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特許7299074重質油の直接脱硫方法及び重油直接脱硫装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】重質油の直接脱硫方法及び重油直接脱硫装置
(51)【国際特許分類】
   C10G 45/08 20060101AFI20230620BHJP
   B01J 27/19 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C10G45/08 Z
B01J27/19 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019107906
(22)【出願日】2019-06-10
(65)【公開番号】P2020200390
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-01-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.掲載アドレス http://www.pecj.or.jp/japanese/jpecforum/2019/pdf/jf008.pdf 2.掲載日 平成31年4月23日 3.公開者 各務成存、森田全人、岩井豊彦、田中隆三 〔刊行物等〕1.集会名 2019年度JPECフォーラム 2.開催日 令和1年5月8日 3.公開者 各務成存、森田全人、岩井豊彦、田中隆三
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】各務 成存
(72)【発明者】
【氏名】森田 全人
(72)【発明者】
【氏名】岩井 豊彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆三
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145009(JP,A)
【文献】特開2007-289954(JP,A)
【文献】特開平11-279566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が充填された重油直接脱硫装置で重質油を水素化脱硫処理し、当該重質油の脱硫率を85.0%以上に維持しつつ、当該重質油の当該水素化脱硫処理前の重質フラクションに含まれる硫黄分濃度に対する当該水素化脱硫処理後の重質フラクションに含まれる硫黄分濃度の残存率(1)と、当該重質油の当該水素化脱硫処理前の軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度に対する当該水素化脱硫処理後の軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度の残存率(2)との比率((1)/(2))が0.60以上になるようにして、重質油を脱硫する重質油の直接脱硫方法であって、
前記触媒は、脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒を含み、
前記触媒の全充填量に対する脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒の割合が、各々3容量%以上20容量%以下、1容量%以上18容量%以下、及び65容量%以上96容量%以下であり、
前記重質フラクションが、直接脱硫方法により脱硫した重質油を、飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上芳香族分(3A)、極性レジン(Po)、多環芳香族レジン(PA)及びアスファルテン(As)の合計7種のフラクションに分離した際の、極性レジン(Po)、多環芳香族レジン(PA)及びアスファルテン(As)であり、
前記軽質フラクションは、前記合計7種のフラクションのうち、飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)及び3環以上芳香族分(3A)である、重質油の直接脱硫方法。
【請求項2】
前記触媒が、脱メタル触媒層、中間触媒層及び脱硫触媒層の順に充填される請求項に記載の重質油の直接脱硫方法。
【請求項3】
前記脱メタル触媒がNi-Mo系脱メタル触媒であり、前記中間触媒がNi-Mo系中間触媒であり、前記脱硫触媒がNi-Mo系脱硫触媒及びCo-Mo系脱硫触媒から選ばれる少なくとも一種の触媒である請求項1又は2に記載の重質油の直接脱硫方法。
【請求項4】
前記脱硫触媒が、Ni-Mo系脱硫触媒及びCo-Mo系脱硫触媒である請求項に記載の重質油の直接脱硫方法。
【請求項5】
前記脱硫触媒の全充填量に対するNi-Mo系脱硫触媒の含有量が、30容量%以上70容量%以下である請求項に記載の重質油の直接脱硫方法。
【請求項6】
前記重油直接脱硫装置が、前記触媒が充填された2塔以上の反応塔により構成される請求項1~のいずれか1項に記載の重質油の直接脱硫方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載された重質油の直接脱硫方法に用いる重油直接脱硫装置であって、
