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特許7298906光制御性のウイルスタンパク質、その遺伝子、及びその遺伝子を含むウイルスベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】光制御性のウイルスタンパク質、その遺伝子、及びその遺伝子を含むウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/40 20060101AFI20230620BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/66 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
C12N15/40 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/33
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
C12N15/66 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019529764
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2018026211
(87)【国際公開番号】W WO2019013258
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017135579
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】谷 憲三朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 守俊
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誠
(72)【発明者】
【氏名】田原 舞乃
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/053629(WO,A2)
【文献】ZHOU Xin X., et al., "Optical Control of Protein Activity by Fluorescent Protein Domains", Science,2012, Vol.338, pp.810-814 and Supplementary Materials
【文献】KAWANO Fuun, et al.,"Engineered pairs of distinct photoswitches for optogenetic control of cellular proteins", Nat.Commun.,2015,6:6256
【文献】"世界最速で切り替わる小さな光スイッチタンパク質", 2015.05.28, retrieved on 2018.09.11,retrieved from the Internet, URL;https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/a_00382.html
【文献】NIHONGAKI Yuta, et al., "Photoactivatable CRISPR-Cas9 for optogenetic genome editing",Nat. Biotechnol., 2015, Vol.33, No.7, pp.755-760
【文献】"CRISPR-cas9システムを光で制御、より自在なゲノム編集へ", 2015.06.23, retrived on 2018.09.11,retrived from the Internet, URL;http://smc-jap an.org/?p=4060
【文献】DUPREX W. Paul, et al.,"Modulating the Function of the Measles Virus RNA-Dependent RNA Polymerase by Insertion of Green Fluorescent Protein into the Open Reading Frame", J. Virol., 2002, Vol.76, No.14, pp.7322-7328
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 14/08
C07K 19/00
C12N 1/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノネガウイルス目のLタンパク質の外来遺伝子導入可能領域に、光スイッチタンパク質をコードする遺伝子が発現可能に挿入された、ウイルスタンパク質遺伝子であって、前記光スイッチタンパク質が、少なくとも2のサブユニットを含み、各サブユニットをコードする遺伝子がリンカーをコードする核酸で連結されているか、又はリンカーをコードする核酸を介さず直接連結されており、前記光スイッチタンパク質をコードする遺伝子が、Magnet遺伝子、Dronpa遺伝子、Cry2-CI B1N遺伝子及びCry2PHR-CIB1N遺伝子からなる群から選ばれる、前記ウイルスタンパク質遺伝子。
【請求項2】
前記リンカーが、10~100アミノ酸残基である、請求項1に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
【請求項3】
前記光スイッチタンパク質をコードする遺伝子が、Magnet遺伝子である、請求項1又は2に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
【請求項4】
前記ウイルスタンパク質の活性を、450~490nmの波長の光を照射することにより調節できる、請求項3に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
【請求項5】
前記タンパク質が、RNA依存性RNAポリメラーゼである、請求項1~のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
【請求項6】
前記外来遺伝子導入可能領域が、LnドメインとLcドメインの間の領域である、請求項1~5のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
【請求項7】
前記光スイッチタンパク質をコードする遺伝子の上流及び/又は下流にさらにリンカーをコードする核酸を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子をコードする核酸。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子をコードする核酸を含むベクター。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子を含むウイルス又はウイルスベクター。
【請求項11】
請求項に記載の核酸、請求項に記載のベクター、又は請求項1に記載のウイルス若しくはウイルスベクターを含む、キット。
【請求項12】
請求項に記載の核酸を含む細胞。
【請求項13】
前記細胞が、iPS細胞又はその子孫細胞である、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
細胞を一過的にウイルスベクターで感染させる方法であって、
導入遺伝子を含む請求項1に記載のウイルス又はウイルスベクターを細胞に感染させる工程、
感染した細胞を光照射下で培養する工程、及び
感染した細胞を光不照射下で培養する工程、
を含む、前記方法。
【請求項15】
導入遺伝子を発現させる方法であって、
導入遺伝子を含む請求項1に記載のウイルス又はウイルスベクターを細胞に感染させる工程、及び
感染した細胞を光照射下で培養する工程、
を含む、前記方法。
【請求項16】
iPS細胞の製造方法であって、
Oct3/4、Sox2、Klf4、l-Myc(またはc-Myc)、Nanog、及びLin28からなる群から選ばれる少なくとも1の導入遺伝子を含む請求項1に記載のウイルス又はウイルスベクターを体細胞に感染させる工程、及び
感染した細胞を光照射下で培養する工程、
を含む、前記方法。
【請求項17】
