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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】路上走行試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20230619BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20230619BHJP
   G08G 1/0969 20060101ALI20230619BHJP
   G01M 15/10 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
G08G1/00 D
G08G1/0969
G01M15/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019088753
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2019203888
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2018097261
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(72)【発明者】
【氏名】関根 大輔
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-001171(JP,A)
【文献】特開2010-038645(JP,A)
【文献】特表2015-522748(JP,A)
【文献】国際公開第2009/136616(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03206007(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
G08G 1/00 - 1/16
G01C 21/00 - 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも車速に関する条件を含む所定の試験条件に沿った走行態様で車両を路上走行させる走行試験に用いられる路上走行試験装置であって、
ドライバによるアクセルワーク、ブレーキワーク又はシフトワークによって路上を走行試験している車両の実走行データであり、少なくとも車速に関する情報を含む実走行データを逐次取得する走行データ取得部と、
前記試験条件と前記実走行データとを比較し、前記試験条件を満たすためのアクセルワーク、ブレーキワーク又はシフトワークのいずれか1つを少なくとも含んだ運転操作スタイルを算出する算出部と、
該運転操作スタイルをドライバに提示する提示部とを具備することを特徴とする路上走行試験装置。
【請求項2】
前記算出部が、前記試験条件を満たすための走行ルートをさらに算出するものであり、
前記提示部が該走行ルートをドライバにさらに提示するものである請求項1記載の路上走行試験装置。
【請求項3】
前記算出部が、前記試験条件のうち、Trip Composition、MAW、SPFの少なくとも1つを満たすための運転操作スタイル又は走行ルートを算出するものである請求項2記載の路上走行試験装置。
【請求項4】
前記算出部が、過去の複数の走行試験における実走行データと、前記試験条件に照らした該実走行データの評価値とがインプットされてそれらの相関を機械学習する機能を有するものである請求項1乃至3いずれか記載の路上走行試験装置。
【請求項5】
前記算出部が、前記相関に基づいて前記運転操作スタイルを算出するものである請求項4記載の路上走行試験装置。
【請求項6】
前記算出部は、前記走行ルートを算出する度に、当該算出した走行ルートを走行する際の推奨される運転操作スタイルを算出するものである請求項記載の路上走行試験装置。
【請求項7】
前記算出部は、周囲の道路状況に応じて運転操作スタイルを決定し、当該運転操作スタイルに応じて走行ルートを算出するものである請求項1乃至6いずれか記載の路上走行試験装置。
【請求項8】
前記算出部が、運転操作スタイルの算出理由をさらに出力するものであり、
前記提示部が、運転操作スタイルに付帯させて前記理由をドライバに提示するものであることを特徴とする請求項1乃至7いずれか記載の路上走行試験装置。
【請求項9】
車両の排ガスを分析する車両搭載型排ガス分析装置をさらに具備し、
前記走行データ取得部は、該排ガス分析装置から出力される排ガス分析データを実走行データの1つとして取得するものであることを特徴とする請求項1乃至8記載の路上走行試験装置。
【請求項10】
少なくとも車速に関する条件を含む所定の試験条件に沿った走行態様で車両を路上走行させる走行試験に用いられるプログラムであって、
ドライバによるアクセルワーク、ブレーキワーク又はシフトワークによって路上を走行試験している車両の実走行データであり、少なくとも車速に関する情報を含む実走行データを逐次取得する走行データ取得部と、
前記試験条件と前記実走行データとを比較し、前記試験条件を満たすためのアクセルワーク、ブレーキワーク又はシフトワークのいずれか1つを少なくとも含んだ運転操作スタイルを算出する算出部と、