前記脱メタル触媒、前記中間触媒及び前記脱硫触媒を含む触媒が充填され、当該触媒中の前記脱メタル触媒、前記中間触媒及び前記脱硫触媒の割合が、各々3容量%以上20容量%以下、1容量%以上18容量%以下、及び65容量%以上96容量%以下である、重油直接脱硫装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質油の直接脱硫方法及び直接脱硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油を常圧蒸留して留出された常圧蒸留残渣油等の重質油は重油直接脱硫装置にて水素化脱硫処理されて、脱硫重油が得られる。脱硫重油は、JIS K2205:1991で規定される各種重油として、例えば船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機の燃料油、またボイラや温風暖房機、工業炉等の外燃機用の燃料油に利用されている。また、脱硫重油は、流動接触分解装置(FCC装置、RFCC装置)に原料油の少なくとも一種として供給され、流動接触分解ガソリン、分解軽油、分解ボトム油、燃料ガス等の各種留分が生産されている。
【0003】
重油直接脱硫装置には、通常脱メタル触媒と脱硫触媒とが充填されており、脱硫触媒を被毒し失活させ得る重質油に含まれるメタル分を脱メタル触媒層において予め除去した後、脱硫触媒層で重質油の水素化脱硫処理を行い、脱硫重油等の各種留分が得られる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-147597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既述のように、重油直接脱硫装置において水素化脱硫された各種留分は、様々な用途に用いられるため、重油直接脱硫装置の石油精製において果たす役割は極めて重要である。そのため、重油直接脱硫装置には、触媒劣化を抑制して触媒寿命を長期化すること、また触媒劣化の抑制及び触媒寿命の長期化により触媒活性を向上又はより長く保持することで、脱硫率の向上、より重質な重質油を含む原料油をも脱硫し得る脱硫性能の向上、重質油の処理量の増加等の、触媒劣化を抑制して触媒寿命を長期化することに関連した様々な性能が複合的に求められている。
【0006】
ところで、近年、環境汚染防止は世界的な最重要課題の一つとして挙げられており、国際海事機関(IMO)では、大気汚染防止対策の一環として、2020年から全ての船舶に対して燃料油中の硫黄分濃度を現行3.5質量%以下から0.5質量%以下と規制を強化することが決定された。そのため、とりわけ船舶用の燃料油に用いられる重質油等について、その硫黄分の低減が急務となっており、重油直接脱硫装置における触媒劣化の抑制及び触媒寿命の長期化が強く要望されている。
【0007】
そこで、本発明は、触媒劣化を抑制し、触媒寿命を長期化させ得る重質油の直接脱硫方法及び重油直接脱硫装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の構成を有する重質油の直接脱硫方法及び重油直接脱硫装置を提供するものである。
【0009】
1.触媒が充填された重油直接脱硫装置で重質油を水素化脱硫処理し、当該重質油の脱硫率を85.0%以上とし、かつ当該重質油の当該水素化脱硫処理前の重質フラクションに含まれる硫黄分濃度に対する当該水素化脱硫処理後の重質フラクションに含まれる硫黄分濃度の残存率(1)と、当該重質油の当該水素化脱硫処理前の軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度に対する当該水素化脱硫処理後の軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度の残存率(2)との比率((1)/(2))を0.60以上とする、重質油の直接脱硫方法。
2.脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒を含む触媒が充填され、当該触媒中の脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒の割合が、各々3容量%以上25容量%以下、1容量%以上20容量%以下、及び55容量%以上96容量%以下である、重油直接脱硫装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、触媒劣化を抑制して触媒寿命を長期化させ得る重質油の直接脱硫方法及び直接脱硫装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例及び比較例で用いた重油直接脱硫装置における触媒の充填パターンを示す模式図である。
図2】実施例1と比較例1との活性差を示すグラフである。
図3】実施例2及び3と比較例1との活性差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る重質油の直接脱硫方法、及び直接脱硫装置について具体的に説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以下」、「以上」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値は上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0013】
〔重質油の直接脱硫方法〕
