(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】試料冷却システム
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20230619BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
H01J37/20 E
H01J37/26
(21)【出願番号】P 2019208419
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 琢司
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-029967(JP,A)
【文献】特開平09-120789(JP,A)
【文献】特開2000-133189(JP,A)
【文献】特開2018-206596(JP,A)
【文献】米国特許第05735129(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0242795(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01J 37/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡で観察する試料を観察可能な状態で冷却する試料冷却システムであって、
コールドヘッドを有する機械式冷凍機と、前記電子顕微鏡の鏡筒内で試料を保持する試料保持部と、前記コールドヘッドの冷熱によって冷却される冷媒ガスと、該冷媒ガスを前記試料保持部に保持された試料を冷却可能に循環させる循環ラインと、前記機械式冷凍機を保持する冷凍機保持部と、該冷凍機保持部に取り付けられて前記コールドヘッド及び前記循環ラインを覆うハウジングとを有し、
前記循環ラインは、前記冷媒ガスの一部を前記試料保持部側に流さないでバイパスすることで前記試料保持部側に流れる冷媒ガスの流速を低下させるバイパスラインを有することを特徴とする試料冷却システム。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記試料保持部側と前記冷凍機保持部側との間に前記機械式冷凍機の発する振動を吸収するフレキシブル構造部を有することを特徴とする請求項1記載の試料冷却システム。
【請求項3】
前記循環ラインにおける前記試料保持部側と前記冷凍機保持部側とを分離可能に接続する継手部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の試料冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡で観察する試料を冷却する試料冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察においては、観察対象である試料を極低温状態(例えば-100℃)に冷却した状態で行う場合がある。このような電子顕微鏡で観察する試料を冷却するシステムが特許文献1に開示されている。
特許文献1の「試料冷却システム」では、冷媒として液体窒素(LN2)や液体ヘリウム(LHe)等の液体冷媒が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液冷媒である液体窒素や液体ヘリウムは、その取り扱いにある程度習熟した技術を必要とし、誰でも容易に扱うことができないという問題がある。
また、液体冷媒を用いた場合には、冷却保持時間が4時間程度であり、長時間の観察には不向きであるという問題もある。
【0005】
そこで、機械式冷凍機(GM冷凍機、パルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機等)を用いてガス冷媒を用いて試料を冷却することが考えられる。電気制御が可能な機械式冷凍機を用いることで、簡易な操作で連続(長時間)冷却が可能となる。
しかしながら、機械式冷凍機を用いる場合、機械式冷凍機の発する振動は、TEMの試料観察に悪影響がある。そのため、機械式冷凍機をTEMから離れた場所に設置し、ガス冷媒(例えばN2,He等)を循環させて試料ホルダー内部へ冷熱を移送する方法(「リモートクーリングシステム」と呼ぶ)とする必要がある。
【0006】
