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特許7298416厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/18 20060101AFI20230620BHJP
   C01G 55/00 20060101ALI20230620BHJP
   C03C 8/16 20060101ALI20230620BHJP
   H01C 7/00 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C03C8/18
C01G55/00
C03C8/16
H01C7/00 324
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019172083
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021050103
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 貴広
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/039107(WO,A1)
【文献】特開2018-165238(JP,A)
【文献】特開2006-108611(JP,A)
【文献】特開2005-235754(JP,A)
【文献】特開2005-049796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
49/10-99/00
C03C 1/00-14/00
H01C 7/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛成分を含まないルテニウム系導電粉末と、鉛成分を含まないガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物であって、
前記ガラス粉末が、SiとBとR(前記RはCa、Sr、Baから選択された1種類以上のアルカリ土類元素を示す)を含み、前記SiをSiO として10質量%以上50質量%以下、前記BをB として8質量%以上19質量%以下、前記RをROとして40質量%以上65質量%以下の割合で含み、かつ添加成分として少なくともAl を含んでおり、
前記ガラス粉末は、電子スピン共鳴分光分析法によりE´センターとして検出される欠陥量が0以上5.0×1015spins/g以下である厚膜抵抗体用組成物。
【請求項2】
前記ガラス粉末のガラスの塩基度が0.4以上0.7以下である請求項1に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項3】
前記ガラス粉末は、50%体積累計粒度が0.7μm以上2.0μm以下である請求項1または請求項2に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項4】
前記ルテニウム系導電粉末が、酸化ルテニウム粉末である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物と、有機ビヒクルとを含む厚膜抵抗体用ペースト。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物を含む厚膜抵抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にチップ抵抗器、ハイブリットIC、または抵抗ネットワーク等の厚膜抵抗体は、セラミック基板に厚膜抵抗体用ペーストを印刷して焼成することによって形成されている。厚膜抵抗体用の組成物は、導電粒子として酸化ルテニウムを代表とするルテニウム系導電粒子とガラスを主な成分としたものが広く用いられている。
【0003】
ルテニウム系導電粒子とガラスが厚膜抵抗体に用いられる理由は、空気中での焼成ができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることが可能であることに加え、広い領域の抵抗値の抵抗体が形成可能であることなどが挙げられる。
【0004】
ここで、抵抗温度係数は、25℃の抵抗値に対して-55℃と125℃での抵抗値により求められる温度係数で、以下の式により求められる。なお、以下の式中R-55が-55℃における抵抗値、R25が25℃における抵抗値、R125が125℃における抵抗値、をそれぞれ意味する。-55℃と25℃の抵抗値から求められる抵抗温度係数を低温側TCR(COLD-TCR)といい、25℃と125℃の抵抗値から求められる抵抗温度係数を高温側TCR(HOT-TCR)という。
【0005】
COLD-TCR(ppm/℃)=(R-55-R25)/R25/(-80)×10
HOT-TCR(ppm/℃)=(R125-R25)/R25/(100)×10
厚膜抵抗体では、COLD-TCRとHOT―TCRとの両者を0に近づけることが求められている。
【0006】
従来より厚膜抵抗体に最も使用されているルテニウム系導電粒子としては、ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO)、パイロクロア型の結晶構造を有するルテニウム酸鉛(PbRu6.5)が挙げられる。これらはいずれも金属的な導電特性を示す酸化物である。
【0007】
厚膜抵抗体のガラスには、一般的に厚膜抵抗体用ペーストの焼成温度よりも低い軟化点のガラスが用いられており、従来より酸化鉛(PbO)を含むガラスが用いられていた。その理由としては、酸化鉛(PbO)はガラスの軟化点を下げる効果があり、含有率を変えることによって広範囲にわたって軟化点を変えられることや、比較的、化学的な耐久性が高いガラスが作れること、絶縁性が高く耐圧に優れていることが挙げられる。
【0008】
ルテニウム系導電粒子とガラスとを含む厚膜抵抗体用組成物では、低い抵抗値が望まれる場合にはルテニウム系導電粒子を多く、ガラスを少なく配合し、高い抵抗値が望まれる場合にはルテニウム系導電粒子を少なく、ガラスを多く配合して抵抗値を調整している。ルテニウム系導電粒子を多く配合する低抵抗域では抵抗温度係数がプラスに大きくなり易く、ルテニウム系導電粒子の配合が少ない高抵抗域では抵抗温度係数がマイナスになり易い特徴がある。
【0009】
抵抗温度係数は既述の式から明らかなように、温度変化による抵抗値の変化を表したもので、厚膜抵抗体の重要な特性の一つである。抵抗温度係数は主に金属酸化物である添加剤を厚膜抵抗体用組成物に加えることで調整が可能である。抵抗温度係数を減少させる、すなわちマイナス方向に調整することは比較的容易であり、添加剤としてはマンガン酸化物、ニオブ酸化物、チタン酸化物等が挙げられる。しかし、抵抗温度係数を増加させる、すなわちプラス方向に調整することは困難であり、マイナスの抵抗温度係数を有する厚膜抵抗体の抵抗温度係数を0付近に調整することは実質上行えない。従って、抵抗温度係数がマイナスになりやすい抵抗値が高い領域では、抵抗温度係数がプラスに大きくなる導電粒子とガラスの組み合わせが望ましい。
