(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】中間原料、ならびにこれを用いた研磨用組成物および表面処理組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230620BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20230620BHJP
B24B 55/06 20060101ALI20230620BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230620BHJP
【FI】
H01L21/304 622Q
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
H01L21/304 622D
B24B55/06
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2019149158
(22)【出願日】2019-08-15
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018178741
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉野 努
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】鎗田 哲
(72)【発明者】
【氏名】大西 正悟
(72)【発明者】
【氏名】石田 康登
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169808(WO,A1)
【文献】特表2014-526153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
B24B 55/06
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤、および分散媒を含み、
pHが7未満であ
り、砥粒を実質的に含有しない、研磨後の研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物。
【請求項2】
前記電荷調整剤は、疎水性基として、置換または非置換の炭素数8~20の直鎖状または分岐状のアルキル基および置換または非置換の炭素数6~20のアリール基の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の
表面処理組成物。
【請求項3】
前記電荷調整剤は、前記疎水性基として置換または非置換の炭素数6~20のアリール基を2個以上含む、請求項2に記載の
表面処理組成物。
【請求項4】
前記電荷調整剤は、親水性基として、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、および亜リン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の
表面処理組成物。
【請求項5】
前記研磨対象物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、およびポリシリコンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1
~4のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項6】
臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤と、分散媒と、を混合することを含
み、砥粒を実質的に含有しない、研磨後の研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項
1~5のいずれか1項に記載の表面処理組成物を用いて、または
請求項
6に記載の製造方法によって表面処理組成物を製造した後、得られた表面処理組成物を用いて、
研磨後の研磨対象物を表面処理して、前記研磨後の研磨対象物の表面における残渣を低減する、表面処理方法。
【請求項8】
前記表面処理は、リンス研磨処理または洗浄処理である、請求項
7に記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記研磨対象物は半導体基板であり、
請求項
7または8に記載の表面処理方法によって、研磨後の研磨対象物の表面における残渣を低減する表面処理工程を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間原料、ならびにこれを用いた研磨用組成物および表面処理組成物に関する。また、本発明は、研磨用組成物および表面処理組成物の製造方法、表面処理方法および研磨方法、半導体基板の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、酸化珪素、窒化珪素や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMPの一般的な方法は、円形の研磨定盤(プラテン)上に研磨パッドを貼り付け、研磨パッド表面を研磨剤で浸し、基板の配線層を形成した面を押し付けて、その裏面から所定の圧力(研磨圧力)を加えた状態で研磨定盤を回し、研磨剤と配線層との機械的摩擦によって、配線層を除去するものである。例えば、特許文献1には、酸化ケイ素(TEOS膜)向けのCMP技術が記載されている。
【0004】
また、研磨工程後の研磨対象物には、不純物(残渣、異物)が多量に残留している。不純物としては、例えば、上記CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、更には各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。研磨後の研磨対象物表面の汚染は、研磨後の研磨対象物を使用する製品の欠陥となり、また性能低下や信頼性低下の原因となりうる。例えば、半導体基板の表面がこれらの不純物により汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、研磨工程後に洗浄工程等の表面処理工程を導入し、研磨後の研磨対象物の表面からこれらの不純物を除去することが望ましい。
【0005】
かような表面処理工程に用いられる表面処理組成物として、例えば、特許文献2には、ポリカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸と、スルホン酸型アニオン性界面活性剤と、カルボン酸型アニオン性界面活性剤と、水とを含有する、半導体デバイス用洗浄液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-142435号公報
【文献】特開2012-74678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討したところによると、特許文献1に記載された研磨用組成物は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、またはポリシリコンを含む研磨対象物の研磨に適用した場合、研磨速度が不十分であることが判明した。また、特許文献2に記載の洗浄液は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、またはポリシリコンを含む研磨後の研磨対象物の洗浄に適用した場合に、残渣を十分に除去することができない、という問題を有していることが判明した。
【0008】
これらの問題の原因について、本発明者らが検討したところ、研磨対象物または研磨後の研磨対象物のゼータ電位を十分に調整できていないためである、ということが判明した。
【0009】
そこで本発明は、研磨対象物または研磨後の研磨対象物のゼータ電位を任意に調整することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を積み重ねた。その結果、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤、および分散媒を含み、pHが7未満である、中間原料により、上記課題が解決することを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨対象物または研磨後の研磨対象物のゼータ電位を任意に調整することができる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0013】
また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。(メタ)アクリル酸等の(メタ)を含む化合物等も同様に、名称中に「メタ」を有する化合物と「メタ」を有さない化合物の総称である。