本実施形態の重質油の直接脱硫方法は、触媒が充填された重油直接脱硫装置で重質油を水素化脱硫処理し、当該重質油の脱硫率を85.0%以上とし、かつ当該重質油の当該水素化脱硫処理前の重質フラクションに含まれる硫黄分濃度に対する当該水素化脱硫処理後の重質フラクションに含まれる硫黄分濃度の残存率(1)と、当該重質油の当該水素化脱硫処理前の軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度に対する当該水素化脱硫処理後の軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度の残存率(2)との比率((1)/(2))を0.60以上とすることを特徴とするものである。
【0014】
(比率)
本実施形態の重質油の直接脱硫方法において、重質油の水素化脱硫処理前の重質フラクションに含まれる硫黄分濃度に対する当該水素化脱硫処理後の重質フラクションに含まれる硫黄分濃度の残存率(1)(以後、単に「残存率(1)」と称することがある。)と重質油の当該水素化脱硫処理前の軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度に対する当該水素化脱硫処理後の軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度の残存率(2)(以後、単に「残存率(2)」と称することがある。)との比率(以下、単に「比率」と称することがある。)は0.60以上であることを要する。本比率が0.60未満となると、触媒の劣化速度が速まることで、触媒活性の低下が進行して脱硫率が低下することから、脱硫率を維持するためにより高い温度で重質油を水素化脱硫処理させる必要が生じ、結果として触媒寿命の長期化が図れなくなる。また、触媒劣化の抑制と触媒寿命の長期化を図れなくなると、これらの現象に関連した複合的な様々な性能、例えば脱硫率の向上、より重質な重質油をも脱硫し得る脱硫性能の向上、重質油の処理量の増加等が図れなくなる。
【0015】
本実施形態の重質油の直接脱硫方法によれば、残存率(1)と残存率(2)との比率を0.60以上とすることで、特に重質油の硫黄分を転化するときに生じる触媒の劣化原因となるコーク前駆体の生成を低減することができるため、触媒劣化を抑制して触媒寿命をより長期化させることが可能となった。また、これらの性能に関連した複合的な様々な性能、例えば脱硫率の向上、より重質な重質油をも脱硫し得る脱硫性能の向上、重質油の処理量の増加等を図ることも可能となった。
【0016】
本実施形態において、比率は、触媒劣化を抑制して触媒寿命をより長期化させる観点から、好ましくは0.62以上、より好ましくは0.65以上、更に好ましくは0.70以上、より更に好ましくは0.73以上である。また、上限として好ましくは1.30以下、より好ましくは1.20以下、更に好ましくは1.10以下、より更に好ましくは0.95以下である。
【0017】
本実施形態において、重質フラクションは、直接脱硫方法により脱硫した重質油を、n-ヘプタンで処理してアスファルテン(As)を分離した後、カラムクロマトグラフ(充填剤:中性シリカゲル及びアルミナ)により、飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上芳香族分(3A)、極性レジン(Po)、多環芳香族レジン(PA)及びアスファルテン(As)の合計7種のフラクションに分離した際の、極性レジン(Po)、多環芳香族レジン(PA)及びアスファルテン(As)をいう。
また、軽質フラクションは上記7種のフラクションのうち、重質フラクションではないもの、すなわち飽和分(Sa)並びに1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)及び3環以上芳香族分(3A)の芳香族分のことをいう。ここで、カラムクロマトグラフは、具体的には、実施例にて説明する方法にて行えばよい。
【0018】
上記の重質フラクション及び軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度は、上記合計7種のフラクションの各々について、その濃度に応じて測定方法を選択して濃度を測定し、重質フラクションに含まれる硫黄分濃度であれば、極性レジン(Po)、多環芳香族レジン(PA)及びアスファルテン(As)に含まれる硫黄分濃度の合計とし、軽質フラクションに含まれる硫黄分濃度であれば、飽和分(Sa)及び芳香族分(1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)及び3環以上芳香族分(3A))に含まれる硫黄分濃度の合計とする。
本明細書において、各フラクション、重質油に含まれる硫黄分濃度は、JIS K 2541-4:2003(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第4部:放射線式励起法)に準じて測定される値である。
【0019】
残存率(1)は、好ましくは6.5質量%以上、より好ましくは7.0質量%以上、更に好ましくは7.5質量%以上であり、上限として好ましくは12.5質量%以下、より好ましくは12.0質量%以下、更に好ましくは11.5質量%以下である。
残存率(2)は、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9.0質量%以上、更に好ましくは9.5質量%以上、より更に好ましくは9.9質量%以上であり、上限として好ましくは11.5質量%以下、より好ましくは11.0質量%以下、更に好ましくは10.8質量%以下、より更に好ましくは10.5質量%以下である。
残存率(1)及び残存率(2)を上記範囲内とすると、比率を0.60以上としやすくなり、より容易に触媒劣化を抑制して触媒寿命をより長期化させることが可能となる。
【0020】
(脱硫率)
