(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20230620BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20230620BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B29C65/16
C08L81/02
C08K7/14
(21)【出願番号】P 2023507218
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2022043262
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2022022788
(32)【優先日】2022-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】出口 由希
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-128059(JP,A)
【文献】特開2002-235003(JP,A)
【文献】特開2012-135884(JP,A)
【文献】特開2005-336229(JP,A)
【文献】特開2006-168221(JP,A)
【文献】特開2017-043772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00 - 65/82
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を配合してなるレーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重量平均分子量が40,000未満の範囲であり、かつ、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の結晶の線成長速度が10μm/分以下であることを特徴とする、レーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(ただし、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の結晶の線成長速度は、樹脂を350℃にて3分間溶融後、250℃まで30℃/分で急冷し、250℃で保持し、結晶が生成してから250℃で保持して15分経過するまで、1分おきに結晶の半径から成長速度を算出した値の平均値である。)
【請求項2】
さらにガラス繊維(B)を配合してなり、前記ガラス繊維(B)の配合量がポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して70質量部以下の範囲であることを特徴とする、請求項1記載のレーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
溶融混練物である請求項1又は2に記載のレーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなるレーザー溶着用成形品。
【請求項5】
厚みが0.6mmの場合において、紫外可視近赤外分光光度計を用いて測定した980nmのレーザー光の透過率が20%以上である、請求項4記載のレーザー溶着用成形品。
【請求項6】
請求項4又は5記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品を用いたレーザー溶着体。
【請求項7】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を配合し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有する、レーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重量平均分子量が40,000未満の範囲であり、かつ、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の結晶の線成長速度が10μm/分以下であることを特徴とする、レーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(ただし、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の結晶の線成長速度は、樹脂を350℃にて3分間溶融後、250℃まで30℃/分で急冷し、250℃で保持し、結晶が生成してから250℃で保持して15分経過するまで、1分おきに結晶の半径から成長速度を算出した値の平均値である。)
【請求項8】
さらにガラス繊維(B)を配合し、前記ガラス繊維(B)の配合量がポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して40質量部以下の範囲であることを特徴とする、請求項7記載のレーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法により得られた樹脂組成物を、溶融成形する工程を有することを特徴とする、レーザー溶着用成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法により得られた成形品を、レーザー溶着する工程を有することを特徴とする、レーザー溶着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産性、成形性に優れ、かつ高耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックが開発され、軽量でもあることから金属材料に代わる材料として電気、電子機器や自動車用等の部材として幅広く使用されている。特にポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略すことがある)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)樹脂は、耐熱性に優れつつ、かつ、機械的強度、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性にも優れるため、各種自動車部品、電気電子用部品、水廻り部品などの分野で、広範に利用されている。
【0003】
これらの部品を溶着して複合化する技術には、赤外溶着、振動溶着、超音波溶着等がある。中でもレーザー溶着法は、デザインの自由度が高く、溶着に伴う熱や振動による製品のダメージが少ないほか、溶着工程も簡便で環境負荷が少ないため、近年注目される手法である。しかしながら、PAS樹脂は一般的にレーザー透過性が低く、溶着強度を向上させるためには高出力でレーザーを照射する必要があった。その結果、樹脂中に黒点(焦げ等)が発生し、それがレーザー透過をさらに阻害するという課題があった。
【0004】
これを改善するため、重量平均分子量が40,000~80,000のPPS樹脂からなる樹脂組成物を用いることで、成形品中に形成される球晶の大きさをレーザーの波長よりも小さくし、レーザー透過性を向上させることが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの方法で得られる樹脂成形品のレーザー透過性は十分ではなく、更なる改善が求められていた。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、レーザー透過性及びレーザー溶着による溶着強度に優れるレーザー溶着用PAS樹脂成形品、当該成形品を提供可能なPAS樹脂組成物及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、重量平均分子量及び結晶の線成長速度が特定範囲のPAS樹脂を用いることで、PAS樹脂成形品の、レーザー透過性及びレーザー溶着による溶着強度に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本開示のレーザー溶着用PAS樹脂組成物は、