【0014】
本発明の一形態は、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤、および分散媒を含み、pHが7未満である、中間原料に関する。
【0015】
臨界充填パラメーター(critical packing parameter、CPP)は、分子構造と会合構造との関係を説明するための一般的なパラメーターであり、該臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤は、研磨対象物(または研磨後の研磨対象物)の表面において、規則的なラメラ構造の被膜(二分子膜)を形成すると考えられる。被膜が形成された研磨対象物(または研磨後の研磨対象物)の表面のゼータ電位を任意に調整することができ、CMPで用いられる砥粒とのゼータ電位の差を容易に制御することができる。これにより、研磨対象物表面と砥粒との引き合いや反発を容易に制御できるようになり、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤および分散媒を含む中間原料から得られる研磨用組成物を用いると、所望の研磨速度が得られるという効果を有する。
【0016】
また、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤は、研磨後の研磨対象物表面と、表面処理工程において研磨後の研磨対象物表面から浮き上がった残渣との間に入り込んで、規則的なラメラ構造の被膜(二分子膜)を形成すると考えられる。これにより、研磨後の研磨対象物表面のゼータ電位を任意に調整することができ、残渣と研磨後の研磨対象物表面との反発力を生じやすくすることができる。また、上記被膜を形成させることにより残渣の研磨後の研磨対象物表面への再付着を防止することができる。これらの作用により、表面処理工程後の研磨対象物表面の残渣数を低減することができ、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤および分散媒を含む、中間原料から得られる表面処理組成物を用いると、研磨後の研磨対象物表面の残渣数が低減するという効果が得られる。
【0017】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0018】
[研磨対象物、研磨後の研磨対象物]
本発明の中間原料から得られる研磨用組成物は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンからなる群より選択される少なくとも1種を含む研磨対象物を研磨するために用いられることが好ましい。酸化ケイ素を含む研磨対象物としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0019】
本発明の中間原料から得られる表面処理組成物は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、およびポリシリコンからなる群より選択される少なくとも1種を含む研磨後の研磨対象物の表面を処理するために用いられることが好ましい。なお、本明細書において、研磨後の研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。酸化ケイ素を含む研磨後の研磨対象物の例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0020】
研磨後の研磨対象物は、研磨済半導体基板であることがより好ましく、CMP後の半導体基板であることがより好ましい。かかる理由は、特に有機物残渣は半導体デバイスの不具合の原因となりうるため、研磨後の研磨対象物が研磨後の半導体基板である場合に、半導体基板の洗浄工程として、有機物残渣をできる限り除去する工程であることが必要とされるからである。
【0021】
窒化ケイ素、酸化ケイ素またはポリシリコンを含む研磨対象物(または研磨後の研磨対象物)としては、特に制限されないが、窒化ケイ素、酸化ケイ素およびポリシリコンのそれぞれ単体からなる研磨対象物(または研磨後の研磨対象物)や、窒化ケイ素、酸化ケイ素またはポリシリコンに加え、これら以外の材料が表面に露出している状態の研磨対象物(または研磨後の研磨対象物)等が挙げられる。ここで、前者としては、例えば、半導体基板である窒化ケイ素基板、酸化ケイ素基板またはポリシリコン基板が挙げられる。また、後者について、窒化ケイ素、酸化ケイ素またはポリシリコン以外の材料としては、特に制限されないが、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、ハフニウム、コバルト、ニッケル、チタン、およびこれらの合金等の金属;炭窒化ケイ素(SiCN)、BD(ブラックダイヤモンド:SiOCH)、FSG(フルオロシリケートグラス)、HSQ(水素シルセスキオキサン)、CYCLOTENE、SiLK、MSQ(Methyl silsesquioxane)、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、n型ドープ単結晶シリコン、p型ドープ単結晶シリコン、SiGe等のSi系合金などのケイ素を含む材料;などが挙げられる。
【0022】
<中間原料>
本発明の一形態に係る中間原料は、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤と、分散媒と、を含む。当該中間原料は、本発明の一形態に係る表面処理組成物および研磨用組成物の原料となりうる。
【0023】
[臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤]
本発明の一形態に係る中間原料は、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤(以下、単に「電荷調整剤」とも称する)を必須に含む。当該電荷調整剤は、上述のように、研磨対象物(または研磨後の研磨対象物)表面において、規則的なラメラ構造の被膜(二分子膜)を形成すると考えられる。このような作用により、研磨対象物(または研磨後の研磨対象物)のゼータ電位を十分に下げることができ、本発明の一形態に係る中間原料を含む表面処理組成物または研磨用組成物は、性能が向上する。
【0024】
臨界充填パラメーターが0.6未満である化合物を用いた場合、規則的なラメラ構造の被膜(二分子膜)を形成し難く、被膜を形成したとしても一分子膜となるため、本発明の効果が得られない。
【0025】
ここで、臨界充填パラメーターは、1つの化合物(特に界面活性剤)の形状を決定するために、Discover(登録商標)in Materials Studio(Materials Studio v4.3.0.0.Copyright 2008, Accelrys Software Inc.)という分子モデリングモジュールを使用してモデル化したパラメーターである。化合物(特に界面活性剤)は、原子を定義し、かつpcff力場を使用した結合の調和ポテンシャルを仮定することによってモデル化される。この力場は、CFF91に基づいて開発されたものである。この種のモデリングに関するさらなる詳細は、AllenおよびTildesleyによる研究(1 M.P. Allen; D.J. Tildesley. Computer Simulation of Liquids, Oxford University Press (1987))に見ることができる。
【0026】
本発明において、臨界充填パラメーターの値は、上記の定義に基づいて算出されたものである。
【0027】
2種以上の電荷調整剤を用いる場合には、臨界充填パラメーターはその平均値を用いる。該平均値は、使用する2種以上の電荷調整剤のモル分率に応じて計算することができる。例えば、成分Aと成分Bとの2種を用いる場合には、次式、
平均臨界充填パラメーター=Aの臨界充填パラメーター×Aのモル分率+Bの臨界充填パラメーター×Bのモル分率
により、計算される。
【0028】
本発明に係る電荷調整剤としては、臨界充填パラメーターが0.6以上のものであれば、特に制限されず、好適に使用することができる。臨界充填パラメーターが0.6以上の電荷調整剤の例としては、臨界充填パラメーターの上記範囲を満たすカルボン酸、有機スルホン酸、有機硫酸、有機ホスホン酸、有機リン酸、およびこれらの塩、ならびにアニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0029】
臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤のさらに具体的な例としては、例えば、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリオレイルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、テトラ(C12-C15アルキル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルホスファイト、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ポリオキシエチレン(n=3)スチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレン(n=5)スチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレン(n=7)スチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレン(n=12)スチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレン(n=1-8)アリールフェニルエーテル硫酸エステルアミン塩、芳香族ポリオキシエチレン(n=1-5)硫酸エステル、トリスチリルフェニルエーテルポリオキシエチレン(n=1-8)硫酸エステル、ポリオキシエチレン(n=1-8)アリールフェニルエーテルリン酸エステルアミン塩、芳香族ポリオキシエチレン(n=1-5)リン酸エステル、ポリオキシエチレン(n=1-8)トリアリールフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレン(n=1-8)トリアリールアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレン(n=1-8)アリールフェニルエーテルカルボン酸アミン塩、芳香族ポリオキシエチレン(n=1-5)カルボン酸、トリスチリルフェニルエーテルポリオキシエチレン(n=1-8)カルボン酸等が挙げられる。なお、nは一分子中に存在するエチレンオキシド単位の数を示す。
【0030】
規則的なラメラ構造の被膜(二分子膜)を形成しやすく、本発明の効果がより向上しやすいという観点から、該電荷調整剤は、疎水性基として、置換または非置換の炭素数8~20の直鎖状または分岐状のアルキル基および置換または非置換の炭素数6~20のアリール基の少なくとも一方を含むことが好ましい。これらの中でも、置換または非置換の炭素数6~20のアリール基を含むことがより好ましく、置換または非置換の炭素数6~20のアリール基を2つ以上含むことがさらに好ましい。これは、嵩高い構造であるアリール基を有することにより、規則的なラメラ構造の被膜(二分子膜)がより形成されやすくなるからであると考えられる。また、規則的なラメラ構造の被膜(二分子膜)を形成しやすく、本発明の効果がより向上しやすいという観点から、該電荷調整剤は、親水性基として、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、および亜リン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
規則的なラメラ構造の被膜(二分子膜)を形成しやすく、本発明の効果がより向上しやすいという観点から、臨界充填パラメーターが0.7以上である電荷調整剤が好ましく、臨界充填パラメーターが0.9以上である電荷調整剤がより好ましい。同様の観点から、臨界充填パラメーターが1.5以下である電荷調整剤が好ましく、臨界充填パラメーターが1.2以下である電荷調整剤がより好ましい。
【0032】
なお、上記電荷調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0033】
本発明の一形態に係る中間原料中の電荷調整剤の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、中間原料の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の一形態に係る中間原料中の電荷調整剤の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、中間原料の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であると、研磨対象物(または研磨後の研磨対象物)のゼータ電位を下げる効果がより向上する。
【0034】
[分散媒]
本発明の一形態に係る中間原料は、分散媒(溶媒)を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。
【0035】
分散媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0036】
分散媒としては、特に制限されないが、水を含むことが好ましい。分散媒中の水の含有量は、特に制限されないが、分散媒の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、水のみであることがさらに好ましい。水は、洗浄対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを防止するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0037】
また、分散媒は、各成分の分散性または溶解性を向上させることができる場合、有機溶媒であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、特に制限されず公知の有機溶媒を用いることができる。水と有機溶媒との混合溶媒とする場合は、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が好ましく用いられる。有機溶媒を用いる場合、水と有機溶媒とを混合し、得られた混合溶媒中に各成分を添加し分散または溶解してもよいし、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0038】
かような構成を有する本発明の一形態に係る中間原料を用いた場合、研磨対象物または研磨後の研磨対象物のゼータ電位を十分に下げることができる。一例として、研磨対象物または研磨後の研磨対象物がTEOSまたはSiNを含む場合、好ましくは-10mV以下、より好ましくは-15mV以下、さらに好ましくは-20mV以下とすることができる。なお、中間原料、または中間原料を含む研磨用組成物もしくは表面処理組成物と接している際の研磨対象物または研磨後の研磨対象物のゼータ電位は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
<表面処理組成物>
本発明の一形態に係る中間原料は、研磨後の研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物となりうる。すなわち、本発明の他の一形態は、本発明の中間原料を含み、pHが7未満であり、研磨後の研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物に関する。換言すれば、当該形態は、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤と、分散媒(好ましくは水)と、を含み、pHが7未満であり、研磨後の研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物に関する。かような本発明に係る表面処理組成物は、研磨後の研磨対象物表面における残渣を十分に低減することができる。
【0040】
研磨後の研磨対象物表面における残渣には、有機物残渣、パーティクル残渣、その他の残渣等が含まれうる。有機物残渣とは、研磨後の研磨対象物(表面処理対象物)の表面に付着している残渣のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機化合物やこれらの塩等からなる成分を表す。パーティクル残渣とは、研磨用組成物に含まれる砥粒(例えば、セリアを含有する砥粒)等、粒状の無機物に由来する成分を表す。その他の残渣には、有機物残渣およびパーティクル残渣以外の成分からなる残渣、有機物残渣とパーティクル残渣との混合物等が含まれる。
【0041】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、研磨後の研磨対象物表面のゼータ電位を下げる効果および表面処理組成物としての効果を阻害しない範囲で、電荷調整剤および分散媒以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分の一例として、イオン性分散剤が挙げられる。以下では、イオン性分散剤について説明する。
【0042】
[イオン性分散剤]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、イオン性分散剤をさらに含むことが好ましい。イオン性分散剤は、表面処理組成物による異物の除去に寄与する。よって、イオン性分散剤を含む表面処理組成物は、研磨後の研磨対象物の表面処理(洗浄等)において、研磨後の研磨対象物表面の残渣(有機物残渣等を含む不純物)を十分に除去することができる。
