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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】電気接続端子付き車両用ガラス板
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/02 20060101AFI20230620BHJP
   B60S 1/02 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
H01R4/02 Z
B60S1/02 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019086301
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020181786
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】北出 聡太郎
(72)【発明者】
【氏名】越智 康浩
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴士
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0094860(KR,A)
【文献】特開平10-189350(JP,A)
【文献】米国特許第03981556(US,A)
【文献】特開2012-234736(JP,A)
【文献】特開昭57-197761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/02
B60S 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、
前記ガラス板の表面上に形成された導電膜と、
前記導電膜に設置される板状の設置部と、前記設置部に接続され前記設置部の前記導電膜側とは反対側に起立する起立部と、前記起立部を介して前記設置部と電気的に接続されるコネクタ部とを有する電気接続端子と、
前記導電膜に前記設置部を固定する接続材料と、
を備え、
前記設置部は、
前記ガラス板を平面視して、前記導電膜と対向する第1端面と、前記設置部の前記導電膜側とは反対側の第2端面と、前記設置部の外周面の内、前記第1端面及び前記第2端面を除くと共に前記起立部との接続部分を除く領域である周縁部と、前記周縁部に形成される湾曲した凹部とを備え
前記設置部は、前記第1端面から前記ガラス板に向かって突き出る複数の突起部を有し、
前記周縁部は、前記設置部の前記起立部側に第1辺と、前記設置部の前記第1辺側とは反対側の第2辺と、前記設置部の前記第1辺と前記第2辺とを結ぶ第3辺と、前記設置部の前記第3辺側とは反対側の第4辺と、前記設置部の中心から前記周縁部に向かう方向に突き出る湾曲した凸部とを有し、
前記第3辺及び前記第4辺のそれぞれには、2つの前記凸部と1つの前記凹部とが連続的に形成され、
複数の前記突起部は、前記第3辺の前記凹部の第1頂点から前記第4辺の前記凹部の第2頂点に至る仮想線上に配置され、
前記第1頂点の近傍に設けられる前記突起部から前記第1頂点までの距離は、前記第2頂点の近傍に設けられる前記突起部から前記第2頂点までの距離と等しい、電気接続端子付きガラス板。
【請求項2】
前記設置部は、概略四角形状である、請求項1に記載の電気接続端子付きガラス板。
【請求項3】
前記第1辺及び前記第2辺は、略平行な直線である請求項2に記載の電気接続端子付きガラス板。
【請求項4】
前記第1辺及び前記第2辺は、直線である、請求項3に記載の電気接続端子付きガラス板。
【請求項5】
前記第1辺は直線であり、
前記第2辺は曲線部分を含み、
前記第1辺と前記第2辺は、非平行である請求項に記載に電気接続端子付きガラス板。
【請求項6】