本実施形態において、重質油の脱硫率は85.0%以上である。本実施形態においては、重質油の脱硫率を85.0%以上と高い水準を保ちながら、上記比率を所定範囲とすることで、触媒劣化を抑制して触媒寿命をより長期化させることが可能となった。原料の重質油がより重質で硫黄分が高く、脱硫硫黄分をより低くすることが効果的であることから、重質油の脱硫率は好ましくは87.5%以上、より好ましくは90.0%以上である。上限としては特に制限はないが、要望される性状と、効率的に重質油を水素化脱硫することを考慮すると、91.0%程度である。
重質油の脱硫率は、水素化脱硫処理前の重質油と水素化脱硫処理後の重質油とについて、硫黄分濃度を測定し、水素化脱硫処理前の重質油の硫黄分濃度に対する、水素化脱硫処理前と水素化脱硫処理後との重質油の硫黄分濃度の差分の比率である。
【0021】
本実施形態において、上記脱硫率及び比率を調整する方法としては、例えば原料油の供給量、水素の供給量、水素化脱硫処理温度(WAT:Weight Average Temperature)、重油直接脱硫装置において充填される触媒の種類及びその充填量、等により調整することができ、より確実かつ容易に調整する観点から、重油直接脱硫装置において充填される触媒の種類、その充填量、また水素化脱硫処理温度(WAT)により調整することが好ましい。
【0022】
(充填される触媒)
重油直接脱硫装置に充填される触媒としては、原料油となる重質油の水素化脱硫反応を促進させ得る脱硫触媒(「HDS触媒」とも称する。)の他、当該脱硫触媒を被毒し得る重質油中のメタル分(例えば、バナジウム、ニッケル等)を除去する脱メタル触媒(「HDM触媒」とも称する。)、脱メタルと水素化脱硫とをバランスよく行い得る中間触媒(「HDM/HDS触媒」とも称する。)等が挙げられる。
また、重油直接脱硫装置内には、重質油に含まれるスケール等による触媒の閉塞を防止する観点から、ガード材が充填されていてもよい。
【0023】
上記のHDM触媒、HDM/HDS触媒、HDS触媒としては、周期表第6族に属する金属、第8族に属する金属、第9族に属する金属及び第10族に属する金属から選ばれる少なくとも一種の金属が、金属酸化物担体等の担体に担持されたものが好ましい。
また、これらの金属とともに、リン又は五酸化二リン等のリン化合物が担持されたものも、好ましく挙げられる。
【0024】
上記金属について、触媒活性の観点から、上記の中でも、第6族に属する金属、第8族に属する金属及び第10族に属する金属がより好ましい。
第6族に属する金属としては、モリブデン、タングステンが好ましく、モリブデンがより好ましく、第8族~第10族に属する金属としては、コバルト、ニッケルが好ましい。また、より優れた触媒活性を得る観点から、第6族に属する金属と、第8族~第10族に属する金属と、を組み合わせて用いることが好ましく、中でも、ニッケル-モリブデン(「Ni-Mo系」とも称する。)、コバルト-モリブデン(「Co-Mo系」とも称する。)、ニッケル-タングステン、コバルト-タングステンの組み合わせが好ましく、特にニッケル-モリブデン、コバルト-モリブデンの組み合わせが好ましい。
【0025】
金属酸化物担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ボリア、マグネシア、チタニア及びこれらを複合したもの等が好ましく挙げられ、より好ましくはアルミナ、シリカ、チタニアであり、更に好ましくはアルミナである。
【0026】
上記金属の担持量は、とくに制限はなく、重質油の種類や、所望の脱硫率等の各種条件に応じて適宜選定すればよい。
HDM触媒について、触媒全体に対する第6族の金属の金属基準の担持量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、上限として好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。第8~第10族の金属の金属基準の担持量は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、上限として好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。また、リンの担持量はリン基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、上限として好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0027】
HDM/HDS触媒について、触媒全体に対する第6族の金属の金属基準の担持量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、上限として好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。第8~第10族の金属の金属基準の担持量は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、上限として好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。また、リンの担持量はリン基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、上限として好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0028】