感染した細胞を光不照射下で培養する工程をさらに含む、請求項15又は16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスタンパク質の酵素活性を光の照射で制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの進歩により、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入技術が確立されてきており、ADA欠損症などの重篤な遺伝病、癌、エイズをはじめとした様々な疾患に対する遺伝子治療の研究が行われている。遺伝子導入技術としては、非ウイルス的な導入法と、ウイルスを用いた導入法に大別される。しかし、非ウイルス的な形質導入技術は、一般に導入効率が低い傾向があり、導入された遺伝子の発現効率も低い。遺伝子治療においては、ウイルスを用いた遺伝子導入技術が使用され、多くのウイルスベクターが開発されている。
【0003】
ウイルスベクターは、ウイルスが本来持っている感染性を利用して、外来遺伝子を導入することができる。外来遺伝子をプロモーター制御下に配置することで、感染細胞において外来遺伝子の発現を達成することができる。このようなウイルスベクターとして用いるウイルスとして、様々なウイルスが利用可能であり、例えばゲノムへの組み込みを目的としてレトロウイルスや、一過的な遺伝子発現を目的として、アデノウイルスやアデノ随伴ウイルスが汎用されている。
【0004】
しかしながら、これまでのウイルスベクターを用いた場合、感染後にウイルスベクターの活性を制御する手法は開発されていなかった。ゲノムへの組み込みを目的としたレトロウイルスを用いた場合には、ゲノムへの組み込みが完了した後もウイルスが残存し、副作用を引き起こすことがあった。また、一過的な遺伝子発現を目的としてアデノウイルスやアデノ随伴ウイルスを用いた場合であっても、体内の様々な組織においてウイルスが残存すること、また既にヒトに感染して潜伏しているウイルスとの間で、ベクターレスキューが生じる危険性も指摘されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. General virology (1990), 71, 1153-1162; J. General virology (1997), 78, 571-576
【文献】Virology (2010) vol. 406 p. 212-227
【文献】J. Virology (2006) vol. 80, No.8, p.4122-4134
【文献】J. Virology (2002) vol.76, No.14, 7322-7328
【文献】J. Virology (2007) vol. 81, No. 24, 13649-13658
【文献】Vaccine (2010) vol. 28, p.1181-1187
【文献】J Virology, (2009) vol. 83, p.3549-3555
【文献】Nature Chemical Biology, DOI10.1038/nchembio.2205
【文献】Nature Biotechnology (2015) vol. 33, 755-760, doi:10.1038/nbt.3245
【文献】Embo J. (2002) vol. 21(10):2364-72
【文献】J. Virol. (2006) vol.80:4242-4248
【文献】Virus Res (2005)vol. 108:161-165
【文献】J Virological Methods (2006)vol. 137:152-155
【文献】Journal of Virological methods (2005)vol. 125:35-40
【文献】Journal of Virology(2014)vol. 88:11187-11198
【文献】Science, (2012) vol. 338, 810-814
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ウイルスベクターの活性の制御を可能とするウイルスベクターの開発を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、複数の機能ドメインを含むウイルスタンパク質の外来遺伝子導入可能領域に、光スイッチタンパク質をコードする遺伝子を挿入することで、ウイルスタンパク質の酵素活性を光の照射により制御できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
そこで本発明は、下記の発明に関する:
[1] 酵素活性を有するウイルスタンパク質の外来遺伝子導入可能領域に、光スイッチタンパク質をコードする遺伝子が発現可能に挿入された、ウイルスタンパク質遺伝子であって、前記光スイッチタンパク質が、少なくとも2のサブユニットを含み、各サブユニットをコードする遺伝子がリンカーをコードする遺伝子で連結されているか、又はリンカーを介さず直接連結されている、前記ウイルスタンパク質遺伝子。
[2] 前記リンカーが、10~100アミノ酸残基である、項目1に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[3] 前記光スイッチタンパク質をコードする遺伝子が、Magnet遺伝子である、項目1又は2に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[4] 前記ウイルスタンパク質の活性を、450~490nmの波長の光を照射することにより調節できる、項目3に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[5] 酵素活性を有するウイルスタンパク質が、ポリメラーゼもしくはプロテアーゼドメインを有するウイルスタンパク質である、項目1~4のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[6] 前記ウイルスが、RNAウイルスである、項目1~5のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[7] 前記ウイルスタンパク質が、RNA依存性RNAポリメラーゼである、項目1~6のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[8] 前記RNA依存性RNAポリメラーゼが、RNA依存性RNAポリメラーゼLタンパク質である、項目7に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[9] 前記外来遺伝子導入可能領域が、LnドメインとLcドメインの間の領域である、項目7又は8に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[10] 前記光スイッチタンパク質をコードする遺伝子の上流及び/又は下流にさらにリンカーを含む、項目1~9のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子。
[11] 項目1~10のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子をコードする核酸。
[12] 項目1~10のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子をコードする核酸を含むベクター。
[13] 項目1~10のいずれか一項に記載のウイルスタンパク質遺伝子を含むウイルス又はウイルスベクター。
[14] 項目11に記載の核酸、項目11に記載のベクター、又は項目12に記載のウイルス若しくはウイルスベクターを含む、キット。
[15] 項目11に記載の核酸を含む細胞。
[16] 前記細胞が、iPS細胞又はその子孫細胞である、項目15に記載の細胞。
[17] 細胞を一過的にウイルスベクターで感染させる方法であって、
導入遺伝子を含む項目13に記載のウイルス又はウイルスベクターを細胞に感染させる工程、
感染した細胞を光照射下で培養する工程、及び
感染した細胞を光不照射下で培養する工程、
を含む、前記方法。
[18] 導入遺伝子を発現させる方法であって、
導入遺伝子を含む項目13に記載のウイルス又はウイルスベクターを細胞に感染させる工程、及び
感染した細胞を光照射下で培養する工程、
を含む、前記方法。
[19] iPS細胞の製造方法であって、
Oct3/4、Sox2、Klf4、l-Myc(またはc-Myc)、Nanog、及びLin28からなる群から選ばれる少なくとも1の導入遺伝子を含む項目13に記載のウイルス又はウイルスベクターを体細胞に感染させる工程、及び
感染した細胞を光照射下で培養する工程、
を含む、前記方法。
