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特許7298406シリコン単結晶引上げ装置内の部材の再生方法及び再生装置並びに再生された部材を用いるシリコン単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】シリコン単結晶引上げ装置内の部材の再生方法及び再生装置並びに再生された部材を用いるシリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20230620BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C30B29/06 502Z
C30B15/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019165790
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021042103
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲哉
(72)【発明者】
【氏名】琴岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】宗実 賢二
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】末若 良太
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014072(JP,A)
【文献】特開2011-219312(JP,A)
【文献】特開平10-081593(JP,A)
【文献】特開平07-041384(JP,A)
【文献】特開2009-132552(JP,A)
【文献】特開平10-101482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉されたチャンバと、前記チャンバ内に設けられた保温筒と、前記保温筒の内側に設けられた筒状のヒータとを備えたシリコン単結晶引上げ装置の前記筒状のヒータの内側に、SiO及び/又は金属シリコンが付着した部材を配置して、不活性ガス雰囲気下、熱処理することにより、前記部材を再生する方法において、
前記筒状のヒータの内側に配置した部材の上方を覆う断熱板が前記チャンバ内に設けられ、
前記断熱板が被覆材により被覆された断熱材で構成され、
前記断熱材の熱伝導率が5W/(m/℃)以下であり、
前記断熱板に前記不活性ガスが流通するための1又は2以上の貫通孔が設けられ、
前記被覆材が黒鉛、表面にSiCがコーティングされた黒鉛、又はモリブデンであり、
前記貫通孔の孔面積は、前記断熱板の覆う部分を100とするときに、2.5以上5以下である、
ことを特徴とする部材の再生方法。
【請求項2】
前記断熱板の周縁が前記保温筒の上端に載置された請求項記載の部材の再生方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶引上げ装置が複数のヒータを備えた請求項1又は2記載の部材の再生方法。
【請求項4】
密閉されたチャンバと、前記チャンバ内に設けられた保温筒と、前記保温筒の内側に設けられた筒状のヒータとを備えたシリコン単結晶引上げ装置の前記筒状のヒータの内側に、SiO及び/又は金属シリコンが付着した部材を配置して、不活性ガス雰囲気下、熱処理することにより、前記部材を再生する装置において、
前記筒状のヒータの内側に配置した部材の上方を覆う断熱板が前記チャンバ内に設けられ、
前記断熱板が被覆材により被覆された断熱材で構成され、
前記断熱材の熱伝導率が5W/(m/℃)以下であり、
前記断熱板に前記不活性ガスが流通するための1又は2以上の貫通孔が設けられ、
前記被覆材が黒鉛、表面にSiCがコーティングされた黒鉛、又はモリブデンであり、
前記貫通孔の孔面積は、前記断熱板の覆う部分を100とするときに、2.5以上5以下である、
ことを特徴とする部材の再生装置。
【請求項5】
前記断熱板の周縁が前記保温筒の上端に載置された請求項記載の部材の再生装置。
【請求項6】