記凹部は、複数の前記凸部の間に設けられる請求項1から5の何れか一項に記載の電気接続端子付きガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接続端子付き車両用ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のガラス板(車両用ガラス板)には、車両用ガラス板に形成された導電性材料へ給電するなど、当該導電性材料への電気的接続をともなう接続端子(電気接続端子)が使用される。導電性材料は、車両用ガラス板の防曇用の電熱線、車両用ガラス板に設けられるアンテナ等に使用される材料である。特許文献1には、ガラス板上に形成された導電層に半田材料を介して接続される円形状又は楕円状の設置部と、設置部からコネクタ起立部までの間に設けられ外力により変形可能な構造(易変形部)とを有する接続端子が開示されている。このような接続端子は、導電層、半田材料、設置部などに外力が加えられても負荷を低減できるように、該接続端子が離脱したり半田材料等の接続材料に割れが生じたりしない工夫が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-10737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される接続端子は、外力による接続材料等の割れなどを抑制するため、構造設置部からコネクタ起立部までの間に複雑な構造を設ける必要がある。そのため、車両用ガラス板に形成された導電性材料への給電を行いながら、外力による接続材料の割れ、ひいては、ガラス板の割れなどを抑制する上での改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ガラス板に対して発生する応力を低減できる電気接続端子付き車両用ガラス板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る電気接続端子付きガラス板は、ガラス板と、前記ガラス板の表面上に形成された導電膜と、前記導電膜に設置される板状の設置部と、前記設置部に接続され前記設置部の前記導電膜側とは反対側に起立する起立部と、前記起立部を介して前記設置部と電気的に接続されるコネクタ部とを有する電気接続端子と、前記導電膜に前記設置部を固定する接続材料と、を備え、前記設置部は、前記ガラス板を平面視して、前記導電膜と対向する第1端面と、前記設置部の前記導電膜側とは反対側の第2端面と、前記設置部の外周面の内、前記第1端面及び前記第2端面を除くと共に前記起立部との接続部分を除く領域である周縁部と、前記周縁部に形成される湾曲した凹部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電気接続端子付きガラス板によれば、ガラス板に対して発生する応力を低減できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る電気接続端子付き車両用ガラス板100の断面図である。
図2】電気接続端子の斜視図である。
図3】電気接続端子の設置部をガラス板1に向かって平面視した図である。
図4】本発明の実施の形態に係る設置部の比較例に係る構成例を示す図である。
図5】設置部のガラス板1への接続部分に加わる応力を比較して示す第1図である。
図6】設置部のガラス板1への接続部分に加わる応力を比較して示す第2図である。
図7】設置部の第1変形例に係る構成例を示す図である。
図8】設置部の第2変形例に係る構成例を示す図である。
図9】設置部の第3変形例に係る構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態に係る電気接続端子付き車両用ガラス板100を図面に基づいて詳細に説明する。なお、各形態において、平行、直角、水平、垂直、上下、左右などの方向には、本発明の効果を損なわない程度のずれが許容される。また、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面、Z軸方向及びX軸方向に平行な仮想平面を表す。図1以降において、X軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスX軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスX軸方向とする。Y軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスY軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスY軸方向とする。Z軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスZ軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスZ軸方向とする。
【0010】
実施の形態.
図1は本発明の実施の形態に係る電気接続端子付き車両用ガラス板100の断面図である。図2は電気接続端子の斜視図である。図3は電気接続端子の設置部をガラス板1に向かって平面視した図である。