[20] 感染した細胞を光不照射下で培養する工程をさらに含む、項目18又は19に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光制御性のウイルスタンパク質は、光の照射の有無によりその酵素活性を制御することができる。ウイルスタンパク質の酵素活性は、そのウイルスの増殖や感染などの活性に寄与することから、このような光制御性のウイルスタンパク質遺伝子を有するウイルスベクター又はウイルスの活性を、光の照射の有無により制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、麻疹ウイルスのゲノム配列をコードしているプラスミド、並びに麻疹ウイルス及び組換え麻疹ウイルスのゲノムを模式的に示す。
図2図2は、本発明の光感受性麻疹ウイルスベクターを細胞に感染させ、感染後日数における、EGFPの発現を示す写真である。
図3図3は、本発明の光感受性麻疹ウイルスベクターを細胞に感染させ、感染後日数に対する、青色光照射下、赤色光照射下、又は暗所下で培養した際の麻疹ウイルス数(PFU/ml)を示すグラフである。
図4図4は、本発明の光感受性麻疹ウイルスベクターを細胞に感染させ、感染後日数に対する、青色光照射下、赤色光照射下、又は暗所下で培養した際の麻疹ウイルス数(PFU/ml)を示すグラフである。3日目まで、青色光照射下で培養後、暗所下で培養することにより、ウイルス数が減少することが示された。
図5図5は、本発明の光感受性麻疹ウイルスベクターを細胞に感染させ、感染後日数に対する、青色光照射下、赤色光照射下、又は暗所下で培養した際の麻疹ウイルス数(PFU/ml)を示すグラフである。7日目まで暗所下で培養した後に、7日目以降青色光照射下で培養すると、ウイルス活性が戻り、増殖することが示された。
図6図6は、麻疹ウイルスミニゲノム発現プラスミドの模式図を示す。EF1αプロモーターの下流に、ハンマーヘッド型リボザイム、麻疹ウイルスゲノム5’末端配列、ナノルシフェラーゼ、麻疹ウイルス3’末端配列、HDVリボザイムがそれぞれ発現可能に結合されている。このプラスミドが細胞内にトランスフェクトされると、EF1αプロモーターの作用により、RNAが転写され、リボザイムの作用によりリボザイムの配列が切断されて、麻疹ウイルスミニゲノムを生じる。
図7図7は、CAGプロモーターの下流に、それぞれN遺伝子、P遺伝子及びL遺伝子を配置したNタンパク発現プラスミド、Pタンパク発現プラスミド、L(又はmodified L)タンパク発現プラスミドと、麻疹ウイルスミニゲノム発現プラスミドの模式図を示す。これらのプラスミドは、細胞にコトランスフェクトされると、Nタンパク、Pタンパク、Lタンパク(又は改変Lタンパク)が翻訳され生成すると共に、麻疹ウイルスミニゲノムが生成する。これらは細胞内でリボ核タンパク複合体を生成し、LタンパクのRNA依存性RNAポリメラーゼの作用により、mRNAが生じ、ミニゲノム内にコードされるタンパク質(ナノルシフェラーゼ)が発現する。
図8図8は、Nタンパク発現プラスミド、Pタンパク発現プラスミド、麻疹ウイルスミニゲノム発現プラスミドと共に、Lタンパク又は改変Lタンパクをコトランスフェクトした場合における、ルシフェラーゼ活性を示す。培養を暗所又は青色光照射下で行った結果を示す。
図9図9は、L遺伝子のN末端側とpMagとが連結された遺伝子、及びL遺伝子のC末端側とnMaghigh遺伝子とが連結された遺伝子を、麻疹ウイルスベクターのL遺伝子の位置にそれぞれ有するウイルスベクターをそれぞれ模式的に示した図である。
図10図10は、狂犬病ウイルスの配列に、EGFP転写ユニット、光スイッチタンパク質ユニット(pMag-linker-nMaghigh)、光スイッチタンパク質ユニット(pMag-linker-nMag)、及び直接結合光スイッチタンパク質ユニット(pMag-Direct-nMaghigh)を追加した配列の模式図である。
図11図11は、風疹ウイルスの配列中のp150タンパク質の外来遺伝子導入可能領域に、AG1及び光スイッチタンパク質ユニット(pMag-linker-nMaghigh)を導入した配列の模式図である。
図12図12は、風疹ウイルスの配列中のp150タンパク質の外来遺伝子導入可能領域に、光スイッチタンパク質ユニット(pMag-linker-nMaghigh)を導入し、さらに構造タンパク質の領域をレポーター遺伝子(ナノルシフェラーゼ)で置換した、レポーター遺伝子発現サブゲノムレプリコンの模式図である。
図13図13は、麻疹ウイルス及び組換え麻疹ウイルスのゲノムを模式的に示す。組み換え麻疹ウイルスに導入された光スイッチタンパク質ユニットにおいて、26残基のリンカーを使用したもの(pMag-linker-nMaghigh)、サブユニットをつなぐリンカーの長さを約4倍に変化させたもの(pMag-4×linker-nMaghigh)、及びリンカーを用いず直接連結したもの(pMag-direct-nMaghigh)作成した。また、光スイッチタンパク質のサブユニットとして、nMaghighの代わりにnMagを用いた組み換え麻疹ウイルス(pMag-linker-nMag)を作成した。
図14図14は、図13で作成した組み換え麻疹ウイルスを培養細胞に感染させて、青色光照射下又は暗所下で培養した際の麻疹ウイルス数(PFU/ml)を示すグラフである。
図15図15は、図10で作成した組み換え狂犬病ウイルスを青色光照射下又は暗所下で培養した際の狂犬病ウイルス数(PFU/ml)を示すグラフである。
図16図16は、腫瘍マウスモデルにおいて、組み換え麻疹ウイルスを腫瘍に感染後、青色光照射による腫瘍体積の変遷を示すグラフ(A)、及び生存率を示すグラフ(B)である。
図17図17は、iPS細胞作成用の麻疹ウイルスのゲノムの模式図を示す。図17Bは、iPS細胞作成用のウイルスベクターにより感染させて作成したiPS細胞、並びに細胞において発現されるEGFPを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、複数の機能ドメインを含むウイルスタンパク質の外来遺伝子導入可能領域に、光スイッチタンパク質をコードする遺伝子が発現可能に挿入された、ウイルスタンパク質遺伝子に関する。ここで、光スイッチタンパク質が、少なくとも2のサブユニットを含み、各サブユニットをコードする遺伝子がリンカーで連結されることを特徴とする。
【0012】
さらに別に態様では、本発明は、複数の機能ドメインを含むウイルスタンパク質の外来遺伝子導入可能領域に、光スイッチタンパク質をコードする遺伝子が発現可能に挿入された、ウイルスタンパク質遺伝子に関する。ここで、光スイッチタンパク質が、少なくとも2のサブユニットを含み、各サブユニットをコードする遺伝子がリンカーを介さずに直接連結されることを特徴とする。
【0013】
各サブユニットは、所望の活性を発揮できる範囲で、1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、及び付加が付されてもよい。特に、リンカーを介して又は介さずに連結される部位においては、サブユニット中においてアミノ酸の欠失がされてもよい。
【0014】
ウイルスは、ゲノムの種類によりRNAウイルスとDNAウイルスに大別される。さらに、ゲノムが1本鎖から構成されるか、2本鎖から構成されるかにより区別され、1本鎖の場合には、さらに+鎖か-鎖によっても細分される。本発明においてウイルスは、DNAウイルス及びRNAウイルスの両方を指すが、好ましくはRNAウイルスである。RNAウイルスは、国際ウイルス分類委員会により、第3群~第6群に分類され、本発明において、ウイルスは第3群~第6群の任意の群に属するRNAウイルスに関してもよい。特に、RNA依存性RNAポリメラーゼ作用を有するLタンパク質に光スイッチタンパク質を導入する観点から、本発明のウイルスは、一本鎖RNAマイナス鎖(第5群)に属するウイルスに関することが好ましい。また、p150に光スイッチタンパク質を導入する観点から、本発明のウイルスは一本鎖RNA+鎖(第4群)に属するウイルスに関してもよい。
【0015】
国際ウイルス分類第5群に属する一本鎖RNAマイナス鎖のゲノムを有するウイルスとしては、モノネガウイルス目のパラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、フィロウイルス科、ボルナウイルス科、及び目未帰属のオルソミクソウイルス科、アレナウイルス科、ブニヤウイルス科のウイルスが挙げられる。これらのウイルスは、ゲノムの複製にRNA依存性RNAタンパク質を必要とし、Lタンパク質又はそのファミリーを有する。したがって、これらのウイルスのLタンパク質又はそのファミリータンパク質の外来遺伝子導入可能領域に、光スイッチタンパク質を導入可能である。特に、ラブドウイルス科に属する水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus)、狂犬病ウイルス(Rabies virus)、並びにパラミクソウイルス科に属する麻疹ウイルス(Measles virus)、センダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、イヌジステンパーウイルス(Canine distemper virus)、アザラシジステンパーウイルス(Phocine distemper virus)、牛疫ウイルス(Rinderpest virus)のLタンパク質はそれぞれ非常に相同性が高いことが知られている(非特許文献1:J. General virology (1990), 71, 1153-1162; J. General virology (1997), 78, 571-576)。