該運転操作スタイルをドライバに提示する提示部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする路上走行試験用プログラムが記録されたプログラム記録媒体。
【請求項11】
少なくとも車速に関する条件を含む所定の試験条件に沿った走行態様で車両を路上走行させる路上走行試験方法であって、
ドライバによるアクセルワーク、ブレーキワーク又はシフトワークによって路上を走行試験している車両の実走行データであり、少なくとも車速に関する情報を含む実走行データを逐次取得し、
前記試験条件と前記実走行データとを比較し、前記試験条件を満たすためのアクセルワーク、ブレーキワーク又はシフトワークのいずれか1つを少なくとも含んだ直接的な運転操作スタイルを算出し、
該運転操作スタイルをドライバに提示することを特徴とする路上走行試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を公道等の路上で走行試験する際に用いられる、車両の路上走行試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2017年より欧州で始まった路上排ガス認証試験(Real Driving Emissions : RDE)では、PEMS(車載型排ガス測定器)とも称される路上走行試験装置を車両に搭載して市街地などでの実路走行試験を行い、エミッションを計測する。その際にどのような走行をしてもよいわけではなく、所定の試験条件に沿った走行態様で運転しなければならない旨が規定されている。
【0003】
この試験条件としては、現在のところ、例えば、走行時間やTrip Composition(市街地・郊外・高速道路の走行割合)が定められており、その他に、エミッションに係る試験条件として、MAW(Moving Averaging Window)法やPower Binning法(あるいはSPF(Standardized Power Frequency Distribution法))での測定結果が所定の範囲内に入っていることが定められている。そして、これらを満たした走行試験をして初めてその試験が成立とされる。
なお、現在、日本、米国、中国などでも上述した実路走行試験を規制に取り入れる向きの検討がなされているところ、その試験条件は、各国でそれぞれ異なることになると考えられている。
【0004】
しかして、従来の路上走行試験装置においては、前記試験条件を満たす運転ができるように、特許文献1等に記載されているように、走行試験中に、その時点までにおけるMAW法による評価値やPower binning法による演算結果、あるいはTrip Compositionなどといった、試験の進捗度合い等に関する中間データをプロットグラフや数値でドライバにリアルタイムで表示するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-1171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような中間データは、あくまで、走行試験中のその時点までの車両操作の結果得られた各種の測定データに過ぎないから、ドライバは、この中間データをみて、これから行うべき運転操作(アクセルワーク、ブレーキワーク、シフトワーク)の他、走行ルートの選択・変更などを刻一刻判断しながら運転しなければならない。
したがって、ドライバに走行試験のためのスキルが求められるのは当然のことながら、実際の走行試験にあたっては、走行試験に慣れた補助者が車両に同乗し、中間データを見ながらドライバに運転指示しているのが実情である。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その主たる所期課題は、路上排ガス認証試験において、試験条件を満たす走行を、特別なスキルを習得することなく簡単に、しかもドライバ単独でも行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る車両の路上走行試験装置は、ドライバによって路上を走行試験している車両の実走行データを逐次取得する走行データ取得部と、予め定められた当該走行試験の試験条件と前記実走行データとを比較し、前記試験条件を満たすための推奨されるアクセル操作態様(以下、アクセルワークともいう。)ワーク、ブレーキ操作態様(以下、ブレーキワークともいう。)又はシフト操作態様(以下、シフトワークともいう。)の少なくとも1つを含んだ運転操作スタイルを算出する算出部と、この運転操作スタイルをドライバに提示する提示部とを具備することを特徴とする。
ここでの運転操作スタイルには、前述したドライバによるペダル操作の態様のみならず、該操作によってダイレクトにドライバが直接的に知覚でき、あるいは直接的に操作目標にできる速度、加速度、エンジン回転数などの車両の挙動態様を含んでも構わない。
【0009】
試験条件を満たす走行試験を誰でもがより簡単にかつ確実にできるようにするには、前記算出部が、前記試験条件を満たすための推奨される走行ルートをさらに算出するものであり、前記提示部が該走行ルートをドライバにさらに提示するものであることが望ましい。
【0010】
実用に即した具体的な実施態様としては、前記算出部が、前記試験条件のうち、Trip Composition、MAW、SPFの少なくとも1つを満たすための推奨される運転操作スタイル又は走行ルートを算出するものであることが好ましい。