【0043】
イオン性分散剤の例としては、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物;リン酸(塩)基を有する高分子化合物;ホスホン酸(塩)基を有する高分子化合物;カルボン酸(塩)基を有する高分子化合物;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルイミダゾール(PVI)、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジン、ポリアクリロイルモルホリン(PACMO)等の窒素原子を含む水溶性高分子;ポリビニルアルコール(PVA);ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等が挙げられる。
【0044】
これらの中でも、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物が好ましい。以下、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物について説明する。
【0045】
<スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物>
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、上記イオン性分散剤がスルホン酸(塩)基を有する高分子化合物であると好ましい。スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物(本明細書中、単に「スルホン酸基含有高分子」とも称する)は、表面処理組成物による異物の除去により寄与しやすい。よって、上記スルホン酸基含有高分子を含む表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面処理(洗浄等)において、研磨済研磨対象物の表面に残留する異物(有機物残渣等を含む不純物)をより除去しやすいという効果を有する。
【0046】
当該スルホン酸基含有高分子は、スルホン酸(塩)基以外の部分(すなわち、スルホン酸基含有高分子のポリマー鎖部分)と、異物(特に疎水性成分)との親和性により、ミセルを形成しうる。よって、このミセルが表面処理組成物中に溶解または分散することにより、疎水性成分である異物もまた効果的に除去されると考えられる。
【0047】
また、酸性条件下において、研磨後の研磨対象物の表面がカチオン性である場合、スルホン酸基がアニオン化することにより、当該研磨済研磨対象物の表面に吸着しやすくなる。その結果、研磨後の研磨対象物の表面には、上記スルホン酸基含有高分子が被覆した状態となると考えられる。他方、残留した異物(特にカチオン性を帯びやすいもの)には、スルホン酸基含有高分子のスルホン酸基が吸着しやすいため、異物の表面がアニオン性を帯びることとなる。よって、その表面がアニオン性となった異物と、研磨済研磨対象物の表面に吸着したスルホン酸基含有高分子のアニオン化したスルホン酸基とが、静電的に反発する。また、異物がアニオン性である場合は、異物自体と、研磨済研磨対象物上に存在するアニオン化したスルホン酸基とが静電的に反発する。したがって、このような静電的な反発を利用することで、異物をより効果的に除去することができると考えられる。
【0048】
さらに、研磨済研磨対象物が電荷を帯びにくい場合には、上記とは異なるメカニズムによって異物が除去されると推測される。まず、疎水性である研磨済研磨対象物に対し、異物(特に疎水性成分)は疎水性相互作用によって付着しやすい状態にあると考えられる。ここで、スルホン酸基含有高分子のポリマー鎖部分(疎水性構造部位)は、その疎水性に起因して、研磨済研磨対象物の表面側に向き、他方、親水性構造部位であるアニオン化したスルホン酸基等は、研磨済研磨対象物表面側とは反対側に向く。これにより、研磨済研磨対象物の表面は、アニオン化したスルホン酸基に覆われた状態となり、親水性となると推測される。その結果、異物(特に疎水性成分)と、上記研磨済研磨対象物との間に疎水性相互作用が生じにくくなり、異物の付着がより抑制されると考えられる。
【0049】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0050】
本明細書において、「スルホン酸(塩)基」とは、スルホン酸基(-SO3H)またはその塩の基(-SO3M2;ここで、M2は、有機または無機の陽イオンである)を表す。
【0051】
スルホン酸基含有高分子は、スルホン酸(塩)基を複数有するものであれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。スルホン酸基含有高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物をスルホン化して得られる高分子化合物や、スルホン酸(塩)基を有する単量体を(共)重合して得られる高分子化合物等が挙げられる。
【0052】
より具体的には、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール(スルホン酸変性ポリビニルアルコール)、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸(塩)基含有ポリスチレン、スルホン酸(塩)基含有ポリ酢酸ビニル(スルホン酸変性ポリ酢酸ビニル)、スルホン酸(塩)基含有ポリエステル、(メタ)アクリル酸-スルホン酸(塩)基含有モノマーの共重合体等の(メタ)アクリロイル基含有モノマー-スルホン酸(塩)基含有モノマーの共重合体等が挙げられる。上記スルホン酸基含有高分子は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これら高分子が有するスルホン酸基の少なくとも一部は、塩の形態であってもよい。塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0053】
また、スルホン酸基含有高分子がスルホン酸基含有ポリビニルアルコールである場合は、溶解性の観点から、鹸化度が80%以上であることが好ましく、85%以上であることが好ましい(上限100%)。
【0054】
本発明において、スルホン酸基含有高分子の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましい。重量平均分子量が1,000以上であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、研磨済研磨対象物や異物を覆う際の被覆性がより良好となり、洗浄対象物表面からの異物の除去作用または研磨済研磨対象物表面への有機物残渣の再付着抑止作用がより向上するからであると推測される。同様の観点から、重量平均分子量は、2,000以上であることがより好ましく、8,000以上であることがさらに好ましい。
【0055】
また、スルホン酸基含有高分子の重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が100,000以下であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、洗浄工程後のスルホン酸基含有高分子の除去性がより良好となるからであると推測される。同様の観点から、重量平均分子量は、50,000以下であることがより好ましく、40,000以下であることがさらに好ましい。
【0056】
該重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0057】
スルホン酸基含有高分子としては、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0058】
スルホン酸基含有高分子の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。スルホン酸基含有高分子の含有量が0.01質量%以上であると、異物の除去効果がより向上する。かかる理由は、スルホン酸基含有高分子が、研磨済研磨対象物および異物を被覆する際に、より多くの面積で被覆がなされるからであると推測される。これにより、特に異物がミセルを形成しやすくなるため、当該ミセルの溶解・分散による異物の除去効果が向上する。また、スルホン酸(塩)基の数が増加することで、静電的な吸着または反発効果をより強く発現させることができるからであると推測される。同様の観点から、スルホン酸基含有高分子の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総質量に対して、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、スルホン酸基含有高分子の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましい。スルホン酸基含有高分子の含有量(濃度)が5質量%以下であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、洗浄工程後のスルホン酸基含有高分子自体の除去性が良好となるからであると推測される。同様の観点から、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0059】