【0016】
国際ウイルス分類第4群に属する一本鎖RNAプラス鎖のゲノムを有するウイルスとして、ニドウイルス目のコロナウイルス科、アルテリウイルス科、ピコルナウイルス目のピコルナウイルス科、目未帰属のトガウイルス科、フラビウイルス科、カリシウイルス科、アストロウイルス科、へペウイルス科のウイルスが挙げられる。これらのウイルスのうち、p150タンパク質とp90タンパク質を有するトガウイルス科、ルビウイルス属、又は、nsP1、nsP2、nsP3、nsP4を有するトガウイルス科、アルファウイルス属に属するウイルスが好ましく、特に好ましくはルビウイルス属の風疹ウイルスである。また、一本鎖RNAプラス鎖を有し、かつ逆転写酵素を有することを特徴とする国際ウイルス分類第6群として、目未帰属のレトロウイルス科のウイルスが挙げられる。
【0017】
DNAウイルスは、最大で30万塩基のゲノムサイズを有するウイルスが見出されている。一方で、RNAウイルスは、DNAウイルスよりも比較的小さいサイズのゲノムを有しており、平均で1万塩基、多くとも3万塩基ほどのゲノムサイズを有する。したがって、RNAウイルスは、自己のウイルスゲノム上にコードされるウイルスタンパク質の数も、比較的少ない。例えば、モノネガウイルス目パラミクソウイルス科モルビリウイルス属に分類される麻疹ウイルスでは、約16k塩基のマイナス鎖の一本鎖RNAゲノムを有しており、3’端から、N、P、M、F、H、Lと名付けられた6つの遺伝子から構成される。また、トガウイルス科ルビウイルス属に分類される風疹ウイルスでは、約12k塩基の+鎖の一本鎖RNAであり、3’端から、p150、p90、キャプシド、E2、E1と名付けられた遺伝子が存在する。
【0018】
ウイルスタンパク質は、主にウイルス粒子の構成成分となる構造タンパク質と、感染細胞内に発現してウイルスのRNA合成や抗免疫作用に働くがウイルス粒子中には取り込まれない非構造タンパク質に大別される。本発明における「酵素活性を有するウイルスタンパク質」は、構造タンパク質であってもよいし、非構造タンパク質であってもよい。酵素活性を有するウイルスタンパク質としては、ポリメラーゼ、プロテアーゼ、キャップメチルトランスフェラーゼ、ヘリカーゼ、インテグラーゼ、ノイラメニダーゼなどが挙げられる。酵素活性を有するタンパク質は、通常そのウイルスの感染及び増殖に必須のタンパク質であり、その機能が阻害されると、ウイルスの活性が低下し、場合により不活性化する。酵素活性を有するタンパク質は、1又は複数の機能ドメインを有するものが多い。機能ドメインとしては、ポリメラーゼドメインやプロテアーゼドメインなどの酵素活性に直接影響するドメインや、酵素活性ドメインに補助的に働くドメインが挙げられる。そのようなドメイン間にはヒンジドメインや機能未知(又は機能を発揮しない)ドメインを有することがあり、そのようなドメイン間に外来遺伝子を導入しうる。外来遺伝子を導入してもなお、酵素活性を有するタンパク質の活性を維持できる領域を外来遺伝子導入可能領域という。
【0019】
外来遺伝子導入可能領域を有する酵素活性を有するタンパク質として、例えば麻疹ウイルスのLタンパク質や、風疹ウイルスのp150(非特許文献2:Virology 406 (2010) p. 212-227)、シンドビスウイルスの非構造タンパク質P3が挙げられる(非特許文献3:J. Virology (2006), vol. 80, No.8, p.4122-4134)が、これらのものに限定されることを意図するものではない。当業者であれば、外来遺伝子導入可能領域を有するウイルスタンパク質遺伝子を任意に選択できる。外来遺伝子導入可能領域に導入可能な遺伝子のサイズは、外来遺伝子導入可能領域を含むウイルスタンパク質の種類に応じて様々である。一般に、外来遺伝子導入可能領域であっても、導入できる遺伝子は、その大きさや翻訳後の立体構造に応じて変化する。導入可能な遺伝子のサイズの上限は、ウイルスタンパク質の活性が維持される範囲で任意に選択することができ、例えば1000アミノ酸残基以下、好ましくは500アミノ酸残基以下、より好ましくは400アミノ酸残基以下である。導入可能な遺伝子のサイズの下限は特に限定される必要はない。
【0020】
Lタンパク質は、モノネガウイルス目に属するウイルスが共通して有するRNA依存性RNAポリメラーゼである。モノネガウイルス目には、5つのファミリーが含まれるが、異なるファミリーに属するモノネガウイルスであっても、Lタンパク質の構造には多くの共通点が存在しており、RNA依存性RNAポリメラーゼドメイン、キャッピングドメイン、コネクタードメイン、メチルトランスフェラーゼドメイン、C末ドメインを有している。モノネガウイルス目のLタンパク内でアミノ酸配列の相同性の非常に高い領域をドメインI、II、III、IV、V、VIと呼ぶ。モルビリウイルスのLタンパク同士は、さらにアミノ酸配列の相同性が高く、相同性の高い領域は、D1~D3のドメインと呼ばれている。これらのドメインは、可変ヒンジドメイン(H1及びH2)により連結されている。ここで、H2ドメインは、外来遺伝子導入可能領域となる。したがって、Lタンパク質は、D1、H1及びD2を含むN末端ドメイン(Ln)と、D3ドメインを含むC末端ドメイン(Lc)に分けられ、LnとLcとの間には、外来遺伝子を導入できる。より具体的に、麻疹ウイルスのLタンパク質の場合には開始コドンから1707残基までをLnドメインとし、1708残基から2181残基までのLcドメインとすることができる。この外来遺伝子導入可能領域には、250残基程度の外来ポリペプチドをLタンパク質の活性に影響を与えずに導入できることが知られている(非特許文献4: J. Virology (2002) vol.76, No.14, 7322-7328, 非特許文献5:J. Virology (2007) vol. 81, No. 24, 13649-13658)が、Lタンパク質の活性を消失させない限りにおいて、任意の大きさのポリペプチドが導入されうる。理論に限定されることを意図するものではないが、LnドメインとLcドメインとが近位に存在することができれば、Lタンパクの活性が発揮されることから、800残基以上のポリペプチドであっても導入しうるが、上限としては800残基以下が好ましく、より好ましくは600残基以下であり、さらに好ましくは400残基以下であり、さらにより好ましくは300残基以下である。
【0021】
p150タンパク質は、アミノ末端にメチルトランスフェラーゼドメイン、マクロドメイン(Xドメイン)、及びプロテアーゼドメインから構成されている。Xドメインの上流には、プロリンヒンジ(PH)ドメイン及び機能未知のYドメインが存在する。PHドメインを含めたQドメインは、外来遺伝子導入可能領域を有し、250残基程度の外来ポリペプチドをp150タンパク質の活性に影響を与えずに導入できることが知られている(非特許文献6、Vaccine 28 (2010), p.1181-1187, 非特許文献7 J Virology, 2009, vol. 83, p.3549-3555)。P150の活性が発揮できる範囲で、800残基以上のポリペプチドであっても導入しうるが、上限としては800残基以下が好ましく、より好ましくは600残基以下であり、さらに好ましくは400残基以下であり、さらにより好ましくは300残基以下である。
【0022】
光スイッチタンパク質とは、光感受性タンパク質のうち、特定波長を有する光の照射により、自身もしくは他のタンパク質の活性をコントロールできるタンパク質をいう。光感受性タンパク質としては、ロドプシンや、光受容タンパク質CRY2をはじめ様々なタンパク質が知られているが、その中で特に2つ以上のサブユニットに分かれており、光照射によりサブユニット間の会合と解離を制御することができるタンパク質が好ましい。2つ以上のサブユニットにより構成される光スイッチタンパク質遺伝子としては、例えばMagnet遺伝子(pMag(配列番号1)-nMagHigh(配列番号2)、Dronpa遺伝子(DPK(配列番号3)-DPN(配列番号4))(非特許文献16:X.X. Zhou, K. Chung, A.J. Lam and M.Z. Lin, Science, 338, 810-814 (2012))、Cry2(配列番号5)-CIB1N(配列番号6)系、並びにこれらの改変遺伝子を使用することができるが、これらのものに限定されることを意図するものではない。L遺伝子に組み込む観点からは、Magnet遺伝子(pMag-nMag)が好ましい。