前記シリコン単結晶引上げ装置が複数のヒータを備えた請求項4又は5記載の部材の再生装置。
【請求項7】
請求項1ないしのうちいずれか1項に記載された方法又は請求項ないしのうちいずれか1項に記載された装置で再生された部材を用いて、シリコン単結晶を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶引上げ装置内に設けられた表面にSiOx及び/又は金属シリコンが付着した部材からSiOx及び/又は金属シリコンを除去して部材を再生する方法及び再生装置並びに再生された部材を用いるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョクラルスキー法でシリコン単結晶を引上げる装置内では、シリコン融液表面からSiO、SiO等のSiOx及び/又は金属シリコン(以下、単に「シリコン等」ということもある。)が蒸発し、このシリコン等は引上げ装置内に設けられた熱遮蔽部材、整流筒等の各種部材表面に付着し、徐々に固化していく。こうして付着し固化したシリコン等は、引上げ装置内を流れる不活性ガスの流速の変化や、シリコン等が付着した部材の熱膨張の変化などによって部材表面から剥離し、シリコン融液に落下する場合があった。落下したシリコン等はシリコン融液の不純物となり、引上げられるシリコン単結晶の品質を悪化させる要因になっていた。引上げ装置内に設けられた整流筒が石英製である場合、整流筒の石英表面にシリコン等が付着し、徐々に茶色に変色していった。石英製の整流筒を通して炉内の観察を行っている場合には、シリコン等の付着により、炉内観察ができなくなる不具合を生じていた。
【0003】
この問題を解決するため、本出願人は、SiOx及び/又は金属シリコンが表面に付着した黒鉛部材からなる熱遮蔽部材、石英部材からなる整流筒等の部材を不活性ガス雰囲気下、2.67kPa以下の圧力下、上記部材の表面温度が表面に付着したSiOx及び/又は金属シリコンの昇華を開始する温度以上でかつ上記部材が熱変形及び/又は熱変質を開始する温度未満の温度で少なくとも2時間熱処理して上記部材の表面に付着したシリコン等を昇華し除去するシリコン単結晶引上げ装置内の部材の再生方法を提案した(特許文献1、請求項1、段落[0032]~段落[0039]、図1参照。)。
【0004】
この部材の再生方法は、具体的には、図9に示される部材の再生装置を用いて再生する。この部材の再生装置10は、シリコン単結晶を引上げる装置を利用したもので、上部は径が小さく下部は径が大きな外部雰囲気から密閉されたチャンバ11内に、筒状のヒータ12と、保温筒13と、黒鉛坩堝14、坩堝受け15等が収容される。チャンバ11の上端には、円筒状のケーシング16が設けられる。このケーシング16には、チャンバ内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口17が設けられ、その上端にはケーシング16内を外気雰囲気から遮断する閉止板18が設けられる。チャンバ11の下部には、リング状のボトムヒータ19と不活性ガスの排出口20が設けられる。排出口20は、図示しない排気管路を介して真空ポンプに接続される。再生を必要とする部材として、黒鉛部材からなる熱遮蔽部材21がチャンバ11内の保温筒13の上部に設けられた支持部材22に取付けられる。
【0005】
部材の再生装置10では、チャンバ内に不活性ガスを導入し、チャンバ内を減圧して、筒状のヒータ12及びリング状のボトムヒータ19(以下、双方のヒータ12、19又は筒状のヒータ12のみを、単にヒータということもある。)により上記の所定の圧力下、上記の所定の温度で上記所定の時間、熱遮蔽部材21を熱処理する。熱遮蔽部材21の熱処理中及び冷却中、不活性ガス導入口から導入した不活性ガスの流れに随伴して、昇華したシリコン等は不活性ガスの排出口20から再生装置10の外部に排出される。熱遮蔽部材21を冷却後、再生装置10から熱遮蔽部材21を取り出せば、シリコン等を完全に除去した再生された熱遮蔽部材が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-014072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の再生方法では、所定の温度で所定の時間、筒状のヒータ12及びリング状のボトムヒータ19に印加する電圧を高めてチャンバ11とケーシング16を加熱するため、加熱する空間及び加熱される面積が広大で、シリコン単結晶を引上げる以上の多大のヒータ電力を必要とした。この結果、ヒータ電極と黒鉛坩堝の間でグロー放電を生じることがあった。グロー放電を生じると放電部位が損傷するため、従来の再生方法にはまだ解決すべき課題があった。