【0011】
電気接続端子付き車両用ガラス板100は、透明又は半透明な板状の誘電体であるガラス板1と、ガラス板1の表面上に形成された導電膜2と、電気接続端子3と、電気接続端子3の設置部31を導電膜2に固定する接続材料4とを備える。ガラス板1は、例えば、自動車用のフロントガラス、リアガラス、サイドガラス等が挙げられる。
【0012】
また、接続材料4としては、代表的に半田材料が挙げられるが、これに限らない。接続材料4として導電性の材料を用いる場合は、導電性の接着剤、導電性ゴムなどが挙げられるが、電気接続端子3の使用目的によっては、接続材料4は、絶縁性の接続材料を用いてもよい。つまり、接続材料4として絶縁性材料を用いる場合でも、導電膜2と設置部31との間で、直流信号は絶縁されるものの、アンテナ受信用の信号、例えば、LF、MF~VHF、UHFの周波数帯の信号に対して容量結合によって電気的に接続できるからである。このような絶縁性の接続材料としては、熱を加えずに硬化する絶縁性ペースト状接着剤、絶縁性の両面テープ等が挙げられる。絶縁性ペースト状接着剤としては、例えば、一液湿気硬化型ウレタン接着剤、二液混合型エポキシ変形シリコーン接着剤等が挙げられる。なお、接続材料4として、導電性材料を用いる場合、導電膜2を介してガラス板1と、電気接続端子3と、が安定して固定できる材料であればよい。接続材料4は、この中でも半田材料が好ましく、半田材料の中でも、環境性の観点から無鉛半田材料がより好ましい。
【0013】
電気接続端子3は、板状の設置部31と、設置部31に接続され設置部31の導電膜2側とは反対側に起立する起立部32と、起立部32のプラスX軸方向の端部に接続されU字状に湾曲する湾曲部33と、湾曲部33に接続され起立部32から一定距離隔てて起立部32と平行にマイナスX軸方向に伸びる第1延伸部34とを有する。なお、湾曲部33および第1延伸部34は、後述のとおり任意に備えられる部材である。
【0014】
また、電気接続端子3は、第1延伸部34に接続されプラスY軸方向伸びる第2延伸部35と、設置部31と電気的に接続されると共に給電用又は接地用の不図示の外部コネクタと電気的に接続されるコネクタ部36とを有する。コネクタ部36は、設置部31と電気的に接続されていれば、その形状は任意である。図1において、例えば、不図示の外部コネクタと接続するコネクタ部36は、YZ面に平行な平面板が突出する構造を有してもよく、XY平面に平行な平面板が突出する構造を有してもよい。また、電気接続端子3は、コネクタ部36を備えるブリッジ部37を有する。
【0015】
ブリッジ部37としては、図1において、一対の設置部31を有する場合、これらを電気的に接続する構造であれば、とくに任意の形状であってよい。また、ブリッジ部37は、電気的に接続する部分の少なくとも一部を覆って電気的な接触を防ぐケースを含んでもよい。ブリッジ部37としては、低抵抗の導体によって電気的に接続できる構造や、直流信号に対して低抵抗であるのに対し、所定の周波数の信号に対してハイインピーダンスとなるような(チョーク)コイルを含む構造などが挙げられる。さらに、ブリッジ部37としては、ガラスの割れ等による異常事態が生じて電気的に高い抵抗値を感知した際に、外部に異常を検知した信号を発信する通信機能を備える回路を含んでもよく、様々な機能を備えることができる。
【0016】
電気接続端子3の材料には、銅、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、鉄、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン、金、白金、銀、ステンレス鋼(SUS)、さらにこれらを複数含む合金、例えば、ニッケルと鉄の合金(パーマロイ)などを使用できる。また、導電膜2の材料には、一般的には銀を使用できるが、銀以外の材料を使用してもよい。導電膜2は、例えば、ガラス板1の表面に銀ペーストをスクリーン印刷して、乾燥、加熱させることで、銀による所定のプリントパターンが得られる。
【0017】
設置部31は、導電膜2及び起立部32のそれぞれに電気的及び物理的に接続される。ここでいう「導電膜2に電気的に接続」とは、低周波数信号(直流含む)が接続される場合限らず、上記のように高周波数信号が(容量結合をする場合を含んで)接続される場合も含む。設置部31は、例えばガラス板1に向かって平面視して、Z軸方向の幅W1がY軸方向の幅W2よりも広い概略四角形状である。概略四角形状とは、角部が湾曲した四角形状のもの、すなわち角(四隅)が丸くなっているがおおよそ四角形とみなせるものである。概略四角形状には、角部が湾曲した正方形状又は長方形状のものが含まれる。