【0023】
照射する光の波長は、使用する光スイッチタンパク質の種類に応じて適宜選択することができる。Magnet遺伝子(pMag-nMag)を用いる場合には、450~490nm、Dronpa遺伝子(DPK-DPN)を用いる場合には、390~500nm、Cry2-CIB1N遺伝子を用いる場合に450~490nmの波長を用いることができる。生体内での光スイッチタンパク質のオン-オフを制御する観点からは、生体内での透過性の高い波長が好ましく、例えば450~900nmの波長が好ましく、更に好ましくは650~900nmである。光スイッチタンパク質は、感受性の波長領域を変更するために任意に改変することができる。したがって、当業者であれば、本発明の使用態様に応じて好ましい吸収波長となるように、公知の光スイッチタンパク質を改変することができる。
【0024】
2つ以上のサブユニットにより構成される光スイッチタンパク質は、通常、独立して遊離しているサブユニットが、特定波長の光の照射の元で会合する性質を有する。この性質を利用し、光スイッチタンパク質をCre-loxPシステムと組み合わせることで、DNA組換え反応を光でコントロールできるシステムが考案されている(非特許文献8:Nature Chemical Biology, DOI10.1038/nchembio.2205)。具体的に、DNA組換え酵素であるCreを二分割し、N末端側(CreN)とC末端側(CreC)とにそれぞれ光スイッチタンパク質であるMagnet遺伝子のサブユニット(pMag及びnMag)が連結されて、独立に発現されるシステムである。CreN-pMagとCreC-nMagは、光非照射下では、それぞれ遊離サブユニットとして存在しているが、青色光照射下ではpMagとnMagとが会合し、Creの酵素活性が発揮される。同様に、光スイッチタンパク質であるMagnet遺伝子をCrisper-Cas9システムと組み合わせることでDNA組換え反応を光でコントロールできるシステムも考案されている(非特許文献9: Nature Biotechnology 33, 755-760(2015) doi:10.1038/nbt.3245)。Magnet遺伝子として使用されるpMagサブユニット(配列番号1)とnMagサブユニット(配列番号7)は、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列、及び配列番号2のアミノ酸配列を有し、遊離のタンパク質として発現し、青色光照射下で会合する。会合速度が異なる改変型の遺伝子が知られており、改変されたMagnet遺伝子を使用することもできる。pMagサブユニット(配列番号1)の改変型遺伝子として、pMagFast1(配列番号76)、pMagFast2(配列番号77)などが知られている。また、nMagサブユニット(配列番号7)の改変型遺伝子として、nMagHigh(配列番号2)などが知られている。
【0025】
本発明では2つ以上のサブユニットにより構成される光スイッチタンパク質は、サブユニット間がリンカーで連結される。サブユニット数がnである場合、サブユニット間のリンカーはn-1個存在することとなる。各リンカーの長さは、光スイッチ遺伝子の機能の発揮し、かつウイルスタンパク質の機能の発揮する観点で任意に選択することができる。光スイッチ遺伝子を、外来遺伝子導入可能領域に組み込んだ場合に、ウイルスレスキューが可能でありさえすれば、リンカー残基数を調節することで、光スイッチの遺伝子の機能を調節しうる。その理由としては、ウイルスレスキューが可能であるということは、光照射下において、光スイッチタンパク質のサブユニットが会合し、会合状態でのウイルスタンパク質の活性が維持できているといえ、リンカーの長さは会合状態に影響を及ぼしにくい一方で、未会合状態(光非照射下)では、リンカーを伸ばしていけば何れかの長さでウイルスタンパク質の活性を低下することができるからである。
【0026】
リンカー残基数の上限は、外来遺伝子導入可能領域における、導入遺伝子のサイズの上限と、導入する光スイッチタンパク質のサブユニットのサイズに応じて、適宜選択することができ、例えば100残基以下が好ましく、50残基以下がより好ましく、30残基以下がさらにより好ましい。リンカー残基数の下限は、サブユニットの遊離・会合を許容する観点から、10残基以上が好ましく、15残基以上がより好ましく、20残基以上がさらにより好ましい。リンカーの配列は任意の配列であってもよいが、βシートやαヘリックスなどの二次構造をとらないことが好ましい。したがって、リンカー中のグリシンの含量が25%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらにさらに好ましい。
【0027】
また、光スイッチタンパク質とウイルスタンパク質との間は、さらにリンカーで連結されてもよいし、直接連結されてもよい。N末側のサブユニットとウイルスタンパク質との間のリンカーを、N-リンカー(又は上流リンカー)と呼ぶこととし、C末側のサブユニットとウイルスタンパク質との間のリンカーをC-リンカー(又は下流リンカー)と呼ぶことができる。N-リンカー及びC-リンカー残基の上限及び下限は、導入遺伝子のサイズの上限と、導入する光スイッチタンパク質のサブユニットのサイズに応じて、適宜選択することができる。例えば50残基以下が好ましく、30残基以下がより好ましく、15残基以下がさらにより好ましい。リンカーの代わり、又はリンカーとともに外来遺伝子の導入の可否を検出するためのタグが含まれてもよい。
【0028】
本発明の1の態様では、本発明にかかる光スイッチタンパク質をコードする遺伝子が発現可能に挿入されたウイルスタンパク質遺伝子をコードする核酸に関する。「遺伝子をコードする核酸」には、元となる核酸配列の他に、縮重により同一の遺伝子をコードする核酸が含まれる。本発明のさらなる態様では、かかる核酸を含むプラスミドベクターやウイルスベクターにも関する。
【0029】
本発明のウイルスベクターは、ウイルス遺伝子をコードする核酸の他に、任意の外来遺伝子をコードする核酸を含むことができる。本発明のウイルスベクターは、光の照射により局所的にウイルスベクターの活性化を行うことができることから、ウイルスベクターの投与後、光の照射により部位特異的にウイルスベクターを活性化でき、外来遺伝子を発現させることができる。光は体外から照射されてもよいし、内視鏡を用いて体内から照射することもできる。このようなウイルスベクターを、光感受性ウイルスベクターと呼ぶことができる。また本発明の光感受性ウイルスは、当該ウイルスのもつ細胞溶解性、特に腫瘍溶解活性を利用して、癌などの疾患治療に利用しうる。光感受性ウイルス感染後、標的となる細胞、特に癌細胞が含まれる領域に光を照射することで、部位特異的に細胞溶解を引き起こすことができる。
【0030】
麻疹ウイルスは、一般的に複数本のゲノムを粒子内に取り込むことができる(非特許文献10:Emboj. 2002 May 15, 21(10):2364-72)。そのため、ゲノムを2本、もしくは3本に分節化しても、増殖することができる(非特許文献11:J. Virol. 2006; 80:4242-4248)。したがって、本発明のウイルスベクターは、必ずしも1本のゲノムからのみ構成されることをいとしておらず、場合により2本、3本、又はそれ以上の本数のゲノムを含んでいてもよい。
【0031】
光感受性ウイルスベクターに導入する外来遺伝子は、その目的に応じて適宜選択することができる。例えば、癌に対する遺伝子治療のために使用する場合、癌細胞に直接癌抑制遺伝子(p53、Rb、RCA1等)を導入することもできるし、リンパ球にT細胞受容体(TCR)などの遺伝子を発現させて、腫瘍抗原特異的な細胞傷害活性を高めることができる。また、遺伝子欠陥にともなう遺伝病患者に対する遺伝子導入治療としては、遺伝子欠陥を補うことが可能な遺伝子を外来遺伝子としてウイルスベクターに導入できる。このような遺伝子として、例えば筋ジストロフィーの治療に用いられるジストロフィン、ラミニンa2、ジストログリカン等が用いられる。治療対象の疾患及び治療のために導入する遺伝子については、当業者が適宜選択することができる。
【0032】