【0008】
本発明の第1の目的は、上記課題を解決するもので、シリコン単結晶引上げ装置内のシリコン等が付着する部材を再生する際に、ヒータに印加する電圧を高めることなく引上げ装置内のグロー放電を防止するとともに、電力消費量を低減して部材を再生する再生方法及び再生装置を提供することにある。本発明の第2の目的は、再生された部材を用いて高品質のシリコン単結晶を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、密閉されたチャンバと、前記チャンバ内に設けられた保温筒と、前記保温筒の内側に設けられた筒状のヒータとを備えたシリコン単結晶引上げ装置の前記筒状のヒータの内側に、SiO及び/又は金属シリコンが付着した部材を配置して、不活性ガス雰囲気下、熱処理することにより、前記部材を再生する方法において、前記筒状のヒータの内側に配置した部材の上方を覆う断熱板が前記チャンバ内に設けられ、前記断熱板が被覆材により被覆された断熱材で構成され、前記断熱材の熱伝導率が5W/(m/℃)以下であり、前記断熱板に前記不活性ガスが流通するための1又は2以上の貫通孔が設けられ、前記被覆材が黒鉛、表面にSiCがコーティングされた黒鉛、又はMo(モリブデン)であり、前記貫通孔の孔面積は、前記断熱板の覆う部分を100とするときに、2.5以上5以下である、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第の観点は、第1の観点の発明であって、前記断熱板の周縁が前記保温筒の上端に載置されたことを特徴とする。
【0013】
本発明の第の観点は、第1又は2の観点のうち、いずれかの観点の発明であって、前記シリコン単結晶引上げ装置が複数のヒータを備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の第の観点は、密閉されたチャンバと、前記チャンバ内に設けられた保温筒と、前記保温筒の内側に設けられた筒状のヒータとを備えたシリコン単結晶引上げ装置の前記筒状のヒータの内側に、SiO及び/又は金属シリコンが付着した部材を配置して、不活性ガス雰囲気下、熱処理することにより、前記部材を再生する装置において、前記筒状のヒータの内側に配置した部材の上方を覆う断熱板が前記チャンバ内に設けられ、 前記断熱板が被覆材により被覆された断熱材で構成され、前記断熱材の熱伝導率が5W/(m/℃)以下であり、前記断熱板に前記不活性ガスが流通するための1又は2以上の貫通孔が設けられ、前記被覆材が黒鉛、表面にSiCがコーティングされた黒鉛、又はMo(モリブデン)であり、前記貫通孔の孔面積は、前記断熱板の覆う部分を100とするときに、2.5以上5以下である、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第の観点は、第の観点の発明であって、前記断熱板の周縁が前記保温筒の上端に載置されたことを特徴とする。
【0018】
本発明の第の観点は、第4又は5の観点のうち、いずれかの観点の発明であって、前記シリコン単結晶引上げ装置が複数のヒータを備えたことを特徴とする。
【0019】
本発明の第の観点は、第1ないし第の観点のうち、いずれかの観点に記載された方法又は第ないし第のうち、いずれかの観点に記載された装置で再生された部材を用いて、シリコン単結晶を製造する方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の再生方法及び再生装置では、特許文献1の再生方法と異なり、筒状のヒータの内側に配置した部材の上方を覆う断熱板がチャンバ内に設けられたことにより、部材を加熱するためのヒータに印加する電圧を高めることなく引上げ装置内のグロー放電を防止することができる。また再生に要する電力消費量を低減することができる。