【0011】
Trip Composition、MAW、SPFは、各国の法規や時期に応じて異なる可能性があるが、日本で検討された例を用いて説明する。Trip Compositionでは、Urban(市街地)、Rural(郊外)、Motorway(高速道路)の3つの車速区分(低速、中速、高速)で路上走行を実施する必要がある。車速区分それぞれの最低の走行距離、およびそれぞれの車速区分毎に決められた走行距離又は走行時間の比率を満たす必要がある。
【0012】
MAW(Moving Averaging Window)法は、単位距離あたりの排ガスの排出率を連続的に測定して評価する方法である。例えば、COの単位距離当たりの排出量とその単位距離での例えば平均車速とを、それぞれ縦軸、横軸にとったグラフ上に次々プロットするなどして、CO排出量と平均車速との二次元量を傾向データとして表示して、有効性を判断する。例えば、路上走行時に市街地(Urban)、郊外(Rural)及び高速道路(Motorway)の各車速区分で得られた排ガスのCO排出量の積算値が、WLTCを走行した場合に排出されるCO量の1/2になった時点を1Windowとして、Window中に含まれるデータについて1秒毎に移動平均値を算出する。そしてWLTC基準によるCO特性曲線上に、各Windowにおいて算出されたCOの平均値と平均車速の対からなるWindow dataをプロットする。そして、CO特性曲線からの乖離(25%、50%)に応じて測定値に重み付けを行い、市街地、郊外及び高速道路のそれぞれで各ガスの排出量を算出し、これらを積算する。このMAW法では、路上試験が有効と判定される条件として、市街地、郊外及び高速道路の各車速区分のそれぞれにおいて、全Window data数の15%以上が含まれている必要がある。また各車速区分に含まれるWindow dataのうち50%以上がWLTCデータより算出されるCO特性曲線の上下25%を示すTolerance 1内に含まれている必要がある。
【0013】
またSPF(Standardized Power Frequency Distribution)法では、排ガスの成分濃度等の測定値の時系列データについて連続する複数点の移動平均が実際の測定値として扱われる。路上走行試験が測定基準を満たしているかどうかは、車両が出力していると考えられるパワーの大きさの分布に基づいて決定される。例えば、路上走行時の試験データを3秒毎に取得し、排出ガス、タイヤ駆動力、車速の移動平均を算出する。算出した各平均データについて、車両諸元から設定される9段階のパワークラスに分類し、パワークラス毎に排出ガス及び車速の平均値を算出する。そしてパワークラス毎に算出した各平均値に重み(当該重みは、Normalized standard power frequency(標準出力頻度表)で規定されている。)をかけ、全てのパワークラスの値を積算する。そして、積算した排出ガス及び速度から、距離当たりの排出量を算出する。このSPF法では、路上試験が有効と判定される条件として、各パワークラスに5つ以上のデータ点数が得られていることが求められる。
【0014】
前記算出部にはAIを利用してもよい。その場合は、過去の複数の走行試験における実走行データと、前記試験条件に照らした該実走行データの評価値とがインプットされてそれらの相関を機械学習する機能があることが望ましく、その相関に基づいて、前記運転操作スタイルを算出するようにしておけばよい。
【0015】
走行ルートが変更された場合には、運転操作スタイルも変えなければならない場合があるので、そのためには、前記算出部が、走行ルートを変更する度に、当該走行ルートを走行する際の運転操作スタイルを算出するものであることが好適である。
【0016】
より望ましくは、前記算出部が、周囲の道路状況に応じて運転操作スタイルを決定し、当該運転操作スタイルに応じて走行ルートを算出するものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように構成した本発明によれば、路上排ガス認証試験において、その試験条件を満たすための推奨される運転操作スタイルが自動的に算出され、ドライバに提示されるので、ドライバは特別なスキルを習得することなく簡単に、しかも単独でも路上排ガス認証試験を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態における路上走行試験装置の全体構成を示す概略図。
図2】同実施形態における情報処理装置の機能を示す機能ブロック図。
図3】同実施形態におけるディスプレイに表示される画面を示す画面図。
図4】同実施形態におけるディスプレイに表示される画面の一部を示す画面図。
図5】同実施形態におけるディスプレイに表示される画面の一部を示す画面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係る路上走行試験装置100は、路上排ガス認証試験(請求項における走行試験に該当し、以下、RDEともいう。)に用いられるものであり、図1に示すように、内燃機関を有する車両Vに搭載される車両搭載型排ガス分析装置10及びこれに通信可能に接続された情報処理装置20とを具備してなる。