HDS触媒について、触媒全体に対する第6族の金属の金属基準の担持量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、上限として好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。第8~第10族の金属の金属基準の担持量は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、上限として好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。また、リンの担持量はリン基準で、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、上限として好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下である。
【0029】
HDM触媒の比表面積は、好ましくは100m/g以上、より好ましくは120m/g以上、更に好ましくは130m/g以上であり、上限として好ましくは180m/g以下、より好ましくは165m/g以下、更に好ましくは150m/g以下である。
HDM/HDS触媒の比表面積は、好ましくは120m/g以上、より好ましくは135m/g以上、更に好ましくは155m/g以上であり、上限として好ましくは200m/g以下、より好ましくは185m/g以下、更に好ましくは170m/g以下である。
また、HDS触媒の比表面積は、好ましくは130m/g以上、より好ましくは155m/g以上、更に好ましくは175m/g以上であり、上限として好ましくは220m/g以下、より好ましくは205m/g以下、更に好ましくは190m/g以下である。
本明細書において、触媒の比表面積は、窒素ガスによるBET1点法により測定した値である。
【0030】
HDM触媒の全細孔容量は、好ましくは0.40ml/g以上、より好ましくは0.50ml/g以上、更に好ましくは0.60ml/g以上であり、上限として好ましくは1.50ml/g以下、より好ましくは1.25ml/g以下、更に好ましくは0.90ml/g以下である。
HDM/HDS触媒の全細孔容量は、好ましくは0.30ml/g以上、より好ましくは0.40ml/g以上、更に好ましくは0.50ml/g以上であり、上限として好ましくは1.30ml/g以下、より好ましくは1.10ml/g以下、更に好ましくは0.70ml/g以下である。
また、HDS触媒の全細孔容量は、好ましくは0.10ml/g以上、より好ましくは0.20ml/g以上、更に好ましくは0.40ml/g以上であり、上限として好ましくは1.10ml/g以下、より好ましくは0.90ml/g以下、更に好ましくは0.60ml/g以下である。
本明細書において、全細孔容量は、液体窒素温度における窒素ガスの飽和蒸気圧Pに対する窒素ガスの平衡蒸気圧P(P/P)が0.99の時の窒素吸着量から算出した値である。
【0031】
HDM触媒の平均細孔半径(APD)は、好ましくは125Å以上、より好ましくは150Å以上、更に好ましくは170Å以上であり、上限として好ましくは300Å以下、より好ましくは250Å以下、更に好ましくは230Å以下である。
HDM/HDS触媒の平均細孔半径(APD)は、好ましくは100Å以上、より好ましくは125Å以上、更に好ましくは140Å以上であり、上限として好ましくは250Å以下、より好ましくは210Å以下、更に好ましくは180Å以下である。
また、HDS触媒の平均細孔半径(APD)は、好ましくは70Å以上、より好ましくは90Å以上、更に好ましくは110Å以上であり、上限として好ましくは200Å以下、より好ましくは175Å以下、更に好ましくは140Å以下である。
本明細書において、平均細孔半径APD(Å)は、上記の窒素ガスによるBET1点法により測定した比表面積A(m/g)及び液体窒素温度における窒素ガス吸着量から算出した細孔容量V(ml/g)より、以下の式(1)により算出される値である。
APD=4×V/A×10000 式(1)
【0032】
触媒の調製方法、すなわち上記金属、リンを担体に担持する方法については、とくに制限はなく、例えば含浸法、混練法、共沈法等の公知の方法を採用すればよい。
上記の金属、リンを担体に担持したものは、通常30℃以上200℃以下の乾燥温度で、約0.1時間以上約24時間以下乾燥し、次いで、通常250℃以上700℃程度以下(好ましくは300℃以上650℃以下)の温度で、約1時間以上約10時間以下(好ましくは2時間以上7時間以下)焼成して、触媒として仕上げられる。
【0033】
本実施形態において、充填される触媒は、少なくとも脱硫触媒を含むことが好ましく、脱メタル触媒及び脱硫触媒を含むことがより好ましく、脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒を含むことが更に好ましく、特に脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒である(すなわち、充填する触媒が脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒のみである)ことが好ましい。
【0034】