【0021】
本発明の再生方法及び再生装置では、断熱板に不活性ガスが流通するための1又は2以上の貫通孔を設けることにより、不活性ガス導入口から導入された不活性ガスが貫通孔を通過して、部材の表面に流れ込み、部材から昇華したシリコン等が不活性ガスの流れに随伴して、不活性ガスの排出口から排出され、部材の再生をより確実にすることができる。
【0022】
本発明の再生方法及び再生装置では、断熱板の周縁が保温筒の上端に載置されて、断熱板がチャンバ内に設けられるため、断熱板の取付け、取外しを容易にすることができる。
【0023】
本発明の再生方法及び再生装置では、断熱板が黒鉛により被覆された断熱材で構成されているため、断熱板に一定の強度を持たせることができる。
【0024】
本発明の再生方法及び再生装置では、シリコン単結晶引上げ装置が複数のヒータを備えるため、各々のヒータに印加する電圧を低減させることができ、結果として引上げ装置内のグロー放電をより一層防止することができる。
【0025】
本発明の再生された部材を用いてシリコン単結晶を製造する方法は、高品質のシリコン単結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態に係る部材が熱遮蔽部材であって断熱板を有する再生装置の構成図である。
図2図1に示す断熱板の平面図である。
図3】本実施形態に係る部材の再生装置の別の形態の断熱板の平面図である。
図4】本実施形態に係る部材の再生装置の更に別の形態の断熱板の平面図である。
図5図1に示す断熱板の断面を示す斜視図である。
図6】本実施形態に係る部材が整流筒である再生装置の構成図である。
図7】熱遮蔽部材を再生する際に、断熱板の有無による熱遮蔽部材の温度変化の違いを示す図である。
図8】熱遮蔽部材を再生する際に、断熱板の有無による熱遮蔽部材の温度をSiO融点以上にするためのヒータ電力量の違いを示す図である。変化の違いを示す図である。
図9】従来の部材が熱遮蔽部材であって断熱板を有しない再生装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るシリコン単結晶引上げ装置内の部材である熱遮蔽部材21を再生する装置30の構成図である。この再生装置30は、チョクラルスキー法でシリコン単結晶を引上げる装置を利用している。図1において、各構成要素の符号は、前述した図9の各構成符号に対応する。この実施の形態では、再生装置30は、チャンバ11と、筒状のヒータ12と、保温筒13と、黒鉛坩堝14、坩堝受け15を備える。筒状のヒータ12は保温筒13の内側に設けられ、黒鉛坩堝14は坩堝受け15に支持されて筒状のヒータ12の内側に設けられる。
【0028】
チャンバ11の上端には、チャンバと連通する円筒状のケーシング16が設けられる。このケーシング16には、チャンバ内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口17が設けられ、その上端にはケーシング16内を外気雰囲気から遮断する閉止板18が設けられる。チャンバ11の下部には、リング状のボトムヒータ19及び不活性ガスの排出口20が設けられる。即ち、本実施形態のシリコン単結晶引上げ装置は、筒状のヒータ12とリング状のボトムヒータ19のように、複数のヒータを備える。排出口20は、図示しない排気管路を介して真空ポンプに接続される。この実施の形態では、再生を必要とする部材は、熱遮蔽部材21であって、チャンバ11内の保温筒13の上部に設けられた支持部材22に取付けられる。符号1はシリコン単結晶引上げ時に使用する石英坩堝であり、符号2は引上げワイヤであり、符号3は石英坩堝1内に貯えるシリコン融液であり、部材の再生時には存在しないため、破線で示している。
【0029】
熱遮蔽部材21としては、基材が黒鉛製でその表面にSiC被覆がなされた部材、基材が黒鉛製でその表面に炭素(C)膜が被覆された部材又は基材が黒鉛製でその表面にSiCも炭素膜も被覆されていない部材等が例示される。熱遮蔽部材21は、シリコン単結晶を引上げる際に、単結晶が石英坩堝16内のシリコン融液3から受ける輻射熱を抑制するために設けられ、円錐台の筒状であって下方に向けて径が狭まるテーパー形状を有し、その下端部は、シリコン単結晶の引上げ時において、シリコン融液3表面の近傍に延びる。このため、熱遮蔽部材21はシリコン融液3からの蒸発物であるシリコン等が比較的多く付着する。