リモートクーリングシステムとした場合には、ガス冷媒をある程度多くの流量で、かつある程度速い流速で循環させる必要があるが、ガス冷媒の流れに伴って配管に振動が発生し、この振動がTEMの試料観察に悪影響を与えるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、機械式冷凍機を用いてガス冷媒を循環させて試料を冷却するのに際して、ガス冷媒の流れに伴って生ずる振動を抑制できる試料冷却システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る試料冷却システムは、電子顕微鏡で観察する試料を観察可能な状態で冷却するものであって、コールドヘッドを有する機械式冷凍機と、前記電子顕微鏡の鏡筒内で試料を保持する試料保持部と、前記コールドヘッドの冷熱によって冷却される冷媒ガスと、該冷媒ガスを前記試料保持部に保持された試料を冷却可能に循環させる循環ラインと、前記機械式冷凍機を保持する冷凍機保持部と、該冷凍機保持部に取り付けられて前記コールドヘッド及び前記循環ラインを覆うハウジングとを有し、前記循環ラインは、前記冷媒ガスの一部を前記試料保持部側に流さないでバイパスすることで前記試料保持部側に流れる冷媒ガスの流速を低下させるバイパスラインを有することを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記ハウジングは、前記試料保持部側と前記冷凍機保持部側との間に前記機械式冷凍機の発する振動を吸収するフレキシブル構造部を有することを特徴とするものである。
【0010】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記循環ラインにおける前記試料保持部側と前記冷凍機保持部側とを分離可能に接続する継手部を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明における試料冷却システムは、コールドヘッドを有する機械式冷凍機と、前記コールドヘッドの冷熱によって冷却される冷媒ガスと、該冷媒ガスを循環させる循環ラインを備えることにより、液体冷媒を使用せずに冷媒ガスにより電子顕微鏡で観察する試料を冷却することができ、長時間の観察が可能である。また、本発明における試料冷却システムは、循環ラインにバイパスラインを設けたことにより、前記試料保持部側に流れる冷媒ガスの流速を低下させて振動を抑制しているので、冷媒ガスを用いても試料の観察に悪影響を及ぼすことがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る試料冷却システムを説明する図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る試料冷却システムのバイパスラインの構成の他の態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態における試料冷却システム1は、
図1に示すように、コールドヘッド3aを有する機械式冷凍機3と、電子顕微鏡(TEM)の鏡筒5内で試料を保持する試料保持部7と、コールドヘッド3aの冷熱によって冷却される冷媒ガスと、該冷媒ガスを循環させる循環ライン9と、機械式冷凍機3を保持する冷凍機保持部11と、冷凍機保持部11に取り付けられてコールドヘッド3a及び循環ライン9を覆うハウジング13とを有するものである。
本実施の形態における試料冷却システム1の各構成について、以下具体的に説明する。
【0014】
<機械式冷凍機>
機械式冷凍機3は、極低温状態となるコールドヘッド3aを有し、コールドヘッド3aの冷熱を用いて被冷却物の温度を氷点下に冷却するものである。
機械式冷凍機3にはGM冷凍機、パルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機等を適用することが可能である。前述したように、電気制御が可能な機械式冷凍機3を用いることで、簡易な操作で長時間の冷却が可能となる。機械式冷凍機3は、冷凍機保持部11によって保持されており、コールドヘッド3aを含む部分がハウジング13で覆われている。
【0015】
<試料保持部>
試料保持部7は、TEMの鏡筒5内で試料を冷却しながら観察可能に保持するものであり、一般的に「TEMホルダー」とも呼ばれるものである。試料保持部7は、
図1に示すように、二点鎖線で示す鏡筒5の内壁から筒中に延出するように、取り付けられる。
試料保持部7はその先端に試料を保持する試料台7aを有している。循環ライン9によって冷媒ガスを試料保持部7に導入することで冷媒ガスの冷熱を試料台7aに伝導し、さらに冷熱が試料台7aから試料に伝導することで試料を冷却する。
【0016】
<循環ライン>
循環ライン9は、機械式冷凍機3によって冷却されたガス(冷媒ガス)が流れる配管によって構成され、