【0018】
設置部31は、導電膜2及びガラス板1と対向する第1端面311と、設置部31の導電膜2側とは反対側の第2端面312を有する。また、設置部31は、外周面の内、第1端面311及び第2端面312を除くと共に起立部32との接続部分38を除く領域である周縁部313と、周縁部313に形成され、板状の設置部31の平面視(図2等のYZ平面)において湾曲した凹部314とを備える。湾曲した凹部314は、尖った部分、例えば、不連続に折れ曲がるような部分を有しないことで応力を分散する効果を奏する。
【0019】
また、設置部31は、設置部31の起立部32側にある第1辺11と、設置部31の第1辺11側とは反対側の第2辺12と、設置部31の第1辺11と第2辺12とを結ぶ第3辺13と、設置部31の第3辺13側とは反対側の第4辺14とを備える。
【0020】
図3に示す設置部31において、第3辺13及び第4辺14のそれぞれには、1つの凹部314を備えることによって、2つの凸部315が形成される。言い換えると、第3辺13の2つの凸部315の間には凹部314が形成され、第4辺14の2つの凸部315の間には凹部314が形成される。そして、凸部315と凹部314を形作る周縁部313は、なだらかに湾曲している。なお、第3辺13及び第4辺14のそれぞれにある、2つの凸部315のうち凹部314から離れる側の端部は、概略四角形状をした設置部31の角部315aに相当する。該角部315aは、例えば湾曲している。
【0021】
また、凹部314は、周縁部313において内側に湾曲している部分を指すが、図3のように、凸部315と凹部314とが隣接することで波状の形状を有する場合、例えば、凸部315と凹部314との境界を、次のように定義してもよい。つまり、第3辺13、第4辺14のうち、Z軸方向で極大値を取る点と極小値を取る点との間の連続した曲線に対して接線を引いたとき、Y軸方向に対して最も傾斜する角度(符号無しの絶対値)の接線となる位置を、凸部315と凹部314との境界としてもよい。また、該位置が点ではなく線となる場合、該線の線分の中点を、凸部315と凹部314との境界としてもよい。
【0022】
例えば、図3に示すように、設置部31が、幅W1及び幅W2を有する概略四角形状であり、2つの凸部315の間に1つの凹部314が存在する場合、上述に定義した凹部314の幅は、0.05×W2~0.85×W2の範囲であるとよい。また、凹部314が第2辺12に存在する場合でも、(不図示の)2つの凸部315の間に1つの凹部314が存在する場合、上述に定義した凹部314の幅は、0.05×W1~0.85×W1の範囲であるとよい。なお、各辺に2以上の凹部314を有する場合、各凹部314の幅は上記数値範囲の下限よりも短くてもよい。
【0023】
また、設置部31は、設置部31の第1端面311からガラス板1に向かってマイナスX軸方向に突き出る形状の複数の突起部316を有してもよい。複数の突起部316は、例えば、第3辺13の凹部314の第1頂点21から第4辺14の凹部314の第2頂点22に至る仮想線5上に配置される。なお、突起部316は、2点に限らず、第1端面311において3点以上有してもよい。
【0024】
第1頂点21の近傍に設けられる突起部316から第1頂点21までの距離D1は、第2頂点22の近傍に設けられる突起部316から第2頂点22までの距離D2と略等しい関係にあるとよい。また、2つの突起部316は、第1端面311の平面視において、円形等の同じ外縁形状であり、X軸方向の最大高さが略等しい関係にあると、電気接続端子3が導電膜2に安定して固定されるので好ましい。図示例のように複数の突起部316を設けることによって、その先端が導電膜2上に接することで、第1端面311と導電膜2との間に一定の空間ができる。そして、この空間によって、半田などの接続材料4が設置部31から必要以上に設置部31の外側にはみ出さない状態で、電気接続端子3が導電膜2上にバランス良く配置でき、設置部31を強固に固定できる。
【0025】
シミュレーションでは、本実施例に相当する、図3に示す設置部31として、W1が約8mm、W2が約5mmで四隅が丸い概略四角形とし、凹部314の幅をW2×0.2程度に設定した。また、凹部314の深さ(マイナスZ軸方向)は、0.03×W1程度に設定した。なお、設置部31は、厚さ約0.5mmで銅材料に錫メッキ処理をしたものを使用し、突起部316は、D1及びD2の距離がいずれも約1mm程度、平面視で約φ1.5mmの円形で、0.3mm程度の高さのものを、設置部31の平面視で対称性を与えるように2点備えた。さらに、接続材料として、弾性率46000[MPa]の無鉛半田材料(Sn-Ag)を用いて、導電膜2としてガラス板上に銀でプリントした所定パターン上に、ブリッジ部37を介した2点の設置部31を有する電気接続端子3を固定させた。