【0030】
この実施の形態の特徴ある構成は、筒状のヒータ12の内側に配置した部材である熱遮蔽部材21の上方を覆う断熱板26がチャンバ11内に設けられたことにある。具体的には、断熱板26は、図2に示すように、円板状であって、その中央には単一の円孔の貫通孔26aが形成される。断熱板26は、保温筒13の上部に設けられた支持部材22上にその周縁が位置するように、また貫通孔26aが黒鉛坩堝14の中心位置になるようにして、載置される。断熱板26を特別な工具を用いて支持部材22に取付ける必要はない。このため断熱板26の取付け及び取外しが容易である。断熱板26は、図5に示すように、例えば断熱材26bと断熱材26bを被包する被覆材26cとを有することが好ましい。断熱材26aは、カーボン繊維からなるフェルト材又はアルミナ等であって、熱伝導率が5W/(m・℃)以下であることが好ましい。また被覆材26cは、一定の強度を有する材料で構成され、熱的に安定で高純度の黒鉛、表面にSiCがコーティングされた黒鉛、又は表面輻射率が低くかつ熱的に安定なMo(モリブデン)等の材料を使うことができる。
【0031】
円板状の断熱板26は、図2に示す単一の円孔の貫通孔26aが形成される以外に、図3に示すように、複数の円孔の貫通孔27aが同心円状に等間隔に形成された円板状の断熱板27、或いは図4に示すように、複数の矩形状又はスリット状の貫通孔28aが90度間隔で形成された円板状の断熱板28でもよい。貫通孔の数又は形状は、上記に限らない。貫通孔26a、27a、28aは、図1に示すように、再生時に不活性ガスが流通するようになっている。貫通孔26a、27a、28aの孔面積は、再生する必要のある部材である熱遮蔽部材21の上方を覆う断熱板26、27、28の覆う部分を100とするときに、2.5以上5以下であることが好ましい。2.8以上4以下であることが更に好ましい。2.5未満であると、再生時に不活性ガスが流通する量が少な過ぎて、熱遮蔽部材21から昇華したシリコン等が排出されにくい。また、5を超えると、熱遮蔽部材21に向けられた熱が貫通孔からチャンバ11やケーシング16に向かって拡散し本発明の目的を達成しにくい。
【0032】
再生を必要とする部材として、熱遮蔽部材21を挙げたが、図6に示すように、整流筒29、図1及び図6に示した支持部材22、図示しない黒鉛製シードチャック、図示しない黒鉛製排気管等でもよい。整流筒29としては、石英製、黒鉛製又は基材が黒鉛製でその表面にSiC又は炭素膜が被覆された部材が例示される。この整流筒25は、図6に示すように、再生装置内では平坦な坩堝受け15の上に載置されて再生される。
【0033】
整流筒29は円筒形の部材であり、単結晶引き上げ時には、図示しないが、チャンバ11の径の小さい上部からシリコン融液の表面近傍まで延びていて、引上げられる単結晶がこの整流筒29内部を通るように配置される。また、上述の不活性ガス導入口17から流入された不活性ガスは、この整流筒29の内部を通過して、シリコン融液3の表面に導かれる。このため、整流筒29にもシリコン融液からの蒸発物であるシリコン等が比較的多く付着する。
【0034】
次に、この再生装置30を用いて、シリコン等が付着し固化した熱遮蔽部材21を再生する方法を説明する。まず上述したように、支持部材22にシリコン等が付着し固化した熱遮蔽部材21を取付ける。次いで、単一の円孔の貫通孔26aを有する円板状の断熱板26を、貫通孔26aが黒鉛坩堝14の中心位置になるようにして、支持部材22上に載置する。不活性ガス導入口17から不活性ガスをケーシング16及びチャンバ11内に導入するとともに、図示しない真空ポンプを作動してケーシング16及びチャンバ11内の圧力を低くする。この不活性ガスの導入とケーシング・チャンバ内の減圧と同時に筒状のヒータ12及びボトムヒータ19により熱遮蔽部材21を加熱する。
【0035】