【0010】
ルテニウム酸鉛(PbRu6.5)は酸化ルテニウム(RuO)よりも比抵抗が高く、厚膜抵抗体の抵抗温度係数が高くなる特徴がある。このため抵抗値の高い領域では導電粒子としてルテニウム酸鉛(PbRu6.5)が使用されてきた。
【0011】
このように従来の厚膜抵抗体用組成物には、導電粒子およびガラスの両方について、鉛成分を含有した材料が用いられていた。しかしながら、鉛成分は人体への影響および公害の点から望ましくなく、鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物の開発が強く求められている。
【0012】
そこで従来から、鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物が提案されている(特許文献1~4)。
【0013】
特許文献1には、少なくとも実質的に鉛を含まないガラス組成物及び実質的に鉛を含まない所定の平均粒径の導電材料を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストが開示されている。そして、導電材料としてルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、ルテニウム酸バリウムが挙げられている。
【0014】
特許文献1によれば、使用する導電材料の粒径を所定の範囲とし、反応相を除いた導電材料の実質的な粒径を確保することで所望の効果を得るとしている。
【0015】
特許文献2では、ガラス組成物に、導電性を与えるための金属元素を含む第1の導電性材料をあらかじめ溶解させてガラス材料を得る工程と、前記ガラス材料と、前記金属元素を含む第2の導電性材料と、ビヒクルとを混練する工程とを備えており、前記ガラス組成物及び前記第1及び第2の導電性材料は鉛を含まないことを特徴とする抵抗体ペーストの製造方法が提案されている。そして、第1、第2の導電性材料としてRuO等が挙げられている。
【0016】
特許文献3では、(a)ルテニウム系導電性材料と(b)所定の組成の鉛およびカドミウムを含まないガラス組成物とのベース固形物を含有し、(a)および(b)の全てが有機媒体中に分散されていることを特徴とする厚膜ペースト組成物が提案されている。そして、ルテニウム系導電性材料としてルテニウム酸ビスマスが挙げられている。
【0017】
特許文献4では、鉛成分を含まないルテニウム系導電性成分と、ガラスの塩基度(Po値)が0.4~0.9である鉛成分を含まないガラスと、有機ビヒクルとを含む抵抗体組成物であって、これを高温で焼成して得られる厚膜抵抗体中にMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在することを特徴とする抵抗体組成物が提案されている。
特許文献4によれば、ガラスの塩基度がルテニウム複合酸化物の塩基度に近いことで、ルテニウム複合酸化物の分解抑制効果が大きいとされている。また、ガラス中に所定の結晶相を析出させることによって導電ネットワークを形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2005-129806号公報
【文献】特開2003-7517号公報
【文献】特開平8-253342号公報
【文献】特開2007-103594号公報
【非特許文献】
【0019】
【文献】九州大学大学院総合理工学研究科報告、平成4年9月、第14巻、第2号、173-179頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、抵抗温度係数の改善ができているとはいえなかった。また、粒径の大きい導電粒子を用いると、形成された抵抗体の電流ノイズが大きく、良好な負荷特性が得られないという問題があった。
【0021】
特許文献2に開示された技術では、ガラス中に溶解する酸化ルテニウムの量が製造条件によって大きく変動し、抵抗値が安定しないという問題があった。
【0022】
特許文献3に開示された厚膜ペースト組成物では、抵抗温度係数がマイナスに大きくなり、抵抗温度係数を0に近づけることはできなかった。
【0023】
特許文献4に開示された技術では、導電粒子としてルテニウム複合酸化物を用いることを前提としており、ルテニウム複合酸化物よりも工業的に簡便に得られる酸化ルテニウムについては具体的には検討されていなかった。また、本発明の発明者らの調査によれば、塩基度が0.4~0.9であるガラスを用い、厚膜抵抗体にMSiAl(M:Ba及び/又はSr)を発生させた抵抗体でも、TCRが中~高抵抗域(1k~10MΩ領域)で-100ppm/℃未満になることがあった。
【0024】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、抵抗温度係数に優れた厚膜抵抗体を形成できる、鉛成分を含有しない厚膜抵抗体用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するため本発明は、
鉛成分を含まないルテニウム系導電粉末と、鉛成分を含まないガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物であって、
前記ガラス粉末が、SiとBとR(前記RはCa、Sr、Baから選択された1種類以上のアルカリ土類元素を示す)を含み、前記SiをSiO として10質量%以上50質量%以下、前記BをB として8質量%以上19質量%以下、前記RをROとして40質量%以上65質量%以下の割合で含み、かつ添加成分として少なくともAl を含んでおり、
前記ガラス粉末は、電子スピン共鳴分光分析法によりE´センターとして検出される欠陥量が0以上5.0×1015spins/g以下である厚膜抵抗体用組成物を提供する。

【発明の効果】
【0026】
本発明の一側面によれば、抵抗温度係数に優れた厚膜抵抗体を形成できる、鉛成分を含有しない厚膜抵抗体用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体の一実施形態について説明する。
[厚膜抵抗体用組成物]
本実施形態に係る厚膜抵抗体用組成物は、鉛成分を含まないルテニウム系導電粉末と、鉛成分を含まないガラス粉末とを含むことができる。そして、上記ガラス粉末は、Si(ケイ素)とB(ホウ素)とRを含み、電子スピン共鳴分光分析法によりE´センターとして検出される欠陥量を0以上5.0×1015spins/g以下とすることができる。なお、上記RはCa、Sr、Baから選択された1種類以上のアルカリ土類元素を示す。
【0028】