【0026】
図4は本発明の実施の形態に係る設置部31の比較例に係る構成例を示す図である。図4に示される設置部31Aは、平面視で概略楕円形の板状の端子であり、当該設置部31Aには、図3の設置部31に示すような凹部314が形成されていない。図4において比較例となる設置部31Aの平面視における寸法は、本発明の実施の形態に係る設置部31の幅W2と等しく、幅W1よりも、凹部314が形成されず、外側に湾曲している分だけ長いが、設置部31の面積と設置部31Aの面積は、ほぼ同じである。そのような条件下において、以下の熱応力シミュレーションを実施した。
【0027】
図5は設置部31のガラス板1への接続部分に加わる応力の最大値を比較して示す第1図である。図6は設置部31のガラス板1への接続部分に加わる応力の最大値を比較して示す第2図である。図5及び図6に示されるデータは、電気接続端子3の設置部31の周辺に発生する歪みを熱応力シミュレーションで検証した結果である。熱応力シミュレーションでは、コンピュータで熱応力解析が可能なように、電気接続端子3及びガラス板1を三次元ソリッドメッシュ化した幾何学的要素が利用される。また熱応力シミュレーションでは、電気接続端子3と接続材料4として使用した半田材料との接合条件、接続材料(半田材料)4と導電膜2(銀)との接続条件、導電膜2とガラス板1との接続条件なども適宜設定される。また、熱応力シミュレーションでは、電気接続端子3及びガラス板1を含む周囲温度を、例えば-30℃から+80℃までの範囲で加熱と冷却を1サイクルとして弾性解析がなされる。
【0028】
具体的な1サイクルの加熱と冷却は、最初に30℃、次いで80℃、次いで-30℃、次いで80℃、最後に30℃として、シミュレーションを実施した。
【0029】
加熱と冷却が繰り返されると、設置部31とガラス板1との接続箇所付近に線膨張係数の違いに起因する応力が作用し、その応力の大きさに比例した疲労が蓄積され、ガラス板1の割れなどが発生するおそれがある。設置部31とガラス板1との接続箇所付近に作用する応力を同じ条件下で比較したものが図5及び図6に示される。
【0030】
図5には電気接続端子3及びガラス板1の冷却時(-30℃)に計測される応力が示される。図5の左側には比較例に係る設置部31Aを利用した場合の応力が示される。図5の右側には、比較例に係る設置部31Aを利用した場合の応力を100としたときの、本実施の形態に係る設置部31を利用した場合の応力が指数で示される。
【0031】
図6には電気接続端子3及びガラス板1の加熱時(80℃)に計測される応力が示される。図6の左側には比較例に係る設置部31Aを利用した場合の応力が示される。図6の右側には、比較例に係る設置部31Aを利用した場合の応力を100としたときの、本実施の形態に係る設置部31を利用した場合の応力が指数で示される。図5図6は、対比させる2つの応力を相対的に示しているので応力の単位を与えていないが、実測、若しくはシミュレーションで得られる応力の単位としては、[MPa]が挙げられる。
【0032】
本実施の形態に係る電気接続端子3では、比較例にかかる設置部31Aを利用する場合に比べて、応力が2%程度低減されることが分かる。これは、設置部31の周縁部313に湾曲した部分が増えたことによって、熱サイクルによる設置部31の周縁部313付近に生じる熱ひずみが分散されることにより、設置部31のガラス板1への接続箇所における局所的な応力集中が緩和されたため(応力が分散されため)と考えられる。なお、「湾曲した部分が増える」とは、概略楕円形状に比べると、周縁部313の外周長が長くなることに相当し、このことによってさらに応力が分散されることで上記効果が得られやすくなる。
【0033】
なお、本実施の形態に係る設置部31は以下のように構成してもよい。
【0034】
図7は設置部31の第1変形例に係る構成例を示す図である。第1変形例に係る設置部31では、例えば、第3辺13に1つの凹部314が形成され、第3辺13の凹部314を除く部分に直線状の第1周縁部41及び第2周縁部42が形成される。第1周縁部41は凹部314と第1辺11との間に形成される。第2周縁部42は凹部314と第2辺12との間に形成される。なお、図7に示される第1周縁部41及び第2周縁部42は、第4辺14に形成されていてもよい。第1変形例に係る設置部31によれば、設置部31の角部付近の外周長が長くなり、ガラス板1への応力が分散される。従って、上記同様の効果を得ることができる。