本発明の一形態によれば、イオン性分散剤中のスルホン酸基含有高分子の含有量は、イオン性分散剤の総質量に対して80質量%超であることが好ましい(上限100質量%)。スルホン酸基含有高分子の含有量が、表面処理組成物に含まれるイオン性分散剤の総質量に対して80質量%超であると、異物の除去効果がより向上する。かかる理由は、洗浄工程後における異物の原因となりうるスルホン酸基含有高分子以外のイオン性分散剤の量を低減できるからである。また、スルホン酸基含有高分子が研磨済研磨対象物および異物を被覆する際に、スルホン酸基含有高分子以外のイオン性分散剤によって被覆が妨げられることが抑制されるからであると推測される。同様の観点から、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物に含まれるイオン性分散剤の総質量に対して95質量%超であることがより好ましい。かような場合、異物の除去効果は著しく向上する。
【0060】
さらに、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物に含まれるイオン性分散剤の総質量に対して100質量%であると特に好ましい。すなわち、表面処理組成物に含まれるイオン性分散剤は、スルホン酸基含有高分子のみであることが特に好ましい。
【0061】
なお、本明細書において、「高分子化合物」は、その重量平均分子量が1,000以上である化合物をいう。
【0062】
本発明において、該イオン性分散剤として、スルホン酸基を有する単量体由来の構成単位とカルボン酸基を有する単量体由来の構成単位とを含有する共重合体(以下、単に「スルホン酸/カルボン酸共重合体」とも称する)を使用することができる。
【0063】
スルホン酸基を有する単量体の例としては、例えば特開2015-168770号公報の段落「0019」~「0036」に記載のポリアルキレングリコール系単量体(A)や、同公報の段落「0041」~「0054」に記載のスルホン酸基含有単量体(C)等が挙げられる。
【0064】
カルボン酸基を有する単量体の例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α-ヒドロキシアクリル酸、α-ヒドロキシメチルアクリル酸、およびこれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等の塩が挙げられる。
【0065】
スルホン酸/カルボン酸共重合体の重量平均分子量の好ましい範囲は、上記したスルホン酸基含有高分子の好ましい範囲と同様である。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0066】
また、スルホン酸/カルボン酸共重合体中のスルホン酸基を有する単量体由来の構成単位とカルボン酸基を有する単量体由来の構成単位とのモル比は、スルホン酸基を有する単量体由来の構成単位:カルボン酸基を有する単量体由来の構成単位=10:90~90:10が好ましく、30:70~90:10がより好ましく、50:50~90:10がさらに好ましい。
【0067】
本発明の一形態に係る表面処理組成物中の電荷調整剤の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、表面処理組成物の総質量に対して、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の一形態にかかる表面処理組成物中の電荷調整剤の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、表面処理組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であると、研磨後の研磨対象物表面の残渣をより低減させることができる。
【0068】
[残渣低減効果]
本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いて、研磨後の研磨対象物の処理を行った後において、研磨後の研磨対象物表面における残渣数は、少ないほど好ましい。具体的には、処理後の表面における残渣数は、300個以下であることが好ましく、250個以下であることがより好ましく、200個以下であることがさらに好ましく、150個以下であることが特に好ましい(下限0個)。なお、上記残渣数は、実施例に記載の方法により処理を行った後、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0069】
<研磨用組成物>
本発明の一形態に係る中間原料は、砥粒とともに用いられることにより、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物となりうる。すなわち、本発明の他の一形態は、本発明の中間原料と砥粒とを含み、pHが7未満であり、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物に関する。換言すれば、当該形態は、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤と、分散媒と、砥粒と、を含み、pHが7未満であり、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物である。かような本発明に係る研磨用組成物は、研磨対象物を所望の研磨速度で研磨することができる。以下では、砥粒について説明する。
【0070】
[砥粒]
本発明の一形態に係る研磨用組成物に含まれる砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨し、研磨速度を向上させる機能を有する。
【0071】
砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。これらの中でも、入手が容易であること、またコストの観点から、シリカを含むことが好ましく、ヒュームドシリカまたはコロイダルシリカを含むことがより好ましく、コロイダルシリカを含むことがさらに好ましい。
【0072】
また、砥粒は表面修飾されていてもよい。表面修飾された砥粒としては、表面に有機酸を固定化したシリカ(有機酸修飾されたシリカ)であることが好ましく、表面に有機酸を固定化したヒュームドシリカまたはコロイダルシリカがより好ましく、表面に有機酸を固定化したコロイダルシリカがさらに好ましい。有機酸としては、特に制限されないが、例えばスルホン酸、カルボン酸、リン酸等が挙げられる。これらの中でもスルホン酸またはカルボン酸が好ましく、スルホン酸がより好ましい。有機酸を砥粒の表面へ導入する方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0073】
砥粒の平均一次粒子径の下限は、特に制限されないが、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがより好ましい。この範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、特に制限されないが、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減する。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて、シリカ粒子の形状が真球であると仮定して算出することができる。
【0074】
砥粒の平均二次粒子径の下限は、特に制限されないが、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。また、砥粒の平均二次粒子径の上限は、特に制限されないが、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減する。なお、砥粒の平均二次粒子径の値は、レーザー光を用いた光散乱法で測定した砥粒の比表面積に基づいて算出することができる。
【0075】
砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、砥粒は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0076】