本発明の発明者は、所定の成分を含有するガラス粉末のSi原子の不対電子に起因する欠陥量が0以上5.0×1015spins/g以下であれば、該ガラス粉末を含む厚膜抵抗体用組成物を焼成して得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数を規格下限の-100ppm/℃以上とし、0に近づけることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0029】
以下、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれる各成分について説明する。
(ルテニウム系導電粉末)
ルテニウム系導電粉末としては、ルテニウムを含有し、鉛成分を含有しない各種導電粉末を用いることができる。なお、本明細書において、「鉛成分を含有しない」とは鉛を意図して添加していないことを意味し、鉛の含有量が0であることを意味する。ただし、製造工程等で不純物成分、不可避成分として混入することを排除するものではない。
【0030】
ルテニウム系導電粉末としては、例えば酸化ルテニウム(RuO);ルテニウム酸ネオジウム(NdRu)、ルテニウム酸サマリウム(SmRu)、ルテニウム酸ネオジウムカルシウム(NdCaRu)、ルテニウム酸サマリウムストロンチウム(SmSrRu)や、これらの関連酸化物等のパイロクロア構造を有するルテニウム複合酸化物;ルテニウム酸カルシウム(CaRuO)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ルテニウム酸バリウム(BaRuO)等のペロブスカイト構造を有するルテニウム複合酸化物;ルテニウム酸コバルト(CoRuO)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)や、その他のルテニウム複合酸化物;から選択された1種類以上を用いることができ、例えば、上記酸化物から選択された2種類以上の混合物を用いることもできる。
【0031】
既述の様に、添加剤を用いても抵抗温度係数を増加させる方向、すなわちプラス方向に調整することは困難である。このため、抵抗温度係数がマイナスになり過ぎてしまうと0付近、例えば±100ppm/℃以内に調整することが困難である。しかし、抵抗温度係数がプラスであればその値が高くても調整剤等の添加剤で抵抗温度係数を0付近に調整することが可能である。
【0032】
鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物の導電物としては、厚膜抵抗体用組成物を焼成して得られる厚膜抵抗体の抵抗値が安定な、ルテニウム系導電粉末を好ましく用いることができ、特に酸化ルテニウム粉末や、ルテニウム複合酸化物粉末等のルテニウム含有酸化物粉末をより好ましく用いることができる。これらのなかで、工業的に簡便に用いることができるのは酸化ルテニウムである。このため、ルテニウム系導電粉末としては、酸化ルテニウム粉末をさらに好ましく用いることができる。特に、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物によれば、従来、ルテニウム系導電粉末として、例えば酸化ルテニウム粉末を用いた場合、抵抗温度係数が大幅にマイナスになってしまう抵抗値の領域においても、例えば必要に応じて添加剤量を調整することで抵抗温度係数が0に近い厚膜抵抗体を提供できる。このため、ルテニウム系導電粉末として酸化ルテニウム粉末を用いた場合に、特に高い効果を発揮できるので好ましい。
【0033】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いるルテニウム系導電粉末の粒径は特に限定されない。ただし、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いるルテニウム系導電粉末は、比表面積換算による平均粒径が20nm以上115nm以下であることが好ましい。比表面積換算による平均粒径はルテニウム系導電粉末の粒径をD1(nm)、密度をρ(g/cm)、比表面積をS(m/g)とし、粉末を真球とみなすと、以下の式(1)に示す関係式が成り立つ。このD1によって算出される粒径を比表面積換算による平均粒径、すなわち比表面積径とする。
【0034】
D1(nm)=6×10/(ρ・S) ・・・(1)
ルテニウム系導電粉末が酸化ルテニウム粉末の場合、酸化ルテニウムの密度を7.05g/cmとして、式(1)によって算出した比表面積径を20nm以上115nm以下とすることが好ましく、25nm以上115nm以下とすることがより好ましい。ルテニウム系導電粉末が酸化ルテニウム粉末以外の場合においても、同様に用いた材料対応する密度、および比表面積から、上記式(1)により算出した比表面積径を20nm以上115nm以下にすることが好ましく、25nm以上115nm以下とすることがより好ましい。
【0035】
ルテニウム系導電粉末の比表面積径を20nm以上とすることで、該ルテニウム系導電粉末を含む厚膜抵抗体用組成物の抵抗温度係数をより確実にプラスにできる。一方、ルテニウム系導電粉末の比表面積径を115nm以下とすることで、耐電圧特性を高めることができる。
【0036】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いるルテニウム系導電粉末の調製方法は特に限定されず、任意の方法で調製できる。
【0037】
ここでは、酸化ルテニウム粉末を製造する場合を例に、ルテニウム系導電粉末の調製方法について説明する。
【0038】
酸化ルテニウム粉末の製造方法としては、例えば湿式で合成された酸化ルテニウム水和物を熱処理することによって製造する方法が望ましい。係る製造方法では、その合成方法や熱処理の条件等によって比表面積径や結晶子径を変化させることができる。
【0039】
酸化ルテニウム粉末の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
湿式法により酸化ルテニウム水和物を合成する酸化ルテニウム水和物生成工程。
溶液中の、酸化ルテニウム水和物を分離回収する酸化ルテニウム水和物回収工程。
酸化ルテニウム水和物を乾燥する乾燥工程。
酸化ルテニウム水和物を熱処理する熱処理工程。
【0040】
なお、従来一般的に用いられていた粒径の大きい酸化ルテニウムを製造した後、該酸化ルテニウムを粉砕する酸化ルテニウム粉末の製造方法は、粒径が小さくなりにくく、粒径のばらつきも大きくなる。このため本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いる酸化ルテニウム粉末の製造方法としては、上記酸化ルテニウム水和物を熱処理することで製造する製造方法によることが好ましい。
【0041】