PAS樹脂(A)の重量平均分子量が40,000未満の範囲であり、かつ、PAS樹脂(A)の結晶の線成長速度が10μm/分以下であることを特徴とする。上記構成を具えることで、レーザー透過性及びレーザー溶着による溶着強度に優れる。
【0010】
本開示の成形品は、前記記載のレーザー溶着用PAS樹脂組成物を溶融成形してなる。
【0011】
本開示のレーザー溶着体は、前記記載の成形品を用いてなる。
【0012】
本開示のレーザー溶着用PAS樹脂組成物の製造方法は、
PAS樹脂(A)を配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有する、レーザー溶着用PAS樹脂組成物の製造方法であって、
前記PAS樹脂(A)の重量平均分子量が40,000未満の範囲であり、かつ、PAS樹脂(A)の結晶の線成長速度が10μm/分以下であることを特徴とする。
【0013】
なお、本開示における樹脂の結晶の線成長速度は、樹脂の球晶の半径方向の線成長速度のことを示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PAS樹脂(A)を含み、レーザー透過性及びレーザー溶着による溶着強度に優れるレーザー溶着用PAS樹脂成形品、当該成形品を提供可能なPAS樹脂組成物及びそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例でレーザー溶着強度試験に用いた試験片の概念図である。1はレーザー吸収側試験片であり、2はレーザー透過側試験片である。
【0016】
【
図2】実施例でレーザー溶着強度試験に用いたアルミ製補助板の概念図である。
【0017】
【
図3】実施例でレーザー溶着強度試験に用いた試験片と補助板を組み合わせたときの概念図である。1はレーザー吸収側試験片であり、2はレーザー透過側試験片であり、3はアルミ製補助板である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0019】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、PAS樹脂(A)を配合してなるレーザー溶着用PAS樹脂組成物であって、PAS樹脂(A)の重量平均分子量が40,000未満の範囲であり、かつ、PAS樹脂(A)の結晶の線成長速度が10μm/分以下であることを特徴とする。以下、説明する。
【0020】
<PAS樹脂(A)>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、必須成分としてPAS樹脂を配合してなる。
【0021】
PAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0022】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0023】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0024】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0025】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0026】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0027】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0028】
また、前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0029】
また、PAS樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0030】
(重量平均分子量)
本実施形態に係るPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されるものではないが、その上限は、結晶化に優れる点から40,000以下であることが好ましく、さらに30,000以下の範囲であることがより好ましい。一方、下限は、機械的強度及び成形性の観点から10,000以上の範囲であることが好ましく、さらに12,500以上の範囲であることがより好ましく、さらに15,000以上の範囲であることが好ましい。なお、本開示におけるPAS樹脂の重量平均分子量は、下記の測定条件によりゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定される重量平均分子量のことである。校正は6種類の単分散ポリスチレンを用いる。
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(株式会社センシュー科学製「SSC-7000」)
カラム:UT-805L(昭和電工株式会社製)
カラム温度:210℃
溶媒:1-クロロナフタレン
測定方法:UV検出器(360nm)
【0031】
(結晶の線成長速度)
本実施形態に係るPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂の結晶の線成長速度は、レーザー透過性及び機械的強度が良好となることから、好ましくは10μm/分以下の範囲であり、より好ましくは8m/分以下の範囲、さらに好ましくは5μm/分以下の範囲である。また、1μm/分以上の範囲がより好ましい。かかる範囲において、PAS樹脂は結晶化特性に優れるため、良好な成形性、レーザー透過性及び機械的強度を呈する。ただし、本開示におけるPAS樹脂の結晶の線成長速度の測定は、偏光顕微鏡を用いて行い、PAS樹脂を350℃にて3分間溶融後、250℃まで30℃/分で急冷し、250℃での保持し、結晶が生成してから250℃で保持して15分経過するまで、1分おきに結晶の半径から成長速度を算出する。得られた成長速度の平均値を結晶の線成長速度とする。偏光顕微鏡としては、市販のものが使用できるが、例えば、株式会社ニコン製「OPTIPHOT-POL」が挙げられる。
【0032】
(溶融粘度)
本実施形態に係るPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、流動性及び機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは1Pa・s以上の範囲であり、そして、好ましくは1000Pa・s以下の範囲、より好ましくは500Pa・s以下の範囲であり、さらに好ましくは200Pa・s以下の範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0033】
(非ニュートン指数)
本実施形態に係るPAS樹脂組成物に用いるPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から2.00以下の範囲以下の範囲であることが好ましい。ただし、本発明において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0034】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]
【0035】
(製造方法)
PAS樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0036】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、水洗、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸又は塩基を加えて処理し、乾燥をする方法、(後処理5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。いずれの後処理方法においても、水洗工程の際に酸や塩基を添加してpH調整をすることによって、PAS樹脂の反応性や結晶化速度、ナトリウム含有量等を制御することができ、熱水洗工程後のpHが6.5~11.5の範囲、より好ましくは6.5~8.5の範囲となるように制御することができる。
【0037】