研磨用組成物における砥粒の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%超であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。また、砥粒の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減し、またコストを削減することができる。
【0077】
本発明の一形態に係る研磨用組成物中の電荷調整剤の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の一形態に係る研磨用組成物中の電荷調整剤の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。
【0078】
なお、上記した本発明の一形態に係る表面処理組成物は、砥粒を含んでもよい。砥粒は、表面処理対象物の残渣を機械的に除去する機能を有する場合がある。ただし、表面処理組成物の用途においては、砥粒が残渣の原因となる場合もあるため、その含有量はできる限り少ないことが好ましく、砥粒を実質的に含有しないことが特に好ましい。本明細書において、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物の総質量に対して、砥粒の含有量が0.01質量%以下である場合をいう。
【0079】
[pH調整剤]
本発明の一形態に係る中間原料、本発明の一形態に係る研磨用組成物、および本発明の一形態に係る表面処理組成物は、pH調整剤をさらに含んでもよい。pH調整剤は、主として本発明の一形態に係る中間原料、本発明の一形態に係る表面処理組成物、および本発明の一形態に係る研磨用組成物のpHを調整する目的で添加される。
【0080】
pH調整剤は、pH調整機能を有する化合物であれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、酸およびアルカリ等が挙げられるが、これらの中でも酸が好ましい。これらは、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。
【0081】
酸としては、無機酸または有機酸のいずれを用いてもよい。無機酸としては、特に制限されないが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等が挙げられる。有機酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等が挙げられる。これらの中でも、マレイン酸または硝酸であることがより好ましく、マレイン酸であることがさらに好ましい。
【0082】
アルカリとしては、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、テトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩、エチレンジアミンおよびピペラジンなどのアミン等が挙げられる。
【0083】
なお、pH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0084】
pH調整剤の含有量は、特に制限されず、本発明の一形態に係る中間原料、本発明の一形態に係る表面処理組成物、および本発明の一形態に係る研磨用組成物のpHが所望の範囲内となるように、適宜選択すればよい。
【0085】
[pH]
本発明の一形態に係る中間原料、本発明の一形態に係る研磨用組成物、および本発明の一形態に係る表面処理組成物のpHは、7未満である。これらのpHが7以上である場合、研磨後の研磨対象物(特にはTEOS)表面のゼータ電位が大きくマイナスの値となるため、電荷調整剤の作用が働き難い。ゼータ電位の観点で、研磨対象物(特にはTEOS)表面に電荷調整剤が作用しやすいということから、当該pHは6未満であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましく、2.5以下であることが特に好ましい。また、電荷調整剤の安定性を向上させる観点から、当該pHは1以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。当該pHは、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0086】
[他の成分]
本発明の一形態に係る中間原料、本発明の一形態に係る研磨用組成物、および本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に制限されず、例えば、濡れ剤、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤、溶存ガス、酸化剤、還元剤等の公知の研磨用組成物や表面処理組成物に用いられる成分を適宜選択しうる。
【0087】
ただし、特に、表面処理組成物の用途においては、目的とする機能を発現するための必要となる成分以外の成分は、残渣の原因となる場合があるため、その含有量はできる限り少ないことがより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0088】
<中間原料、研磨用組成物および表面処理組成物の製造方法>
本発明の他の一形態は、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤と、分散媒と、を混合することを含む、中間原料の製造方法に関する。
【0089】
本発明のさらに他の一形態は、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤と、分散媒とを混合することを含む、研磨後の研磨対象物表面を処理するために用いられる、表面処理組成物の製造方法に関する。
【0090】
本発明のさらに他の一形態は、臨界充填パラメーターが0.6以上である電荷調整剤と、分散媒と、砥粒と、を混合することを含む、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物の製造方法に関する。
【0091】
各成分を混合する際の混合方法は特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができる。また混合温度は特に制限されないが、一般的には10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0092】
なお、本発明の一形態に係る中間原料の製造方法、本発明の一形態に係る研磨用組成物の製造方法、および本発明の一形態にかかる表面処理組成物の製造方法における、電荷調整剤、分散媒等の各成分の好ましい態様(種類、特性、構造、含有量等)は、上記説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0093】
<研磨方法>
本発明の他の一形態は、上記の研磨用組成物を用いて、または、上記の製造方法によって研磨用組成物を製造した後、得られた研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法に関する。
【0094】
研磨装置、研磨条件としては、特に制限されず、公知の装置、条件を適宜用いることができる。
【0095】
研磨装置は、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0096】
研磨条件は、特に制限されず、研磨用組成物および研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができる。研磨荷重については、特に制限されないが、一般的には、単位面積当たり0.1psi(0.69kPa)以上10psi(68.9kPa)以下であることが好ましく、0.5psi以上8psi以下であることがより好ましく、1psi以上6psi以下であることがさらに好ましい。この範囲であれば、所望の研磨速度を得つつ、荷重による基板の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することをより抑制することができる。定盤回転数およびキャリア回転数は、特に制限されないが、一般的には、それぞれ、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下であることが好ましく、20rpm以上300rpm以下であることがより好ましく、30rpm以上200rpm以下であることがさらに好ましい。研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)を採用してもよい。研磨用組成物の供給量(研磨用組成物の流量)は、研磨対象物全体が覆われる供給量であればよく、特に制限されないが、一般的には、100mL/min以上5000mL/min以下であることが好ましい。研磨時間は、目的とする研磨結果が得られるよう適宜設定すればよく特に制限されないが、一般的には、5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0097】