酸化ルテニウム水和物生成工程において、酸化ルテニウム水和物を合成する方法は特に限定されないが、例えばルテニウム含有水溶液において、酸化ルテニウム水和物を析出、沈殿させる方法が挙げられる。具体的には、例えばKRuO水溶液にエタノールを加えて酸化ルテニウム水和物の澱物を得る方法や、RuCl水溶液をKOH等で中和して酸化ルテニウム水和物の澱物を得る方法等が挙げられる。
【0042】
そして、上述のように、酸化ルテニウム水和物回収工程と、乾燥工程とで、酸化ルテニウム水和物の沈殿物を固液分離し、必要に応じて洗浄した後、乾燥することで酸化ルテニウム水和物の粉末を得ることができる。
【0043】
乾燥工程で得られた酸化ルテニウム水和物を熱処理する熱処理工程の条件は特に限定されないが、例えば酸化ルテニウム水和物粉末は、酸化雰囲気下で400℃以上の温度で熱処理することで結晶水がとれ、結晶性の高い酸化ルテニウム粉末とすることができる。ここで酸化雰囲気とは、酸素を10容積%以上含む気体であり、例えば空気を使用できる。
【0044】
熱処理工程において酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理する際の温度を、上述のように400℃以上とすることで、特に結晶性に優れた酸化ルテニウム(RuO)粉末を得ることができるため好ましい。熱処理工程における酸化ルテニウム水和物粉末の熱処理温度の上限値は特に限定されないが、過度に高温にすると得られる酸化ルテニウム粉末の結晶子径や比表面積径が大きくなり過ぎたり、ルテニウムが6価や8価の酸化物(RuOやRuO)となって揮発する割合が高くなる場合がある。このため、例えば1000℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。
【0045】
特に、酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理する温度は、500℃以上1000℃以下であることがより好ましい。
【0046】
既述のように、酸化ルテニウム水和物を製造する際の合成条件や、熱処理の条件等により、得られる酸化ルテニウム粉末の比表面積径や、結晶性を変化させることができる。このため、例えば予備試験等を行っておき、所望の結晶子径、比表面積径を備えた酸化ルテニウム粉末が得られるように条件を選択することが好ましい。
【0047】
酸化ルテニウム粉末の製造方法は、上述の工程以外にも任意の工程を有することもできる。
【0048】
上述のように、酸化ルテニウム水和物回収工程で酸化ルテニウム水和物の沈殿物を固液分離し、乾燥工程で乾燥した後、熱処理工程の前に、得られた酸化ルテニウム水和物を機械的に解砕して、解砕された酸化ルテニウム水和物粉末を得ることもできる(解砕工程)。
【0049】
そして、解砕された酸化ルテニウム水和物粉末を、熱処理工程に供し、酸化雰囲気下、400℃以上の温度で熱処理されることで、上述の通り結晶水がとれ、酸化ルテニウム粉末の結晶性を高めることができる。上述のように解砕工程を実施することで、熱処理工程に供する酸化ルテニウム水和物粉末について、凝集の程度を抑制、低減することができる。そして、解砕した酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理することで熱処理による粗大粒子や連結粒子の生成を抑制することができる。このため、解砕工程での条件を選択することでも、所望の結晶子径や、比表面積径を備えた酸化ルテニウム粉末を得ることができる。
【0050】
なお、解砕工程での解砕条件は特に限定されるものではなく、目的とする酸化ルテニウム粉末が得られるように、予備試験等を行い任意に選択できる。
【0051】
また、酸化ルテニウム粉末の製造方法は、熱処理工程後に、得られた酸化ルテニウム粉末を、分級することもできる(分級工程)。このように分級工程を実施することで、所望の比表面積径の酸化ルテニウム粉末を選択的に回収することができる。
【0052】
ここまで、酸化ルテニウム粉末の場合を例に説明したが、ルテニウム複合酸化物についてもほぼ同様にして調製できる。例えば酸化ルテニウム水和物生成工程において、ルテニウムに加えて、ルテニウム以外の所定の金属成分を添加し、ルテニウム複合酸化物の水和物を調製し、係る水和物を用いることで、ルテニウム複合酸化物を調製することもできる。
(ガラス粉末)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、鉛成分を含まないガラス粉末(ガラス)を含有することができる。なお、鉛成分を含まないガラス粉末とは、鉛を意図して添加していないことを意味し、鉛の含有量が0であることを意味する。ただし、製造工程等で不純物成分、不可避成分として混入することを排除するものではない。
【0053】
鉛成分を含有しない厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末では、骨格となるSiO以外に金属酸化物を配合することによって、焼成時の流動性を調整することができる。SiO以外の金属酸化物としては、BやROなどを用いることができる。ROの元素RはCa、Sr、Baから選択された1種類以上のアルカリ土類元素を示す。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末としては、例えばSiとBとRとを含むガラス粉末を好適に用いることができる。Rについては、上述のようにCa、Sr、Baから選択された1種類以上のアルカリ土類元素を示す。
【0054】
厚膜抵抗体に含まれるガラスは、導電粒子であるルテニウム系導電粉末との間で電気的な作用をする。ガラスの電気的な作用や、光学的な作用のような、ガラスを構成する電子が関与するほとんどの物性には、非特許文献1に開示される森永の式から算出されるガラスの塩基度との関係がみられることが知られている。例えば、Si、B、およびBaを含むガラス(Si-B-Ba系ガラスとも表記する)においてBaの含有量を変動させると、ガラスの塩基度を変化する。
【0055】
ガラスの塩基度pOは非特許文献1に開示されるように、ガラスを構成する酸化物成分の陽イオンと酸素イオン間のクーロン引力Aを基にガラスの酸素イオン供給能力として評価できる。塩基度pOの値が大きくなるに従って塩基性が強くなることを示している。
【0056】
ここで、陽イオン-酸素イオン間のクーロン引力Aは、以下の式(2)によって求められる。
【0057】
=Z×2/(r+1.40) ・・・(2)
上記式(2)中のZは陽イオンの価数を、rは陽イオンの半径(Å)を、1.40は酸素イオンの半径(Å)を、2は酸素イオンの価数をそれぞれ意味している。
【0058】
そして、以下の式(3)で表される、Aの逆数は、酸化物の酸素イオン供給能力として評価できる。
【0059】
pO′=1/A ・・・(3)
多成分系のガラスの酸素イオン供給能力では、陽イオンのモル分率nを用いて拡張でき、以下の式(4)のように表記できる。
【0060】
pO′=Σ(n×pO′) ・・・(4)
式(4)中のpO´はガラスを構成する各酸化物の塩基度を意味する。
