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特許7298264樹脂着色用マスターバッチ、芳香族ポリエステル樹脂組成物、成形品およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】樹脂着色用マスターバッチ、芳香族ポリエステル樹脂組成物、成形品およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20230620BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230620BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C08J3/22 CFD
C08L67/00
C08K3/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019078542
(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公開番号】P2020176192
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】竹歳 真司
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特公昭58-041293(JP,B2)
【文献】特開2001-240767(JP,A)
【文献】特開平04-300922(JP,A)
【文献】特開昭53-035835(JP,A)
【文献】特開2001-131408(JP,A)
【文献】特開2020-132793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
D01F 1/00-6/96;9/00-9/04
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C09C 1/00-3/12
C09D 15/00-17/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合して溶融混練する工程を含む、樹脂着色用マスターバッチの製造方法であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が10~100質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.1~20質量部の範囲であり、
該樹脂着色用マスターバッチのメルトフローレートが290℃、5kg荷重で1g/10min以上であることを特徴とする樹脂着色用マスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記カーボンブラック(B)がpH5以下である請求項1記載の樹脂着色用マスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記青色ないし緑色系色材(C)の平均粒径が10~800〔nm〕の範囲である、請求項1又は2記載の樹脂着色用マスターバッチの製造方法。
【請求項4】
前記溶融混錬する工程は、装置内に50μm以下の目開きを有するフィルターを装填する溶融混錬機で行う、請求項1~3のいずれか一項記載の樹脂着色用マスターバッチの製造方法。
【請求項5】
芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、顔料表面が酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合してなる、樹脂着色用マスターバッチであって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が10~100質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.1~20質量部の範囲であり、
該マスターバッチのメルトフローレートが290℃、5kg荷重で1g/10min以上であることを特徴とする樹脂着色用マスターバッチ。
【請求項6】
前記カーボンブラック(B)の顔料表面がpH5以下である請求項記載の樹脂着色用マスターバッチ。
【請求項7】
前記青色ないし緑色系色材(C)の平均粒径が10~800〔nm〕の範囲である、請求項又は記載の樹脂着色用マスターバッチ。
【請求項8】
前記マスターバッチ中に前記カーボンブラック(B)及び前記色材(C)からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒状物の粒径の上限値が20μmである、請求項5~7のいずれか一項記載の樹脂着色用マスターバッチ。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項記載の製造方法で樹脂着色用マスターバッチを製造する工程、さらに、熱可塑性樹脂(D)を溶融混練する工程を含む、芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(D)の合計100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が0.1~10質量部の範囲であり、青色ないし緑色系色材(C)が0.001~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項のいずれか一項記載の樹脂着色用マスターバッチに、さらに、熱可塑性樹脂(D)を溶融混練する工程を有する、芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(D)の合計100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が0.1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.001~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合して溶融混練する工程を含む、芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.01