【0035】
また、図7において、凹部314は、湾曲して直線状の部分を含まない形状を示しているが、このような形状に限らない。図8は設置部31の第2変形例に係る構成例を示す図である。図8に示すように例えば、凹部314は、凹部314の頂点部(例えば第1頂点21)を含む近傍がY軸方向に略平行に直線状の部分を含んで、凸部315に向かって湾曲する形状でもよい。
【0036】
図9は設置部31の第3変形例に係る構成例を示す図である。図9に示すように例えば、2つの凸部315及び凹部314は、これらを繋ぐ2つの周縁部が、それぞれZ軸方向に略平行な直線状の部分を含んで、凹部314の頂点部に向かって湾曲する形状でもよい。
【0037】
なお、凹部314は、第1辺11及び第2辺12のうち少なくとも一方に設けてもよい。この場合、第1辺11及び第2辺12のうち少なくとも一方に凸部315を設けてもよいし、この凸部315の代わりに図7に示す第1周縁部41及び第2周縁部42を第1辺11又は第2辺12に設けてもよい。例えば、図7における第3辺13は、1つの凹部314が与えられた形状とみなすことができる。図7の第3辺13の場合、凹部は、Y軸方向に平行に延伸する第1周縁部41及び第2周縁部42において、それぞれ、接線がY軸方向と平行する部分から非平行となる部分(例えば、Y軸方向に対して1°の傾きとなる部分)を境界として、第1周縁部41と第2周縁部42を繋ぐ、湾曲した部分に相当する。
【0038】
また、設置部31は、ガラス板1に形成される導電性材料(防曇用電熱線、アンテナ用導電体など)の形状に合わせて、幅W1と幅W2とが略等しい概略四角形状(正方形状)や、幅W2が幅W1よりも広い概略四角形状(長方形状)に構成してもよい。
【0039】
また、図3に示される設置部31には、第3辺13及び第4辺14のそれぞれに1つの凹部314が形成されているが、第3辺13及び/又は第4辺14に1つの凹部314が形成されていてもよいし、第3辺13及び/又は第4辺14の2つの凹部314が形成されていてもよい。
【0040】
また、設置部31は、例えば図3の接続部分38を除いた周縁部313の形状が、Y軸方向に平行で幅W1を二等分する仮想線6に対して、線対称となるように構成してもよい。これにより設置部31の意匠性が向上する効果が得られる。なお、接続部分38は、起立部32の形状を簡易的にするために、直線状(YZ平面視にて略長方形状)に設置部31に接続されていてもよい。その場合、意匠性を向上させるために、第1辺11と第2辺12は、互いに平行する直線であって、第3辺13及び/又は第4辺14に凹部314を設けて、第1辺11及び第2辺12に凹部314が無くてもよい。
【0041】
また、本実施の形態に係る電気接続端子3は、湾曲部33と第1延伸部34とを有するが、湾曲部33と第1延伸部34を省いて起立部32に第2延伸部35が接続される構成としてもよい。なお湾曲部33を設けることによって、例えば外部コネクタの抜き差しなどでY軸方向に外力が加えられた場合でも、湾曲部33が弾性変形することによって、設置部31のガラス板1への接触部分へ加わる応力を軽減できる。
【0042】
また、本実施の形態に係る電気接続端子3は、ブリッジ部37を介して2つの設置部31が設けられるように構成してもよい。この構成により、ブリッジ部37を支える複数の電気接続端子3のそれぞれにおいて上記同様の効果が得られる。
【0043】
また、起立部32は、設置部31からプラスX軸方向(垂直方向)に伸びる形状、例えば平面視で略長方形状の部材に限定されず、例えば設置部31から垂直方向に対して所定角度で傾斜した方向に伸びる形状、例えば平面視で略平行四辺形の部材でもよい。この構成により、例えば外部コネクタの抜き差しなどでX軸方向に外力が加えられた場合でも、起立部32がX軸方向に弾性変形して、設置部31のガラス板1への接触部分へ加わる応力を軽減することができる。
【0044】
また、起立部32は、第1辺11の任意の位置、幅で設けてもよい。例えば、図3に示すように、起立部32のZ軸方向の長さが第1辺11の幅よりも短く、起立部32を第1辺11の第4辺14(又は第3辺13)寄りの部分に設けると、ガラス板1に形成される導電性材料(防曇用電熱線、アンテナ用導電体など)の真上の位置からオフセットした位置に電気接続端子3のブリッジ部37を配置でき、設計の自由度が向上する。