治療目的以外にも、研究目的などのために本発明のウイルスベクターを利用することができる。本発明のウイルスベクターで細胞を感染後、所定の光を照射することで、外来遺伝子の一過的な発現が可能になり、またその後光照射を停止することで、ウイルスの活性を低下させ、細胞からのウイルスの排除が可能になる。iPS細胞の作成には、OCT3/4、SOX2、Klf4、l-Myc(またはc-Myc)といったリプログラミング因子を体細胞に発現させる必要がある。従来のウイルスベクターによる実験では、ウイルスの活性を制御できない。そうすると、従来のウイルスベクターを用いた実験では、iPS細胞へと誘導した後に、ウイルスを排除することができない。一方で、導入された因子の一部は癌遺伝子としても知られていることから、iPS細胞が癌化するおそれが指摘されている。本発明のウイルスベクターを利用して遺伝子導入を行い、光照射を行うことにより、リプログラミング因子の一つ又は複数を、一過的に細胞で発現することが可能になる。そして光照射を停止することで、ウイルス活性を低下又は不活性化することができる。これにより、iPS細胞を誘導後、継代を繰り返すことでウイルスの完全な排除が可能となる。
【0033】
本発明の更なる態様では、本発明の光感受性ウイルスベクターを用いた、細胞に一過的にウイルスベクターを感染させる方法にも関する。より具体的に、この方法は、本発明の光感受性ウイルスベクターを細胞に感染させる工程、感染した細胞を光存在下で培養する工程、及び感染した細胞を光不存在下で培養する工程を含む。光存在下で培養することで、ウイルスベクターを活性化し、導入遺伝子の遺伝子発現を促進することができる。その後、光不存在下で培養することで、ウイルスを不活性化し、ウイルスを排除することができる。ウイルスを完全に排除するために、暗所下での継代培養が行われうる。数世代の境内培養により、ウイルスを完全に排除することができる。
【0034】
一過的にウイルスベクターを感染させる方法は、iPS細胞の製造方法に応用することができる。この方法ではOct3/4、 Sox2、 Klf4、l-Myc(またはc-Myc)、Nanog、及びLin28からなる群から選ばれる少なくとも1の導入遺伝子を含む、本発明の光感受性ウイルスベクターを体細胞に感染させる工程、及び感染した細胞を光存在下で培養する工程を含む。光存在下で培養することで、導入遺伝子が細胞内で発現され、特定の組合せ、例えばOct3/4、 Sox2、 Klf4、及びl-Myc、又はOct3/4、Nanog、及びLin28が発現した場合に、iPS細胞へと誘導される。誘導されたiPS細胞について、さらに光不存在下で培養する工程が行われうる。この工程により、iPS細胞に感染していたウイルスベクターは不活性化される。ウイルスベクターを完全に排除するために、暗所下での継代培養が行われうる。数世代の継代培養により、ウイルスベクターを完全に排除することができる。これにより、導入遺伝子を含まないiPS細胞を作成することができる。導入遺伝子を含まないiPS細胞とは、iPS細胞を誘導するために導入された導入遺伝子及びその導入遺伝子を導入するために用いられたウイルスベクターを実質的に含まないiPS細胞又はその子孫細胞をいう。「ウイルスベクターを実質的に含まない」とは、例えばRT-PCRの手法により、ウイルスベクターの存在を確認した際に未検出であることをいう。
【0035】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0036】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【0037】
実施例1:光スイッチタンパク質を導入したウイルスの作成
組換え麻疹ウイルス生成用のプラスミドの作成
麻疹ウイルスIC-B株のゲノム配列をコードしているプラスミドp(+)MV323を元に、組換え麻疹ウイルス生成用のプラスミドを作成した。麻疹ウイルスのゲノムの先頭にEGFP転写ユニットを追加した(図1)(配列番号8)。これにより、ウイルスが感染した細胞をEGFPの発現により確認が可能になる。Lタンパク遺伝子の外来遺伝子導入可能領域に、光応答性遺伝子であるDP(配列番号9)、pMag-nMaghigh(配列番号10)、CRY2-CIB1N(配列番号11)、及びCRY2PHR-CIB1N(配列番号12)の遺伝子を導入して、改変Lタンパク遺伝子を製造した。これらの遺伝子導入は、In-fusionキット(Clontech)を用いて行った。各プラスミドを作製するために用いたPCRプライマーは下記の通りである。これらの遺伝子を導入したプラスミドの配列は、p(+)MV323-DPK-DPN(配列番号13)、p(+)MV323-pMag-nMaghigh(配列番号14)、p(+)MV323-CRY2-CIB1N(配列番号15)、及びp(+)MV323-CRYPHR-CIB1N(配列番号16)である。
【表1】
【0038】
組換え麻疹ウイルスの合成
6ウェルプレートに生育させたBHK/T7-9細胞に、0.8μgのNタンパク発現プラスミド(pCITE-IC-N)(配列番号33)、0.6μgのPタンパク発現プラスミド(pCITE-IC-PΔC)(配列番号34)、1.6μgのLタンパク発現プラスミド(pCITE-9301B-wtL)(配列番号35)と、上述の組換え麻疹ウイルス生成用のプラスミド(5μg)をX-tremeGENE HP(ロシュ)を用いてトランスフェクトした。2日の培養後、BHK/T7-9細胞をVero/hSLAM細胞へ重層し、ウイルスレスキューの有無を調べた。
【表2】
【0039】
光応答性の確認
レスキューされた組換え麻疹ウイルスをMOIが0.01となるようにVero/hSLAM細胞に感染させた。感染後、光応答性の遺伝子を組み込んだ麻疹ウイルスで感染させた細胞を、青色LED(ピーク波長:青色470nm)を照射群、暗所群、赤色LED(ピーク波長:655nm)照射群とに分けて培養し、EGFPの発現の有無を調べた。光スイッチタンパク質として、pMag-nMaghighを導入した場合、青色LED照射群でEGFPの発現が見られた一方で、暗所群ではEGFPの発現が少なかった(図2)。この光応答性のウイルスを「Magnet-L光感受性麻疹ウイルス」と呼ぶこととする。
【0040】
実施例2:光感受性麻疹ウイルスの光照射による活性の制御
光感受性麻疹ウイルスの増殖曲線
6穴プレートに生育させたVero/hSLAM細胞に、実施例1で取得されたMagnet-L光感受性麻疹ウイルスをMOI が0.01になるように感染させた。青色または赤色LEDを当てる場合は、CO2インキュベーター内で、ISLM-150X150-RB(CCS)でそれぞれの色のLED(ピーク波長:赤655nm、青色470nm)を照射しながら培養した。様々な時間で細胞と培養液を回収し、増殖したウイルスの感染力価(PFU)を測定した(図3)。青色LED照射群でのみウイルスの増殖が確認された(図3)。蛍光顕微鏡でEGFPの蛍光を確認することでも、青色LED照射依存的にウイルスが増殖していることを確認した(図2)。同様の実験を実施し、青色LED照射群で、一部、4日目から青色LED照射を止めて、ウイルス増殖の変化を観察した(図4)。青色LEDの照射を停止すると、ウイルスの増殖が止まり、力価が徐々に減少した(図4)。同様の実験を実施し、Magnet-L光感受性麻疹ウイルスで感染させたVero/hSLAM細胞を暗所で7日間培養し、7日目から青色LED照射を開始した。青色LED照射の開始後、ウイルスの増殖が開始され、10日目以降、高いウイルス力価が確認された(図5)。
【0041】
実施例3:ミニゲノムアッセイ
麻疹ウイルスミニゲノム発現プラスミドの作成
pcDNA3(Thermo Fisher Scientific社)のCMVプロモーター領域を、pEF-DEST51(Thermo Fisher Scientific社)のEF1alphaプロモーター配列で置き換え、そのEF1alphaプロモーター配列の下流に、ハンマーヘッド型リボザイム配列(配列番号42)、麻疹ウイルスゲノム5’末端配列(配列番号43)、nano luc遺伝子配列(Promega社、pNL3.3由来)(配列番号44)、麻疹ウイルスゲノム3’末端配列(配列番号45)、及びHDVリボザイム配列(配列番号46)を組み込んだ麻疹ウイルスミニゲノム発現プラスミド(配列番号47)を作成した(図6)。この麻疹ウイルスミニゲノム発現プラスミドを細胞にトランスフェクトすると、EF1alphaプロモーターの働きにより、5’末端にハンマーヘッド型リボザイム、3’末端にHDVリボザイムを有するRNAが転写される。これらのリボザイムの働きにより転写されたRNAのリボザイム部分は切断され、麻疹ウイルスゲノムを模したnano Luc遺伝子を持つ麻疹ウイルスミニゲノムが生成される(図6)。
【0042】
麻疹ウイルスタンパク発現プラスミドの作成 ミニゲノムアッセイ