~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記溶融混錬する工程は、装置内に50μm以下の目開きを有するフィルターを装填する溶融混錬機で行う、請求項11記載の芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項のいずれか一項記載の樹脂着色用マスターバッチと、さらに、熱可塑性樹脂(D)を配合してなる芳香族ポリエステル樹脂組成物であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(D)の合計100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が0.1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.001~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項14】
芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合してなる芳香族ポリエステル樹脂組成物であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.01~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項15】
前記芳香族ポリエステル樹脂組成物中に前記カーボンブラック(B)及び前記色材(C)からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒状物の粒径の上限値が20μmである、請求項14記載の芳香族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項16】
請求項11のいずれか一項記載の製造方法で芳香族ポリエステル樹脂組成物を製造する工程、さらに、得られた芳香族ポリエステル樹脂組成物を溶融成形する工程を有する、成形品の製造方法。
【請求項17】
請求項13又は14に記載の芳香族ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリエステル樹脂を含有する組成物(以下、単に「芳香族ポリエステル樹脂組成物」という)に関し、とくに芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするマスターバッチ、樹脂組成物、成形品及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエステル樹脂は、優れた機械的性質、特に靱性を有し、また化学的性質に優れているため、繊維、フィルムだけでなく自動車や電気・電子製品等の部品の各分野においてますます需要が高まっている。
【0003】
芳香族ポリエステル樹脂に対する着色は、装飾効果、色分け効果、成形品の耐光性向上、内容物の保護や隠蔽等の目的で行われ、産業界において最も重要なのが黒色着色である。芳香族ポリエステル樹脂の黒色着色には、従来より、カーボンブラックによる着色が主に試みられてきた。しかしながら、カーボンブラックによって着色された芳香族ポリエステル樹脂においても、カーボンブラックはすぐれた物性を有するにもかかわらず特有の赤味黒色の色相が製品に廉価なイメージを与えるので、この赤味黒色色相の改良が望まれていた。
【0004】
例えば、芳香族ポリエステル樹脂にカーボンブラック及び銅フタロシアニン顔料で着色された成形用組成物からなる成形品(特許文献1、2参照)が知られている。しかしながら、これらの芳香族ポリエステル樹脂組成物及びその成形品は、青色系色材特有のブロンズが強く、赤味色相は減ぜられるよりも倍加されてしまい、改善の余地が残されていた。さらに、樹脂着色用マスターバッチを経由する場合、芳香族ポリエステル樹脂に高濃度のカーボンブラック及び銅フタロシアニン顔料を配合して樹脂着色用マスターバッチを製造してから、希釈樹脂で希釈して着色樹脂組成物を製造するが、該樹脂着色用マスターバッチの溶融粘度が上昇してしまい、希釈時に、希釈樹脂との溶融粘度の差が大きくなる結果、カーボンブラック及び銅フタロシアニン顔料の着色成分の分散性が劣り、本来の黒色色相が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭51-137795号公報
【文献】特開昭52-77162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、カーボンブラックを含み、赤味色相が改善された黒色色相を有する芳香族ポリエステル樹脂組成物、その成形品およびその製造方法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする課題は、当該芳香族ポリエステル樹脂組成物を製造可能な樹脂着色用マスターバッチ、および、当該マスターバッチを用いる該芳香族ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラックを青色系色材と伴に着色成分として用いることで、赤味色相が改善された黒色色相を有する芳香族ポリエステル樹脂組成物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、(1)本発明は、芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合して溶融混練する工程を含む、樹脂着色用マスターバッチの製造方法であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が10~100質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.1~20質量部の範囲であり、
該樹脂着色用マスターバッチのメルトフローレートが290℃、5kg荷重で1g/10min以上であることを特徴とする樹脂着色用マスターバッチの製造方法に関する。
【0009】