図1に示すように、冷媒ガスを機械式冷凍機3側と試料保持部7側に連続的に循環させるものである。
循環ライン9は、コールドヘッド3aの冷熱によって冷媒ガスを冷却する第1熱交換器15と、循環する冷媒ガスの一部を試料保持部7側に流さないでバイパスするバイパスライン17と、試料保持部7及びバイパスライン17から戻ってきた冷媒ガスの冷熱によって第1熱交換器15の上流側の冷媒ガスを冷却する第2熱交換器19と、冷媒ガスを循環通流させるコンプレッサ21を有している。循環ライン9の主要な構成について、以下詳細に説明する。
【0017】
≪第1熱交換器≫
第1熱交換器15は、機械式冷凍機3のコールドヘッド3aと循環ライン9を通流する冷媒ガスの熱交換を行い、冷媒ガスを冷却するものである。第1熱交換器15で所定の温度まで冷却された冷媒ガスは、循環ライン9によって試料保持部7の内部を通流し、その冷熱によって試料を冷却する。
【0018】
≪バイパスライン≫
バイパスライン17は、循環ライン9を循環する冷媒ガスの一部を試料保持部7側に流さないでバイパスするものである。このようにすることで試料保持部7側に流れる冷媒ガスの流速を低下させることができる。
試料保持部7側に流れる冷媒ガスの流速を低下させる理由は以下のとおりである。
【0019】
冷媒ガスのような流体が配管内を通流すると、その通流に起因する振動現象が生じる場合がある。この振動の大きさは、流体の流れが層流と乱流のどちらであるのかによって異なる。
層流とは、管軸に平行に流れる規則正しい流れのことであり、乱流は、流路全体を乱れて流れる不規則な流れのことである。配管の振動は、層流のとき小さく、乱流のとき大きく生ずる。
したがって、バイパスライン17を設けて試料保持部7側に流れる冷媒ガスの流速を低下させて層流にすることで、冷媒ガスの通流による振動を抑制することができる。
【0020】
上述したように、循環ライン9内を通流する冷媒ガスの流速を遅くすることで、冷媒ガスの通流による振動を抑えることができるが、試料冷却システム1の全系統において、冷媒ガスを低速循環させると、第1熱交換器15での初期冷却が進まなかったり、冷熱損失が大きくなったりするなど、リモートクーリングシステムそのものが成立困難となる。
【0021】
そこで本実施の形態では、循環ライン9にバイパスライン17を設けることで、第1熱交換機15で冷却された冷媒ガスの大半はバイパスライン17を流れるようにし、一部の冷媒ガスのみを試料保持部7の内部へ流して試料を冷却するようにした。このように試料保持部7側に流れる冷媒ガスの流量を少なくすることで、試料保持部7側のみ冷媒ガスの流速を低下させている。
なお、試料保持部7側に流れる冷媒ガスは、試料保持部7の先端にある質量の小さな試料台7aのみ冷却すればよいので、層流の冷凍能力でも問題なく試料を冷却可能である。
【0022】
この際、試料保持部7側に流れる冷媒ガスが層流になるようにバイパスライン17に流す冷媒ガスの流量を調整する必要があるが、例えばその調整方法の一例として、循環ライン9またはバイパスライン17に流量調整弁を設けるようにすればよい。
または、バイパスライン17の配管径と試料保持部7側の配管径に差を設けて試料保持部7側に流れる冷媒ガスの流量を調整してもよい。
【0023】
≪第2熱交換器≫
第2熱交換器19は、試料保持部7及びバイパスライン17から戻ってきた冷媒ガスと第1熱交換器15上流側の冷媒ガスを熱交換する向流式熱交換器である。
これにより、試料保持部7及びバイパスライン17から戻ってきた冷媒ガスの冷熱で第1熱交換器15上流の冷媒ガスを冷却することができるので、冷熱のロスを抑えることができる。
【0024】
<ハウジング>
ハウジング13は、冷凍機保持部11と試料保持部7の間に取り付けられて、コールドヘッド3a及び機械式冷凍機3側の循環ライン9を覆い、気密に保持するものである。ハウジング13は、
図1に示すように、試料保持部7との接続部の手前にフレキシブル構造部13aを有している。
【0025】
フレキシブル構造部13aは、可撓性を有しており、機械式冷凍機3の発する振動を吸収することができる。これにより、機械式冷凍機3の駆動に伴う振動が、冷凍機保持部11とハウジング13を介して伝播しても、試料保持部7の手前にあるフレキシブル構造部13aで縁切りされるので試料に伝わることがない。
【0026】
以上のように、本実施の形態にかかる試料冷却システム1によれば、機械式冷凍機3及び冷媒ガスを用いて試料を冷却するので、容易に長時間の連続した試料の冷却が可能である。
また、循環ライン9にバイパスライン17を設けたことで、試料保持部7側の循環ライン9における冷媒ガスの流速を抑えているので、冷媒ガスの通流に伴う振動を抑えて試料を観察可能な状態で冷却が可能である。