充填される触媒の組み合わせの好ましい具体例としては、例えば、Ni-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系脱硫触媒との組み合わせ、Ni-Mo系脱メタル触媒とCo-Mo系脱硫触媒との組み合わせ、Ni-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系脱硫触媒とCo-Mo系脱硫触媒との組み合わせ等の脱メタル触媒と脱硫触媒との組み合わせ;Ni-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系中間触媒とNi-Mo系脱硫触媒との組み合わせ、Ni-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系中間触媒とCo-Mo系脱硫触媒との組み合わせ、Ni-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系中間触媒とNi-Mo系脱硫触媒とCo-Mo系脱硫触媒との組み合わせ等の脱メタル触媒と中間触媒と脱硫触媒との組み合わせ、等が挙げられる。
中でも、Ni-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系中間触媒とNi-Mo系脱硫触媒との組み合わせ、Ni-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系中間触媒とCo-Mo系脱硫触媒との組み合わせ、及びNi-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系中間触媒とNi-Mo系脱硫触媒とCo-Mo系脱硫触媒との組み合わせ(以上をまとめると、脱メタル触媒がNi-Mo系脱メタル触媒であり、中間触媒がNi-Mo系中間触媒であり、脱硫触媒がNi-Mo系脱硫触媒及びCo-Mo系脱硫触媒から選ばれる少なくとも一種の触媒であること)が好ましく、Ni-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系中間触媒とNi-Mo系脱硫触媒との組み合わせ、及びNi-Mo系脱メタル触媒とNi-Mo系中間触媒とNi-Mo系脱硫触媒とCo-Mo系脱硫触媒との組み合わせがより好ましい。
【0035】
触媒の充填順序としては、脱メタル触媒と脱硫触媒とを組み合わせる場合は、脱メタル触媒、脱硫触媒の順に充填する、すなわち脱メタル触媒層及び脱硫触媒層の順に充填する、ことが好ましい。また、脱メタル触媒と中間触媒と脱硫触媒とを組み合わせる場合は、脱メタル触媒、中間触媒、脱硫触媒の順に充填する、すなわち脱メタル触媒層、中間触媒層及び脱硫触媒層の順に充填することがより好ましい。このような充填順序とすることで、脱硫触媒を被毒し得る重質油中のメタルを予め除去することができるので、脱硫触媒の触媒劣化をより抑制することができる。
【0036】
本実施形態において、触媒の充填量としては、脱メタル触媒と中間触媒と脱硫触媒とを組み合わせて用いる場合、触媒の全充填量に対する脱メタル触媒の割合は、好ましくは3容量%以上、より好ましくは5容量%以上、更に好ましくは8容量%以上であり、上限として好ましくは25容量%以下、より好ましくは20容量%以下、更に好ましくは15容量%以下である。
触媒の全充填量に対する中間触媒の割合は、好ましくは1容量%以上、より好ましくは3容量%以上、更に好ましくは7容量%以上であり、上限として好ましくは20容量%以下、より好ましくは18容量%以下、更に好ましくは15容量%以下である。
また、触媒の全充填量に対する脱硫触媒の割合は、好ましくは55容量%以上、より好ましくは65容量%以上、更に好ましくは70容量%以上であり、上限として好ましくは96容量%以下、より好ましくは90容量%以下、更に好ましくは85容量%以下である。
【0037】
脱硫触媒として、Ni-Mo系脱硫触媒とCo-Mo系脱硫触媒とを組み合わせて用いる場合、脱硫触媒の全充填量に対するNi-Mo系脱硫触媒の含有量は、好ましくは30容量%以上、より好ましくは35容量%以上、更に好ましくは40容量%以上であり、上限として好ましくは70容量%以下、より好ましくは65容量%以下、更に好ましくは60容量%以下である。
【0038】
(重質油)
本実施形態の重質油の直接脱硫方法にて直接脱硫し得る重質油としては、重くて粘り気のある原油及び原油からの残渣油、石油留分等であれば、特に限定されない。より具体的には、重質油としては、例えばAPI度40以下、好ましくはAPI度35以下の原油から得られる常圧蒸留残渣油(AR)、減圧蒸留残渣油(VR)、並びに接触分解残油、ビスブレーキング油及びビチューメン等の密度の高い石油留分等が挙げられる。ここで、API度とは、米国石油協会(American Petroleum Institute)が定めた原油製品の比重を示す単位である。
【0039】
これらの重質油は、通常アスファルテンが1質量%以上含まれており、これらの重質油から抽出したアスファルテンも、重質油として用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。アスファルテンは、上記重質フラクションに含まれ得るものとして説明したものと同じものであり、n-ヘプタンに不溶な留分のことである。
【0040】
また重質油としては、コーカー油、合成原油、ナフサカット原油、重質軽油(HGO)、減圧軽油(VGO)、分解軽油(LCO)、分解残油(CLO)、GTL(Gas to Liquid)油、ワックス等を、上記の重質油として例示した常圧蒸留残渣油等と混合したものを、重質油として用いることもできる。
【0041】
(水素化脱硫処理の諸条件)
本実施形態における水素化脱硫処理の条件について説明する。
