩酸溶液に投入後、析出したポリマーを回収し、70℃で減圧乾固する事でポリブタジエンを得た。
【0059】
(ポリブタジエン収率)
ポリブタジエンの収率を、下記計算式により算出した。
(収率/%)=(乾燥後のポリブタジエンの重量/g)/(重合に使用したブタジエンの重量/g)×100
その結果、ポリブタジエンの収率は86%であった。
【0060】
(1,4-シス体含有率)
重クロロホルムに溶解させたポリブタジエンについて、下記条件で13C-NMRを測定した。1,4-トランス体に帰属するシグナルが検出されない場合、ポリブタジエン中の1,4-シス体含有率を99%以上と評価した。
その結果、ポリブタジエン中の1,4-シス体含有率は99%以上であった。
13C-NMRの測定条件>
装置 :JEOL AL-400
測定モード:逆ゲート付きデカップリング
溶媒 :重クロロホルム
試料濃度 :2wt%
積算回数 :1000回
測定温度 :50℃
【0061】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。