研磨終了後の研磨済研磨対象物は、水による洗浄を行った後に、スピンドライヤやエアブロー等により表面に付着した水滴を払い落として、表面を乾燥させてもよい。
【0098】
<表面処理方法>
本発明の他の一形態は、上記の表面処理組成物を用いて、または上記の製造方法によって表面処理組成物を製造した後得られた表面処理組成物を用いて、研磨後の研磨対象物(研磨済研磨対象物、表面処理対象物ともいう)を表面処理して、前記研磨後の研磨対象物の表面における残渣を低減する、表面処理方法に関する。
【0099】
本明細書において、表面処理とは、表面処理対象物の表面における残渣を低減する処理をいい、広義の洗浄を行う処理を表す。
【0100】
本明細書において、残渣とは、研磨後の研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣としては、特に制限されないが、例えば、有機物残渣、砥粒由来のパーティクル残渣、研磨対象物由来の残渣、これら2種以上の混合物からなる残渣等が挙げられる。有機物残渣とは、研磨後の研磨対象物表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。有機物残渣は、例えば、後述の研磨工程もしくは任意に設けてもよいリンス研磨工程において使用したパットから発生するパッド屑、または研磨工程において用いられる研磨用組成物もしくはリンス研磨工程において用いられるリンス研磨用組成物に含まれる添加剤に由来する成分等が挙げられる。残渣数は、KLA TENCOR社製、ウェーハ欠陥検査装置SP-2により確認することができる。また、残渣の種類によって色および形状が大きく異なることから、残渣の種類は、SEM観察によって目視にて判断することができる。また、必要に応じて、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。
【0101】
本発明の一形態に係る表面処理方法は、表面処理組成物を研磨後の研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。表面処理方法、表面処理装置、および表面処理条件は、特に制限されず、公知の方法、装置、および条件を適宜用いることができる。
【0102】
上記表面処理は、リンス研磨処理または洗浄処理であることが好ましく、リンス研磨処理であることがより好ましい。
【0103】
本明細書において、リンス研磨処理とは、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による化学的作用により研磨後の研磨対象物(表面処理対象物)の表面上の残渣を除去する処理を表す。リンス研磨処理の具体例としては、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨後の研磨対象物(表面処理対象物)を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと研磨済研磨対象物とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとを相対摺動させる処理が挙げられる。
【0104】
リンス研磨装置、リンス研磨条件としては、特に制限されず、公知の装置、条件を適宜用いることができる。
【0105】
リンス研磨装置は、例えば、前述の研磨方法で説明したものと同様の研磨装置や研磨パッドを使用することができる。また、リンス研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加えて、表面処理組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。
【0106】
リンス研磨条件は、特に制限されず、表面処理組成物および研磨後の研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができる。リンス研磨荷重については、特に制限されないが、一般的には、基板の単位面積当たり0.1psi(0.69kPa)以上10psi(68.9kPa)以下であることが好ましく、0.5psi以上8psi以下であることがより好ましく、1psi以上6psi以下であることがさらに好ましい。この範囲であれば、高い残渣除去効果を得つつ、荷重による基板の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することをより抑制することができる。定盤回転数およびキャリア回転数は、特に制限されないが、一般的には、それぞれ、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下であることが好ましく、20rpm以上300rpm以下であることがより好ましく、30rpm以上200rpm以下であることがさらに好ましい。表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)を採用してもよい。表面処理組成物の供給量(表面処理組成物の流量)は、研磨済研磨対象物全体が覆われる供給量であればよく、特に制限されないが、一般的には、100mL/min以上5000mL/min以下であることが好ましい。リンス研磨処理時間は、目的とする残渣除去効果が得られるよう適宜設定すればよく特に制限されないが、一般的には、5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0107】
本明細書において、洗浄処理とは、研磨後の研磨対象物(表面処理対象物)が研磨定盤(プラテン)上から取り外された状態で行われる、表面処理組成物による化学的作用により表面処理対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。洗浄処理の具体例としては、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、または、最終研磨に続いてリンス研磨処理を行った後、表面処理対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外し、研磨対象物を表面処理組成物と接触させる処理が挙げられる。表面処理組成物と表面処理対象物との接触状態において、表面処理対象物の表面に摩擦力(物理的作用)を与える手段をさらに用いてもよい。
【0108】
洗浄処理方法、洗浄処理装置、洗浄処理条件としては、特に制限されず、公知の方法、装置、条件を適宜用いることができる。
【0109】
洗浄処理方法の例としては、研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、必要に応じて超音波処理を行う方法や、研磨済研磨対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと研磨済研磨対象物(表面処理対象物)とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物の表面をブラシで擦る方法等が挙げられる。
【0110】
洗浄装置は、特に制限されず、公知の装置を適宜用いることができる。また、洗浄条件は、特に制限されず、表面処理組成物および研磨済研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができる。
【0111】
本発明の一形態に係る表面処理方法の前、後またはその両方において、水による洗浄を行ってもよい。その後、研磨済研磨対象物の表面に付着した水滴を、スピンドライヤやエアブロー等により払い落として乾燥させてもよい。
【0112】
<半導体基板の製造方法>
本発明に係る半導体基板の製造方法は、本発明の一形態に係る研磨用組成物を用いる場合、上記の研磨方法によって、研磨対象物を研磨する工程(研磨方法)を含むことが好ましい。なお、当該製造方法において、その他の工程については、公知の半導体基板の製造方法に採用されうる工程を適宜採用することができる。また、本発明にかかる半導体基板の製造方法は、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いる場合、上記の表面処理方法によって、研磨後の研磨対象物表面における残渣を低減する工程(表面処理方法)を含むことが好ましい。なお、当該製造方法において、その他の工程については、公知の半導体基板の製造方法に採用されうる工程を適宜採用することができる。
【実施例】
【0113】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0114】
なお、表面処理組成物または研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認した。