水素化脱硫処理の温度(WAT)としては、好ましくは350℃以上、より好ましくは355℃以上、更に好ましくは360℃以上であり、上限として好ましくは415℃以下、より好ましくは410℃以下、更に好ましくは405℃以下である。
水素化脱硫処理温度(WAT)は、通常所望される水素化脱硫処理後の重質油中の硫黄分濃度の保持の点から決定される、経時的に変動し得る温度であり、触媒劣化の進行に伴い、当該硫黄分濃度を保持するために経時的に上昇することとなる。すなわち、当該水素化脱硫処理温度(WAT)の上昇が触媒の劣化の進行である、とみることができる。本実施形態においては、触媒活性の低下を抑制することで、85.0%以上という高い脱硫率を保ちながら、水素化脱硫処理温度(WAT)をより低いまま保持することができるので、触媒劣化を抑制することでき、触媒寿命を長期化させることができる。
【0042】
重油直接脱硫装置の圧力条件は、特に制限はないが、通常10.0MPa以上20.0MPa以下であり、好ましくは12.0MPa以上であり、上限として好ましくは16.0MPaである。
【0043】
重質油の液空間速度(LHSV)は、特に制限はないが、より効率的にかつ確実に水素化脱硫処理を行う観点から、好ましくは0.10(h-1)以上、より好ましくは0.15(h-1)以上、更に好ましくは0.20(h-1)以上であり、上限として好ましくは1.0(h-1)以下、より好ましくは0.80(h-1)以下、更に好ましくは0.40(h-1)以下である。
【0044】
重油直接脱硫装置では、重質油の脱硫のために水素を供給し、水素化脱硫処理を行う。水素の供給量としては、より効率的かつ確実に水素化脱硫処理を行う観点から、重質油の供給量との比率として(水素/重質油)、好ましくは500(Nm/kL)以上、より好ましくは800(Nm/kL)以上、更に好ましくは850(Nm/kL)以上であり、上限として好ましくは1200(Nm/kL)以下、より好ましくは1100(Nm/kL)以下、更に好ましくは950(Nm/kL)以下である。
【0045】
本実施形態において、重油直接脱硫装置における水素化脱硫処理後の重質油中の硫黄分濃度としては、脱硫率が85.0%以上であれば特に制限はなく、変動し得るものであるが、要望される性状と、効率的に重質油を水素化脱硫することを考慮すると、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、上限としては0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。
【0046】
本実施形態における重油直接脱硫装置は、その形態に特に制限はないが、通常触媒を充填した反応塔が採用される。重質油の処理量に応じて異なるが、通常、反応塔の大きさ、触媒の交換等のメンテナンスを考慮すると、触媒が充填された2塔以上の反応塔から構成されていることが好ましい。例えば、図1に示されるように、3つの反応塔から構成され、第1反応塔にHDM触媒のみを充填し、第3反応塔にHSD触媒のみを充填し、第2反応塔に触媒の充填量に応じてHDM触媒、HDM/HDS触媒、HDS触媒を充填するといった構成にする形態が好ましく挙げられる。
【0047】
〔重油直接脱硫装置〕
本実施形態の重油直接脱硫装置は、脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒を含む触媒が充填され、当該触媒の全充填量に対する脱メタル触媒、中間触媒及び脱硫触媒の割合が、各々3容量%以上25容量%以下、1容量%以上20容量%以下、及び55容量%以上96容量%以下である、ことを特徴とするものである。
本実施形態の重油直接脱硫装置に充填される各触媒、触媒の全充填量に対する各触媒の割合は、上記重質油の直接脱硫方法において用いられ得る触媒として説明したものと同様である。また、本実施形態の重油直接脱硫装置に適用し得る重質油、各種反応条件等も、上記重質油の直接脱硫方法において用いられ得る触媒及び反応条件として説明したものと同様である。
【実施例
【0048】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0049】
[評価方法]
(1)硫黄分濃度の測定
重質油、各種フラクション中の硫黄分濃度は、JIS K 2541-4:2003(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第4部:放射線式励起法)に準じて測定した。
(2)メタルの含有量(バナジウム含有量及びニッケル含有量)の測定
バナジウム及びニッケルの含有量は、石油学会法JPI-5S-62-2000に準拠した蛍光X線法により測定した。
(3)比重の測定
重質油の比重は、JIS K2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準拠して測定した。
(4)残留炭素分の測定
重質油の残留炭素分は、JIS K2270-2:2009(原油及び石油製品-残留炭素分の求め方- 第2部:ミクロ法)に準拠して測定した。
(5)各種フラクションの分画方法
重質油をn-ヘプタンに溶解し、ろ紙でろ過した後、当該ろ紙をn-ヘプタンで熱還流してマルテン分を抽出し、ろ紙上のアスファルテン(As)分はトルエンで抽出分離した。
得られたマルテン分を、以下の条件でカラムクロマトグラフィを実施し、n-ヘプタン、n-ヘプタン/トルエン、トルエン、エタノール、クロロホルムで順次展開溶出させて、それぞれ飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上芳香族分(3A)、極性レジン(Po)、多環芳香族レジン(PA)に分離した。