【0061】
そして塩基度pOは、CaOの塩基度を1、SiOの塩基度を0として規格化をおこなうと、以下の式(5)で表される。
【0062】
pO=(pO′-0.405)/1.023 ・・・(5)
ところで、Si-B-Ba系ガラスであっても、ガラスのSi、B、Ba以外の構成元素を変えると、ほぼ同じ値のガラスの塩基度であっても、抵抗温度係数が異なることがある。係るガラスの塩基度と抵抗温度係数との関係からすれば、抵抗温度係数に優れた厚膜抵抗体を作製するための厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末について、ガラスの塩基度では適切に選択できないことになる。そこで、本発明の発明者はガラス粉末について更なる検討を行った。
【0063】
ガラスのSi原子には不対電子が生じることあり、この不対電子は、磁性中心活性として発現し、電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance;ESR)分光分析法で測定されるE´センター(Eプライムセンター)として検出される。
【0064】
厚膜抵抗体の導電機構を検討すると、電子伝導はガラス骨格を経由することから、本発明の発明者はガラスの主骨格であるSiにおいても何かしらの導電に関する因子を保有しているものと推定し、特に不対電子を保有するガラス欠陥であるE´センター量の関与の推定に至った。すなわち、E´センター量が多いとガラスの電子伝導が促進されて抵抗温度係数がマイナスなると推定した。
【0065】
そこで、厚膜抵抗体用ペーストに用いられる程度にまで粒度分布を調整したガラス粉末のE´センター量を電子スピン共鳴分光分析法により測定した。また、E´センター量を評価したガラス粉末と酸化ルテニウム粉末のみを用い、用いたガラス粉末以外の構成は同一とした厚膜抵抗体を製造し、抵抗温度係数を測定した。その結果、ガラスの塩基度が高くても、抵抗値の上昇に伴って抵抗温度係数が低下してマイナス値が大きくなる場合は、E´センター量が多い傾向を示すことが確認された。
【0066】
また、電子スピン共鳴測定分光分析法で測定されるE´センターとして検出される欠陥が確認できないヒュームドシリカ微粉末と酸化ルテニウム粉末のみを用い、酸化ルテニウム粉末の割合を変更した複数の厚膜抵抗体を作製し、抵抗温度係数を確認した。その結果、厚膜抵抗体が高抵抗になるに従って抵抗温度係数は低下したが、1MΩで600ppm/℃程度になり抵抗温度係数がマイナスにならないことが確認された。
【0067】
ただし、ガラス粉末にヒュームドシリカを用いると、厚膜抵抗体とセラミック基板との密着が不十分で現実的ではない。なお、ヒュームドシリカの電子スピン共鳴測定分光分析法で測定されるE´センターとして検出される欠陥は0である。
【0068】
以上の検討結果から、本実施形態の厚膜抵抗体に用いるガラス粉末は、SiとBとRとを含み、電子スピン共鳴分光分析法によりE´センターとして検出される欠陥量が0以上5.0×1015spins/g以下であることが好ましい。なお、Rは、既述の様にCa、Sr、Baから選択された1種類以上のアルカリ土類元素を示している。
【0069】
既述の様に、本発明の発明者の検討によれば、用いるガラス粉末、すなわち含有するガラスのE´センターとして検出される欠陥量を抑制することで、厚膜抵抗体の中~高抵抗域(1kΩ~10MΩ領域)における抵抗温度係数がマイナス側に大きくなることを抑制できる。特に、厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末のE´センターとして検出される欠陥量が5.0×1015spins/g以下の場合、中~高抵抗域(1kΩ~10MΩ領域)において抵抗温度係数がマイナス側に大きくなることを抑制し、例えば-100ppm/℃以上にできる。
【0070】
既述の様に、本発明の発明者の検討によれば、厚膜抵抗体の抵抗温度係数は、厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末のE´センターとして検出される欠陥量に大きく影響を受ける。そして、ガラス粉末のガラスの塩基度が厚膜抵抗体の抵抗温度係数に与える影響は、上記欠陥量と比較すると小さい。しかしながら、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末のガラスの塩基度が高い方が、抵抗温度係数はマイナス側から、0近傍へシフトし易くなる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末のガラスの塩基度は、高い方が好ましい。本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末のガラスの塩基度は、例えば0.4以上0.7以下であることが好ましい。
【0071】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末の粒径は限定されないが、ガラス粉末の粒度が大きすぎると厚膜抵抗体の抵抗値ばらつきの増大や負荷特性が低下する原因となる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末は、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定した50%体積累計粒度が2.0μm以下であることが好ましい。
【0072】
一方、ガラス粉末の粒度を過度に小さくすると、生産性が低くなり、不純物等の混入も増える恐れがある。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末の50%体積累計粒度は0.7μm以上が好ましい。
【0073】
従って、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末の、50%体積累計粒度は、0.7μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
【0074】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末は、既述の様にSiとBとRとを含有していればよく、その具体的な組成は特に限定されない。例えば、流動性を高める観点から、ガラス粉末は、SiOの含有割合が50質量部以下であることが好ましい。ただし、SiOの含有割合が10質量部より小さいとガラスになり難くなる場合がある。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末は、SiOを10質量部以上50質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0075】