【0021】
前記車両搭載型排ガス分析装置10は、図1に示すように、車両Vのテールパイプから排ガスの一部を取り入れるホース11と、該ホース11を介して取り込んだ排ガスを分析する分析装置本体12とを具備したものであり、この分析装置本体12が、排ガス流量、排ガスに含まれるCO、CO、HO、NO、THC、PN、PM等の量(または濃度)等を測定し、さらにそれらから燃費などを算出する。
【0022】
前記情報処理装置20は、CPUやメモリ、通信ポート等が内蔵された装置本体21、キーボードなどの入力手段(図示しない)及びディスプレイ22を具備する汎用のコンピュータ装置であり、前記排ガス分析装置10と同様、車両室内に搭載される。
【0023】
そして、この情報処理装置20が、前記メモリに記憶された所定のプログラムに従って動作することにより、図2に示すように、RDE中の車両の実走行データを逐次取得する走行データ取得部23と、RDEにおいて定められた所定の試験条件を満たすための推奨される運転操作スタイル及び望ましい走行ルートを算出する算出部24と、この運転操作スタイル及び走行ルートをドライバに提示する提示部25としての機能を発揮する。
【0024】
次に前記各部について説明する。
【0025】
走行データ取得部23は、実走行データを、当該車両VのECUやTCUなどから、あるいは前記排ガス分析装置から、あるいはGPS、温度計などの車両に取り付けられたセンサから、それぞれ通信ポートを介して所定のサンプリングタイムで逐次取得するとともに、それらをメモリの所定領域に設定した走行データ格納部(図示しない)に次々格納し、蓄積するものである。
【0026】
実走行データの種類と取得先の一例を下記表に示す。
【0027】
【表1】
なお、この走行データ取得部23は、直接得られない実走行データを、その他の実走行データの値から算出することもある。例えば、エンジントルクが得られない場合、メモリに記憶させたトルク-回転数マップを参照してエンジン回転数とスロットル開度とからエンジントルクを算出するといった場合である。
【0028】
その他の実走行データとしては、例えば、シフト位置、車両加速度、触媒温度、燃費などがある。
【0029】
前記算出部24は、メモリの所定領域に予め格納された前記試験条件と前記実走行データとを比較し、さらに、現在走行している道路の周辺状況(制限速度や渋滞、前方走行車両の速度など)を加味して、前述したように、前記試験条件を満たすための推奨される運転操作スタイルを算出するものである。
【0030】
ここでいう運転操作スタイルとは、オートマチック車の場合、アクセルワーク及びブレーキワークのことであり、ここでは数値で表される。また、アクセルワーク及びブレーキワークによってダイレクトに制御できる走行速度、加速度合及びエンジン回転数等も運転操作スタイルに含まれる。なお、マニュアルでシフトチェンジできる車両については、シフトワークも運転操作スタイルに含んでよい。また、推奨される運転操作スタイルは、1点ではなく、許容範囲を含んでよい。例えば、「アクセル80%」という運転操作スタイルが算出された場合、アクセルペダルの踏み込み度としてはその前後の例えば70%~90%を許容範囲としてよい。
【0031】
この運転操作スタイルの算出には、ここでは機械学習(AI)を用いている。AIは、過去の複数の走行試験における実走行データ(表1に示すパラメータの全部でも一部でもよい。)とその試験結果とが教師データとしてインプットされて学習したそれらの相関を、相関データ(すなわち学習済みデータ)としてメモリに記憶している。そして、前記相関データが示す相関に照らして、現在までに測定された実走行データから、試験条件を満たす実走行データを得るための推奨される現時点での運転操作スタイルを算出する。前記試験結果とは、試験条件の合否、Trip Compositionの結果データ、MAW法による評価値及びSPFによる評価値のいずれか1つ以上を含むものである。
【0032】
ここで、機械学習による相関データの算出においては、前記した実走行データや後記する周辺状況の全部又は一部を相関算出のパラメータとはせず、試験結果に影響を強く及ぼす(つまり関連の高い)実走行データや周辺状況を抽出するようにしてもよい。また、相関データは、算出部24が自ら算出するものであってもよく、あるいは相関算出だけを行う他の学習装置により予め算出されたものであってもよい。後者の場合、他の学習装置が予め算出した相関を示す相関データを、ネットワーク等を介して受け付け、これをメモリに記憶してよい。そして所定の期間毎に他の学習装置から新しい相関データを受け付けて、メモリに格納されている相関データを定期的に更新するようにしてよい。
【0033】
なお、AIによらず、現在までに測定された実走行データにおいて、試験条件満足のために不足となる情報を算出し、それに基づいて運転操作スタイルを算出するようにしてもよい。例えば、Trip Compositionにおいて、郊外走行での速度の割合が試験条件の規定よりも低い場合において、例えば現在の走行速度が規定された郊外走行速度よりも低い場合には、現状よりも高い値のアクセルペダルの踏み込み度や速度を運転操作スタイルとして算出する。また、市街地走行時において、MAWの値が高めに集まっている場合には、アクセルペダルの踏み込み度や変動を現状よりも小さな値に設定する。その算出には、例えば、過去の実走行データから実験等によって求めればよい。