さらに(2)本発明は、芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、顔料表面が酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合してなる、樹脂着色用マスターバッチであって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が10~100質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.1~20質量部の範囲であり、
該マスターバッチのメルトフローレートが290℃、5kg荷重で1g/10min以上であることを特徴とする樹脂着色用マスターバッチに関する。
【0010】
さらに(3)本発明は、前記(1)記載の製造方法で樹脂着色用マスターバッチを製造する工程、さらに、熱可塑性樹脂(D)を溶融混練する工程を含む、芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(D)の合計100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が0.1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.001~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法に関する。
【0011】
さらに(4)本発明は前記(2)記載の樹脂着色用マスターバッチに、さらに、熱可塑性樹脂(D)を溶融混練する工程を有する、芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(D)の合計100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が0.1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.001~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法に関する。
【0012】
さらに(5)本発明は芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合して溶融混練する工程を含む、芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.01~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
さらに(6)本発明は前記(2)記載の樹脂着色用マスターバッチと、さらに、熱可塑性樹脂(D)を配合してなる芳香族ポリエステル樹脂組成物であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(D)の合計100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が0.1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.001~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0014】
さらに(7)本発明は芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合してなる芳香族ポリエステル樹脂組成物であって、
芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が1~10質量部の範囲であり、前記色材(C)が0.01~2質量部の範囲であることを特徴とする芳香族ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0015】
さらに(8)本発明は前記(3)~(5)のいずれかの製造方法で芳香族ポリエステル樹脂組成物を製造する工程、さらに、得られた芳香族ポリエステル樹脂組成物を溶融成形する工程を有する、成形品の製造方法に関する。
【0016】
さらに(9)本発明は前記(6)又は(7)記載の芳香族ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形品に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、カーボンブラックを含み、赤味色相が改善された黒色色相を有する芳香族ポリエステル樹脂組成物、その成形品およびその製造方法を提供することができる。また、本発明により、当該芳香族ポリエステル樹脂組成物を製造可能な樹脂着色用マスターバッチ、および、当該マスターバッチを用いる該芳香族ポリエステル樹脂組成物、成形品及びそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で用いる芳香族ポリエステル樹脂としては、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、例えば、ジカルボン酸及び/またはその誘導体(以下、単に「ジカルボン酸成分」と言う)とジオール(以下、単に「ジオール成分」と言う)を重縮合したもの、あるいは、ヒドロキシカルボン酸成分を用いるもの、あるいは、さらにこれらの共重合体が挙げられ、このうちの成分の少なくとも一つに芳香族構造を有する。
【0019】
該芳香族ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。また、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これに対して、ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの脂肪族ジオールが挙げられる。また、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA及び2,2-ビス(2’-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールなどが挙げられる。
【0020】