pCA7プラスミド(pCAG-T7プラスミドと同一)のCAGプロモーターの下流に、麻疹ウイルスIC-B株のN遺伝子配列を導入し、Nタンパク質発現プラスミド(pCA7-IC-N:配列番号48)を得た。同様に、pCA7プラスミドのCAGプロモーターの下流に、麻疹ウイルスIC-B株のP遺伝子配列を導入し、Pタンパク質発現プラスミド(pCA7-IC-PΔC:配列番号49)を得た。さらに、pCA7プラスミドのCAGプロモーターの下流に、麻疹ウイルス9301B株のL遺伝子配列を導入し、Lタンパク質発現プラスミド(pCA7-9301B-wtL:配列番号50)を得た。これらのプラスミドは、非特許文献12(Takeda et al. 2005 Virus Res 108:161-165)及び非特許文献13(Nakatsu et al. 2006 J Virological Methods 137:152-155)の記載に従って取得した。さらにL遺伝子配列の代わりに、上述のp(+)MV323-pMagnMaghigh(配列番号14)の改変Lタンパク遺伝子を元にして、上述の方法と同様にして、改変Lタンパク質(modified L)発現プラスミド(配列番号51)を得た。
【表3】
【0043】
ミニゲノムアッセイ
上述の麻疹ウイルスミニゲノム発現プラスミド(0.03μg)と、Nタンパク質発現プラスミド(0.06μg)と、Pタンパク質発現プラスミド(0.015μg)と、Lタンパク質発現プラスミド又はL改変タンパク質発現プラスミド(0.06μg)とを、TransIT LT1 (Mirus)を使用して96ウェルに播種された293T細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞では、麻疹ウイルスミニゲノムの生成とともに、Nタンパク質、Pタンパク質、及びLタンパク質(又はL改変タンパク質)が発現し、これらのタンパク質が全て揃うと、リボ核タンパク複合体が形成する(図7)。リボ核タンパク複合体は、LタンパクのRNA依存性RNAポリメラーゼ活性により、nano Luc遺伝子が転写され、細胞内の翻訳系によりnano Lucが発現する(図7)。そこで、トランスフェクトされた細胞において、暗所又は所定の波長(青色LED照射(470nm))の光照射下で2日間培養後、10μlの培養上清を回収し、Nano-Glo luciferase Assay kit (Promega)でルシフェラーゼ活性を測定した。その結果を図8に示す。図8では、野生型Lタンパク質発現させた場合における、暗所下でのルシフェラーゼ活性を100%として示した。pMagと、nMaghighとをリンカー配列で組み込んだLタンパク質(pMag-nMaghigh)を発現させた細胞群では、暗所下(dark)ではルシフェラーゼ活性をの著しい低下が見られた一方で、青色LED照射下(blue)では、ルシフェラーゼ活性を検出することができた(図8)。実施例2に示されるようにpMagと、nMaghighとをリンカー配列で組み込んだ改変Lタンパク質(pMag-nMaghigh)を有するMagnet-L光感受性麻疹ウイルスは、青色光の照射によりその活性の制御が可能であることが示されている。本実験のミニゲノムアッセイにおいても、改変Lタンパク質の光制御が可能であることが示されており、かかるミニゲノムアッセイが、実際にウイルスを用いた試験の代替として使用できることが示された。
【0044】
実施例4:リンカーの検討
二本の麻疹ウイルスゲノムを活用して、リンカーを持たないpMag、nMaghighで光制御性の麻疹ウイルスが合成できるか試した。具体的に、一方のゲノムのL遺伝子では、L遺伝子のN末端側とpMagとが連結されており、もう一方のゲノムのL遺伝子は、nMaghigh遺伝子と、L遺伝子のC末端側が連結されているウイルスベクターをそれぞれ作成した(配列番号74及び75;図9)。これらのウイルスベクターを細胞に共感染させ、転写翻訳がされた後に、青色光を照射するとpMagとnMaghighとが会合するため、活性型のLタンパク質が生成するものと考えられたが、実際にはウイルスレスキューをすることができなかった。リンカー無しでは、青色光照射によっても活性型Lタンパクができなかった一方で、pMagとnMaghighとがリンカーを介して1つのタンパク質上に繋がれることで、青色項照射の有無により、活性を制御することができたと考えられる。
【0045】
実施例1においてウイルスレスキューができた一方で、光応答性を示さなかった改変Lタンパク質について、リンカーの検討をすることができる。ウイルスレスキューが可能である場合、光照射下において、スイッチタンパク質のサブユニットが会合し、会合状態でのウイルスタンパク質の活性が維持できているといえ、リンカーの長さは会合状態に影響を及ぼしにくい一方で、未会合状態では、リンカーを伸ばしていけば何れかの時点でウイルスタンパク質の活性を低下することができる。したがって、現在使用しているリンカーよりも長いリンカーを用いることにより、光応答性を達成しうる。
【0046】
実施例5:狂犬病ウイルスをベースとした光制御性ウイルスベクターの作成
組換え狂犬病ウイルス生成用のプラスミドの作成
狂犬病ウイルスHEP-Flury株のゲノム配列をコードしているプラスミドpHEPを元に、組換え狂犬病ウイルス生成用のプラスミドを作成した。狂犬病ウイルスのゲノムのG遺伝子とL遺伝子の間にEGFP転写ユニットを追加した(図10)(配列番号52)。これにより、ウイルスが感染した細胞をEGFPの発現により確認が可能になる。このプラスミドは、非特許文献14(Khawplod et al. 2005 Journal of Virological methods 125:35-40)の記載に従って取得した。L遺伝子の外来遺伝子導入可能領域に、光応答性遺伝子を導入した。導入される光応答性遺伝子はとして、26残基のリンカーを用いて結合されたpMag-linker-nMaghigh(配列番号10)、リンカーを介さず直接結合されたpMag-direct-nMaghigh(配列番号78)、nMaghighの代わりにnMagを用いたpMag-linker-nMag(配列番号79)を用いて、改変L遺伝子を製造した。これらの遺伝子導入は、In-fusionキット(Clontech)を用いて行った。プラスミドを作製するために用いるPCRプライマーは下記の通りである。これらの遺伝子を導入したプラスミドの配列は、pHEP-pMag-linker-nMaghigh(配列番号53)、pHEP-pMag-direct-nMaghigh(配列番号84)、pHEP-pMag-linker-nMag(配列番号85)であった。
【表4】
【0047】
組換え狂犬病ウイルスの合成
6ウェルプレートに生育させたBHK/T7-9細胞に、0.8μgのNタンパク発現プラスミド(pH-N)(配列番号60)、0.6μgのPタンパク発現プラスミド(pH-P)(配列番号61)、1.6μgのLタンパク発現プラスミド(pH-L)(配列番号62)と、0.5μgのGタンパク発現プラスミド(pH-G)(配列番号63)上述の組換え狂犬病ウイルス生成用のプラスミドpHEP-pMag-linker-nMaghigh(配列番号53)、pHEP-pMag-direct-nMaghigh(配列番号84)、及びpHEP-pMag-linker-nMag(配列番号85)(5μg)をそれぞれX-tremeGENE HP(ロシュ)を用いてトランスフェクトした。BHK/T7-9細胞を継代しながら培養を続けウイルスを得た。
【0048】
光応答性の確認
レスキューされた組換え狂犬病ウイルスをMOIが0.01となるようにBHK細胞に感染させた。感染後、光応答性の遺伝子を組み込んだ狂犬病ウイルスで感染させた細胞を、青色LED(ピーク波長:青色470nm)を照射群と、暗所群とに分けて培養し、EGFPの発現の有無を調べた。青色LED照射した場合、光応答性遺伝子としてpMag-linker-nMaghigh(配列番号10)、pMag-direct-nMaghigh(配列番号78)、及びpMag-linker-nMag(配列番号79)を導入されたウイルスは、いずれも同等に増殖した。一方、暗所群では、pMag-linker-nMaghigh(配列番号10)、pMag-linker-nMag(配列番号79)、及びpMag-direct-nMaghigh(配列番号78)の順でウイルス増殖活性が抑えられることが示された(図15)。
【0049】
実施例6:風疹ウイルスをベースとした光制御性ウイルスベクターの作成
組換え風疹ウイルス生成用のプラスミドの作成