【0034】
前述した運転操作スタイルは、この実施形態においては、RDE中、所定時間間隔で次々算出され、都度運転操作スタイルが自動更新されるようにしてある。これに加えて、何らかのイベント発生時(例えばドライバや同乗オペレータから運転操作スタイルを算出する指示入力を受け付けたり、走行ルートが変更されたりした時点)で、運転操作スタイルを算出してもよいし、そのようなイベント発生時のみに運転操作スタイルを算出してもよい。
【0035】
また、当該算出部24は、周辺状況のひとつである道路交通情報を取得してこれを参照することにより、前述したように、同試験条件を満たすための望ましい走行ルートをも算出する。例えば、渋滞が発生している場所は、想定した速度等での走行が難しい場合があるため、これを回避して走行ルートを設定したり、試験条件を満たすためには、運転操作スタイルを変更しなければならず、そのためには当初設定した走行ルートでは、速度制限などでその達成が難しいと判断した場合に、走行ルートを途中で変更したりする。なお走行ルート算出は、道路交通情報をも前記AIにインプットして学習させ、AIに行わせてもよい。
【0036】
かかる道路交通情報は、渋滞状況、工事状況、車線規制状況などを含むものであり、WIFIや携帯電話回線によってインターネット上のWEBサイトから取得する。またその他に、当該車両VにICT端末機能を具備させ、他のICT端末車両から走行状況等に係る情報を得て、道路交通情報を取得するようにしてもよい。いわゆるコネクテッド・カーシステムを利用するわけである。
【0037】
前記提示部25は、算出部24が算出した運転操作スタイル及び走行ルートを、車内に設置されたディスプレイに表示出力したり、音声出力したりするものである。
【0038】
ディスプレイでの表示例を図3に、その画面の部分詳細を図4図5に示す。ディスプレイ22には、MAW法による演算結果のプロットグラフ、Power binning法による演算結果の数値表示、Trip Compositionのグラフ及び数値表示に加え、同一画面上に同時に、運転操作スタイル(ここでは例えば吹き出しで表示される)及び走行ルートマップが表示される。
【0039】
運転操作スタイルの表現としては、算出部24が算出した運転操作スタイルをそのまま表示あるいは音声出力してもよいし、ドライバにわかりやすい表現に変えてもよい。前者の場合、例えば、算出部24が、推奨運転操作スタイルとして速度80kmを算出した場合はそのまま表示すればよいし、他方、算出部24が、推奨運転操作スタイルとして、アクセルの踏み込み度を80%と算出した場合において、これをそのまま提示してもドライバにはわかりにくい。そこで、現在のアクセル踏み込み度が30%であれば、その差が50%あるので「強くアクセルを踏み込みましょう」などといった表現にしてもよい。すなわち、現在の運転操作スタイルと、推奨運転操作スタイルとの差分に応じて、また操作対象(アクセルペダル)に応じて、予めテーブルなどで定められた表現を組み合わせて、算出部24が算出した推奨運転操作スタイルを表現変換するようにしてもよい。
【0040】
また、図4に示すように、推奨される運転操作スタイルには、その推奨理由が付帯されてドライバに提示されるようにしてある。
【0041】
次に該提示部25による運転操作スタイル及び走行ルートの提示タイミングについて説明する。
【0042】
走行ルートについては、走行試験開始時に、算出部24によって算出された初期走行ルートが、まずマップ上に提示される。その後、走行試験が開始される。その途中、何らかの原因でドライバがその走行ルートを変更した場合や、渋滞などの要因により初期走行ルートでは試験条件をクリアできないと算出部24が判断した場合には、そのタイミングで算出部24が新たな走行ルートを算出し、提示部25がマップ上に新走行ルートを提示する。
【0043】
他方、運転操作スタイルについては、例えば10秒毎とか、1分毎とかのように、一定間隔で推奨される運転操作スタイルが提示される。ただし、これでは提示が煩雑になる恐れがあるので、他の提示タイミングも考えられる。
【0044】
例えば、今現在の運転操作スタイルを継続したのでは、試験条件を満たすことができない恐れがある場合(算出部24が算出した運転操作スタイルの許容範囲内に実際の運転操作スタイルが入っていない場合)においてのみ、推奨される運転操作スタイルが提示されるようにしてもよい。
【0045】
また、前述したように、走行ルートが変更されたタイミングで、その走行ルートに応じた運転操作スタイルを算出し提示するようにしてもよい。
【0046】
以上のように構成した本実施形態によれば、路上排ガス認証試験において、その試験条件を満たすための推奨される運転操作スタイルや走行ルートが自動的に算出され、ドライバに提示されるので、ドライバは特別なスキルを習得することなく簡単に、しかも単独でも路上排ガス認証試験を行えるようになる。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
100・・・路上走行試験装置
V ・・・車両
10 ・・・車両搭載型排ガス分析装置
20 ・・・情報処理装置
25 ・・・提示部
23 ・・・走行データ取得部
24 ・・・算出部
図1
図2
図3
図4
図5