また、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(ヒドロキシエトキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、7-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシ-ビフェニル-4-カルボン酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸や、さらにグリコール酸、乳酸、1.4-ヒドロキシブタン酸、1.6-ヒドロキシヘキサン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸を上記芳香族ジカルボン酸ないしジフェノールなどが挙げられる。
【0021】
本発明で用いる芳香族ポリエステル樹脂は、例えば、前記したジカルボン酸成分、ジオール成分またはヒドロキシカルボン酸成分のうち、少なくとも一成分に芳香族構造を有する成分が用いられる。このように本発明は芳香族ポリエステル樹脂を用いることで、赤味色相が改善された黒色色相を奏することができる。その理由は定かではないが、カーボンブラック(B)の表面活性が強くても劣化を抑制することができ、当該芳香族ポリエステル樹脂を含むマスターバッチ、樹脂組成物および成形品のマトリックスの色相が維持されるためと考えられる。
【0022】
好ましい芳香族ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート-テレフタレート共重合体、p-ヒドロキシ安息香酸-6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸共重合体などが挙げられる。
【0023】
本発明における芳香族ポリエステルは前記ジカルボン酸及びジオールを各々一種もしくは数種反応させて得られるホモポリマーもしくはコポリマーであってよい。これらの内で、機械物性・耐熱性に優れたポリエステルとする場合には結晶性のポリエステルを使用することが好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂を使用することがより好ましい。
【0024】
本発明で用いるカーボンブラック(B)は、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示す。酸性はpH5以下の範囲であるものが好ましく、さらに4以下の範囲のものであることがより好ましい。
【0025】
前記カーボンブラック(B)の形状は、粒子状であることが好ましい。平均粒径は、深みのある黒色色相が得られる観点から、平均粒径30nm以下の範囲であり、さらに、28nm以下が好ましく、25nm以下がより好ましい。平均粒径の範囲の下限値は特に設定されないが、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、18nm以上であることがさらに好ましい。
【0026】
前記カーボンブラック(B)は、表面を物理的、または化学的に処理されたものであってもよい。なお、前記カーボンブラック(B)の表面積は特に限定されないが、好ましくはBET比表面積〔m/g〕が30以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは80以上から、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、さらに好ましくは350以下までの範囲である。
【0027】
なお、カーボンブラック(B)以外のカーボンブラック、例えば、pHのみが5以上であること以外は同様のカーボンブラックを併用することも可能であるが、そのようなカーボンブラックを用いる場合、その配合量は、好まししくはカーボンブラック(B)の配合量100質量部に対して100質量部以下、より好ましくは100質量部未満、さらに好ましくは50質量部以下、特に好ましくは25質量部以下、特により好ましくは10質量部以下、最も好ましくは0質量部である。
【0028】
本発明には青色から緑色を呈する色材(本発明において「青色ないし緑色系色材」と言う)(C)を用いることができる。このような青色ないし緑色系色材(C)としては、公知のものを使用することができるが、このうち多環式芳香族化合物であるものが好ましい。多環式芳香族化合物としては、例えば、フタロシアニン類、ポルフィリン類、ピレン類、アントラセン類が挙げられ、このうちフタロシアニン類が好ましい。
【0029】
さらに、フタロシアニン類としては、フタロシアニン骨格を有する顔料が挙げられ、このうち、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンが好ましいものとして挙げられる。フタロシアニン類としては、例えば、Colour Index Generic NameにおけるPigment Blue 15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:6、同17:1に代表される銅フタロシアニン;Pigment Green 7、同36に代表されるハロゲン化フタロシアニン;C.I. Pigment Blue 16に代表される無金属フタロシアニン;中心金属元素がアルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウム、亜鉛等から選ばれる少なくとも1種の金属フタロシアニン化合物等が挙げられる。これらは1種単独でもよいが2以上を混合して用いることもできる。
【0030】
前記フタロシアニン類(特に好ましくはPigment Blue 15:3)は1種単独でもよいがジオキサジン系紫色顔料(紫色顔料)と、(紫色顔料/青色ないし緑色顔料)の質量比率が0/100~30/100の割合で混合して用いることもできる。
【0031】
前記青色ないし緑色系色材(C)の形状は、粒子状であることが好ましい。平均粒径は、特に限定されないが、赤味色相が改善された黒色色相が得られる観点から、好ましくは平均粒径10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは、40nm以上から、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下までの範囲である。
【0032】