【0115】
また、表面処理組成物または研磨用組成物を用いて処理中のTEOS基板およびSiN基板(窒化ケイ素基板)のゼータ電位は、大塚電子株式会社製のELSZを用いて測定した。基板は、10mm×30mmにクーポン化したものを用い、標準粒子としてゼータ電位測定用のポリスチレン粒子を用いた。
【0116】
ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、およびスルホン酸/カルボン酸共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いた。具体的には、重量平均分子量は、下記の装置および条件によって測定した:
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII)
カラム:VP-ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、N2GAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0117】
<表面処理組成物>
[表面処理組成物の調製]
(実施例1:表面処理組成物A-1の調製)
電荷調整剤であるジラウリルハイドロゲンホスファイトと、分散媒である水(脱イオン水)とを、ジラウリルハイドロゲンホスファイトの含有量が、最終的に得られる表面処理組成物の総質量に対して0.1質量%となる量で混合し、中間原料を得た。その後、イオン性分散剤であるスルホン酸/カルボン酸共重合体(重量平均分子量(Mw):10000、スルホン酸基を有する単量体:カルボン酸基を有する単量体=50:50モル比)を、表面処理組成物の総質量に対して0.1質量%となる量で混合し、pH調整剤であるマレイン酸を研磨用組成物のpHが2.0となるように添加し、表面処理組成物A-1を調製した。
【0118】
(実施例2~12、比較例1~7:表面処理組成物A-2~A-19の調製)
pH調整剤の種類、表面処理組成物のpH、電荷調整剤の種類および含有量、ならびにイオン性分散剤の種類を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物A-2~A-19を調製した。なお、表1中、「スルホン酸/カルボン酸 モル比」とは、スルホン酸/カルボン酸共重合体におけるスルホン酸基を有する単量体由来の構成単位とカルボン酸基を有する単量体由来の構成単位とのモル比を表す。また、表1中、「ポリオキシエチレントリアリールアルキルフェニルエーテルリン酸エステル」は、下記構造式で表される化合物を表す。
【0119】
【0120】
[残渣数の評価]
(CMP工程)
半導体基板であるTEOS基板およびSiN基板について、研磨用組成物M(組成;スルホン酸修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で作製、平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)4質量%、硫酸アンモニウム1質量%、濃度30質量%のマレイン酸水溶液0.018質量%、溶媒:水)を使用し、それぞれ下記の条件にて研磨を行った。ここで、TEOS基板およびSiN基板は、300mmウェーハを使用した;
-研磨装置および研磨条件-
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
研磨用組成物Mの供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒間。
【0121】
(リンス研磨処理工程)
上記CMP工程にてTEOS基板表面およびSiN基板表面を研磨した後、研磨済TEOS基板および研磨済SiN基板を研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、研磨済TEOS基板および研磨済SiN基板を別の研磨定盤(プラテン)上に取り付け、下記のリンス研磨処理を行った;
-リンス研磨装置およびリンス研磨条件-
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
表面処理組成物A-1~A-19の供給:掛け流し
表面処理組成物供給量:300mL/分
リンス研磨処理時間:60秒間。
【0122】
(水洗工程)
上記得られたリンス研磨処理済の各基板について、洗浄部でポリビニルアルコール製の洗浄ブラシで脱イオン水を用いて60秒間スクラブ洗浄を実施し、その後スピン乾燥を30秒間行った。
【0123】
(残渣数の測定)
上記得られた洗浄工程後のTEOS基板およびSiN基板について、0.10μm以上の残渣数を測定した。残渣数の測定には、KLA TENCOR社製ウェーハ欠陥検査装置SP-2を使用した。測定は、TEOS基板およびSiN基板の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分について測定を行った。残渣数は少ないほど好ましい。この結果を下記表1に示す。
【0124】
【0125】
上記表1から明らかなように、本発明に係る表面処理組成物A-1~A-12を用いた場合、TEOS基板表面およびSiN基板表面の残渣数が顕著に低減されることが確認された。一方、本発明の範囲外である表面処理組成物A-13~A-19を用いた場合、残渣数の低減が不十分であった。
【0126】
<研磨用組成物>
[研磨用組成物の調製]
(実施例13:研磨用組成物B-1の調製)
電荷調整剤であるジラウリルハイドロゲンホスファイトと、分散媒である水(脱イオン水)とを、ジラウリルハイドロゲンホスファイトの含有量が、最終的に得られる研磨用組成物の総質量に対して0.1質量%となる量で混合し、中間原料を得た。その後、砥粒であるスルホン酸修飾コロイダルシリカ(平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)を、研磨用組成物の総質量に対して1質量%となる量で混合し、pH調整剤であるマレイン酸を研磨用組成物のpHが2.0となるように添加し、研磨用組成物B-1を調製した。
【0127】
(実施例14~21、比較例8~11:研磨用組成物B-2~B-13の調製)
pH調整剤の種類、ならびに電荷調整剤の種類および添加量を下記表2のように変更したこと以外は、実施例13と同様にして、研磨用組成物B-2~B-13を調製した。
【0128】
[研磨速度の評価]
(CMP工程)
半導体基板であるTEOS基板について、上記で得られた各研磨用組成物を使用し、それぞれ下記の条件にて研磨を行った。ここで、TEOS基板は、300mmウェーハを使用した;
-研磨装置および研磨条件-
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
研磨用組成物B-1~B-14の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒間。
【0129】
(研磨速度の評価)
CMP工程前後のTEOS基板の厚み(膜厚)を光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)によって測定した。CMP工程前後のTEOS基板の厚み(膜厚)の差を求め、研磨時間で除し、単位を整えることによって、研磨速度(Å/min)を算出した。この結果を下記表2に示す。なお、1Å=0.1nmである。
【0130】
【0131】
研磨用組成物は、TEOSなどを原料とする酸化ケイ素を含む研磨対象物の研磨に使用する場合、他の研磨対象物との関係から、酸化ケイ素の研磨速度を低くする、または酸化ケイ素の研磨速度を高くするなど、研磨速度を任意に調整できることが求められる。
【0132】
実施例13~21は、電荷調整剤とスルホン酸修飾シリカとを含有する研磨用組成物であるが、砥粒表面が負に帯電し、TEOS基板も負に帯電しているのでTEOS基板の研磨速度を抑制することができることがわかった。一方、本発明の範囲外である比較例8~11では、TEOS基板の研磨速度を抑制できないことがわかった。
【0133】
(実施例22、比較例12:研磨用組成物B-14およびB-15の調製)
砥粒をアミノ基修飾コロイダルシリカ(平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)に変更したこと以外は、実施例15および比較例8と同様にして、研磨用組成物B-14およびB-15を調製した。
【0134】
得られた研磨用組成物B-14およびB-15を用いて、上記と同様に研磨速度の評価を行った。結果を下記表3に示す。
【0135】
【0136】
実施例22は、電荷調整剤とアミノ基修飾シリカとを含有する研磨用組成物であるが、砥粒表面が正に帯電し、TEOS基板が負に帯電しているので、TEOS基板の研磨速度を向上させることができることがわかった。一方、本発明の範囲外である比較例12の研磨用組成物では、TEOS基板の研磨速度を向上できないことがわかった。