また、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末は、Bを、8質量部以上30質量部以下の割合で含有することが好ましい。これは、Bの含有割合を8質量部以上とすることで、流動性を十分に高めることができ、30質量部以下とすることで耐候性を高めることができるからである。
【0076】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末は、ROを、40質量部以上65質量部以下の割合で含有することが好ましい。これは、ROの含有割合を40質量部以上とすることで、該厚膜抵抗体用組成物を用いて得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることを特に抑制できるからである。またROの含有割合を65質量部以下とすることで、ガラス成分の結晶化を抑制し、ガラスを形成し易くすることができる。なお、ガラス粉末が複数種のROを含む場合には、その合計が上記範囲を充足することが好ましい。
【0077】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれるガラス粉末は、既述のSiOとBとROに加えて、ガラスの耐候性や焼成時の流動性を調整する目的で他の成分を含有することもできる。任意の添加成分の例としては、Al、ZrO、TiO、SnO、ZnO、LiO、NaO、KO等が挙げられ、これらの化合物から選択された1種類以上をガラスに添加することもできる。
【0078】
上記化合物のうち、Alはガラスの分相を抑制しやすく、ZrO、TiOはガラスの耐候性を向上させる働きがある。また、SnO、ZnO、LiO、NaO、KO等はガラスの流動性を高める働きがある。このため、厚膜抵抗体用組成物等に要求される性能等に応じて、添加成分を添加することもできる。
【0079】
ガラスの焼成時の流動性に影響する尺度として軟化点がある。一般に、厚膜抵抗体を製造する際の、厚膜抵抗体用組成物を焼成する温度は800℃以上900℃以下である。
【0080】
このように、厚膜抵抗体を製造する際の厚膜抵抗体用組成物の焼成温度が800℃以上900℃以下の場合、本実施形態に係る厚膜抵抗体用組成物に用いるガラスの軟化点は、600℃以上800℃以下が好ましく、600℃以上750℃以下がより好ましい。
【0081】
ここで、軟化点は、ガラスを示差熱分析法(TG-DTA)にて大気中で、10℃/minで昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度である。
【0082】
本実施形態のガラス粉末の調製方法は特に限定されず、所望の組成、特性となるように調製できる。ガラス粉末は、例えば所定の成分またはそれらの前駆体を目的とする配合にあわせて混合し、得られた混合物を溶融し急冷することによって製造できる。溶融温度は特に限定されるものではないが例えば1400℃前後とすることができる。また、急冷の方法についても特に限定されないが、溶融物を冷水中に入れるか冷ベルト上に流すことにより行うことができる。
【0083】
ガラスの粉砕にはボールミル、遊星ミル、ビーズミルなど用いることができるが、粒度をシャープにするには湿式粉砕を用いることが望ましい。
(厚膜抵抗体用組成物の組成について)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれるルテニウム系導電粉末と、ガラス粉末との混合比は特に限定されるものではない。例えば所望する抵抗値等によって、ルテニウム系導電粉末とガラス粉末との混合比率を変更できる。ルテニウム系導電粉末の質量:ガラス粉末の質量は、例えば5:95以上50:50以下とすることができる。すなわち、ルテニウム系導電粉末とガラス粉末とのうち、ルテニウム系導電粉末の割合を、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0084】
これは、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するルテニウム系導電粉末とガラス粉末との合計を100質量%とした場合に、ルテニウム系導電粉末の割合を5質量%未満にすると、得られる厚膜抵抗体の抵抗値が高くなり過ぎて不安定となるおそれがあるからである。
【0085】
また、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するルテニウム系導電粉末とガラス粉末との合計を100質量%とした場合に、ルテニウム系導電粉末の割合を50質量%以下とすることで、得られる厚膜抵抗体の強度を十分に高くすることができ、脆くなることを特に確実に防ぐことができるからである。
【0086】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物中のルテニウム系導電粉末と、ガラス粉末との混合割合は、ルテニウム系導電粉末の質量:ガラス粉末の質量=5:95以上40:60以下の範囲であることがより好ましい。すなわち、ルテニウム系導電粉末とガラス粉末とのうち、ルテニウム系導電粉末の割合を、5質量%以上40質量%以下とすることがより好ましい。
【0087】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述のルテニウム系導電粉末と、ガラス粉末とを主成分として含むことが好ましく、ルテニウム系導電粉末と、ガラス粉末とのみから構成することもできる。本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述のルテニウム系導電粉末とガラス粉末との混合粉末を、例えば80量%以上100質量%以下の割合で含有することが好ましく、85質量%以上100質量%以下の割合で含有することがより好ましい。
【0088】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、必要に応じて任意の成分をさらに含有することもできる。なお、これらの任意の成分についても鉛成分を含有しない材料を用いることができる。
【0089】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物には、抵抗体の抵抗値や、抵抗温度係数、負荷特性、トリミング性の改善、調整を目的として一般に使用される添加剤を加えても良い。代表的な添加剤としてはNb、Ta、TiO、CuO、MnO、ZrO、Al、SiO、ZrSiO等が挙げられる。これらの添加剤から選択された1種類以上を加えることでより優れた特性を有する厚膜抵抗体を作成することができる。添加する量は目的によって調整されるが、ルテニウム系導電粉末とガラス粉末との合計100質量部に対して20質量部以下とすることが好ましい。
【0090】
なお、これらの成分は添加しないこともできる。すなわち本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、ルテニウム系導電粉末と、ガラス粉末とから構成することもできる。このため、ルテニウム系導電粉末とガラス粉末の合計100質量部に対して、これらの添加剤は0以上となるように添加できる。