本発明には、前記カーボンブラック(B)及び前記青色ないし緑色系色材(C)を除く、公知の添加剤を任意の原料成分として用いることもできる。そのような公知の添加剤としては、ハロゲン系難燃剤、窒素系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、金属水酸化物や酸化物などの無機系難燃剤、シリコーン系難燃剤、有機リン酸金属塩などの難燃剤や、ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物、ホスファイト系化合物及びこれらの置換体等の酸化防止剤や、レゾルシノール系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物等の耐候剤や、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素化合物、ポリエチレンワックス等の離型剤または滑剤や、タルク、シリカ、カオリン、クレー等の結晶核剤や、p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等などの可塑剤や、アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等の非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等の帯電防止剤や、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、針状、板状の各種充填剤や、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、窒化硼素、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウム等の強化材などが挙げられる。これらの添加剤を任意成分として用いる場合、その配合割合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではないが、前記芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、50質量部以下の範囲で用いることが好ましく、さらに25質量部以下の範囲で用いることがより好ましい。これら添加剤の種類と量を調整することにより、目的とする機能を自由に調整することができる。
【0033】
本発明の樹脂着色用マスターバッチの製造方法は、芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合して溶融混練する工程(「工程(1)」ということがある)を含む。
【0034】
先ず、芳香族ポリエステル樹脂(A)、平均粒径30nm以下の範囲で、かつ、酸性を示すカーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)と、必要に応じて任意の原料成分である前記その他の着色剤及び前記その他の添加剤(以下、単に「任意の原料成分」と称する)とを、バルク状、ペレット状、チップ状などの様々な形態で、必要に応じて予備混合した後に、溶融混練機に投入して、該芳香族ポリエステル樹脂(A)の融点以上に加熱して、溶融混練する。溶融混練物の形態は本発明の効果を損ねなければ特に限定されず、溶融状態のまま後述する工程(2)へ供することもできるが、一旦、ストランド状に押出した後に切断してペレット状、チップ状などの顆粒状とすることが好ましい。
【0035】
前記工程(1)において、芳香族ポリエステル樹脂(A)、前記カーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)の配合割合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、芳香族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下までの範囲であり、青色ないし緑色系色材(C)が好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下までの範囲である。
【0036】
また、前記カーボンブラック(B)と青色ないし緑色系色材(C)との配合割合は、前記カーボンブラック(B)100質量部に対して、青色ないし緑色系色材(C)が、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下までの範囲である。
【0037】
前記工程(1)において、予備混合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、リボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンターなどを用いるドライブレンドを挙げることができる。また、溶融混練機としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの加熱機構が備えられた溶融混練機を挙げることができる。なお、工程(1)の溶融混練機は、装置内に好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下の範囲の目開きを有するフィルターを装填していてもよい。
【0038】
このようにして得られた本発明の樹脂着色用マスターバッチのメルトフローレートの範囲は、290℃、5kg荷重で、下限値が1〔g/10min〕以上、好ましくは5〔g/10min〕以上であり、一方、上限値は特に制限されないが、好ましくは用いる芳香族ポリエステル樹脂(A)を同条件下で測定した値以下であり、より好ましくは50〔g/10min〕以下である。
【0039】
本発明の樹脂着色用マスターバッチ中に含まれる前記カーボンブラック(B)の平均粒径は特に限定されないが、赤味色相が改善された黒色色相を呈することができることから、好ましくは500〔nm〕以下の範囲であり、さらに好ましくは100〔nm〕以下の範囲である。その下限値は特に限定されないが、好ましくは10〔nm〕以上の範囲であり、さらに好ましくは15〔nm〕以上の範囲である。
【0040】
また、本発明の樹脂着色用マスターバッチ中に含まれる青色ないし緑色系色材(C)の平均粒径は特に限定されないが、赤味色相が改善された黒色色相を呈することができることから、好ましくは400〔nm〕以下の範囲であり、さらに好ましくは300〔nm〕以下の範囲である。その下限値は特に限定されないが、好ましくは5〔nm〕以上の範囲であり、さらに好ましくは15〔nm〕以上の範囲である。