これらのフラクションに分離した後、上記(1)の方法により各フラクションに含まれる硫黄分濃度を測定した。
(カラムクロマトグラフィ条件)
試料量(重質油量):1.5g
カラム:15mmID×600mm(ゲル充填部分)
充填剤:シリカゲル40g、アルミナゲル50g(活性化後)
【0050】
[触媒の調製]
【0051】
(調製例1:脱メタル触媒の調製)
炭酸ニッケル114g(NiOとして65g)、三酸化モリブデン243g、正リン酸32g(純度85%:Pとして20g)を純水250cmに加えて、撹拌しながら80℃で溶解させて、室温に冷却した後、再び純水を加えて250cmに定容し、含浸用水溶液1を調製した。
上記含浸用水溶液1を10cm採取し、吸水率:0.76cm/g、比表面積:145m/gのγ-アルミナ担体(A1)100gに、吸水率に見合うようにイオン交換水にて希釈し、定容し、常圧にて含浸し、120℃で4時間乾燥し、次いで550℃で3時間焼成して、脱メタル触媒(触媒A)を調製した。得られた触媒Aの触媒組成と物性を第1表に示す。
(調製例2:中間触媒の調製)
炭酸ニッケル154g(NiOとして88g)、三酸化モリブデン413g、正リン酸54g(純度85%:Pとして33g)を純水250cmに加えて、撹拌しながら80℃で溶解させて、室温に冷却した後、再び純水を加えて250cmに定容し、含浸用水溶液2を調製した。
上記含浸用水溶液2を10cm採取し、吸水率:0.73cm/g、比表面積:180m/gのγ-アルミナ担体(A2)100gに、吸水率に見合うようにイオン交換水にて希釈し、定容し、常圧にて含浸し、120℃で4時間乾燥し、次いで550℃で3時間焼成して、脱メタル触媒(触媒B)を調製した。得られた触媒Bの触媒組成と物性を第1表に示す。
(調製例3:脱硫触媒(触媒C)の調製)
炭酸コバルト170g(CoOとして97g)、三酸化モリブデン420g、正リン酸193g(純度85%:Pとして119g)を純水250cmに加えて、撹拌しながら80℃で溶解させて、室温に冷却した後、再び純水を加えて250cmに定容し、含浸用水溶液3を調製した。
上記含浸用水溶液3を10cm採取し、吸水率:0.6cm/g、比表面積:190m/gのγ-アルミナ担体(A3)100gに、吸水率に見合うようにイオン交換水にて希釈し、定容し、常圧にて含浸し、120℃で4時間乾燥し、次いで550℃で3時間焼成して、脱硫触媒(触媒C)を調製した。得られた触媒Cの触媒組成と物性を第1表に示す。
(調製例4:脱硫触媒(触媒D)の調製)
調製例3において、炭酸コバルトを炭酸ニッケル170g(NiOとして97g)とした以外は、調製例3と同様にして、脱硫触媒(触媒D)を調製した。得られた触媒Dの触媒組成と性状を第1表に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
(重質油の性状)
実施例及び比較例で用いた重質油の各種性状は第2表に示される通りである。
【0054】
【表2】

*1,重質フラクションは、上記「(5)各種フラクションの分画方法」により分画した際の、極性レジン(Po)、多環芳香族レジン(PA)及びアスファルテン(As)の合計含有量であり、軽質フラクションは飽和分(Sa)、並びに1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)及び3環以上芳香族分(3A)の芳香族分の合計含有量である。
【0055】
実施例1
第2表に示される重質油1を原料油とし、当該原料油を、触媒を充填した重油直接脱硫装置(反応塔数:3)に供給し、水素化脱硫処理後の重質油の硫黄分濃度合計、重質フラクション中の硫黄分濃度及び軽質フラクション中の硫黄分濃度が第3表に示される数値となるように、水素化脱硫処理を行った。この場合の重油直接脱硫装置に充填する触媒及びその充填量(触媒充填パターン)、重質油の液空間速度、圧力及び水素の供給量は、第3表に示される通りである。反応塔における触媒充填パターンを図1に示す。
また、原料重質油1の各通油量に対し、後述する比較例1の重油直接脱硫装置の反応塔の温度(WAT)を基準として算出した活性差(WAT差)を図2に示す。活性差(WAT差)が大きいほど、比較例1に対するWATをより下げることとなるため、触媒劣化が抑制でき、触媒寿命を長期化し得ることを示す。
【0056】
実施例2及び3
第2表に示される重質油2を原料油とし、当該原料油を、触媒を充填した重油直接脱硫装置(反応塔数:3)に供給し、水素化脱硫処理後の重質油の硫黄分濃度合計、重質フラクション中の硫黄分濃度及び軽質フラクション中の硫黄分濃度が第3表に示される数値となるように、水素化脱硫処理を行った。
また、原料重質油2の各通油量に対し、後述する比較例1の重油直接脱硫装置の反応塔の温度(WAT)を基準として、活性差(WAT差)を図3に示す。
【0057】
比較例1
第2表に示される重質油1を原料油とし、当該原料油を、触媒を充填した重油直接脱硫装置(反応塔数:3)に供給し、水素化脱硫処理後の重質油の硫黄分濃度合計、重質フラクション中の硫黄分濃度及び軽質フラクション中の硫黄分濃度が第3表に示される数値となるように、水素化脱硫処理を行った。
【0058】
【表3】
【0059】
図のグラフより、重油直接脱硫装置の活性差(WAT差)は比較例より実施例の方が大きいことから、実施例の方が触媒劣化の速度は遅いことが確認された。
【符号の説明】
【0060】
10.重油直接脱硫装置
11.反応塔1
12.反応塔2
13.反応塔3
図1
図2
図3