風疹ウイルスHiroshima株のゲノム配列をコードしているプラスミドpHSを元に、組換え風疹ウイルス生成用のプラスミドを作成した。風疹ウイルスのゲノムのP150遺伝子内部のアミノ酸番号717の外来遺伝子導入可能領域にAzami Green 1 (AG1)(MBL)を挿入する(図11)(配列番号64)。このプラスミドは、非特許文献15(Sakata et al. 2014 Journal of Virology 88:11187-11198)の記載に従って取得した。これにより、ウイルスが感染した細胞をAG1の発現により確認が可能になる。P150遺伝子内に存在するもう一つの外来遺伝子導入可能領域(アミノ酸番号1005)に、pMag-nMaghigh(配列番号10)の遺伝子を導入して、改変P150遺伝子を製造する。これらの遺伝子導入は、In-fusionキット(Clontech)を用いて行う。各プラスミドを作製するために用いるPCRプライマーは下記の通りである。これらの遺伝子を導入したプラスミドの配列は、pHS-717AG1-1005pMag-nMaghigh(配列番号65)とする。AG1とpMag-nMaghighの場所を入れ替えたpHS-717pMag-nMaghigh-1005AG1(配列番号66)も作製する。
【表5】
【0050】
組換え風疹ウイルスの合成
上述のプラスミドを鋳型にして、in vitro transcription kit(Life Technologies)を用いてRNAを合成する。6ウェルプレートに生育させたBHK細胞に、2.5μgのRNAをDMRIE-C (Life Technologies)を用いてトランスフェクトする。BHK細胞を継代しながら培養を続けウイルスを得る。
【0051】
レプリコンアッセイ
風疹ウイルスレプリコン発現プラスミドの作成
風疹ウイルスHiroshima株から、構造蛋白質(C、E2およびE1)をコードしているORFを欠損させたゲノム(サブゲノムレプリコン)がクローニングされているプラスミドの構造蛋白質を欠損させた領域にnano Luc遺伝子を導入した(配列番号71)(図11)。このプラスミドは、非特許文献15:Sakata et al. 2014 Journal of Virology 88:11187-11198)に記載のプラスミドのRenilla luciferase遺伝子部分をnano Luc遺伝子に変えたものである。さらにP150配列の2カ所の外来遺伝子導入可能領域(アミノ酸番号717とアミノ酸番号1005)に、pMag-nMaghighをそれぞれ導入し、改変P150タンパク質(modified L)発現レプリコンを得た(配列番号72及び配列番号73)を得た。
【表6】
【0052】
レプリコンアッセイ
上述のレプリコンプラスミドを鋳型にして、in vitro transcription kit(Life Technologies)を用いてでRNAを合成する。24ウェルプレートに生育させたBHK細胞に、レプリコンRNA1.5μgと風疹ウイルスキャプシドRNA1.5μをDMRIE-C(Life Technologies)を用いてトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞では、P150タンパク質とP90タンパク質が発現し、これらのタンパク質のポリメラーゼ活性により、nano Luc遺伝子が転写され、細胞内の翻訳系によりnano Lucが発現する。
【0053】
実施例7:iPS細胞の作成
実施例1のMagnet-L光感受性麻疹ウイルスのゲノムに、転写ユニットとしてリプログラミング因子であるOct3/4、Sox2、Klf4、及びl-Mycを組み込み、ウイルスベクターを作成した。具体的に、N遺伝子、P遺伝子、M6489遺伝子を含む第一ゲノムと、H遺伝子と改変L遺伝子とを含む第二ゲノムからなる2本の麻疹ゲノムにリプログラミング遺伝子を導入した。第一ゲノムにおいて、Oct3をN遺伝子の上流に、Sox2遺伝子及びl-myc遺伝子を配置した(配列番号86)。第二ゲノムにおいて、H遺伝子の上流にEGFP及びKlf4遺伝子を配置した(配列番号87)(図17A)。繊維芽細胞や、ヒトの末梢血から取得された体細胞を、それぞれの細胞に適した培地で、37℃、5%CO2加湿雰囲気下で培養した。培地を捨て、ウイルスベクターをMOI=0.1以上で細胞に感染させた。感染後、細胞をES/iPS細胞用培養液で培養した。感染後に青色LED光を照射することで、各リプログラミング因子を体細胞内で発現させた。各リプログラミング因子の発現を調べ、20日以上培養を続けて、iPS細胞へと誘導した(図17B)。
【0054】
実施例8:リンカーの長さの検討
実施例1で作成したEGFP転写ユニットを追加した組み換え麻疹ウイルス(配列番号8)のLタンパク遺伝子の外来遺伝子導入可能領域に、光応答性遺伝子であるpMag-nMaghighを導入するにあたり、リンカーの働きを確認すべく、リンカーの長さを変更した。導入される光応答性遺伝子として、26残基のリンカーを用いて結合されたpMag-linker-nMaghigh(配列番号10)、その約4倍である114残基のリンカーを用いて結合されたpMag-4×linker-nMaghigh(配列番号80)、リンカーを介さず直接結合されたpMag-direct-nMaghigh(配列番号78)を作成した。また、nMaghighの代わりにnMagを用いたpMag-linker-nMag(配列番号79)を作成した。これらの光応答性遺伝子をLタンパク質の外来遺伝子導入可能領域に導入して、改変Lタンパク遺伝子を含む麻疹ウイルスゲノム生成用プラスミドを作成した。これらの遺伝子導入は、In-fusionキット(Clontech)を用いて行った。これらの光応答性遺伝子を導入したプラスミドの配列は、p(+)MV323-pMag-linker-nMaghigh(配列番号14)、p(+)MV323-pMag-4×linker-nMaghigh(配列番号81)、p(+)MV323-pMag-direct-nMaghigh(配列番号82)、及びp(+)MV323-pMag-linker-nMag(配列番号83)である。
【0055】
組換え麻疹ウイルスの合成
6ウェルプレートに生育させたBHK/T7-9細胞に、0.8μgのNタンパク発現プラスミド(pCITE-IC-N)(配列番号33)、0.6μgのPタンパク発現プラスミド(pCITE-IC-PΔC)(配列番号34)、1.6μgのLタンパク発現プラスミド(pCITE-9301B-wtL)(配列番号35)と、上述の組換え麻疹ウイルス生成用のプラスミド(5μg)をX-tremeGENE HP(ロシュ)を用いてトランスフェクトした。2日の培養後、BHK/T7-9細胞をVero/hSLAM細胞へ重層し、ウイルスをレスキューした。
【0056】
光応答性の確認
レスキューされた組換え麻疹ウイルスをMOIが0.01となるようにVero/hSLAM細胞に感染させた。感染後、光応答性の遺伝子を組み込んだ麻疹ウイルスで感染させた細胞を、青色LED(ピーク波長:青色470nm)を照射群と、暗所群とに分けて培養し、EGFPの発現の有無を調べた(図14)。青色LED照射した場合、光応答性遺伝子としてpMag-linker-nMaghigh(配列番号10)、pMag-4×linker-nMaghigh(配列番号80)、及びpMag-direct-nMaghigh(配列番号78)は、いずれも同等に増殖した。一方、pMag-linker-nMag(配列番号79)を導入したものについては、pMag-linker-nMaghighと比較して、増殖速度が悪かった。暗所群では、pMag-linker-nMaghigh(配列番号10)及びpMag-4×linker-nMaghigh(配列番号80)を導入したものについては、2日目以降に弱い増殖を示した。一方で、pMag-direct-nMaghigh(配列番号78)と、pMag-linker-nMag(配列番号79)とは、ウイルス増殖はほとんど見られなかった。
【0057】
実施例9:麻疹ウイルスによる治療活性
5~6週齢の雌Balb-c nu/nuマウスに、癌細胞株(MDA-MB-468)の懸濁液を、1×107細胞/マウスとなるように腹側部皮下に投与した。1日おきに腫瘍径及び体重を測定した。腫瘍長径が2mm以上に達した時から、1日おきに5回、組み換え麻疹ウイルスを5×105IU/マウスの濃度で腫瘍内に投与した。使用したウイルスは、光応答遺伝子としてpMag-linker-nMaghigh(配列番号10)を導入された麻疹ウイルスを用いた。マウスを青色光照射群(4匹)と、暗所(自然光)群(4匹)とに分け60日間飼育した。対照としてウイルス非投与の暗所(自然光)群(4匹)を用いた。毎日腫瘍径を観察し、長径が10mmに達した際に安楽死を行った。結果を図16A及びBに示す。青色光照射群において、腫瘍サイズの縮小をもたらした一方で、暗所(自然光)群では、腫瘍の成長の抑制は見られたものの、腫瘍サイズは縮小しなかった。青色光の照射の有無で、麻疹ウイルスの癌細胞への治療活性の調節が可能になった。
図1
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【配列表】
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