【0041】
また、本発明の樹脂着色用マスターバッチ中に含まれる前記カーボンブラック(B)及び前記色材(C)からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒状物の粒径の上限値、すなわち、当該粒状物の最大粒径は特に限定されないが、赤味色相が改善された黒色色相を呈することから、好ましくは20〔μm〕以下の範囲であり、より好ましくは10〔μm〕以下の範囲である。
【0042】
本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法は、上記工程(1)を含む工程で得られた樹脂着色用マスターバッチを、熱可塑性樹脂(D)と、さらに必要に応じて、任意の原料成分とを配合して溶融混練する工程(「工程(2)」ということがある)を含む。
【0043】
先ず、樹脂着色用マスターバッチと、熱可塑性樹脂(D)と、必要に応じて任意の原料成分とを、粉末、ベレット、細片など様々な形態で、必要に応じて予備混合した後に、溶融混練機に投入して、芳香族ポリエステル樹脂(A)及び該熱可塑性樹脂(D)の融点以上に加熱して、溶融混練する。
【0044】
工程(2)において、樹脂着色用マスターバッチ(M)に対する熱可塑性樹脂(D)の配合割合(D/M)は特に限定されないが、芳香族ポリエステル樹脂(A)、前記カーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)及び熱可塑性樹脂(D)の配合条件が、芳香族ポリエステル樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(D)の合計100質量部に対して、前記カーボンブラック(B)が、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲となる条件か、前記青色ないし緑色系色材(C)が、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上から、好ましく2質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下までの範囲となる条件のいずれか一方、好ましくは両方の条件を満たすように前記熱可塑性樹脂(D)を配合すればよい。
【0045】
工程(2)において、予備混合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、工程(1)で用いたものと同じものを用いることができる。工程(2)は、顆粒状に加工した樹脂着色用マスターバッチと、顆粒状の熱可塑性樹脂(D)と、必要に応じて任意の原料成分とを固相状態で予備混合することが、着色成分である、前記カーボンブラック(B)及び青色ないし緑色系色材(C)の分散性が向上するため特に好ましい。
【0046】
また、工程(2)において、溶融混練機は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、工程(1)で用いたものと同じものを用いることができる。なお、工程(2)に用いられる溶融混練機には、装置内に好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下の範囲の目開きを有するフィルターを装填していてもよい。
【0047】
なお、本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物は、上記のように、芳香族ポリエステル樹脂(A)、前記カーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)とを配合してなる樹脂着色用マスターバッチを、熱可塑性樹脂(D)と配合し溶融混練して製造することが、着色成分である前記(B)及び(C)を安定的に均一分散でき、さらに高濃度添加することもできるため、成形品に優れた黒色色相、すなわち、赤味色相が改善された黒色色相を有する効果を付与することができるため好ましい。しかしながら、前記した芳香族ポリエステル樹脂(A)、前記カーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)及び熱可塑性樹脂(D)の配合条件を満たし、前記効果を損ねなければ、それ以外の方法でもあってもよい。例えば、前記カーボンブラック(B)及び青色ないし緑色系色材(C)からなる群から選ばれる少なくとも1つの一部又は全部を芳香族ポリエステル樹脂(A)と伴に用い、前記工程(1)に準じて樹脂着色用マスターバッチを製造していてから、前記(B)及び(C)の残りを熱可塑性樹脂(D)と予め溶融混練させておいてから、または、前記(B)及び(C)の残りを熱可塑性樹脂(D)と伴に、工程(2)に準じて樹脂着色用マスターバッチと溶融混練することができる。また、樹脂着色用マスターバッチを用いずに、すなわち、芳香族ポリエステル樹脂(A)、前記カーボンブラック(B)、青色ないし緑色系色材(C)及び熱可塑性樹脂(D)とを原料として溶融混練することもできる。
【0048】
本発明に用いる熱可塑性樹脂(D)としては、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、例えば、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、シリコーン化合物などが挙げられ、このうち、ポリエステル樹脂、特に、芳香族ポリエステル樹脂が好ましく挙げられる。熱可塑性樹脂(D)として芳香族ポリエステル樹脂を用いる場合は、目的に応じて前記芳香族ポリエステル樹脂(A)として樹脂着色用マスターバッチの原料に用いたものとは異なる種類の芳香族ポリエステル樹脂を用いても良いが、相溶性の点から同じ種類の芳香族ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物のメルトフローレートの範囲は特に限定されないが、290℃、5kg荷重で、下限値が1〔g/10min〕以上、好ましくは5〔g/10min〕以上である。一方、上限値は、特に設定されないが、好ましくは芳香族ポリエステル樹脂(A)を同条件下で測定した値と同じかそれ以下である。具体的な数値は用いる芳香族ポリエステル樹脂(A)の種類によるため一律に規定することは困難であるものの、好ましくは500〔g/10min〕以下である。