【0091】
以上に説明した本実施形態の厚膜抵抗体用組成物によれば、所定のガラス粉末を用いることで、該厚膜抵抗体用組成物を用いて抵抗温度係数に優れた厚膜抵抗体を形成できる。また、ルテニウム系導電粉末や、ガラス粉末について、鉛成分を含有しない材料を用いている。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物についても鉛成分を含有しない組成物とすることができる。
[厚膜抵抗体用ペースト]
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストの一構成例について説明する。
【0092】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物と、有機ビヒクルとを含むことができる。本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散した構成を有することが好ましい。
【0093】
上述のように、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、有機ビヒクルと呼ばれる樹脂成分を溶解した溶剤中に、既述の厚膜抵抗体用組成物を分散することで厚膜抵抗体用ペーストとすることができる。
【0094】
有機ビヒクルの樹脂や溶剤の種類、配合については特に限定されるものではない。有機ビヒクルの樹脂成分としては、例えばエチルセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン、マレイン酸エステル等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0095】
また、溶剤としては、例えばターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等から選択された1種類以上を用いることができる。なお、厚膜抵抗体用ペーストの乾燥を遅らせる目的で、沸点が高い溶剤を加えることもできる。また、必要に応じて、分散剤や可塑剤など加えることもできる。
【0096】
樹脂成分や、溶剤の配合比は、得られる厚膜抵抗体用ペーストに要求される粘度等に応じて調整することができる。厚膜抵抗体用組成物に対する有機ビヒクルの割合は、特に限定されないが、厚膜抵抗体用組成物を100質量部とした場合に、有機ビヒクルの割合を例えば20質量部以上200質量部以下とすることができる。
【0097】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストを製造する方法は特に限定されないが、例えばスリーロールミル(3本ロールミル)、遊星ミル、ビーズミル等から選択される1種類以上を用いて、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散させることもできる。また、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物をボールミルや擂潰(らいかい)機で混合してから、有機ビヒクル中に分散させることもできる。
【0098】
厚膜抵抗体用ペーストでは、ルテニウム系導電粉末等の無機原料粉末の凝集を解し、樹脂成分を溶解した溶剤、すなわち有機ビヒクル中に分散することが望ましい。一般に、粉末の粒径が小さくなると凝集が強くなり、二次粒子を形成し易くなる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストでは、二次粒子を解し、一次粒子に分散させることを容易にするために、脂肪酸等を分散剤として添加し、含有することもできる。
[厚膜抵抗体]
本実施形態の厚膜抵抗体の一構成例について説明する。
【0099】
本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペーストを用いて製造することができる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物を含むことができ、既述のルテニウム系導電粉末と、ガラス成分とを含むことができる。
【0100】
なお、既述のように、厚膜抵抗体用組成物では、ルテニウム系導電粉末とガラス粉末とのうち、ルテニウム系導電粉末の割合を、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。そして、本実施形態の厚膜抵抗体は、該厚膜抵抗体用組成物を用いて製造でき、得られる厚膜抵抗体内のガラス成分は、厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末に由来する。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は厚膜抵抗体用組成物と同様に、ルテニウム系導電粉末と、ガラス成分とのうち、ルテニウム系導電粉末の割合が、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0101】
本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法は特に限定されないが、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上で焼成して形成することができる。また、既述の厚膜抵抗体用ペーストを、セラミック基板に塗布した後、焼成して形成することもできる。
【実施例
【0102】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の参考例、実施例、比較例(まとめて「実験例」とも記載する)における評価方法について説明する。
(1)ガラス粉末の欠陥量の測定
ガラス粉末を試料管に充填し、液体窒素温度(77K)で電子スピン共鳴分光分析装置(日本電子株式会社製)を用いて測定した。ガラス粉末の欠陥量は、濃度が既知の2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジオール-1-オキシルとルビーを標準試料として定量を行った。
(2)ガラス粉末の50%体積累計粒度
50%体積累計粒度は、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定した。
(3)ガラス粉末の軟化点測定
ガラス粉末の軟化点は、ガラス粉末を示差熱分析法(TG-DTA)にて大気中で毎分10℃昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度とした。
(4)酸化ルテニウム粉末の比表面積換算による平均粒径(比表面積径)