【0045】
以上に説明したように、本実施の形態に係る電気接続端子付き車両用ガラス板100の設置部31は、設置部31の外周面の内、第1端面311及び第2端面312を除くと共に起立部32との接続部分38を除く領域である周縁部313と、周縁部313に形成される湾曲した凹部314とを備える。
【0046】
この構成により、設置部31の周縁部313に湾曲した部分(外周長)が増えて、設置部31のガラス板1への接続箇所における局所的な応力集中が緩和される。これにより、ガラス板1に対して発生する応力が低減でき、品質の向上を図ることができる。
【0047】
また、設置部31は、概略四角形状であり、周縁部313は、設置部31の起立部32側に第1辺11と、設置部31の第1辺11側とは反対側の第2辺12とを有するように構成してもよい。この構成により、楕円形状の設置部31を製造する場合に比べて、ガラス板1に形成される導電性材料との接触面積を広げながら上記同様の効果を得ることができ、導電性材料との接触箇所における抵抗値を低減できる。
【0048】
また、設置部31は、第1辺11及び第2辺12が略平行な直線となるように構成してもよい。この構成により、例えば設置部31と起立部32を個別に製作した後に互いに接続する場合でも、第1辺11及び第2辺12の何れにも起立部32を容易に接続でき、電気接続端子3の製造を容易化できる。なお、設置部31は、第1辺11及び第2辺12が直線となるように構成した場合でも同様の効果を得ることができる。
【0049】
また、設置部31は、第1辺11が直線であり、第2辺12が曲線部分を含み、第1辺11と第2辺12が非平行となるように構成してもよい。この構成により、例えば設置部31と起立部32を個別に製作した後に互いに接続する場合でも、第1辺11に起立部32を容易に接続できると共に、第2辺12の加工精度を高める必要がないため、設置部31の製造コストを抑制しながら、上記同様の効果を得ることができる。
【0050】
また、設置部31の周縁部313は、設置部31の中心から周縁部313に向かう方向に突き出る湾曲した凸部315を有し、凹部314は、複数の凸部315の間に設けられるように構成してもよい。この構成により、凹部314と凸部315との境界部分に角部が形成されることを抑制しながら、周縁部313に湾曲した部分を増やすことができるため、凹部314の両側の周縁部313が平坦な形状である場合に比べて、ガラス板1に対して発生する応力をより一層抑制することができる。
【0051】
また、設置部31の周縁部313は、設置部31の第1辺11と第2辺12とを結ぶ第3辺13と、設置部31の第3辺13側とは反対側の第4辺14と有し、第3辺13及び第4辺14の少なくとも一方には、凹部314が設けられるように構成してもよい。この構成により、設置部31の寸法上の制約によってZ軸方向の幅が狭くなる場合でも、Z軸方向と直交するY軸方向の第3辺13、第4辺14などに凹部314を形成することができ、上記同様の効果を得ながら設置部31の設計の自由度が向上する。
【0052】
また、設置部31の周縁部313の第3辺13及び第4辺14の少なくとも一方には、設置部31の中心から周縁部313に向かう方向に突き出る湾曲した凸部315が形成され、凹部314は、複数の凸部315の間に設けられるように構成してもよい。この構成により、凹部314と凸部315との境界部分に角部が形成されることを抑制しながら、周縁部313に湾曲した部分を増やすことができるため、凹部314の両側の周縁部313が平坦な形状である場合に比べて、ガラス板1に対して発生する応力をより一層抑制することができる。
【0053】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 :ガラス板
2 :導電膜
3 :電気接続端子
4 :接続材料
5 :仮想線
6 :仮想線
11 :第1辺
12 :第2辺
13 :第3辺
14 :第4辺
21 :第1頂点
22 :第2頂点
31 :設置部
31A :設置部
32 :起立部
33 :湾曲部
34 :第1延伸部
35 :第2延伸部
36 :コネクタ部
37 :ブリッジ部
38 :接続部分
41 :第1周縁部
42 :第2周縁部
100 :電気接続端子付き車両用ガラス板
311 :第1端面
312 :第2端面
313 :周縁部
314 :凹部
315 :凸部
316 :突起部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9