【0050】
本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物中に含まれる前記カーボンブラック(B)の平均粒径は特に限定されないが、赤味色相が改善された黒色色相を呈することができることから、好ましくは30〔nm〕以下の範囲であり、さらに好ましくは28〔nm〕以下の範囲である。その下限値は特に限定されないが、好ましくは10〔nm〕以上の範囲であり、さらに好ましくは15〔nm〕以上の範囲である。
【0051】
また、本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物中に含まれる青色ないし緑色系色材(C)の平均粒径は特に限定されないが、赤味色相が改善された黒色色相を呈することができることから、好ましくは800〔μm〕以下の範囲であり、さらに好ましくは500〔μm〕以下の範囲である。その下限値は特に限定されないが、好ましくは10〔μm〕以上の範囲であり、さらに好ましくは30〔μm〕以上の範囲である。
【0052】
また、本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物中に含まれる前記カーボンブラック(B)及び前記色材(C)からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒状物の粒径の上限値、すなわち当該粒状物の最大粒径については特に限定されないが、赤味色相が改善された黒色色相を呈することから、好ましくは20〔μm〕であり、より好ましくは10〔μm〕である。
【0053】
このようにして得られた本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物の形態は本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、前記溶融混練の後に、ストランド状に押出した後に切断してペレット状、チップ状などの顆粒状とすることもできるし、また、前記溶融混練の後に、直接または前記顆粒状のものを溶融混合して、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種の溶融成形に供し、成形品とすることもできる。特に、繊維の場合には、前記溶融混練の後に、直接または前記顆粒状のものを溶融紡糸し、適宜、延伸して、繊維を成形すること、および、シートまたはフィルムの場合には、前記溶融混練の後に、直接または前記顆粒状のものを溶融してシート化またはフィルム化し、適宜、延伸して、シートまたはフィルムを成形することが好ましい。
【0054】
本発明の成形品中に含まれる前記カーボンブラック(B)及び前記色材(C)からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒状物の粒径の上限値、すなわち当該粒状物の最大粒径については特に限定されないが、赤味色相が改善された黒色色相を呈することから、好ましくは20〔μm〕であり、より好ましくは10〔μm〕である。
【0055】
なお、本発明において繊維の形状としては特に限定されず、繊維長が長い、いわゆるフィラメント(長繊維)や、繊維長が短い、いわゆるステープル(短繊維)であってよい。前記繊維の繊維径(直径)は、用途に応じて異なり、任意の細さとすることができるが、通常、平均直径が、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、最も好ましくは0.5μm以上から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは8μm以下、特により好ましくは3μm以下、最も好ましくは1μm以下までの範囲である。このうち、8μm以下の範囲の繊維(本発明ではマイクロファイバーという)といった極細の繊維では、従来、光の乱反射により外観が白っぽくなり、濃色が得られにくくなる傾向にあったが、本発明の繊維であれば、赤味色相が改善された黒色色相が得られ、改善効果が大きいことから特に好ましい。
【0056】
なお、本発明においてシートまたはフィルムの厚みは、その用途に応じて異なり、任意の厚さとすることができるが、通常、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.3μm以上、最も好ましくは0.5μm以上から、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下、最も好ましくは70μm以下までの範囲である。
【0057】
なお、本発明においてシート又はフィルムの用語は特にシートとフィルムを厳密に区別する為のものではなく、いずれをも含むことを明確にするために使用するものであり、本発明の特徴を有する限り、シート、フィルムは最大限広く解釈しうるもので、シートの用語は本発明の特徴を有する限り、プレート又は板と言われているものも含むものとする。また、シートとフィルムを区別する必要がある場合には、上記シートまたはフィルムの厚みの範囲のうち、シートとは0.5mm以上のものに使用し、フィルムは500μm未満のものに使用される。
【0058】
本発明の製造方法により得られた樹脂着色用マスターバッチは、着色成分の前記カーボンブラック(B)と、前記青色ないし緑色系色材(C)を微細に、かつ安定的に高濃度で、均一性良く分散させることができる。このため、熱可塑性樹脂で希釈して樹脂組成物やその成形品、好ましくは繊維、特に原着用繊維や、シートないしフィルムなどの成形品を製造する際に、赤味色相が改善された黒色色相を有するだけでなく、色相安定性、表面外観性、表面平滑性に優れ、さらにはフィルムまたはシート破れや糸切れを抑制し、溶融混練機に装填したフィルターの目詰まりを抑制し生産性と製品収率を向上させることもできる。
【実施例
【0059】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)樹脂着色用マスターバッチ(MB)の製造