この熱遮蔽部材21の熱処理は、不活性ガス雰囲気下、2.67kPa(20torr)以下の圧力下で行うことが好ましく、熱遮蔽部材の表面温度が1700℃以上でかつ熱遮蔽部材が熱変形及び/又は熱変質を開始する温度未満の温度で少なくとも2時間行われることが好ましい。熱遮蔽部材21の基材が黒鉛製でその表面にSiC被覆がなされた部材又は基材が黒鉛製でその表面に炭素(C)膜が被覆された部材である場合には、SiC又は炭素膜の昇華を未然に防ぐために、熱遮蔽部材21の表面温度の上限値を2500℃以下の温度にすることが好ましい。熱遮蔽部材21の表面温度が1000℃以上になると、シリコン等の昇華が始まるが、この温度を1700℃以上にすることにより、シリコン等の融点以上にしてシリコン等を完全に除去させることが容易になる。熱エネルギー消費量を節約する観点からより好ましい温度は1700~1800℃である。
【0036】
熱遮蔽部材の表面温度が1700℃未満の場合には、不活性ガス雰囲気下であっても熱遮蔽部材の表面に付着したシリコン等の昇華が促進されにくく、完全にシリコン等を除去しにくい。また熱遮蔽部材がSiC被覆されている場合又は炭素(C)膜により被覆されている場合、2500℃を超えて再生処理を行うと、SiC被膜又は炭素膜が昇華反応によりその膜厚が薄くなり易く、SiC被膜又は炭素膜が剥がれてしまうおそれがある。
【0037】
またケーシング16及びチャンバ11内の圧力を2.67kPa以下の減圧にすると、熱遮蔽部材21の表面に付着したシリコン等の昇華をより早まり、シリコン等をより均一に除去し易くなる。より好ましい圧力は1.33kPa(10torr)以下である。2.67kPaを超える圧力では、熱遮蔽部材表面に付着したシリコン等の昇華が促進されにくく、完全にシリコン等を除去しにくい。熱遮蔽部材21の表面温度が上記温度に達してからその温度に保持する時間は少なくとも2時間することが好ましい。2時間未満では、シリコン等を熱遮蔽部材21から完全に除去させることが困難となる。熱エネルギー消費量を節約する観点からより好ましい保持時間は3~6時間である。熱遮蔽部材21の熱処理中及び冷却中、不活性ガス導入口17から導入した不活性ガスは、断熱板26の貫通孔26を通って、熱遮蔽部材21の表面に到達し、昇華したシリコン等は不活性ガスの流れに随伴して、排出口20から再生装置30の外部に排出される。
【0038】
熱処理した後、熱遮蔽部材21の熱膨張率とシリコン等の熱膨張率の差を大きくして、シリコン等を熱遮蔽部材21から剥離しやすくするため、熱遮蔽部材21を熱処理温度から3~15℃/分の速度で室温まで冷却することが好ましい。3℃/分未満では熱遮蔽部材21の熱膨張率とシリコン等の熱膨張率の差が大きくなく、シリコン等が熱遮蔽部材21から剥離しにくい。また20℃/分を超えると、熱遮蔽部材にクラックが入るおそれがある。熱遮蔽部材21を冷却後、再生装置30から熱遮蔽部材21を取り出せば、シリコン等を完全に除去した再生された熱遮蔽部材が得られる。再生した熱遮蔽部材の品質をより高めるために、熱遮蔽部材の表面にブロアで空気を吹き付けるか、或いは熱遮蔽部材の表面をブラシや布で清掃することが好ましい。
【0039】
再生を必要とする部材が図6に示す整流筒29である場合には、この整流筒25の熱処理は、不活性ガス雰囲気下、2.67kPa(20torr)以下の圧力下で1400℃以上2500℃以下の温度で行われることが好ましい。整流筒29が石英ガラス材料から形成されている場合には、整流筒29の熱変形を未然に防ぐために、整流筒29の表面温度の上限値を1700℃以下の温度にすることが好ましい。また整流筒29が黒鉛製である場合には、表面被膜を保護するために、整流筒29の表面温度の上限値を2500℃以下の温度にすることが好ましい。整流筒29の表面温度が1000℃以上になると、シリコン等の昇華が始まるが、この温度を1400℃以上にすることにより、シリコン等の融点以上にしてシリコン等を完全に除去させることが容易になる。熱エネルギー消費量を節約する観点からより好ましい温度は1700~1800℃である。
【実施例
【0040】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0041】
<実施例1>