なお、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0038】
<ガラス繊維(B)>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、さらに、ガラス繊維(B)を含むこともできる。ガラス繊維(B)を含むことによって、PAS成形品の機械的強度や成形性をより高めることができる。
【0039】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物に用いるガラス繊維(B)の原料としては当業者に公知のものが使用可能であり、その繊維径及び繊維長、さらにアスペクト比などは成形品の用途などに応じて適宜調整可能である。
【0040】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物に用いるガラス繊維(B)は、表面処理剤や集束剤で加工されたものを用いることもできる。これによりPAS樹脂との接着力を向上させることができることから好ましい。前記表面処理剤又は集束剤としては、例えば、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基等の官能基を有するシラン化合物、チタネート化合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂及びエポキシ樹脂等からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー等が挙げられ、特にウレタン樹脂を含むものであることが加工時の過剰な解繊を抑制する観点から好ましい。前記表面処理剤又は集束剤がウレタン樹脂を含む場合、その含有量について特に限定はされないが、耐燃料膨潤性の観点から、35質量%以下の範囲であることが好ましく、20質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0041】
ガラス繊維(B)を添加する場合、ガラス繊維(B)の配合量は、レーザー透過性の観点から、PAS樹脂(A)100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下の範囲がさらに好ましい。また、より優れた機械的強度を得る観点から、PAS樹脂(A)100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3量部以上がより好ましく、5質量部以上の範囲がさらに好ましい。
【0042】
<その他の成分>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、必要に応じて、ガラス繊維(B)以外の充填剤(以下、他の充填剤ということがある)を任意成分として配合することができる。これら他の充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、粒状や板状、繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。例えば、ガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の充填剤も使用できる。
【0043】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。シランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本発明においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な成形性、特に離型性を有し、かつ成形品の機械的強度が向上するため好ましい。
【0044】
更に、本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本発明において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本実施形態に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂(A)100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂(A)と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0045】
また本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及び離型剤(ステアリン酸やモンタン酸を含む炭素原子数18~30の脂肪酸の金属塩やエステル、ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなど)等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0046】
<PAS樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、PAS樹脂(A)を配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有する、レーザー溶着用PAS樹脂組成物の製造方法であって、前記PAS樹脂(A)の重量平均分子量が40,000未満の範囲であり、かつ、PAS樹脂(A)の結晶の線成長速度が10μm/分以下であることを特徴とする。以下、詳述する。
【0047】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、上記必須成分を配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有する。より詳しくは、本発明のPAS樹脂組成物は、各必須成分、及び、必要に応じてその他の任意成分を配合してなる。本発明に用いる樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、必須成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる
【0048】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂(A)の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0049】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、前記成分のうち、任意成分のガラス繊維(B)を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0050】
このように溶融混練して得られるPAS樹脂組成物は、前記必須成分と、必要に応じて加える任意成分及びそれらの由来成分を含む溶融混合物である。このため、本発明のPAS樹脂組成物は、PAS樹脂(A)が連続相を形成し、任意成分が分散相を形成したモルフォロジーを有する。本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0051】
<成形品、成形品の製造方法>
本実施形態に係るPAS成形品はPAS樹脂組成物を溶融成形してなる。また、本実施形態に係る成形品の製造方法は、前記PAS樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。このため、本実施形態に係る成形品は、PAS樹脂(A)が連続相を形成し、任意成分が分散されたモルフォロジーを有する。PAS樹脂組成物が、かかるモルフォロジーを有することにより、耐燃料膨潤性及び機械的強度に優れた成形品が得られる。
【0052】
また、本実施形態に係る成形品は、厚みが0.6mmの場合において、紫外可視近赤外分光光度計を用いて測定した980nmのレーザー光の透過率が20%以上であることを特徴とする。当該厚みにおいて20%以上のレーザーを透過すると、当該成形品は優れたレーザー透過性を有すると認められ、レーザー強度及び照射時間を低下させても良好な接着強度を呈するため、レーザー吸収点となる黒点の発生を抑制できる。なお、前記透過率については、例えば、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0053】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは130~190℃に設定すればよい。