ポリエチレンテレフタレート(東洋紡株式会社製「RE530」、極限粘度(IV)0.65)67質量部、酸性カーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA-100」、平均粒子径24m、pH3.5)30質量部、フタロシアニンブルー(DIC株式会社製「FASTOGEN BLUE PA5380」、平均粒子径100μm)3質量部をタンブラーミキサーで予備混合後、30mmφの二軸ベント式押出機(設定温度280℃、補足粒子径40μmのメッシュフィルター)内で溶融混練し、その後、ペレット化して樹脂着色用マスターバッチ(1)を製造した。
【0061】
(実施例2)樹脂着色用マスターバッチの製造
酸性カーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA-100」、pH3.5)の代わりに、「カーボンブラック(オリオン株式会社製「Printex U」、平均粒子径25m、pH4)」に変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂着色用マスターバッチ(2)を製造した。
【0062】
(実施例3)樹脂着色用マスターバッチの製造
ポリエチレンテレフタレート(東洋紡株式会社製「RE530」、IV0.65)の代わりにポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチック社製「NOVADURAN5008」、IV0.85)に変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂着色用マスターバッチ(3)を製造した。
【0063】
(実施例4)比較用樹脂着色用マスターバッチの製造(ただし、実施例4は比較例とする)
フィルターを設けなかったこと以外は実施例1と同様にして樹脂着色用マスターバッチ(4)を製造した。
【0064】
(比較例1)比較用樹脂着色用マスターバッチの製造
「酸性カーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA-100」、平均粒径24m、pH3.5)」の代わりに、「カーボンブラック(旭カーボン株式会社製「SUNBLACK320」、平均粒子径20m、pH7.5)」を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂着色用マスターバッチ(c1)を製造した。
【0065】
(比較例2)比較用樹脂着色用マスターバッチの製造
「カーボンブラック(旭カーボン株式会社製「SUNBLACK320」、平均粒子径20m、pH7.5)」を「カーボンブラック(旭カーボン株式会社製「SUNBLACK930」、平均粒子径13m、pH7.5)」に変更したこと以外は比較例1と同様にして樹脂着色用マスターバッチ(c2)を製造した。
【0066】
【表1】

(実施例5~8、比較例1、2)着色樹脂組成物及び成形品(繊維)の製造
得られた各樹脂着色用マスターバッチ(1)~(c2)4質量部を、それぞれポリエチレンテレフタレート(東洋紡株式会社製「RE530」、IV0.65)96質量部を150℃で12時間、真空乾燥し、次いで、紡糸機を用いて紡糸温度300℃、紡糸速度1250m/min、金口径0.24mm-24H(ホール)の条件で溶融紡糸を行い、3倍延伸により3dtexのフィラメント(平均繊維径20μm)を得た。それぞれ、フィラメントサンプル(1)~(c2)を製造した。各測定の評価結果を表2(評価結果2)に記載した。
【0067】
【表2】
【0068】
比較例1、2の樹脂着色用マスターバッチ(c1)を使用した比較例1、2の着色樹脂組成物(c1)(c2)は全体的に白ぼけてしまい黒色度が低下した。青色系色材の特徴がでず、赤味色相は減ぜられるよりも倍加されてしまった。これに対して、実施例2、3、4の樹脂着色用マスターバッチ(2)、(3)、(4)を使用した実施例6、7、8の着色樹脂組成物(2)、(3)、(4)は赤味色相のほぼ除かれた黒色の色相を呈し、また実施例1の樹脂着色用マスターバッチ(1)を使用した実施例5の着色樹脂組成物(1)を使用したものは赤味色相の特に除かれた黒色の色相を呈し、特に優れていた。
【0069】
なお、上記の評価結果は以下の測定例による。
(測定例1) カーボンブラック粒子表面pHの測定
カーボンブラック1~10gをビーカーにて秤量し、カーボンブラック1gにつき10mlの割合でイオン交換精製水を加え、時計皿で覆い、15分間煮沸した。煮沸後、23℃まで冷却し、傾斜法にて上澄み液を除去し、泥状物を残す。この泥状物にガラス電極pH計を入れ、JIS Z8802:2011に準拠してpHを測定した(東亜ディーケーケー社製「IM-32P」、しゅう酸塩pH標準液使用)。
【0070】
(測定例2) カーボンブラック粒子、青色系色素粒子の平均粒子径の測定
検査するカーボンブラック粒子ないし青色系色素粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察(倍率30,000倍)により、カーボンブラック(B)または青色ないし緑色系色材(C)の粒子像を得て、無作為に選んだ少なくとも200個の粒子(一次粒子であっても、さらに二次粒子が含まれていてもよい)それぞれについて粒子径(円相当径)を測定し、平均値を算出した。
【0071】
(測定例3) 溶融混練後の凝集粒子の測定
得られた樹脂着色用マスターバッチ(1)~(c2)を芳香族ポリエステル樹脂(A)により20倍希釈したもの、ないし着色樹脂組成物(1)~(c2)を、プレパラートでフィルム状にプレスした後、光学顕微鏡観察(倍率200倍)により、カーボンブラック(B)および青色ないし緑色系色材(C)の粒子像を得て、無作為に選んだ少なくとも200個の粒子(一次粒子であっても、さらに二次粒子が含まれていてもよい)それぞれについて粒子径(円相当径)を測定した。
【0072】
(測定例4) 溶融流動性の測定
メルトインデクサー(シリンダー温度290℃、オリフィス径2mm)に投入し、5kgの荷重を掛け、5分間の予熱後にメルトフローレートを測定した。
【0073】
(測定例5) 色相の測定
フィラメントを分光測色計(コニカミノルタ株式会社製CM-700d)を用いて、L*、a*、b*を測定した。
【0074】
(測定例6 繊維の糸切れの評価)
紡糸の際の糸切れ頻度を評価した。これを同一の試料について5 回実施し、平均値とした。
:1回未満
◎ :1回以上2回未満
○ :2回以上5回未満
△ :5回以上10回未満
× :10回以上