さらに、ハウジング13にフレキシブル構造部13aを設けたことで、機械式冷凍機3の駆動に伴う振動も試料に伝わらない。
【0027】
前述した試料冷却システム1では、循環ライン9に冷媒ガスをバイパスする配管を設けてバイパスライン17を形成する例を説明したが、本発明はその限りではない。以下に、バイパスライン17を形成する他の態様について説明する。
これは、
図1に示したバイパスライン17に対応する部分に継手部23を設けるものであり、継手部23を設けることで、継手部23の内部でバイパスライン25を形成しつつ、かつ、循環ライン9の機械式冷凍機3側と試料保持部7側を分離可能に構成できるものである。
循環ライン9を分離可能にすることで、機械式冷凍機3と試料保持部7の着脱も容易となり、試料保持部7の試料台7aに試料をセットするのに便利である。
このような継手部23の断面図を
図2に示し、以下、詳細に説明する。
【0028】
継手部23は、真空断熱配管の継手に用いられるバイヨネット構造を備えるものである。本態様における継手部23は
図2に示すように、雄側バイヨネット23aと雌側バイヨネット23bからなり、バイヨネット構造の中でも、流体の往路と復路をそれぞれ有する四重管バイヨネット構造となっている。なお、雄側バイヨネット23aの外形を図中太線にて示す。
【0029】
バイヨネット構造は、雌側バイヨネット23bに雄側バイヨネット23aの一部が挿入されている。雌側バイヨネット23bには、つば23cが設けられ、つば23cに袋ナット30が係合されている。また、つば23cと袋ナット30との間に、雄側バイヨネット23aに設けられたコイルばね27が配置されている。つば23cと袋ナット30との距離を縮めることにより、コイルばね27の付勢力によって、雄側バイヨネット23aに設けられたコイルばね受け28及びつば23cを介して雄側バイヨネット23aと雌側バイヨネット23bとが互いに押し合う状態となり、雄側バイヨネット23aと雌側バイヨネット23bとの間に設けたパッキン29が押圧される。
なお、上記形態では、つば23cが雌側バイヨネット23bに設けられ、コイルばね27及びコイルばね受け28が雄側バイヨネット23aに設けられているが、つば23cが雄側バイヨネット23aに設けられ、コイルばね27及びコイルばね受け28が雌側バイヨネット23bに設けられ、上記形態と同様に、コイルばね27の付勢力によって、つば23c及びコイルばね受け28を介して雄側バイヨネット23aと雌側バイヨネット23bとが互いに押し合う状態とし、雄側バイヨネット23aと雌側バイヨネット23bとの間に設けたパッキン29を押圧する形態としてもよい。
【0030】
一般的なバイヨネット構造は、雄側バイヨネット23aを雌側バイヨネット23bに押し付けることにより、図中に示したパッキン29が冷媒ガスの往路(試料保持部7の上流側)と復路(試料保持部7の下流側)を遮断するものであるが、本実施の形態では、パッキン29部分を冷媒ガスの一部が通流するようにしている。
このようにすることで、一部の冷媒ガスを試料保持部7側に流さないようにバイパスするバイパスライン25を形成することができる。
【0031】
もっとも、このような態様であっても、試料保持部7側へ流れる冷媒ガスを層流になるように流量及び流速を調整する必要がある。上述したコイルばね27の付勢力を調整してパッキン29部分の流量を増やすようにしてもよいし、それと併用して、試料保持部7側の配管径を小さくするようにしてもよい。または、雄側バイヨネット23aと雌側バイヨネット23bのパッキン29に接する面を平坦面ではなくテーパー形状にしてパッキン29部分の開度を調整するようにしてもよい。
【0032】
また、上記の実施の形態では、機械式冷凍機3の駆動に伴う振動が試料に伝わらないようにするために、ハウジング13にフレキシブル構造部13aを設けた例を示しているが、例えば、機械式冷凍機3の配置を試料台7aからより離れた位置にする等により、前記振動を回避できるのであれば、ハウジング13にフレキシブル構造13aを設けることは必須ではない。
【符号の説明】
【0033】
1 試料冷却システム
3 機械式冷凍機
3a コールドヘッド
5 鏡筒
7 試料保持部
7a 試料台
9 循環ライン
11 冷凍機保持部
13 ハウジング
13a フレキシブル構造部
15 第1熱交換器
17 バイパスライン
19 第2熱交換器
21 コンプレッサ
23 継手部
23a 雄側バイヨネット
23b 雌側バイヨネット
23c つば
25 バイパスライン(他の態様)
27 コイルばね
28 コイルばね受け
29 パッキン
30 袋ナット