比表面積径は比表面積と密度より算出できる。比表面積は測定が簡単にできるBET1点法を用いた。比表面積径をD1(nm)、密度をρ(g/cm)、比表面積をS(m/g)とし、粉末を真球とみなすと、以下の式(1)に示す関係式が成り立つ。このD1によって算出される粒径を比表面積径とした。
【0103】
D1(nm)=6×10/(ρ・S) ・・・(1)
酸化ルテニウムの密度を7.05g/cmとして、比表面積径を算出した。
(5)膜厚
膜厚は、各実施例、比較例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について、触針の厚さ粗さ計(東京精密社製 型番:サーフコム480B)により膜厚を測定し、測定した値を平均することで該厚膜抵抗体の膜厚を算出した。
(6)抵抗値の測定
面積抵抗値は、各実験例において同様にして作製した25個の厚膜抵抗体の抵抗値をデジタルマルチメーター(KEITHLEY社製、2001番)で測定した値を平均することで、算出した。
(7)抵抗温度係数
抵抗温度係数の測定に当たっては、各実験例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について、-55℃、25℃、125℃にそれぞれ15分保持してからそれぞれ抵抗値を測定し、-55℃での抵抗値をR-55、25℃での抵抗値をR25、125℃での抵抗値をR125とした。そして、以下の式(A)、式(B)によって、各厚膜抵抗体について、各温度域での抵抗温度係数を計算した。次いで、算出した各温度域での抵抗温度係数の5個の厚膜抵抗体の平均を計算し、各実験例で得られた厚膜抵抗体の各温度域での抵抗温度係数(COLD-TCR、HOT-TCR)とした。いずれも単位はppm/℃になる。抵抗温度係数は0に近いことが望ましく、抵抗温度係数≦±100ppm/℃であることが優れた抵抗体の目安とされている。
【0104】
COLD-TCR=(R-55-R25)/R25/(-80)×10 ・・・(A)
HOT-TCR=(R125-R25)/R25/(100)×10 ・・・(B)
なお、表1において、COLD-TCRはC-TCR、HOT-TCRはH-TCRと表記している。
(参考例1)
低い抵抗値の厚膜抵抗体から高い抵抗値の厚膜抵抗体までが得られるように、比表面積径が36nmの酸化ルテニウム粉末と粒径15nm(TEM像による面積平均粒径)のヒュームドシリカの質量比率(酸化ルテニウム/ガラス)が、表1に示すように、87.5/12.5、80/20、75/25になるように計量、混合し、厚膜抵抗体用組成物とした。
【0105】
次いで、該厚膜抵抗体用組成物100質量部に有機ビヒクル40質量部を加え、三本ロールミル混練して参考例1に係る厚膜抵抗体用ペーストを作製した。なお、有機ビヒクルは、ターピネオール85質量%とエチルセルロース15質量%を混合し80℃で溶解して作成した。
【0106】
予めアルミナ基板に焼成して形成された、1質量%のPdと、99質量%のAgとを含む電極上に、作製した厚膜抵抗体用ペーストを焼成後の膜厚が6μm~8μmの範囲内となるように印刷した。次いで、150℃で5分間乾燥させた後、ピーク温度850℃で9分間、昇温時間と降温時間を含めたトータル30分で焼成し厚膜抵抗体を形成した。なお、厚膜抵抗体のサイズは抵抗体幅が1.0mm、抵抗体長さ(電極間)が1.0mmとなるようにした。
【0107】
その後、それぞれの混合比の厚膜抵抗体用ペーストの焼成体である厚膜抵抗体を得た後に、抵抗値と抵抗温度係数を求めた。結果を表1に示す。
(実施例1)
本実施例では、森永の式で算定される塩基度が0.60で、E´センターとして検出される欠陥量が4.3×1015spins/gであるガラス粉末を用いた。なお、係るガラス粉末は、SiO:22質量%、B:13質量%、Al:3質量%、CaO:5質量%、BaO:45質量%、ZnO:12質量%の割合で各成分を含有し、軟化点700℃、50%体積累計粒度0.95μmであった。
【0108】
ヒュームドシリカに替えて、上記ガラス粉末を用い、表1に示した割合で酸化ルテニウム粉末と混合した点以外は、参考例1と同様にして、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例2)
本実施例では、森永の式で算定される塩基度が0.60で、E´センターとして検出される欠陥量が4.9×1015spins/gであるガラス粉末を用いた。なお、係るガラス粉末は、SiO:19質量%、B:19質量%、Al:5質量%、SrO:1質量%、BaO:56質量%の割合で各成分を含有し、軟化点690℃、50%体積累計粒度0.95μmであった。
【0109】
ヒュームドシリカに替えて、上記ガラス粉末を用い、表1に示した割合で酸化ルテニウム粉末と混合した点以外は、参考例1と同様にして、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例1)
本比較例では、森永の式で算定される塩基度が0.39で、E´センターとして検出される欠陥量が5.6×1015spins/gであるガラス粉末を用いた。なお、係るガラス粉末は、SiO:42質量%、B:6質量%、Al:6質量%、CaO:5質量%、BaO:26質量%、ZnO:15質量%の割合で各成分を含有し、軟化点800℃、50%体積累計粒度1.3μmであった。
【0110】
ヒュームドシリカに替えて、上記ガラス粉末を用い、表1に示した割合で酸化ルテニウム粉末と混合した点以外は、参考例1と同様にして、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例2)
本比較例では、森永の式で算定される塩基度が0.62で、E´センターとして検出される欠陥量が8.2×1015spins/gであるガラス粉末を用いた。なお、係るガラス粉末は、SiO:22質量%、B:13質量%、CaO:5質量%、BaO:46質量%、ZnO:14質量%の割合で各成分を含有し、軟化点670℃、50%体積累計粒度1.3μmであった。
【0111】
ヒュームドシリカに替えて、上記ガラス粉末を用い、表1に示した割合で酸化ルテニウム粉末と混合した点以外は、参考例1と同様にして、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
表1に示した結果によると、実施例1、2で得られた厚膜抵抗体は、抵抗値によらず、抵抗温度係数が、いずれも-100ppm/℃以上となっていることが確認できた。特に、中~高抵抗域(1k~10MΩ領域)においても、-100ppm/℃以上になることを確認できた。なお、一部の試料において、100ppm/℃を超える厚膜抵抗体も確認されたが、既述の様に添加剤を加えることで、抵抗温度係数を±100ppm/℃以内とすることができる。
【0113】
一方、比較例1、2においては、欠陥量が多いガラス粉末を用いたため、抵抗温度係数が-100ppm/℃未満になる厚膜抵抗体が得られることを確認できた。