【0054】
本実施形態に係るPAS樹脂成形品の用途としては、、特に限定されるものではなく各種製品として用いることが可能であるが、レーザー透過性及び溶着強度に優れることを特徴としたものであるから、特にレーザー溶着する部品に好適である。また、この他にも、以下のような通常の樹脂成形品とすることもできる。例えば箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体又はモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モータ、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、温度センサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイル及びそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。
【0055】
また、本実施形態に係るPAS樹脂成形品は、他のPAS樹脂成形品や、PAS樹脂以外の樹脂成形品とレーザー溶着して、複合化することもできる。
【0056】
<レーザー溶着体、レーザー溶着体の製造方法>
本実施形態に係るレーザー溶着体は前記PAS樹脂成形品をレーザー溶着してなる。また、本実施形態に係るレーザー溶着体の製造方法は、前記PAS樹脂成形品をレーザー溶着する工程を有する。
【0057】
レーザー溶着は、レーザー光に対して透過性を有する樹脂成形品と、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂成形品とを接触させ溶着して、両樹脂部材を接合させる方法である。より具体的には、成形品間に圧力(溶着圧力)をかけながら、レーザー光透過性を有する成形品側から重ね合わせたレーザー光吸収性を有する成形品側に向かってレーザー光を照射し、成形品の界面を発熱させて溶融した樹脂を溶着する方法である。
【0058】
レーザー溶着において、レーザー光の照射条件は特に限定されず、使用する材料の性状や成形品の形状に応じ適宜調整することができる。例えば、レーザー光の波長や出力、走査距離、走査速度、溶着圧力、照射回数、照射時間等の条件を調整することができる。レーザー溶着に用いるレーザー光源としては、近赤外域のレーザー光が挙げられ、特に、波長900~1100nmの範囲のレーザーが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例、比較例を用いて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0060】
<実施例1~3及び比較例1、2>
表1に記載する組成成分及び配合量にしたがい、各材料を配合した。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30α(製品名)」にこれら配合材料を投入し、樹脂成分吐出量30kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度320℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。ガラス繊維はサイドフィーダー(S/T比0.5)から投入し、それ以外の材料はタンブラーで予め均一に混合しトップフィーダーから投入した。得られた樹脂組成物のペレットを140℃ギヤオーブンで2時間乾燥した後、射出成形することで各種成形品を作製し、下記の試験を行った。
【0061】
<評価>
【0062】
(1)レーザー透過率の測定
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75D-HP)に供給し、金型温度140℃に温調した成形用金型を用いて射出成形を行い、各実施例及び比較例について、縦60mm×横60mm×厚さ0.6mmのシート状成形品を得た。株式会社島津製作所製紫外可視近赤外分光光度計「UV-3150」を用いて、得られた成形品の波長980nmにおける透過率(%)を測定した。なお、光源には50Wハロゲンランプを用いた。結果を表1に示す。
【0063】
(2)レーザー溶着強度の測定
・溶着試験片の作製
各実施例及び比較例について、(1)と同様の操作で、透過側試験片(縦60mm×横60mm×厚さ0.6mm)及び吸収側試験片(縦60mm×横60mm×厚さ1.0mm)を得た。Evosys Laser社製レーザー溶着機「EVO 1800」を用いて、
図1に示すように試験片をT字型に溶着し、溶着試験片を得た。なお、溶着の際はレーザー波長980nm、レーザー強度120W、走査速度70mm/sで3回レーザーを照射した。
【0064】
・溶着強度の測定
得られた溶着試験片の溶着強度を、株式会社島津製作所製卓上形精密万能試験機「オートグラフAGS-X」を用いて測定した。この際、樹脂材料の破断が溶着部の破断よりも先に生じることを抑制するため、
図2に示すような中央にスリット部が備えられたアルミ製の補助板を、溶着試験片に
図3のように設置した。試験速度1mm/分で溶着試験片を上下に引っ張って、溶着強度(N)を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(3)結晶の線成長速度の測定
各PPS樹脂0.5gをプレパラート上に秤量し、350℃に設定されたホットプレート上で3分間静置して樹脂を完全に溶融させた後、上からカバーガラスをかけてプレスした。その後、ホットプレートの温度を250℃に変更して600℃/分で樹脂を冷却し、そのまま250℃に保持した。結晶が生成してから250℃で保持後15分経過するまで株式会社ニコン製偏光顕微鏡「OPTIPHOT-POL」を用いて40倍で観察し、1分おきの結晶の半径から成長速度(μm/分)を算出した。
【0066】
(4)樹脂の重量平均分子量の測定
下記の測定条件によりゲル浸透クロマトグラフィーを用いてPPS樹脂の重量平均分子量を測定した。校正は6種類の単分散ポリスチレンを用いて行った。
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(株式会社センシュー科学製「SSC-7000」)
カラム:UT-805L(昭和電工株式会社製)
カラム温度:210℃
溶媒:1-クロロナフタレン
測定方法:UV検出器(360nm)
【0067】
【0068】
・PAS成分
PPS樹脂
A-1:重量平均分子量29,000、結晶の線成長速度3μm/分、溶融粘度(V6)25Pa・s
A-2:重量平均分子量10,000、結晶の線成長速度10μm/分、溶融粘度(V6)5Pa・s
a-3:重量平均分子量8,000、結晶の線成長速度13μm/分、溶融粘度(V6)2Pa・s
【0069】
・ガラス繊維
B-1:日本電気硝子株式会社製「T-717H」、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm
【0070】
表1から、実施例の樹脂組成物からなる成形品はレーザー透過率に優れており、当該成形品を用いたレーザー溶着体は良好な溶着強度を示すことが認められた。
【要約】
レーザー透過性及びレーザー溶着による溶着強度に優れるレーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品、当該成形品を提供可能な樹脂組成物及びそれらの製造方法を提供する。さらに詳しくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂を配合してなるレーザー溶着用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重量平均分子量が40,000未満の範囲であり、かつ、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶の線成長速度が10μm/分以下であることを特徴とする。
【選択図】なし