特定の引上げ装置に基材が黒鉛製でその表面にSiC被覆がなされた熱遮蔽部材を取付け、シリコン単結晶を10回引上げ、この熱遮蔽部材の表面にシリコン等を付着させた。付着量が比較的多い10箇所の平均付着厚さは610μmであった。図1に示す再生装置30の支持部材22にシリコン等が付着した上記熱遮蔽部材21を取付け、単一の円孔の貫通孔26aを有する直径が約1040mm、厚さが約90mm円板状の断熱板26を、貫通孔26aが黒鉛坩堝14の中心位置になるようにして、支持部材22上に載置した。断熱板26はカーボン繊維からなるフェルト材の断熱材26bと断熱材26bを被包する黒鉛からなる被覆材26cとにより構成されていた。貫通孔26aの孔面積は、再生する必要のある部材である熱遮蔽部材21の上方を覆う断熱板26の覆う部分を100とするときに2.8であった。
【0042】
不活性ガス導入口17からアルゴンガスを導入し、チャンバ11内をアルゴン雰囲気下にした。また真空ポンプを作動してチャンバ11内の圧力を1.33kPaにした。この状態で熱遮蔽部材21の表面温度が1700℃になるまで筒状のヒータ12に27.0Vの電圧を印加し、リング状のボトムヒータ19に25.6Vの電圧を印加した。1750℃で8時間維持した後、筒状のヒータ12を切電して室温まで、冷却した。冷却速度は4.0℃/分であった。筒状のヒータ12の消費電力は90kWであり、リング状のボトムヒータ19の消費電力は25kWであった。
【0043】
<実施例2>
実施例1と同一のシリコン等の付着量が同じ熱遮蔽部材21を図1に示す再生装置30の支持部材22に取付け、実施例1と同じ断熱板26を実施例1と同様に支持部材22の上に載置した。筒状のヒータ12に印加する電圧を27.7Vにし、リング状のボトムヒータ19に印加する電圧を23.0Vにすることにより、筒状のヒータ12の消費電力を95kWにし、リング状のボトムヒータ19の消費電力を20kWにした以外、実施例1と同様にして、熱遮蔽部材21を熱処理し、冷却した。
【0044】
<実施例3>
実施例1と同一のシリコン等の付着量が同じ熱遮蔽部材21を図1と同じ再生装置30の支持部材22に取付け、実施例1と同じ断熱板26を実施例1と同様に支持部材22の上に載置した後、筒状のヒータ12にのみ30.1Vの電圧を印加し、リング状のボトムヒータ19には、電圧を印加しなかった。筒状のヒータ12の消費電力を111kWにした。それ以外、実施例1と同様にして、熱遮蔽部材21を熱処理し、冷却した。
【0045】
<比較例1>
実施例1と同一のシリコン等の付着量が同じ熱遮蔽部材21を図9に示す再生装置10の支持部材22に取付けた。実施例1で用いた断熱板26は用いなかった。筒状のヒータ12に印加する電圧を29.2Vにし、リング状のボトムヒータ19に印加する電圧を32.3Vにすることにより、筒状のヒータ12の消費電力を105kWにし、リング状のボトムヒータ19の消費電力を38kWにした以外、実施例1と同様にして、熱遮蔽部材21を熱処理し、冷却した。
【0046】
<比較例2>
実施例1と同一のシリコン等の付着量が同じ熱遮蔽部材21を図9に示す再生装置10の支持部材22に取付けた。実施例1で用いた断熱板26は用いなかった。筒状のヒータ12に印加する電圧を32.8Vにし、リング状のボトムヒータ19に印加する電圧を24.5Vにすることにより、筒状のヒータ12の消費電力を130kWにし、リング状のボトムヒータ19の消費電力を23kWにした以外、実施例1と同様にして、熱遮蔽部材21を熱処理し、冷却した。
【0047】
<比較試験その1と評価>
実施例1~3及び比較例1~2で用いた熱遮蔽部材の部材について、再生後におけるシリコン等の付着状況、再生後における部材表面の劣化又は疵の有無及び筒状のヒータ電極と黒鉛坩堝の間のグロー放電の発生の有無を調べた。再生後におけるシリコン等の付着状況、部材表面の劣化又は疵の有無、及びグロー放電の発生の有無は、それぞれ目視により判定した。これらの結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から明らかなように、筒状のヒータ12の消費電力を105kWにし、リング状のボトムヒータ19の消費電力を38kWにした比較例1では、再生後における熱遮蔽部材表面の劣化又は疵は無かったが、再生後の熱遮蔽部材表面にはシリコン等がまだ付着しており、グロー放電も生じていた。また筒状のヒータ12の消費電力を130kWにし、リング状のボトムヒータ19の消費電力を23kWにした比較例2では、再生後の熱遮蔽部材表面にはシリコン等が付着しておらず、再生後における熱遮蔽部材表面の劣化又は疵は無かったが、ヒータ電極と黒鉛坩堝の間でグロー放電が生じた。
【0050】
これに対して、実施例1~3で再生した熱遮蔽部材は、再生処理後にシリコン等が全く付着しておらず、肉厚変化や熱変形は全くなく、被膜剥離や部材表面の疵は全く生じなかった。またグロー放電も起こらなかった。特に、実施例1及び2のように、筒状のヒータとリング状のボトムヒータの2つのヒータに電圧を印加することにより、各ヒータの電圧を、比較例1及び2のヒータ電圧よりも、それぞれ低減して、グロー放電の危険性を下げることができる。このため、複数のヒータを同時に用いることが好ましいことがわかった。また、実施例1~3の評価結果から明かなように、断熱板26を用いることにより、各々のヒータに印加する電圧を30.1V以下に低くすることができ、グロー放電が生じることはなかった。
【0051】
<比較試験その2と評価>
同一機種の再生装置を2台選び、それぞれの再生装置に再生を必要とする同じ使用履歴のあるシリコン等が付着した熱遮蔽部材21を取付けた。1台の再生装置30には、図1に示すように断熱板26を設けた。もう1台の再生装置10には、図9に示すように、断熱板を設けなかった。筒状のヒータ12の温度を2170Kに設定したときの、熱遮蔽部材21の上端からの距離における温度分布をシミュレーションにより求めた。その結果を図7に示す。
【0052】
図7から明らかなように、断熱材を設けなかった再生装置10における熱遮蔽部材21上端近傍の温度は1500K~1600Kの間にあり、SiO融点である1975.2K以下になっていた。これに対して断熱材26を設けた再生装置30における熱遮蔽部材21上端近傍の温度は2000Kを超え、SiO融点である1975.2Kを上回り、SiOを除去するのに十分な温度を確保していることがわかった。
【0053】
<比較試験その3と評価>
同一機種の再生装置を2台選び、それぞれの再生装置に再生を必要とする同じ使用履歴のあるシリコン等が付着した熱遮蔽部材21を取付けた。1台の再生装置30には、図1に示すように断熱板26を設けた。もう1台の再生装置10には、図9に示すように、断熱板を設けなかった。熱遮蔽部材21を再生するために、再生装置30及び再生装置10において、筒状のヒータ12とリング状のボトムヒータ19の双方にそれぞれ電圧を印加した。それぞれの熱遮蔽部材21の温度をSiO融点(1975.2K)以上にするための必要なヒータ電力量を求めた。その結果を図8に示す。
【0054】
図8から明らかなように、断熱板26を設けた場合には、筒状のヒータへの印加電圧が21.8V、リング状のボトムヒータへの印加電圧が18.5Vであり、ヒータ電力量は64.8kW(筒状のヒータ:53.5kW、リング状のボトムヒータ:11.3kW)であった。これに対して、断熱板を設けなかった場合には、筒状のヒータへの印加電圧が47.2V、リング状のボトムヒータへの印加電圧が37.8Vであり、ヒータ電力量は279.2kW(筒状のヒータ:230.6kW、リング状のボトムヒータ:48.6kW)であった。即ち断熱板26を設けた場合には、設けなかった場合よりも、印加電圧を2分の1以下、またヒータ電力量を4分の1以下に抑えられることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の再生方法は、シリコン単結晶引上げ装置内のシリコン等が付着する部材からシリコン等を昇華除去して再生するのに用いられる。
【符号の説明】
【0056】
10,30 引上げ装置
11 チャンバ
12 筒状のヒータ
13 保温筒
14 黒鉛坩堝
15 坩堝受け
16 ケーシング
17 不活性ガス導入口
19 リング状のボトムヒータ
20 不活性ガス排出口
21 熱遮蔽部材(再生を必要とする部材)
22 支持部材
26,27,28 断熱板
26a,27a,28a 断熱板の貫通孔
29 整流筒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9